a)文部科学省から、資料に基づいて、平成16年度開設予定の法科大学院の設置認可等に関する説明がなされた。
b)事務局から、資料3に基づいて、法科大学院における科目の開設予定状況の調査結果について説明がなされた後、座長から資料4の「司法試験に関する意見の整理(案)」が示され、次のような意見交換が行われた。
(「第1 新司法試験の選択科目について」に関する意見交換)
□ 新司法試験については、来年1月に設置される司法試験委員会において検討が加えられることになっており、当検討会で検討するのは今回が最後になる。当検討会としての意見を整理した上で司法試験委員会に引き継ぎたい。本日は、これまでの当検討会における意見交換の結果や只今報告された調査結果などを踏まえて、資料4「司法試験に関する意見の整理(案)」を配付している。
○ 全体の印象として、受験生の受験しやすさ、というニュアンスがかなり強く感じられるので、「1」と「2」の順序を入れ替えるべきである。
○ 賛成である。選択科目の一番の基準は「2」でなければならない。また、消費者法関連科目、環境法関連科目及び社会保障法関連科目については、これらを積極的に学んだ法曹が増えてほしいというのが社会のニーズではないだろうか。これらの科目は、現時点では研究者が少ないために開設する大学が少なく単位数も少ないかもしれないが、これから育てていくべき科目だろう。これらの科目を司法試験の選択科目から外してしまうと、結果的に、学生が積極的に学ぶ気持ちを阻害してしまい、本来もっと発展するはずであった新しい科目が発展しなくなるのではないか。試験科目である以上、多くの法科大学院において開設されている科目であるか、単位数が多い科目であるかについて、ある程度の配慮をしなければならないが、これらの点にあまりにもこだわることは避けるべきだろう。科目数としては、最低でも10科目から12科目は必要ではないか。
○ 新たな法曹養成制度が従来の法曹養成制度と異なる点は、法曹の多様性を正面から認めることにあり、これを象徴するためには、選択科目数は多い方がよいだろう。選択科目とすることにより当該科目を開設する法科大学院が増えるという効果もある。
○ 現時点で選択科目を固定的に決めることは非常に難しい。現時点で法科大学院の体制が整っている科目から始めるとしても、将来増えていく可能性があることを明示できないか。選択科目の表現振りについては、例えば「環境法・保安防災法」などと括り方を工夫することによって、科目名から試験範囲がイメージできるようにすべきではないか。
○ 性格は多少異なるかもしれないが大きな意味では似たような科目を括った上で、例えば3科目から6問出題してそのうちの4問を選択させるなど、出題方法を工夫することによって、受験生の偏りを避けられるのではないか。
□ 受験者数のばらつきを生じる可能性があるので、選択科目数が多ければ多いほどよいというわけではないだろう。
○ 法曹の多様性を考えると、選択科目数は9科目や10科目であってもよい。5科目や6科目とすると、結局どこの法科大学院でも開設しているものになってしまう。社会のニーズに応えるためには、選択科目数は多いほうがよいだろう。
○ 方法論としては、当初は選択科目数を制限しておき後から増やす方法と、当初は選択科目数を多くしておき後から社会的ニーズ等に応じて減らす方法の2つが考えられるものの、前者の方法では、選択科目から外された科目は学生が履修しなくなってしまうだろう。法曹の多様性という観点からすると、見直しは当然行うことになるとしても、当初は1科目でも多くしておく方がよいだろう。
□ 社会的なニーズや法科大学院における科目の開設状況などを見ながら見直す必要がある、という趣旨の文章は必要だろう。
○ 選択科目数を最初から10科目以上などと多くすると、受験者数にばらつきが生じてしまい、偏差値調整を行うとしても、科目間の公平が保ちにくくなる。ここでは「5科目以上」などとしておき、後は司法試験委員会に委ねて、その時々の社会的ニーズ等を見ながら増やしていくべきではないか。
○ 5科目などとするのではメッセージ性がない。「4」の後半の「科目間の公平性についても考慮すべきであり」以下の記載は、どのような科目数としても当然のことであるから、別項目にすべきである。○科目「以上」とすることについても、現実的には、例えば7科目以上と書けば7科目に決まってしまい、意味がない。適宜の見直しをメッセージとして残しても、現実的には、見直しは相当難しいだろう。したがって、現時点で多くの法科大学院が開設を予定している科目を入れるとすれば、7科目とか8科目としておいたほうがよい。
○ 賛成である。昭和36年から平成11年まで、選択科目である法律科目は7科目のまま変わらなかった。一旦決定すれば固定されるのは歴史上明らかである。法曹の多様性を求めようというのに、従来の7科目から減らすべきではない。法曹の多様性を強調し、新しいニーズに応えた教育をしていただくというメッセージを表すならば、少なくとも8科目としていただきたい。
□ 先ほどの御意見どおり、「4」の前半と後半とを切り離すことは一つの方法だろう。また、選択科目数について、単に「多くの科目を選択科目とすべきである」とだけ記載することも考えられるが、調査結果が出ている以上、調査結果を見ないで意見を述べても意味がないのではないか。
○ 選択科目数があまり多くなると実務的に大変ではあるが、できる限り幅広い科目を学生に履修させたい。そうなると、先ほど述べられた、類似科目を括った上で複数の設問から選択させる方法であれば、選択科目数は少なくても中身は相当多くなる。そうなると、特に選択科目数を書いておく必要はなくなるだろう。
□ 調査結果を見ると、スタート時点では、最小限で5科目か6科目程度、最大でも10科目程度とするのが無難な感じはするが、それで固定しては困る。
○ 「4単位以上の科目として開設予定である」との回答が多かった6科目に加えて、国際性を重視して「国際公法関連科目」を、環境の時代であるから「環境法関連科目」を加えて、合計8科目としてはいかがか。
○ 従来の7科目よりは多くなるということか。
■ 一般的なルールとして2単位の科目でもよいということにすると、例えば、上位を占める「国際私法・国際取引法関連科目」が2科目に分かれることもあり得ることになるが、その場合には4単位以上とされている他の科目とのバランスを失することになる。このように、複数の科目を括って4単位以上の試験範囲とすべきこととするのか、2単位の試験範囲でも一つの選択科目としてよいのか、前提を整理しておく必要がある。
○ 2単位のものは試験科目としてそぐわない。できる限り括るべきである。
○ 例えば「国際公法・国際人権法」とするのは、類似科目であるとともに、科目の発展性を示すことにもなるだろう。
□ それでは、科目数そのものではなく、科目の構成について工夫をする旨を記載することとし、「多くの科目とすべきであり、科目内容についても工夫をすべきである。」としてはどうか。
○ それではどのように工夫するのか分からないので、「類似科目を統合するなどの」工夫をする、とすべきだろう。
○ 言葉使いの問題であるが、「多くの科目から出題すべきであり、その出題に当たっては、その科目群を工夫すべきである。」ではいかがか。
○ それでは、次のとおり修文したい。まず、「2」を「1」とした上、「1」に「選択科目については、必要に応じて適宜見直すべきである。」を付加する。次に、「4」の前半を「2」とした上、「多くの科目(分野)を選択科目とするべきであるが、」とあるのを「多くの科目から出題すべきであり、その科目群については、類似科目を統合するなどの工夫をすべきである。」と改める。その後、「1」を「3」に、「3」を「4」に、「4」の後半を「5」と改める。そして、「具体的な科目数としては、○科目以上〔○科目程度〕とすることが望ましい。」とあるのは、削除する。
○ 言葉の理解の問題として、「3」に「多くの」とあるのは、過半数という趣旨か、大多数という趣旨か。
○ 「多くの法科大学院において開設されている必要がある」という表現はかなり強いので、「多くの法科大学院で開設されているような事情も考慮する」という程度にトーンダウンすべきである。
○ 「多くの」でなくてもよいだろう。
□ それでは、「3」の「当該科目が多くの法科大学院において開設されている必要がある。」とあるのを「当該科目の法科大学院における開設状況も考慮する必要がある」と改める。
(「第2 平成16年度以降の現行司法試験の合格者数について」に関する意見交換)
□ ここでの問題は、平成18年度以降の現行司法試験の合格者数である。この案では「数百名程度」としているが、前回は500人程度という意見も出ていた。
○ 「数百名」が500ないし600人という意味であれば、多いような気がする。
○ 「第1」の選択科目の問題と異なり、平成18年度以降の現行司法試験の合格者数については、2つの大きな不確定要素がある。一つは、法学既修者として2年で卒業する者の数である。入学後に既修者・未修者を分ける法科大学院もあるので、現段階では法学既修者数の見通しが立たないし、厳格な成績評価が行われるから、現段階では卒業者数の見通しも立たない。そのため、新司法試験における法学既修者の受験者数も分からない。また、法科大学院においてどの程度の質の教育がなされるのかも、現段階では分からない。もう一つ、様々な事情により法科大学院に進めず現行司法試験により法曹資格を得たいという者が必ず出てくるから、平成18年度の現行司法試験の受験者数がいきなり半減するわけではないだろう。そして、それらの者がどの程度の学力を持っているのか、試験を実施しなければ分からない。したがって、現段階で一律に合格者数を決めるべきではなく、大きな方向性としては平成18年度から現行司法試験の合格者数が相当程度減るということをコンセンサスとしておくほかないのではないか。
○ その意見には反対である。法学既修者の数が分からないのはそのとおりであるが、それは新司法試験の合格者数をどの程度にするかという問題であり、現行司法試験の合格者数をどの程度にするかという問題とは違うのではないか。現行司法試験の合格者数をどの程度にするかについては、原則として法科大学院を経由することを求めるという新たな法曹養成制度に合わせた考え方をすべきである。すなわち、すでに現行司法試験の受験準備をしている者に不当な不利益を与えないよう、現行司法試験を5年間併存する措置が採られているのであるから、それらの者に不利益を与えない数であればよい。これから法科大学院に行かずに新たに現行司法試験を受験する者が出てくることを想定する必要はないし、それを想定すると、法曹養成制度を切り替える趣旨が不明確になる。これから司法試験を始める者に対しては、2つの道はない、法科大学院を経て法曹になってほしい、というメッセージを送るべきである。
○ それは実証性のない意見である。受験生に不利益を与えない数が、どうして500人といえるのか。新規参入組まで救済すると申し上げているのではない。すでに受験勉強を始めていてもう一息で受かる者がどの程度の数なのか、この段階では分からないのである。学力試験なのだから、学力さえ一定以上であれば、本来、合格させるべきである。法科大学院が設けられることから、従来と同じというわけにはいかず、学力があっても落とすことがあるのかもしれないが、合格者数を500人などとすると、相当の学力があるのに落とすことにならないか。現時点で現行司法試験の合格者数を決めておくことには、根本的な疑問がある。
□ 現行司法試験の合格者数を曖昧にしておくと、ずるずると現行司法試験の受験を続ける者が出てくるのではないか。
○ 受験生の責任ではなく、国策として制度を切り替えるのであるから、受験生の不利益はできる限り避けるべきである。そのためには、現行司法試験の受験生がどのような層であり、どの程度の数がおり、どの程度の能力水準であるのか、シミュレーションすべきである。それらが何も分からないのに、どうして現段階で500人などという数字が出せるのか。およそ実証性のない、観念的な数字である。
□ 制度設計の問題だろう。現行司法試験の受験生の質が毎年向上する保障もない。
○ 受験生に不利益を与えることのない数字がなぜ500人といえるのかについて実証的な検討はいらないという議論には、およそ承服できない。ただ初めに500人ありきという議論は、あまりにも不見識ではないか。
■ それでは、現行司法試験の合格者数をいつ決定するのか。
○ 現行司法試験を実施してから決めればよい。
■ そのような考え方でよいのかどうか議論してほしい。
□ 1200人、1500人という数字も、実証的な数字ではないだろう。
○ それらの数字は、法曹人口を3000人に増加させるという目標から設定されるものだから、実証性の問題ではないのだろう。
□ 法科大学院は従来の受験生よりレベルの十分高い学生を送り出せるものと想定されているので、現行司法試験の合格者数が500人では少ないとは思えない。
○ 新規参入者を想定しなければ、平成18年度の現行司法試験の合格者数を500人としても、すでに受験勉強を始めている者にとっては今後3年間で3500人合格できる枠がある。それが不当に狭いとは思えない。
□ かなりの数字だろう。
○ 現在は1200人しか合格しないところ、合格者数を1500人に拡大した年が2年間続き、さらにその後500人が合格するのである。すでに受験を始めた者が受ける不利益は、ほぼ解消されるのではないか。実証性といっても、現行司法試験の受験生の水準や何年先に合格するのかを実証するのは、非常に難しい。
○ 平成18年度の現行司法試験の受験者数が半減するならともかく、それほど減少しない場合には、500人という数字が不利益にならないといえるのだろうか。
□ 先ほど述べられたとおり、1500人が合格する年が2年間続いた上、なお数百人程度が合格するというのは、すでに現行司法試験を受験している者にとっては相当手厚い救済措置ではないのか。
○ 現在、司法試験合格者の平均年齢は28歳であり、平均6回受験している。予備校に通い暗記して早く受かる者もいるが、そうではなくて、じっくり勉強して力をつけて合格してくる者もたくさんいることは、司法研修所でも分かっている。
○ 今のまま勉強を続ければ平成18年度以前に合格できるという自信のある者は、法科大学院に行かず、相変わらず現行司法試験を受験するのだろう。その層のうち本来合格すべき者は、3500人という枠の中で十分吸収できるのではないか。そのような自信のある層の一番下にいる者は、法学既修者として学び直して、これからの時代が求める新しい法曹になるべき教育を受けて新司法試験を受験するだろう。現行司法試験の受験者数がどの程度減少するかは分からないが、平成18年度の現行司法試験の合格者数を500人としても、特に受験生に不利益はないと思う。経済的事情のある者はともかく、これから良い法曹になろうとする者は、2年以内に合格できないと思えば法科大学院に進むだろうし、受験を始めていない者も法科大学院に進もうとするだろう。非常に能力のある者が現行司法試験に残留することを想定して制度設計する必要はないと思う。
□ 仮に能力のある者が現行司法試験に残留するにしても、2年間1500人ずつ合格させた後、さらに数百人合格させれば、十分過ぎると思う。個人的には、500人でも多すぎると思っている。
○ 合格者の平均年齢28歳という試験を切り替え、しかも、受験資格を法科大学院卒業生に限定するというのは、受験生にとって著しい不利益である。それを5年かけて救済するのであるから、現行司法試験の合格者数をどうするかという問題については、もう少し実証的な検討が必要ではないか。
□ 新司法試験と現行司法試験の各合格者数については、今の時点では遅すぎるくらいであり、もっと早い段階で提示すべきであったと考えている。学生はすでに前回の議論で影響を受けている。政策的に決定すれば、学生はそれに合わせて不利益を受けないように行動するのではないかと思う。
○ 実証的な検討もせずに具体的な数字を示すというのは、釈然としない。
○ 実証の方法がないのではないか。新規参入者を想定せず、従来の受験勉強をしていた者を救済するのであるから、どこかで見切りをつける必要がある。しかも、新規参入者や若干勉強した程度の者に対して、法科大学院に進んでほしいというメッセージを送るためには、平成18年度の現行司法試験の合格者数は数百名程度と言っておかなければならない。1500人がずっと続くかのような宣伝をしている向きもあると聞くと、この2年間に合格しなければ合格者数は大幅に減少するのだというイメージとして、平成18年度の現行司法試験の合格者数については「数百名」という数字を出しておく必要がある。「数百名」という表現はかなり幅のある表現であるが、「千名」ではないということは確かである。この数字は、実証はできないとしても、常識的な予測の中に収まっているのではないかと思う。
○ この問題を曖昧にしてしまうと、結局いつまでたっても不確定要素が解消できない。新司法試験と現行司法試験のいずれを選ぶかというときに、現行司法試験については従来1200人しか合格できなかったのに1500人に増える、しかも、かなり優秀な学生は法科大学院に流れる、となると、現行司法試験の受験者数は減少するどころか、むしろ現行司法試験の方がよいと考える危険性もある。現時点ではっきりしたメッセージを送らなければ、学生が迷ってしまう。3年間で3500人という数字は、決して不当だとは思えない。
○ 前回の検討会の後、新聞報道を見て、かなりの学生が動いている。法科大学院に進学しようとする者は適性試験を受験し、法科大学院への進学を諦めた者は就職などを考えている。そのような状況で、再び現行司法試験に希望を戻すようなことをすべきではない。
○ 「数百名」というのは、500名から600名というイメージか。
□ 前回の検討会では、そのような意見であった。「毎年漸減させる」については、まさに様子を見ながら決定されることになるだろうが、平成18年度の合格者数については、学生の進路選択にかなり大きな影響を及ぼすし、法科大学院の既修者の認定にも大きな影響を及ぼすので、現時点で何らかの数値を出しておくべきである。ここは、「年間数百名程度」ということにしたい。以上の意見交換を踏まえて資料4を修文したものを、当検討会の意見の整理として、司法試験委員会に引き継ぎたい。もっとも、司法試験の実施主体はあくまで司法試験委員会であるから、当検討会の意見を尊重していただくことを期待しているが、司法試験委員会における検討を拘束するものではないことについては、ご了承いただきたい。
c)事務局から、資料5に基づいて、法科大学院への裁判官及び検察官その他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律施行令案の概要について説明がなされた。
■ 現在、関係機関との最終的な調整を行っているところであり、年内の閣議決定を経て、来年早々に公布することを予定している。また、国庫納付金の基準額や納付の手続については、現在、パブリックコメント(意見募集)を行っており、各法科大学院担当者にもお伝えしている。
事務局から、資料6「司法修習貸与金(仮称)」について説明がなされた後、質疑応答、意見交換が行われた。
□ この問題については、当検討会としても一定の方向性を示さなければならない時期に来ている。この問題は、法曹養成についての国民の負担をどのように考えるかという問題であり、司法制度改革全体についての国民の視点を考慮しながら議論しなければならないと思う。
○ 前回の取りまとめは、当然に貸与制になるという趣旨ではなく、選択肢の一つとして貸与制も視野に入れて制度設計するという趣旨であったから、本日は、いくつかの具体的内容のある案が提出されて、それらを比較検討するものと考えていた。ところが、本日は、具体的内容のない一つの案しか提出されていない。返還免除についても、司法修習生がどの程度の経済的負担を負うのかが分からなければ、議論が進まない。もう少し具体的内容のある、複数の案を提出できないのか。
■ 貸与額はどの程度がよいのか、返還免除としてどのような内容がよいのかなど、貸与制の具体的内容については、むしろ委員から御意見をうかがいたい。特に任官者免除については、法務省や最高裁から、今すぐにでも御意見をうかがいたい。それを踏まえた上で、当検討会において委員に意見交換をしていただき、事務局が可能な範囲で調整した上、具体的な案を形成することになるものと考えている。
□ これまでの議論からすると、仮に貸与制へ切り替えた場合にどのような制度設計になるのかが検討の中心になるのだろう。委員や関係機関から御意見をいただき、事務局案を肉付けしていきたいと思う。
○ 法曹養成の過程を経ることについて非常に経済的負担がかかるおそれもあるところであり、経済力に関係なく法曹になれるようにしていただきたい。その関係で気になるのは、法科大学院に対してどのような財政支援が行われるのかということである。新聞報道によれば、財務省は、来春開設予定の法科大学院の関係で文部科学省が来年度予算で要求している新たな助成を認めない方針を明らかにしたとのことである。前回紹介された文部科学省の概算要求がほとんど認められないとなると、法科大学院を経るだけで親が1000万円用意しなければならない、あるいは学生が1000万円借金しなければならないことになる。この点の真偽をお尋ねしたい。
(文部科学省)概算要求については前回説明したとおりである。財政当局との折衝状況については、時期的には大詰めであり、司法制度改革推進本部とも協力し合って、文部科学省として最大限のものを確保したいと考えているが、具体的な数字については現時点ではお答えできず、折衝の一番最後までもつれ込みそうである。
■ 法科大学院については、予算の枠としては文部科学省であるものの、政府全体として取り組むべき問題であるということから、現在、司法制度改革推進本部の副本部長である法務大臣が、副本部長の立場で折衝されているところであり、最終的にどうなるかは申し上げられないが、現時点で最大限の努力をしている。
○ そうだとすると、貸与制が適当なのか、貸与制の具体的内容はどうあるべきか、給費制を一部でも残すべきなのかという議論の前提として、司法修習生が法科大学院を経ることによってどの程度の経済的負担を負うかということが未確定のままで議論することになる。法科大学院に対する財政支援の推移や、今後の司法修習生の経済状態がどうなるかを待つことは不可能なのか。これらは予算が決まらなければ分からないから、予算が決まった後に貸与制の問題を議論すべきではないか。
○ その意見には反対である。給費制の在り方の見直しについては、これから法曹人口が3000人に増加するという前提に立った上で、限りある財源の中で、法曹養成のプロセスにかかる全費用を合理的に配分するとの観点から議論すべきである。貸与制もやむなしというべきである。
○ 法科大学院に対して適切な財政支援があるという前提に立ち、給費制を貸与制に切り替えることが財源の合理的配分であると決定した後に至って、財務省はゼロ査定だった、ということになりはしないか。法曹養成の過程で法曹となろうとする者に不当な負担を与えることにより、法曹像が歪むことがあってはならない。
○ 法曹養成の議論には相当気をつけないと、世間の反発を招くことになる。法曹三者の社会的ステータスは高いのかもしれないが、自分としてはサイエンティストやエンジニアを育てていくことと同じ位置づけと考えている。彼らは貸与制による奨学金を受けている。この問題の議論では、そのような他の分野のことも考えなければ、反発を招くことになる。
○ 給費制の在り方の見直しと法科大学院に対する財政支援の問題とは、従来の議論において、暗黙のうちにリンクするものとして考えられてきたようにも思われるが、両者は論理的には別の問題である。両者を切り離して考えた場合には、貸与制に切り替えず給費制を維持した場合、将来法曹人口が3000人になった時にはとても財源が足りないだろうし、3000人に増やせないという議論が出てくるかもしれないと危惧している。貸与制に切り替えて返還免除の制度を設けるほうが、妥当なアプローチではないか。返還免除については、司法ネット専従者や任官者も考えられるが、別のアプローチとして所得が一定以下の場合に免除することも考えられる。
□ 大学の教員も、かつては返還免除だったが、今は全部返還している。
○ 返還免除についても、気をつけて議論しなければ世間の反発を招くことになる。
○ 貸与制には、経済的公平性の観点から経済的事情の厳しい人に貸与するという趣旨のほか、多様な法曹を育成するという趣旨もある。後者の趣旨からすれば、返還免除を有効に機能させるべきである。返還免除を有効に機能させることにより、私的利益を追求しにくい公的な役割を担う法曹も出てくるだろう。このように、合理性があり、納得できる制度であれば、不当な反発も招かないのではないか。
○ 前回までの議論で、貸与制に決定したわけではないとしても、貸与制もあり得べしという流れになったのではないかと思う。法科大学院に対する財政支援が決まるまでは貸与制への移行も決められないというのでは、議論が進まない。当検討会としては貸与制で結構だということを明らかにすべきである。返還免除については、任官したらすべて一律に免除されるということは国民的支持を得られないだろうが、地方における弁護士過疎を解消するためのインセンティブになるようなものは必要ではないか。特別に公益性の高い職務につく者や、所得の低い者を返還免除の対象にするなどの工夫も考えられるのではないか。
■ 司法制度改革推進本部の設置期限は来年11月末日となっている。現在、法律で給費制が採られていることから、給費制の在り方について方向性が示されないまま設置期限を迎えた場合は、時間切れにより給費制が維持されることになる。当検討会は、法曹養成制度について、法曹三者以外の立場、あるいは国民的な視点に立った改革のための御意見をうかがうのに相応しい検討の場として機能してきたものと考えている。そしてまた、給費制の問題は、まさに当検討会において検討していただくのに相応しいテーマであるとも考えている。事務局としては、貸与制へ移行する法案を来年の通常国会に提出したいと考え、そのための作業は進めている。これに対して、法曹三者は、貸与制への移行に反対し、あるいは態度を明確にしないという状況にある。特に返還免除について、具体的な御意見がうかがえないまま推移している状況にある。このような状況にあって、事務局としては、設置期限との関係もあり、給費制を維持するのか、貸与制への移行もやむを得ないとするのかという方向性について、当検討会の御意見を早急にうかがいたいと希望している。
□ 貸与制に切り替えることもやむを得ないとした場合にどのような制度設計が考えられるか、もう少し具体的な案を出して御議論いただきたい。その際、法曹三者からも、返還免除について積極的に御意見をうかがいたい。
○ 貸与制に移行する場合の修習専念義務について、アルバイトは許さないという前提を維持するのか。また、現在、司法修習生は、受入側の都合により出身地と関係なく全国に配属されており、これは給与を受けるから当然であるというような考えと思われるが、その点をどうするのか。さらに、どの機関が貸付けをし、債権管理や取立てをするのかという問題についても、具体案をお示しいただけるのか。
□ それらの問題についても、御意見があれば、どんどん発言していただきたい。なお、大学は学生から授業料をとりながら学業専念義務を課しており、必ずしも給与を払うから修習専念義務があるというわけではないのではないか。
○ 現在、司法修習生に対して非常に厳格な修習専念義務を課しており、修習に専念しなければいけないような厳しいカリキュラムにもなっている。貸与制になり、かつ、貸与を受けるかどうかは任意という制度にすると、司法修習生の専念義務も、学生と同程度の専念義務、すなわち勤務時間内に勤務して試験さえ受ければアルバイトも自由にできるという程度の義務になるのではないか。しかし、制度設計上、司法修習生は非常に特殊な身分であるので、その程度の専念義務でよいのか、真剣に議論しなければならない。
■ 修習専念義務は、現在の法律では規定されていない。また、給与を払うから修習専念義務があるというのは、短絡的な考え方ではないか。法律案の立案を担当する事務局としては、法律事項以外についてまで決着がつかなければ法律事項についての結論も出せないといわれるのは困る。
□ 国民的視点などからすると、貸与制への移行は一つの合理的な選択肢として、そういう方向性にすることはやむを得ないということとし、先ほど指摘された問題点や返還免除の仕組みについて、もう少し詳しく検討を加えていきたい。
○ 最も気になるのは、法科大学院と司法修習とを通じて、司法修習生がどの程度の負債を負うのか分からないということである。毎月どの程度の金額を返還しなければならないのか。それは、普通に法曹として仕事をしていく中で返還可能な金額なのか。財務省の態度が分からない以上、本当に無利息になるのかも分からない。そういった司法修習生の負担の具体的イメージがつかめないので、積極的に貸与制への移行に賛成できない。新しい司法修習では前期修習がなくなることもあり、あまりに大きな負担を抱えることになれば、大手の渉外事務所等が内定した司法修習生を丸抱えするという事態が助長されるのではないか。そうなると、今回の司法制度改革における法曹人口の増加の目的の一つである、それほど儲からない分野でも弁護士として活動していくという人材を育てる土壌ができないのではないか。この問題については、単に返還免除だけ認めれば足りるというものではない。
■ 司法修習生の中には、学生時代を通じて、全く借りない人もいるし、数百万円借りる人もいるし、債務の総額が1千万円になる人もいるだろう。司法修習生の経済的負担には、そのようないろいろな段階があるにもかかわらず、それが分からないから一律に給費制を維持するというのは、やや無謀な議論ではないか。
○ 司法修習生の経済的負担が分からないから全面的に給費制を維持せよ、と申し上げているわけではない。司法修習生の負う経済的負担を具体的に教えてほしいと申し上げているのである。
□ 貸与制もやむを得ないということでいろいろと制度設計をしたけれども、やはり貸与制は非常によくないということが分かれば、再度検討の余地があるだろう。従来のように、貸与制という方向性で検討すること自体についても法曹三者が協議に応じていただけないという状況では、事務局としても動きようがない。法曹三者からもご協力をいただきながら、司法修習生に法科大学院段階からどの程度の経済的負担がかかり、返還免除と組み合わせることでそれなりに合理的な制度になるのかどうか、具体的な制度設計の中での議論をしなければならない。諸般の事情から貸与制もやむを得ないとして、どのような制度設計が考えられるか、事務局で検討していただきたい。本日は、前回よりもう少し方向性が出たものと理解していただきたいと思う。
(法務省)返還免除についての考え方を次回までに準備したい。他方、協議に応じていただけないと何度も言われているが、我々としては何度も協議に応じているつもりである。貸与制は一つの有力な選択肢だとは思うが、どのような立法事実に対応するための制度改革として位置づけているのか。その哲学との関係で返還免除を組み立てないと、責任ある制度設計ができないのではないか。貸与制に移行する前提となる考え方について、従来からご説明いただきたいと申し上げているが、現在のところ、財政事情を理由に何とかしてほしいという程度の説明しかいただいていない。
(最高裁判所)この問題については、法曹三者の立場と国民の視点という問題をはじめ、検討が難しいところがあり、ややもすると収縮した議論になりがちな面がある。これまで事務局とも協議を重ねながら、多角的に検討を進めているが、当検討会においても、より広い観点から御議論いただきたい。次回には、事務局とも十分に連絡をとりながら、必要なところについて、ご説明申し上げたい。
(日本弁護士連合会)この問題については、いきなり返還免除から議論するのではなく、よい法曹を育てるという観点からどのような制度が望ましいかという議論をすべきである。修習専念義務についても、大学生と同程度の専念義務とすることで本当に良い法曹が育つのだろうか。これらの問題を詰めていかないと、制度設計を誤ることにならないかと懸念している。
○ 法曹三者の意見が一致するのが望ましいし、そのように努力すべきだとは思うが、司法制度改革そのものが、法曹三者だけの合意では埒が明かないところから始まった経緯もある。やはりどこかで決心をしなければならない。時間的な制約もあるので、すべての問題点をクリアーしないと決められないというのではよろしくない。次回には方向付けができるようにお願いしたい。
□ そういうことでよろしいか。