文部科学省から、文部科学省提出資料に沿って、奨学事業及び各種教育ローンの現状、新たな学生支援機関の在り方、国公私立大学の授業料等の減免措置の概要について説明がなされた後、次のような質疑応答、意見交換がなされた。
○ 日本育英会の無利子奨学金の貸与者はどのように決定されるのか。もし各大学にゆだねられているのであれば、大学ごとの推薦数の割当はどうなっているのか。国立、公立、私立で割当数に格差はないのか。
● 無利子奨学金にも入学前に貸与が決定されるものと入学後に貸与が決定されるものの二種類があるが、いずれについても予算上の制約があることから、各大学に推薦数を示し、各大学から推薦されている。大学ごとの推薦数の割当については、過去の実績、学生数など大学の規模を勘案して決定している。
○ 法科大学院については過去の実績は存在しないが、学生数で決定することになるのか。
● そのように考える。
○ 過去に有利子奨学金についても応募者多数のため年度途中で募集を停止したとか、大学の方で応募を制限してしまうため、一見希望者全員に貸与されているように見えるが、実際は貸与を受けられない希望者がいるというような話も聞いている。現在はそのようなことはないという理解でよいのか。
● 現在では補正予算等により希望者全員を採用しており、そのようなことはないものと認識している。
○ 有利子奨学金しか受けられなければ上限で月額13万円ということになるが、法科大学院の学費は年間200万円を超える可能性が高いといわれており、これでは学費にも足りない。学費のほかに生活費も必要だが、これについても何か対策を講じるつもりはないのか。
● 貸与月額の決定については授業料の水準を考慮する必要もあるが、法科大学院の実際の学費についてはこれから決まることである。また、生活費については、そもそも奨学金でカバーすべき範疇なのかどうか、議論の余地があるのではないか。生活費についてどのような形で支援するかについては別途検討していただく必要があるのではないか。
○ 法科大学院では密度の高い教育が行われ、寝食を惜しんで勉強しなければならなくなる。これまでのようにアルバイトでまかなうことは期待できない。奨学金以外の支援制度、例えばローンなどもあるかと思うが、文部科学省としてどのようなものを考えているのか。
● 文部科学省以外でも適切な措置を実施していただき、全体としてどこまで支援できるのかを考える必要があるのではないか。
○ 従来は修士課程、博士課程で採用の基準が分かれていたが、今後、法科大学院については授業料も考慮して基準を定めてゆくという理解でよいのか。
● 専門職大学院については修士扱いとなる。
○ 学位は博士ではないか。
● 法科大学院については、修士課程が基準となるが、授業料の水準も踏まえ、有利子奨学金の貸与月額の水準について検討する必要があると考えている。
○ 文部科学省以外の各種関係機関による支援策の可能性について言及されたが、具体的にどのようなものが想定されるのか。「あればよい」という仮定の話か。
● 今後、文部科学省以外の関係機関によっても適切な支援策が講じられるよう期待している。
○ 授業料免除について、国立大学で10万人が受けているとのことだが、大学院生については全体の何割くらいが免除を受けているのか。
● 1割程度である。
○ 法科大学院について授業料免除に係る予算を大幅に拡充することができれば、この問題のかなりの部分は解決できるのではないかと思うが、どうか。
● 授業料減免を拡大すると国立学校特別会計の収入が減となり、一般会計による繰入額の増が必要になる。厳しい財政状況の中、授業料減免のための予算規模は減少する傾向にあり、現状維持が精一杯である。
○ 国立大学の法人化後も現在の制度は維持できるのか。
● 現在あるものについては何らかの形で残すことができると思うが、具体的な在り方については今後の検討課題である。
■ 私立大学の医学部など、もっと学費が高いところもあるのに、なぜ法科大学院に対してだけ手厚く特別扱いするのか、民間の資金を活用したり、法科大学院協会の方で工夫できないのかなどという指摘を受けることも考えられる。
○ 日本弁護士連合会が実施したアンケートによると、7割の者が学費の負担に関心を寄せており、5割の者が年間100万円を超えたら法科大学院への進学を諦めると回答している。また、学費を親・親族からの援助でまかなうと回答している者は7割に達しているが、親・親族からの援助にも限界があるだろう。将来の法曹の出身階層が偏ったものとなることは問題である。法科大学院については、卒業後の将来において相当の収入が見込まれており、それを担保に融資を受けることも考えられるが、高額の保証料を求められることになれば結局諦めざるを得なくなる。したがって、国が学生に対するローンの保証について、何らかの形で手当てすることが現実的である。法科大学院だけではなく、専門職大学院共通の制度とすれば特別扱いとの批判を受けることもない。現在、高額の授業料を支払える人しか医師になれないことが様々な問題の原因となっており、医学部にこれだけの援助しかないからこれだけでよいとするのではなく、医学部のような問題を生じないためにはどうするべきかを考えるべきである。
○ 奨学金の返還免除制度の対象者について、特定の職業に就いた者から優れた成績を収めた者へと改めるとのことだが、法科大学院についても同様か。
● 基本的にはそうなると思う。法科大学院を排除する合理性がない。具体のスキームは今後検討することとなる。
□ 法科大学院の学生に対する支援策については文部科学省の奨学金のみではなく、様々な形で対応する必要がある。今後も引き続き検討することとしたい。
磯村保神戸大学法学研究科長から、法科大学院における実務基礎科目の教育内容・方法等について、参考資料に沿って説明がなされ、次のような質疑応答、意見交換がなされた。
○ 「法科大学院における実務基礎科目の教育内容・方法等について(中間報告案)」(以下「中間報告案」という。)では、「法科大学院の教育内容・方法等に関する中間まとめ」(平成14年1月22日)にあった、法情報調査・法文書作成について、他の科目の中でも取り上げることができるなどの理由により必修科目から外している。しかしながら、アメリカでの経験に基づくと、独立の科目として必修化しないと、必要な事柄を学習しきれないと思う。むしろ、これらの科目は、法科大学院の2年次の早い段階で必修とすべきではないか。
(磯村法学部長)研究会においては、法情報調査・法文書作成は重要ではあるが、例えば、入学時のガイダンスで説明することや、法科大学院の授業全体の中で教えることができるのではないかと整理された。なお、中間報告案は、個々の法科大学院がこれらの科目を必修とすることを妨げるものではない。
○ 法情報調査は、実務家にとって重要な技能になると考えられ、オンライン検索の方法のみならず、情報源による信頼度の分析等も求められる。判例検索とはステージが違うのであり、入学時のオリエンテーションで身につくものではないのではないか。
(磯村法学部長)オリエンテーションだけでなく、個々の授業で実践させることを想定している。
○ 法情報調査にかかる能力は、1つの独立した科目として、課題を与えることによってようやく身につけることができるものではないか。
○ 法情報調査・法文書作成は、これまでの法学部教育に欠けていたものであり、各科目の中で教えることができるのであればよいが、なおざりにされるのが心配である。「中間報告案」においては、これらの科目の重要性は十分強調されていないと思われる一方、法曹倫理の部分は、対象として弁護士のみならず、裁判官や検察官の倫理も含むとされており、評価できる。
(磯村法学部長)法律家として、正確性と説得力を兼ね備えた文書を書く訓練は、例えば、民事総合演習での起案でも訓練できるのではないか。また、学部段階でも文書作成能力を養成するための教育が行われるようになってきている。一方、法科大学院で教えるための教材作成も進んできており、数年間すれば、法文書作成等を必修科目とすることも考えられるが、当初は選択科目の幅が狭くなることは避けなければならないと考える。
○ 法情報調査については、必修の単独の科目として設けないとしても、例えば、実務基礎科目を受講する前提とすることが考えられるのではないか。また、一般の方にも理解できる明晰な文書を書けるようになることは必要であり、法学部教授、法曹はそのための努力をしてこなかったことについて反省しなければならないのではないか。単独の科目として設けないのであれば、いろいろな科目でチューターをつけるなど工夫しながら、添削指導する必要があると思う。
○ 法科大学院については、法学既修者・法学未修者ともに入学することが想定されており、それぞれの者に対してどのような教育を行うことを想定しているのか。
(磯村法学部長)法学未修者については修業年限3年とされており、最初の1年間は徹底的に法学の基礎を身につけることを想定している。2年次からは、大部分の大学において、法学既修者と同じ授業を受ける方向で検討していると思う。
○ 法学未修者が1年間で法律的な考え方を身につけることができるのか。
(磯村法学部長)法学未修者が1年間の学習で法学既修者と同等の能力を身につけることを求めるのではなく、法科大学院修了時に同等の能力を身につけることができればよいと考えている。一方、マスプロ教育を受けた法学既修者よりも法科大学院で密度の高い教育を1年間受けた後の法学未修者の方が期待できるという意見もある。
○ アメリカでは、法情報調査は2単位であるが、非常にハードであり、多くの学生から6単位相当にしてほしいという話が出る。訴訟実務について、民事・刑事に分けることは理解できるが、両方とも必修にする必要があるのか。また、訴訟のみならず、裁判外紛争処理解決手段も重要であり、必修科目にとは言わないが、民事実務で必ず取り上げるようにすべきではないか。
(磯村法学部長)法科大学院修了後、現在の司法研修所の前期修習がなくなり、初めから、民事・刑事の実務修習を受けることなどを考慮し、民事・刑事両方とも必修とすることが適当であると整理したところである。ADRは重要であり、各法科大学院で行うことが望ましいが、限られた時間の範囲内では裁判手続を中心とせざるを得ない。
○ 法科大学院をつくるに当たっては、実務科目については実務家が、基本法科目については研究者がそれぞれ教えるという区分けができることは避けなければならない。現在の司法研修所においては、実務の現状を教えているが、法科大学院においては研究者と実務家が共同で教育研究を行うことにより、実務を批判的に教育研究することが求められるのではないか。
○ 中間報告案は、よくまとまっていると思う。研究者が実務家と同じ視点で実務教育をしなければならないものではないという意見には賛成である。
□ 法科大学院のカリキュラムについては、第三者評価機関が個別に作成する評価基準に基づいて評価されるものであるが、昨年3月に意見を整理されたものに拘わらず本日の報告・議論をも踏まえ検討を進めていただきたい。