ア 知的財産訴訟検討会における検討状況について中山座長代理から、労働検討会における検討状況について菅野座長から、司法アクセス検討会における検討状況について高橋座長から、ADR検討会・仲裁検討会における検討状況について山本座長代理から、行政訴訟検討会における検討状況について塩野座長から、裁判員制度・刑事検討会及び公的弁護制度検討会おける検討状況について井上座長から、国際化検討会における検討状況について柏木座長から、それぞれ説明がなされた。判事補及び検事の経験の多様化のための弁護士職務経験制度並びに法曹養成検討会、法曹制度検討会及び医事関係訴訟連絡協議会における検討状況について、司法制度改革推進本部事務局(山崎事務局長)から、資料(1、2−1、2−2、4)に基づいて説明があった。また、法科大学院の設置認可について、文部科学省(小松主任大学改革官)から、資料3に基づいて説明がなされた。
イ 上記報告・説明に関し、概要、以下のような質問・意見があった。
(野沢副本部長から、法科大学院への学生の出願状況について確認がなされた。)
(文部科学省から、個別の大学に関する出願状況については、設置認可がなされたばかりであり把握していないが、法科大学院の入学試験を受験する場合には適性試験を受験することになっているところ、2つの団体が夏から秋にかけて実施した適性試験の受験者数は大雑把にいって約4万人から5万人程度と推測される一方、法科大学院の入学定員は約5500人であることから、最終的には相当な入学倍率になると予想される旨の説明がなされた。)
- 基本法令の英訳化は、前回、法令については各省がそれぞれ所管しており、一律に取り扱うのは難しいとの話があったが、今後外国との取引が増える中で日本の法令を英訳化して発信することが必要である。この点について、前回の顧問会議でも意見が出たように、顧問会議の意見としてぜひ取り上げていただきたい。また、知的財産高等裁判所については、日本がこれから知的財産関係を重視する必要があり、9番目の高等裁判所として知的財産高等裁判所をつくっていただきたい。経済界全体の強い要望である。知的財産高等裁判所の判決の内容が充実してくると、やがて日本の判決が世界のスタンダードにもなる。
(中山座長代理から、知的財産専門の高等裁判所をつくってほしいという意見は、強いものであり、検討会においてもその方向で検討しているし、議論の趨勢もその方向にある。しかしながら、第9番目の独立した高等裁判所をつくるのがよいのか、現在の東京高等裁判所内に特別な知的財産高等裁判所をつくった方がよいのかについては、管轄の制度設計などの点も含めてどちらの方がより合理的で、利便性が高いかについて検討中である。しかし、何らかの意味で知的財産高等裁判所をつくるというのは検討会の趨勢である旨の説明がなされた。)
- 裁判員制度について、世の中にかなり広い意見の対立があるのにもかかわらず、衆議院が解散して政治的に空白が生じているときに、座長試案を示されたのは、タイミングとしていかがなものか。人数問題については、裁判官が1ないし2名で裁判員が9名以上というものまで幅広い意見があるが、審議会意見書によれば、今般の司法制度改革は、司法を国民に身近なものとしようというものであって、裁判員制度は、一番根本になる制度である。つまり、大きな参加により国民の実質的な参加を担保するのか、ささやかな関与でもってお茶を濁すのかということであり、今の座長試案の裁判官3人、裁判員4人というのは、小さな参加の方向を示す、あるいは、今の裁判を前提として裁判員を付け足せばよいという数になってしまうのでないか。
裁判員がこの程度の数なら、裁判員制度はつくらない方がよいのではないかと思う。顧問会議で人数まで合意することはできないと思うが、理念については考えを合わせておく必要があるのではないか。
この問題について、最終的に来年の11月末までという期限もあるが、制度づくりに時間がかかってもよいから、座長試案を白紙に戻し、最初からスタートし直してもらいたい。というのも、検討会が専門家に偏っている状況にもなっている。開かれた司法ということで、一般の人が参加しやすい制度とするにはどうしたらよいかをもっと検討すべきである。この関連では、特に、守秘義務及び罰則が厳しすぎる。これでは、やりたくないという人がほとんどだと思う。そのようなことについて、国民が参加しやすいように配慮し、また、裁判員制度の導入を提言した審議会意見書の趣旨を十分生かしていただきたい。小島顧問が出された意見書も同じような考えに基づくものであると思う。労働審判制度については、年間100万件もあると言われる個別労使紛争の充実かつ迅速な解決手段と期待される制度であり、訴訟手続など具体的な制度設計に当たっては、関係者の意見を十分踏まえた内容になっていくように努力していただきたい。また、制度が十分機能するためには、マンパワーが重要であり、労働審判官の研修制度につき予算措置を含めて十分配慮していくべきだと思う。行政訴訟関係については、前回も意見を交換したが、さらに大きな改革に向けて、方向付けをしていただく必要がある。最近、成田空港訴訟についての判決が出たところ、ある新聞では、かつて小泉総理も引用した「思い出の、事件を裁く、最高裁」という川柳さながらの長期裁判であったと論評されていた。あの訴訟の中味を見ていくと、今までの行政訴訟に関する問題点がかなり大きく入っている気がした。あの社説の内容を受けとめて、さらに大きな改革に向けて、検討してほしい。司法アクセスの関係においては、労働事件には、敗訴者負担制度を導入すべきでないという意見が多いと受け取っており、制度を導入しないでいただきたい。消費者訴訟についても、同様の取扱いとしていただきたい。ADRの関係については、消費者・労働者が被害を被ることのないよう、慎重な対応をしていただきたい。ADRについては、日本においては外国に比べるとまだ発展途上にあり、これまで実績のない団体が多く、様々な法的な権限を付与することには慎重を期すべきである。法曹養成の関係では、法科大学院に入学希望者がたくさんいることは歓迎すべきことであり、軌道に乗るまでは財政支援が必要であろう。さらに、裁判官・検察官の増員が必要であり、そのために大きな予算措置をしなければならない。政府の大きな踏み込みを期待したい。法令の外国語翻訳については、その推進と体制整備を直ちに着手すべきということを顧問会議として取りまとめていただきたい。
- 新しい制度を入れるときには、渋々入れたということではその将来が危ぶまれる。導入するなら、その制度をうまく生かしていく方向で考えていく姿勢が必要ではないか。細かい議論をすると、一律にはいかないことは分かっているものの、いやいや入れたということを国民に印象づけるような制度改革はやらない方がよい。
裁判員制度については、そのあたりを考えていただいて、裁判員の数につき、フランスやイタリア並みに裁判官の3倍程度とすることを考えて欲しい。ADRについても、最近検討が後退しているようなイメージがあるが、導入するのなら、社会の潤滑油として動けるようにしっかりとしたものにしていただきたい。一方、知的財産高等裁判所については、つくるのであれば、つくらなければいけない他の専門分野のものがたくさん出てくるのではないか。
それよりも、事実上、そのような機能を持つ裁判制度を整備していただくことが必要ではないかと思っている。新しい制度を導入するなら、制度設計をするに当たっては、その制度が本来もっているものができる限り活かせるような、そしてまた、横並びで他の専門分野も考えていただかなければならない。
そういったことを考えると、東京高等裁判所を事実上の知的財産高等裁判所として整備していただけるということでよいのではないかと思っている。
(佐藤座長から、顧問会議として、法令等の外国語訳について、グローバル化する世界で、わが国の法令等が容易かつ正確に理解されることはきわめて重要である。これまで個別的需要に応じて、関係機関・関係団体において法令等の外国語訳が試みられてきたところであるが、今後は、関係機関・関係団体と協働しつつ、迅速かつ正確な外国語訳が行われるような体制整備を検討すべきであるとペーパーに残しておきたい。また、予算・定員について、国民にとってより身近で、速くて、頼りがいのある司法を構築するため、まず何よりも、司法に携わる人の養成にかかわる法科大学院に適切な予算措置を講ずることが不可欠であり、また、裁判所・検察庁への定員の拡充を推し進める必要があるとペーパーに残しておきたい。
裁判員制度については、顧問会議で突っ込んで議論し、まとめるのは難しい。審議会意見書も様々な考えがある中で、裁判官と裁判員が協働して、裁判員が主体的・実質的に参加しよい裁判をしてもらうということでまとまったものである旨発言がなされた。)
(井上座長から、座長試案をこの時期に示したのは、9月までの検討会において2巡の議論を行い、議論もかなり煮詰まってきたので、事務局から骨格案を示してもらい、それを基に更に議論を深めていく予定であったが、事務局において、政党を含め各方面で議論が本格化しつつある状況にあるため骨格案を示すのは時期尚早と判断された。ただ、検討会としては、議論を先に進めるためには、何らかの新たな材料が必要であると考えられるため、座長として、それまでの検討会での議論を踏まえて考えられる制度の一例のようなものをお示しし、それをたたき台として更に議論していただく、そして、それはまた、各方面での議論の参考にもなりうるのではないか、と考えたことによるものである。したがって、この案はあくまで検討会での議論のたたき台にすぎず、現に検討会では、既にこれに基づいて議論を行ってきているのであるから、撤回するとかしないとかいう性質のものではないと思う。
それから、来年11月が期限というお話もあったが、司法制度改革推進計画によれば、法案は来年の通常国会に提出することとされており、それほど時間があるわけではない。むろん、裁判員制度は、死刑や長期の刑につながりうる重大事件を対象とするので、慎重な検討が必要であることは十分自覚している。また、検討会では専門家ばかりの議論になっているという御指摘があったが、検討会は、法案作成作業を行う事務局に有益な議論を提供することを目的としており、何らかの結論を出すことを目指しているわけではないし、世論調査や一般から寄せられた意見も十分参酌して議論をしており、専門家だけでたこつぼに入ったような議論をしているわけではない。内容的にも、法律家以外の方が過半数を占めていた司法制度改革審議会でまとめられた意見書に示された制度枠組みを基に、それを更に具体化する方策について議論をしてきたものである。
確かに、裁判員が裁判に主体的・実質的に関与し、それを意味あらしめるようにするためにはどうしたらよいかという点については意見の幅があり得るが、その点については、意見書も指摘しているとおり、裁判員の数も重要な要素だが、それだけではなく、公判審理の在り方、評決方法、裁判員の権限の在り方等を組み合わせて考えるべきであり、また、判決には実質的理由を付す必要があることから評議の実効性を確保しなければならないという要請も考慮すべきものとされている。つまり、人数は、以上のような考慮の一要素とされているのであり、検討会の各委員は、そういう視点から関連する事項を含めて検討してきたのであって、裁判員の数を裁判官と同数程度とするとか4人とするとかいう意見を捉えて、その程度では裁判官の付け足しであるとか、お茶を濁していると言われるのは心外である。人数の大小というより、裁判員に実質的に裁判に関与していただき、裁判官と対等な立場で、よい裁判を実現していただけるような制度を目指して、検討会では議論していることを御理解いただきたい旨の説明がなされた。)
(佐藤座長から、審議会意見書は一つのセットとして、これを3年間で実現することが大事なことであるので、裁判員制度についても、是非とも次の通常国会での成立を目指して、全力を尽くしていただきたい。一番大事な理念は、裁判官と裁判員が協働してよい裁判をすることである。ただ、その場合に、専門家と一般の国民との関係等も考慮しながらも、裁判員となった方が参加してよかったと思ってもらえる仕組みを考えなければならない。では、人数がどうあるべきかというと、いろいろな考え方があろうが、顧問会議で人数を決めるのは適当ではないと思うので、事務局にあっては、各顧問や各検討会の座長の御意向を汲み取って作業を早急に進めてもらいたい旨の発言がなされた。)
- 現在の裁判は、裁判官が3人でやっており、それに対して、普通の国民をどのように参加させるかということが求められているが、現在裁判官3人で行われていることについて、不具合な部分がなかったか、もう少し率直に受け止めるべきでないか。仮にその不具合な部分に裁判員を入れていくとなると、対等の協働作業だと言われても、専門家の中に素人が入るときに、人数が裁判官と同数程度では、とても意見を言える雰囲気にならない。裁判官の数を固定して、参加する一般の国民の数をなるべく制限するということでは、ごく普通の人の生活感覚などが活かされないのではないかということをよく考えていただきたい。
(井上座長から、現在の裁判官3人の合議体による裁判の不具合な部分とは何を意味しておられるのかは分からないが、審議会意見書の趣旨は、裁判官が3人で行っている現在の裁判は基本的にはよく機能しているということを前提としつつ、これまで専門家のみで行ってきたところに、国民の健全な常識を反映させることによって、より強固な、より質の高い裁判を実現し、かつ、主権者である国民に司法も自分達の事柄であるという意識を強く持っていただこうというものであり、検討会では、その趣旨を十分踏まえて検討を行ってきたところである。また、裁判官3人の合議による裁判をすべて廃止してしまうというのであれば一つの考え方かもしれないが、裁判官3人の合議制を存置しつつ、最も重大な事件を裁判員制度の対象として裁判官2人と裁判員で取り扱うこととするのは、それより軽い法定合議事件・裁定合議事件が裁判官3人によって裁判されることとのバランスがとれなくなる。
特に、裁判員制度対象事件においても、法律問題や訴訟手続上の判断については、裁判官のみで判断すべきというのが検討会の大勢の意見であり、そういう制度を組み込んだ場合、制度全体として果たしてバランスがとれるのか、という点をお考えいただきたい。さらに、顧問の御意見は、基本的なところで、裁判官グループと裁判員グループとが対立・対抗する関係にあるという前提に立ち、その両者の人数の比率ということで員数の問題をお考えのようにも思われるが、そうだとすれば、審議会意見書の考え方とは異なる発想によるものであるし、少なくとも検討会では、裁判官によって裁判員の意見が押しつぶされるということまで危惧する意見はない旨の説明がなされた。)
(佐藤座長から、顧問は、両者が対立するというのではなく、裁判員が、専門家である裁判官に圧倒されてしまって、実質的・主体的な参加が難しくなるという趣旨をおっしゃっているのだろう。審議会では、裁判官を2人にするという議論がなされなかったのは確かであり、一方、その後、裁判官は2人でも十分であるとの意見が出されてきたことも承知しているが、裁判員制度の人数の在り方については、顧問会議で決め打ちするわけにはいかない。裁判員制度については、具体的な制度設計にあたっては、国民が参加の意義を十分に実感できるようなものとなるよう留意するとともに、制度の施行に必要な準備期間に配慮し、法律の早期成立に向けて全力を傾けるべきであるとペーパーに残しておきたい旨の発言がなされた。)
(塩野座長から、行政訴訟関係についての顧問の御発言は「さらに大きな改革に向けた方向付け」ということで、今まで我々が詰めてきた項目については御理解をいただいたという御趣旨だと思う。検討会で積み残している課題については、この本部の設置期限もあと1年だから、その中で検討するもの、学説、判例の発展に委ねるべきものと整理する必要があるだろうと思う旨の説明がなされた。)
(佐藤座長から、顧問会議として、行政訴訟制度の見直しについて、原告適格の拡大、義務付け訴訟の法定、差止訴訟の法定、仮の救済制度の整備等を含む、行政に対する司法審査の強化に向けての行政事件訴訟法の改正作業に全力で取り組む。なお、司法制度改革審議会意見書は、行政訴訟制度の見直しにあたっては、司法及び行政の役割を見据えた総合的多角的な検討が必要であるとし、行政訴訟制度の見直しの過程でも、訴訟手続の改革のみでは抜本的に対応できない問題意識が示されており、これを受けとめるにふさわしい体制を整えるための道筋をつける必要があると取りまとめたい。
また、司法ネット構築に関する法律を立案するにあたっては、国民の正義へのユビキタス・アクセスを保障しようとするものであるという理念を明らかにするとともに、その理念にふさわしい内容の制度、その核として新たに設ける組織やその運営の在り方について定めるものとすると取りまとめたい旨の発言がなされた。)
(菅野座長から、労働審判制度の在り方を検討するに当たっては、顧問が御指摘されたように、関係者の意見を十分踏まえてきたところであるが、これからも十分考慮したい。また、研修制度は大変な重要な問題であり、その重要性を踏まえて検討したい旨の発言がなされた。)
- 判事補及び検事の経験の多様化のための弁護士職務経験制度(仮称)について顧問会議として了承された。