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法曹養成検討会(第16回)議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成15年2月12日(水)10:30〜12:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員) 田中成明座長、井上正仁、今田幸子、加藤新太郎、川野辺充子、川端和治、
ダニエル・フット、永井和之、牧野和夫、諸石光煕(敬称略)
(説明者) 磯村保・神戸大学法学研究科長、戸渡速志・文部科学省学生課長
(事務局) 大野恒太郎事務局次長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、片岡弘参事官

4 議題
(1)司法修習生の給費制の在り方について
(2)法科大学院の実務基礎科目の教育内容・方法等について
(3)法科大学院の実務家教員の確保について

5 配布資料
資料1  法曹養成検討会(第15回)議事概要

6 文部科学省提出資料
資料1 民間団体等による育英奨学事業の概要
資料2−1 民間団体等による育英奨学事業の概要
資料2−2 育英奨学事業の充実
資料2−3 育英奨学事業の推移(予算)
資料3 特定の目的のもとに国費で実施されている奨学金制度
資料4 各種教育ローン
資料5 新たな学生支援機関の在り方について(骨子)
資料6 国公私立大学の授業料等の減免措置の概要

7 参考資料
・法科大学院における実務基礎科目の教育内容・方法等について(中間報告案)

8 議事

○田中座長 おはようございます。それでは所定の時刻になりましたので、第16回法曹養成検討会を始めたいと思います。
 本日はまず司法修習生の給費制の在り方に関連いたしまして、文部科学省から奨学金制度について説明していただくこととしております。そして、その後、法科大学院における実務基礎科目の教育内容・方法等につきまして、神戸大学の磯村保法学研究科長からお話を伺うことを予定しております。また、法科大学院への教員派遣制度につきましても事務局から前回に引き続き補足的な報告をいただくことにしたいと考えております。
 それでは、まず検討に先立ちまして、事務局から本日の配布資料の確認をお願いいたします。

○ 片岡参事官 おはようございます。それでは配布資料の確認をお願いします。事務局からの配布資料としましては、法曹養成検討会(第15回)議事概要であります。
 そのほか文部科学省からの資料といたしまして、一綴りにしてあると思いますが、資料1から資料6がございます。
 そして、磯村先生の説明用の参考資料といたしまして、「法科大学院における実務基礎科目の教育内容・方法等にいて(中間報告案)」というものをお配りしてございます。
 以上、御確認ください。よろしくお願いします。

○ 田中座長 それでは本日の議事に入りたいと思います。まず最初の検討事項は、「司法修習生の給費制の在り方について」でありますけれども、この点に関しましては、前々回の検討会におきまして、事務局から奨学金制度の概要の説明があったところでございます。本日は文部科学省の奨学金制度を担当していらっしゃいます戸渡学生課長においでいただきましたので、改めて奨学金制度について御説明いただきたいと思います。

○ 文部科学省 文部科学省の学生課長をしております戸渡と申します。本日、奨学金制度について御説明させていただきたいと思います。
 既に、事務局からも御説明いただいたということで重なる部分があるかもしれませんが、御容赦いただきたいと思います。お手元の配布資料で「民間団体等による育英奨学事業の概要」という資料から、資料に沿って簡単に御説明させていただきたいと思います。
 まず資料1として、我が国の育英奨学事業の全体の現状でございますけれども、文部科学省で4年に一度調査しております育英奨学事業の実態調査によりますと、奨学金事業の主体数は、その表にございますとおり、公益法人等を含めて全体で約3,400でございます。
 このうち民間団体等による大学院生への奨学金は、約8,700人の学生に約40億円が給付もしくは貸与されております。そのほか日本育英会の事業がその表にあるとおりの状況で実施をされているということで、全体として大学院生について申し上げますと、奨学生数、奨学金とも日本育英会が9割を占める状況になってございますが、公益法人等でも給付事業等を含めて奨学金事業が実施されているという状況でございます。
 次に、配布資料2−1でございますが、日本育英会の事業の平成14年度の予算、平成15年度の予算案のうち、特に大学院の修士課程等について抜き出したものでございます。
 まず日本育英会の奨学金には、後ほどまた条件等を申し上げますが、無利子の奨学金と有利子の奨学金という2つの制度がございまして、無利子奨学金につきましては、15年度に貸与人員が1,000人増員されたほか、月額について2,000円増額されたことにより月額で8万7,000円となってございます。
 また、有利子奨学金につきましては、貸与月額が5万円、8万円、10万円、13万円からの選択制になっております。15年度につきましては、貸与月額に変更はございませんけれども、貸与人員数の希望について、引き続きその希望を維持しながら、(注)の2に書いている制度として、入学時の需要に対応して、真に経済的に困難な者については通常の貸与月額とは別に、初回の送金時に30万円を増額できるという制度を15年度から創設することとしてございます。そういう制度を創設するということによりまして、貸与総額で申し上げますと、予算上修士課程の大学院生につきましては、約15億円増の570億円の事業費で、1,000人増の5万7,000人に奨学金を貸与する予定でございます。
 なお、貸与月額につきましては、無利子奨学金だけでは生活困難な場合には有利子奨学金も併せて貸与するという併用貸与という制度がございます。この場合、無利子の月額8万7,000円に加えまして、現在有利子の上限13万円を合わせて合計月額で21万7,000円の月額貸与が可能でございます。これに平成15年度創設を予定しております30万円の一時金を合わせますと、併用貸与の場合、初年度では290万円、2年次以降は260万円の貸与を受けることが可能になるわけでございます。
 貸与人員につきましては、大学院修士課程の学生に占めます奨学金の貸与率は4割ということであり、無利子・有利子両方合わせますと、現在のところ奨学金希望者ほぼ全員への貸与が可能となってございます。
 次に、資料2−2を御覧いただきたいと思います。これは大学生等を含めた日本育英会の奨学事業全体でございます。先ほど申し上げました有利子貸与事業・無利子貸与事業という2つの貸与事業があるわけでございますけれども、修士課程等の場合の貸与月額は先ほど申し上げたとおりでございます。
 まず、貸与基準でございますが、無利子奨学金事業につきましては、予算上の制約等もありまして、学力基準として、特に成績が優れている学生ということが基準となってございますけれども、有利子奨学金事業につきましては、学修の意欲がある学生という基準しかなく、事実上勉学をしたいという方には全員貸与をできるということでございます。
 また、貸与基準として、家計基準というものが設けられてございますけれども、大学院生につきましては、平成4年度から親の所得ではなくて、本人の収入状況により判断をするということに改めまして事業を実施してございます。したがいまして、修士課程で無利子貸与事業、有利子貸与事業について、それぞれ416万円以下、595万円以下という家計基準は、御本人あるいは御結婚されていれば配偶者の方の収入を基準として判断するということでございますので、特に個人で何か企業を起こしておられるとか、事業を実施しておられるといったような方以外はまずこの収入基準でカバーされることになります。したがいまして、実質的には現在大学院修士課程・博士課程の学生につきましては、この学力基準あるいは家計基準により貸与を受けられない方は、無利子・有利子併せますとおられないことから、有利子奨学金まで含めますと希望されている方はほぼ全員が貸与を受けることが可能な状況でございます。
 資料2−3は、奨学金事業予算の推移でございます。有利子奨学金につきましては、平成11年度に事業規模を抜本的に拡充するということで1,000億円余の予算増を図ってございます。これにより、貸与人員、事業費とも大幅な増大が図られ、平成15年度には事業費全体で、平成10年度に比べ2倍強の事業規模の奨学金事業となるという状況でございます。
 なお、有利子奨学金事業については、2月現在の利率は、0.3%であり、この利率は利率水準が高くなりましても、上限は3%でございます。また、在学中は無利子であり、そのほかにも死亡等による返還免除あるいは失職等の場合の返還困難時の猶予取扱いといった点については、無利子奨学金と同様の取扱いとなっておりますので、現在の金利水準の中では、無利子事業・有利子事業ともほとんど有意差がないという状況でございます。
 以上が日本育英会関係の事業の概要でございます。
 それから、資料3でございますが、これも従前からいろいろ御案内のことと思いますけれども、育英奨学事業として、日本育英会の事業以外に特定目的のために実施されている政府奨学金事業の概要をまとめた資料でございます。資料にございますように、将来自衛隊に勤務しようとする者についての防衛庁の奨学金とか、医学専攻の学生で、将来刑務所等の矯正施設に就職しようとする者のための法務省の奨学金、看護師を目指す方の厚生労働省の奨学金といった制度がございまして、指定する職に一定年限就いた場合には返還を免除するという奨学金制度もございます。そういう特定目的のための奨学金制度も個別に準備をされているということでございます。
 資料4は、政府以外の政府系金融機関あるいは民間の銀行等におけます各種の教育ローン制度の概要でございます。
 政府系金融機関である国民生活金融公庫につきましては、親の給与所得が990万円以下の方、親のその他の所得が770万円以下の方に対して、子ども一人について200万円を上限に教育ローンを融資する制度がございます。返済につきましては、融資の翌年から年1.6%の利息を付して、最長10年以内とされており、元金については在学中の据え置きも可能と聞いてございます。
 そのほかにも労働金庫や農協、銀行等においていろいろな形で教育ローンが準備をされてございますが、いずれも融資対象が所得のある親という形になっていると承知してございます。
 それから、前々回の検討会においても御質問、御指摘等があったと聞いておりますが、日本育英会につきましては、特殊法人改革の一環として、平成13年12月に組織を廃止した上で、国の学生支援業務と統合して新たに独立行政法人を設置することが閣議決定されてございます。また、業務内容等についても、より効率的な業務への見直しが指摘されていることから、私どもも調査検討のために「新たな学生機関の設立構想に関する検討会議」を設け、新たな学生支援機関の在り方について御検討いただいておりましたが、その検討会が昨年12月にまとめた報告の骨子が資料5でございます。
 日本育英会でやっております奨学金事業につきましては、新たな独立行政法人において育英奨学金事業自体はさらに充実を図っていくという方向でございます。それに伴いまして、現在の大学院生に対する無利子奨学金については、卒業後、教育研究職についた方の返還免除制度を廃止した上で、改めて優れた業績をあげた大学院生を対象として、一定の職に就くということではなくて、今後の我が国のあらゆる分野の中核となる人材を支援する観点から、卒業時において一定の方の返還は免除するという制度を導入する方向をいただいてございます。
 いずれにしましても、日本育英会の独立行政法人化については、今国会に法案を提出させていただいて、平成16年4月を目途に新たな独立行政法人を設置し、そちらで奨学事業を実施していくという方向であるわけですが、現在の無利子奨学金事業及び有利子奨学金事業については、その新たな組織の下で、引き続きしっかり継続して充実を図っていく方向でございます。
 資料6が、前々回の検討会で御指摘、御質問等があった授業料・入学料の免除についての制度の概要でございます。国立学校における授業料免除制度につきましては、経済的理由によって授業料の納付が困難であり、かつ学業成績が優秀な者、あるいはその他やむを得ない事情があるということで特別な事情が認められた者について、その授業料を免除することによって修学の継続を容易にして、教育の機会均等の確保を図るということで実施されている制度でございます。
 この制度によって授業料免除を受けようとする者は、在学する大学あるいは学校に申請をいたしまして、授業料の納期、これは通常年2回で前期は4月、後期は10月に納期が来るわけでございますが、その納期ごとに許可を受けることになってございます。
 それから入学料の免除制度については、大学院等では、経済的理由によって授業料の納付が困難で、かつ学業成績が優秀な者、その他やむを得ない事情がある者、学部等では、風水害等の災害を受けるなど特別な事情がある者を対象としてございます。この制度で入学料免除を受けようとする場合は、入学手続時に大学等に申請をして許可を得ることになってございます。
 なお、これに関連して、現下の厳しい経済状況の中で、入学に伴います入学料が家計に与える負担が大きくなってきているという状況にかんがみまして、従来入学料の免除の申請から結果が出るまでの間だけ徴収猶予としていたところでございますけれども、15年度から入学する者については、この徴収猶予制度を拡充いたしまして、経済的に特に困窮した者についても、申請に基づいて入学の年度末まで徴収猶予を行うことができる措置を講じたところでございます。
 また、公私立大学の授業料・入学料減免措置の関係につきましては、各設置者の判断によって実施をされているところですが、私立大学につきましては、奨学事業の実施状況に応じて、私立大学等経常費補助金の配分の際に、補助金を増額して配分をすることにより、私立大学における授業料免除等についても、国が支援を行っているところでございます。
 なお、資料はございませんけれども、前々回の検討会において御質問があったと聞いております点で、奨学金について返還免除等をした場合に税金の課税措置関係がどうなっているのかということでございますけれども、奨学金につきましては、所得税法上非課税の扱いとなってございまして、奨学金を受けた場合あるいは死亡等によって免除を受けた場合には、その部分について課税を受けることはないという制度になっております。
 以上が現状でございます。今後、法科大学院につきましては、いろいろな要素を勘案して授業料等が決定されることになると思いますけれども、経済的理由によって、法科大学院で学ぶ機会が失われることのないように、私どもとしても授業料負担軽減あるいは奨学金等の支援策が必要と考えているところでございます。
 したがいまして、今年夏ごろの平成16年度概算要求時までには、法科大学院の学生数あるいは授業料の動向を見ながら、奨学金、私学助成等による支援・充実につきまして検討を行っていきたいと考えているところでございます。
 併せまして、奨学金等の充実措置とともに、法科大学院の学生の支援という点についてはいろいろな関係機関における支援あるいは各種教育ローンの充実といったようなことなど、多元的な支援策を検討していくことが必要だと考えてございまして、そういった点についても関係機関とも相談しながら、どういった措置を講じることができるかということについて検討を行っていくことになろうかと思います。
 簡単でございますが、以上でございます。

○ 田中座長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの説明につきまして、まず質問のある方はどうぞ。

○ 永井委員 三点ほどお聞きしたいのですけど、具体的には、無利子奨学金というものの利用者の選抜方法・決定方法がどうなっているのか。その際、もし大学に委ねているとすると、各大学ごとに割当人数はどうやって決めているのか。そういった場合に、国公立と私立の間で人数枠に著しい差異がないかどうか。その三点をお聞きしたい。

○ 文部科学省 無利子奨学金につきましては、制度上、予約採用と在学採用というものがございます。大学院レベルで申し上げますと、大学院に入られる前に、入ったらもらえますという形で予約する予約採用と、大学院に入られてから募集をかけて採用する在学採用の二つの制度がございますが、いずれの場合も予算上の制約等から、大学ごとにある程度の配分の枠として、これぐらいの人数を採用できるという枠を与えて、大学で選抜等をしていただいているわけですが、大学ごとの配分につきましては、過去の採用実績、大学院の規模、要するに入学定員等の規模等を勘案して配分するような形で実施しているところでございます。
 国公立と私立の配分の比率ということでいきますと、一定の基準に基づいて配分するときに、入学定員の規模、過去の実績での採用状況の実績等を勘案して配分される結果、大学によって差異があり、一律になってない部分もあるというのが現状でございます。

○ 永井委員 実績を踏まえるということは変わらないわけですね。実績を基準にすると各大学ごとの割当人数に変化は出てこないわけですよ。今度法科大学院は横一線で始まるから実績はないのでしょうけれども、そういったときの配分枠は人数・規模によって各法科大学院に割り当てるということですか。

○ 文部科学省 実績がないので、入学定員ベースを基に行うということでございます。ただ、それは無利子奨学金の場合でございまして、有利子奨学金については、希望者全員に貸与しておりますので、無利子・有利子を含めれば、希望者は全員奨学金を受けることができるという形になっております。

○ 永井委員 有利子についても各大学に人数が割り当てられていますね。

○ 文部科学省 一応の割当てのようなものを目安として設定してございますけれども、希望される方はほとんど基準に該当いたしますし、最初の配分で採用されなかった人については、残った分で採用するということでやってございますので、大学院の修士課程・博士課程については採用されない方はおらず、現実には全員採用してございますので、それは法科大学院ができても状況に変わりはないのではないかと思っております。

○ 永井委員 大学院レベルでも最近はちょっと問題があるようで、現実にはいろいろな枠の問題があるということも聞いておりますけれども。

○ 文部科学省 有利子枠は全員採用してございます。各大学で選抜された希望者で、日本育英会が採用しなかった方はございません。

○ 川端委員 今の問題ですけれども、少なくとも私が聞いている範囲では、過去に有利子の奨学金についても、希望者が多いということで、募集を年度途中で中止したことがあったとか、その後も、事実上大学に実績に応じた枠が割り当てられていて、大学の方で事前に選抜してしまうために、あたかも希望者全員に貸与されているように見えるけれども、実は本当は希望しているが貸与されない者が半数いると言われているのですけれども、今の説明だとそういうことはないということですか。

○ 文部科学省 恐らく平成10年、拡充する前はいろいろな基準や規模等の制約がありまして、有利子奨学金でも全員が受けられる状況ではなかったのではないかと思われますが、現在拡大してきております中では、大学から採用に漏れた方でも、大学でどれだけ希望があるかなどを聞いて、足りない分は、平成13、14年ともに補正を組んで対応してございまして、予算上余剰金が出ているような状況でもございますので、そういうことは最近の状況としてはないかと思います。

○ 川端委員 逆に言うと無利子の奨学金の方はまだ枠の制約があるということですね。

○ 文部科学省 無利子奨学金については、財源手当が政府貸付金という一般会計負担ですので、予算上の制約等がどうしてもございます。ただ、現実的には有利子と無利子の有意差というのは、卒業後返還いただくときの0.3%の利率部分だけということで、あとの取扱いは全く一緒でございます。

○ 川端委員 絶対的な金額が、有利子しか受けられないと上限で13万円ということになるわけですね。法科大学院の場合、年間の授業料だけで200万円を超えるのではないかという観測が強いのですが、そうすると、この有利子奨学金の13万円を受けられたとしても学資にも足りないことになりますし、高齢の方や社会人の方にとっては、生活費にはもちろん足りないという状況が生じると考えられるわけですが、それについては何か対策をとるという計画はあるのでしょうか。

○ 文部科学省 奨学金の水準については、授業料の水準等も考慮することは必要だと思っておりますけれども、法科大学院の授業料水準が具体的にどれくらいになるのかということについては、これからいろいろな要素でまた決まってくる部分があろうかと思いますので、その状況を見ながら判断することになろうかと思います。
 それで、奨学金の規模ということで言いますと、月額13万円の貸与を受けると年額にして156万円になりますけれども、奨学金で生活費まで全部面倒を見るのかということに関しては、生活費の部分はどこにいてもかかるものであって、その生活費と学資の全額を奨学金で見ることまで、果たして奨学金の範疇なのかという議論もございます。したがって、恐らくいろいろな背景をもって入学される法科大学院の学生の方、社会人として生活した上で入学される方もおられるでしょうけど、そういった方の生活費の部分について、どういう形で支援していくのかというのは、奨学金とは別途、支援の仕組みについて考えていただくことも必要なのではないかと思っております。

○ 川端委員 ただ、法科大学院の場合は、今までの大学、大学院と違って、極めて密度の高い授業をして、それこそ寝食の時間を削って勉学に時間を使わないと卒業できないというようなシステムを目指しているわけですから、今までであればアルバイトという手段があって、学資以外の生活のサポートの部分は本人である程度確保できたわけですけれども、それが期待できない制度になるはずです。逆に、そうならなければ法科大学院制度を新しい高等教育機関としてつくる意義が大幅に減殺されると思われます。そのような制度の下では奨学金とは別の支援制度としては、例えば教育ローンなどいろいろな制度が考えられると思いますけれども、先ほど多元的と言われましたが、ほかに具体的にどういう制度をお考えになっているのかというのをお聞きしたい。

○ 文部科学省 文部科学省の制度として、奨学金事業のほかに私学助成などの制度がありますが、教育ローンなどいろいろな形でのサポートについては、文部科学省以外でもいろいろと実施できる部分を実施していただいて、政府全体としての支援策や、あるいは先ほど申し上げましたように、公益法人、民間団体の支援などをすべて総合的に勘案して法科大学院の学生の支援策についてどのような措置を講じることができるかを検討していくことが重要なのではないかという趣旨で申し上げたところでございます。

○ 田中座長 それでは、御意見なども含めてお願いします。

○ 井上委員 確認ですけれども、従来は修士と博士ではっきり基準が分かれていたわけですが、今のお話ですと、そういうことでは必ずしもなくて、授業料がどのぐらいになるかということも重要なファクターとして法科大学院の学生に対する奨学金については基準を決めていくと、受け取ってよろしいのですか。

○ 文部科学省 法科大学院の学生の課程は、専門職学位課程ということになるので、課程としては修士課程相当になってくると思います。

○ 井上委員 法科大学院修了者の学位は法務博士ですよね。

○ 文部科学省 そうです。

○ 井上委員 ですから、そういう形式的な基準でいくのか、それとも先ほど御説明があったように、実質をかなり勘案して基準を決めていくということなのか。新しい課程なので、何をベースに決められるのかということがよく分からないのですが。

○ 文部科学省 専門職学位課程は、学部段階から入れるという意味で修士課程の学生相当になってくるのではないかと申し上げたわけです。現在の無利子奨学金の修士課程、あるいは有利子奨学金の3万円、8万円、10万円、13万円という金額の選択の水準というものについては、このまま据え置いてということではなく、法科大学院の学生が経済的困難によって進学できないことのないようにするための水準として、どういう形の水準を考えればよいのかということを、法科大学院における授業料設定の動向等を見ながら、16年度概算要求までに考えていく必要があるだろうという趣旨でございます。どういう形がつくれるかというのはこれから検討させていただきたいということでございます。

○ 加藤委員 川端委員の質問に関連しての質問ですが、学生支援については、奨学金、私学助成、授業料の減免という文部科学省の政策が柱の一つですね。それから各種教育ローンも対応の一つですね。もう一つの柱である各種関係機関の支援については、文部科学省の範疇ではないということですが、具体的にはどのようなものを想定しているのかについて説明していただければと思います。そういうものは今はないのだけれども、「等」の中の一つとして言っているということなのか、あるいは現にこういうものが実はあるということなのでしょうか。

○ 文部科学省 そういうことについて、ほかの関係機関で何か制度をお考えいただくこともあり得るのではないかということでございます。

○ 田中座長 今、法科大学院の開設を考えているところで、大学独自にそういうローン制度を考えていらっしゃるところもあるようです。

○ 加藤委員 それは各種教育ローンの範疇に入るのではないでしょうか。

○ 田中座長 そうだと思われます。

○ 諸石委員 資料6を見せていただきますと、国公私立大学の授業料等の減免というので、風水害等というのはちょっと別にしまして、経済的理由によって授業料の納付が困難であり、学業優秀と認められる場合、入学金のみならず、授業料の免除も認められており、入学料免除については、3,400人で6億円となっておりますが、例えば学業成績が優秀だということで授業料が免除される人が多くいらっしゃるということなのでしょうか。

○ 文部科学省 授業料免除については、学部、大学院を含めて、約10万人で200億円となっております。入学料について3,400人で6億円となっているのは、授業料に比べて入学料がまず安いということと、年度で見ると入学時の人数に限られるため人数が少なくなっているということがございますけれども、この入学料免除の対象者のほとんどは大学院生でございます。学部学生については、風水害等の災害で、特にやむを得ない事情があるという場合に対象となります。

○ 諸石委員 授業料免除の方が国立大学全体で10万人ということなのですが、大学院生で言えば、どれくらいの比率で授業料減免を受けているのでしょうか。

○ 文部科学省 大学によっても違いますので、一律には言えないのですが、平均的に言うと、大学院生の約1割くらいかと思います。

○ 諸石委員 それは成績優秀の方に重点がかかっているわけですか。

○ 文部科学省 この制度は経済的な困難度が高い方と成績優秀者が対象となっておりますが、全体として予算上の制約の範囲内でやっており、予算上の制約の範囲内で経済的困難度が高い人で、学業成績優秀と認められる人から順番に認めていって、大学によっても少し状況が違いますので一律には言えませんけれども、大学院生だけで見ますと1割ぐらいの方が免除を受けていると思います。

○ 諸石委員 経済的理由というのは、日本育英会と同様に、本人・配偶者の資力が基準で、親は関係ないということですか。

○ 文部科学省 日本育英会の基準にのっとって実施しております。

○ 諸石委員 そうしますと、経済的に稼ぎのよい配偶者がいれば別でしょうけれども、それ以外の方はアルバイトをどれだけするかで困窮度は決まるため、結局は実際の困窮度に関係なく、学業成績で優秀であれば減免をしてもらえるということになるのではないかと思いますけれども。

○ 文部科学省 先ほど委員がおっしゃるように、例えば、配偶者の方が働いておられて相当な収入を得ておられるという場合を除けば、結局、全員が基準以下にやってくるという中で、経済状況にということはどれぐらいアルバイトをしているかとか、ほかの奨学金をもらう目途が立っているのかなどの現実的な状況を一人一人見た上で大学で判断されているので、現実的に一番苦しくなるであろう人から、授業料免除を適用しているとお考えいただいた方がよいと思います。現実には一律に杓子定規にやっているということではないということです。

○ 諸石委員 1割以上の大学院生が授業料免除を受けている大学もあるということですか。

○ 文部科学省 大学ごとに配分される予算上の枠は一緒です。ただ、大学によって、例えば学部学生の経済状況がよければ、その分は大学院生の方に少し厚く使うなど、その枠の中でやっておられます。結局、各大学によって現実の学部学生と大学院学生との比率や状況は少し違うだけであって、あくまで免除できる枠は予算で決められますので、その枠は各大学に同じように設定しています。

○ 諸石委員 法科大学院をはじめとする高度専門職業人を養成する大学院ができることに伴い、この予算を大幅に増やすことができれば、非常に問題が解決するわけなのですけれども、これは予算の話ですから余りお答えしにくいと思いますが、できたらそうしたいなどといったお考えを聞かせていただければと思います。

○ 文部科学省 授業料減免措置を講じるというのは、それだけ歳入が減る形になりますので、一般会計からの繰入額を多くしなければいけないことになります。したがって、現実的には減免額というのは、昔から比べると、むしろだんだん厳しい財政状況の中で下がってきておりますので、法科大学院ができたから、一挙にその分の免除額を増やすというのは困難だと思われ、現状を維持するのが精いっぱいというのが現実のところでございます。

○ 諸石委員 授業料免除については期待してくれるなということですか。

○ 井上委員 これはお答えにくいかも分からないですけれど、国立大学が独立法人化した後も基本的には同じ仕組みになるのですか。

○ 文部科学省 国立大学が独立法人化した後も、こういった授業料減免措置については、何らかの形で反映されるような方向を目指したいとは考えていますけれども、独立法人化後の授業料、学生納付金等の収入をどう設定していくかについては、まさに今検討しているところであり、具体的にどうできるかというのはまだはっきりしていません。

○ 井上委員 そこのところが見えてこないと、大学の方でも、大学にある程度裁量の余地があるのか、それとも今までと同じ仕組みなのかというところで考え方が違ってくるのではないかと思うのです。

○ 片岡参事官 法科大学院の学生への支援については、いろいろと御指摘をいただいて、関係機関等と御相談を始めたところなのですが、特にこの検討会の委員の皆様にもお知恵を拝借したい部分がございます。まず最初に言われるのは、法科大学院だけが特別なのかという問題でございまして、例えば私立の医学部のように授業料が高いところでも、現在の程度の奨学金で運営されているわけです。それにもかかわらず、法科大学院ということで、それより手厚くする必要があるのか、そのことに合理性があるのかについて、医学部に限らず理科系にもっと力を入れるべき等の御意見がある中で、どのように説明していくかということが一つの問題としてあります。
 それから、民間等の資金を活用することについて、特に法科大学院関係の先生方にお知恵を拝借したいと思っております。もし、新たな予算措置を講じて政策的に何か奨学金のようなものをつくって、ゆくゆくは公的な分野に就いた人には免除するような制度をつくろうと考えたとしても、それだけ財政から支出しなければならないため、規模は非常に小さなものにならざるを得ないと考えられ、民間あるいは法科大学院協会のようなところが何か工夫することも考えなければいけないのではないかと思う次第であります。その二点について、今後、司法修習生の給費制の在り方と並行して考えていく中で、何かお知恵を拝借できればと考えている状況にあります。御報告方々申し上げます。

○ 田中座長 法科大学院の学生支援の問題は、今、片岡参事官がおっしゃったことのほかにも、司法修習生の給費制の在り方の問題とも関連しているわけでございます。給費制の問題については、次回以降さらに検討を続けることになっているわけでございますけれども、何か法科大学院の学生支援について、今日の段階で御意見がございましたら、御発言願います。

○ 川端委員 新聞報道もされていましたけれども、日弁連の方で、法科大学院志望予定者を対象にアンケートを行い、全国の大学と司法試験受験予備校で1万枚のアンケートを配布して4,769通を回収したほか、インターネットで727通の回答があって、合計で5,496通の回答がありました。集計結果については、今日4時からの日弁連法科大学院設立・運営協力センターによるシンポジウムで詳細が発表されます。私は資料を斜めに見ただけなのですが、法科大学院に入ることを考えている人たちのうち、学資が負担できるものかどうかということに関心を持っている方が約7割おりまして、その中で「学資が年間100万円を超える場合には入学をあきらめる」と回答した人が約5割いるわけです。それと学資をどこからもらうかというソースを見ると、「親や親族の援助」というのが7割を超えていて圧倒的という状況があります。
 これは統計学的にきちんとしたものではなくて、一種のアンケートですけれども、法科大学院の学資が非常に高くなるであろうということが、将来の法曹志望者にとって非常に重大な問題となっていて、ある限度を超えると志望そのものをあきらめざるを得ないかもしれないと志願者は思っていて、その原因は親からの援助に限界があるからだということが読み取れると思うのです。
 このことは、法科大学院で非常によい教育をする代償として授業料が高くなるということによって、将来の法曹の出身階層構成をゆがめるという、一番我々が期待しない結果が起こる可能性が現実にあるということだと思うのです。これを避けるためには、何らかの学資援助制度が必要であるというのは言うまでもないのですが、今までの制度にないものをつくるとすれば、本人が将来相当な所得を得られる専門職に就くことを予定する大学院ですから、それを担保にして資金を出すという制度を考えざるを得ないのではないかと思っております。ただ、本人に対していろいろな機関が融資するにせよ、担保や保証が要求されるため、非常に高額の保証料を要求されるような制度になってしまったり、あるいは本人に対するローンの回収にリスクがあるということで、利息が高くなって返還が非常に大変になるという制度となっては、法科大学院進学志望者が、学資を余り借りられないことになり、結局法科大学院に進学することをあきらめざるを得ないということになるかもしれないのです。
 そういうことを考えると、限られた国の財政資源を一番有効に使えるのは、国が学生に対するローンの保証について何らかの措置を講ずることであり、直接保証できないという問題があるのは承知しておりますけれども、何らかの制度的な手当てを行って、民間機関が、安い保証料で、かつリスクが非常に低いということで、安い利息でローンを展開することができるような制度を考えるのが一番現実的ではないかと考えます。それは法科大学院だけではなくて、専門職大学院すべて共通の制度とすればよいのではないでしょうか。今、多くの私立大学医学部の場合、非常に高い入学金と授業料を払える人だけが医者になっており、それがいろいろなゆがみを現にもたらしているのではないかということが問題になっていると思われます。医学部でも援助がないではないかというのは逆でして、医学部について援助がないから問題が生じているのであって、法科大学院でそれと同じ問題を引き起こすようなことはしてはならないと発想すべきだと思いますので、是非、その点については国の方で考えていただきたいと思います。

○ 田中座長 この問題については、まだいろいろと御議論があると思いますけれども、具体的には、先ほど文部科学省の担当者から御説明がありましたように、平成16年度の予算要求でまず始まるわけでございますので、文部科学省におきましても、本日の意見を参考にしていただいて、奨学金の充実について、さらに御検討いただきたいと思います。
 また、いろいろ意見があった中で、法科大学院の学生に対する支援につきましては、文部科学省関係の奨学金のみで対応すればよいというものでもありませんので、多元的にいろんな形で配慮する必要があります。この点につきましては、今後も引き続き御意見を伺うことにして、次の議題にいきたいと思います。

○ フット委員 もう一点だけいいですか。

○ 田中座長 はい。

○ フット委員 先ほどの説明で、返還免除制度に関しては、ある職業に就いた人たちを対象とした免除制度から、今後は優れた人たちを対象に切り替えるという方に動いているそうですけれども、それは法科大学院でもやはり同じような方向に動くのでしょうか。

○ 文部科学省 その点もまた、16年度概算要求の話でございますけれども、無利子奨学金を借りた方についての返還の免除ということについては、法科大学院の学生を特に排除する理由はないので、16年度概算要求に向けて、法科大学院の学生も含めて要求することになろうかと思います。最終的にどういう形で認められるかというのは、また16年度予算の中での話になるということでございます。

○ 田中座長 どうもありがとうございました。
 時間の関係がございますので、次の検討事項に移りたいと思います。本日、法科大学院の実務基礎科目の教育内容・方法等について検討されております法科大学院協会設立準備会のカリキュラム・教育方法検討委員会の主任を務めていらっしゃいます神戸大学の磯村保法学研究科長においでいただいておりますので、これまで検討されている内容につきましてお話を伺うことにしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○ 磯村教授 それでは、お手元に「法科大学院における実務基礎科目の教育内容・方法等について(中間報告案)」というのがございますが、それにのっとって、御報告をさせていただきたいと思います。
 先日2月1日に京都大学で、実務基礎科目の在り方に関するシンポジウムが開催され、この中間報告案を中心に御報告をいたしました。その骨子をここで御説明いたしたいと思います。
 説明は大きく四つに分かれております。最初にこの中間報告案に至る検討の経緯について、二点目として中間報告案の基本的な考え方について、三点目としてその中でとりわけ必修科目とされている科目の具体的な内容について、最後に四点目として、残された検討課題について、という順序で御説明をいたします。
 まず検討の経緯でございます。本報告については、「中間報告案」と略称し、平成14年1月22日に、田中成明先生を代表とする研究会が公表した「法科大学院の教育内容・方法等に関する中間まとめ」を「中間まとめ」というように呼ばせていただき、説明いたします。
 この中間まとめでも、既に法科大学院におけるカリキュラム等の問題について詳細な検討が加えられておりました。ただ、とりわけ実務基礎科目の在り方については、若干検討すべきところが残っていたことから、昨年後半から、法科大学院協会設立準備会のカリキュラム・教育方法検討委員会におきまして、実務基礎科目についての考え方を集中的に検討してまいりました。特に訴訟実務の基礎については民事系と刑事系とにワーキング・グループを分けまして、法曹三者からもそれぞれ御協力をいただき、メンバーとして御参加いただいて検討した成果が、この中間報告案にまとまったものでございます。
 それでは、次に基本的な考え方に移りたいと思いますが、まずこの検討の中で前提あるいは出発点となったものは先ほどの中間まとめであります。実務基礎科目に関する中間まとめの考え方は、法曹倫理に関する科目2単位、法情報調査に関する科目1単位、要件事実と事実認定の基礎に関する科目2単位ということで、当初は5単位を必修とし、現行司法試験と新司法試験の併行実施が終了する期間までに、さらに4単位を選択必修とし、トータルで9単位必修という前提をとっておりました。
 再検討する際に考慮した点は特に四点ございます。一つは、「中間まとめ」の段階では、民事と刑事を区別するという考え方を特に明示しておりませんでした。しかし、手続法、証拠法等の相違を考慮しますと、この両者を分けて科目設定をすることが適当ではないかということで、委員会でも議論が一致し、先ほどのようにワーキング・グループを分けて検討することになったわけであります。
 二点目は、中間まとめの段階でも、個別的には法曹の方々の御意見を聞く機会はあったのですけれども、直接に検討グループにメンバーとして入っていただくということをしておりませんでした。そこで法曹三者の意見を直接検討会の中で反映させることが必要であるということで、先ほど申し上げたメンバー構成になったわけであります。
 三点目ですが、中間まとめが公表された後に、司法修習の在り方について大きな変化があり、特に修習期間が短縮され、司法研修所における前期集合修習が廃止されるということになりましたので、それに対応することが当然必要となってまいりました。
 四点目でありますが、実務基礎科目に関する重要性ということと同時に、カリキュラム全体の中で、どの程度のバランスをもって実務基礎科目を考えるかということがやはり重要であって、特に設置基準で修了要件単位数が93単位というように設定されている中で、どの程度の単位数を実務基礎科目に配分するかという観点が必要であるということであったわけです。
 つぎに、大きな二点目である実務基礎科目の考え方についてですが、この中間報告案では、まず必修科目については、法曹倫理に関する科目を2単位相当、民事訴訟実務の基礎に関する科目を2単位相当、刑事訴訟実務の基礎に関する科目を2単位相当、このトータル6単位を当初から法科大学院における必修科目とし、さらに新旧司法試験が併行実施される期間が終了する前には、選択必修科目として4単位を加えるという構成を考えております。
 ここで、2単位相当という言い方をしているのは、必ずしも独立した科目として開講する必要はないということを含意しているわけですけれども、しかし、我々のワーキング・グループ及びカリキュラム・教育方法検討委員会での基本的な考え方としては、法曹倫理科目についても、民事訴訟実務と刑事訴訟実務の基礎科目についても、従来の大学における法学教育の実態を踏まえつつ、実務基礎科目の成熟度を高めるという観点から、できるだけ独立させて開講するべきであるという考え方を積極的に提示しております。
 これらの科目の内容については、後でさらに御説明をいたしたいと思いますが、その他の科目については、資料の10ページ以下を御覧いただきたいと思います。そこにいくつかの科目が挙げられておりますが、特に法情報調査については、従来1単位相当で必修科目としていたものを必修から外しているというように変化が生じております。これは科目としての重要性を否定する趣旨では全くないのですけれども、法情報調査の問題について、そこで想定されていた、例えば判例分析の仕方や、いろいろなオンライン、オフラインの法情報を検索して、それを使って事前事後の学習をするということは、法律基本科目をはじめ、法科大学院のいろいろな授業の中で随時必要な作業であって、その中で修得をしていくということが可能な部分であり、そういう意味では、独立に必修科目として単位化することは必要ないであろうというように考えた次第であります。
 そのほか、法文書作成、模擬裁判、ローヤリング、クリニック、さらにはエクスターンシップというような科目についても、具体的な中身については、この中間報告案を御参照いただきたいと思いますが、これらの科目についても、必修科目にしておりません。もちろん、これらについても重要性を否定する趣旨ではないのですが、これらの科目もすべて必修ということになりますと、実務基礎科目の単位数だけが非常に多くなることに加えて、新しい法曹養成制度の下でも、司法修習が残ることになりますので、司法修習との役割分担の中で、法科大学院において実務基礎科目としてどのようなものが必修として必要であり、どのようなものが選択的な履修で足りるとするかを考慮した結果、こういう区別をしているということであります。
 それでは、第三点目として、必修科目とされているものの具体的な内容について少し御説明をいたしたいと思います。まず、4ページの「法曹倫理」は従来から2単位相当として必修とされていたものを中間報告案でもそのまま引き継いでおります。法曹倫理というと、どちらかといえば弁護士倫理ということに少し重点が置かれているというところもあったかもしれませんが、ここではまさに法曹という形で、弁護士に限らず、法曹としてどういう役割を担うべきか、どういう倫理観を持って職業を遂行すべきかというような問題を広く取り上げるということでございます。
 法曹倫理に関するいろいろな意見の中には、例えば具体的な法律基本科目と組み合わせて行う方が問題をよりよく体感できるのではないかという指摘もあり、京都大学でのシンポジウムのフロアーからのご発言でも同様の意見がありました。私どもとしては、法律基本科目等の中でそうした問題を意識しながら授業を行うことはもちろん必要であるけれども、しかし、それと同時に、まとまった形で取り上げることに非常に大きな意味があるのではないかと考えたわけです。法曹倫理については、特にアメリカにおけるロースクールのカリキュラム内容の成熟度が高いということもございますし、それをさらに日本の中で定着させ、発展させていくという趣旨からも独立した科目がより望ましいであろうというように考えた次第であります。
 次に、5ページの「民事訴訟実務の基礎」については、従来、中間まとめでは要件事実と事実認定の基礎として取り上げておりましたもののうち、民事の問題について、基礎的な理解を得させるというのが最も中心的なねらいであります。この科目については、要件事実論というのが単に訴訟だけの問題ではなくて、もう少し広く、具体的事件を法律的に分析していくときに非常に有用であるということ、事実認定についても、法的なルールの中での事実認定の在り方を考える必要があるということを踏まえると、必修とする必要があると考えられます。特に前期の集合修習が廃止されるということになりますと、このような部分を学ばずに、いきなり実務修習に入ることになるのは適当ではないと思われますので、この科目は是非とも必要であろうと考えております。
 その具体的なシラバスについては、16ページ以下を御覧いただきたいと思います。シラバス案としては、①、②の二つが示されております。その両案については、基本的に内容が著しく異なるということではありませんけれども、①案の方が、どちらかといえば、裁判手続の中で問題となるものについて、当事者の役割ということよりも、もう少しニュートラルな観点に立った内容であるのに対して、②案の方が訴訟の当事者、すなわち原告・被告となった立場から、どういう形で訴訟を進行させていくかという観点がより強く出ているということが言えるかと思います。しかし、いずれにしても、民事訴訟実務の基礎のカリキュラムの在り方については、いろいろの考え方がありうるわけで、両案は各法科大学院がさらにそれぞれ工夫を加えていくための参考例として提示しているものであります。
 次に「刑事訴訟実務の基礎」については、7ページ以下の中で、少し民事訴訟実務と違う点が強調されておりまして、特に事実認定等の重要性についても従来の法学教育との相違が強調されているとともに、手続に関与するアクターが多様であることから、弁護士の立場、検察官の立場、裁判官の立場からそれぞれどういう意味を持ち、どういう役割を果たすべきかということを考慮させる必要があるということになろうかと思います。
 具体的なシラバスについては、21ページ以下にその案が4つ掲げられております。21ページの説明を御覧いただきますと、民事の場合とのニュアンスの違いを御理解いただけると思います。民事訴訟実務に関するシラバス案については、どちらかといえば、ワーキング・グループ自体として、①、②案両方があり得るであろうということで考えたものですけれども、刑事訴訟実務の基礎については、ワーキング・グループの総意としてモデル案を取りまとめたというよりは、ワーキング・グループの中のメンバーが、それぞれ個人として、科目内容の具体的イメージを喚起し、議論を深めるための参考資料として発表したものであり、より個人的色彩の強いモデル案になっているかと思います。
 京都大学における2月1日のシンポジウムにおきましても、21ページ以下の部分は、「中間報告案」とは切り離された形で、資料2として配布されております。本日は、事務局で、便宜上一冊にしてページ数の統一をしていただいておりますが、そういうニュアンスの違いがあることにご留意を頂ければと思います。刑事の各モデル案には先ほど触れました立場の相違を反映した考え方の相違が示されているところもありますが、しかし、大きく見れば、刑事訴訟手続が全体としてどのように進行していくかという動態的な過程の中で実務の基礎に関する種々の問題点を考えていく点では共通しているということが言えるかと思います。
 先ほど、法曹倫理の問題について、科目の独立性ということを強調いたしましたけれども、民事訴訟実務の基礎、刑事訴訟実務の基礎についても、例えば民事訴訟法の中で、あるいは刑事訴訟法の中で取り上げる考え方も有力に主張されておりました。しかし、私どもの委員会、ワーキング・グループとしては、これらについても独立した科目として行うことにより、その内容をより効果的に修得させることができるのではないかと考え、中間報告案においてもそのような方向を提示しております。
 中間報告案につきましては、2月1日のシンポジウムにおいて、実務家の多くの先生方からコメントをいただき、またフロアーから種々の御発言をいただきましたが、基本的な考え方、方向性としてはこれでよいのではないかということで、概ね積極的に評価をしていただいたと受けとめております。このようなカリキュラム内容というのは設置基準そのものではありませんけれども、たとえば第三者評価機関が法科大学院におけるカリキュラムを評価するというときに、一つの指針として重要な意味を持ってくることになろうかと思います。
 最後に四点目ですが、中間報告案で残されている問題として、一つにはどういう教材をどういう形で利用することができるかということが非常に重要となってまいります。この点については、とりわけ法曹三者に今後とも御協力をいただいて、また、法科大学院としても独自に努力をして、具体的な教材をどうするかを詰めていくという作業が残っております。私どもの委員会でも、その点について検討をさらに進める必要があると認識しております。
 つぎに、先ほどからも少し問題となっておりましたが、実務基礎科目だけが理論と実務を架橋するという役割を担うのではなく、法律基礎科目の中でも当然そういうものを意識してカリキュラムを編成することが必要となってまいります。例えば民法や民事訴訟法といった法律基本科目の中で実務的な問題をどの程度、またどのように取り上げるかについて、この実務基礎科目とのすり合わせを行うことが必要であろうかと思います。
 また、多くの場合には実務基礎科目については実務家教員が担当することになろうかと思いますが、担当者の問題については、中間報告案では特に限定を加えておらず、実務基礎科目であるということで、当然に実務家教員が担当しなければならないという前提には立っておりません。例えば刑事訴訟実務の基礎では、どういう立場で教えるかが、カリキュラム編成にも一定程度影響するところがあることは否めないと思いますが、例えば現在の司法研修所におけるように、検察、刑事裁判、刑事弁護をそれぞれ独立に行うのではなく、一つの科目で行われると考えられます。したがって、担当者が一人であるというときにも、その担当者がこれら三つの側面をバランスよく考慮できることが必要であり、それが可能な教員を担当者とすることが最も重要であります。あるいは、場合によっては研究者教員と実務家教員が共同的に担当するというような実施形態も考えられるかと思われます。
 私の方でご説明のために準備しておりました内容は以上でございます。

○ 田中座長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの説明につきまして質問のある方、同時に御意見もありましたら、よろしくお願いいたします。

○ フット委員 法情報調査や文書作成が必修から漏れたということに関しては、確かに単位数が限られているということは分かりますけれども、ほかの科目を学習する上で必要であることから当然にほかの科目で教えられるであろうという考え方は適当ではないと思います。むしろアメリカでの経験からすると、必修科目として個別に授業を行わない限り、ほかの科目を学習する上で必要なものでも、ほかの科目で教えないというものです。私が在籍していたハーバード大学はまさにそのとおりで、民事訴訟のうちの2〜3時間程度で法情報調査をやった限りで、とても不十分でした。むしろ法情報調査などは、必要であるからこそ、1年次、あるいは2年次から入る学生には2年次の早い段階でむしろ必修にすべきではないかと思います。

○ 磯村教授 ワーキング・グループの中でも、法情報調査が非常に重要であるという意見はございましたし、私自身もそれが重要でないと考えているわけではないということは先ほども御説明をしたとおりです。カリキュラム全体の中で、どこまで必修科目とするべきかというのがまずあることと、法情報調査は、例えば最初にガイダンスのところで一般的な説明をし、各科目において宿題を与えるときに、法情報をこういう形で調査するということを教えるような形で、それぞれの教員が授業で工夫をしていくことにより、ある程度対応することができるのではないかと考え、必修科目とはしなかったわけです。もちろん、各法科大学院が法情報調査の重要性を考慮して、これを必修科目とすることを妨げるものではないのですけれども、法科大学院全体のガイドラインとして考えたときに、これを全部の法科大学院で必修科目とするのは行き過ぎではないかと考えたということです。

○ 川端委員 私もフット先生と同じ意見で、法情報調査というのは、これから実務家にとって大変重要で、基本的な技能になるだろうと考えます。というのは、最近は、オンライン検索が非常に充実してきており、電子政府のポータルサイトなどでいろいろな情報をきちんとオンラインで検索することができますが、その際に、直ちにその場で検索できるということと同時に、リソースによってどの程度その情報を信頼してよいのかということ、どこに行けば一番早く情報収集できるのかということをきちんと身につけているということが実務家の弁護士の最低限の技能になってくるのではないかと思うからです。
 法情報調査により身につけるべき能力は、学習の便宜上、判例検索の方法を知っている必要があるということを超えた新しい技能になりつつあるような気がしますので、それが何か入学前のオリエンテーションで済むかのような印象を与えるのはまずいかなという気がするのです。

○ 磯村教授 オリエンテーションで全部済むということではなくて、まずそこでスタートするということです。その後、例えば、各授業の中で調査をさせて、その調査結果について、例えばどういうものが足りないか、どういうものをさらに調べるべきであるかということを教えながら授業を進めていくというように、トライ・アンド・エラーの形で学ばせていくということだと思うのです。

○ 川端委員 確かにそのことが重要で、必修科目にして単位を与えれば、具体的な課題について、実際に調査させて、その結果を論評するという時間が十分にとれると思うのです。それがオリエンテーションだけだと、一方的にこういう方法があります、ああいう方法がありますということを教えるだけになってしまって、結局技能として学生が身につけることはないのではないかという心配があるのです。

○ 磯村教授 私自身は、学部演習で学生にいろいろな課題を与えるときに、どういうものを調べてきて、どういう形でその文献を引用したりするかということを指示しております。このような方法によって、例えば、判例集については、こういうものを調べて、こういう読み方をしなければいけないというようなことも指導できるという経験を得ており、そのような教え方、学ばせ方はあり得るのではないかということが、経験からも言えるのではないかと考えております。ただ、確かに、それでどれほど体系的にできるかというのは残された課題かもしれません。

○ 諸石委員 両委員が御心配なされていますが、今までの法学部教育が、法情報調査、法文書作成という点で余りにも欠けていたので、実際にちゃんとした文章が書けるようにするということが法科大学院の一つの大きな柱だと思います。磯村先生のグループも法情報調査などの重要性は十分に分かっているけれども、ほかの各科目の中で法情報調査などは教えていくとおっしゃっており、実際に各法科大学院でそういうことになるのであればそれで結構だが、各法科大学院で十分に教えられないようなことがあっては大変だという心配から、両委員はおっしゃっているのだと思います。私も、法情報調査の重要性ということは十分強調されてよいのではないかと思っています。
 もう一点、法曹倫理について申し上げます。今、法曹倫理が重要であることは言うまでもないのですが、現在、弁護士倫理というものがあるけれども、裁判官倫理や検察官倫理が取りまとめて作成されて公表されたものがないので、法曹倫理というと、すぐに現行の弁護士倫理を指すというような誤解が出てきはしないかと心配していたのですが、この中間報告案ではそうではないということが非常にはっきりしているので安心いたしました。

○ 磯村教授 法文書作成の問題については、私どもも技術的な形式よりも、法律家としてどれだけ説得力のある文章を書けるかということに重点を置くべきであるというように考えておりまして、とりわけ各授業の中でで小さなレポートを書かせるというような方法により、ある程度カバーすることができる部分もあろうかと思います。
 また、例えば、民事訴訟実務の基礎あるいは刑事訴訟実務の基礎の中で、起案をさせることも考えられますので、そこでもさらに進んだトレーニングをさせることができるのではないかと思います。
 さらに、当初の数年間が経過しますと、法情報調査なども必修単位化していくという方向が望ましいかと思いますけれども、繰り返しになりますが、法情報調査などをすべて取り入れて、しかもそれ以外の科目、例えば法律系科目も相当数の必修単位が必要であるということになりますと、選択科目の幅は著しく狭くなるので、それを避ける必要があるのではないかということであります。
 法曹倫理科目については、今、正確にご理解いただきましたように、広く法曹というものをとらえております。私どもの委員会において、法曹倫理科目の具体的な中身についてモデル案等を明らかにしなかった一つの理由でもあるのですが、いろいろな実務家の方、あるいは研究者の方で、教材の準備が進められておりまして、その教材の準備の中でも必ずしも弁護士倫理の問題にとどまらない、より一般的な形で御検討いただいているということであり、我々の委員会としても、そういうものをこれから参考にさせていただいて、検討を続けたいと考えております。
 もう一点、情報教育の重要性について付加いたしますと、現在、多くの大学の学部段階でも、少なくとも基本的には情報教育がかなり行われるようになっております。法情報という特殊なものではありませんけれども、いろいろな形でいろいろな文献を検索すること、あるいはネットでどういうことができるかということも含めて、情報基礎教育が進んできておりますので、法科大学院における教育もそれを踏まえたものとするという部分があろうかと思います。

○ 井上委員 私も皆さんのおっしゃっていることはごもっともだと思いますが、法情報調査については、オリエンテーションという形であるにしろ、それを充実したものにしつつ、単位化はしないけれども、それを通らないとほかの基本科目を取れないという形をとっていけば、かなり実質的には問題解決ができるのでないかと思うのです。
 結局、この中間報告案がそのまますべて全国統一のしばりのある基準になるわけではないと思いますが、むしろ、こういうものをも踏まえて、必修を余り増やさない範囲でどのように意味のあるカリキュラムを編成したかについて、例えば評価基準を考えていくときに問題になることではないかと思うのです。
 2番目の法文書作成については、既存の教師をはじめ、弁護士も裁判官も検察官も含め反省しないといけないところがあって、一般の人にもわかるような論理的な文章、明晰な文章を書いていくことが重要であり、法科大学院において法文書作成の単独の授業を設けるというより、磯村教授がおっしゃったように、いろんな科目で文章を書かせて、それを添削したり、講評したりすることによってフィードバックしてやっていくしかないと思うのです。これについては、我々教師がその能力が完全にあるとも思いませんし、また、それだけの時間があるかどうかも難しいので、フェローやチューターのようなものをつけて丁寧にやっていくというようなことも考えていかないと、恐らくうまくいかないのではないかと思います。その辺については、お金と人員などを勘案しながら、法科大学院の設置を予定している各大学で考えているはずです。

○ 川野辺委員 中間報告案にも書いてあるようですけれども、一点質問いたします。法科大学院には、法学部を卒業した人と、法学部以外の他学部を卒業した人が入学することになっているわけですけれども、法科大学院では、どのような基本的な考え方をもって、既修者と未修者を教育しようとしておられるのでしょうか。

○ 磯村教授 法学既修者というのは、入学試験で振り分ける場合には法科大学院における法学既修者枠に合格した学生ということで、基本的な法律的な能力が備わっているということを前提に、2年間という年限の中で、応用力を養い、それを修了すれば、新司法試験に合格して司法修習を経て法曹になることができるようなカリキュラム編成を考えることになります。これに対し、未修者の場合には、従来、法律的な考え方を全然学んでいなかった者が主たる対象となりますので、3年間の年限のうち、1年次にはまず基礎的な考え方を徹底的に鍛えて、2年次、3年次には、恐らく多くの法科大学院においては、既修者と同じカリキュラムを提供して、勉強させるということになろうかと思います。

○ 川野辺委員 感覚的には、他学部から入ってきた人が1年間の学習だけで法律的な考え方をできるようになっていくのかということが非常に不安なのですけれども。

○ 磯村教授 トータルで3年間という修業年限の中で考える必要があろうかと思います。2年次に進む段階で、仮に法学部でよく勉強してきた既修者一年次生と、知識の部分も含めて同じ水準にまで到達するかというと、そうでないという見方もあろうかと思いますが、一方で、反対の見方をする方もおられて、法学部で一方的にマスプロ的な教育を受けた場合に比べて、未修者が1年次に、それこそ睡眠時間も切りつめるような形で集中的に勉強し、少人数教育を受けた場合には、むしろより法律家としての能力を培うことができるのではないかという見方もあります。これは、実際にやってみないと分からないところがありますが、いずれにしても考え方としては、既修者の場合には、入学してから2年間の修学期間でどこまで到達しているか、未修者の場合には、最初の1年間ということだけではなくて、トータル3年間で既修者の2年間と同じレベルに到達しているか否かを問題にするということです。

○ フット委員 先ほどの繰り返しになるかもしれませんけれども、調査能力あるいは文書作成能力は弁護士の技能としては、本当に一番基礎的なところです。しかもアメリカの経験から判断しまして、アメリカのようにかなり実務教育中心であっても、なかなかほかの授業でこういう技能を修得させるのは無理だと思います。それだけ指導する能力があるかどうかということも関係するのでしょうが、調査能力や文書作成能力を修得させるには非常に時間がかかります。しかも例えば、オリエンテーションだけを消化しても、技能を修得するためにはやはり自分でやらなければいけない面があり、アメリカでさえリサーチ・トレーニングに2単位を与えていることを考えると、日本でも必修科目として相当な単位を与えるべきではないでしょうか。しかもリサーチ・トレーニングは、ほかの科目よりもずっとハードで、6単位分ぐらいのことをやらされているのになぜ2単位だけなのかとアメリカの学生の全員が文句を言っております。したがいまして、かなり何回も問題を与えて調査し、それに関する文章を作成させたりするという私のイメージするリサーチ・トレーニングの科目を必修にすべきであると考えております。
 あと二点について申し上げます。訴訟実務について、民事・刑事を分けることは分かりますけれども、両方の科目を必修にしなければいけないのですか。もちろん民事訴訟法・刑事訴訟法は必修になっていますけれども、実務教育としても民事・刑事とも必修にしなければいけないのかという点についてお聞きしたいと思います。
 もう一点は、ADRは必修にしないというのはよく分かりますけれども、ある程度、ADRのことも、民事訴訟実務の基礎の中でも紹介した方がよいのではないかということです。民事訴訟法のシラバスを見ると、和解に関する議論や、あるいは紛争を訴訟で解決することはどういうことかなどというものもありますけれども、ADRのことも、この科目の中でも紹介した方がよいのではないかという気がします。

○ 磯村教授 法情報調査・文書作成の問題は繰り返しになりますので、あと二つの問題点についてお答えしたいと思います。民事・刑事の両方の訴訟実務科目が必修科目である必要があるかどうかということについては、これもワーキング・グループの中で少し議論がありまして、特に研究者のメンバーからは、どちらか一つを選択で認めるという方向もあるのではないかという意見もありました。しかし、ワーキング・グループに入っていただいた法曹三者の方々との御意見の交換の中で、民事・刑事の訴訟実務科目両方が必修として必要であるということになりました。考え方としては、特に実務修習が法科大学院修了後にいきなり始まるというところで、たとえば刑事実務の基礎をまったくやっていない人が、いきなり刑事の分離修習に耐えられるかというと、そうではないだろうということであります。
 また、このことは、法律基本科目についても、刑事法・民事法両方とも必ず必修である必要があるかという問題点とも関係するのだろうと思います。
 ADRの問題については、民事訴訟実務の基礎という科目と刑事訴訟実務の基礎という科目の若干の相違点があり、刑事の場合には基本的に訴訟を前提とするということが不可欠であるのに対し、民事の場合には裁判ということを視野に置きながら、例えば契約実務の問題というようなものをさらに取り上げるべきではないかという御意見もありました。実際に京都大学でのシンポジウムでもそういう発言がフロアーからもございました。それは全くそのとおりであり、紛争解決という広い視野で考えますと、訴訟に限定するということは必ずしも適当ではないというのは御指摘のとおりだと思います。
 例えば仲裁の問題も含めてでありますが、訴訟になれば、どういう解決があり得るかということを念頭に置きながら、訴訟以外の解決の仕方も考えるというときに、どの部分の説明が必要的で、どの部分が任意的かということを考えることは必要だと思います。各法科大学院でADRの問題等々も積極的に取り入れるということは非常に望ましいことだと思いますが、限られたチョイスの中で何を優先すべきかということを考慮し、案としてはこういうものが出てきたということであります。

○ フット委員 その点に関して、昔のアメリカの実務教育は、民事にしても刑事にしてもむしろ法廷教育だけであったのですが、最近は、そのことに対する批判がかなり強くなっています。日本の法科大学院においては、最初の1セッションか2セッションぐらいで、訴訟以外にもいろいろな方法があるということを紹介する程度でよいのではないかと思いますけれども。

○ 川端委員 磯村先生もお分かりになっているのですけれども、実務科目は実務家、基本科目は研究者というすみ分けだけは絶対しないようにしていただかないと、法科大学院をつくる意味がないということを申し上げたいと思います。つまり、今までは司法研修所では現行実務を教えるということだったのですが、実務科目も法科大学院で教えることによって、研究者的な視点に立って、現行実務を批判的に分析して新しいものを生み出していく能力を培っていただきたい。法曹倫理科目についても同様に、法哲学者あるいは法思想史の方、法社会学の方が一緒に担当することによって、今まで日本になかった新しい学問分野を育てていくという視点を是非忘れないようにしていただきい。

○ 加藤委員 私は、この中間報告案は実務基礎科目のイメージをきちんと整理されており、さらに、その濃淡を位置づけられたものと受け止めておりまして、内容的に賛成です。もっとも、実際にどのように実行するかが問題であり、法文書作成についても、それに特化した科目を設けて教えるだけでなく、例えば民事法総合演習、刑事法総合演習などでもレポートを出させるなど、可能な限りあらゆる科目でそうしたスキル養成も視野に入れた教育をしていただき、総合的に法文書作成能力を養成することが大事なのではないかと思います。
 また、法科大学院においては、実務への架橋を意識した教育を行うこととされているといっても、我々は研究者が実務家と同じことを言ってほしいと思っているわけではありません。研究者教員と実務家教員の相互交流の中で、法科大学院における教育をより豊かな、よりよいものとしていくべきであると考えており、法科大学院の教育がそういう方向で行われるべきであるという点については川端委員と同じ意見です。

○ 田中座長 内容に関してはいろいろ意見があると思いますし、今、皆さん方が御指摘の点は重要であり、中間報告案でも別に排除されているということではなくて、どれを必須として考えていくかということについて、一つの考え方が示されたわけです。この検討会におきましては、昨年3月に法科大学院の第三者評価(適格認定)基準の在り方について、「法科大学院における実務基礎科目の必修単位数については、当初は5単位とし、平成23年ころを目途に9単位とする」との意見の整理を行ったところですけれども、磯村教授から説明がありましたように、法曹関係者も交えていろいろ検討された結果、実務基礎科目の必修単位数を当初は6単位、平成23年ごろを目途に10単位とする方向で検討が進められていることを踏まえますと、この検討会といたしましても、当初は5単位、23年ころに9単位にするということに必ずしも固執する必要はないと思います。当初6単位、将来的には10単位とすることで、関係者の間でコンセンサスが得られるということであれば、このような変更もあり得るということとして、今、委員の方々からいただいた意見を踏まえて、引き続き磯村教授の委員会でも検討していただくということにしたいと思います。第三者評価の基準というのは、最終的には、文部科学大臣の認証を受けた機関が独自に定めることになっておりますので、そこにできるだけ反映できるような形で意見を集約していきたいと思います。
 磯村先生、お忙しいところありがとうございました。

(磯村教授退席)

 それでは、引き続きまして、法科大学院の実務家教員の確保について検討を加えたいと思います。前回の検討会では、いわゆる教員派遣法案につきまして御検討いただきました。そして、事務局から説明のありました基本的方針に沿って立案作業を進めていただくことにしたわけでございます。
 また、この教員派遣法案につきましては、2月6日に開催されました顧問会議におきましても、事務局から説明のあった立案の基本的な方針が了承されたとお聞きしております。現在、事務局におきまして、さらに具体的な立案作業を進めておられるわけでございますけれども、現時点における検討状況につきまして、事務局から補足的に説明していただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

○ 片岡参事官 それでは法科大学院の教員派遣制度につきまして、前回の検討会における説明に補足しまして、現時点における検討状況を御説明申し上げます。
 一言で申しまして、この教員派遣制度に関する法律案の立案作業につきましては、まだまだ法制的・技術的に非常に難しい問題点が残っているという状況にあります。
 前回の検討会におきましては、この教員派遣制度につきまして、いわゆるパートタイム型とフルタイム型の2つの派遣方式を整備する方向で検討していることを御説明いたしました。その際、パートタイム型につきましては、法科大学院に派遣された者につき公務員としての給与を減額せずに、その代わりに法科大学院から国庫に一定額を納付していただくような制度を検討していることを御説明申し上げたところであります。特に裁判官につきましては、憲法第80条第2項におきまして、報酬は在任中これを減額することができない旨が定められていることから、そのような制度設計を検討する必要があると考えております。
 しかしながら、このパートタイム型におきましても、派遣される者が、法科大学院との間で雇用関係にあるという法律構成をとりますと、派遣される者に対して、法科大学院から直接賃金が支払われないことをどのように考えるのかということなどの点で、労働法規との適用関係が問題となり得るところであります。このような点はパートタイム型の派遣についてどのような法律構成をとるかということとも関係するところであり、現在検討しているところであります。
 さらにこの点に関しまして、一般職の国家公務員につきましては、一般職の職員の給与に関する法律第15条におきまして、職員が勤務しないときは、その勤務しない1時間について、勤務1時間当たりの給与額を減額して給与を支給するという規定が存在しております。すなわち、例えば、いわゆる兼職承認を得て勤務時間内に公務以外の仕事をした場合には、その時間の分の給与を減額するという公務員制度上の原則になっているわけであります。
 法科大学院における教員としての業務は公益性が高いものであるものの公務そのものではないことから、やはりこの原則が適用され、一般職の国家公務員がパートタイム型で法科大学院に派遣された場合には、公務に従事しなかった時間の分は給与を減額すべきであるということになります。
 したがいまして、現在の検討では、一般職の国家公務員につきましては、このような公務員制度との関係もありまして、給与を減額せずに法科大学院から国庫に一定の金額を納付していただくというような制度とすることは困難であるという状況となっております。
 なお、検察官につきましては、どのような制度設計とすべきか、現在さらに検討しているところであります。
 また、フルタイム型の派遣につきましては、派遣された者が処遇面で不利益を受けることのないような制度設計としたいと考えているところでありますが、特に給与に関する面におきまして、どのような場合にどのような措置を講ずるべきかにつきまして、さらに関係省庁と協議を重ねているところであります。例えば、地方の法科大学院における実務家教員の確保に資する場合などのように、処遇面における措置を講じて派遣することが必要であると考えられる場合もある一方で、派遣される者に不利益を与えない形で受け入れることのできる法科大学院も存在するものと考えられますので、これらを勘案しまして、どのような場合にどのような措置を講ずるべきかについて、なお検討を要するという状況にあります。
 そのほか、フルタイム派遣の場合における災害補償の関係、共済組合の関係、退職手当の関係等につきましても、それらの制度を所管する省庁等との間でさらに協議を進めているところであります。
 このような状況にあることから、教員派遣制度につきましては、現時点で条文案に近いような形の資料はいまだお示しすることができないという状況にあります。御理解のほどよろしくお願い申し上げます。

○ 田中座長 今説明のあったように厳しい状況にあるようでございますけれども、御質問とか御意見のある方はどうぞ。

○ 永井委員 本法律案の立案作業の今後の見通しについては、どういうふうに考えられているのでしょうか。

○ 片岡参事官 今、申し上げましたように、パートタイム型については、裁判官と一般職の国家公務員とでは制度設計が変わり得る可能性も出てきますので、その辺の調整がつけば、条文案は書けると思っておりまして、公務員制度の原則等との関係について、どう考えるべきかを判断すべき段階に来ているという状況であります。

○ 永井委員 先ほどパートタイム型で、大学から賃金が支払われないとすると労働法規との適用関係が問題になり得るというお話がありましたけれども、今、官庁の行政職ないしは法曹界からもいろいろな形で教員派遣を受けている大学が多いと思います。このような場合において、公務員倫理規程がかなり強化された中で、省庁によっては報酬等を全部返上され、いわば無給という形で来られることがあり、各大学はそれに対応して、教員規程をつくっております。このような無給の客員教授、客員講師、兼任講師が問題だというような意味なのですか。

○ 片岡参事官 法科大学院への教員派遣制度については、例えば、裁判官だけは法科大学院から報酬を受け取らないという仕組みにしますと、各法科大学院は裁判官のみの派遣をお求めになるなど、運用上、不都合が生ずるようなことがあるかもしれませんし、また、法科大学院の場合は特に公益性が高いというものの、公務そのものではないということで、裁判官を含めた国家公務員が公務のような形で派遣されて報酬を受け取らないというような仕組みにすることは、法科大学院側の受益者負担という観点からも難しいと考えられることから、どうするかということを検討しております。

○ 永井委員 法科大学院の設置認可申請までに実務家教員の確保をしなければならないことなどを考えると、派遣スキームによる実務家教員を確保するために枠をあけておくか、別の手段で実務家教員を確保するのか決断する必要があるので、早く決定していただきたいと思います。

○ 田中座長 もちろん事務局の立案作業を急いで進めてもらうと同時に、設置認可手続の関係でも何らかの対応をしていただくことを考えざるを得ないという状況になっている感じがいたします。法科大学院への教員派遣制度を立案することについては、事務局から説明がありましたように、法制的にも技術的にも難しい問題が残っているようでございますけれども、ほとんどの大学では法科大学院において実務家教員を確保するために、できるだけ早くやっていただきたいという考えでございますので、この通常国会に法案が提出できるように、事務局において問題点について検討を進め、何とか円滑に法科大学院の設立準備ができるように御配慮いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 最後に本検討会の第1回会合の内容を記録した録音テープに対する情報公開請求に関しまして、情報公開審査会の答申がなされたようでございますので、その件について、事務局から御報告いただきたいと思います。

○ 片岡参事官 御報告申し上げます。以前にもお知らせいたしましたが、本検討会の第1回会合の内容を記録した録音テープについての不開示決定に対しまして異議申立てが行われ、当本部からの諮問により情報公開審査会で審議中でありました。そして、本年2月7日付で議事の公開の協議の部分は不開示が妥当であるが、その他の部分は開示すべきであるとの答申がなされました。
 事務局といたしましては、この答申の内容を踏まえまして、適切に対応してまいりたいと考えております。答申の内容について、もう少し具体的に言いますと、この議事を公開するかどうか、あるいは議事録に発言者名を記載するかどうかというような議事の公開の協議に関する部分は不開示というのが妥当であるとする一方で、マスコミ等も傍聴している協議の部分及び座長の選任の部分は開示すべきということになったということです。

○ 田中座長 この点につきましては、事務局において情報公開審査会の答申の趣旨を踏まえて適切に対応していただくことにしたいと思います。
 それでは、本日の検討会はここまでにしたいと思います。次回の検討会は3月19日午前10時30分から、場所は本日と同じこの会議室を予定しております。次回は本日に引き続きまして、教員派遣法案の関係につきまして、報告を受けるとともに、司法修習生の給費制の在り方などについて、さらに検討を加えることにしたいと思います。
 本日はどうもありがとうございました。