司法制度改革審議会
司法制度改革審議会第7回議事概要
1 日時 平成11年11月24日(水)13:00~17:30
2 場所 司法制度改革審議会審議室
3 出席者
- (委員、敬称略)
- 石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治、髙木剛、竹下守夫、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子
- (説明者)
青山善充東京大学副学長
藤井教子(社)全国消費生活相談員協会理事長
米澤進氏(文筆業元共同通信社論説委員)
- (事務局)
- 樋渡利秋事務局長
4 議題
①民事法律扶助に関する会長談話の案の確認
②論点整理についての意見交換
③青山氏からの説明
「法学教育の現状とロー・スクールへの展望」
④藤井氏からの説明
「司法制度改革に向けて-裁判外紛争処理制度について-」
⑤米澤氏からの説明
「司法制度改革審議会に望むこと」
⑥地方公聴会の日程等についての意見交換
5 会議経過
①前回の会議における意見交換を踏まえて会長及び会長代理が相談の上作成した民事法律扶助に関する会長談話の案について、最終的な確認がなされ合意が得られたことから、会議終了後原案のとおり公表することとされた。(別紙1参照)
②論点整理について、前回の会議において各委員から提出されたペーパー及びそれに基づくプレゼンテーションなどを踏まえて会長及び会長代理が相談の上作成した「論点整理に関する会長試案の骨子」及び「論点項目(案)」(別紙2参照)が配付された。その上で、会長から、「論点整理に関する会長試案の骨子」について、その内容として現在検討中の総論的な事項について説明がなされた。これらを踏まえ、意見交換が行われた。
その中で、以下のような意見があった。
○答申がどのように実現されるかが重要であることから、実現のプロセスに関する事項についても記述するべきである。
○「司法制度改革に向けて」とのタイトルは、国民に誤って「中間報告」と受け取られる恐れもあるので、「論点整理」とのサブタイトルを付するなど何らかの工夫が必要ではないか。
○各委員から出されている論点は、各項目のいずれかに含まれていると考えてよいのではないか。
○「論点項目(案)」については、差し当たっての審議の手掛かりとなるものであり、審議の過程で新たに追加される項目もあれば削除される項目もあり得る、弾力的なものと考えるべきである。
○「論点項目(案)」のうち、「1制度的インフラ」の「(1)国民がより利用しやすい司法制度の実現」には、民事、刑事その他全般にかかわる事項も含まれるため、「(2)国民の期待に応える刑事司法の在り方」との関係が分かりにくいので、何らかの工夫が必要ではないか。
さらに、論点整理については、今回の会議での意見交換を踏まえて会長が作成する「会長試案」を基に、次回会議以降更に審議を進めていくこととされた。
③青山氏から「法学教育の現状とロー・スクールへの展望」についての説明が行われた。(別紙3参照)
青山氏の説明に関して、以下のような質疑応答があった。
○ロー・スクールが司法試験のための受験テクニックを教えるための場にならないように、どのような方策が考えられるか。
(回答:ロー・スクール独自の教育内容、方法などを考え、幅広い教養、人間・社会に対する洞察力、法曹倫理、弱者への思いやりなど、法曹としてのあるべき人間像を目指した教育をじっくりと行うことを考えている。)
○ロー・スクールと司法研修所の間での実務教育に関する役割分担について、どのように考えるか。
(回答:ロー・スクールでは高度な理論教育を行い、司法研修所では実務のトレーニングを行うというふうに大きく振り分けることを考えている。)
○ロー・スクールでは成績評価をプロセスにより行うとされているが、どのように制度化されるのか。
(回答:学期ごとの成績評価を、ロー・スクールの最終段階で行われる試験の判定に加味する制度を考えている。)
○狭い門戸となる可能性のあるロー・スクールを修了することが司法試験の受験資格となると、貧しい者に法曹への道が閉ざされることにならないか。
(回答:裕福な者だけが法曹になるなどということは、健全な民主主義社会にあってはならないことであり、貧しい者に対しても、奨学金などでバックアップすることが必要と考えている。)
④藤井氏から「司法制度改革に向けて-裁判外紛争処理制度について-」の説明が行われた。(別紙4参照)
藤井氏の説明に関して、以下のような質疑応答があった。
○企業に対して過剰な要求を通すために相談制度を利用することについて、どのように考えるか。
(回答:安易に商品の交換を求めるということではなく、まずはトラブルの原因の徹底した究明を求めることが重要であると考える。)
○裁判所による民事調停制度について、どのように考えるか。
(回答:最近になって、最高裁のパンフレットなど、よく分かるものが出てきたが、もっと分かりやすいPRの努力をするべきではないか。)
○詐欺まがいの商法によるトラブルに対して、企業側に分割返済を認めさせれば一応の「解決」としてきたのではないか。トラブルの本質を見た解決になっていなかったのではないか。
(回答:相談を受ける側でも、詐欺まがいの商法によるトラブルを問題が深刻になるよりもっと早い段階から異常な事件として真剣に取り上げていくべきではなかったかと反省している。)
⑤米澤氏から「司法制度改革審議会に望むこと」についての説明が行われた。(別紙5参照)
米澤氏の説明に関して、以下のような質疑応答があった。
○キャリア裁判官制度の下では対応できない例について、更に具体的に説明していただきたい。
(回答:商工ローン関係の裁判においても、裁判官は利息制限法の定めによってしか判断することができないかも知れないが、もっと現実の問題に対して適切に対応できないのかというのが国民一般の感情である。)
○法曹一元を実現するための問題点として、弁護士からの任官希望者が少ない、裁判官になってほしい人が現実に任官してくれていないとも言われているが、その原因は何だと考えるか。
(回答:弁護士の側に、最高裁判所による全国の裁判官の人事管理システムの中に取り込まれ、その補充として使われるという認識があるのではないか。また、弁護士が裁判官に任官すると事務所の体制などの問題から顧客を引き継ぐことができないため、自由に行動できないという問題もあるのではないか。)
⑥地方公聴会の日程等について意見交換が行われ、第1回の地方公聴会を来年3月に大阪において開催することについて合意された。
以上
(文責司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-
(別紙1)
民事に関する法律扶助について(会長談話)
平成11年11月24日
- 当審議会としては、今後の調査審議において、国民により身近で利用しやすい司法制度を実現するための諸方策について、十分に議論すべきものと考えるが、その一つとして、憲法第32条の裁判を受ける権利の実質的保障という理念から、国民が十分な資力を有しない場合においても裁判等において自己の正当な権利の実現・保護を図ることを可能とするための支援体制を整備することは極めて重要であると考えており、この点についても今後とも総合的・体系的に審議を深めていく予定である。
- 一方、政府においては、司法制度に関し緊急に必要な施策については、当審議会の審議と並行して、これを適切に実施するものとされているところ、その一つとして、現在、民事に関する法律扶助事業に関し、国の責務を明らかにした上、その統一的な運営体制を整備し、国民に対し全国的に均質な法的サービスを提供することができるように、財政基盤の強化を含め必要な措置を講ずることを検討されているものと承知している。
当審議会としては、それらの措置については、上記の理念に立脚し国民が正当な権利の実現を図っていくことを可能とする支援体制整備に向けての第一歩として緊急性があると考えており、政府においてその早急な実現を図ることを期待する。
(別紙2)
(論点整理に関する会長試案骨子)
平成11年11月24日
司法制度改革に向けて
- Ⅰ 司法制度改革審議会の設置と審議
- (1)審議会の設置
(2)審議の経過
- Ⅱ 今般の司法制度改革の史的背景と意義
- (1)近代日本と現在
(2)日本の社会の変容と司法の役割
(3)国際化と司法の役割
- Ⅲ 今般の司法制度改革の要諦
- (1)司法の現状と改革の方向
(2)司法の制度的基盤の強化
(3)司法の人的基盤の強化
(4)その他
- Ⅳ 今後の審議に向けて
論点項目(案)
1 制度的インフラ
(1)国民がより利用しやすい司法制度の実現
○弁護士の在り方
・弁護士へのアクセスの拡充
・弁護士過疎への対応
・弁護士と隣接法律専門職種等との関係
○民事裁判等の在り方
・裁判所へのアクセスの拡充
・民事裁判の迅速化
・知的財産権に関する訴訟等専門的知見を要する事件への対応
・民事執行制度の在り方
○行政に対する司法審査の在り方
○裁判手続外の紛争解決手段(A.D.R.)の在り方
○法律扶助制度の拡充
○司法に関する情報公開・提供の在り方
(2)国民の期待に応える刑事司法の在り方
○新たな時代に対応し得る捜査・公判手続
○刑事裁判の迅速化
○被疑者・被告人の公的弁護制度の在り方
(3)国民の司法参加
○陪審制・参審制
○既存の司法参加制度(調停委員、司法委員、検察審査会等)の在り方
2 人的インフラ
(1)法曹人口と法曹養成制度
○法曹人口の適正な増加
○法曹養成制度の在り方
・司法試験制度,司法修習制度の在り方
・大学法学教育の役割
○法曹倫理
(2)法曹一元
(3)裁判所・検察庁の人的体制の充実
3 その他
○司法の国際化への対応
○司法関連予算の確保
(別紙3)
法学教育の現状とロー・スクールへの展望
- Ⅰ はじめに
- Ⅱ 法曹の質・量の充実の必要性
- (1)司法制度のバロメーター
(2)法曹人口増強論の背景
(3)法曹の適正規模
(4)法曹の質の向上の必要性
- Ⅲ 法学教育の現状
- (1)法学教育の目的
(2)「ダブル・スクール」
(3)法学教育の現状
- Ⅳ ロー・スクールへの展望
- (1)ロー・スクールの必要性
(2)ロー・スクールの制度設計
- Ⅴ おわりに
(別紙4)
司法制度改革に向けて-裁判外紛争処理制度について-
司法制度改革審議会(第7回会議) 平成11年11月24日 (社)全国消費生活相談員協会 理事長藤井教子 |
- 1.多発する消費者トラブルの現状
- 国民生活センター・都道府県・市町村の消費生活センター(386センター)等で、消費者からの国民生活に関する苦情・相談・問合せ等を消費生活相談として受付け、情報の提供、助言、あっせん等を行っている。全国の相談件数は、平成10年度62万件を超えている。
- 資料:「全国消費生活相談統計」(消費生活年報1999)国民生活センター編
- 全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)
消費者行政の施策立案、その実施、個々の消費者苦情の解決、消費者被害の未然防止等を目的として、国民生活センターが昭和59年度から運用しているオンライン・ネットワークシステム。現在、経済企画庁、国民生活センター、都道府県・政令指定都市の中核的消費生活センター(1999.6現在59ヶ所)をネットワーク化し、消費生活相談情報(年間39万件を超えるデータが蓄積されている)、危害情報等をデータベース化している。
資料:「PIO-NETにみる消費生活相談」①契約内容②特殊販売
- 被害救済のための苦情処理
消費者問題は現在の経済・社会の構造的な問題、事業者と消費者の情報非対称性、交渉力等の格差
- 消費者契約法(仮称)の法制化と制定後の実効性確保の問題
- 「法的手段」、「裁判予告」事業者から通告されておびえる消費者
- 支払督促・訴状が届いて
- 紛争を好まない消費者
2.国民の利用しやすい、もっと身近な司法制度を-敷居が高すぎて、弱い立場の消費者-
①情報の提供
・裁判・弁護士・費用・手続
②当協会出版の啓発資料:ブックレット「裁判のススメ」
③少額訴訟の利用
④法律扶助
3.多様な解決手段の必要性-裁判外紛争処理制度-
①民事調停・家事調停
②弁護士会の仲裁センター等
③各都道府県及び市町村の消費生活センター・苦情処理委員会
④PLセンター
⑤日本クレジットカウンセリング協会
4.明日に向かって
①血の通った裁判を
②国民の司法への参加
③中学校からの司法教育
(別紙5)
99年11月24日 文筆業・元共同通信社論説委員 米澤進 |
「司法制度改革審議会に望むこと」
- 1、国民生活と司法の距離の遠さ
- 5年前に見た簡易裁判所の風景
- 最近の事件と「司法が果たさねばならないこと」(商工ローン、臨界事故にみる)
- 裁判官は信頼される町の名士であってほしい
- 裁判官の独立とサービス精神の不足(判例と形式主義)
- 遅くて、高くて、使い勝手の悪い司法への不満
- 裁判官の世界と2000人の管理社会
- キャリア裁判官制度の下では時代の変化に対応できない
- 2、いま国がするべきこと、審議会設置は時代の要請
- 小渕首相のあいさつ
「利用者である国民の視点に立って、21世紀の我が国社会において司法が果たす役割を明らかにし、司法制度の改革と基盤の整備に関する基本的な施策について有識者の皆様に審議していただく必要がある」
- セーフティーネットとユーザーの視点
- リストラと失業者の急増、弱者救済のための役割
- 国際化時代と経済界の強い要望、世界から後ろ指を差されない社会
- 1億2000万人の国民への信頼と、ゆとりある社会への船出
- 50年後の日本の司法と市民参加の必要性
- 3、司法制度改革は「国の骨格をつくり直す作業」
- 臨時司法制度調査会(臨司)意見書と今日的意味
- 元最高裁長官、矢口洪一さんの意見
「法曹に人材を求める新しい制度が必要だ。裁判官は弁護士や検察官などから広く求めるべきで、それには法曹一元制度を目指し、現行の判事補制度を廃止すべきだ」
- 35年前に実現しなかった司法改革
- 未経験の分野に踏み出す「リスク」と勇気
- 裁判官の廉潔性維持と弁護士会への不信感
- 裁判官選考システムの民主的運営と再選その他のシステム
- 「日本裁判官ネットワーク」と裁判官の意識の変化
- 矢口意見は、基本的には弁護士会へ自己改革を求めたメッセージではあるが、同時に最高裁と法務省にも「責任の自覚」と新しい時代への準備を促している
- ピラミッド型官僚裁判官の世界を熟知した人の意見として、謙虚に耳を傾ける必要がある
- 4、「基盤の培養」はいまも必要最低要件
- 法曹人口の大幅増員と過疎過密対策の基本方針を明確に
- ロースクール構想と司法試験、研修など法曹養成の在り方
- 弁護士の職域拡大、総合法律事務所と隣接職種との垣根
- 弁護士法72条(法律事務独占)
- 弁護士法30条(兼業、営業制限)
- 弁護士法24条(委嘱事項の義務)など
- 5、陪審、参審制度など司法への市民参加について
- 68年前の「陪審手引」復刻版が教えるもの
日本の国権の作用は立法、司法、行政からなり、立法は帝国議会、行政は自治制度として国民がともに参加しているのに、ひとり司法だけは「国民の参与を認めず、特定の裁判官を置き、専らこれに携わらせて来たのであります」(昭和6年、大日本陪審協会編の陪審手引「我が陪審法の精神」より)
- 陪審制度のメリットに着目する
- 第1に、法廷証言の重視、証拠の公開、自白重視の捜査の反省
- 第2に、大型裁判の長期化に歯止め
- 第3に、市民参加型司法の実現
- 陪審制度導入による市民の司法教育効果と学校教育への影響
- 「陪審法停止に関する法律」と裁判所法3条3項「刑事について別に陪審の制度を設けることを妨げない」に結末を
- 少年審判への参審制導入など、参審制度の検討も同時進行で
- 調停制度と仲裁機関の拡充、国際化
- 6、まず重要項目に絞って中間報告を
- 「各委員の論点整理に関する意見書」を読ませていただいた感想
- 法曹一元、法曹人口増、陪審・参審制度の3点を最優先に
- 法律扶助の拡充や被疑者国選弁護などの問題は現在でもやろうと思えばできる仲裁制度の拡充など、すでに法制審議会で検討が始まっている問題は、司法制度改革審議会の審議を待たずどんどん改革すべきだ
- 法曹養成制度、以下その他の多くの問題はいずれも重要だが、改革の柱を決めてからでも遅くはないと思う
- 2年間の期限は守ってほしい
以上