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司法制度改革推進本部顧問会議(第12回)議事録



日 時 : 平成15年7月30日(水)16時30分〜18時

場 所 : 総理大臣官邸4階大会議室

出席者 :
(顧 問)
佐藤幸治座長、今井敬顧問、大宅映子顧問、奥島孝康顧問、笹森清顧問、
志村尚子顧問

(推進本部)
小泉純一郎本部長(内閣総理大臣)、福田康夫副本部長(内閣官房長官)、
森山眞弓副本部長(法務大臣)、上野公成本部長補佐(内閣官房副長官)、
古川貞二郎本部長補佐(内閣官房副長官)

(事務局等)
山崎潮事務局長、高橋宏志司法アクセス検討会座長、
青山善充ADR検討会座長、伊藤眞知的財産訴訟検討会座長 他

議事次第 :
1 開 会
2 司法ネット(仮称)等について
3 内閣総理大臣あいさつ
4 今後の立法課題に関する検討会における検討状況等について
5 閉 会

【佐藤座長】 それでは、定刻にもなりましたので、ただいまから「司法制度改革推進本部顧問会議」第12回会合を開会いたします。顧問の皆さんには御多用のところ御出席賜りまして本当にありがとうございます。
 佐々木顧問と小島顧問は、本日所用のため御欠席でございます。ただ佐々木顧問、それから小島顧問からはペーパーが提出されておりますので席上に配布させていただいております。
 今日はまた、司法アクセス検討会の高橋座長、ADR検討会の青山座長、知的財産訴訟検討会の伊藤座長に御出席いただいております。お忙しい中、恐縮でございます。ありがとうございます。
 では本日は、まず5時ごろまで司法ネットなどについて御協議いただきたいと存じます。
 初めに司法アクセス検討会の高橋座長から、検討会の検討状況などについて御説明いただきたいと思います。

【高橋司法アクセス検討会座長】 御報告申し上げます。
 社会が複雑多様化し、社会経済の構造改革が進む中で司法の役割が大変重要になってきていることは申すまでもありません。しかしながら、現状では司法による紛争解決に至る過程でさまざまなアクセス障害が生じており、司法の助けを得られないまま、言わば泣き寝入りをしている国民が少なくないと言われております。
 司法アクセス検討会では、民事の分野を中心にこのような司法に対するアクセス障害を解消し、司法制度を国民が利用しやすいものとする観点から司法ネットの整備という課題について検討を続けております。本日は、司法ネットのイメージにつきまして、これまでの検討会における議論に基づいて御報告申し上げます。
 「資料1」の司法ネットのイメージ図をごらんくだされば幸いです。
 民事の分野におけるアクセス障害への対応としては、まず法的な問題を抱えた国民が何らかの窓口に駆け込み、相談や情報提供を受けた上で解決までの道筋を示してもらうようにすることが必要です。
 このような意味でのアクセスポイントとしては、イメージ図の左側にも示されているとおり、現在でも弁護士会、地方公共団体、各種相談機関等の窓口が用意されております。しかしながら、これらの窓口に関する情報提供や相互の連携が不十分なために国民のニーズに十分に応えられていないのが現状だと思われます。
 更に、弁護士すらいないような司法過疎地域においては、司法へのアクセスは極めて困難であります。こうした地域では、弁護士への相談ができないために、ヤミ金融業者や悪徳業者による被害が集中しているとも聞いております。
 このような現状を改めるためには、アクセスポイントとしての総合的な相談窓口を整備するとともに、既存の窓口の自主的な取り組みを尊重しつつ、相互の連携・協力を図ることによりアクセスポイントのネットワーク化を進めていくことが重要であります。
 また、司法過疎地域におきましては、アクセスポイントの設置とともに住民に実際に法律サービスを提供できる仕組みも必要であり、このような地域に弁護士などの法律専門家を安定的に派遣できる体制をつくり上げることが急務となっております。
 以上の方策を進めるについては、民間等の力を最大限に発揮させつつ、それでは足りないところを補うために中核となる運営主体が必要であります。
 このような運営主体として、イメージ図にもありますリーガルサービスセンター(仮称)というものが必要ではないかと考えているところであります。
 次に、アクセス障害の解消のための方策としては、資力に乏しい人に対する民事法律扶助の拡充も重要であります。しかしながら、民事法律扶助に関しましては、自己破産事件の急増による財政状況の逼迫等の問題があり、業務運営の効率化を進めつつその拡充を目指す必要があります。
 また、犯罪被害者対策も重要であります。御承知のとおり、我が国では最近凶悪な事件が多発しており、少年によるショッキングな犯罪も起きております。犯罪被害者やその遺族が法的な救済から取り残されることのないよう、工夫をして取り組む必要があります。
 これらの対策に加えまして、公的刑事弁護制度の整備も必要とされております。この分野は、公的弁護制度検討会の検討事項ですが、被疑者段階の公的弁護制度の導入や、新たに設けられる裁判員制度による裁判を含めた刑事裁判の連日的開廷のためにも、弁護士の確保が必要であるとの議論がなされているというふうに聞いております。
 このように、利用者が必要とするサービスを手軽に受けることができるようにし、かつ効率的な業務運営をするためには、以上のような民事・刑事のサービス提供を1つの組織が行うのがもっとも適切だと考えております。リーガルサービスセンターは、このような主体としても機能することになると考えております。
 今お話いたしましたような公的弁護の体制整備と効率的な業務運営に加えまして、過疎地域への法律専門家の安定的派遣を実現するためには、従前と同様、一般弁護士を活用するほか、リーガルサービスセンター自体が適当な数のスタッフ弁護士を雇用し、一定の場合にこれを活用していくことも必要であります。
 イメージ図の一番下の方に書いてありますように、スタッフ弁護士の確保のためには、日本弁護士連合会に御協力いただくとともに、若手を中心とした裁判官、検察官にも、弁護士となって運営主体で仕事をしていただくことも必要であろうと思っております。
 また、リーガルサービスセンターによるサービスの提供は、イメージ図の右側に示されました、これまでのサービス提供主体によるサービス提供を尊重しつつ、補充的に行われるべきものであろうと考えられます。
 もっとも、この点にこだわり過ぎまして利用者がたらいまわしにされることのないよう、利用者の利便性という観点からの工夫も必要になると考えております。
 最後に、このリーガルサービスセンターの組織形態については、民間の発想を活用し、独立性を持って自主的、効率的に業務を行い、国民への説明責任を果たすことのできるものが望ましいという意見が検討会では大多数でした。
 リーガルサービスセンターの業務は、国自らが主体となって直接に実施するまでの必要はないと思いますけれども、業務内容の公共性にかんがみ民間に委ねることは相当でないとも考えられます。
 これらを踏まえまして、更に組織形態に関する検討を進める必要があると考えております。
 以上、司法アクセス検討会では、司法制度を国民に身近で利用しやすいものとすべく、司法ネット構想の具体化に引き続き精力的に取り組んでいきたいと考えております。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
 時間の関係もございますので、ただいまの高橋座長の御説明についての御質問も含めて、この司法ネットに関する御意見をちょうだいできればと思います。
 今井顧問、どうぞ。

【今井顧問】 前回欠席して、この問題についての意見は言っておりませんので、ちょっと申し上げたいと思います。
 ただいま御説明のありました内容については、非常に賛成であります。司法ネットの整備は司法を国民に身近なものにするという点で言わば司法改革の根幹でございまして、この整備につきましては国民の期待が一段と高い事項だと、かように思っております。
 また、この整備の意義というのは、効果的な紛争解決と同時に、今、高橋座長からお話がございましたように、不法集団を原因とする紛争の発生自体も抑止され、国民の不安やストレスが解消されることとなり意義があると思っております。
 その整備の方法については初めから大変大がかりな仕組みを全国津々浦々につくるというようなところから始めるのではなくて、国民や地域の司法に対するニーズをよく勘案しながら必要なところを中心に進めていくということが必要なのではないか。
 特に、弁護士がいないというような司法過疎地帯の対策を中心にまず進めていくべきではないかと思うわけでございまして、これには予算がある程度必要だと思いますが、国が大規模な予算を付ける前に、やはり既存の地方団体、あるいは弁護士会等の活動を活用していくということが必要であります。これは、かつて医療で過疎地帯をなくすために、各地に医科大学を急増設して、非常に医師のモラルが低下したというようなことからいきまして、余り大がかりなものから手を付けない方がいいと思っております。
 期待される機能を4つほど申し上げたいと思うんですけれども、1つはこの司法ネットが訴訟だけではなくて、法律相談とか、苦情処理とか、あるいはADRなどを含めた、包括的、総合的な法律サービスに関する情報を迅速に提供して、この情報の提供によって法律サービスの提供機関の間でたらい回しが行われるというようなことがないようなネットワークが必要だと思います。
 それから、利用者の利便性を考えますと、インターネットの活用、あるいは働く者の利便を考えて休日とか、あるいは夜間も場合によっては開いて、国民がいつでも、どこでも安心して相談できるようにすることが必要ではないかと思います。
 2つ目は、今もお話がございましたように、この民事的な法律扶助サービスを提供するとともに、刑事事件の公的弁護サービスの提供が必要だと思います。
 その際、ジュディケア制度に加えまして、自ら弁護士、あるいは隣接の法律専門職種をスタッフとして雇用していくことが効果的ではないかと思います。
 3つ目は、このスタッフの採用に資するべく、法科大学院の生徒に対して一定期間、この司法ネットに就業することを条件にして奨学金制度をつくる、こういうことが有効ではないかと思います。
 最後に、この紛争解決機関に対しまして、右の方にいろいろ書いてありますが、これに対して司法ネットが評価を行って、そしてこの機関の間の健全な競争を促進させるということも必要ではないかと思います。
 最後に、リーガルサービスセンターの運営主体につきましては、運営の透明度、公的な性格からいって、独立行政法人とすることが望ましいのではないかと思っております。

【佐藤座長】 どうも貴重な御意見ありがとうございました。

【今井顧問】 この司法ネット以外の問題で、あとでまた申し上げる時間ありますね。

【佐藤座長】 はい、ございます。

【今井顧問】 では、それは後ほど申し上げます。

【笹森顧問】 司法ネットに限定してですか。

【佐藤座長】 はい、今の段階では。

【笹森顧問】 2月に開催されたこの顧問会議で小泉総理がおっしゃったことが、この司法ネットをつくる非常に大きなポイントになったと思います。
 司法は高嶺の花にとどまらないで、だれにとっても手を伸ばせば届く存在でなければならないと、そして全国どの町でもあまねく市民が法的な救済を受けられるような司法ネットの整備を進める必要がある。
 誠にそのとおりだと思いますし、今日、高橋座長の方からお話になったこのイメージも、この形でいいのではないかと思うんですが、今、今井さんも触れられましたけれども、補強的に4つばかり付け足しさせていただきたいと思います。
 1つは、使い勝手がどういいかということをまず優先させてほしい。これは、使い手の立場からの使いやすさの徹底的な追求というのを盛り込んでほしい。いつでも、どこでも、だれでもサービスを受けられるということが、このネットの中では、なければいけないのではないかと思います。
 2つ目は、地方自治体の主体的な、あるいは自律的な関与の仕方。今、今井さんは、いきなりどかんと全国津々浦々というのではなくとおっしゃった。確かにそのとおりなんだけれども、いずれは全国津々浦々つくらなければいけませんから、そうなってくると自治体が主体的に役割を果たさなければならないということをきっちりとその中でつくり上げていかなければいけないだろう。このこともかなり先行してやっていただきたい。
 それから、ワンストップサービスの問題は今、座長の方から説明されたとおりなんですが、そういう訴訟問題に当たったときに、とりあえずコンタクトをしてひとまず安心できるというような、そういう施設に、受け止める仕組みにしてもらって、それが絶対にたらい回しにならないということは基本に置いてほしい。これが3つ目です。
 4つ目が、NPO法人との関係なんですけれども、これは柔軟な運営をどうするかということが非常に必要になってくると思うんですが、財政面のことも考えなければならないのは勿論なんだけれども、法制化していくと、独法だけが先行していきますと、今ある形の中で法律扶助協会を独法に変えて、そのまま運営すればいいではないかなんていうような形になりかねない。
 要するに、非常に小さなものになってしまうということになりますので、これは地域参加型のNPOといった形態の活用も含め、そうなってくると民間の自立と自助努力を前提にした制度というものをその中に組み込みつつ、そこに公的な資金をどう投入するかということを含めてきめ細かい対応をお願いできればと思います。

【佐藤座長】 どうぞ、志村顧問。

【志村顧問】 ただいま、両隣のお二方がおっしゃったことに私も賛成でございまして、それにも関わってくることかと思いますけれども、1つは先ほど高橋座長もまだどこまで官で、どこまで民で、そして既存の事務的資源を十分活用しながら、とおっしゃいましたので、まだ早過ぎる御質問かもしれませんけれども、少なくとも最初の段階で、例えば過疎地域というのがありましたが、そういうところにこのネットを立ち上げる第一の段階でどのくらいの新しい人材、数と性格でございますね。その次に、どこへ行くべきかということをまず考えてあげる人というのが何か大きな役割のようですが、それには必ずしも法律の専門家ではなくても特定の研修とか訓練が必要なように思います。
 そういった、初段階の人材と財的資源は大体どのくらいか、既に見当は付いておいでなのでございましょうか。

【佐藤座長】 どうぞ、高橋座長。

【高橋座長】 最後の問題は、これから鋭意検討するという予定でおります。ある程度の見当は付いておりますが、検討会自体の中ではまだそこまでの議論は進んでおりませんので。

【佐藤座長】 志村顧問、今の段階ではよろしゅうございますか。

【志村顧問】 はい。

【佐藤座長】 ほかにいかがでしょうか。
 今、伺っていまして、顧問の方々のお考えも基本的には同じ考え方ではないかという感じがいたします。
 独法形式がいいのかどうかということについては、今井顧問、笹森顧問の御意見は少し違ったような感じもしますけれども、最終的にどういう組織形態が適当なのかというのは、まだもう少し議論していただく必要があるのではないか。
 さっき高橋座長の方で議論しているというお話がございましたけれども、なお更に検討していただいて、その辺は最終的にはもう少し先でいいのではないかと。問題は中身、どういう仕事をするのかというようなことが一番大事でございまして、その点につきましては、さっき今井顧問、笹森顧問が御指摘のようなことではないかと、基本的には私も本当に同感する次第です。
 2月5日に本部長の総理から、さっき笹森顧問が御紹介されたような、高嶺の花ではない、すぐ手に届く、そういうものをやるんだというお話がありました。これは一種の総理の国民に対する約束のようなものでありますが、このイメージを拝見してようやく具体的な姿がこういう形で出てきたというように理解されるわけでありまして、よく短期間にここまで詰めていただいたというように私自身は思っております。
 おおよそこういう形のものができていく。手順とかやり方とか、あるいは運営主体のことにつきまして、さっき申しましたようにこれからなお詰める必要があるかと思いますけれども、おおよそこういう形で。そして質の高い法的情報、法的サービスの提供の拠点になる。今まで日弁連もいろいろ努力されてきた、自治体もそれなりにやってこられた、そういうものに更に血を通わせて全体が活性化するような、そういうものに是非なってもらいたい、しなければいけないというように思っております。
 言わずもがなのことかもしれませんけれども、先ほどおっしゃったことを伺いながら私としてもこのように考えました。第1点は、市民の自律的な生活を法的に支えるということ、市民の自助といいますか、セルフヘルプを助けるんだと、そういう観点、そういう理念に基づくものだということをまず押さえておくべきことではないかという気がいたします。
 そうした観点に立って、市民にとって利用しやすいものにする、利用しやすさを徹底して追求するということが第2点として、当然のことですけれども重要な点かというように思います。
 そして第3点として、これも先ほど顧問の方から御指摘がありましたけれども、この司法ネットというのは地方自治の充実といいますか、地域の活性化につながるということ。自治体にとっても、自分たちの住民がどういう法的サービスを受け、どのようにしてちゃんとした生活ができるようにするかは、本来重大な関心事であるはずなんです。ところが、今までは何となく司法というのは国のもので、自治体とはちょっと違うものだ、縁の薄いものだという意識がどうもあったような気がするんです。これからは司法というのは自治体にとっても非常に重要なものだという観点から、この問題を追求していっていただく必要があるのではないか。そういうわけで今のような形でこれを早急に詰めないといけない問題であると思います。この行く末がどうなるかは、先ほど今井顧問から御指摘がありましたけれども、司法改革の行く末を決めるような重要な意味を持っていると思いますので、今後事務局を中心に早急に詰めていただきたいと思います。

【大宅顧問】 ちょっと1つだけいいですか。

【佐藤座長】 どうぞ、大宅顧問。

【大宅顧問】 その目的だとすると、この名称なんですけれども、リーガルサービスセンター、これは仮称と書いてありますが多分このままいってしまうのではないかと心配するんですけれども、今、カタカナをなるべく日本語にしようとしていますね。例えば、アクセスという言葉ですと、たしか50%も認識度ないんですね。リーガルという言葉が、それほど普通の人たちにこなれているとは私は思わないんです。

【小泉内閣総理大臣】 リーガルは全然わからない。リーガル天才・秀才というのはいたね。

【大宅顧問】 あと靴屋さんとかもあるんですけれども、是非とも日本語にしていただきたいと思います。

【小泉内閣総理大臣】 ADRなんて分からないですよ。

【大宅顧問】 ADRが一番わからない。これはわからない。

【小泉内閣総理大臣】 このADR機関というのは何か。ちょっと専門的過ぎるね、国民にわかるようにしなければだめだよ。リーガルサービスセンターだとわからないよ。本当にこれは高嶺の花だよ。

【佐藤座長】 では、名称の方はもっと工夫するということで。

【小泉内閣総理大臣】 わかりやすい日本語に、お年寄りにも、子供にも、青少年にも、町内会でもわかるようなものにしてください。町内会の自治会に行ってごらん、そっちがわかりやすい話です。そういう観点でいい言葉考えてください。

【佐藤座長】 では、中身はともかく名称の方は真剣に我々も一緒に検討します。

【小泉内閣総理大臣】 みんな大学出ている人ばかりではないんだから。

【佐藤座長】 わかりました。
 それから、総理のいらっしゃる間であれですけれども、法科大学院の問題について少し御議論していただければと思います。法科大学院は、いよいよ2004年からスタートするわけでありますが、財政支援の問題も含めていろいろこれから克服しなければならない課題が山積しております。
 その辺について少し御意見をちょうだいできればと思いますが、いかがでしょうか。
 奥島顧問、どうぞ。

【奥島顧問】 ちょうど総理がいらっしゃいますので、こういう機会に発言させていただきたいと思っておりますが、私、法科大学院協会の設立準備会の会長をやっているものですから、そのこともダブらせてちょっとお話させていただきます。御存じのとおり、今回のこの司法改革についてもそれを基本的に担うのは人でありますが、その人を新しい国づくり、この市場国家といいますか、あるいは司法国家の国づくりのために養成しようというのが今度の法科大学院ということであります。
 そこで、これまでの在り方を改めて、佐藤座長が中心になられまして、今までのような試験一発主義、言わば科挙制度みたいなものから離れて、もっとプロセスを重要視する。つまり修行をさせて、そして高度の職業専門家としての倫理観を身に付けさせ、そしてまたもっと人間性豊かな法曹をつくっていこうということでやっているわけでありますが、これが一斉に来年からスタートすることになります。
 ところが、この司法制度の大きな改革というのは、ある意味で日本の国の全体を、私の考えではマーケット・オリエンテッドな社会に変えていこうという総理の強い意志の下に全体が動いているのではないかというふうに思っておりまして、もしもそうであるとするならば、今度の新しい法曹養成につきましても、そういったマーケットということを少し考えていく必要があるのではないか、つまり、フリー、フェア、グローバルな形でもって、新たな法曹の養成にとりかかるとすれば、この養成をする各法科大学院間の競争というものは、できるだけフェアな競争が可能な条件をつくっていくことが大事なことではないかというふうに思っているわけです。
 今、国立大の大学院の授業料というのは52万800 円でありますけれども、我々が今、法科大学院でもって考えているのは大方200 万〜230 万という授業料になるわけであります。
 そうすると、これをもしも従来どおり国が、国立大学の場合に普通にこれまでの大学院の学費である52万800 円ということにいたしますと、私大との間では余りにも大きな格差ができ過ぎる、つまりそういうことでフリー、フェアな競争というものが果たして可能かどうか。
 やはり人を養成することでありますから、それぞれのところで力いっぱいやっていかなければいけないということになってくると、私立大学の場合には1人当たり230 万ぐらいかかりますので、競争上非常に問題が起こります。私どもとしましては、全く同じにしろなどという、そういう極端なことを申し上げているわけではありませんけれども、できる限り競争条件を詰めるということが必要である。
 したがって、国による法科大学院に対する機関補助といいますか、そういうことを十分御配慮いただきたいということを私ども私大関係者としては申し上げておきたいと思います。

【佐藤座長】 ほかの顧問の方はいかがでしょうか。

【佐藤座長】 この法科大学院の方なんですけれども、今、奥島顧問から御指摘の、私学、国立、国立も独法化しますけれども、格差の是正といいますか、そういう問題をどうするかということでございますが、このやり方につきましてはいろんな方法があり得るというように思います。今の国立大学の授業料の設定の仕方とか、私学助成の在り方とか、あるいは奨学金などで学生個人に対する経済支援のやり方、あるいは国公私立を通じてどういうプログラム、教育をやるか、例えば知財教育を重視したいとかいろんなことがあるかもしれませんが、そういうプログラム着目して支援するとかいろんなやり方があり得るかと思います。
 その辺を具体的にどうするかは、今後更に関係省庁で詰めていただかないといけないと思いますけれども、ここで是非私どもとして確認しておきたいのは、既に奥島顧問御指摘のように、法科大学院を通じて法曹を養成するということが司法改革の根幹を成しているということが第1点でございます。
 第2点は、日本の高等教育の危機といわれることとの関係です。この間のさる会合で、アメリカとか、イギリスとか、フランスとか、外国の大学事情に詳しい人たちから、本当に日本の高等教育、特に文系の教育の在り方は危機的であるという強い懸念が表明されて、そうだそうだということになりましたんですけれども、法科大学院は、この高等教育の危機的な状況を打破する先導役みたいな役割を担わされているんです。法科大学院は教育の在り方を抜本的に変えようということでありますから。
 そういう趣旨から、国として法科大学院を後押ししていただくということを是非ともお願いしなければならないというように思うわけであります。法科大学院の創設に関わる法律でも財政支援の必要ということがうたわれておりますけれども、政府としての法科大学院に対する財政支援というのは、予算上の別枠というか、もっと正確に言えば純増、ここを削ってここを増やすとか、そういうことでなくて純増で、これで頑張ってくれという形で是非支援していただきたいと思うのです。
 そういう理解の下で関係省庁で具体的な在り方を検討していただきたいというように思っておるんですけれども、総理、そういう理解でよろしゅうございましょうか。

【小泉内閣総理大臣】 その話は、文部科学省から聞いています。文科省の予算を削ってやらないで、ほかを考えてくれと言われていますけれども、これは全体のこれからの概算要求の中で考えていかないといけないと思います。

【佐藤座長】 法科大学院の創設については、やり方はいろいろな方法はあると思いますけれども、純増ということでは。

【小泉内閣総理大臣】 それは難しいのです。そうすると各分野で全部別枠という意見が出てきてしてしまうのです。だから総合的に考える必要があります。
 これは法科大学院だけではなくて、全部別枠になってしまうんです。それはちょっとやめてくれと言っているんです。趣旨はわかります。

【佐藤座長】 わかりました。では私どもの気持ちということで、先程のような表現をさせていただきました。顧問の皆さんもよろしいでしょうか。

【小泉内閣総理大臣】 各分野の会議の人たちは、これが専門だから、別枠にしてくれと、これは別枠にということをおっしゃいますが、そうすると、予算編成ができなくなってしまいます。

【佐藤座長】 その御趣旨はよくわかりました。従来、日本の場合は、何か新しいことをやろうとするとき、結局今までのものと横並びにしてあいまいになってしまう場合が多いんです。その辺のことがちょっと気になったものですから。わかりました、もうこれ以上申しません。

【小泉内閣総理大臣】 いかに減らすのが難しいかわかるでしょう。減らさないで増やしてくれとみんな言ってくるんですよ。

【佐藤座長】 これ以上申しませんので、御理解賜りたいと思います。
 総理が御出席いただける時間は、もう既に予定よりオーバーしてしまいました。時間の関係もありますので、最後に総理の方から一言ちょうだいできればと思います。

【小泉内閣総理大臣】 一言御礼申し上げなければいけない。

(報道関係者入室)

【小泉内閣総理大臣】 では、一言ごあいさつします。
 今国会では、司法制度改革関連法案が7本成立しました。取り分け第1審の訴訟が2年以内に終わることを目指した裁判の迅速化に関する法律については、関係者の皆さんの御努力に敬意を表するとともに、迅速な司法の実現を図られるよう、運用面において一層の御尽力を期待しております。
 本日、司法ネットのイメージが示されたと思います。どこに住んでいる市民にとっても民事訴訟の支援、被疑者段階からの弁護など、法律サービスの提供も受けられるような身近で総合的なアクセス窓口が必要であり、そのための体制を新たに整備する必要があります。
 こうした司法ネットの中核となるセンターが担うべく事業内容と、既存の関連サービスとの連携や協力の在り方について、名前も含めて速やかに検討を進めていただきたいと思います。
 犯罪被害者やその家族からは、先日も私はよく話を聞きました。もう憤慨に満ちたいろんな声を聞きました。捜査や裁判の状況を教えてほしい、全然教えてくれない。裁判に出て、加害者に直接問いただしたいなどの声が聞かれます。こういう点にも十分配慮する必要があると思います。
 捜査や刑事裁判における被害者の保護のほか、刑事訴訟以外の分野における損害賠償、名誉の回復、第三者からのプライバシーの保護など、被害者やその家族が適切な法的支援を受けられる仕組みが必要だと思います。
 民事、刑事、その他各般の分野にわたって被害者の権利が十分に保護されるために、司法ネットでどのような支援ができるのか、皆さん方のお知恵を拝借したいし、また御協力をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。

(報道関係者退室)

【佐藤座長】 今日は本当にお忙しいところありがとうございました。

【小泉内閣総理大臣】 よろしくお願いします。

(小泉内閣総理大臣退室)

【佐藤座長】 それでは、続きまして、議事次第に従い「今後の立法課題に関する検討会における検討状況等について」の方に移ります。今日は司法アクセス検討会、ADR検討会、知的財産訴訟検討会における検討状況等について座長の皆さんから御説明をいただきたいと思います。 その前に、事務局の方から概括的な説明をお願いします。

【山崎事務局長】 若干、経過報告等御説明をさせていただきます。
 前回の顧問会議でも御説明いたしましたとおり、この通常国会に司法制度改革関連法案といたしまして、私ども本部から4つの法案を提出させていただきました。
 また、法務省から3つの法案を提出させていただきましたけれども、その審議結果についてまず御報告を申し上げます。
 私ども本部提出のものといたしまして、法科大学院への裁判官及び検察官はその他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律案が成立し、これに続きまして裁判の迅速化に関する法律案も一部修正の上、7月9日に成立をし、同月16日に公布がされております。
 また、司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律案も一部修正の上、7月18日に成立をいたしまして25日に公布がされております。
 更に、仲裁法案でございますけれども、会期末ぎりぎりの7月25日に参議院本会議で可決され成立をいたしました。
 このほかの法務省提出の民事訴訟法等の一部を改正する法律案、人事訴訟法案、担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案、これも成立に至っておりますので、司法制度改革関連7本の法案はいずれもこの国会で成立をしたということになります。
 顧問の皆様を始めといたしまして、関係の皆様の御尽力に改めて御礼を申し上げます。
 どうもありがとうございました。
 それから、恒例の私どもの検討会の検討状況ですが、これは「資料2」を提出させていただいておりますけれども、時間の関係もございますので説明は省略させていただきます。
 次に、取調べ記録制度についてですが、司法制度改革審議会意見書を受けまして、閣議決定がされました司法制度改革推進計画に基づいて、関係各省庁において検討を重ねた結果、その概要がまとまりましたので御報告を申し上げます。
 この件については「資料6」をごらんいただきたいと思います。この制度の具体的内容につきましては「資料6」の1枚目の図と2枚目以下の概要をごらんになりながらお聞きをいただきたいと思います。ここに記載されておりますとおり、捜査官が取調室等で身柄拘束中の被疑者等を取り調べる場合、1日単位かつ事件単位で取調べの過程、状況に関する客観的、外形的事項を記録した報告書を作成することにしています。
 取調べ記録は捜査書類としておりまして、司法警察員が作成した場合は、事件記録と同様に検察官送致がされ検察庁で保管されるということになります。
 これによりまして、事後的な改ざんが防止され、また必要に応じて、取調べ過程、状況に関する客観的、外形的な事項の証拠として、公判において使用されるということになるわけでございます。
 取調べ記録は、上司等による指導監督の契機等となり、取調べの適正がより一層確保されるということになります。また、公判における被疑者の供述の任意性、信用性に関する客観的、外形的な証拠資料ということにもなり、公判審理の充実・迅速化に資するものとなるというものでございます。
 以上簡単ではございますけれども、御報告申し上げます。
 以上でございます。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
 それでは、司法アクセス検討会の高橋座長、お願いいたします。

【高橋座長】 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて御報告申し上げます。
 この弁護士報酬の敗訴者負担につきましては、司法制度改革審議会意見におきまして、以下引用でございますが「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである。この制度の設計に当たっては、上記の見地と反対に不当に訴えの提起を萎縮させないよう、これを一律に導入することなく、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである。」とされております。
 司法アクセス検討会では、この趣旨にのっとって具体的な制度設計に関する議論を続けております。
 私どもの検討会では、弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入する理由や弁護士報酬の敗訴者負担を導入すべきでない理由についての議論もございました。
 具体的に申しますと、勝訴した場合に弁護士報酬の負担を敗訴者から回収できることになれば裁判を利用しようとする人の費用負担が結果的に軽くなることから、裁判を利用しやすくなるという見地からこれを重視すべきだという意見。
 訴訟をする際に弁護士の助力は必要不可欠でありますから、弁護士への報酬は必要経費であると評価でき、訴訟費用と同じように勝訴した場合には相手方から回収できるようにすべきだという意見。
 逆に、敗訴した場合に相手方の弁護士報酬の一部を負担することになれば、敗訴することを恐れて訴えを提起できなくなる恐れがあるといった意見。
 特に、当事者間に構造的に力の格差があるような場合などに配慮すべきであるといった意見がございました。
 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いにつきましては、まだ検討中の段階であります。敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲、及びその取扱いの在り方、敗訴者に負担をさせるべき額の定め方等の問題点についての検討会の議論の状況の詳細は、お手元の「資料3−1」「資料3−2」にあるとおりでございますが、ここでは「資料3−1」を基にその概略を説明させていただきたいと思います。
 まず、敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲については、行政訴訟、労働関係訴訟、消費者関係訴訟、人事訴訟、人身損害に関する訴訟などについて議論しております。これらの訴訟類型に、弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入することの可否について結論が出ているわけではございませんが、検討、議論をしております。
 これらの訴訟類型以外の訴訟についても検討していく予定であります。
 敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲の検討に当たっては、原告になる場合を想定して、弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入された場合に、不当な提訴萎縮的効果が生ずるかどうかについての意見とともに、被告になった場合に弁護士報酬の敗訴者負担が導入されたほうがいいのかどうかという視点からの意見も述べられております。
 また、分野によりましては原告が勝訴した場合は弁護士報酬の一部を被告から回収できるけれども、原告が敗訴した場合は被告から弁護士報酬を請求されないという、いわゆる片面的敗訴者負担制度についても検討すべきであるという意見もありました。
 敗訴者負担を導入しない範囲、及びその取扱いの在り方については今後引き続き議論を重ねて検討を深めていく予定であります。
 敗訴者に負担させるべき額の定め方につきましては、さまざまな方法があり得ますが、司法アクセス検討会の場では訴額を基に定めるのがよいのではないかという意見が述べられました。訴額を基に定めるといたしまして、どの程度の額にすべきかという点につきましては、民事法律扶助の場合の着手金程度と考える意見などが出されておりますが、この問題についても結論が出ているわけではございません。引き続き議論を重ね、検討を深めていく予定であります。
 そのほか、民事法律扶助との関係などについても議論しております。
 なお、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに関しましては、国民からの御意見をちょうだいして、制度設計に活用していくことが重要であると考えておりますので、7月23日に開催された第17回までに行われた議論を基に事務局においてパブリックコメントによって幅広く国民から御意見をいただいているところであります。
 その結果をも参考にさせていただき、更に検討会で検討を深めていく予定であります。
 以上でございます。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
 それでは、次にADR、先ほど総理に国民によく分からないと怒られたところでありますが、従来からでございますので、ADR検討会の青山座長、お願いします。

【青山ADR検討会座長】 それでは、ADR検討会の座長であります私から、ADR検討会のこれまでの検討状況の中間報告を申し上げます。
 お手元に「資料4」と、それから資料番号振ってありません、かなり分厚い冊子がお配りされていると思いますが、これに基づいて説明させていただきます。
 ADRという言葉が今、問題になっておりますが、これは何回かここでも御説明させていただきましたけれども、Alternative Dispute Resolutionということでありまして、そのまま訳しますと、裁判外の紛争解決とか紛争処理ということになるだろうと思います。法律ができる場合には、こういうような用語になるだろうと思っております。
 司法制度改革審議会の意見書では、御存じのように、「資料4」の上に書いてありますように、ADRが国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図っていくべきであるとされておりまして、そのための課題の1つとして、総合的なADRの制度基盤の整備が挙げられているところでございます。
 この司法制度改革審議会の意見書にのっとりまして、私どもADR検討会におきましては、昨年2月に第1回会合を開催して以来、今日まで約1年半の間に20回にわたって会合を開催し、総合的なADRの制度基盤を整備するために必要な方策を検討してまいりました。
 これまでの検討で指摘された問題点は、大きく分けて3つございます。
 第1に、ADRが必ずしも十分に機能しないのは、ADRに関する国としての基本的な姿勢やADRの位置付けが明確でなく、国民の間にADRが紛争解決手段として理解、認識されていないためではないか。したがって、基本的事項としてADRに関する基本理念、国やADR機関が担うべき役割といった、ADRに関する施策の基本を明らかにする法制の整備が必要ではないかということが第1の問題でございます。
 第2に、ADRが活発に利用されるためには、国民の間でADRに対する信頼が確立されることも重要ではないか。したがって、一般的事項としてADRの公正性、信頼性を確保するために、ADR機関やその担い手が遵守すべきルールを明らかにする法制の整備が必要ではないかということが第2の問題でございます。
 第3に、現行制度には、訴訟手続と比べて効果などが見劣りし、ADRの利用をちゅうちょさせる面があるといった問題があるのではないか。したがって、特例的事項としてADRが裁判と並ぶ紛争解決の場として十分機能し得るようにするために、利用促進や裁判手続との連携・促進に関する特例を設けるための法制の整備が必要ではないかということが第3の問題でございます。
 大きく分けて以上の3つの問題が指摘されましたので、これを踏まえ、それぞれにつきまして更に検討をしてまいりました。
 最初の問題である基本的事項でございますが、まずさまざまな紛争解決手段の中で、ADRの意義はどのように位置付けられるのかという点について考え方を整理し、ADRの基本理念として示すことについてはどう考えるかというのが論点の第1であります。
 また、国、地方、ADR機関等の各主体が、ADRの健全な発展を図っていくために、各々の立場から担うべき役割を責務等として示すことについてはどう考えるのかというのが論点の第2でございます。
 次に、第2の問題である一般的事項につきましては、2つの論点が指摘されております。まず、ADR機関や調停人等が遵守すべきルールとして、公正な手続運営の確保に努めるべきこと等の努力義務を設けることが必要ではないだろうかというのが論点の第1であります。
 それから論点の第2として、ADR機関や調停人等が遵守すべきルールとして、利用者に対し提供されるサービスに関する重要事項を説明する義務等の義務を設けるということも必要ではないだろうかという論点も出されております。
 最後の特例的事項につきましては、第1に、ADRの使い勝手の悪さを解消するために、例えばADRの手続が始まったことによって時効の中断効を認める、あるいはADRによる解決結果に対して執行力を付与するというような法的効果を認めることについてどう考えるかという論点が提示されております。
 第2に、ADRを利用した場合の調停前置主義の不適用という論点がございます。これは、訴訟を提起する場合には、その前に裁判所の調停を経てこなければならないとされている民事訴訟等について、ADRを経て訴訟が提起された場合には、そういう調停前置主義がとられている事件であっても、調停を経ることを要しないということにするものでございます。あるいは、ADRの開始による訴訟手続の中止という論点もございます。これは、ADRと訴訟手続が両方が並行して進んでも、司法エネルギーの無駄遣いということにもなりかねませんから、場合によっては訴訟手続を中止するという形で訴訟とADRの手続的連携を制度化するということをどう考えるかというものでございます。
 第3といたしましては、弁護士以外の専門家を調停人等のADRの主宰者、あるいは代理人として活用するということについて、どう考えるかという論点。
 さらに、第4といたしまして、これらの特例を適用するに当たって、このようなADRならば各々の特例の適用が認められるという意味でのADRの適格性に関する要件が必要になる場合に、利用者の予測可能性を確保する等のために公的な事前確認の制度を設けるということについてはどう考えるかという論点が指摘されております。
 これらの論点等につきまして、この段階で国民各層の御意見を広く承りたいと思いましてまとめましたのが、「総合的なADRの制度基盤の整備について」というお手元の冊子でございます。各論点には説明も含めましたものですから、かなり分厚い資料になりましたけれども、これを約一か月間パブリックコメントに供しまして、国民各層から御意見を頂戴したいというふうに思っているわけでございます。
 最後に、今後の検討の進め方について説明いたします。ADR検討会の検討の出発点を今振り返ってみますと、日本ではADRに関して必ずしも学問的、あるいは実務的な蓄積が十分あった上にこの議論が開始されたとはいえない状態でございました。私どもも一生懸命勉強しながら検討してきたというのが現状でございます。
 パブリックコメントに供した資料では、それぞれの論点ごとに、これまで検討を行った結果、考えられる選択肢を広く提示いたしますとともに、強い積極論があった部分、あるいは強い消極論があった部分につきましては、検討会の議論の状況により若干軽重が付けられるように、注書き等の形で示した上で、広く国民の皆様から御意見を頂戴したいというふうに思っているわけでございます。
 御存知のように司法制度改革推進計画では、来年3月までに総合的なADRの制度基盤を整備するための所要の措置を講ずることとされております。そこで、ADR検討会では、今年の秋以降、現在実施中であります意見募集に寄せられました御意見等を踏まえて、更に検討を深めていくということを考えている次第でございます。
 以上でございます。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
 最後になりましたが、知的財産訴訟検討会の伊藤座長、お願いします。

【伊藤知的財産訴訟検討会座長】 それでは、私から、知的財産訴訟検討会の検討状況について御説明いたします。
 この検討会では、司法制度改革審議会の意見及び知的財産戦略大綱を踏まえて、知的財産訴訟のさらなる充実・迅速化の方策を検討しております。
 「資料5」の1ページの「1 開催経緯等」をごらんください。昨年の10月以来これまで都合10回の検討会を開催し、各論点について2巡目の検討に入っています。
 5月には中堅、若手の民事訴訟法及び知的財産権法の学者から、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス等欧米の主要国の知的財産訴訟制度について発表をしてもらいました。この研究結果は『別冊NBL81号』として公刊されております。
 次に「資料5」の1ページの「2 主な検討事項及び論点」をごらんください。いずれも産業界から喫緊の課題とされているものでございます。具体的な検討事項の1つ目は、「A 侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係等に関する検討 −侵害訴訟の迅速化・合理的解決等−」です。今までは、特許の有効、無効は特許庁における無効審判とその審決に対する東京高裁の審決取消訴訟という手続で判断され、特許の無断使用などの侵害行為に対して損害賠償を求める侵害訴訟の手続では、特許がそもそも無効かどうかを争えなかったわけでございます。
 しかし、一定の場合に特許の無効について判断することを認める最高裁判例が出されたことを受けて、更に一歩進めて侵害訴訟の場でも特許の無効も判断できることとして、紛争の早期決着を図ることを検討をしております。
 2つ目は、2ページの「B 専門家が裁判官をサポートするための訴訟手続への新たな参加制度の検討 −裁判所調査官の役割の拡大・明確化等−」でございます。裁判所の専門性を強化する必要があるという観点から、知的財産に関する裁判所調査官の権限の拡大、明確化や裁判所調査官と専門委員との関係などについて検討しています。
 また3つ目は「C 侵害行為の立証の容易化のための方策の検討 −営業秘密の保護を含む証拠収集手続の更なる機能強化−」です。知的財産訴訟を充実・迅速にするためには、証拠収集手続の機能を強化する必要があるという観点から、知的財産訴訟で類型的に特に問題となる営業秘密を含む文書について、文書提出義務を課すことはどうかとか、憲法上の裁判非公開原則の下において、営業秘密が問題となる事件の非公開審理を導入してはどうかなどについて検討しています。
 4つ目は、3ページの「D 知的財産訴訟の在り方に関する検討 −知的財産裁判所等−」として、先般今井顧問からも御意見をいただきました、知的財産裁判所などを検討しています。その検討状況について、少し詳しく御紹介いたします。
 4月の第7回検討会におきましては、知的財産裁判所の導入の効果について、判断の高等裁判所レベルでの早期統一を図り、判決の予見可能性を向上させる必要がある。我が国の技術立国、知財立国としての姿勢を形として示すことも大切であるという積極的な意見がありました。
 これに対し、今回の民事訴訟法改正は、特許権等に関する事件を東京、大阪、両地方裁判所の専門部が取り扱うようにしたほか、実質的な知財高裁の機能を創出するために、特許権等に関する控訴事件についてすべて東京高裁の専門部が審理できるようにされたので、これで十分であるという慎重な意見もありました。
 その後、内閣に設置された知的財産戦略本部が去る7月8日に知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画を決定し、その中において知的財産高等裁判所の創設につき、必要な法案を2004年の通常国会に提出することを目指し、その在り方を含めて必要な検討を行うとされました。
 そこでこれを踏まえ、7月15日に開催されました第10回検討会においては、知的財産高等裁判所を創設するとした場合に、期待される効果や検討課題などについて検討いたしました。
 委員からは、国家戦略として知財重視の姿勢を示すために、看板を掲げてアナウンスメント効果を付加することに意味があるという意見などがある一方で、特別の裁判所の設立は司法の根幹に関わることであり、一旦決めると後戻りできないことから慎重な検討が必要であるとの意見もございました。
 また、創設する場合の検討課題としては、裁判官を知財のスペシャリストで固めると、裁判官の視野が狭くなることが懸念されるという意見、他の労働事件や医療関係事件等に波及する恐れはないかという意見、著作権や商標権等の事件について、事件の地域性に応じて取り扱う裁判所を変えるという、柔軟な取り扱いができなくなるのではないかという意見等がございました。
 以上、知的財産訴訟検討会の検討状況を御報告いたしましたが、これらの検討事項はすべて、先ほど申し上げた推進計画の中にも盛り込まれております。知的財産訴訟検討会では、今後とも知的財産が的確かつ迅速に保護されるよう、知的財産訴訟のあるべき姿について積極的かつ総合的に検討していくことを考えております。
 以上でございます。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明に関しまして御質問、あるいは御意見をちょうだいしたいと思います。
 今井顧問、どうぞ。

【今井顧問】 今の知財高裁の関係でございますが、日本経団連でも本年4月にを取りまとめ、我が国において知的財産高等裁判所を設置すべきと提言いたしました。また、この席上でも、同様の趣旨の発言をしたところこれを取り上げていただき、その具体化に向けて検討会で審議が進められていると聞いておりますが、扱う事件の範囲の線引きが難しいなどの問題も指摘されているようですが。
 私は、日本がこれから生きていくためには技術創造立国ということで、知財重視の姿勢を鮮明に打ち出す必要があると思っておりまして、そういう意味では、外国ではもうできておりますが、日本でも知財高裁ができたということが非常に意味があることではないかと思います。
 今、座長のお話のように、専門家の皆様の間で非常に多様な意見があって、検討しておられるというふうに伺っておりますけれども、世界で最もすばらしい知財高裁を日本につくるというような見地から、さまざまな難しい問題を是非衆知を集めて解決していただいて、具体化を進めていただきたいとお願いする次第でございます。
 ありがとうございました。

【佐藤座長】 小島顧問から出されているペーパーの中で、2つの御主張がございます。1つは、知的財産裁判所の創設をすべきだと。司法も、知財立国という戦略的な発想で、明確に変わったということをはっきりとわかるようにすべきだと。
 さっき伊藤座長の方からあったアナウンスメント効果というようなことなんでしょうか。そういう観点から書かれております。
 伊藤座長の方で更に何かありますか。

【伊藤座長】 いいえ、どうもありがとうございます。

【佐藤座長】 ほかの顧問の方、今の知財の問題についてでもよろしゅうございますし、ほかの論点についてでもよろしゅうございますが。
 まず、知財についてあったらそちらを優先して御質問、御意見をいただきたいと思いますが。
 この知財裁判所、高裁をつくるべきだというとき、それは法律審というような性格になるんでしょうか、あるいはなお今の2審みたいな。そこはどういうことになるんでしょうか。

【伊藤座長】 よろしゅうございますか。
 まだ、そこまできちんとした、詰めた議論を検討会ではしておりませんが、しかし日本の現在の司法制度そのものの構造を変えるということであれば別ですけれども、それは前提としてということであれば、やはり通常の高等裁判所というものを一応基礎にして考えるということになりますから、アメリカにございますような純然たる法律審としての高等裁判所ということにはならないのではないかと思いますが。

【佐藤座長】 その辺も、今後更に詰めていくべき議論に乗せないといけないということになるんだろうと思います。
 どうぞ、笹森顧問。

【笹森顧問】 ちょっと専門的でよくわからないんですけれども、今の説明も含めて、東京高裁に知財部を設けて知財の控訴事件を専属にするということに限定をされるというような御説明になるわけですか。

【伊藤座長】 よろしゅうございますか。
 東京高裁に知財関係事件についての専属的な管轄を認めるというのは、これは今回の民事訴訟法の改正で実現されるわけでございます。
 更にそれを進めて、いわゆる知財高裁という特別の裁判所をつくるということについて推進計画に、先ほど御紹介いたしましたような決定がございまして、それを前提として検討を進めているという状況でございます。

【笹森顧問】 どちらがどうだという話を明確に決めつけられるほど知識を持っていないのでちょっと言い切れないんですけれども、地域レベルにいろいろつくっているのが非常に困難だから1か所にまとめ東京高裁に集約するという、そういうつくり方から入ることがいいのかどうかというのがまず1つ。
 もう一つは、知財でも一般の訴訟手続でも、いろいろ考えますと、いずれにしても質の高い裁判が実現していかなければいけない。そうなると、その中身的には充実・迅速化というのが入ってくるんだけれども、現実的に見た場合、知財のみを扱う裁判官や訴訟代理人によって訴訟が行われるということならいいんですが、多分そうではないだろうと思うんです。
 そうなってくると、何か現実的でないような気がするんですが、そこのところについてはどういうふうにお考えになられていますか。

【伊藤座長】 よろしゅうございますか。
 先ほどの私の御説明にも、1つの検討会における意見として申し上げたわけでございますけれども、今、顧問が御指摘のように、知的財産権といってもいろいろな権利がございます。著作権でございますとか、商標権というのもございます。
 そういうのも等しく、言わば特別な裁判所に集中するということが当事者の目から見て、特にどこの裁判所に行けるか、あるいはどこの裁判所で防御をすればいいのかとかいった点から、問題があるのではないかというような意見もございました。
 そういう意味では、ただいまの顧問の御発言に同様の問題意識に基づいた意見ではないかと考えております。

【佐藤座長】 よろしゅうございますか。これから先、いろいろ考えなければならない一つの問題点ではありますね。
 時間の関係もありますので、ほかの論点に移られてもよろしゅうございます。今の問題は引き続き検討されるということでありますので、伊藤座長、その辺はよろしくお願いいたします。

【笹森顧問】 弁護士報酬の敗訴者負担についてはよろしいですか。

【佐藤座長】 よろしゅうございます、どうぞ。

【笹森顧問】 審議会の委員をやられていたのは、この中では佐藤座長だけなものですから、そのときのことを含めて最初に伺っておきたいんですけれども、1つは何のために導入するという方向でまとめたのか。これはアクセスを向上させるためなのか、それとも負担の公平化なのかということがまず1点目です。
 2つ目が、合理的な範囲と額の訴訟費用の負担の問題なんですけれども、幾ら合理的な範囲の額であっても、訴訟するのはやめておきましょうねというような提訴の萎縮につながるとか、あるいは訴訟の回避をもたらすものなのか、あるいはそうではないんだということでこういうことが始まったのか。この認識の問題が2つ目。
 そして3つ目が、国民の目から見ると、訴訟の費用といえば弁護士費用も含まれているというふうに一般的には思うのではないかと思うんですが、審議会の意見ではその辺についてはどうだったのか。

【佐藤座長】 高橋座長、いかがでしょうか。では、私の方から少し申し上げたいと思います。
 審議会の答申の28ページにあるんですけれども、2段構えのものになっているんです。念のために読みますけれども、1つは「訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」と言っております。負担の公平、利用しやすくするということですね。
 それから、ただし「この制度の設計に当たっては、上記の見地と反対に不当に訴えの提起を萎縮させないよう、これを一律に導入することなく、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその範囲の取扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである」と述べています。
 ですから、負担の公平を図りながらアクセスを容易にするという考え方が根底にあったことは確かだと思います。
 そしてその上で、一般的に敗訴者に弁護士報酬を負担させることが可能な場合に、事案の個別・具体的な事情を考慮して負担の公平という見地から、負担させるかどうか、どの程度の額を負担させるのか、それを裁判所にやっていただくと。
 そしてもう一つは、ある類型の訴訟については、一般的な形で敗訴者への訴訟費用の負担がないことを明定する。不当に提訴を萎縮させないようにするという趣旨ですね。このように、2段構えの構造になっているということを申し上げていいかと思います。
 恐らくその前提で司法アクセス検討会の方でも検討なさったのではないかと推測いたしますけれども、私の今の説明はいかがでしょうか。

【高橋座長】 名称からして司法アクセス検討会でございますので、アクセスの見地は勿論考えております。
 と同時に、負担の公平化を図ってということも入っておりますし、また民事訴訟法は両当事者を平等に、公平にということが根本的な理念ですから、その観点も忘れずにと、いろんな観点から多角的に検討しているところであります。

【佐藤座長】 ある意味では、思想の問題なのかもしれませんけれども。

【笹森顧問】 どういうものが適当な額なのか、不公平がないのかというのは非常に決めつけづらい部分ではあるんだけれども、いずれにしても不合理な負担によって不当な結果が生じないというきめの細やかな配慮や工夫というのが、この中でどのようになされるのか、額の問題はそこの中におのずから出てくるのではないかと思いますが、是非そういう思想の問題プラスそういう配慮の問題も加えていただければと思います。

【佐藤座長】 思想といいましても、思想を貫く上でやはり現実的に柔軟な配慮をしませんと、思想と違った結果になる恐れもあります。その辺は柔軟に考える必要があるというのが審議会の意見書の心ではないかと申し上げていいと思うんです。
 そのほかの点につきましては、いかがでしょうか。
 青山座長にちょっとお伺いしたいんですけれども、特例の適用に当たって、これは何ページですか、資料の3枚目になりますか。「特例的事項の主な論点」というところの一番下の方に「特例の適用に当たってADRの適格性に関する要件が必要となる場合には、利用者の予測可能性の確保等のため、要件を満たしていることについて、公的に、事前に確認する制度についても検討」。その下の方で「事前確認制度について、強い消極意見も出されている」という指摘がありますけれども、これはどういう趣旨のものとして理解したらよろしいのでしょうか。

【青山座長】 よろしいですか。
 例えば、ADR機関で両当事者間で和解が成立したという場合に、それに裁判上の和解、あるいは執行証書などと同じように、強制執行の効力を与えるということをどう考えるかという論点がございます。これについて、どのようなADRでも和解が成立すればそれに執行力を与えて、一方がその和解内容に従わなければ直ちに強制執行するというのは問題であり、もし、そういう強い効力を与えるとすれば、どういうADR機関での和解であるのかによってくるのではないかと考えられます。また、現行法では裁判所や公証人のような公務員が関与したものか、あるいは外国判決や仲裁判断について、裁判所が更に審査した場合にしか執行力が認められていないのに、ADRで和解が成立すれば、直ちに執行力を与えるということは、難しいのではないだろうかとも考えられます。
 そういたしますと、執行力について、こういうADRなら付与され、こういうADRには付与されないというようなことを事前に確認するという制度を設けることが考えられるわけですが、強い消極意見とは、このような制度を設けることはかなり難しいのではないだろうかというものでございます。
 また、執行力を付与することについては、もともとADRでの和解は、両当事者の合意に基づいて、両当事者がその機関に行って話し合った結果、ではこういうことで落ち着かせましょう、履行しましょうというものですから、最後まで任意の履行に委ねて、そして更に強制執行等が必要になる場合には、裁判所に行ったらどうだろうかという意見もございます。

【佐藤座長】 そうすると、そういう効果をADRにおおよそ持たせるということが難しいという結果になるわけでしょうか。

【青山座長】 同じ特例的事項でも、法的効果の内容によって違ってまいります。
 時効の中断を例にとりますと、10年、5年あるいは3年の時効が、裁判所に訴えを提起すれば中断するのですが、現行法ではADRに事件を持ち込んでも直ちには時効は中断しないこととなっております。しかし、両当事者が話し合っているうちに時効が完成してしまって、もう時効が完成したのだから払わないと言われるようではADRを利用する人はいなくなってしまうのではないかとして、時効の中断のような効力については積極的に認めてもいいのではないだろうかという意見がございます。このように、同じ特例的事項でも、執行力という強い効力と時効の中断という効力とでは違いもあるのではないかというようなことを検討しているわけでございます。

【佐藤座長】 わかりました。
 ほかの論点、いかがでしょうか。佐々木顧問から出されたペーパーは、財政支援、法科大学院の在り方について言及されていますが、小島顧問の方からもう一つ、小島顧問は前回お休みだったわけですが、裁判員制度のことについても、少し触れておられます。今日この論点に限らず、笹森顧問、前回途中で退席されたこともありますので、もしあれば。

【笹森顧問】 いや、冒頭総理がいるときにちょっと申し上げようかと思ったんだけれども、テーマが違っていましたので。もし、総理がこの裁判員のビデオを見ていなかったら是非見ていただきたいと思います。
 法務大臣、これ、ごらんになりましたか。

【森山法務大臣】 はい。

【笹森顧問】 そうですか。総理は見ているんでしょうか。

【森山法務大臣】 それは確かめておりませんけれども。

【笹森顧問】 もしごらんになっておられなかったら、是非座長の方から後で総理に渡しておいてください。
 これは中身見ると、非常にこのとおりだというふうに受け止めた、非常にドラフトとしてもよくできていると思うんですけれども、内容もそうだと思うんです。
 小島顧問の方からも出ていますが、是非意見書の趣旨にのっとっていただきたい。何か国民に迷惑をかけるのではないかとか、小さな形でいいのではないかとかというふうに論議がいっているんですが、やはり観客民主主義のような形で、いつも我々はわからない、難しい、だから嫌だということで遠くに置くのではなくて、そういう形の中でどういうふうに裁判に関わっていくのかということをやっていく方に持っていけばいいのではないかというふうに思いますので、是非意見書の趣旨に基づいた方向で最終的に裁判員制度の問題が国民参加ができるという形にお願いができればと思います。

【佐藤座長】 前回、井上座長の方から御報告がありました。秋に更に集中的に審議するということですが、その過程でまたこの顧問会議にかけられてくることだろうと思います。今、御指摘のように、裁判員制度の導入というこの審議会の意見書の趣旨は、1つは、社会秩序の維持形成の問題は国民にとって他人ごとではないんだという、その維持形成の問題を国民自身から真剣に考えていただく必要があるということ、それが第1点であったように思います。
 それから第2点は、人数の問題とかいろいろ難しい問題がありますけれども、国際的な水準から見て恥ずかしくないものにする、導入する以上はそういうものである必要があるだろうというような気もするわけで、そういう観点に立って検討会が更に検討を進められるのではないかと私自身は理解しております。
 更に、ほかの論点でございませんでしょうか。
 どうぞ、志村顧問。

【志村顧問】 裁判員制度の話題が出ましたので、前から私考えていたことをちょっと。
 今はまだ結論ではないかもしれませんが、考えていらっしゃる方向は裁判員が裁判官と一緒に決める、別々の任務ではない。
 日本のような社会で、しかも裁判員の数が少ないと、裁判官はお一人であってもその御意見が結局通るという可能性がかなり高いような気がするんですが、そういうことはありますまいか。

【佐藤座長】 その辺もまさに、1つの考えるべき重要な点かと思います。
 審議会の意見書は、裁判員が主体的、実質的に参加して、裁判官と一緒に適正な結論が出せるようにということを言っているわけで、その主体的、実質的という辺りのことに関わってくる問題だと思います。

【志村顧問】 フランスやイタリアでは大丈夫かもしれませんが、日本ではどうでしょうか。

【佐藤座長】 むしろ裁判員の人数が少ない方がいいという考え方も一方にはあり、他方では今おっしゃった外国は一体どうなのか、外国でやれて日本ではやれないことはないはずだというようなこともありますので、その辺はまさにこれから更に検討会で議論されて、秋口に恐らくもっと具体的な、前回よりはもっと具体的なものが提出されて御議論いただくということになろうかと思います。
 ほかによろしゅうございますか。そろそろ時間も迫ってまいりました。今日せっかく3人の座長に御出席いただいておりますので、更に御質問したいとか、更に意見を述べたいということがあるかもしれませんけれども、そろそろこの辺で今日の会合を締めくくりたいと思います。副本部長からよろしくお願いいたします。

【森山法務大臣】 ありがとうございました。
 今日はお忙しいところ皆様おいでくださいまして、大変活発な議論をいただきまして誠にありがとうございました。
 いよいよこの司法制度改革推進本部も、平成13年の12月に3年という時限を限りまして、そのような組織で発足したものでございますので、いつの間にか折り返し地点を通過いたしまして、既に残り半分ということになっております。
 今までに皆様のお陰でいろいろな法律が成立した話を今、事務局長もしてくれましたけれども、これからは今お話しのADRとか、裁判員とか、知的財産とか、一つひとつものすごく大変なテーマが残っておりますので、これからの方が更に大変だろうと思っておりますが、どうぞ先生方にも一層の御支援と御鞭撻をお願いしたいと思います。
 ありがとうございました。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
 事務局の方から、最後に何かありますか。

【山崎事務局長】 次回以降につきましては、また別途御連絡を申し上げますのでよろしくお願いをいたします。
 ありがとうございました。

【佐藤座長】 秋口は、今、大臣がおっしゃった重量級のものがいろいろと出てまいりますので、顧問の皆様も是非重大な関心を持って臨んでいただければと思います。
 また御無理を申し上げることがいろいろ出てくるかもしれませんけれども、よろしくお願いいたします。
 本日はどうもありがとうございました。

(以上)