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司法ネット(仮称)に関する有識者懇談会議事録



日 時  平成15年6月5日(木)16:00〜18:10

場 所  永田町合同庁舎1階第1共用会議室

出席者

(有識者)
片山善博氏(鳥取県知事)、松本三加氏(弁護士・第二東京弁護士会)、鈴木晴男氏(司法書士・山形県司法書士会)、高峰武氏(熊本日日新聞編集局次長)

(顧問)
佐藤幸治座長、大宅映子顧問、奥島孝康顧問、小島明顧問、笹森清顧問

(推進本部)
森山眞弓副本部長(法務大臣)

(検討会)
井上正仁座長(公的弁護制度検討会)、高橋宏志座長(司法アクセス検討会)

(推進本部事務局)
山崎潮事務局長 他

議事次第
1 開 会
2 有識者からのプレゼンテーション
3 質疑応答、意見交換
4 閉 会

【山崎事務局長】 それでは、定刻になりましたので、ただいまから「司法ネット(仮称)に関する有識者懇談会」を開催いたしたいと思います。
 国民に身近で頼りがいのある司法制度を実現するため、全国どこでも国民が法律上のトラブルの解決に必要な情報や法的サービスの提供を受けられるような司法ネットの整備の必要性が指摘されております。この点は、昨年来、小泉総理が当本部の顧問会議等で繰り返し発言されているところでございますし、本年4月の顧問会議におきましても、顧問の皆様方に御議論をいただいたところでございます。
 本日は、前回の顧問会議における御議論も踏まえまして、地方における、いわゆる司法過疎の問題を中心に、国民の司法へのアクセスについて、関係する方々から率直な御意見をお聞きしたいと考え、この懇談会を企画いたしたわけでございます。
 本日の懇談会には、このような趣旨から4名の有識者の方々にお越しいただいておりますので、簡単に御紹介をさせていただきたいと存じます。
 まず、鳥取県の片山善博知事でございます。片山知事は、倉吉市の公設事務所の設置に経済的支援を行うなど、司法過疎の問題に積極的に取り組んでおられると伺っております。
 次に、松本三加弁護士でございます。松本弁護士は、北海道紋別市に日弁連が設置をした、いわゆる公設事務所において、2年間所長を務められた経験をお持ちでございます。
 次に、鈴木晴男司法書士でございます。鈴木司法書士は、山形県天童市で開業されておりまして、山形県の司法書士会でも積極的にこの問題に取り組んでおられると伺っております。
 最後に、熊本日日新聞の高峰武編集局次長でございます。高峰次長は、地方における司法サービスの向上の問題に積極的に取り組んでおられる、熊本日日新聞の論説委員でいらっしゃいます。
 本日は、佐藤顧問を始めとする顧問の皆様方、司法アクセス検討会の高橋座長及び公的弁護制度検討会の井上座長にも御出席をいただいております。また、関係機関といたしまして、法務省から但木事務次官、最高裁判所から小池審議官、それから日本弁護士連合会から市川副会長が出席をされております。どうぞよろしくお願いいたします。
 なお、懇談会の資料といたしまして、事務局の方から、日本弁護士連合会作成の「弁護士0〜1マップ」と題する図表、最高裁判所作成の「裁判所管内別弁護士数及び司法書士数」と題する図表をそれぞれ配布いたしておりますほか、有識者の方々からさまざまな資料を提出していただいておりますので、参考にしていただければと存じます。
 最後に、本日の議事につきまして、報道機関の傍聴を認め、会議資料を公表するとともに、会議後、議事概要や発言者名を入れた議事録を作成し、公表するということにしたいと考えておりますので、御理解を賜りたいと存じます。
 それでは、以後の進行につきましては、顧問会議の佐藤座長にお願いをしたいと存じます。よろしくお願いいたします。

【佐藤座長】 佐藤でございます。本日はそれぞれ御多用のところ御出席賜りまして、本当にありがとうございます。貴重な限られた時間でございますので、前置きは抜きにして、早速お話を賜りたいと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは最初に、片山鳥取県知事にお話を頂戴したいと思います。よろしくお願いいたします。

【片山鳥取県知事】 今日はこういう機会を与えていただきまして、ありがとうございます。私、鳥取県知事に4年前に就任しまして、今から考えるとたまたまなんですけれども、たまたまというのは、今日のように皆さん方から頼まれたわけでもないし、法務省から示唆があったわけでもないんですけれども、鳥取県における司法の状況という問題に関心を持ちまして、実態はどうなっているのか、それから県民と司法サービスとの間に縁遠さがないかどうか、こういう問題意識を持って取りかかったんです。それは今にして思えば、本当に時機にかなったものであったなと思っております。
 今日は、そういう経験をちょっとお話をしたいと思いまして、若干の資料も用意しておりますが、最初に県内をちょっと見てみると、本当に司法は縁遠いなという印象を持ちました。
 それは例えば、私の資料の10ページ、資料2というのをを見ていただきたいんです。これは、鳥取県で数年前に行った県民意識調査のアンケート集計結果ですが、このアンケートは、司法が身近かどうか、身近でないのはなぜかというようなことを中心にして、県民1,000人を対象にアンケートをしたものです。詳しいことは申しませんが、これから読み取れるのは、やはり司法は縁遠いと。弁護士の数も少ない、身近にいない、でも困っていることはいっぱいあるという結果であります。
 それから、それと並行して14ページを見ていただきますと、これは県で法的サービスの提供に関する意見交換会というのをやりました。これに私も出ましたし、当時の鳥取地方裁判所長さんとか弁護士会の代表とか、司法ではないですけれども法的なトラブルなんかを住民から直接相談を受けている相談機関の一線の職員とか、関心の深い住民とか、そういう人に集まってもらって、鳥取県の地域内における司法の現状というのはどうだろうかということを率直に語り合ってもらったわけです。
 前の13ページに意見交換会の概要というのがありまして、これも後で見ていただければいいですけども、それぞれの分野から、やはり現状について、かなり克明な意見発表がありまして、やはり問題意識を更に強めて、何らかの取りかかりをしないといけないというきっかけにもなりました。
 司法が縁遠いというのは、一つは意識の、資料の2ページ見ていただきたいんですが、2ページの1のポツのところですけれども、やはり意識の障壁がありまして、裁判ざたという意識は、鳥取県でも非常に強いです。裁判というものを社会を円滑にするための仕組みだというふうに理解しないで、裁判なんかは非日常的なことで、とんでもないことなんだという意識がやはりあります。
 それから、敷居が高い。これは主として弁護士の皆さんに対する意識ですけれども、敷居が高い。値段も高いんだろうなという意識があり、弁護士のところに行くのは高級寿司屋に入るのと同じような怖さがある。料金表も書いてないしとか、そういうことが結構県民からは寄せられていました。
 もう一つは、アクセスが容易でない。身近に弁護士がいないということです。鳥取県で3,500平方キロの地域内に24人登録をしています、今は増えた方なんです。24人いますけれども、高齢で実質廃業という人もいますし、国会に出ていて、事務所は構えているけど実際はほとんどやっていないという人もいますので、実質でいいますと、もっと少ないです。
 もう一つは、意識としては、司法では十分な解決は得られないと。これは裁判しても長くかかるし、嫌な目にも遭うし、そんなことするよりは別の解決方法がいいというような意識もあります。総じて、司法は縁遠いというのが実態でありました。
 そこで、司法を身近にする点で、我々何ができるだろうかというので、弁護士会の皆さんとかいろいろな方と相談したんですが、1つは、やはり今の現状というのを知ってもらおうではないかということです。そうは言っても二十数人いるんだから、やはり困ったことがあったら弁護士を訪ねたらどうですかということで、広報で啓発することにしました。弁護士会の皆さんも会報といいますか、自分たちのPR誌を持っていますから、やっておられますけれど、そういうのは自分たちしか読んでいませんから、一般の県民は全く縁遠いわけです。
 そこで、では県の広報媒体を使おうということで、「県政だより」というのが鳥取県にはありまして、全戸配布の媒体でありまして、結構影響力といいますか、読んでくれる人が多いんです。例えば、美術館の紹介なんかしますと、途端にお客が増えたりするということで検証されるんですけれども、そこにちょっと司法のことを入れることにしました。このテーブルの皆さんには、本物の「県政だより」を付けておりますが、資料集でいいますと3ページからです。これが最新号でありまして、今年の6月号で大山の絵が描いていますけれども、その次を開いていただきますと、松本さんの後輩に当たると思いますけれども、鳥取県の倉吉市のひまわり基金の法律事務所の佐野さんという弁護士を紹介しています。こういうことを紹介して、そのぺージの一番下に写真があって、テープカットの写真が出ていますが、背の高いのは佐野さんでして、その左側におられるのは日弁連の本林会長で、その隣が私なんですけれども、こういうことも紹介をしたりしています。
 5ページ、これは去年の9月号ですけれども、「『司法』を身近にするために」というタイトルで、司法制度改革の動きなんかも県民に紹介をしています。なるべく身近に感じてもらおうということです。
 7ページを見ていただきますと、同じ号なんですけれども、その上の方に弁護士会の活動の紹介もしています。これは模擬裁判をやったんですけれども、私も裁判員として参加したんですが、そういう弁護士会の活動としての模擬裁判のレポートなんかもこれに載せて、県民に啓発をしたところです。
 その次の8ページは、これはもっと昔の、去年の2月号ですけれども、9ページを見ていただきますと、弁護士会というのは何か、気軽に弁護士に相談してくださいということで、弁護士会の会報に載せるようなものなんですけれども、これも県政だよりに載せたりもしました。
 こんなことで、できるだけ司法というものを県民に身近に知ってもらおうという努力を、県としても今までやってきているところであります。
 もう一つは、またレジュメの方に戻っていただきますと、2ページですけれども、レジュメの2の2つ目のポツですけども、司法教育にも力を入れようということです。日本では、司法の教育というと、機構論ばかりやるわけです。三権分立で、裁判所制度は最高裁があって何とかかんとかと、こうやるんですけども、それを利用する教育というのは全然していません。困ったときにはこういうところを利用しましょうねとか、消費者ローンなんかで困ったときはこうしましょうねという、実践的利用論というものをもっと教育の場でやるべきではないだろうかと思います。
 そういうのをやっておくと、法的なトラブルに巻き込まれないようになるし、一旦巻き込まれても、解決の方法を自分でつかむことができる。そういう教育をやるべきではないかと考え、高等学校で司法教育をやったり、特に消費者ローンの関係、サラ金の問題などについて、一般向けにもこういう講習会をやったりしながら、行政としても乗り出しつつあるところであります。
 3ポツのところですけれども、弁護士会との連携というのも密にやっておりまして、従来は弁護士会との関係は、県行政ではほとんどありませんでした。裁判になって、相手方の原告の方の弁護士として登場するとか、そういうケースはありますけれども、日常の行政で弁護士会と連携するということは、ほとんどありませんでした。しかし、今はいろんなことで連携していまして、先ほどの模擬裁判なんかに協力するとか、その模擬裁判は、実は県議会の本会議棟を使ってやったんです。それから今、日弁連の方で地域司法計画というのを弁護士会単位で作られていますけれども、そういうことに行政も参画しようとしています。我々も行政の立場から地域の司法の在り方について意見も言うし、また、必要な協力もやれる範囲でやろうということで、地域司法計画を、鳥取県では鳥取県の弁護士会と行政とで、これからもう一回リファインしていこうというような取組みも、今、始めているところです。
 4ポツのところで、「法曹の積極的任用」と書いていますけれども、弁護士を地方行政の分野でもっと活躍してもらおうということです。訴訟のときに当方の弁護士として頼むということ、これはもちろんですけれども、それ以外にももっと法曹の持っている知識とか経験とか、ものを見る目とか、そういうものを活用しようということです。私のところでは、まず、外部監査には弁護士をお願いしています。存分にやってくださいということで弁護士にやってもらって、それを県政の改革の一つの柱にしているところです。
 それから、鳥取県では、私、今、行政の透明化というのを県政の最大の課題にしているものですから、その透明化の分野でも、法曹、弁護士の皆さんに活動してもらっています。これは15ぺージに資料を付けていますが、「鳥取県建設工事等入札・契約審議会条例」という条例があるんですけれども、これはとかく不透明でいろいろ問題があるとされている公共事業の入札の分野を透明化しようということで審議会をつくりまして、業者の資格審査の問題だとか、指名発注の基準だとか、それに伴うトラブルの処理だとか、そういうものを外部の人を入れた審議会を設けて、高い透明性の中で仕事を進めるようにしています。その中に、16ページですけれども、これがメンバーなんですけれども、弁護士に2人入ってもらっていまして、ここでもこの人たちの目を通して、公共工事の発注とかの事務を進めている、改善をしているということであります。ちなみに、上から4行目の高橋敬幸という弁護士は、実は、オンブズマン鳥取の代表でありまして、普通だったらオンブズマンと行政って、よく対立していますね。うちももちろん裁判では争っている案件もありますし、県を相手とする裁判の原告側の弁護士になることもありますが、こういう県の行政を透明化する、改善するという中にオンブズマンにも入ってもらっています。こういう法曹の活用といいますか、弁護士の持っている中立な考え方とか、公正な理念だとか、そういうものを行政の中に反映していく、それで行政を透明化していこうということを今やっております。
 それから、3番目でありますが、県政自身が、行政自身が司法的解決というものを日常的に利用しようということを今、実践しています。行政は、従来、裁判は嫌いであります。ですから、例えば、トラブルになった相手業者とか県民から裁判するぞと言われるとひるんでしまって、やめてくださいとか何とかかんとか言って根回しをして、おさめてしまうことがよくあります。それでだんだん行政が不透明になって、説明ができないようなことをやることが多いんですけれども、私のところはとことん議論をして、ここから先はもう譲歩できないという段階からは、相手にどうぞあとは裁判してください、裁判で黒白をつけましょうということにしています。
 こちらも相手が言うことを聞いてくれないとき、例えば、公営住宅の明渡しとか、いろいろあるんですけれども、そういう場合もある段階で、これはいくら議論してもだめだなと思ったらもう裁判をするということで、あっさり司法的解決に委ねるということを今やっております。
 そこに「国や関係機関を訴えることも辞さず」と書いてありますが、あえてけんかを売っているわけではないんですが、やはり国の機関でも変なのがあるんです。約束したことを守らないとか。例えば、これは悪口を言うわけではないんですけど、核燃料サイクル開発機構というのがあって、それが鳥取県で掘ったウラン残土をちゃんと撤去しますと住民に約束しているんですけれども、10年この方約束を守らない。住民はもう困っている。私の前の県政は、サイクル開発機構と手を組んで、住民に圧力をかけていたんですけれど、私は、逆に住民と一緒になって、約束を守らない方を訴えましょうということで、裁判をしています。費用は行政が出しています。原告は住民ですけれども、支援しますということで、県と町とで訴訟費用を出して応援しているんです。一審では全面勝訴しました。被告が控訴しましたから、まだ高裁でやっていますけれども、そんなことをやっています。別に悪気はないんですけれども。
 あと、「県も被告になることを厭わず」ということで、さっき言いましたようにトラブルになったら最後は司法に任せましょうということをしています。
 ちなみに、17ページを見ていただくと、現時点、5月31日現在で県が関わっている訴訟の状況というものを書いていますけれども、こんなにあります。結審したものもありまして、県が負けたものもありますし、勝ったものもありますけれども、とにかく恨みっこなしで裁判して、解決していきましょうということを、今、実践をしています。
 また2ぺージに戻っていただいて4番目ですが、法曹過疎の問題です。地域における司法の実態ですが、弁護士の数は24人です。24人ですけれども、さっきいいましたように稼動していない人もいますから、実質は20人くらいあります。やはり足らないです。特に倉吉地域というのが法曹過疎でありましたものですから、そこにそのひまわり基金の公設事務所というのをつくるということになったんですけども、なかなかやはり人がみつからないんです。地方ですから、来てくれないといううらみがありましたので、それでは少し県も加わって条件をちょっとよくしましょうということで、ひまわり基金の条件に加えて、初度調弁ということで、行政が200万出すことにしました。それは、例えば六法全書というか法律の本をそろえたり、いろいろ初度調弁も要るでしょうからということで、そこに着目して、200万円を上乗せしました。だからといって来られたわけではないんですけども、やはりちゃんと佐野さんという方が来てくれまして、今、立派に公設事務所を運営されています。最初みんな、せっかく来てもらったけど案件があるかな、食べていけるかなという心配をされていたんですけれども、そんなことはありません。ちゃんとニーズはいっぱいあります。ですから、潜在的な需要というのは、やはり多いなということを痛感しました。ほかの地域でも、やはりそういうことがあるだろうと思います。
 5番目ですけれども、これからの司法と地域の在り方ですけれども、私はさっきもちょっと触れましたけれども、もっと日本は、司法を日常的に利用する社会にならなければいけないと思うんです。こじれにこじれて、にっちもさっちも行かなくなって裁判に行くという、そういう社会ではいけないと思うんです。やはりお互いにちゃんと自己主張して、そこで折合いがつかない、そのときにはアンパイア、レフェリーに頼もうという社会が伸びやかな社会だと思います。だから、そういう社会を目指さないといけないと思います。
 そこに書いてありますように「トラブルはスマートに司法で解決を」。一生恨むとかいう関係になる前に司法で解決をするという風土にしなければいけないと思います。ですから、裁判ざたなどという言葉が消えてなくなるようにしなければいけない。裁判ざたではなくて、交通整理だというふうにみんなが了解する社会にしなければいけないと思います。
 官公庁も、鳥取県で今、実践していますけれども、社会における一人のプレーヤーであるとの自覚を持つ必要がある。行政は、優越的な絶対権力を持った、ちょっと高みのプレーヤーではなくて、平等なプレーヤーとして行政も活動して、そこで法的なトラブルがあったら司法に解決を委ねるという謙虚な姿勢を持たなければいけないと思います。行政は間違っていないという前提でやると、司法に委ねるということにはなりません。強弁を張って、絶対非を認めないというのが日本の行政の特徴ですけれども、そうではなくて、やはり行政にも間違いはあります、人間のやることですから。間違いがあるということを前提にして、司法にその判断を委ねるという謙虚な姿勢を持たなければいけないと、私は思います。
 もう一つは、これから司法のニーズが増えるだろうなと、私、予測しておりますのは、地方分権時代が今到来するということで、三位一体の改革だとか、今議論されていますけれども、いずれにしても、地方に権限が移るということは、これからの趨勢だと思います。地方で判断をする。地方で立法作用をすることが多くなります。従来は、国が全部立法していましたけれども、地方で立法します。そうしますと、そこに書いてありますように、試行錯誤は当然ありますし、粗製濫造もあります。玉石混交もあります。そうしますと、そういうものがどんどん世の中に立法作用として出てきたら、やはりそこで多数の法令を調整するとか、その法と条例とか、法と法、条例と条例との間のそごを調整するとか、そういう必要性が出てきますから、そういう面でも、私は、司法の活躍する舞台というのは増えるんだろうと思います。
 参考までに、資料の6、19ページですけれども、これは、つい最近、鳥取県の議会が制定した条例です。これは議員立法です。我々が出したのではなくて。これは申し上げると長くなるんですけれども、多頭飼育のブリーダーがいて住民が困っているという事態がありました。ところが、現行の法体系では手が出せない。衛生上の狂犬病の予防注射をしましたかというようなことは言えますけれども、多頭飼育でみんなに迷惑をかけている業者を規制するということは、既存の法令ではできないんです。そこで、必要な規制の根拠となる条例を制定しようとするんですけれども、やはり一方では営業の自由を規制するということになりますから、憲法の問題とか営業の自由の問題とかとの兼ね合い、やはりいろんなことを調整しておりますと、新しい条例をつくるのには一月、二月かかります。
 ところが、付近の住民は、もう今日、明日、困っていて、夜も寝られない、正月も越せない、一月、二月待てというのは酷ですよということになるんです。そうした中で議会が登場しまして、では荒っぽいけれどわしらが条例をつくろうということになりました。今とりあえず、即効性のある条例でとりあえず業者をぱんと押えておき、一月、二月の間に執行部の方でいい条例をつくってくれというので出たのが、この犬猫条例でした。これを見ていただくと、法曹の皆さんが見たら唖然とするかもしれませんけれども、3条の1項なんかは「知事は、住民の生活環境を保全するため多頭飼育を禁止する必要があると認める住居が集合している地域その他の地域を、規制地域として指定することができる」と、これだけの条文なんですね。それで4条を見ると、「何人も規制地域内においては多頭飼育を行ってはならない」と、こういうことなんですけれど、構成要件も何もほとんどなくて、営業の自由を規制するような条例です。非常に荒っぽくて、裁判になったらいろいろ問題になると思うんです。ですけれども、当面の一月、二月の間をしのぐための即効薬ではあるんです。
 こういう条例、私は評価しているんですけれども、しかし、法的に見たらものすごく荒っぽいもので、多分司法の場に行ったら、いろいろ出てくると思うんです。
 こういうようなことが必要があったりして、いっぱいこれから分権時代の独自法令が出てきますから、司法による整序といいますか、交通整理というのは、当然分野が広がるだろうと思っております。
 もう一つは、地方分権になると、今まで国が後見的に、護送船団的に全部行政指導してやってきましたけれども、これからの時代というのは、私は、国と地方との関係も、国と民間との関係も、プレーヤーがルールに従って行動して、事後にチェックをするというシステムに変わらなければいけないと思っています。国が何でもかんでも指導するのではなくて。そうしますと、ルールを決めるのが立法で、そして事後にチェックをするときにトラブルになった場合は司法が解決するという、そういう司法的チェックに変わらなければいけないと思いますので、そういうことでも司法の分野が増えると思います。
 最後ですけれども、今回、司法ネット、司法を考えるというのは、本当に時機にかなっていると思います。遅きに失したと言えるかもしれませんけども、いいと思います。
 是非、まずは相談機能とか、司法へのアクセスポイントを増やしていただきたい。地方でも補完的に消費者相談とかいろいろやっていますけれども、それはこれからもやりますけれども、やはり本物の司法に到達するアクセスポイントをもっと増やす必要があるだろうと思います。
 それから、弁護士の過疎の解消。鳥取県も切実であります。決して仕事がないわけではありません。食えないわけでもありません。だけど、地方で仕事をするのは何か嫌だなとか、東京にいると大きな弁護士事務所にいて、サラリーマンみたいで楽だなと思っているかどうかわかりませんけれども、一人で田舎に行って全部切り盛りするのは大変なことはわかります。それはやはりベンチャービジネスみたいなものですから。だけど、そういう気概を、是非弁護士の皆さんには持っていただきたい。そういうことも含めて、弁護士の過疎の解消ということを、是非国策としてやっていただきたい。
 最後は裁判の迅速化です。やはりいくら弁護士を置いても、裁判があんなに時間がかかっていたのではだめです。私も裁判の当事者になって思いますけれども、もう1年もかかったら大体だめです。もっと早くスピーディにやってもらいませんと。簡単にできるものでも何かいっぱい判決文を書いて、ああでもないこうでもないと書いて、何でこんなこと要るんだろうかと思うこともあります。こんなもの10分でわかるというようなものもないわけではないんです。そんなものばかりではありませんけれども。
 ですから、臨機応変に、本当に審理を尽くさないといけないものはやってもらった方がいいですけれども、簡単なものはあっさり、さっと簡易に解決するような制度も導入されて、もう少しスピーディにやられたらどうでしょうか。それで簡易にやった一審が間違っていたら、上級審でやったらいいわけですから、もうちょっと簡素化を図るようなことを考えてください。それから、裁判官がやはり少ないです。少ないだけではないかもしれません。質の問題を言うと失礼ですけれども、もうちょっとやはり機敏に反応するということも必要ではないかなと思ったりすることもあります。ですから、量的、質的な充実というものを、是非これはお願いしたいと思います。
 ちょっと長くなりましたが、ありがとうございました。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
 知事さんからこの種のお話を聞いたのは、私、初めてです。大変ありがとうございました。また、後でお話を伺いたいと思います。
 質疑応答は、時間の関係で4人の方に最初にお話しいただいた後でしたいと思いますので、その点御了解いただきたいと思います。
 それでは、次に松本弁護士にお願いいたします。

【松本弁護士】 それでは、始めさせていただきます。私は弁護士4年目でございます。1年東京で仕事をいたしまして、2年間北海道の方へまいりまして、先日戻ってきたばかりで、諸先輩方を前にして、本当に身に余る大役という感じでございますけれども、まさに現場に飛び込んだ、その体験を率直にお話しさせていただきます。資料といたしましては、レジュメに沿ってお話ししていきますので、ごらんください。
 まずはじめに、私が2年間どういうことをやってきたのか、また、どういう経緯でまいって、どんな体験をしてきたのかというところを述べさせていただきます。旭川弁護士会に所属して行ってきたわけですけれども、先日2月にそちらの方に寄せました文章が、非常にリアルというか、自分の実感を書いていると思いますので、そちらをちょっとそのまま引用して、これを一回読むという形で皆様にイメージをつかんでいただきたいと思います。
 それで、ちょっと一言ここで申し上げようと思いましたのは、公設事務所というふうに私がまいりました事務所のことを呼んでおりますけれども、本来「公」というのは、国なり行政なり地方自治体なりが関わっているようなものに使われる文字ではございますが、このひまわり基金の公設事務所というのは「公」ではありませんで、日弁連、私たち弁護士が全員、月1,000円ずつ積立てをいたしまして、自前でやってはいるんですけれども、一応、日弁連が主催をして主体となっているということで、公設事務所というふうに呼ばれるようになっております。
 まず、目を通しながら、ちょっと読んでまいります。
 紋別って?  私は、平成13年4月より、紋別ひまわり基金法律事務所の所長として北海道に赴任し、弁護士業務にいそしんでおります。ちょっと文体が異なるので御了承ください。
 紋別市は、オホーツク海に面する人口2万8,000人。旭川からは、約150キロ離れています。晴れた日には知床まで見える高台に、旭川地方裁判所紋別支部があります。
 私が弁護士2年目にして、この事務所に赴任することになったきっかけは、司法修習生のときの就職活動中に、この公設事務所の取組みに出会ったことです。
 そもそも、私は、司法試験の勉強を始めたとき、地味でもいい、困っている人を助けることを実感できる仕事をしたいというイメージを持って弁護士になろうと考えていました。そして、日弁連が公設事務所を設置することの意義は、法的サービスを受けられない状態にある市民の不便を少しでも解消していこうというもので、そこで求められている弁護士像は、まさに私が思い描いていた弁護士像そのものでした。そこで、是非赴任したいと思って、すぐに手を挙げました。
 そこでどんな生活が待っていたかと申しますと、13年3月末、まだ雪の残る紋別に一人降り立ち、4月の開業を迎えました。仕事が来ないことはないと思っていたものの、管内人口も約4万5,000人、仕事が来すぎて大変なことになるなどとは考えていませんでした。しかし、開業以来、とにかく多忙な日々が続いています。ジャンルとしても、東京で仕事をしていたときと変わらない、ありとあらゆる一般民事事件の相談が寄せられました。地域としては、市内はもちろんですが、100キロ以上離れたほかの都市からも相談が寄せられます。それでも地域一帯弁護士が足りないので、ここが一番近い地域ばかりです。
 資料といたしましては、先ほど急遽配りましたカラーの分布図です。それから、私の資料の中ではなくて、全体の資料としてお配りいただきましたものに、最初に0〜1マップですとか、その後の3ページ目に札幌高裁管内の弁護士の数ということでございますので、そちらをちょっと見ながらイメージをしていただきたいと思いますけれども、具体的に紋別だけでなく、ほかの都市というのは周辺の管内の町村だけでなく、まず紋別から稚内の間、これは250キロぐらいあるんですけれども、そちらの方、北の方はずっとだれもいませんので、そちらの方からも相談はもちろんのこと、北見や網走辺りの方もすごく人口が、北見なんかは10万人を超えた人口がありますけれども、実質、弁護士さんがやはり高齢等の諸事情、政治活動をされている方等の諸事情によって、実質3人、2人半ぐらいなものですから、北見からも相談に来るような、そういう事態が生じまして、それで北見自体は釧路の管轄なんです。地裁の管轄も別ですけれども、経済圏ですとか、裁判の管轄と住民の方々の移動というのは違いますので、紋別にそういう別の管内からも相談が押し寄せたという状況になりました。
 赴任するまで、まだまだ新米であることや、私は東京生まれ東京育ちで、司法修習も東京で行いましたので、ずっと本当に二十数年間東京しか知らないわけですけれども、そういった、地元に縁があるわけでもないこと、また、2年が任期と決まっておりましたため、地元で受け入れてもらえるのかということなどについても懸念の声、自分が不安なだけでなく、何と言いますか、新しいことをやるとバッシングみたいのがあるわけですけれども、そういった声もありまして、実際非常に心配しておったんですけれども、地元の方はかえって東京の風を新鮮なものとして受けとめてくださいました。
 また、誠実に対応すれば、依頼者の方にしてみれば、敷居が高いというのと逆ですね、かえって、こんな感じですので何でも言いやすいとかいった面もありまして、一方でメリットとなる部分もあるということも実感しました。
 また、地元に縁がないことが、縁がある人はある人でそういった知り合いを伝って、札幌ですとかに御相談にいらっしゃるわけですけれども、縁がないことがかえって相談をしやすいと。どういうことかといいますと、非常に小さいコミュニティーですので、みんな顔を知って、あの人はああいう育ちでこういうことでトラブルになったというのを全く私は知らないですから、非常に相談をしやすいといって来てくださる方もいましたので、本当に、案ずるより産むがやすしという状態でした。
 この状況は、開業から2年を迎えた現在、2年少し経っていますけれども、市役所、消費者センターなどの諸機関だけでなく、以前事件を受けた依頼者や知り合いなどに勧められたといって事務所を訪れる人も増えてきました。事務所も私も、地域に根づいてきたなということを実感しています。
 また、事件の依頼以外にも地域のいろんな団体への参加要請等ございまして、いろんなところに顔を出しました。内容としては、普段の活動のことを話してくださいとか、司法を身近に感じるということで、本当にいろんな地元の社会福祉協議会とか消費者センター主催の講演会ですとか、老人大学とか、そういった名前でしたが、そういうところに講演に行ったりもしました。本当に大役ではあるんですけれども頑張って勉強して、成年後見制度とか男女共同参画といったテーマを絞った話を、勉強を一生懸命して概略を話すというような機会にも恵まれました。
 このように、本当にまさに充実した生活を送りまして、何よりうれしかったのは、相談にいらっしゃった方に、待ってましたとか、相談して解決の方法と方向が見えて本当によかったと言ってくれる瞬間に、本当に来てよかったと思いました。
 それで、あっという間に2年が過ぎまして戻ってきたわけですけれども、たった1年東京で弁護士としての修行を積んだにすぎなかった私ですけれども、2年間、仕事、経営すべてにおいて、自分だけの責任で事務所を切り盛りするという経験をしたことで、バッジを付けたら一人前という自覚を早いうちに持つことができたと思っています。随分、肝がすわってたくましくなってしまいました。これはいいことなのか、よくわからないですけれども、職務上は少なくともいいことなんだと思いますが、これは自分自身のキャリアとして誇れるものだと自負しております。
 また、市民の皆さんの力になれたという手応えは、何事にも代え難い、本当に一生の思い出となる宝物です。
 また、都会暮らししか知らなかった私にとって、地方で暮らすということが、仕事以上に多くの刺激を受けるものになりました。小さいコミュニティーは、社会の仕組みが凝縮されています。人口過疎、不況、雇用の減少、政治、教育、医療過疎、環境問題とか、本当にいろんな問題があって、あげればきりがないですけれども、そういった問題を目の当たりにすることで、今後の日本の行方についても考える材料を多く得ることができました。
 ちょうど私が2年間いたときには、狂牛病がまさにこの近くでの出来事です。それから、北海道選出の議員さんのいろいろな問題等、まさに地元でしたので、そういったこともリアルに感じることができました。
 東京からのものの見方が、いかに中央の身勝手な思考なのかということを思い知らされ、目が覚める思いをたくさんしました。
 これが、私が体験として書いたものの一部抜粋でございます。
 次に、実際の具体的な事件数、内容ですとか、今の現状とかいう形でお話させていただきますけれども、事件数、私がいた2年間で、民事事件の相談事件、相談として受けましたのは527件、受任いたしましたのは199件です。これは1年間どれぐらいかと申しますと、これは法曹関係者の方にお話しすれば、これは多いですねとか、それなりにありますねというふうに言っていただける数字です。資料の方にも、私の紋別だけではない、ほかの地域での相談ですとか実績、数字を載せてございますので、資料の一番後ろに付けましたものですけれども、こちらデータとしては、全国のひまわり法律事務所の皆さんが計算して出したという数字ですけれども、いずれも本当に相談がひっきりなしに、むしろちょっと先に待っていただかないと私、どの弁護士も身がもたないと、そのまま次の日に来ていただいていたのでは、自分がつぶれるという状況が生じております。
 刑事事件の方も、2年間で国選事件は24件、当番弁護は14件ということでした。国選事件は、管内人口が日本でも本当に一番少ないところだと思いますけれども、これはほかの事務所よりもずっと少ない数字になっております。ほかのところはもっともっと国選事件が多くて、それだけで非常に大変なことになっているという状況です。
 それから、当番弁護士、逮捕、勾留段階での出動ですけれども、これも本当に全国に認知されてきて、勾留質問のときとかに裁判官が告げて呼ぶということで、かなりの出動があります。
 事件の内容ですけれども、できるだけ具体的な方がおわかりいただけるかと思って書きましたけれども、貸金、交通事故、離婚、養育費請求、不動産、相続、医療事故、請負、相隣関係、労働、消費者問題など、要するにありとあらゆる相談が寄せられて、必要に応じて受任をしていきました。依頼者の方は個人の方が多いですけれども、会社も相当数ありました。顧問契約はちょっと結ぶことはできませんので、特定の会社の事件を常に受けるということはないですけれども、地元のかなり大きな会社でさえ、弁護士さんにアクセスできないというか、頼むつてがないという状況がありました。
 また、昨今、本当に大きな社会問題となっている消費者金融からの過剰借入でのトラブルが非常に多かったです。特に、恐喝に相当するような極めて高額な金銭を金利として取り立てるようなヤミ金融は、対応する弁護士が少ないということもわかった上で、東京や札幌などの業者が貸付を行って、地域一帯が被害を受けているという状況です。本当に集中的にそこへ行くわけです。ここは食い物にしていいところだというような状況になってしまいます。ある旭川の弁護士が、そういった業者に、この辺は我らの聖域だからと言われて、本当に腹が立ったという話をしておりました。
 そこで私は、ぽんとそこに投げ込まれたような状況で、実際毎日は非常に大変だったんですけれども、そういう状況がございました。
 それから、いわゆる消費者被害についても、人口の過疎の問題も同時にあるような地域ですので、高齢化が進んでおりまして、やはり弁護士介入による解決とか解約とかいうふうになるものの割合が少ないということは分かっていて、それで札幌からずっと、札幌まではバスで5時間ぐらいかかるんです。JRも廃止されておりますので、バスしか公共交通機関がないという、ちょっと考えられないような、イメージしにくい地域ではあるんですけれども、そこから業者がやってきて、印鑑、布団とか何百万で売って回るとかいう形での相談が本当に後を絶ちませんでした。
 このような雑多な事件について、できる限り受任をして解決に努めました。私が介入して、法的に許されないということを相手に説明しただけでも金銭が返ってくるとか、本当にいるだけでというか、いてきちっと法律的にはこうだと告げただけで解決するようなことがあるんだというのを本当に実感いたしました。逆に言えば、それすらなされていなかったということに愕然といたしました。
 それから、数十年来もめていた相隣関係の裁判ですとか、こういったものはなかなかどこに相談していいのかということを、あるいは行政なんかに市民相談なんかに行ってみてはみるものの、結局、司法的に何かやらなければらちが明かないという状況がずっと続いているという事件が随分ありました。それから、遺産分割協議のとりまとめなど、とりまとめというか、受任しての事件解決というのもやはり随分ありましたし、やむを得ず本人で訴訟したりするような方も、そういう率も随分高いんですけれども、差押えですとか、立退きですとか、結局かなり技術的に高度になってきて、どうしても弁護士に依頼しなければ、なかなか大変な着手困難な事件も髄分とありました。
 本当に自分で言うのも何なのですけれども、いずれも現場にいなければ依頼者が泣き寝入りした可能性が高いようなものが多くあって、事務所の開設は、地域に劇的な効果をもたらしたと思います。
 やはり、先ほどの知事のお話にもありましたけれども、実は紋別市は開設するときには弁護士って一体どういう業務をして、どういう存在なのかというところを御理解いただくのが難しいといいますか、やはり訴訟ざたとか、いろいろ借金踏み倒すようなことに手助けをするのはいかがなものかとか、実は面と向かって言われたりしたようなこともあったんですけれども、そうではなくて、法的手段によって、むしろ市民生活を円滑にしていくための国の仕組みなんだということを、2年間働くことで伝えることができたのかどうかわかりませんが、最後は本当に非常に消費者センターですとか、市の関係機関とも連携が取れたり、非常にいい関係になりまして、よかったよかったと市長さんもおっしゃっておられました。
 しかしながら、本当に、時既に遅しといいますか、既に時効を迎えてしまって法的には手を差し伸べられなかった事案もあって、歯がゆい経験もしました。これは、初めて相談するのに、できないとはなぜですかと言われて、時効制度とはそういうものなのですというふうにしか答えようがなく、非常に申し訳ないものも随分とありました。
 要するに、0〜1というのは、地域に裁判所はあるわけですけれども、裁判所に相談にいらっしゃる方がたくさんいるんです。書記官の方などは逆にその対応に苦慮されるわけです。手続的にはこういう手続をとってくださいという説明はできますけれども、あくまでも中立的な機関ですので、こうした方がいいとか、こういう手段をとりなさいということは言えないわけです。一言言えば済む問題も言ってはならないという、非常に歯がゆい思いをされていたところもあるようでして、裁判所からの紹介といいますか、あそこに行ったらいかがですかということで来る方もたくさんいらっしゃいました。
 今の現状ですけれども、旭川の管轄は、4か所のいわゆる0〜1地域を抱えているんです。裁判所があっても弁護士が0、あるいは1人ということです。いずれの地域も旭川から非常に遠くて、稚内にいたっては、旭川から250キロもあって、冬は雪の中赴かなければならない過酷な状況で、現在も2か所は0です。
 旭川については、民事に関しては、市民の唯一の窓口は、市役所が月1回主催している、行政サービスとしての無料相談がございました。旭川から弁護士が交代で赴いていたんですけれども、やはり相談枠とか、あくまでも行政サービスであるということで限界があります。私の方も事務所ができましたけれども、そちらの無料相談は相変わらずいっぱいです。ですので、本当に足りないという状況は変わっていないです。刑事についても、旭川から国選当番ずっと回ってやっていたわけです。
 ひまわり基金という形で、我々が手弁当で、今、開業資金などの援助を受けながらやっているわけですけれども、現在17か所設置されるにいたって、これからもどんどんできていく状況はあるんですけれども、やはり弁護士が1人赴いて、そこに箱をつくって、いろいろそろえてとなれば、500万円くらい資金が必要だということが、今いろいろやってきて、大体これくらいだということになっています。
 運営資金もある程度やはり準備が必要で、どんどん何十か所もあるところを埋めていくということでは、会費から徴収している基金では、到底賄っていくのは不可能です。開設可能な事務所は、やはり限界が生じてくると思います。
 また、この開設というのは、各地域の弁護士会の要請というか、そこで自主的にあくまでも取り組んでいるものですので、要請というか、そういう動きのないところはいつまで経っても開設されないという皮肉な状況が生じます。
 鳥取などは、非常に熱心に取り組んでいただいているところだと思います。逆に言えば、熱心に取り組むところがあればあるほど、本当に裁判を平等に受けられない状況が生じてくるという皮肉な状況になると思います。これはやはり、そういった状況に関わらず、全国で取り組んでいかなければいけないのかなというのが、私が2年間やってみて感じているところです。
 それで、一言ですけれども、任期満了後にちょっと全部見て回ってきたんですけれども、いずれも本当に盛況で、ありとあらゆる相談が寄せられておりました。弁護士が不要な地域がないということは明らかですけれども、一方で、今、我々として、弁護士のみというか、弁護士が手弁当でやっているような状況はもはや限界というか、いつか必ず、実質的にいろんなニーズに応えられないという状況が生じてくることは明らかだと思います。
 本当にいろんなことに国として取り組んでいただきたいと思います。もっといっぱいいろんな言いたいことがあるんですけれども、とりあえず長くなりまして申し訳ありません。報告を終わらせていただきます。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。非常に生々しい体験をお話しいただき、心打たれました。
 それでは、鈴木司法書士、お願いいたします。

【鈴木司法書士】 それでは、皆さんのお手元に資料4ということで、私の説明資料がいっていると思います。それから先ほどお配りいたしました、1ページ目の一番最初に「自己紹介」というところで始まっている資料もお手元にあるかと思いますが、2つをごらんいただきながらお聞きいただければと思います。
 私は、山形県天童市で司法書士をやっております、鈴木晴男と申します。昭和53年からやっておりますので、もう25年になりました。それで、田舎でもこんな事件が日常的にあるんだということで2つ御紹介をしたいと思います。
 「田舎の司法書士の事件簿から」ということで、一つ目は、小さな工場とラブホテルを経営していたAさんは、一昨年、60歳で自殺しました。銀行からもう融資をしてもらえず、街金にも手を出し、資金繰りに苦しんでいたAさんは、M資金という政府の特別の融資を紹介してやるから、政治家への運動資金として2,000万円用意してくれ、とのやくざの甘い言葉を真に受け、街金や親戚を駆け回ったものの、親戚は既に、銀行の保証人になっていたり、Aさんにお金を貸していたりで、結局お金を集めることはできず、ついに自殺してしまったのです。
 そうした融資の話に疑問を持った親戚の1人が、私のところに相談に飛んで来ました。今、うちにこんな名刺を持った男が来ていて、都合してやれないのかと迫られている、どうしたらよいかというのです。名刺を見ますと、菊の紋章の入った大きな名刺で、○○同和会総裁何々と、いかにも仰々しいもので、これはやくざだとピンときまして、食い物にされるだけだから、絶対にお金を出してはいけないとアドバイスしました。
 また、ラブホテルは黒字だったのですが、ラブホテルを経営している有限会社の登記簿謄本を取り寄せてみると、役員は既にやくざのメンバーに変更登記されており、資金を都合してやるからハンコをよこせと言われて、乗っ取られてしまっていたのです。
 このように、弱ったり、死にかけている動物の肉をねらうハイエナのような連中が田舎の零細企業を食い物にしているのです。こんな事態になる前に、もっと早く相談に来てくれていたら、自殺することもないし、民事再生とか破産などの司法手続で処理できたのにと残念でなりません。
 私の知っている天童市内の零細企業の社長だけでも、既に5人自殺しています。全国的にも、交通事故による死者よりも、自殺者の方が多い状態が現在も続いています。
 2つ目は、2年前ですが、80歳になった記念にということで、格調高い遺言書をつくったおじいちゃんがいました。齢80を記念し、家族の幸福を願い云々という遺言です。ところが、昨年、転んで脳梗塞になってから、同居している長男の嫁さんが、おじいちゃん、おばあちゃんを邪魔者扱いし、虐待するようになり、それに耐え切れず、つい最近、長年住み慣れた家を出て、おじいちゃん、おばあちゃんはアパートに引っ越しました。そして、長男には一切相続させないと遺言書を書き換えました。
 これも、もっと早く相談してくれていたら、こんな最悪の状態にならずに済んだろうにと、悔しい思いがしています。だれにでも手を伸ばせば届く司法ネットができていたら、こんな悲劇は起きなかったでしょう。私は、司法ネットに大いに期待するとともに、一日も早く司法ネットを立ち上げるべきであると考え、田舎の司法書士の意見を述べる機会を得まして、感謝しております。
 次に、現在の地方での法律サービスの現状です。まず、地方自治体の相談窓口の現状ということで、2か所について申し上げます。
 私の天童市ですが、人口6万3,000人、人口増加地域ですが、法律相談といいましても、1か月に1回、1時間の弁護士による法律相談があります。1人について10分から15分、2、3人の相談者とで、1週間前までの予約でやっております。相談件数は年々3割近く増加しておりますので、とても対応しきれず、対応に苦慮しているという現状にあります。
 それから、天童市よりも更に北に行きました豪雪地帯の尾花沢市です。人口は2万2,000人、過疎地域です。ここでは1か月に1回ですが、時間は午後1時から3時までの2時間、弁護士さんによる法律相談ですが、その前段として、午前10時から午後1時までの3時間の間に、司法書士による法律相談を行い、事実関係を聞き、整理した上で、複雑な法律関係のものだけを弁護士による法律相談に回す仕組みになっております。そうしないと弁護士さんが怒ってしまうということです。
 相談件数は、やはり年々3割くらいずつ増加しておりまして、これも対応に苦慮している状況です。
 それから、私ども、山形県司法書士会における法律サービスの提供ですが、電話法律相談、それから少額裁判サポートセンター、これにつきましては、資料4の2ページに、山形新聞の記事が載っております。これは少額訴訟制度についての記事なんですが、山形地裁管内でも増えておりまして、私ども司法書士会としまして、少額裁判サポートセンターという組織をつくりまして、私がその所長になっておりますが、少額裁判手続の教示と法律相談を行っております。このように新聞に載りますと、相談がわっと増えるという状態であります。
 次に、弁護士会、税理士会と、私ども司法書士会との三者共催の「くらしと仕事のなんでも相談会」で、資料の8ページ。これはほかにも社会保険労務士さん、土地家屋調査士さん、不動産鑑定士さん、行政書士さん、弁理士さんにも協力を得まして、専門の8士業によります相談会をやっております。多分、このような8士業による相談会というのは全国でも山形ぐらいではないのかなと思っておりますが、昨年で6回になりました。
 これは、時間は午前10時から午後3時までの5時間ですが、午前10時になる30分も前から、相談者が列をつくるという状態が続いております。
 このように、専門士業8士業が集まりますので、事案の内容によりましては複数の専門家が相談に当たることができますので、相談者の満足度が高いということで評価を得ております。資料の9ページに新聞の記事等が載っております。
 法律相談会、これは山形県内の各地域を回ります。特に町とか村とか、そういう山形県の中でも過疎地域を回りまして、相談会を行っておりますが、どこに行きましても、待ってましたとばかりに、相談者が30人程度訪れるという状態であります。
 地域を問わず、多重債務者の問題はどこにでも多いということ、それから、田舎にいってもヤミ金の問題があるということで、都市だけではなくて、田舎においてもヤミ金、クレサラの問題が激増しているという状態にあります。
 成年後見センター、リーガルサポート山形支部は、山形家裁と連携しまして、高齢者の財産管理についてお手伝いをしております。後見人になったりとかで、司法書士として地域において役割を果たしております。
 市民公開講座、これは資料の10ページ、これは市民向けに法律知識の普及を図るということで、山形県司法書士会独自にやっておりまして、既に22回を数えております。昨年度は「あなたを狙うヤミ金融・悪質商法−その手口と撃退法−」ということで、弁護士の宇都宮健児先生の講演をお願いいたしました。
 資料の15ページ以下になりますが、高校生のための身近な法律講座を行いました。山形におきましても、若者がキャッチセールスとかデート商法などの悪徳商法の被害に遭ったり、それから二十そこそこで200万、300万の多重債務者になるという状態が増えておりますから、やはり高校生のときから正しい法律知識を持っていただくことが必要だと考えまして、昨年初めて実施をいたしました。
 山形県の教育委員会ともお話をしまして、山形県内50の高校に全部案内を出し、9校から申込みがあり、この資料にあるような形で実施をいたしました。ただ、今の高校生は、長い話をすると聞いてくれないということですので、会の中でも、私のような年配ではなくて、若手を起用しまして、講演調子ではなくてコントとか寸劇で、飽きさせないように、わかりやすく行いましたので、とても好評でありました。テレビのニュースでも大きく取り上げられまして、大変評価を得ましたので、多分、今年はもっと多くの高校から申し込みがあるだろうというふうに考えております。
 当然のことながら、私ども司法書士はそれぞれ事務所を持っているわけですから、その事務所で法律サービスの提供を行っております。
 住民の司法に対するニーズということですが、山形におきましても司法のサービスに対するニーズはとても多いものがあります。現在、司法書士会として一生懸命頑張ってやってはおりますが、これはあくまでも司法書士会の事業で、ボランティアでありますから、とても住民のニーズの量から見たら、ほんの微々たるものでしかないというふうに思っております。
 例えていいますと、きれいにどぶさらいをする必要があるのに、ほんのわずかしかできていないという状態ですから、ぼうふらがわいたり蚊が発生するという状態だろうと思います。というのは、先ほど申し上げましたような、怪しげな連中が零細企業を食い物にしたり、高齢者が悲惨な状態に置かれたりしている現実があること。それから、相談にみえられる人を見ますと、この相談会がなかったら相談することもなかったのではないかというふうに思われる人が大部分です。つまり、相談する場所があったということによって、相談に来ているということがわかります。
 このように、住民の司法に対するニーズは、まだまだ掘り出されていると言うものではなくて、埋もれているということの方がずっとずっと多いというのが、私の25年間の経験からの実感です。相談に来られた方はまだ幸せな方で、それらの人はいわば氷山の一角と言うことで、埋もれている方がまだまだいるということで、山形県においても司法のニーズは多いということを申し上げたいと思います。
 司法ネットについては、どのような在り方がいいのかということについて、私なりの意見があります。それについては、私のレジュメの4ページ以下、「3 住民の司法ニーズに応えるために−司法ネットのあり方」に記載してありますので、御覧いただきたいと思います。
 以上で報告を終わります。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。こういうことを言うと誤解を受けるかもしれませんけれども、ある意味では“無法地帯”と言ってもいいような状況があるということがよくわかりました。また後で、議論のところでお話しいただければと思います。
 最後になりましたが、熊本日日新聞の高峰さんにお話しいただきたいと思います。

【高峰編集局次長】 熊本日日新聞の高峰です。今日は飛行機で東京にまいったんですけれども、地方に住んでいて、ときどき東京に来ますと、日本には2つの日本があるような気がします。例えば、それは東京と地方という日本です。提出したメモの中にも書いたんですけれども、二極というのが、今度は地方の中で、熊本でいいますと、熊本市内と、今、都市圏という言い方をしておりますけれども、それと今度はそれ以外の地域ということで、県庁所在地に人口が集中して、熊本はざっと190万ぐらい県民がおりますが、熊本市の人口が70万で、大体3分の1弱ぐらいの数になります。
 僕は以前、細川さんが総理になられたころに、ちょうど10年前ですけれども、東京支社に勤務しておりまして、最初来たころはバブルの終わりぐらいのころで、ものすごく円が強くて、世界の富が日本に集まっているような感じがしました。
 ところが、熊本に帰りますと、同じ日本の円ではあるんですけれど、東京で見るほど強くないというんですか、実感がないわけです。どうも、円には東京の円と地方の円と2種類あるのではないかと、当時そんな感じもしまして、そういうことが、どんどん東京と地方の格差が広がっているような気がしています。それにまたプラスして、地方の中でもう一つの中央集権化が進んでいると。そういう意味で、日本が、資料にも書きましたけれども、三極化しているような、そんな気が基本的にはしております。
 そういう感じで、地方にいて、司法制度を考えますと、日本の民主主義というのは一体何なのかなというふうなことを思います。それは、例えば、社会の主人公がだれなのかということを考えるときに、果たして国民参加の機会が本当に保障されているのかどうか、それは例えば、検察審査会があったり、選挙のときに最高裁裁判官の方が審査を受けられますけれども、極端に言ってしまうと、それくらいではないのかなという気がしております。そういう意味で、国民の司法参加の機会がない。なおかつ、その中でも、地方の人たちは、もっとその機会がないという気がしております。
 私は熊本日日新聞に昭和51年に入りまして、主に司法関係を取材してまいりました。熊本は、皆さん御存じのように水俣病がありましたり、免田事件がありましたり、ねずみ講事件がありましたり、大洋デパート火災という100人ほどの方が亡くなられる大きな火災があったり、それからオウム真理教の松本被告が実は熊本出身で、私も、逮捕される前というのもおかしいんですけれども、直接うちの会社に抗議に来て、応対というか会ったことがあるんですけれども、オウムが山梨の上九一色村の前に、阿蘇のところに巨大な施設をつくりまして、これは波野村というところだったんですけれども、事件がありました。それから、皆さん御存じのようにハンセン病というのがありました。割と、熊本というのは、事件が多いところであります。
 ところが、例えば水俣病の問題で言いますと、昭和40年代に被害者の人たちが、今までずっと押し込められてきたのに対して、ものを言おうとする。今の社会でいうと、ものを言うというのは基本的には裁判をするということになるんですけれども、水俣には、しかし弁護士が一人もいないわけです。そうするとどうするかというと、熊本市内の方に来られて、当時、熊本から2時間以上かかるんですけれども、そういうところに来て、弁護士にお願いして、それから弁護士の方たちが水俣に行ってという、これの繰り返しでやっと提訴というふうにこぎつける。ところが、これ余談になりますけれども、加害企業のチッソは、ダイレクトに東京に結び付いておるわけです。実際、裁判があったときは、名前は申しませんけれども、東京で著名な弁護士の方がだっと並んでおられて、受け手の原告の方は、熊本のまじめなというのはおかしいんですけれども、普通の弁護士さんがおられるわけです。そういうのが目に見える形で現出したような気がします。
 そういう意味では、裁判を受ける権利が保証されているかどうかを見るバロメーターの1つとして、私は弁護士の数があるだろうと思っております。資料を出していますけれども、熊本には6つの地裁の支部があるんですが、全く弁護士がいないところが2つございます。ゼロではないけれども1人しかいないのが、また別に3つあります。そのうち、1つは弁護士会がつくられた、先ほど松本先生がおっしゃった公設事務所であります。
 熊本の弁護士は112人おりますけれども、熊本ではこんな実例があります。例えば、法律扶助を考えても、これは弁護士会の責任ではないと思うんですけれども、審査をやるのは本庁だけですね。そうすると、天草だとか、熊本から離れたところの方では、法律扶助を受ける権利がないとは言いませんけれども、受ける機会は極めて限られております。
 ところが、ニーズはないのかというと、ニーズはあるんです。松本先生の資料をお借りして説明したいと思いますが、先ほど松本先生が出された資料の6ページでよろしいでしょうか。公設事務所の数字を日弁連が作成されたものがあると思います。この中で一番下にあります人吉・球磨という、これが熊本でできました公設事務所であります。非常に丸めた数字で言いますと、法律相談センターをやっているときは、相談があったのは200件くらいです。それで、公設事務所ができまして、これは2002年ですか、400件くらいになるんです。そうすると600件くらいになっている、たしかそんなふうに読むことができると思うんですけれども、基本的には、やはりニーズはあると、それに対して受け皿というか、窓口というんですか、今回の言葉で言えば司法ネットということになるのかもしれませんが、そういうものが整備されていないという気がします。
 それで、私の資料で9ページの、これは別に県の弁護士さんを悪く言うつもりは全くありませんが、東京集中を言いたいんですけれども、熊本でも熊本集中を示す一つのケースです。見ていただくと、下の方の欄に、「熊本県における弁護士数の変遷」というのがあります。これは、平成15年に112人で、本庁管内が104名、支部が8名になっています。ところが昭和40年を見てみますと、このときは総数は63人で、支部には実は17名いらっしゃったわけです。昔の方がよかったということではないと思うんですが、やはり県庁所在地に集中化するという傾向が、これを見てもはっきり出ているような気がします。もちろん、この間、今、問題になっています高速道路も含めて、道路網の整備とか、いろんなことが整備されたと思いますけれども、いずれにしても、以前からすると郡部の方におられる弁護士さんが少なくなっているという現実がここにあるような気がします。
 弁護士というと、抽象的な話になるんですが、しかし、本当は地方では抽象的ではなくて、極めて具体的な存在だと思います。先ほどの松本先生の話もそうなんですけれども、人吉の弁護士さんの話でいうと、今まで弁護士がいなかったわけです。そこに弁護士が常駐するようになりますと、それまで事件屋だとか取立て屋とかが来て、いろんなトラブルが地下に潜るような形になっていた、そういうのが、弁護士さんがいるということで、地域の雰囲気が変わってくると。地方にとっては、司法というのは、そういう具体的な話なんです。そして、具体的な話というのは、要は人の話であるという気がします。
 ここで、宮崎さんという方を紹介したいと思います。私の資料の3ページから4ページにあります。宮崎という弁護士が、神戸弁護士会の会長もされた方なんですけれども、御両親が天草におられて、御両親の面倒を見に田舎に帰られた方です。天草はこの方一人なんですけれども、この弁護士の0〜1地区ということで、うちの新聞でエッセイを書いていただいておりますが、本人は、収入が半分になったというふうにおっしゃっておられるんですけれども、弁護士がいることで、その地域がどういうふうに変わっていくかということが、この一つのケースでわかるような気がします。天草は、宮崎先生が来られて、例えば憲法週間があるときは宮崎先生が憲法の講座をされるということが始まりました。それは今まで全くなかったわけです。それが一人弁護士がこられたことで、そういうふうな具体的な動きが出てくる。こういうことが、日本の地方を考えるときの、とても大事なことではないかなという気がしております。
 熊本でも、先ほど言いましたように、弁護士会が公設事務所を設けて、今、1か所が人吉・球磨というところですが、人吉・球磨というのは余談ですけど、非常に球磨焼酎のおいしいところなんですけれども、ここは設置済みで、もう1か所、今、新しく要望をしております。ここでちょっと悩ましいなという、今回出てくるときに考えて思ったんですが、こういう制度の拡充は、実は本来どこがやるのかという問題があるだろうと思います。弁護士会ではなくて、本当は、国や自治体ではないのかという議論もあると思います。
 ただ、いずれにしましても、とにかく今を変えないことには、こういう不平等がずっと持続するわけですから、国は国、自治体は自治体、弁護士会は弁護士会ということで、それぞれがもっと有機的なつながりを持って、取り組んでいっていただければという気がしています。基本的には、その役目は、やはり国なんだろうという気がします。国がどう関与するかというのは、もっと議論をすべきだろうと思いますけれども、ともかくベースは国だろうという気がします。とは言っても、現実にやはり地方に人がおりません。おりませんというか、出て行って帰ってこない訳です。結局のところ、人の問題だろうと思うんです。被疑者弁護というのが制度化されたときに、果たして地方はその人を確保できるのか。そこのところをみんなでちょっと考えていかなければいけないと思います。
 私は、今、これは田舎に住んでいるから言うんですけれども、新聞の見出し風に言うと、「地方は知のフロンティア」という言葉を、ちょっと使わせていただきたいと思います。これはある弁護士さんの言葉なんですけど、熊本でいいますと、取材していても、さっき言いましたように水俣病があったり、ハンセン病があったり、あるいはじん肺の問題があったり、さっき片山知事がウランの話をされたんですけれども、全国各地にいろんな問題が多分あるんだろうと思います。そういう問題をちゃんと法律の中に乗せていくのかということを考える時期に来ているような気がして、そのために、やはり弁護士さんどんどん熊本に来てください、どんどん地方に来てくださいというふうに呼びかけたいと思います。
 地方というのを考えるときに、これは誤解を少し生むかもしれませんが、例えば1票の格差というのがあって、それはそれでとても大事なことだと思うんですけれども、それと同時に、例えば考え方として、その地域を何人で支えているかという、そんなふうな考え方もできないかなという気がしています。例えば、ある中山間地におばあちゃんが一人住んでおられます。このおばあちゃんは私の知っている人なんですけれども、子どもさんは東京に出ておられる。そのおばあちゃんは、1時間に1本来るバスを待って病院に通う日常です。今日も乗ってきたんですけれども、山手線というのは便利ですね。前の列車の終わりが見えるころには次の電車が入ってくるような、そういう生活を東京はしていて、それはそれで、この成果は国民みんなの結晶というんですか、トータルとしてそういう社会をつくったんだと思うんですけれども、逆に、おばあちゃん一人がその集落からいなくなったときに、その集落は人がいなくなるわけです。そうしたときに、そこが荒れていくことの問題というのか、そこで地方の風景は、おばあちゃんがいなくなることで確実に変わります。そこをやはり今、止められるかどうかという瀬戸際に地方はあるような気がします。地方を豊かにしないと、今、言われている日本の再生とか、そういうことができずに、むしろどんどん衰弱していくのかなという気がします。
 医療と似ているんですけれども、司法もそういう視点から考えていただきたいと思います。どんな制度を描くのか、どのくらい金をかけるのか、とても大きな骨太のというか、スケールの大きい議論をこの場でどんどんされていっていただきたいと思います。
 これは、私が取材をして、1つ感じたことです。先ほど片山知事もおっしゃったように、大体司法関係の方は敷居が高いです。そして、やはりプライドも高いと思うんですけれども、加えてもう一つ、宣伝下手ですね。極めてPR下手だと思います。実は、私は3年ほど前に、熊本家庭裁判所の当時の所長さんが改革に熱心な方で、家裁委員というのがあるのを知っていますかとおっしゃられて、私も知らずにですね、昭和23、24年ですかね、家裁委員会制度ができて。そこに今まで登録されている、熊本の場合、うちの新聞社は、社長の名前が入っている。あるいは、実務的ではないというんですかね、要するにそういう方たちがだっと15人か20人くらいだったですかね、名簿がありまして、それを変えたいんだと、もうちょっと実務的な話を私はしたいんだというふうに家裁の所長さんがおっしゃって、改組されました。私は初めて出て、そこで家庭裁判所の実情だとか、いろんなPTAの方も入って議論をしました。
 こういう議論をもっと、クローズにせずに、一般の人が見れる形にするとかしたらどうですかと言ったんですけれども、いやそうするところまではなかなか、そこまではまだやりきれぬ、ということで、それは非公開で終わったんですけれども、いずれにしても、現在ある機能だって、まだ使えばいっぱい使えるところがあると思うんですね。そういうのを意識的にどんどん変えていくことで、多分、次のまた展開が見えてくるような、だから今、2つ考えてほしい、つまり、新しいものをつくるということと、今あるものをどう使っていくかという、この2つの点を同時に考えていただければと思います。
 私の発言は以上です。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。司法をめぐる三極構造といいますか、構造的な問題をお話しになりました。それから、弁護士がいるかいないかということが、抽象的な問題ではなくて、本当に具体的な問題なんだということを、先程の松本弁護士のお話と併せて、大変印象深く伺いました。
 それで、最初は3つぐらいの問題群に分けて、それぞれ意見の交換をと思っておりました。1つは、司法の現状、法律サービスの現状、司法のニーズがどうかという点。第二に、司法過疎を克服するためにどういう取組みの現状にあるのかという点。第三に、今後何をなすべきかという点。この3つに分けて、それぞれ意見を交換しようと思っていましたけれども、ただ今4人の方から非常に熱のこもったお話をいただきましたので、それはもう分割しなくて、併せて更なる御意見、あるいは御質問とか受けて、意見を交換したいというように思います。
 私の経験なんですけれども、司法制度改革審議会以来、司法の拡充、拡充と言うけれども、本当に地方にどれだけの需要があるんですか、観念論ではないですか、という意見をよく聞きました。それから、自治体はそれなりに、また弁護士会もそれなりに努力しておられるので、国がそんな本気になって、しゃかりきになってやる必要があるんですかという話も、政治関係の人、マスコミ関係の人をはじめ、いろんな層の方から聞きました。そのとき、そんなことはないと言ってきましたけれども、やや実感に乏しく、何となく迫力がなかったんだろうと思います。今日のお話を伺って、本当は予想以上のすさまじい状況にあるのではないかということを、改めて実感させられたように思います。
 先ほど申しましたように、日弁連もひまわり基金を使って16−審議会のとき、私、浜田に視察に行ったんですけれども、あれが第1号だったですね−もう既に現在17になろうとしているということでありますけど、弁護士会はそれなりによく努力されている、あるいは司法書士会の皆さんもそれぞれ懸命に努力されているということを伺うと同時に、やはりそれだけでは十分に対応しきれない問題もあるのかなということも、併せて認識した次第です。せっかくの機会でございますので、顧問の方々、それから法務省、最高裁判所、日弁連の方もいらっしゃっておりますので、御遠慮なしに、時間も限られていて恐縮ですけれども、御遠慮なしに御発言いただければと思います。
 では、どうぞ、どなたからでも。どうぞ、小島顧問。

【小島顧問】 実は我が社自身が裁判ざたになっていまして、にわかに大変身近に司法を感じているところであります。それは別としまして、4人の方から大変、非常に勉強になるお話をいただきました。司法を横糸に日本社会の本質をずっと議論していただいたという感じです。インターネットが普及して、デジタル・ディバイドということが世界中で議論されていますが、司法のディバイドといいますか、ジュディシャル・ディバイドというのは、これは個人の間、あるいはいろんな団体の間、そして地域の間で、これはかなり深刻な問題ではないかという、恐らくこれはほうっておくと格差がついて、司法弱者がどんどん増えてくるのではないかと、そういう印象を得ました。やはり、本当に弱者をつくらないための法治国家が、生き生きとした社会につながるような仕組みなり、社会的な努力をそれぞれの部署でやる必要があると、何も国だけの責任ではなくて、やはり社会の意識改革みたいなものが必要だという感じがします。
 あともう一つ、片山知事の話も非常に、特にこの行政訴訟の件で、行政のトップがあれだけ積極的に目線を住民の目線にまで合わせて、議論をされてやっておると、非常に印象的でした。日本の社会というのは要するに非常に縦型社会で、司法、いわゆる行政の上にあって、法律もいろんな制度も住民というか、大衆を統治するような発想というのは、ずっと続いているわけです。憲法その他、制度的にはそれがなくなっているはずですが、意識としてまだ残っているし、それから法の執行においても、運用においても、解釈においても、まだ残っている面があるわけです。
 そういう中で、行政訴訟について、知事がああいう発想でアプローチしていらっしゃるということは、非常に新鮮な、うれしい驚きでありましたので、是非地方レベルでも、そういう意識改革を、県に限らず、広げていっていただきたいと。恐らくそれが、本当の意味での法治社会に日本を持っていく、重要なアプローチだと思うんです。
 どうも雑駁な印象ですが、そんなことだけお話ししてあと失礼させていただきます。済みません。

【佐藤座長】 私も同じような印象をもちました。是非片山知事のようなお考えを、ほかの知事さんの間にも広げていっていただきたいと思います。何かそうした可能性とか、もし御意見がありましたら。

【片山知事】 自分が一人の市民として、住民として、国民として、この日本の中に住んでいるわけですね。今は知事をやっていますけれども、いずれ一市民です。そうなったときにどんな社会がいいだろうかということを考えたら、やはり行政は、優越的でない方がいいと思うんです。行政は、自己完結的ではない方がいいと思うんです。ところが、日本の行政というのは、もう霞が関が典型的ですけれども、すべて自給自足の自己完結型を目指しているわけです。立法もしているし、運用もしているし、トラブル解決まで全部自分でしようとする。
 ちょっと申し上げにくいですけれども、例えば、個人情報保護法で問題になった第三者機関にするか組織内でやるかというのもそうだと思うんですけれども、どうもすべてを自分で取り仕切ろうとする。最近世論までも根回しだとか談合だとかで、この委員会は違うと思いますけれども、大宅さんのおられた委員会とか、このビルの上にある地方分権改革推進会議とか、とにかく役所が大攻勢をかけて、世論までねじ曲げてしまうような、そういうすべてを支配しようとするのは絶対いい国じゃないんですね。だから、みんないろんな多様な意見が自然に出てきて、それでそこは必ず価値観と価値観がぶつかりますから、そのときにはちゃんとレフェリーが公正に判断をする。それに従うという社会にしなければいけないと思うんです。
 ですから、私は私なりに実践していまして、なるべくこの地域をよくしようと思っていますけれども、本当は、大臣がおられますけれども、政治がやはり役所をもっと変えることを皆さんでしていただかないといけません。霞が関を変えるようにしていただくのが一番早道だと思うんですけれどもね。

【佐藤座長】 どうぞ、笹森顧問。

【笹森顧問】 それぞれお聞きしたいんですが、最初に片山知事にお伺いします。その前に、御訪問したときに、いろいろ意見交換をさせていただきまして、ありがとうございました。
 先ほどの説明を伺っていまして、そのときに話が出たことで、特にレジュメの3.のところにある、「国に対して訴えも辞さず」、これは率先してやられた例として、例の中海の干拓工事中止の、いわゆる国策変更に伴う地域要請が中央にどう対応するか、非常に先駆的な役割を果たして今は無事に解決できたというふうに聞いておりますので、率先しておられるなというふうに思っているんですが、それは別にしまして、その中で行政のトラブルは司法にも上げられないと、お話の中には、実用的に利用できる社会をつくるために司法をもっと身近にしていくんだというお話がありました。
 ほかの方の説明の中にもあったんですが、自治体、地方行政としてやられている法律相談サービスの問題について、これが地方主権をもう少しきっちりとやっていくようになると、地方自治体そのものが、そういう司法機能を有するというような方向を強めた方がいいんじゃないかなという気もするんですが、その点に関してひとつどんなお考えがあるか。
 2つ目は、これはもう既に実施されていると思うんだけれども、鳥取県では、条例公布方式の改革をされたというふうに伺っています。これは今、中央段階でも、自民党の部会等でも検討されているようですが、ビジュアルでわかりやすくて、市民が活用しやすい、そういった法律的には新旧対照の比較が今のような法律条文の中に書かれないとか、いろんなそういうやり方があると思うんですけれども、これについて実際的な効果がどんなふうになっているか、このことについてまずお伺いをしたいと思います。
 松本さんには、大変御苦労なお話、生々しいお話で感動しました。それで問題は、ワン地域の場合に、これは高峰さんの方のお話にもあったんだけれども、被告と原告がおりますね。これに対してどういう対応になっているのか、それから今まで扱った中ではどちらの方が多いのかなと、では、その片側の人に対しては、どういうような弁護措置が付いているのか。
 今回、代わられたわけですが、今、常設機関としてではないと思うんだけれども、この公設のところに対して、ローテーションはきちっとかかっているものなのかどうか、それから残されているところがまだ十何か所かあるというふうに説明があったんですが、ここはお仲間の中で必ず埋められる方向に行くかどうか、今のような需要があったとすると、これはもう非常にこれからの効果的な弁護士活動をやるということについて、極めて重要なことになっていくと思うんですけれども、そういうことについて実態的な感想の中でお聞かせをいただければと思います。

【佐藤座長】 どうぞ、片山知事。

【片山知事】 最初の、地方の役割を単なる相談機能からもっと地方が司法制度の一端を担ったらどうかということかと思うんですけれども、そういう考えもあると思います。例えば、連邦制の国家のアメリカなんかそうですけれども、連邦が司法をやっていますし、州もやっています。ですから、我が国もそういう意味での分権をもっと進めて連邦型にしようというような発想になって、司法も内政として連邦を構成する地方が担うというやり方もあると思いますけれども、日本ぐらいの37万平方キロで連邦型国家というのは、ちょっと飛躍があるのかなと私は思います。
 ただ、一番最後に申し上げましたけれども、今の裁判のスピード感のなさは何とかしなければいけません。これが自治体の行政だったら、絶対こんなのはほうっておかれません。それは、もし県の仕事でこの司法をやっていて、こんなスピード感のない分野があれば、もう当然話題になって、問題になって、改善をしています。やはり司法は中央政府がやっておられて、ちょっとやはり鈍感な面があるんだろうと思うんです。
 もう一つは、裁判制度がデモクラシーではありません。総選挙のときに、最高裁の判事の名前の上に×を付ける制度がありますが、あれぐらいなんですね。あれぐらいの形骸化したものですから、デモクラシーがほとんど作用してない。だからデモクラシーをもっと注入させて、民意に敏感になる。社会が停滞していることに対してもっと敏感になる仕組みを設けることによって、今の司法制度をリバイズしていくということの方がいいのかなという気がします。
 それから、条例のやり方を変えたと、今、笹森顧問から御紹介があったんですが、鳥取県では、条例の改正のやり方というのを、一部改正方式という内閣法制局でやられて全国でやっている、かぎ何々閉じかぎを、かぎ何々閉じかぎに改めるというやり方をやめまして、現行の条文を右に書いて、これを左に書いている新しい条文に変えますという、要するに新旧対照表を本文とするやり方にしました。
 これはいろんな効果がありますが、非常にわかりやすい。それから、立法改正作業が簡単ということです。なぜいまだに内閣法制局なんかあんなにわかりにくい、だれが見てもわからないかぎかぎ方式をやるのかなということなんですけれども、これは参考までに御紹介しておきます。要は、あれは明治時代の一番合理的なやり方なんですね。明治時代のツールというのは墨です。ですから、条文を書き直すときに、新旧対照でやると全部書かなければいけないわけですね。例えば、一字を改める場合にも、新旧対照でやると全部書き換えなければいけないわけですね。だから、そういう手間を省くために、改正の作業を経済的にやるために、字数を少なくするために、一部改正方式を取っているわけです。それは、ガリ版でやっていた時代も通用しています。同じことですね。
 ところが、今ツールはパソコンになっていますから、一字どこを変えたって、全体が滞りなく動いてくれるわけですね。そんなときに、字数を節約する意味は何もないわけです。それよりも、わかりやすさの方を優先した方がいいだろうということで、私の県では、条例の改正方式を新旧対照方式にしました。県議会でも評判がいいですし、それが県公報を通して官報と同じように県民に見てもらいますけれども、関心のある方からは評判がいいです。内閣法制局も是非そういうやり方をされた方が楽なのになと思って同情しているところです。

【松本弁護士】 では、私の方から3点についてお答えいたします。まず、始めは双方代理の問題であると思いますけれども、一言で言えば、やはり0〜1というだけであって、1人ではもう一方のニーズには応えられていない。つまり足りないということになっているわけです。具体的に、私が仕事の中でどのように対応していったかと申しますと、先にひどいことがあったと訴えられて、相手の悪い方に付いてしまったみたいな、そういう事件というのは、こちらに付いたがために相手方に非常に不利益な結果を生じさせてしまったというようなことは、たまたま2年間の間にはなかったんですけれども、潜在的にはそういう事態が生じる可能性がありますので、足りないということになりまして、対応していたのは、月1回行われている行政での無料法律相談の方は、私が担当しないことにしまして、もう一方の相談が同時に来てしまった場合には、申し訳ないけれども、弁護士というのは双方受けることができませんので、そちらにまず相談に行ってくださいというふうにして、対症療法的に行っていたということです。
 ですので、やはり問題としては2人いなければいけないと。ただ、だからと言ってゼロではない、1人置いたら問題が生じるかと言ったら、そういうことではないですけれども、足りないということになります。
 それから、ローテーションの問題、交替の問題ですけれども、私のところは、次また東京から後輩が行ったわけです。やはり事件については、引き継がなければいけないような問題というのは生じますけれども、そういうことだということでもう納得していただくしかないんですけれども、きちっと引き継げるような形で、依頼者の方とも信頼関係を築きつつ、次に来る弁護士と期間を重ねましたので、打ち合わせの期間等を実質的にしっかり設けまして、引継ぎをいたしました。
 やはり役割としては、弁護士というのは事件を聞いて、訴訟なり何かに乗っけていくわけですから、多少違うと思いますけれども、裁判官、検事も転勤はするわけで、それで次の方が事件を引き継いで解決ができないかといったら、全くそういうわけではないわけで、それはちょっと発想としてそういう割り切った発想でやって、特に依頼者の方を何十人と抱えていたわけですけれども、それによってのトラブルが生じることは全くございませんでした。
 最後、大きな問題ですね。今後の人の確保というのが、実はこれは制度上の一番大きな課題でして、大きくはどういう青写真をつくるか、どういう制度をつくっていくかとまさに一体となっている問題だと思います。これは、本当に21世紀、弁護士がどういうふうに働いていくか、法曹関係者がどういうふうに仕事をして、どういうスタイルで、どういうふうに仕事をしていくかという問題なんだと思います。
 我々弁護士は、これまで一言で言えば中小企業の社長の集まりと、個人で経営して、顧問を持って、個人レベルでお客さんを持っているわけですから、まさに食べていくそれ自体がそういう働き方でもってやってきたわけで、ほかにいろいろ、例えば諸機関なんかの公的な職務ですとか、それこそ裁判官に任官するとか、いろんな働き方という流れを持つような働き方をしてこなかったわけですけれども、こういった制度、例えば地方に行くとか、何年かローテーションを組んでまた都会と地方と流れをつくって、中央に何か核となるような弁護士集団をつくって、その人が地方に行っていろんな研さんを積んで、またそれを生かして何か職につくとか、それこそ裁判官になるとか、また裁判官がそういった地域の、本当に市民の方からどういう法律相談があるのかという意味では、例えばそちらからの流れをつくるとか、いろんなやり方があるんだよと、むしろ弁護士かボランティア的に司法書士と同じですけれども、そういうふうにボランティア的にやっていたのではなかなかできないようなことを、制度としてむしろ国に投げかけていただいたり、弁護士全体でどういうふうにやっていくかというのをつくることで、人は大きい目で見れば若手はそういういろんな働き方ができるということを提供してもらえば、それは非常に自分のキャリアアップ、あるいは非常に使命感を持った人は必ず何人か何十人出てくるとは思います。その辺非常に抽象的な話ですけれども、行ってみて、また私がこれから取り組んでいく問題として、人の問題はそのようにとらえております。

【佐藤座長】 関連してですけれども、こういう考え方がありますね。法曹人口が増えると、これからかなりのスピードで増えていくと思いますが、増えてくれば、地方の法曹過疎の問題もおのずと解決していくんじゃないか、と。また、司法書士さんも、これから簡裁の訴訟代理権を持つようになって、かなり戦力として強いものになっていくんじゃないか、と。そういう主張があるんですけれども、さっきお二人のお考えを聞くと、そう生やさしいものではなさそうだという気もします。何かその点について特にコメントなさることはありますか。

【松本弁護士】 あります。要するに、我々も個人商売でどこからお給料をもらえるわけでもないですから、そうすると今、企業内弁護士ですとか、都会だけでも大きくニーズがありますから、若い人はどんどん増えても増えただけ流れる恐らく受け皿があるんだと思います。
 あと一つ発想として、今の、人口が増えれば地方に流れていくというのは、非常に地方にしてみれば、ばかにするなという、食べていけなくて地方に流れていく、そういう発想自体が非常に腹立たしいというか、むしろ最先端として行けるように。だけど行けないというのは、やはりいろいろ現実問題としては自分の人生ですね。ここにいる皆さんが開業して、自分で0〜1に行ってくれと言われたり、あとそこで生活をしてくれと言われたときになかなか、何というか、それは非常に行ってみたらいいかもしれないけれども、何も縁のない人が飛び込むことは非常に難しい。
 だから、やはり法曹人口が増えたとしても、その増えたいい質の方をどんどん地方に振っていくというための制度を、むしろつくるというのがすごい大切なんじゃないかと思います。

【鈴木司法書士】 それでは、私の方から、今、佐藤先生からそういうお話がありましたが、私の実感としましても、現在簡易裁判所の事件はクレサラ事件で占拠されたような状態。それから、法律扶助事業も、自己破産の事件で予算を使って、それだけでいっぱいということで、本来扶助すべき民事事件にまではお金が回らないという実態なんです。もうクレサラ事件でいっぱいという、簡裁、法律扶助がですね。ということは、私から言わせると、本来のいろんな司法のレベルに乗ってきて、そこで解決されるべき事件がうずもれているという、表面に出てこないという実態があるわけなんで、だからクレサラ事件だけではなくて、もっといろんな事件が司法のレールに乗ってくるというシステム=司法ネットを構築していかないと、司法書士が簡裁の訴訟代理権を持ったというだけでは解決されないと思います。

【佐藤座長】 大宅顧問、あるいは。どうぞ、奥島顧問。

【奥島顧問】 松本さんと高峰さんに御質問したいと思うんですが、私は昔から弁護士と医者だけは、「産めよ増やせよ地に満てよ」という考え方であって、とにかく増やさなければいけない。要するに、資格を持っているだけで食っていけるというような状態であるから日本はだめなんだ、というふうに昔から思っているわけでありますけれども、そういうことを言ったらばかだといわれたり、そんなことを言っていたら法学部の地位が落ちるなんていって先輩から随分叱られたこともありました。
 しかし、だんだんそういう方向が少し見えてき始めて、環境がよくなってきたわけですが、そのときにこの現状で、例えば私の親戚がゼロ・ワンのゼロのところに、四国の大洲というところですけれども、開業して、どうだといったら、もう猛烈に忙しいと、日曜・祭日がないという話をしておりまして、それは地元で開業したということですけれども。そのうちに、やっとお兄ちゃんもう一人来てくれたよといって、非常に喜んでおりました。2人になって大分仕事が分担できるようになったということでありました。
 いろんなところで聞いてみますと、地方で私の教え子の弁護士たちの話を聞いてみますと、地方の弁護士たちの人数が増えることをみんな喜んでおります。ところが、東京で聞くと、いきなり私の弟子たちも言うわけですけれども、先生そんなに人数が増えたら我々が食えなくなってどうするのというふうに、意外と都会の弁護士たちはそういう反応をするわけですけれども、地方の連中は心細くてしようがないという状況のようであります。
 つまり、そういう実態にあるということが私の頭にあったものですから、増やす必要があるというふうに思ったんですが、その際において私が一番考えておりますのは、単に増やすと言っても、普通に増やしてしまうと東京ばっかりでまた弁護士が出てしまったら、みんなここを動かないんじゃないかということがあるので、恐らく今のロースクールの適正配置という地域的な配置というのもそういうことを考えているんでしょうが、これはこれでまた日本はそんなに広くないですから、一番易しいところにみんな受けに行って、その地域の人たちはだれも入らないなんていうことが起こってくるんでしょうから、そう簡単に事柄が進むというふうには思っておりませんが。
 1つには、やはり地元で頑張ろうという人が入れるようなシステムというのも、これはやはりロースクールが今までのような、適性試験はともかくとしても、単なるペーパーテストだけではなくて、ある意味の一種のアドミッションオフィス方式なんかをかなり重視してやるというような形になれば、そういうことも少し考慮されるようなこともあり得るのかなというふうにも思っておりますが。
 そういう中で、私は松本さんにお聞きしたいのは、松本さんが北海道の紋別でもって大変感動的な体験をなさった。しかし、そこで居ついてやっていこうというふうにはお思いにはならない。それは、どういう問題があるからなのか、これは松本さんのことではなくて、地元出身の弁護士の場合を考えてみてください。松本さんの場合はそれが普通なんですから。地方に根付かないのはどうしてなんだろうということについて、松本さんはどういうふうにお考えになっているか。
 それから、高峰さんの方には、やはりその地域に宮崎さんがお帰りになったわけですね。しかし、宮崎さんも、最初から地域で頑張るつもりはなかった。しかし、最終的に親の面倒を見るということでお帰りになったと。そういう方がいて開業されると、その地域の人であるからこそ、すぐにその地域に入り込んでいくことができ、またお仕事がお忙しくなり、そしてまたその地域の人から非常に頼りにされるような形で急速に入っていくことができた。というようなことを考えてみますと、法曹養成について、先ほど申し上げましたように、ロースクールの適正配置というようなことについてどのようなお考えをお持ちであるか、というようなことについてちょっと御意見をお伺いしたいと思います。

【松本弁護士】 まず、私から、居ついてやっていこうというふうに思わなかったというのは、いろいろ一言では申し上げにくいですけれども、まずそもそもひまわり基金の制度として、常にその人が1回行って、死んでしまって、はいまたゼロというふうに、そういうことではなくて制度的に法的サービスを供給していくという趣旨でやってみようといった制度でしたので、そこについては意識的に交替ということも、逆に意識して、それで実際市民の方がそれによって余所者ということで相談をしないとか、余り地元の事情とか、独自の風土とかをわからないから余り相談に来ないのかとか、そういうところも比較的実験的だったんだと思います。そういうことで、行って帰ってくるということを前提にしておりました。
 そして結果的には、そういうふうに地元じゃないからといって、相談に来なかった方もいらっしゃったんだと思います。やはりいろいろな自分の仕事上の縁とか、もっと素性のわかる弁護士を頼って行っている人もいたようです。でも、それ以外のニーズでもう手いっぱいでしたから、こういうやり方もまた1つの弁護士の地域への法的サービスの在り方なのかなという認識で臨んでおりました。
 あとは、やはり常駐するというのは、どこかに住んでいて、そこに相談をしに訪れるということではなくて、2年間住んでいたわけです。ですので、弁護士としてというより、居つかなかったというのは、個人的な、自分としてのどういうふうに人生をどこで送りたいかとか、そういう問題とも、本当に人口の過疎とかの問題になると思うんですけれども、いろいろいる中では考えました。このままいようかとか、本当に自分の人生をどこで送ろうかということを考えましたけれども、やはり先ほどいった戻ってくるということでやってみようという点と、あといろいろ、ちょっと単身赴任で夫を残して行っていたという事情もございましたので、そういうこともありまして、戻ってきたという次第でございます。

【佐藤座長】 ちょっとよろしいですか。高峰さんにお答えいただく前に、御相談ですが。今日の予定は一応6時になっているんですけれども、それぞれ御予定がありましょうから長く延長するということは控えたいと思いますが、どの程度まで時間を延ばしてよろしゅうございますか。10分ぐらいまでだったら許容範囲ですか。
 よろしゅうございますか。では、6時10分までということにさせていただきたいと思います。

【高峰次長】 先ほどの先生のお答えで、熊本の実情をひとつ数字で御説明したいと思います。熊本市がやっております法律相談を調べてまいりましたらば、昭和45年にスタートしているんですけれども、昨年の5月までは月・水・金という週3回だったそうです。1日8人受けているということで、午前中電話で事務の人が受けて、午後から直接弁護士さんが20分相談を受けると。ただ、これがずっと満杯状態で、もっと増やしてくれということで、去年の6月から第4火曜が新たに追加されたということです。ざっとした計算をしても月に100人以上御相談を受けていると、それでもまだ賄いきれないという実情だそうです。
 それから、ロースクールの問題は、実は非常に私たちも悩ましいなと思っております。先日共同通信が調べたもので、九州でいいますと、今の国立大学は、九州大学と熊本大学と鹿児島大学です。それと、福岡の私立が3つ入っております。これで見るとわかるように、結局、福岡・熊本・鹿児島というところがロースクールというふうになってしまうわけですね。そうすると、それ以外のところも当然あるわけで、その辺がどんなふうに今後運営されていくのかというのは、ちょっと見ておかなければいけないなと思います。ただ、基本的には、私どもとしては、今までその制度はなかったわけですから、現状よりは弁護士が増えて少しでも進むんだろうという感じで受け止めています。それがどんなふうになっていくかというのは、私たち新聞社としても、実情を見ながら発言していこうかなと思っております。総体としては、ゼロよりちょっといいんじゃないかというところです。

【佐藤座長】 ありがとうございました。大宅顧問、いかがですか。

【大宅顧問】 ごめんなさい遅れまして、私の会社の方でどうしてもこれをやらないと1年食えないというイベントがありまして、それで出ざるを得なかったんですが、お話を伺っていて、さっきも知事からお話がありましたけれども、高速道路の比じゃないわけですね。一般道路もないという感じなわけですから、ものすごいインフラの欠如というのが実感です。
 ただ、私は、何しろ今まで国の運営というのは、上から配給して、お仕着せで、これが要るはずだとか、こんな不足があるからこうなるはずだというのでずっと運営されてきたことがすごく問題があって、私のところに弁護士がいないのどうしてくれるのと声が挙がってきて動き出すのが本来民主主義国家のあるべき姿じゃないかとずっと思っていて、つまり個人の発意というのが先にあるはずなのが、また今、あんたたち困っているはずですという辺がちょっと引っかかるんです。
 ですから、さっきもちらっと話が出ていましたけれども、需要はあるのかというのに引っかかってはいたのですが、知事のところにも裁判ざたという感じから、社会の交通整理だとおっしゃるんですけれども、つまり裁判ざたが埋もれているはずで、それを掘り起こす必要がどこにあるのかなという、基本的にはどうしても個人の発意が要る。ただ、こういうふうに言うと、必ずおっしゃる方がいらっしゃるんです。そういう意識を変えるためにも制度が必要ですと、必ず言うんです。それはすごく危険な言葉のレトリックなんじゃないかと思います。
 要は、ないよりあった方がいいに決まっているんで、ともすると、何か無理やりつくってしまって、何か動きが取れないような形になって、むだ金が使われるということをすごく恐れます、むだなお金とか、人の配置とか。なるべくなら緩やかな形で、もう要らないところはすぐどくとか、何か移動のキャラバンとか、その代わりニーズがあるところには即行けるようにするとか、本当にハードとか事務所とかそういうものなしで、今はこれだけコンピュータを使ってやれるわけですから、そういうものがあったときには動ける集団がつくってあって、さっきも松本さんが言われた、何か動きに行けるというような、なるべく緩やかな、上手なお金の使い方ができる形がいいなというふうに私は思っています。

【片山知事】 大宅さんの言われることは、やはりかなり実感とは違いますね。といいますのは、私発言したとき大宅さんおられなかったのでよく理解していただいていないんでしょうけれども、やはり潜在需要はあるんです。それは行政が掘り起こして出す需要じゃないんです。調査をしてみると、やはりあるんです。それは弁護士がいないことによって泣き寝入りというか、アクセスができないから潜在のままで終わっているということです。松本さんのように弁護士がそこに、0〜1のところに行かれたら、どっと顕在化してくるんです。それは私のところもそうなんです。弁護士が、0〜1じゃないんですけれども、ごく少数しかいないところに弁護士が1人投入されたら、彼のところはやはり仕事がいっぱい増えてくるということなんです。
 ですから、小島さんが言われた、まさにデジタル・ディバイドと同じような司法サービス・ディバイドがあるんです。しかも、そういうところで泣き寝入りしたり、アクセスできない人というのは声として出にくいんです。政治の世界に届かないんです。私、弁護士がいないからそのサービスを受けられないんですといって、国会議員に言わない人なんです。そういうところの需要を、やはり政治というのは敏感にキャッチしないといけないと思うんです。声がないから放っておくとか、そうではなくてやはり社会を公正にする、社会を明るくする、伸びやかにするという意味では、もっと政治の方から鋭敏にならなければいけないと私は思います。
 もう一つは、大宅さんは多分、自由に任せていて、田舎の方に弁護士がいないのは勝手じゃないか、市場経済の原理だと言われるのかもしれません。完全に自由な制度だったらそうなんですけれども、実はこれは供給を国が制限しているわけです。司法試験という関門があって、全体の総量は規制されているわけです。その中で出てきた人が大都会にどっといるわけです。
 ですから、これを完全に自由にしたら、多分食えない人は東京から地方に流れていくと思います。ですけれども、総量規制をしていますから、地方に流れるほどまだ大都会の方では過密になっていない。ですから、国が全く規制をしてない分野だったら私は自由でもいいと思いますけれども、国が参入規制や総量規制をしているからには、やはり過疎と過密の問題の解消も、国が制度の一環として考えなければいけない分野だと思っています。

【佐藤座長】 法務省、最高裁、日弁連の方々は、いかがでしょうか。せっかくの機会ですから。時間も限られていますけれども。

【但木法務省事務次官】 私の方が司法ネットを考えている一人の役人として、今日は本当に私は皆さんのお話を聞きたいと思ってまいりました。本当に役に立ったというか、私にとってはこういうふうに考えていかなければいけないんだという、いろんなきっかけを与えてもらったと思います。
 一つは、片山知事が言っておられましたように、司法教育というのは、三権分立があって、裁判所があってと、こういう教育をしてきたと。でもそうじゃないんじゃないかと、自分が高額の高利の金貸しから要求されたときにどうしたらいいのか、あるいは、自分の土地にヒ素が混入されて、自分の井戸水にヒ素が混入されてしまったと、これはどうしたらいいのか、そういう一人ひとりの法的生活を守るためのサイドからものを考えるべきで、司法教育もそれをまずやらなければいけないんだと、それは全くそのとおりだと思います。これは、この司法ネットにも非常に大きなつながりがある考え方だと思うんです。
 もう一つ、高峰さんから教えていただいたのは、一人の弁護士がおいでになって、そのために人吉の雰囲気が変わる。つまり、法的紛争の処理の仕方というのが、それまでの処理の仕方と全く変わってくる。それがその地域の雰囲気そのものを変えていく。私はこれは非常に大事なことで、一見いろいろなよけいなものが付いて、お金がかかるように見えるけれども、そうじゃなくて、社会的紛争が公正なルールのもとに迅速にできるとすれば、それは社会的コストの軽減という問題になるはずだと、こういうことだろうと思うんです。そういう意味で、非常に皆様方のお考えというのは、この司法ネットをつくる上の土台になるだろうと。
 もう一つ、松本先生、鈴木先生のお話を聞いてわかることは、地域の人はやはり待っているんだと。待っているところに行けば、必ずみんな来てくれるんだという問題だと思うんです。私の友人が広島の検事正から稚内の弁護士に行きました。吉岡という非常にすばらしい男ですが、やはり稚内に行ったら、もう次の日からたくさん人がおいでになったということです。それはみんなが待っているという状況があって、それに対して司法が今まで何もやってないということだろうと思うんです。乱暴な言い形をすれば、3万人以上の地域には弁護士さんは2人いなければいけませんよという、そういうぐらいの大きな問題を持っているんじゃないかと思うんです。
 司法ネットを考えるときも、均一の、画一的なものをつくれば、国の機関としてそういうものを考えればいいというものではない。司法ネットというのは、まさに皆さんが言われるとおり、法的解決が必要な人たちが、自分たちがどうしたらいいのかということを問いかけられるところでなければいけないんだろうと、そのためのものだろうと。しかも、その問いかけに応じる人は、実は何も国がつくる機関だけではなくて、既に、例えば県が法律相談を大いに使ってくださいねという体制を取っているところもあれば、あるいは弁護士会が公設事務所をつくって既に活動されているところもある。だから、そういうものを有機的につなげて、使う人が一番便利なのはどういうものかというのを考えなければいけない。だから、それは今まで官僚がこれまでやってきた均一な平等な機関という考え方より、でこぼこがあってもいいから、地方の実情に応じたものをつくっていく、そういうことを発想しなければいけないんだなということを、本当に強く教えられたような気がいたします。
 私たちも頭をものすごく柔らかくして、まさに必要としている人たちの気持ちに立って、できるだけ使いやすいものを考えていかなければいけない。これが今日皆さんからいただいた宿題だと思って、今後やっていきたいと思います。

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。
 最高裁、日弁連のお二人もお話になりたいことがあると思いますけれども、時間延長を10分と約束したものですから、そろそろ終わりにしたいと思います。
 さっき法務省の但木さんもおっしゃいましたけれども、「待っていました」と言われたという、あれが今日の一番強い言葉として残っております。日本の場合、地方自治というと、何となく司法は別、議会と知事という執行機関があって、司法は国の機構だという思いが強かったんだろうと思うんです。しかし、地方自治というのは英語でローカル・セルフ・ガバメント、申すまでもなくそうなっておりますが、ガバメント、司法抜きのガバメントなんてあり得ないわけです。司法は機構的には国の機構ですけれども、実質的な機能という面ではやはり地方自治とつながっていなければならない、地方、地域と一体的に機能しなければ本来いけないものなんだろうと思うんです。
 この機会に我々は発想を相当変えて、地方自治の充実のためには地方における司法の機能の強化が不可欠だというように考える必要がある。私は、今日のお話を伺って、本当にそう思いました。
 それではどうするかということですけれども、先ほどいろいろ御提案があり、さっき但木さんからも、具体的に考えるべき方向についてお話がありましたが、確かに司法の在り方も地方がそれぞれ考えるべきことだろうと思うんですけれども、その方向に持っていくために、国としてもなすべきことがかなりあるんじゃないか、というような気がします。大宅さんのおっしゃったこととも関連して、余り固い仕組みをつくってはいけませんけれども、動き出す、立ち上がるときのエネルギーはやはり国からも相当注がないといけないんじゃないかということをつくづく思いました。
 人に発言を制限しながら自分がしゃべってしまって、もうこれでやめますけれども、最後に法務大臣からお話を賜りたいと思います。

(報道カメラ入室)

【佐藤座長】 それでは、大臣お願いいたします。

【法務大臣】 今日は本当に皆さんそれぞれお忙しいのに、ここまでお運びくださいまして、いろいろと熱のこもった具体的なお話を聞かせていただいて、本当にありがとうございました。
 私も田舎、栃木県ですけれども、栃木県を選挙区としておりまして、栃木県は東京にやや近いんでございますけれども、それでも司法過疎地というのがいっぱいございまして、日ごろ感じていることが、今、皆さんのお話を承ってなるほどと、非常に理論づけられたような気がいたしまして、納得した次第でございます。
 今、次官が申し上げましたように、法務省としては、使いやすい司法ネットというのをつくろうということで、いろいろ勉強しているところでございますが、小泉総理も、全国どこの街でも国民が気軽に法律上のトラブルの解決に必要な情報や法律サービスを受けられるような司法ネットをつくってほしいということをおっしゃっておりますので、そのような方向で何らかの手立てを考えなければいけない、非常に責任重大だという感じをいたしております。
 まだまだいろいろとお知恵をお借りすることがたくさんあると思いますけれども、今日は大変長時間お話を承りましてありがとうございました。大変勉強になりました。御礼申し上げます。

(報道カメラ退室)

【佐藤座長】 どうもありがとうございました。時間を延長しまして、大変失礼いたしました。

(以上)