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裁判所における手続の迅速化に関する意見聴取概要



1 日 時  平成14年12月2日(月) 16:00〜17:55

2 場 所  永田町合同庁舎第一共用会議室

3 出席者
(顧問)
佐藤幸治座長,大宅映子顧問,奥島孝康顧問,笹森清顧問

(検討会)
青山善充座長(ADR,仲裁検討会),伊藤眞座長(法曹制度,知的財産訴訟検討会),井上正仁座長(裁判員制度・刑事,公的弁護制度検討会),高橋宏志座長(司法アクセス検討会)

(説明者)
日本弁護士連合会 永尾廣久副会長,杉井厳一司法改革実現本部事務局長 他
法務省 黒川弘務法務省大臣官房司法法制課長,三浦守刑事局刑事法制課長他
最高裁判所 小池裕事務総局審議官,菅野雅之同民事局第一課長 他

(推進本部事務局)
山崎潮事務局長 他

4 議事次第
(1) 開会
(2) 意見聴取
(3) 閉会

5 配布資料
【事務局提出資料】
  • 「裁判所における手続の迅速化促進方策」のイメージ(第7回顧問会議資料)
【日弁連提出資料】
  • 裁判迅速化法案(仮称)に関する基本的見解
  • 裁判充実・迅速化法のイメージ
  • 大阪地裁および大阪高裁の訴訟の実情(報告)
  • 道内裁判所開廷日一覧
【最高裁提出資料】
  • 迅速な裁判の実現に向けて(レジュメ)
  • 迅速な裁判の実現に向けて(イメージ図)
  • 資料1 審理期間が2年を超えた事件の現状(地方裁判所第一審通常訴訟)
  • 資料2 審理期間が2年を超えた事件数の推移(地方裁判所第一審通常訴訟)
  • 資料3−1 民事第一審通常訴訟事件の平均審理期間(推移)
  • 資料3−2 刑事第一審通常訴訟事件の平均審理期間(推移)
  • 資料4 専門的知見を要する民事訴訟事件の審理期間別事件数(全国)
  • 資料5−1 日本及び諸外国の民事第一審事件の審理期間の比較
  • 資料5−2 日本及び諸外国の刑事第一審事件の審理期間の比較
  • 資料6 訴訟事件が長期化する主たる原因

6 会議経過

(1) 開会の後,山崎事務局長から議事の公開等について説明がなされた。

(2) 永尾廣久日本弁護士連合会副会長から日弁連提出資料に基づいて説明がなされたところ,その概要は以下のとおり。

・ 改革審意見からも明らかなとおり,裁判の迅速と充実とは表裏一体の関係にあり,審理の充実化によって裁判の迅速化を図るべきである。

・ 今回の法案は,迅速化のための司法インフラの整備を目的としなければならない。具体的には,司法インフラを10年間で倍増する責務が国にあることを規定すべきであり,また,民事の証拠収集手続,刑事の証拠開示の拡充,さらには取調べの可視化といった制度的基盤の整備についても併せて法改正されることが必要である。民事について現在法制審で検討されている方策は強制力がないことから実効性に疑問がある。米国のディスカバリーのような制度が不可欠ではないか。

・ 訴訟当事者に義務を課すことは疑問である。被告人の防御権は尊重されねばならず,民事の当事者の権利利益も迅速化を理由に不当に侵害されてはならない。訴訟関係人の努力義務を定めるとしても,「日本国憲法および民事訴訟法・刑事訴訟法の定めるところに従い,改正・改革された手続・制度を実施し,充実した裁判が迅速になされるように努める」との限度にとどめるべきである。

・ 検証の実施主体については,最高裁判所ではなく,訴訟手続を利用する市民と訴訟関係者からなる第三者機関とすべきである。

・ 司法改革国民会議も提案しているとおり,この法案の名称は,裁判充実・迅速化法案とすべきである。北海道には月1回しか法廷が開かれていない支部があり,裁判を迅速に行う前提が欠けている。準備手続室や和解室が足りないため,期日が入らない裁判所もある。大阪地裁・高裁の実情報告からすると,既に審理期間がかなり短縮されているが,証人尋問・当事者尋問を行わずに当事者の陳述書ですませる,裁判所の検証や鑑定を省略するなど,審理の中身を薄くすること,すなわち手抜きによって迅速化が図られているのではないかと心配せざるを得ない。国民は,迅速だけでなく,納得のいく適正な裁判を求めており,改革審におけるアンケートにおいても,現在の民事裁判に納得したという人はわずか18.6%しかいなかった。

・ 裁判の充実・迅速化に関し,当番弁護士制度,ゼロワン地域対策,弁護士法人化,ADRセンター,弁護士任官等,司法インフラの整備に弁護士会は全力を挙げて取り組んできた。さらに引き続き努力してまいりたい。

(3) 黒川弘務法務大臣官房司法法制課長から,概要,以下のとおりの説明がなされた。

・ 裁判の迅速化に焦点を当て,そのための方策の検討を行うことは国民の期待にかなうものであり,法務省としても全面的に協力していきたい。

・ 刑事について,平均審理期間は3.2ヶ月となっているが,なお多数の事件の審理に長期間を要している。裁判の長期化による悪影響の大きさを考えると,迅速な裁判の実現は喫緊の課題であり,また,裁判員制度が適用される事件については,裁判員となる一般国民の負担軽減のため,より迅速に裁判を終了させる努力が必要である。

・ 一審だけを迅速化しても,確定までに長期間を要するのでは迅速化の目的を達成したことにはならず,控訴審,上告審を踏まえた考察が必要である。この観点から,裁判所における手続全体について期間の短縮を図るという包括的な目標を法律に掲げることも考慮すべきである。

・ 長期化の原因としては,多くの弁護人がその業務形態等の理由により集中審理に対応することができないこと,事前の争点整理が十分になされていないこと,証人尋問において弁護人の反対尋問が執ように長時間行われ,これに対して裁判所の訴訟指揮が十分行われない場合があること,公判担当検事が多忙であることが挙げられる。迅速化の目標を達成するためには,増員を含む検察官及びこれを補佐する検察事務官の人的体制の充実・強化,公的弁護制度の創設,十分な争点整理のための新たな準備手続の整備,裁判所の訴訟指揮権の強化等の体制面・制度面の整備を行うことが必要である。

・ 今回の法案においては,体制面・制度面の整備と併せて,裁判所及び当事者が,個々の裁判の遂行にあたって,迅速な裁判を実現するために努力すべきことを示すことにも大きな効果が期待できる。

・ 民事について,全体として審理期間が短縮されてきているが,医事関係事件や建築関係事件等のいわゆる専門的知見を要する事件についてはなお審理に長期間を要する傾向にあり,特許等知的財産権に関する事件については,東京・大阪両地裁とその他の地裁では処理体制の差が存在している。
 改革審意見を受け,昨年9月から法制審議会民事・人事訴訟法部会において民事訴訟法等の見直しに向けて検討を開始していたが,この度示された「2年以内」という目標をも踏まえて,引き続き検討を行っていきたい。具体的には,審議会では,計画審理の推進,提訴前の証拠収集手続の拡充,専門委員制度の創設,特許・実用新案権等に関する訴訟の第一審管轄の東京・大阪両地裁専属化などの方策を検討している。

・ 民事・刑事を問わず,裁判の迅速化の実現には法曹三者が一致協力して努力することが必要であり,国・裁判所については責務規定が置かれることが見込まれるが,日弁連・弁護士会においても,弁護体制の整備等について適切な取組を行ってもらう必要がある。

(4) 小池裕最高裁判所事務総局審議官から最高裁提出資料に基づいて説明がなされたところ,その概要は以下のとおり。

・ 民事・刑事の訴訟手続について2年以内に第一審手続を終局させるとの目標は,適正で迅速な裁判という司法の使命を国民の視点から具体的に述べたものであり,裁判所は,その実現に向けて一層努力したい。

・ 平成13年の地裁民事第一審通常訴訟事件のうち,審理期間が2年を超えた事件は全体の7.2%となっているが,5年を超える事件も1200件弱ある。長期化している類型としては,医事関係事件,建築関係事件などがあり,例えば,医事関係事件の平均審理期間は年々短縮しているが,3年に近い数字となっている。同じく刑事訴訟事件のうち,審理期間2年を超えるものが約260人となっており,5年を超えるものは36人と少ないが,社会的関心の強い著名事件が含まれている。なお,諸外国との単純比較は困難であるが,平均審理期間は諸外国に比して遜色のない水準にあるといえる。

・ 長期化の原因としては,事件の性質・内容に内在する要因,当事者に関する要因,裁判所に関する要因,その他の要因に大別されるが,実際には,これらの要因が複合的に重なっている場合が多い。

・ 以上は,現在の制度の下での直接的な要因の分析であり,改革審意見は,審理期間を半減するための方策を種々提言しており,これを着実に実行することによって,目標をかなりの程度まで達成できると思われる。しかし,すべての事件を2年以内に終了させるには,上記の直接的な要因への対処といった問題の背後にある,より構造的な問題についての対処が不可欠である。

・ 具体的には,まず,司法制度の基盤強化として,裁判官,検察官,弁護士等の裁判運営に直接関わる人的体制の強化,物的基盤の整備が必要不可欠であり,同時に,鑑定人等の裁判周辺部門の協力体制の整備も要する。次に,司法制度に関する基本的な枠組みの見直しとして,訴訟遂行に関する裁判所の役割の強化,著しく精密化した審理の在り方の見直しといった,これまでの司法制度の基本的な考え方の枠組みを超えるような抜本的方策の検討と実行が必要とされよう。また,訴訟手続等の見直しとして,上記の方策を踏まえ,民事・刑事の訴訟手続について,総合的かつ大幅な見直しが必要である。

・ 法案については,裁判の迅速化を図るため,裁判所,当事者等の努力義務を定め,迅速化の状況を検証し,その促進を図る仕組みを作ることには大きな意義がある。裁判の迅速化は,制度面,体制面,運用面の改革とともに,裁判に関わる者の積極的な協力なしには実現できないものであるから,当事者の責務を確認する規定を定めることの意義は大きいと考える。
 個々の裁判の進行は生きた事件に内在する種々の要因によって定まり,また,迅速化の状況に関する検証等は,個々の裁判運営に直接関わることになるから,裁判の独立を考慮すると,このような検証は,裁判運営全般について責務を負う最高裁判所が行うことが適切である。最高裁判所としては,検証の仕組みが作られた場合には,その趣旨をふまえて努力していきたい。

(5) 上記三者の説明等に関し,概要,以下のような質問・意見があった(□:佐藤座長,○:顧問・検討会座長,●:説明者)。

○ 日弁連が訴訟関係人の努力義務にとどめている一方で,最高裁は,当事者の責務という表現を使われており,若干ニュアンスが違うようにもとれるが,どうか。

● ご指摘のとおり,ニュアンスの差があると思う。個々の事件となると,裁判の独立にかかわってくるので,日弁連としては,先に述べた程度の表現にとどめるのが適当と考えている。

● 裁判所としては,この責務については二つの構造があると考えている。裁判所という国の機関としては,迅速な裁判を国民のために実現していく責務があるということになるが,個々の事件を担当する裁判体としての裁判所としては,あくまで努力義務を負うにとどまることになる。

○ 当事者の責務についてどう考えるか。

● 個々の事件を担当する弁護士と日弁連を分けて考える必要があるが,個々の弁護士を含め,当事者については,事柄の性質上,責務を負わせることになろう。日弁連については,法制的には問題もあろうが,実態としては,弁護体制の整備等についてご努力いただく必要があると考えている。

● 司法制度改革推進法4条には日弁連の責務という規定があるのは事実であり,また,弁護士会が制度的な取組をするのは当然のことであるが,今回の法案は,個々の裁判の審理の在り方にかかわるものであるから,この法案に,日弁連の責務を定めるのは適当でないと考えている。

□ 最高裁も,機関としての裁判所と,裁判の独立への配慮を要する個々の事件を担当する裁判所とを区別されたわけだけれども,日弁連の場合は裁判所とも構造的に異なるということか。

● 刑事弁護人が個別の事件で色々と努力されているが,その関係で,迅速化の問題が起きた場合,日弁連がどういう格好でこれに関与していくかというと大変難しいところがある。弁護人個人の弁護権という観点からすると,日弁連が何か言うことは,介入や統制ととられかねない。この法案についても,様々な制度的基盤ということであれば日弁連として責任をもって取り組むが,個々の事件の審理のやり方となると,個々の弁護人・代理人の立場を尊重せざるを得ない。

○ 日弁連だけが責務を負わないというのはどうか。本当に,裁判の充実・迅速化を目指すのであれば,裁判所や当事者と同じように,日弁連も責務を負って対応することが必要ではないかと,今でもそういう感じがする。

□ 今日は,二つの考え方があるということでとどめておきましょう。

○ 第一に,控訴審の在り方についてどう考えるか,お聞きしたい。これは,全体の審理期間に影響を与えるし,一審の在り方へも影響する。逆に,一審の審理が充実すれば,控訴審も影響を受けざるを得ず,例えば,運用面でその審理を大幅に簡略化すべきという議論もあるし,立法論として事後審的な方向への議論,さらに法律審化するという議論もあり得ないではない。第二に,一審の充実迅速化に関し,ディスカバリーや営業秘密保護制度が提唱されているが,いずれにせよ,米国の例などを見ると,実効性の担保として裁判所侮辱といった強力な手段が機能している。この点についてどうお考えか。

● 控訴審の実態としては,先ほど大阪の報告例で見たとおり,控訴率は下がっていない。集中証拠調べ等により審理期間は短縮できているけれでも,当事者はその審理に不満を持っているという現象がある。さらに,現状では,控訴審は弁論1回で終結している例が多く,不満が多い。また,集中審理方式を採ったことにより,一審の記録を読んでも心証がとれない場合が増えてきており,取消率も高いと聞いている。以上のような現在の運用実態からすると,控訴審の簡略化が妥当とは思われない。
 ディスカバリーについては,前回の民訴改正による文書提出命令の一般義務化や当事者照会の運用がまだ十分に定着していない。裁判所侮辱という制裁をもって事を律するよりも,当事者が与えられた道具を使いこなせるようになることがまず先だと思われる。

● 控訴審の実情としては,当事者における書類作成の時間が必要であるし,複雑な事件が多く,裁判所の記録吟味にも一定の時間を要するという事情はあるが,平成13年の控訴審の平均審理期間は7.9か月であり,10年前より3割以上短縮化されている。裁判所としては,第一審の争点中心の手続が定着したことにより,控訴審としても審理の対象が明確になり,また,控訴審においても争点中心の手続を進めていることによるのでははないかと考えている。弁護士会から指摘のあった控訴率,取消率についても,この10年程度,ほぼ2割,あるいは2割強というところで安定しており,審理期間の短縮により当事者の不満が高まって控訴・取消が増えているという実情にはないと考えている。いずれにせよ,控訴審の充実も重大な問題であり,努力を続けていきたいが,何か制度的方策を考えるとすれば,一審では出されなかった新たな主張への適切な対応方策といったことになろうか。
 ディスカバリー自体については,コスト,時間面や一定の濫用の危険性が指摘されており,そういった点を踏まえて,法制審議会では,少し違った切り口から提訴前の証拠収集手続の拡充についてご検討いただいているものと承知している。裁判所としても,新制度が実現すればその適切な運用に努めていきたいと考えており,また,何よりも,提出されるべきものが提出されるという当事者間での訴訟慣行が確立されていくことが大事だと思う。

○ まず,日弁連に,大阪の実情報告において,証人調べや検証・鑑定が減ったことを示して,手抜きによる迅速化ではないかと言われたが,これは民事と刑事とで差があるのか。また,数字だけを根拠にそうおっしゃっているのか,それとも他に何か根拠があるのか。さらに,裁判所は,この点についてどうお考えか。
 法務省には,長期化原因の一つとして弁護人の反対尋問が長いと言われたが,検察官の主立証が長々と続き,不必要な重複もあるのでないかとの外部の声もあり,この点はどう考えるか。また,裁判所の資料では訴因多数が長期化原因の一つとされているが,その点についての見解はどうか。
 裁判所には,開廷間隔が短縮できない原因として,刑事裁判官の手持ち事件数が多いということが挙げられているが,これは全国的な現象か,局地的なものか。一時期かなり刑事部を減らしたと思うが,そのときとは状況が変わったということか。もう一点,精密でないといけないというのは一線の裁判官が最も強調してきたことなので,「著しく精密化した審理の在り方を見直す,訴訟についてのフィロソフィーを変える」と言われるのを,半ば新鮮な驚きをもって伺ったが,具体的にはどういうことをお考えなのか。

● 大阪の資料は,情報公開請求によったもので,刑事は含まれていない。
 第二点については,昭和62年ころから,全国的に審理充実化方策が進められて陳述書の活用が徐々に広まり,証人調べをせずに陳述書だけで済ませるという裁判官も出てきた。そういう意味で,この報告に書いてあることは,全国の弁護士の実感として正直なところであって,むしろ,大阪の統計はその実感を裏付けたものと理解いただきたい。

● 裁判所としては,充実した争点整理をまず行い,それに基づいて集中的な証拠調べをするという民事の訴訟構造を追求してきている。争点があると思われる事件については,ほぼ全件について争点整理手続を開き,その中で,代理人又は当事者の言い分を聞いて吟味する機会を十分持っている。本来必要な人証については現在でも証拠調べを行っているが,争点整理手続の中で,証拠調べの必要性が薄れていった事件もかなり出ているのではないか。陳述書の運用については,従前より各弁護士会との間で様々な形で協議を進めながら,最も適切な陳述書の在り方を追求していこうという動きになっている。決して陳述書で必要なすべての証人尋問を代替しようというのではなく,むしろ反対尋問を容易にするという効果が大きいという指摘がなされている。
 刑事裁判官の手持ち事件数については,全国的にかなり差があるが,東京や大都市部はかなり厳しくなっている。一時期,民事事件が激増して刑事事件が減った際に刑事から民事に裁判官をシフトしたことがあるが,その後刑事も忙しくなっていて,今後,より集中した審理を行うとなると,手持ち事件数を減らす必要があろう。
 精密司法について我が国でそう言われるのは単に事件の争点解明だけではなく,背景事情をも含めた事件の真相をストーリー性をもって再現することが重視され,国民にも期待されてきたからである。この要請のベースには,「裁きで事を明らかにする」とか「出るところに出る」といった国民の訴訟観があり,検察官,弁護人,裁判所も,手続の制約の中で,時間を傾注してストーリー性の持った実体的真実の発見に努めてきた。また,この訴訟観は捜査にも影響し,起訴に誤りがあってはならないから周到な準備の下に慎重な起訴を,ということになり,非常に高い有罪率につながっている。今回の法案では,すべての事件を2年以内に終局させるという抜本的な迅速化が求められているので,特に刑事司法については,構造とかフィロソフィーに至るところまで変革していく必要があるだろう。裁判所内での議論に出たのは,刑事訴訟への裁判員制度の導入が議論されるときに,やはり精密司法の問題と直面することは避けられないだろう,比ゆ的に言えば裁判員制度が導火線となって,精密司法の問題を真剣に考えていかねばならないだろう,ということである。

● 検察官立証が長いと傍目に感じられる事件というのは,検事の力量や準備不足による場合も皆無とはいえないにしても,むしろ,事件の争点整理が十分にされていないことによる場合が多いと思う。検察官の主張する事実のどこをどう争うかが明らかにされず,あるいは,単にすべて争うという形で,具体的に争点が絞られないと,検察官としては,主張事実を丹念に一から立証していかざるを得ない。そういう意味でも,改革審意見が指摘しているとおり,迅速化のためには争点整理がまず重要と考えている。
 訴因多数ゆえに審理が長期化すると考えられる場合に,訴因を絞ることが考えられるかどうかについては,検察官としては,まさに犯罪があるから訴因にしているわけで,とりわけ,具体的な被害者がいる事件について,審理が延びるからといって,通常であれば起訴する事件なのにこれを落としてよいのか,という問題がある。そういう意味で,迅速化の観点から訴因を絞るというのは,国民の理解・信頼を得られるか疑問があり,むしろ十分な争点整理によって審理の迅速化を図るというのが本筋であろう。

○ 最後の点について,通常,事件を併合して起訴するのはなぜか。

● 併合起訴,併合審理という形で,通常一人の被告人に関する事件がまとめて審理されるのは,分離して審理判決すると,一つ一つの事件について個々に刑が言渡され,併合審理された場合に比べて,最終的な刑が被告人にとって重くなるからである。

○ 今までの議論を水を差すつもりは決してないが,こういった法律ができたとして,本当に2年以内に一審が終結するとお考えかどうか,当事者たる日弁連,検察官にもどういう態度で臨まれるのか伺いたい。前提として,司法制度改革の歴史は,訴訟遅延対策の繰り返しであったわけであって,一審を2年以内に終わらせましょうと法律に書いたからといって2年で終わるというものではない。制度,体制,運用面での総合的な施策の積み重ねがなければ,プログラム規定について法曹三者が合意したからといって実現はできない。この制度の中で一つだけ担保となり得るものとして「検証」というものがあり,原案によれば最高裁がやることになっているが,その中身がよくわからない。裁判の統計については司法統計年報があり,国民にも公表されているが,それ以上のものを作っていくとしても,それが薬が効きすぎると裁判の独立という問題にもろにかぶってくるし,全然効かないのであれば,司法統計年報の域を出ないことになる。この検証という薬をどの程度強いものにするつもりか,裁判所に伺いたい。日弁連,検察については,当事者としての努力義務というものを,具体的な個々の事件において,どうやって実現していくのか,法曹倫理にもかかわるが,伺いたい。

● 通常の裁判所にかかわる法案であれば,裁判所内で検討して立法依頼をしてという過程を踏むが,今回は,もっと大きな観点からの提案ということなので,検証のスキームもこれから検討していくことになると思う。ただ,司法統計年報は,既済事件を中心として客観的なデータを羅列しているものに過ぎず,「検証」においては,目的に合わせて科学的にデータをとり,もっと立体的なものとすることになろう。また,「検証」は,司法統計年報と同様の現状把握のほかに,分析,方策の提言を含む三重構造になると思われる。いわば白書的な内容になると考えており,そこでは,手続を変えればよいというわけではなく,基盤やフィロソフィーの問題があるということを意識しながらやっていきたい。それから,未済の事件を対象に,長期2年,長期5年,長期10年となると,ほとんど事件が特定されてくるので,裁判の独立との関係をどうするのか,検討を進めてまいりたい。
 「2年内に終わらせる」覚悟については,改革審は一つの知恵として審理期間の「半減」という提言をされたが,2年という具体的な目標を立てて,政策を推進していくのもまた一つの知恵だと思う。被告人が逃亡している事件などは何ともし難いが,人知・人力によって実現可能なものは目指していこうということであろうから,少なくとも法曹三者は決意してこれに取り組むべきであると考える。

● 日弁連としては,検証の対象は,裁判が迅速に終わっているかだけではなく,インフラの整備状況,制度面の整備状況及び充実・迅速化の状況を含めるべきと考えており,そうすると,裁判所だけに委ねるわけにはいかない。
 「2年以内」が掛け声だけに終わってしまう危険もないわけではない。確かにほとんどの事件は2年かからずに終わっているが,例えば,行政事件は4分の1位が2年を超えており,2年で本当に終わるかというと根本的な検討が必要であろう。また,現場の弁護士からは「拙速」との不満が必ず出てくるので,日弁連としては,迅速のみならず充実を併せて考えねばならないとの意見を出さざるを得ない。個別の事件での対処については,運用だけで解決できるものであれば三者間の協議を更に進めていきたいが,運用だけでは解決できないものが多々あることも,日弁連としては指摘しておく。

● 体制の整備,制度の構築については,司法改革推進本部とともに法務省として全力を挙げたい。「2年以内」についての検察官の覚悟については,少なくとも運用面を主たる要因として裁判が遅れているといった指摘を受けることがないよう,全力を尽くしていきたい。

○ 常識的な日本語として,迅速=「拙速」ではないと思う。そこにわざわざ充実を付けると,この法案の意味がぼけてしまう。正確さを余り追求すると,根っこが分からなくなり,国民にも分かりにくくなる。今日の話を聞いていても,皆が言質を取られないような話し方をするから,分かりにくい。なお,「手抜き」とおっしゃっていたが,訴訟にも類型みたいなものがあって,これはあのパターンだから聞かなくてもわかるというのがあるのではないか。また,ストーリーを追求すると言われたが,そこまで国民が裁判に要求しているか疑問である。

□ 認識とか捉え方について法曹三者間で相違する点もあったが,「2年以内」に取り組むという点では三者が一致していると受け取った。責務や検証の点については,更に検討する中で解決を図っていきたい。

以 上
文責:司法制度改革推進本部事務局
注)速報のため,事後修正の可能性あり