法科大学院の教育と司法試験等との有機的連携の在り方について、法務省から新司法試験実施に係る研究調査会中間報告に関する説明がなされた後、質疑応答、意見交換が行われた。
○ 柔軟かつ論理的な法的思考能力をみるなどの新司法試験の趣旨にかんがみれば、論文式試験の答案の分量制限は行うべきではない。
○ 答案の分量を無制限とする場合に良い答案が出てくるかもしれないが、一定量にまとめて記述する力も一つの能力である。
○ 受験生が適切な分量・内容で答案を構成した場合に結果として評価が高くなることについては納得できるが、新司法試験のポリシーとして、答案の分量を事前に制約するべきではないと考える。そうでなければ、現行試験でみられる一定の形の文章を丸暗記するような知識詰め込み型の試験対策が出てきてしまうのではないか。採点が大変などの理由で、分量制限をするべきではない。
○ いわゆる融合問題についての考え方は、この報告書ではどうなっているのか。
(法務省)融合問題については、同一科目内で複数の法分野にまたがる問題として、必ず出題するとはしないものの、それぞれの科目の特性に応じて、適切な問題を考案するよう努めるものとすると取りまとめられたと理解している。
○ 選択科目については、どのように決定していくのか。また、移行期間中における現行司法試験と新司法試験の合格者の割合については、どのように決定していくのか。
□ 選択科目や合格者の決定は、最終的には司法試験委員会に委ねられているわけであるが、当検討会では、新しい法曹養成制度においては法科大学院を中核的な教育機関にするとの観点から、移行期間中の現行司法試験の合格者数は減少していくべきものであるとの意見が出されているところである。
○ 現行司法試験の在り方については、新制度に切り替わるという趣旨が明確になるように考えていただきたい。移行措置は、現在あと一歩で合格しそうな受験生を救済するようなものにすればよいのであって、これから現行司法試験の受験を目指す者を救済する必要はない。この点については、随分誤解も広まっているようであり、はっきりさせていただきたい。
□ 移行期間中に現行司法試験を実施することとされた理由は、現在司法試験を受験している者に不当な不利益を与えないためであって、あえて法科大学院を経由せずに現行司法試験を受験する者が増えることを制度設計上想定していないというのが共通の理解ではないか。例えば、平成18年度における現行司法試験の合格者数を3分の1程度にするとしても、法科大学院を中核的な教育機関とすることとした制度設計に反しないのではないか。
○ 御指摘のとおり、あくまで5年間の移行期間は、現行司法試験を受験してきた者に不当な不利益を与えないとの趣旨で設けたものであり、移行期間中には現行司法試験の合格者数が減少し、新しい法科大学院制度が中核になるようなイメージを持っている。
○ 平成16年に大学を卒業する者が現行司法試験を選択した場合を考えると、せめて3回ぐらいは今と同様の受験機会を与えてやるべきではないか。その観点から、平成18年度に関して言えば、合格者の割合を柔軟に考えるべきである。また、法学既修者のみが受験する平成18年度の合格率と法学未修者の受験が始まる平成19年度の合格率とのバランスも考えるべきである。
○ 司法試験の合格者は増やしていくこととされており、平成19年度からは合格者を更に増やす方向で考えればよいのではないか。
○ 現行司法試験の合格者数について、平成18年度から減らしていくことはよいが、平成18年度については慎重に検討していただきたい。
○ 平成18年度から現行司法試験の合格者を大幅に減らすこととし、そのことをなるべく早くアナウンスすることが必要であると考える。そうすれば、これからの法曹養成は、法科大学院を経て、これまでとは異なった能力が試される新しい制度になることが明確になる。また、現行司法試験を受験している者については、合格者が来年度から1500人に増加することとされていることからすれば、平成18年度の現行司法試験の合格者を大幅に減らしてもよいと思われるので、逆に法科大学院修了者の合格者数を少なくするということは不合理ではないか。
■ 平成16年度から平成18年度までの3年間だけのバランスを考えれば、現行司法試験の合格者数は1年間に1200人であり、3年間では合計3600人程度ということになるところ、平成16年度及び平成17年度の合格者数は各1500人の合計3000人にするとされていることから、平成18年度の合格者数は残りの600人程度でよいということになる。
□ 平成18年度の現行司法試験の合格者数については、もっと減らすべきであるという意見もある。この検討会において出された意見については、司法試験委員会発足後、司法試験委員会に伝えたいと考えている。
□ 司法試験の選択科目については、法科大学院における科目の開設予定状況を調査するなどした上で、次回以降検討することとしたい。
a) 法科大学院生用の教育ローンについての民間金融機関の取組みの例として、「第一勧業信用組合法科大学院生専用ローン」について佐々木正人・第一勧業信用組合常務理事による説明と質疑応答、意見交換が行われた。
○ 保証会社に保証をしていただく場合について、法科大学院生は保証料等を別途負担する必要があるのか。
● 保証会社の保証をつけていただく場合には、利率に組み込んでおり、法科大学院生に別途負担していただく必要はない。
○ 団体信用生命保険に加入するための費用について、法科大学院生は別途負担する必要があるのか。
● 当組合が金融機関として負担するものであり、法科大学院生に負担していただく必要はない。
○ 利率について、法科大学院の保証があれば更に低率にすることができるとのことであるが、どの程度になるのか。
● 保証をつけていただくということになれば、その利率は個別に検討させていただくことになる。
○ 法科大学院との提携を前提にするとのことだが、提携した法科大学院はどのような義務・負担を負うことになるのか。
● 提携した法科大学院の学生がきっちり修学しているかどうかについて報告していただくことをお願いすることとしている。
○ 学生が司法試験に合格しないで就職した場合には、融資していただいた金額について一括返済する必要があるのか。
● その場合でも、法科大学院の修了者が社会で活躍することも可能であることから、本ローンについては、対話型を採用し、返済条件について個別の話合いで決めていくことを考えている。
□ 本ローンについては、学生本人に融資するという新しいものであり、利率についても、例えば大学が保証することになれば更に低くすることができることなど、法科大学院を始めとする関係者にとって、今後の検討の参考になったと考えられる。将来的には単独の法科大学院だけではなく複数の法科大学院が共同して利用することや、東京以外の地域でも考えられることであり、引き続き関係者への情報提供をお願いしたい。
b) 法科大学院への財政支援(平成16年度概算要求)について、文部科学省から説明と質疑応答、意見交換が行われた。
□ 私学助成として50億円の概算要求とされているが、次年度以降学生の数が増えてくればそれに応じて増えていくことになるのか。
(文部科学省)増額の幅は別として、基本的には学生数の増加に伴い増加することになると考えている。
□ この概算要求は、本検討会の意見を反映したものと思われ、その実現に向けて文部科学省や推進本部事務局に頑張っていただきたいし、関係者においても各方面の御理解を得られるよう努めていただきたい。
c) 日本弁護士連合会から、司法修習生の給費制を維持すべきであることについて、席上配付された「司法修習給費制の堅持を求める決議の採択について」に基づき意見が述べられた後、以下のような意見交換が行われた。
□ 日本弁護士連合会からは、「法曹養成検討会の運営について(要望)」も提出されている。前回の検討会において、当日の議論内容を踏まえて取りまとめたことについては、委員からは特に異論がなかったにもかかわらず、このように外部の関係機関から、自分たちの意見と違うということで、取りまとめの方法等についてまでいろいろと言われるのは、座長として非常に遺憾である。
■ カナダのオンタリオ州においては、修習の講義に相当する部分については受講者が授業料を支払う。実務修習では修習先の法律事務所等から給料が支払われる。ブリティッシュコロンビア州においても同様であり、座学研修等においては受講者が授業料を支払い、実務修習においては修習先から給料が支払われる。フランスにおいては、司法官養成では修習生に対して報酬が支給されるが、弁護士養成では修習生は弁護士研修所の入学金を支払い、報酬・手当は支給されない。
d)意見交換
○ この問題を考えるときに一番重要なことは、司法修習の性格が変わるということである。これからの司法修習は、日本社会のインフラ整備そのものと位置づけられたのであり、法曹養成全体に国の資金が十分投入されなければならない。また、今までの司法修習は、いわばフランスの司法官養成制度の中に弁護士の修習を足した形であり、任官する人は任官後の技術の研修を受けるので給与が支給されるのは当然であるが、弁護士になる人にはなぜ給与を支給するのかとの議論があった。これからの司法修習は、判決や起訴状の起案など任官後の研修分の先取りはなく、裁判所が法曹三者に共通なスキルやマインドを教育するのであり、法曹三者のいずれになろうとも給費の取扱いを異にする理由はなくなった。さらに、経済的負担の問題について、文部科学省の平成16年度概算要求の内容は素晴らしいが、実現されなければ、新しい法曹養成制度は莫大な費用がかかる制度になるので、この点を見定めるべきである。
○ 現在の司法修習について、任官者養成を基本とするから給与を払っており、そこに弁護士の修習を加えたという説明は、現在の司法修習が発足したときの考え方とは違う。有為な法曹を育てるなど何らかの公的な性格をもっているから、司法修習生に給与を払っているのではないか。仮にこれからの司法修習で起案等をさせないとしても、それは、任官を前提とした修習ではなくなるということではなく、基本的な文章の書き方などは法科大学院で養うことなどによるものであり、この点をとらえて司法修習の思想や哲学が変わったとはいえない。新たな法曹養成全体の費用負担を考慮する必要はあるが、本検討会では、給費制を廃止することや貸与制に切り替えることを条件として法科大学院への財政支援を増やしていただくという議論をしてきたわけではない。司法制度改革全体を見れば、ほかにも公的弁護制度や裁判員制度など相当大きな財政措置が必要となる制度が検討されており、国の財政状況の中で、政策のプライオリティーの関係で、給費制を死守することが適切なのかどうかという視点も重要である。
○ 一般の国民の常識という観点から言うと、全体的な大改革の中での財政問題を考えれば、給費制の維持は難しく、貸与制への切替えもやむを得ない。司法修習生が量的に増えることや、新たに法科大学院への経済的支援が付加されたわけであり、厳しい財政の中で、法曹養成の全プロセスへ経済的資源を効率的・合理的に配分する観点から考えた場合に、給費制の維持が合理的な選択であるとは思えない。ただし、多様な法曹人を養成し、多様な役割に配分するという制度を作るという観点からすれば、裁判官・検察官だけではなく、弁護士でも、公益性が高く私的な利益の追求について制限を受けるような活動を選択した人たちについては貸与金の返還を猶予し、ある程度の期間そうした役割を担った場合には貸与金の返還を免除するという制度が合理的なのではないか。あくまでも給費制を死守するという議論は、国民的なコンセンサスを得られないのではないか。
○ 給費制を維持することが困難であるという状況にあることは分かるが、それでは貸与制に移行すればすべてうまくいくのかという点について、ビジョンが示されていない。日本弁護士連合会から説明があったとおり、法曹になる段階で多額の負担を負うことについては問題がないわけではない。貸与制になった場合について、このような形態を採ればいろいろな面でうまくいくのではないか、というような見通しが示されていない。そのあたりにまで踏み込んだ議論がこれまでなされてこなかった。貸与制に移行した場合にどのようになるのか、もう少しここで議論してよいのではないか。
■ 司法修習生の給費制を貸与制へ移行することについて、日本弁護士連合会からは給費制を維持すべきとの意見が述べられているが、最高裁判所及び法務省からはこれまで明確な意見が述べられていない。したがって、法曹三者の中で貸与制への移行を検討している機関は存在せず、事務局のみが貸与制への移行を検討せざるを得ない状況にある。そのような状況で、具体的な案が示されないから何も言えないというのであれば、事務局の案を提示して検討していただくしかない。法曹三者のコンセンサスを待っていては、かつての司法制度改革がそうであったように全く改革が進まない。特にこの問題については、法曹三者のコンセンサスを得られないまま本部設置期限が経過して本部がなくなった場合には、一体どこで改革が行われるのか心配である。本部設置期限中に、この問題について議論は尽くしておくべきである。法曹三者においても、貸与制への移行も視野に入れて検討するという今までの検討会の方向を御理解いただいた上で、具体的な制度設計についての協議に応じていただきたい。
□ この問題について法曹三者は受益者の立場にある。日本弁護士連合会の意見はどの程度社会的に通用するのか。法科大学院への財政支援や、公的弁護制度、司法ネット、裁判員制度などいろいろな制度で財政負担を必要とする中で給費制をどうするかということである。前回取りまとめた方向で具体的に検討しなければならない。貸与制を選択肢の一つとして考えることは1年も前に御了解を得ているが、それからは話が進んでいない。法科大学院への財政支援の関係も、この検討会で一定の取りまとめをしたから動き始めている。給費制の問題についても、一定のタイムスケジュールの中で全体を見極めながら検討を進めていかざるを得ず、話合いも議論もできないまま時間切れでは困る。事務局は、スケジュールの問題についてどのように考えているのか。
■ 今後、司法試験合格者、司法修習生の増加が図られる中で、給費制を維持することについては極めて困難な問題が存在すると考えられる。一方で、法科大学院への財政支援、特に文部科学省の予算要求の結論が年末までに出る。また、次期通常国会において、公的弁護制度、司法ネット、裁判員制度など近い将来相当規模の財政措置が必要になると思われる事項について、国会で御審議いただくことになる。このような状況にあることから、事務局の作業スケジュールとしては、司法修習生の給費制を貸与制に移行するための法案を次期通常国会に提出するべく、準備を行いたいと考えている。もちろん、関係機関に協議に応じていただいた上で具体的な制度設計をして話を詰めていくことや、この検討会でも御議論いただくということは大前提であるが、スケジュールとしては、次期通常国会に向けて準備を行いたいと考えている。
□ 貸与制のビジョンを示すために、事務局で具体的に検討していただくこととしたい。もちろん、事務局の案が国民的観点から見て問題があるようであれば、この場で修正について検討するし、最終的には国会で決定されることになる。検討会で意見がまとまらないから先送りだというのはいかがなものか。当然貸与制になるという趣旨ではなく、選択肢の一つとして貸与制も視野に入れて制度設計しなければならないということである。事務局において具体的に検討していただいた上で、その具体的な検討の内容についてこの場で更に御議論いただくということとしたい。法曹三者それぞれの立場も分かるが、社会的に納得の得られる案ができるように、御協力いただきたい。