【事務局長】 それでは、予定の時刻となりましたので、ただいまから開始をさせていただきたいと思います。まだ、奥島顧問と笹森顧問がおいでになっておりませんけれども、時間の関係もございますので、進めさせていただくということにしたいと思います。
本日は、急な話にもかかわらず、お多忙のところ御列席賜りまして、大変ありがとうございします。議事に入ります前に、2点ほどお諮りをしたいと思います。
第1点目は、議事の公開についてでございます。本日の議事につきましては、報道機関の傍聴も認めまして、もう現実に入られていますけれども、会議の資料を公表するということとともに、その議事概要や発言者名を入れた議事録を作成して公表するということを考えておりますが、その点は御理解を賜りたいというふうに思います。
よろしゅうございましょうか。
(「はい」と声あり)
【事務局長】 それでは、そうさせていただきます。
2点目でございますが、議事の進め方でございます。本日は、最初に日弁連の方から報告をいただいて、順次法務省、最高裁ということでお願いをしたいと思います。三者の説明を伺った後に、まとめて質疑を行うという形にしたいと思います。
説明につきましては、それぞれ15分ないし20分程度でお願いできればというふうに考えております。
それから、本題でございます意見聴取を始めるわけでございますけれども、この進行につきましては、顧問会議の佐藤座長にお願いをしたいと存じます。佐藤座長、よろしくお願いをいたします。
【佐藤座長】 佐藤でございます。12月に入りまして、何かと御多用のことかと思いますけれども、本日御出席賜りまして、本当にありがとうございます。勝手ですけれども、私の方で司会の役を務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
それでは、先ほど事務局長の方からお話がありましたように、最初に日本弁護士連合会から御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【日弁連】 それでは、日本弁護士連合会副会長の永尾廣久と言います。本日は、裁判迅速化に関する日弁連の基本的な考え方について、話をさせていただく機会を与えていただきありがとうございます。
さて、日弁連の裁判充実・迅速化法案、後で理由を申し上げますけれども、日弁連はこの法案は裁判充実・迅速化法案と呼ぶべきだと考えています。以下このように呼んでお話をさせていただきたいと思います。
基本的見解ということで、お手元に配布させていただいております。3枚目に図解をしておりますので、それをご覧いただきながらお話をお聞きいただければと考えております。本日は、時間の関係で基本的な点を説明させていただきたいと思います。
まず、第1に、裁判の迅速と充実というのは、メダルの両面のような関係にあって、表裏一体だということでございます。司法制度改革審議会の会長であられた佐藤先生が本日もおいでになっておりますので、言うまでもないことですが、審議会の意見書によりますと、「民事裁判制度については適正・迅速かつ実効的な司法救済という観点から、民事裁判を充実・迅速化する」こと、「刑事司法の目的は、公正な手続を通じて事案の真相を明らかにし、適正かつ迅速に刑罰権の実現を図る」というように、いつも必ず充実・迅速、適正・迅速と両者あわせて述べられています。
この趣旨は、裁判の適正・充実・迅速が同時に実現されるべきだということでございます。審理を手抜きして迅速化を図ることがあってはならない、すなわち審理を充実することによって裁判の迅速化を図る、そのような方策が検討されなければならないと考えます。
先日の朝日新聞で佐藤先生が「充実なくして迅速なし。迅速なくして充実なし」とおっしゃっていますが、まさにそのとおりだと私たちも考えております。
第2に、このような意味で今回の法案は、一審を2年以内に終結させることを目標とする司法インフラの整備を目的とする法案でなくてはならないということでございます。10月の顧問会議で小泉首相が、裁判の迅速化のためにも法曹の量と質の拡充が必要と発言されました。また、佐藤座長におかれましても、人的・制度的な基盤の総合的な整備推進を図るという趣旨の法律だと述べておられます。日弁連としましても、全くそのとおりだと考えております。
日弁連の考えております司法インフラの整備の内容というのは、このイメージ図にもありますように、この2点だというふうに考えております。
1つは、司法インフラの倍増計画です。国は、裁判の充実・迅速化のために、司法インフラを10年間で倍増する責務があることを規定して、年度計画を立てて確実に増やしていくべきだと考えています。法曹人口を年間3,000 人ずつ増やしていく、10年後に2倍になるという計算でございます。したがいまして、裁判官も検察官も、勿論これに伴って裁判所や検察庁の職員、また更に当然のことですが、裁判所と法務省も10年間で倍にするという計画を立てるべきだと考えています。
もう一つは、裁判を迅速化するためには、民事で言えば証拠収集手続、刑事で言えば証拠開示の手続、あるいは現在の刑事裁判が長期化する一番の原因になっています、被疑者段階の密室での取調べ、これを例えば録音テープを入れるとか、ビデオを撮るようにして可視化する、目で見えるようにする。このような訴訟法の改正など、制度的整備を直ちに行うことが必要だと考えています。これなしには、裁判の迅速化と言っても、絵に描いた餅になると考えています。
今回の法案と同時に、これらの改正案も提案される必要があると思います。
民事の関係では、今、進められています法制審議会での民事裁判における証拠収集制度の改善では、まだ不十分だと考えています。前回の民事訴訟法改正で新たに創設されました、当時者照会の制度は提訴後の、しかも裁判所が関与しない制度とされたため、ほとんど機能していないという現実がございます。文書提出命令につきましても、一般義務化されて法律上は拡大されましたが、裁判所の運用においては、目立って拡大されたようには思えません。法制審議会の民訴法部会では、提訴予告通知制度に伴う裁判所の関与した証拠収集の制度が検討されています。ただ、これについても強制力がありませんから、どこまで実効的な制度になるのかわかりません。
先日の国会で、佐藤座長がおっしゃっておられました。アメリカのディスカバリーのような制度が不可欠ではないでしょうか。
第3点です。この法案において訴訟関係者の努力義務を規定する必要はあろうかと思いますが、訴訟当事者についての義務化については問題があります。刑事の被疑者・被告人については、公正な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利があるのです。被告人の防御権は尊重されなければならないと思います。
また、民事の当事者につきましても、その権利・利益が不当に侵害されることがあってはなりません。
例えば、市民が突然裁判を起こされて証人や書証を探すために、一定の時間が欲しいというときに、この努力義務を盾に制限される恐れがあります。そういう意味では、日弁連のこの提案にありますように、訴訟関係者の努力義務については、「日本国憲法及び民事訴訟法、刑事訴訟法の定めるところに従い、改正・改革された手続制度を実施し、充実した裁判が迅速になされるよう努力する義務がある」とするべきだと考えています。
第4点です。検証については、これを実施するのは最高裁判所ではなく、訴訟を利用する市民と訴訟関係者からなる第三者とすべきだということでございます。市民も実質的に裁判所運営について発言できるよう、裁判の実態や資料の提供を受けて検証できる機関とする必要があると考えます。
第5点は、以上申し上げました理由により、この法案の名称は「裁判充実・迅速化法案」とすべきだということでございます。
ちなみに、去る11月11日に発表されました司法改革国民会議の第1回提言におきまして、「裁判充実・迅速化基本法(仮称)を早期提出する」として、「裁判の充実と迅速の理念、制度整備の指針、法曹関係者の協力義務、財政措置、実効性確保措置策などを盛り込んだ包括的な裁判充実・迅速化基本法(仮称)を次期通常国会に提出する」と述べられています。日弁連も、この点については同じ考えだということになります。
今回の法案が「裁判充実・迅速化法案」でなければならない理由を、現在の民事・刑事の裁判の実情を踏まえて、更に補足させていただきたいと思います。
まず、北海道の実情をご紹介したいと思います。本日の資料の一番最後、4枚目にございます。北海道には、月1回しか法廷が開かれていない支部がございます。裁判官が常駐していないところもございます。そういうところでは、裁判を迅速にしようとしても、その前提が欠けていると思います。また、集中審理を進めると言っても、準備手続室や和解室が足りないため、期日がなかなか入らないという裁判所がございます。
続きまして、3枚目の大阪地裁及び大阪高裁の訴訟の実情(報告)と題する資料をご覧いただければと思います。この資料は、大阪弁護士会が大阪地裁と大阪高裁に情報公開請求した結果から実情を述べたものでございます。
これによりますと、大阪地裁ではこの10年間に民事事件が2割増え、破産事件は3.42倍になっております。しかし、裁判官の数は5年前に比べると民事で76人から72人に4人減っています。刑事については、28人が27人に減っています。裁判官が減っているにもかかわらず、この10年間で大阪地裁本庁の民事事件の平均審理期間は、10.7か月から7.7か月へ3か月、刑事事件は4.4か月から3.9か月へ0.5か月減っています。
どうしてこのようになったかと調べてみますと、証人尋問の数が大きく減っています。例えば、本人を調べない事件の数が3,002 件、証人を調べない事件の数が3,141 件増えています。事件数は、10年間で2,883 件増えているのです。1事件当たりの証人調べの数は約2割減少、検証と鑑定は3分の1に減少しています。大阪高裁では、事件数は10年で民事が1.5 倍、刑事が1.44倍に増えています。
一審の審理の在り方に当事者が納得していれば、控訴率は上がらないはずでございます。ただ、この点は全国的な統計によりますと控訴率は22.8%から19.0%に下がっていることは承知しております。ここで申し上げたいことは、国民は迅速だけでなく、納得のいく適正な裁判を求めているということでございます。現在、既にかなりの審理期間の短縮がなされていますが、それは裁判官や職員を増やすのではなく、審理の中身を薄くする、すなわち証人尋問をしない、当事者から直接訴えを聞くこともしないで、陳述書という書面だけを出させて済ませてしまう。裁判官が争いになっている現地に行く検証や、専門的な意見を鑑定人に聞くこともなく審理を終わらせる事件が増えているということです。
これでは、審理の手抜きによって迅速化が図られているのではないか、そんな心配をせざるを得ません。これは大阪だけの実態ではございません。最高裁の司法統計によりますと、全国的にも同様の傾向が見られております。その結果だと私たちは見ておりますが、司法制度改革審議会における民事裁判を利用した人に対するアンケート、「民事訴訟利用者調査結果報告」において、現在の裁判制度に満足したという人は、たったの18.6%しかいませんでした。ですから、私たちは裁判の迅速と充実は同時に実現する必要があると考えます。そのためには、裁判官、検察官、そして私たち弁護士の人的な拡充、物的整備、予算的手当が必要だと考えます。
最後に、弁護士会の取組について申し上げたいと思います。
裁判の充実・迅速化について、日弁連、弁護士会も全力を挙げて取り組んでまいりました。更に引き続き努力してまいりたいと考えています。
民事裁判の充実・迅速化のための法制審議会での検討状況については、先ほどご紹介したとおりでございます。日弁連としましても、その中でよりよい制度にするために、更に奮闘してまいりたいと思います。専門的訴訟の充実・迅速化の点についても、同様でございます。
刑事裁判の充実・迅速化につきましては、その前提としての当番弁護士制度も日弁連が独自の財政負担で担って進めてきたところでございます。日弁連では、市民がいつでも、どこでも法的サービスが受けられるよう、全国のゼロワン地域をなくすための取組を進めております。ゼロワン地域のうちゼロ地域については、47支部あったのが半分近い25支部にまで減りました。全会員からの寄付によって、「日弁連ひまわり基金」を設け、既に全国約315か所について法律相談センターを設置いたしております。ゼロワン地域で法律相談センターがないのは、全国に1か所を残すのみとなっています。
公設事務所の全国展開にも努めております。本年度中に18か所目が開設されることになっております。残る11か所についても、募集を現在進めている状況でございます。司法アクセスを更に向上させるための取組も、都内を含めて進めてまいりたいと考えております。弁護士法人につきましても、既に60事務所近く設立されています。裁判によらない紛争解決手段としてのADRセンターにつきましても、全国的に取組を進めております。これらは、いずれも司法インフラの整備の一つと考えています。
裁判官を増やす、その関係で弁護士任官についても取組を進めております。去る11月15日、司法シンポジウムを開きました。最高裁判所からもパネリストとしてご出席いただきました。この中で32人の推薦準備が整ったという成果を確認したところでございます。これからも、この流れを継続させるよう強力に推進していく決意でございます。
日弁連としましても、このように審議会の意見書の趣旨にのっとり、全力を挙げて着実な取組をしているということを申し上げさせていただき、私の報告とさせていただきたいと思います。
御静聴ありがとうございました。
【佐藤座長】 どうもありがとうございました。それでは、続きまして、法務省から御説明をお願いいたします。
【法務省】 法務省でございます。法務省として独自の資料は本日用意してございません。大変恐縮で心苦しい限りでございますが、あらかじめおわび申し上げます。
私どもの意見を述べさせていただきます。司法制度改革審議会意見におきましては、国民の期待に応える司法制度の構築として、より公正で適正かつ迅速な審理を行い、実効的な事件の解決を可能とする制度を構築するとされております。日弁連さんの御主張にもありますとおり、裁判においては適正な手続の下で充実した審理が迅速に行われなければなりません。より充実した審理を実現するための制度を構築していくことは当然のことでございますが、今般推進本部において裁判所における手続の迅速化を促進することに焦点をあて、そのための方策を検討していただいているのことは、国民の期待にかなうものであって、法務省としても全面的に強力してまいる所存でございます。
さて、裁判の迅速化を促進し、2年以内の裁判を目指すといっても、これを実現するためには、最高裁からもまた御指摘があろうかと思いますが、さまざまな乗り越えなければならない問題が多々ございます。迅速化の促進を念頭においた体制面の整備や、関係法令の整備、これは当然に措置されるべきことでしょうが、それ以外にも例えばいわゆるアクセスポイントの構築を含め、訴訟に持ち込まれる前の手続の充実等により、司法の負担を軽減できないか。また、一般的な司法教育の充実や、法曹人口の増加等によりまして、国民一人ひとりが、将来法的紛争に巻き込まれることをも予期して、これまた例えばですが、契約書、公正証書等の作成を励行するなどの予防的な行動が取れるようにならないか。
また、刑事関係について申し上げれば、地域や家庭の協力を得ながら、犯罪の発生件数を抑える方策を取れないか等々の、総合的な施策をも併せて行っていく必要があるように思われます。
そうした問題状況を抱えつつも、2年以内という具体的目標を設定し、司法制度改革の観点から、裁判の迅速化の促進方策を検討することには、大きな意義があることは既に申し上げたとおりでありまして、法務・検察としてもこの問題に真剣に取り組んでまいりたいと考えております。
本日、法務省がどのような立場で発言を求められているのか、必ずしも明らかではないのですが、法曹三者の一翼を担っている検察の立場を念頭に置きつつ、主として刑事司法の観点から発言させていただき、併せて民事立法の観点からもコメントをさせていただきたいと思います。
まず、刑事の観点から申し上げます。刑事に関する統計を見ますと、この点最高裁から説明があろうかと思いますが、平成12年の通常第一審における終局人員の平均審理期間は3.2 か月となっており、その内容を見ると自白事件については2.7 か月、否認事件においては9.8 か月となっている状況にございます。そして、同年中の地裁での未済人員中、審理期間が2年を越えるものは629 人にものぼっており、終局人員中でも2年を越えるものは276 人となっておりまして、なお多数の事件に長期間を要している状況にございます。
例えば、オウム真理教の被告人松本智津夫の裁判は、第1回公判から約6年半が経過した現在も弁護人立証中であるなど、審理に極めて長い時間を要しているところであります。
裁判が長期化いたしますと、証人の記憶の減退や証拠の散逸等により、真実を発見することが困難になるばかりでなく、被害者の納得を得ることも難しくなりますし、刑罰の感銘力も低下するなど、その悪影響には大きいものがあります。審議会意見の指摘にもありますように、刑事裁判の遅延は国民の刑事司法全体に対する信頼を傷付ける一因となっているものであり、迅速な裁判を実現することは喫緊の課題であると考えております。
また、特に裁判員制度が適用される事件については、裁判員となる一般国民の負担をできるだけ軽減する必要がございますので、2年以内に終了すればよいというものではなく、それより迅速に裁判を終了させる努力が必要不可欠であると思われます。
また、裁判の迅速化に当たっては、控訴審、上告審も踏まえた考察が必要です。第一審だけを迅速化しても、確定までに長期間を要するとすれば、迅速化の目的を達成したことにはならないと思われます。
例えば、平成12年の最高裁における未済人員数を見ますと、総数737 名中、上告審係属が2年を超えるものが105 名となっております。この点は審理構造の違いもございますので、一概には言えませんが、このような状況にかんがみれば、控訴審、上告審についても訴訟手続の迅速化を実現することが必要であると思われます。
このような観点から、裁判所における手続全体について、期間の短縮を図るという包括的な目標を法律に掲げることも御考慮いただければと思います。
また、一部の刑事裁判が長期化している原因を検討してみますと、第1には多くの弁護人がその業務形態等の理由により、集中審理に対応することができないことが挙げられます。既に御存知のように、ほとんどの刑事裁判は月に1回程度のペースで公判が開廷されておりまして、被告人が起訴事実を全面的に否認し、多数の証人尋問を要するような事件では、審理期間が必然的に長期化することになります。検察としても、長年このような審理方式に慣れ親しんできたため、反省すべき点はあろうかと思われますが、一部重大事件で長期化が見込まれる事件について、集中的な期日指定を申し立てても、なかなか実務上これを受け入れてもらえない現状にございます。
第2に、審理に先立ち争点整理が十分になされていないことが挙げられます。裁判を迅速化するためには、何が争点かを明確にし、それに焦点を絞った立証活動を行うべきであると思われますが、実際には種々の理由から争点整理が十分になされていない例が見受けられます。
第3に、被告人が全面否認しているような事件では、証人尋問において反対尋問が執拗に長時間行われ、主尋問に対して何倍もの時間を要することがままあり、またこれに対して裁判所の訴訟指揮が不十分にしか行われないことがあります。その背景としては、裁判所の訴訟指揮権違反に対して、法廷侮辱罪などの強制的手段がないこともさることながら、訴訟指揮権の行使に反発して弁護人が辞任すると更に審理が長期化する恐れがあることが指摘できるのではないかと思います。
また、例えば東京地検の公判部の検事は、100 件内外の手持ち事件を抱え、週4回の公判開廷日に対応しております。検察官は、公判廷での立証活動にとどまらず、その背後で記録の読み込み、冒頭陳述書等の各種訴訟書類の作成、証人尋問の準備、新たな弁解に対する補充捜査等を行わなければならず、それを公判の合間に行わなければならないのであって、多忙を極めているのが実情です。
今後、裁判をより一層迅速化し、特に連日的開廷による集中審理に対応するためには、1人の検事を特定の事件に専従させるというだけではなく、複数の検事を多数の事件に専従させる必要が出てまいります。
以上のような状況を踏まえて、裁判の迅速化に向けての目標を達成するためには、増員を含む検察官及びこれを補佐する検察事務官の人的体制の充実・強化、公的弁護制度の創設、十分な争点整理を行うための新たな準備手続の整備、裁判所の訴訟指揮権の強化等の体制面、制度面の整備を行うことが必要であると思われます。
そして、今回検討されている法案におきまして、このような体制面・制度面の整備のみならず、裁判所及び当事者が個々の裁判の遂行に当たって、迅速な裁判を実現するために努力すべきことを示すことも、迅速化に向けて大きな効果を期待できるものと考えております。
今回の方策と同様に裁判の終了期間に関して、当事者の運用面における努力目標を定めた法律として、公職選挙法253 条の2の、いわゆる百日裁判の規定がございます。平成8年から12年までの統計ですが、通常第一審における公職選挙法違反事件全体の平均審理期間は153.9 日であるのに対し、百日裁判事件の平均審理期間は90.3日と大幅に短いものになっております。このように、百日裁判の規定は実際に効果を上げておりますけれども、その主な理由は該当件数が少ないため優先処理が可能があるということもさることながら、法律に目標期間が明記されることにより、当事者も目標期間を常に意識した訴訟活動を行うために努力しているということにあると思われます。
いかなる優れた制度を創設しようとも、最終的には裁判所及び当事者が自ら裁判の迅速化を実現する意思を有していなければ、審理期間の目標を達成することは困難であると思われます。
いずれにいたしましても、法務省としても推進本部における検討に対し、最大限の協力を行ってまいることをこの場でお約束したいと思います。
続いて民事の観点から申し上げます。民事訴訟の審理期間につきましては、全体として短縮されてきており、民事訴訟の第一審の平均審理期間は全体では8.5 か月となっておりますが、なお人証調べを行った事件については19.2か月、いずれも平成13年の統計でございますが、を要しているところでございます。
また、医事関係訴訟の第一審の平均審理期間は平成13年の統計で、32.7か月というように、医事関係事件や建築関係事件等のいわゆる専門的知見を要する事件につきましては、なお審理に長期間を要する傾向にございます。
更に、特許等知的財産権に関する事件につきましては、裁判所調査官を擁し専門的処理体制を備えている、東京・大阪の両地方裁判所と、その他の地方裁判所との間では処理体制の差が存在している現状にあります。このような実情を踏まえ、審議会意見では民事訴訟につきましてなお一層の審理の充実を図り、その審理期間をおおむね半減することを目標として、さまざまな方策を実施することが提言されております。
法務省ではこれを受けまして、昨年の9月から法制審議会民事・人事訴訟法部会において、民事訴訟法等の見直しについて検討を開始しておりましたが、このたび裁判迅速化に向けて2年以内という目標が示されたことから、その実現を図ることをも踏まえて引き続き検討を行っていく予定でございます。
具体的な2年以内の目標の実現のための方策についてでございますが、先に申し上げました民事訴訟の審理期間の実情に照しますと、まず審理の終期を見通して計画的に審理をすることが重要であると考えられますし、また医事関係事件、建築関係事件等の専門的知見を要する事件の審理の充実・迅速化、あるいは知的財産権関係訴訟への対応強化といった点の検討が必要であると考えられます。
このような観点から、現在法制審議会においておおむね4点の検討を進めてきているところです。
1点目は、複雑な事件等につきまして、審理の計画の策定を義務づけるなど、計画審理を推進するための手当てを講ずることでございます。
2点目は、訴えの提起前においても、相手方に一定の事項を照会することができることとするほか、裁判所に文書の送付の嘱託等の処分を申し立てることができるようにするなど、証拠収集手続を拡充することでございます。
3点目は、専門的知見を要する事件の審理の充実・迅速化を図るため、裁判所が専門家の意見を聴くことができるようにするという専門委員制度を創設することでございます。
4点目は、高度な技術的専門性が問題となる特許・実用新案権等に関する訴えの第一審の管轄を、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所に専属化することにより、両地方裁判所の専門部において審理を深めることができるようにすること、こういった点について検討がなされているところでございます。
法務省としては、民事訴訟の第一審の手続をできる限り2年以内に終局することができるようにするため、引き続き所要の手続の整備に努力してまいりたいと考えております。
最後に、民・刑どちらというわけではございませんが、裁判の迅速化を実現するためには、法曹三者が一致協力して努力することが必要であります。
国や裁判所については、法案の上で責務規定が置かれることが見込まれますが、日弁連、弁護士会におかれましても、弁護体制の整備等について適切な取組を行っていただく必要があると考えております。
以上がこの度の裁判所における手続の迅速化促進方策に関する法務省の意見でございます。どうもありがとうございました。
【佐藤座長】 どうもありがとうございました。それでは、最後になりましたけれども最高裁判所から御説明をお願いいたします。
【最高裁】 最高裁の審議官の小池でございます。裁判所から、裁判の迅速化の問題につきまして、お手元にございますレジュメ、イメージ図、資料に基づき御説明申し上げたいと思います。
言うまでもなく、適正で迅速な裁判を実現することは、司法の使命でございますし、究極の目標とも言えるわけでございます。民事・刑事の訴訟手続について、2年以内に第一審における手続を終局させるという目標は、こういった使命を国民の視点から具体的に述べたものと理解しております。裁判所としては、この目標の実現に向けまして、なお一層の努力をしてまいりたいと考えていることを、まず冒頭に申し上げたいと存じます。
次に、1枚の紙にまとめましたイメージ図に、今日申し上げたいことをまとめましたので、これをごらんいただきたいと思います。このイメージ図に要約いたしましたように、このより一層の迅速化、第一審訴訟事件を2年以内に終局させるという目標に向けまして、まず長期化の原因を分析し、制度面、体制面、あるいは運用面にわたるさまざまな方策を講じ、これをレビューしていきまして、さらなる改革を図る。これを繰り返していくということが重要であると考えております。
それでは、第一審の民事・刑事訴訟事件の現状がどうなっているのか、その原因はどうなのか、その対応方策はどのように考えているかということにつきまして、訴訟事件を中心に御説明申し上げたいと思います。
まず、第一審の訴訟事件の長期化の現状でございます。資料1をごらんいただきたいと思います。
上段のグラフは平成13年に終了しました地裁の第一審民事訴訟事件、いわゆる既済事件と内部では呼んでおりますが、その審理期間を示したものでございます。2年超える事件、紫色で示しておりますが、全体の7.2 %、件数にして1万1,000 件余りということになります。
2年を超える事件の部分を更に拡大してみますと、うち5年を超える事件が1,200 件近くあるわけでございます。その長期化している事件の類型としましては、先ほど法務省からも御紹介がありましたけれども、医療事件とか、あるいは建築関係事件といったような事件が含まれているわけでございます。
下の段のグラフは、同じく平成13年に終了しました、地裁の第一審の刑事訴訟事件の審理期間を示したものです。パーセントとしては0.4 %ですが、2年を超える事件は264 人となっております。
2年を超える事件の部分を更に拡大してみますと、5年を超えるものが36人。数は少ないわけでございますが、社会的関心の強い著名事件が含まれております。平成13年で見ますと、愛犬家殺人事件や、イトマン事件といったようなものが含まれているわけであります。
資料2から5−2というのは、審理期間を、時系列的な変化など、もう少し分析的に見た統計でございます。
まず、資料2をごらんいただきたいと存じます。2年を超える民事訴訟事件を時系列的に見たわけでございます。事件数は赤いグラフにありますように、ほぼ同水準で推移しておりますが、全事件に占める2年を超えた事件の割合は減少しています。事件数が増えている分だけ比率が減っています。
下の段の、2年を超える刑事訴訟事件は、事件数・比率とも減少している状況であります。
次の資料3−1をごらんいただきますと、これは民事事件につきまして、審理に時間を要する傾向の事件、これはいろいろあるわけでありますけれども、証拠調べをした事件、それから医事関係事件を抜き出したものであります。医事関係事件は緑のグラフですが、その年辺りから統計を取っておりますので、切れたグラフになっております。医事関係のものを見ますと、減少傾向にはございますけれども、平均で約33か月、約3年の時間を要している状況でございます。
資料3−2は、刑事の関係につきまして分析したものでございまして、特に審理に時間を要する否認事件の推移を見たものでございます。一番長かった昭和50年ごろに比べると半分の水準でありますけれども、まだ10か月ぐらいのところにある状況でございます。
資料4は、先ほど申し上げました医療事件、あるいは鑑定を実施した事件の長期化の様子を別の角度から見たグラフなんですが、棒線のものですと2年を超えたものが全体の事件の半分以上あるという状況を示したものです。
資料5−1、5−2とセットでございますが、1の方が民事の事件につきまして、諸外国との審理期間を比較したものでございます。注に細々書いてございますことからお察しいただけますように、国によって制度が異なりますので、単純な比較をするのは困難でありますけれども、こういった制度の違いを念頭に置きつつ参考までに比較してみますと、我が国の民事事件、それから刑事事件は、総じて言えば、諸外国に遜色のない水準にあるということが言えようかと思います。
ただ、先ほど述べましたように、やはり2年、更には5年を超える事件があるわけでございまして、その中には国民の関心が強く、また社会的な影響のある事件も含まれているわけであります。こういった極めて長くかかる事件があるということが、裁判は遅いとか、あるいは裁判の機能が十分ではないのではないかという不信感を国民に招いていると考えております。こういった状況を正さなければ、司法は国民の期待と信頼に応えていると決して言えないのではないかと考えているわけでございます。
それでは、その長期化の原因はどういうことか。これはなかなか難しい問題でございますけれども、ざっくりと整理したものが資料6でございます。グリーンの囲いで囲ったものが民事のもの、次のブルーで囲ったものが刑事のものでございますけれども、通じて言えますのは、長期化の原因を大くくりで見ますと、事件の性質や内容に内在する要因、当事者あるいは当事者活動に関わる要因、裁判所に関する要因、その他の要因と分けられるわけであります。ざっとご覧いただきますと、各要因の中に掲げられた事由、事項は、他の要因とも密接に関係がありまして、こういう分類でいいのかというお考えもあろうかと思いますけれども、非常にいろいろな面から事由があるということでございます。また、長期化する事件はこういった要因、あるいはもう少し下の段階の事由、事項が複合的に重なっている場合も非常に多いわけであります。
例えば、民事訴訟事件での要因をいろいろ掲げてございますけれども、たびたび出てまいりました医療事件等につきましては、事件の中身が非常に専門的であるとか、鑑定手続に時間がかかるとか、代理人、裁判所がなかなか専門性に対応しきれないとか、裁判所の処理体制の問題とかが重なり合っていることが多いわけであります。
刑事事件につきましても、ブルーの囲いをごらんいただきますと、いろいろな要因がございます。例えば、社会の耳目を引いた事件で、関係者多数の財政経済事件とか、連続殺人等の重罪事件につきましては、訴因、すなわち起訴された犯罪事実の数が非常に多かったり、個々の犯罪事実についても争点が非常に多岐にわたったり、期日指定がなかなか難しい、あるいは証人尋問の進め方、やり方についていろいろ問題があるとか、裁判所自体の態勢との関係で手持ち事件の負担があってなかなか期日が入りにくいとか、こういったさまざまな要因が重なり合って非常に長期化している事件が見られるわけであります。
ざっと駆け足で申し上げましたけれども、以上の原因分析というのは、言わば現在の制度の中での、直接的な要因の分析であります。既に御案内のように、司法制度改革審議会の意見では、審理期間を半減するという方針を出し、そのための方策を種々提言しているわけであります。これを着実に実行することによって、目標をかなりの程度まで達成できると思われます。推進本部始め各機関がこれに向けて尽力されているわけでありまして、そういった点については、私どもとしても敬意を表しております。
しかし、すべての事件を2年以内で終了させるということになりますと、これらの直接的な要因に対する対処といった問題の背後にある、より構造的な問題についての対応も必要不可欠ではないかと思います。レジュメの5ページの枠の中をごらんいただきたいと存じます。ここにざっくりとその方策を書き出したわけでございますけれども、大きく言って3つのものが考えられます。すなわち先ほど弁護士会、法務省からのお話も出ましたけれども、司法制度のいわば運営基盤の強化という問題。2つ目には、司法制度における基本的枠組み、あるいは基本的な考え方の見直し。それから、訴訟手続の見直しというものが重要だろうと思います。
基盤の強化というところは、言うまでもございませんけれども、こういう制度運営に必要な人的・物的体制の充実・強化が不可欠であります。審議会意見で具体的に指摘されていますように、裁判官、検察官、弁護士等の裁判運営に直接関わる人的体制を強化すること、それからこの活動を十分に可能にする物的整備が各種の方策の基盤として重要であるわけです。いわば基盤なき改革の方策というのは、円滑には機能しないということであります。
先週末に関連法案が成立しました法曹養成制度の改革というのは、その運営基盤を築くためのまさに中心的方策と言えようかと考えている次第でございます。
加えて、例えば先ほどからも出ています専門訴訟の迅速化等に対応するためには、直接関わる人的体制のみならず、鑑定人等の専門家の協力、言わば裁判に関連する人的態勢の整備、あるいは関連部門の協力体制の整備も必要不可欠であります。
次の点は、少しこれは言葉としてわかりにくいわけでございますが、司法制度の基本的な枠組みの見直しといったところも重要だと思います。従来我が国の司法制度、あるいはその運営の在り方と言いますのは、全体として見ると諸外国に比べ、真実発見を目的とした精密な審理、あるいは当事者主義を基本とした適正な手続に重点が置かれていると言われております。これはもとより国民の要請に応える一つの司法制度の在り方であります。しかし、近年迅速化に対する要望の高まりの中で、この審理が精密過ぎるのではないか、あるいは裁判官がイニシアチブを発揮し得ない訴訟進行の在り方に問題がないかという観点から、見直しの要請が出てきているわけであります。勿論迅速だけではなく、充実した審理の下に適正・迅速な裁判を実現することは、冒頭にも申し上げましたとおり、裁判所の言わば不変の使命でありまして、今後とも変わることがないわけであります。裁判所としては、今後も適正・充実と迅速というものの両立を目指してまいりたい。
ただ、すべての事件を2年以内で終えるためには、更に進んで、今申し上げましたことの裏腹でございますが、訴訟遂行に関する裁判所の役割の強化、著しく精密化したと言われる審理の在り方の見直しといった、これまでの司法制度の基本的な考え方、あるいは枠組みを超えるような抜本的な方策の検討と実行が必要であると考えております。ある意味で、訴訟の見方、訴訟観と言いますか、そういうものの変容という課題でもありますし、別の言い方をすれば訴訟の在り方に関するフィロソフィー、あるいは国民的コンセンサスの問題とも言えるわけであります。
もう一つ、訴訟手続の見直しでございますが、もう既に審議会の意見に基づき様々な迅速化に向けた方策が進められておりまして、これを進めていくことが重要でありますけれども、今申し上げましたような運営基盤の強化、あるいは司法制度の基本的な枠組みの見直しに関連する方策、あるいは検討を加えまして、民事・刑事の訴訟手続について、制度と運用の両面において総合的かつ大幅な見直しが必要とされると考えております。
その内容は、今申し上げましたような基盤強化、枠組みの見直しの状況を考慮しつつ、先ほど申し上げました長期化の原因分析を行って検討するわけでございますけれども、このレジュメの6ページの中ほどに書いてありますように、民事訴訟関係ではこれまで以上の訴訟提起前の当事者の準備活動の充実、あるいはADR等の拡充、それとの連携、計画審理の強化、訴訟遂行についての裁判所の権限の強化等が必要でございましょうし、刑事訴訟関係では、もうお話が出ておりますけれども、連続開廷、集中審理の確保、証拠開示・争点整理の徹底、公判の充実、訴訟遂行についての裁判所の権限強化等が必要であると考えられるわけであります。
最後に、迅速化を促進するための法律について若干触れさせていただきます。この迅速化に向けた責務という点がありますが、裁判の迅速化を図るために裁判所、当事者等の努力義務を定めまして、迅速化の状況を検証し、その促進を図る仕組みをつくることは大きな意義があると考えております。既に民事訴訟法、刑事訴訟法は、適正さとともに迅速性が実現すべき訴訟の在り方であるということを規定しているわけであります。裁判の迅速化は、国民が求めている、そういった要請に向けた裁判所の責務であるとともに、当事者が責務として積極的に協力することなくしてはできないわけであります。この責務を言わば確認する規定を置くことの意義は大きいものがあるのではないかと思います。
最後に検証の仕組みでございますが、個々の裁判の進行は事案の難易度、証拠に関する状況等の事件の性質のほか、当事者の準備の程度等、まさに生きた事件に含まれるいろいろな要因によって定まるわけでございます。訴訟手続の迅速化の状況に関する検証等は、個々の裁判運営に直接関わる問題であります。そのため、裁判の独立への配慮はやはり非常に重要だろうと考えております。
本日御紹介いたしましたデータが、基本的に第一審の審理が終了した事件、いわゆる既済事件をベースにしているのも、このことに配慮しているからであります。現に審理している事件、未済事件の調査というのは、まさに裁判への独立の種々の配慮が必要であると言わなければなりません。そういった意味で、このような検証は裁判の運営全般について責務を負う最高裁が行うのが適切ではないかと考えている次第でございます。
最後に、裁判所としては、冒頭に申し上げましたように、充実し、適正で、迅速な裁判を実現するために、関係機関の協力を得、またその協力を図りつつなお一層の努力をしてまいりたいということを申し上げて、御説明に代えさせていただきます。
以上でございます。
【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
以上で、日弁連、法務省、最高裁判所からの意見を承ったわけですけれども、引き続きまして質疑に移りたいと思います。ただいまの御説明に関しまして、御質問あるいは御意見をちょうだいしたいと思いますが、よろしくお願いいたします。どなたからでもどうぞ。
【奥島顧問】 多分同じことをおっしゃっているんだろうというふうには思っておりますけれども、この裁判所における手続の迅速化促進方策のイメージを見ますと、国の責務、それから裁判所当事者等の責務という形で書いてあって、日弁連の方では1ページのところにありますが、訴訟関係者の努力義務というふうに書いてありまして、裁判所の方では6ページに努力義務を定め、それから最後の方では責務を確認する規定を定めることの意義は大きいというふうに言われております。大体似たようなことをおっしゃっているんだろうというふうには思いますが、若干表現が違うという感じもいたします。つまり、多分責務という言い方をされるときには、そういうふうな明確な規定を設けようというふうな意図が強くて、そうではない努力義務というときには、努めるということでもって、そういうことを前提にしてやろうという姿勢を示されているというふうに取れるようなニュアンスも伺えるんですが、この点についてはいかがなものでしょうか。書いてある表現のちょっとした違いなものですから、その辺りのニュアンスがつかめないんですが。
【佐藤座長】 それでは、日弁連と最高裁にそれぞれお話いただきましょうか。最初に日弁連の方から、お願いいたします。
【日弁連】 今、奥島顧問の御指摘のとおりではないかと思いますが、若干のニュアンスの違いは確かにあるというふうに考えております。基本的見解でも、「裁判官、弁護士、検察官などの訴訟関係者は、この憲法及び訴訟法の定めるところに従い」と書いておりまして、「努める」と書いているのは、やはり具体的な裁判に関わりますと、先ほどの裁判所からの報告にもありましたように、裁判の独立との関係もございますので、やはりこの程度の表現が適当ではないかというふうに考えているということでございます。
【佐藤座長】 責務とまで書くのは、ということでございますか。
【日弁連】 はい。
【佐藤座長】 では、最高裁判所にお願いいたします。
【最高裁】 裁判所としましては、この責務とか責任とかという問題は、2つの構造があると考えております。まず、言わば裁判所という大きな組織と言いますか、国の大きな機関の立場としては、迅速な裁判を国民のために実現していく責務があるということになります。ただ、生きた個々の事件、裁判体としての裁判所というのもございますが、これは個々の事件の中でやっていきますので、それを拘束するということはそれに努めていくという努力を表していくという2つの意味合いがあると考えております。
【佐藤座長】 奥島顧問、どうぞ。
【奥島顧問】 先ほど法務省の方のお話を聞いておりますと、法務省の方は非常に明快にこの責務という点を明文化しようというお話であったと思いますが、そういうことでございますね。
【法務省】 国と裁判所については、もう間違いなく法案に入ってくるものであります。
【奥島顧問】 いや、当事者という意味で。日弁連についても。
【法務省】 当事者と言った場合、個々の弁護士さんに対するものと、日弁連が名宛て人になるものと、両面あろうかと思います。当事者の方については、やはり当然事柄の性質上かけるべきだと思います。
日弁連についても、法制的にはいろいろな問題点があろうかと思いますが、そこは事務局の方の御検討を待ちたいとは思いますが、実態として日弁連が弁護体制の整備その他で御努力いただく必要があることは間違いないものと、そこはそう思っております。
【佐藤座長】 よろしゅうございますか。今の点に関しまして、ほかの方々よろしゅうございますか。なければ、ほかの論点に。事務局からどうぞ。
【事務局長】 今、法務省の方からもちょっとお話がありましたが、日弁連の責務云々という問題は、私どもとしてはこの会の御議論をお伺いした上で、検討していきたいということを考えておりまして、その点でいろいろ御議論があれば聞かせていただければと思います。
【佐藤座長】 では、今の論点について、更にどうでしょうか。更に深める御質問をなさっていただいても結構ですし、また法曹三者の方から更なる御意見を述べていただければと思いますが。
【日弁連】 今、事務局長の方からもお話がありましたように、司法制度改革推進法の中では、日弁連の責務というのが第4条にございますが、今回の裁判迅速化法案の関係でいきますと、先ほどから申し上げていますように裁判の独立という、具体的な裁判の審理の在り方に関わりますので、その関係で弁護士会が制度的ないろんな取組をするということは勿論当然のことではございますが、そしてそういうことを引き続きやっていくということですが、この今回の法案に弁護士会の責務というふうに定めるのは適当ではないというふうに考えております。
【奥島顧問】 それはどうして適当でないんでしょうか。
【日弁連】 今、申し上げましたように、具体的な裁判がどういうふうに審理するかということで、民事も刑事もそれぞれ法律的に定めがございますので、それとはまた別に日弁連の責務という形で定めるのは適当でないということです。要するに、制度的なものをどうするかということだけであれば、司法インフラの整備ということを日弁連も申し上げていますので、そういうことに向かって日弁連が努める、制度改革について努める、これはもうある意味では当然のことですから、引き続きやっていきたいと思うんですが、ことが具体的な裁判に関わるということの場面がもう一方ではございますので、その関係までいくとやはり日弁連としては、日弁連の責務という形で今回の法案に入るということについては、やはり相当でないと考えているということでございます。
【奥島顧問】 私が質問したいのは、その意味ではわかりますが、しかし制度的なものというのが実は具体的なものを規定しておりますから、その辺りをそうやって区別した議論というのができるんでしょうか。その辺りだけちょっとお伺いしたいと思っておりまして。
【日弁連】 具体的に、民事でも刑事でも2年以内に裁判を終わらせるということで、本日、日弁連のご報告で申し上げましたのは、そのための制度的なもの、法改正を含めていろいろ準備をする。そういうことをしないと、実際には充実・迅速化にならないということにかなりポイントを置いてお話を申し上げたわけですが、実際の裁判ということになりますと、では民事事件でどういうことを具体的な裁判の中でするかとか、刑事事件の中で被告人の防御権の充実というようなことになりますと、それが2年以内にということになりますと、やはり具体的な裁判の独立という関係で、やはりもう少し慎重な検討が要するのではないかと考えております。
【佐藤座長】 考え方としては、最高裁は、機関としての立場と、個々の事件における裁判の独立という局面があるという、2つのレベルを御指摘なさったわけですけれども、そこは構造的に日弁連の場合は違ってくるんでしょうか。あるいは、基本的にそれを同じようなものとして考えるということにならないのか。その辺が今問題になっているんではないか。構造的に同じようなものでありそうな感じもするんですけれども、違ったニュアンスが出てくる根拠はどこにあると理解したらよろしいでしょうか。
【日弁連】 例えば具体的にお考えいただくとわかるんですが、刑事弁護人が個別の事件でいろいろと努力されていますね。その関係でいろいろ迅速化に問題が起こるときに、日弁連がどういうような格好でそれに関与していくかというのは、大変難しいところがありまして、ある意味で言いますと弁護士個人の弁護権の面から言えば、日弁連からいろいろ意見を言うこと自体も一種の介入とか、統制のような格好で取られる場合もあります。
だから、私どもとしては、今、言われている裁判の迅速化についての当事者、あるいは関係人の責務というものについては、やはり弁護人としてその事件に応じた格好で対応するのが適当ではないかと。さまざまな制度的な基盤を整備するということは当然日弁連も努力するし、それは責任があると考えますけれども、今、問題になっている個別の事件の実務に関するやり方については、やはりそれぞれの事件の弁護人なり、代理人の一定の立場も尊重していくと、そういう面では日弁連という格好で責務を規定されるということは、非常に我々としても対処に困るという部分がありまして、そういう面で制度的な面と個別の裁判に対するいろいろな対処ということについては区別したいと、日弁連としては考えておりますが、いかがでしょうか。
【奥島顧問】 私、こんなことを言うのはあれですが、最初に説明を伺ったときに基本理念として「充実なくして迅速なし。迅速なくして充実なし。」、つまり簡単に言いますと、やはり制度的に充実していこうということがこの迅速の前提になっております。また迅速がなければ、いくら制度が充実していても、先ほどの最高裁のお話をお聞きしておりますと、余りにも精緻過ぎて実際的でないということを言われましたが、余り精緻過ぎてもやはり自ら手を縛って動きがつかないという現在のような状況を持ってきていることがありますので、私は非常に総合的な作用があるというふうに考えておりまして、日弁連だけが責務を負わないというふうに、責任を負わないというんではなくて努力されるというふうにおっしゃっているんですけれども、そのことはよくわかるんですが、おっしゃっている意味は、私はもしも本当に裁判というものを充実化して迅速化してやっていこうと思ったら、やはり裁判所や当事者と同じように日弁連も責務を負うという形でもって対応されることが必要ではないかと、今でもそういう感じが残っております。感想ですから。
【佐藤座長】 今日の段階で結論をどうするという場でもないかと思います。2つの考え方があるということ、今日の段階ではそこにとどめておきたいと思います。2つの考え方があるということですね。
それでは、他の論点についていかがでしょうか。伊藤座長、どうぞ。
【伊藤座長】 2点それぞれの方にお伺いしたいと思いますが、第1点は、本日は主として第一審について2年以内ということでお話があったわけですが、先ほど法務省の黒川さんが、直接は刑事についておっしゃったことと関連いたしますが、やはり控訴審の在り方は全体の審理期間に大変大きな影響があるし、また控訴審の在り方が第一審の審理に対して影響を及ぼすということもあろうかと考えるわけですが、その点について御意見を承れればと思います。
つまり第一審における証拠収集手段などが充実をすることになりますと、必然的にそのことが控訴審における審理の在り方にも影響してくるのではないか、例えば現在でも運用として、控訴審における事実審理については大幅に圧縮できるのではないかという議論もありますし、またそういうことを背景にして立法論として一種の事後審的な方向に持っていくとか、あるいはそういう議論は現在では日本ではありませんが、非常に極端に言えば、控訴審も法律審化してしまうとか、そういうことも論理的には考えられなくはないと思いますけれども、そういったことについて特に弁護士会と裁判所ということになるかもしれませんが、今後の制度の全体の在り方として何かお考えがあるかどうかを承れればと、これが第1点でございます。
第2点は、第一審における審理の充実と、その充実を前提にした迅速化の話の言わば内容になるわけでございますが、先ほど弁護士会からディスカバリーという、いわゆる証拠開示制度の採用というようなお話もございましたし、従来からそれに類する議論は立法論としてはございます。
同じく証拠収集手段の充実に関連するものとして、例えば営業秘密についてしかるべく審理の中で保護することによって、証拠が出てくることを促すというような議論もありますが、いずれの場合について考えてみましても、例えばディスカバリーについては参考とされているアメリカの例などを見ますと、その実効性の担保として裁判所侮辱というような方策が取られて、大変強力なものになっているわけで、また営業秘密の保護などについても同じようなことが機能しているようにも聞いておりますが、そこで、裁判所侮辱による制裁をもって、証拠収集手段の充実を担保するというような考え方については、これも弁護士会、裁判所、どのようにお考えになるのかが第2点でございます。
【佐藤座長】 ありがとうございます。それでは、日弁連の方からお答えいただけますか。
【日弁連】 確かに証拠収集手続が充実すれば、控訴審の在り方は理論的には変わり得る問題だと思います。ただ、先ほど大阪の例にありましたように、控訴審の控訴率は決して下がってきていない。それは集中証拠調べ等で審理期間は短縮できているんですけれども、当事者がその審理に対して不満を持っているという現象があろうかと思います。
ですから、理屈の問題ではなくて運用実態として考えたときに、控訴審をこれ以上簡略化できるのかという問題提起は現状とは合わないだろうと思います。
現状、控訴審はほとんどが弁論を1回で終結しているケースが非常に多い、そういう意味での不満が非常に多いように思います。
集中審理方式を取ったことによって、記録を読んでも心証が取れない事件が非常に増えてきております。控訴審の裁判官と協議をしましても、集中審理を経た事件というのは、法廷で直接心証を取っているということもあるんですけれども、記録化されていないために控訴審での心証がとれないということで、一回審理で審理を終える事件もありますし、相当な破棄率、取消率が高いというふうに聞いております。
ですから、証拠収集手続を充実すれば確かに控訴審の在り方も変わるでしょう。あるいは、控訴審も簡略化できるかもしれませんけれども、現状の運用から考えますと、決してそういう事態にはなっていないということであります。先ほどのアンケート調査によりましても、一審の裁判に満足度を感じているのは、勝った人・負けた人にかかわらず18%しかないということは、そういう実態を証明しているのではないかというふうに思います。
それから、ディスカバリーの問題でありますけれども、これは前回の民訴改正で文書提出命令の一般義務化、あるいは当事者照会が入りました。残念ながらその運用がまだ十分に定着しておりませんし、一般義務化の規定は裁判所が思い切った運用をしていただければ、相当の武器になるものだと私ども考えておりますけれども、残念ながらごく少数の例では発令されているものでありますが、まだ十分活用されておりません。
私は、裁判所侮辱罪とかそういう制裁をもってことを律するよりも、まず当事者がその道具を使いこなせるようになるということが、先の問題であろうと、その積み上げの中で一つひとつ制度が確立していくのであると、それなくしてただ制裁だけ加えても定着していかないのではないかというように思っております。
【佐藤座長】 では、最高裁の方から。
【最高裁】 民事局の菅野でございますが、まず控訴審の関係について、若干実情も含めて御説明をさせていただきたいと考えております。民事事件を例にとって御説明申し上げますが、控訴審につきましてはまず当事者側においても控訴の理由書等の作成に一定の時間がかかるという実情がございますし、裁判所側といたしましても基本的にはやはり控訴まで上がってくる事件というのは、複雑な争点を抱えているようなものが多いというようなこともございまして、記録の吟味等に一定の時間がかかると、これ自体はどうしてもやむを得ない部分はあろうかと思っています。ただ現実的には控訴審の民事の既済事件の平均審理期間を見ますと、平成13年の数字で7.9 か月ということでございまして、平成4年の10年前と比べても3割以上短縮化が図られているというような実情にございます。これは、ただいま日弁連の方から一定の御指摘はいただきましたけれども、むしろ私どもといたしとますと、やはり第一審において争点中心型の審理が定着してきていて、そういう意味では高裁でも判断の対象が非常にわかりやすくなってきているのではないかということもございますし、また高裁自体でも争点を中心とした審理が行われてきているということが審理期間の短縮にも大きく結び付いてきているのではないかというふうに考えております。
また、先ほどお話に出ておりました控訴率、あるいは取消率につきましても、実際この10年程度ほぼ2割、あるいは2割ちょっとというところで安定をしているところでございます。したがいまして、審理期間が短くなったことによって当事者の不満が増えて、控訴の率が高まっている、あるいは取消しの割合が高まっているというような実情にはなっていないのではないかというふうに考えているところでございます。
いずれにいたしましても、控訴審の充実という問題も勿論第一審の充実・迅速化と合わせて、大変重要な問題だというふうには認識しておりますので、そういうレベルの問題については弁護士会との意見交換なども含めて、今後も裁判所側も力を注いでいきたいと思っております。
また、今のような控訴審の審理の実情は十分踏まえていく必要はあると思いますけれども、更に制度的な方策を何か考える必要があるのではないかとすれば、現に控訴審におきましては一審で十分審理が尽くされたにもかかわらず、やはり新たな主張が出されて審理が遅延するという実例も漏れ聞くところでございますので、こうした点について何か適切な対応を図れるような手当てが考えられるかどうかという、先ほど伊藤座長の方から御指摘いただいたような観点とも関連するかと思いますけれども、そのようなことは考え得るのではないかというような感じはしております。
2点目の充実と迅速化の関係ということとの絡みで、ディスカバリー等を含んだ訴え提起前の証拠収集方法の拡充の点についてですけれども、ディスカバリー自体につきましては、これも先ほど御紹介いただいたようなコスト面、あるいは時間面等も含めて、一定の濫用の危険性などの指摘もされているところというふうに聞いております。
ですから、そういう意味合いも含めて恐らく今法制審議会の方ではもう少し違った切り口から訴え提起前の証拠収集方法の拡充を図ろうということで、新たな法的な手当を御検討いただいているというふうに考えておりますので、裁判所側といたしましてもそういう新たな手続が実現していけば、それを適正に運用させていただくということで頑張らせていただきたいと思っておりますし、やはり何よりも言ってみれば提出されるべきものが提出されるというような当事者間での訴訟慣行が築かれていくということが、そういう面でも一番重要なのかなというふうに考えているところでございます。
【最高裁】 先ほど伊藤先生から、控訴審を事後審とか法律審と、これは一つのアイデアだと思います。ただ、これが訴訟観と言いますか、先ほど申し上げましたところと関連するんですが、やはり実際訴訟をやっていますと、当事者にとっては、その実体的な真相はどうなんだろうというところがあると思います。やはり後で証拠があるときには少しでも真実に近いというところ、訴訟の世界では証拠の中の真実だというところの感覚が、どのぐらい国民の中に熟してくるかにも関わるのかなと感じがいたします。アイデアとしては、非常に魅力的だと思います。
【伊藤座長】 ありがとうございます。
【佐藤座長】 法務省の方は、何かございますか。
【法務省】 勿論現行制度の下における現状の分析は必要かと思いますけれども、議論すること自体についてはタブー視することなく、国民が何を求めているかという観点が議論を進めてもらえればと考えております。
【伊藤座長】 ありがとうございました。
【佐藤座長】 それでは、井上座長。
【井上座長】 三者それぞれに平等な数の質問をというふうにも考えたのですが、そうもいかないものですからちょっとばらつきがありますけれども、まず、弁護士会の方で提出されています大阪の実情の中で、証人調べが減ったとか、検証、鑑定が減っているということをとらえて、手抜きによる迅速化ではないかというようなことを言われましたが、これは刑事と民事で差があるのかどうかということと、これは数字だけを基にそうおっしゃっているのか、それ以上の何らかの根拠があるのかということが1点です。
これは、裁判所の方にもそれについてどうお考えかということをお伺いしたいと思います。
法務省の方については、訴訟が長引いている原因の一つとして、事件によっては弁護人の反対尋問が長々と続いていくと、これを挙げられたんですけれども、外での意見の一つとしては、そもそも検察官の立証が長々と続いて不必要に重複にわたっているのではないか、そういうこともあるのではないかと言われているのですが、その点はどうかということと、もう一つ、裁判所の方の資料で、訴因が多い事件があり、それが長引いている原因の1つだとされていて、これは素人考えですが、手続は併合していますけれども、事実が多数あれば長くなるのは当然じゃないかと思うのです。その点について、これは検察の起訴慣行とも関連していると思うのですが、御見解はいかがかということです。
裁判所の方につきましては、ちょっと多く申し訳ないのですが、さっきの弁護士会についての質問と同じことが1点目ですけれど、2点目はこの資料6とかプレゼンテーションのペーパーの4ページで、刑事裁判官の手持ちの事件数が多いということも長期化というか、あるいは開廷間隔を縮めるのが難しいことの原因になっていると指摘されているのですが、これは全国的な現象なのか局部的なのかということと、一時期刑事部をかなり減らしたと思うのですが、そのときとは状況が変わったということを意味しているのかどうかということです。
もし時間があればもう一点、著しく精密化した審理の在り方を見直す、訴訟についてのフィロソフィーを変えると言われたのですけれど、これまで裁判所の一線の裁判官の間では、精密でないといけないということが強調されてきたように思いますので、今日は目を見開かれたというか、新鮮な驚きを持って伺ったのですが、具体的にはどういうことをお考えなのか、そういうことをお聞きしたいと思います。
【佐藤座長】 順番で、日弁連の方からお願いします。
【日弁連】 大阪の資料ですけれども、これは情報公開をした資料なものですから、実は刑事の関係のこういうものは資料がありませんで、ここに書いてあるのは民事だけでございます。だから、その辺りは民事の事件についての検証とか鑑定とか、証人尋問の数を書いているということであります。
第2点目は、これは御存じかと思いますが、昭和62年ぐらいから最高裁判所を中心に全国の裁判所で審理充実化方策という、言ってみれば運用を改善する方策が全国的にやられました。その中で、実はここに書いてあるような統計の資料ではなくて、弁護士が各地で実際の裁判を経験するなかで、一つは陳述書を使って証人調べをやらないで、まず書類を書いてくださいということで審理が進められてしまうというような意味での意見がかなり出てまいりました。最初は裁判所も謙抑的に使ったと思いますけれども、だんだん証人尋問をやらないで陳述書を書いてきて、それでやってしまうという状況になってきて、そういう面ではここに書いてある実態は、弁護士の実際の感覚として出されていたものを資料で裏づけしたものです。具体的には、当事者の意見も聞いてくれない、証人尋問もなかなかやってくれない。本当に現場に行って見てやってほしいと言っても現場に行ってくれない。これは専門家に意見を聞いてほしいと思って鑑定申請をしても、先ほど話がありましたように、鑑定をやると時間がかかるということで採用していただけないということが全国から数として非常に上がってきまして、それをこういう格好で大阪の場合最近になって情報公開をやってみてわかったと。これは全国統計でも同じような統計が出ておりますけれども、そういう面で統計数字を挙げて申し上げたという趣旨ではなくて、弁護士の全国でやっている民事裁判の中での現状を踏まえて、こういう格好で裏付けたということでご理解いただけたらありがたいと思います。
【佐藤座長】 それでは、法務省の方。
【法務省】 先に裁判所の方が。
【佐藤座長】 では、最高裁からお願いします。
【最高裁】 大阪を中心とする、今、御説明いただいた部分について、私どもも若干申し上げたいと思いますけれども、先ほど控訴審のところで申し上げたこととも共通しているのですが、むしろ私どもといたしますと、今も御紹介いただいた運用改善の動きというのをずっと継続している中で、特に現行の民事訴訟法が平成10年1月に施行されたということを大きな契機といたしまして、充実した争点整理をまずやろうと、それに基づいて集中的な証拠調べをしていこうという、争点中心型の民事の訴訟構造を追求していっているところでございます。
そういう意味で、争点が対立するような事件については、ほぼ全件について争点整理手続を行うという形を取っておりますので、その中で十分代理人、あるいは当事者御本人も含めて、言い分を聞いて吟味をしていくという機会をフルに持っていると考えております。
その結果、争点が十分に絞り込まれてきて、内容が確定していくという作業をやっていますので、その中で最終的に証人尋問等の必要性が薄れていっている事件が、かなりたくさんあるのではないかというふうに思っております。
そういう意味では、本来必要と思われる人証については、従前と同様に現段階でも十分証拠調べを行っていると。そうしながら、審理期間は全体として短縮化の効果が出てきているという実情にあるのではないかと思っております。
先ほども御紹介いたしましたように、控訴率ですとか、あるいは取消率というものは変動がないという辺りも、今のような実情を裏付けさせていただいているのではないかというふうに思っております。
それから、陳述書の問題も御紹介されたところではございますけれども、この陳述書の運用についてはこれまでも、あるいは現在も各弁護士会と裁判所との間でさまざまな形で協議を進めながら、最も適切な陳述書の在り方というものを追求していこうという動きになっているところでして、決して陳述書ですべて必要な証人尋問を代替してしまおうという形で進んでいるわけではなくて、むしろあらかじめ陳述書というものを出していただき、当事者や証人がどういう証言をするのかということについて、ある程度の中身を認識していただくことによって、反対尋問をやりやすくするという効果が非常に大きいという指摘がされているところだと思います。
そのような形で、できるだけ真に必要な争点の部分について集中的な証人尋問を行うという運用が進められていると。審理期間の短縮のところは、それに基づく効果が出ているのではないかというふうに考えいるところです。
【最高裁】 では、ほかの点も。裁判官の手持ち件数の点ですが、これ刑事事件の場合もそうですけれども、かなり全国的には違いがあります。余り刑事事件が多くなくて、手持ちの面も少ないところ、地域で言いますと中国地方の日本海側といったところは余り刑事事件の手持ち件数が多いわけではないと思います。
ただ、東京などの大都市部は、かなり厳しくなっています。一時期民事事件の方が非常に増えて、刑事事件が減ったというときに、刑事の方から民事の方にシフトするというところがありました。その後刑事の部の方も頑張っておりまして、今、病理現象が出ているとは思いませんけれども、やはりこれからより集中審理ということになりますと、これからは、この辺りのことも変えていかなければいけないということは御指摘のとおりだと思います。
精密司法の見直しというのは、非常に意外であったという御指摘ですけれども、比喩的な話になって恐縮ですけれども、こんなふうに考えてまいりました。我が国の司法が精密司法と言われますのは、単に事件の争点の解明だけではなくて、その背景事情も含めた、先ほども言いました事件の真相、実体的真実を、言わばストーリー性を持って再現するところに重点が置かれることを国民も期待しているということであります。最近の事件でも、心の闇を解明できないのかということで、犯罪事実自体はそう争いがないわけですけれども、そういう要請があると。この点は、国民の訴訟観、フィロソフィーで、言わば裁きで事を明らかにするというんでしょうか。民事で言えば出るところに出るとか、刑事で言えば悪いことをやってもお天道様が見ているので、ちゃんと裁判の場でそれを明らかにするんだというような考え方がベースにあると思います。そうすると、日本人の持っているそういう要請の中で、訴追をする検察の方も、弁護士の方も、それから裁判所も、一定の手続の制約の中で尽力、あるいは時間を傾注して、言わばストーリー性を持った実体的真実を発見していこうとなっていると思います。
そういう意味で、例えば否認の公判廷ですと、検察側もこういう訴訟観に立って詳しく主張を立証していくわけですし、弁護側も、間接事実の主張立証がされれば、それを一つひとつ崩していくという作業をするわけで、これは大変厳しい作業になっていきます。
そうだとすると、これはまた次に話があると思いますが、起訴に当たっては非常に周到な準備が訴追側としては必要であり、それから起訴についても、やはり誤ってはいけない、真実に合った裁判をやっていこうということでいろいろ慎重な起訴をしていく。それが有罪率が高いということになるわけですが、それ自体1つの現象で問題がないんでしょうけれども、このことが逆に言うと起訴イコール有罪というような国民のとらえ方になってくるという感じがあると思うのです。これが訴訟においてもやはりなるべく丹念な立証をしてこうということになると、それがまた長期化の連鎖の一因となる。
そういう意味で、公判から捜査にわたるまで精密な司法ということが、実体に迫っていこうということが、非常に大きな影響が出ている。
今回特にすべての事件を2年以内でという、これは言わば抜本的迅速化の問題になりますので、特に刑事司法の場合ですと、構造とか、あるいはフィロソフィーの極みに至るところまで変革していく必要があるんだろうと、これが先ほど言おうとした精密司法の見直しの問題であります。
私どもが裁判所の中で議論したのは、刑事の裁判員制の導入というのが一つ議論されたときに、やはりこういった点はどうしても考えなければいけないだろうと、そういう意味では裁判員制の導入というのは、我が国が精密司法と言われているのがいいか悪いかというのは、これはまた国民の皆さんが判断すべき問題ですけれども、その問題にどうしても直面し考えていかなければいけない、言わば比喩的に言えば導火線のような問題なんだろうと、真剣に考えていくべきテーマだろうということを申し上げた次第です。
【佐藤座長】 それでは、法務省の方お願いします。
【法務省】 法務省の方には2点お尋ねがあったかと思います。まず、一点目の刑事事件における検察官の立証についても、長々とやっていると言いますか、過剰な部分があるという指摘についてはどう考えるかいうことだと思います。そういった御指摘を伺うこともあるわけでありますが、実際にどういう事件に、どういう尋問が長々やられているのかといった辺りについては、私自身もその実態をそれほど詳しく調べたことはございませんので、そういう意味では正確なお答えというのは難しいわけです。そのこと自体の数はそんなに多いとは思えないんですが、例えば考えられるとすれば、私も経験がありますが、要するに検事に成り立てで、それこそ能力が未熟であるということで準備が足りなかったり、あるいは各検察官の事件の分量、ワークロードが多過ぎるため、準備不足でそういった尋問が必ずしもピンポイントの的確なことができていないということが、ほかの方から見ればあるということが決してないとは言わないわけであります。しかし私の見ております限り、あるいは感じております限り、検察官の立証が傍目に長いと感じられる事件というのは、むしろ検察官の問題というよりも、その事件についての争点が整理されていないということの問題の方から多いんだろうというふうに思っております。
これは、いろんな事件がありますので争点整理されない原因については、一概に申し上げにくいわけでありますけれども、検察官が起訴した事件、あるいは主張している事実の、どこがどういうふうに争われているのかということが審理の当初の段階で整理されていない、あるいは、すべて争うという形で具体的に争点が絞られないというふうな事件というのがままございまして、そういう場合に検察官としてはまさに公訴事実、あるいは検察官が主張する事実を丹念に一から立証していくということをせざるを得ないわけでありまして、そういう意味で審議会の意見書で指摘されているとおり、迅速化のためには争点整理がまず重要であって、そのためのいろんな制度設計というものを検討する必要があるだろうというふうに考えております。
2点目の訴因が多数あるという事件について、それゆえに審理が長くなるということがあるのではないかという問題でありますが、そういう場合に訴因を絞るということが考えられるのかどうかということでありますが、訴因を掲げると言いますか、起訴をするというのは、当然のことながらそういう犯罪が行われたというふうに検察官の方で認めたからでありまして、まさに犯罪があるから訴因があるということ、検察官の主張としてはですが、そういう関係になるわけで、そういう場合に訴因を絞るということになりますと、犯罪があっても、検察官としては立証できると考えていても、あるいは起訴相当だと考えていても、何らかの事情でそれを絞るということが果たして許されるのか、あるいは適当なのかという問題なんだろうと思います。
取り分け具体的な被害者のある事件は、殺人に限らず財産犯も含めてでありますけれども、具体的な被害者のある事件について、通常であれば起訴できるけれども、ほかに起訴してあるからということで起訴しないということで、被害者を含む国民の理解なり信頼というものが得られるだろうかという問題は非常に大きいだろうと思います。
そういう意味では、訴因を絞るというのは、迅速化という観点から絞るというのは、必ずしも国民の理解、信頼という観点から外れていくんではないかという感じがいたしますので、むしろそういった訴因について事前準備の過程で争点を整理して迅速化を図っていくというのが本筋だろうというふうに考えております。
【佐藤座長】 井上座長、一通り御説明いただきましたけれども。
【井上座長】 最後の点、分割して起訴するということも訴訟法上はできますね。それをそうしないで併合して起訴するというやり方、私は多少通じているんでお答えはわかるんですけれども、なぜそうなっているのかということを御説明いただければわかると思うんですけれども。
【法務省】 分割してというのは。
【井上座長】 要するに、併合起訴ではなくて。そうすれば、一つ一つの手続は短く済むんで、2年という要求もかなえられるかもしれないと。10件どんと来たら、それは大きな事件が10件あれば2年では済まないかもしれないと。非常に技術的なことですけれども。
【法務省】 事件を分割して、それぞれの裁判をやっていくということになりますと、当然それぞれの裁判の時間は短くなっていくということでありましょうが、現在はある一定時期にまとめて裁判できるものはまとめて裁判をするということで、併合審理をしているわけで、そういう意味で1人の被告人についての訴因が多くなっているということになるわけです。それは結局事件を個々に分けてしまうと、それぞれについて被告人に対して、有罪であれば刑が言い渡されていくということですから、被告人にとっては最終的には個々の事件、それぞれについての刑が積み重なっていくということになるわけで、併合審理した場合よりも被告にとっては、刑という意味では不利益な結果になるということが通常でしょう。併合審理をして全体を見て刑を定めていくことによって、むしろ被告人にとっては利益な手続が行われているということだろうと思います。
【佐藤座長】 井上座長、よろしいですか。
【井上座長】 はい。
【佐藤座長】 ではほかに、あるいは今のことに関連してでもいいですが。どうぞ、青山座長。
【青山座長】 今の御議論に決して水を差すようなつもりで発言するわけではないんですけれども、こういう裁判迅速化のための法律ができたとしまして、本当に2年間に第一審が終結するということになるだろうということについての御認識と、当事者の立場になり得る日弁連と検察の姿勢と言うか、これからどうするかということについてお伺いしたいと思っています。
その前提として、司法制度の改革の歴史というのは、昔から訴訟遅延対策の歴史であって、それが繰り返されてきたわけです。一審裁判を2年でやりましょうと決めれば、それは2年になるというものでは決してないので、大事なことはそういうプログラム規定ではなくて、その基礎にある総合的な施策と書いてありますけれども、制度面の対策だとか、人的な面の対策だとか、運用面の対策だとか、そういうものの積み重ねがなければ決して2年というプログラム規定をつくって、当事者や関係者が2年間でやりましょうという責務を定めたって、決してできるはずないと思うんです。
ただ、このスキームの中に一つだけ、ひょっとするこれが担保になっているのかなというふうに感じていますのは、先ほどから御議論が出ている検証という制度で、これは原案によりますと最高裁判所が検証して、国民に公表して、その検証の結果を適切に活用するとなっていますが、「適切に活用」の中身が全くよくわからない。その検証の主体が、日弁連は最高裁だけでやってはいけないということも言っておられますけれども、今までの裁判がどれだけの期間でなされていたかというのは、日本には司法統計年報という立派な年報がありまして、それはもう国民に公表されているわけです。それ以上のものをこれからつくっていくということでしょうか、何か検証委員会みたいなものができるんでしょうか、そういうものをつくっていく場合には、先ほどから御指摘のあるように、これが薬が効き過ぎると裁判の独立という問題にもろに被ってくるし、それが全然効かないんだったら、司法統計年報を公表して皆さんが見ているのと大して変わりがないということになる。この検証という薬をどのぐらい強い薬にするかどうかということについて、これは多分最高裁の方からお答えをいただければと思います。
それから、当事者の立場になる日弁連の方と、法務省・検察の方については、こういうものができたときに、裁判所の立場とは違って当事者としての努力義務、最初から責務という言葉が出ておりましたけれども、具体的にそれはどういう仕掛けでその責務を実現していくのか。言葉は美しいけれども、実際に具体的な一件一件の裁判にとって当事者を代理する立場になると、裁判の迅速という美しい美辞麗句よりもやはり当事者の保護だ、その利益を代表するのだ、ということになった場合に、どういう法曹倫理を持ってそれに臨むかというようなことについてお伺いさせていただきたいということでございます。
【佐藤座長】 どうもありがとうございました。今日のヒアリングを締めくくるようなお尋ねでございます。それぞれ御覚悟如何ということなんですけれども、総合対策の必要性ということは当然の前提ですが、最初に検証制度のことについて最高裁の方からお話いただいて、あとそれぞれお答えいただくことにしましょうか。それでよろしいでしょうか。
【青山座長】 はい。
【最高裁】 普通の裁判所に関わる法案ですと、裁判所の方でいろいろ考えて、それで立法依頼をして実現ということになるわけですが、今回はもっと大きな観点からの御提案でございますので、こういった検証のスキームというのもこれから考えていくということになると思います。
ただ、1つ言えますのは、これは裁判所としてやっていかなければいけない。ただ、今、司法統計年報というのは、特に既済事件を中心として、非常に客観的にデータを羅列しているわけです。データというのはやはり目的を持って取っていくというところがありますので、これをもっと立体的に、データを取る段階でもっと科学的な組み立てを考えていくということになると思います。
恐らく検証というのは、現状把握という司法統計年報の世界のほかに、分析、方策の提言という三重構造になっていると考えられます。私どもの中で議論しているのは、検証という中で、一つの白書的な分析があり、提言がありというのが一つのパターンだろうと。
そのときに、ただ手続を変えればすぐそれで、ということではなくて、私どもとしては、基盤の問題があり、フィロソフィーの問題があり、手続の問題があるというふうに、やはりそこにも3つの構造があるということも念頭に置きつつやっていかないといかぬと考えています。
それから、やはり未済事件、しかもそれが長期2年、長期5年、長期10年となりますと、ほとんど事件が特定されてきます。ですから、そういうところは裁判の独立というところから、どういうふうにしていくかをこれから知恵を出して考えてまいりたいと思っております。
もう一つの2年という覚悟ということでございますが、これは私も司法制度改革審議会のほぼ全部の審議を傍聴させていただきましたが、その中でやはり目標を立てて迅速化を図るという議論があったかと記憶しております。ここでは、事件は生きものでいろいろなものがあるということで、一つの知恵として半減ということを出されました。これは一つの知恵であると思います。10年のものを半減すれば5年、4年のものを半減すれば2年になります。そう長いものは多くございませんので、4年のものを半減すればあらかたの事件は2年以内になると、これは一つの知恵であろうと。
ただ、1つこれを推進していくときに、2年という具体的目標を出して、これから施策を推進していくというのも一つの知恵だと思います。先ほど申し上げましたように、例えば被告人が逃亡している事件とか、当事者が死亡してしまったという事件はなかなか難しゅうございますが、要するに人知、人力でもってできるものは目指していこうと、こういうものを示したものと理解しておりますので、これは少なくとも法曹三者は決意して取り組んでいくべきものという課題と受け取っております。
【佐藤座長】 ありがとうございました。そうしたら、日弁連の方からお願いします。
【日弁連】 検証の点につきましては、日弁連の方はこのイメージ図にも書いていますように、検証の対象というのは、裁判が実際に迅速化になっているかというだけではなくて、やはりインフラの整備状況、制度面の整備状況、そして充実・迅速化の状況ということを考えるべきだと。
したがいまして、そうなりますとやはり裁判所だけに任せるというわけにはいかないのではないかと考えていることを、日弁連の方から申し上げさせていただきたいと思います。
青山座長のお話は、非常にもっともなところがあると私自身も思います。これが2年で終わらせるということがかけ声だけに終わってしまう危険もないわけではないと思います。
今まで出てきた話以外として、最高裁の方からお話がありましたように、おおむねの事件はもう2年どころかもっと早く終わっているわけで、実際に何が長期化になっているかということで、今までの話で出てこなかった事件で例えば行政事件がございます。これはまた本当に4分の1ぐらいは2年を超えてかかっている、そうなりますと、こういうものについて本当に2年で終わらせられるのかということになると、かなりいろいろ根本的に考える必要があるものというのは多々あると思います。証拠の問題を含めてですね。そういう個別具体的な話を更に煮詰めていかないと、本当にかけ声だけで終わってしまうんではないかと思います。
先ほど最高裁の方からこの検証とか証人調べが減っているというのは、審理充実化方策の中できちっと運用改善を弁護士会とも協議しているというご指摘がありました。まさにその点はそのとおりでございまして、今後も日弁連、弁護士会は法曹三者を含めまして一審強化のための協議会というのがございますので、それはそれでやっていく。その中で陳述書の活用の問題を含めて裁判所とも評議させていただきますし、実行していくということを前提として、ただ、現場にはこの問題は迅速ということで、拙速ということでの不満も現場にはどうしても出てくることがございますので、やはり迅速だけではなくて充実ということを絶えず両面考えていただきたいということを、日弁連としてはその点を言わないと、裁判所の統計数字で表れていますように、もうどんどん迅速化をやっていますということだけでは、事態の認識としてちょっと欠けている面があるんではないかということから、先ほどご紹介させていただきました。
そこで、もう一回話を戻させていただいて、法曹倫理のことを含めて青山座長がおっしゃったことについては、日弁連の方としても個別の事件について更に検討する。すなわち運用だけで解決できるものはまた解決を更に協議を進めさせていただく。しかし運用だけでは解決できない問題が多々あることもやはり日弁連としては指摘させていただくということでございます。
【佐藤座長】 それでは、法務省の方からお願いします。
【法務省】 迅速化を実現するためには、体制の整備、また制度の整備、運用上の工夫、いろいろあろうかと思います。体制の整備、制度の構築について、推進本部とともに法務省として全力を挙げたいと思っております。
また、検察官として2年以内の実現の確保ありやという御下問でございますが、検察官としては公益の代表者として被疑者、被告人の権利の保護に配意しつつ、適正な刑罰権を実現するという役割を負っておりまして、検察官の依頼者は国及び国民でございますので、少なくとも検察官の技術的な未熟さとか、意識の後進性と言いますか、あるいは所与の体制の中での配置の不適切、そういった運用面を主たる要因として裁判が遅れているといったような御指摘を受けることのないよう、全力を挙げるつもりでございますし、その旨検察の方にも間違いなくお伝えしたいと思っております。
【佐藤座長】 よろしゅうございますか。時間ももうそろそろ終りに近づきましたが、特にこの点聞いておきたい、申しておきたいということはございませんでしょうか。大宅顧問、どうぞ。
【大宅委員】 今のところなんですけれども、普通迅速という言葉の中に、迅速イコール拙速ではないと思うんです。普通の常識的日本語として。そこにまたわざわざ充実を付けると、何でこの迅速という法案にするのかという意味がぼける、余りに正確を期すようにし過ぎると、根っこがわからなくなるいうふうに私は思います。
今のをやっていることで、一番大事なのは国民にとってわかりやすいくということなんで、正確にしていくと裁判の適正・充実・迅速みたいな話になってしまって、何やねんということになってしまうと思うんです。
今日の会合も実はよくわからないんですけれども、争点整理ができてないというか、何なのかわからない。なぜわからないかというと、皆さんが言質を取られないような話し方をするからです。もっとぶっちゃけて、ここはこうやって、あなたたち手抜いているでしょうと言ってくれれば話はわかるんだけれども、何かだらだら言っていると、どんどん時間ばっかり経って私はいらいらするばかり、もうちょっと皆さんがそれぞれわかりやすい話し方をしたら、裁判もきっと早く終わるんではないかというふうに思いました。
争点とかいろいろあるんだけれども、行政改革委員会のときに、教科書の書き換えみたいな話が問題になったときに、件数がいっぱい出てきて、それこそ南京問題とか慰安婦みたいなすごい話と、単に年号の間違いみたいなものも一緒なんです。くそもみそも一緒くた、そんなただ記述間違いみたいなものは別格で、クリティカルな部分だけ出すというふうにできないんですかと言ったら、全部件数なんです。何かそういう発想があるんではないかと。
手抜きとおっしゃるのも、何かそういう累計したものがあって、それも一からやると言ったらそれは、これあのパターンねと言って、もう聞かなくてもわかるというのはあるでしょうと思うんです。
私なんかのところにもいろんな投書が来るんだけれども、何が言いたいのわからないようなぐちゃぐちゃと、これを対処したらさぞかし大変だろうなと思うんですけれども、それは基本的により早くするという前提でやっていくというのが、私は今回やろうとしていることの肝なのではないかと思います。
もう一つあるのは、裁判のストーリーを追及するとおっしゃったんですけれども、そこまでみんな裁判に要求していますか、どうして、いつからそういうことになったんですか、心の闇だって、本人だってなぜ殺したのかわからないってこの間の彼女なんか言っているわけですね。そこはやはり別で、もう済みってやった事実なんじゃないかと思うんです。
例えば、私がスピード違反でつかまって、このごろ妙ににこやかに、「お急ぎだったんですか。」とかいうお巡りさんがいるわけ、急いでいたら許してくれるんですかと言ったら、そうじゃないと、だったらそんな変な声出さないでくれるって、もうあなたは20キロオーバー罰金いくらとやってくれた方が、私はずっと気持ちがいいと。伺ってそう思っております。すみません、いつも勝手なことを言って。
【佐藤座長】 どうもありがとうございました。今日、認識のあり方について、やや違った面もそれぞれ三者の間でありましたけれども、こういう締めくくり方をすると怒られるかもしらぬのですが、2年以内に終えるという課題に取り組むことについては、法曹三者の皆さんは一致してらっしゃるというよう受け取らせていただきました。
検証、責務の点については、2つの考え方があるということがわかりましたけれども、今後更に検討する中でこの問題について解決を図りたいというように思います。これから引き続きいろいろ御相談し、御意見を伺うこともあり得るかと思いますけれども、本日は本当にお忙しいところ貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。またよろしくお願いいたします。
先生方もどうもありがとうございました。