日本におけるADRの将来に向けて
——「ADR検討会」座長レポート——
平成16年11月30日 「ADR検討会」座長 青 山 善 充
1 はじめに
司法制度改革推進本部事務局に設置された「ADR検討会」は、日本のADRの拡充・活性化に向けて、主としてADRの制度基盤の整備を中心として、これまで約2年10ヶ月にわたって、検討を重ねてきた。その審議に基づいて作成された「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」案は、去る11月19日に、国会において法律として成立した。
この文書は、ADR検討会がその任務を終えて解散するに当たり、座長として、これまでの審議経緯(詳細については、別紙(1)参照)を振り返るとともに、ADR検討会での意見や議論から浮かび上がったADRの中長期的課題を整理して取りまとめたものである。このような取りまとめを行う理由は、上記法律施行後5年を経過した時点で行うことが予定されている法律の見直し(「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」附則2条参照)や、将来における日本のADRのいっそうの拡充・活性化に向けた様々な検討や取組みの際に、その参考として役立つことを願うからにほかならない。取りまとめに当たってはADR検討会の各委員(委員名簿は、別紙(2)参照)の意見も伺ったが、本文書の内容についての責任は座長個人にあることを明記しておく。
2 ADR検討会における審議経緯
司法制度改革審議会意見においては、「ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図っていくべきである。」とされ、そのための課題として、「総合的なADRの制度基盤の整備」と「関係機関等の連携強化の促進」が挙げられた。ADR検討会においては、これらの課題のうち、とりわけ前者に重点を置いて積極的な検討を重ねてきた。
具体的には、以下のとおりである。
(1)総合的なADRの制度基盤の整備
○ 司法制度改革審議会意見は、ADRについて「現状においては、一部の機関を除いて、必ずしも十分に機能しているとは言えない」と指摘した。そこで、ADR検討会において各ADR機関やユーザーからのヒアリング、民間ADR機関に対するアンケート調査等を実施し、現状把握を行ったところ、ADRが必ずしも十分に機能しているとは言えない理由として、1)ADRの存在や意義についての国民の認識・理解が不十分であること、2)民間ADRについての情報が不足し、利用に際して不安感があること、3)ADRを積極的に利用しようとする際に支障となる制度上の制約があること、等が挙げられた。
○ このような現状にかんがみれば、ADRが、その特長を活かしつつ拡充・活性化していくためには、1)ADRに関する基本理念や国等の責務を定めること、2)ADRの公正性・信頼性を確保するためにADR機関やADRの担い手が遵守すべきルールを明らかにすること、3)ADRに関する制度上の制約を解消するためのADRの利用の促進や裁判手続との連携促進に資する法制の整備をすること、4)国際的動向も踏まえながら、調停・あっせん手続に関しても、一般的な手続ルールを定める法制の整備をすること等、多くの課題を検討、実現する必要があると考えられた。
○ ADR検討会では、まず第1回検討会(平成14年2月5日)から第3回検討会(4月15日)にかけて、各ADR機関からのヒアリングや民間ADR機関に対するアンケート調査によりADRの現状把握を行った。続いて、第4回検討会(5月13日)から第9回検討会(11月11日)にかけて、それらの現状把握を踏まえつつ、ADRに関する基本理念、手続・組織運営等に関する規律、時効中断効や執行力の付与などの法的効力の付与、専門家の活用等、ADRの共通的な制度基盤に関する法制度について論点となるべき事項を整理した。
その上で、第10回検討会(12月9日)から第16回検討会(平成15年5月26日)までは、ADRの共通的な制度基盤整備に関する法制度の重点的な検討を行い、第17回検討会(6月9日)から第20回検討会(7月14日)にかけては、それらの検討状況を整理するための更なる検討を行った。
○ 上記の検討状況等を踏まえ、昨年(平成15年)8月、ADRに関する基本的な法制を整備する場合に必要となる検討事項全般について、考え得る選択肢も含め、今後更に検討を深めるべき論点を整理した41項目の論点、総頁数87頁に及ぶ資料を作成し、公表した。それが「総合的なADRの制度基盤の整備について」と題する文書であり、いわばADR検討会の中間報告であった。
その上で、広く国民に対する意見募集(パブリックコメント)を行うとともに、東京(208名参加)、福岡(49名参加)、大阪(120名参加)の3ヵ所で説明会を開催し、更に、意見募集の一環として、第21回検討会(平成15年9月8日)から第23回検討会(10月6日)にかけて関係団体等(ADR機関、隣接法律専門職種団体、在日米国商工会議所等)からのヒアリングを実施した。
意見募集の結果、学者・研究者、隣接法律専門職種、弁護士、ADR機関から国際機関に至るまでの様々な方から総数164件もの意見が寄せられた。それらの結果及び結果概要は、上記第23回検討会に諮り、司法制度改革推進本部のホームページに公表した。
○ その後、上記意見募集の結果や関係団体等からのヒアリング等の結果を踏まえ、平成16年通常国会への法案提出を目指すべく、第24回検討会(平成15年10月27日)から第28回検討会(平成16年1月29日)までの5回にわたり、これまでの議論で意見に開きがあった論点を中心に意見集約のための更なる議論を行った。
しかしながら、ADRの公正性・適正性を確保するための手段として、手続が適正なものであることを国が確認する制度(認証制度)を設けるべきか否か、設けるとしてどのような仕組みとすべきかという点で、なお検討会委員や関係者間に意見の開きがあり、具体的結論を得るためには更に時間をかけて慎重に検討する必要があった。そのため、通常国会への法案提出は、見送らざるを得なかった。
○ 平成16年4月17日に再開した第29回検討会においては、これまでの検討会における議論の蓄積を活かしつつ、関係者間に意見の差異があった認証制度の導入の是非を中心とした議論を集中的に行い、民間ADRの認証制度を導入することを視野に入れた検討を進めることで大方の意見が一致した。
○ この結果を受けて、第30回検討会(平成16年5月10日)以降、認証制度に関する主要な論点(認証制度の枠組み、法的効果等)について更に検討を深めた。第35回検討会(6月14日)においては、立案作業を進めていく方向性を中心に審議を行い、司法制度改革推進本部事務局(以下「事務局」という。)が、ADR検討会のこれまでの議論を踏まえ、関係方面との調整を行いながら取りまとめた「裁判外の紛争解決手続の拡充・活性化を図るための諸方策(案)」の方向性に沿って、事務局において法案の立案作業を行うことについて、ADR検討会として了承した。また、立案作業の終盤においては、その検討状況が第36回検討会(9月1日)に報告され、そこでの意見を法案に反映させるとともに関係各方面との最終的な調整が行われた。
○ かくて、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案」(以下「ADR法案」という。)が策定され、平成16年10月12日、第161回(臨時)国会に提出された。これは、紛争当事者がその解決手続を選択することを容易にするため、ADRの基本理念等を定めるとともに、民間事業者が行ういわゆる調停・あっせんの業務に関し、法務大臣による認証の制度を設け、併せて時効の中断等に係る特例を定めてその利便の向上を図ることを内容とするものである。
同法案は、平成16年11月9日に衆議院において、11月19日に参議院においてそれぞれ全会一致で可決成立し、明日(12月1日)、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(以下「ADR法」という。)として公布される見込みである。ADR法は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内(平成19年5月31日まで)において政令で定める日に施行されることになっている(同法附則1条)。
(2)ADRにおける隣接法律専門職種の活用
○ 司法制度改革審議会意見においては、ADRの制度基盤の整備の一環として、「隣接法律専門職種など非法曹の専門家のADRにおける活用を図るため、弁護士法第72条の見直しの一環として、職種ごとに実態を踏まえて個別的に検討し、法制上明確に位置付けるべきである。」との提言がなされている。これを受けて、ADR検討会では、どのようにこうした専門家の活用を図るかについて検討を行ってきた。
検討の結果、隣接法律専門職種(司法書士、弁理士、社会保険労務士、土地家屋調査士、税理士、不動産鑑定士、行政書士)がADRの手続実施者となることについては、問題がないことが確認された。むしろ、これ以外の紛争解決に関する専門的能力を有する者を含め、幅広く専門家を活用していくことがADR手続の実施にとって有益であり、そのためには資格を定める個別法ごとの整備では限界があるため、ADR法そのものにおいて、そうした個別法のない職種の者にも適用される共通的な制度基盤として、認証制度の中で要件を整備することとなった。
○ 他方、隣接法律専門職種に対するADR代理権の付与については、依頼者本人の権利義務を直接処分することになるという代理の性格を踏まえれば、相当高度な法律的能力が必要であり、現状では、隣接法律専門職種等に限定して検討することが適当と考えられた。このため、職種ごとの検討を経て、ADR法でなく、それぞれの個別法において、業務の範囲や所要の要件等を整備すべきであるとの考え方が承認された。
この方針に沿って検討を進めた結果、当該業種に代理権を付与することにつき社会的ニーズがあるかどうか、社会的ニーズに応えて代理業務を行うだけの法律的・専門的能力があるかどうかといった観点から、各隣接法律専門職種団体等からのヒアリングも行いつつ、個別の業種ごとに検討し、具体的な方向性を取りまとめた。この取りまとめは、今後、関係省庁において各個別法の改正を検討していく際の一つの指針たる性格を有するものと考えられる。
(3)関係機関等の連携強化の促進
○ 「関係機関等の連携強化の促進」については、司法制度改革審議会意見において「総合的なADRの制度基盤の整備」と並ぶもう一つの柱として位置づけられていることから、ADR検討会としても当初から強い関心を有していた。しかし、ADR検討会には、上記のようにADRに関する法制の整備という独自の任務があったため、関係機関等の連携強化については、事務局の主体的活動をサポートするとともに、随時、その報告を求め、議論を行う体制を整えた。
○ 事務局は、平成14年6月に、ADRに関する関係機関等の連携強化に係る諸施策の推進等を図るため、司法制度改革推進計画に基づき、「ADRの拡充・活性化関係省庁等連絡会議」(以下「連絡会議」という。)を設置し、関係各省庁として何ができるかについて議論を積み重ねた。
こうした議論を経た結果、事務局において準備し、ADR検討会においても何回かその構成・内容についての議論を行った上、平成15年4月に、「ADRの拡充・活性化のための関係機関等の連携強化に関するアクション・プラン」を、連絡会議の名において取りまとめた。
これは、ADR関係機関等の相互の連携強化の一環として、関係省庁等が、当面、横断的・重点的に取り組むべき施策として、1)ADRに対する国民の理解の促進、2)ADR機関等へのアクセスの向上、3)担い手の確保・育成等、4)関係諸機関等連絡協議会(仮称)の整備の支援、を掲げた行動の指針である。
3 裁判外紛争解決手続に関する中長期的な課題
ADR検討会の成果として、ADR法が制定され、今後2年6月以内に施行されることになったことは、上述の通りである。
この法律は、ADR基本法とも言うべき「総則」部分と、民間の紛争解決業務を対象とした認証制度を導入する部分からなっており、この法律の制定施行により、今後、認証ADR機関のみならず、司法型ADR、行政型ADRを含め、様々なADRが制度間競争により切磋琢磨しながら、それぞれに質を向上させ、ADR全体がますます発展することが期待される。
しかしながら、ADRの拡充・活性化のための施策は、この法律が成立し、施行されることによって終了するものではなく、むしろこれを契機として、さまざまな検討、取組みや諸施策の実施が行われ、それらが相まって、ADRの総合的な基盤の整備が進むことになるのであろう。
そこで、ADRの関係者や関係省庁等が今後ADRの拡充・活性化に向けて行う検討、取組みや施策の実施の際の参考として頂くため、また、司法制度改革推進本部の後継組織として設置されることが決まった機関——内閣の「司法制度改革推進室」、法務省の「司法制度改革実施推進会議」——が引続きADRの発展に高い関心を寄せ続けてくれることを願って、ADRの今後の課題について、これまで2年10ヶ月にわたって行われたADR検討会における議論を、以下に整理した。
(1)裁判外紛争解決手続に対する国民の理解の増進
ADRの拡充・活性化のためには、国民の理解の増進が重要である。ADRそのものが依然として国民にあまり認知されていないことを踏まえ、裁判外の紛争解決の手段として国民の身近にADRが存在していること、ADR手続の内容、ADR法の内容等について、広く国民の理解を得る必要がある。また、国民に基礎的知識の理解と同時に、紛争解決における倫理などが醸成されることも期待したい。
これまでも、民間ADRでは、それぞれに広報活動を行ってきたが、今般成立したADR法4条では、国及び地方公共団体にADRに関する国民の理解の増進についての責務が規定されており、今後、国、地方公共団体、更に先般成立した「総合法律支援法」(平成16年法律第74号)によって設置される日本司法支援センターを含むさまざまな関係機関によって積極的な広報活動等の展開・連携が図られることが期待される。
また、国民の理解の増進のためには、「法教育」が重要である。特に、初等教育等において、「こうすれば紛争が予防・解決できる」といった紛争解決の在り方を教えることを通じて、ADRの重要性について、子どもの時からよく周知し、常識にしていくことが重要である。
さらに、ADRに関しては、これまで学問的な蓄積が必ずしも十分でなかった。本年10月に発足した「仲裁ADR法学会」などを中心に、仲裁やADRの学問的深化、国際的動向についての研究や実態調査などが行われていくことを期待したい。
(2)ADR機関の質の向上
ADRの拡充・活性化のためには、各ADR機関の質の向上が必須の課題である。日本には数多くのADR機関があるものの、必ずしもすべてのADR機関が活発に活動しているとは言えない。そこで、この際、すべてのADR機関は、自らの機関またはその手続が、ADR法3条1項に定める理念、すなわち、その手続が「法による紛争の解決のための手続として、紛争の当事者の自主的な紛争解決の努力を尊重しつつ、公正かつ適正に実施され、かつ、専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図るもの」となっているかを真摯に再点検し、不備があれば改善することが必要と思われる
また、各ADR機関は、その手続のみならず、利用者の声、当該機関の実績や実例などを、ADRが非公開であることのメリットを損なわない範囲で、可能な限り広く情報開示していくことが重要である。
このような自己点検と情報公開を定期的に行うことを通じて、絶えず自己改革することによって、利用者により分かりやすく、より安心して利用してもらえるADR機関に成長することが、日本におけるADRの発展をもたらす重要な条件である、と考えられる。
ADR機関がこのように自発的に努力すべきことは当然であるが、情報開示や第三者評価のシステムの構築などを社会的にサポートすることも検討されてよいのではないかと考えられる。それにより、国民の理解が進むとともに、ADR機関の質の向上も図られるものと考えられる。
(3)裁判外紛争解決手続の関係機関間の連携
各ADR機関においては、これまでも関係者の努力により、ADRに携わる人材の育成やノウハウの蓄積などが行われてきているが、ADRが拡充・活性化するためには、関係機関が横断的に連携していくことが望まれる。
弁護士会や隣接法律専門職種などのADR機関も含め、より広い視野で紛争解決についての知見が蓄積され、業種等を超えた横断的な議論や情報収集がなされれば、それによって国民の理解も増進され、その利用のためのアクセスも容易となろう。
また、行政型ADRと民間型ADRの連携も重要である。例えば、利用者が消費生活センターに相談を求めるような場合に、紛争解決を行う適切な機関があることを知らせることも必要であると考えられる。
そのためには、行政型ADRや民間型ADRが横断的に連携を図る場として、連絡協議会等の設置が期待される。とくに、日本司法支援センターが行う弁護士会、隣接法律専門職種の団体やADR機関との連携・協力の取組みに加え、認証制度の業務を担当する法務省、ADR機関を所管する関係省庁は、行政型ADR機関と協力して、ADRの拡充・活性化のための横断的・重点的な取組みとして、上述した「ADRの拡充・活性化のための関係機関等の連携強化に関するアクション・プラン」に基づく具体的施策を、司法制度改革推進本部の設置期限終了後も引続き強力に展開することを期待したい。
更に、これらの取組みを通じて、将来的には、苦情処理に関して、各関係機関を横断的にフォローする体制が確立されることも期待したい。
(4)裁判外紛争解決手続の担い手
ADRの拡充・活性化のために最も重要なことは、その担い手となる人材の育成である。人材の育成については、個々のADR機関でも取り組んでいるが、その連携協力体制を構築することが重要である。更に、国の機関についても、講師の派遣など側面支援を行うことにより、人材の育成に協力していくことが望まれる。この点に関連して、昨年日本弁護士連合会を事務局として設立された、仲裁人の養成を主たる目的とした「日本仲裁人協会」の今後の展開が期待される。
ADR検討会においては、「ADR士」といった資格制度の創設についても積極的な意見があり、将来的課題の一つと考えられる。ADR検討会では、ADRの担い手の素養としては、法的能力、紛争分野の専門知識のみならず、話し合いを促進する能力が重要であることが確認された。将来において、ADR士の創設も視野に入れながら、話し合いを促進する能力とは具体的にいかなるものかについて、十分に検討することも重要なことと思われる。
消費者は、第三者を交えた紛争解決を望んでいる場合も多いことから、例えば、相談を受けた紛争について、最も適切な紛争解決を相談者にアドバイスできるアドバイサーなどを養成することも考えられるのではないかという指摘もなされた。
(5)裁判外紛争解決手続のルール等
ADR検討会の議論においては、いわゆる調停手続法的なルールの整備は、今回のADR法上の措置としては見送った。しかしながら、将来的には、各国の法整備の状況も見ながら、我が国においても、UNCITRAL国際商事調停モデル法をモデルとした法整備の検討をすることも必要であろう。
また、国際的対応という点から言えば、現在、国際化標準化機構(ISO)でもADR規格等の検討が行われており、その動向等も踏まえた議論も将来的課題として必要となろう。
(6)裁判外紛争解決手続の法的効果
ADR法において、時効中断効等の法的効果を付与したが、執行力の付与については、時期尚早として今回法整備することは見送られた。
しかしながら、執行力の付与は、ADRの実効性の確保という点でその利用促進に資する面があると考えられることから、ADR法施行から5年の期間経過後に予定されている見直しにおいては、認証ADR機関の利用の実情を踏まえつつ、また利用者の権利保護にも十分配慮しながら、その採用の是非を慎重に検討すべきであろう。
(7)その他
ADR機関に対する法律扶助も重要な課題の一つである。ADRによっても紛争を適正に解決でき、国民がその利用を望むならば、資力の乏しい者にもそれを利用できるようにすることが国の責務ではないか、将来的に法律扶助の予算の充実が図られた場合には、仲裁も含め、ADR全般に関する法律扶助の拡大について再検討すべきではないかとの指摘もなされた。
また、ADR法の制定により、新たにADR機関に対する認証制度が導入されることとなった。これにより、どの程度の機関が認証を受けることとなるか現段階で予測することは困難であるが、いずれにせよ認証ADR機関と認証を受けないADR機関が存在することになる。認証ADR機関は、ADR法の認証の基準に基づいて運営がなされ、それに対する法務大臣による一定の監督を受けることとなり、その質の向上が図られることとなるが、他方で認証を受けないADR機関も引続き活動を行うことになる。
こうした認証を受けないADR機関については、その質の向上はそれぞれの機関の自助努力にかかることとなるが、国民のADRに対する信頼感の醸成も、それらの機関の自助努力いかんに掛かっていると言っても過言でない。各ADR機関の自主性を尊重しつつ、どのように自助努力を促すかということも今後の大きな課題の一つである。
その他にも、ネット取引や金融取引などの国際間におけるADRの選択・連携の仕組みの考え方の整理といった課題も指摘された。また、諸 外国の中には、消費者保護、中小企業保護、外国人保護、インターネット上の紛争解決など一定の政策目的を実現する手段として一種の行政型ADRを活用している例がある。こうした例も参考としつつ、例えば紛争当事者間に構造的な力の格差が存在する消費者や中小企業、労働などの分野において、行政が積極的にADRを用いて関与することも考えられるとの指摘もあった。これらの課題についても、将来的に検討されることを期待したい。
4 おわりに
ADR検討会は、以上のような審議経過を経て、上記のように多くの中長期的課題を残しつつ、ともかくもADR法を世に送り出すことができた。その作業が当初の予想を越えて難航した主たる理由は、いまだ揺籃期にある日本のADRについて、その制度基盤の整備のため、まったく新しい法律を創造することの難しさにあった。
この難しい任務に取り組み、長期間にわたり高い見識をもって終始積極的に審議に参加された各委員、審議のための環境や資料を周到に準備された事務局の方々、更にはヒアリングやパブリックコメント等を通じてさまざまな意見やアイデアを寄せてくださったADR機関その他、関係の多くの方々に対して深い敬意と謝意を表する次第である。
(以上)
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