○田中座長 おはようございます。それでは、第18回の「法曹養成検討会」を始めたいと思います。
まず、前回までに引き続いて、司法修習生の給費制の在り方について御検討いただきたいと思います。
それに続きまして、法科大学院の教育と司法試験等との有機的連携の在り方について、特に知的財産権の分野では、知的財産戦略本部におきまして、先日策定されました推進計画の中に、法曹養成制度に関係する事項が盛り込まれたということでございます。法曹養成制度における知的財産権教育の在り方については、牧野委員を座長として、実務家による研究会が開催されているということでございますので、本日は、そのメンバーである松下電器産業株式会社の齋藤憲道様にも御出席いただきまして、説明をお伺いする予定にしております。
その上で、その御意見を参考にしながらも、知的財産法など特定の科目に限定するのではなく、広く法科大学院の教育と司法試験等との有機的連携の在り方、とりわけ新司法試験における選択科目の在り方について皆様から御意見をお伺いしたいと考えております。
そのほか、4月に成立いたしました法科大学院への裁判官及び検察官その他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律につきまして、関係政令の立案が必要になるということがございますので、事務局からその説明を受けることにしたいと思います。
それでは、まず、事務局の方から本日の配布資料の確認をお願いしたいと思います。
○片岡参事官 それでは、本日の配布資料の確認をお願いいたします。
事務局からの配布資料としましては、配布資料の1から3までであります。
資料1は、法曹養成検討会第17回議事概要であります。
資料2は、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」の抜粋であります。これは、去る7月8日に知的財産戦略本部において決定されました推進計画のうち、法曹養成制度に関係する部分を抜粋したものでございます。
資料3は、実務家の視点による法曹養成制度における知的財産権教育の在り方についての中間とりまとめであります。これは、牧野委員を座長とします実務家研究会において、中間とりまとめとしてまとめられたものでありまして、後ほど牧野先生、齋藤先生から御説明いただくことを予定しております。
そのほか、文部科学省からの資料といたしまして、平成16年度開設予定の法科大学院の設置認可申請(計画)状況という資料をいただいております。6月末に締め切られました法科大学院の設置認可申請の概要でありますが、設置認可申請書類を提出した大学が、国立大学が20大学、公立大学が2大学、私立大学が50大学の合計72大学となっておりまして、入学定員の総数は5,950 人となっております。
以上、御確認ください。
○田中座長 どうもありがとうございました。法科大学院の設置認可申請につきましては、この6月末に締め切られたばかりでございまして、今後、関係審議会におきまして、審査が始まるという段階でございますので、本日は、この配布資料を御覧いただくことにいたしまして、今後、更に審査が進んだ段階で必要がありましたら、また文部科学省などから説明を受けるということにしたいと思います。
それでは、まず、司法修習生の給費制の在り方についての検討に入りたいと思います。
この問題については、これまでも何度か御検討いただいたわけでございますけれども、本日は、まず、事務局の方から、現在の検討状況などにつきまして説明を伺った上で、更に検討を加えたいと思います。
それでは、事務局の方からよろしくお願いいたします。
○片岡参事官 それでは、司法修習生の給費制に関しまして、現在の検討状況につきまして概要を御説明申し上げます。
まず、結論的に申し上げまして、今後、司法試験合格者、司法修習生の大幅な増加が図られる中で、司法修習生の給費制を維持することは極めて困難な状況にあるのではないかと考えております。
例えば、司法修習生が年間3,000 人となった場合に、給費制を維持し、司法修習生一人当たり年間300 万円程度の給費を支給することにすれば、司法修習生の給費に要する予算だけでも年間90億円、単純計算で300万円×3,000人で年間90億円が必要となりまして、これだけでも現在の予算に比して約30億円の増額が必要となるわけです。
さらに、給費を別にしましても、司法修習の実施に要するその他の費用につきましては、司法修習生の増加に伴いまして、年間数十億円の規模で増額が必要となります。
したがって、仮に司法修習生の給費制を維持するとすれば、総計で少なくとも50億円以上の予算の増額を確保するという必要があるものと思われます。
そのような予算を確保することができるかどうか自体も問題でありますが、一方で、法科大学院の学生に対する財政支援が問題となっているほか、今般の司法制度改革におきましては、今後、被疑者段階における公的弁護制度の導入、司法ネットの整備、裁判員制度などのように、相当規模の財政措置が必要になると思われる事項が少なからず存在しております。
このような状況にあって、関係機関との協議を進める上で、あくまでも司法修習生の給費制を維持することを目標として協議を進めるのか、それとも貸与制への移行があり得るという前提で調整を進めることとするのかについて、本検討会の御意見をお伺いできればと思っております。
以上でございます。
○田中座長 この問題につきましては、法科大学院から司法修習までというプロセス全体における学生の負担の問題と関連づけながら、従来から検討してきましたが、特に今、片岡参事官からもお話がありましたように、司法修習生の給費制の問題につきましては、法科大学院の学生に対する財政支援の問題と密接に相関しているとはいえ、いつまでも放って置くわけにいかず、一定の方向性を出さないと全体の制度の検討が進まないという状況に来ているのではないかと思います。
特に、法科大学院の学生に対する財政支援の問題が非常に大きな問題になっているわけでございますけれども、こういった点も踏まえまして、今、片岡参事官から説明があったことなどについて御意見がありましたら、どなたからでもお伺いしたいと思います。
○永井委員 法科大学院制度ができると、法曹になるまでに、3年の在籍、司法試験を受けている約半年間、それから修習の1年と約5年弱かかるわけです。そういうトータルの財政支援を設計していかないと、ある1か所だけの検討ではバランスが崩れるのではないかと思われるわけです。
そういった場合に、私立大学と国立大学とのイコール・フッティングということを、司法制度、とりわけ法曹養成制度においては重視していただきたいと思っているわけです。
日本育英会の有利子奨学金の貸与月額が今13万円ぐらいですが、多分それでは財政支援としては不十分だと思いますので、専門職大学院などについては最低20万円ぐらいに引き上げていただくことや、そのほか私立大学に対する一般的な助成をどのように考えるかといったこと、5年弱にわたり学生が学ぶ期間のトータルの負担を軽減するという問題の中で、司法修習生の給費制の問題も考えるべきではないかと思います。トータルでの補助が少ないと、やはり最後に司法試験に受かった後でも借金をしながら生活しなければいけないというのでは、そもそも法科大学院を目指している学生が、経済的な事情によって選別されて、合格率が左右されるなどというようなことになってしまわないように、是非トータルの制度設計についてバランスを取って考えていただきたい。
給費制をなくすというのならば、その前の財政支援を十分にして、トータルで負担を少なくするということが必要なのではないかと思われます。
○井上委員 この問題については、私立大学と国立大学とが対立すべきものではないと思うのです。国立大学も来年春から法人化しますので、かなり財政的な意味では頭を悩まさなければいけないということになっています。
また、法人化後も、国立大学は、法人化したとはいえ、国立大学法人であるということの存在意義がどこにあるのかということを考えますと、やはりそれほど経済的に余裕のない方でも高度の教育を受ける機会を担保するという意味は、少なくとも1つの意味としてあるのだろうと思うんです。
そういう意味からしますと、私立大学の方から国立大学の授業料もかなり上げて、私立大学と余り差がないようにしてもらいたいというような声も聞こえてくるのですけれども、国立大学の国立大学法人としての存在意義を考えますと、授業料を高額に上げるということもできないのです。
これは医学部や理工系学部などの経費のかかる部局とのバランスもあって、なかなかまだ先が見えないのですけれども、そういう事情がありますので、イコール・フッティングの中身が問題になるのだろうと思います。
先日、私どもの大学の方で説明会をしたところ、700名ぐらいの人に集まっていただきました。その中には社会人もたくさんおられましたし、他学部、特に理系学部の学生もたくさん来られたのですが、特に社会人の方などからは、授業料が幾らになるのかということと同時に、奨学金の制度はどうなっているのかと、今のままなのかどうなのかというところについて、かなりたくさんの質問が寄せられました。その関心の強さというのがひしひしと感じられたわけです。
特に、今、設置申請している1学年の学生数が6,000人ぐらいで、司法試験合格率が単純計算するとそんなに高くならないとすれば、多額の借金をしてお金を注ぎ込んで、しかも職をやめて法曹を目指すことにかけてみるという場合、かなり大きなリスクがあるので、財政的な意味でもやはり十分な手当をしてもらいたいというような声が感じられました。全体としては永井委員のトータルで考えるという御意見はそのとおりだと思いますが、中身を具体的に詰めていくときに、そういった面も配慮していただきたいと思います。
○永井委員 今の特色ある法科大学院教育という中では、小さい法科大学院の方が焦点を絞った教育をしようとしており、それが私立大学にかなり多いということも踏まえ、法科大学院に進学を希望している学生たちが、そういう私立大学にも行けるようにするために、個々の学生に対する奨学金を充実して、国立大学とか私立大学に関係なく選択の幅が広げられるような制度設計をしていくことが必要なのではないかと思うのです。大学への支援ももちろんお願いしたいと思いますけれども、学生にとってみれば、国立大学・私立大学の関係なしに、それぞれ自分の将来のキャリアデザインに対応した教育をしている法科大学院に進学できるような奨学金制度が必要なのではないかと思います。
そういう意味では、もし私立大学と国立大学の授業料に差がある場合には、私立大学の法科大学院への進学者に対する奨学金というようなものを充実させないと、学生の将来のキャリアデザインに対応した選択ができなくなるのではないかと思います。そうすると、そのような特色ある教育を私立大学でやるといっても、その特色が活かされなくなってしまうのではないかというような気がしますので、その点も御検討をいただきたいと思います。
○田中座長 今、永井委員と井上委員から御意見がございましたけれども、国立大学と私立大学の条件の比較はともかく、いずれにいたしましても、法科大学院の学生支援という問題がかなり重要な問題だということは、前から皆様に御認識いただいていたと思います。以前にも文部科学省から説明をいただきましたが、その後も事務局の方でもいろいろ御検討をいただいておりますので、何か補足的に現在の検討状況などが何かございましたら、まず、事務局からの説明を聞いた上で、御意見を交換していただきたいと思います。
○片岡参事官 それでは、補足的に、現在の検討状況について、御説明を申し上げます。
法科大学院の学生への支援という問題につきまして、関係機関からも数字等も含めまして、お話をお伺いしているところでございます。
しかしながら、いずれの方策についても大規模な財政措置が必要であるなど、いろいろと困難な問題が存在しております。
例えば、日本育英会の有利子貸付けの上限を月20万円程度に引き上げるというお話がございました。そうしますと、年間240万円程度の貸付けになるわけですが、仮に法科大学院の学生に広く貸与するというポリシーで、1万人の学生に貸与すると考えました場合、単純計算で240万円×1万人で240億円となり、数百億円程度の原資が必要となるわけで、長期的には償還されるわけですが、毎年年間数百億円という大規模な原資の手当をしないといけないという計算になるわけでございます。
また、私学助成というお話もございました。例えば、直接的に学生の授業料を引き下げるような効果がある私学助成を計算しますと、仮に私立大学の法科大学院の学生数を合計1万2,000人程度とすれば、年間1人当たり10万円授業料を引き下げるような効果がある私学助成を行うためには、単純計算で10万円×1万2,000人で12億円となり、毎年12億円の財政措置が必要となります。また、年間20万円引き下げるためには、毎年24億円の財政措置が必要となるという計算になり、非常に規模の大きい財政措置が必要となります。
しかも、これを従来からの文部科学省の、いろいろな分野がある中で措置することになりますので、どうして法科大学院だけ措置をするのかという必要性、合理性の説明も必要になってくるわけでございます。
そのほか、従前からお話が出ていましたものといたしましては、国民生活金融公庫の教育ローンの貸付け限度額を、現在の200万円から引き上げるという御提案もございました。教育ローンの拡充というものは、民間金融機関に任せるべきであって、国の政策として、法科大学院の学生に関する教育ローンを充実させるまでの政策的な必要性、合理性があるのか、特に国民生活金融公庫というようなものを使う必要があるのかという問題があろうかと思います。
そのほか、政府保証ローンというようなお話もございましたが、政府が直接保証するというものに限らず、一種の何らかの公的な保証制度というものが考えられないかということでございますが、国の財政措置の前に、そのような仕組みをつくるに当たって、貸倒れのリスク管理をどうするのかという問題や、どこが実施を担当するかという問題などがありまして、具体的な形がなかなか詰め切れない段階でございます。この点については、そういうことが可能かどうか、将来的にあり得るのかどうか、引き続き時間をかけて検討する必要があると考えております。
いずれにしましても、このような困難な問題があり、特に法科大学院についてのみ、そのような特別な措置を講ずる合理性、必要性があるのかということについて、なかなか理解を得ることが難しい状況にあると言わざるを得ません。
そのような中で、法科大学院の学生への支援を、更に強く関係機関に働きかけるという段階にきており、その一方で司法修習生の給費制の見直しについては、明確な方向性が出ていないという状況にあることから、担当者といたしましては、非常に困難な立場に置かれていると申し上げざるを得ない状況にあります。
○田中座長 担当者だけではなくて、法科大学院の設置に関連している者は、特に財政の問題に関しては、なかなか志望者に対して具体的な見通しを説明しにくいというのが現状でございますけれども、ただいまの事務局の説明も踏まえまして、全体について、特に司法修習生の給費制の問題をどうするかという当初の問題を中心に、御議論をしていただきたいと思います。
○川野辺委員 司法修習生の給費制を考えるに当たっては、法科大学院の学生への財政支援をトータルで考えるべきだという御意見はもっともだと思うのですけれども、やはり司法修習生と法科大学院の学生というのは、かなり違うのではないかと思います。司法修習生は司法試験という国家試験に合格して、1年経てば、大体が法曹になっていく人たちであり、司法修習については、修習専念義務が当然あります。
ですから、司法修習生については、アルバイトしながら司法修習を受けるというのは困るという感じがあるわけですけれども、法科大学院の学生については、奨学金制度を整備するのはもちろん必要なことですけれども、ある程度アルバイトしながら勉強したっていいのではないかという感覚があるので、やはりトータルとして考えるとしても、司法修習生と法科大学院の学生というのは、ちょっと違うのではないかなという気がしております。
○川端委員 現在、法曹養成制度を転換しようとしているわけで、これからの法曹というのは、法科大学院で十分な教育を受けて、そのプロセスを経て司法試験に合格し、司法修習生を経て法曹になっていくという形になっており、それはやはりトータルで考えなければ、将来の法曹を志望する人を法科大学院の高い学費が妨げるという結果をどうしても招来してしまうと思うのです。
しかも、そのようなプロセスとしての法曹養成制度への転換が図られたのは、知的財産立国などいろいろと言われていますけれども、これからの日本の国の在り方として、専門職がもっと高度な教育課程を経ることにより、世界に太刀打ちできるような専門家をたくさん養成しなければならないという根本的な政策決定が司法制度改革審議会で行われたからです。それを実現しようとしているわけですから、その政策が優先されるとすれば、当然財政支援も十分になされなければならないということになるのではないかと思います。
先日、新聞に、30代女性が法科大学院に熱い視線を送っているという記事が載っていました。今まで弁護士になろうとしなかったというか、なれるとは考えていなかった人たちが、法科大学院を目指そうとしているということですけれども、こういう動きは当然非常に歓迎すべき動きだと思いますが、そこでもやはり学費の高さ、プラス生活費が、非常に大きな障害として語られていました。
これは、当然のことでありまして、法科大学院は、今までの大学の学部のような講義を一方的にし、学生はほとんど出席しないというような姿を描いているのではなくて、ほとんど寝食を忘れて授業の準備をし、復習をしなければついていけない教育をするという構想で始まったのです。ですから、学生はアルバイトしなさいというのでは、そもそも制度が最初から成り立たず、3年間で司法試験に合格するような学力を身に付けるという構想自体が絵に描いた餅になってしまうのではないかと思うわけです。
その意味で、法科大学院の学生に対する支援は必要であり、当然、今ある制度をいろいろと利用しなければいけないと思うのです。先ほど事務局から説明がありましたとおり、どれか1つの制度に集中的に頼るということは、どうも今の国の財政事情からしても難しいとすれば、今あるリソースをそれぞれ最大限活用していくという方向で考えるべきだと思います。
そうなると、日本育英会の有利子奨学金を20万円に増額するというのはどうしてもやっていただかなければならないと思いますが、それだけで足りるわけではないので、多様な手段で学資を得る道を用意する必要があると思います。
そうすると、やはり国民生活金融公庫の教育ローンも貸与金額を増やし、かつ、これは現在は世帯による資力制限要件が付いているのを本人の資力要件に切り替えるということで、充実していただくことが是非必要なのではないかと思います。
それと、アメリカのいわゆるスタッフォード・ローンのうちの民間資金を活用した政府保証ローンに似た制度として、直接政府保証ではないにしろ、公的機関が何らかの形で保証をすることによって、民間資金をできるだけ低利で活用できるようにするという仕組みを是非新しくつくっていただきたいと思います。
ただ単に民間の金融機関に教育ローンを企画させますと、新聞記事に出ていましたけれども、法科大学院の学生が将来法曹になって返済していく割合、その返済能力の問題がどうしてもあるものですから、リスクが高くなり、利息が非常に高くなってしまうという問題があるわけです。そこをやはり公的機関が金融機関に対して保証することにより、低利の教育ローンが民間の資金を活用して行えるように是非していただきたいと思います。これは新しい制度をつくるということにならざるを得ないと思いますので、なかなか困難な点はあると思いますけれども、なければならないものであると思います。
そういうものが全部でき、学生が法曹になれるか、なれないかが親の資力で決まるということにならないという制度ができて初めて、修習生の給費制の問題というのも合理的に解決できるのではないかというのが、私の考えていることです。
現在、世界各国で司法修習という課程を義務づけている国は、日本のほかにドイツと韓国があります。ドイツには、非常にたくさんの司法修習生がいて、しかもその司法修習生の身分は公務員ではないという州が相当数あるようですけれども、いずれにせよ、例えばブルデンベルグ州で2,500人、バイエルン州で3,762人という多数の司法修習生に、財政事情が厳しいにもかかわらず、給与を支払っております。ただ、その金額が低いので、アルバイトも許しているというところに問題があると言えばあるわけですけれども。もっともアルバイトのシステムも非常に面白いものでして、成績優秀者には司法機関で週何時間まで働くことを認めるという制度にしている州もあり、また成績が低い合格者にはアルバイトを認めないという州もあるようです。
そういう意味では、全員がアルバイトできるわけではありませんけれども、いずれにせよ、修習専念義務を緩めて、一方で給費制は維持するというのがドイツの制度です。
韓国の方は、もっと公務員的でして、身分は公務員と法律上位置づけられているわけですけれども、1年目が行政官の1年目の給与、2年目が行政官の2年目の給与と同水準の給費を維持しているわけです。
ですから、日本でも司法修習を1年間義務づけるという制度は変えないということにしたわけですから、そこに至るまでを含めて無理のない手当が全体としてできていなければ、単純に給費制を廃止して貸与制に替えればよいということにはならないのではないかと思います。
先ほど永井委員が言われたとおり、3年プラス司法試験の受験期間プラス司法修習の1年と、約5年に及ぶわけですから、最後の1年の給費制が貸与制になって、その返済義務を負うというのが、いわばラクダの背中に乗せられた最後の一本のわらになってしまうかもしれないわけです。
そこで制度として、法曹になるためには相当な資力の準備がないとなれないという制度になってしまう可能性もあるわけですから、そこは慎重に考えていただきたいというのが私の意見です。
○今田委員 法曹養成の全体のプロセスを考えることが必要だという意見には、私も同意なのですが、1つだけ重要だと思いますのは、法科大学院の卒業というキャリアの問題として、法科大学院の1学年当たり、何人ぐらいの学生が輩出されるのかにもよりますが、法科大学院を出て司法試験に受かった人たちは法曹界にリクルートされ、その人たちは、ある程度の経済的な返還能力はあるだろうと思いますが、問題は、そうではない人たちも法科大学院の学生として考えておかなければいけないということなのです。奨学金の制度をつくる場合には、司法試験に受からなかった人たちの返済能力がどうかということをある程度考えて、その上で全体の奨学金制度なり、ほかの制度なりの全体のキャパシティー、その大きさを考えるということが必要なのだろうと思います。
そのように考えると、法科大学院から司法試験に受からなかった人たちのキャリアというのは、例えば医学部を出て、お医者さんにならなかった人たちと同じであるのかどうか、人材養成のプロセス全体の中で考えられる人材の多様性との関係で法科大学院の場合には、ある程度法律的な知識を持っており、法曹界に行かなくても一般の企業や、そのほかの分野で法律的な知識を基にして活用することができるように、いろいろな新しいキャリアができ上がってくるとよいのではないかと思われるので、司法試験に受からなかった人も、その後のキャリアとしては比較的経済的な返還能力というのはあるのではないかと思います。
そのように考えますと、奨学金制度をつくるに当たって1つ大きく危惧される返還能力、リスク管理においてやりやすい、日本育英会の有利子奨学金以外の民間の奨学金制度などを豊かにつくり上げていく上においては、貸倒れなどについての見込みをある程度図りながら、積極的に奨学金制度を充実させるということについて、英断をしてもよいのではないかなというのが、私の感想です。
○木村委員 日本の産業が空洞化しかかったころに、文部科学省が育英制度に関する調査研究協力者会議を組織しまして、奨学金についていろいろな議論をしたことがあります。
産業が空洞化することを防ぐという意味からも、理工系学部の博士課程の学生に給費制の奨学金を出すべきだと主張したのですが全く相手にしてくれず、まさに孤軍奮闘となってしまい、結局私の主張は全く聞き入れられませんでした。理由は簡単で、どうして理工系学部の学生だけ優遇するのかということでした。
ここの議論で気を付けなければいけないのは、法曹というのは、世の中のステータスが非常に高いという共通認識がありますから、主張を間違うと、私がかつて経験したようなことになってしまう可能性があります。状況は非常に厳しいのではないかと思います。
もう一つ悩ましいのは、世界的に、先進諸国で高等教育に参加する人たちについて受益者負担という考えが広がっているという事実です。御承知だと思いますが、伝統的に授業料を取らなかった英国が98年から授業料を取り始めております。ドイツも財政状況が苦しいことから、今、いろいろな策を打ち出しています。その辺の状況まで考えて議論をしないと、国として法曹養成に重きを置くということを決めたとはいえ、なかなか議論は難しいのではないかと思います。
先ほど川端委員がおっしゃったように、いろいろな切り口で予算を確保する以外に方法はないのではないかという気がします。
工学部関係などに比べると、法曹というのは、世の中の認知度がはるかに高い職業ですから、御主張には大賛成なんですが、なかなか難しいのではないかという気がいたします。
○川端委員 私も木村委員の言われるとおりだと思うのです。法曹は、なれば社会的地位も高いし、収入も高いという職業です。ですから、将来の返済能力というのはあるのです。問題は、法科大学院の学生なり、司法修習生の間は本人自身は資力がないことで、将来の社会的地位や収入への期待を担保にして、お金が借りられる制度がいろいろな形で整備されることが重要です。日本育英会の有利子奨学金も、これは奨学金と言っていますけれども、非常に低利ではありますが、教育ローンです。各種の教育ローンを整備して、必要に応じて希望者はだれでも借りることができる制度にするということが非常に重要だと思うのです。
アメリカの連邦政府の保証による教育ローンを見ても、ロースクールの学生に対する貸倒れ率というのは、ほかの学部、あるいは大学院に比べて低いということです。アメリカのロースクールは極めて学費が高く、一流校の場合は1,000万円もの借金を背負って卒業すると言われていますけれども、それが可能なのは、たちまち返済できるからなのです。そういう意味で法科大学院の学生に対しては、お金を借りられるいろいろな道を用意してあげるということが、一番重要なのではないかと私は思っております。
もう一つ、日本的な、非常に最近特に気になってきている事情があるのですけれども、アメリカの場合は、ロースクールを出ればほぼ9割の合格率で法曹になれるわです。
ところが、日本の場合は果たしてそうなるのか。もともと司法制度改革審議会では、法科大学院できちんと教育を受ければ7〜8割の人が司法試験に合格できるような教育をするということで出発したはずのものが、どうもそうならないのではないかということが言われていて、そこが問題ではないかという気がします。それで金融機関も非常にリスクが高い融資になるということをすぐ言うわけです。そこがゆがんでしまうとちょっと困るという思いがあるのです。
その関係で、最近、ある弁護士の方が、1,500人の合格者を出す現行司法試験は2010年まで続けられるし、合格者数が3,000人になるのもその頃であるから、結局、新司法試験の合格者は、当分1,000人前後ということになるということをお書きになっています。
旧司法試験を5年間存続させるということは、確かに決まっているのですけれども、その合格者数が1,500人のまま維持されるということは、全然決まってもいないのに、各方面で最近盛んにそういう宣伝がなされているという事実があります。
これは非常に問題でして、新しい制度に切り替えるということが決められており、旧司法試験の存続というのは、あくまでも現在司法試験を受けている人たちの救済策として残したわけですから、合格者枠は、当然順次減っていって、最後の5年目には、非常に小さな枠になるという形にならなければ、制度としての合理性がないと思うのです。そうでないと、これから法曹を志す人は、法科大学院のプロセスを経て今まで以上の立派な法曹になるという新しい制度が成り立たなくなるということになると思いますので、その点も是非留意していただきたいと思います。
○井上委員 今、川端委員がおっしゃったことの一部を取り上げると、むしろ司法修習生になったら、その後において返済がかなり可能になるので、司法修習生の給費制を維持するということが果たして正当性があるのかどうかということが問われると思うのです。ですから、全体として掛かるお金のかなりの部分を前倒しで法科大学院の学生に何らかの形で援助していくという仕組みにせざるを得ないということは、そのとおりだと思うのです。
しかし、その中で川野辺委員がおっしゃったことも確かにポイントで、司法修習生と法科大学院の学生には違う特性を認めて、仮に貸与制のような形にするにしても、違う仕組みを考えるということはあり得ると思うのです。
だから、法曹養成制度全体として見ないといけないということと、それと我々の検討会では法曹養成だけに絞っているのですが、私が別の検討会で議論している部分は、公的弁護にしろ、裁判員制度にしろ、財政的には収入が余り入ってこなくて、しかし改革をすれば多額のお金が出ていくという部分なのです。また、先ほど片岡参事官が触れられましたように、そのほかにも司法ネットなどの司法制度改革を全体として整備していくときに、国全体として出費がかさんでいく状況で、給費制を維持できるのかどうかということを考えると、これまでとは違う仕組みを考えないといけないのではないかと思います。
○田中座長 この問題は、今まで堂々巡りしていたのですけれども、以前にも関係機関の御意見をお伺いし、只今も委員の方々の御意見を伺いましたが、司法修習生の給費制の在り方を見直すにあたって、どういった点を考慮するかということについて、関係機関の方から特に御発言がありましたら、今の段階でお伺いしたいと思います。
前にも意見はお伺いしておりますので、特に何か新しい考慮点などがありましたら、どうぞ。
○日本弁護士連合会 では、日弁連として川端委員のおっしゃったことと全く同じなのですけれども、結局、給費制の問題はきちんと結論を出さなければならないということは、そうだと思いますけれども、状況として、先ほど片岡参事官がお話になったような状況では、全体を通して、制度設計を行うことが適当な状況ではないような感じがしております。
そういう意味において、やはりきちんと法曹養成全体を見据えた構想という中で、この問題を位置づけて検討していただきたいということを強く申し上げておきたいと思います。 以上です。
○田中座長 ほかに何かございますでしょうか。
○最高裁判所 特に、新しく付け加えることはございませんが、今、井上委員、あるいは川野辺委員からお話がありましたところと同様の感じを持っております。
給費制というのは、司法修習生が司法修習に専念していくという意味では非常に効果的でありがたい制度でありますけれども、井上委員が御指摘になられましたように、一連の司法制度改革の中で、公的弁護制度や裁判員制度をはじめ、いろいろな制度が動き出そうとしております。この法曹養成制度についても法科大学院の設置ということが動いているわけです。新しい制度をつくっていくときには、やはりいろいろとお金も掛かりますし、最終的には国民の負担に関わってきますので、そのような見地から考えていく必要があると思います。司法制度改革審議会意見が給費制の在り方について触れているのもこういう趣旨であろうと思われます。
いずれにしろこれは制度改革におけます政策的判断でございますので、この検討会でよく御議論いただければと考えている次第でございます。
○法務省 法務省からも特に追加して報告すべきことはございません。今後の御議論を伺って、我々の立場で考えてまいりたいと思っております。
○田中座長 この問題につきましては、従来から法科大学院を含めた法曹養成制度全体を視野に置きながら、貸与制への代替措置の導入を含めて、給費制の在り方を見直すことについて検討するという方向は出ているのですけれども、そういうことに焦点を合わせて、どうするかについて何か具体的な御意見をいただければありがたいと思います。全般的な話よりも、もう少し給費制をどうするかということについて、まず給費制ありきと、絶対これは動かせないということでは、検討がもう進まないという状況は御認識いただいていると思います。議論を進めるために、いろいろとトータルな仕組みの中で給費制が貸与制に変わることもあり得るのだということも選択肢とせざるを得ないとして、これも含めて検討するかどうか、御議論いただかないと、全体的な仕組みが分かってからこの問題を検討すればいいという意見は分かるのですけれども、それではいつまで経ってもだれも何も言い出さない、動き出せないということになると思います。その辺りについて御意見をいただきたいと思います。
○諸石委員 制度全体が決まった中で考えると言うと、確かに総すくみということになります。全体の流れとして、司法修習生の給費制を維持できればベターであるのは間違いないけれども、それに固執していたらほかのことが進まないのではないでしょうか。だとすれば、法科大学院などのいろいろな財政支援全体の中で、給費制についてはフレキシブルに考えることを前提として、他省庁との折衝などいろいろなことをやっていただくというように決心すべきではないかと思います。
○田中座長 今、諸石委員がおっしゃったようなことは、従来からそういう方向でやってきていると思いますし、新しい展開だとも言えると思われます。その辺りはいかがでしょうか。
○川端委員 いろいろと転換を含めて検討しなければならないという状況にあるのはおっしゃるとおりだと思いますけれども、先ほど少し紹介しましたドイツと韓国の状況ですが、私が申し上げたのは、実は2000年前後の話で、ドイツは今、激しい改革を行っていますから、現在どうなっているのかという最新の情報が知りたいという思いがございます。韓国も司法修習生を大増員しておりまして、その状況の中でなお公務員として給与を与えているのはどうしてかということについても知りたいと思います。
ほかにも、カナダに研修弁護士制というのがありますけれども、これは弁護士会が集合教育をやる間は、授業料を取るけれども、実務修習は各配属された法律事務所が給料を払うという制度があります。
そういった制度がいろいろとあるので、単純に今の給費制を貸与制に切り替えて、返済をどうするかだけを考えるということではなく、もう少し視野を広くして検討してもよいのではないかという思いがします。事務局の方で、もし対応できるならばそういう資料も集めていただきたいと思います。
○片岡参事官 先ほど来からの川端委員、あるいは川野辺委員の御意見に関して、いろいろとやりくりというような部分が私の説明には多かったわけですが、例えば司法修習専念義務という問題を考えました場合に、仮に給費制は何らかの形で維持すると、今の額にこだわらないというようなことで、いろいろな諸経費、あるいは人数が増えた分の経費がかかる分はやりくりして、例えばですけれども、司法修習生の給費を月額5万程度として残すようなことで司法修習に専念せよというようなことは、やはりちょっと現実的ではないと思いますので、司法修習専念義務を踏まえて、司法修習を円滑に実施するという観点からは、必ず給費制を残すことにしようとしても、十分な額が支給できないということになります。
また、川端委員が御紹介されたように、アルバイトを自由とすることまではこの検討会だけで結論を出せませんが、例えば、この検討会としてアルバイトは自由だけど5万円か3万円かを毎月給費として支払うべきだというようなことになるのか、あるいは司法修習生の専念義務は、司法修習の大事な部分であるので、貸与制に切り替えてでも月20万円くらいは、つまり生活ができるぐらいには貸すという方法になるのかというような現実的な検討も必要だと思います。つまり、一種の抽象的な話として、給費制という本質的な部分を額はともかく維持すると言われても、後の現実問題はどうするかという問題があるような気がしますので、その辺について、また次回以降に御意見をいただければと思います。
○井上委員 専念義務との関係については、以前にも申し上げましたけれども、大学の学生にも学業専念義務というのはあり、別にアルバイトを奨励しているわけではありません。
川端委員が言われたように、法科大学院では、かなりの時間にわたり拘束され、土曜も日曜も拘束されるということになる可能性が高いのです。
そういう意味で言うと、専念義務があるから給与を保証するという議論はちょっと単純過ぎるのではないかと思います。ただ、司法修習生の特性というのはもちろんあるわけで、それに応じた制度設計というのはあり得るとは思います。
○田中座長 この問題は非常に難しい問題で、事務局の努力だけに任せておくわけにはいかないので、我々もいろいろな形で考えざるを得ないと思います。もちろん、法科大学院の学生に対する財政支援について早く目途をつけないと、そもそも法科大学院自体に学生が来ることができるかという問題がありますので、先ほど来、いろいろと指摘されておりました日本育英会の有利子奨学金の貸与月額の引き上げの問題や、あるいは私立大学の授業料が高くなることをどのようにして抑制し、学生が自分の進みたい大学で勉強ができるようにするかということについて、事務局の方でもいろいろな形で、その実現に向けて働きかけていただきたいと思います。
また、教育ローンについてもいろいろな制度が検討されておりまして、民間の資金を活用するための公的保証についても様々なアイデアが提唱されておりますけれども、しかしいずれにいたしましても、大学だけではなく学生に対しても、法科大学院へ行って、司法試験を受けて、それから司法修習に行けば、一体どの程度の負担となるのかについて、ある程度トータルな見通しを、なるべく早く示す必要があると思われます。いつまでも司法修習生の給費制の維持ということを前提にして検討しているというだけでは関係機関との調整も難しいと思いますし、木村委員からも指摘がありましたように、果たしてどの程度国民的な理解が得られるかという問題もございますので、実現の可能性についてもいろいろと問題があると思われます。
したがいまして、給費制を廃止するということではございませんが、やはり貸与制への移行についても、いろいろと検討した結果、貸与制への移行という結論となることも選択肢として十分あり得るという前提で検討を進めていただくというようにしないと、今後事務局だけではなくて、ほかの関係機関との調整も難しいと思いますので、この検討会といたしましては、給費制に固執するのではなく、貸与制への移行も含めて弾力的に検討すると、先ほど諸石委員がおっしゃったような方向で、事務局を中心に検討を進めていただくという取りまとめでよろしいでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
○田中座長 ありがとうございました。それで、事務局は御苦労ですけれども、よろしくお願いします。
○片岡参事官 次回以降よろしくお願いします。
○田中座長 事務局だけでなく、委員の皆様方もいろいろな機会にトータルな仕組みについて、各方面の御理解をいただくような御努力をしていただければありがたいと思います。
それでは、引き続きまして、法科大学院の教育と司法試験等との有機的連携の在り方についてのテーマに移りたいと思います。
この関係では、最初にお話しいたしましたように、知的財産戦略本部において先日策定されました推進計画におきまして、知的財産に強い弁護士を増加させることや、知的財産法関連科目を新司法試験の選択科目とすることなどが盛り込まれたということでございますので、この点について、まず、事務局から報告をしていただきたいと思います。
また、法曹養成制度における知的財産権教育の在り方につきましては、牧野委員を座長とする実務家による研究会が開催されているということは、以前からお話ししていたことでございますけれども、本日は、そのメンバーである松下電器産業株式会社法務本部法務グループ・マネージャーをされていらっしゃいます齋藤憲道様にも御出席いただいて御説明をお伺いするということにしております。
それでは、まず、事務局から説明をいただいて、それに引き続きまして、牧野委員と齋藤様の方でお願いできますでしょうか。
○片岡参事官 それでは、まず、事務局から御説明申し上げます。配布資料の2を御覧ください。
これは、去る7月8日、知的財産戦略本部におきまして策定されました推進計画の抜粋であります。
このうち、法曹養成制度に関しまして、司法制度改革推進本部において検討するということが記載されている部分でございます。まず、「第5章 人材の育成と国民意識の向上」の(1)のAですが、2003年度以降、法曹人口の大幅な増加を図る中で、知的財産に強い弁護士を増加させるということが記載されております。
次に、Bで「知的財産法を司法試験の選択科目にする」、Cで「法科大学院の教育と司法試験との連携を図る」という記載がありますが、これは、知的財産に関する教育との関係でもこのような連携を図るという趣旨でございます。
そのほか、最後のBのアのiii )には、法科大学院の入学試験における理系出身者への配慮、あるいは技術系科目の受講といった配慮をするように、各法科大学院の自主的な取組みを促すという趣旨のことが記載されております。
続きまして、資料3をごらんください。
「実務家の視点による法曹養成制度における知的財産権教育の在り方について 中間取りまとめ」という資料でございますが、この中間取りまとめは、牧野委員を中心といたしまして、知的財産の実務家による研究会においてとりまとめられたもので、「はじめに」の最後に、この研究会のメンバーの名前が記載されております。
この中間取りまとめの位置づけについては、メンバーの名前のすぐ上の段落に記載しておりますが、司法制度改革推進本部事務局における検討とは別途、法曹養成制度における知的財産教育の在り方に関する実務家研究会として、中間的に取りまとめを行ったものであって、その内容は、実務家研究会のメンバーの私的な見解に属するものであり、平成16年度の法科大学院制度発足時において直ちに実現することは困難であると考えられるものも含まれているが、10年後、20年後を見据えた長期的な視点に立って検討を加えたものであり、今後における関係各方面の検討の参考にしていただければ幸いであるという位置づけでございます。
この中間取りまとめの内容等につきましては、牧野委員と齋藤先生から御説明をお願いしたいと思います。
○牧野委員 それでは、まず目次を御覧ください。
「はじめに」に続いて、最初に、日米の知的財産の実務家の実態面における格差について御説明しており、まず、知的財産の実務家の数的な格差、それから業務実態における格差ということを述べております。
2番目に、日本の産業界からの知的財産部門の増員への要望ということで、日本の産業界からの知的財産に強い法曹への要請が非常に強いということを説明しております。
3番目に、知的財産に強い法曹に求められる具体的な素養でございます。基礎的な素養ということで、4つの素養、これは法律、技術、経営、あるいは国際性という4つの素養について説明しております。そして、知的財産に強い法曹の理想像として、4つの素養を備えた法曹が求められるということを説明しております。
以上を前提に、具体的に知的財産権教育の在り方をどのように考えたらよいかという検討を行い、実務家の観点から法科大学院に期待される知的財産権教育の在り方と、法科大学院における教育方法等の在り方、司法試験の在り方について少し触れさせていただいております。
最後に、今後の検討課題ということで構成されております。
まず、最初の日米の知的財産実務家の格差と、2番目の産業界からの知的財産部門の人員への要望、3番目の知的財産に強い法曹に求められる基礎的な素養の3つにつきまして、私どものメンバーでございます齋藤氏の方から多少御説明をいただきまして、その後で具体的な教育方法について御説明させていただきたいと思います。
○齋藤氏 松下電器の齋藤です。私の方からレポートさせていただきます。
まず、「1.米国と日本における知的財産実務家の実態における格差」というところですが、簡単に説明させていただきますと、知的財産の実務家の数における格差を日常の実務の中で大きく感じております。いろいろなところで報告されているところでありますが、特許弁護士の数で比較すると、米国のパテント・アトーニーが約21,000人、日本では弁護士登録している弁理士は300人強、そのうちの理系出身者はごく一部という実態です。そうした数のギャップを何で補っているかということになりますが、これは今の企業の中の実務家がかなりの部分を補っていると私は考えております。
「(2)知的財産実務家の業務実態における格差」では、知的財産の収支が国力を反映するということをデータで見ております。日本はもっと頑張らなければならないという数字が列挙されております。
次に、米国と日本の技術部門の特許交渉や訴訟の仕方を比べますと、アメリカ側はパテント・アトーニーが弁護士兼弁理士のような仕事をやっているのに対し、日本側はそれに対応するのに2人が必要であり、場合によっては通訳まで要るので3人が必要であるという状況にあります。1人の頭の中でいろいろとアイデアを練るのと、3人が交互に議論しながらやるのとでは、おのずからスピードと質に差が出てくるということを感じることがしばしばであります。
パテント・アトーニーは何ができるかと言いますと、法律はもちろんでありますけれども、技術、ビジネスにも精通した人が結構多いのではないかと感じております。
したがって、経営上の観点からも適切なアドバイスができ、人によっては、自らビジネスを起こしたりすることもあるようです。その辺のギャップが日米間で大きいのではないかと思っております。
次に、日本の産業界における知的財産部門の人員への要望ということでありますが、今、我々企業で抱えている知的財産部門のメンバーというのは、技術系出身で出願業務をやってきたという人が相当多いわけでありまして、訴訟実務や渉外実務を担当しているという専門家はごく一部にすぎないというのが実態だろうと思います。これは特許庁の調査などでも、数字で出ております。
また、我が社の例でありますけれども、知的財産本部と法務本部が現在分かれて存在しておりますけれども、渉外業務が多い、あるいは裁判が増えたという事情から、法務部門から知的財産部門に人員をシフトしているところです。それは恐らく各社も同じような状況ではないかと思います。
今後、そうした案件が減るのかといえば、これはむしろ逆に増えるであろうと考えられます。このような流れを踏まえた上で法曹養成制度がいかにあるべきかということを考えていただきたいと思うわけです。
我々が希望しますのは、このような実情を踏まえると、知的財産権に関する訴訟実務やコンサルタントを行うような弁護士が多数養成されて、その弁護士に企業がアクセスしやすくなるということが求められていると同時に、企業の中でもそういった人材が在籍して中核になってくれればもっと力が出るのではないかということであります。
数的には、5年、10年後には更に倍増と書いておりますけれども、恐らく企業によっては倍増以上のニーズを持っているというところも結構あろうかと思います。今、上場会社が2,100社としまして、1社が1人ずつ採用すると2,100人程度の人材を産業界はすぐにでも欲しいと考えていることになります。それくらいの規模のニーズはあると思っております。恐らく、製品開発をしていて海外特許業務もやっている企業については、数名、あるいは10名以上の知的財産に強い人材が欲しいという企業が多いと思います。
「3.知的財産に強い法曹に求められる基礎的な素養」でありますが、「(1)4つの素養」と書きました。
ここでは、即戦力が欲しいと書きました。それが希望ではありますけれども、2〜3年の法科大学院における教育で、どこまでの即戦力として期待できるかということも、また一面で検討しなければならないということを踏まえると、少なくとも知的財産権に関して必要不可欠な基礎的素養は法科大学院で涵養していただきたいと思っている次第です。
具体的にどのような素養が求められるかということですが、大きく4つあろうかと思います。
第一は、法律、それから判例など知的財産権に関する基礎的な知識です。
第二は、実務におけるスキルを修得する上での基礎的な素養として、技術知識を有することが望まれようかと思います。私は、長期的にはこれが我が国の知的財産戦略、国力にも影響するだろうと思っております。
第三に、国際交渉力を含めた実務語学力が必須ということです。渉外、裁判、契約交渉などの業務は、半分以上が英語で行われているという日本企業も多かろうかと思います。
第四に、経営ビジネス能力が涵養されることが重要だということですが、第一の法律・判例に関する基礎的な知識は必須であるにしても、この第二、第三、第四の能力をどこまで身に付けて世の中に出ていただけるかが期待されるところです。また、世の中に出た後でも法科大学院において、そういった能力を涵養しようという向きがあるかもしれません。そうした能力を養成するようなコースがあってもよいと、私個人は思っております。
「(2)知的財産に強い法曹の理想像」という部分は、まとめの意味もあります。法律、技術、語学、ビジネスを一人四役で扱える法曹が増えると、我が国の国力も随分上がってくるのではないかと思います。
もし、国内だけで専門的なノウハウ、技術、スキルを持ってやっていくということであれば、その人はグローバルにビジネスをやっている土俵からは降りていかざるを得ないという一面があります。国際交渉力というものが英語には限らないかもしれませんが、何らかの形で必要だろうと思っている次第です。
○牧野委員 次に、以上の4つの要素、つまり知的財産に強い法曹に求められる基礎的な素養としての4つの要素を踏まえて、そういったものを具体的に法科大学院の知的財産教育で実現していくにはどうしたらよいかということについて、検討いたしましたので、御説明いたします。
まず「(1)教育方法等の在り方について」でございますけれども、もともと法科大学院におきましては、法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分を併せて実施することとし、実務との架橋を強く意識した教育ということで、少人数教育、双方向・多方向的で密度の濃い教育を行うこと、専任教員のうちおおむね2割以上を実務家教員とするということなどにより、実務家養成に沿った、非常に密度の濃い教育が行われるわけでありますが、知的財産教育に関しましては、特に実践的な教育が十分に行われることが重要であると思います。
とりわけ、プロフェッショナル・スクールである法科大学院の教育として、できる限り実務の現場・環境に近い体験をさせることが必要であると考えます。
これを具体的に実現するためにはどうしたらよいかということで、カリキュラムのイメージを御覧いただきたいのですが、まず、1番目に知的財産法必修科目では、知的財産法基礎科目として、各分野の基本的なルールを修得するため、特許法、著作権法、意匠法、商標法、不正競争防止法について、全体で8単位程度の教育が必要であると考えております。
次に、知的財産法応用科目ということで、具体的なルールを修得した上で応用力を付けてもらうため、知的財産法応用、クリニックI・IIといった形で6単位程度の教育が行われることが望ましいと考えております。なお、知的財産法応用とクリニックの区別は、知的財産法応用は、実務の現場ではなくて、いわゆる机上での教育で、クリニックの方はまさに実務現場での実習体験ということを想定しています。
2番目に、知的財産法選択科目とありますが、知的財産法といいましても、専門分野がかなり分かれておりますので、各専門分野において更に能力を修得してもらうということが必要であると考えられます。
3番目に関連法律科目ですが、例えば知的財産訴訟におきまして、特にアメリカの特許訴訟では、訴訟を起こしますと、反対に独禁法違反ということで反訴が提訴されることが多く、独禁法と非常に密接な関係を持っておるわけでありまして、その観点から独占禁止法といったものも関連法律科目として必要となります。
また、国際的に活動する企業が非常に多くなっていることから、国際関連の科目として、国際経済法、国際民訴法といった科目も必要になってくると考えられます。
その他、企業法務や、電子商取引法、サイバースペース法、あるいはエンターテイメント法といった関連科目が必要になってくると考えております。
4番目に、知的財産の技術基礎科目ですが、先ほど齋藤氏の方からの説明でも、技術の知識が知的財産の法律問題の処理のために非常に重要かつ不可欠なものであり、これによって今後の国力にも影響するというような説明がありましたけれども、私どもの実務家研究会としましては、技術基礎科目を重要な科目としてとらえております。
技術といいましても様々な分野がございますので、必修科目として最低限の物理に関する知識と先端技術基礎のほか、選択科目としまして、電気、化学、機械の中からいずれかを選択することとし、必修2単位、選択2単位ということで全体で4単位くらいは履修していただく必要があると考えております。
したがいまして、実務家研究会としましては、必修科目として考えておりますのが、1の知的財産必修科目、4の技術基礎科目の16単位で、大分大きい単位数でございますけれども、これが将来的には必要であると考えております。
なお、知的財産法基礎科目8単位程度のカリキュラムについては、特許法、著作権法、商標法、意匠法、不正競争防止法のうち、恐らく、特許法と著作権法が主体になると思いますが、この内訳につきましては、今後検討を進めていきたいと思います。
また、技術知識につきましては、例えば理工系の学生には、専攻分野に強くても、すべてに広く浅く強いという方はいらっしゃいませんので、基本的に選択式とすることが適切であると考えております。
知的財産法応用科目につきましては、実践的な教育ということになろうかと思いますが、今後、詳細な検討を行う必要があると考えております。
本文の7ページ目のところでございますけれども、外国の知的財産法につきましても原語による授業を行うことにより、国際性を高め、語学力を付け、更にその国の知的財産法の制度とか法律を十分に使いこなすようになってもらうことが必要だと思います。
なお、実務家研究会におきましては、知的財産分野に重点を置く法科大学院のカリキュラムのイメージについて更に検討を加える予定があるということで、今説明したイメージを更に内容について詳細な検討を加える予定でございます。
次に、司法試験の在り方について簡単に触れさせていただきたいと思います。
「(2)司法試験の在り方について」でございますが、司法試験の在り方につきましては、法科大学院における知的財産権に関する教育との連携の観点から、実務家として必要とされる実務の基礎的素養を涵養するための法科大学院における教育を十分踏まえた出題とされることが重要であると考えております。
したがいまして、実務家としての基礎的な実務遂行能力、すなわち、法曹になって以降の知的財産実務家としての成長が期待される基礎的素養として、法科大学院卒業時点で、既に一人前の実務家ということは単位数等の関係からも期待できませんが、今後の成長が期待されるような基礎的素養を身に付けているかどうかを確認するための出題の内容及び形式とすべきであると考えます。
したがいまして、机上のみでは解決できない、より実践的・実務的な出題が望ましく、実務の現場・環境に近い出題をする必要があると考えております。
また、単に判例をそのまま出題するということではなくて、仮想事例に基づく事案の処理能力を試すような出題が望ましいのではないかとも考えております。
さらに、実務の現場においては基礎的な技術知識が不可欠であることを踏まえますと、特許の明細書や、基本的な数式を読解した上で解答するような出題なども検討されるべきであると考えております。
具体的な司法試験の出題のイメージも検討しておりますが、例えば、若干の技術的なバックグラウンドが要求されるような出題、単に法的な分析というのではなくて、経営者あるいはビジネスの観点からの問題解決といった観点からの出題が考えられます。
また、単に考慮すべき知的財産法について言及させ、特許法のみならず、ほかの知的財産分野にも及ぶように、例えば著作権法関連ということで、コンピュータ・ソフトの違法コピーの事例を出題し、最大限現行法上で可能な法的請求や対処方法を全部列挙させて、その上で何がベストかということを経営者の立場、ビジネスの立場で考えさせて、優先順位まで付けさせるという出題や、今後の違法使用の再発防止を問うことなどで、経営者的、ビジネス的な観点を試験することが可能であると思います。
最後に「5.今後の検討事項(課題)」ですが、カリキュラムについて、産業界のニーズを満たす知的財産に強い法曹養成のために、本当に必要十分なものを今後更に検討する予定でございます。
それから、この中間取りまとめでは技術の知識も不可欠であるという提言に至ったわけでございますけれども、どのような形で法科大学院における教育の中に入れていくのかということは、具体的な検討が必要になるかと思います。
また、司法試験の出題例についても更に具体的検討が必要と考えています。
特に技術的知識を前提とした出題につきましては、これまで前例がないことから、十分な検討が必要であろうと思います。
さらに、知的財産の分野といいますのは、非常に変化の激しい分野でございますので、資格取得後に継続教育を充実させることが必要になってきます。
したがいまして、アメリカにおけるLLM、法学修士コースのような専門分野を1年ぐらいでマスターできるようなコース、あるいは夜間制のコースといったものを今後開設することが期待されるところです。
○田中座長 どうもありがとうございました。新司法試験の選択科目につきましては、来年1月に設置されます司法試験委員会の意見を聞いて、法務省令で定めることになっているわけですけれども、法科大学院の教育と司法試験との有機的連携の在り方を検討するということから、少なくとも司法試験委員会が設置されるまでの間は、引き続きこの検討会で検討を加えるということになると思います。
具体的にどういった科目を新司法試験の選択科目にすべきかどうかということではなく、新司法試験の選択科目に係る一般的、基本的な考え方としてどういった点を考慮するべきか、特に法科大学院の教育との有機的連携をどのようにして確保すべきかという観点から、ただいまの御説明につきまして御質問とか御意見がございましたらよろしくお願いいたします。
○永井委員 今のとおりになるかどうかは分かりませんけれども、なった場合、この知的財産法関係の選択をした場合の学生の負担というのは、範囲や分量から、かなり重い試験になっていくと思われ、ほかの選択科目とのバランスという問題を考えないと、ほかの選択科目がもう少し軽いものになった場合には、ちょっと微妙な問題が出てくる可能性が現実にはあるのではないかと思います。
また、もしほかの選択科目でもこのぐらい重たい試験を課していくことになった場合には、公法系、民事系、刑事系という基本科目の方がかなり軽い感じがいたします。検討している問題の内容を聞くと、そういったところで全体のバランスをどう考えるかという点で、これを取り入れる場合でも重さというのを十分検討しなければならないのではないかという感じがします。
○田中座長 例えば、法科大学院でも必修科目として扱われている公法や刑事法でもそれぞれ10単位ぐらいですから、それ以上の、又はそれに匹敵するような単位を配分するのが適切かどうかという問題はあると思います。
○永井委員 特色を設けるというので、基本科目以外全部知的財産に特化してやるというならば、対応できるのでしょうけれども、ある程度の人数を抱えた法科大学院ではそんなに特化するわけにはいかない。一つひとつの選択科目が全部それだけの分量を置く必要があることとなったら、大学としては、既にカリキュラムを含め設置認可申請を提出していますので、これは新たなミスマッチも出てくる可能性があるので、文部科学省の方で、3年間の中でカリキュラム学則改訂というのもある程度柔軟に対応することを認めてもらわないと出口との関係で微妙なアンバランスが出てしまうということもあるのではないかと思います。
○片岡参事官 繰り返しになりますが、ただいま実務家研究会からいただきました中間取りまとめは、10年後、20年後を見据えたということで、すぐにやっていただきたいというような位置づけではございません。
ただ問題は、単位数の点で、中間取りまとめはさておき、アンバランスが科目間で生じるのではないかという問題は、新司法試験が始まる当初からの現実的な問題ではあると思います。
その点について、範囲に差があっても、受験生としてはそれぞれが自分の得意分野、得意な科目で受験するのだからよいというのか、また、本を一冊読めば司法試験に対処できるような科目を新司法試験の選択科目として認めるのか、といった御議論を、一般的な考え方としてお伺いしたいと思います。
また知的財産については、法科大学院でこのように重点的に教えられても、横並びの問題がありますので、例えば共通部分の8単位を司法試験の出題範囲にするなどといった具体的な制度設計等もあると思いますが、やはり現実の問題として、当初どのように選択科目の在り方を考えたらよいのか、御意見をお伺いしたいと思います。
○井上委員 司法試験の問題の前に、私もこれを伺って、知的財産の専門家を育てるという意味では非常に魅力的な1つの案だと思うのですけれども、現実問題として、永井委員がおっしゃったように、今、発足しようとしている法科大学院全体のカリキュラムの中で、これだけ重いものを組めるかという問題と、教える人が本当にこれだけいるのかという問題があって、むしろその点についてもアイデアを出していただきたいと思います。
今、いろいろな法科大学院のプランを聞きますと、どこもこれに関連するような科目が出てはいるのですけれども、本当にそんなに教えることができる人がいるのかというと、私などの門外漢から見てもちょっと難しいのではないかなという気がします。
もう一つ、司法試験の選択科目については、これまで一般的に議論をされてきたと思うのですけれども、多様性という意味では、科目はある程度多くないといけないのですけれども、一方で、いろいろな法科大学院で学ぶことができ、どこでもあまねくということではないとしても、相当数の法科大学院で多くの人が学べる科目を試験科目とすることも重要ではないかと思います。知的財産に絞って言っているのではないのですけれども、やはりあるステップの検討が必要なのではないかという感じがしています。
○諸石委員 このおまとめいただいた中間取りまとめは、非常に実務のニーズも踏まえて、あるべき姿だと思います。
一方で、ほかの科目とのバランスから言えば重過ぎるということもあるかと思います。
しかし、実際に知的財産専門家の卵を養成するとしたら、私どもから見れば、これでもまだ不十分というぐらいで、知的財産立国といって掲げておられるような、今の一人四役がこなせる知的財産専門家を養成しようと思ったら、やはり理工系学部を出た学生を法科大学院に誘因することが必要なのではないかと思います。法科大学院で技術科目の単位を何単位か取っただけで専門家になれるはずもありません。
そうしますと、理工系学部卒が法科大学院に魅力を感ずると、法科大学院に誘因する制度的なものが必要ではないかと思います。そのためには、司法試験の選択科目において、理工系学部出身者が有利になる、理工系の人でないとなかなか通りにくいような構成は非常にあり得る話ではないかと思いました。
それから言うと、もっと技術のバックグラウンドを深く要求するような試験問題を出してもいいのではないかと思うぐらいです。
それと、全国で70程度できるという法科大学院が、すべて知的財産法をやるという必要はないので、せいぜい10校ぐらいが知的財産に多少特化した教育をやると考えれば、他の法科大学院で2単位ぐらい知的財産を受けてきた人が、受けても到底歯が立たない試験とするという制度の方が望ましいのではないかと思います。
○フット委員 3点質問があります。あるいはコメントになるかもしれませんけれども、まず1点目は、中間取りまとめでの必修科目の意味合いということですけれども、これは司法試験の知的財産の選択科目を受けるための受験資格になることを前提としているのか、必修科目の意味合いは何であるかということです。あるいは知的財産の特別なサティフィケートみたいなものが念頭にあるかもしれませんけれども、その辺を伺いたいと思います。
2点目は、齋藤グループ・マネージャーにお聞きしたいのですけれども、司法試験に選択科目として知的財産が入った場合、それは企業から見て人事の観点から、そういった試験科目はどういう意味を持つのでしょうか。新人を特に知的財産のスペシャリストとして採用する場合に、その人が司法試験で、この選択科目で受かったということは重視されるのか、それとも法科大学院でどういうような科目を受けたのかなどということが就職の関係で重視されることになれば、かなり厳しくてもほかの科目とのバランスはそんなに心配しなくてもいいのではないかと思います。
つまり、是非知的財産の分野を専門にしたいような人たちは、むしろこの選択科目を受けることになるのではないかということも考えられますけれども、それは企業からどういうふうに評価するのでしょうか。
3点目は、技術関係の科目で、そういった技術に関連するようなものは、カリキュラムではどういうような内容が考えられているかということです。また、たまたま私が契約交渉の研究会のメンバーで、今、教材などをつくっている観点から言えば、特に外国語の能力などでは、交渉能力ということなどがその必修科目の中に入るだろうかという点については具体的にどういうようなイメージがあるのだろうかという3点の質問です。
○牧野委員 最初の必修科目の意味合いでございますけれども、これはいわゆる知的財産に強い法曹と言えるためには何が必要かという観点でございまして、特に司法試験に必要な科目というような趣旨ではございません。
それから、契約交渉は、一応クリニックⅠの契約実務中で具体的な交渉なども含めて対応することになろうかと思います。
○フット委員 そういった契約の技術には、交渉、作成さまざまな契約関係が入ると考えてよいですか。
○牧野委員 はい。
○齋藤氏 採用するときにどういう基準で応募者を見るかということでありますが、まず、法科大学院を出て司法試験に合格してきましたという人を相手にした場合。司法試験に合格したという人の間であれば、私は法学部以外の人を優先すると思います。同じ資格を持っているなら、他学部優先です。当然違うバックグラウンドを持っている方が望ましいと思います。恐らく20歳代後半から30代にかけて、仕事の広がりに随分影響すると思います。
それから、もう一つ、他学部の中で文系と理系の学部を出た人の間というのであれば、私の会社はエレクトロニクス企業なので、間違いなく理系を優先すると思います。
司法試験には合格していない人についても、採用するという段階では、多分同じ基準に立つと思います。
○フット委員 司法試験の選択科目は、この人は知的財産を選んで、この人は別な選択科目を選んだという違いはどのように評価するのでしょうか。知財のスペシャリストを養成する観点から考えると、むしろこれだけ要求するとすれば、ほかにとおりやすい科目を選んでしまって、そういうスペシャリストが少なくなるのではないかということを逆に心配しています。
○齋藤氏 例えば、専門的な分野を担当すると言っても経理とか、税務関係については、スペシャリストとしての、資格は特段必要ないと思います。専門的分野の中でも、特に知的財産というのは今でも戦力が足りないと思っていますから、法科大学院で適切な知的財産権教育を受け、司法試験の選択科目として選び、評価に値する成績を残した者に対しては十分評価することになりますし、優秀なメンバーが来るというのであればおそらく最優先すると思います。
○加藤委員 感想と意見を述べたいと思います。感想としては、この中間取りまとめは、知財関係に関する専門的教育の内容と目標について、大変具体的なイメージとしてわかるものになっていまして、これからの議論の足掛かりになるのではないかと思います。
ただ細かいところでは、例えば国際競争力を重視しながら、国際知的財産法が選択科目になっていることなど、問題もありそうです。そういう細かいところの賛否は別として、これからの議論の一定の前提になり得るのではないかと評価したいと思います。
意見ですが、選択科目の意義、位置づけをどうするかについては2つの考え方があると思います。
一つは、法科大学院における教育の多様性というものを選択科目で図る、六法だけで固まっていなくて、もっといろいろな幅広い法知識と素養を持った法曹を生み出すという考え方です。もう一つは、専門性を選択科目の試験で見る、自分のキャリア形成の第一歩として目的意識を持って選択科目をやるという考え方です。この2つの目的は併存するかもしれませんが、理念型としては別々に位置づけられます。
そして、多様性という観点から、六法で固まっているのではなければよいという程度にとらえるとすると、学生は軽い科目を選べばよいということになるように思います。他方、専門性の第一歩にするという考え方からすると、かなりきっちりとした教育をし、その試験もしっかりマスターしているかどうかを見ていくことになるように思うのです。
このように、選択科目をどちらに位置づけるのかという問題があると思います。永井委員、フット委員が心配しておられるところもこの問題にかかわるのではないかと思います。
この知財教育に関する中間取りまとめは、私としては、法曹の専門性を見据えた場合には、こういう教育と、こういう試験になっていくことを提示されたものと受け止めるのがよいのではないかと思っているわけです。
○井上委員 質問なのですけれども、説明はされなかったのですが、知的財産専門職大学院の構想というものがあるわけですが、これと法科大学院における知的財産に特化した教育というものとの関係、あるいは役割分担というのはどういうふうに研究グループとしてはお考えなのですか。
○牧野委員 知的財産に強い法曹といいますのは、やはり訴訟などの紛争処理に重点を置いた形の専門家ということになります。
専門職大学院の方は、恐らくそれに限らず、知的財産のスペシャリストとか、コンサルタントというのはいろいろな分野で活躍していますので、そういう法律問題や紛争から少し離れた分野について養成されるのではないかという感じをイメージしております。
○井上委員 かなりオーバーラップするような気がするのですが。
○牧野委員 オーバーラップする部分もございますけれども、こちらは法曹でございますので、訴訟などの紛争処理を中心に考えております。今後弁理士も法廷活動が一定の範囲でできるようになりますことを踏まえ、知的財産専門職大学院の方は、弁理士の養成をねらっているという話を幾つか聞いております。恐らくその辺の弁理士と弁護士との職域の問題とも関連すると思いますけれども、今後検討する必要があるかと思います。
○井上委員 単純な感想ですけれども、20年、30年後を見据えると、特許に強い、あるいは知的財産に強い弁護士と弁理士で一定の訴訟活動ができるという垣根自体が問い直される可能性が出てくるのではないかという感じがするのです。
その場合に、教育の課程が2本立てというので果たして両立するのかどうかというような感じもするものですから、長期的視野に立つとすれば、その辺も視野に入れて検討なさった方がいいのではないかという気がします。
○田中座長 今の井上委員の質問と関係するのですけれども、知的財産専門職大学院というのは、法科大学院やビジネススクールというカテゴリーに特に関係なしに、知的財産の専門職業人を養成するための専門職大学院をつくろうという話でしょうか。
○牧野委員 専門職大学院は、企業の知的財産スタッフやコンサルタントの養成になるかと思います。
○田中座長 重なる部分と重ならない部分があると思いますね。
○牧野委員 ただ、知的財産関係の需要は現在でも多く、これから更に急増すると予想されることを考えますと、若干重複したとしても、両方の専門職大学院の修了者に対する需要は十分にあるかと思います。
○諸石委員 法科大学院がたくさんできて、そこの卒業生が多数出てくると、その何割かは合格するまで滞留してきます。その行き先はどうなるんだということが、法科大学院を考える場合に非常に問題でして、それがあくまで司法試験にしがみつくしか出口がないという制度でいいのだろうかと疑問に思います。
法科大学院を出れば、司法試験に合格するというのが第一義的ではあるけれども、それと並んで法律専門職の養成という意味では、司法試験に合格をしなくても十分活躍の場があるというイメージを強く出す必要があるのではないかと思います。
企業にしてみれば、司法試験を合格して弁護士資格を持っていればベターと、しかし持っていなくても別に関係なく採用することになれば望ましいと思います。私自身弁護士資格を持っていますけれども、そのお陰で大変得したとか、役に立ったということは余りありませんで、企業にとってみればプラスαでしかないと思いますので、法科大学院というもののレベルさえ維持し、非常に質の高い、高度専門職大学院という実質さえあれば、その卒業生というものは、司法試験に合格しなくても、十分に官庁や企業など受入先はあるというイメージを持ってよいのではないかと思っております。
○田中座長 時間が参りましたので、本日はこれぐらいにしておきたいと思いますけれども、先ほどもお話しましたように、この検討会で司法試験の選択科目はこれがよいというようなことを決めるわけではありませんが、法科大学院の教育との有機的連携を図るという観点は非常に重要な問題でございますので、今後も適宜御意見を伺っていくことにしたいと思います。
どうもありがとうございました。
それでは続きまして、この4月に成立しました教員派遣法の関係で、関係政令の立案が必要であるということですので、教員派遣法の成立の経緯や関係法令の立案の関係につきまして、事務局から現状について御説明をいただきたいと思います。
○片岡参事官 いわゆる教員派遣法につきましては、お陰様をもちまして、去る4月25日に成立させていただくことができました。衆議院、参議院とも全会一致でございます。
さて、この教員派遣法におきましては、幾つかの事項につきまして、政令で定めることとしております。
まず、第6条でございます。法科大学院で教授等の業務を行う裁判官につきまして、法科大学院設置者は、政令で定める金額を国庫に納付しなければならず、その納付の手続については政令で定めることとなっております。第6条第2項、第3項で、これらの事項が政令で定めることになってございます。
そのほか、第8条第3項では、これは国家公務員共済組合法の特例に関しまして、法科大学院設置者と国が共済に関する負担金をどう負担すべきかというようなことを政令で定めることにしてございます。
以下、第14条、第15条、第16条でも同じように共済関係の事項につきまして、政令で定めることにしてございます。
これらのうち、共済関係の政令につきましては、それぞれの共済制度を所管する関係機関と協議を進めているところでありますが、各共済制度におきまして、それぞれ取扱いが異なっている点が存在するため、それらについてどのように調整を図るべきかという問題が残っておりまして、その調整に時間を要しているところでございます。
また、先ほどの第8条第2項の国庫納付金に関する政令につきましては、裁判官が教授等の業務を行った場合におきまして、その業務量に応じて納付すべき金額を算出するという考え方を基本にせざるを得ないと考えております。
例えば、当該年度において、裁判官が教授等の業務を行った日数、その日数に一日当たりの金額を掛けるというような方式で納付すべき金額を決定するという方法であります。この場合の一日当たりの金額の水準につきましては、例えば仮に一日当たり5万円という金額を定めたとしますと、年間250日の実働とすると、年収にして1,250万円程度の水準に相当するのではないかと考えられますし、一日当たり6万円という金額を定めたとしますと、年収にして1,500万円程度の水準に相当するということになろうかと思います。
いずれにしましても、このような金額等につきましては、財政当局を始めとします関係機関との調整が必要でありまして、現時点で決定するには至っておりませんが、ただいま申し上げましたような業務量に応じて納付すべき金額を算出するというような基本的な考え方とすることにつきまして、御理解いただきたいと思います。
○田中座長 ただいまのような状況でございますけれども、何か御質問とか御意見がございましたら、どうぞ。
この政令の立案につきましては、各大学で準備を進めている側から見ますと、早く目途が立たないとやりにくいというところがございますので、関係機関との調整が、特に国庫納付金の関係については難しい問題があるようでございますけれども、裁判官の場合については、実際授業等の業務を行われた日数で、実際の業務量に応じて金額を確定するということにせざるを得ないと思います。
ただ、現在のような、いわゆる非常勤講師のような算定の仕方ですと、著しく低額になると思いますので、その辺りについて関係者だけではなくて、社会的に見ても納得ができるような額に、しかも国立大学と私立大学との間で違いが出ないということについても、御配慮いただきたいと思います。
それから、共済組合との関係につきましては、我々にはちょっと分かりにくいのですけれども、実際に詰めていくと、難しい問題がいろいろあるようでございまして、これについては当然派遣される方にできるだけ不利益を与えない内容にしなければ派遣制度が円滑に運用できないということになりますので、事務局におきましても、引き続き関係機関との調整に努めていただきたいと思います。
それでは、本日の検討会はこれで終わらせていただきたいと思います。
○日本弁護士連合会 すみません、先ほど私に説明を求められた際、ちょっと一言言わせていただきたいことがありますので、申し訳ございません。
いわゆる給費制の問題ですが、日弁連の基本的な立場としては、給費制を維持したいということでございます、その点だけ一言、念のためでございます。申し訳ございません。
○田中座長 はい、お伺いしましたけれども、特に先ほどのまとめをそれで変えるというのも適切ではないと思いますので、まとめといたしましては、先ほどの方針でやりたいと思います。
○永井委員 先ほど川端委員が指摘した、現行試験が存置している間の合格者の配分比率の話が大分出回っていまして、1年生等においても現行試験を受験する方が有利だというように、司法試験予備校でかなり周知されており、いろいろと苦慮している面があるので、その辺りの対応についても検討会である程度大きな方向性について検討する機会を与えていただいたらと思います。
○田中座長 確かに川端委員がおっしゃった点は、いろいろな噂がありまして、法科大学院にとっては非常に困っているというところがあります。非常に難しい問題ですが、授業料は決まらない、入試の日程は決まらない、現行試験と新しい試験の合格者の比率が決まらないなど、未決定事項が多すぎることから、多方面から批判を受けていることも事実でございますので、その辺りについて然るべき対応を、事務局だけではなくて、関係者の方もよろしくお願いいたします。
○諸石委員 現行司法試験の合格者数がそのまま維持されるという話が出回っているというのは初めて聞いたのですけれども、今までのここの検討会での議論における理解では、現行司法試験というのは新規総数は限られるわけですから逐次減っていって、法科大学院が増えてくるとそちらの合格者が増えていき、最後は現行司法試験の合格者は減っていくのだというイメージであることは、よろしいのでしょうか。
○田中座長 多分、皆そのように理解してきていると思うので、当初の1,500人は既定方針ですが、それも新しい法科大学院にとっては非常に困る面もあるのですけれども、その後どうするかについては、今、諸石委員がおっしゃったような形で検討されると思っています。
○井上委員 当初の1,500人というのも、司法制度改革審議会の理解では必ずしもそうではなくて、要するに平成16年までに1,500人にするというだけで、新司法試験が始まったときに何人にするかというのは、なお検討の余地があるのではないでしょうか。
○片岡参事官 その関係ですが、平成16年には1,500人を目指すということになっておりまして、平成16、17年と、これは法科大学院在学中に現行司法試験を受けるような場合は別ですけれども、要は法科大学院に進学した者は、まだ法科大学院在学中だという状況で、現行司法試験のみを実施して、今よりも更に多い1,500人という数字で合格者が出るという制度設計になっています。
そうしますと、現在滞留している受験者の相当数が合格することになりますので、新司法試験が始まる平成18年以降は、法科大学院の卒業者と、現行組のもう一歩で合格するというような人が残っているような状態だろうと思います。したがって、平成18年のスタートラインにおいて、現行司法試験の合格者数が1,500人である必要はないと思っております。
あとは、現行司法試験の合格者数がだんだん減っていくということについては、法曹養成制度の理念との関係で、委員の御意見を次回以降お伺いできればと思っております。
○田中座長 それでは、次回の検討会の日時につきましては、9月9日火曜日午前10時30分からを予定しております。
次回は、本日に続きまして司法修習生の給費制の在り方と、法科大学院の教育と司法試験等との有機的連携の在り方などについて検討を加えることにしたいと思います。 本日は、どうもありがとうございました。