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司法制度改革推進本部顧問会議(第16回)議事録



日 時 : 平成16年2月2日(月) 17:00〜18:30

場 所 : 総理大臣官邸大会議室

出席者 :
(顧問)
佐藤幸治座長、大宅映子顧問、奥島孝康顧問、小島明顧問、佐々木毅顧問、笹森清顧問

(推進本部)
小泉純一郎本部長(内閣総理大臣)、福田康夫副本部長(内閣官房長官)、野沢太三副本部長(法務大臣)

(推進本部事務局等)
山崎潮事務局長、塩野宏行政訴訟検討会座長、井上正仁裁判員制度・刑事検討会及び公的弁護制度検討会座長、長谷部由起子司法アクセス検討会委員他

議事次第 :
1 開会
2 内閣総理大臣挨拶
3 平成16年通常国会提出予定法案について
4 閉会

【佐藤座長】 佐々木顧問が間もなくお見えになると思いますけれども、定刻になりましたので、ただ今から司法制度改革推進本部顧問会議第16回会合を開会いたします。
 皆様におかれましては、本当に御多用のところ御出席賜りまして、ありがとうございます。
 なお、今井顧問、志村顧問は所用のため御欠席でございます。今井顧問からは、御意見をちょうだいしております。お手元に配布されていると思いますが、裁判員制度とか敗訴者負担の問題について述べられております。
 それから、本日は、裁判員制度・刑事検討会、公的弁護制度検討会の井上座長、行政訴訟検討会の塩野座長、司法アクセス検討会の長谷部委員に御出席いただいております。本日はどうもありがとうございます。
 本部員からは、副本部長の福田官房長官、それから、野沢法務大臣に御出席いただいております。後ほど本部長の小泉総理大臣にも御出席いただける予定でございます。
 開会に当たりまして、野沢法務大臣から御挨拶がございます。よろしくお願いいたします。

【野沢法務大臣】 法務大臣の野沢でございます。御出席の皆様におかれましては、御多用中にもかかわらず、御出席をいただきありがとうございました。
 本日は先週に引き続きまして、この通常国会へ法案の提出を予定しているもののうち裁判員、刑事訴訟法等の改正、行政事件訴訟法の改正、及び弁護士報酬の敗訴者負担制度について、具体的な構想をお示しし、御協議をいただくこととしております。
 御案内のように、裁判員制度は国民の司法参加の制度として極めて高い関心を呼んでおりますが、その他の課題も国民生活に大きな影響を及ぼすこととなるものであります。
 前回御議論いただきました課題とともに、21世紀の我が国の社会を支える新たな司法制度を構築するために、是非実現されるべきであると考えております。顧問の皆様におかれましては、大所高所に立った忌憚のない御意見をいただきますよう、よろしくお願いいたします。

【佐藤座長】 ありがとうございます。
 それでは、早速ですけれども、議事次第の3の平成16年通常国会提出予定法案について御協議をちょうだいしたいと思います。
 本日は裁判員制度、それから刑事訴訟法及び検察審査会法の改正、それから行政訴訟制度の見直し、並びに弁護士報酬の敗訴者負担について、御協議いただきたいと思います。 まず最初に事務局から本日の資料について説明をお願いします。

【山崎事務局長】 それでは、私の方から御説明申し上げます。資料は1から4まででございます。順次これに従いまして、御説明を申し上げたいと思います。
 まず裁判員制度で資料1でございますけれども、その3枚目を御覧いただきますと、全体の手続の流れのイメージ図がございますので、これに基づきまして、御説明をさせていただきます。
 まず、左側の枠の一番上から御覧いただきたいと思います。
 裁判所における手続は事件が起訴されるところから始まるわけでございますけれども、裁判員制度の対象となる事件は、一定の重大な事件となるわけでございます。具体的には死刑、または無期の懲役・禁錮に当たる罪に係る事件、それから、法定合議事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの、これが対象事件となるわけでございます。
 対象事件が起訴されまして、裁判所に係属いたしますと、第1回公判期日前の段階で準備手続が行われます。この準備手続の具体的な内容は、後ほど刑事訴訟法の改正を御説明をする際に改めてお話をいたしますが、裁判員制度の対象事件につきましては、訴訟の迅速かつ充実した進行のため、争点の整理とそのための証拠開示、審理計画の策定を行う手続を必ず行うということになっております。
 準備手続が終わり、審理計画と公判の期日が決まりますと、裁判員の選定が行われることになります。この図の右の方を御覧いただきたいのですが、「裁判員候補者名簿の作成」という部分がございます。毎年1回、各裁判所ごとに、年齢20歳以上の者を選挙人名簿から無作為で抽出して名簿を作成しておくわけでございます。
 その下の次の枠でございますけれども、具体的な事件ごとにその名簿から再度無作為で必要な人数の候補者を抽出した上で、欠格事由、除斥事由、不公平な裁判をするおそれがある者に当たる場合、こういう者につきましては除外をして、さらに、辞退事由に当たる場合には、辞退を認めるということになるわけでございます。
 そして除外されずに、辞退もしなかった候補者の中から裁判員が選任されるということになるわけでございます。
 左側の上から三つ目の枠に戻りますけれども、このような手続を経まして、最終的に6人の裁判員が選任されて、3人の裁判官とともに審理を行うこととなります。なお、一定の場合につきましては、裁判官と裁判員の人数をそれぞれ1人と4人とする合議体で審理を行うこともできることとしております。
 裁判員の選任後は公判の審理を行うことになりますが、連日的開廷を原則といたします。そして、評議・評決を行いまして、判決の宣告によって裁判員の任務が終了するということになります。
 有罪・無罪と刑の決定は、裁判官と裁判員が一緒に行います。その決定は、全体の過半数であって、裁判官と裁判員の各1名以上が賛成していることが必要となるということでございます。法律解釈などは裁判官のみで行いまして、その過半数で決することになります。
 このほか、右側の枠の外に記載がございますけれども、解雇、その他不利益な取扱いの禁止、裁判員の氏名等の情報の非公開、さらに、担当事件に関する裁判員への接触の規制などについて規定を設けるということになります。これが裁判員制度の御説明でございます。
 次に刑事裁判の充実・迅速化と検察審査会法でございます。資料2になります。
 この法律案は、刑事裁判の充実・迅速化、公的弁護制度の整備、検察審査会制度の改正を内容とするものでございます。
 第1は、刑事訴訟法の一部改正の概要ですが、その1の「刑事裁判の充実・迅速化を図るための諸方策の導入」でございます。
 (1)は「新たな準備手続の創設」で、第1回の公判期日の前に、新たな準備手続を開くことができるようにするわけでございます。その準備手続の中で検察官と被告人との双方がそれぞれの主張を明らかにして、その事件の争点や、公判で取り調べるべき証拠を決めて、審理の計画を立てるものとしております。
 (2)は「証拠開示の拡充・ルールの明確化」でございます。現行の制度では、検察官は主として証拠調べを請求する証拠を開示しております。しかし、準備手続で十分に争点を整理するためには、証拠開示の範囲をより広くする必要がございます。そこで、証拠調べを請求する証拠以外にも一定類型の証拠や、争点に関連する証拠を幅広く開示するものとしております。
 この証拠開示の要否が争いになったときには、裁判所が裁定するものとしております。 (3)は「連日的開廷の確保」で、公判は原則として、連日的に開廷すべき旨を法律に明記するものとしております。
 (4)は「裁判所の訴訟指揮の実効性の担保」で、その担保措置として、裁判所の出頭命令に従わない当事者に対して過料の制裁を課すことなどができるものとしております。
 (5)は「即決裁判手続(仮称)の創設」で、簡易で争いのない事件について、簡易・迅速に裁判を行うことができるものとしております。
 次に「2 公的弁護制度の整備」でございます。
 まず「(1)被疑者に対する公的弁護制度の導入」のとおり、被疑者段階に国選弁護制度を導入することとしております。現行法上、国選弁護制度は公判段階に限定されておりますけれども、それを捜査段階にも拡大するものでございます。その対象範囲は、死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件としておりますけれども、いわゆる司法過疎問題があることなどを考慮いたしまして、制度の施行後3年程度は一部の重大な事件に限ってスタートをさせるということとしております。2段階で広げていくという発想でございます
 「(2)弁護人の選任要件及び選任手続の整備」で、無駄な公費が投入されることのないように厳格な審査をするということにしております。前回の顧問会議でも御説明いたしましたとおり、司法ネットの運営主体が公的弁護制度もその業務の一環として担当するということにしております。
 したがいまして、公的弁護制度の運営主体に関する規定は、司法ネットに関する法案に含まれることになりまして、参考欄にはその概要を記載しているわけでございます。
 続きまして、「第2 検察審査会法の一部改正」の概要でございます。
 「1 検察審査会制度の議決に対するいわゆる法的拘束力の付与」であります。検察審査会は検察官の不起訴処分の当否を審査する機関でございますが、その一定の決議に基づき、事件が起訴されるものといたします。また、その事件の起訴の手続と公判の立会いは、裁判所から検察官役として指定された指定弁護士が行うものとしております。
 「2 検察審査会の審査を充実させるための措置」であります。検察審査会が委嘱した弁護士が、審査補助員として検察審査会の審査を法的観点から補助する制度を設けるものとしております。
 次に行政訴訟関係で、資料3でございます。これの3枚目を御覧になりながらお聞きいただきたいと思います。これが概要の全体を表したものでございます。
 ここにありますように、テーマは大きく四つございます。
 「救済範囲の拡大」「審理の充実・促進」「行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするめの仕組み」「本案判決前における仮の救済制度の整備」、この四つになります。いずれも国民の権利・利益のより実効的な救済手続を整備するという観点から行っております。この中で赤で「新設」と示した五つの事項は、今回の改革で導入する新しい制度でございます。
 以下、この1ページ目に戻りまして、この資料の順番に基づきまして、御説明をいたします。
 まず「1 救済範囲の拡大」で、その中の「ア 取消訴訟の原告適格の拡大」でございます。これは原告適格が広く認められるように、原告適格の判断において法律の趣旨・目的や、処分において考慮されるべき利益の内容・性質などを考慮すべき旨を規定するものとしております。
 それからイとウの「義務付け訴訟の法定」「差止訴訟の法定」につきましては、一定の要件の下で行政庁が処分をすべきことを義務づける、あるいは差止める訴訟類型を設けるということにいたしております。
 「エ 確認訴訟を当事者訴訟の一類型として明示」という項がございます。行政の活動の複雑多様化に対応して、国民の権利・利益について実効的な救済を図る必要性が高まっていることから、確認訴訟を活用することが有益かつ重要でございます。そのため、確認訴訟を公法上の法律関係に関する訴訟の一類型として明示することといたしております。 次に「2 審理の充実・促進」で、これは裁判所が釈明処分として行政庁に対し、裁決の記録や処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができるとしているものでございます。
 「3 行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組み」でございます。アの「抗告訴訟の被告適格の簡明化」ですけれども、処分をした行政庁の所属する国または公共団体を被告として簡明化を図るということでございます。
 「イ 抗告訴訟の管轄裁判所の拡大」ですけれども、国を被告とする抗告訴訟は、原告住所地を管轄する高等裁判所所在地の地裁にも訴え提起を可能にいたします。
 「ウ 出訴期間の延長」ですけれども、「処分があったことを知った日から3か月」とされている取消訴訟の出訴期間を6か月に延長いたします。
 「エ 出訴期間等の情報提供(教示)制度の新設」ですが、これは処分の際に取消訴訟の被告、出訴期間、不服申立前置等に関する情報提供を行う仕組みを設けるというものでございます。
 それから「4 本案判決前における仮の救済制度の整備」についてですけれども、「ア 執行停止の要件の緩和」は、損害の性質のみならず、損害の程度や処分の内容、及び性質が適切に考慮されますように、回復の困難な損害という要件を重大な損害に改めることとしております。
 また「イ 仮の義務付け・仮の差止めの制度の新設」につきましても、一定の要件の下で、裁判所が、行政庁に対し処分をすべきことを仮に義務付ける、あるいは処分をすることを仮に差止めるという裁判をすることができる制度を新設するということでございます。
 次に資料4の「弁護士報酬の敗訴者負担について(概要)」でございます。
 この検討課題に関しましては、司法制度改革審議会意見で一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて、敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきであるとされていますけれども、その意見の中では、不当に訴えの提起を萎縮させないよう、これを一律に導入することなく、敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲等について検討すべきであるともされているわけでございます。
 司法アクセス検討会で検討をした結果、不当な提訴萎縮的効果を避けながら、弁護士等の訴訟代理人に支払った報酬の一部を相手から回収する機会を広げるために、1のBに「要件」とございますけれども、そこにありますように、当事者双方が弁護士等の訴訟代理人を選任していること、訴えの提起後に当事者双方の共同の申立てがあるという2つの要件の下に一定の範囲内の弁護士報酬を敗訴者の負担とするということが適切であるという方向が示されたわけでございます。現在、この方向にしたがいまして、制度設計の細部において検討を進めております。
 「2 負担額の定め方」については、訴額に応じて敗訴者の負担となる額が増加するようにいたしまして、300万円程度を負担額の上限にする方向で検討を進めております。現在検討中の負担額について、大まかに申し上げますけれども、訴額が100万円の場合で10万円程度、訴額が1,000万円で30万円程度、訴額が1億円で50〜60万程度、訴額が10億円で300万円程度になるという方向で考えております。
 この検討課題につきましては、この通常国会に所要の法案を提出させていただきたいと考えております。
 私の説明は以上のとおりでございますが、よろしくお願い申し上げます。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。ただいまの御説明を受けて、御出席の皆様から御質問、御意見をいただきたいと思います。順番は必ずしも今の説明の順番にこだわらずにどこからでもよろしゅうございますので、どうぞ御遠慮なくおっしゃっていただければと思います。

【野沢法務大臣】 私が質問するのはおかしいのですが、みなさんの御準備ができるまでということで。裁判員制度のところで、3人と6人となっていますね。その下に一定の場合、裁判官1人、裁判員4人とありますが、この一定の場合ということについてもうちょっと丁寧に御説明していただいたらいいと思いますが、どういう場合かということです。

【山崎事務局長】 これにつきましては、裁判官が第1回公判期日の前に準備手続をいたしますけれども、その準備手続の結果、被告人が公訴事実を認めているとき、検察官、被告人及び弁護人に異議がないとき、かつ、事案の性質等を勘案して、裁判所が相当と認めるときと、この3つの要件が付いているわけでございます。そういう場合には、裁判官1人及び裁判員4人の合議体による審判をすることができることにしようと考えているわけでございます。

【佐藤座長】 いかがでしょうか。

【笹森顧問】 今までかなり四の五の言ってきましたので、最終局面で一、二にしようかなと思ったのですけれども、やはり六、七言わなければならないかなというような気持になっていますので、ちょっと発言をしたいと思います。
 まず裁判員制度なのですけれども、いろいろな経過があり、いろいろなところでかなり真剣な論議をしていただいて、最終的に3人と6人、1人と4人というオプションまで付けたという状況、これは特にオプションの方は、私は併用することは非常に合理的だと評価するのですが、裁判員制度を見直すというときに、国民が統治主体として、主体的、自主的に参加するかどうか、あるいは健全な社会常識、いわゆる娑婆の考え方をどう持ち込むかということが強く求められたと思うのです。そのことを反映するかどうか、それが達成されるための最低限必要な人数が確保されたのかどうか、ちょっと疑問があります。
 それはどういうことかと言えば、裁判官が3人というところから変わらなかったという、これは多過ぎないかという認識がどうもぬぐい切れないという思いがあります。ただ、論議経過を踏まえて、やむを得ないかなという部分もありますので、できればここは運用してみて、チェック・アンド・レビューをきっちりとやっていただきたいということが一つです。
 それから、1人と4人という制度、これはせっかく作るのですから、でき得れば、この部分がこれから十分に活用されるというような方向にいくことが是非必要なのではないかと思っています。このことをやっていけば、裁判官が本当に3人必要なのか、あるいは国民から選任をされる方の数がこれで十分なのか、そういう検証もできることになると思いますので、先ほど大臣の方から一定の場合という御質問がありましたけれども、これは1人と4人を使うことによって、これからの裁判員制度の運用状況、これが非常に明確になってきて、その上で検証して、その状況がどういうようなことになっているかということを国民に十分に伝えていく工夫をしていただきたいということがまず人数の問題の一つ目です。
 それから、守秘義務の問題ですけれども、これは非常にきついと思うのです。確かに話してはならないものがあるのは当然で、話していいもの、悪いものをどうするかということは必要なのですが、どういう部分がいけないのかということを明確にしておかないと、守秘義務をかけられるということで選定される方、あるいはもうそういうことが我々にも起こるんだなということが分かったときに、萎縮をしてしまいかねない。だから、ここをどういうふうに払拭していくかどうか。
 それに合わせて、守秘義務の範囲、ここももう少し明確にする必要があるでしょう。その上で違反した場合の刑罰の問題なのですが、いきなり懲役刑という話になってきていますね。これは希望して参加するわけではないと思うのです。制度に積極的だという人もいるかもしれないけれども、その場合に、このことが全面に出てしまうと、国民をしり込みさせるということにつながるのではないかと思っていますので、何か恐ろしい印象を与える部分に、閉ざされた部分に戻さないという工夫。
 そして、現在行われている中では、検察審査会の秘密漏洩の場合にどうなのかという部分がありますね。これは1万円以下の罰金しか規定していないと聞いているのですが、今までの状況の中で何か問題があったかどうか。これは質問ですが、お伺いをしておきたいと思います。
 それから、評決の方法なのですけれども、死刑などの重い刑について、過半数という要件で評決をするということになっています。これは重い刑について、もう少しきついような状況があっていいのではないか。例えば全員一致なり3分の2以上という配慮があってしかるべきなのではないかと。
 というのは、検察審査会でも起訴する場合に、11人中8人以上と確か規定をしていると思いますし、裁判官の弾劾裁判でも14名のうちの3分の2以上ということになっているので、重刑を科すという場合の過半数というのは妥当な判断なのかどうか。
 このことを導入していくに当たっては、参加しやすい制度にしなければいけないだろうと思っています。そういう意味では、選定される人たちに雇用上の不利益とか経済上の不利益とか、休暇の問題についてどうするとか、そういうことについて制度上の手当が必要だろうと思っています。
 加えて、辞退をする場合のケースも線引きが難しいのかもしれませんが、ガイドライン的な判断基準を作っておく必要があるのではないか。
 更に、参加したくてもできない人、育児の場合とか、そういうことをする場合というのは、例外事項としてあるようですが、そういう人でも参加したいという場合にあったら、基盤整備をどうするかということ。例えば裁判所の中に託児所をつくって、大丈夫ですよということまで含めて積極的な参加も場合によっては必要かなと。
 最終的には国民への広報、これは繰り返し繰り返しやらなくてはいけないだろうし、模擬裁判等の実態例をどういうふうに作って、積み重ねをするか。そういうことを含めて、講演会なり、いろいろな工夫をしていただきたいと思っています。
 最後に、裁判員制度を支えるのは今回の趣旨から言えば国民なのですが、国民がそのことを支えられるようにするかどうかというのは法曹関係者の極めて大きな努力が必要だろうと思うのです。今の裁判の側に国民を引っ張って来るということではなくて、国民が主体的にということですから、国民の側に裁判を引っ張ってくるという発想の転換が不可欠になるのではないか。
 今までの論理から言うと、法曹三者は、自分たちの塀の中にこもっているという印象をぬぐい切れないという部分もありますし、そういうことを払拭していく。最終的に国民が参加するならば、そういう壁を全部取り除いてくれるというような努力もお願いをしておきたいと思います。

【佐藤座長】 ありがとうございます。

(小泉内閣総理大臣入室)

【佐藤座長】 総理大臣、お忙しいところ、本当にありがとうございます。ただいま通常国会に法案を提出する予定の裁判員制度、それから刑事訴訟法及び検察審査会法の改正、それから行政訴訟制度の見直し、更には弁護士報酬の敗訴者負担について、協議しているところでございます。
 どうぞ。

【奥島顧問】 まとめて言っておいた方がいいと思いますので、今、守秘義務の話がありましたので、ついでに出頭義務の問題についても申し上げておいた方がよいと思いました。
 この裁判員制度の制度設計の問題として、今、笹森顧問の方から裁判の方に国民もおいでおいでじゃなくて、国民の方へ裁判がおいでおいでの方を少し考えなければいけないのではないかとおっしゃいましたけれども、考え方は私もそうではないかと思っております。 何を言いたいかと言いますと、この裁判員制度というものに国民が主体的に参加しやすいような環境をどうやって確保するかということが非常に重要な問題だろうと思っております。
 そこで主体的に参加しやすい環境ということでは、先ほどの笹森顧問が指摘されました守秘義務の問題もあるでしょう。同時に、事件ごとに無作為抽出でもって、無理やりいやだいやだと言うのに引っ張り出すというのもなかなか難しい問題があります。その辺りについてどのようなお考えなのかということを一緒にお聞きしたいと思っております。

【大宅顧問】 それぞれ1名以上が賛成することというのは、オプションの裁判官1人、裁判員4人というのでも同じですね。
 ということは、例えば6人の場合で、6人全員が反対で裁判官3人が賛成と。裁判員だけで決定することはできないわけですね。裁判官が1人いない限り。
 ということは、裁判員というのは、意見を聞き置くという参考としてしか扱われない。つまり決定権はないわけですね。何だか義務が多い割には、結局、6対3になっても、1対4になっても、絶対に引っくり返すことはできないわけですね。裁判員全員がある意見だったとしても、裁判官1人がいない限り動かないということは、そうですよね。だから、裁判官1人で裁判員4人というのがありますね。そういうふうに受け取れるんですけれども。

【佐藤座長】 今まで御質問をまとめてお答えいただけますか。

【山崎事務局長】 私の方から順番にお答えさせていただきます。
 笹森顧問の最初の御質問は、この制度を運用するに当たって、いろいろ検証していって、検証の結果を国民に伝えて、チェックして新たな制度を考えていくということ、すなわちチェック・アンド・バランスというか、レビューとおっしゃられましたけれども、新しい制度を導入しますと、いろいろな問題が出てくる可能性がありますので、そういう点について、きちんと把握をして、国民に明らかにして、その上でどういう修正を加えていくか、新しい発展をしていくかということは大変重要ですので、その方向でやっていきたいと思っております。
 次に、守秘義務の点についてでございますけれども、どの部分が守秘義務になるのかという点は、これはやはりきちんとしないと国民の方がどこまで話していい、どこまで話してはいけないと、ここで大いに迷うことになりますので、この点については、勿論、なられる方に対してきちんと御説明をして、そこで混乱をしないようにしなければならないということを考えております。
 それから、刑罰について検察審査会の関係でどうかということでございますけれども、検察審査会でも現在罰金という罰則はございますけれども、これに該当したという例は聞いておりません。今回の改正では、懲役もあるわけでございますが、それをなぜ設けるかということですけれども、これについては、評議の秘密の問題と、裁判の中で個人のプライバシーにわたることを知ることが大いにあるわけでございまして、評議の秘密の問題については、これについて明らかにするということになりますと、他の裁判員がどのような評決行動をしたかということも全部出てしまう可能性がございますし、場合によっては、それによって仕返しということも考えられますし、今後の裁判の信頼性という問題にも大いに影響がございまして、後で秘密が出てしまうなら、何も話せないということになってしまいますと、評議がきちんと行われないということにもなります。
 もう一つは、他人のプライバシーをどこかに暴いて、それで商売にするとか、こういうことも悪質な場合はあり得るわけでございますので、制度としては懲役刑を設けておく必要があります。しかし、そこは運用で懲役を選択をするというのは絞っていくというような対応をきちんとしていきたいと考えております。ある意味ではここは制度の根幹、要めであるということになろうかと思います。
 それから、評決ですが、重い事件については過半数でなくて別のルールでということの御指摘だろうと思いますけれども、これにつきましては、ここの場面だけではなくて、裁判のルール、例えば高等裁判所は裁判員が入らないわけでございますし、最高裁もございますが、すべての裁判につきまして、現在、過半数でということでやっているわけでございまして、ここだけを特別なルールでやるということは全体の整合性が取れなくなってしまいます。もしやるならば、全体を全部考え直してやらなければならないということになりますが、今回はそこまではやっていないということでございます。
 それから、解雇といいますか、労働上の不利益や経済上の不利益の点は、確かに御指摘のとおりで、不利益がなるべくないような形にしなければならないということで、先ほど、辞退のガイドライン等についてもおっしゃられましたけれども、それも当然きちんと明らかにしていくということになろうかと思いますが、経済的な手当てをするということまでは予定はしております。託児所まで作るということも、ここまでは今のところ考えておりませんで、どうしてもそういうことで事由があるという方は、辞退を認めるということになりましょうし、また、子供が大きくなって、自由にできる時間ができてくれば、そういう場合には参加してもらう余地もあるわけでございますので、御理解を賜りたいと思います。
 それから、広報を繰り返しやるべきであるということですが、これはいろいろなところから確かに御指摘がございまして、法律が仮に成立しても、施行までの間にさまざまなPR活動をするべきであると考えています。例えば模擬裁判、あるいは宣伝用のパンフレットやビデオとかを作り、これを、あるいは小学校等の移動教室で実際にやってもらうなり、様々な形でビデオを見ていただく機会を設けるなり、周知徹底をすることが大変重要でございまして、我々としても、今後、この点については、さまざまな機会をとらえてやっていきたいと考えております。
 それから、法曹関係者の努力が大切であるとのことですが、まさに御指摘のとおりでございまして、これはその任に当たります裁判官、検察官、弁護士、それぞれが完全に頭を切り替えなけれはならないことになります。プロだけで通用するような文言でやるのではなくて、一般の方に分かりやすく、理解してもらえるような言葉で語りかけるなり、意識改革が当然に必要になるわけでございます。法曹三者のそれぞれの分野できちんとした教育を重ねていく必要があろうかと思いますし、それぞれでの分野でその点は考えていると思います。
 奥島顧問の御質問でございますけれども、最初の守秘義務につきましては、先ほど申し上げたので、それをもって答えとさせていただきますが、問題は後段のものでありまして、本当にいやな人に無理やりにやってもらう制度になるのかという御指摘だろうと思います。この制度は、国民の感覚を裁判に反映させるという制度でございますので、そうなりますと、裁判員はできるだけ幅広い層の国民の中から選任されるということが望ましいわけでございまして、その裁判員の構成に偏りがない、そういうことが生じないようにするためにも、希望者に限定するというのは適当ではないだろうと思います。やはり義務を課す必要がある。これが前提でございます。
 ただ、その場合に、国民に過度の負担をかけるべきではないということも真実でございまして、そのようなことのないように、まず裁判員候補者が理由を示して、辞退の申立てをして、裁判官においてやむを得ない事由があると認める場合には辞退が認められるという制度を設けているわけでございます。
 さらに、この辞退事由に該当しない場合であっても、裁判員になることを強く拒んでおりまして、誠実に裁判員の職務を行うことが期待できないという場合も考えられるわけでございますので、こういう場合には、理由を示して行う忌避、あるいは理由を示さないで行う忌避、この両方を用意しているわけでございますけれども、これによりまして、裁判員から除外されることになると考えており、これは最終的には裁判所が決定をするということになります。
 大宅顧問の御質問でございますが、裁判員も裁判官も両方同じでして、それぞれ1名ずつの意見が入らなければ評議が成立しないという考え方でございます。今回はたまたま裁判官3人に裁判員6名という形になりましたから、数が多い6名が全部賛成しているのにという御疑問が出てくるのだと思いますけれども、仮にこれを3人対3人とした場合でも、同じルールでございまして、その場合でもどちらかに完全に分かれてしまった場合は評議が成立しないということです。両者が入って協同の作業をしますので、両者の意見がきちんと裁判に投影されたという形になって、初めて一緒の協同の裁判をしたということになるわけでございますので、そこで両者の意見を加えることが必要であるとした訳でございます。
 ちなみに先ほど申しておるところで、裁判官3人と裁判員6人が意見が完全に分かれたという場合は、評議が成立しないわけで、その場合は、検察官の立証が十分でなかったということになりまして、無罪という結論になるわけでございます。

【大宅委員】 常識的に1票の重さは同じだと。1票というか、1人が持っている1票の重さというのは。

【山崎事務局長】 同じでございます。

【大宅委員】 そこまで過半数で決めるというところまでは同じ、1人ずついなければいけないということになると、3人しかいないところの1票と、6人いるところの1票とでは重みが違いますね。

【山崎事務局長】 その意味では違うかもしれません。

【佐藤座長】 井上座長、何かあれば。

【井上座長】 この前提となっています司法制度改革審議会でも議論をしたところでして、憲法問題も絡んでおりまして、憲法には職業裁判官についての規定しかないものですから、職業裁判官が裁判体の基本的な部分を占めるということを憲法は想定しているのだろうと。そういうところに抵触しないような形で国民の方々に入っていただいて、それで裁判というものを行っていく場合に、どういう要件が必要かという議論もありまして、裁判員、あるいは裁判官、それぞれのブロックの多数だけで最終的な結論、特に被告に不利な結論を出すことはできないようにしようではないか。それからの意見書で固まったところがあるのです。それを前提に、今、制度を組み立てているものですから、そういうことになってきたという面があります。ついでに2点くらい申し上げます。
 最初の数のところにつきましては、笹森顧問のような御意見もありますし、また、別方向の御意見もある中で、こういうところでまとまってきたというのは、大変な議論をした後ここまで来たのは何とかまとまってよかったなという感じを持っているのですが、オプションにつきましては、いろいろな評価があるのですけれども、他面お考えいただきたいことは、被告人の立場と被害者の立場、これは死刑、無期相当の重大な刑を課されるかもしれないという事件ですので、被告人がどう思うかということかかなり大きくて、その場合にフル装備の裁判体で死刑になるかどうかわからないというときに、事実は認めているのですけれども、そういうときにはフル装備していただきたいという意思があれば、それはやはり無視できないのではないか。そういう意味では当事者の異議がないときという要件を課しているのではないか。
 同時に被害者の方も、この間の検討会で意見が出たところなのですけれども、当事者は1対4でいいと言っている。しかし、被害者から見ると、何で私の事件だけはフル装備ではないかという御不満を持つような事件もあるのではないか。その辺も勘案して、最終的には裁判所が相当と認める事件について、これを行っていただこうではないか。こういうようなアイデアになっているのではないかと私は思います。
 あと広報の点については、これは御存知だと思いますが、戦前に旧陪審法があったときも、法律ができてから施行まで5年くらいかけて、大変な予算を使って各地で講演会をやったり、周知徹底の努力をなさっているのです。5年をかけるのかどうか分からないのですけれども、そのくらいの努力をしないといい制度に育っていかないのではないかという感想を持っております。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。ただいま事務局長、それから井上座長からお答えいただきましたけれども、この御説明について、更に笹森顧問、奥島顧問、大宅顧問、小島顧問、佐々木顧問、何か更にお尋ねになりたいところはいかがですか。

【小島顧問】 皆さんも御指摘されたことなのですが、一つ質問があります。今、井上座長もおっしゃられましたが、準備期間と言いますか、施行までどのくらい予測していらっしゃるのかということ。要するに、守秘義務に関連して、懲役を規定している国が大多数なのかどうか。コメントする前に分かれば教えて欲しいのですが。

【山崎事務局長】 施行時期の関係は、今、井上座長からもお話がございましたか、戦前の陪審員で正確には5年半くらいを要しています。今回もさまざまな点、すなわち、国民の理解という問題もありますし、裁判所でいろいろな制度設計をきちんとやっていかなければならないなど、様々な準備が必要でございまして、今のところ大体5年は必要かと思っておりますけれども、最終的にここは決まっておりませんが、一応その辺が念頭にあるということで御理解をいただきたいと思います。
 それから、評議の秘密の問題でございますが、これにつきましては、ない国は若干あるかもしれませんが、大部分のところは、きちんと刑罰を置いておりまして、懲役刑もあります。
 それから、日本の法律の中で守秘義務がかかっている中で罰則があるもので、先ほど検察審査会を申し上げましたが、あれは非常に古い法律でございますので、罰金しかございませんけれども、それ以外の最近の立法例でかなりのものは懲役刑を設けているという状況でございます。

【小島顧問】 この裁判員制度に関心を持って見ていたのですが、ある途中までは、これは生まれても健康に育つような赤ちゃんが生まれないのではないかと心配していたのですが、ともかく皆さんの御努力で赤ちゃんが生まれそうで、育ちそうであるというところまで来たと思うのです。与党の努力ですとか、裁判官の皆さんもある段階で柔軟性を発揮されたということかもしれません。生まれるということがほとんど確定した以上、しっかり元気に育って欲しいわけです。
 その場合に、どういう視点が必要かという、制度というのはどんな制度を作っても100%完全なものはないわけです。それは運用次第という面があるわけです。運用がうまくいくためには、絶えず理念をしっかり確認しながら、その理念に照らしてどうかというところが大事だと思うのです。ですから、それは基本的には我々のバイブルは意見書に戻るわけで、裁判員の数についても議論がありましたが、統治主体としての国民の主体的、実質的な参加や、健全な社会常識を反映するということになると、余り少数ですと、社会の各層の姿を反映できないでしょうし、ここで数字が出てきましたが、裁判員の数はこれ以上少なくなったら、恐らく制度の意味がないという最低人数ではないかという感じがするのです。そういう意識で考えていただきたいと思います。
 若干、ほかの国を見ますと、裁判官が1人で、裁判員が12人というところもあるし、裁判官が2人で裁判員が9人だったり10人だったりいろいろあるのですが、どう見ても、6人というのは、最低限という感じがするのです。
 もう一つは、教育の問題ですが、先ほども事務局長から御指摘があったとおり、前回、昭和3年に施行されたときは、おっしゃるとおり5年余りの準備期間の中で、政府が徹底的に準備に努力され、模擬法廷を作ったり、陪審員の宿舎を全国71地裁に設けたり、全国で講演会を都合3,000回以上やったらしいです。聴衆としては、百何十万とか、二百万という人を延べ集められたということですし、啓蒙パンフレットも200〜300万部出されたということで、その制度がきちんと理念に照らして、うまく機能するためには、国民の持続的、世に言う幅広い支持、支援が理解が必要ですから、是非とも生まれることが確定した赤ちゃんを立派に育ててやっていただきたいということです。
 あと守秘義務そのものについても、これは運用の問題が非常にあるのですが、どういう理念で基準を設けるかというのも、これは大切でして、万が一の弊害があると、不心得な者がいるかもしれませんが、それだけに目を向けますと、逆のマイナスもある。実際の裁判の過程でいろいろな議論があり、審議があるのでしょう。しかし、この制度がこれから動き出すばかりですから、よりよく運用されるためには、改善の余地も絶えず点検しなくてはいけないです。そのためには、ある程度どういう裁判であったかということも分からないといけないし、それによってみんな真面目に制度をよくしようという努力が継続して進められると思うのですが、余りに権限を狭く基準を設けますと、そういう改善の余地が自らなくしてしまうということで、ちょっと懸念があるなという気がいたします。
 それから、自民党の会合でも、森山前法務大臣は、教育は国民も必要ですが、裁判官も必要だとおっしゃって、先ほどからの国民に近づく裁判、司法という話がありましたけれども、是非ともその意識改革、法律の文書を見ると大体明治の文書なのかどうか分からないような法文が多いので、あるいは頭の発想もそういう歴史的なしっぽを引きずっているのではないかと思いますので、意識の改革ということを徹底的に意識されて、御検討を今後努力していただきたいと思います。

【佐藤座長】 ありがとうございます。それでは、佐々木顧問。

【佐々木顧問】 先ほどいろいろ御意見が出ましたけれども、私は法案が通ってから長い時間を置くということは余り賛成できません。やはりしかるべき時期に実行に移すということがないと、何かたなざらしになってしまって、昭和の初めの国民の意識と今の国民の意識と同じと見ること自体がいろいろ議論を呼ぶことだろうと私自身は率直に思います。ですから、余り、教育、どっちの教育をやるかはあれですが、長い時間を、自己目的になるようなことで条件の整備ということばかりやっていますと、肝心の実態にまで時間がかかり過ぎて、何かせっかく動き出した歯車が生きてこない。その点は私は余り時間を例えば5年というような長い時間を置くことがいいかどうか、是非御議論をしていただきたいということであります。むしろ見直し制度を入れた方がよろしいと。先ほど守秘義務その他、いろいろ問題になり得る点について御指摘があったわけですが、司法制度改革は1回で終わらないという委員会の精神からしまして、特にこの問題は非常に微妙な、かつ意識面での改革に関わる問題を含んでおりますので、やはり何年かに一遍、議論をするという、10年とか、そのくらいで多分いいかと思うのですけれども、議論するという機会がないと、何かいろいろ不満やら問題点の指摘ばかりあるような制度になってしまうというのを私自身はちょっと恐れますので、そういう規定を置くことの是非にきましても、御検討いただいたらどうかと思います。

【佐藤座長】 どうもありがとうございます。総理大臣は所要につき御退室されますので、御挨拶をちょうだいしたいと思いますが、その前にカメラ撮りがございます。

(報道関係者入室)

【小泉内閣総理大臣】 皆さんの御意見を伺っていまして、もっともだという御意見ばかりでございます。身近で速く頼りがいのある司法、これを目指して、御努力をいただいておりまして、厚く御礼申し上げます。本国会に法案を提出するという、しかも数多くの法案でありますので、御努力いただきますが、これからもよろしく御指導、御協力をお願いいただきたいと思います。成立に向けて全力を尽くしますので、よろしくお願いいたします。

【佐藤座長】 ありがとうございました。
 それでは、総理は御退室なされますので、どうもありがとうございました。

(小泉内閣総理大臣退室)

(報道関係者退室)

【佐藤座長】 事務局の方から、小島顧問、佐々木顧問の御質問を含めて、何かありますか。

【山崎事務局長】 貴重な御意見を賜りましてありがとうございます。御指摘がありましたような点も踏まえて、それほど時間は残されておりませんけれども、早急に結論を出して対応してまいりたいと思います。ここで個々に完全に詰めるわけにはまいりませんので、御指摘は十分に頭に入れながらやっていきたいと思います。

【大宅顧問】 無作為に抽出するということで、6人より何倍かは抽出するのでしょうけれども、介護がありますとか、子育てですとか、いろいろあって、みんな辞退をして、残ったのは二十歳の女子大生ばかりでしたといったときにはどうするのですか。あり得ますでしょう。無作為と言っているのに、これはまずいからと、年寄りを入れるという話になったらどうするんですか。

【山崎事務局長】 二十歳の女性ばかりだからだめというのも、これはおかしいと思いますけれども。

【大宅顧問】 大学生だったら一番出やすい。

【山崎事務局長】 裁判員6名でございますが、抽出しまして、補充裁判員を置く場合があります。補充裁判員を入れますと9名くらいになりますが、運用が決まっているわけではありませんけれども、この大体5倍くらいは最初の人数として抽出をして、作業をやっていくということになりますので、全部そのような方ばかりになる可能性は少ないと思います。

【井上座長】 辞退をどれくらい緩やかに認めるかにかかっています。確かにおっしゃるように、アメリカの陪審員なども一時期はかなり広く認めていたと思うのですが、20歳くらいの女子大生かどうかは別として、家庭におられて時間がある方とか、リタイアした人が多くなったのですね。それは裁判結果の内容に影響するのではないかという議論がありまして、その辺はもっと出やすい環境を整えて、その代わり理解を得て、渋々であっても来ていただくということでやってみたら非常によかったとおっしゃる方が多いのです。
 どの辺で線を引くかというのが非常に難しいのですけれども、私は忙しいので免除してくださいと言えば、そういう理由で容易に認めていたらこの制度は成り立っていきません。ですから、環境を整えて、よほどの場合には免除しますというぐらいでやらないといけないと思うのです。
 もう一つは、争われない事件もありますので、それですと、半日くらいで済むかもしれません。それによってあなたは1週間もやるのは無理だとしても、こっちがまだありますよという形でリストには載せておいて、もう一度チャンスがあるという形なども考えられるのではないかという議論も出たところです。

【佐藤座長】 よろしゅうございますか。

【笹森顧問】 時間の関係があるので1点だけ短く申し上げます。
 敗訴者負担の問題についてですけれども、労働訴訟に私は導入すべきではないと思っています。論議経過の中では労働基準法の16条を巡ってのいろいろな解釈上の問題もあるのですが、労働契約や就業規則に異を唱えて、訴訟になった場合、これは負けた場合の敗訴者負担というのは極めて労働側にとって大きな負担になり過ぎるということですので、労働訴訟について外していただきたい。
 その上で、消費者訴訟も同様の考え方を取っているのではないかと思っていますので、検討して欲しいと思います。

【佐藤座長】 意見ということですが、何か事務局からございますか。

【山崎事務局長】 御指摘のような点も踏まえまして、検討を加えたわけでございますけれども、最終的には事件でどういうものを除外するということが極めて難しいということになりました。当初からその議論をしていたのですけれども、結局、適用しない分野をどう定めるかということで行き詰まりまして、最終的に現在のような案になっているわけでして、ただいま御指摘の労働訴訟と消費者訴訟の点につきましては、それであれば行政事件訴訟はどうするかなど、いろいろな問題が出てまいりまして、そこのところはどうしても一律に区切れないということでございます。
 それから実体法上の問題に関しましては、今、労働基準法16条の御指摘がございました。これにつきましても、損害賠償の予約や違約金について具体的な額を定めずに契約を結んでも無効であるという裁判例もございまして、この敗訴者負担の点について、仮に約款でやっても、損害額が幾らになるか全く分からない状況でやるわけでございますので、それは具体的な額も定まりませんし、それをもしやるとすれば、解釈上は無効という問題が出てくるではないかと思いますが、その点で長谷部委員の方で何か検討会の状況の議論がありましたからお願いします。

【長谷部委員】 若干補足させていただきます。この敗訴者負担制度と言いますのは、訴え提起がなされて、双方に訴訟代理人が付いているということが要件になっております。確かに消費者、あるいは労働者というのは経済的には弱者の立場にあるということはあるかと思いますけれども、ひとたび訴え提起ということになりまして、訴訟代理人が付いているとすれば、法律的な助言というのは得られるということであります。
 したがって、あまり不当な状況の下で敗訴者負担の合意をするということは考えにくいのではないかいう議論がございました。
 そういう意味では訴え提起前、訴訟前の約款のような形のものとはちょっと違うということがございます。
 仮に約款でそういったことが定められたとしましても、先ほどの労働基準法16条、あるいは消費者契約法などの規制によりまして、あまりにも消費者や労働者に不当なものというのは無効になるだろうと理解されております。
 以上です。

【山崎事務局長】 その点で資料4を見ていただけますか。先ほど御説明をしなかった部分なんですが、1のBに「要件」とございまして、その3番目ですが、これは約款等で共同の申立てをする旨の取決めが仮にあっても、それは許さないということを条文できっちり書こうと思っております。
 裁判になってから、そこで合意して共同の申立てをしたということでなければ許さないということで、問題が起こらないように手当てをしておりますので、御理解を賜ればと思います。

【佐藤座長】 この敗訴者負担の問題は審議会のときもいろいろ御議論がございましたし、意見書提出後も、いろいろ御意見があったものであります。検討会でもいろいろ議論されて、こういう結論に到達されたということですけれども、それぞれの立場からそれぞれの言い分があろうかと思いますけれども、一応こういう形でいかがかということでございます。よろしゅうございますか。
 時間も残り少なくなってきましたが、行政訴訟関係について何か。
 これも塩野座長の方で大変御苦心されて、この結論を得られたということでございます。従来からすれば、相当踏み込んだ見直しではないかという思いもするのですけれども、せっかくの機会でございますので、塩野座長の方でコメントしていただければありがたいです。

【塩野座長】 いろいろな見方があると思います。2年近くやってこれだけかという見方と、よくぞこれだけやったという見方と、それは立場によって違うと思います。ただ、私の自己評価ですから、最近は自己評価よりも第三者評価を尊ぶということが多いのでございますけれども、せっかくの御指名でございますので、自己評価を申し上げますと、これは意見書に出ていた言葉をほぼそのまま私どもの理念として掲げたことでございますが、国民の権利利益により実効的な救済を図るというこの理念の下にいろいろな制度を、いろんな角度から考えたわけでございます。そういった点からいたしますと、もともと行政事件訴訟法が内在的に抱えていた問題と、それから昨今のように非常に複雑な利益状況が起きている現代社会の下での行政事件訴訟の在り方についての対応をどうするかという新しい課題と、両方が国民の権利利益の、より実効的な救済をめがけて制度化に組み込んだわけでございますけれども、そういった意味では一歩は進んだと考えています。しかし、一歩進んでこれで満足ということではないというのが共通の意見だと思います。その一歩の進め方に、多少歩幅が狭い、歩幅が広いということもあると思いますけれども、それぞれの委員の方々、つまりかつての行政事件訴訟法におけるような大学の法律学の教授と最高裁判所裁判官等々の法律家専門だけではなくて、幅広い検討会メンバーをそろえていただきまして、そういった大多数の方々が、これで第一歩としてはよろしいのではないかということで合意に達したという文書であるということを申し上げておきたいと思います。

【佐藤座長】 ありがとうございます。顧問の方からも先ほど御指摘がございましたけれども、裁判員制度もこの行政訴訟の問題も、共通の課題に関係している。つまり、今、塩野座長が御主張なさったように、従来、法は専門家のものという視点がどうも強かったのではないかという気がするのですが、これからは、法というのは国民全体のものだという視点からとらえ、運用もそういう視点から考えていかなければならないということだろうという気がいたします。
 今、塩野座長がおっしゃったように、行政訴訟制度の見直しは重要な一歩だと思いますけれども、これで終わっているわけではない。司法改革だけではなくて、行政改革、行政の在り方とも非常に緊密な関係があるものですから、これにとどまらず更に取り組まなければならないいろいろな重要な課題があるということは塩野座長御指摘のとおりだと考える次第です。
 何か関連していかかでしょうか。

【小島顧問】 裁判員制度だけではなくて、これはあらゆる分野の裁判に共通なのですが、裁判の迅速化ということに関連もし、本当にしっかりした審議が行われた場合には、極力事前の情報公開、つまり証拠のなるべく十分な開示というものが早くなされて、共通の材料を下に、後は判断を争う、議論するという仕組みにしていただければいいと思います。
 刑事訴訟法の一部を改正する法律案で、その基準、あるいは実際に裁判官が判断するところがありますが、そのときにどういう理念で、どういう線を引くのかというのはかなり重要な問題です。

【山崎事務局長】 ここは最終的には裁判所の判断になりますけれども、被告人の事件として必要な範囲もの、こういうものについて基本的には開示をしていくという考えでございます。ただ論者によっては、全面的に持っているものをオープンにすべきではないかという方もおられると思いますけれども、事件として必要なものを出していこうということで、それ以上のものを出す必要があるかどうかという問題があり、ここは一線を画さざるを得ません。被告人の防御等に影響があるもので、弊害のないようなものに関しては、きちんとお出ししていくという方向で考えていきたいと思います。
 井上座長、何かこの点でありますか。

【井上座長】 これも審議会の中でもある程度議論をしたことで、意見書にも書いてありますが、証拠と言っても、検察官が持っている証拠はかなり幅広いものです。捜査の過程ではありとあらゆる情報、証拠を収集しますので、その中には個人のプライバシーに深く関わってるものがかなり多数含まれていますし、事件に関連あるものとか、あるいは他の事件に関連あるものなどもありますので、全てというわけには恐らくいかないので、それは審議会の中でも公判の準備を充実したものにするために、開示を広げていって、ルールや手続を明確にする。他方でそういうプライバシーやその他のものに影響を及ぼすといいますか弊害の恐れもあるので、それも考慮に入れて、ルールを明確化しなさいとなっておりまして、それに沿って制度設計をしたということです。
 これは従来のものから比べますと、これを適用すると、相当大きな変革になることは間違いないと思います。ほとんど必要なものは入っていて、私はこれで落ちるものは具体的には考えられないのではないかと思います。弁護側として必要なものですね。そのようにも感じております。

【小島顧問】 先ほど佐々木顧問が要望された、10年でいいから、10年経ったら見直すとか、そういう見直しというのは、検討会ではそのような発想はあるのでしょうか。

【井上座長】 私どもの検討会として、審議会で提案されたものを具体化する、実現するに当たって事務局を助けながら意見を言うという態度で徹したものですから、そういう見直しについての議論は直接はしなかったんですが、審議会の中ではこういう制度というのは不変ではあり得ない。また、パーフェクトであり得ませんので、これは定期的に見直していくべきだろうということは私も申し上げましたし、かなりの委員がそういう感じを持っておられたと思います。

【佐藤座長】 今まで日本は制度を一度作ると何十年も変わらないというのが実情だったと思うのですけれども、これからはそういうことではないという気がするのです。この裁判員制度についても、審議会でもその種の意見が強く主張されました。欧米等先進国の中で国民の司法参加を持っていないのは日本だけと言ってもいい状況の下で、ヨーロッパの参審制と英米の陪審制と2つあるけれども、日本でスムーズに導入できる制度は何かということでたどり着いたのがこの裁判員制度なのです。しかしこの制度も絶えず見直し、必要に応じて変えていく、国民が参加しやすく、参加して意味があるということになるような、絶えず改善に向けて努力すべきだということを意見書の中でも唱っているわけです。そういう趣旨をこれからの法律の制定、運用の中で生かしていただければと私も思いますし、顧問の皆さんもそういう御意向と思います。
 まだ御議論は尽きないかと思いますけれども、時間の関係がありますので、この程度にさせていただきたいと思います。
 先ほど事務局から説明がありました裁判員制度、それから刑事訴訟法及び検察審査会法の改正、それから行政訴訟制度の見直し並びに弁護士報酬の敗訴者負担につきまして、本日の議論を踏まえながら、先ほど説明を受けたような方向で事務局において立案を行うということで、私どもとしてそれを了承するということでよろしゅうございましょうか。

(「異議なし」と声あり)

【佐藤座長】 ありがとうございます。それでは、閉会に当たりまして、野沢法務大臣から御挨拶をちょうだいしたいと思います。

【野沢法務大臣】 皆様方には大変御活発な御議論をいただきまして、誠にありがとうございました。司法制度改革はいよいよ最大の山場を迎えております。裁判員制度を始め、この大改革を実現するためには、幾多の困難があろうかと思っておりますが、全力でこれに取り組む所存であります。まずは前回及び今回の顧問会議での御議論を踏まえつつ、鋭意法案作成のために必要な作業を進め、速やかに法案を国会に提出することができますよう、最大限の努力をいたします。
 顧問の皆様を始めとして、御出席の皆様におかれましては、今後とも司法制度改革の実現に御支援をいただきますようお願いを申し上げます。
 ありがとうございました。

【佐藤座長】 ありがとうございます。今回のこの幾つかの法案の提出によって、意見書が求めた改革の全般にわたる重要な柱が全て、−細かく言えばまだありますけれども−ほぼ全て網羅されて出ていくということになります。ここに至るにつきまして、私個人として非常に深い感慨がありますけれども、事務局を始め関係者の懸命の取り組みでここまでたどり着けたということでございまして、この顧問会議としても、その御尽力に感謝申し上げたいと思います。事務局にとって大変なのはむしろこれからといった面もありますが・・・。何か事務局の方からありますか。

【山崎事務局長】 どうも本日はありがとうございました。ただいま法務大臣と座長からお話がございましたけれども、まだ終わったわけではありません。法案の提出と成立につきまして、全力を挙げてやってまいりたいと思っておりますので、また、いろいろな形で御支援を賜ればと思います。
 どうもありがとうございました。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。