司法制度改革審議会

司法制度改革審議会第6回議事録

日時:平成11年11月9日(火)13:00~17:10

場所:司法制度改革審議会審議室

出席者

(委員)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子
(説明者)
横山匡輝法務省人権擁護局長
永盛敦郎財団法人法律扶助協会専務理事
(事務局)
樋渡利秋事務局長
  1. 開会
  2. 論点整理についての意見交換
  3. 横山匡輝法務省人権擁護局長からの説明
    「民事法律扶助制度改革について」
  4. 永盛敦郎財団法人法律扶助協会専務理事からの説明
    「法律扶助制度運営の現状」
  5. 民事法律扶助制度等についての意見交換
  6. 閉会

【佐藤会長】 第6回会合をこれから開かせていただきます。

 本日はまず前回お話ししましたように、各委員からお出しいただきました意見ペーパーに関しまして、お1人最大10分、非常にきついかもしれませんけれども、10分程度で御発言いただきたいと思います。

 その後、12月に発表します論点整理に向けて、少し御議論いただきたいと存じております。

 それから、休憩をはさみまして、横山匡輝人権擁護局長と、財団法人法律扶助協会の永盛敦郎専務理事にお越しいただきまして、民事法律扶助について、各20分程度ずつお話しいただきまして、その後御議論いただきたいと思っております。

 自由討議をしていただきまして、可能であれば、その問題について、この審議会としての考え方を集約してまいりたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

 それでは、早速各委員からの御発言をお願いいたします。先ほど申しましたように、時間もタイトなものですから、最大10分程度で恐縮ですけれども、お話しいただきたいと思います。石井委員からお願いします。

【石井委員】 今回のこの審議会の目的は、言うまでもありませんが、日本の司法システムをより良くするためにはどうしたらよいかということだと理解しております。今日の論点整理もその答申のためのワンステップと考えております。

 ところで、この答申を考える場合、いろいろなアプローチの仕方があると考えられます。私としましては、そのアプローチの仕方の1つとして、工学的な手法であります、皆様に余りおなじみのない言葉かもしれませんが、「ワーク・デザイン」を利用してみたらどうかと考えております。

 一般に今回のようなシステムの改革を考える場合、えてして現状の使い勝手の悪さ、具合の悪さなどを上げ、それをどのように改善するかという手法が取られますが、それに対してこのワーク・デザインの手法は、単純に理想的なシステムはどういうものであるかということを中心に考え、その理想形のイメージを作り上げてから、次に、それに到達するためにはどのようなアプローチがいいかという風に考えていく訳であります。

 一般に取られる改善案というのは、どうしても一つひとつの現象的事実にとらわれてしまって、最終的なシステムの理想的な姿というものが見失われがちになるからであります。ですから、ここにおられる全委員が1つの理想形について頭の中に共通のイメージをつくってから議論すると、議論の最終目的がはっきり見えているため、余り議論がそれることがなくなると考えられますし、いわゆるこの種の議論でよく行われる「欠点列挙法」という弊害も少なくなると考えられるからであります。

 そこで、本日は今申し上げたようなワーク・デザイン・メソッドを踏まえてお話をしようと考えていたのですが、案を練っている中ではたと行き詰まってしまいました。

 それは、私がこの種の議論に対して余りにも知識がなくて、システムの理想的な姿をヴィジュアライズする能力がないことがはっきりしたからであります。

 したがいまして、本日は心ならずもコンベンショナルな形でお話しすることしかできなくて、誠に残念ですが、会長さんも今後の答申案づくりの中で、この会には専門家の委員がたくさんおられるのですから、司法システムの理想形というものについて議論し、それに現実を近づけさせるという方向で答申案づくりをリードしていただけたらと、期待している次第であります。

 前置きが少し長くなりましたが、ここで本題に入らせていただきます。

 お手元にございます論点に沿ってお話し申し上げます。1ページの中段を御覧いただきたいのですが、まず「司法の容量」の問題であります。この問題は今回の改革の大きなポイントでありまして、これが解決できれば今抱えている司法の問題のある程度が解決されるのではないかと考えております。

 私は論点といたしまして、第1が「法曹人口の増員」、第2が「陪審・参審制度の導入」、第3が「法曹一元問題」の3点で分けて整理してみましたが、これらの点は多くの方が従来から指摘されておりますし、衆参両院の附帯決議でもありますので、時間の都合もあり、説明は省略させていただきます。

 ただ、私が関心を持っております項目は、2ページの1-1の③「専門性への対応」、知的財産権とか医療などの分野における専門家の活用と、同じく2ページの1-2の②参審制度導入に関しての「既存類似制度の機能充実」であります。あとの部分につきましては、項目だけ御覧いただきたいと思います。

 次に3ページを御覧いただきたいと思います。「2諸制度の見直し」という側面から論点を整理してみました。

 改革は大きな議論も大切かもしれませんが、日々経済活動を行い、競争社会に身を置いているものにとっては、時間やコストを考慮せざるを得ません。常に企業は停滞なく経済活動を続けているわけですから、大きな議論の結論を何年も待っているような余裕はありません。

 個別、具体的な事柄にも目を向けて、できればこの審議会の設置期間中であっても、実現、あるいは改革に着手できるような点も含めて論点として整理してみました。

 司法制度を個々の状況に照らしてみると、種々の規制や従来からの概念が目に見えない障壁となって、保守的、閉鎖的制度に陥っています。そのために利便性を無視した、ユーザーから掛け離れた制度になってしまった部分が多く見受けられます。これらは具体的に抽出して、検討を加えて、早急に改革を実現すべきだと考えております。

 そこで、第1に経済活動等に対するセーフティーネットの充実、第2に、ADRの整備、第3に、裁判の改革、第4に、弁護士の改革、第5に、国際化への対応、第6に、国民・企業と司法との接点の6項目に分けて整理してみました。

 第1は「経済活動等に対するセーフティーネットの充実」であります。

 司法は社会の基本的なインフラの中で、国民生活や企業の経済活動における種々のリスクに対するセーフティーネット機能を有していなくてはなりません。企業が安心して円滑な経済活動を展開できるように、特に社内に法務担当セクションを置けないような中小規模の企業群にとっても有効に働くようにしなくてはならないと考えております。

 また、①の法律扶助制度の拡充は、このところかなり進んできましたが、先進諸国と比較した場合、まだまだ国の施策として充実を図る必要があります。特に運用面では間口を大きくした制度でなくてはならないと思います。

 臼井法務大臣のお話では、予算が平成11年度が6億円であったものを、来年度は22億円と大幅な増額になる見込みだそうですが、これからも先進諸国に比べて遜色のない程度まで増額していく必要があると思います。

 更に運用面では、対象を個人だけではなく、弱小の中小企業を加えたり、企業が倒産等の異常事態に陥った時に利用できるような制度にしていくべきと考えております。

 一方で、濫用を防止するために、モラルハザードに対する方策の構築も必要になってきます。

 また、後ほど述べるようなADRを企業が利用した場合にも、扶助制度が機能発揮できれば極めて使い勝手のよい制度となるのではないでしょうか。

 次に②ですが、企業は単に国の施策による救済制度だけを頼りにするのではなくて、経済活動におけるリスクに対して司法分野の自助努力を図る方策を考えることは、自己責任社会を迎えるに当たって重要なことと考えます。それが権利保護保険の創設であり、活用であります。弁護士への相談費用や裁判に掛かる諸費用などに対する保険であります。現在は一部の損保で交通事故に対して、弁護士派遣費用を賄うものとして発売されていますが、もう少し概念を広くして法律問題全般、訴訟関連費用といったものを保険の対象とする制度の構築を大蔵省などの監督官庁に働き掛けていったらいいのではないかと思います。

 次に、③ですが、現在、弁護士は起訴された後でしか付かないわけですが、起訴前でも弁護士と接触できるようなシステムにしておく必要があります。特許裁判などでも刑事事件として企業関係者が巻き込まれる可能性が高くなってきますので、不利な裁判とならないようにするためには、起訴前被疑者への弁護人制度は必要だと考えております。

 第2番目はADRであります。

 経済活動を行っていれば利害の対立などから紛争の発生、あるいは当事者となってしまうことは避けられないことであります。この紛争を解決する手段として、これからは裁判だけでなく、ADRの利用が今後は期待されています。残念ながら現在のADRの利用状況は少ないため、利用促進の方策を考えるべきであります。

 ①でADRを裁判とどのように共存させて、ユーザーがそれをどのように使い分けをしていくか。その辺りの方策が課題となります。また、②で、今あるADR機関の使い勝手が悪いとすれば、機能改革のポイントがどこにあるかを探らなくてはなりません。

 ③では、更に既存の機関から離れまして、新しい切り口からのADR機関設置を考えてみることも価値があるのではないでしょうか。特に中小企業が抱えている法律問題全般を扱うような機関の検討は、濫訴を防止する効果も発揮するのではないかと思っております。

 ④では、公正取引委員会とか証券取引等監視委員会といった準司法機関の機能を拡充することは急務だと考えております。特に人員面の補強が重要ではないかと考えます。こうした機関では人手が不足していることから余裕がないために、どうしても大規模事件しか扱えないということにはやはり問題があると考えております。

 続きまして、4ページに移りますが、第3は「裁判の改革」であります。

 裁判が新しい感覚を身に付けて機動的、持続的な取組を行えば司法との距離間が縮まることは間違いのないところであります。

 ①の裁判所の改革として、裁判の迅速化と効率化への取組を、OA化やネット構築など、情報化の点で工夫すべき点はまだあるように感じます。裁判所として、裁判の手続等についての相談窓口を積極的にPRするような工夫も必要だと思います。

 裁判自体に目を向けた場合、裁判官の訴訟指揮を明確にして、裁判期間を縮めるための改善努力を一層行っていく必要があるのではないでしょうか。

 参審制に関連するかもしれませんけれども、法曹以外の専門家を裁判に活用することは、裁判の当事者としては納得のいく裁判の第一歩ではないかと考えております。

 紛争がこれからは非常に複雑で専門分野に及ぶものが増えることが予想されるので、裁判は専門分野に対応できる機能を万全にしておかなくてはなりません。専門分野、特に特許関連などについては、東京、大阪に集中して人員の増強をこれからも図っていくべきではないかと考えております。

 特許裁判は企業にとっては時間との闘いでもあります。長引いていては、裁判自体に意味がなくなり、判決も価値がなくなってしまいます。司法への信頼を失うことにもなりかねません。専門性を十分に備え、迅速な結論が出るようなシステムを構築し、持続性のある改革に向けた議論が必要だと考えます。

 裁判所から発信される司法に関する情報は極めて限定されていて、少な過ぎることも、疎遠の原因となっております。統計などの公開は、社会のトレンドでもありますから、前向きに取り組むべき事柄ではないかと考えております。

 判決の公開は企業にとって極めて重要な事柄であります。自社で抱えている類似事件の方向性を予測したり、今後の営業活動におけるトラブルの予防を図る上で、指針として活用するなど、その価値は極めて大きく重要だと思います。公開に向けての方策、あるいは工夫を議論の対象に考えたいと思います。

 次に②の「民事執行体制の改革」であります。

 紛争が起きて裁判で勝訴判決を得ても、その判決を実行できる確実性がなければ、何のために長い間裁判をしてきたのか分かりません。結局は、裁判をしなかったのと同じで、ますます司法に対する信頼感を失う結果となるだけでは問題です。民事執行分野で判決の実効性を確保する手段の制定を視野に入れた検討が望まれるわけであります。

 更に民事執行を確実に円滑に遅滞なく実行していくためには、執行官の増員や管轄区域の見直しを含めて抜本的に改革の手を入れる必要があります。企業にとっては死活問題であり、ルールに則った公正な手段による権利の実現が保障されなければならないと感じております。

 第4は「弁護士の改革」であります。

 法曹三者の中で国民や企業と一番多く接するのは弁護士ですから、弁護士を巡る改革は目に見えるものとして影響は大きいはずです。弁護士改革の実現は司法への信頼を大きく回復させる働きがあると思います。

 まず、①の「弁護士法の各種規制の見直し」でありますが、広告規制は近々緩和されるようですが、料金体系や事務所の法人化など、見直しの対象となる事項は多いはずです。あくまでもユーザーの視点に立って、弁護士に関わる規制の見直しを行っていくべきだと考えます。

 司法書士・弁理士・税理士などの法律関連の隣接業種との融合・協力関係は、ユーザーの視点から考えていくべき問題で、単なる住み分け論に終わらないようにしなくてはなりません。

 ②の「大都市遍在の是正」を解消するにも、弁護士を増やすと同時に、情報、ハイテク技術をもっとうまく利用して、医療分野における遠隔地診療のような工夫がされてしかるべきだと考えます。

 ③の「法律・経済総合事務所の創設によるワンストップサービスの実現」については、まさにユーザーの視点からの発想であり、コスト意識に立てば、ワンストップサービスの実現がいかに効率的であるかは明らかでありますから、検討に値すると考えております。

 第5番目は国際化です。今後ますますグローバル化が進展していくわけですから、日本が世界に伍していくためには、国内の視点や感覚だけでなく、世界に通用して認識されるようなインフラでなくてはなりません。したがって、5ページの初めにありますように、「国際的ルールとの協調」、それから「司法サービスにおける国際水準の確保」の2つの観点が必要だと思います。

 第6は、「国民・企業と司法との接点」との問題であります。

 接点を広く大きくすることは、国民の意識を変え、企業の経済活動の活発化を促していくに違いありません。内容としては、「企業内法務担当者への法曹資格付与」とか、「ビジネス法務検定制度の充実」、「初等教育段階への取り入れ」、「法文の現代語書き換え」等が考えられますが、ここで特に申し上げておきたいのは、2-6の②にあります「ビジネス法務検定制度の充実」であります。

 ビジネス法務検定制度は、商工会議所で取り組んでいる制度ですが、法務知識を普及し、法律的考えや行動をとることで、未然に紛争を防止する予防法務的効果が見込まれます。検定制度の創設からまだ日が浅いため、この制度の普及はまだこれからの状況ですが、企業内の法務担当者の育成に向けて、多くの企業や大学が注目しております。資格取得が1つのステータスとなって、信頼の基礎となれば司法の裾野を広げる効果は極めて大きいと思います。

 以上、司法の容量と諸制度の見直しの2点から整理した論点を説明させていただきました。

 時間の関係でかなり早口でやったため、お聞き苦しい点もあったと思いますけれども、ご容赦ください。

【佐藤会長】 明快で大変興味深いお話でした。それでは、井上委員からお願いします。

【井上委員】 お手元に4ページのペーパーとそのレジュメがまいっていると思いますが、そのレジュメに沿ってお話し申し上げます。かなりのところが石井委員とダブっておりますので、はしょってお話しいたしますが、詳しくはペーパーの方をお読みいただければと存じます。

 まず、このペーパーの構成としましては、最初に論点を選ぶに当たっての基本的な考え方と、その論点についてどういう姿勢で議論していくべきかということを総論的に書いてございまして、後半が具体的に検討すべき項目を拾い出した各論的部分となっております。

 基本的な考え方としては、まず改革の目標ですが、これは何度も皆さんがおっしゃっているところでありますけれども、個人の自律と責任への依存がますます強まるこれからの時代において、国民の権利・自由その他の正当な利益を適切に保護するために実効性があって、かつ国民にとって親しみやすく、利用しやすい司法制度を整備するということであろう。この点については、多くの方が共通の認識を持っておられると思います。

 それでは、そのためにどうすればいいかということですが、これも多くの方が言われているように、まず何よりも司法の容量の拡大と質的向上を図るということが最も中心になるだろうと思います。それに加えて、これからはおそらく、いろんな価値観やライフスタイルを持つ人々が共棲する社会になっていくのではないか。国際化というのもその一つの大きな要因ですけれども、そうなりますと、いろんな人間関係が生み出され、それに伴って法的紛争も非常に多様になっていく。それに司法制度として対応できるためには、司法制度を支えるべき人間も多様化し、いろんなバックグラウンドや学識経験等を持つ人が参入して、その人的資源を豊かなものにしていくということが必要になるのではないかと思います。

 それと同時に、制度や手続自体も多様なものにしていかないといけない。しかも、社会状況が目まぐるしく変わっていきますので、それに対応して、その制度を常に更新していくという仕組みを組み込んでおくという必要があるのではないか。大体そういう大きな枠組みで考えてみました。

 もっとも、そこに入ってくる論点は非常に多くあるわけですが、この審議会の規模・構成や審議期間が限定されていることを考えますと、あらゆる関連する論点をまんべんなく拾いあげるというのではなく、なるべくコアとなる事項に絞って、突っ込んだ議論をするということが必要なのではないかと考えます。

 取り上げる各論点につきましても、これまで各方面でいろいろな指摘、主張等がなされているわけですが、我々が扱うのは現実に動いている、しかも多くの人の生の権利や利益に関わる問題ですので、やはり正確な事実認識というものが基本にならなければならない。それを踏まえて、一面的でない幅広い視野から問題を検討する必要があるのではないか。制度や個々の手続も、ある部分だけが独立して存在するのではなく、他の部分と密接に連関しており、あるところを動かせば他の部分もそれに連動して動いていくという関係に立つものですから、そういった多面的な検討が不可欠ではないかと思われるのです。

 また、諸外国の制度をモデルにしていろいろな改革論がなされているということは御承知のとおりだと思いますが、そういった既存の制度というのも、パーフェクトなものはおそらくない。やはり問題点も少なからず伴っているものですので、そのメリット、デメリットを冷静に見極めて、ある制度を取るかどうかというオール・オア・ナッシングの形ではなく、いろんな制度の良いところ、あるいはそこに盛り込まれたアイデアから学んで、我が国の実情に適したより良い解決策というものを導いていく、というのが望ましい方向ではないかと考える次第です。

 そういう一般的な観点から検討すべき事項を整理してみますと、4つくらいのグループになるのではないかと思います。そのうち3つのグループが実体的なものでして、先ほどから申し上げているような目的のためには、制度自体が効果的なもの、実効的なものとして整備されるということ、これは当然ですが、そのように制度を幾ら整備してみましても、その趣旨にしたがってこれを実際に動かしていけるだけの人的な基盤が備わっていなければ駄目なわけですので、まずやらなければならないのは人的基盤の質的、量的拡充であろう。そのことと制度的基盤を整備していくということが並行して行われていくべきだろうと思うのです。

 その上、そういうふうに制度や人の面で、司法制度の側としては充実したとしても、国民の皆さんがそれを十分理解し、身近なものとして利用してくださらなければ、せっかく整備しても使われないということになりますので、やはり司法に対する国民の理解と親近性を強化、増進していくという方策を考えるべきだろうと思います。

 そして、最後に4番目として、そういうふうに整備ができ上がったとしても、常にこれを見直し、更新していく仕組みを設けておくべきではないか、ということです。

 そういうことから、個別的には丸数字で書きました11の項目を拾ってみました。これもやっつけ仕事で拾い出したものですので、過不足があると思いますが、その中でもレジュメのところにアンダーラインを引いたものが、特に重点を置いて議論すべき項目であろうと考えているものです。

 一つ一つに詳しく立ち入って御説明する時間がありませんので、後でお読みいただければと思いますが、第1が「法曹人口の増加」です。これにつきましては、皆さん既におっしゃっていることですが、若干付加しますと、いわゆる狭い意味の法律家を増やすだけではなく、それを補助するスタッフの充実ということも伴っていかなければ、十分なものとは言えない。その辺まで目配りした整備が必要だろうと思います。

 第2が「法曹養成と法学教育のシステムの抜本的見直し」ということでいわゆるロー・スクール構想を含め総合的に検討するということが、今回の審議でも最も中核となるべき事柄の一つであろうと考えますが、その中身につきましては、既にいろいろなところで議論されており、お分かりだと思いますので、これ以上は立ち入りません。

 第3は「裁判官の任用方法の変革・多様化」ということで、これは、主にいわゆる法曹一元問題という形で議論されていますが、おそらくそれが最終目的ではなく、裁判官として質の良い、また多様な人材を任用することによって、裁判を行う人的基盤を非常に豊かなものにしていくということが最終目標であり、その方法論としてどういう形があるのかということではないか、と思われます。法曹一元の問題もむろん検討しなければならないわけでございますが、それ以外の形でもその目標に近づけるような実現可能な方策があれば、それをも視野に入れて検討すべきではないかということでございます。

 第4は「弁護士の業務形態の変革」ということで、これは既に石井委員からも御指摘があったところですが、そのことはそれ自体として非常に重要であると同時に、後で触れます訴訟の迅速化ですとか、あるいは法律扶助や公的刑事弁護といったものを充実させていくことを可能にするためにも、是非突っ込んだ検討が必要ではないかと考えております。

 第5番の法律扶助につきましては、石井委員からもお話があったとおりですが、私の専門に比較的近いところで、公的刑事弁護制度をこの際拡充・強化することを是非考えていただくべきだろう。先ほど石井委員は被疑者弁護を中心にお話になりましたが、その点が一番手当が必要と言われているところであることは確かなのですけれども、それと公判段階の公的弁護とを一体的なものとして考えることによって、例えば訴訟の迅速化等にも対応できるような体制というのが可能になるかもしれない。そういう趣旨で、より広く「公的刑事弁護制度」という言葉を使ったわけです。

 もっとも、こういう形で公費を投入するということになりますと、それを担保するだけの弁護活動に対する評価とかコントロールというものが伴わなければならない。そうでなければ、国民の理解もおそらく得られないだろう。その点から、同時に、そのような評価やコントロールの仕組みについても目配りをした議論が必要ではないかということでございます。

 第6番目は「訴訟の迅速化」ということですが、御承知のように、数の上では一部に限られているとはいえ、国民の注目を集めるような大きな事件の裁判が余りにも長くかかり過ぎるということが司法に対する国民のイメージや信頼を大きく傷つける要因になっているのは事実ですので、単一の解決策だけではおそらく対応できないと思うのですけれども、ペーパーに書いてありますようないろいろな対応策を積み重ね、あるいは組み合わせて、できる限り速い、速いと言いましても拙速では困るわけですが、適正でかつ迅速な訴訟というものを実現していくことを考えるべきではないか、ということであります。

 第7がADRをはじめとする「多様な紛争解決システムの整備」、第8が「グローバル化の下での国民の権利・利益・安全の確保」ということですが、これらはペーパーをお読みいただくこととして、第9が「国民の司法参加の増進」ということです。これにつきましては、これまで主に刑事について陪審とか参審の議論がなされてきました。それはそれで、むろん、重要ではあるわけですが、それのみに限定せずに、より広く国民がどういう形で司法に参加していくのがいいのか、また、可能なのか、その条件というのは何なのか、について幅広く議論すべきだろうと考えるのです。

 第10が「司法制度の透明性の向上」、そして第11が「司法制度の不断の更新を可能とする機構の整備」ということですが、もう時間がありませんので、ペーパーをお読みになっていただければと思います。私も早口で申し訳なかったのですが、この程度にいたします。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それでは、北村委員お願いします。

【北村委員】 石井委員と井上委員に非常に的確な論点を述べていただきまして、私はそれとダブらない範囲でやろうと思うんですが、余りダブらないものがないのかなと思っております。ひとまず司法制度改革に関する「改革の視点」なんですが、ここでダブらない範囲のところで申し上げますと、貧しい人も、それから経済的に豊かな人も等しく保護されるような司法制度の確立というのが4番にあるんですけれども、これは裁判を受ける人もそうですし、法曹界にこれから入っていこうとする人についても、同じように考えていく必要があるのではないかなというのが1点あります。

 それから、5番目の「チェック機構を有した制度づくり」というのは、制度をつくるときには必ず一方的なもので終わるのではなくて、この間の外国の説明で伺いましたように、必ず反対側のチェックがきくように、それから、さっき井上委員もおっしゃいましたが、司法制度ができた後でも必ずチェックできるようなことを考えておく必要があるのではないかということです。

 次の6番目の「国際化への対応」というのは既に出てきたんですが、私も井上委員がおっしゃいましたように、国際的に調和化していかなければならない部分と、我が国独自のものとして残しておくというか、設置しておくことが必要な部分というものを考えていかなければならないのではないか。何でもかんでも外国のものを受け入れればそれで済むというようなものではないだろうということです。

 それから、8番目の「実施の時期を考慮した改革を」というのは、何を言いたいのかと言いますと、やはりすぐにやらなければならないこと。また、もうちょっと中期的な視点で改革しなければならないこと。それからもっと長期的なものもあるのではないかなというようなことで、一応ここで短期というのはすぐということで、中期が大体4、5年、長期は10年程度のスパンで見ていく必要があるのかなと思っております。

 以上が改革の視点なんですけれども、それでまず「人的インフラ」の法曹人口の増大のところですが、1つ必要性を感じておりますのが「隣接専門職種との協力関係の充実」ということで、これまでの議論の中で税理士は挙がっているんですけれども、公認会計士が割と挙がっていないように思うんですけれども、私はやはり今のような銀行・証券等の裁判とかになりますと、公認会計士との協調ということが必要になってくるのかなと思っております。

 次に法曹人口増大の数の問題です。前に中坊委員に質問した手前、ちょっと言わなければならないのかというふうにも思っているんですが、これは次の法曹養成システムの充実との問題でもあると思っております。

 この法曹養成システムの充実のところの法科大学院構想というのが今盛んに言われておりますけれども、私はここで一つ最も言いたいことは、国立大学と私立大学について、あのままですと、国立大学は可能ですけれども、私立大学は採算という観点から行きますと、ものすごく厳しいんです。したがいまして、そこで国立大学と私立大学、何とか共存できるような形というものが必要なのではないかと思います。

 それから、法科大学院の場合、法学部教育との問題もありますし、そこのところを考えていかなければならないだろうと。

 さらに、設置数というのがありますけれども、設置を制限するのではなくて、申請すればその基準にかなったものは認めるという方向が必要だろうとは思っておりますけれども、やはり法曹人口の関係から人数にはある程度のものが必要なのかと思っております。いわれているように毎年2,000人程度なのかなと思いますけれども、これは設置をする大学がどのくらいの数があるかによって多少違ってくるのかなと。

 それから「修了者に対する資格試験の問題」というのは、先の数との関係においても、やはり考えておかなければならないだろうと。資格試験については、私は今のところは必要だというふうに思っておりますけれども、前に中坊委員の御意見がありましたように、私も意見を変える可能性がありますが、現在のところでは、必要なんだろうと。我が国の場合には特に必要なのかと思っております。

 それから、先ほど富める者も貧しい者もというふうに申し上げましたが、やはり法科大学院に行けない人というのもいると思うんです。これは幾ら奨学金を提供するといたしましても、やはり家族の面倒を見ながらやらなければならない人ということも考えておかなければならないだろうと。だから、司法試験制度というものの改革も考えていかなければならないと。

 そうしますと、法科大学院とのバランスの問題、それから今度司法試験制度、これが非常に人数が少なくなる可能性がありますので、そうすると、口述試験重視の試験制度の検討が必要になってきて、法科大学院と司法試験の2本立てというのが我が国の場合に必要かなというふうに現在は考えております。

 3番目の「司法修習のあり方」の問題、これも法科大学院修了者と司法修習の問題、司法試験合格者と司法修習の問題ということで、あと司法研修所をどこがやるのかということを考えておく必要があるだろうと。いわゆる主体の問題です。

 それから、次に申し上げたいのが「継続教育のあり方」の問題で、一度法曹界に入ってしまえばそれで済むというものではないと思うんです。そこで継続教育というものをどこで、どのような形でやっていくかということです。

 5番目、私はこれが一番必要だと思っておりますが、「法曹倫理の教育」というものをどこで行うのか。法科大学院の中では行うでしょうけれども、司法試験の中に余り行う余地はないだろうと思いますと、やはり司法修習の方できちっと倫理というものを取り上げていかなければならない。現在、公認会計士の方も、公認会計士の倫理が非常に問題として挙げられておりますので、やはりそういう形で考えていく必要があると思っております。

 次に時計数字3番目の「制度的なインフラ」の問題ですけれども、ここのところはお二人の方がおっしゃったことと余り変わっておりません。ただ、4番目の「開廷日の増大」、これは言葉がちょっとおかしいんですが、何を言いたいのかと言いますと、土日を開廷すればどうなのか。今、世の中の人は忙しいですから、休みの日に裁判があるというのはいいのではないかなというふうに、これは利用者の側から考えました。裁判官はやっていられないとおっしゃるかもしれませんけれども、一応そういうことも検討してみる。それが裁判の迅速化にも、利用のしやすさということにもつながるのかと思いました。

 3ページ、10番の「少年事件裁判のあり方」というのを少し考えておく必要があるのではないかというふうに思っております。

 「弁護士に関する改革」のところですけれども、これもほとんどのものは入っていると思いますが、私は弁護士報酬制度の検討ということで、適正な報酬というものをもう一度見直す必要があるだろうというのと、それから敗訴者が負担するという制度、これをきちんとやっていくということもある程度必要なのかと思っています。

 4番の「刑事裁判と民事裁判担当弁護士の分離の必要性の有無」も、何故必要と感じたのかと言いますと、裁判の傍聴に行きましたときに、次の日程を決めるのに弁護士の方が、それは忙しいからと1月くらい延びてしまうという現実を目の当たりにいたしまして、これはちょっとまずいかなと思いました。これと、1番の「法律事務所のあり方」というものを組にして裁判の迅速化を図るという方向があるのかということです。

 最後に申し上げたいのが「Ⅴ司法改革を進めるに当たって」ということなんですけれども、前にもちょっと申し上げましたが、司法改革について、2年間一生懸命議論したものというのは、やはりある程度実行していただける方向が望ましいと。そのためには、今じゃまになっているものを検討し直す必要がある。じゃまと言ったら怒られますけれども、素人の発言で恐縮なんですけれども、法曹三者協議というものがおありのようで、それについても一応見直す必要性はないのかと。これは是非必要だと思われる方は多いと思うんですけれども、改革というのはどこかに痛みが伴うものであると。ちょっと考えていただければなというふうに思いました。

 10分になりました。どうも失礼いたしました。

【佐藤会長】 どうも御協力ありがとうございます。それでは、髙木委員お願いします。

【髙木委員】 お手元にあるものを御参照いただきたいと思いますが、「はじめに」のところは能書きですから、御覧いただきたいと思います。次に「1.司法改革に関する状況認識」についてですが、今、司法改革が求められている状況を我々はどう認識するのかということで1番。

 2番目に、よく法の支配という言葉が使われるんですが、そういったものが今、どういうレベルで実現しているのかについて検証をしながら一度議論をする必要があるのではないか。

 それから、1の(3)でございますが、「いわゆる法律家」という表現を使わしていただきましたが、「日独裁判官物語」というのを見まして特に感じましたのは、独では、法曹の中に、あるいは法律の仕事に関わっておられる方たちの自己改革というものがものすごく目立つ。日本でもいろいろおやりになっているのかもしれませんが、そういう意味でここに覚醒という言葉を使わせていただきましたけれども、自らがお仕事に携わる立場で自己改革をするという、そういったものを一方でより強く持っていただきながら、裁判官の独立というものをいろいろ議論していく必要があるのではないか、ということです。

 それから、国民主権ということがよく言われるんですが、これも今どのくらいのレベルで日本は国民主権を実現していると言えるのか、いろんな制度が擬制的にもてあそばれている国民主権の姿が一方であるのではないか、こうした切り口で司法が担保すべき国民主権のレベルを見た時、現状はどんなレベルにあるのか、司法自体のレベルも問われているという問題意識でございます。

 皆さん方が挙げられた論点項目には、いろんな項目があるわけですけれども、これは石井さんのおっしゃったことと同じだと思うんですが、ともかく目指すのは何なんだというグランドデザインをきちんと描いて、その目指すべき方向はおおむねこれだなということについてまず合意し、それに向かってどういうアプローチをしていくのかという論議の仕方が必要ではないかと思います。

 6番目に、私、労働組合の仕事をしていますのて、労働を巡る紛争についてもいろんな問題意識を持っておりますので、その辺についても機会があれば論議の場をいただきたいということです。

 それから、7番目は、この論議は国民にオープンにしていきましょうということです。

 そういう状況認識に立ちまして、基本的な論点といいますか、まず、総論的な課題をきちっと整理をして、13人全員の合意になるかどうか分かりませんが、大体こういうことで考えていくのかというのをできるだけ早い時期に整理をし、その後各論は、そういう基本的な整理を一種の判断の物差しにしながら議論していけば、議論のトーンも、スピードも上がるのではないかと思います。私も素人なんで、当たっているのかどうか分かりませんが、幾つか基本的な論点というのはこういうことではないかというのを書いてみました。

 第一に、市民の使い勝手のいいという切り口です。

 第二は、先ほど申し上げました司法においても国民主権のレベルをもっと上げるべきじゃないかという点です。

 三権の一つとしての司法の独立性というのが日本の場合どこまできちんとしているのか。分権型社会ということもいろいろ言われております。そういう意味ではこういったことを踏まえて、日本の司法制度の目指すべき方向としては、法曹一元、陪・参審辺りをとりあえずの目標にするということでいいのか。

 この法曹一元をもうちょっと広くとらえて、さっき井上先生がおっしゃったような領域にも当然及ぶかもしれませんが、そういった論点もあるのかなと思います。

 それから、第三として、司法の独立性とも絡むのかもしれませんが、法の支配の実現ということと、今まで司法消極主義だということがいろいろ言われておりましたが、この辺の打開と言いますか、感覚を進化させていくということは当然だという理解をしてお互いに議論しあっていけばいいのか、という点を挙げました。

 それから、現行司法制度の持っております閉鎖性、不透明性、過度の集積・統制的な運用、これは欠点列挙主義だという御批判があるかもしれませんが、こういったものを改善していくために、裁判官のキャリア・システムと心証形成の問題、検察の起訴便宜主義、弁護士の法律事務独占、こういった問題に何らかの改革のメスが入れられるべきではないか。

 法曹人口の拡大については、皆さん方共通したお話ですし、そういうことならできるだけ早くスタートさせるということが必要だという認識でいいのか。

 それから、代替的紛争処理、ADRにつきましては、論点の中に含まれるのだろうと思いますが、逆に、ADRと司法手続が併用されるがゆえに問題解決が長期化しているという世界もいろいろありましたりして、ADRと司法手続の相互の位置づけ等についての整備も必要ではないかと思っています。

 裁判所の関係では、例えば労働裁判所みたいなものをつくっていただくということも議論していただきたいと考えております。

 8番目は、労働関係の問題でございます。

 3ページ以降、個別の論点ということでいろいろ書いておりますが、お読みいただければお分かりいただけるのではないかと思います。

 以上で終わらせていただきます。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それでは、竹下会長代理お願いします。

【竹下会長代理】 私のは、長々と前置きが長くなっておりますが、全体の構成は、まず、この審議会の役割といたしまして、審議会設置法上、21世紀の我が国社会における司法の役割を考慮して、改革のための基本的施策を調査審議すべきこととなっていますので、それを踏まえてみようということです。その上で、次に、司法の現状分析、現状認識として、司法の現状はどうなっていて、どういう問題があるかを考えてみる。そして、最後に、それを基にして、改革すべき事項はどういうことかを明らかにする、という全体はそういう構成でございます。

 まず第1の司法の役割でございますが、これはとても私には、自分で21世紀の我が国の社会を見通すという能力はありませんから、従来のいろいろな御提言を下敷きにして考えさせていただくと、とにかく行政依存型経済社会から、国際化・自由化された市場経済社会へ転換していく。企業・個人の「自己責任」の下に、透明なルールにしたがって、行動することが求められると言われています。そうだとすると、司法の役割は、透明なルールによる社会の実効的統制にあるということに一応なるだろうと考えられます。

 しかし、そういった経済的な側面だけの問題かというと、そうではないのではないか。政治的な側面というものを考える必要があるだろうと思われる。そうすると、第2に、司法は公正な民主社会の支柱になる役割を担っている。すべての個人・団体を平等・対等な地位に置き、透明・公正なルールと理性のみにしたがって当否の判断を下すところに、司法の本質がある。そう考えるべきではないかということでございます。

 第3は、どなたかもおっしゃいましたように、21世紀の国際化された社会を前提に考えると、日本の司法は国内だけ見ていればよいというわけにはいかないのではないか。国際社会における日本の司法の役割というものがあるだろうと思われます。それは煎じ詰めると国際協力をするという面と、司法による国際的な貢献をするということになるのではないかということでございます。

 次は司法の現状と課題でございますが、これからの司法の役割を以上のように考えると、司法の現状が当面している課題は、一言で言うと、「司法機能の活性化、普遍化」ということになるのではないか。「司法機能の活性化、普遍化」を実現しようとすると、「法曹の量的、質的拡充」ということが必要になり、それに今、申しました司法の国際的な貢献というものを考える必要があるのではないかと考えられます。

 そこで、司法の現状を「司法機能の活性化、普遍化」、またそれに派生する「法曹の量的、質的拡充」という観点から見てみると、まず利用者としての国民から見た司法が問題になるだろう。しかし、司法がどうあるべきかは、利用者としての国民という立場から見ただけでは十分ではないのではないか。司法を利用しない一般の国民、言い換えれば主権者たる国民から見ても、司法のあるべき姿というものが考えられなければいけないのではないか。そこでその二つの観点から司法の現状を見ようとしたわけですが、利用者としての国民から見た司法の現状の問題点といたしましては、第一に、民事訴訟の迅速化が問題で、既に皆さんがいろいろ言っておられるところでございます。とりわけ、特別の専門知識を要するようなタイプの訴訟が非常に遅れているというところが問題だと思われます。

 それから、2番目が「訴訟に要する費用の問題」で、この点は法律扶助制度の早急な整備ということのほかに、弁護士報酬をも含めて訴訟費用負担制度全体の見直しが必要になるだろうと考えております。

 3番目は「権利救済の実効性の問題」でございまして、石井委員から御指摘がございましたように、強制執行制度、あるいは民事執行制度を実効性のあるものに見直す必要があると思います。

 4番目は「裁判所へのアクセスの問題」でございまして、訴訟に要する費用がアクセスを妨げるというのが最大の障害だと思いますけれども、それ以外にもいろいろ問題があるのではないか。例えば、アクセスを容易にするため、裁判所に関する情報公開というものも考えるべきではないかと思います。

 それから、やや個別的な例になりますけれども、例えば家庭裁判所については、同じ家庭関係事件であるのに、地方裁判所と家庭裁判所に管轄が分かれているということが国民の裁判所に対するアクセスの障害になっているのではないかと思います。

 さらに、5番目として、私の意見書では「予防司法体制の整備」と言いましたのは、必ずしも適切な表現ではございませんが、現在は第3の法整備期と呼ばれるくらいに、いろいろ法律ができております。しかも、それらは非常に難しい。金融持株会社に関する独禁法や商法の改正とか、債権流動化のためのいろいろな法的なスキームとか、そういうものに関する法律がたくさんつくられておりますから、個人が法律家にいろいろアドバイスを求めなければならないというだけにとどまらず、企業も一方では、リーガル・コンプライアンスというものが要請されておりますので、そういう法的アドバイスを受ける必要が非常に大きくなっている。それに対応する必要があるのではないか。特に弁護士の絶対的な数の不足とか、地域的偏在とか、執務体制の問題とか、そういう問題を解決することが考えられなければいけないと思います。

 次はいわば主権者としての国民の立場、つまり利用するかどうかということとは別に見た場合の、司法の現状とその課題でございますが、ここでは何と言っても一番大きな問題は司法への国民参加の問題であろうと思います。具体的には今、陪審制、参審制が問題とされておりますけれども、それ以外にもここには書いてございませんが、井上委員が言われたような司法委員制度の拡充の問題、あるいは検察審査会の権限強化の問題ということも視野の中に入れて考えるべきだろうと思います。

 2番目は、司法の透明性、国民的基盤の問題です。最近、司法のブラック・ボックス化というようなことが指摘されております。我が国の場合、裁判所・裁判官に対する信頼は非常に高いのですけれども、では、国民は司法、あるいは裁判所がやっていることについて十分に内容を理解しているのかというと、必ずしもそうではない。それでは、日本の司法は国民的基盤の上に成り立っているということにならないことになるのではないか。そういう観点からも情報公開とか、国民の司法参加というものが必要になってくるのだろうという問題です。

 3番目は、主権者たる国民の立場から見ると、司法の、行政に対するチェック機能を強化する必要があるという問題です。この点はもういろいろ御指摘をされていますので、立ち入りませんが、ただ、情報公開条例訴訟とか住民訴訟、あるいは国家賠償訴訟などでは司法はかなりよく行政のチェック機能を果たしていると言われているわけでありまして、固有の行政訴訟が今、一番問題なのかと思います。

 その次は、刑事司法関係でございまして、これも利用者たる国民という観点からは出てこないことであります。私の専門外ですから、余り申し上げることもないのですが、やはり刑事司法の強化・迅速化ということは必要ではないか。日本の安全神話が崩れつつあるということが言われておりまして、確かに捜査能力が落ちている面もあるのかもしれませんけれども、犯罪それ自体が組織化・国際化されている。一方では、社会の都市化や共同体の解体などで捜査が難しくなっているということは否めないわけでございます。

 他方、刑事司法の方では、昔からあったような犯罪ばかりではなく、独占禁止法違反とか証券取引法違反とか、商法違反というような経済犯罪、あるいは企業犯罪というものが社会正義という観点から非常に重視されるようになってきておりますから、そういう要請にも応えなければいけないことになると思います。

 また、刑事司法の迅速化の点でございますけれども、これは一部の難事件であると申しましても、第一審だけで10年を超えるというような刑事訴訟は、犯罪の社会的な風化をもたらして、もはや刑事司法による正義の実現にならなくなるのではないか。やはり集中審理、あるいは公判期日の連続的実施が可能になるような条件整備を考える必要があるだろう。後ほど個別の論点のところで挙げてございますが、私も井上委員が言われたような公設弁護人制度と言いますか、そういうようなものを考えてもよいのではないかと思っております。

 刑事司法に関連しましては、あと被疑者弁護人及び少年付添人の問題がございます。これはどういう手法で実現するかは、必ずしも意見が一致しているわけではないわけで、法律扶助の枠組みでやるのがよいのか、それとも国選でやるのがよいのかということはやはり慎重に考えなければいけない問題ではないかと思います。

 「法曹の量的・質的充実」は、もう皆さんから言われておりまして、ほとんど共通のことでございます。私は裁判官に関わる問題、検察官に関わる問題、弁護士に関する問題という観点から、1、2、3と分けておりますが、立ち入った説明は省略させていただきたいと思います。

 ただ、一点、法曹一元の問題は非常に重要な問題ですから、その点についてだけ申し上げますと、近年ジャーナリズムその他で法曹一元制度の実現を求める声が高まっておりますが、これも逆によく言われますように、平成3年に最高裁判所と日弁連との合意に基づいて発足しました、いわゆる弁護士任官制度が十分な成果を上げるに至っていないという事実も指摘されているわけです。やはり問題の解決は、キャリア・システム、法曹一元のどちらかということではなくて、そのそれぞれのメリット、デメリット、またデメリットの是正可能性ということを考慮に入れ、更に法曹一元制の現実的な可能性ということも慎重に検討しなければいけないだろうと考えております。

 弁護士に関することも既に皆様から御指摘を受けたとおりでございますから、省略させていただきたいと思いますが、一つだけ、私の意見書の5ページの上から数行目の(3)の中の(c)ですが、要するにこれまで日本の弁護士は競争的な環境に置かれてこなかった。昭和8年の「法律事務取扱ノ取締ニ関スル法律」以来、法律業務の独占が認められ、また弁護士内部では、数を増やさないという政策的な方針で来られたのだろうと思いますけれども、そのために結局、どこでも競争的な環境に置かれてこなかったという問題があるのではないか。これは、一面では経済的な採算にとらわれずに社会正義の実現とか基本的人権の擁護という、弁護士の基本的な目的の追求ができるという利点をもたらしましたけれども、他方では国民に対するサービス、あるいは弁護士の質的向上という点に問題を残しているのではないかと思います。

 このこととの関連で、司法書士、弁理士等の、いわゆる隣接業種との境界問題も単に協力関係というのではなくて、そもそもそういう独占を認めておくべきかどうかというところの見直しから対処する必要があるだろうと思います。

 その次の4は「公設法律事務所の検討」ということですが、弁護士過疎地の問題を解決するために、公設法律事務所設置の必要が言われているわけでございますけれども、それだけではなくて、それを契機として、先ほど井上委員からお話がございました刑事国選弁護人の問題、あるいは刑事被疑者も国選弁護でやるのだとすれば、そういう問題。更に場合によっては、国や行政庁の指定代理人の機能も一括して担うような公設法律事務所の設置を検討するということも必要なのではないかと考えております。

 「法曹養成制度の問題」もほぼ皆さんと同じようなことでございます。ただ、1点だけ申しますと、最近大学関係者を中心として、多様な法科大学院あるいは日本型ロー・スクール構想というものが提示されておりますが、その基本的な方向は支持できるとしても、この問題が提示されてからの議論の展開が非常に早くて、私は早過ぎるという感じを持っているのですが、法学関係者の間ですら多面的、かつ掘り下げた議論が行われているとは言い難い。先ほど北村委員から御指摘がございましたように、国立大学と私立大学という問題も残されている。そういうことを十分議論して、結論を出すべきではないかと思います。

 「わが国の司法の国際的貢献」につきましては、そこに書きましたとおりでございますので、後ほど御覧いただければと思います。

 以上を踏まえて、具体的な審議項目として取り上げるべきだと考えるものをそこに書きました。これは第3回のこの審議会での申合せに従って、一応「A.司法の制度的インフラに関わる項目」、「B.司法の人的インフラに関わる項目」、「C.その他」というふうに分けて書いてございます。右側の鍵括弧の中は、上の私が現状の問題点として挙げましたところと、この項目がどう関係しているかを示したものでございます。

 問題点として挙げたところに入っていないのは、一番最後で、これは前に井上委員が御指摘になり、今日も言われたことと関係するわけですけれども、やはり司法改革の進め方、それから継続的な司法改革推進体制というものもこの審議会で議論しておく必要があるのではないかということでございます。

 ちょっと時間をオーバーいたしました。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それでは、鳥居委員お願いします。

【鳥居委員】 私は法律のことは素人でございますので、論点メモは考え方と方向が書いてございます。

 私の論点は、経験から出ておりますので、経験談が若干交じるかもしれません。

 「司法制度改革の目的」は、ここに書いてある5点が大事なポイントだと思います。「公平・公正な社会」の実現。その中でも、私が弱者の人権と言っているのは、いわゆる社会的弱者だけを意味しません。むしろ、権利を主張する力のない者、それを私は弱者と呼んでいます。

 私の身近な経験では、例えば建築基準法に明らかに違反している建築を区役所が認めてしまう。そうすると、周辺住民は文句の持っていきどころがない。区役所に違法性を訴えても相手にしてもらえない。最後にはそれは既成事実として認められてしまうという具合です。仕方がないから住民は、司法に頼らないで国会議員とか地方議員を使って解決してしまった方が早い。区役所はどういうときに一番びっくりするかというと、国会に喚問されたということになると、突然すべてを改める。こういうようなことが起こっている。こういうようなものは、公平・公正な社会でない最大の証拠だと思います。

 それから、司法へのアクセスの問題も、これはさんざん議論されているところですが、私の一つの経験では、裁判所の窓口でした。

 私も地方に住んでいた頃に、子供の名前を付けました。その名前は名前としては認められない漢字でした。だから、平仮名で付けました。平仮名で付けておいたら、やがてそれが許されましたので、裁判所の窓口に行きました。いきなり、何か用ですか。用がない人がここへ来るはずがない。来所した理由を説明したら、それは駄目です。それでおしまいなんです。でも、国が駄目だと言って使えなかった漢字を、国が使っていいと制度改正したんだから、変名というより元の名前の表記にしたい。しかし駄目なんです。1年以上のやり取りの結果、結局、子供に代わって親が名前を変更したい正当な理由を書きなさいということになりました。この名前の方がいいんだという作文がようやく裁判官に認められた。子供は3歳か4歳ですから書けません。こういうことが起こります。そういうことも含めて司法へのアクセスというのをどう考えていったらいいのかということを考えるべきです。

 それから、集中と過疎の問題ですが、都市と地方の過疎、集中という問題もありますけれども、領域によると思うんです。例えば医療や介護の分野は、司法の過疎領域です。それから、国際金融の分野も今のところ司法の過疎領域です。

 それから、今回の司法制度改革では、日本の国が活力ある経済の国になっていくためにどうしたらいいかということを考えていかなければならないと思います。これは内容は省略しますけれども、例えばWTOがこれからいろんな形で日本の法律をがんじがらめにしてくるとき、日本の現在の立法と司法との関わりが弱いのではないかと思います。

 一番いい例が、かつてGATTというのがありました。WTO以前のGATTです。アメリカの貿易法をいろいろ読んでみますと、GATTの条項とそっくりのことが書いてあるところがいろいろあるんです。アメリカのやり方というのは、あなたがやっていることはGATTに違反していると言って、実は自分の国の貿易法に違反していることを主張してしまうわけです。こういうずるい仕組みをいっぱい持っている国を相手にしてこれから生きていかなければならないのに、日本というのはどういう司法制度にしたらいいのか、私は素人でよく分からないんですが、考えたいと思います。

 次は「憲法改善」というのは、憲法改正という言葉を知らないわけじゃないんですが、うかつに使えないので、憲法改善と呼んでおきます。

 一番分かりやすい例が、先ほどお話があった私学と国立大学の話ですが、憲法89条というのがあるんです。御存じの憲法89条には公金を公の支配に属さない学校に使ってはならないと書いてありまして、要するに国民の税金を私学に使ってはいけないと書いてあるわけです。これは明らかに、この憲法自体が憲法14条に違反していると私は思っています。憲法14条ではあらゆる差別をしてはいけないことになっているわけですから。こういうことを改善することができる仕組みを何か日本の司法制度全体、立法も絡んで、欠いているのではないか。あるいはこのような判断を忌避し続けてきた歴史が積み重なっていくと、放っておくといつまでたっても憲法が改正できないという事態が続いていってしまうのではないかと思います。

 それから、知的財産については、既に御議論がありましたから、省略します。

 次の「透明で迅速な司法」についても省略します。

 下の方の具体的なところですが、「イージーアクセス」、その次の「ヒューマンアクセス」というのは、さっき申し上げたように、いろんな意味で人間的なアクセスをするということです。これは裁判所だけではなくて、日本の役所全体に残っている問題だと思います。

 次のページですが、これは井上先生のお話にもありましたように、裁判官1人を支えるにはたくさんのサポート・システムが後ろになければならない。例えば医者の仕事をするためには、看護婦と、X線技師と、検査技師やパラメディカル、いろんな人がいて、始めて一体となった仕事ができるわけですが、これからいろんな専門知識が必要とされるときに、検察官の背後のシステム、あるいは弁護士の背後のシステム、法曹三者いずれも背後にどういうシステムを持てばいいかというのは、考えてみるとまだ日本は弱いのではないかと思います。

 それから、「裁判の在り方」のところは、特にここで強調したいのは終わりが分かる裁判、いつ終わるのか分からない裁判。それは実は行政訴訟のアクセスという(4)の方にも書いておきましたが、被告が行政側である場合に端的に表れてきます。東京都庁などというところには、何十人という弁護士が常駐でいるわけです。私も実はある医療過誤の被害を受けられた方の代理人とやり合ったことがあるんですけれども、こういうことを言われました。途中でおやめになった方がいいですよ。我々は最後までいきますと。要するに、我々は最高裁までやらなければ自分たちの職業はなくなってしまうんですと。だから、どんなに過誤があっても最高裁までいきますから、25年は掛かりますと。その被害者が残した子供は3歳と1歳だったんですが、その子供たちが26歳になるまで闘わなければならない。そんなことできないわけです。やはり先の見える裁判というのをどう担保したらいいのかということを是非この際考えていただきたいと思います。

 それから、5番のところは医療事故の問題ですが、私の大学病院の医療事故を見まして、当方に過誤がある事故もあり、とても過誤とは言えない案件もありと、いろいろとあります。その際重要な問題はやはり鑑定制度ですね。まさか自分の病院の医者に鑑定させるわけにいきませんので、ほかの病院の先生にお願いする。ところが、皆さんいやがるわけです。これが問題の処理の遅れの原因です。

 それから、次は『「法曹」業務の総合化』と書いておきましたけれども、一般的には御専門の先生方は、クライアントが企業とか法人とか銀行とか、そういうものを想定しておられると思うんです。例えばスイスなど他の国も調べてみていただくと、あるいは違う面があるのではないか。スイス、ルクセンブルグ辺りになりますと、お金を何十億とプライベート・バンクに預託しますね。クライアントは銀行や法人とは限らない。銀行にお金を預けて運用してもらっている、そのお金自体にソリシタが付いてるということが起こっているのではないかと思います。

 そういうことも含めて、バリスタとソリシタ、日本で言うと、これが弁理士とかいろんなものに当たるんでしょうけれども、それと先ほどお話のありました公認会計士、そういったものが一体となった法律総合事務所的なコンセプトというのはつくれないだろうか。

 最後に法曹教育の問題ですが、氏A実はロー・スクール構想については、皆様御存じだと思いますけれども、つい数か月前に専門大学院というものが、大学院設置基準で定められました。

 簡単に言いますと、従来の大学院基準の2倍の先生を用意しなさい。ただし、平成16年までは猶予期間があります。それから、3分の1は実務経験者を入れなさいと。これは2年制でなければいけないということになっています。私立と国立の関係については、ある種の配慮がようやくなされまして、私立大学というのは自分の土地、借金ではなくて自分の金で買った土地、そして、借金しないで建てた建物の上でないと新しい学部や大学は絶対に開けません。ところが、今回に限り、専門大学院に限り、サテライト教室と言いまして、借家でもいいということになりましたので、そこが違ってきます。ですから、幾らか私学もやりやすくなってきた。もうちょっと別の言い方をすると、一番そういう教育を必要とする場所に学校を建てることができるということになりました。

 さて、中身なんですけれども「内容充実」と書いておきましたが、今一番日本の大学で欠けているのは人格教育と教養教育なんです。専門知識の教育は結構やるんです。

 もう一つ問題になるのは、多分ロー・スクールをつくったときには、法学部の教育とロー・スクールの教育との違いというものがあるはずなのに、それがごちゃまぜになってしまう可能性がある。

 最後に書いておきましたけれども、何の学問でもそうなんですが、現実離れ。それはものすごくひどいものです。ですから、ここをどうしていくかということです。

 書いていないことが2つありまして、1つは、一体これを教えるのはだれなんだと。今の大学教授でこのロー・スクールを教えられるんだろうかという問題は、非常に日本では深刻な問題です。むしろ法曹三者のOBの立派な方々が教える先生の側に回ってくださった方がいいのではないか。そのほかに心の問題を教えることのできる人、現実の問題を教える。恋愛の悩みとか何とかというのを教えることができる人でないと駄目なのではないか。最後の最後の問題は、竹下先生がおっしゃったようにちょっと早過ぎます。これはじっくり行くべきだと思います。

 以上でございます。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。順番からいくと中坊委員なんですけれども、前にお話しくださいました。もし補足することがありましたら最後にやっていただいても結構ですが。

【中坊委員】 もうありませんから、私としてはこの前既に、論点に関するものは10月5日にレジュメを出して、また口頭でも申し上げておりますので、本日出させていただいたのは、それを更に補強するという意味において、文章を持ってその位置づけであるとか、あるいは意味づけについて、文章で明確にした方がいいと思った分を明確にしただけでございますので、それで一応。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それでは、藤田委員お願いします。

【藤田委員】 後の方になりますと、余り申し上げることがなくなってきたんですが、できるだけ重複を避けて申し上げます。

 第1の「基本的視点」は、今までに申し上げていることなんですけれども、まず第1には、21世紀の司法に対して国民が何を望んでいるかということが大前提です。これに基づいて司法改革を考えなければいけないんですけれども、そのためには、現在の司法全体の実態についての認識と理解が必要です。さらには、問題点の把握、また、いろいろな改革の選択肢があるわけですけれども、その内容の理解、これらの点に基づいての改革のビジョンの提示ということが重要だろうと思います。

 そういう意味では、この会議でのヒアリングとか、あるいはこれから予定されております国内各地での実情視察とか、公聴会、海外調査、アンケート調査の結果、こういうものを新聞、テレビ等の媒体を通じて国民との間で相互にやり取りをすることが必要です。そうして、これによって我々が国民の意のあるところをくみ取るということが大事ではなかろうかということであります。

 第2は、改革のビジョンは、手ぬるいものであってはいけないのでありますけれども、徹底したものであればあるほど、その改革の道程においては、摩擦、混乱ということがあり得るわけでありますが、現在の我が国が極めて厳しい状況におかれているということを考えますと、一時的にせよ、司法の機能に混乱、麻痺が生ずるようなことがあってはならないと考えます。

 したがいまして、21世紀の司法のビジョンももちろん大事でございますけれども、そこへ到達するまでの過程における現実的な施策、どのようにして最終的な目標へ持っていくかということは、ビジョンの策定に劣らぬ重要性があると考えます。

 3番目、これも以前に申し上げておりますけれども、現在の司法の状況には、地域的な特性というのが色濃くあるわけでありまして、東北や中国、特に山陰地方などの実情に接してまいりました私としましては、そういう大都市と並んで地方の中小都市、あるいは支部や独立簡裁が所在する離島、へき地と言われるような地域での状況も頭の中に入れて、全体的な司法の改革を考えなくてはいけないのではないかということでございます。

 具体的な審議項目につきましては、もう皆さんがそれぞれ御説明になったところと大きな差はございません。法曹人口の拡大、これは是非とも必要でありますけれども、同時に、いかにして質の低下を防ぐかということも大事でありまして、競争による淘汰によってやればいいというわけにはいかない。医者は人の生命を預かりますけれども、法曹は人の社会的生命を左右する仕事をしているのでございますから、そういう意味では、人口の拡大と同時に、質の低下の防止ということも考えなければならないということであります。

 法曹一元の導入も先入観なしに虚心に検討しなければいけないわけでございます。法曹養成制度については、ロー・スクール、あるいは学部における法学教育との連関という問題がございますけれども、大学の学部教育を問題にしますと、更にその前の中学、高校の教育に問題が及ぶわけであります。したがって、ロー・スクール構想を短兵急に実現しようとするのはいかがなものか。もっと時間を掛けて考えるべき問題ではなかろうかと思います。

 司法試験制度と司法修習制度につきましては、先ほど北村委員が、富める者も貧しき者も等しく参入できる法曹界にとおっしゃいましたけれども、実は私大変共感を覚えるわけであります。私事を申すのは大変恐縮でありますが、私は、父が大学教師で早死しましたので、貧しい母子家庭に育ちました。ですから、そういうような境遇にある人も入ってこられるような試験制度、修習制度を考えていただきたいと思うわけであります。

 国民の司法参加につきましては、陪審・参審、これは皆さんが取り上げておられる重要な論点でありますが、更に国民の司法参加として現在大きな機能を営んでおります調停制度、あるいは司法委員制度がございます。先ほど司法委員制度の強化ということを取り上げておられる方もございましたけれども、それほど知られていない割に大きな機能を営んでいるというのが実態でございます。検察官の起訴便宜主義についての検察審査会制度、これは刑事の分野での唯一の国民の司法参加の制度でございますが、これについても、その在り方を検討してはいかがであろうかというふうに考えます。

 国民が利用しやすい司法制度の実現については、ここに書いてあるとおりでございまして、「法律扶助の拡充・強化」、これは本腰を入れて継続的に取り組むべき問題ではなかろうかと思います。

 「紛争解決のメニューの多様化」、これはADRのことでございますが、21世紀政策研究所の御意見にも市民コートが出てまいりますけれども、私も弁護士会の仲裁センターや、建設省の中央建設工事紛争審査会で仲裁の仕事をやっておりますが、裁判所が唯一の紛争解決機関ではなくて、むしろそこにはなじみにくいような事件が随分とたくさんある。そういうような事件がADRによってかなり解決されているわけでありますが、それをどのように強化・拡充していくかということが、紛争解決の合理的なシステムをつくるのについて大事ではなかろうかと思うわけであります。

 「民事紛争処理手続の改善」は、民事訴訟の審理の迅速化は昭和61、62年ごろから裁判所も一生懸命やっているわけでございますが、それについても、更にいろいろな工夫が必要であろうということであります。

 「刑事手続」は、私も余り経験がございませんけれども、やはり一部特別な事件とは言っても、10年、20年と掛かるようなことは、刑事訴訟に対する国民の信頼を裏切るということにもなりますので、そういう意味での改善・迅速化ということです。

 それから、「被疑者の公的弁護制度」についても、刑事手続における人権擁護の見地から、本格的な検討が必要であろうかと思います。

 家庭裁判所につきましては、10数年前にドイツから25人くらいの法曹視察団が2回参りましたけれども、その方たちがおっしゃるのに、日本の司法制度の中で最も示唆を受けたのは家庭裁判所であるとのことでした。そのように母法国から注目されている制度でありますが、家事事件については、先ほど竹下会長代理がおっしゃいました事件の管轄の問題もありますし、少年審判での国選、付添人の制度など、いろいろ改革が必要とされる点がございますが、これにも目を向けてはいかがであろうかということであります。

 「弁護士の在り方」については、もう皆さんがおっしゃいました。

 最後の「司法予算の拡充」につきましては、裁判所は今、組織的に事件処理に取り組んでいるわけでありまして、書記官はかつての書き役にはとどまらず、コート・マネージャーという事件処理の管理・運営の役割を果たしているわけであります。

 先日、東京地方裁判所の民事部を見学しました際に、新受事件が増えているにもかかわらず、裁判官の手持ち事件が減っているが、それには部の増設があずかって力があるという説明がございましたけれども、それだけではなくて、やはり裁判官がコート・マネージャーとしての書記官と協力して処理の適正・迅速化に努力しているということの成果があるのだろうと思うわけであります。

 同じことが検察官の仕事についても言えるわけでありまして、水原委員からお話しいただいた方がいいんだろうと思いますけれども、先日の検察庁の見学でも、検察事務官が非常に大きな働きをしているという説明がございました。こういう人的な陣容の充実につきましても、裁判官、検察官は勿論でございますけれども、書記官、あるいは検察事務官等についても配慮が必要なのではなかろうかと考えるわけでございます。

 以上です。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それでは、水原委員お願いします。

【水原委員】 私から論点整理の説明をさせていただきます。

 1枚目のペーパーは、まさに論点骨子だけでございます。それに続く論点整理説明という6ページ物がございます。これは、どのような視点で論点整理をしたか。その論拠を簡単にまとめたものでございます。

 これまで多数の有識者からの御報告や、各委員の御意見をお聞きする中で、本審議会に課せられた使命の重大さを一層ひしひしと感じ、毎堰A身の引き締まる思いで審議会に臨んでおります。

 私はこれまで頂いた多くの資料等も読み込んだ上で、できる限り客観的な視点から、考えられる論点を自分なりに整理してみましたものの、主に検察の世界で長く働いてきた私の経験分野には限りがございますために、審理すべき論点をくまなく的確に網羅するには、力の及ばない面もございます。

 私のメモは、これらすべての論点というわけではなくて、私なりに重要であろうと思われるものを並べたにすぎないことをまず最初に御理解いただきたいと思います。それでは、メモに沿って御説明いたします。

 まずⅠに挙げた「国民がより利用しやすい司法制度の実現」ということでございますけれども、私はこの点が何にも増して、国民の期待するところであり、充実した審議がなされなければならないと、その必要性があると考えております。

 この分野は、民事や行政等に関わるものが多く、今までのほかの委員の方々のお話にもございましたが、他の委員の方々の方がはるかに御見識をお持ちと思いますので、詳しくは申しません。

 しかし、私なりに①民事裁判の迅速化、②弁護士業務の在り方、③ADRの拡充、④法律サービス提供機関へのアクセスの容易化、⑤法律サービスについての隣接士業の協同ないし役割分担の在り方の5点を挙げさせていただきました。

 民事裁判の迅速化につきましては、一般的な事件は先進諸国に比べてもそれほど遜色のない状況にあるように私は伺っております。しかしながら、やはり社会の耳目を引く重大複雑事件や、先ほど来御指摘がございました医療過誤、それから公害、特許等知的財産事件訴訟等、専門的な事件等につきましては、社会のニーズに応えられる迅速化の工夫が必要なように思われます。

 弁護士業務の在り方につきましては、第4回当審議会で既に中坊委員から詳しくお話があり、本日も各委員から種々御指摘がありましたとおり、私の問題意識もほぼ同様でございます。したがって、重複の御説明は省かせていただきます。

 ADRの拡充ということは、国民がその法的紛争の性質、規模に応じて費用対効果の上がる迅速かつ多様な紛争解決方法が提供されて、裁判制度と相まって、適切な役割分担の下に機能していくことが望ましいにもかかわらず、我が国の各種ADRは、全体的に見て、まだまだ国民の期待に十分に応えているようには思えません。

 法律サービス提供機関へのアクセスの容易さということは、②③とも関連するのですけれども、これらの機関の中身が幾らしっかりしておりましても、先ほど来いろいろ御指摘がございますとおり、国民から見てその機能等がよく分からず、敷居が高いようでは絵に描いた餅になってしまいます。

 例えば私自身の反省を含めて、検察庁の告訴受付窓口は本当に親切に対応しているんだろうか。民事事件だから受け付けない、うちの所管ではない、などと木で鼻をくくったような対応をしていないのか、私自身大いに気になります。

 仮に所管外であったとしましても、本人の紛争にふさわしいと思われる適当なADR等を教えてあげるなど、国民が裁判所、検察庁、弁護士会、公共団体など、どの窓口からアプローチしても、その紛争解決に適した機関にアクセスするのを手助けできるように、機関相互における役割分担の十分な認識の下に協力・連帯と、国民への情報提供が必要なのではないか。そのような問題認識を持っております。

 隣接士業との関係につきましては、どの士業がどのような範囲で、どのような法的サービスを提供するのが国民にとって望ましいのかということや、相互の協力関係の在り方等について、私もよく勉強しながら考えていきたいと思っております。

 次にⅡとしまして、「国民の期待に応える刑事司法制度改革」という論点を立てました。4点を挙げていますけれども、このような表現でこの項目を掲げた私の率直な気持ちを申し上げます。

 私は女性が夜道を1人でも歩けるほど安全と言われていた我が国社会において、これは先ほど竹下会長代理からも安全神話でお話がございましたけれども、国民が今ほど刑事司法の今後の在り方について期待と不信感とが相半ばした状態で注目している時期はないように思うのであります。

 にもかかわらず、これまでの刑事司法の在り方に関する議論の中には、独自の主義主張に偏っているのではないかと感じさせるような考え方も少なくなく、そのような状況が建設的発展を困難にさせてきたようにも思われるのであります。本審議会がそのような中にあって、国民的視点から審議を行うことの意義は極めて大きいものと考えております。

 まず1番目の柱ですけれども、重要複雑事件についての迅速な刑事裁判の実現は、各委員からも御指摘がございましたとおり、刑事の分野の最重要課題だと思われます。国民が注目している重要複雑事件の中には、一審の審理だけでも、しばしば指摘されたとおり10年以上掛かっているものすらございまして、私はこのままでは国民の刑事司法全体に対する期待を失わせ、強い不信感を醸成しかねないものと大変強く危惧しております。刑罰は新鮮なほど芳しいと言われておりますように、迅速に実現されることが望まれるのでございます。

 裁判の的確さを十分に担保しつつ、集中審理の実施などによる迅速な刑事裁判の実現を、制度的な工夫により可能としていくことが喫緊の課題と思います。

 2番目の柱ですけれども、新たな時代におきまして、犯罪情勢はますます複雑困難化、組織化、国際化の度合いを深めまして、これまでの伝統的な捜査手法のみでは対応し得ないのではないかと危惧されております。我が国の国民性に合致する範囲内において、例えば証言などの捜査協力と引換えに刑事責任を免除するなど刑事免責制度などの新しい捜査手法の導入や、米国の有罪答弁制度のような捜査・公判手続の合理化策についても検討する必要があるように思われます。

 3番目に掲げた国民の理解を得られる刑事弁護制度の充実につきましては、この点は井上、石井、竹下先生ほか、多くの方が触れておりますけれども、私はこれまで弁護士会が当番弁護士制度を言わば自腹を切って創設・運営してこられた御努力や、多くの良心的な弁護士が被疑者、被告人の人権擁護のために活動してこられたことに敬意を表したいと思っております。

 被疑者の公的弁護につきましても、お金のある者には弁護人が付き、貧しい者には付けられないということについて素朴な不公平感は理解できますし、被疑者段階と被告人段階を通じて、弁護活動が適正になされれば、むしろ検察の捜査活動と相まって、事案の適切・妥当な解決に貢献する面もあるように思われまして、検討すべき課題であると思います。

 しかしながら、弁護活動に行き過ぎがあって、国民の正義感情に反するようなものであれば、これに税金を投入することについて国民の理解を得ることは容易ではないと思うのでございます。弁護士倫理の確立や問題のある弁護活動に対する適切な是正措置の在り方、弁護士偏在問題の解決など、検討すべき点はいろいろあると思います。

 また、この問題は、それだけを取り出して議論するのではなくて、迅速な裁判の実現や、捜査手続への影響など刑事司法制度全体の中での適切な位置づけやバランスを含めた観点からの議論が必要であろうと思っています。

 国民が納得するような裁判の迅速化ともうまくかみ合った、被疑者・被告人の公的な弁護制度全体の仕組みについて、建設的な議論を行って、よい知恵を出して行けないものだろうかと期待いたしております。

 刑事に関する4番目の柱として、検察及び刑事司法を支える関係組織の人的物的体制の充実強化ということを挙げました。

 これにつきましては、特に私個人の思い入れも含めて御説明することをお許しいただきたいと思います。

 私は検察を始めする刑事司法関係機関が万全とはいえないまでも、国民の期待におおむね応えてその職責を果たしてくることができましたのは、我が国の刑事司法が実体的真実を追求して、罪を犯した者に真実を語らせて、その反省悔悟を求め、適正な刑罰による贖罪と社会復帰に向かわせる努力を続けてきたことによるものが大きいと考えております。

 その裏には、検察官を始めとして、黙々と検察官の右腕として支えてくれる検察事務官、社会復帰に向けて職業訓練や情操教育等に努める刑務所職員、円滑な社会復帰を助ける保護観察関係者、第一次捜査機関としての警察官等、勿論、刑事裁判所は言うに及びませんが、この方々の地道な努力があって、これらが相まって我が国の刑事政策の適切な実現に寄与してきたものと実感しております。

 したがいまして、刑事司法の充実のためには、裁判所、検察官、検察事務官の増員はもとより、刑事司法を支える多くの組織の人的物的体制の充実強化も不可欠なことと思いますし、是非審議に含めていただきたいと考えております。

 次に国民の司法制度への関与についてです。

 陪・参審制の導入の是非等について審議すべきことは、異論のないことと思います。真に国民のために必要であり、望ましい裁判制度であるか否かについて徹底した議論を行う必要があると考えます。

 なお、私自身、考え方をまとめるには至っておりませんけれども、先ほど来言われております国民の司法制度への関与という視点からは、例えば最近注目を受けております検察審査会制度の在り方等についても議論する価値もあるように思われます。検察が、自己がすべて事件の最終処理を有権的に判断するという仕組みにつきまして、将来もこれをそのまま完全に維持すべきなのか、私自身、先入観を捨てて考えてみたいと思っております。

 次に法曹の質及び量の充実という論点です。

 法曹人口について議論すべきことは当然のことでありましょう。法曹人口を増加すべきことは私も賛成でございますけれども、計数的に何人くらいが適当なのかということを論じるのは容易でないように思われます。どのようなアプローチで法曹人口論を議論すべきかという方法論を含めて充実した審議を行う必要があると思います。

 法曹養成制度の在り方については、法曹の質の確保という観点から、極めて重要な課題であると思われます。私はこの問題は、ある意味で本審議会の最も重要な課題の1つだと思います。

 と申しますのは、どんな制度もその適切な運用はそれを担う人の問題に掛かっており、鳥居委員からも御指摘がありましたけれども、人づくりということの重要性はどんなに強調しても強調し過ぎることはございません。私は検察官であれ、裁判官であれ、弁護士であれ、中坊委員も第4回のときにおっしゃっておられますように、自らの信念とともに、謙虚に自らを反省し、相手の立場を理解し、思いやることのできるものであって、初めて国民に理解され、支持される司法の担い手になり得ると思うのであります。法曹三者がこのような視点に立った人づくりに努めてきたか、真剣に顧みる必要があると思います。

 人生を真剣に考え、自己の生き方について、あるときは迷い、悩み、それを乗り越えた経験のある人材であって初めて、人の人生を左右する法律問題を解決するための人間的なバックボーンが備えられると思っております。

 そのためには、受験テクニックのみに走らず、法律の素養も広い教養も備えた、人権感覚豊かな人材を育成する法曹養成制度が必要であり、最近顕著な動きとなっている大学の法学教育の改革につきましても、法曹養成制度との有機的な連携、ないし役割分担の在り方について、このような基本的な視点に立って、本審議会で検討すべきではなかろうかと考えております。

 最後に法曹一元についてですが、この問題は審議すべき重要事項であることは自明の理ですけれども、あえてこれを最後に掲げさせていただきました。

 と申しますのは、裁判官の任用制度は、それぞれの国の歴史的、文化的、社会的な背景や基盤に根差す司法制度の重要な柱でございまして、広く深い視野に立って検討すべき問題であると思います。

 そう考えますと、法曹一元是か非かという議論を当初から行うよりも、国民がより利用しやすい司法制度の実現ということを議論の軸に据えて、これまで述べたような重要な論点についての検討を進めていく中で、今申したような背景や基盤についても議論が深まると思いますし、それらを踏まえつつ、そのような制度を担う裁判官の任用制度はどうあるべきかという議論を行うことが、実りある審議につながるのではないかと思うからであります。このような視点から、法曹一元について、真に国民的視点に立った議論を行っていきたいと考えています。

 長くなりましたが以上です。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それでは、山本委員お願いします。

【山本委員】 私が今回提出いたしました論点につきまして、若干の御説明を申し上げたいと思います。

 「はじめに」という項目がありますが、まず論点を作成する際の基本的な考え方についてでございますが、今回の司法制度改革審議会は、従来の法曹三者に限られた改革論議と大きく異なり、国民、すなわち司法のユーザーの視点から司法制度を見直すという点に最大の眼目があると考えております。

 そこで今後の審議会におきます論点につきましては、国民にとってより利用しやすい司法の実現を図るという基本的な考え方から、第1に、利用しやすい司法の実現のためにどのような制度改革が必要なのか。

 第2に、その改革を実現するために必要な人的基盤をどのように整備すべきなのかという項目に大きく分類いたしました。

 これに関連しまして、第3として、国際的な経済活動の進展に対応した課題につきましても、取り上げさせていただいております。以上につきましては、経済界での論議なども踏まえてとりまとめたものでございます。

 なお、この利用しやすい司法という切り口からは直接出てこないものといたしまして、「国民の司法参加」あるいは「人権と刑事司法の関係」という極めて重要な論点があるわけでございます。これらにつきましては、先ほど来、委員の先生方からいろいろな問題提起がなされておりますが、あえて今回、私はこの問題について検討項目として挙げておりませんけれども、最後の方で感想めいた形で若干触れさせていただいております。

 それでは、論点の内容につきましてペーパーに沿って御説明を申し上げたいと思います。

 まず第1は「国民が利用しやすい司法を実現するための制度改革」という項目の中で更に5つの項目で整理してみました。

 その第1が「司法の迅速化」でございます。この命題は、公正な判決、言い換えると司法の正義の実現という機能と並んで、司法に対する信頼の根幹を成すものだというふうに考えております。今日的に見てその重要性は、第1に強調されるべきものというふうに考えております。

 具体的な検討項目は○で幾つか挙げておりますが、機能として裁判に関わった経験からいたしますと、訴訟運営面、その他制度面での改善の余地がかなり大きいのではないかというふうに感じているところでございます。

 例えば、口頭弁論期日等を傍聴しておりますと、書類を陳述するのと次回の期日を決めるだけに法廷に集まっているというふうなことも感ぜられまして、何か根本的な合理的な方策はないものかというふうに考えておるところでございます。

 勿論、一方で法曹人口の増加も重要と考えておりますが、議論が人数の問題のみに偏るのではなく、制度面の改革と併せ、車の両輪として考えていくことが大事ではないかと考えております。

 なお○の項目の更に下に、具体的に、例えばこんなことが考えられるのではないかという意味で黒ポツで項目を挙げているケースもございます。

 例えば、訴訟運営面の改革の中での「訴訟指揮の活発化」、あるいは「形骸化した口頭弁論主義の思い切った見直し」といったようなものを挙げてございます。

 先日、東京地裁を見学させていただいたときに、裁判所の方で、ラウンド・テーブルというので、かなり効率のよい争点整理をされているケースも拝見させていただきましたが、ああいった改善も含めて、更に抜本的な考え方とかやり方の改善策があるのではないかという問題提起でございます。

 次に2番目といたしまして「司法の専門性」ということでございます。

 これは経済界の立場といたしましては、特に強調させていただきたい点でございます。知的財産権、それから金融システム等の高度な専門知識を要する分野は、絶えずイノベーションが行われておりますことから、変化のスピードが速く、企業で専門にその分野に携わっている人間でもなかなか追い付いていくのが容易ではないという状況があるわけでございます。

 ところが、我が国におけます現状は、裁判所はもとより、弁護士の先生方も法務におきますゼネラリストと申しますか、法務全般にわたってまんべんなくカバーなされておられるという形が一般的でございまして、こうした分野での専門家は非常に少ないという実態があるわけでございます。

 それはそれで一般の利用者の方にとりましては便利である反面、特殊専門分野の利用者、大半は企業ということになろうかと思いますが、必ずしもその専門性に合ったサービスを受けることができない、いたずらに時間を費やしてしまうということに不満が生じているのは現実でございます。ここでの御提案は、そういう特殊専門的な分野についてこれに見合った司法の専門性のサービスを求めたいということでございます。

 なお、典型例といたしましては、ここで知的財産権あるいは金融等を挙げさせていただいておりますが、ほかにも例えば、言われている医療過誤の問題、あるいは製造物責任の分野もこういったジャンルに整理されようかと思います。

 この問題の対応策といたしまして、理想を言いますと、専門的な裁判官、あるいは専門的な弁護士さんの育成ということになるわけでございますが、こういったことも相当に時間を要するだろうと思われますことから、現実的には、既におられる専門家、例えば、知的財産権の分野では弁理士という専門家がおられるわけで、そういう方々の専門性を裁判に活用しない手はないのではないかということでございます。

 にもかかわらず、現在の制度上の制約、例えば、弁護士でないと訴訟にならないといったことのために、十分に活用し切れていないのが実態でございます。そういった制度の見直しも、より現実的な改革案として是非考えていただきたいと思います。

 なお、専門性に対応した裁判所の体制という点につきましては、既に裁判所の方でも、専門部の拡充や、専門調停制度などいろいろ御努力いただいていることは十分認識しておりますが、経済界としては更に思い切った拡充を望むという観点から、これらも論点として挙げさせていただいておるわけでございます。

 次は「司法の実効性」という点でございます。

 民事執行の手続は、判決で認められた権利を現実化するため、極めて大切な手続でございます。にもかかわらず、意外に関心が乏しかったのではないかという感じがいたしております。判決が絵に描いた餅になるようでは、司法への信頼性を大きく損ないかねないものと考えます。

 余談ながら、『裁判の秘密』という本を書かれた山口さんという弁護士さんがおられますが、この本の中では現実の民事執行がいかに困難なものかということが非常に分かりやすく書かれておりまして、個人的には会社での経験と合わせて、まさに我が意を得たような思いをいたした記憶がございます。

 それから、民事執行の法律上の手続の面では、近時、法改正等でそれなりの合理化が図られてきていると伺っておりますが、ここで強調したいのは、第一に執行官、それから評価人の人数など、民事執行を現場で支える体制に着目すべきではないかという点でございます。

 そしてもう一つの点は、様々な執行妨害の対処という点でございます。近時の不良債権問題の中で、執行面のトラブルがマスコミ等でよく伝えられているところでございまして、まさにこの辺は中坊先生が非常に御苦労されたところだと思いますが、実効性のある制裁の導入といった観点を含めて、円滑な民事執行の実現を考えていく必要があるのではないかという問題でございます。

 4番目は「司法へのアクセス」という面でございます。

 判例、弁護士情報を始めとする司法情報の公開は、国民が司法を身近に感じアクセスを容易にする上での第一歩でございます。ところが、現実はその情報が余りに不足していると言わざるを得ないと思います。また、アクセスという面では経済的に余裕のない方々の司法へのアクセスを容易にするため、法律扶助制度の充実ということも課題かと存じます。

 更に、これは主として企業法務としてのニーズでございますが、最近の経済情勢の中で各企業は経営の効率性を高めるため、グループ戦略の強化、あるいは企業結合、分割を含めた企業形態の再編成等を進めておるわけでございますが、従来以上に法務、税務、会計等を総合した戦略が不可欠になっております。現在の弁護士事務所では、そうした総合的な戦略立案など、全体について力をお借りできる現状にはないというのが率直な実情でございます。どちらかと申しますと、個人的な経営の色彩が強いわけでございますが、これをもっと総合的かつ組織的な機能を有した総合的事務所にできる道を開いていただきたいということでございます。

 また、このことによって集中審理的な裁判への対応、あるいは地域的な弁護士の偏在の解消といった課題にも寄与できるのではないかと考えております。

 次に5番目として「司法の多様性」でございます。

 裁判は紛争解決の最後のよりどころとして重要であり、かつ国民からの高い信頼を受けていると考えておりますが、一方で、裁判以外の紛争解決のための機能は不足していると思います。そもそも国民が司法を余り利用していないといった大きな問題もあるわけでございますが、その原因の1つとしては、手間暇を要さずに紛争を持ち込める信頼感のある機関が身近にないということも挙げられるのではないかと思います。

 もともと紛争といいますのは極めて多様なものであり、紛争解決の手段ももっと多様なものが用意されるべきと考えます。紛争の性質に応じた合理的な方法による解決が図られることによって、裁判の合理化、迅速化にも資するものと考えます。

 また、多様性という観点からは、法律事務の弁護士独占ということも見直す必要があるのではないかと思います。第1に、先ほども触れましたように、弁理士等隣接専門職種に対する一定の法律事務の許容、第2に、企業の法律実務担当者への一定の法律事務の許容ということでございます。

 企業の関係で申しますと、例えば、グループ会社への法務サービス、自社の訴訟代理人などが考えられております。法曹人口の多寡の論議に関連するわけですが、我が国の大きな特殊性は、毎年4万5,000人以上と言われる大学法学部出身者の中からかなりの人数が企業の中で実態として企業法務を担っているという点でございます。こうした企業法務に携わっている人材が、当該企業、あるいはその企業グループに限って訴訟代理人になるなど法律事務ができるようになれば、言われていますところの司法の容量不足の解消の1つにもつながるのではないかと思います。

 なお、この問題を大前提といたしまして、そもそも法曹資格を今後どのように位置づけていくのかということがあるわけでございます。思い切って法曹資格を拡大して、更に、その中から選抜して法曹のプロを選んでいくといった、以前、慶応の島田先生がおっしゃられたことだと存じますが、そのような構想の下では、基礎的な権能として企業法務等の限定された法律事務資格を与えるといったことも考えられるのではないかと思います。

 次は大きな2番目の項目でございますが、「国民が利用しやすい司法を支える人的基盤の整備」という点でございます。その中の第1は、法曹人口の増加とその前提となる法曹資格の在り方、あるいは教育・資格付与の在り方ということでございます。

 人的基盤の整備を図っていく上で法曹人口の増加ということは勿論第一の課題だと考えておりますが、特に申し上げたいのは、この問題は、法曹資格の在り方、教育・資格付与の在り方と密接に関連しており、これらと関連づけた検討が必要だということでございます。

 現在、各大学から相次いでロー・スクール構想など法学部改革に着手する動きが出てきているようです。それぞれの構想に関する議論はいろいろありましょうが、ややもすると改革ということについて消極的な印象のある大学サイドが、自ら改革に着手を始めているという動きは、基本的に歓迎すべきものと考えております。

 教育がどのような形になっていこうとしているのか、あるいは各大学自らの改革の努力の動き等も見極めながら、法曹資格、教育・資格付与の在り方を論議していくことが必要かと思います。

 次は「裁判官の人材供給の多様化」でございます。

 裁判官の人材供給の在り方につきましては何と申しましても法曹一元をどう考えるかという点があるわけでございます。私は少なくとも、法曹資格を持ち、経済実態の分かる人、あるいは専門性の高い人などから幅広く裁判官に選んでいける仕組みが望ましいことだと考えておりますが、法曹一元という形で、キャリア・システム否定というところまで進めるべきかどうかにつきましては、メリット、デメリットがそれぞれあるわけでございますので、多角的な論議を十分積み重ねていく必要があると考えております。

 また、臨時司法制度調査会の報告にありましたように、法曹一元が1つの望ましい制度であるとの前提に立つといたしましても、そのための条件整備という問題もあろうかと思います。

 したがいまして、裁判官の人材供給の多様化を現実的に考えていく上で、例えば、当面の問題として経済実態の分かる人、専門性の高い人などの識見を幅広く裁判に活用する仕組みや、現行の弁護士任官制度の積極化などの論議も重要ではないかと考えております。

 次に第3の大きな項目でございますが、「経済活動の国際化の対応」ということで2点ほど論点を挙げさせていただいております。

 いずれも国際的な経済活動の進展に伴い、安定的な国際取引を確立する視点からの論点ということでございます。

 最後になりましたが、第4といたしまして「国民の司法参加、人権と刑事司法との関係など」ということで、今まで申し上げた国民に利用しやすい司法という切り口からは必ずしも出てこないかもしれませんが、司法制度にとりまして極めて重要な論点でございますので、感想めいたことを書かせていただいております。

 このうち、国民の司法参加、具体的には陪審・参審の導入をどう考えるかということだと存じますが、経済界の立場から一言申し上げますと、司法は何と申しましても、予測可能性というのが重要だと考えております。その意味で、国際的な経済活動を展開していきます上で、とりわけ陪審制が徹底しておりますアメリカでの企業の経験、これは大変な苦労があるわけでございまして、その辺を是非論議の中で生かしていただきたいと考える次第でございます。

 勿論、この問題の最も本質的な観点は、国民の公への参加をどう考えるかという点にあろうかと思いますが、これらにつきましては、これまで有識者の方々からも非常に有意義な話も承って伺っておりますので、具体的な論議の中で私なりの考えを申し上げさせていただきたいと思います。

 以上でございます。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それでは、最後になりましたけれども、吉岡委員お願いします。

【吉岡委員】 最後になるとほとんど論点も出尽くしてしまったと思いますが、私は消費者の立場という意味で少し切り口が違うかなと思います。

 まず、私は一番最初に、裁判の国民から見た位置づけを考えてみました。裁判は国民から遠いと言われているわけですけれども、本来裁判は、私たちの生活を豊かにする、あるいは生活の質を高めるための公の道具と位置づけなければいけないと思います。

 では、裁判制度の改革をどういうふうに進めていくのかと考えたときには、やはり利用者である国民の視点、これを第一に考えなければいけないのではないか。利用者である国民の視点、1人の生活者という立場、これをまず重要視しなければいけない。

 2つ目は、自分の実感に照らして裁判制度が私たちの日常生活の質を高めていくために役立つかどうかを考えなければいけない。

 3番目は、今までの制度とか権益にとらわれないという、そういうことが改革だと思いますので、3つの視点を大前提として考えました。

 論点を4つほどに分けて書いてみました。1つは、「司法と法曹の社会的役割」、それから「現状」、「審議の在り方」、「審議項目」です。できるだけ自分の経験を踏まえながら書いたつもりでございます。

 まず「司法と法曹の社会的役割」について、消費者、生活者の視点から見ますと、私たちの生活の様々な場面で、権利だとか利益とか悩みだとか、そういうようなことに直面することがあって、これが争いにまで行ってしまうということも多々ございます。

 それを公平なルールと事実に基づいて解決するのが裁判ではないかと考えます。私たちの地域社会を見てみますと、少年問題を始めとしまして、高齢化の問題、あるいは家庭崩壊、地域の問題、ごみ、環境問題、失業、消費者問題、犯罪など多くの問題が起こっております。こうした問題を私たちが主体的に解決して、地域社会づくりを進めるということを法的に支えるのが裁判制度ではないかと考えます。

 次に21世紀、これからの社会との関係についてですが、裁判制度と法曹の社会的役割は、新しい日本の社会にどう妥当させていくかということが非常に重要だと思います。今の時代の流れは、グローバル・スタンダードに合わせていくとか、規制緩和の推進に伴って自己責任が問われる時代になってきているわけですけれども、規制緩和は、ともすると強者の論理、経済優先の論理になりがちです。それは結果的に弱者が犠牲を強いられるという危険性を否定できないのではないかと、そのように考えております。

 それから、規制緩和は行政による事前規制から司法による事後救済、あるいは事後チェック型社会へ移行するとも言われています。

 こういう時代に、私たち庶民が主体的にかつ実効的に身を守り、消費者被害などを発生させないために、庶民の企業などに対するコントロールを飛躍的に強めていくという必要があるわけです。また、地域社会における参加と自治を抜本的に推し進めていかなければいけないのではないかと思います。

 裁判制度や法曹は、そのために庶民、あるいは消費者の頼りがいのある武器、頼りがいのある制度でなければいけないと思います。

 次に、司法と法曹の現状を考えますと、最初に申しましたように、本来は、私たちの生活を豊かにする、身近なものでなければならないのが裁判制度だと思いますが、実際にはまだまだ庶民には敷居が高く、縁遠いものとなっています。それだけだったらまだいいかもしれませんけれども、裁判所と言っただけでこわいというふうに思う方が少なくないということが問題だと思っております。

 私どもで苦情処理をしておりますが、交渉がこじれることがあります。こじれてきたときに、よく企業側の担当の方は、出るところに出ましょうよということをおっしゃいます。私も出るところに出て決着をつけたらいいのになと思って、そうしたらどうですかということを言うんですけれども、大多数の方は二の足を踏んでしまい、泣き寝入りになってしまうというのが実情でございます。裁判は時間も掛かるし、お金も掛かるというのが庶民感覚として根深くあるという、そこに問題があるのではないかと思います。

 この間見学したときも、それからほかでも、裁判が時間が掛かるというのは特殊なものであって、ほとんどの裁判というのはそうではないんだと、そう思い込んでいる節があるというようなお話もあったんですけれども、現実に私が経験した裁判も長く掛かっております。また、裁判自体の審理の内容とか質とか、そういうことを考えたときに、やはり時間が掛かる割には公判廷ではあっという間に終わってしまって、何を言っているか分からないというようなことが多いと、時間が長いこと以外に質の問題があるのではないかと思っております。

 また、裁判だけではなくて、弁護士さんの中にも、これは裁判に持っていかない方がいいでしょうというようなことをおっしゃる方もいらっしゃいます。これは勿論長い経験から、これは裁判をしても余り有利ではないという御判断があるんだと思いますけれども、裁判に持っていかない方がいいでしょう、あるいは逆に出るところに出ましょうという脅しになったりというようなことが、どうも法曹を庶民から遠いものにしている原因の1つになっているのではないかと思います。この点については、法曹関係者としては、深刻な問題としてお考えいただきたいと思っております。

 もう10分経ってしまいまして、私9ページ書いてありまして、まだ3ページ目までしか来ていないんですが、余り早口でなくて済みません。できるだけ早く終わらせるようにいたします。

 2番目は、主婦連合会が直接関わった裁判2つをここに書きました。

 1つは、ジュース裁判、これも私、物に書いたりもしておりますし、内容についてはよくお分かりだと思うので、あえて詳しい説明はいたしませんけれども、果汁の含有率の表示などについて、公正取引委員会で公正競争規約をつくったのですが、そのときに、果汁100%でなければジュースとは言わせないという消費者の主張は通ったんですけれども、果汁ゼロについて、果汁ゼロ、あるいは無果汁と書けということについては通らなかったんです。

 私たちは市場で見ていると、オレンジジュースと同じ色をして、同じ香りがして、同じ味なのに、果汁が入っていない、そういう飲物がたくさんあったんです。それでアンケート調査をして、若いお母さんたちの意見を聞きましたらば、野菜嫌いの子供に果汁を飲ませる目的で、果汁ゼロの飲み物を、何とかオレンジと書いてあるし、それを子供が一番喜んで、甘いから喜ぶんですけれども、飲むので、野菜がわりに飲ませているということがわかったんです。

 そこで、やっぱりゼロと書くべきだということで、公正取引委員会に不服申立てをしたんですが、公正取引委員会は、果汁ゼロと書くか書かないかという議論に入らないで、公正競争規約は、事業者同士の話合いで決めるもので、消費者、あるいは消費者団体は、照り返しの利益、反射的利益を得る立場だとして訴える資格がないと門前払いにされてしまいました。これは当時随分新聞でも取り上げられましたので、御記憶がある方はいらっしゃると思いますけれども、私たちからすると、ジュースを飲むのは私たちですから、お前たちは反射的利益だから訴える権利が無いという判断は納得できません。東京高裁、最高裁とも同じ判断だったんです。公取委は規約を決めさせたという立場があるから仕方がないかなという気もするんですけれども、裁判官がそういう判断をしたということは、ジュースと思って飲ませているお母さんたちがいるという実態、そういうものを分かっていらっしゃるのかな、もう少し庶民生活に目を向けている血の通った人間であったら、もっと違った、少なくとも門前払いということはなかったのではないか、当時も随分私たちは怒ったわけなんですけれども、そういう裁判でございます。

 この裁判が終わったときに、私たちは非常に残念だということで集会をしました。そのときに、代理人になってくださった弁護士さんが、いや、そんなに落胆することはない、最高裁が国の最高の決定機関と考えなくていいのではないか、「最高裁の上には国民がある」と言われたことが強く印象に残っております。

 そういう意味では、やはり国民によって、国民の意向をくんだ形での判決が出るような裁判所であってほしいなと思います。

 それから、時間がもうあれですがもう一つは、私も原告の一人なんですけれども、灯油裁判があります。この灯油裁判は、石油会社と業界団体が一緒になって違法なカルテルを結んで、石油の供給を細めてしまって、物不足状態をつくり出して、そして価格をつり上げるカルテルをやったという事件ですけれども、この判決は、立証責任は原告である被害者にあるというその前提の下で、当時通産省が行政指導などを行って、原油の供給だとか、価格安定に腐心していた、当時の経済状態から見て、カルテルがなかったとしても、原告が購入した灯油はもっと値上がりしていたかもしれない。通産省が腐心していたから、その程度の値段で収まっていたということがあるかもしれない。カルテルがなかったとしたら、高くなっていたかもしれないけれども、安くなっていたかもしれない。カルテルなかりせば幾らだったという、想定価格の証明ができていないということを理由に訴えを退けております。

 私たちは、実際にカルテルで高くなって買わされた灯油の値段とカルテルが結ばれなかったときに買った灯油の値段、その差額が損害額だという考え方で争ったんですけれども、「なかりせば価格」の証明ができていないということで、高裁、最高裁とも負けてしまったという事件でございます。

 これについても、そのころは灯油だけではなくて、トイレットペーパーから洗剤などいろいろなものが市場から消え、物不足パニックということで、社会的な混乱を招いたわけでして、その後公正取引委員会が調べた結果、違法なカルテルだと分かって、審決が確定した事件なのですが、こういう事件の場合でも、なかりせば価格と、絶対できない証明を求める判決をしたということは、原告である私たち消費者団体の者から見ますと、いろいろ経済的な事情だとか別のことがあって、最初に結論があったのではないかと考えざるを得なかった判決でした。

 2つ事例を挙げましたけれども、こういう裁判を経験してみますと、本当に国民の立場にどこまで理解を持って判決を出したんだろうということを疑問に思っております。

 次に、審議の在り方についてですけれども、やはり第一に、言わなければいけないのは、国民がより利用をしやすい司法制度であって、それは利用者である国民の視点に立って、国民が利用しやすいという視点を考えなければいけない。

 あとは、時間がもう大分過ぎておりますので、読んでいただきたいと思います。それで、「審議項目の概要」につきましても、法曹の在り方とその機能の充実、法曹人口の増加についてはもう皆さんお触れになったことですので、飛ばさせていただきます。

 人口問題では、法曹養成教育の問題も勿論考えなければいけない、これについても意見はありますけれども、次の機会にさせていただきます。

 それから、「弁護士、弁護士制度の改革」の問題、これもやらなければいけない問題です。これは次の法曹一元の問題とも関係してくる問題と考えております。

 裁判官が、本当に国民の視点に立って、国民の立場に立っているかということを2つの裁判例で申し上げましたが、そういう観点から、では、弁護士経験者が裁判官になる、法曹一元という考え方を導入する場合に、今の弁護士さんたちの何人が本当に裁判官になってくれと言われたときに、引き受けられるのか、その辺のところを考えなければいけないのではないか。そういう意味では、弁護士事務所の在り方だとか、そういうことも含めて考えなければいけない、この辺については何人かの方がおっしゃっていますので、その程度でとどめさせていただきます。

 それから、「国民の司法制度への参加」、これは非常に重要な問題だと思っております。その第1が陪・参審制の問題です。基本的に私は一番理想的な形というのは陪審だと思っております。ただ、陪審制を取り入れる場合に、いろいろ社会的なクリアーしなければいけない問題がたくさんあります。それはここに書いておきましたので、説明はいたしませんけれども、やはり導入できるような条件整備、これを考えないと実質的には難しいという問題があります。

 それから、もう一つは最高裁判所の裁判官の国民審査の在り方ですけれども、今のやり方というのはあってなきがごとき制度だと思っておりますので、これも考えなければいけないと思います。

 それから、利用しやすい制度として見た場合には、訴訟手続という面では少額裁判はかなり改善されたと思っておりますけれども、働く人が増えていますので、開廷する時間とか曜日、この辺を考える必要があると思います。ニューヨークのスモール・クレームズ・コートを見学したときに、磨A勤労者のためにナイト・コートをやっているというお話がありまして、私はこれは非常に参考になる制度だと思いました。それから、これはちょっと関係者からはひんしゅくを買うかもしれませんけれども、日曜・祭日など休日の開廷、これについてもお考えいただきたいと思います。

 まだ、クラス・アクションの問題とか「懲罰的賠償制度」の問題とか、「法律扶助・訴訟費用の援助」の問題、それからADRの問題等、言いたいことはたくさんありますけれども、余り時間を取りますので、ADRについてだけ一言言ってあとはお読みくださいということにさせていただきます。

 ADRについては、一番国民がアクセスしやすい制度だと思います。ただ、PL法が出来まして、PLセンターというADR機関が12~13できたんですけれども、これについてはかなり批判もあります。なぜ批判があるのかというその辺も考えながら、ADRについては検討してみたらどうかと思っています。

 以上です。

【佐藤会長】 ありがとうございました。

 まだまだそれぞれ述べたいところがおありだったと思いますけれども、大変御無理申し上げて失礼いたしました。

 時間も予定より少しオーバーしておりますが、お互い尋ねたいところがあるとか、あるいは、論点整理、今日、いろいろお述べいただいたわけですけれども、論点整理の仕方、まとめ方などについて御意見がございましたら賜りたいと思います。どの点でもよろしゅうございますけれども、いかがでしょうか。

 相互に質問し出したらきりがないかもしれませんけれとも、特に、論点整理のまとめ方について何か御意見がございましたら伺っておきたいと思います。今、考えておりますのは、次回24日、今日のそれぞれの御意見を踏まえて、事務局でまず整理していただいて、最終的に私と会長代理でレビューしてまとめようと思っておりますけれども、たたき台のたたき台みたいになるかもしれませんが、そういうものを出せればというように思っております。その点について何か御注文とかあるいは御意見がございましたら、特に伺っておきたいと思います。いかがでしょうか。

【水原委員】 この論点は極めて多岐にわたるものになります。そういう意味で、その一つひとつについていろいろやろうとしてもこれは時間的制約で不可能だと思います。それで、井上委員からの御提案もございましたけれども、私も全く同感ですが、コアの部分、核心的な論点を取り上げて、これについて集中的に議論をする。こういう進め方を是非お願いしたいというのが私の考え方です。

【佐藤会長】 項目の挙げ方について、そう余り細かいところまで言及せず、大きなところでくくったらいいのではないかということですか。

【水原委員】 そのように思います。余り細かいことまで挙げますと、先が見えてしまうようなことになりますので、それについて十分に討議するという意味では、おおまかなコアを核にしてやっていただければと思います。

【吉岡委員】 私も水原委員の考え方、結構だと思うんですけれども、やはり全体の大きな枠組みといいますか、総論的な考え方をまず挙げていただいて、それから各論に入るという、基本的な考え方はそんなふうに考えたらどうかと思っています。

 石井委員が、ワーク・デザインの手法という理想形をまず考えて、それからやった方がいいのではないかという御意見をおっしゃいましたけれども、最初に理想はこうですよと決めてしまうというのはなかなか難しいかもしれませんけれども、やはり総論的な大きな枠組み、その辺でくくっていただいたらいかがかと思います。

【井上委員】 基本的には同感なのですけれども、大きな枠組みのところでも意見を完全にすり合せするというのはかなり時間が掛かるのではないかと思うのですね。ですから、今日のプレゼンテーションでも幾つかのパターンが示されています。それを整理していただいて議論をする。最終的に細かいところまで意見が一致するとは限りませんので、緩やかな大きな枠で共通の地盤というか、出発点ができれば、そこに各論点をはめていく。そういう緩やかな了解でないと、ちょっとやっていけないかなという感じがしますね。

【佐藤会長】 これから具体的に議論しようというわけですから、大きな枠であれ中身を書けたらいいですね。

 北村委員、何かありますか。

【北村委員】 今、井上先生と話していたんですけれども、総論での一致というかそこのところの詰めというのが一番難しいかなというふうに思っているんです。

【佐藤会長】 詰めは難しいと思いますけれども、今日伺っておって、国民にもっとアクセスしやすい司法とする、そのためには何を考える必要があるかという辺りは大体コンセンサスはできているのではないかという気がします。法曹人口をそれに見合うようにする、質・量ともに整えていかなければいかぬということも大体一致しているわけで、問題は、それをどういう方法で実現するかという辺りのところで多少御意見が分かれておって、これから議論すべきところではないかという気がします。

 そうすると、論点整理の総論のところはかなり漠としたものになるかもしれませんけれども、今、ちょっと私が申し上げたような観点から大きな論点はこうこうあって、そして、それを今後どういう手順で関連づけながら議論するかという辺りのところを少し総論のところで書かせていただく。そしてそのあと、論点項目を列記するという形を取らせていただいてよろしいでしょうか。

【中坊委員】 今、会長のおっしゃるように、これからやはり議論を進めていく上で共通の基盤になるものがないと、各論点がなかなか議論がしにくくなってくると思うので、そういう意味では、今会長のおっしゃるように、一度大体整理して、それを論議して、それから各論を論議していくのが、この審議会としては、タイムスケジュールの中でやらなければいけないわけですから、それが一番いいのではないかと私も会長の説に賛成ですけれども。

【佐藤会長】 どうもありがとうございます。

 事務局も時間は余りないので大変だと思いますけれども、急いでやっていただきたい。どうぞよろしくお願いします。

 それでは、以上で各委員の皆様の御意見の開陳を終わらせていただきたいと思います。

 次に、民事法律扶助の御審議をお願いすることになっておりますけれども、お疲れだと思いますので、時間もオーバーしていますけれども、10分休憩したいと思います。ただ、御連絡として、論点整理は次の24日と12月8日2回あるわけですけれども、この24日が3人のヒアリング、それから12月8日の方は法曹三者のヒアリングということになっていまして、論点整理について御審議いただきお決めいただくのに、十分かというのが若干気になるところです。もしこの2日間の審議時間で無理だということになりましたら、もう1日予備日として今セッティングさせていただくとありがたいと思います。しなくてすめば越したことはないのですが、御予定をいただけますでしょうか。

(日程調整)

【佐藤会長】 それでは、12月14日の10時から2時間くらいということでいかがでしょうか。3時間4時間取るつもりはありません。2時間とお考えいただければ結構だと思います。

 それでは、そういうふうにしたいと思います。

(休憩)

【佐藤会長】 それでは、時間がまいりましたので、再開させていただきたいと思います。

 横山さん、永盛さん、今日はどうもありがとうございます。御苦労様でございます。

 民事法律扶助についての審議ということで、法務省の横山匡輝人権擁護局長と、それから財団法人法律扶助協会の永盛敦郎専務理事に、お忙しい中をおいでいただきまして、お話いただくことになりました。

 最初に申しましたけれども、2人からそれぞれ20分程度お話しいただいて、そしてお2人への質疑は一括して20分程度ということにさせていただきたいと思います。その後意見交換ということにしたいと思います。

 それでは、最初に横山人権擁護局長から「民事法律扶助制度改革について」というタイトルでお話しいただきたいと思います。

 よろしくお願いします。

【横山法務省人権擁護局長】 法務省人権擁護局長の横山でございます。本日は来年度に是非とも実現させていただきたいと考えております民事法律扶助制度改革に関します御説明の機会をいただきましてどうもありがとうございます。

 それでは、お手元にあります「民事法律扶助制度改革について」レジュメに沿って御説明させていただきます。

 まず第一に、民事法律扶助制度の意義についてであります。民事法律扶助制度とは、御承知のとおり、民事紛争の当事者が資力の乏しい場合であっても、法律専門家である弁護士の援助等を得て、民事裁判等におきまして、自己の正当な権利を実現することができるように弁護士費用の立替え等の援助を行う制度であります。この民事法律扶助制度は、憲法32条に定められた裁判を受ける権利を実質的に保障する意義を持ち、司法制度の重要な基盤となる、極めて公共性の高い制度であると考えております。

 次にレジュメ第2の「現行の民事法律扶助制度の概要」についてであります。

 その詳細につきましては、後ほど法律扶助協会の専務理事から御説明があると思いますので、その説明に譲りますが、我が国の民事法律扶助事業は、昭和27年に設立された財団法人法律扶助協会によって実施されておりまして、所管は法務省でございますが、国としましては、昭和33年度から法律扶助協会に対し、訴訟等における弁護士費用等に充てるための補助金の交付を開始し、現在に至っています。

 お手元のレジュメの別紙Aの表を御覧いただきたいと存じます。これは御覧いただければお分かりのとおり、民事扶助の決定件数につきましては、平成元年度に約3,500件であったものが平成4年度には5,000件を超え、平成10年度には1万件を突破するに至っております。国の扶助費補助金の額は昭和43年度から同63年度までの20年間は6,500万円から7,200万円程度とほぼ横ばい状態で推移しておりましたが、このような民事法律扶助に対します需要の急増に伴い、平成元年度には約8,900万円に伸び、その後も毎年増額されまして平成10年度には約3億4,000万円、本年度予算では約4億7,000万円となっております。

 このように、国は近年民事法律扶助制度が憲法に定められた裁判を受ける権利を実質的に保障する重要な制度であるとの認識の下に制度の充実に努めてきたところでありますが、次に御説明いたしますように、いまだなお民事法律扶助の需要に十分に対応し切れていないなどの問題点を抱えております。

 そこで、レジュメ第3の「現行の民事法律扶助制度の問題点」について御説明したいと思います。現行制度の問題点として次のような点が挙げられます。

 1点目は、最近における民事法律扶助の急激な需要の伸びに対しまして十分に対応し切れていないという点でございます。先ほど申し上げましたとおり、民事法律扶助の決定件数は平成元年度以降、急激な増加を見せているところであります。特に最近の社会経済状況等を反映しまして自己破産申立てに関わる事件等が急増し、扶助の申請も予想を上回る件数に至っておりまして、法律扶助協会の一部の支部において、年度途中で資金不足に陥る事態が生ずるなど、いまだなお民事法律扶助の需要に応え切れていないことが問題として表面化してきております。

 また、法律扶助協会の各支部ごとの民事法律扶助の取扱い事件数には、その地域の人口や裁判事件数の差異だけでは説明できないほどの大きな格差がありまして、このことは国民の民事法律扶助の需要に適切に応えられていない地域が相当数存在することを示しているものと考えられます。

 これに加えまして、平成9年度に実施しましたアンケート調査によりますと、現在でもなお現行の民事法律扶助制度が対象としております所得層、すなわち全世帯の下から約2割層、これが3人世帯で税込み約400万以下の方々を指標としております。そのうち、7割近くの方々が本制度を知らない旨、答えております。

 この点からしますと、本来民事法律扶助を利用すべき方々が制度を知らないために利用する機会を逸している可能性が高いと考えられ、このような民事法律扶助に対する需要はなお相当な程度に上るものと推測されますので、これらの需要にも的確に対応していくことが求められております。

 2点目は、民事法律扶助事業の実施状況の地域間格差と運営体制の整備の立ち後れの点でございます。現行の民事法律扶助事業の組織及び運営は相当程度単位弁護士会の人的、物的資源に依存しておりますことから、その組織、財政状況等の相違によって同事業の実施体制、実施手続、取扱い件数等にかなりの地域間格差が生じております。例えば、扶助するかどうかの決定を行う審査委員会の開催について、1週間に2回以上頻繁に行われている支部がある一方、1か月に1回以下しか行われていない支部があること、事件の受付から弁護士の受任までの期間についても、10日間程度の短期間で行われる支部がある一方、2か月以上も掛かる支部があること。また、先ほど若干触れましたが、扶助決定件数についても年間3,000件を超える支部がある一方、年間わずか数件にすぎない支部があることなどでございます。

 これらの著しい地域間格差は財政上の基盤を含めた統一的な運営体制の整備の立ち後れが大きな要因であると言わざるを得ず、国民に対し、全国的に均質な公的サービスを提供するという観点から非常に大きな問題であると考えております。

 3点目は、諸外国における民事法律扶助事業との比較の点でございます。このレジュメの別紙②を御覧いただければと思います。諸外国との比較表を御覧いただければお分かりのとおり、根拠法の欄を御覧いただきますと、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ等の諸外国におきましては、既に法律扶助に関する法律が制定されております。

 また「事業規模」の欄を御覧いただきますと、これらの国におきましては我が国とは比較にはならない規模で民事法律扶助事業が展開されております。勿論、諸外国との比較に関しましてはその国の民事訴訟制度や訴訟事件数など、制度を取り巻く様々な事情を考慮しなければなりませんが、我が国では民事法律扶助について法制化されておらず、国際的に見ても運営体制の整備が立ち後れており、事業が小規模にとどまっていることは否めないものと思われます。

 以上のような現行制度の問題点を踏まえ、民事法律扶助制度の充実発展を図るため、この制度に関しまして早期に法制化を図り、国が民事法律扶助事業の統一的な運営体制を整備し、国民に対し全国的に均質な法的サービスを提供することができるように、財政基盤の強化を含め、必要な措置を講ずることができる法的枠組みをつくることが必要となっているところでございます。

 次に、レジュメ第4の「民事法律扶助制度改革の緊急の必要性」について御説明いたします。

 先ほど述べましたように、現行の民事法律扶助制度が急激な需要の伸びに対して十分に対応し切れていないということは、裁判を受ける権利の実質的保障という観点から極めて大きな問題であり、その需要に適切に対応することができるようにするために、民事法律扶助制度の整備拡充を図ることがまさに緊急に必要とされていると言えると思います。

 更に、来るべき21世紀の我が国社会におきましては、社会の複雑多様化等に加え、規制緩和等の改革により社会が事前規制型から事後チェック型に移行するなと、社会の様々な変化に伴い、事後チェック機能を持つ司法の役割はより一層重要なものとなると考えられます。このような社会においては、民事法律扶助制度が果たすべき役割の重要性は一段と高まっていくことは明らかであります。このような見地からも、民事法律扶助制度改革は21世紀社会のあるべき司法制度の実現の第一歩としまして、極めて緊急性の高いものであると考えられます。

 このような改革の必要性、緊急性につきましては、法務省に設置されました法律扶助制度研究会が平成10年3月に取りまとめました報告書におきましても、民事法律扶助制度が今後、我が国が目指すべき司法機能の強化の重要な基礎であると位置づけられ、法制度化を含む民事法律扶助制度の充実強化を図る必要性が強く指摘されております。

 また、司法制度改革審議会設置法の成立の際の衆参両議院の各法務委員会におきましても、政府は審議会の調査審議と並行して既に一定の方向性の示されている法律扶助制度等の諸制度の充実を図ることとの附帯決議がなされたところであります。

 以上、述べてまいりましたような民事法律扶助制度改革の必要性及び緊急性を踏まえまして、法務省といたしましては、平成12年度中に法制度化と予算の拡充を是非とも実現したいと考えているところでございます。

 そこで、私どもが目指しております「民事法律扶助制度改革の概要」について御説明申し上げます。

 まず民事法律扶助法案、これは仮称でございますが、その骨子でございます。レジュメの第5の1にありますように、民事法律扶助制度の法制化を図るべく、現在次期通常国会への法案提出を目指して鋭意準備作業中でございますので、その骨子について御説明します。

 1点目は、まず国がその責務として果たすべき民事法律扶助制度の内容を法律で明らかにするとともに、その運営主体として指定法人方式の採用を予定しております。この指定法人と申しますのは、個別の法律によって公共性の高い事業を定め、これを実施する適格を有するものとして主務大臣が指定する公益法人でございます。この指定法人は自ら行為の準則である業務規定を具体的に定め、主務大臣の認可を受けた後、その業務規定に基づいて事業展開を図っていくといった運営を行うものでございます。そして、指定法人方式を採用した場合には民間活力を利用することができるため、これまで法律扶助について積極的役割を果たしてこられた弁護士、弁護士会の自主性に基づく積極的な貢献が期待でき、また従前の実績に基づくノウハウ等民間活力を利用することができます。

 民事法律扶助事業の需要の増大に伴って、国が同事業の運営主体に対し、適正な財政援助をするとともに、その運営体制を整備し、適切に監督することができる法的枠組みを構築することが要請されますが、指定法人方式はこのような要請にも応え得る法的枠組みでありますから、民事法律扶助事業の運営制度としてふさわしいものと考えております。

 2点目は「国及び弁護士・弁護士会の責務の明確化」であります。

 国の責務に関しましては、民事法律扶助事業は裁判を受ける権利を実質的に保障する意義を持ち、我が国の司法制度の充実に寄与する極めて公共性の高い事業でありますから、国はその整備、発展に努める責務を負うものと考えられます。従来、この点の位置づけが必ずしも明確ではありませんでしたが、制度の改革に当たっては国の責務を法律において明確にし、あるべき国の方針を示すことが不可欠であると考えております。

 また、弁護士・弁護士会はこれまで弁護士の社会的使命や弁護士法が法律扶助に関して日弁連及び弁護士会の会則事項としていることなどに照らしまして、自らの責務としまして資力に乏しい方々に対し、訴訟活動等を通じた法的援助を行うことによってその使命を果たしてこられたものと高く評価されるところであります。そして、民事法律扶助事業をより一層充実したものとするためには、これまでと同様に弁護士会等が自らの責務に基づいた協力をしていくことが不可欠であると考えられます。

 3点目は、民事法律扶助事業に対する国庫補助を法律補助としたいと考えております。これまでの国からの補助金は法律の根拠を持たないいわゆる予算補助でございましたが、民事法律扶助制度が極めて公共性の高い制度でありますことから、今回の法制度化を機に国からの補助を法律に根拠を置くものにしたいと考えております。

 次に、レジュメの第5の2にありますように、今回の改革のもう一つの柱としまして民事法律扶助事業関連予算の拡充を図るべく、平成12年度政府予算の概算要求に所要の経費を盛り込んでおりますので、その概要について申し上げます。

 1点目は、民事法律扶助の需要に適切に対応し得る事業費の確保であります。この事業費の確保につきましては、まず法律扶助の中核であります裁判援助等に必要な扶助費、補助金の増額を図りたいと考えております。また、現在生活保護受給者等に対しましても原則として立替え費用の償還を求める運用となっておりますが、この点を見直しまして、訴訟の結果、財産的給付が得られた場合を除き、償還を求めないこととしたいと考えております。

 更に、同制度を国民に身近でより利用しやすい制度とするため、指定法人が法律相談を実施するに当たっては、遠隔地にいる利用者がわざわざその実施場所に赴かなくても登録をした一定の弁護士の法律事務所でこれを受けることができるものとする、いわゆる相談登録弁護士による法律相談の実施を図る等、運用体制の一層の整備を図りたいと考えております。

 2点目は、本制度の周知を上げるための広報予算の確保も図りたいと考えております。本制度の周知に関しましては先ほど述べましたとおり、法律扶助制度研究会の過程で実施いたしましたアンケート調査結果によりますと、国民の7割近い方々が本制度について知らない旨、回答しているというのが実情でありますことから、周知度を上げる必要があるものと考えております。また、適正な事業遂行に必要な事務関係経費の一部国庫補助を図りたいと考えております。

 以上の施策の推進のための12年度予算の概算要求としまして、本年度予算約6億円の3.5倍強に当たります約22億円を要求しているところでございます。

 以上をもちまして私の説明とさせていただきますが、委員の皆様方におかれましては現在法務省が進めております民事法律扶助制度改革につきまして、何とぞ御理解のほどをよろしくお願いしたいと思います。

 どうもありがとうございました。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それでは、続きまして永盛専務理事から「法律扶助運営の現状」というタイトルでお話をちょうだいしたいと思います。よろしくお願いします。

【永盛専務理事】 法律扶助協会の専務理事をしております永盛敦郎と申します。本日は、この審議会において協会としての御説明をさせていただく機会を与えていただきましたことには、本当に心から感謝をしております。

 審議会は「国民がより利用しやすい司法制度の実現」をその目的の1つとしているというふうに伺っております。法律は国会で定められた社会のルールであり、また司法制度は法による社会運営を担保するものであります。

 ところで、このルールは各人が法に定められた権利を適正に行使することによって実現をされるわけであります。いかに司法制度自体が整備されたとしても、国民の多くが自らの権利を行使しないであきらめて泣き寝入りをしてしまうようでは法によって社会を運営していくという目的は実現をされないということになるわけであります。司法が国民にとって利用しやすいものとなることは、単に私人の権利の擁護にとどまらず、法に従った社会運営を実現をしていくという意味でも重要な意味を持っている。その意味で、審議会の目的というのは非常に時宜に適したものだというふうに考えております。我が憲法はそのような意味で憲法14条の法の下の平等、あるいは32条の裁判を受ける権利等の規定を置いていると考えられます。

 ところで、一般市民が司法制度を利用しようとするときに、そこには特有の困難が存在することは認めざるを得ないわけです。第1に、机の上に六法全書が置いてありますけれども、自分の関わっている問題がこの中でどこに書いてあるのかということを探し出すのは普通の人には到底無理な話でありまして、この法律の複雑性、それから条文を見てその意味を理解をするにはやはり技術的な訓練というものが必要となります。

 それから次に、法律の条文だけではなくて法の適用というのは裁判所の判例によって行われているわけですけれども、この膨大な判例が集積をされていること、そしてその判例も社会の変化に伴って判例自体が変わり、進歩していくものであること、そういったアップ・ツー・デートな法的知識を身に付けるということ、これもなかなか普通の方にはできないことであります。

 それから、第3に権利の最終的な実現というのは裁判手続において実現をされるわけですけれども、ここでは法廷のルールに従って適切な時期に適切な主張、立証を行わなければならないわけであります。司法制度の適切な利用のためには、このような法律の世界と、それから市民とをつなぐ法律専門家である弁護士の援助が欠かせないものであるということであります。

 ところが、弁護士に依頼をするにはどうしても一定の費用が必要であります。その経済的な負担に耐えられない者は権利があっても敗訴するなどの不利益を受けることになります。そこで、経済的な理由などで法律専門家に対するアクセスが困難な人々に対する援助、すなわち法律扶助制度を構築・拡充することが市民の権利保障という面だけではなくて、社会のルールの確立のためにも必要となってくるのであろうというふうに考えます。

 ところで、一般の市民の方がトラブルに遭遇をした場合、当初からこれは法律的に解決をし得る問題だというふうに認識をされる例はむしろ少ないというふうに言えようかと思います。すなわち、いろいろな混沌とした社会の事実の中から整理をして、これは法律問題であるということを知る機会というのがどうしても必要でありまして、法的手段への玄関口として法律相談の機会が広く開かれているということが司法制度の利用の拡大のためには不可欠であります。これなくしては、せっかく裁判を受ける権利があっても行使するすべを持たない多くの人々を放置することになる。法律相談が裁判を受ける権利、実現の土台として重視される必要があるというふうに考えます。

 次に「わが国の法律扶助制度の歴史と現状」について申し上げます。

 我が国の法律扶助事業は1952年、昭和27年に日弁連が主体となって設立された財団法人法律扶助協会によって担われてまいりました。当初の事業は民事訴訟に対する援助のみでありましたけれども、以後市民の強いニーズに応えて事業を順次拡大してまいりました。また、民事だけではなくて1973年には少年審判事件の弁護士としての付添人活動を援助する少年保護事件付添扶助、それから74年、これは昭和で言うと49年になりますが、無料法律相談事業を開始をいたしました。更に1990年、平成2年には刑事被疑者弁護援助というふうに援助内容も発展をさせてきたわけであります。

 ここで法律扶助協会が行っている事業のシステムについて若干御説明をいたしますと、扶助協会の事業は地方裁判所所在地ごとに設置をされている50の支部で実施をしております。そこでは市民から扶助の申込みがあると、法律と裁判に精通した弁護士などから成る審査委員会の審査に掛けられます。そこで申込み者が定められた資力要件と、それから勝訴要件、本当に扶助をする意味があるかどうか、その実益があるかどうかという勝訴要件を具備しているかどうかを判断をいたします。これがいずれも適合している場合には、法的手段を取るために必要な弁護士費用あるいは裁判費用などを支出いたします。同時に、多くの市民の方には知り合いの弁護士、心当たりの弁護士がいないという場合があります。そういう場合には扶助協会が適切な弁護士を紹介する機能も果たしています。昨年度の扶助協会の事業費合計は約26億8,800万円に達しております。

 ところが、これに対する国庫補助金は民事法律援助の事業費に限定をされており、その管理運営費、例えば審査のための費用であるとか、それからいろいろ債権の管理のための費用ですね。職員の給与等の管理運営費は対象となっておりません。その国庫補助金の額は順次拡大をされたものの、増大する需要に対しては著しく貧弱であり、それ以外の事業については日本財団など、民間からの補助金があるのみであります。特に管理運営費については弁護士会からの有形無形の補助や篤志家からの寄附、あるいは贖罪寄附等によりまして刑事の被疑者被告人が反省の情を表すために行う寄附金などの市民からの寄附に頼っております。

 このように、日本の法律扶助制度は法律上の根拠もなく、国の制度としての位置づけを欠いた一民間財団法人による公益的事業にすぎず、したがって国庫の補助も乏しく、運営及び財政を弁護士会に依存してきたわけでありますが、慢性的な資金不足のため、援助内容も諸外国と比較して極めて貧弱である。お金がないから仕方がないということでやってまいりました。特に法律扶助の需要が高まった最近においては、財政状況は極めて厳しい状況であります。このような状態は我が国の法律扶助が大きく立ち後れ、改革を緊急に実行する必要性があることを物語っていると考えております。

 3番目に、法律扶助制度研究会報告書の目指す改革の内容と緊急性について申し上げたいと思います。このようなとき、法務省に設置された法律扶助制度研究会は3年4か月に及ぶ論議の末、昨年、98年の3月、民事法律扶助事業の改革を提言する報告を取りまとめました。その内容は横山局長の説明と若干重複いたしますけれども、ここに書かれておりますように法律扶助を憲法上の裁判を受ける権利に由来し、実質化するものとして位置づけた。法律を制定し、制度の構築整備を国の責務とした。事業費に対する補助金の増額のみならず、管理運営費も国庫補助の対象とした。法律扶助事業の運営主体としては、公益法人を事業主体として指定する指定法人構想を採用したということであります。これは、我が国の法律扶助事業の立ち後れを克服しようとする極めて積極的なものだというふうに考えております。現在、法務省はこの報告書に基づきまして、仮称ですが民事法律扶助法を来年の通常国会に提出し、成立を待って来年10月1日より新制度を発足させたいとしております。

 法律扶助協会としても、その指定を受けるべく機構の改革あるいは先ほど局長の方から指摘がありました事業上の問題点の克服などに今、鋭意努力をしておりまして、この改革が速やかに実現することを心から切望しております。

 法律扶助協会の事業は前述のように年々拡大し、昨年度の民事法律扶助件数は1万を超えて1万79件に達しております。これは前年比で言うと23.3%増ということで、ここ数年このような急激な伸びが続いているわけです。その内訳は自己破産事件が49.4%、半分近くが自己破産事件、それから離婚事件が18.7%でありまして、両事件とも件数は増大をしております。ここで自己破産事件というとだらしなくてサラ金に手を出したというふうに思われる方がおられるかもしれませんけれども、協会が扶助している自己破産事件は原則として生活保護受給者、これは国民の世帯の中では0.7%にすぎないわけですけれども、この生活保護受給者に限定をされております。

 その具体的な扶助された対象者を見ますと第1に高齢の方、それから第2に重い病気の方が多い。それから、共通して見られるのは再就職困難、それから単身者という人たちが特徴であります。生活苦から消費者金融に手を出して、そして現在過酷な取立てに遭っているという悲惨なケースが圧倒的であります。扶助協会としては資金面の制約から厳しい件数制限を実施しておりまして、こういった消費者破産事件の増大を抑えておりますけれども、今にも自殺しそうな面持ちで協会を訪れる人をそのまま帰すわけにもいかず、これが協会の資金不足の大きな原因となっております。

 協会は現在、金融機関からの借入金で何とか事業を継続しております。法務省は法律扶助に関連して来年度、先ほどお話がありましたように22億2,500万円の概算要求を行っておりますけれども、現在の協会の状況というのはたとえて言うならば急坂を登ってゴールまであと2キロという地点で最後の力を振り絞って走っているマラソンランナーのようなものである。これがゴールが先に延びるというようなことになりますと、協会自体の財政状況は破綻をしかねないという状況でありまして、来年度予算の概算要求の実現と引き続く国庫補助金のさらなる拡充は、我が国法律扶助事業の将来を左右する問題であるというふうに考えております。

 最後に、せっかくの機会でございますので「法律扶助改革の今後の課題」について申し上げたいと思います。研究会報告書に基づく改革の必要性と緊急性については先ほど申し上げましたけれども、その実施を前提にして更に第2段階の扶助改革が検討されるべきであるというふうに考えております。

 第1は「民事法律扶助に関する更なる抜本的な改革」であります。この点では2つの点についての改善が必要であるというふうに思います。

 まず現行の原則全額償還制、この援助の内容が資金の立替えであって、原則的には全額返していただくという、これを見直して利用者の負担の改善を図るべきであるというふうに考えます。現在の法律扶助の対象者は前に述べたように極貧層とも言うべき人々が多く含まれております。この人々は償還能力を全く欠いているというのが特徴であります。しかも、法律扶助が最も必要とされる人々である。原則全面償還制を扶助の根本に据えるということは、最も援助を要する人々に利用の上での困難を与えることになり、制度としての大きな矛盾であるというふうに考えます。事件の結果、経済的利益を手にした場合を除いて、このような人々には負担を求めないということを原則とするべきであるというふうに考えます。

 次に、対象層を拡大をするべきであるというふうに考えます。現行制度は国民所得層の下から2割層を対象にしております。しかし、訴訟に要する経済的負担のため、司法の利用を妨げられる層はこれに限られるものではありません。したがって、漸次対象層を4割程度まで引き上げ、これらの場合には資力に応じて負担金を課するなど、制度の整備を図るべきではないかというふうに考えております。

 第2の課題は「刑事被疑者の弁護活動に対する公費による援助実現」の課題であります。この事業は現在、法律扶助協会が弁護士会の援助も得て行っておりますけれども、大きな社会的評価を得て事業は拡大をしております。その一方、弁護士会と協会の財政負担はもはや限界に達しているという状況であります。捜査機関に身柄を拘束され、刑事問題の専門家である警察官や検察官の取調べの対象となっている市民は弁護士の援助を受ける必要性が極めて高いものでありまして、経済的な余裕のある者はそういった弁護士の援助が受けられ、そうでない者は受けられないというのは著しく社会的正義に反します。したがって、公費による制度運営の実現が緊急に検討されるべきであろうというふうに考えます。

 第3の課題は「少年保護事件の付添人としての弁護活動に対する公費による援助実現」の課題であります。

 少年審判事件は少年の保護と健全な育成を目指すものでありますけれども、少年の意思に関わらない強制的な処分を命ずるものであり、成人における刑事公判手続に相当いたします。この制度も現在は弁護士会と扶助協会の負担で実施をされておりますけれども、成人の刑事公判事件には国選弁護人制度が存在をするのに、少年審判事件についてこれを欠いているのは著しく不合理であるというふうに考えます。一般に、少年は成人と比較して自己の意思を表現する能力が低いということを考えると、弁護士である付添人が少年を援助する公的制度は適正な手続の保障という点からも是非実現するべきものと考えております。

 以上、今後の課題として検討を望む次第であります。どうもありがとうございました。

【佐藤会長】 どうもありがとうございました。それぞれのお立場から立ち入った御説明を賜りましたが、お2人の御説明について何か御質問があればどうぞ。

【北村委員】 ちょっと教えていただきたいことがあるんですが、最初の法務省人権擁護局の方の御説明の中に、民事法律扶助法案の骨子として2枚目ですが、「国及び弁護士・弁護士会の責務の明確化」というのがあるんです。それで、私がよく分からないのは、ここで弁護士・弁護士会の責務というふうになっていることです。我が国の弁護士というのは全部弁護士会に入るわけですよね。それで、弁護士の責務は弁護士会が決めるわけですよね。そうではないんですか。これは弁護士の責務と弁護士会の責務ということを明確化するという意味なのか否かということ、それがまず1点です。

 もう一点は、私は民事法律扶助制度というのは非常にいい制度で、是非法案でやっていただきたいというふうに思っているんです。だから反対意見ではないんですけれども、この法律で弁護士・弁護士会の責務ということを非常に明確化されるというのは、弁護士会にとってうれしいことなのかなと、ふと思ったんです。法律がないからこそ今、自発的にいろいろとやっていらっしゃるのが、責務を明確化されて、それはどの辺の責務なのかよく分かりませんけれども、それをやれというのは余りうれしくないなと、何かボランティアでやっているというか、任意、自発的にやっているというのがいいなというふうにこちらから見ていて思ったんですけれども、その2点をお伺いしたいと思います。

【横山局長】 まず最初の弁護士・弁護士会の責務ということですが、これは弁護士の責務と弁護士会の責務と両者を含んでおります。それで、どうしてこういう責務という考え方が出てくるのかという点でございますけれども、弁護士法上、弁護士は基本的人権の擁護と社会正義の実現に努めるという使命を負っております。そして、法律事務の独占的提供者であると、弁護士法上そういう位置づけがございます。そういうことで、司法の重要な一翼を担う存在と言えるかと思います。したがって、弁護士とその強制加入の組織体であります弁護士会、日弁連は資力の乏しい者に対して訴訟活動を通じた法的援助を行うことによってその使命を果たすように努める責務を負うものと考えております。

 弁護士法におきましても、無資力者のためにする法律扶助に関して日弁連の会則、それから単位弁護士会、各弁護士会の会則でこれを定めることとされておりますのもこのような理由によるものではないかと考えております。そういうところから弁護士の方々、あるいは弁護士会も、これまで法律扶助について積極的役割を果たすべきことを自らの責務ということで自覚されて法律扶助事業に対して人的物的資源の提供、あるいは資金援助も行われてきた。勿論非常に多大な貢献をされてきたのは当然ですけれども、そのように私どもは理解しております。

 また、これは法律扶助制度研究会の報告書の中でも弁護士・弁護士会につきましては自らの責務と自覚してこれまでいろいろ貢献されてきたというふうなくだりがございます。

【北村委員】 法についてよく分からないものですから、例えば弁護士法にあるものについて、今度法律扶助制度の法案をつくるときには、やはりそれも入れておかないと駄目なんですか。

【横山局長】 民事法律扶助事業を一層充実したものとするためには、この事業の統一的な運営体制を整備する。それから、全国的に均質な法的サービスを国民の方々に提供するということが必要になっております。この事業を運営するには弁護士の方々の協力というのは是非とも必要なわけです。法律扶助自体がですね。そしてまた、これまでも弁護士会の方では先ほど言いましたように、人的物的資源の提供、あるいは資金援助をいろいろ行って活動をされてきておりまして、そこら辺を今後こういう事業の統一的な運営体制を整備して扶助を充実していくというときに、やはり法律の方でそこら辺を明確に規定して弁護士・弁護士会の具体的な取組をしていただく。これは行為指針として法律でこれを明確に規定することは必要ではないかというふうに考えております。

 それで、内容としましてはやはり国とはちょっと違いがありまして、弁護士の方々につきましては扶助事件を受任する、受けるという方向での協力ということは考えられるかと思います。

 また、弁護士会につきましては、この事業の適正な運営と健全な発展のために必要な支援をするというような内容になってくるのかなと、そういうことで検討しております。ですから、国の責務、弁護士・弁護士会の責務と言いましても、内容はやはりおのずと違ってくるというふうに考えて検討しているところでございます。

【髙木委員】 今、御説明を聞いて1万件だと、1件を1人で勘定していいのかどうか分かりませんが、1万何千人に一人がこういう制度にかかわっている。それで今、御説明を聞いていたら憲法32条だとかいろいろおっしゃるんだけれども、対象というか、量にしても、アプローチの仕方にしても、こういう現状だから国民に開かれた司法とかという世界ができていない一番の証拠を今日説明していただいたという感じでございます。

 そういう意味では、各国の比較表を見せていただいても、イギリスの1949年はともかくとして、お隣の韓国でも1986年に法律ができている。それを今日まで放っておかれた。対象は極めて少ない。失礼な言い方をしたら、太平洋の中に目薬を落とすような実態ですと。それから、国会の決議等もいろいろあったとお聞きしておりますが、やることが遅い。民間企業でこんなことをやればすぐつぶれてしまいます。だから、ニーズがあるときにそのニーズをスピーディーにフォローする。それを早くやろうという気も起きなかったのは、法務省なり裁判所の責任とまで言って良いのか判りませんが、庶民に近い司法をつくるという気がなかったと言われても仕方がないと思います。

 それからもう一つは、22億円というお話を聞きましたが、お聞きすればイギリスはキャップレスだということです。今のような状況で、勿論お金をつける以上はちゃんと使えるということが必要だというのは分かるんですが、例えばノンキャップスで相当な額の資金をプールしながら、少なくとも予算不足で制限するみたいなことが起きないような手当ぐらい何故できないのか。そういう意味では量的にも、あるいはタイミングという意味でも失礼だけれども今、申し上げたような感覚で受け止めざるを得ないと思います。

 1つだけ質問させていただきたいんだけれども、この問題を議論された時に、被疑者弁護等、刑事事件に関わる助成といいますか、その辺のことを今回一緒にやるような気になって議論されたのかどうか、それを質問させていただきます。

【横山局長】 タイミングの点につきましては、扶助の需要が増加してくる傾向のはしりが見られましたのは昭和63年ころからで、法務省と扶助協会の間では勉強会で検討してきました。これもやはり長過ぎだと言われるかもしれませんが。それからまた、平成6年11月から法務省の方で法律扶助制度研究会を設けまして、やはり諸外国の制度、あるいは国内のいろいろな問題、我が国の司法制度との適合性といろいろ問題を検討しまして、平成10年3月に報告書を取りまとめていただいたという経緯があって、今これを踏まえて改革を実現したいと思っているところでございます。

 それからノンキャップスという話、これはオープン・エンドとも言われていることだと思いますけれども、民事法律扶助自体の考え方としまして、私どもはやはり資力に乏しい方々が弁護士費用等を負担しますと、健康で文化的な最低限度の生活を営むことに支障を生じる。こういうようなことは裁判を受ける権利の実質的保障の観点から非常に問題だということで、その辺りを今、下から2割の所得層のところをまず充実したいというところで考えている。そういうところで、それをオープン・エンドまで持っていくというのはなかなか難しいな、厳しいなという感じを持っているところであります。

 それから、刑事の被疑者弁護の関係でありますけれども、民事法律扶助事業に関しましては先ほど来御説明しておりますように、非常に今、改革の必要性、緊急性があるということで、しかも法律扶助制度研究会の報告書で一定の方向性も示されているということで、これは至急実現したいと思っているところであります。

 他方、刑事事件につきましては、また民事とは違う観点から検討すべき様々な問題があるというふうに私ども考えておりまして、これを同時にというのはなかなか難しい。まず、既に一定の方向性の示されておる緊急性のある民事法律扶助事業を早急に来年度中に実現したいと思っているところでございます。

【井上委員】 後者の刑事の関係については、法律扶助の拡充ということのほかにもいろいろな形があり得るので、それを含めて検討していく必要があると思うのですけれども、いま御紹介になった指定法人というものにした場合に、その指定法人が任意に被疑者弁護扶助のような事業を続けるということは、できるわけですね。

【横山局長】 指定法人がこれまでやった自主事業ですね。これはまた従来どおりできるということでございます。

【井上委員】 そうしますと、刑事の被疑者弁護と少年事件の付添人との関係では、従来どおりの事業を継続する体制を当面取るということでしょうか。

【横山局長】 それは自主的に行うことはこれまで同様できるということです。

【井上委員】 もう一つ、これはお答えいただけるかどうか分からないのですが、今回22億円に増額するというのは非常にけっこうなことだと思うのですけれども、その額というのはどういうところから出てくるものなのでしょうか。何故、例えば100億円ではないのかということですが。

【横山局長】 これはやはり需要の見方をどう見ていくのかということがありまして、先ほどグラフでお示ししましたように非常に今、急激な伸びを示している。この過去の伸び具合を見ながら、この辺りを参考にしまして、こういう伸びでいくと当面どのぐらいまで必要かということで過去3年間あるいは5年間という伸びを見まして、そこから予想される件数に対して単価を掛けるといいますか、そういう形で考えております。

【井上委員】 それは、先ほどおっしゃったように、下から2割ぐらいという基準は一応そのままにして、件数の伸び率をそこに掛けるとこのくらいになるということですね。その基準自体をこの際、引き上げるという発想では必ずしもないということでしょうか。

【横山局長】 やはり下から2割の所得層を充実させたいということで今やっています。そこがまだまだ十分でないということでございます。

【山本委員】 永盛さんもずっと御説明になって、実際の活動は50の支部ですね。支部ということはそれぞれの弁護士会ですね。

【永盛専務理事】 弁護士会とは本当は違うんですが、今までは大体弁護士会に同居をして借りて仕事をしているということです。

【山本委員】 そういうところがあらゆる事務をおやりになってきたということですね。さっきおっしゃられたように地域差が相当ある。だから、ある弁護士会のところでは相当な数が出る。弁護士会という言い方は適切でないのかも知れませんが、そうでないところは全く利用されていないということだと多分思うんです。アプローチの仕方がそれでは駄目なのではないか。ここで何かPRの予算が計上されているようですが、こういうものはやはり市町村、自治体と連携して、例えば自治体の中にそういう生活保護の相談を受ける人たちだとか、民生委員だとか、社会的な活動をしている人たちがいろいろおられますよね。そういう人たちにこの事実を知らせて、それで必要があれば御相談に乗りますよということをPRするといった形で地方の行政組織に連動してもらわないと徹底しないのではないかという気がするんです。そうしないと、やはり22億もあれば十分だと。利用されないところは依然として利用されないということになるのではないかと思うんですが、その辺のところの運営の改善は何かお考えになっておられますか。

【永盛専務理事】 御指摘のとおりでありまして今、支部によってかなりばらつきがあるということは我々も早急に克服しなければならない問題だというふうに考えております。やはり公の制度である以上、どこに住んでいても制度が利用できるようでないと、これはいけないというふうに思っております。現実に、多くの支部では自治体などと連携して自治体にいろいろ相談に来られますよね。そのときにこういう制度がありますよということを御紹介いただくパンフレットなども置いて、そこの自治体からの御紹介で扶助を受ける件数というのは非常に多いんですけれども、中にはまだそういう点が不十分なところもありますので、これは我々も今、要するに不活発なところの底上げを図りたいということでやっております。いろいろ地域性があるとか言うんですけれども、それにしてもこの差は大き過ぎるというふうに考えておりますので、その改善は全力を挙げて取り組みたいと思います。

【山本委員】 是非そういう自治体などを上手に使ってこういう制度がありますと、テレビで広報するわけにもいかぬでしょうけれども、そういう実効のある方法と言ったらおかしいんですけれども、事業の潜在的な需要をつかむ手だてをお考えになるのが大事じゃないかなという気がちょっといたしました。

【横山局長】 ちょっと補足をよろしいですか。法律扶助へのアクセスの問題だと思うんですけれども、先ほどちょっと説明しましたように今度の改革では相談登録弁護士制度というのを是非導入して、それで扶助の申込み自体、今は支部までいかないと駄目なんですけれども、これは支部まで行かなくても遠隔地の方々は相談登録弁護士の事務所で法律相談もできる。それから、そこで申込みの窓口にもなっていただいて、そこでも法律扶助の申込みができると、そのような仕組みを是非つくりたいと思っていろいろ検討しております。

【佐藤会長】 吉岡委員、どうぞ。

【吉岡委員】 相談登録弁護士制度等をおつくりになるというのは、できるだけいろいろなところで受けられるようにということは大変結構なことだと思いますけれども、法律扶助の場合、私たちの今までの認識では勝つ裁判じゃないと扶助を受けられないということだったんですね。それを少し緩めて考えるということですから、そのこと自体はとてもいいことだと思うんですけれども、6億が22億の要求ということでして、このグラフを見ますと、扶助決定件数が10年で1万ちょっとという件数になっております。一方、10年度の個人の自己破産件数というのは10万件くらいだったと思うんですが、今年はそれより多分増えるのではないかと思います。また自己破産可能数は100万人ぐらいはいると言われております。そういう状況から言うと、22億というのは非常にささやかな金額だなと思います。

 ただ、国の予算ですから急激にたくさんの予算をということは非常に難しいとは思いますけれども、やはり本当に困っている人が相談して援助が受けられるということであれば、もう少し予算的にもたくさん取れた方がよりいいと思います。

 それから、指定法人方式の採用ということで御説明があったんですけれども、指定法人方式になるということでまずぱっと浮かぶのが法律扶助協会がそのまま指定法人になるのではないかということですが、これはどこにも法律扶助協会が指定法人になると書いているわけではないですね。ということは、ここに競争の原理が導入されるんですか。

【横山局長】 今度、検討しております法案では、指定法人となる要件を定める方向で検討しております。その要件を満たす公益法人、そこを指定するということになるわけです。その要件とは何かと言いますと、やはり全国統一的に運営体制が整備される、また、それだけの基盤も有しているというようなところが非常に重要ではないかということを考えております。全国統一的に運営体制を整備し、それだけの基盤を有していると、そして、また国民の方々に対して全国的に均質な法的サービスを提供できると、そういう組織であると、そこら辺が要件で入ってくるものだと思います。

 現在法律扶助について実施している、全国的に組織をもって法律扶助を行っている法人としましては、法律扶助協会だけです。あとは、若干地域的にローカルで扶助をやっているというところもございます。ですから、法律自体の中には法律扶助協会を指定するというような形ではなくて、指定法人に関する法律のつくり方からしますと、その要件を満たしているとそれぞれ判断される法人の方が指定を受けるための申請をすると、それに対して要件を満たしているかどうか判断すると、そういう仕組みにはなっております。

 ただ、現在のところ、そういう要件を満たし得る法人としては、法律扶助協会が現存するだけということが言えるかと思います。今後のことは、まだです。法律は法律扶助協会を指定するという形には当然なっておりません。

【吉岡委員】 これは、複数もあり得るんですか。

【横山局長】 法律では、事業の統一的な運営、均質な法的サービスの提供という観点からしますと、1に限るという方向で今、検討しております。全国1に限り指定するという方向で考えております。

【藤田委員】 償還率は、どのぐらいになるんでしょうか。

【永盛専務理事】 今、大体そのときに立て替えたお金がどのぐらい返ってくるかということでいいますと、約8割です。

【藤田委員】 8割ですか。それは国庫に入るわけですね。

【永盛専務理事】 いや、協会に戻ってくるものです。

【藤田委員】 そうですか。そうすると、そのお金はまた。

【永盛専務理事】 それは、また事業に使われます。

【藤田委員】 次の年度の。

【永盛専務理事】 そうです。

【藤田委員】 そうですか。

【山本委員】 8割も戻るんですか。

【永盛専務理事】 事業が拡大しておりますので、いままでの形を、ある程度見てみると7割ぐらいなんですけれども、そのとき出したお金はどのぐらい返ってくるかという点では8割戻ってきます。

【藤田委員】 そうすると、出ていくばかりというんではなくて、相当程度は戻ってくる、それをまた原資にして事業ができるということですね。

【永盛専務理事】 そういうことです。

【藤田委員】 そうですか。

【横山局長】 ですから、補助金の方は、先ほど言いました4億7,000万とか、そういう数字が出ておりますけれども、事業規模の方は18億ぐらいということです。

【佐藤会長】 竹下会長代理は研究会の座長で御苦労なさったと思いますが、どうぞ。

【竹下会長代理】 いえ、そういう立場でうかがうわけではございませんが、これは、いろいろ理想的な制度を考えるということになれば、また別の考え方もあるかと思いますけれども、やはり理想を描いただけで、現実の制度にならないと仕方がないというようなこともございますので、法務省は一生懸命協会と協力しながらやってくださるということですので、私としては是非ともこの法案を成立させて、民事扶助事業を永盛専務理事が言われたように、とにかくスタートするということをやっていただきたいと思います。

 横山局長にお伺いしたいのは、今回は民事法律扶助ということで、先ほどからお話がありますように、刑事の問題は別途考える。それから、少年の付添いの問題は別途考えるということですが、実際には、今、考えておられる法案の制度で事業内容として、どのぐらいの範囲のことがなされるのか、民事訴訟の場合の弁護士費用の立替えとか、法律相談の話は先ほど出てきましたが、倒産も勿論入るし、ADRと言われているような調停とか、あるいは家事審判も当然入るのだろうと思いますが、それから、行政訴訟とか、大体のその辺のものがカバーされると考えたらよろしいのでしょうか。

【横山局長】 民事法律扶助事業の内容を明確化したいと思っておりますけれども、この中ではまず民事裁判関係、これは行政訴訟、それから民事調停、家事審判事件等の裁判所関係の事件というのがあります。こういう民事裁判等についての訴訟代理援助というのを中心に考えております。そして、一定の場合に裁判等の手続に先だって、示談交渉をした方が適当であるという場合もあろうかと思います。そういう場合に関しましては、示談交渉についても弁護士による代理援助が可能になると、そこら辺は事業内容に盛り込みたいと思っています。

 それから、裁判所に書類を提出して、訴訟自体は本人が遂行すると、ただ書類作成という形で援助すれば、何とかできるんではないか、本人もそれを希望するというような事案もあろうかと思いますので、裁判所に提出する書類作成援助というものを今後事業の内容に入れたいと、それから先ほど来出ております法律相談というものを、事業内容に入れたいと考えているところであります。

【竹下会長代理】 永盛専務理事もおいでくださったので、うかがいたいと思います。確かに、吉岡委員から御指摘がありましたように、この事業の運営を担う組織として、やはり競争原理というものが働いた方がよいのではないかというのは、そのとおりだと思いますけれども、実際には全国的な規模で展開をして、従来の扶助事業のノウハウの蓄積ということを考えると、やはり扶助協会を除いては、なかなか難しいと思うのです。それだけに、逆に扶助協会自体が、競争原理は働かなくても、扶助事業の持っている意義にふさわしい内部組織、あるいは運営の仕方を考えなければいけないということになるのだと思うのです。その点については、もう既にいろいろ改革に着手をしておられると伺っているのですが、具体的にはどのようなことになっているのでしょうか。

【永盛専務理事】 昨年度実行いたしました一番大きな改革というのは、本部組織の改革です。従来、理事が協会には100人定数がおりまして、その中の90数%は弁護士であったんです。法律扶助制度というのは、弁護士の利益のための制度ではありませんで、国民の利益のための制度ですので、実際には法律扶助制度になかなか造詣が深い方というのは、どうしても弁護士に限られるというところから、そういう実態になった。それから、各支部からも理事が出ていた方がいいということからそうなったわけですけれども、やはり新しい制度を迎えて、そういうことではまずいだろうということで、昨年、理事の定数を25名にしました。現実には24名選任をされておりますけれども、そのうち半分は弁護士でない理事の方に就任をいただいております。そういうふうにして、本当に協会が利用者の方々、あるいは国民の代表の方々の声が反映するような組織改革をしております。これは、1つの例でございます。

 もう一つ、今年になって、既に来年ということでいろいろ準備をしておりますけれども、各支部でも、支部の人たちを集めて、私たちも方々参りまして、新しい制度の意義などについて詳細な説明を行っております。先ほど山本委員からお話がありましたけれども、各支部でも、やはり自分のところが非常に頑張らなければいかんということで、そういった面での改革の機運というのは、盛り上がってきているのではないかというふうに思いました。これは、精神面でのかなり大きな改革の内容だというふうに思っております。

【髙木委員】 協会の方のペーパーですか「法律扶助改革の今後の課題」というのが書かれておりますが、これは協会というよりは、法務省の方で御検討になる、この第2段階のというのは、もう検討を始められておられるわけですか。

【横山局長】 この第2段階という、この法律扶助制度改革をまず実現しまして、この制度改革の結果を踏まえまして、更にこの制度を一層充実させていきたい。法律扶助事業につきまして、事業の整備発展を図ってまいりたいというふうに思っているところであります。

【髙木委員】 ということは、第2段階と書いてあるけれども、これは協会のペーパーだから法務省にお尋ねするのはおかしいんですけれども、多分、下の方では根っこでつながった議論をしておるはずですから。

【横山局長】 協会のペーパーですけれども、原則、全額償還制を見直し、利用者の負担の改善を図るという点でございますけれども、これは最初の説明のときも若干触れたんですけれども、やはり我が国の民事訴訟制度自体、弁護士費用は訴訟費用化されておらず、敗訴者負担ではなくて、各当事者が負担するというような仕組みの中で給付制というのはなかなか難しい問題があると。給付制ということは国民が税金で負担するということになります。

 ただ、そうは言いましても、生活保護受給者あるいはこれに準じるような方々から、一律に償還を求めるというのは、非常に問題があるということで、現在は、そういう方々からも進行中償還ということで、扶助決定しますとすぐ分割償還を受けている取扱いになっているんですけれども、この辺りはもう改善して、事件が終結したとき、終結決定の段階でまだ生活保護を受けている、あるいはこれに準じるような状況にあるというときは、免除制度を適切に活用していきたいということを考えております。

【髙木委員】 今の御答弁だと、しばらくのはこのままだということですね。

【横山局長】 償還制の見直しというのは、そういう意味で免除するところは、きちっと免除していきたいということで、ただ原則償還制か給付制かとなりますと、先ほど言いました原則給付制とするということについては、非常に問題が多いと考えております。

【髙木委員】 その考え方は、これから議論していけばいいんではないですか。

【横山局長】 私どもは、勿論そういう考え方で今、検討を進めているということでございます。

【髙木委員】 ほかの国見たら、原則全額償還を取るか、免除しているところもあるし、それは国によって制度が違いますから、あれですけれども。

【横山局長】 それは、勿論、私どもはそういう方向で今、検討しているということでございます。

【髙木委員】 今お話を聞いていると、ともかく、船をうまく海に出す方が先だみたいな話ばかりに聞こえます。もう少し何か突っ込んでみようという積極的な気分が伝わってきません。来年の通常国会でお出しになるということなんで、まずその法案を通してということでしょうが。

【山本委員】 これは、あくまでも自然人だけなんですか。それとも、中小企業とか、そういうのは駄目ですか。

【横山局長】 自然人ということです。

【佐藤会長】 今の髙木委員がおっしゃったような話も、この審議会でまず我々が議論すべきことなんだろうと思います。法務省としては、従来の経緯があるものですから、ここでかなり思い切ったことをやろうとしているということでしょうか、よく言えばね。

【横山局長】 まだまだという思いが、委員先生方にはおありかと思いますけれども、私どもも精一杯頑張ってまいりたいと思っているところでございます。

【佐藤会長】 よろしゅうございますか。時間もきましたので、まだいろいろおありかもしれませんけれども、この辺で終わりにしたいと思います。お2人どうもありがとうございました。

(法務省横山人権擁護局長、永盛法律扶助協会専務理事退室)

【佐藤会長】 お2人の御説明を承ったわけですけれども、この問題について、この審議会としての意見交換をしたいと思います。先ほど髙木委員がおっしゃったように、裁判を受ける権利という観点から大上段にとらえると、一体どうなのかという難しい議論もあるだろうと思いますけれども、第一歩として、法務省がやろうとしているのを後押しするということでいかがでしょうか。全体的な問題は、先ほどの皆さんのペーパーにも出ておりますけれども、法律扶助制度を全体的にどういうようにつくり上げるのかということは、まさにこれから私どもとして議論をするということだろうと思いますが、第一歩として、急いでこのままやっていただこうという辺りなんではないかと思います。

 そういうことで、よろしゅうございましょうか。

(「はい」と声あり)

【佐藤会長】 どうもありがとうございます。

【井上委員】 1点よろしいですか。刑事の関係につきまして、ちょっとコメントさせていただきますと、被疑者弁護のためには他にも国選弁護制度の拡充や公設弁護人制度などいろんな形が考えられるものですから、法律扶助の枠の中だけで考えるのは必ずしも適切でないところがあります。現にこの点では、仄聞するところによりますと、法曹三者の間でも、意見交換が何度も重ねられてきておりまして、その中で、法律扶助の拡充という形を含めて望ましい公的弁護、被疑者弁護が中心ですけれども、その形が模索され、一定の方向で見通しができてきているようにも伺っています。それに、先ほどの論点整理の中でも、かなり多くの委員が項目として挙げておられましたので、おそらくここで審議の対象とされることになると思いますが、その際、法律扶助を拡大するということも解決策の一つとしてはあり得るわけで、その可能性をつぶさない形で、メッセージを送れればいいなと考えます。今の段階ではそういうことではないかと思うのです。

【佐藤会長】 先ほど第一歩としてということを申し上げましたけれども、強調しているのは全くそういう趣旨でして、これだからもう全体ができたという形になると、何のために後押しするのか分かりませんので、そこは、これから私どもとして注意しながら議論すべきことかと思っております。

 繰り返しになりますが、体系的にかくあるべきだということは、まさにこれから議論して決めるわけですけれども、今回は法務省がおやりになろうとしていることを、まず緊急性があるということで、第一歩として私どもがサポートしようということです。そこで、その意思の表明の仕方なんですけれども、審議会の決定事項というようなことで出すと、ややさっきの問題も絡まってくるもんですから、できれば会長談話というようなことでどうかと思います。審議会の意向、とりあえず第一歩の措置としてサポートしたいという気持ちを会長談話というような形で表現させていただけたらなという感じなんですけれども、いかがでしょうか。

【髙木委員】 それもいいかもしれませんけれども、非常に発想がちんけなんです。失礼な言い方だけれども、そういう意味では、会長の御趣旨で書いていただくのも結構ですけれども、第一歩だということと、将来に向けて更にいろんな工夫をして、使い勝手のいい司法にしていくための努力が今後も必要だという趣旨を併せて書いていただけたらと思います。しつこくて申し訳ありません。

【佐藤会長】 いや、非常に大事な点で、御趣旨はよく分かります。そうしたら、今、髙木委員がおっしゃったように第一歩であるということと、この審議会として法律扶助の問題は刑事も含めて、総合的、体系的に考え、検討するという2点を押さえた形で会長談話を表現したいと思いますが、文章など私と会長代理に御一任いただければ、大変有り難いんですけれども。その2つの点は必ず盛り込みたいと思っておりますので、よろしゅうございますでしょうか。

【竹下会長代理】 発表前に具体的な内容はあらかじめお知らせするということですね。

(「はい」と声あり)

【佐藤会長】 どうもありがとうございます。この件は、そういうように決めさせていただきます。あと、事務局の方から資料の説明か何か。

【事務局長】 今回も配付いたしました資料について、御説明申し上げますが、と申しましても毎回お配りしているものでございまして、特に御説明することはございません。

 なお、ここに『ジュリスト』11月15日号をお配りしておりますが、ここに「司法制度改革の視点と課題」と題する座談会が載っております。実は、これは井上委員の御配慮によりまして、皆様にお配りすることができました。どうもありがとうございました。

 それから、封筒の中ですが、司法制度改革に関する各界意見要旨集というものが入っております。これは、日本弁護士連合会が各界提言や国会における参考人質疑の要旨を取りまとめたものでございまして、各委員の御参考にとの趣旨で配付していただければということでございますので、お配りいたします。どうか御参考にしていただきたいと思います。

 以上でございます。

【佐藤会長】 どうもありがとうございます。時間があれば、地方の公聴会と海外視察の件があるんですけれども、どうしましょう。次回にしましょうか。

【中坊委員】 そうですね。今日はもう定刻ですからね。

【佐藤会長】 それでは、また次回にしたいと思います。

 では、次回の日程は11月の24日、午後1時から5時を予定しております。3人のヒアリングをやって、先ほど申しましたように論点整理についてのたたき台のようなものを御議論いただこうかと予定しております。それでは、記者会見の方なんですけれども、御希望の方いらっしゃいませんか。皆さん今日はいろいろ御自分の御見解を披歴されたところですが、いかがでしょうか。

 北村委員にはやっていただきましたけれども。今日は、会長代理と二人で。

【竹下会長代理】 皆さんお疲れですからね。

【佐藤会長】 では、どうもありがとうございました。

配付資料一覧