事務局から、第三読会では、中間とりまとめに対する意見募集の結果おおかたの賛同が得られた等、実質的に問題がないと思われる事項は取り上げないこととしたいとの提案があり、異議なく了承された。
その後、事務局から検討会資料30について説明がされ、これについて次のような意見交換がされた。
なお、仲裁人の資格(Ⅲ2)に関連して、弁護士法72条に関する問題は、調停・和解等を含めてADR検討会の検討に委ねるべきとされ、その旨を事務局からADR検討会に伝えることとされた。
(Ⅰ1 書面による通知の在り方について)
○不在留置期間経過や受領拒絶のケースは、案文の中で対応していると読むべきか、対応していないのか。
●枠内2(2)は普通郵便を除外していないので、証明できるかどうかを別にすれば、普通郵便で送付すれば到達すると思われる。ただし、それで足りるとするか裁判所の援助を仕組むかは議論していただきたい。
○実際には、重要な書類は配達証明つき書留郵便で送付しており、不在や受領拒否の場合は返戻される。証明の問題もあり、裁判所に送達してもらうことは必要である。
○公示送達は、取消事由、執行拒否事由の「適当な通告を受けなかったこと、又はその他の理由により主張、立証が不可能であったこと」(モデル法34条2項(a)(ii)、36条1項(a)(ii))で処理することができる以上、共助の対象としなくてよいのではないか。
○契約時の住所が虚偽で、最後の住居所等がわからない場合は、公示送達を認めないと送付できなくなるのではないか。
○送達先不明の場合にみなし規定(枠内3)を置くのなら、受領拒絶にも何らかのみなし規定を置いたらどうか。また、案では別段の合意がなければ何の縛りもなく裁判所に援助申立てできるように読めるが、証拠調べの援助とのバランスはどうか。
○オンライン手続における仲裁上の通知の場合は、当事者間の別段の合意として常設仲裁機関の規則で手当てすればよいとの理解か。
●解釈問題として、3条で読み込むか19条(手続規定)で読み込むかの問題になる。
(Ⅱ1 紛争の仲裁適格について)
○現行法の「和解ヲ為ス権利アル場合」と異なり、「和解をすることができる事項に関する紛争」という文言にしたのは、現行法より仲裁適格の範囲を広げる趣旨か。
●現行法を前提としている。ただし、他の法律に規定が置かれれば、将来的に広がることはあり得る。
○現行法を前提とするのであれば、人事に関する紛争の仲裁適格は、民法や家事審判法に手当てをしないと難しいのではないか。離婚そのものを仲裁判断で行うことはないが、離婚に付随する請求や財産分与等は仲裁で行うことも考えられる。
○「和解をすることができる」は分かりづらい。「仲裁契約は、強行法規により仲裁不能である場合を除き効力を有する」等の規定はどうか。
○「和解」の意味について、解釈が分かれているので、仮に「和解」の語を用いるのであれば、「和解」概念について立法者意思を明らかにする必要がある。
○「和解」の語を使うと、狭く解釈される恐れがある。「処分」の方がよいのではないか。
□仲裁適格の具体的な範囲についての認識は共通していると思われる。表現についてはなお検討することとしたい。
(Ⅱ2 仲裁契約の書面性について)
○枠内1及び2は、モデル法どおりの案であり、各国でも異論がないところなので、このような規定を置いてほしい。(注)部分については、モデル法の改正を待つ考えもあると思うが、現行法とも整合するし、有力な案なので、先取りして規定してもよいと思う。
□(注)部分は、将来的にはともかく、今直ちに採らなくても困らないと思われるが、仲裁機関の実務上はどうか。
○仲裁機関としては、(注)部分が入っても入らなくても、さほど大きな影響はないと思う。
(Ⅱ3 妨訴抗弁について)
○枠内1のただし書については、諸外国に例のない規定を置くと海外の当事者に不安感を与える。規定を置かなくても、真にやむを得ない場合は解釈で救済されることになろうから、規定は置かず、解釈に委ねるのが妥当である。
○モデル法8条に合わせるべきであり、ただし書部分は不要である。もっとも、枠内2の「訴えを却下」は、日本の法制度上、仲裁付託命令でなく却下でよいであろう。
○代理人が依頼者から最初に相談を受けたときに、必ずしもすべての情報が集まらない場合もある。枠内1のような規定の方が安心感がある。
(Ⅲ1 仲裁人の数について)
○機関仲裁の場合は、機関の規則で1人と定めれば足りる。アドホック仲裁の場合は、1人とすると、対立当事者間で合意できずに裁判所に援助を求める場面が多くなると予想される。国際仲裁の場合に第三国籍の仲裁人を選定するとなると裁判所の負担も大きいので、デフォルトルールとしては3人と定めるのが無難である。
□異論がなければ3人とすることでとりまとめたい。
(異論はなかった。)
(Ⅲ2 仲裁人の資格について)
○枠内1(2)は、規定しなくても、仲裁契約のうち仲裁人の定めの部分が無効になるだけで、仲裁人選定の定めのない仲裁契約として有効になると考えられる。また、仲裁機関としてではなく仲裁人として法人を指定した仲裁契約の例は、見たことがない。規定を置かなくてよいと思う。
●(2)が不要であれば(1)も要らなくなると思うが、いずれも置かない方向で検討してよいか。
○1についてはそれでよい。2についても、モデル法に規定があるのは、かつて国籍による差別的立法をしていた国があったからと思われるが、現在ではそのような例はなくなってきており、削除を検討してほしい。
○モデル法に規定のある事項を削除すると、変に思われないか。
○2は、「国際」「商事」の解釈が議論になりうる。また、規定を置くと、他の条項が日本人に有利な規定なのではないか等の疑念を招きかねない。
□異論がなければ、1については規定を置かない、2については「国際商事仲裁においては」を削除する又は全文削除する方向で更に検討することとしたい。
(異論はなかった。)
(Ⅲ3 仲裁人の任務終了及び補充仲裁人の選定について)
○「当事者間に別段の合意がない場合は」を書いた方がよい。
○この条項に限らないが、どの規定が機関規則で別段の定めを置ける規定かを明確にしてほしい。
○イギリス法のように、強行法規のリストを置くとわかりやすい。
●強行法規のリストは、1つの条文の中に強行法規部分と任意法規部分が混在することもあるので、難しい。条文中に「別段の合意がない場合は」を書くとモデル法から離れるが、それはよいか。
○枠内1(1)につき、「いつでも辞任することができる」と明記すると仲裁人に対する信頼を損なうおそれがある。2に入れ込む方がよい。
○1(3)は、もう少し具体的な基準の方が裁判所としては判断しやすい。
(Ⅳ1 仲裁権限の有無の判断について)
○仲裁権限なしとの判断についても不服申立手続を認めるべきである。仲裁契約存在確認訴訟を提起しなければならないのでは訴訟経済上疑問である。
○仲裁権限ありと判断する場合となしと判断する場合とで規律を変えるのでは、平仄が合わない。
●裁判所の関与は仲裁手続を続行させる方向にのみ認めるように仕組んでおり、その意味で平仄はそろっている。モデル法は、忌避についての判断等も含め、同様の規律で一貫している。
○仲裁廷の判断が正しいかどうかが問題であり、仲裁廷が誤って仲裁権限なしと判断した場合に、不服申立手続がないのはおかしい。また、やらないと言う仲裁廷に強制することはできないと言うが、裁判所の判断があれば、仲裁廷は手続を進めるのではないか。
○論理的に割り切れる問題ではないと思う。決め手がない以上、モデル法に従うのがよい。
□更に検討することとしたい。
(Ⅴ1 時効の中断について)
○甲案も乙案も実質的には変わらないと思われ、そうであれば簡明な乙案の方がよい。ただし、仲裁機関によっては、申立人が仲裁機関及び相手方に通知を行うと規定している場合があり、乙案ただし書ではこの場合がカバーされない。
○「裁判上の請求があったものとみなす」だと、外国から見て分かりづらい。
○ADR検討会で、ADRと時効中断について議論されているので、そちらとの平仄を意識すべきである。
○催告後6か月以内に仲裁を申し立てた場合を考えると、裁判上の請求とみなすのがわかりやすい。
○私が個人で仲裁するのと私が出資して仲裁機関を作るのとで時効中断時期が違うとするのは疑問がある。もし認証ADR機関ができて、それについて時効中断が規定されれば、それに合わせるのがよい。立法時期がずれてしまう難点はあるが、何とか工夫できないか。
○乙案でよい。仲裁を業とする機関の場合と個人の場合には、類型的に大きな差がある。むしろ、認証ADR機関とすると、なぜ認定された機関とそうでない機関で扱いが違うのかが疑問になる。
●なお検討することとしたい。
(Ⅴ2 証拠調べの援助について)
○枠内1の考え方を採ると、送付嘱託、調査嘱託等を含め、どのような手続につき援助申立てが認められるのか。
●調査嘱託、文書送付嘱託は、裁判所が行う場合は公法上の義務を生じさせるのに対し、仲裁廷が行うのは任意の協力を求めるにとどまるので、「仲裁人がすることができない」に当たるというのが現時点の事務局見解である。
○3につき、裁判所の裁量を広く認める手続に抗告を認めると、裁判所としては判断に困ることになりかねない。裁判所が関与する手続は、他は共助的なものであり、ここだけに抗告を認めることには慎重な検討が必要である。
○他のADRは不服があれば裁判を申し立てられるが、仲裁は裁判に行けない。事実審理で援助を受けられないと、適正な権利救済が受けられなくなるから、抗告を認める必要がある。
○仲裁廷への出頭を強制する仕組みは作らないのか。
●入れていない。どういう手続を行うかが明らかでない仲裁廷への出頭を、過料の制裁のもとに強制することは難しい。
○裁判所が適当と認める場合は仲裁廷への出頭を命ずることができると規定すればよい。常設仲裁機関以外が申し立てることはないと思われ、あり得ない事態を前提としているように思われる。その規定が難しいのであれば、出張尋問等を活用してほしい。
○出張尋問で裁判官が尋問するより、実務上は、裁判所において仲裁人が証拠調べをする方が必要である。
●その実質は枠内5で確保していると考える。規定ぶりは別として、実際には、事案を把握している仲裁人に自由に尋問してもらい、裁判所は、侮辱的尋問の制止等の監督的役割を行うだけになるだろう。
○仲裁の場合は、外国語で尋問をすることもある。裁判所の手続によって尋問するとなると、その点も問題になる。
●共助手続としての限界がある。