(説明者)
グレゴリー・クラーク多摩大学長、島田晴雄慶應義塾大学経済学部教授、太田誠一総務庁長官
(事務局)
樋渡利秋事務局長
5 会議経過
①グレゴリー・クラーク多摩大学長から「21世紀の日本社会-共同体社会からバラバラの社会へ-」についての説明が行われた。(別紙1参照)
クラーク氏の説明に関して、以下のような質疑応答があった。
○人間関係中心の人本主義から理性中心の合理主義へという価値観の発展に照らし、我が国社会の今後をどのように考えるか。
(回答:共同体社会から個人主義社会へ移行するにつれて、道徳、恥の規範が解体され、代わりに宗教、イデオロギー、法制度などが必要となる。しかし、日本では宗教的価値観は無いに等しく、イデオロギーもその役割を果たさないので、共同体をまとめるものとしての法制度が必要となる。その意味で、日本は、恥社会から罪意識社会へ移らざるを得ないだろう。)
○人本主義から合理主義への流れは不可避と考えるか。法律制度だけに頼らざるを得ないのか。
(回答:伝統的な恥の道徳が通用しなくなってきているのを元に戻すことは難しい。元に戻すための一つの方法は、コミュニティの形成だ。日本には、企業・学校・家庭等の集団はあるが、それを超えたコミュニティというものが無く、未だ社会は成熟していない。若い世代には、地域でのスポーツ活動や奉仕活動なども重要で、これらを通じて社会のルールを自然に身に付け、社会意識を強く持ち、大人になっていくのである。)
○我が国でも「法化社会」という論議がある。それは、行政や企業行動等をいかにして法のルールに従わせるかという問題意識だが、御説明の法制度による秩序維持とはどういう関係にあると考えるか。
(回答:共同体道徳で社会が運営できれば理想的だが、現実には若者も大人社会もルールが必要。企業の不祥事問題などにも見られるとおり、法制度の整備で対応する必要がある。)
②島田晴雄慶應義塾大学経済学部教授から「司法制度改革の歴史的必然性と若干の提言」についての説明が行われた。(別紙2参照)
島田氏の説明に関して、以下のような質疑応答があった。
○法曹資格を民事・刑事の他に経済・行政の分野にも拡大するとの提案に関して、現行の法曹以外の関連業務に携わる人々にも法曹資格を与えることの実質的意義は何か。また、初級・中級・上級の段階を設けて、裁判官は基本的に上級法曹から任用するとの提案に関し、現行制度でもなかなか任官しないのに、上級の資格をとるインセンティヴはあるのか。
(回答:関連する業務に携わる人々にも資格を与えて現行の制度からの移行を進め、法曹の母集団を拡大することにより、今後ますます膨大になる法需要への対応が可能となる。また、上級法曹の適切な位置づけにより、社会的尊敬も期待できる。)
○隣接職種との垣根を将来取り払うべきと考えるか。
(回答:法曹と隣接職種とは、総合法人法律事務所やネットワーク化の進展により事実上一体的に仕事ができるので、垣根の問題はそれほど重要とは考えていない。)
○公認会計士や税理士から法曹資格を取る者が果たして出てくるのか。大変な負担となるのではないか。
(回答:合格率を緩やかにすることにより、いわゆるダブルメジャー、トリプルメジャーとして複数の資格を取る者も出てくるのではないかと思われる。)
○法曹人口増には賛成だが、一方で弁護士の広告規制の撤廃も含めた競争原理の導入は、資本力のある者が勝ち残り、弱者の側の論理の後退につながらないか。また、知識の面だけでなく、資質の面でも信頼できる弁護士をどのように生み出すのか。
(回答:広告規制の撤廃は、全て市場に任せればよいという趣旨ではなく、適切に律することも必要だが、全面的な広告規制は問題である。弁護士についての情報がわからないままでは却って弱者も困る。透明性が重要と考える。また、資質については、情報公開と自己規律が重要だと思う。)
○裁判官になるには一定の実務経験が必要との提案に関して、現在の判事補システムでの職業裁判官をどう考えるか。
(回答:提案は、最初から判事補になることを否定するものではない。キャリア・システムの意義も否定できないと考えるので、職業裁判官以外の法律実務経験者から任用するシステムとの併用が良いのではないか。)
③太田誠一総務庁長官から「事後チェック型の行政と司法制度改革」についての説明が行われた。(別紙3参照)
太田長官の説明に関して、以下のような質疑応答があった。
○裁判官・検察官の定員や司法予算については、行政改革に伴う公務員削減の中にあっても、その機能を充実する方向で別途考えていく必要があると考えるがどうか。また、当審議会設置法についての衆参法務委員会の附帯決議にも、司法予算の拡充に努めるべきことが挙げられているが、どう考えるか。
(回答:予算、定員ともに全体の中での査定があるが、国会においても、裁判所はもとより、検察や準司法機関も含めた司法は行政とは別に、司法全体の機能を考える中で議論していく必要がある。当審議会においても積極的な御議論をお願いしたい。)
○準司法機関等の行政庁に対する行政処分の勧告等についての尊重規定を廃止する方向であるとの議論も聞くが、どのように考えるか。
(回答:審議会等については、政治主導との関係も出てくるが、準司法機関に関しては、勧告等の尊重は当然必要だと考えている。)
○司法制度改革に関する自民党の調査会の報告の中で、経済活動の側面からの議論は強調されていたが、刑事法を厳しくすべきかどうかについてはどう考えるか。
(回答:言わば性悪説に立って、ペナルティを重くすべきとの議論もあるが、そこまでは踏み出せていない。この問題については、コンセンサス形成のための活動も重要だと思う。)
④今後のおおよその審議スケジュールについて、前回了承された内容がペーパーで配付され、確認された。
(おおむね以下の方向で進めつつ、必要に応じ見直していくというもの。)
審議の主要な柱になる点としては、制度的インフラ(例:国民により利用しやすい司法制度の実現、国民の司法参加、人権と刑事司法との関係)、人的インフラ(例:法曹人口と法曹養成制度、法曹一元)、その他。
今後の大まかなスケジュールとしては、平成11年9月から12月ころまでに、有識者・ユーザー・法曹三者等からヒアリング及び21世紀の司法の在り方ないし役割についての審議を行った上で、具体的な審議項目(論点)を何にするかについて審議し、12月中に審議の対象となる項目(論点)を整理決定した上で発表する。平成12年中に、整理された論点についての一通りの審議の上、しかるべき時期に中間報告を発表する。平成13年4月ころまでに、中間報告に対する国民からの反応等を踏まえながら、整理された項目(論点)について更なる調査審議をし、平成13年7月までに最終意見書の審議を行い、内閣への提出を行う。
なお、既に進行中の民事法律扶助の改革に関しては、本年11月ころに審議の上、合意が得られれば何らかの提言を行う。
また、必要に応じて、国内公聴会、アンケート等による国民からの意見聴取、海外の司法制度に関する調査、隣接法律専門職種や学者等への調査嘱託等を行う。
⑤ヒアリングについて、各委員からの希望を踏まえてのヒアリング予定者とのアポイントの状況が報告された。
⑥2年間のスケジュール及び地方公聴会の実施についての素案が協議され、地方公聴会を平成12年2月頃から全国各地で実施し、海外実情視察やアンケート調査も実施することなどについて基本的に一致し、詳細は今後更に検討することとなった。
なお、協議の過程で、次のような意見があった。
○海外実情視察については、陪・参審の実施状況なども視野に入れて候補地を検討すべきである。
○地方公聴会について、中間報告の前と後では地方公聴会の性格も変わって来ざるを得ないだろう。
○地方公聴会の公述人の選定は大変重要なので、方法をよく考える必要がある。
⑦平成12年度の審議会について、基本的に月3回のペースで開催することとし、開催曜日の固定について協議された結果、以下のように開催曜日が合意された。
第1金曜日の午後
第2及び第4火曜日の午後
第5火曜日がある月は、その日の午後
第3月曜日の午前(予備として)
⑧既に、当審議会のホームページにおいて国民からの電子メールによる意見を受け付けているが、英文での意見受け付けも近日中に始めることが報告された。
⑨次回以降、ヒアリングに加えて、21世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割及びそれに基づき当審議会で審議すべき項目等についての意見交換に入ることとした。また、本年12月に予定される論点整理に向けて、審議項目として取り上げるべき論点とその理由付けについての意見等を、10月末から11月半ばまでに、各委員から会長にペーパーで提出することとされた。
以上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-
(別紙1)
司法制度改革審議会第3回会合 1999年9月28日(火) グレゴリー・クラーク |
1)さまざまな歴史的な理由から、日本は村型集団主義が強く、合理主義的な原則やイデオロギーが弱い。
2)封建時代とそれに続く工業化時代の初期には、この集団主義がより大きなグループを包括し、社会全体にまで拡大した。そこでの道徳(モラル)は大きな集団の約束事、伝統、雰囲気などに依存していた―つまり恥社会である。
3)今日、伝統的価値は弱くなっている。だが、日本の若者は個人主義や合理主義的価値観へと向かうのではなく、大きな集団にそっぽを向いて小さな集団へと向かっている。
4)将来の日本は、これらの小さなグループを一つの実体のある社会にまとめ上げていくのに苦労するのではないか。
5)この変化は、大きな集団の道徳の崩壊に見られる。若者による小さな犯罪が増えている。彼らは過去のモラルに縛られない。
6)法関係者は、これに代わるモラルをうち立てる基盤として、法制度を確立するために、早急にしかも厳しく行動する必要がある。
7)日本と歴史がよく似ている北ヨーロッパ、とくにイギリス社会と同じで、伝統的モラルが崩れる最初の兆候が見えた時、関係者たちはあまりにも弱腰である。
8)日本は恥社会から罪意識社会へ移らねばならないだろう。
(別紙2)
司法制度改革審議会第3回会合意見発表レジュメ 1999年9月28日(火)14.00.-15.00.-16.00. 司法制度改革審議会審議室 慶應義塾大学教授島田晴雄 |
II.司法制度改革の意義
(別紙3)