(説明者等)
臼井日出男法務大臣、佐伯啓思京都大学大学院人間・環境学研究科教授、庫山恆輔仙台市民オンブズマン事務局長、藤倉皓一郎帝塚山大学法政策学部教授
(事務局)
樋渡利秋事務局長
5 会議経過
② 佐伯氏から「市民概念を考える」について説明が行われた。(別紙1参照)
○ 我が国に、西欧市民社会における個人の自立のベースとなった社会的エートス(道徳的な慣習、「公」の意識)に対応する価値観はあるだろうか。
(回答:個人的には、我が国にも、いわゆる武士道というか、神道と仏教と儒教を一体化させたような倫理観があったと思うし、今でもある意味でそれが拠りどころとなっている部分があるように思われる。)
○ 戦後、アメリカから我が国に導入された種々の制度につきどのように評価するか。
(回答:アメリカという国は、アメリカンデモクラシー、個人の自由という抽象的な理念で成り立っている、かなり特異な国である。戦後の日本は、そのような抽象的な理念をそのベースを捨象したまま奇妙な取り入れ方をしたため、共有された価値の体系を欠くこととなり、失敗した部分が大きいと思われる。)
○ 経済のグローバル化は避けられないし、その中で日本的信頼感が悪い意味でもたれ合いととられることもあるが、他方で評価されるべきところもある。結局、よい部分を伸ばし助長しながら改革を行っていくのが重要と考えられないか。
(回答:グローバルマーケットといっても実態は真に共通した市場はないと思う。それはあくまでアメリカ人の理念であり考え方である。問題は、どの部分がグローバル化に対応すべきか、どの部分はローカルにやっていくべきかを明確に区分すること。後者の部分については一歩グローバル化から距離を置くことが必要であり、むしろ保護・規制が必要な場合もあろう。)
○ 日本人はお上(かみ)依存的傾向があり、いわば観客民主主義である。各国民が当事者としてものを考えていかなければならないと考えるが、その点はいかがか。
(回答:確かに日本において「公」といった場合、それはお上(かみ)から与えられるという発想をする傾向があるようにも思われるが、それが日本的構図とは言い切れない。例えば、明治維新の時期には、「公」は幕府ではなく国であるという意識が生まれ、それが改革につながっていった。)
○ 現代においては社会の複雑・多様化等から法のルールに頼らざるを得ない部分が多くなってきているが、それと社会的エートスの重要性との関係についてはどう考えるか。
(回答:確かに法的ルールによる対応も必要であろう。しかし、そのような社会の中で法に頼らなければならない部分はどこなのかを見極める必要がある。ルールには法、行政指導、慣習といったものが含まれ、それらをどういう場面に使うかという組合せが重要。)
○ 日本において「公」の意識をどうやって作り出していけばよいか。
(回答:国家意識をベースに置くしかないと考える。グローバル化が進行していく中でこそ必要なこと。国家の捉え方は常に変わっていくものであるし、我々が作っていくもの。戦後、そういう考え方は反動的なものとしてタブー視されてきたが、開かれた議論が必要であり、それを通じて「公」の意識が生まれていくように思う。)
○ 市民参加のシステムとして陪・参審の話がなされたが、行政訴訟や民事訴訟に導入すべきという考えなのか。
(回答:例えば、参審制などは行政訴訟においてプラスに働くのではないか。刑事における陪審、参審という問題も避けて通れないだろうが。)
○ 行政や政治に対する市民参加と司法への市民参加との関係をどう考えるか。(回答:行政や政治に対する市民参加については正に我々が進めている運動の目標とするところである。それと同時に司法への参加を実現していくことも不可欠である。)
○ 陪審制の前提として市民の意欲と熱意が必要となるが、日本にそのような制度が根付くと考えるか。
(回答:確かに制度を支える市民の意欲や熱意というものは重要であるが、制度を作ることあるいはそれを議論することで国民の意識も醸成されていくのではないだろうか。)
○ 陪・参審を導入できるほど国民に余裕があるだろうか。
(回答:諸外国にも例がありそれを参考にしつつ、日本に合うような形に変えて導入すればよい。市民参加の例として検察審査会があり、実際に機能しているものもある。)
○ 市民感覚から離れた判決がなされるとのことだが、それはどこから生じてくるものと考えるか。
(回答:裁判官と直接会って話をした訳ではないが、一般的には、裁判官は忙しすぎて、転勤も多く、外部との交流ができていないと言われている。)
○ アメリカでは実際にはどのようにして裁判官が選ばれているのか。
(回答:連邦の場合、基本的には大統領が指名して議会が承認するという形をとり、その前提となる名簿は司法省が作成するが、政権が変わると省庁の幹部が交代することからも分かるように、その名簿作成においては候補者がどの政党に所属しているかということなどが考慮されているようである。ただし、この名簿は公表され、ABA(アメリカ法曹協会)の厳しい評価も受けるなど選考については多様なチェック機能が働き、決して一元的ではない。州の場合は選挙によるところもある。)
○ アメリカにおいて、弁護士の質や量をコントロールする仕組みはないのか。(回答:そのような仕組みはなく、完全な自由競争・市場原理に委ねられている。)
○ 弁護士の正義感や倫理といったものは利潤を追求する広告にはなじまないように思うが、そのような考え方はアメリカにはないのか。
(回答:基本的にはそのとおりだと思う。アメリカにおいても信頼のできる人からの紹介を通じて弁護士を選ぶというように基本的には個人の信頼関係が重要視されている。)
○ アメリカにおいて、特に1960年代以降、法化社会が進行してきた原因は何か。
(回答:アメリカでは、キャリアシステムのような法曹の品質管理の仕組みがなく、自由競争に任せてきたことが原因であろうと思う。当然、良質でない法律家も参入してくることになる。だからといって、アメリカでは、規制をするという考え方にはならない。法を使いすぎると住みにくい社会になるという考えも出てきているようだが、今のところ法化社会を抑える特効薬はないようである。)
○ アメリカの弁護士広告のやり方は自由競争、価格競争となっているとのことであるが、多くの情報を集めて的確に判断することのできる企業には都合がよいかもしれないが、一般の国民である利用者にはかえって判断が難しくなるのではないか。
(回答:確かに一般の国民にとっては何を基準にして弁護士を選んだらよいかということは大きな問題である。そこから、アメリカにおいては、低所得者層には公的なリーガルサービス制度が整備されている。ただし、中産階級の人達に対するサービスについては依然問題が残されている。)
⑥ 年内に公表する予定の論点整理に関しては、以下の方向で進められることとなった。
○ それらを基にして、できれば11月24日の第7回会議に会長が叩き台となるペーパーを用意し、その後、年内の公表を目指し、十分な審議を行っていくこと
○ 論点整理に当たっては、論点を単に列挙するだけではなく、なぜそのような論点を選んだのか、どういう方向でその後の議論を行っていくのかが国民に分かりやすいような形にするため、説明付け(ナレーション)を行うことが必要。
以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
- 速報のため、事後修正の可能性あり -
別紙1
司法制度改革審議会(第5回会議) 平成11年10月26日 |
京都大学大学院人間・環境学研究科教授 佐伯啓思 |
現代日本社会の問題
(1) 自由主義・民主主義の欠如という見解
(2) 自由主義・民主主義の(ある意味での)過剰という見方
(1)から出てくるのは、改革論・西欧主義的近代化論
(2)から出てくるのは、日本的市民社会の変則性、社会のエートスという課題
私的な権利によって定義される市民概念の背景に、この二つの源泉がある。社会の次元で人間関係を構成するのは、「法的ルール」と「社会的信頼」
前者が明示的な権利義務関係によって定義されるのに対して、後者は、歴史的、潜在的、文脈依存的、道徳価値的であり、それぞれの社会のエートスから切り離せない。
別紙2
1999. 10. 26 仙台市民オンブズマン 事務局長 庫山恆輔 |
別紙3
1999年10月 藤倉皓一郎 |
(2) 公正な手続保障と公平な機会
・的確な判断と説得力
・人材の選択と配置 - 誰が何を基準に
・法学教育と法曹養成
(3) 多様化と専門化
・紛争解決手段の多様化と分業化 - 競合と競争
・国際化と専門化
・法曹の自律