【開会】
□ それでは予定した時刻が参りましたので、第8回仲裁検討会を開会いたします。
当初の予定では、第8回検討会は10月22日となっておりましたけれども、今後のスケジュール等を考えますと、9月中に1回検討会を入れた方がよいのではないかということから、本日追加の検討会を第8回として開催することにさせていただきました。大変お忙しい中、お集まりいただきまして恐縮でございます。所用のために出席できない○○委員を除きまして、全員御出席いただいております。
本日の検討会では、既に御通知いたしましたように、仲裁法における消費者保護の在り方につきまして、十分時間をかけて検討させていただきたいと思っております。
また、本日は御多忙の中を、東京消費者団体連絡センターの池山恭子事務局長、全国消費者団体連合会の磯辺浩一事務局次長、東京大学法学部教授で内閣府国民生活審議会消費者政策部会部会長でいらっしゃいます落合誠一教授、東北大学法学部長で国民生活審議会消費者政策部会の消費者契約法検討委員会委員でいらっしゃいました河上正二教授に、検討会にお越しいただいております。この4名の方には後ほど消費者を当事者といたします仲裁の関係でそれぞれお話を承りたいというふうに思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
では初めに、事務局から、本日の検討会の趣旨等につきまして簡単に説明していただいた上で、本日の検討会の進行予定と配布資料についての説明をお願いしたいと思います。
● 仲裁法制における消費者保護の在り方については、これまでの検討会で何度か御議論いただいたところですが、パブリックコメントにおいても消費者保護に関しては多くの意見が寄せられているところで、社会的な関心の高さもうかがわれるところです。検討会でもさらに慎重に議論をする必要があると思われましたので、日ごろから消費者保護の問題に深くかかわっておられる関係機関や研究者の方の御意見をお伺いすることにより、一層検討を深めることを目的に、今回の検討会を開催することにしました。
それでは、本日の進行予定について御説明いたします。お手元にお配りした議事次第を御覧ください。
まず初めに、「仲裁法制に関する中間とりまとめ」に関する意見募集が9月13日で終了いたしましたので、本日は中間とりまとめのうち、消費者保護の在り方について寄せられた意見等について、事務局が集計した結果を御紹介いたします。
その後、先ほど座長からお話がありました4名の方からお話をお伺いしたいと思います。なお、お話をいただいた方への質問等については、4名の方に一通りお話をいただいた後に、質疑の時間を設けておりますので、その際にまとめてお願いいたします。質疑の時間は1時間程度を考えております。
その後休憩を挟んで、検討会委員の皆さんで消費者保護関係についてフリーディスカッションをしていただきたいと思っております。この時間はおよそ30分程度を考えております。
以上のような予定で大体5時ごろ終了する見込みです。本日も長時間の検討会になると思われますが、どうぞよろしくお願いいたします。
それから、本日の配布資料ですが、本日のヒアリングの関係で、池山事務局長御提出のもの、磯辺事務局次長御提出のもの、河上教授御提出のもの、落合教授御提出のものがあります。席上に配布させていただいていると思います。御確認ください。
次に、事務局作成のものとして参考資料10と11をお配りしております。参考資料10は、パブリックコメントに寄せられた意見のうち、消費者保護関連のものについてとりまとめたものです。参考資料11は、前回の検討会で御要望のありました、消費者を当事者とする仲裁契約についての諸外国の法制を、○○委員、○○委員の御協力を得て事務局がまとめたものです。この関連で、本日御欠席の○○委員からいただいたドイツの法制度についてのペーパーも席上配布しております。また、○○委員から、仲裁契約の成否に関する判例についての資料が提出されておりますので、席上にて配布させていただいております。
その他、正式資料ではございませんけれど、国際仲裁連絡協議会から本部あてに提出いただきました意見書及びその添付資料、消費生活相談員東京会及び自由法曹団からそれぞれ提出のありました中間とりまとめについての意見書及び全司法労働組合からの司法制度改革全般への意見書、原早苗さんから提出のありました今回のこの検討会に対する意見書、それぞれ委員の方のみに御配布しております。
本日は配布資料が多少多めになっておりますが、それぞれ御確認いただければと思います。
□ どうもありがとうございました。配布資料はよろしゅうございますでしょうか。それでは、今のような進行で検討会を進めてまいりたいと思います。まず、意見募集の結果につきまして、その概要を事務局から御説明いただきたいと思います。
【「仲裁法制に関する中間とりまとめ」に対する意見募集の結果説明(速報版)】
● 意見募集は、中間とりまとめ及び補足説明を本部のホームページ等で公表して8月5日から9月13日まで実施し、その結果、意見を返してほしいという形で本部から意見照会したものに対して寄せられた意見が9月17日現在で41件、インターネット等でパブリックコメントの募集に関して寄せられた意見が9月13日現在で371件、合計で412件ございました。率直に言って予想以上の大変大きな反響であったと思っております。中間とりまとめで示したすべての項目についての集計作業はまだ終了しておりません。本日は取り急ぎ消費者保護に関連する項目について寄せられた意見を集計した結果をお示ししております。議論の参考にしていただければと思います。
もとより、お寄せいただいた意見の多寡は必ずしも国民各層の意見を正しく反映しているというものではありませんので、意見の数についてはあくまでも参考としていただければというふうに思っております。
具体的な内容については、事務局の方から説明させていただきます。
● それでは、引き続き簡単に、参考資料10について御説明いたしたいと思います。
中間とりまとめにおきましては、消費者保護に関する論点として、仲裁契約の効力、仲裁契約の方式、書面による通知、国際的な要素を含む消費者仲裁の4つを取り上げました。今回の意見募集におきましては、これ以外に、新仲裁法の適用範囲の項目と、当事者が答弁を明らかにしない場合の対応の項目においても、消費者保護との関連の意見が多数寄せられましたので、この6つの項目について、寄せられた回答の数と回答者の属性の数を明らかにして表とグラフを作成いたしました。さらに各項目の理由欄の代表的な記載を抜き出すようにいたしました。
なお、今回の集計とりまとめに当たりましては、単純な数の分布ばかりではなくて、どのような出身母体の人が述べた意見か、どういう根拠に基づく意見であるかが重要だと考えて、各項目の理由欄にそれぞれ出身母体を付記しております。
それでは順次簡単に御説明いたします。
まず「新仲裁法の適用範囲」というのが1ページ以下になっております。
こちらの分布を見ますと、学者、弁護士を中心に、国内仲裁と国際仲裁の区別、民事、商事の区別は難しく、その実益も大きくないという立場から、これらを統一的に規律し、必要に応じて特則を設けるという、枠内の記載への賛成の意見が1割程度ありました。
他方、国際商事取引においては仲裁制度のメリットが大きいが、国内取引においては、事業者と消費者、雇用者と労働者等、情報量や交渉力の格差のある場合に、紛争処理を仲裁に限定するデメリットが大きく、裁判を受ける権利の侵害となるというような立場から、国内取引については適用除外とすべきであると、こういう立場の意見も、主として消費者団体、消費生活相談員の人たちから、25%程度ありました。
さらに、消費者仲裁契約は消費者になじまない、消費者が紛争を解決する手段を自由に選ぶ権利を確保すべきである、というような理由で、消費者契約に関する仲裁契約は禁止すべきである、というような意見も、消費者団体や消費生活相談員を中心に3割程度ありました。
これが第1の問題であります。
続きまして、1つとばして14ページにまいります。14ページの下の方から、「消費者仲裁契約の効力について」という問題を取り上げております。この問題につきましては、事務局の方でA案からB−3案まで4つの案を示しておいたわけでございますが、これにつきましては、消費者契約における意思表示一般の問題として、消費者契約法等において処理すべき問題である。仲裁契約を「違法」であるとか「悪」であるという前提で考えるべきではなくて、事前の仲裁合意がむしろ消費者にとって有益な場合もあるのだという立場から、特段の規定を設けない、これはA案の立場ですが、こういう立場を支持するものが、学者、弁護士を中心に1割弱ございました。
これに対しまして、将来の争いに関する仲裁契約について、消費者からの無効主張を認めるB−1案を支持する意見が、消費者団体、弁護士等を中心に70%を超えました。その理由とするところは多岐にわたりますけれども、1つ目に、あらかじめ事業者が作成した「約款」中に仲裁条項が入っていた場合に、消費者は通常その存在に気づかないし、気づいていても、この条項の重大性を理解した上で仲裁条項の削除を求めることはできない。 2番目としまして、事前の仲裁契約を認めると、他のADRの利用が事実上排除されるのではないかというような問題点。
3番目としまして、消費者の保護を貫徹するためには、A案のような消費者契約法による規律では不十分ですし、またB−2案のような解除構成では消費者が仲裁手続に欠席した場合の保護が不十分になる可能性がある。
さらに、B−3案は内容が不明確である。B−1案の無効構成が簡明でいい、というような意見、これらが代表的なものでございます。
なお、B−2案をとった場合でも、消費者が欠席仲裁判断の効力を争えるようにする場合には、B−1案とほぼ同様であり、支持できる、というような意見もありました。
さらに、将来の争いに関する仲裁契約について消費者に解除権を与えるというB−2案については、学者、弁護士を中心に5%程度の支持があり、法律的にはB−2案の方が優れている、といったような意見が寄せられております。
消費者と事業者の間の仲裁契約のうち、一定の内容のものに限って効力を制限するというB−3案については、2%程度の支持を得るにとどまりました。
その他、消費者仲裁については、消費者が仲裁手続に参加し仲裁判断を得た場合でも、事業者のみを拘束するという制度にすべきである、というような意見、さらには紛争発生後の仲裁契約についても効力を否定すべきである、というような意見も寄せられております。
これが消費者保護のための仲裁契約の効力の問題です。
少し戻りまして、12ページ、これは「当事者が申立てや答弁を明らかにしない場合等への対応」という項目です。
この問題は、先ほど述べました消費者仲裁契約の効力の問題について、無効、取消し等の特段の規定を設けた場合に特に関係してくると思われます。この問題につきましては、この規定一般についての意見として、モデル法にならう形の規定とすべきである、として賛成する意見が学者、仲裁機関、弁護士等を中心に3割程度を占めましたけれども、消費生活相談員、弁護士等を中心に、消費者を当事者とする仲裁の場合には、消費者が不出頭の場合に無効主張の放棄と取り扱うべきではなく、消費者が現実に出頭し、仲裁人から仲裁手続について十分な説明をした場合に限り仲裁手続を進行すべきである、といったような理由で、この規定の一般的な適用に反対する意見が多数を占めております。
引き続きまして、29ページ、「消費者仲裁契約の方式」の問題です。
この問題につきましては、事務局の方からA案からE案まで示しておりますが、A案からD案までについては複数回答可という形で意見を求めましたので、意見は多岐に分かれております。ただ、全体といたしましては、何らかの消費者保護のための方式を設けるべきである、という意見が圧倒的な多数を占めております。その中でも消費者保護の徹底のためには複数の方式を重畳的に適用すべきではないか、という意見が多数を占めました。 引き続きまして、34ページの一番下から始まりますが、今度は「書面による通知の方法について」という問題です。消費者保護のために、書面による通知の方法について、簡易な通知の方法を制限し、公示送達によることを認めてはどうかというような問題でございますが、これについては、出身母体を問わず賛成意見が多かったわけですけれども、公示送達を認めることについては相当数の反対があったと、こういう意見分布になっております。
最後になりますが、37ページ、「国際的な要素を含む消費者仲裁」の問題です。
この問題は、事務局の方はA案、B案というのを示しておりますが、消費者団体を中心に、日本の消費者保護のための特則を設けるべきである、とのA案を支持する意見が多数ありました。理由は、消費者保護の実質的基準はできるだけ直接的に明確にした方がいい、法例33条の適用によって明文規定を設けた場合と同様の実質的結果を得ることはできない、というようなものです。
これに対しまして、学者、弁護士の中には、明文規定を設けるべきではなく、法例33条の解釈に委ねるべきではないか、というB案を支持する意見も2割程度ありました。法例33条の解釈でA案と同様の結果を得られる可能性がある、A案では外国法の方が日本法よりも消費者保護に手厚い場合には妥当ではないのではないか、というような意見が述べられております。
時間の関係で、簡単ですがこの程度で消費者保護についての意見募集の結果の説明とさせていただきます。次回の検討会では、意見募集の結果全般について資料をお配りしたいと考えております。
なお、今回の資料は、意見募集の締切りから短時間でまとめた速報版でございますので、今後修正があり得ることを御了解願えればと思います。
以上でございます。
□ どうもありがとうございました。ただいまの事務局からの説明につきまして、御質問等ございますでしょうか。
座長から一言、短時間の間に、私どもの予想以上のたくさんの方から、大変貴重な御意見を寄せられたことに対しまして御礼申し上げたいというふうに思っております。
【消費者保護に関するヒアリング及び質疑応答 (i) 池山恭子氏】
□ それではヒアリングに入りたいと思います。議事次第に従いまして、まず東京消費者団体連絡センターの池山事務局長にお願いしたいと思います。15分という限られた時間でございますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。
説明者(池山氏) 東京消費者団体連絡センターの池山でございます。東京消費者団体連絡センターにつきましては、メモをつくっておりますから、御覧ください。
東京消費者団体連絡センターは、1985年に設立されまして、都内の現在34消費者団体が参加しております。参加団体は下記に記しておきましたので御覧ください。東京の特質だと思うのですけれども、全国の消費者団体、区域の消費者団体、区市町村の消費者団体、草の根的な消費者団体が対等、平等の形で参加しております。
月1回定例会をしておりまして、そこでは様々な団体が取り組んでおります課題等につきまして交流いたしまして、お互いに助言し合い、都内の消費者団体全体で取り組まなけれはならない課題についてはそこで取り組むことを決めて行動しております。規模もいろいろでございますので、全体の意見をまとめて行動に移すというのは非常に時間もかかりますし、運営も難しい状態です。
それで、仲裁法に関する件でございますけれども、消費者団体は法律というところが非常に苦手でございまして、やはり時間をかけて学習し、様々な意見をお互いに交流し合いながら一定の方向に進むべき場合は進むというふうな形をとっております。仲裁法に関しましては、連絡センターの参加団体の中で幾つかの消費者団体が学習会を持ちまして、これは私どもの消費者団体だけではなく、連絡センター全体で意見交流をしたいというふうに提案がありまして、意見交流を行いました。
消費者団体も非常に活動の幅が広がっておりますから、この問題だけで時間をかけて一定の方向を出すというのがなかなか時間がとれませんで、十分とは言えない交流でございましたけれども、連絡センターとしてこの問題についてはどう考えるか。そして参加団体それぞれがパブリックコメントを出す場合はそれぞれの団体の責任においてパブリックコメントを出しましょうということになりました。
どういうふうな意見が出たかということを全く整理もしないでずっと並べておきました。この仲裁法を意見交流するに先立ちまして、仲裁法そのものについて、なかなか皆さんなじみがないのと、理解がなかなかできませんので、私どもで手に入る資料を全部事前にそれぞれの参加団体のところに送りまして、こちらのところでコメントなどもつけまして、皆さんそれぞれ読んできて意見を出しましょうというふうにいたしました。
出ました意見は、それぞれの団体が、私はこういうふうに感じるとか、こう思うとかをばあっと意見発表いたしまして、順序も整理されておりませんので、そういうことで御覧になっていただきたいと思います。
一般の消費者は取引契約内容を理解するのも十分と言えないのではないか。その上、同時に仲裁契約の内容など到底理解できない。仲裁契約の紛争発生前の合意は反対である。この方は、「適用除外」というふうな言葉をお使いにならなかったのですけれども、お話しになるところを見ると、全体としてはそんな感じがいたしました。
それから、消費者は仲裁制度について十分な情報がないので、取引契約と仲裁契約を同時に結ぶとしたら、一方的に事業者側の都合のよいだけの説明を受けて、それで結ばざるを得ないのではないか。事業者は一方的に敵だというふうに思わないけれども、昨今の消費者の信頼を裏切る事業者の多さを見ると非常に不安である。事業者側だけの説明で結ぶということについてはとても不安に思うというような意見もございました。
国際間の取引に仲裁法が必要なのは理解できるけれども、どうして国内の取引に早急に必要なのか理解できないという御意見もございました。
消費者と事業者の契約に関しては、仲裁契約は禁止してほしいと。「禁止」という言葉をお使いになったのですが、禁止してほしいというふうにおっしゃった方もいらっしゃいます。
仲裁法、つまりADRとの関係がどうなのかというのが理解できないと。仲裁手続というのはADRに含まれるのだろうか。ADRでは結果に満足できないときは裁判を起こせるけれども、仲裁合意すると裁判に進めない、訴権を奪うことになるので、仲裁制度はADRではないのではないかというような御意見もございました。ADRにつきましても、やっと最近ADRという言葉で何となく中身がわかってきたという、連絡センターの参加団体のところではそういう状況ですので、こういう意見が出ました。
消費者と事業者の仲裁契約の在り方に関しては、検討会だけの議論で終わらせないで、被害相談を担当している相談員や消費者団体が参加した検討会を設け、消費者被害の実態を踏まえた丁寧な議論とあわせて結論を出していただきたいという意見がございました。
全体を通しましては、様々な疑問点や御意見などが出ましたが、やはり皆さん全体としておっしゃったことは、とにかく仲裁法というのがよくわからないと。送っていただいた資料その他も読んだりいろいろと検討会での議論なども見ましたけれども、いまいちよくわからない。消費者団体に参加をしていて、日ごろこういうふうな問題などについても意識的にいろいろと理解しようと思っている私たちでもなかなかわからないのに、一般の消費者はどうなのだろうかということでした。
それで一番すっきりしていいのは、消費者と事業者の契約に関しては、仲裁契約は禁止してもらいたい。事業者と事業者とか、国際間の仲裁などはいいけれども、消費者と事業者との契約に関しては、仲裁契約は禁止してほしいというふうな意見もございました。これがかなり大きな部分を占めたのではないかと思います。
ここには書いていないのですけれども、実際そうは言っても、今弁護士会などで行っている仲裁は、そうするとどうなるのでしょうかといった御意見もございました。
仲裁法について、御意見を皆さんで寄せるというのが、本当に時間がとれませんし、また時間をかけても、このような意見が出るのが精いっぱいで、「仲裁法制に関する中間とりまとめ」の消費者保護に関する特則をどう選択するかということになりましたら、これがまたなかなか、どれを選ぶかとかということが非常に時間がかかりまして、とにかく皆さんの御意見では、この問題について我々は知りたいし、検討会でいろいろと御議論いただいているのはよくわかるけれども、もうちょっと時間をかけて、消費者、被害の実態などを踏まえたところでの議論をとにかく丁寧にやっていただきたいと。
そういうことを前提とした上で、それではどれを選ぶかということにつきまして、皆さんの結論としては、消費者と事業者との間の仲裁契約の効力についてはB−1を選択したい。
理由は上記の意見のとおりに、とにかく消費者は事業者と取引契約を締結する際に、取引契約の内容さえも十分理解して納得して結ぶというのが、現状からはちょっとほど遠い。そうなってくると、そこで同時に仲裁契約を結ぶというのはとにかく大変なので、消費者被害の増大を招くのではないか。したがって、現状においてはB−1を選択しますということでした。
B−2については、仲裁に関する説明義務を仲裁廷に課しているけれども、取引契約というのは事業者がつくる。消費者が指定する仲裁廷を事業者が同意する例は少ないのではないか。一方的に事業者がここですよという、そこで消費者が仲裁について十分理解できる説明がなされるかどうかを保障されない状況の下で、消費者が解除権を主張し行使するというのはまず無理である。ですから、B−2は選択したくないと。それから、仲裁廷が消費者の居住地より遠隔地の場合、時間と交通費をかけて、消費者が説明を受けに行くというのは非常に不公平ではないか。そこまでかけて説明を受けに行くということはどうなんだろうかという御意見でした。
消費者と事業者との間の仲裁契約の方式については、とにかく消費者が仲裁制度について知識が少ない現状では、消費者が仲裁契約を理解して選択するための十分すぎる情報提供が与えられて当然なので、E案を除いて、A〜Cすべて必要ではないか、そういう御意見になりました。
その後の項目につきましては、とても時間的に討議したり意見交流して結果を出すことができませんで、とりあえず以上のところで、連絡センターとして意見をまとめました。
私、東京都の被害救済委員会の委員だったこともあるのですけれども、本当に規制緩和、自己責任ということで、私自身は消費者の責任ということを声高らかに言いたいと思うのですけれども、私が被害救済委員会の委員などをした経験で言いますと、とにかく実態はとてもとてもそういう状況ではありません。私は消費者だけが保護をされるということについても、これでいいのだろうかというふうに思っておりますけれども、実態から言ったら、本当にこの辺については丁寧に特則をつくっていただきたいと思います。
事業者も対等平等となかなか言えない、事業者もいろいろとあると思うんですけれども、消費者に対しては、今の現状においては、とにかく丁寧に対応していただき、この問題についても十分に消費者がきちんと選択できるような特則で進んでいただきたいというふうに思います。
以上でございます。
□ どうもありがとうございました。質疑の方は、一通り説明を終えてからまとめて行いたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
それでは引き続きまして、全国消費者団体連絡会の磯辺事務局次長にお願いしたいと思います。やはり15分という時間内でお願いいたします。
【消費者保護に関するヒアリング及び質疑応答 (ii) 磯辺浩一氏】
説明者(磯辺氏) 全国消費者団体連絡会の磯辺と申します。本日は貴重な機会をお与えいただきありがとうございます。全国消費者団体連絡会につきましては、お手元に「ご案内」というパンフレットを用意しておりまして、開いていただきますと中に構成団体の一覧が載っております。全部で今年度当初の時点で42団体ということになっておりまして、消費者団体、市民団体を始め幅広い団体が参加をし、一致する内容での様々な政策提言ですとか消費者問題の取組みを行っているということでございます。詳しくは後で御覧いただければと思います。
今回私がヒアリングに対応するためにいろいろ準備もと考えたのですが、9月13日付けでパブリックコメントに対応するために出しました「『仲裁法制に関する中間とりまとめ』に関する意見」というのが、これが全国消費者団体連絡会として機関会議等でも検討したものですので、余り個人的意見を述べるよりは、全国消費者団体連絡会としての意見を御紹介するということできょうはお話をしたいと思います。
まず最初、1項目目に入る以前に、この全国消団連の議論の中で出ましたのは、今回の仲裁法制について、今、例えば21世紀型消費者政策の議論が国民生活審議会でちょうど行われているところでございまして、そこでは消費者問題の事後救済の在り方というふうなことについても今後検討がされるということになっております。その中にはもちろん多様なADRの問題ですとか団体訴権の問題ですとか、さらに裁判を利用しやすくしよう、もしくは身近な紛争解決手段を利用できるようにしようといった議論がまさに行われようとしているこの時期に、仲裁検討会の議論の流れの中から、どうも消費者契約にも事前仲裁合意というのが認められそうだ、入りそうだというふうなことになりまして、私どもが期待しながら見ています21世紀型消費者政策の事後救済の議論とどうかみ合っていくのだろうかということも1つ大きな問題意識としてございました。
私どもが非常に危惧していますのは、後でも述べますけれども、事前仲裁合意が入ることでなかなか裁判というのが逆に実態としてしづらくなるのではないかですとか、ほかのADR機関にもなかなか相談できない状況が生まれるのではないかというふうなことを心配しておりまして、仲裁そのものを否定するわけではないのですけれども、消費者が実際納得をして紛争解決手段を選ぶ、機関を選ぶということをぜひ担保ができる、そういうふうにしていかないと、実際に消費者の事後の被害救済には結びつかないということを非常に思っておりまして、そういうのが基本の視点ということで議論も進められたということをまず最初に御紹介をしておきたいと思います。
1項目目に書いておりますのはそういう趣旨で、紛争発生前の仲裁合意に反対をしますということと、紛争が発生した後に消費者が選ぶ紛争解決の在り方として仲裁の在り方というものを位置づけて、別途丁寧な検討を行ってほしいというのが一番です。
理由についてはるる書いておりますけれども、規制緩和、技術革新を背景に、事業者と消費者の間の情報力及び交渉力の格差は年々増しているという、そういう状況の認識があります。非常に身近なコモディティグッズ、日常的に消費するものばかりの契約なり売買ということにはならなくなってきておりまして、金融商品ですとか通信分野ですとか、そういう分野も含めて非常に消費者と事業者の交渉力の格差は大きくなっていて、その結果、悪質な事例の話もあるのですけれども、消費生活センターに寄せられる相談は非常に急増しているという状況があります。前年50万件台だったのが60万件台に移行するというような、120%ぐらいの推移で、国民生活センターのPIO−NETなどに登録されている件数でも増えておりまして、しかも非常に専門的な内容になっている。これはまさしく、今の状況は消費者が商品やサービスを選ぶ際にも、十分な情報をもとに主体的に選択できる環境がまだまだ整っていない。そういう状況にあるのだろう。むしろきちんと政策的な手当てや消費者団体等の活動も強化もしていかないと、消費者が主体的に商品やサービスを選択できる条件を整備するのは非常に難しい状況に一層なっているのだろうと思っております。その政策的な手当てという意味で、21世紀型消費者政策の議論もされている、今そういう社会環境にあるのだろうというふうに認識をしております。
そういうときに契約時点で、実際に選ぶ商品やサービス以外に、さらに将来の紛争まで想定して仲裁について契約の内容を確認しないといけない。仲裁廷はどこなのかというふうなこと、紛争が発生した場合に仲裁を選ぶのだというふうなことについて選択をしないといけない、選ばないといけないということが本当に実際にできるのだろうかという問題が非常に大きな壁としてあります。
ここに仲裁法が、消費者被害の実態を踏まえずに制定されてしまうと、消費者は気づかずに仲裁契約を結ぶということはままあり得るのではないか。例えば別紙にしたにしても、一応本体の契約を結んだ後に、紛争が発生したらここでやるんですよ、特に紛争は発生することはありませんよというふうな、そういう雰囲気の中で契約の締結時点に締結をしてしまうということは、十分に予想できることではないかと思います。
卑近な例で、私の体験談で恐縮ですけれども、例えば住宅ローンの契約の際に、あわせて団体生命保険についても契約をします。これも住宅ローン本体の条件ですとか、そういうことを詰めた後、非常にたくさんの計算や問題解決をした後に、実際に住宅ローンを返せなくなる状態、つまり自分が死んだりしたときの状態のためにこういう生命保険を選択しましょうねとに出されるわけですけれども、そのときに生命保険を具体的に複数並べて選択できる条件があるかというと、そういう条件は実際にはないわけですね。それは自動的にその時点で、それではということで選択すると。そこで例えば保険料の、提示はありますけれども、選択ができるか。そこで選択をするという関係性が、今事業者と消費者のところにないわけです。
同じことが仲裁契約についても行われるようになるのではないか、大変恐縮ですけれども、個人的な経験から、そういう危惧もしたりしております。
十分理解できるかどうかという問題もありますけれども、仲裁契約だけを離脱するというふうなことが、事業者と消費者の関係性、商品やサービスを選ぶときに、実際にはなかなかできないという実情が発生するのだということを、ぜひ御理解をいただきたいし、仲裁契約を離脱すると契約そのものがだめになるということもありうるのですから、契約段階で十分な理解・納得の上に仲裁の問題について判断することは非常に難しい状況にあるということがあると思います。
そういうことで、実際に手続法の仲裁ルールなどでというふうなお話もよく聞きます。実態の対応については、実体法である消費者契約法で対処すべきではないかというお話もあるかと思いますけれども、今の消費者契約法のレベルで本当に大丈夫か、実際に仲裁法制が今回のように改正されて、例えば消費者契約も対象になった場合に、どういう事態が実際の契約段階で起こるのかという検討がもっと丁寧にされてしかるべきです。特則の議論もされているというふうには思いますけれども、一度、消費者団体も参加している検討の場ですとか、21世紀型消費者政策の中で事後救済の問題についてちょうど今検討しようとしている国民生活審議会等に一度投げていただいて、仲裁ルールの在り方についても丁寧な議論を進めていただくといったことを、ぜひお願いしたいということです。
今回のパブリックコメントに回答するということで言いますと、B−1の選択というふうにしております。
理由はここに書いておりますように、消費者契約の実態から考えて、契約段階において将来の紛争を想定した仲裁契約というようなことが十分理解された上で締結することはほぼ不可能ではないかという認識が1つ。
それと消費者と事業者の間に情報力、交渉力の格差は厳然として存在するということで、先ほどもお話ししましたけれども、商品・サービス内容と価格の検討で精いっぱいで、将来紛争が発生した場合までを想定して契約に臨むことは、まず考えられない。本人が意味を十分理解しないまま仲裁契約を結ぶことが考えられるということで、基本的には、将来の紛争に関する仲裁合意は無効とするB−1案を選択したいというふうに思います。
紛争発生後に、仲裁の意味も含めて十分理解した上で仲裁を選択したいというふうに消費者が判断したときに、その要件を選べる、そのようにこのルールの運用をしていただきたいということです。
B−2案は、事前の仲裁合意は有効で、消費者が解除できるというものですが、この件についても、仲裁廷に説明義務をどの程度課すかという問題もあります。実態として、例えば消費者が出てきた上で仲裁廷がきちんと説明をする、そして本人の合意を得るようにするとしても、どうしても仲裁廷の説明というのは形式的なルール、仲裁のルールの説明というふうなことになりがちだと思いますし、それはもちろん手続法なのでそういう規定しかできないというのもわかるのですけれども、実態の運用としてはそうなるだろうというふうに思います。そうすると一定の書式と説明がルール上課されて、ハンコを押すか押さないかというふうな運びになるのではないか。むしろ消費者としては、実際に自分が紛争解決の手段として仲裁を選ぶのかどうかというのは、大体どういう解決の水準が見込めるのかですとか、この仲裁廷を選ぶことで、自分の紛争解決がどういうふうになるのか、ある程度の一定の見通しみたいなものを判断材料としていろいろ持ちながら、そういう意味では仲裁廷の実際の仲裁を行っている実績等についても情報をつかみながら判断をすることが必要になるのだと思いますけれども、そこまでなかなかルール上担保することは非常に難しいだろうというふうなこともございますので、そういう意味ではB−2案というのは、なかなか実際に、本人が十分な情報に基づいて解除権を行使することができるのだろうかということで、採用しないという意見にしております。
紛争発生後に解決手段として仲裁を選択する場合を、どういうふうに実質的に本人の主体的選択という中で担保できるのかということについて、ぜひ、この検討会でも十分論議をしていただきたいですし、この件についても、先ほどお話ししましたように、国民生活審議会等でも消費者契約の実態に即して検討されることをお願いしたいと思っております。
消費者と事業者の間の仲裁契約の方式については、A〜C案いずれも採用するということで、いずれにしても消費者に十分な情報が提供されることを念頭にということでございます。
そのほかの項目については、先ほどの池山さんのお話と同じようなことになるのですが、いかんせんこの仲裁の問題が、6月、7月ぐらいから、消費者団体にとっては突然の提起だったということもございまして、またパブリックコメントの時期等の関係も含めて、十分に合意に至るまでの議論ができなかったというふうな状況でございますので、以上の点についての報告にとどめます。
繰り返しになりますけれども、紛争発生後の仲裁について、消費者が主体的に選択できる条件づくりというふうなことをぜひ御考慮いただいて、今後の議論をお願いできればというふうに思っております。
以上です。
□ どうもありがとうございました。池山さんと磯辺さん、お二方から御意見をいただきましたけれども、ここで暫時休憩を入れたいと思います。2時25分に再開させていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
(休 憩)
【消費者保護に関するヒアリング及び質疑応答 (iii) 河上正二氏】
□ それでは時間が参りましたので、検討会を再開いたします。
今度は引き続きまして、河上教授に御説明をお願いしたいと思います。25分という時間でよろしくお願いいたします。
説明者(河上氏) 河上でございます。よろしくお願いいたします。お手元に1枚の紙で項目だけ書いてありますけれども、大体この順に沿ってお話しさせていただこうと思います。
1の「消費者契約における仲裁合意の可否」ということですけれども、合意の一般理論から考えて、例えば和解契約であるとか示談といったような、紛争解決のために使われる様々な合意というものがある、その対比から考えますと、消費者といえども当事者自治の原則に基づいて、熟慮の結果として裁判外での紛争処理の在り方を選択することは認められてしかるべきであると思います。
ですから一方当事者が消費者だからという、その理由だけで仲裁条項を無効にすることは理論的には適切ではないように思われます。原則として当事者の真摯な合意は尊重しなければならないというところから出発するというところだと思うのですが、問題は実質的な合意と言えるだけの熟慮が、通常の消費者が行う契約締結時に期待できるかどうかという点にあるのだろうと思います。
消費者というのは、言うまでもないことですけれども、少額の多品種の取引を日常的にやるものですから、多くのリスク計算をそれぞれの取引の場面で行うことは非常に困難であることは、これは経験則から明らかだということになりますから、何らかの手当てをすることは必要であろうと思います。
そこで2に移りますけれども、「『仲裁条項』のメリットとデメリット」と書きましたけれども、仲裁条項そのものは、結果として国家の司法機関に対する提訴という権利、つまり法に基づいて最終的に自らの問題を解決してもらうという、紛争解決についての選択権というものを仲裁条項によって放棄するという結果を招くことは事実でございます。ですから、その意味では消費者の法的な権利保護の制限としてこれが作用する危険性があるということは否定できないわけでございます。したがって、各国の消費者保護に対する立法的な規制としても、事業者間取引以外の領域に仲裁条項の効力を及ぼすことに対して慎重であるというのは理解できるところだろうと思います。
他方で、消費者紛争の将来を考えるときに、果たして裁判所による紛争解決だけで本当に消費者が十分に自らの利益を守ることができるかというふうに考えますと、むしろやり方いかんによっては、迅速でかつ安価に、しかも専門家の協力を得ながら、自ら紛争解決できるということが期待できるわけでして、そうした簡易な仕組みとして仲裁のような紛争処理の方法を育てていくことは、これからの消費者紛争の解決を考えた場合にはあってよいことであろうというふうに思います。ですからその限りで仲裁というものを最初から無効視するというような態度は適切ではないのではないかというわけでございます。
仲裁機関の性格や仲裁人の構成、仲裁の裁定の基準といったようなものが果たして適切・公正であるかというようなこととか、それから先ほどもお話がございましたけれども、場所的な利便性といったような問題がきちんと担保されていないということがございますから、現時点で仲裁に、裁判所と同じ資格で紛争の処理機関として期待をするのは難しいかもしれませんが、しかし将来的にはこれは育てていって、例えば現在、交通事故の紛争処理センターというのがございますけれども、かなり有効に機能しているということがあります。そのほか、消費者生活センターであるとか、あるいは単位弁護士会、裁判所といったところの協力を得ながら、そうした紛争解決の仕組みを整備していくことは、今後の課題になるのだろうと考えております。
そういう認識の下で、「仲裁条項」の効力といいますか、仲裁というものについて考えてみたいのですが、3に移りますが、仲裁の合意ができ上がるときに、例えば事業者が一方的に設定した普通取引約款の中に仲裁条項を含めているというような場合、その仲裁条項を有効と見ていいかどうかという問題と、それから個別の合意として仲裁についての合意を行った場合の効力とは、分けた方がいいのではないかという気がいたします。
約款中に含まれました仲裁条項については、ドイツの約款規制法ができ上がる時にも随分議論になりましたけれども、事業者側が自分に都合のいいような形で紛争解決の機関というものを設定しそこで問題を解決する。そうしますとどうしても法による解決から消費者が遠ざかってしまうという危険が常に指摘されてきたわけであります。これは約款条項の中によく使われます、例えば挙証責任の転換でありますとか、裁判管轄条項でありますとか、そういう裁判所から消費者を遠ざける機能を仲裁条項の中にも見出したということでございまして、その危険は決して払拭されてはいないということです。
したがって、何ら消費者側からの、せめて同意という形での担保もない形で仲裁条項を導入するということは、これは好ましくないと思われますので、その限りでは不当ではないかという疑いを十分にかけてよいということになろうかと思います。
私としては現段階では、一方的に設定された約款条項の中に仲裁条項が入ったとしても、それは不当条項としての疑いをかけることができると考えております。仮に無効になったとしても、必要なら、後でも個別に合意をとって仲裁に移ることはできるわけですから、その限りで約款中の仲裁条項は無効としておいても構わないのではないかということでございます。
他方で、約款ではなくて、個別に商議された、つまり交渉の成果として仲裁についての合意が行われた場合に、なお、それを無効視してよいかというと、これは先ほどからお話ししておりますように、原則に戻って、まずは有効であるというところから出発する必要があるだろうと考えます。ただ、それが当事者のリスク計算に立った、熟慮の上での合意であると考えられるかどうかというところでございまして、その意味では契約の締結段階で、将来の紛争を予測して、仲裁制度を利用することに伴うメリットとデメリットについて十分な情報をもらって、そしてその上できちんと判断できる環境というものを整えておく必要がある。整えておいても、なおかつ消費者には、それについて適切な判断をする力はないと言われてしまいますと、これはそのような合意はできないことになってしまいますが、そこまで消費者の能力を見くびる必要はないわけでして、適切な環境さえ整えれば、ある程度の判断はできる消費者にならないといけないという気がいたします。
したがって、消費者が仲裁のメリット、デメリットについて、十分に理解した上で仲裁に同意する。そういう実質的な「合意」を整えるための環境を確保しておくことができれば、個別合意としての仲裁合意は可能であろうということでございます。
そこでどうやって、そうした環境を確保して、実質的な合意であるというふうに言えるだけのものを見出すかというのは、仲裁合意についての成立要件をある程度厳格にしておくところにまずは手段を求める必要があるのではないかという気がいたします。そういたしますと、仲裁に関しての重要事項といいますか、どういう構成員であるか、あるいは仲裁をとった場合にどういう結果がもたらされるか、場所はどこか、といったようなことについての基本的な重要な情報をまず提示して、その上で「契約書とは独立した別個の書面でもって署名」をするというあたりは最低限要求してもよい成立要件ではないかという気がいたします。
その意味では、中間報告に出ておりますB案の中でのB−2、B−3あたりでしょうか、独立性と署名性、重要条項の説明といったあたりを組み合わせた形で成立要件を立てておくのがいいのではないかという気がいたします。
そこまでして仲裁合意が成立したといたしましても、現段階でその合意をそのまま貫徹させるということが本当に安心して言えるかというと、実は私も若干不安なところがあります。当事者が十分に吟味したのだから、もうあとは自己責任というふうに言える状態であれば、消費者契約法などでももう少し突き放して規定をつくれたのですが、そこはどうしても内容についての適切な判断ができない場合が幾つかある。しかも不公正な結果になる場合があるということになりますと、手続的要件だけでは必ずしも十分ではないという気がいたします。
したがって、仲裁の実質を吟味するチャンスを司法の手に残しておく必要はないだろうかという問題になりまして、これは先ほどの話では、B−2のところがいいというふうに言いましたが、B−3のあたりに持っていって、何かしら一定の場合にはそのような仲裁合意は無効になるということを司法の場で争える、そういう仕組みも追加的にこしらえておくということが必要ではないか。
そういうものを置くぐらいだったら、最初から手続的な要件は要らないのではないかという話になりそうですが、それは安全弁として段階を追ってつくっておくことで、少しずつ仲裁という制度が成熟して、そして消費者にとっても使い勝手のいいものになっていけば、そういうものを利用していく人たちが増えていくわけでして、今後の仲裁を育てていくという観点からも、安全弁を備えながらも、これを有効にしていくという形で進んではどうかというのが私の意見であります。
将来的な在り方がどうかということはまず置いておいて、現状の消費者が置かれている環境、それから、仲裁機関として期待されるもの、そういったようなところを考えていきますと、今から移行期といいますか、成長・成熟させていくその中間段階で、適切な仲裁機関の整備とか、それから顧客や事業者の仲裁に対する意識というものが成熟していくまでは、段階的な制度として、手続的な要件プラス実質的な内容吟味ができるようなルールを立てていくことが必要ではなかろうかというのが私の考えでございます。
そこで段階的な措置としてどういうことがあり得るかと申しますと、仲裁合意の成立要件を、先ほど申しましたような形で厳格化しておいて、仲裁合意が仮にでき上がるといたしましたら、その後で、紛争が始まった後、仲裁合意に関する熟慮の期間を与えて、やはり自分としては仲裁よりも司法に法的判断を委ねたいと考えた場合には撤回権を付与しておく。これは一定期間でいいと思いますが、そういう形で撤回権を付与しておき、あるいは仲裁に入ってしまった後でも、その内容が極めて不当であるような場合に、一方的な仲裁条項の公序良俗違反性といったことを争う一定のルールを設けておいて、最後の最後で仲裁に対して自らを防衛するという期待にも応えるような、そういう仕組みをつくっておくというふうにした方がよいのではないかという気がいたします。最終的には仲裁の活用を裁判所での紛争処理の活用とイコール・フッティングにして、当事者が選択できるような時代が来ればいいと思いますけれども、今はまだそこまで一気に進むのはどうかということでございます。
それから、消費者契約法と仲裁合意の関係ですけれども、これは基本的には消費者契約法の適用はあるというふうに思いますので、契約締結過程で何らかの不当な影響力の行使があった場合は4条がかぶってきますし、10条の一般条項によって、内容がひどいということであれば無効になる可能性も当然あるということでございます。したがって、最初の仲裁合意の部分を消費者契約法との関係で言えば、これは消費者契約法の適用を当然認めるし、民法も重畳的に適用されるというのが私の理解でございます。
これで7まで終わらせてしまいましたけれども、あとは国際的な要素を含む仲裁の問題に関してでございますけれども、これは余りはっきりした考えは持っておりませんが、消費者公序といいますか、消費者契約法とか、そういう消費者保護のための公序則というものについては、特別連結が認められるという考え方を私はとっておりますので、もし、そのような解釈が許されるといたしますと、特に書かなくても問題は処理できるとは思いますけれども、ただ、解釈でそれが必ずとれるかどうかというところは不確定ですので、例えば日本が密接関連地であるという場合には、仲裁契約の成立あるいは効力に関しては日本法が適用になるのだという旨を明らかにしておいた方がよいのではないかという気がいたします。
ちょっと時間が余ってしまいましたが、以上でございます。
□ どうもありがとうございました。
それでは、最後になりましたけれども、落合教授に引き続いてお願いいたします。やはり25分の範囲内でお願いいたします。
【消費者保護に関するヒアリング及び質疑応答 (iv) 落合誠一氏】
説明者(落合氏) このような機会を与えていただきまして本当に感謝いたします。最初の方の紹介の中で、消費者政策部会長という紹介があったのですが、消費者政策部会としては、この消費者紛争の解決をいかに考えていくかという問題につきましては後ほど議論するということになっております。したがいまして、本日の意見は、もちろん部会長としてではなくて、私個人の見解であるということを最初にお断りしておきたいと思います。
まず最初に、質問の第1として、「消費者と事業者の仲裁契約の効力」をどう考えるかという問題が提起されておりますが、この点につきましては、この消費者と事業者の仲裁契約の効力という問題については、現行法でどこまで行けるかという問題があり、現行法で相当程度のカバーが可能であるならば、特段の特則は要らないという意見が出てまいりますし、現行法で不十分な部分があることになれば、それに対する対応を考えていかなければいけない問題があろうかと思います。
現行法では、私の理解する限りでは仲裁契約といえども契約であるということであるとすると、契約に関する法的なルールはそれにかぶるということになろうかと思います。具体的には民法、商法、あるいは消費者契約法というものの規制がここにかぶってくる。したがって、非常に詐欺的な仲裁契約を結ばせたということになれば、これは民法での詐欺による取消しというようなことも考えられるわけですし、消費者契約法の4条に該当するようなものであれば、また、これも取消しというようなことが可能である。内容的に無効ということも、民法、消費者契約法でもそれなりの手だてはあるということになります。したがって、仲裁契約が知らない間に不当に押しつけられるといったような問題に対しては、現行法でもそれなりの対応は可能であろうということになるかと思います。したがって、そういう現行法での対応があることを前提とした上で、さらにプラスアルファを考えるかどうかというのがここでの問題であろうと思います。
その問題を考えるに当たって、まず消費者と事業者との仲裁契約というものをどう評価するかという問題があろうかと思います。この点に関しては、仲裁には他の紛争解決手段と比較した場合に、確かに一定の有用性があることは否定できないと思います。そうであるとすれば、適切に設計された仲裁は、特に裁判と比較した場合に、費用、期間、手続の簡易性等においてプラスの面があり得るということがあるわけであります。
この辺の関係につきまして、消費者団体等の反応というものは、仲裁契約に対して非常にネガティブな反応が一般的に示されているわけでありますけれども、これはある意味で十分理解できることでありまして、消費者紛争の解決という局面において、仲裁というものが成果を上げるような働きをしてきたのかというと、そういうことは全くなくて、消費者契約に限らず、仲裁というものは、我が国の場合十分活用されていないということがあり、したがって、そういう状況の中で消費者団体等がこのような反応になってくるというのは、十分理解できる面があろうかと思います。
しかし、それだからといって消費者紛争において、仲裁という1つの紛争解決手段を全部否定し去るというのは余りにも、角を矯めて牛を殺すというようなことになりかねない面があろうかと思います。例えば、国際航空紛争でモントリオール条約というのが1999年にできましたけれども、そのモントリオール条約をつくる過程においても、この裁判という手段に訴えることがいかに時間がかかり、いかにコストがかかりということを考えると、仲裁という方法をより活用すべきではないかという議論が、外交会議の中でも議論されたことがございまして、したがって、仲裁というものには非常に評価すべき面があるのだと。消費者紛争においてもそういう面があるのだということは十分認識する必要があろうかと思います。
さらに、消費者紛争の解決の手段というものは、私は、非常に多様性を確保すべきではなかろうか、仲裁という手段、あるいは調停という手段あり、裁判、その他いろんなそれぞれの消費者紛争の事案の解決の特性に応じた形での紛争手段を多様に用意することこそ、この消費者紛争の適切な解決に対してとるべき手段であろうと思っております。手続的にもまた内容的にも、内容的という意味は、実際そこで出された仲裁判断というものが、事業者寄りのバイアスがかかっているものが非常に多いというようなことではおかしいわけでありますから、そういう意味での消費者の正当な利益が十分考慮される仲裁であれば、消費者紛争においても、その積極的な活用が考えられてもよいというふうに思っております。
消費者紛争解決手段としての仲裁をこのように評価いたしますと、消費者と事業者の仲裁契約の効力の問題は、消費者の正当な利益が十分考慮される仲裁が行われるための手段として、いかに契約効力論を活用すべきかという問題に、正確に言えば置き換えられるのだろうと思います。
ただ、そういう形での御質問がずっとあるのだと理解しておりますが、しかし、この問題設定はやや狭いという感じを私自身としては持っております。つまり法律論、特に効力論を中心とする法律論でこの問題に対応しようというのは、実はやや狭いアプローチではなかろうか。妥当な消費者紛争の解決手段としての仲裁を我が国に根づかせて、それを発展させていくためにはどういう政策が必要なのだろうか。そして、その政策を実現するための手段というものを考えていくことが本来といいますか、もっと本質的な問題としてはそういう問題がここにあるわけなので、これを正面から受けとめた形で対応していくことが必要であろうと思います。
しかし、ここでの御質問は、契約効力論というものをもって消費者の正当な利益が十分考慮される仲裁というものを確保しようと考えたときに、効力論というのはどこまで対応できるかという問題として、私の見るところでは、狭い把握とは思いますけれども、それを前提にして考えてみたいと思います。
まずA案というのは、現行の規制のままで正当な利益というものが十分確保されるのだと、こういう評価があるならば、A案はまさに妥当することになろうかと思います。確かに消費者契約法の10条は、無効になる条件としていろんな条件が規定されておりますけれども、任意規定というものを1つの基準として、その規定とのずれを見るという要件がありますが、新しい仲裁法がもしできるということになると、その任意規定の1つの基準として、新仲裁法が規定する基準が取り込まれることになろうと。そうだといたしますと、新仲裁法の中身というものが相当程度合理的なものとして構成されるということがあれば、消費者契約法の10条の活用範囲はかなり広がってくることはあろうかと思いますけれども、しかし、いずれにいたしましても、民法の手段あるいは消費者契約法の手段というのは解釈に帰着する場合が多いわけでありまして、裁判所の方でこれを積極的に解釈するような解釈をとってもらわないと、結局は意図したことが実現されないことになるわけであります。したがいまして、このように考えますと、A案だけではちょっと危惧が残ると言わざるを得ないと思います。
それから、B−1案及びB−2案でありますけれども、これは将来の争いに関する仲裁契約について、消費者のイニシアティブによる離脱を尊重しようという立場であろうと思います。B−1案は、当初から無効の主張が許容される。B−2案では解除権が認められるという差があるわけです。しかし、B−1案及びB−2案における問題点は、消費者の正当な利益が十分考慮される仲裁であっても、結果的に仲裁が行われずに消費者に不利益が生ずる可能性、そういう問題点があろうかと思います。消費者が自ら不利益を選択したのだから、それで差し支えないというような考え方もあるいはあるかもしれませんけれども、消費者問題につきましては、そのような突き放した対応をとるべきではないだろうと思います。
この点、B−2案では、仲裁廷による消費者に対する説明があるということですから、消費者が事後にメリットのある仲裁契約を解除する場合は少なくなると考えられます。これに対してB−1案では、無効の主張を考える段階における情報提供は必ずしも保障されていないということになりますと、消費者にとって十分メリットがある仲裁であるにもかかわらず、消費者が無効の主張をする場合が出てくるわけであります。
B−2案においては、仲裁廷による消費者に対する説明義務は、これは仲裁廷に当事者が出頭した場合のみそういう説明義務があるのだと理解すべきではなくて、出頭したときにはさらに口頭でも説明がなされるというふうに考えるべきであろうと。そうだといたしますと、出頭前に審理に先立って、説明の書類が消費者に送付され、消費者がその書面を見てから解除権の行使の有無を検討できるということになる。そういたしますと、消費者は仲裁廷にわざわざ出る必要もありませんし、解除権の行使の有無についてもそれなりの情報提供を受けられるという状態が実現できる。このように、B−2案の1つのメリットとしてはそういう点があろうかと思います。
それから、B−3案でありますが、これは「一定の内容のもの」に限って無効とする趣旨の規定を設けるというわけでありますが、「一定の内容のもの」の具体的内容いかんによっては、私は相当魅力のある案となり得るであろうと思います。消費者の正当な利益が十分考慮されるための必要条件を、一定の内容のものとして、規定上具体的に書き込むということが考えられるからであります。例えば仲裁地、仲裁人の資格、仲裁費用の上限、仲裁期間等が考えられるわけですが、消費者が出向くのに非常に不便なところが仲裁地として定めれているといった場合は、それは認められないとか、あるいは仲裁人の資格につきまして、事業者側にバイアスのかかった仲裁人しか仲裁人名簿に載っていないというような場合、これらはそれなりの対応という規定を考えられるわけであります。さらに仲裁といえども、これは設計次第によるかと思いますけれども、裁判と比べると費用が少なくなる場合が多いでしょうがいずれにしても、消費者が消費者契約紛争に仲裁を利用した場合のコストを一体どこまで負担することが好ましいのか、そういう費用の問題、あるいは仲裁の期間、裁判で行くよりも仲裁に行った方が紛争の最終的な解決が早まるというメリットがあるわけですが、このメリットを活かすためには、だらだらと仲裁が行われて、裁判に行ったのとちっとも変わらないというような状態は回避するような定めが必要になってくると考えられます。
もっとも、こういう考え方をしていきますと、新仲裁法には、消費者紛争解決のための仲裁の特則が、しかもこれはかなりな数の規定が置かれる、そういう方向が見えてくるのではないかと思います。いわば消費者仲裁法というような特則がそこに盛り込まれていくということになっていくわけでありまして、このような方向は、私は十分検討に値すると考えております。
以上、考えてきますと、消費者の正当な利益を十分考慮するための必要条件を具体的に書き込むことが可能であるならば、B−3案が最も適当であろうと思います。仮にそれが非常に困難であるというのであれば、B−2案がよりよいかなと思っております。
次に御質問の2番目としては、「消費者と事業者の仲裁契約の方式等」に関する質問でありますが、我が国におきましては、先ほど冒頭にも申し上げましたけれども、消費者紛争の解決の手段として、仲裁は全く使われていないということがある。そういう意味で一般的でないわけであります。
したがって、消費者にとってはなじみのない場合が多いわけですから、仲裁というものに関する情報は、仲裁契約締結の時点において十分提供されるようなことが望ましいということになります。もっとも、先ほどの質問の1で、B−3案というものを採用し、しかもそれをもし押し進めれば、消費者仲裁という特則をある程度の規定を置き、かつその規定のかなりの部分は、強行規定にするとか、そういうことが考えられるとなると状況は違ってくることになりますが、そういうことが実現されないということであれば、なおさらのこと仲裁に関する情報提供はますます重要になってくるということであります。
しかし、情報提供によるメリットと情報提供に要するコストとの妥当なバランスもこの場合に十分考慮されなければならないと思います。そうでありませんと、消費者仲裁のコストが高くなって、結局のところ消費者の不利益につながるということがあるからであります。
また、消費者と事業者の仲裁契約の効力をどの程度強く考えるかということによっても、契約締結時での情報提供の程度というものは影響が出てくるだろうと思われます。例えばB−1案のように、消費者はいつでも任意にその効力を否定できるものであるとすれば、契約締結時での情報提供はそれほど重装備である必要はないというようなことが出てくるということが考えられます。
第1の質問でB−2案をとる場合は、契約締結時の情報提供としては、第2の質問で挙がっておりますA案とC案を合わせた対応が少なくとも必要であろうと思います。これは、解除権はあるにしても、契約締結によって仲裁の拘束力は生じているわけですから、そういう拘束力を生じさせるためにはそれなりの情報提供が必要であろうということであります。
それから、第3の質問であります「消費者と事業者の仲裁契約の通知の在り方等」に関するところですが、これは簡易な方法の通知合意は無効とし、またモデル法3条1項は消費者と事業者の仲裁には適用しない。さらには公示送達手続の利用ということ、これらは基本的に賛成できる方向ではなかろうかと思います。
それから、第4の質問であります「国際的要素を含む仲裁における一方当事者が日本の消費者である場合の対応」という問題であります。
これは、まず第一に、国際私法上の公序の援用が可能となるためには、消費者保護に著しく欠ける場合に国際私法上の公序の援用は可能であるというのが一般の国際私法の理解になります。そうでありますと、必ずしも当然に新仲裁法あるいは消費者契約法の規定がこの国際私法上の公序の内容になるとは限らないということになろうかと思います。そうだといたしますと、裁判所が必ず解釈としてB案の立場を採用するという保障はないと言わざるを得ないだろうと思います。
また、強行法の特別連結の理論というものが国際私法においては主張されておりますが、この強行法の特別連結の理論が、我が国の法例の解釈において、特に債権の準拠法に関する法例7条の解釈として使えるかどうかという点については、これは周知のとおり学説が分かれているわけであります。したがって特別連結の理論が我が国の法例の解釈として認められないという解釈がとられる可能性は排除できないわけであります。このように考えてまいりますと、この際、近時の立法例、外国の立法例等にはあるわけですが、我が国も債権の準拠法に関する契約自由の原則の例外を認めるA案の採用が考慮されてよいのではないかと考えております。
それから、第5に「その他関連する事項について」何かないかということですが、この点につきましては、2点ございまして、第1点は、消費者紛争の解決手段としての仲裁の実情が一体どういう実情になっているのだろうか。これは我が国も含めまして諸外国の実情というものを十分把握する必要があるのではないかということであります。特にアメリカにおきましては、消費者仲裁というものは相当な数の判例もあるわけでありますし、これは十分問題として議論されているところであり、これらの問題点を十分把握する必要があろう。こういうものを踏まえた上で、消費者仲裁というものに対する対応を検討する必要がある。これが第1点であります。
第2点につきましては、先ほど少し触れましたが、この問題設定自身がかなり法律論に傾斜しすぎている。言い換えますと、非常に法律論的になっている。しかし我が国において、消費者紛争解決の手段として仲裁というものが率直に言って未発達であるという状況にある中では、むしろこの消費者紛争解決の手段として、仲裁が持っているメリットというものを活かすためにはどういう方策をとるべきであろうか。これらは突き詰めて言いますと、消費者紛争解決の在り方という消費者政策に関連する問題になる。そういう意味で、より大きな目から見ますと、これは消費者政策の問題であるということになります。
そして、冒頭でも申し上げましたけれども、消費者紛争解決の手段として仲裁は、それなりのメリットがほかの紛争解決手段と比べても十分あるのだということは認めるべきであろうと思いますから、そうだとすると、それをプラスの方向に伸ばしていくためにはどういう手段を講ずるべきかということで、これは新仲裁法をつくるという検討委員会であるとすれば、消費者仲裁が十分利用され、しかもそれが消費者の利益を十分図る形で利用されるための特則を相当程度考えて、それを新仲裁法の中に盛り込んでいく。消費者仲裁法の一種のモデルが新仲裁法にできれば、そのモデルが実務において利用されることになっていけば、非常におかしな消費者の正当な利益を害するような仲裁が横行するような事態は避けられるわけでありますので、新仲裁法の制定という問題に限った場合については、ぜひ特則としての消費者仲裁規定というものをお考えいただけると非常にありがたいということであります。
さらに、仲裁というものが消費者利益を守る形で我が国で定着していくためには、消費者も、事業者団体、消費者団体それぞれ自分たちが十分議論して、モデルとなるような仲裁ルールをつくり出していき、それが広く取り入れられていく方向が好ましいわけですので、それをいかなる形で実現するかというあたりのところは、消費者政策部会においても重要な検討課題の1つであろうというふうに思っております。
大体御質問をいただきました5項目につきまして、私の個人的な考え方は以上のとおりであります。
□ どうもありがとうございました。本日、お話をいただくことを予定しておりました4人の方から、ただいま御説明をいただきました。短い時間の中で非常に的確におまとめいただきましたことに対しまして、厚く御礼申し上げます。
【消費者保護に関するヒアリング及び質疑応答 (v) 質疑応答】
□ それでは、これから質疑に移らせていただきたいと思います。1時間ちょっと、4時20分ぐらいまで時間を用意しておりますので、ただいま4人の方の御意見に関連することにつきまして、質問あるいは御意見等を自由にお述べいただければと思います。どなたからでも結構ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
○ 4人の方、皆さんに少しずつ質問したいことがあるのですが、私が最初にまとめてというのもいかがと思いますので、とりあえず河上先生と落合先生にそれぞれ1、2点ずつお伺いしたいと思います。
最初に河上先生への御質問ですが、約款中に含まれた仲裁条項の問題と個別合意としての仲裁合意を分けて考えるべきだという御趣旨の御発言との関係で、前者の約款中に含まれた仲裁条項の点についてお伺いしたいと思います。約款中に含まれた仲裁条項については基本的に無効を前提とした線で考えてはどうかという趣旨ではなかったかと思いますが、その御趣旨は、仲裁の問題固有の約款規制の規定なりを置くべきだという御趣旨なのか、約款規制法、日本には約款規制法という法律は現在ございませんけれども、約款規制に関する法制一般の中に取り込んで規定すべきだという御趣旨なのかどちらなのかということです。
仮に仲裁固有で約款規制の条項を置くべきだという御趣旨である場合には、どうして仲裁のみがそうやって特定的に取り出されて無効の規定が置かれるのかということもお教えいただきたいと思います。また、約款規制一般の中に取り込んでという御趣旨の場合には、その場合、仲裁条項であるというだけで無効となるという御趣旨なのか、それとも通常の約款規制、ヨーロッパ等で見られる通常の約款規制のように、内容の不当性がある場合には無効になるという御趣旨なのか、どちらの御趣旨なのかを伺いたいと思います。
それから、河上先生に対する第2点目の御質問ですが、ペーパー6項の第2で撤回権の付与というのを考えてはどうかというお話がございましたが、この撤回権の行使できる時期の問題ですが、仲裁合意から一定期間以内はということを前提の御提案なのか、それとも仲裁手続の開始時まではいつでもできるというような撤回権なのか、細かい具体的な話で恐縮ですけれども、何かイメージがおありでしたらお教えいただければと思います。
3点目ですが、やはり6に関係しまして、段階的に措置を考えていくべきだと、一気に行くのはいかがかというような御趣旨の御発言だったかと思います。一気に行くのはどうかという意味がややよく理解できなかったので教えていただきたいのですけれども、現在でも仲裁法はもちろん存在しまして、それは消費者と事業者の契約にも適用されるわけです。そこで、一気に行かずに段階的に行くというのは、現在は事業者対消費者の契約は基本的には有効なのですけれども、それが段階的にというのは、徐々に規制を強めていくべきだという意味の段階的なのか。まず最初に一気に極端なというか、かなり強い規制を置いておいて、今のゼロから例えば100にしておいて、それから徐々に90、80、70…と落としていくという趣旨なのか、どっちの御趣旨かわかりにくかったのでお教えいただければと思います。
それから、落合先生…。
□ まず今の河上先生に対する質問だけで絞らせていただいて、その次にまた。では河上教授、3点の質問が提起されましたのでよろしくお願いいたします。
説明者(河上氏) 第1点ですが、これは約款規制法のような形で考えた方がいいのか、それとも仲裁法の固有の問題として処理した方がいいのかという御質問ですけれども、私はどちらでも結構だというふうに思います。ただ、仲裁というのは、言ってみれば裁判所に対して消費者が法的救済を求める、訴権にかかわる非常に重大な利益が問題になっているものですし、最終的には裁判所での門を閉ざす結果にもなるところですから、そこは慎重な合意を要求しても構わない条項の1つであろうと思います。その意味では通常の不当条項のリストの中にちらっと入ってくるようなものというよりも、特別扱いしても構わないのではないか。例えば裁判管轄に関する特別な規制というのは、EUなどでも特別に指令が出たぐらいでして、そういう、裁判所にアクセスをすることに対して制限するようなものについては、場合によっては固有の法律の中で書くことも構わないことでございますから、もし新仲裁法の中でそれができるとすれば、例えば個別の協議を経ない仲裁条項は認めないというような形にすれば、別に約款を定義づける必要はなくて処理できることではないかというふうに思っております。
それから、2番目の撤回権を付与するということでございますけれども、時期の問題として、紛争が開始して事業者の側から仲裁の申立てがあったところ、先ほどの話で言えば仲裁の手続を開始したというあたりから一定期間というふうにイメージしておりました。果たしてこれで本当にやっていけるのだろうかということをもういっぺん考え直すチャンスとしては、契約締結時からではなくて、仲裁の手続が始まったところで本気で考えるというチャンスをいっぺん与えるというのがいいのではないかというつもりでございます。
それから、一気に行くというのはどういう意味かということですが、これは大体御想像がつくと思いますけれども、最初は規制をかなり強いところでかけておいて、徐々に、仲裁という制度が消費者の間でもその意義が認められてきたり、あるいは仲裁の組織が現状以上に成熟してきて、あそこに頼もうというようなことが皆さんよく理解できるようになって、それも便利だということがわかるようになってくれば、むしろぎちぎちと規制しなくても、最初の段階である程度情報は提供されて、個別に仲裁で頼みましょうということがはっきりされていれば、場合によっては2段階目の撤回というようなものをもっと制限していくとか、あるいはいったん入ってしまった以上は改めて仲裁についての有効、無効を争わせないというような形で最終段階を落としていくというような形で、仲裁を裁判所並みに扱うといいますか、裁判所に行くか仲裁にいくかということをかなり早い段階で当事者に決定させてしまってもいいのかもしれません。まだそこまで今の段階で行くのはちょっと危険だという気がするものですから、最初は少しきつめのコントロールをかぶせておいてスタートしてはどうか、そういう趣旨でございます。
○ 1点目の約款では、無効というのは、約款に仲裁条項があれば、仲裁条項というだけで無効なのか、それとも内容面の問題があるのか、ちょっと伺います。
説明者(河上氏) 私は、それは内容コントロールの問題なので、本当は内容審査を経た上で無効にするのが適当ではないかという意見ではありますけれども、ただ、それをやりますと、約款の中に含まれている仲裁条項について、いちいち裁判所で無効かどうかを争わないといけないということになります。消費者契約の場合、今の段階でそういうことをする手間暇というのは余り得策ではないので、むしろきちんとした仲裁合意を取りつけるということのインセンティブを約款使用者に与えるためにも、単に約款中に仲裁条項を突っ込んだだけではだめだということで、内容に関して議論するまでもなく無効にしておくという方が今の段階ではいいのではないかと思います。
○ 続けてで申し訳ないんですけれども、内容だけでという意味は、約款に入っていて、かつ今度の立法提案でも挙がっている案のように、同時に方式規制もかけている。つまり約款に入っている場合には、さらに同時に独立書面での合意も要求するという方式規制をかけた場合でも内容を問わずという御趣旨でしょうか。
説明者(河上氏) 約款の中に仲裁条項が入っていたけれども、その仲裁条項とは別個に、個別の書面でもって署名を求めた書類で仲裁の合意がなされていれば、それは約款に書いてある文言は、むしろ約款の条項ではなくて、個別合意を確認しただけですので、約款条項ではないという判断です。
□ それでは引き続き、落合教授に対する御質問を。
○ 消費者仲裁に関する消費者保護法制の問題としては、方式規制の是非の問題と内容規制があるのですけれども、お伺いするのは内容規制の方でして、諸外国の立法論を必ずしもよく承知しているわけではございませんが、ドイツやイギリスあるいはそれ以外もいろいろとあったかと思いますが、仲裁法で内容規制に関する特定的な規定を置くのではなくて、消費者保護法制一般の中で同時に仲裁に関する内容規制も包括的に扱うという立法もかなり多いように、あるいはそちらの方が多いように存じております。
御発言の御趣旨は、消費者保護法制、日本では現在消費者契約法ぐらいしかないのかもしれませんが、消費者保護法制一般の中で扱うのではなくて、特定的に仲裁法で抜き出して扱う方が、むしろ消費者保護法制一般の中で扱うよりもいいという御趣旨なのか、そういう御趣旨ではないのかという点であります。
その点に関連しまして、私の理解が間違っているかもしれないので、もしそういうことであればお教えいただきたいのですけれども、仲裁法の中で特定的に扱った場合には、仲裁契約という形で裁判を受ける権利を放棄した場合しか扱えないのだろうと思います。ただ、合意によって裁判を受ける権利を放棄するという中には、不起訴の合意という仲裁とは無関係の合意もありますし、あるいは日本の裁判所ということで考えますと、外国裁判所での訴え提起合意というのもございます。 そういうのも含めて整合的に、かつそういうものも併せて消費者保護ができるというためには、一般法制の中で処理する方がいいのではないかという見方もあろうかと思いますが、その辺も含めてお教えいただければと思います。
説明者(落合氏) 仲裁法制によるか消費者保護法対応によるか、そういう問題ですけれども、私はこれは二者択一ではないのではないかと思っております。
私のイメージとしては、新仲裁法制の中に消費者仲裁の規定を置くとすれば、これは主として手続的な、例えば仲裁地をどこにするとか、仲裁人の選定手続をどうするとか、そういう手続的な内容の規定が恐らく置かれるということになろうと。他方、実体的な規制ということになりますと、これは消費者法制の方で対応することになろうかと思います。
ただ、消費者の立場から見たときに、幾つもの法律を参照しなければトータルとして像が見えてこないという形は非常に困るわけであって、確かに法体系上は手続法は手続規定、実体法は実体規定という仕分けの方が便利というか理論的なのかもしれませんけれども、実はそれは理論の話であって、実際上の必要からすると、一緒にそれが規定されてあっても、これはむしろその方が消費者にとっては好ましいわけで、したがって、手続法だ実体法だという区別を余りやかましく言わない方がいいのではないかと思っております。
そして、その手続法にしろ実体法にしろ規制を考えていくという場合に、一体きつめの対応で臨むか、無効を一般化するか、そういうアプローチの違いがあるということが、河上教授の御説明の中にあったわけですけれども、これは仲裁法制で対応する、あるいは消費者法制で対応するということの場合に、一般的なスタンスとしてどういう対応が考えられるだろうかという点について、河上教授の見解に多少危惧を感ずるところがあるとすると、きつめの対応を当初からし、さらに無効を一般化するという、そういう対応をしたときに、本当に消費者仲裁というものが我が国において根づいて発展していくことになるのだろうか。むしろ、これは消費者紛争の解決手段の多様性という観点、消費者仲裁というものが我が国に根づいて発展していくことが好ましいと考えるとすると、やや、芽を摘んでしまうという懸念がありはしないか。
だとするとこの辺のところの対応は、全面的な無効化という対応ではなくて、むしろもっと個別的な対応が可能なような枠組みで、伸ばすところは伸ばし、抑えるところは抑える、そういう対応を最初から考えていく必要があるのではないかというふうに思っております。
したがいまして、まとめますと、手続法的な対応、実体法的な対応といった場合でも、基本線としては、今言ったように、いいものは伸ばすという方向がいいのではないか。いいのも悪いのも一緒くたに抑えるとすれば、本当に悪いのが出てくるという芽は抑えられるわけでありますけれども、全体の成長がそれによって止まり、我が国に結局のところ、有用な手段としての消費者仲裁というのは根づかないということになるのは、やはり問題であろうというふうに思います。
○ 確認させていただきたいのですが、私の質問の仕方がやや漠然としすぎていたので申し訳ありませんでしたけれども、確かに落合先生の御発言ですとB−3案、一定の内容さえきちんとやればB−3がいいというのが第一でございましたので、確かにB−3案を前提にしますと、B−3案の中に盛り込まれる内容は仲裁廷がどうであるとか、仲裁地がどうであるとかというかなり手続的な要素が入ってくるので、おっしゃるように仲裁法に置くというのももっともかと思いますが、例えばですが、B−3がだめでしたらB−2だとおっしゃった、例えばB−2を念頭に置いた場合の御質問だったわけですけれども、B−2ですと、一方的解除権という従来の通常の契約法理にはない新しい仕組みを取り込むというときに、先ほど言いましたように、一方で、裁判を受ける権利を放棄するような合意といっても、仲裁契約以外にもいろいろあると。他方で、仲裁契約というのも単独で結ばれることはまずなくて、実体契約とセットで結ばれるときに、この場合だけ解除権というのをぽんと置いて、他の場合にはそういう仕組みはないということが整合的かというような趣旨の質問でしたので、そこだけ追加してもし伺えればと思います。
説明者(落合氏) それは立法のスタンスだと思います。この際、そういうほかの、機能的には非常に似たような合意というものも包含して、何かの規制を考えていこうというふうに考えるのか、それとも諸般の事情から新仲裁法というものに局限した形で、そういう意味でなるべく狭い問題として把握した上でその問題を実現しようという、そういう立法政策をとるのか、その基本によって随分違ってくるのではないかと思います。
私の感じでは、できたらこの際、もっと広い対応が必要であろうと思っていますので、単に仲裁に限定した形での離脱ということではなくて、ほかの類似のものについても、それなりの対応を考えるということが好ましいと思います。そういう趣旨です。
○ 私の質問の趣旨も、おっしゃるような趣旨で申し上げまして、先ほど磯辺氏の御発言の中で、一度国民生活審議会とかにも諮って全体で考えなければいけないのではないかというようなことをおっしゃって、個人的にはそういう意見を持っておりますので、そういうお考えもおありかどうかという趣旨でお伺いしました。
説明者(落合氏) その点は別に国民生活審議会が専属管轄であるわけではありませんので、私としてはぜひ、この検討会においても、広い視野から見たときに実現できるところ、新仲裁法に盛り込むことが可能なような手段については、ぜひ盛り込むような方向で御検討いただきたいというふうに思います。
□ ありがとうございました。ほかの方いかがですか。
○ 河上先生に幾つかお尋ねしたいと思いますが、河上先生の御発言の中で、私が聞き漏らした点が幾つかあるかもしれません。そのあたりはあらかじめ御容赦いただきたいと思います。
1点は、約款中の仲裁合意については、これは全面的に無効であるということでよろしゅうございましょうか。
説明者(河上氏) はい。
○ 他方、個別の仲裁合意については、これは原則有効であると。ただし、事業者が消費者に対して仲裁契約の締結に際して仲裁に関する十分な情報を提供する義務を課すべきであるということでよろしゅうございましょうか。
説明者(河上氏) はい。それから、基本的に手続的に独立した別個の書面で、つまり本体の契約とは一応分離させた形で仲裁の合意を取りつけるということです。
○ 本体とは形式上別の形で仲裁合意を行うという点でございますが、これはあくまでも消費者が仲裁合意をするかしないか、それについては選択権を有するということでございましょうか。
説明者(河上氏) そうです。
○ そうした場合に、消費者が事業者からの情報提供を受けて仲裁合意をしたと。その場合先生の御見解ですと、爾後に、消費者の方から、仲裁手続を撤回することはできる余地も残しておくべきであるという御見解でございましょうか。
説明者(河上氏) はい。確かに少し甘やかしているといえば甘やかしていることになりますけれども、ただ、実際に消費者契約の中の特定の取引に関しては、実際に契約をした後もクーリング・オフが認められて、もう一度熟慮する期間を与えるというような制度がございますように、恐らく通常の消費者の契約締結時の意識としては、将来の紛争解決のために自分の訴権を今放棄するのだと、そのことについてメリット、デメリットがどの程度かということについて、熟慮してサインをするということは余り期待できないのではないかということで、もう一度振り返って、これでいいのだというふうに判断できる機会を与えておいた方が現段階ではいいのではないかということでございます。
○ 先ほど先生が御発言なされたかどうか今失念してしまったのですが、撤回する期限というのは、仲裁手続が始まった後でもできるという御見解でございますでしょうか。
説明者(河上氏) 仲裁手続の開始から起算して、例えば出頭しなさいという話があって、2週間とか、そういう形で考えればいいかと思いますけれども。
○ 最後に1点確認でございますけれども、個別の仲裁合意を結ぶという場合、仲裁合意を消費者が締結することを条件に主契約の申込みをするというのは、これは個別契約ではなくて、あくまでも実質的な約款である、約款中の仲裁合意であるという考え方でよろしゅうございましょうか。
説明者(河上氏) 趣旨がよくわかりません。
○ 失礼しました。約款の内容を消費者が同意する場合に、仲裁合意を別途結ぶとしても、仲裁合意を結ばなければ約款中の内容に基づいた契約を締結しないという事業者側からの契約の申込みというときは、その仲裁合意というのは、約款中の仲裁合意と同視できるものであるということでよろしゅうございましょうか。
説明者(河上氏) そこは確かに、個別のきちんとした協議があったものかどうかという判断は若干微妙になるかと思います。つまり、形式上は別の紙が出ていますけれども、実際はこれを飲めという形で出されてしまったときは、それはある種の約款であるという性格づけが与えられてしまうのではないかと思います。
○ 仲裁合意を結ばなけれは契約はしないのだということであれば、いくら紙を別にしたとしても、これは約款中の仲裁合意と同視し得るものであるという御見解でよろしゅうございましょうか。
説明者(河上氏) はい。交渉の余地がないところであれば、それは形態にはとらわれないで約款と評価して構わないという考えです。
○ わかりました。ありがとうございます。
○ 池山さんと磯辺さんに若干お話を願いたいのですけれども、実際、消費者問題を扱っている相談の現場等々の実態のことをおっしゃられて、規制の必要性について述べられたわけですけど、仮に新仲裁法ができていった場合に、今いろんな現場で見ているところからすると、どういう点が一番懸念されるか。もし具体的にお話がありましたらしていただきたいということと、それからB−1案とB−2案について述べられておるものですから、それぞれの違い、どういうふうに違ってくることを懸念されるかあたりも含めて、お話しいただけますか。
説明者(池山氏) 今、お二人の先生のお話もお聞きしましてよく理解できるんですね、私。確かに仲裁というのは、消費者紛争を解決する1つの手段になり得るというふうに思います。しかし現状から見ますと、河上先生が盛んにおっしゃいました実質的な合意とか、熟慮ができるか、現場から見ますと、それを担保するものが何にもないんですよね。
実態を見ますと、とてもそんなに契約を結ぶときにきちんと事業者の担当者が、消費者が熟慮して自主的にきちんと選択して判断するような説明ができるか。
それは私としても確かに、先生がおっしゃったように、消費者というのを余り卑下することはないというのは、理屈としてはそうです。私もそうはしたくありませんけれども、実態としてはそこが一番不安です。これから新仲裁法をつくっていく中で、いろいろ特則その他も充実してつくられるということできょうのヒアリングもあると思いますけれども、それにしても私はとてもその点が不安です。
それで、落合先生がおっしゃったように、私の希望としては、消費者紛争の実態、その救済がどうなっているかというようなこともきちんと細かく御検証いただいて、その上で御判断いただきたいと思います。
消費者被害救済委員会の委員をしたところでは、被害救済委員会の委員をしていながら、これが消費者被害の実態かというので、わかってはいてもちょっと愕然とした思いがありましたので、その辺が私としては一番不安なところでございます。
それとB−1、B−2のところですけれども、さっきお話ししましたけれども、消費者団体は事業者に対して不信感があるんですよね。もちろん環境問題などをきっかけにして非常に事業者とは風通しがよくなっていて、お互いに情報を提供し合いながら1つのことをきちんとなし遂げていくということについては信頼し合えているのですけど、仲裁廷というところが、今の現状ですと、市民側からの仲裁廷が用意されるというふうなことは、残念ながら、見通しは暗いと私は思うんですね。弁護士会の仲裁廷とかいろいろありますけれども、事業者側の仲裁廷が多くなると思うんですね。仲裁人もそれはちゃんと第三者的に判断できる方がいらっしゃると思いますけれども、そういうところで本当に消費者が自分の置かれている状況がわかるだけの説明が受けられるのかというのが、これも私は今の段階ではとてもそういうことは無理なのではないかと思います。
ただ、だからといって、もう全面的になし、永久になしとは、それは言えないと思うんですね。だから、そこのところがどうきちんと担保できるか。そのためにはすごくテンポが速くて、なかなかここのところをきちんと理解して消費者が意見を出して納得するという十分な時間がないのではないかというふうに思います。
きょうもお二方の先生のお話などをお聞きすると、ああ、そういう面もあるな、そうだなというのもわかるのですけれども、そういう場をもうちょっと丁寧に提供していただきたいというふうに思います。
説明者(磯辺氏) 直接、私が消費者相談等に対応している立場の人間ではありませんので、そう具体的にというわけにもいかないのですが、相談員の方々から今回の件も含めて話を聞くときに1つ思うのは、商品やサービスを選択して契約に至るという段階で、悪質商法の関係もそうなんですけれども、事業者と消費者の間での何といいますか、一種のシンパシーといいますか、契約を結ぶ時点では、その契約内容をずっと話す中で、その瞬間の合意というのがあるわけですね。それはその契約の内容が適か否かということは抜きにして、話していくうちにお互いに何となくわかって契約してしまうという心理的な状態に一瞬陥るのだというふうに思います。そのときに、仲裁の問題を持ち出して、「いやあ、裁判は大変ですよ、仲裁ということで皆さん手軽に利用されていますよ」というふうな説明があると、これはすぐ契約しますね。
ですから、そういう心理的な状況が契約段階でどういうふうになっているのか。さらに紛争が起きたときの段階というのは心理的には隔たりのある段階で、本当にこれは大丈夫なのかというふうに相手を警戒して見ますから、そこに大きな違いがあるということはぜひ踏まえて考えていただきたいと思います。それと、もう一つ、これは相談員の方々の話ですけれども、クーリング・オフが今ありますけれども、クーリング・オフを例えばやりましょうということで消費者に説明をしても、それを説明どおりにできる方と、かなり丁寧に説明してもできずに自分の手で文書を出さない方というのが現実にいらっしゃるということはあります。ですから、例えば解除権にしても、その解除がどういう意味合いを持つのかとか、例えば仲裁のことを説明するに当たって、これで裁判の権利を放棄しますよと言っても、一般的に言うと、もともと消費者は裁判に対してプラスのイメージを持っていないとかという実情だってあるわけです。そういうところをかなり留意しないといけないのだろう、そういう印象です。
それとB−1とB−2の関係ですけれども、そういう意味ではB−2で解除権を本当に執行するかどうか、そのために仲裁廷が説明するという内容は、単に手続的、外形的なものでは不十分で、消費者の契約した時点の心理状況だとか裁判に対しての理解状況等を踏まえて相当丁寧にやらないとかなり難しいのではないか。そういう意味で言うと、B−2の具体的な姿がまだまだ明らかにならない時点では、消費者団体としては、B−1で基本的に事前契約というのは無効だということを、現状の消費者契約の実情から言うと主張せざるを得ないし、その線で行こうということでまとめたということです。
○ 要するに、池山さんのところでしたかに書いてありますが、遠隔地で行けないとか欠席とか、そういうあたりの懸念が相当あるということでよろしいのでしょうか。
説明者(池山氏) それもあります。ただ、基本的には、磯辺さんも話されましたけれど、解除権なども、仲裁廷の仲裁人の方はわかるように御説明なさっても、理解できる方もいらっしゃるかもしれませんが、なかなか理解は難しいのではないかというふうに思います。その辺のところが私としては一番心配です。
それと確かに遠隔地である場合、なかなか少額被害なんかの場合行けなくて、権利を放棄してしまうということもあり得るのではないかなという、そういう心配はあります。
○ 河上先生に伺いたいのですけれども、5番目の「仲裁合意成立の手続的要件のみで十分か?」とおっしゃった点で、例えば判断基準について問題があるようなときに吟味するチャンスを司法の手に残しておく必要はないか。この辺、どのように具体的にイメージされていますか。
と申しますのは、商事仲裁の場合ですけれども、英国では法律問題を裁判所へ判断を求めるというのを長年やってきて、余りにもそれが多過ぎて、だんだんそれを制限するようになってきていますけれども、この場合に、例えば強行法規違反というのばかりではないと思うんですね。場合によると不服なものは何でも持って行けるというようなことになる危険はないか、そんなことを考えましたもので、どんなことをイメージしていらっしゃるか教えてください。
説明者(河上氏) 私がイメージしておりましたのは、むしろ先ほど落合教授から御指摘のあったような、例えば仲裁機関のメンバーの構成についてのアンフェアではないかという疑いを抱かせるような構成であるとか、それから、地域的な距離から考えて、出かけていって、仲裁判断まで行くのに非常に消費者にコストがかかるとか、そういう形式的な部分というのがかなりあるのではないかと思うんですね。そういう部分を、大体少し不当ではないかと思われる要件を摘示しておいてはどうかと。例えばA、B、Cというようなもの、その他、消費者を著しく不利にするような結果となる仲裁条項は無効にするという形にして、仮にクーリング・オフというか、撤回権の期間を過ぎた後で、審理が少し始まっていても、改めて無効を争わせるような余地を残しておくというようなことを考えておりました。
ですから何でもかんでも不服があれば行けるというものではないし、行っても事実上ははねられるという結果になるのではないか。法律問題を1つ1つ裁判所に持っていくというよりも、そこをセレクトする基準は立てておいた方がよいと思います。
○ 本日、私、資料を提出させていただきましたので、最初に簡単に説明させていただきまして、その上でそれに…。
□ 結構です、どうぞ。
○ 「仲裁契約の成否に関する判例について」ということで用意させていただきました。この判例は建設工事の請負契約に関する事案のものでございまして、事業者(請負業者)と消費者との間の紛争につきまして、仲裁契約の成否が争われたものでございます。4つの判例がございます。
いずれも請負業者であるX会社の方から発注者である個人に対しまして、工事代金の支払請求を訴訟でいたしまして、その訴訟におきまして、発注者であるY(個人)から仲裁契約の成立を主張したと。訴訟ではなくて、建設工事紛争審査会の仲裁でやりたいという主張をしたものでございます。
判例が4つございますけれども、判例1を見ていただければと思いますけれども、この引用部分の冒頭で、「仲裁契約の成否に関しては、それが訴えの利益を阻却する不起訴の合意の趣旨を含むものである以上その成否は慎重に決せられるべきである」という趣旨を述べております。
それからゴシックの部分でございますけれども、「請負契約書に添付の四会連合約款に仲裁条項が存在するというだけで直ちに、かつ当然に仲裁契約の成立があったとみることはできない」というふうに述べております。
同じような趣旨は、判例3と判例4でもゴシックにしておりますので、見ていただければおわかりかと思いますけれども、述べられております。
判例2はこういう一般論は述べておりませんけれども、やはり個別具体の事案に立ち入って、仲裁契約があったのかなかったのかというのを慎重に認定せよということでございます。
結論的には、判例1、2、3は仲裁契約の成立を認めておりまして、判例4は仲裁契約の成立を否定しているというものでございます。
申し上げたいのは、約款に仲裁契約の条項が入っているというだけで、仲裁契約が成立しているというふうには必ずしも判例は判断しておらないのではないかということで、多少議論の前提になるのではないかということでございます。
それから、池山さんと磯辺さんに御意見をお伺いしたいのでございますけれども、冒頭申しましたように、これらの事案はすべて請負業者の方が訴訟でやりたいと、裁判を提訴したのに対しまして、個人(消費者)の方が、いや、建設工事紛争審査会の仲裁でやりたいと。先ほど落合先生の方から、消費者紛争の簡易・迅速な解決方法ということで、仲裁を積極的に位置づけていいのではないかというお話がございましたけれども、これはまさにそういう事案でございます。
そういう意味で、無効あるいは取消しという制度を入れますと、消費者にとっても仲裁制度の利用に影響が出るのではないかというのが若干心配されるところでございますが、それについてはどうでしょうかということでございます。
一言付言いたしますと、無効なり取消しなり、いずれにしましても、消費者の方が主張権を持つといいますか、無効を主張する権利、取消しをする権利を持つので、それは問題ないのではないかという議論はあり得るかと思うのですけれども、ただ、無効、取消しの規定を置いた効果といいますか、どういうインセンティブを請負業者の方に与えるかといいますと、請負業者の側としては、無効なり取消しの主張を受ける立場になりますので、非常に不安定な立場に置かれるということでございます。
そうしますと、請負契約の時点で、将来どうなるかわからないけれども仲裁合意する、仲裁契約を結ぶということが期待できなくなるのではないかと。仲裁合意があると思って仲裁の申立てをしても、そこで無効なり取消しなりをされてしまうとパーになってしまうということで、そういうあやふやな合意はしなくなるのではないかという心配がないかということでございます。
そういう意味で、真の消費者保護をどうやって図ったらいいのか、消費者の利益を保護するための紛争解決手段をどのように確保するかという観点から御検討いただければと思います。
あと、言い忘れましたが、事後的な仲裁合意というのは実態として非常に少のうございまして、紛争状態になってしまいますと、争い方を合意した上で、仲裁申請するというのはかなりまれでございます。仲裁の事案のほとんどは、こういう判例につきましてもすべて事前の仲裁合意でございまして、請負契約の時点で併せて仲裁合意していると。だからこそ紛争になった時点で、業者を仲裁に引っ張ってこられているという実態がございます。そういう意味で、事前の合意のメリットとデメリットと双方あろうかと思いますので、そういう点を踏まえまして御意見をお聞かせいただければと思います。
説明者(磯辺氏) 逆の場合もあり得るということですけれども、説明されたように、B−1を選択すれば、消費者の方が無効を主張するかしないかということになるわけですから、当然消費者の方が選べるわけで、この内容で言って、B−1を選択すれば、消費者の方は選べるということになるわけですね。そういう意味で、B−1でと言っているのですが、そのことが事業者にどういう影響を与えるのかというのは、これはルールの問題なのか、それとも事業者の姿勢なり仲裁廷の評価なりという問題なのか、制度全体の実態としてどういうふうになるかということの問題の切りわけは一応必要ではないかと思います。
それともう一つ言おうと思ったんですけれども、仲裁発生後の仲裁合意というのは非常に難しいというふうにおっしゃったのは認識としてはよくわかるんですけれども、けれど逆に言うと、紛争発生後、具体的に事案に遭遇したときに、仲裁を選択したくないというのが多いのであれば、それはそれで1つの実情なのではないかというふうに思うのです。仲裁ということに対する発生後の受けとめ方ということですから、今の仲裁廷なり、仲裁の実情からいって、そういう実情があるのであれば、そこを仲裁が手軽で法的拘束力を持ってということを、あえてルールで定めて事前に結ばせるということ自体に、実情からいうと非常に無理があるのではないか。ちょっと論理がすれ違っているかもしれませんけれども、そういう印象を持つわけです。
すいません、お答えになっていないかもしれませんけれども。
説明者(池山氏) 紛争が起きてから仲裁合意をする例はまれである、事前で大体仲裁合意をして、それで紛争が起きたときもそれでするというふうにおっしゃいましたけれども、私たち消費者からすると、本当は事が起きる前にきちんと対処するといいのですが、やはり、事が起きてから、具体的に動き出して見えてきたところで判断するというのが自然ではないかと思います。紛争前というのはちょっと考えられないんです。私はそういうふうに考えますけれども。
□ ほかに何か、よろしいですか。
○ 一言、補足いたしますと、建設工事紛争審査会の場合、あっせんとか調停が主でございまして、仲裁というのは比較的少ないということでございます。ですから契約時点で仲裁合意までされているというのはそんなに多くはないと思います。仲裁合意があった事案に限って見ますと、事前の方が事後よりも圧倒的に多いと、そういうことでございます。最初から仲裁合意するかどうかは、全くそれは選択の問題ということで、嫌ならしないということでいいかと思っています。
○ 落合先生と河上先生に御見解をお尋ねしたいと思いますが、落合先生から、先ほど最後のあたりに、消費者仲裁については、アメリカでの消費者仲裁の現状というものも調査する必要があるであろうというような御発言があったやに私は記憶しておりますが、私もここ1、2週間、アメリカの消費者仲裁を、時間的にいろいろと限界ございましたが、調べた範囲ですと、アメリカでは銀行を始めクレジットカード会社、車のディーラー等々、ほとんどありとあらゆる消費者契約の中に仲裁条項というものが含まれているというのが、大体私が見た範囲で理解、認識したところでございます。
法律の方はどうなっているかということを調べたところ、確かに州法では消費者保護という観点から仲裁条項を一律に無効にするというようなところもございますが、他方、州際取引で適用される連邦仲裁法レベルでは消費者保護に関する規定は全くございません。したがって、一般の契約の取消事由がない限り、仲裁契約についても、一方当事者が消費者であるからといって無効ということはないというのが私の理解でございます。もちろんアメリカと日本では仲裁の根づき方が違うかもしれませんが、両先生の御見解として、そういったアメリカの現状をどのように評価されておられるか。そういったものに対して、日本の立法に対するどういった示唆がそこから得られるのか、そのあたり、御見解をお伺いできればと思います。
説明者(落合氏) アメリカの規制は確かにおっしゃるとおりになっていて、結局だから裁判所、特に連邦が管轄する事件については裁判所が個別的な事情を判断して、それぞれの効力を判断するという、ケース・バイ・ケースのアプローチであり、裁判官が適切にその事案の本質を見抜き、適切な対応ができれば、それなりに合理的な対応が個別的にはなされるわけです。
しかし、そういう裁判に出てこない部分の仲裁合意というものがどうなるだろうか、もう一つ、残された問題があろうかと思いますけれども、その点については、アメリカの消費者団体等は、望ましい仲裁ルールの在り方というようなものについて、積極的に自ら提言をして、そういう仲裁ルールを取り入れている事業者と取引をするようなことを推薦するとか、裁判所に行かない部分について、消費者団体が主体的にそれを是正する、消費者の正当な利益が害されているような場合が生じないように積極的な活動をして、その間隙を埋めるべく行動しているということがあるわけですね。
それが事業者にも影響を与え、たしかAAAも消費者仲裁に関しては特別なルールというものをそれに対応して考えていこうということで、つまり、これはお上が一定の規制を課してというようなものではなくて、消費者と事業者がお互いに自分たちの主張をぶつけ合う中で、ルールを見つけていく、そういう領域なのだと。だから法律はそれほど広範囲に介入しないと。州法はちょっと別ですけれども、連邦法の考えはそうだと思うのですね。ですから規制をすれば物事は解決するというわけでは必ずしもなくて、規制の失敗ということが十分あるわけですから、一体仲裁という問題の性質として、そういう広く規制の網をかぶせていくというやり方がいいのかどうか。
それらを考えると、むしろアメリカのような状況が日本でも早く実現するような形になると好ましいなと。消費者団体もある意味では非常に怖いという方が先に立って、全部リジェクトしようという態度ではなくて、自分たちがもし、例えば裁判に行くことを考えてみると、明らかに裁判による解決に適さない事件というのはあるわけですね。ですから、そういうものに仲裁を利用できるようにするためには、こういうルールで仲裁というのは行われるべきだということを積極的に打ち出していくということが今後求められるのではないか。
しかし、そうは言っても仲裁というものが我が国の場合はほとんど利用されてない。しかも裁判官でない仲裁人の判断というものが一体どれだけ受け入れられるかと、そういう一般的な仲裁制度そのものに対する疑念というものが存在する中で、どうしても怖いというイメージの方が強くなってくるのですけれども、それで本当にいいのかどうか。これは考え直す必要があろうと思うので、そういう意味では、新仲裁法の中でも、消費者仲裁の規定をかなり設けるとしても、本来、消費者と事業者のバーゲニングに任せてもいいような部分というものは規制の対象にしないで残すというようなことで、同時に、だから消費者政策の問題というふうに先ほど言いましたけれども、消費者団体の方でも、そういう問題を積極的に打ち出して、オール・オア・ナッシング的な対応でなくて、代替案を積極的に出すような形で、そういう対応ができるような方向に消費者政策として、国は積極的にやるべきであろうと思いますし、だから、結局、仲裁という問題は、実は日本の消費者問題がある意味ではあらわれているところであって、これをどう評価して、どういう方向に持っていくかという基本的な考え方によって随分この問題に対する対応が違ってくると、そういう印象を持っています。
○ 4人の方にそれぞれ御質問ですが、最初に池山さんと磯辺さんに、先ほど○○委員からのB−1かB−2かという御質問の中で、B−2の方は、仲裁機関の説明等について、現状では疑問の余地が残るというお話があったわけですが、そうしますと、どういう説明があるにしても、消費者の側も無効を主張できるということになると、いったん仲裁判断が出た後も無効が主張できるということだとしますと、仲裁判断が自分に不利だったらそれは無効だということを主張して、有利だったら有効だということでそのまま押し通すということになるというふうにも考えられるのですが、その辺を不公平というふうに考えるかどうかということは見解は分かれるのかもしれませんけれども、そういうことがもし認められると仲裁制度としてはなかなか成り立ちにくいのかなというような感じもいたしますものですから、そのあたり、どのようにお考えか、御説明いただければと思います。
□ 今の点についていかがでしょうか。仲裁判断が出た後に、取り消すということについて。
説明者(磯辺氏) B−1について、基本的に無効という規定をしているにもかかわらず、仲裁手続がどんどん進むといったとらえ方は私はしていないのですけれども。
基本的に無効なので、消費者の方が無効だというふうに改めて主張することがなくても、基本的に無効であるからには一定の段階で手続に入れないとなってしかるべきではないかととらえているのですが、そこは違うということでしょうか、B−1の解釈としては。
○ それはいろんな制度の設計の仕方が。
説明者(磯辺氏) というふうに思っていますので、結論が出るところまでそもそも行かないという認識なんですけれども。
○ そうすると、手続が一定のどこかで、消費者がこのままやりたいと言っても打ち切られるということですか。
説明者(磯辺氏) ですから消費者だけ一方的に無効というふうに主張ができるわけですから、むしろ消費者が一定の段階で主張した時点で仲裁の手続に乗れるというふうに思っています。
○ そこで新たに仲裁合意が締結されるという理解ですか。
説明者(磯辺氏) 仲裁合意が締結されると。ですから、それは紛争発生後の一定の段階、本人がきちんと判断できる状況でという、そういう認識なんですけれども。
□ ちょっといいですか。業者の方から仲裁の申立てがあって、消費者は終始欠席して、無効の主張をしないまま手続が進んだと。しかし結果的には仲裁判断は、消費者の側に有利な仲裁判断ができたという場合をどうするか、そういうことですね。
○ 欠席の場合も出席の場合も含めてですが。
説明者(磯辺氏) B−1でもそういう場合が想定されるということですか。
□ Bー1はまさにそういうことですね。無効の主張をしうるのは消費者だけなのですから。
説明者(磯辺氏) B−1は、まさにそういうことなんですか。
□ あり得るのではないですか。
説明者(磯辺氏) 事前の仲裁合意は無効だという規程の意味合いなんですけれども、それは、無効だけれども、消費者が一定の段階で無効を主張しないと手続はどんどん進んでしまうということですか。
○ それは両方の制度設計があり得ると思います。
説明者(磯辺氏) あり得るわけですね。
○ ええ。
説明者(磯辺氏) ですから、そういう制度設計ではなくて、本来、無効であれば、一定の段階で、手続は止まらざるを得ないという認識だということ。ちょっと繰り返しになりますけれども、ですから結論が出て消費者がいいように選べるのは、それは仲裁とは言わないと思いますので、それはそこまでの話をしているわけではない。ただ、一定の段階で主体的に選択できる条件というのはどこなのかという議論が必要だと思います。
説明者(落合氏) 今の御質問の趣旨は、いわば、ここで考えられているB−1案というのは、消費者の方で無効を主張するという行為があると無効になるということで、当然の無効という設計ではないんですね。ですから、今座長が言われたような場合というのはあり得るわけですね。無効の主張をしないままに審理が終わって、仲裁判断は非常に消費者に有利な内容が出たと。この場合は、一体消費者としては、これを受け入れるのか受け入れないのかという御質問だろうと思いますが、それは消費者側として、どう考えたらいいかという質問なんですよね。
当然無効という設計ならば、恐らくその仲裁判断は無効ですよね。けれど、消費者の援用を待つというというのは、B−1という案はそうなんだろうと。とすると、座長が言われたような場合はあり得ると。
● 池山さんも、当然無効を前提にして考えられていたということでよろしいですか。
説明者(池山氏) はい。
○ それから、河上先生と落合先生に対して、細かい質問で恐縮ですが、今のお話とも関連するのですが、撤回権の付与という構成、B−2案的な構成を前提にした場合、それに対する批判として、先ほどお話のあった、説明が十分なされるのかというような御批判もありますが、パブリックコメントの結果などを見てみますと、それと並んで、消費者の側が欠席した場合にも拘束されるというのは問題ではないかという批判があったようですが、そのあたりについてはどのようにお考えなのか。撤回権という構成をとって、通知が十分になされて、その通知の中で仲裁手続というものについての説明もなされていた、しかし消費者は出てこなかったというような場合に、消費者を拘束することができるのか、あるいは拘束すべきなのかというあたりについて御意見をお伺いできればと思います。
説明者(落合氏) それは前提として、消費者に対して仲裁の持つ意味の情報提供が十分なされていると。なされた上で解除権を行使しないという場合にいかがかと、こういうことですね。
○ そうです。
説明者(落合氏) そうなってきますと、これはほかの契約解除できる場合、取消しできる場合と同じようなシチュエーションなのであって、それを特別に仲裁の場合に、その場合でもなお援用を待たずして取消しと同様の効果を認めるというのには、もう一つ理屈が要るだろうと思いますので、私の考えでは、そのような場合は、それは拘束力を持つのはやむを得ないだろうと思いますね。
それから、何で仲裁の場合に関してだけ非常に恐怖心があるのかということに関連して、例えば事業者と交渉して合意で紛争を解決するという場合、これはよく考えてみると、その合意について、本当に消費者はわかって事業者と合意したのかという議論をすると、これはそれ自体もおかしくなってくるんですね。ですから、一体消費者がどこまでわかって自分の権利を処分するかという問題は、実はいろんな、消費者側が余り文句を言っていないような解決の事例にも同じような論理が妥当してくる場合があるわけなので、だから、これはなかなか難しくて、仲裁だけが特別なのかというあたりのところは、どう考えていったらいいのかという問題もありそうな感じがしますね。
それから、いわば仲裁の合意というのは、紛争そのものを解決するというよりも、紛争を第三者の判断に委ねるという形の解決の方法なんですね。ですから紛争そのものの本体については、若干リモートな感じの部分がある。それに対して、事業者と話し合って解決しましたというのは、まさに紛争そのものの本体について合意して解決しているわけです。そうすると重要性から言うと、事業者と合意して解決した方がよっぽど重要なんです。ですから、ここの部分は現行法の規制で十分であり、仲裁の合意だけが、より現行法よりも強い保護というものを与えなければいけないのかということについては、私は十分な理由がやはり必要だろうというふうに思います。
説明者(河上氏) 今の御質問ですけれども、これは設計の仕方は恐らく2通りあって、「撤回しますか」という聞き方をしたときに、返事がなかったときには、無能力者に対する催告と同じでして、返事がないときはノーだと、いや、撤回するのだという趣旨なんだということにするのか、あるいは返事があったときに、初めて撤回するのだというふうにするかという、それは設計の仕方によってある程度決まってくる可能性がありますが、そこは1つありますね。
ただ、私としては、撤回しますという積極的な申し出がなければ、それに拘束されるという方向でいいのではないかとは思います。
それから、もう一つ、撤回しないで、そのまま推移してしまった後でも、3段階目のセーフガードで、明らかにこれは不公平な仲裁であるということが言えるような場合であれば、撤回しなくても後から司法の場で無効を争えるという余地を残しておいてやれば、あとは拘束されてもしようがないのではないかという気がいたします。
○ やや突っ込んだ質問で恐縮ですけれども、河上先生に重ねてですが、河上先生の御報告を私が理解したところでは、先生御自身の基本的なお考えというのは、わりと消費者の自立した市民像というものが本来望ましいのだというのが前提にあったように伺ったんですね、本来は。約款型の場合には約款が持つ一般の問題ですし、個別合意の方は、このペーパーにもありますし、御発言にもありましたけれども、重要事項の説明もあり、別個の署名や捺印もあって、つまり消費者といえども本人が十分に説明を受けて納得し理解して合意したのであれば、それで効力を生じるというのが本来だという基本的なお立場だと理解しております。
ただ、そこから先に、しかし、それだけで十分かというので、やや現状では不安があるというのが、一気に現在のゼロからいったん100まで針を振り上げて、それから場合によっては段階的に落としていってもいいという立法の方が望ましいというのは、やや理解しにくいというか、なぜ、いきなり極端に一度振れなければいけないのかということですね。こういうことは制度設計の問題ですから、理屈で余り議論するべきではないのかもしれませんが、御説明の前半と後半のトーンの違いがやや理解しにくかったというのがあります。
もう少しつけ加えますと、消費者の団体の方がいろいろ仲裁に対する不安をおっしゃっておられる、そのお気持ちはわかるのですが、他方で、100年以上、仲裁制度が日本では続いてきて、今度の仲裁法改正でも、仲裁制度の基本的な枠組みは全く変わらないのだろうと認識しておりますが、その中で仲裁合意によって消費者が食い物にされたという被害事例というのは、ほとんど現実にはないと理解しております。ということも考えあわせて、最初から一気に強い規制にして、場合によって落としていくというようなやり方は、その面からも、ちょっと戸惑いを覚えたというところがございます。
それから、もう1点、細かいところで非常に恐縮ですが、撤回権の付与の仕組みのところで、手続開始から例えばひと月ぐらいまではできるというような案はどうかということをおっしゃいましたが、仲裁というのは、先ほど来何度も出ていますように、簡易・迅速が一応売り物ですので、しかも消費者契約に関する仲裁ですと、コストの点からいっても、非常に短期間でしか制度は仕組めないだろうと思いますので、普通に考えれば、ひと月もたてば手続は終わっているように仕組むのが普通だろうと思うので、手続開始後一定期間というのが現実に制度として成り立つのかどうかちょっと。
説明者(河上氏) 100まで振ったというふうにおっしゃられますけれども、私の中では50ぐらいで、つまりきちんとした合意であれば、これは有効に成立するというところが基本的なスタンスですから、むしろきちんとした合意が期待できないような場面というもので、今もクーリング・オフ制度がありますけれども、実際にクーリング・オフが行使されるというのは取引の中では1割はないわけですよね。ですから、これはまずいと思ったときに引き返せるようにもういっぺん熟慮をさせる、つまり熟慮の結果としての合意にできるだけ近づけてやる必要があるという意味では、私は当人の意思を大事にしてやるということとつながっているのではないかと思っております。
ですから、まずは一気に無効にしてしまうというのが私は100だと思いますが、そこまではいかず、50で止めて、それからさらに25ぐらいまで行くものであれば行って、仲裁制度を育ててやろうではないか、そういうぐらいのつもりであります。それがなおきついというふうに評価されるか、まだ甘いというふうに言われるかは、これはいろいろお考えがあるところだと思います。
それから、手続開始から1か月というのは、私はたしか2週間ぐらいというふうに申したかと思いますが、それでも長いということであれば、10日とか7日というのだって構わないのだろうと思います。ただ、自分が仲裁に向かっていくかどうかというのを真剣に判断するのに、1週間ぐらいではちょっと短いかもしれないという感じはいたします。ほかの人にも相談して、場合によっては知り合いの弁護士さんにも相談して話を聞くという、間に日曜日を挟むぐらいの期間があった方がいいので、10日か2週間ぐらいあった方がいいかなという気がいたします。それぐらいであれば、そんなに遅くはならないのではないかと思いますけれども。
説明者(落合氏) 1点よろしいですか。
□ はい、どうぞ。
説明者(落合氏) 先ほど消費者仲裁について消費者団体の方にどういうふうにしてもらいたいかということを言いましたけれども、事業者の方も、いかに仲裁というのが消費者の利益にかなう場合があるというアッピールを全くしていない。妙にここは、事業者の方も仲裁を利用するという声が強く出てくるということもないし、消費者の方も嫌だ嫌だと言っている。このままですと、消費者の紛争解決の手段としての仲裁が日本で定着するのが非常に暗いという状況がある。これは最初に事業者の方も、いかに仲裁というものにメリットがあるのだということを積極的に打ち出して、それを消費者の方に提示して、消費者もなるほどこれならばそう怖いものではない、あるいはむしろメリットがあるという、そういう行動が全くないということが非常に問題であって、事業者の方も奮起してもらいたいと思うのですが、逆から言うと、どうも事業者の方も仲裁というものに乗りたくないということなのかなと。これも仲裁の流れということになると、いわば相対交渉みたいな解決というのが大半になろうかと思います。むしろそういう解決の方が自分たちに有利であるから、仲裁、第三者による判断には委ねない形の解決にということがあるのではないかと勘ぐりたくなるぐらいに事業者の方は非常に消極的であるというあたりのところは、私は非常に問題があると思うので、これらの点は、ぜひ、これを活性化する方法を、この仲裁検討会でぜひお考えをお願いしたいと思います。
□ どうもありがとうございました。よろしゅうございますか。
○ ちょっといいですか。欠席の場合のことですけれど、落合先生の先ほどのお答えの中で、十分情報が提供されても出てこないというのはやむを得ないかもしれませんねというようなお話があったと思うんですけど、先生のレポートの、出頭前の審理に先立って説明の書面を送付すると。つまり書面を送れば、面前での説明がなくても、それで情報が提供されていると考えてよろしいかどうかですね。消費者保護によろしいかどうか。
というのは、消費者や、いろんな関係の方は、そのあたりも非常に懸念を持っている方がいらっしゃいまして、消費者というのは送られてきた書面だけ見ても必ずしも理解しないというか、わからないというような意見も漏れ聞いているわけなんですけれども、それについてはいかがでしょうか。
説明者(落合氏) それは私は、全般的な仲裁という問題が置かれている状況によると思うんですね。仲裁というものに対して十分理解が行き届いておれば、書面が来ただけだって十分に理解できる場合は考えられるわけですし、それから、仲裁のコストとの関係で、一体どこまで手厚く離脱というものを認めていくのか。本当に合理的な仲裁であれば、そう簡単に離脱を認める必要はないのではないかと私は思っておりまして、不合理な内容のものについてはとことん離脱を認める方向で考えるべきだし、仲裁の内容の合理性というものを問題にしないで、いかなる情報、書面で提供しただけで離脱可能だというのは余りにも大ざっぱな議論なのではないか。どういう仲裁が行われるかということこそが大事なのであって、それとの関連の中で離脱の問題を考えるべきだろうと思います。
□ よろしゅうございますか。私もちょっと質問させていただきたいことがありまして、先ほど事務局からの資料の説明で、消費者団体あるいは消費生活相談員の方から寄せられた意見は、A案、B−1、B−2、B−3、こういう案のうちで、圧倒的にB−1です。それから、具体的な内容を読みましても、ほとんど同じ内容のことを書いてある。判で押したようにというとちょっと失礼ですけれども、ほとんど同じことが書いてあります。
私の疑問は、先ほどから出ていますように、現在消費者紛争で、仲裁で紛争を解決しようとして被害が出ているということはほとんど聞いていない。きょうの御説明でもそういうことはなかった。現在でも仲裁法はあるわけですね。そして消費者紛争にも当然仲裁が適用される。今度新しい仲裁法をつくるときに、それを外そうというのが、なぜそうなるのかということを、実はきょう御説明で、お二人の消費者団体の方からお聞きしたいと思ったんですが、十分納得できない。そこのところはどうなのかです。
それから、あるいは新しい仲裁法ができれば、この仲裁法をどんどん利用して、消費者紛争を仲裁で解決するというふうに予想しておられるのか、そういう場合にはどういう仲裁機関が、あるいは業者が仲裁を利用する、どういうイメージを持ってB−1案でなければだめだというふうにおっしゃっているのか、その辺のところがまだわからないものですから、せっかく来ていただいた機会ですので、ぜひ、その点を御説明いただきたいというふうに思っているわけです。お二人のどちらでも結構です。
説明者(磯辺氏) すいません、一番最初の御質問は適用除外説の関係でなくてB−1。
□ B−1が圧倒的に多数ですね。現行法ではA案ですね。何も規制しない。新しい仲裁法だと、なぜB−1案でなければいけないとおっしゃるのか、そこのところです。
説明者(磯辺氏) 現行の仲裁法はほとんど活用がされていないという実情ですから、我々も仲裁というものについて改めて考えたのは、今回のことがきっかけになったということなんです。そういう意味で言うと、新しいルールとして整備し直すということは、今日的にこのルールが改めて注目を浴びる、活きてくるということですから、事業者の方も当然一定の対応を考えるという契機になると思いますので、その点で、改めて問題の洗い直しは必要ではないかというので、答えになっているかどうかわかりませんけど、そういう感想です。
それと、ごめんなさい、もう一つ、後の方は。
□ どういう仲裁機関がこれから出てくる、あるいは業者仲裁が出てくるというような具体的な御心配をお持ちかどうかということです。
説明者(磯辺氏) 事業者が仲裁廷を業界サイドでつくって、そこにはめ込むのではないかという危惧が1つあるのと、もう1つは、評価がいろいろ分かれるところもありますけれど、これは仲裁までは行っていないところですけれども、PL法の後にPLセンターができまして、一定、いい内容で解決しているという内容もあるのですが、同時に、実際に処理された内容が必ずしも透明でなかったりということがあったりですとか、企業からの出向人事が多くて、一定の任期が終わるとまた企業に戻っていくというセンターの運用の中で、センターの中立性というのは本当に大丈夫なのだろうかという心配が消費者団体の中にあるのは事実です。ですから、そういうことからの不安もあったと思います。
ですから、ADRの拡充というのがもっと状況として見えて進んでくる中で、仲裁の実績が出て、特に事後の本人の同意の下でというふうなことが生まれてくると、また違ってくるのかもしれませんけど、ADRの実績自体がなかなか見えないという中でこういう判断になっていることだと思います。
説明者(池山氏) 仲裁を実際に実施している機関というのはまだまだ少ないですよね。消費者紛争を解決するときに、仲裁という手段が我々のところであるのだということを改めて実感として持ったのは今度のことなんですね。そういう中で話し合っていた中で、ADRにしてもそうですけれども、市民側の仲裁廷とか、我々のところから出てくるものというのはまだまだなかなかできないのではないか。
そうなってくると、新仲裁法ができたら、事業者側の仲裁廷というのが増えるのではないか。消費者紛争というのが増加している中で、そういうところで、熟慮もできなく選択できないで、消費者は仲裁廷のところで事件を解決されてしまうのではないかというおそれがあります。
確かに先生がおっしゃるように、本当に消費者も自立し、消費者団体も事業者に対してきちんとチェックし、提案し、規制という形ではなく民民でそういう世界が築けるように我々も努力はいたしますし、早くそういうものをつくるように、私たちも責任があると思いますが、今の段階ではそれはとても難しいのではないかと思います。
そういう意味において、特則を手厚く、出発のときには持っていただきたいということで、さっきB−1のところも、私どもとしては、無効といったらそれで我々の権利として無効であると。調停が進んで、ある段階のところまで来てというふうなところは考えておりませんでしたので、そういうところでB−1というのを判断したということです。
B−2のところは、今お話を聞くと、こういう条件があるとかというのも、仲裁廷に行かなくたって、書面ということもあるよと。書面はまずいのではないかとかというのがあるのですが、あのままの形で提案されたときに、我々はそういうことはあるのではないかなというのは考えるのですけど、そこまできっちり読み取って、それに判断するというふうにはなかなかまだいっていないというのが実情でございます。それで単純にB−1を選択したというのが事実でございます。
□ きょうは仲裁と消費者保護問題について、4人の方から十分に御意見を聞かせていただいて、それから我々の方からも非常に突っ込んだ質問をさせていただき、大変ありがとうございました。消費者問題について、きょうこの場でどうするという結論はもちろん出ません。これからもさらに慎重に検討させていただきまして、最も望ましい方向での新しい仲裁法の素案をつくりたいと考えております。
きょうは4人の方に非常に貴重な時間を費やして御出席いただきまして、大変ありがとうございました。
ここで、5分ばかり休憩させていただきまして、さらにきょうせっかくお話を伺ったことですので、この検討会の委員だけで、残された時間でディスカッションをさせていただきたいと思います。
(説明者退席。休 憩)
【自由討議】
□ それでは、時間が参りましたので、検討会を再開させていただきたいと思います。
これからの時間で消費者保護関係について自由に御議論いただきたいと思います。中間とりまとめに掲げられたいずれかの案についての御意見、それ以外の意見であっても結構でございます。また、先ほどの4人の方からの御説明やパブリックコメントの回答等についての御意見でも結構ですので、自由に御発言いただきたいと思います。先ほども言いましたけれど、きょうでこの問題を結論を出すということでは決してありませんし、そういう状況でもないと思いますので、御自由に御発言いただきたいと思います。どうぞ、どなたからでも結構です。
○ この結果を見ますと、消費者団体その他、弁護士会もいろんな意見が寄せられていますけれども、何らかの消費者保護の規定を今回の仲裁法の改正の機会に置くべきだというのは、実は弁護士会の方でも一致しているというか、つまり大きく言うとA案かB案かと。B案の中にもいろいろあるというふうに考えた場合に、A案かB案かというと、A案のように何も設けないというのは危惧があるというのは、ほぼ会内でも一致しているんですね。
問題は、そうなりますと、結論を急ぐわけではありませんけど、B−1案的なことにするのか、あるいはB−2、B−3的なことにするのかという形の、効力の問題であるとか、法制度の問題、比較の問題、諸外国の比較とかいろんな要素が絡んでくるのだろうと思うんですね。
私個人の意見ですけれども、今言ったような形で、少なくとも何らかの規制をこの中に入れるべきだと思います。その中で、きょうの両学者の先生方の意見にもありましたけれども、消費者団体の方はB−1ということを主張されていますけれども、多分にB−1というのは、やや仲裁制度自体に対する誤解というか、非常に怖いものだという、何となく漠然とした不安が根底にあるのかなと。そうすると現実の法体系とすれば、B−1として一律無効にするというのはなかなか通りにくいのではなかろうか。そうすると現実の幅としては、私個人の意見とすれば、B−2の仕組みを、どう仕組むかというのはまだ決まってないところがありますが、そのあたりをうまく仕組んでやっていくというのが現実的なあたりではないかというふうな感じでおります。きょうは印象だけでございますけれども。
○ B−1、B−2の話でございますけれども、B−1は無効ということで、制度設計でいろいろ無効の主張時期をいつまでにするかというのはあるということなのですが、一定の時期までに限るということであれば、基本的にはB−2と余り変わらないのではないかというふうに思っています。むしろ片面的ではなくて全面的に無効であるというふうにするのであればB−1の特色は出るのですが、恐らくB−1を支持される方々には、一定の時期までに無効主張を限定するという御意見もかなり多いのではないか。そうするとむしろB−2に近いと思います。
それから、無効と言いながら、それを一方の側からだけ主張できる。そういう法的な構成といいますか、我が国の法体系でそういうものがなじむのかどうか、むしろそういう意味では、B−1とB−2は同じようなもので、B−2に一本化みたいなことでも、私は必ずしもそれがいいという意見ではございませんけれども、あるのではないかと思います。
あと、ついででございますけど、せっかく各国の消費者契約の効力、方式についての比較表ですとか、○○委員からペーパーをいただいておりますが、この辺についてはどのように御説明、議論される予定でしょうか。
● 参考資料11ですけれど、その中のドイツの方で、③のところにちょっと誤植等ございまして、これについては、きょう○○委員もいらしていませんので、次回差し替えまして、事前に資料としてお送りしたいと思います。そのときまでに見ておいていただければというふうに思います。
若干、せっかくですから、ざっと説明します。
● 先ほど出ておりましたけれども、米国の関係というのは非常に大きい部分を占めているんですね。ただ、米国の制度は各州ごとに違っていて、さらに連邦のものもあるということで、それを一律に詳しく説明するのは非常に難しくて、残念ながら表の枠の外で簡単に指摘するにとどまっております。先ほど○○委員の方からいろいろ御説明いただきましたが、そういうことではないかと思っております。主にここに入っているのはヨーロッパの制度、香港の制度も入っておりますが、それを簡単に記載したということになっています。
ポイントといたしましては、一番左側のEUの仕組みが、EU域内では基本的な仕組みとしては入っているというところです。そのEUの仕組みというのは、別に仲裁についてのEU法があるものではないと。EUの不公正条項指令と言われる1993年の指令があって、そこで消費者契約一般についての不公正な条項をどう考えるかという一般的な条項があって、そこに書いてあります①から④の条件があるような条項は不公正なものとして無効になる、消費者を拘束しませんと、こういうことが書いてあるわけです。
わかりにくいのは、その条項の例というのでリストが挙がっておりまして、このリストというのは、リストに挙がったものが全部無効になるという意味ではなくて、そういうものもリストですというふうに挙げられているものなのですけれども、そのリストの中に、法の規定の適用されない仲裁を強制するなど、訴訟を提起し、又は他の法的救済手段をとることを排除又は妨害することが例ですと書いてある。この条項をどう解釈するかということについて、○○委員のペーパーにもありますけれども、必ずしも1つの結論は得られていない。こちらで研究しましたところでは、ドイツとイギリスの文献では、ここについてはいろいろな理解があって、必ずしもこうだということは決められていない。いずれにしても、それは個別の判断だということが言われている。これがEUについての考え方です。
あと、ドイツについては、誤植がありましたので、次回詳しく説明したいと思いますが、基本的枠組みは、EUの指令に沿ったものになっております。
フランスは、将来の仲裁条項について、もともと一般的には無効で、商事関係のものについては有効という仕組みをとっていたものについて、最近若干の改正が行われたという経緯があります。ただ、こちらは基本的に消費者については無効にするという体制をとっているということのようです。
英国も少し独自の規定を置いておりまして、これは1988年の消費者仲裁契約法というのがあって、こちらで少額の仲裁については消費者を拘束しないという形をとっておりましたのが、現在でも簡単に言うと、EUの指令と別のものとして残っているということで、これがどうも香港法の母法になっていると見られます。
スウェーデン法が特殊で、スウェーデン法は仲裁法の中に独立の規定を置いていると、こういう状況です。
いずれにしても、次回以降また御説明したいと思います。
○ フランス法の件でございますけれども、これは最近法律が改正されたのでございましょうか。私が調べた範囲では、フランス破棄院の判例で、いわゆる国際仲裁事件の消費者紛争ですが、仲裁合意が有効であると判決した例があったと思うのですが、その後、改正されたということでございましょうか。
○ おっしゃるとおりです。おっしゃる件は1997年の判例だと思いますが、2001年5月15日の法律、これは規制緩和に関する法律なのですが、その中で議会提案で、民法2061条を改正する条項が入りまして、ここに書かれた条文になっているのですが、その条項を提案した上院議員の解説でありますとか、あるいは有力な仲裁法学者の説明では、これは消費者契約は除くというか、有効性は認めない趣旨であると。ことしの1月に政府が公式の答弁を議会に対して提出しておりますが、その中でも消費者の仲裁契約は無効であるということを前提にした答弁がなされておりますので、私の判断では、基本的には昨年5月の改正で消費者に関する仲裁契約は無効ということに公定解釈はなったというふうに理解しております。
○ ありがとうございました。
○ 表以外に(注)書きで、アメリカとニュージーランドを書いていただいておりますので、仲裁法を持っている国はほかにもあろうかと思うのですが、把握できる範囲で、その他の国がどうなっているかということは整理していただけますでしょうか。例えば韓国法がよくこれまでの検討の過程で引用されておりますけれども、韓国でどうなっているとかというようなことでございますけれども、何らかの規制を置いている国のみならず、置いていない国もわかる範囲で調べていただければということなんですけれども。
● できる限りで。
□ ほかに何か。
○○委員のさっきの発言に関連して、私から、ちょっといいですか。消費者のみが無効の主張ができるというのがB−1案で、B−2案は消費者に解除権を与えるということで、これは似たような制度なんですが、そうしますと、無効の主張がなされない、あるいは解除権が行使されない間は、相手方としてはこれは有効だというふうに考えざるを得ない。そうすると、仲裁機関に仲裁の申立てをする。そうすると仲裁機関としては有効として、それを処理する。そして仲裁人を選定していよいよ仲裁廷ができる。そこで、本案の答弁までというのがB−2ですから、本案の答弁までいって、やっぱり解除するとか無効の主張をすると、そういうことになるわけですね。あるいは業者の方は、あらかじめこれは無効の主張が出てくるであろうとして、いきなり裁判所に訴え提起するかもしれない。その場合も、黙って消費者が受ければそのままになりますけど、妨訴抗弁が出てくれば、またこちらに戻ってくると。
というと、そこまでの手続的な費用、訴えの提起の場合には訴額に応ずる訴訟費用とか、仲裁機関に対しても申立手数料というのは恐らく払わざるを得ない。そういうようなものは、B−1をとるにせよ、B−2をとるにせよ、ほうっておいていいのか、それとも何らかの手当てをすべきなのか、その辺のところはどうなんでしょうか。
○ 細かいところで必ずしも十分検討できているわけではありませんけれども、とりあえずB−1とB−2と比較したときに、その前の話で、B−1だと、とにかく無効だとなると、今おっしゃったような手続自体も進められないということになってしまうわけです。ですからB−2であれば一応有効であって、申立てもできて、また、申立書を相手に送るということ。その中に解除権のことについて、どこまで記載するかしないかとかというようなイメージがあって、それでもって進んでいくと。
どこかの段階で、今度消費者がどういう段階で解除できるかどうかという問題であるとか、それから、いつまで解除ができるのかと。私は本案の答弁までというのはちょっと狭いかなという感じを実は持っていまして、解除権の行使をするのは、仲裁廷に出て、そこできちんと説明を受けて、それでわかりましたと、説明を聞いた限りでは、裁判よりもこの仲裁で解決するのがメリットがあるから、私はそれを選びますと言ったら、それは後になってからまた解除するということはできませんよというような仕組みかなと思っております。
それから、おっしゃったとおり、申し立てた側がいつまでも不安定になるというのは確かにいけないと思いますので、本案の答弁までというのはちょっと狭いかもしれないけれど、どこかの段階で、相手方からも、いいかげんにどうするのか、解除するのかしないのかという何らかの仕組みをつくって、それによっては、今度申立人の方も契約を解除できるような、何らかの仕組みが必要なのかなと思っております。それから、今おっしゃった費用の問題についても、そういう仕組みをつくる中で十分検討しなければいけないのではないかと考えております。
○ 私はきょうお話を伺っていまして考えているところでございますが、B−1、B−2、さっき○○委員がおっしゃられましたように、基本的な考え方はそう変わらないと思うんですね。今、座長がおっしゃられましたように、手続が始まってからこれをどうするかというのはかなり複雑な問題になりますので、私はきょうのお話を伺っています限り、事業者から出された仲裁合意の提案に対して、消費者が十分納得した上で契約したのであれば、それは当然有効であって、その後、それを撤回するとか取消しだとか無効を主張するというところまで保護すべきものではないのではないかと思います。
約款の問題は特に問題になると思いますので、私は事業者が消費者に対する情報提供義務というような、方式の部分で書いてありますが、それは必須であると。それに加えて仲裁合意に同意することを条件として、事業者が消費者に対して契約の申込みをすることはできないのだというような手当てをすることによって、消費者は、今の建設工事紛争審査会もそうですが、仲裁あるいは裁判という選択の余地を契約の締結段階で与えられますから、そういう形で規制をしていくぐらいでよろしいかなというのが、私の今の考えでございます。
□ 方式規制はもちろんすると。内容的な規制はどこなんですか。
○ 内容的規制といいますか、事業者から消費者に対する情報提供義務、それは2のC案に入っていますね。したがって、これは当然まずマストであると。もう一つは、B−1、B−2というのでは、今、座長がおっしゃられましたような、いろんな問題が爾後発生しますので、契約の締結の段階で確定してしまうという必要があるのだと私は思います。そういった意味では、消費者が納得して、仲裁が訴権の喪失に当たるのだというようなことも十分理解した上で契約すれば、そこだけ押さえておけばいいのだろうと思うんですね。
したがって、そういう意味では、何も設けないというA案の考え方もありますが、立法的な規制を図るとすれば、仲裁合意に同意することを条件として契約の申込みをすることは認めないというような規定を、私は規定してもいいのではないかと思っています。実質的には約款中の仲裁条項については認めないと。
□ 約款については認めないというのは、契約の方式についてのA案、消費者と事業者との間の仲裁契約は主たる契約の契約書とは別個の独立した書面でしなければならないものとする、そのことを言っておられるのですか。
○ そこの意味は、河上先生にも御質問したのですが、仲裁合意しないと契約しませんよということはやってはだめと思うんですね。方式だけ決めて、別個仲裁合意するにしたって、仲裁合意しなければ契約をしませんよということでは意味がないと私は思うんですね、形だけ別にしても。したがって、仲裁合意を受けなければ契約しませんよというようなことは認めるべきではないという立法の手当てをしたらいいのだろうと思うんですね。
ドイツのやり方というのは、単なる別個の書面をつくるというのであっても、仲裁合意を受けなければ契約しませんよと、事業者が消費者に対して言ったのであれば、これは付合契約と実質的には変わらないと思うんですね。したがって、仲裁合意を受けることを条件に契約の申込みをすることを禁ずるということで、消費者に選択の余地を残し、消費者はその段階で、情報提供を受けて、そして仲裁合意するということであれば、両者の意思というのはそこで合致するわけですから、そうするとあとは通常の仲裁のレールに乗っていくということでやるのがすっきりするのだと思うのですけれども。
□ ○○委員は、先ほどアメリカのことを言っておられましたけど、アメリカにもそういう立法例があるということでしょうか。
○ アメリカは連邦仲裁法については、今、批判的で、いろんな学者が改正案を出されていますけれども、その中には、今、私が申し上げた案が出ていました。たしか消費者仲裁については、将来の紛争を対象とする仲裁合意は無効にすべきだとか、費用は事業者持ちにすべきだとかいろんな案が出ているようですけれども、ただ、現在は連邦仲裁法上は、一般の契約法理でもってしか対処しないということですので、消費者が一方当事者であったとしても、仲裁合意が無効とされることはほとんどないようです。
そういうのがアメリカの現状でございますので、何も書かないというA案という形もできるのだろうと思います。
ただ、このアンケートの結果を踏まえて、ある程度規制をする必要が出てくるのかなといった場合に、一番重要なポイントは、今申し上げたような約款の問題と思うんです。とすれば、約款によって、一方的に押しつけられて、契約をするかしないかという自由しか与えられていなくて、仲裁合意を結ぶか結ばないかという自由が与えられていないというところが最大の問題ですので、そこを開放するということでもって、我々一般の消費者も仲裁の道をその段階で選んで、選んだ以上は仲裁をやるのだと。
加えて、そのときには、事業者から仲裁に関し、これが訴権の喪失になるのだと、あるいは仲裁機関はここですよというような情報を提供する義務は、重要事項の説明ということで課すべきであろうと。そういったことを懈怠した場合は、その仲裁契約自体を無効と扱ってもいいのではないかというふうに私は思います。
□ わかりました。ほかに。
○ 私も消費者の一人ですから、消費者を保護する仕組みをつくるべきだという総論に何の反対もあろうはずがないのですが、今議論されているような案が、どれだけ本当に消費者の保護になるかという点をもういっぺんさかのぼって考えてみたいと思います。
夏の間に事業者の方とも少し話をする機会を得て、ごくわずかではありますが、若干の反応を伺ったのですが、今回の消費者保護に関する立法提案について事業者側からの反応が鈍い理由の恐らく1つだと思うのですが、想像もまじえて申しますが、事業者としては、対消費者契約で仲裁の利用が制限されることは少しも困っていないという感じの印象を受けました。むしろ仲裁といわずADR一般、調停・あっせんも含めて、事業者の多くは、どちらかというと、できたら裁判をやりたい、ADRは使いたくないという方がむしろ日本の場合には多いのだろうと思います。
ここにいらっしゃる方は皆さん専門家ですから、改めて申すまでもございませんが、一般に裁判になれば、資金力や組織力のある方が有利になります。言葉は悪いですが兵糧攻めもできますし、また裁判は手続が厳格ですから、専門知識も必要だと、弁護士を雇わなければいけないことも多いという中で、どちらかというと、消費者の方が裁判所の調停のようなADRを希望して、事業者は文句があるなら裁判で来いという例が一般的に多いのだろうと思います。したがって、ADRの利用が一般にしにくくなる方向での法改正は望むところだという声も陰では若干聞かれるところでございます。
そうしますと、今回のB−1案はもちろんですが、たとえ一方的に消費者側に解除権があるB−2案のような、一見すると消費者に有利なような法制度でありましても、事業者は、先ほど○○委員が最初のころにおっしゃったように、面倒くさそうな制度になってしまえば、最初から仲裁条項を盛り込まないと。つまり紛争になったら全部裁判でやるという仕組みの約款なり契約をするというふうに流れていく可能性が高いのではないかという気がします。
そうすると、消費者を守るために仲裁契約の効力を制限したことが、結局、現在日本では仲裁は全く利用されていないわけで、その状態が固定されて、消費者に有利な仲裁というものが育っていく芽も摘まれてしまうという可能性が否定できないように思います。
ただ、今申し上げたことは1つのストーリーですけれども、それが本当にそうなのかどうかについては、なお、検証を要する面がございます。
そういう意味ではこの問題は、先ほどお四方に対する質問の中で私も若干申しましたし、落合先生もおっしゃっておられましたけれども、この問題だけを取り上げて近視眼的に議論して、本当にいい制度ができるかどうかなかなかわからないいろんな要素を持っておりまして、消費者団体の方々の御意見なども十分に踏まえて、本当に消費者のためになる制度は何なのかというところをじっくりと詰めて議論をしないと、消費者のためと思った制度が実は不利になるということにもなりかねないと思っております。
したがいまして、消費者保護の法制を置くことに消極的だという意図は私は持っておりませんが、この限られた立法日程の中で、そうした消費者の保護に十分に、こういう制度を置いたら、もしかしたら不利になる側面もあるかもしれないというような情報提供をした上で、じっくり議論する場がもし得られないのであれば、拙速な解決は避けて、消費者保護法制の全体像の中で、それが国民生活審議会がいいのか何がいいのかという問題は別にしまして、じっくり議論しないとまずいのではないかという意見を持っております。
この点につきましては、この場でも、ほかのルートでも結構ですけれども、消費者の側でも、本当に何が望ましいのかというのをじっくり、いろんな情報を考慮した上で議論し、その上で真に望ましい制度を本格的に考えてみるべきではないかと個人的には考えておりますので、そのような方法で行ければと思っております。
○ 私も、この問題を突き詰めて考えますと、今、○○委員がおっしゃったところが問題の核心かなというふうに思っておりまして、先ほどの判例の御紹介でも申し上げましたけれども、事業者の方は裁判でやりたい、消費者の方は建設工事紛争審査会の仲裁でやりたい。それはなぜかというと、建設工事紛争審査会に限りませんけれども、ADRなり仲裁機関の持っているイコール・フッティングの機能と申しますか、訴訟にはない、知識の足りない場合は多少補ってあげて、同じ土俵にのせてあげて紛争解決すると、そういう機能が評価されているからではないかと思っております。
ですから、そういう機能というのは、先ほど落合先生もおっしゃったように、消費者紛争を円滑に解決していくための選択肢として、ADRなり仲裁をどう伸ばしていくか、そういう観点から考える必要があるのではないかと思っております。
○ 消費者の方では、業者が用意したものの中に仲裁条項があった場合に非常に消費者に不利であるというところから出発しているような気がしまして、落合先生もおっしゃっていたように、やはりメリットというところからいくと、今、お二方もおっしゃったようなところになると思うんですけれども。当然仲裁人の選定というところもあるわけで、それがどういうふうになっているか。ある場合には、例えば3人選ぶのであれば、事業者の立場の人、消費者の立場の人、第三者ということもあるわけですから、そういうようなことを考えると、頭から、消費者契約についてどうしても規制を設けなければいけないといったようなことをせずに、実際の消費者契約について、もう少し考えていくということでいいのではないかと思っております。
○ この問題は非常に重要な問題なので、できるだけ慎重な形で審議する必要があるという点では、私は○○委員と全く同じ認識を持っております。内容につきましては、○○委員あるいは○○委員がおっしゃったような懸念も確かにあり得る1つの懸念だろうと思います。ただ、○○委員自身おっしゃっていたように、幾つかのストーリーは考えられるわけで、ほかのストーリーもあり得ると。
私が見たところ、業界によっても違うでしょうし、分野によっても違うかと思いますけれども、例えば消費者に無効の一方的な主張権を与える、あるいは一方的な解除権を付与した場合に、業者の側はそれなら自分は仲裁契約は結ばないよと言うかというと、それは必ずしもそうは言い切れないと思います。
例えば、私が承知している限りでは、金融機関が行っているADRなどでは、金融機関側に一方的な手続応諾義務を課している。あるいは出されたADR機関の裁定について、一方的な受諾義務に近いものを課しているというようなシステムがとられている例は現にあるわけであります。そういうようなシステムがとられるから、ADRの利用がなくなってしまうのではないかということは、直ちには言い切れないのではないかという感じがいたします。ここは将来の予測にかかわるところですので、なかなか実証的な検証というのは難しいところではないかと思いますけれども、いろんなストーリーがあり得るのではなかろうかということです。
抜本的な問題解決としては、私もきょう落合先生が言われていたように、業者間、B to Bの仲裁とは別のスキームとして、B to Cの仲裁について、別個の一種のモデルみたいなものを構想することは十分あり得ることだろうというふうに思います。そして、それが理想的なことなのかもしれないと思います。
ただ、本検討会に課されている時間的な制約のことは申し上げないとしても、現段階でそういうモデル的なものを組めるかというと、私はやや疑念があります。B to Bの仲裁については、国際仲裁を始めとして、今までそれなりの例があるわけでありますけれども、B to Cの仲裁については、きょうもお話に出たとおり、実際には今までほとんど日本では機能していなかったわけであります。したがって、そういうモデル的なものが組めるほどの基盤自体が現状では存在しないのではないか。机上のものとして、そういうモデルを組んで、国家法としてそれを仕組むというのは、私はADRの規制の在り方としては必ずしも望ましくないというふうに認識しております。
そういう観点からすれば、落合先生が次善の策というふうに言われましたけれども、B−2案的な、消費者に解除権を認めるという構成で、当面はそういう制度を仕組む。そして、その先は、先ほど私が言ったストーリーがあり得るわけですが、もし、B to Cの仲裁というものが将来発展していくとすれば、その中でそこにあらわれる仲裁をいわばモデル化して、それを国家法の中でデフォルト・ルールとして、消費者仲裁法的なものを別途仕組んでいくということは十分考えられるのではないか。
ただ、今はその時期ではないのではないかというのが私の認識でありまして、結論としては、私は○○委員と同じように、今の段階ではB−2案的なところで制度化して、ただ、その制度内容については様々な御懸念が消費者の方々から示されたわけですので、それを踏まえて検討していくという方向性が望ましいのではないかというのが私の意見です。
○ 裁判所におりますと、例外的な事例がたくさん来るせいかもしれませんけれども、書類はあるけれども、十分な説明を受けなかったというような話が非常によく出てまいります。A案にするとしますと、恐らく消費者契約法の保護によるのだということになるのだろうと思うのですけれども、消費者契約法の保護だとすると、立証責任として、十分な説明を受けなかったということがどちらの説明義務になるかというところに危惧感があります。
特に方式などをきっちり決めていきますと、よく証券取引などで、これこれの事例については、すべて説明を受け了承した上で署名します、みたいな書面も出てくるのですが、当事者はそれを争われる場合というのはたくさんございます。そこをきっちりと裁判所が、正確な判断ができるのであれば、それは一番いい仕組みができるのだろうと思うんですけれども、実際に担当する者としては、書面は出た、当事者の言い分は正面から異なっている。説明した、説明しないで真っ向から対立しているというときに、その書面と立証責任の関係から考えたときに、果たして救われるべき人が本当に救われることになるのだろうかというところに、いろいろお話は伺いつつも危惧感がございます。
先ほど座長が、なぜ仲裁だけがこのように特別扱いになるのでしょうかというような御質問をされていましたけれども、1つは「仲裁」という言葉が余り浸透していませんし、それから、付随的なことだから余り皆さん考えられませんし、例外的な場面ばかり見ている者としては、裁判所としての意見というよりは個人的な意見になりますけれども、立証責任の点も考慮した上で、そこを放置してしまっていいのかどうかというところの危惧感が伴っているというところがあるのではないかと思います。
○ 先ほど○○委員の方から片面的仲裁が行われている場合もあるということで御紹介がございましたが、確かに分野によりましては、そういう制度が根づいて機能している、非常に適切であるという場合もあろうかと思いますけれども、それはあくまで、それぞれの分野でそれぞれの仲裁機関の判断で行うことかなというふうに思っておりまして、今議論しているのは仲裁の一般法、一般ルールでございますので、一般ルールとしてどういうものがいいのかというものとはまた多少角度が違うのかなという気が1ついたしております。
それから、きょう磯辺さんのお話の中にもございましたけど、どういう仲裁機関を想定するのかというのでかなり、世の中といいますか、世の中の見え方と申しますか、判断が変わってくるのかなというふうに思っておりまして、いわば事業者がお手盛りで仲裁する場合を念頭に置くのか、それともある種、事業者が余り行きたくない公的機関といいますか、消費者を保護するための機関のようなものを念頭に置くのか、その辺が1つの論点かなと思っています。
ただ、こういうものはよくて、こういうものはだめだという切りわけはまずできないかと思いますので、実際仕組みとしてどういうものが機能するのか、そういう観点からさらに検討が必要かと思っております。
● きょういろいろな御意見を伺いましたので、例えば、今までのB−1案、B−2案においても、いろんな選択肢があって、それをどういうふうに考えていくのかということ自体も、今までの中間とりまとめの段階でははっきりしていなかったところがありますので、きょうの御意見なども踏まえて、もう少し突っ込んだ形の制度設計を考えて、幾つかの案を提示させていただいて、次回以降にまた議論していただければと思います。ここのところは非常に大きな問題ですので、次回についても、この消費者問題についての時間をある程度とって議論していただきたいというふうに思っております。
今後の三読に向けてのやり方としては、こういう大きな問題が幾つか残っていますので、非常に制度設計自体についていろんな意見があったところとか、そういうところを中心に主に議論をしていただくということに時間をとらせていただきたいと思っております。
○ 今後、消費者団体の方とか、あるいは落合先生を始めとする消費者法制の御専門の方々とか等と意見交換なり、御意見を伺うなり、そういう機会はこれで終わりと思ってよろしいのでしょうか。
● 必要があれば、そういう場も設定しますけれど、今後時間的な問題もありますので、事務局の方で場外でといいますか、意見を伺いながらやっていくことになろうかと思っております。
○ と申しますのは、繰り返しになりますが、きょうのやりとりを見ていても、誤解とか十分に伝わってない部分もおありになるし、あるいは御検討のお時間が十分になくて、御意見といっても、真に消費者団体の本当に願っているところを反映しているかどうかもわからないという状況で、こういう消費者保護の問題に関するものが、時間切れで、場合によっては十分検討なく導入されるというのは困るという認識を依然として持っておりますので、ちょっとお願いしたいと思います。
● 事務局もそういうふうに思っておりますので、なるべく十分に意思疎通を図っていきたいと思っております。
□ きょうのところは、先ほども申しましたけれども、消費者保護問題について結論を出すには至りませんが、いろいろの意見のバラエティーはかなり出てきたと思います。三読に向けて、さらに事務局の方で、今のような外との連絡も含めてもう少し詰めた形で三読に入りたいというふうに思っております。
きょうはこの程度にしたいと思いますので、事務局から次回の検討会についての連絡をお願いいたします。
【次回の予定等、閉会】
● 次回の連絡の前に、本検討会の第1回の会合の内容を記録してある録音テープの不開示決定に対する取消訴訟の提起があったことについて御説明を申し上げたいと思います。
本検討会の各会合の内容につきましては、議事録作成のため録音をしておりますが、第1回会合の内容を記録した録音テープについて、3月14日に情報公開法に基づく開示請求があり、4月10日付けで不開示決定を行ったところであります。これにつきまして、5月7日に異議申立てが行われて、当本部からの諮問により、現在情報公開審査会で審議中でございます。これとあわせて不開示決定に対する取消訴訟が提起され、9月20日に訴状の送達を受けました。本検討会に関することですので、一応御報告申し上げておきます。
○ 訴訟は訴訟として、一番最初に、私が第1回のときに申し上げました議事録の公開のことですけれども、三読で、きょうはヒアリングですから、次回から具体的な話になっていく中で、私は例の議事録の非顕名という点については、もう一回、皆さんでちょっと協議していただきたいというふうに思うんですね。顕名ということが十分あり得るのではないかというふうに思います。
幾つか理由を言いますと、議事録を読みますと「○○委員の今の御意見について」云々という引用のところが結構ありまして、○○委員というのは直前というのでなくて、直々前に発言があったりとか、非常にわかりにくい。今回も実際議事録を見ていらっしゃる方の中で、そういう懸念のことをおっしゃっている方もあります。
2つ目は、最初はとりあえず各委員の信頼関係がどうかというようなお話が確かあったと思いますけれども、そういう意味では、どちらかというとアカデミックな話で、むしろ貴重な建設的な意見が多数出ておるということからすると、他の検討会で公開しているところと比べても、特に弊害があると私は思いませんので、それはこの検討会においても、顕名にしたらいかがではないかと。
3つ目は、とりわけ今後仲裁の問題について、核心のことに入っていくわけですけれども、どちらかというと、消費者団体を含めて仲裁制度自体に対する理解がないように思うんですね。ですから、ここでこのまま、いわば非顕名なままでブラック・ボックスみたいな形で議論していくと、余計それで疑心暗鬼になってもいけないと思うんですよ。私たちはちゃんと、片方では仲裁制度をきちんとやっていこうという立場でやりながら、一方、消費者に対する必要な保護はきちんとしていこうという形で、ある意味ではまじめないい議論をしているわけですから、そういう誹りを受けないためにも、私は次回からはぜひ顕名でやってもらいたいというふうに提案したいと思いますが。
□ これはきょう決めなくてもよろしいですね。第1回の時に、私どもは今御紹介があったようなことで、顕名にしないということで決定したと思います。しかし、それはずっとそのままということまで決定したわけでもありませんで、途中で見直すということもあり得るという含みであったと思います。
これをどうするかということにつきましては、全員の協議で決めるべきことだと思いますので、改めて議論をしていただきたいというふうに私は思っております。そして、議論の機会としてはなるべく早い機会に、次回になるかどうか、ちょっと今は責任を持って言えませんけれども、なるべく早い機会に、顕名にした方がいいのかどうか、改めて全員の御意見をお聞かせいただきたいと思っておりますが、それでよろしゅうございますか。
それでは、この件はそういうふうにさせていただきたいと思います。
● 引き続いて次回の検討会の関係ですが、10月22日火曜日午後1時30分からでございます。
次回の検討会では、先ほど申しましたように、中間とりまとめの中で特に問題になると思われる事項についてピックアップいたしまして、十分時間をかけて議論をしたいと思います。資料はできる限り1週間前までにお送りしたいと思っておりますが、この消費者の問題がなかなか難しい問題で、もしかしたら直前になるかもしれません。意見募集の関係は1週間前までにお送りできるようにしたいと思っております。
□ 次回からが、実際上の第三読会ということになると思いますので、どうぞ引き続きよろしくお願いしたいと思います。
それでは、本日の検討会はこれにて終了いたします。どうも長時間ありがとうございました。