第2回配布資料一覧

2002年1月28日

評価基準と評価作業のあり方について

日本弁護士連合会




 司法制度改革審議会の意見書は、「制度を活かすもの、それは疑いもなく人である」(56頁)という考えにたって、「高度の専門的な法的知識を有することはもとより、幅広い教養と豊かな人間性を基礎に十分な職業倫理を身に付け、社会の様々な分野において厚い層をなして活躍する法曹を獲得する」(11頁)と述べ、その養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設置すべきであるとしました。
 意見書は、また、自発的創意を基本としつつ、基準を満たしたものは広く参入を認める仕組みにすべきであるとしたものの、中核的法曹養成機関としての水準の維持・向上を図るために、第三者機関による適格認定を受けなければならないものとしています。当連合会は、この適格認定はその質において法曹養成機関としての適性を確保するだけでなく、その向上を計る機能を持たせるという点でも極めて重要な意味を持つものと考えます。
 そして、その適格認定では、少なくとも次の3つの観点から、設立された法科大学院が適格性を持つものであることが定期的に検証されていなければならないと考えます。
 第1は、入学者選抜に関してであります。そこでは、意見書が強調している公平性、開放性、多様性が法曹養成教育において何故重要なのかが正しく理解された上で、それが各大学院の入学者の選抜に実質的に生かされていることが的確に評価されるような仕組になっていなければならないと考えるのであります。
 もとより入学者の選抜は、各大学院がその教育理念にしたがって、自主的に行われるべきではあります。しかしながら、法曹に求められる重要な役割の一つは、人々が人間関係において、あるいは社会との関係において、それぞれが抱いている悩みを解決することであり、その役割を果たすには広い教養と豊かな人間性を備えていることが必要であります。
 したがって、法科大学院における入学者の選抜の段階においては、それまでに何を学んだか、学業以外に何をし、社会人としてどのような活動をしたか、それまでの実績が正しく評価され、人間関係と社会に対する深い洞察力を養う上で不可欠な一般的教養を持っている者が公平に選ばれるような仕組みになっていることが極めて重要であると考えます。
 学生の多様性が教育内容の理解を助け、議論を多面的にすることに役立つことや、様々な経験を有するものによる議論が行われることが、事実をより深く見極めることに役立つこと、とりわけ、社会人がその経験の中で味わった苦悩や不正義の体験を通して、法と法曹への関心を引き起こし、解決策の的確な選択に資することがあること、多様な人材が集まることが将来の専門化の端緒になるとの認識にたって、こうした学生の多様性こそが、全体としての法曹の質を豊かなものにすることにつながることが理解され、そのことが入学者の選抜に実質的に生かされなければならないと考えるからであります。
 法曹養成に特化したプロフェッショナル・スクールが大学院レベルに設置されることになった意義は、このような法学以外の多様な学問を修め、経験を積んだ者を多数入学させた上で、総合的な法学教育を行うことによって、将来のわが国が真に必要とする高度かつ多様な法曹を生み出すところにこそあると考えるのです。したがって、法学系学部以外の出身者にも広く門戸を開放する入学者の選抜が真摯に行われているかどうかに、特に評価の目を向けるべきであると考えます。
 そして、この公平性、開放性、多様性を実質的に確保するために、今一つ大切なことは、経済的理由で法曹への途を断念するようなことがあってはならないということであります。そういうことがないよう、奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種支援制度の整備が決定的に重要な意味を持つと考えます。したがって、各法科大学院の支援制度の存在や公的支援制度利用など、財政援助への取組が評価の対象にならなければなりません。
 第2に重要であると考えられるのは、今後の社会が法曹に求めるものは質的にも一層多様化・高度化していくと考えられることから、法科大学院において「国民の社会生活上の医師」として、そのニーズに即したサービスができるような法曹を育てる教育が行われているかどうかの評価が正しく行われることであります。
 教育が少人数を基本とし、双方向的・多方向的で密度の濃いものにしなければならないのは当然のこととして、法科大学院が国民のニーズに即したサービスができるような法曹を養成する機関であり、養成された法曹の圧倒的多数は弁護士になることを考えますと、特にそのことを念頭においた教育がなされなければならないと考えるのであります。
 今後、弁護士の仕事は、これまでの法廷中心の活動から、法廷外のものの比重がますます増大していくと思われます。そのようななかでは、様々な社会的紛争に直面したときに、適切な解決策を考え出していく能力を育む教育が一層重視されなければなりません。従来の法学教育が、ある程度整理された事実をもとにして、専ら法律解釈学を学ばせることにその重点がおかれていたことに比べると、その教育方法に大きな転換が計られなければならず、そのための工夫がどのように行われているかが確かめられねばなりません。
 また、弁護士の養成を念頭におくとき、法律情報調査、法律相談、カウンセリング、事実調査、交渉、和解などについても理論的、実践的に教えるいわゆるロイヤリングの重要性が認識され、その科目が独自の実務技能科目として開設されなければならないと考えます。
 この点は、いわゆるクリニックの開設についても同様であります。アメリカやカナダでは、アカデミックな科目中心のカリキュラムが批判され、急速にクリニックが強化されております。アメリカ・カナダの経験に学ぶことができるわが国では、必修にはしないまでも、希望者が必ず履修できるよう、必置科目とすることが望ましいと思われます。
 そして、多くの科目の授業は、学生の自発的かつ意欲的な予習による能動的参加と復習を当然の前提とすることから、①学生があらかじめ教材を読みこなし、あらかじめ考えた上で授業に臨み、その授業の成果を復習することができるだけの余裕を持つよう、修了要件としての履修単位数を過大なものとしないことに加え、履修可能単位数に上限を設けること、②法曹が多様なニーズに応えられるように多くの科目を選択し得るだけの科目が設定されること、③それらを現実に選択し得るように、必修単位数と、そこに占める基本科目の比重を抑制するとともに、実際の評価においてもこの点に特に注意を払うことが必要であります。現在の学部教育の発想にとらわれて、必修単位数を肥大させ、基本六法に重点をおきすぎることによって、司法試験科目の勉強しかしないとの批判がある現在の多くの司法試験合格者と同じ問題を生み出してはならないでしょう。
 また、授業方法も、従来のように体系的に教えるということにこだわって、教師が一方的に講義する方法が安易に採用されるようなことがあってはなりません。第三者評価においては、新たな授業方法が実際にどのように行われているかにも注意を払うべきです。
 このような法科大学院の教育目的と方法にふさわしい質と量の教員が確保されていることが、教育実績、授業能力、実務経験等に基いて判定されることになるのであります。その際、法科大学院の教育が法学部のそれとは根本的に異なること、法科大学院の授業に求められる準備の負担の大きさを考えれば、法科大学院の教員は、本来の任務に全精力を注ぐべきであって、学部とのいわゆる兼担は、本来あってはならないものです。したがって、過渡期の措置としてこれを認めることがあるとしても、許容期間を必要最小限に限定することによって、法科大学院の自立と法学部の改革を促進する措置を取るべきであると考えます。
 また、現在の法学部では、とくに私学において教員の授業負担はきわめて重く、しかも学内兼担や他大学非常勤講師等がかなり頻繁に行われているようであります。このような状態が法科大学院でも行われるならば教育の質を大きく損なうことになりますので、評価基準で授業負担に対する上限を定めるとともに、実際の評価では基準を潜脱していないかどうかが、厳しく審査されるべきです。
 そして、これらの教育に基く成果が、厳格な成績評価と修了認定によって実効性をもって確認される仕組みが講ぜられているかについても、正しく評価されなければなりません。その際、学生が在学期間中、その課程の履修に専念できるよう、成績評価等の方法が明示されていなければならないと考えます。
 第3に、法科大学院は、審議会が「法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクール」(61頁)を創設しようとした歴史的意義に鑑みて、また、限られた時間を有効に生かすためにも、1年次からプロフェッショナル教育にふさわしい教育が行われるべきであると考えます。学生は新鮮な考え、多様な視点を持っていると思われる1年次に、創造的な法的思考力や分析能力を身につけるにふさわしい方法で訓練されるべきであって、ロースクールの教育は1年次が最も重要であると考えます。この中で、学生が具体的な課題を与えられ、理論を学びながら法律家のように考えることを徹底的に訓練される必要があります。
 法学既修者のための短縮型は、事実上法学部出身者が多数を占めることになり、開放性、多様性の要請に反し、将来的には3年制に統一されるべきだと考えますが、法学既修者を採用する場合でも、あくまで教育計画は3年間でプロセスを重視した一貫性を確保する方法でたてられるべきであります。審議会が標準型であるとした3年制課程のカリキュラムが、短縮型の存在の故にいささかもゆがめられることがあってはならないと考えます。
 法学既修者の選考は、プロフェッショナル・スクールの教育を短縮するに真に値する者が注意深く選択されなければならず、法科大学院の本来の教育目的・教育計画を踏まえて適切な方法が設定されなければならないと考えます。第三者評価においては、とりわけ自大学の法学部卒業生を優先的かつ安易に選抜している実態がないかどうか、厳しく調査すべきであると考えます。
 日弁連は、このような考えにたって、法科大学院が次代の司法を担うにふさわしい専門的知識と高い職業倫理を身につけた後輩を養成するための中核的機関として、その役割を果たしうるよう、主体的かつ積極的に関与し、その運営に協力することを総会において決議しております。そして、第三者評価機関の実地調査を含む様々な作業に参加することはもちろんのこと、実務家教員の養成、大学教員の実務研修の援助、教材の作成などにも今後とも微力を尽くしたいと考えております。したがって、今後も意見を表明する機会が与えられますならば、まことにさいわいであると考えます。