青山善充 | 東京大学副学長 |
藤井教子 | 社団法人全国消費生活相談員協会理事長 |
米澤進 | 文筆業・元共同通信社論説委員 |
【佐藤会長】それでは、ただいまから「司法制度改革審議会」の第7回会合を開催します。本日はまず年末に公表する論点整理に関しまして、これまでの審議の経過や、各委員から前回お出しいただきました意見ペーパーを踏まえながら、たたき台のようなものを、私と会長代理とで相談して用意させていただきました。それを御覧いただきながら、約1時間ほど意見交換をしたいと思っております。
その後ヒアリングとして、東京大学の青山善充副学長、休憩をはさんで社団法人全国消費生活相談員協会の藤井教子理事長、それから元共同通信社の論説委員の米澤進さんの3人の方々からお話を伺いたいと予定しております。
本日の議事に入ります前に、前回御議論いただいて、最終的には私と会長代理に御一任いただきました民事法律扶助の会長談話について、確認のために再度文案をお配りさせていただきます。
事前に御覧いただいたものと同じですけれども、このような形で特に御異存がなければ、本日の会議終了後の記者会見で公表したいと思っておりますけれども、いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。
(「何もございません」と声あり)
【佐藤会長】ありがとうございます。では、そのようにお取り計らいさせていただきたいと思います。
それでは、議題の方に入らせていただきます。論点整理に向けての意見交換をお願いしたいと思います。
本日お配りしました会長試案は、事前に事務局からお届けしてあると思いますので、一応お目通しいただいているものと思いますけれども、若干最初に私の方から少しお話しさせていただきたいと思います。
前回事務局の協力を得て会長試案を用意して、たたき台として皆様にお示しすると申しました。論点項目を12月に発表するということになりますと、7月に第1回がスタートして、約半年経過するということも考えまして、特にナラティブの部分についてなんですけれども、国民の皆様に、より率直にと言いますか、少し時代背景も含めてより率直に訴える文章表現にすべきではないかということも思いまして、竹下会長代理とも御相談して、私の方で少し表現を工夫してみようかということになりました。
とは申せ、この段階でどのような表現、内容にしていいのかという大変難しいこともございますし、加えて私は本来筆が遅いものですから、文章化したものを今日全部お見せするということはできませんで、お手元にございますレジュメのような形と、論点項目案という2枚しかお示しできていないわけであります。
今日、論点項目案について御審議いただいて、その可否をお決めいただくということと、もう一つは、今申しましたナラティブな部分について、その表現振りあるいは全体の構成について私の方から若干説明させていただきまして、皆様の御意見も頂戴して文章にするということについて御了承いただければと考えている次第です。
最初にレジュメの方について若干、こんなことを考えているということを少しお話しさせていただきたいと思います。
最初に「Ⅰ司法制度改革審議会の設置と審議」について書かせていただこうかと思っています。その部分は文章化できておりまして、こんな調子です。まず、「(1)審議会の設置」です。
「司法制度改革審議会は、司法制度改革審議会設置法に基づき内閣に設置された。同法2条は、
『審議会は、二十一世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的な施策について調査審議する。
2審議会は、前項の規定により調査審議した結果に基づき、内閣に意見を述べる。』
と定めている。
審議会設置の趣旨について、陣内法務大臣は、『21世紀の我が国社会においては、社会の複雑多様化、国際化等に加え、規制緩和等の改革により、社会が事前規制型から事後チェック型に移行するなど、社会のさまざまな変化に伴い、司法の役割はより一層重要なものとなると考えられ、司法の機能を社会のニーズにこたえ得るように改革するとともに、その充実強化を図っていくことが不可欠である』と説明している。」。これは国会の委員会での趣旨説明を引用したものです。
「衆議院法務委員会附帯決議4項には、『審議会は、その審議に際し、法曹一元、法曹の質及び量の拡充、国民の司法参加、人権と刑事司法との関係など司法制度をめぐり議論されている重要な問題点について、十分に論議すること』とされ、また、参議院法務委員会附帯決議2項には、『国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹一元、法曹の質及び量の拡充等の基本的施策を調査審議するに当たっては、基本的人権の保障、法の支配という憲法の理念の実現に留意すること。特に、利用者である国民の視点に立って、多角的視点から司法の現状を調査・分析し、今後の方策を検討すること』とされている。
審議会は、学識経験者のうちから両議院の同意を得て内閣が任命する13人以内の委員で組織するものとされ(設置法3条、4条)、委員の選任に当たっては、『司法制度の実情を把握すると同時に国民各層からの声が十分に反映されるように努めること』とされた(衆議院法務委員会附帯決議2項)。これを受けて、法律実務経験者及び法律学者6人、各界の有識者7人、の計13名の委員が任命され、まさに『国民の視点』に立った審議を期待されて、審議会は誕生した。」
「(2)審議の経過」でございます。
「審議会は、平成11年7月27日、第1回会合を開催した。小渕内閣総理大臣は、審議会発足に当たってのあいさつにおいて、『我が国は、今、内外の極めて厳しい環境の下、大きな転換期を迎えて』いるとの認識の下に、司法制度を国民にとってより身近で利用しやすいものとし、司法制度が法的紛争を適正迅速に解決して国民の権利の実現を図るとともに、社会情勢に応じて法秩序を維持し、国民の基本的人権を擁護していくという役割を十全に果たし得るものとすべきである』ことを力説した。
審議会は、爾来、上記設置法の趣旨を踏まえ、鋭意審議を重ねてきた。すなわち、21世紀に向けての我が国社会の在り方、我が国の司法制度の現状と課題について、政府関係者、有識者、司法制度のユーザー及び法曹三者等から意見を聴取するとともに、現段階では東京のみではあるものの、裁判所、検察庁、弁護士会及び弁護士事務所に対する実情視察をし、また、司法改革に関する各界の諸提言や外国の司法制度に関する諸研究・調査等も参考にしながら、当審議会として今後本格的に調査審議すべき具体的論点の整理に努め、ここに一応の結論を得るに至った。」。
そして、レジュメの「Ⅱ今般の司法制度改革の史的背景と意義」の方でございますけれども、「(1)近代日本と現在」とやや大上段にかぶったものですが、要するにここでは、民法典など法典編纂から100年、日本国憲法典の施行から50年、この国の法がこの国の血肉と化すために何をすべきか、そういうことが今度の司法制度改革に問われている歴史的な意味じゃないかというようなことをここで書かせていただこうかと考えております。
次に、「(2)日本の社会の変容と司法の役割」ですけれども、御承知のように、行政改革等いろんな諸改革が構想され、実施に移されつつあるわけであります。そこでは、個人の自律的生活ないし自己責任というようなことが共通の基盤として言われているわけであります。今度の司法改革は、そういう個人の自律的な生活を助ける基盤、社会システムの整備というような意味があるのではないか。比喩的に言えば、司法、法曹は、いわば“国民の社会生活上の医師”の役割を担っているわけで、そういう観点から司法の役割が増大してきているんだということをここで触れようと思っております。
「(3)国際化と司法の役割」ですけれども、国際的なルールづくりに我が国が積極的に関わっていく必要があること、そこでの法的ルールの専門性に通じた司法、法曹の役割というものが非常に高まっていくであろうということが一点。第二点は、国家の主権という垣根が低くなってきているわけでありまして、いわば地球の風が吹きさらす時代でありますが、その観点から見ると、社会のしなやかな強さというものを日本として心掛けていく必要があるだろうと、そういう中で司法、法曹の役割というものも増えていかざるを得ないのではないかという趣旨のことであります。
それから、「Ⅲ今般の司法制度改革の要諦」でありますけれども、「(1)司法の現状と改革の方向」では、いろいろな方が指摘されましたように、司法は国民にとって遠い存在になっているという批判、指摘に言及するとともに、臨司及びそれ以後、特に1990年代に入りまして、司法改革のさまざまな努力がなされてきているわけですけれども、そういう努力、成果を踏まえながら、さっき史的背景のところで申しましたような時代環境を視野に入れながら、国民にとって身近で頼りがいのある司法をつくるということ、そのために司法の制度的、人的基盤の格段の拡充強化を図る必要があるんだというようなことをここで書かせていただこうかと思っております。
「(2)司法の制度的基盤の強化」、あるいは「(3)司法の人的基盤の強化」では、論点項目のところでいろいろ挙がっている事柄について、その要点というか趣旨を簡単に、ちょっとメリハリを付けて論及するということにしたいと思っております。
最後の「Ⅳ今後の審議に向けて」というところですけれども、これもここでいろいろ御議論がございましたように、21世紀に向けての日本の社会の在り方に関連する司法の全体像、それを具体的に実現していくプロセスを描くことがこの審議会の任務であることを書きたいと思っています。そして、人的インフラ、制度的インフラの相互性に留意しながら、本格的に審議するというようなことにで触れるということにしたいと思っております。今まだ筆半ばでございますけれども、そんなことを考えておりますが、御意見、御希望がございましたら、御指摘いただければそれも参考にさせていただいて文章化したいと思っております。
いかがでございましょうか。
論点項目については、後でまたお気づきの点を伺いたいと思いますけれども、このナラティブの部分については、今申し上げたようなスタイル・内容でと考えています。400字詰めで30枚前後くらいになるだろうと思います。文章力がないものですから、お恥ずかしいものになって、笑いを誘うようなことになりかねませんけれども、そんなことを考えております。
【中坊委員】ちょっと質問ですけれども、今のⅢの(4)のところに書いてある「その他」というのは具体的にどういうことですか。
【佐藤会長】次の論点項目案のところにある司法の国際化への対応とか、司法の関連予算、そういうものをここでちょっと触れておこうかということであります。
【中坊委員】ちょっと意見もあるんですけれども、会長のおっしゃったとおりで私自身は大体結構だと思うんですけれども、ただ、「Ⅳ今後の審議に向けて」というところでプロセスの問題を当然そこで書くということになっていますけれども、かねてこの審議会というのは、我々の答申したことがどう具体的なスケジュールの下に実現していくかということが、すべての項目にわたっての審議の極めて重要なことではないか。単にそういう考え方だと示すのではなしに、いつに何ができるのか、できないかというところが非常に問題点ではないかと思うんです。
私自身は、この間私の論点整理を出させていただいたときにも、実現へのスケジュールというのを一つの項目に挙げさせていただいたんで、その点を配慮していただいて、人的インフラ、物的インフラに続いて、「その他」のところがまたそういうふうな司法予算とかいう問題であれば、もう一項目入れてお考えいただいて、我々としては、そういうところまで視野に入れて、これから審議し答申するということを一番最初の総論のところでうたい上げていただく方がいいんじゃないかという気もするんですけれども。一遍お考えいただいたらよろしいかと思います。
【佐藤会長】御趣旨は分かります。その点は井上委員からでしたか、実施の仕組みを考えないといけないのではないかという御意見があったかと思います。それは、論点項目のところでは具体的には挙がっていないんですけれども。実は挙げてはみたんですが、やや次元を異にする課題ではないかということで落としたのです。つまり、それ自体を論点項目として挙げて審議の対象にしてやるというより、出口のところで、すなわち、この答申がどのように活かされるのか、実現されるのかということは当然出てくる問題ですので、それは最後の段階で、我々としては相当議論しないといけない事柄であろう、ということです。
その趣旨のことは「Ⅳ今後の審議に向けて」というところで、抽象的ですけれども、ちょっと触れておきたいと考えております。
【中坊委員】私の言っている一項目は挙げないのですか。
【佐藤会長】一項目として挙げるのは、全体の流れとの関係でいかがかということです。工夫させてもらいますけれども、一項目として挙げるのはちょっと。
【中坊委員】視点だけを踏まえて我々の審議をしないと、抽象論に終わってしまうと余り意味がない。抽象論だったら議論の仕方もあるし、具体的になるとそれなりの議論の仕方もあるんだから、そういう点はかなりポイントを置いた議論になるようなことを総論というか、論点整理のどこかで明確化することを、会長が今おっしゃったメリハリでメリかハリか知らんけれども、ちょっと考えていただいたらと思います。
【佐藤会長】法律扶助について、審議会としてではなくて会長談話という形ですけれども、意向を表明しました。今後、審議の途中でも、審議会として意向を表明すべき場合が出てくるかもしれません。非常に漠然としか申しませんけれども、審議の途中でも審議会としての意向が固まれば、それを具体化するための動きを求める、そういうこともあり得るんじゃないかと思います。そして、最後の出口のところで、我々の答申が出たときに、それがどういう形で政治に受け止められ、具体的に実現されていくのかという問題が出てくる。行革のときには答申が出て、基本法ができて、そして関連法の制定・改正となりましたけれども、どういう形になるのか、その辺の問題もあるだろうという気がします。
今の段階で余り具体的なことは書けませんけれども、その辺は我々として非常に重大な関心があるということは、どこかに書き込んでおきたいと思っております。
【井上委員】今、会長のおっしゃったように、Ⅳの中にそういうことも考えに入れながら審議を進めるという一節を入れておいていただくということで、今の段階ではよろしいのではないでしょうか。
【佐藤会長】そういうことでよろしいですか。
【鳥居委員】「司法制度改革に向けて」というタイトルで、一般の国民やマスコミが、審議会のある種の中間答申と受け止めてしまう可能性はないでしょうか。
【佐藤会長】そうですね。タイトルですね。
【鳥居委員】これは中間答申よりずっと手前のものなんだということが、何かあった方がいいような気がします。
【佐藤会長】「論点整理」といった言葉を、副題か何かで入れますか。ちょっと工夫させてもらいます。確かにおっしゃるようなことがあるかもしれません。2枚目は「論点項目」とあります。1枚目の「司法制度改革に向けて」というタイトルに、「論点整理」か何かを副題として入れればもっとはっきりするかもしれませんね。
【鳥居委員】あるいは文中に、いずれ中間答申が出て、最終答申が出るが、それよりずっと手前の話なんだということが文章として冒頭に書いてあるとよく分かりますね。
【佐藤会長】さっき申し上げたⅠのところでは、これから本格的に調査審議すべき論点整理の結論を得たという趣旨のことを入れ、またⅣのところでは、スケジュールのことに触れ、中間報告をやりそして再来年の最終報告に向けて調査審議するということも書きますので、その辺は内容的にははっきりすると思いますけれども、見出しだけ御覧になって誤解を受けるといけませんので、ちょっと考えます。
【竹下会長代理】そうですね。余り総論のところの格調が高いと、より一層、答申と思われるような誤解を招く可能性がありますからね。
【藤田委員】総論部分も論点項目も非常によくまとめていただいたので、中身については何もないんですけれども、取り組み方として、これから地方の実情視察や公聴会とか、アンケート調査や海外の調査とかを実施して、その結果を国民の方に投げ掛けて、また、それに対する反応を吸収するというようなことをやるわけですが、そういうことについては、どこかで触れられるんでしょうか。
【佐藤会長】「Ⅳ今後の審議に向けて」というところで、それも触れようと思っております。
【藤田委員】分かりました。
もう一つは、400字詰め30枚ということですが、大きな事件の判決を出すときに、よく新聞、テレビの記者から言われるのは、余りにボリュームが大き過ぎてよく核心がつかめない、要旨を書いてくれ、要旨でもまだ多過ぎて、骨子を書いてくれということがありますので、これだけを見ますと、記者の方たちも目がちらちらするんじゃないかと思います。要旨的なものをつくってアピールするのがいいのかという気もいたしますが、どうでしょうか。
【佐藤会長】おっしゃるとおりなんです。ただ、要旨をつくるのも大変なんですね。
【藤田委員】お願いだけして涼しい顔をしているのは申し訳ないんですが。
【佐藤会長】また代理とも相談しながら。
【竹下会長代理】努力はしてみます。
【水原委員】マスコミの皆さんは審議の内容まで全部公開しろとおっしゃるくらい熱心な方々ばかりだとするならば、しかも国民的最大の関心事だとするならば、それくらいのものは原文のまま十分に読んでいただいて、十分勉強していただいた上で記事などを書いていただく。余りにも手取り足取りでは勉強しないのではないかというのが率直な感想でございます。
【佐藤会長】分かりました。論点項目の方については、何かお気づきの点はありますか。この間の御議論で、余り細かなところまで触れなくて、大くくりの方がいいんじゃないかという御意見が強かったように思いますので、こういう形にいたしましたが。
【井上委員】○が付いているもの相互の関係というのは、はっきり区別して別々に考えるという意味では必ずしもないのでしょうね。つまり、相互にかなり関連していたり、一つにまとめた方がいいかなというようなところもないではないものですから。
【佐藤会長】性質の違ったものが入っているんです。例えば法曹倫理というのがありますね。これはいろんなところと関係してきます。一つの項目を起こして、法曹倫理とは何ぞや、それを確立するには何をなすべきかというように議論するというよりも、法曹養成・法学教育の在り方とかに関連して議論すべきものかもしれません。さらに、法曹一元にも関係してくるかもしれません。いろんなところで関係してくるんですけれども、しかし、性質上大事な問題だということで、こういう形で挙げてあるんです。ですから、相互に関係する場合もあり得ます。
【井上委員】これを拝見したときに、1、2、3と、こういうのが付いているところは大きな項目かなと思いましたが、それぞれの中で挙げておられる細目については、相互に絡んでいるということはあり得る、そう理解してよろしいのでしょうか。
【佐藤会長】はい。
【北村委員】非常に形式的なことなんですけれども、今おっしゃったことと関連するんですが、○のところは、①とか②というふうに挙げられるようなものにした方が論点としていいのかなと思ったんですけれども、そうでもないんですか。
【佐藤会長】①②では、何か順番が付いてくるような感じになりませんか。
【北村委員】論点というのが(1)(2)(3)が1の中にあってという形で、ちょっと大きく分け過ぎかなという気がしたんです。
【井上委員】私は逆の心配をしました。例えば刑事司法という大項目の中に迅速化というのがあるのですが、ある部分は刑事特有の問題であるのですけれども、例えば弁護士業務の在り方とか、民事裁判の迅速化とも絡んでいる部分もありまして、余り截然と分けてしまうと、違う問題として位置付けているように受け取られないかなという心配があったものですから、先ほどのような質問をしたんです。
【中坊委員】いずれにしても、この論点項目というのは、我々が審議をしていくのをまさに整理しているだけのことで、最終的にはどういうのに収まるかということはまだはっきりしていないんだから、余り最初からきちっと書いたものにすると、ちょっとまたね。むしろ今おっしゃるように融通が効くようになっているんで、我々が審議していく過程の中において、あるいはまた別に項目として必要なものが出てくるかもしれない。あるいは落ちていくのがあるのかもしれないし、というふうに理解させていただいた方がいいんじゃないでしょうかね。もちろん、議論の一つの目印みたいになっているという意味でね。
【井上委員】外に公表されるものですから、これとこれとは分けてやるんだなと国民の皆さんが理解されるとすると、我々の理解とちょっとずれてくる。この論点整理というものはあくまで一つの手掛かりにすぎず、今後また整理されたり発展していくものだと、そういう説明があった方がいいかなという感じがするのです。
【中坊委員】総論の一番しまいにでも、別紙の論点はこういうもんだというのを1行だけ入れておいていただければ分かりやすいんじゃないでしょうかね。
【竹下会長代理】それは会長とお話ししたときには、そういう趣旨でございました。
【吉岡委員】当然公表されるわけですから、公表された段階で一般の国民が、この点が抜けているんじゃないかという意見が言える余地があるという、そういう発表の仕方をしていただいた方がいいんじゃないかと思います。
それから論点項目のところで、大体入っているように思うんですけれども、「国民の参加」という考え方が「利用しやすい」というのと、「司法への参加」というのと両方にありまして、「司法への参加」については陪審・参審が入っていますけれども、「利用しやすい」という方の「国民の参加」ですけれども、クラス・アクションとか団体訴権とか、そういったものがどこで読めるのかがこのペーパーで、項目的にわからないんですけれども。
【竹下会長代理】その問題は、アクセスの拡充、それから行政事件との関係で問題になりますから、「行政に対する司法審査の在り方」というのを少し広く解すれば、その中にも入るのではないでしょうか。限定しますとちょっと抜けてしまいますけれども、これは要するに司法の行政に対するチェック機能の問題でございますので、ここで議論をするという機会も出てくるかと思うのでございます。
【吉岡委員】それで読めないこともないかなと思いますけれども、私たち消費者団体の中では、今、団体訴権の問題が重要な課題になっています。何か出ていないという感じを持つのですが。
【竹下会長代理】ここに挙げてあるものと並列に並べるほど独立した問題でしょうか。
【佐藤会長】「裁判所へのアクセスの拡充」の中にはいろんなものが入り得ると思います。ですから、おっしゃる以外にも拾い出せばいろんなものが出てくるわけです。だから、そういうように受け止めていただければ。決して排除するものじゃありませんので。最高裁判所の裁判官の国民審査の問題なども出ていましたけれども、ここには明記されていませんが、それも広い意味では「国民の司法参加」のところでとらえ得る問題かもしれませんし、決して排除しているわけではありません。それは断言できます。
【竹下会長代理】アクセスの拡充は、何人かの方から、例えば家庭裁判所の問題とか、それから吉岡委員からは、開廷時間の問題、夜間の開廷というお話もございましたけれども、それらは「裁判所へのアクセスの拡充」という中で議論できるのではないかということを、こちらでは話をしていたのです。
【鳥居委員】専門外の者の立場で考えると、「行政に対する司法審査の在り方」という言葉を司法審査に限定しないで、もっと行政に関する不満や不当性の指摘の仕方が工夫されていてほしいと思います。そのような文言が入ると、ただいま御指摘の問題も全部入るんじゃないかなという気がしました。
【髙木委員】例えば1の(2)の「国民の期待に応える刑事司法の在り方」と言えば、何でも入るような気がするのですが、もっとも刑事裁判の迅速化は書いてありますが、刑事裁判の審理に関わる検察の手持ち証拠の開示問題だとか、そういう刑事裁判の審理の充実というようなことがこの「国民の期待に応える刑事司法の在り方」というところに包含されているのか、されていないのか。
【佐藤会長】当然包含されていることだと理解していいと思います。そういうような趣旨です。
【髙木委員】裁判官の独立と司法行政というか、そういう意見も申し上げたんですが。
【佐藤会長】その問題も法曹一元の問題、あるいは法曹養成の在り方とか、大きくはそこに入ってくる問題だろうというように考えております。裁判官の任用の在り方とか、そういう問題も当然この法曹一元などのところで出てくる話です。司法権の独立、裁判官の独立は、司法の重要な大前提でありますので、そういうものは当然いろんなところに関連してくる話だろうと思います。
ですから、今おっしゃった裁判官の独立の問題も、法曹一元や法曹養成だとか、そういったところで当然議論されるものと思います。
【髙木委員】現在の簡裁、地裁、家裁、高裁、最高裁に加えて、例えば専門裁判所というんでしょうか、分野別裁判所と言うんでしょうか、そういうような議論も是非お願いしたいと思います。それはどの辺に含まれるんでしょうか。
【佐藤会長】「民事裁判等の在り方」の三番目の「専門的知見を要する事件への対応」のところで考えております。
【竹下会長代理】どの裁判所も含めてでございます。
【北村委員】お伺いしたいのは「制度的インフラ」の(1)の「国民がより利用しやすい司法制度の実現」、これは司法制度改革そのものなんじゃないかなと思ったんですけれども、この(1)と(2)の「国民の期待に応える刑事司法の在り方」となっているんですが、(1)の方は、民事中心のことを書いているという、ここの違いなんですけれども、素人が見ていると非常に分かりにくくて、この(1)の題、これはどういうことを言ってるのかなというふうに思ったんです。(2)に刑事が出てくるから、こっちは民事を言っているのかな。でも、民事だけでもないみたいだし、国民が利用するのは別に民事だけではなくて刑事の被告人とかね。
【井上委員】刑事の場合、被告人としては、利用するというより利用させられるというべきでしょうが。
【北村委員】この分け方の視点、一体どこからこういうふうに分けてあるのかというのを教えていただきたいと思います。
【佐藤会長】(1)では、基本的には民事、自ら訴えて裁判所を利用して、自分の紛争を解決することを中心に考えています。
【北村委員】すると、ここは民事とか言うとまずいわけですか。
【佐藤会長】行政事件も含めてです。
【藤田委員】ただ、弁護士というと、必ずしも民事だけでもないんですね。
【佐藤会長】それと、法律扶助の問題も、これは民事だけではありません。
【北村委員】そうすると、(1)というのは、国民が利用しようと思ったとき、ということなんでしょうか。しかし後の方もそうですね。
【鳥居委員】こんなふうにしたらどうでしょうか。大変失礼な言い方なんですけれども、(1)は「国民がより利用しやすい司法制度の実現」で、一般的な司法へのアクセスとか弁護士へのアクセスとか、いろんなものが書いてあって、(1)のすぐ下に、「民事裁判等の在り方」云々と書いてあるところを(2)として、いま、先生おっしゃるように民事の関係の改善項目を挙げて、(2)のところを(3)にして、刑事司法に関するものにして、(1)にかなりウェートを置くということはどうでしょうか。
【佐藤会長】そうすると、法律扶助、司法に関する情報提供などはむしろ上の方に上がってくることになりますね。なるほど。全体の共通の項目と民事と刑事と。うまくいくかどうか自信はありませんけれども、御趣旨はよく分かりますので、検討いたします。
【竹下会長代理】それから、行政に対する司法審査の点も、皆さん方がそれぞれの御意見の中でお使いになっておられるような表現を参考にさせていただいて、ちょっと考えさせていただきます。
【鳥居委員】先ほど髙木委員からお話のあったのは、多分、こういうことではないかと思うんですけれども、「知的財産権に関する訴訟」という例示と「専門的」という一般用語が出てきているんですけれども、報道関係者は例示だけ見てそこを強調しがちですので、一般用語の方をむしろ主体に書いていただく方がよろしいかと思います。
【髙木委員】要は、労働裁判所などは議論してくれるんですか、ということです。
【鳥居委員】専門的知見を要する事件への対応、括弧して、例えば知的財産とか何とかというのが例示されているなら分かるけれども。
【佐藤会長】なるほど。それを主にしましてね。
【中坊委員】前は要らないわけですね。知的財産権とだけ書くから、山本さんはそれでいいだろうけれども、髙木さんが聞かれたら、俺のところないじゃないかと。他が割に抽象的に書かれているのに、ここだけが突然知的財産権と出てくるから、他にもいろいろ出てくるとみんなが思ってしまうのではないか。だからそこは抜けばいいと思う。ただ、専門的知識だと言えば、その中には労働もありますよ、あれもありますよとこちらが説明すればいいんだから。
【井上委員】細かなことで申し訳ないのですけれども、この「国民の司法参加」という項の○の二つ目にある「既存の」という言葉は取った方がいいのではないでしょうか。国民の司法参加の形態としてはいろんな形があり得るかもしれない。陪審・参審以外にもいろんな形があり得る、その一つとして、既存のものを拡張することもあると、そういうふうにちょっと広くこの段階ではとらえておいた方がよろしいのではないかと思うのです。
【竹下会長代理】そうしますと、「その他」とかいうことになってしまいますね。
【井上委員】そうですね。ちょっと「その他」というのは付け足しみたいになってしまいますけれど。
【佐藤会長】むしろ論理的に言うと、一般的な司法参加制度があって、今度陪審・参審が個別的に出てくるという形になりますね。
【中坊委員】私はその場合の「既存の」という字があってもいいような感じもするんです。というのは、我々の議論が空中に浮いているような議論に思われがちで、正直言って、調停委員とか司法委員の方、私たちもよく知っていますね。そういう人々のことが書いてあったら、我々のやっている仕事が、検察審査会の委員の人も、ああ、取り上げてくれているんだなというのが分かるし、既存のあなたたちの制度をこれからどのように発展させていくかということを議論しますよという意味では、そういうのが入っていた方が、我々の議論が現実に根差していますよということを示すという意味では、私はむしろ既存という字があった方がいいような気もします。
【井上委員】原案ではちょっと限定し過ぎかなと思ったものですから。具体例の方は括弧の中で挙げられているので、「既存」という言葉は要らないかなと思ったのですが、中坊先生がおっしゃることもごもっともですので、別にこだわるつもりはありません。
【水原委員】私は整理していただきました論点項目等には全く異論ございません。一点だけ、こういう議論はどこに入るのかということを教えていただきたいんです。
今、特任検事というのがございます。要望書も各委員の先生方に配られましたが、その特任検事に弁護士資格を与えるという問題はどの辺りで議論されるんでしょうか。
【佐藤会長】これは法曹養成制度のところも関係してくるし、裁判所、検察庁の人的体制の充実の辺りでも関係することではないでしょうか。
【水原委員】分かりました。そういうことで御議論いただける余地がございましたならば、異論ございません。
【鳥居委員】最後にお願いがあるんですが、大学の立場から言いますと「大学法学教育の役割」と書いてありますけれども、もう既にどこの大学でも、純粋な法学部の先生が自分たちだけで、ここで言う新しい意味のロー・スクールもできると信じて動き始めています。ですから「法学教育・法曹教育」とか、要するに二つ違う言葉があるんだということを、そろそろ法学部の先生に理解していただく必要があると思います。今日の青山先生のレジュメを見ても、ちゃんと法学部とロー・スクールと別に考えておられますからね。
【佐藤会長】この辺は非常に悩ましいところです。ナラティブのところで、システムを書いておこうかなと思わないでもないのですが、しかし議論前に余り先走って書くのもいかがかとちょっと迷っているところがあるんですけれども、御指摘の点は承りました。
そして、おっしゃったように、大学の方は動き出していますから、我々としての基本的な考え方をできるだけ早く示す必要があるだろうと思っています。来年に入ってですね。
【吉岡委員】私もその大学というところで質問しようと思っていたんですけれども、ロー・スクールを考えているとすると、大学がない方がいいのかなと思いながら見ていたんです。「法学教育」と書いてもいいんじゃないかと思うのですが。
【佐藤会長】ロー・スクールと言っても、何を考えるかなんです。大前提に学部の段階で本当に古典的な教養を身に付けることをしっかりやる必要があるかもしれないんで、そういう教育も大きな法曹養成ということを考えたときに極めて重要なんです。単にロー・スクールだけ、専門的な機関をつくるというだけでは、問題がある。鳥居委員が前におっしゃったように、そういう専門教育というのはいびつになる可能性があると思っております。ですから、大学、学部教育というのはものすごく大事だと思います。そして、その土台の上にロー・スクールというようなことが考えられるのではないかと。吉岡さんの御質問の趣旨とは私の答えはずれているかもしれませんけれども、その辺の教育のシステムの基本に関わる事柄だと思っているんです、法学だけではなくて。
【髙木委員】大学という言葉は大学院をそもそも含んでいるんですか。
【鳥居委員】含みます。
【竹下会長代理】ここの趣旨は、大学院をも含めて、法曹養成に大学での教育がどういう役割を担うべきかという趣旨で挙げさせていただいているわけで、意味としては、鳥居先生がおっしゃるようなことも入っているつもりなのでございますが、表現の上でちょっと分かりにくいということですね。
【佐藤会長】工夫した方がいいですね。
【吉岡委員】もう一つ、瑣末なことで申し訳ありませんけれども、「人的インフラ」の「法曹人口と法曹養成制度」の中に「法曹人口の適正な増加」とありますね、その「適正な増加」というのは、増加にブレーキを掛けるような感じを受けるんですけれども。
【佐藤会長】教育あるいは研修のシステムと一体的に考えなければいけないという趣旨ですので、全然他意はありません。
【中坊委員】まさに「適正」なんですね。
【吉岡委員】一般的には「適正な」というと、抑え込むような感じが結構大きいものですから。
【佐藤会長】御指摘は十分承っておきますけれども、決して他意はありません。
【藤田委員】先ほどの大学のことなんですが、表現だけの問題ですけれども、ロー・スクール的なものも検討するんだという趣旨を入れるとすれば「大学院・学部における法学教育」というのはどうでしょうか。「役割」という言葉を入れるかどうかという点はありますが、今ロー・スクールが大分喧伝されておりますから、そういうものも含んでいるんだという趣旨を入れるとすればという意味です。
【竹下会長代理】その方が分かりがいいということでしたら、もちろんそれでも良いと思います。
【佐藤会長】そうですね。
【中坊委員】余り「大学院」とかいう言葉を入れてしまうとね。もう一つ基礎から直してもらうような議論も、会長のおっしゃるようにあるわけだから、限定してしまうと制限されるんじゃないかという気がしますけれども、今のところ、広いものはせまくなりますけれども、せまいのを広くというのはなかなかしにくいから、幅広く出発した方がいいのではないかと思うのですが。
【井上委員】発展の形によってはいろんな形があり得るのです。既存の制度の枠の中で考えると、大学の学部か大学院かという振り分けなのですけれども、アイデアとしては両者を一体化するということも考えられますし、既存の大学の枠を超えたものにするということも考え方としてはあり得ると思うものですから、そこのところは割とゆったりとした表現にしておいた方がまだいいかもしれません。ただ、おっしゃるように、これだけでは分かりにくいかもしれませんが。
【佐藤会長】さっき鳥居先生がおっしゃった「法学教育・法曹教育」という案はいかがですか。
【井上委員】「大学」というのも取ってでしょうか。
【佐藤会長】大学を残して、「大学法学教育・法曹教育」。いろいろ案が出ましたが。
【中坊委員】議論したら切りがないので、任せます。
【鳥居委員】私が会長をしている大学審議会は、今期で解散するのですが、1年半後くらいに、この審議会が終わる頃と前後して、この問題についてある種の結論を出すことになります。そのときは当審議会と平仄を合わせる必要が出てくるでしょう。
【佐藤会長】そういうことも視野に入れながら議論するということにしたいと思います。表現振りについては、その点についてと、北村委員はじめ諸委員が御指摘になった点を踏まえて、会長代理とも御相談しながら整理させていただきたいと思います。お任せいただけますでしょうか。
【井上委員】少し先走った質問ですが、この論点項目を最終的に発表するときに、審議の順序とかいうことまで踏み込んで発表なさるおつもりですか。
【佐藤会長】今の段階ではそこまでは考えていません。
【井上委員】すべての項目が並列的な位置付けで出されるということでしょうか、12月末の段階では。
【佐藤会長】論点項目としては1枚で出るんですけれども、さっき言ったナラティブのところで、これは決してこういう順番ではなくて、相互に緊密な関係を有するので、審議の仕方もそれにふさわしいものにするということを書こうかと思っています。
【井上委員】審議の順序といいますか、何を来年1月からやっていくかということは、いつ話し合われるつもりですか。
【佐藤会長】12月21日に論点が公表されますね。そして、いろんな反応があるだろうと思います。そして、1月に1回ないし2回、これからの審議の仕方も含めて御相談いただきたいと思っています。かねて小委員会方式みたいなことを申してきましたが、そういうことも含めて御相談したいと、私としては考えております。
まだ、いろいろ御指摘になりたい点がございましょうけれども、大体の御意見は伺ったような気もしますので、会長代理と相談して次回整理したものをまたお示ししたいと思っておりますが、そんなところでよろしゅうございましょうか。
(「はい」と声あり)
【佐藤会長】ありがとうございます。
【髙木委員】前回でしたか、今日の議論を踏まえて、月末くらいまでに意見か何か出すようにというお話がなかったですか。
【佐藤会長】それは特に考えていませんでしたけれども。今日の御議論を踏まえて、ナラティブの部分もできるだけ早目に書いて、次は12月8日になっておりますけれども、その前に皆さんのお手元に届くようにしておきたいと思います。12月8日にできるだけ実質的に御議論いただいて、予備日として12月14日を設定させていただいていますが、もし8日に済まなければ、14日も議論すると。そして、21日には発表しますので、そこでまた表現を変えるというような話になると厄介ですので、できれば21日はやや形式的と言いますか、最終的に確認するという日にしたいと思っています。ですから、御意見はもちろん、12月8日までにいろいろお出しいただいて結構です。会長試案として整理したものを基にしてお考えになって、この点はこうしたらいいじゃないかという御意見は是非賜って、それを基にして12月8日に御議論したいと考えております。
どうもありがとうこございました。
今申しましたけれども、8日、それから予備日として14日。14日は午前10時から正午。比較的多数の委員の御都合がよろしいようですので、そのように設定させていただいています。
それから、本日お配りしました会長試案、といってもレジュメですが、それと論点項目の2枚なんですけれども、この取り扱いについてでございます。審議会としての論点整理の公表は、年内の最後である今申しました12月21日となっております。けれども、当審議会の会議資料としては原則公開になります。今日御議論いただいたのも検討中の段階のもので、既に表現を変えるということになっているわけですけれども、特段の例外的扱いをするのもどうかと思いますので、今日のこれはこのまま添付資料として公表するという扱いでよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」と声あり)
【佐藤会長】そのような取扱いにさせていただきます。
(青山善充東京大学副学長、藤井教子社団法人全国消費生活相談員協会理事長、入室)
【佐藤会長】それでは、引き続き御審議をお願いしたいと思いますが、本日は東京大学の青山善充副学長に、大変お忙しい中ではございましたけれども、お越しいただきました。御経歴を簡単に御紹介しますと、先生は1939年にお生まれでございまして、東京大学法学部を卒業され、同大学法学部助手、助教授を経て、1977年から教授、1996年から2年間は法学部長、今年からは東京大学の副学長をお務めでございます。また、法制審議会などでもいろいろと御活躍中でございます。御専攻は、民事訴訟法でございます。
青山副学長からは「法学教育の現状とロー・スクールへの展望」というタイトルでお話をしていただきたいと思います。
大体30分程度お話しいただきまして、その後、30分程度質疑応答という段取りを考えておりますけれども、よろしくお願いいたします。
【青山副学長】御丁寧な紹介をいただきまして、どうもありがとうございました。
本日、司法制度改革審議会の皆様方の前で意見を申し述べますことを、私は大変光栄に感じております。このような機会を与えていただきましたことに対しまして、佐藤会長はじめ、委員の皆様方に厚く御礼申し上げたいと思います。
私の略歴は今御紹介いただきましたけれども、今日まで37年余り一貫して民事訴訟法、倒産法、裁判法などの分野の研究及び教育に従事してまいりました。東京大学を卒業して、そのまま助手、助教授、教授として今日に至っているという点では、分野こそ違え、ここにおられます井上正仁教授と同じ、もっとも井上教授は私よりずっと若く、かつずっと優秀でございますが、その点を除きますと、同じでございます。
本日はそのように長年大学の学部、あるいは大学院におきまして、法学教育、特に訴訟法教育に携ってきた教師としての立場から、「法学教育の現状とロー・スクールへの展望」と題しまして、お話しさせていただきたいと思います。
このテーマは司法制度改革審議会設置法2条の所掌事務との関係で申しますと、国民がより利用しやすい司法制度の実現ということに関係するかと思います。
以上がレジュメの「はじめに」というところでございますが、それでは「法曹の質・量の充実の必要性」というところにまいります。
私は学生などによく言うのでございますけれども、一国の司法制度、私の場合には民事訴訟法学者でございますから、特に民事司法ということになりますけれども、その司法制度の善し悪しを測るバロメーターは次の五つのアイテムだというふうに申しております。第一に、適正な裁判がなされるか否か。第二に、それが迅速に行われるか否か。第三に、費用が安いかどうか。第四に、裁判の結果が確実に実現されるか否か。これは民事で言いますと、強制執行が円滑に行われるかどうかという問題であります。第五が、そもそもそういう裁判へのアクセスが容易かどうか。以上の五点を私は学生に挙げております。
この五つの観点から見ますと、日本の裁判はどうなのかということを申しますと、私見でございますが、第一の裁判の適正さという点では、日本の裁判はかなり高い点数を付けていいのではないかと思います。
第二の迅速性、裁判が早いかどうかという点では、依然としてまだ国民の間に日本の裁判は遅いという不満がたくさんございます。しかし、昨年から新民事訴訟法が施行されまして、それなりの成果が上がりつつある。これを今後見守っていくべきではないかと思っております。
第三の裁判の費用の点でございますけれども、やはり裁判は高過ぎて利用ができないという声が多うございます。この点は今後法律扶助の拡充等の手当てが必要である。この審議会でもその方向でお考えいただけるのではないかと思っております。
第四の裁判の結果の実現という点でも、昭和54年の民事執行法、平成元年の民事保全法の制定によりまして、改善されてきたとは言うものの、まだ今日「執行妨害」という現実がございまして、これを根絶し得ないのが現状でございます。
以上、四つ申しましたけれども、最後に、しかし何と言っても一番問題なのは第五の裁判へのアクセスという点ではないかと。この点に関する限り、日本はどうも及第点を付けられない。落第点ではないだろうかと思います。何故かと申しますと、言うまでもなく、裁判所に持っていきたいと思っても、身近に弁護士が見当たらないというのが、特に地方などの現実であるわけでございます。日本は人口7,500人について弁護士が1人しかおりません。アメリカでは300人に1人、イギリスは670人に1人、ドイツは900人に1人、フランスは2,000人に1人、それに対しまして日本は、人口7,500人に1人の弁護士さんしかいないというのが現在でございます。
このように日本の法曹人口が少な過ぎる。これを増強しなければならないという議論は、既に1960年代から、主として今申しましたような国際比較の観点から指摘されてまいりました。
それから、1970年代に入りますと、これは隣人訴訟と言われるものがあったことは御存じだと思いますが、隣人訴訟にその典型例を見ますように、日本社会のあらゆる面で、つまり家族にも近隣社会にも学校にも職場にも、あるいは医師と患者の間にも、いわゆる法化と呼ばれる現象が進行し、紛争が顕在化し、その関係からも法曹人口の不足とその増強の必要が唱えられるようになったことは御存じのとおりであります。
さらに、1980年代後半から90年代にかけて、いわゆる規制緩和論というのが出てまいります。規制緩和論が出てまいりますと、これは二重の意味で法曹人口の少なさが問題とされるようになりました。
一つは、資格試験であります司法試験を、あたかも採用試験であるかのように運用していることに対しまして、これは法曹三者による新規参入規制ではないかという批判。もう一つは、日本社会が事前規制型社会から、今後事後規制型社会へ転換していくとすれば、当然のことながら増加する紛争に対処するには、司法の容量を増やさなければならないという主張でございます。
御存じのように、日本の法曹人口は、現在法曹全体で弁護士、裁判官、検察官、すべて含めまして、全体で約2万2,000人でございます。これが少な過ぎるということが言われているわけですが、それでは一体日本の法曹人口の適正な規模というのは幾らなのかと。この点は実は何名だという指摘が余りたくさんありません。しかし、国際比較ということでは、英米独仏の中ではフランスが一番法曹人口が少ない国でございます。フランスは日本と同様に中央集権的な国家でございますので、とりあえず日本もフランス並みの法曹人口が最低限必要ではないかということがあちらこちらで言われております。
それで計算いたしますと、フランスの法曹人口は現在約3万5,000人でありまして、国民総人口は、日本はフランスの2.16倍でございます。したがって、単純に3万5,000に2.16を掛けますと7万5,600という数字が出てまいります。簡単に申しますと、日本の法曹人口は仮にフランス程度に充実することがとりあえず必要だといたしますと、約7万5,000人ということになるわけでございます。中坊先生が『文藝春秋』の12月号でお書きになっております。論文では6万人という数が出ておりましたけれども、これは少し控え目な数字ではないかと私は受け取っております。
それでは、日本の法曹人口を仮に7万5,000人にするためには、毎年何人の法曹を、具体的には司法試験合格者をつくり出す必要があるかと言いますと、私は次のような前提で試算いたしまして、毎年3,000人の司法試験合格者を出さなければならないということを、かつての法曹養成制度等改革協議会以来、主張してまいりました。その試算というのは、こういうものです。ごく単純な計算ですけれども、仮に3,000人が平均29歳から法曹として仕事をし始めて、仮に平均65歳まで、実際にはそうではないでしょうけれども、仮に65歳まで36年間働いてリタイアするというふうにいたしますと、単純に計算いたしますと、それで36年目に10万8,000人になるはずですけれども、これは全員が65歳まで生存し、しかも途中でリタイアしなかったという前提ですから、途中でお亡くなりなる人や、あるいはリタイア率を引くということになります。これを非常に低く見積りして、3割というふうに見積りますと、ちょうど7万5,000人になる。現在の法曹人口2万2,000人は、36年先には全員リタイアしているというふうに考えられますので、それ以上は増えない。7万5,000人の規模でその後も推移するということになる。これがフランス並みの法曹人口だということになるわけです。
これは非常に架空の数字でございまして、実際にこうなるかどうか、もちろん分かりません。もっと厳密な人口統計等を駆使しなければできない。しかし、一応7万5,000人、そのためには毎年3,000人という数をラフにお出ししてみた次第でございます。
しかし、法曹は数だけ増えればよいというものではもちろんありません。問題はその質の維持、更にはその向上こそが必要でございます。ただ、数だけ増やせばよいというならば、今の司法試験制度をそのまま維持して、その合格者を1,000人にとどめないで、3,000人まで合格させるということも一案として考えられなくはないのでありますが、それでは法曹の質が維持されるどころか、反対に著しく質の低下を招くことになると私は考えます。何故なら、今の司法試験は約3万人の受験者に対しまして、合格者1,000人という超難関の国家試験でございますから、それに合格した受験生はさぞ優秀だろうと思われがちでございます。また、優秀な者がその中にいることも確かでございますけれども、実は司法試験が難し過ぎるがゆえに、本当に優秀な者は司法試験を避ける傾向があるということもまた事実でございます。
平均的な司法試験の受験生は、数多い法律の分野のうち、司法試験科目だけを試験対策的に勉強することに浮き身をやつし、法曹として本来備えることが必要な広い視野と深い教養、あるいは法の背後にある社会や人間に対する洞察力を身に付ける暇がないまま、司法試験を受けているというのが現状だというふうに私は認識しております。
したがって、法曹の質の向上という観点から申しますと、司法試験の抜本的な改革が必要だということになります。
そこで、次に「法学教育の現状」ということについて少しお話しさせていただきます。
大学の法学教育の目的は、最大公約数的に言えば、リーガル・マインドの涵養、くだいて申しますと、法律的な問題に対処する素養と能力を身に付けた健全な市民を育てること、こういうことを目的としてまいりました。東京大学などに対しましては、社会のエリートを養成することをはっきり目的にせよという声もありますけれども、私どもは社会のエリートを養成するというよりも、今申しましたことを目的としてまいりました。
それでは、司法試験の志望者に対してはどうかと言いますと、私どもは法曹の卵、つまり司法試験の合格者を生み出すことを法学教育の目的とはしてまいりませんでした。このことは学部におきましても、大学院においても同じでございます。東京大学に限らず、これは全国の大学の法学部、あるいは法学系大学院、すべて同じだと言いますか、一部例外もありますけれども、おしなべて大体同じだと思っております。
日本には現在、国公私立を含めまして、全国で93の法学部がありまして、その入学定員、つまり1学年の学生定員は約4万2,000名、実際にはもうちょっと膨れ上がっていると思いますが、4万2,000名でございます。
他方、司法試験の合格者はついこの間まで年間500名、今年からやっと1,000人になったわけですから、これは42分の1だということになります。したがって、どんな大学も司法試験の合格者が比較的多い大学も含めて、全体の中で極めて少数の司法試験希望者のために、それに特化した教育を行うことは、これまでは大変困難でございました。
しかし、そのために大学法学部の教育と司法試験とが乖離してしまったことは否定できません。近年、司法試験の希望者は大学の講義に出る傍ら、または講義にさえ出ないで、司法試験の予備校に通うという、いわゆるダブル・スクールという現象が一般化してきております。しかも、深刻なのは、大学に入ってすぐ、まだ1年生の段階で専門学部の講義も全然始まっていない段階から既に予備校通いを始めている。こういう現象でございます。これでは広い視野も、深い教養も身に付くはずはありません。こういう現象が始まりました十数年前、法学部の教師たちはこうした学生のダブル・スクール、ないし教室離れをどうしたら是正できるかということについていろいろ工夫をし、努力もしたのでございますけれども、しょせん、学生の塾通いを食い止めることはできませんでした。学生の塾通いは、実は小学校から始まって、それがだんだんと大学まで上がってきただけでありまして、学生にとっては極めて自然の行動であったわけであります。
また、ゼミなどに出て、教師や仲間の学生と人間的な接触を深めながら、特定の科目、またはテーマについて、徹底的に深く勉強するよりも、限られた試験科目数科目についてだけ、しかも、試験に出る範囲だけを浅く勉強する方が効率的であるという神話がいつの間にかできあがってしまったからでございます。
そこで、法学教育の現状ということの一端をお話ししますと、最近、一般的な傾向として、法学教育を受ける学生の学習意欲の低下ということが極めて深刻な問題になっております。そのために十分な学習成果が上がっていないという事実がございます。大教室での一方的な授業がこれに輪を掛ける傾向にあります。学生の講義への出席率は、10数年前に比べてかなり下がってきていると思われます。しかし、司法試験を受けない学生の中には、さまざまな科目について比較的熱心に講義に出ている学生もおりますし、また、司法試験希望者も試験科目に限っては大変熱心に教室に出てくる者もあります。
さらに、司法試験に合格した後、最後の学期、冬学期の最後に教室に出てきて試験科目以外のいろいろな科目を熱心に聴講するという姿も目立ちます。
法学教育の中でテーマを絞った少人数講義、あるいはゼミは極めて有効でございます。こうした講義やゼミの参加者と非参加者とでは明らかに法学教育の効果が異なります。問題は、平均的な司法試験希望者は、こうした少人数講義だとか、ゼミを取りたがらないという事実でございます。
しかし、今、全国で法学教育をも含めて大学教育の改革が進んでおります。例えば双方向的な授業方法とか、あるいは学生の理解度を確認しながら段階的に学力を向上させていく教育方法等々、さまざまな取り組みが行われております。私といたしましては、こうした改革が進めば、全体として見る限り、学部段階の法学教育の必要性と将来性にそれほど悲観的になる必要はないと、基本的に考えております。
しかし、こと法曹志望者や司法試験希望者の学生に対しては、日本の大学の法学教育はほとんどこれまで何ら特別のサービスをしてこなかったということも事実でございます。果たして、それでよいのかと言われますと、法曹養成制度と大学教育との関係についてもう一度原点に立ち返って真剣に検討すべき時期にまさに差し掛かっているというのが現場の教師の偽らざる心境でございます。
特に法曹人口増大のために毎年相当数の法曹の卵を養成していくべきだ、司法試験の合格者を相当数出していくべきだといたしますと、大学の法学教育はその志望者たちを正面から見据えて、これに法曹にふさわしい教育を施す責務があるように思うわけでございます。
「ロー・スクールへの展望」というところに入りますが、今申しましたように、一方で日本の司法試験制度が行き詰まっており、法曹の質の向上という点からその抜本的な改革が必要であり、他方で日本の法学教育が法曹養成のための教育を行うべきだということになりますならば、両者の一致するところ、ロー・スクール構想というのが浮上してくるのは自然な勢いでございます。昨年10月に「21世紀の大学像と今後の改革方策について」という大学審議会の答申が出ましたが、その中でもロー・スクール構想にメンションしながら、高度専門職業人養成に特化した実践教育を行う大学院の設置の促進ということが一項目謳われております。
そういうものを受けまして、最近さまざまなロー・スクール構想が発表されてまいりました。柳田幸男弁護士の柳田案、それから京都大学の田中成明教授の田中案、更には東京大学ワーキンググループ案というようなものがその代表的なものと思われます。これにつきましては、『ジュリスト1,168号』(12月1日号)の「法曹養成と法学教育」という特集の冒頭に、私がその柳田案と田中案を比較した部分がございます。それから東京大学ワーキンググループの案もここに出ております。いずれも大学院を利用してロー・スクールをつくろうというものでございます。
簡単に申しますと、柳田案と申しますのは、アメリカのロー・スクールと同じものをそっくりそのまま日本に導入して、3年間の大学院のロー・スクールをつくろうというものでございます。それでは現在ある法学部はどうするかというと、それは廃止してそこでは法学教育はしない、教養学部に衣替えしようというものでございます。
田中成明案は、柳田案に対して、日本型ロー・スクールと呼ばれていますが、学部の第4年目と大学院2年を直結いたしまして、あわせて3年間で、法曹養成のためのロー・スクールとして高度の理論教育・研究をしようというもので、これは学部教育の4年目プラス大学院2年というものを直結したというところが特色でございます。
これに対しまして、東大のワーキンググループ案というのは、元々別の組織である大学院と学部をそういう形で直結することができるのかなということから疑問を発しまして、大学院は2年、学部は今までどおりにいたしまして、法学部なら法学部の2年の中に、仮に法曹コースというものを学部段階に設けまして、その卒業者がロー・スクールへの入学資格を持つということにしよう、そうすると、学部2年プラス大学院2年、それは別々に切り離されておりますけれども、そこで法曹教育をやろうというものでございます。三つの案の違いはそういうことであると御理解いただいて結構だと思います。
詳細についてはここに『ジュリスト1,168号』(12月1日号)がございますので、私はこれ以上は申しませんけれども、一体、これからロー・スクールというものを構想していく場合に、どういう制度設計が必要なのかということについて、その『ジュリスト1,168号』(12月1日号)の20ページから五つの基本的な視点を掲げてございます。このワーキンググループには、私自身は加わっておりません。したがって、これは一番最後に名前が書いてある方々がオリジナリティーを持っているわけですけれども、私は議論を聞いておりまして、これに全く賛成でございますので、そういうものとしてお聞きいただきたいと思います。『ジュリスト1,168号』(12月1日号)の20ページにございますように、まず第一に、ロー・スクールというものをつくる以上は、そのロー・スクール課程修了者が法曹の中核をなすような制度にしなければ、基本的には意味がなくなるということでございます。
それでは、今の司法試験をどうするかということが問題になりますが、少なくとも中期的には現在の司法試験制度による合格者枠というのは、ある程度の規模で維持する。そういう2本立て、将来はこれを縮小していくということが考えられますが、そういうものとしてロー・スクールを構想すべきではないだろうかと思います。
二番目は、司法研修所との関係でございますけれども、ロー・スクールを法学理論教育とし、これを実務技術訓練と切り離して、実務技術訓練の方は研修所に任せる。研修所は今、実務技術訓練だけじゃなくて、必要な法学理論教育もしておりますけれども、法学理論教育の方は、大学で引き受けられる。例えば要件事実教育というものを考えますと、要件事実の基礎理論というのは大学で十分教えることができるというように私どもは思っております。
三番目に、司法試験合格者枠の拡大ということで、これは言うまでもないことでございます。ここでは具体的な数字は挙げておりません。人によっては4,000という数字が出てきたり、2,000という数字が出てきたりしておりますが、私は先ほど3,000という数字を仮に挙げさせていただいたわけでございます。
四番目、ロー・スクール課程の修了者に対してどういう司法試験内容を課すかということでございますけれども、これは現在の司法試験とは違いまして、ロー・スクールで2年間みっちり勉強した。その成果を段階的に確認していくということによって、法曹として、将来この人が一人前になれるかどうかということを試すような司法試験にすべきではないかというふうに思っております。その具体的内容は十分ここに明らかにされておりませんけれども、そういうことを考えております。
第五番目は、教育の基準の問題がございます。ロー・スクールがたくさんできたとして、各ロー・スクールがそれぞれてんでんばらばらでは困るわけです。今、大学院設置基準ですと、法学教育の場合、非常に抽象的な単位取得の要件しか書いておりませんが、これをかなり詳しく決めなければ均一的で質の高い法曹はできないのではないか。そこでカリキュラム等につきましても、あるいは教育方法につきましても、標準的なメニューをつくっていく必要があるのではないかということを考えているわけでございます。
司法制度改革についての各委員の論点を事前にいただきまして、拝見いたしました。ほとんどすべての方が法曹養成、場合によってはロー・スクールのことにお触れになっておられまして、この点は非常に関心が高いということを拝見いたしました。特に中坊先生が非常に詳しくロー・スクールのカリキュラム等について注文を付けられておりますのは、私は大変感銘深く拝見いたしました。
また、竹下先生がこの法曹養成制度の中で、ロー・スクールの議論は問題が提起されてから、非常に短期間で進んでいる。全国の法学関係者にも十分な了解ができていない。そして、論点としてこれこれがあるという御指摘をいただいたのも全くそのとおりだと思いました。
本来なら、今日ここへ来てお話しする以上、そういう問題提起に対しまして、私なりにこういうことを考えているということをお話しすべきだということを当初から考えておりましたが、問題は大変難しい。それから、今東京大学では先のワーキンググループに続きまして、次にカリキュラムについて検討するワーキンググループを立ち上げまして、それが既に検討に入っております。
そこで、今ここで私が自分の私案みたいなことをお話するのは、ちょっと時期が早いのではないかとも思いまして、宿題と感じながら、今日はお話しできませんことをおわびいたしまして、いずれそのワーキンググループの試案がそう遠くない時期に発表されるということでお許しいただきたいと思っております。
大体時間がまいりましたので、最後に「おわりに」のところを申しますと、司法制度改革審議会の委員の皆様におかれましては、他にたくさんの審議事項がおありかと思いますけれども、法曹養成制度の改革は21世紀の日本社会の司法の在り方にとって最も重要な課題であるというふうに私は考えております。なかんずく法曹の質と量の拡充、向上という観点から見ますと、日本におけるロー・スクール構想に対する前向きの御理解と、それから願わくば法曹三者と大学関係者とが相協力してその実現を図るべきであるということについて力強い御提言を最終報告の中に盛り込んでいただければ大変有り難いというのが私の希望でございます。
この希望を述べさせていただきまして、私の意見陳述を終わりにしたいと思います。
以上でございます。
【佐藤会長】どうもありがとうございました。
お話しいただきました論題は、私のやや個人的な思いもあるかもしれませんが、今度の司法改革のベーシック中のベーシックな課題だと思っております。それだけに大変貴重なお話で、教えられるところが多々ございました。せっかくの機会でございますので、どの点からでもよろしゅうございますので、御質問いただければと思います。
【鳥居委員】どうもありがとうございました。今日先生のお話に出てこなかったことについてお尋ねしたいんですが、例えばハーバード・ロー・スクールのようなところは、どういうカリキュラムの特徴を持っているか、何か御紹介いただけますでしょうか。
【青山副学長】これは多分、井上先生の方がお詳しいので、井上先生に。
【井上委員】その点につきましては、この問題が審議項目になったならば、そのときにまた詳しく検討する機会があると思いますが、ハーバードに限らずたくさんのロー・スクールがありまして、基本的には、1年目が基礎科目、2~3年目が選択科目やアドバンスの授業や演習ということではほぼ共通していますが、それぞれ特色があるのです。一般的に言うと、ハーバードとかイェールとかいうエリート校はどちらかというと理論教育に力を入れているようでして、それ以外のロー・スクールは、主に州法を中心にした実務教育に力を入れている。ただ、一流校の中でも、例えば少数精鋭のかなり特色のある教育をやっていたり、あるいは、うちは知的財産権に強いんだとか、アジア法に強いんだというふうに、特定の分野に力を入れて優秀な教授陣を集め、学生を引き付ける。学生にとっては、卒業しますとそういう専門の分野に優先的に進めますので、魅力がある。そういう意味では、かなり意識してそれぞれの特色を出す努力をしているところがあります。
ただ、我が国でやや誤解されているように、実務的あるいは実技的なものを中心にやっているのではなく、我が国の法学部よりはもちろん実際志向が強いですが、やはり法理論の教育が中心で、それにプラスして実技的なことも少しやる。そういう比重の置き方になっていると言えます。
【鳥居委員】設置基準の方から見ますと、今度の場合、専門大学院に格付けられる可能性がありますので、柳田案は別として、田中案、あるいは東京大学ワーキンググループの案も、一応2年制、文部省が決めた専門大学院を前提にしていますね。あの2年制の専門大学院の所定の単位というのは極めて少ないもので、それでハーバードについてお尋ねしたんですけれども、ハーバードの人たちというのは、本当に一晩に腰の高さくらい本を与えられて読みますね。ああいう厳しい勉強をしなくても平気でいられるようなカリキュラム体系が今の日本の大学院のカリキュラムですね。その辺のところを実際にロー・スクールをつくったときに、どうやっていくのかというイメージですね。それがちょっと心配なものですから、今のようなことをお尋ねしたんです。
【青山副学長】それについて私のイメージは、ハーバードまで行くかどうかはともかくとして、単に講義を受けて、それについてノートを取って帰ってくるというんじゃなくて、双方向的なディスカッションを中心とする授業が主流になるだろうと思うんです。そういたしますと、1時間の授業に出るために、そのための準備を4時間とか5時間かけてやらなければ、ディスカッションにさえ参加できないということになる。そういうのが1日に2つとか3つとかあって、そうすると、学生は死に物狂いになって勉強しなければ、やはりついていけないんじゃないだろうかというイメージを私は考えています。
【山本委員】私などが大学にいたころは、私は余り勉強しなかったんですけれども、結構勉強のできる人が司法試験を受けていた記憶があるんです。それが先生おっしゃったように、どうして法学部教育がサービスを提供できなくなったかということがよくわからないんですが、先生さっきおっしゃった例の中に、塾通いに慣れ親しんでいるというお話がありました。例えば大学の入学試験でも、大分前から文系と理系というのを高一くらいで分けて、理系に行く人は数学と英語と理科を何か1つやればいい。文系は国語と英語と社会科を1つやればいい。そういうふうな試験のためだけの極めて手っ取り早い教育というのがずっとやられてきたんじゃないかという感じがするんです。
そういう意味で今度のロー・スクールの問題も、これは非常に逆説的な言い方なんですけれども、司法試験のために、法曹養成のために、大学の法学部教育をやめてロー・スクールをつくると、まさしく同じような手法になってしまうんじゃないかという感じがするんですけれども、単に法曹のテクニックだけを教えるような教育に更に一歩進む恐れはないのかという感じがするんてす。
何が言いたいかというと、もう少し教育全般を幅広いものにする中で、その延長線上の一つに、法曹の資格取得というのがあるというふうにもっていくやり方がどこかで考えられなければいけないんじゃないか。要するに、法学部教育がサービスを提供しないから、ロー・スクールをつくりますということだけで果たしていいのかなという疑問を持つんですけれども、その辺いかがでしょうか。
【青山副学長】ただ、今の問題提起にすべてお答えすることになるかどうか分かりませんけれども、問題意識は私も感じております。例えば塾があれだけ繁盛するということの一つは、司法試験科目というのが6科目なら6科目というふうに限定されている。だから、それだったら塾は十分やっていけて、金銭的にもペイできる。ところが、司法試験科目がずっと広くなるということになると、塾では多分そういうことはできなくなるというふうに思うんです。
それから、ロー・スクールというものをつくれば、まさに山本委員がおっしゃったカリキュラム、内容をどうするかが問題になってくると思いますけれども、それはロー・スクールでなければ体得できないような教育方法、教育内容のカリキュラムを組むということになると思うんです。将来法曹になる人間を対象として、その人たちに法曹倫理をはじめとする広い教養、深い人間や社会に対する洞察力、あるいは弱者に対する思いやりというものを全部含めた、法曹としてあるべき人間像というものを、東大ワーキンググループ案では、法学部の法曹コース2年とプラス大学院の2年、あわせて4年間かけてじっくり、肌と肌を接しながら学生に修得してもらう。そういう教育をしたいというのが我々の考えているロー・スクール案でございます。
【藤田委員】東大のワーキンググループの案を拝見しますと、学部後期では基礎的な法学教育を前提とする、それから、大学院修士過程、ロー・スクールでは、内容及び方法により高度な法学教育を増加する、実務教育は司法研修所に任すという構想になっておりますけれども、そこら辺の振り分けと言いますか、カリキュラムを、今検討していらっしゃるということですから、今の段階で立ち入るのもどうかとは思いますけれども、司法研修所の実務教育と申しましても、前期でも実務でも、民事に関しましては、要件事実教育がかなりウェートが高いんですね。「修習生の頭をたたきゃ、要件事実という音がする」というざれ歌があるんですが、そういうようなこともロー・スクールの中に含まれるのか。
それから、大学審議会の答申によりますと、高度専門職業人の養成ということに特化するということで、実務家もある程度教授陣に入れるという構想があるようですが、司法研修所での実務教育との連携という点に関連して、そこら辺は、ワーキンググループはどういうふうなお考えなんでしょうか。
【青山副学長】聞かれたくない点を聞かれてしまったんですけれども、今の藤田先生の御質問なんですけれども、ロー・スクールは大学でございますから、高度な理論教育をするということだと思うんです。司法研修所は実務のトレーニングをする、訓練をするというふうに大きくふるい分けたいというふうに思っております。
例えば大学で最先端の問題、例えば知的財産権がそれに当たるかどうか、もう既に分かりませんけれども、消費者保護法とか、国際金融の問題だとか、そういうようなものは、大学教育、ロー・スクールとしてきちんと教えるべきではないだろうかと思っております。そうは言っても、その教え方は、何も一方的な講義というのではなくて、具体的な材料を毎年毎年集めまして、その具体的なケースに従って学生が問題を発見し、考え、結論を出す。それについて相互に批判をし合うという教育を大学でやりたいと思っています。
それから、要件事実教育は大変難しいんですが、私は要件事実というのは非常に大事な物差しだと思っておりまして、最後にパズルみたいになるところはともかくとしまして、この基礎的な考え方は、私は物差しとして非常に大事なものだと思っております。それは大学の法学教育でも十分そういう基礎的な教育はできる。しかし、具体的な適用になりまして、たくさんのケースが出てきた場合のことについてまで、今の司法研修所のようにはとてもいかないだろうと思っておりますので、そこはちょっと切り離して考えざるを得ないんじゃないかと思います。
私自身は、司法研修所の教育というものが今まで果たしてきた役割というものを、非常に高く評価している次第でございます。
【藤田委員】もう一つよろしいでしょうか。ロー・スクールを構想しますと、学部を卒業して2年、それから司法研修所を入れて3年の教育期間がかかるわけですが、先ほど優秀な人材が司法試験を受けるのを避ける傾向があるということがありましたが、そういう時間的な負担が優秀な人材を集めようとするのに影響しないかどうかということがちょっと気になるんですが、その点はいかがでしょうか。
【青山副学長】その点は、ロー・スクールにはアメリカなどもそうですけれども、一旦社会に出た人が入ってきたり何かしますから、奨学金とかいう手当てはどうしても必要になると私は思っております。
【竹下会長代理】二点ばかり伺いたいのです。
一つは、このロー・スクール構想の場合に、従来の司法試験は試験の時だけの成績で法曹の道に進めるかどうかを決めてしまうのに対して、ロー・スクール構想はプロセスで評価をするのだと言われていますね。そういう考え方自体は非常に結構だと私も思うのですけれども、それは具体的にはどういう形で制度化するのか。プロセスで評価をするというのは、具体的にはどういうことをやるのかというのが一点。
もう一つは、非常に技術的な問題なのですけれども、私は法曹養成問題を考える場合に重要だと思うのは、現在、何でダブル・スクールと言われるような予備校通いということになってきたかというと、これは結局、司法試験の合格率が非常に低くて、そういう意味で難しくなってきたことによるのですね。昔はそんなことはなかったわけです。普通の大学で講義を聞いていても合格したわけです。それが2%とか、場合によるとそれ以下ということになってきたので、一方では、さっき山本委員御指摘のように、今の若い世代というのは、小学校のころから勉強の仕方として塾通いに慣れているので、それが司法試験にまで来たということだと思います。では司法試験の合格率が低くなり、何故そんなに難しくなったかというと、これは極めて簡単で、分子の方はどうやったって一定の限界がある、数は限られているのに、分母を規制する方法を取らなかったから、どんどん受験者が増えていって、合格率がどんどん下がったわけです。合格者の方は、研修所の容量を増やしたって、一定の限界があることは決まっているわけです。
今度の場合も、何かそこを考えておかないと、結局、本当の純粋な資格試験にして、一定のレベル以上は全部合格にするというのでない限り、やはり不合格者が出てきて、それがたまっていけば、どんどん合格率は下がってくるということにならざるを得ないと思うのです。ですから、この問題に対する対策を考えておく必要があると思うのですけれども、その点はどうお考えですか。
【青山副学長】第二点目について、ちょっと質問がありますけれども、まず第一点目について、私が考えているところをお答えさせていただきます。
司法試験は一発勝負の試験で、これはよくないと言われています。今度のロー・スクールはプロセスによって評価して、最終的な学力があるということになれば、司法試験を受けて80%なり75%なり合格するということにすべきだと普通に言われているんですが、プロセスによって評価するというのは、2年なり3年なりの学校制度でございますから、その枠の中で学期ごとに評価をしていく。レポートなり学期試験なりを評価をしていく。それを最終試験のところに加味するということが具体的な考え方として一つあり得るんじゃないだろうかと私自身は考えているんです。
【竹下会長代理】最終試験というのは、ロー・スクールの卒業試験ですか。
【青山副学長】卒業試験と言いますか、私はロー・スクールの最終段階に、卒業してからか、する前かは別として、司法試験というのは受けるという前提ですけれども、その司法試験を受ける前提として、従来のそれぞれの達成度というものが加味されるような司法試験というものを考えるべきではないだろうかと、それは一つのアイデアでございまして、東大ワーキンググループがそういうふうになっているということではございません。
それから、第二点で言われたことは、ちょっと私わからない点でございまして、そういうふうに分母が増えていくというのは、今度のロー・スクールの司法試験のことですか。
【竹下会長代理】ロー・スクールでも同じではないかと思うのです。3,000人ロー・スクールの卒業生がいて、そのうち80%を合格にすると言っても、2,400人ですね。その翌年になれば、次の年の3,000人に前の年の積み残し600人が加わってくるわけですね。そういう具合にどんどん増えていくわけです。もちろん、途中であきらめて受けなくなる者もいると思いますけれども、ロー・スクールまで出たのですから、大部分は翌年も受けることになるでしょう。だから、初年度は80%かもしれないけれども、次の年からは80%というわけにはいかなくなるのですね、分子が変わらない限りは。
【青山副学長】その点は十分まだ議論されていないと思います。
【竹下会長代理】今までロースクール構想と言って出しておられるのを拝見していると、何かその点についての配慮がみんなないですね。だけど、やはりそこをちゃんと押さえておかないと、程度は違うかもしれないけれども、似たような現象に最後はなるのではないかという気がしています。
【青山副学長】これは宿題として考えさせていただくということでよろしゅうございましょうか。
【吉岡委員】ちょっと分からないのが、ロー・スクールと司法試験の関係と、それから学部と司法試験の関係といいますか、ロー・スクールを卒業して司法試験を受けるという方と、学部からストレートに受けるという方と両方出てきてしまうという形になるのか、それとも、ロー・スクールを出なければ司法試験は受けられないというふうにするのか。もしそうだとすると、ロー・スクールをどういう形で位置付けていくのか、数なども含めて考えていくのか、その辺を余り絞り込んで日本で幾つという決め方をしますと、ロー・スクールのある学校とない学校でかなり格差が出てしまう、その辺のところはどんなふうに考えたらよろしいんでしょうか。
【青山副学長】先ほど『ジュリスト1,168号』(12月1日号)の20ページの最初のところで、私もうちょっと丁寧に御説明すべきだったんですが、ロー・スクールの修了者が法曹の中核をなすというふうに申しましたのは、原則としてロー・スクールを修了しなければ司法試験の受験資格がないというふうに最終段階にそこまで行けるかどうか分かりませんけれども、それが理想だということでございます。
ただ、もちろん、現在の司法試験制度がありますから、ここの二段目に書いてありますように、中期的には、現在の司法試験、法学部を出ようと出まいと受けられる制度を存置せざるを得ない。そういう意味では、二本立てで当分は行くというふうに考えております。
それからもう一つ、ロー・スクールの数の問題をおっしゃいましたが、これは本当にそのとおりの問題だと思います。しかし、例えば、司法試験の合格者を仮に3,000人出すということを考えますと、そうすると毎年3,000人、そして、仮に従来型の司法試験はその1割なら1割で300人、そうしますと、ロー・スクールの修了者から2,700人ぐらいの合格者を出すとしますと、ロー・スクールを修了した人間が全部そのまま通るわけではないですから、例えば、7割とか8割ということになりますと、3,500とか3,600というのが全体のロー・スクールの1学年の入学定員ということになるのではないだろうかと。
そして、竹下先生のおっしゃったように、1年目に受からなかった者はどうなるかという問題はまた別にありますけれども、とにかく初年度を考えますと、そんなことになる。しかし、それを3千数百人の入学定員をどういうふうに配分していくかというのは、これは国・戟E私立大学、地方と大都市の間で、これは本当にじっくり腹を割って話し合わないとできないと思うんです。これは私立大学の経営にも関係しますので。しかし、結論から言いますと、法曹三者と大学関係者で腹を割って話し合って、そういうことの協議が仮に整わないようであれば、日本の法学教育や司法の将来はない、そのぐらい腹をくくってこの問題を議論せざるを得ない問題ではないだろうかと思います。しかし、初めからその問題に入りますと、デッド・ロックに乗り上げる可能性がありますので、そうではなくて、やはりこれから詰めていくべきことは、どういう内容のロー・スクールをつくるのがいいのか悪いのか、そちらの方からいって、数の問題は最後の最後でいいのではないかというふうに私は考えております。
【水原委員】二点お尋ねしたいんですけれども、一点は、先ほど山本委員からもお尋ねがございましたけれども、ダブル・スクールの問題ですね。青山先生もおっしゃるように、幼稚園のときから、幼稚園に入る、小学校に入る、中学、高校に入るのに全部塾で受験技術的なことをずっと指導いたします。その過程において、人によっては人格の研鑽もやってきたでしょうし、現に哲学も勉強をした者もおりましょうけれども、ほとんどが受験技術に非常に特化された勉強をしてくる。そういう学生に、法学部に来た2年間で、まさに法曹に携わる人づくり教育の基本ができるのだろうか、あるいは後の学部2年とそれから専門大学院のここで、思いやりがあり、それから痛みも分かり、自らの信念と謙虚に自らを反省するようなことができる人格教育ができるのだろうか。どうも伺っておりますと、非常に結構なお話ではございますが、そこに非常に疑問を感じます。
したがって、前からの一貫した教育体系そのものにいろいろ手を入れないと、大学に入ったからすぐできるような問題ではないのではなかろうかというのに一つ疑問を感じます。それから、今の司法試験制度も非常に問題がございます。大変問題がございます。私は、予備校、塾などというのはとんでもない話と思っておりますけれども、今の制度では、お金を持っていなくても、司法試験受験を目指す者にとっては、大学に行かなくても働きながら、一次試験から司法試験を受けて合格する道が開かれております。先生の今の御説明、ロー・スクールの構想で行きますと、ゆくゆくはロー・スクールを卒業した者でないと、しかも非常に狭い門のロー・スクールに入った者でないと、法曹資格試験を受けられないということになりますと、門戸が非常に閉ざされてしまう。働く者にとってこれでいいのかなという疑問が、不勉強な質問でございますが、感じましたのでよろしくお願います。
【青山副学長】大変貴重な御質問ありがとうございました。
第一点の大学に入った段階で急にそういう人格教育ができるはずがないとおっしゃるのは、おっしゃるとおり、大変難しい問題だと思います。小渕総理は、今度の通常国会で教育改革国民会議のようなものを作るというふうに言っておられますのは、その内容はどうも教育基本法に手を付けるとかそういうことのようでございますけれども、氏A率直に言いまして、ここには鳥居先生や大学のそういうことに関係しておられる方の前でそういうことを言うとおこがましいのですが、私は、文部省のゆとりのある教育というのが、やはり少し行き詰まってきている。あれが間違っていたのではないか、それが20年経って出てきたという面があると思うんです。だから、教育基本法に手を付けるよりも、勉強するときはやはり勉強をきちっとして、遊ぶときは思い切り遊ぶという、そのけじめをもう少し付けた勉強をやはり下からしてきてもらいたいというふうに思っているんです。
しかし、そうは言っても法学部に入って、今までそういうことでなかったのにやらなくちゃいけないというのは大変難しいんですけれども、やってやれないことはないと私は思っております。ゼミなどに参加した学生に接していますと、やはり初めの2、3回は、こいつ何という学生だろうと思っていたのが、回数を重ねていって報告させて、ディスカッションして他人から徹底的に鼻っ柱を叩かれると、実に良くなるのです。自分でも、世の中にはえらいやつがいるというのがわかってきますと、少しショック療法みたいなもので良くなるということがあります。大学に入ってからではすべてだめだということになりますと、私も大学教授として存在価値がなくなってしまいますので、是非そこは、大学教育にも人格教育としての存在価値があるんだと私は思いたいと存じます。
それから第二点は、働く者についてもというのはおっしゃるとおりだと思いますが、私は法曹というのは、ある意味では医者と同じ面があると思うので、御存じのように、医者になるには医学部を出なければ医者になれないというふうになっていますね。それはある程度そういう必要があると思うんです。だから、司法試験も将来はロー・スクールに一本化すべきだと思っておりますが、過渡的な段階はそうもいかないだろうと思います。同時に、さっきの水原先生の御質問にありましたように、やはり金持ちだけが法曹になっていたのでは日本の社会というのはとんでもないことになります。だから、あらゆる階層の者が司法界に進出するということこそが、健全な司法、健全な民主主義社会をつくることだと思うんです。だから、そういう志のある人がロー・スクールに入ってきたら、ちゃんとその人を一人前の法曹に育てるように、人的にも援助する、財政的にもちゃんと奨学金を出してバックアップするという体制こそが必要ではないかと、お答えになっているかどうか分かりませんけれども、私はそういうふうに感じております。
【佐藤会長】今の問題ですが、6回、7回受けないと通らない試験というのは、ある意味では結構余力がないと必ずしも受け切れないんですね。そういう問題もあるような気がしますね。
まだお聞きになりたいところはございませんでしょうか。
【井上委員】私は東大に属していますけれど、中坊先生ではありませんが、東大の利益を代表しているわけではありませんので、質問させていただきますと、法学部の後期の法学の専門教育を受けた人がロー・スクールに入ってくるというふうにおっしゃいましたが、それだと一層エリート教育になるのではないか。それよりは、もっと多様ないろいろな分野で学んだ人が法曹に進んでほしい。そういう声も強いと思うのですが、そういった点については、ロー・スクール構想の中で何か配慮されているんでしょうか。
【青山副学長】その点は非常に考えなくちゃいけない点なんですが、今、東大ワーキンググループ案というのは、学士入学の制度というのをもっと緩やかに使いまして、いろいろ文化的にあるいは学問的に異なるバックグラウンドを持った人も、法曹として将来活躍してもらいたい、ということを前提としています。しかし、いきなり大学院のロー・スクールに入ってついていけるかどうかというとかなり難しいのではないか。では、その人たちに1年延ばして3年の特別の課程を設けるかというのもコスト・パフォーマンスの関係でかなり難しいのではないか。そうなると、やはり学部段階にその人たちを学士入学という形で取り込んで、3年生の段階で取り込むか4年生の段階で取り込むか、ちょっとそれはこれから詰めが必要ですけれども、一応そこに取り込んだ上で、大学院に入るということを今考えているということです。まだ、ここのところはフレキシブルに考えなければいけないことかもしれません。
【佐藤会長】今の点、大学院を2年のコースにするのか3年のコースとして考えるのか、先ほど来の御質問にも関連してくるし、学部をどう位置付けるかということにもなってくるわけですけれども、むしろ問題は、そういう大学というものをベースにして司法改革を考えるかどうかであり、そこが一番の出発点だと思うんですね。その点については、青山先生のレジュメを拝見し、お話を伺って、まず審議会で腹を決めてくれというような感じで理解しておりますけれども、私どももこれから今日のお話も参考にしながら、来年に入ったら、集中的にインテンシブに議論して、方向を出したいというふうに思っております。
【青山副学長】大学関係者が一番感激したことは、佐藤会長が、やり始めた以上は最後までやり抜かなくちゃいけないということを第1回目の審議会で言われたことで、これはやはり是非そうしていただきたいと思っております。それから、委員の皆様方には、本当に大変なお仕事だと思いますけれども、是非よろしくお願いしたいというふうに思っている次第でございます。
【佐藤会長】今日は本当に参考になるお話、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。
【青山副学長】こちらこそどうもいろいろありがとうございました。
【佐藤会長】それでは10分休憩して、3時15分に再開したいと思います。
(休憩)
(青山副学長退室)
【佐藤会長】それでは、時間がまいりましたので審議を再開させていただきたいと思います。
本日は、社団法人全国消費生活相談員協会の藤井教子理事長にお忙しい中をお越しいただきました。
簡単に御紹介しますと、藤井さんは、大阪市にお生まれでございまして、奈良女子大学理学部を卒業されました。ボランティア活動などを経て、昭和50年に奈良県の消費生活相談員となられ、そして、平成7年の阪神・淡路大震災の折には、全国消費生活相談員協会の関西支部長として被災者の生活相談を陣頭指揮されました。平成9年から同協会の理事長をお務めでございます。
藤井さんからは、今日は「司法制度改革に向けて」、副題が「裁判外紛争処理制度について」というタイトルでお話しいただきます。
まず30分ほどお話しいただいて、あと30分質疑応答ということにしたいと思います。よろしくお願いします。
【藤井理事長】ただいま御紹介いただきました全国消費生活相談員協会の藤井教子と申します。
私どもの相談員協会は、先生方御存じかどうかと思いますが、国民生活センターが設立されまして間もなくに、行政の相談窓口で消費生活相談の仕事をする者の養成講座がございまして、その終了者が、ある程度人数が集まりました段階で、昭和52年に自主的に会をつくりまして、国民生活センター消費生活相談員養成講座修了者の会という名前で活躍を始めました。設立10年経ちました昭和62年に社団法人化した、経済企画庁の所管の団体でございます。
私は今、佐藤先生の方から御紹介をいただきました、相談員協会での相談員の経歴の他、もう一方、奈良県の生活科学センターに相談業務をするということで雇用されました年の前年、それは昭和49年になるんですけれども、大学の先輩からの勧めもございまして、奈良家庭裁判所の家事調停委員ということで仕事を始める機会を持ちました。それからずっと継続をいたしまして、10年後には、民事の方の調停委員を兼ねていました。何という巡り合わせか、いずれも何か皆様の困っておられることに自分がいつも関わるというような仕事を続けております。とどのつまりが今回、相談員協会の理事長の役をいただき、奈良から出張して、国民生活センター内にあります事務所で仕事を始めましてから3年目を迎えております。
そのような中で、消費生活相談あるいは調停の場を通じて、司法の関連で庶民のあるいは市民のあるいは国民の皆さんがどういうことを考えていらっしゃるかという一端は私の目からも見えるような気がいたしますので、その点について今日お話しするしかないと思いまして、テーマもこのように、裁判外の紛争の処理というようなことに視点を置きながら話をさせていただくことにいたしました。毎日悩んでおりましても、なかなか何を申し上げていいかということがはっきりいたしませんで、そういうことにさせていただいたわけでございます。
諸先生方、御存じのこともあろうとも思いますが、ちょっと統計的な数字を申し上げました方がいいかと思いますので、この機会を頂戴いたしまして、消費生活相談の実態のところを少しデータで見ていただきたいと思います。
「多発する消費者トラブルの現状」ということでございますが、国民生活センターは特殊法人ですが、ほかには都道府県や市町村の消費生活センターというのが、今年の11月10日現在のデータですと、常設の平日に毎日開いているセンターが386ございます。その他、私の住んでおります奈良県内におきましても、その常設のセンターが市レベルでは2つ、それから県立のセンターが2つだけでございますが、あとは、市町村の方に相談の窓口が各地にありますが、これは常設ではなくて、週に1回とか2回とかあるいは月に1回とか、さまざまな状況で開設されているというのが現状でございます。
ここでは、一応常設のものが386という数字が現在の一番新しい数字と申し上げることができると思います。
ここではどういうことをやっているかと申しますと、消費者の方から国民生活に関する苦情相談や問合せなどを、消費生活相談というような形で受け付けておりまして、その御相談それぞれに応じまして、情報の提供をいたしましたり、あるいは解決をみるために、自主的に交渉をなさるというようなことを視点に入れまして、助言をいたしましたり、あるいは案件によりましては非常に難しいというような場合には、あっせん役をいたしまして、解決を図るため努力することをやっております。私が20何年の相談業務をやりました中で、ここ10年ぐらい前と実態は相当変わっております。受け皿になる相談員の数は余り増えませんで、自治体の財政的にいろいろ困難だという事情もその裏にはあって、相談員数は増えませんけれども、相談そのものはどんどん、毎年、対前年比増というような形で増加してきております。
そういうことで、受け皿になっております相談員の方は、毎日こなします相談の件数がどんどん増えまして、私がいました奈良県の生活科学センターでも、多いときは一人で朝の9時から夕方4時までが受付時間で、昼間は一応休めることになっておりますが、来所の人があればお目に掛かるということもいたしますので、15件ぐらい受けたことも数字としてはあります。平均的には6~7件ぐらいでしょうか。私が就職しました昭和50年だったら、「今日は1件しかなかった」、「2件もやったあの人は私の相談まで取ったんだ」などというようなことを、おかしいですけれども、言っていた時代もあったわけでして、それが本当に様変わりをしております、というのが一点です。
それから、私どもの現状の相談業務で一番多いのはやはり特殊販売関係でして、いろいろな契約トラブルがいまだに続出しているというのが現状なんです。私が相談員になりましたときは、特にそういう特殊販売に関係のある「訪問販売等に関する法律」はまだできておりませんで、翌年の昭和51年から施行ということになりました。そのころ、今から考え直しても、訪問販売の事例などというのはまず1か月に1件出くわすかどうかで、それをいろいろ心の中にも頭の中にも温めながら法律を自分のものにして、そして、それをどう使い、皆さんに御助言をして、自分でクーリング・オフをすることについて、葉書や内容証明をお書きになるというようなことを指導するというようなことを次々と積み重ねてまいりました。このごろはもうあっせん役をするというようなことが、したいと思いましても、必然的に時間もゆとりもなくて、10年ぐらい前、16%ぐらいありましたあっせんの割合が現状では10%切りまして、7~8%ぐらいになっておりまして、PIO-NETの数字から計算した結果、あっせんの割合は落ち込んでおります。
消費者の方々の知識やレベルがどんどん上がりまして、自分で自主交渉ができて、解決が得られるというのであったらそれは非常に結構なことなんですが、現実問題、相談員の目から見ましたら、どんどん底辺のところに被害が及んでいくのが現状でございまして、本当は力を貸すべき場面でありながら、自主交渉をしなさいというようなことを申し上げて終わってしまうというようなことすらあって、非常に残念です。所長や担当課の方へ、そういった相談現場の声が届くように努力はしておりますものの、やはり財政的に大変だというのには勝ちようがありませんで、どこも同じような状況が今あるのではないかと思います。
資料の表を御覧いただきますと、これは国民生活センターで毎年出しております「消費生活年報」から取ったものですが、これによりますと、一番下の1998年が一番新しいデータですが、全国の相談に関係のある機関全部で、計のところを見ていただきますと62万件余りの相談件数がありますが、これが全国の相談件数でございます。
御覧いただきますように、真ん中辺りで若干マイナスになっているところもありますが、ほとんどの場合、対前年比は増加の一途をたどっている現状でございます。
その次でございますけれども、もう一つは、今のすべてのデータが、PIO-NETという、真ん中の辺りのところに書いておりますシステムの中に入力されるというのが望ましいんですが、まだ100%カバーするというふうになっておりませんで、やっと9割方が入力されるという状況です。そのシステムのことを真ん中にちょっと書かせていただいておりますけれども、このPIO-NETのシステムは、経済企画庁の肝入りで予算も半額国の方から出て、それから自治体の方からも半額を出して、個々の、一つひとつの相談をカード化いたしまして、それにキーワード等必要なものを記載しまして、一件一件を入力していく形でデータ集積をしています。
それが消費者行政の施策の立案とか実施、あるいは個々の消費者苦情の解決、これは同じような案件があって、どのように解決しているか、あるいは解決がなかなか見られていないのかなど、端末を叩くことによって情報を得ることができ、相談処理にも役立っております。
それから、消費者被害の未然の防止ということで、PIO-NETのデータから問題を察知いたしましたら、国民生活センターの方から早期警戒情報など、いろいろな情報を全国的に提供するという仕事をしておりますし、また各センターでは、センター内の情報等もいろいろ加工いたしまして、それぞれの住民の方たちに必要な情報を提供することも細かくやって役立てております。
そのネットワーク・システムの中には、1999年の6月現在で59か所に端末が入っておりまして、ネットワーク化をしているわけでございますけれども、ここでは判例なども集積されている部分もありますし、商品テストのデータなども入っておりますけれども、主に一番役に立ちますのは消費生活相談の情報でございます。これは年間で平均的に、最近は、39万件ぐらいのデータが蓄積をされていますけれども、98年度の入力データは、数字で申し上げますと、40万7,972件という報告が見られます。
このシステムができまして15年ぐらい経っておりますが、累計では316万件を超える相談が今PIO-NETのシステムに入力をされているという状況でございます。個々のデータをいろいろ分析、解析していきます場合に一番中心になりますのは、統計の全体的な62万というのではなく、PIO-NETに入力されているデータを用いて分析をしていくということになりますので、資料のその次にあります「PIO-NETにみる消費生活相談」のところを御覧いただきたいと思います。「相談件数の年度別の推移」はこれを御覧いただきまして、お分かりいただけるわけでございますが年々増加をしております。
一番最近では、平成10年度で40万件を超す相談が入力をされていて、「消費者契約法」の絡みでいきますと、7割ぐらいが契約関係のトラブルであるということが統計的にも言えるわけでございますし、あとは時間の関係で省略させていただきますが、それぞれの相談の場合の契約の当事者とか、あるいは相談者の年齢の構成などがその次の図のところに出ております。
それから職業などについても、データ的に出ておりますので、御覧いただきたいんですが、傾向として、自分の相談を本人が全部してくるというわけではありませんで、息子の相談をお母さんがしてくるという場合もありますし、おばあちゃんの相談を若いお嫁さんの方からしてくるという場合もあります。そこで上の横の棒グラフで見ていただたきますように、相談者と契約当事者とは一致をしておりません。傾向的には年齢の若い方の場合は親が相談してくることもかなりありますし、高齢者の場合も本人ではなくて家族からの相談が寄せられるというような傾向も若干見られます。
それから、相談の内容につきまして、その次の資料図6のところを御覧いただきたいと思います。一番上の線は、菱形になっております分が相談内容につきまして、その相談が契約とか解約に関係のあるような相談、例えばSF商法でおばあさんが会場に行って、高い羽毛布団を買ってきたが、解約をしたいというような場合でございましたら、まず解約というキーワードを付すということになりますので、そこのところで一つ。これは1つの相談について1つのキーワードを付すということでありませんで、4つまで複数のカウントができることになっておりますので、最も関連の深いものを4つ、あるいは4つに至らないときもありますけれども、選択をいたしまして、相談員の側がキーワードを付与することになります。
ですから、今申しました例のSF商法でおばあさんが布団を買ったというような場合ですと、これは販売方法としてSF商法というのが関係してまいりますので、そこにもマルが付き、あるいはその布団が非常に高くて、解約したいというのがもし解約理由であったとしたら、価格料金のところにも、そして、また、そんなものは絶対に解約なんかできない、何を言っているかという対応を事業者の方がしたら、接客対応に問題があるというように、あわせて4つのキーワードが付くということになります。
特殊販売につきましても、今、1つSF商法を挙げましたけれども、特殊販売全体の方は、図7のところに一番上にあります折れ線グラフの方がそうでございまして、特殊販売全体が、全相談の半数以上を占めているという現状でございます。そしてまた、個々の特殊販売のそれぞれの形態から見ますと、訪問販売によるものが25.8%、その次に位置しておりますのは1998年でございましたら10.2%というのが電話勧誘販売です。よく前からあります、電話で勧誘をしてきまして、資格商法などで高額なお金を請求してくるというような件でございますけれども、そういうものが、訪販法の対象として法改正もされましたが、いまだにかなりの件数で相談が出てまいっております。
最近はまたインターネットを使いまして、いろいろなショッピングをやるということで、これによる、なかなか解決が難しいようなトラブルも次々と表われています。20何年の経験で思いますのは、社会の中の問題の先端がまずセンターに出てくると言っていいのではないか。研修などで、相模原の国民生活センターなどに行って勉強して、1週間後に帰りますと、もう時代遅れの相談員になったような感覚を持つぐらいに日々の動きが非常に激しいという現場でございます。いつでも後追いではございますが、後追いになりながらも、問題解決のために、相当みんな努力をしながら情報収集をし、それから情報交換をし、そしてまた、関係の弁護士の先生、学者の先生の御助言を得ながら研修会を催して、勉強し、何々先生のゼミもやるというような形でそれぞれが努力をしながら現状に追いつき、いい解決方法を見出していくという仕事を重ねております。現実の問題として、いつまでも後追いで、先に未然防止のいい法律ができるということはまずないわけで、いつも悩みを抱えております。
こんなことを申しますのは何ですけれども、相談員の後輩で、結局相談のストレスをためたためだと思うんですが、がんになりまして、いつまでも続けたいと言っていた相談業務をやめざるを得ない人が出ました。あちこちで、がんで亡くなったとか、あるいはノイローゼになったとかいろいろな話を聞き、この業務の過酷さという点が余り世間の方々の目に触れることはないんですが、現場にいる者にとりましては、ここまで相談員がやらないといけないのかと思うこともあるのです。
私は調停の場を知っておりますので、そこへ渡すということも一つの方法ではないかと思うんですけれども、担当者としまして、弱い立場のこの消費者の方にできるだけのことをして、答えを返してあげたいという必死の思いというのがどの人にもありまして、なかなか次のところへ渡すということがやりにくいということもありますし、また、消費者の方もかなり厳しい方がありまして、無料のここへ来たんじゃないかと、まだ相談員の努力が足らないと、もっと頑張れと言って、これしかできませんとお断りをしてもなかなか認めていただけない場合もあります。それで、更にまたもう一歩頑張ってみるということもありまして、どちらがどうか分かりませんけれども、相談現場の厳しさというのはどこにもあるのではないかと思っております。
この被害救済のための苦情処理というのは、各地にあります消費者保護条例の中でもそのことは規定もされておりますが、もともとは消費者保護基本法の方に苦情処理をやるということについても規定しているわけでございまして、それに基づいて努力しながら、消費生活センターなどで受け皿になってやっております。消費者問題は、現在の経済社会の構造的な問題です。事業者と消費者の間の情報について、消費者は、日々の生活のためにいろいろな商品を買い、サービスを利用するということがありながら、それぞれの専門的な知識を持つということは不可能でございますので、やはり事業者の持っている情報が十分に提供されない限り、本当の意味での選択というのはなかなかできない。現実の問題は、消費者向けの情報が不十分であって、相当の格差があるということが言えると思いますし、また、約款一つを取りましても、それを交渉することによって、自分の都合の良い内容に変えてくださいなどということはとんでもない、また、できませんということがあったり、問題が起きたときに交渉して解決をしたいと思いましても、それについてどういう方法があって、どうやればいいか、どこが問題かということはなかなか一人ひとりの消費者の方には分かり難い面があります。そういう面でも格差があるということが言えるのではないかと思います。
多くの場合、個々の消費者の紛争というのは、少額の紛争でございます。私にしましたら、クレジットを利用しての50万、100万の相談というのは、高額なものというふうに受け取るんですけれども、世の中全体から見ますと、これは少額なものと受け取られます。私も20何年の中で自分で扱いました相談で最も高額なのは何かといいますと、京阪の丘陵辺りで3億円近い住宅を御購入になりました方が何人か連れだってこられまして、その後に価格が暴落をした点を問題にしてセンターがやれというような、そんな難しいのを受けました。関係の販売会社の方に当たりましたが、それなりの理由を付けて、絶対に応ずることはできないという回答をいただいてしまいました。ついで、弁護士の方に依頼されて訴訟をやったと聞きました。その3億円が私の扱いとしては高いものですが、これでしたら高額と皆さんお認めいただけると思います。日常接する相談は、多くても100万円とか150万とか、あるいは住宅の場合は何千万円というふうになりますけれども、それほど高額ではない紛争が持ち込まれるということです。
その解決のために、消費者のそれぞれの方が、費用や時間を掛けるということはまずできにくい問題でありますし、費用を掛けたとしても、それが、損失を上回るようなものであったりしたらとんでもないということになります。少額の被害の場合に、弁護士代理を原則必要としておりましたり、あるいは証拠調べなども非常に費用が掛かると言われております、通常の訴訟の手続というのは、やはり紛争解決手段としては、この場合には余り適切なものということはできないのではないかと思います。
したがって、少額被害に関わって、紛争処理の実効性を高めるとなりました場合に、やはり適切な何らかの措置が必要。その意味では、やはり現在行政がやっております消費生活相談は、評価をしていただいて位置づけていただくことができるのではないかと、この場でも申し上げたいと私は思っております。
それからもう一つ、平成10年に民事訴訟法が変わりまして、私どもが目を付けましたのは、少額訴訟ということでございました。私自身が余り分からなくてこんなことを申しますのはなんですが、これは訴額が30万円以下の金銭の支払いの請求目的ということですが、この30万円以下となっているのは、現状の消費者問題の契約金額から考えると、やはりマッチしていないと私自身思います。
私、調停に参りましたときに、先般も書記官の方と話しまして、奈良ではどのぐらい少額訴訟に関連のある件数があったかと尋ねましたら、昨年は年間30件に満たなかったが、現在で既に20件を超えているので、年度の終わりには昨年の件数よりは上になるでしょうということでございました。国全体の数字で見ますと6,000件ぐらいの利用があるということは承っておりますけれども、地方によりましてはまだまだですし、また、この条件にぴったりの内容は余りないということも聞きました。この訴額も次の機会には検討し直していただく必要もあるのではないか、そしてまた、多くの人たちが利用出来るように、もっとこの制度を知らせていただく必要があるのではないかと考えています。
特に、相談の現場から見ますと、賃貸住宅の問題で退去いたしました場合、最近は内装等すべてを新しくやり直すために、その費用すべてを出ていく借主の方に負担をさせる。ですから、かなり積んでありました敷金を全部巻き上げられた上に、更にまだ足らないということで、支払いを求められるケースすら関西方面ではありまして、それが住宅関連の相談では最も件数が多うございます。私どもの協会といたしましても、毎年いろいろなテーマで110番をやりまして、住宅関連の相談を何年間かやりましたときに、いつも1位がそのことでございました。そして、このことは、業界にも働き掛け、あるいは折があれば要望もしてま「りましたら、賃貸住宅の契約の内容に関しまして、建設省が標準約款をきっちりお示しになることになりました。
要件に当てはまり少額訴訟で行けるという場合は、お勧めをしてうまく解決が得られている場合もあちこち出てまいっておりますし、私がやりましたのでは、訴訟をして割といい結果を得られたという御報告を聞いております。少額訴訟は、現場で皆さんにお勧めできる紛争解決の方法だと思います。
それから、私自身は調停を若干知っているものですから、調停委員であることは消費者相談の現場では申しませんけれども、相談で解決しないときにどうしたらいいかという話がよく皆さんから出てまいりますので、その場合には、民事調停を御利用になるのも一つの方法だというようなことを申し上げます。特に最近は、自己破産にまでは至りませんけれども、クレジットやらサラ金やらで借り回って、多重債務に陥ってどうしようもない、もう深刻な状況の相談が現場にもまいりますので、そういう場合、少しだけ中身をお聞きした中で、調停の利用による弁済をお勧めしたりすることもあります。
少しかみ砕いて申し上げますと、安心をなさいまして、調停にも行ってみようと意思表示をされて、後から解決が得られたときに報告をしてくださることもあります。私は調停委員として、その司法の場での解決方法をお勧めするのは自分の役割であろうと思いまして、努力もいたしております。
もう一つは、規制緩和が進んでまいりますと、従来、行政の事前規制で行ってきました、国民の利害調整や紛争解決というのが、今度は司法による事後監視とか、救済というような場面に転換されるということになってまいります。その点から考えましても、今後、司法の場が果たしていくべき機能は、もっと充実あるいは強化されないと困るのではないか。今のように、それぞれの人からの声を聞きましても、こんなにアクセスしにくいような司法制度ではやはりだめではないか、時代にそぐわないというふうに思いますので、この辺のところを、今後、審議会の中でも、一つはお考えいただくことができればと思います。消費生活相談の現場で見ますと、特に、余りたちのよくない事業者の方たちと接することもあり、極端なことを言うようですが、トラブルになりますと、事業者の方たちの方から、そういうことで支払いもしないのであれば、法的な手段を取るとかあるいは裁判予告とか、あるいはこれまでよくありましたのは、支払命令、今は支払督促になっておりますが、一方的に支払命令が届いて、何のことかわからないうちに、もう異議申立の期間も過ぎてしまって、どうしようもなく支払わないといけない状況になることが、頻繁にありました。最近は支払督促などの書面上に、異議申立てをすることについてもすべて書いていてくださっていますので、若干はそれをお読みになってお分かりになる人も増えてきているのではないかと思いますが。「法的手段」という言葉一つだけで消費者は恐ろしくなって支払ってしまう、泣き寝入りをしてしまうという人たちがいかに多いかということです。
たまたま相談の現場にそういうことを言ってこられたら、それなりの助言をすることにより、あるいはできるだけあっせんを試みて、そんなに一方的に泣き寝入りをなさる必要はないということで励ましたりもいたしますけれども、相談される人たちの割合というのは、国民生活動向調査などで見ますと、公的な相談窓口の利用で、毎年若干異なりますが、3%、一番よかった一昨年で4%の方しか利用していないというのが現状です。利用者は氷山の一角ということです。ですから、本当に適切な助言を得て自分でいろいろ立ち向かっていくような勇気をお持ちになる方というのは、現状ではごくわずかではないかと思います。
それからもう一つ、もともとは日本の教育に問題があるのかと思うのですが、自分自身を反省してみましても、私が調停委員になるまでに司法に関係のあるような教育を学校あるいは親から受けたかといいましたら全く何もありません。調停委員についても理解しないまま、皆様のお勧めがあって、大変な問題に実際は取り組んだわけでございます。自分が委員になりまして、本当に一般の方々というものは、裁判所の前に立って恐れをなしていらっしゃるのが実態ではないかと思います。ただ、慣れで、何度も調停を利用なさって、何度も多重債務の解決を経験し、「前の委員はこうしたのに、あんたらちゃんとやってくれへんのか」などという人も最近はいますけれども、それは本当に一握りもいらっしゃらない、ちょっと特異な人だと思います。ほとんどの方は、調停の場が初めてで、そこでどういうふうに展開していくかについてすごく心配をしておられながら、第1回の期日を迎えて来所されるというのがありありと見える状況でございます。
こちらの審議会でも、国民の利用しやすい司法制度をお考えと聞いておりますが、本当に身近な形で司法が利用できるよう、是非ともお考えいただきたいと思います。弁護士の先生がどこにいらっしゃるのやら、どの先生がどういうことが御専門であるかなどという広告などもありませんので、全く分かりませんし、そういう中で右往左往している。何か紛争があって、裁判まで思い切っても、なかなかそこに近づいていき難いというのが一般市民の皆さんではないかと思います。
そういう点から、私ども協会の宣伝をするようで申し訳ないんですけれども、裁判に関連するブックレットを出しておりまして、これが2冊目です。以前、クレジットの問題でよく支払命令が発動された時に、『法廷に立たされる消費者』というのを1冊出しています。その後制度が変わりましたので、『裁判のススメ』を昨年度出版させていただきました。幸い専門家の先生方や多くの消費者の方のお申し込みなどもいただいたり、それから専門家からも比較的よくできているのではないかというお言葉をいただいたりしております。先生方に御覧いただきまして、お忙しいかと思いますが、ここが誤っているとか、問題だというようなことがありましたら、お言葉をいただけたら有り難いと思っております。
私どもがこれを作ったのは何故かといいますと、本当に一般の方々が勇気を持って、必要なときに自分で思い切って裁判も辞さないというような姿勢で考えていただきたい、そのための一つの手助けになればと考えまして、編集に当たりました者が、実際の法廷に行ったり、あるいはその裁判に関わっておられます弁護士の先生にいろいろ御助言を得たり、勉強を積み重ねまして、この1冊を作成しておりますので、お目通しをいただきたいと思います。
それからもう一つ、多重債務の問題などを考えました場合、費用の問題で、自己破産をするについても、必要な費用がどこから捻出されるかという非常に大きな問題があります。ところが、この法律扶助制度というのが簡単に利用できない、生活保護を受けている世帯でないとまず対象にならないということを聞いておりますし、最近見ましたデータでは、平成11年度の予算が6億だったのが、何とこれはうれしいんですが3.5倍で22億の予算を要求されたというのは聞いておりますけれども、これは他の先進国に比べると桁が違う、22億でもわずかということでございます。やはり一般の人たちが憶せず裁判の場にアクセスができるという意味では、費用の面も考慮していただきませんとなかなか利用はできない。その点では、この法律扶助制度そのものをもう少し根本的に改善をしていただくことが必要ではないかということです。
「多様な解決手段の必要性」ということでございますけれども、裁判外の紛争処理制度について若干申し上げて終わりにしたいと思っております。
民事調停とか家事調停は、先生方御存じのように、これは裁判外の紛争の処理の制度でございますけれども、この件数は平成10年度では家事・民事のトータルで35万6,000件余りというふうに私がいただいたデータでは報告されております。これは一方、先ほど来申し上げました消費者相談の件数に拮抗するような数字が出てまいっておりますが、この数字が調停では過去最高でして、民事だけで見ますと25万件ですから、これでは消費者相談の件数の方が多いと数字的には見られます。
それから、この中身としましては、不成立のものも12.2%あるようでございますけれども、半数近くは調停が成立していると資料にありますので、これもかなり重要な紛争解決手段になっています。
弁護士会の仲裁センターというのも私はもっともっと各地に開いていただきまして、だれでもが利用できるセンターになっていただくことを希望いたしております。
それからもう一つは、自分たちが関わっておりますこの各都道府県や市町村にあります消費生活センターや、センターで解決しない場合に機能している苦情処理委員会を、行政型横断的紛争処理機関として、もっと現状以上に評価をされて、きっちりと裁判外紛争処理機関の中に位置付けていただくことを希望いたしております。
民間の場合には、製造物責任法が施行されましたその当時からPLセンターというのも幾つかできておりますけれども、相談員の目から見ますと、やはり事業者側のサイドに偏りが若干あるのではないかという思いもありまして、相談現場から情報提供はいただくものの、紛争処理で利用させていただくことはそれほどないというのが現実でございます。
それから、多重債務の場合に、日本クレジットカウンセリング協会は、弁護士の先生方も関わっておられますので、ここもひとつ裁判外の紛争処理という点では、実績を積み重ねているところと言えるのではないかと思います。
その他、いろいろな機関がありますが、私が関わっております消費生活相談から見ますと、今後、更に役割を果たすという面では、多様な処理の窓口が設けられて、一般の方々が下駄履きでも相談に来て、解決が比較的容易に図られるようになるべきであろうと思います。ただ、そこで働く者がすべてボランティアというわけにはまいりませんので、その費用をどうするかという点では、いろいろな問題があるのではないかと考えます。
それから、担当者が本当に専門的な知識も持たないといけませんし、公正中立な判断が求められるわけで、その立脚点をきっちりとしておくということ。それから、その解決内容についても、透明性、公平性というのが求められると思いますので、この内容についての情報開示をしていくという点も大事ではないかと思っております。
最後でございますが、「明日に向かって」と偉そうに書きましたけれども、いろいろな物を読んだり、いろいろな人の御意見を聞いたりいたしますと、やはり裁判官の方は、一般の方と接する場面が非常に少ないからではないかと思いますけれども、どうも血の通った裁判をやっていらっしゃるのかという批判も聞こえてまいります。法曹一元などという意見も出てまいっておりますけれども、どういう方に裁判官になっていただくかという視点も、審議会で十分に御議論をいただきまして、今後に向けて、いい裁判官が次々と現れてくださるよう願っています。
それからもう一つ、調停委員で私も司法の場に国民の一人として参加をさせていただいておりますけれども、この調停以外にも簡裁の司法委員の参与というのもございますけれども、今後に向けては、やはり他の国にありますような参審制とか、陪審制とかも将来に向けて加味されて、一般の市民が納得のいくような裁判制度を考える必要があるのではないかと思います。
もう一つは、いつも消費者問題を話しておりまして、根本的に解決を得ようとすれば、一つひとつの事例の対処ではなくて、小さいときからの消費者教育がなければいつまでたってもこの問題は解決しないと日夜感じるところでございます。司法の問題につきましても本当に大事なのは、一人ひとりの国民のそれぞれが司法に関心を持つような、司法の教育が、せめて中学校の段階からなされるというふうになれば、国民全体の法意識そのものが変わってくるのではないかと考えられます。先ほどの、法曹の専門家に向けてのロー・スクールなどという青山先生のお話もございましたけれども、一般の国民に向けていかにいろいろな司法に関係のある教育をしていくかという視点も取り入れて御検討もいただきたい。
いろいろ欲張ったことを雑駁に申しましたけれども、お許しをくださいますように。この機会を頂戴いたしましたことを感謝しております。
【佐藤会長】御経験を踏まえて大変貴重なお話、どうもありがとうございました。
予定時間が残り少なくなり、10分ぐらいしかありませんが、御質問はございませんか。
【石井委員】興味本位のことを伺って申し訳ありませんが、最近、インターネットのトラブルが非常に増えてきていると思います。まだパーセントオーダーのところまでは出てきていないとは思いますが、このグラフの中では、どこの部分に含めていらっしゃるのか、教えていただけませんでしょうか。
【藤井理事長】通信販売の中に多分入っていると思います。数字も実は発表されているんですが、私ちょっとそのデータを今日持ってまいっておりませんので、何でしたら次回にお届けをするようにしますが。
これは急増しておりまして、5年ぐらい前でしたらインターネットショッピングで5件ぐらいしかなかったのが、うなぎ登りに上がってきて、500件くらいになっています。
【石井委員】私は、本を取り寄せるのに、インターネットを使って、アメリカのAmazon.comからいつも送付してもらい非常に重宝しておりまして、ああいうやり方が便利なだけに、これからインターネットに伴う犯罪というか、トラブルというのはかなり増えてくると思うのです。ですから、その辺の対策について教えていただきたいと思っております。
それからもう一つは、これは考え方の問題なんですが、私がかつてある電気製品を買いまして、それが具合が悪かったものですから、セールスにクレームを付けたことがあるんです。そうしたら、セールスも良心的な人だったらしく、会社の中で検討してくれて、取り換えるかどうかという話になったらしいのですけれども、結局、社内でらちが明かなかったらしく、そのセールスいわく、「理事長さんのところのような組織へ話していただき、そちらから会社の方へ連絡があると、会社の方もすぐ対応するので、そういうふうにしたらどうか。」というサジェスチョンをもらったのです。そういう手段も取りたくなかったので結局何もやらないで、私は泣き寝入りの形で別のものを買ってしまいました。先ほどのお話を伺えば、30万円が少額に入っているというのですから、私のケースは微少額に属するわけで、その手段を取らないでよかったとは思っていますが、セールスの人が言ったような利用方法、言い方を換えれば、いささか変な意味の利用方法については、理事長さんはどう考えていらっしゃるのでしょうか。
【藤井理事長】大体、以前は、自社の製品に問題があると認めるのではなくて、ただ、うるさいから交換をいとも簡単にやられるとか、菓子折りを持ってくるとか、さまざまありましたけれども、今は、消費者相談の窓口を、大きい事業者の方々はそれぞれ設けられまして、専門的に相談に応じるという姿勢を示しておられますから大分事情は変わってきておりますし、我々のところに来ましても、たとえ、有利な形でこの方の分を交換しますよなどと言われても、これはどこに原因があってこうなったかということをまずセンターとしては究明をしていただいて、その結果、どこが責任を持つかということを考えます。やみくもに何もしないで交換などというような過剰な対応をこちらは全然求めていないと申します。消費者が喜ぶから交換するなどということは窓口ではやっておりません。
そうしますと、センターの求めに応じてメーカーはそれなりの究明をして報告を出してこられて、今後発生しないような対策を講じましたということになります。一つのトラブルが今後の対応策につながって、多くの人の役に立つような情報にもなるということも往々にしてございますので、このような姿勢で相談業務をやらせていただいております。
【石井委員】それから最後に一つだけ。『裁判のススメ』、大変いい御本をお出しになって、本当に良くできているいると思って感心して拝見していたんですが、福沢諭吉先生が生きていらしたらさぞかし喜ばれただろうと。
【藤井理事長】最初は違うタイトルになっていたんですけれども、もう少しみんなに分かるタイトルに替えようと考えまして、みんなの知恵でこの「ススメ」になりました。
【藤田委員】裁判外紛争処理制度で民事調停・家事調停をお挙げになって、調停委員としても御活躍していただいているそうですけれども、長い間消費生活相談をおやりになった御経験からして、この調停制度について、国民の利用しやすい制度という観点からはどういうふうな感じをお持ちでしょうか。
【藤井理事長】調停制度そのものですか。私は民事調停をやり始めたころに、特にあのころは多重債務の関連ですごく温情ある裁判官に接することがありまして、その方と割とお話ができたんです。そのときに、私が勤めている県のセンターだったら、センターはこんなことをやっているという積極的にPRの印刷物をつくったり、いろいろな機会を通じて自分たちの仕事を一般の人に知ってもらうように努力をしている。ここへ来て見ていたら何も努力をしておられないように見える。「パンフレットはありますか。」と裁判官に聞いたことがありました。そうしましたら、「いや、そんなのないね。でも、何かどこかにあるはずだ。」とか何とかとちょっと言葉を濁されました。最近、最高裁がお出しになっていますいろいろなパンフレットがありますが、あれの出始めのときに、わざわざ呼ばれて、「こういうのができるようになった。」とうれしそうな顔で私に示してくださいました。拝見しますと確かによく分かるというふうに思いましたから、私は逆に裁判所からたくさんいただいて、今度は消費者相談の現場の相談員仲間のところに配ったりもいたしました。
それで思いますけれども、国民に分かりやすくなったかといったら、まだまだ雲の上にいらっしゃるようなところがあると思います。ただ、現場で拝見している限りは、忙しい中で、例えば、民事調停の申立書はどう書くかということについても、書記官の人が忙しいながらも時間を割いて言葉を掛けるとか、いろいろな努力はしていらっしゃると思うんです。でも、やはり人手の問題があって十分にはできない。その辺のところも書記官と話してみると、退職なさった方たちがお手伝いをしてくださるような裁判所もあるというふうに聞きましたので、やはり長年裁判に関わっていらっしゃる方が、現実一人ひとりの市民の力になるということ、余りやり過ぎてももちろんだめだと思うんですけれども、関わっていただいて、分からせる役割を果たしてくださるというのも大切だと思います。
【藤田委員】ありがとうございます。
【中坊委員】多少お尋ねにくい問いですけれども、相談員協会として、組織的に裁判所、主としては簡易裁判所が一番多いと思いますけれども、そういうところへ裁判の傍聴に継続して行かれたという御経験はありますか。
【藤井理事長】会としてですか。
【中坊委員】藤井さん個人として。
【藤井理事長】それは若いころから消費者問題に関係のある永久脱毛器とか、それからクレジットの関係もよく参りましたし、それから顔面黒皮症の大阪地裁で長く続きました訴訟もほとんど欠かさず、それはセンター長の理解があって、出張で行ってもいいとまで言ってもらいましたので、あれも最後には打ち上げにまで参加させていただきました。会がまとまってというのはなかなか難しいのですが、関心のある会員たちは、関連の事件のときには傍聴に行かせていただき、あるいはセンターで解決しない事件が訴訟にされたものについては、やはりお一人ひとり励まさないと長続きしませんので、側面的に頑張っていただくように声を掛けたり、あるいは傍聴に行って、みんなでそういう雰囲気をつくったりとかという努力はしております。
【中坊委員】そういうときに、簡易裁判所に行った例で、どの程度が欠席判決になっておったり、あるいは会の名前を付されて傍聴されているときに、裁判所がどのように被告に対して、例えばクレジット訴訟ならクレジット訴訟について、訴訟指揮をされているかは御覧になっていますか。
【藤井理事長】支払命令などの関連で、御自分が当事者として出席をされているような場合に、契約をしたというのが本当であればもうやむを得ないなどということを裁判官から言われるというような場面もあるし、後で外に出て当事者間で協議をしなさいというような和解を求められるような話もあったりしますけれども、私どもが関係をして、いつも見続けているようなものについては比較的勝訴の判決を得ていらっしゃるのが多いかと思います。
ただ、以前の経験で言いますと、傍聴に我々が行くときと行かないときでは、裁判官や弁護士さんの張り切りようも違うという、それは明らかに違うようでございます。あれは永久脱毛器のときだったかと思いますが、一生懸命消費者側の弁護士が頑張られ、私どもも大挙して傍聴に行き、後ろで聞いておりました。
それで法廷を出ましたら、今回はこういう内容だったと、解説ももちろん弁護士先生がうまくしてくださるから理解も深まるんですけれども。帰りに同じエレベーターに相手方の方の弁護士さんも乗り合わされたんです。そうしたら、私たち側の弁護士さんに対して、「君のところはよろしいな、たくさん人が来て」とか、何か憮然としたような表情で言われて、これは面白いなと思いました。確かに、だれも傍聴席にいないときと、そうでないときの関係者が違うと、ですから、やはり一人ひとり市民が裁判にも関心を持って、そこに人が座っているということ自体が全体を高めるということに、オーバーな言い方かも分かりませんが、きっとなるのであろうと思われてなりません。
【中坊委員】例えば、クレジット訴訟などで、裁判を起こされた人の管轄がその人の住所地内という事例に会われたことがありますか。そういうのはありませんか。
【藤井理事長】家事調停などではありますけれども、私が関わっていた民事の調停でそうなったというのは余りありません。
【中坊委員】私自身は一遍かなり調査をしたことがあるんですけれども、クレジット訴訟の裁判は、8割方ぐらいが住所地でないところに起こされています。
それから、私の関係した豊田商事の件に関してお聞きしたいと思うんです。相談員協会とかあるいは通産省に相談窓口というのがあったんですが、4年間あれほど大きな事件が発生していましたが、それらが何らかの具体的な措置を、あるいは裁判が起こされるとかということを、どの程度御承知でしたでしょうか。
【藤井理事長】私、あえて中坊先生がおいでだから、豊田商事のことは言わないでおこうというふうに思ったんですけれども、今ちょっとあるところに書きました事例を持っておりますが、私どもの奈良県のセンターは、センター長が次々高齢者の人が被害に遭って相談にこられる。資産形成の問題は、そのときは消費者相談ではないとはっきり位置付けられているような面がありまして、通産省へ言えというふうに回すだけということだったのです。幾つかのセンターがほかにもあるようですけれども、私どものセンターは少なくともこの相談を受けて処理に当たろうということで当たりました。それで関連の相談が20件寄せられて、60歳以上の高齢者の契約がこのとき16件ありまして、最高額が6,000万円という額でございました。これは、永野会長が殺される直前のところでは、返済状況が非常に滞って悪くなってまいりましたけれども、分割払いではありましたけれども、ある程度、契約条項にのっとったよりは少し色を付けたような形での返還ということを継続的にやってくれましたので、努力してその方向にあっせんいたしました。
ただ、他のところのことを申し上げてはなんですが、高齢の学校の校長さんをされたという男性の方が言われたんですが、奈良ではなくて他へこのことを相談に行かれたんですね。どこと申し上げるのは失礼だと思いますが、弁護士会の法律相談に行かれた。そうしたら、そのときに、「これで困っていると言ったら、3分も会ってもらっていないのに、どうしようもないなということで、その一言があっただけだった。それでもやはり5,000円の相談料は払って帰らなければいかんかった。ところがここへ来てみると、長い時間僕の言うことを聞いてくれて、解決に向けてやろうと言ってくれた、こんな有り難いところはない。」と言ってくださる人もありました。あるいは、「日々内職をしながら毎日のおかず代を稼いでいるのに、こんなに返済が滞ったらもうどうしようもありません。あなたはちゃんとやってくれているのか。」と、私はお年寄りにしかられて、「もう明日返してくれなかったらおじいさんの墓の前で首くくる。」とまで言われたのです。こんなに相談業務が大変なのかと、そのとき本当につくづく思いまして、所長に、「私が返すんじゃないのに、どうしたらよろしいの。」と、ついそういう言葉を出したこともありました。最終的にこのおばあさんも、その後の状況から見て、自分がかなりの額を返済してもらったので、「あのときここへ相談に来たからこそと思っています。」という言葉をいただきましたものの、本当につらいことが何ヶ月間もありました。センター長もどうしたらいいかわからないので、私が代表で調べまして、支払命令の申立をしようということになり、そういう意思のある相談者を集めまして、そのことを御説明して、手続のお手伝いをさせてもらうことにしました。明日、明後日ぐらいに裁判所に届けようというときに、会長が殺されるという事態となりましたので、それから先は進まなかったということです。
【中坊委員】それで一つお尋ねしたいんですけれども、そのときに一部分割で支払えばそれで皆さん方相談員としても一応その問題は解決した、一応向こうも分割でというような解決をなさっていたということに最終的にはなるんじゃないでしょうか。別な言い方をすれば、あれはあのような全国的な詐欺商法というまさに犯罪であったわけですね。にもかかわらず、司法で解決するということではあったとしても、あるいはおたくの方で解決した、あるいは通産省の相談窓口に出たもの、いずれもそういう現象面だけとらまえて、その基の本質というところについての相談とか処理とかいうのは、私は管財人で見て、これは大変失礼な言い方だとは思いますけれども、全くなされていない、どんなところも。これは私にとっては非常に異常な事実のように思えたんですが。
【藤井理事長】それはまさしく先生のおっしゃるとおりで、そうおっしゃったから言うように受け取っていただくとあれですが、私自身があのときのファミリー証券の内容を考えて、幾らどう考えても、あのいい割合で金を預けることによって相当のものになるという仕組みそのものがおかしいと思わざるを得なかったわけです。来所する豊田商事の社員を何人かつかまえては、その契約の仕組みについて私は理解できないので説明してほしいというようなことを言ったことはありますが、彼たちは、「そんなこと何心配してはりますねん、もう心配する必要は全くない。」というようなことしか言いませんで終わってしまう。「それよりうちの販売手伝ってくれはったらもっと収入になる。」と、私が勧誘員に勧誘されたくらいです。私は、現状で考えますとこれはやはり、多くのセンターが、直接扱わずに他へ回したという形で真剣に取り上げなかったということが、たくさんの被害者を生み出す原因にもなっているという反省を、相談現場の者は本当はしないといけない。もっと早い段階でみんながネットワークを組んで情報公開して、これはおかしいということを突いていたとしたら、あそこまで長く、詐欺が続くことはなかったのではないかと考えます。現場の一員としてはとても責任を感じております。
確かに先生のおっしゃるとおりでございます。
【佐藤会長】まだまだ話し尽きないところがあるかと思いますけれども、時間もかなり予定よりオーバーしてしまいましたので、せっかくですけれども、この辺で終わらせていただきたいと思います。
本当に今日は、貴重なお話、どうもありがとうございました。
米澤さん、よろしくお願いいたします。どうもお待たせしました。
米澤進さんにはお忙しい中お越しいただきましたが、簡単に御紹介しますと、米澤さんは1938年に三重県にお生まれでございまして、1957年に共同通信社に入社されました。社会部の御経験が長くて、文部記者会、司法記者会などに所属され、社会部次長、ラジオ・テレビ報道部長などを経て、1993年からは論説委員兼編集委員。それから,1995年からは論説副委員長を務められました。98年に定年退社されまして、現在は、文筆業。社団法人日本記者クラブ会員として御活躍でございます。千葉家庭裁判所の家事調停委員もお務めです。
米澤さんからは、「司法制度改革審議会に望むこと」というタイトルでお話をいただくことになっております。
では、まず30分ぐらいお話をいただいて、30分ぐらい質疑応答ということですので、よろしくお願いいたします。
【米澤氏】それでは、よろしくお願いします。
実は私、今朝、離婚の調停がありまして、成立しまして、非常に気分としてはよろしいんですが、その後ここに来て、どういうことをお話ししていいのか迷っているというところですけれども、よろしくお願いします。レジュメにしたがってお話します。
私、これまで審議会でいろいろな方がお話しされている記録を読ませていただいたり、今、藤井先生がお話しされているのを聞いて、多少聞きほれるというか、専門的な立場で詳しく述べられることに感心しているわけですが、私自身は特に専門というものはありませんので、論説委員としていろいろ経験したことを、多少、市民と言いますか、国民と言いますか、そういう立場から、こういうことが今望まれているのではないかということを踏まえまして、演題として「司法制度改革審議会に望むこと」ということでお願いいたしました。
まず、今どなたも言われていることですけれども、国民生活と司法の距離の遠さ、これはつくづく感じるわけです。私自身、多少管理職などをやった間がありまして、記者としてはブランクもありまして、その後論説委員ということになったわけです。ちょうど今から6年前です。よく考えてみると、論説委員である以上は、今の司法についてもう少しきちっとした物の見方、自分の立場というものを明確にする必要があるだろうと思いまして、ちょうど5年前に第二東京弁護士会だったと思いますが、裁判傍聴運動というのを実践されておりましたけれども、そこに、身分を明かさず一市民という形で応募しまして、ついていきました。
そのとき私は、一つの考えとして、市民の人たちがこういう裁判を見てどういう反応を示すだろうというのを非常に興味を持って見たわけであります。このとき一番最初に簡易裁判所の法廷を見せていただきました。そうしましたら、その法廷を見て、私自身がびっくりしてしまいました。というのは、先ほど藤井先生のお話にありましたように、民事調停では7割近くが多重債務の問題で占められているようです。
私自身は司法記者をしたり、社会部のデスクをしたりして、例えばロッキード事件だとか、連合赤軍事件だとか、民事でも割と大きいような裁判を取材したりしましたけれども、実際に簡裁民事法廷を見て、この場で起きていることを今まで伝えてきたであろうかということに疑問を持ち大いにショックを受けました。
それが反省点と言いますか、要するに、報道が国民に伝えているというものは、必ずしも本当の裁判の姿ではないのではないかということです。何故そういうことを感じたかと言いますと、ここに訴えられていたり、あるいは訴えたりしている中の人たち、つまり多重債務の人たち、いわば初めて法廷に来て、おどおどしている姿と、片一方でいい服装の消費者金融の社員の方がそこにいて、物慣れた物腰で対応している。圧倒的に訴える側と訴えられる側、逆の場合もあるかもしれませんが、そういう多重債務の人たちのおどおどした態度と、消費者金融の人たちの物慣れた物腰と言いますか、そういうものとの差の大きさにびっくりしました。そこには、私が見た限りでは弁護士さんは1人も付いておりませんでしたけれども、そういう状況があるということです。
それから、それに対して裁判所、先ほども話がありましたが、裁判所は物事を次に進めるということがどうしても優先されますから、割と紋切り型と言いますか、法律がこうなっているから、契約がこうなっているからということで、多重債務の人たちを説得したりするわけです。別にどちらに偏ったということではないかもしれませんけれども、その姿に私は驚きました。
やはりこれは我々新聞記者、当時は論説委員でありましたけれども、もっと伝えなきゃいけないことがいっぱいあるのではないかという具合に感じました。それがいわば司法を改革しようという気持ちになった一番最初の動機です。
次に「最近の事件と『司法が果たさねばならないこと』」と書きました。今、一番大きな問題になっている商工ローンと臨界事故についてちょっと触れさせていただきますが、もう問題点はかなり明らかになっているわけですけれども、商工ローンのことに関して言えば、利息制限法と出資法との間のグレーゾーンと言いますか、そこのところが埋められていない。そのことがこういう問題を引き起こしているという大きな問題ではないか。消費者金融の問題がもうちょっと前から始まっておりましたが、それも同じことが言えるのではないか。そのことに対して司法はどれだけのことをしてきたのだろうか。そういうことに対する疑問を持たざるを得ないわけです。
もう一つは、東海村の臨界事故のことなんですが、これはもちろん、原子力行政の安全性に対する手ぬかりと言いますか、それが原因であることはわかっているんですけれども、そういうことに対して司法は何らかのチェックの方法を持たなかったんだろうか。最高裁で福島第一原発訴訟と伊方原発訴訟についての判例が出ています。これは原子力発電所の問題でありまして、この前の核燃料工場のような問題に直接は関わっていません。けれども、この十何年かの間、幾つかの原子力発電の安全性に関して、いろいろ訴訟が起こされています。もしかしてその判決とか判例とかいうものがもう少し厳しく、原子力の安全性や原子力行政の在り方に対してもっと厳しく言っていたら、あるいはそういうことに気をつけろということを強く言っていたら、あの事故はもしかしたら起きなかったかもしれないという感じがいたします。
もちろん、原子力発電が必要なことは前提ですから、それをなくせと言っているわけではありませんが、そのことが今、もう一回問われるのではないか。しかも、臨界事故のようなことは、これからも起きるかもしれない。全国に核燃料工場は7つあるそうですが、また大変な事故が起きるかもしれない。そういうことも視野に入れて、もう一回このことを見直す必要はないのだろうかと思います。言い換えれば、これがいわゆる今求められている「セーフティーネット」としての司法の役割というものではないかと思います。
つまり、制度としてどうしようということを一口で言えませんけれども、司法の側は現実にそういう問題点があることをここで反省する必要があるのではないか、そういう具合に思いました。
その次に「裁判官は信頼される町の名士であってほしい」と書きました。これは私の願望であります。やはり裁判官は、町の中で裁判官がどういう人であるか。中都市も含めて、あるいは小都市も含めて、恐らく町の人たちは裁判官を全く知らないのではないか。顔はもちろんお名前も知らないのではないか。そういうことではいけないのではないか。裁判官という「人を裁く人」は、その町の信頼される名士であってほしいと私は思います。そういう制度というものはつくれないだろうかということも考えます。
それから「裁判官の独立とサービス精神の不足」と書きました。これは現在の状況を見ると、やはり裁判官の独立ということは、確かにそういう独立というものは守られているかもしれませんが、現実に一般市民、国民に対してどの程度サービスを行わねばならないかということを自覚しておられるのであろうかと、その辺が私は不足しているのではないかという感じがしました。
いろいろ言ってきましたけれども、もう一つ、これまでのほかの方々、専門家の方々が既に言われていますけれども、「遅くて、高くて、使い勝手の悪い司法への不満」、こういう評価は現実のものでしょう。それに対する不満を国民が持っているのではないか。国民は司法に対して、もっと何かしてほしいという意識を今、持ち始めているのではないかという感じがしました。
それから「裁判官の世界と2000人の管理社会」。2,000人というのは、ここで言えば簡易裁判所の裁判官は除いた数字になるかと思いますが、今裁判官は、最高裁の人事行政の中にあって、その中で動いています。こういうシステムはキャリア・システムと一般的に言われておりますが、それ自体は、こういう制度を取っている限りは管理社会にならざるを得ないだろうと思います。そのことはやむを得ないではないかと思いますけれども、それを何らかの形で変えていく必要があるだろうし、その方法はないだろうかということも考えました。
その次に、ちょっと失礼かもしれませんが「キャリア裁判官制度の下では時代の変化に対応できない」ということを書きました。すべてと言うわけではありませんが、先ほど例に挙げましたように、例えば商工ローンの話だとか、臨界事故の例を考えますと、もう少し時代の変化に沿ってと言いますか、先の見える判断というものをしてもらえなかったんだろうかという気持ちがいたします。
二番目の大きな項目として、「いま国がするべきこと、審議会設置は時代の要請」と書きました。これは小渕総理大臣はじめ、政府がやろうというのですから、まさに審議会というものは時代の要請であるだろうと思います。小渕首相は第1回審議会のあいさつの中で、そこに書きましたように「利用者である国民の視点に立って、21世紀の我が国社会において司法が果たす役割を明らかにし、司法制度の改革と基盤の整備に関する基本的な施策について有識者の皆様に審議していただく必要がある」という具合に言われております。まさにそのとおりではないかなと思います。
次はちょっと飛ばします。先ほどからセーフティーネットということを若干申し上げておりますので省略しますが、その後に「リストラと失業者の急増、弱者救済のための役割」と書きました。今の社会の状況の中で、これからもリストラという問題と失業者の急増というせめぎ合いが続くと思います。そういう意味で弱者という方々はまだ増えるのではないかという状況がありますが、これは髙木委員の論点整理に関するの意見書の中にもあったかと思いますが、例えば労働裁判所とか、そういうもう少し専門性を持った裁判所の設置ということもこれから必要ではないだろうかという具合に思います。
もう一つは、今、日本の社会は、国際化の波にさらされている状態だと思います。そういう中で経済界からも強い要望が出ています。それに対応できる制度の基盤というものをつくらなければならない。「世界から後ろ指を差されない社会」と書きました。これは、そのことを指したつもりですが、一つ頭に描いていたのは、刑事裁判における人権問題みたいなものに対する国民の意識もあります。また仲裁のようなものが日本の中で非常によちよち歩きです。これもやらないと、訴訟自体が日本から逃げていくという状況が既に生まれておりますけれども、そういうことがこれからの大きな問題だと思いました。
1億2,000万人の国民というものを律していくというか、そういう類の将来の司法のシステムをつくるという考えの中には、多少抽象的ではありますが、ゆとりある社会、そういうものを思い描いて、これからのシステムを考えていく必要があるのではないか。50年前、日本が戦争に敗れた後、日本の司法は確かに変わりました。しかし、現在、それが十分機能を果たしていないという現状を踏まえた上で、これからの50年というものを考える必要がある。その場合にやはりここで司法への市民参加が必要ではないかということを思いました。
こうして見ると、司法制度改革というのは、結局は「国の骨格をつくり直す作業」ということになるのではないかと思います。要するに、今までのような形で部分的な修正ではきかないということに気付いて、もう一回立ち返ってみる必要はないだろうかと、そういう具合に思いました。既にどなたかがおっしゃっていると思いますが、臨時司法制度調査会が昭和39年に意見書を出しております。当時その事務方でおられた矢口洪一さん、最高裁総務局制度調査室長で、当時臨司の参与を兼務されていたようですが、その方が言われている。何度か矢口さんとはお話ししたことがあるんですが、基本的にあの人のおっしゃっているのは、「法曹に人材を求める新しい制度が必要である。法曹養成の問題と法曹人口の問題。裁判官は弁護士や検察官などから広く求めるべきで、それには法曹一元制度を目指し、現行の判事補制度を廃止すべきである。」ということです。つまり、キャリア裁判官制度という今の官僚裁判官の制度をつくり直すべきではないかと。あの人自身がおっしゃっているわけです。既に35年前にそういうことを言っているわけでして、それがいわば臨司意見書の柱だったろうと思います。
当時もそうだったし、未経験の大きな改革です。要するに、そういうことを私自身も経験したことはありませんし、日本人としては今まで経験したことがないことですから、躊躇するのは当たり前です。そこにどういうリスクがあるかということをいろいろ考える。これも当然だと思います。しかし当時と今は状況が大きく違います。当時はまだ経済的な状況とか、社会的に言うとイデオロギーの対立などもあったと思います。弁護士会は反対いたしました。そういう状況もあったと思います。だから、その当時は踏み込めなかった。
35年前ですから、昭和39年、東京オリンピックの年ですけれども、それから既に35年も経ているわけですから、このことをもう一度考え直す必要があると思います。それがいわゆる「今日的な意味」だという具合に私自身は位置づけたわけです。
法曹一元ということになると、裁判官は主として弁護士の中から選ばれます。その場合を考えると、弁護士さんはすべていい人ばかりではありません。中には問題を起こした弁護士さんもたくさんおります。そのことは弁護士会自身が、綱紀委員会、あるいは懲罰という形でやっておられますけれども、まあ、社会全体から見ればやはり国民の方は今の裁判官の廉潔性と言いますか、一般的には日本の裁判官の廉潔性というのは一つの魅力ではあろうかと思います。ですから、それに代わって、例えば弁護士をした人が裁判官になるということについて不安を持つのもやむを得ないと思います。しかしそのことは制度をきちっとつくることによって可能ではないか。つまり、裁判官を選ぶという組織、選考委員会、私にはまだ具体的なイメージはありませんけれども、そういうことをしっかりやれば、そのことは可能ではないかと思いました。ごく最近、「日本裁判官ネットワーク」というのができて、本を出しております。その本を見ていても分かるんですけれども、そういうことに裁判官の中から気づき始めた。もともとそういうことを言っておられた人もいますが、恐らく裁判官の、ここでは何%と申しませんけれども、多くの裁判官が思い当たる節があると思っていることがあるのではないかと思います。やはり裁判官の意識も最近変わりつつあるのではないか。そういう具合に私は思います。
矢口さんの意見というのは、基本的には弁護士会に対する自己改革、それから弁護士さんの増員ということも踏まえたメッセージではあるんですけれども、同時にこれは裁判所、それから法務省ももっと責任を自覚すべきではないか、そういうことを言っておられるように思います。私は矢口さんが難しい問題がいっぱいあることを、全く意識せずに言っているとは思いませんけれども、非常に難しいということを踏まえた上で、矢口さんは、こういうことを今やるべきだと言っておられる。そのことに謙虚に耳を傾ける必要があるのではないかというように私は思いました。
あとは時間もありませんので、適宜省略しますけれども、法曹人口を大幅に増やす必要は当然あります。
それから、過疎・過密対策というものに対してどういう手立てがあるのか。そのことも明確にする必要があると思います。今日も青山先生がロー・スクール構想について言われたようでありますが、そのことも当然必要です。
それから、総合法律事務所、やはり裁判官を輩出する事務所の形態というものもこれからは備えていかなければならないだろう。
それから、法律事務の独占、兼業・営業制限とか、委嘱事項の義務など弁護士法の見直しも必要です。今でも委嘱事項の義務ということで弁護士会で推薦していろんな委員を出したりしておりますが、そういう意味ではもう少しこの部分についても、裁判官も出せるという状況を弁護士会自身がもっと考える必要があるのではないかと思います。この前ちょっと岩手県の弁護士会の方の話を傍聴したことがあるんですが、法曹一元のために公設事務所を開設しようという意欲を持っていて、確か2000年度中に実現したいということをおっしゃったと思うんですが、そういう具合にやっておられます。こういう改革の芽を今、つぶしてはいけない。小さいように見えますが、この芽を大切にしてほしいと思います。
それから、ついこの間、氏A司法書士会のシンポジウムに出させていただきましたが、そこでもかなり熱心な議論が行われました。日本の弁護士の数は少ないと言われる一方で、司法書士の方、それから税理士の方、弁理士の方、いろいろおられます。弁護士会は弁理士の方と仲裁センターをつくったりして、既に活動を始めています。これを例えば法廷代理権をどうするかという問題、詳しい問題になってくると、対立する問題もありますけれども、例えばクレジット、サラ金問題などで司法書士会が相談所を設けたりということもやっていますから、そのことも社会の現状をもっと重視すべきです。隣接職種の人たちも含めてこれからの司法制度改革ということをやっていかれる必要があるでしょう、そういう具合に思いました。
それから、陪審・参審、これはいわゆる市民が司法に参加するという意味で一番直接的な方法だろうと思います。私は今、目の前におられます藤田先生と、第二東京弁護士会仲裁センターで御一緒させていただいて、いろいろ教えられるところがあるんですが、そういうことも含めてでありますけれども、一般の方々がそういうのに参加するということも、これからは重要なことではないかなと思います。
ちょうど68年前、昭和6年、1931年ですけれども『陪審手引』という手引書が5万人の当時の陪審員に配られました。昭和3年に陪審制度ができて、その3年後のことです。その復刻版というのが最近発刊されましたので、それを読んで、ああ、なるほどと思いました。その中に「我が陪審法の精神」という項がありまして、そこには大変重要なことが書かれています。要約しますと、日本の国権の作用は立法、司法、行政から成り、立法は帝国議会、行政は自治制度として国民が共に参加しているのに、以下は原文です。「ひとり司法だけは、国民の参与を認めず、特定の裁判官を置き、専らこれに携らせてきたのであります。」と書いてあります。まさに今ここで審議しなければならないことが、既に68年前に書かれているわけです。その後、社会状況も変わりました。結果的に戦時中ということで、それが一時中断されるという状態になってくることは皆さん既に御存じのことですけれども、やはり今、もう一度このことをしっかりと考え直す必要があるのではないか。過去にそういうことがあったということをもう一度着目して考える必要があるだろうと思います。
ここに陪審制度のメリットということを書きました。
「第1に、法廷証言の重視、証拠の公開、自白重視の現在の捜査の反省」。恐らく陪審制度ができると、そういうメリットがあるのではないか。
「第2に、大型裁判の長期化に歯止め」を掛ける。過去にも大型裁判が非常に長引いて、それがいかに国民の裁判に対する不信感を醸成したかということは、ほかの方も言われておりますし、裁判を早く終わらせるために、変えるべき一つの制度的変革として、こういう方法を考えてもいいのではないか。そういうことを考えました。
「第3に、市民参加型司法の実現」。これは陪審、参審の問題の一番頭で申し上げましたけれども、そのことは重要です。
その次に「陪審制度導入による市民の司法教育効果と学校教育の影響」。
物事はスタートがなければ、経験の積み重ねというものがありません。どこかでもう一度再スタートして、その蓄積をつくっていくことによって、日本の社会で市民も参加できる司法というものが可能になるのではないか。先ほど藤井先生が言われましたけれども、学校教育の問題もあります。親がそういう経験を持つことに、あるいは学校の先生がそういう経験を持つことによって、子どもたちにそのことを伝えられる。そういうメリットはあると思います。
「陪審法停止に関する法律」、これはいつでもまた陪審が復活できるように用意されています。それから、裁判所法3条3項も、やはりそういう考え方を踏まえた上でまだ置かれているわけです。ですから、これを既にないものとして考えるのではなくて、そのことを活用するという発想というものはあってもいいのではないか。二つの法律に結末をつけるときが来ているのです。
それから、最近よく少年審判への参審制導入ということが言われています。私もこれは賛成です。やはり少年審判のように非公開のケースでは参審制ということも当然に考えてもいいのではないかと思います。
その後に「調停制度と仲裁機関の拡充、国際化」。これは先ほどから申し上げていますけれども、広く国際的な視野で考えていく必要があるのではないか。もちろん、陪審制度の中にもデメリットと考えられる部分もあるかと思います。よく言われるのは、日本人は本当に陪審制度ができたときにそれに参加するだろうかということで、確かにそのことは頭に当然入れて考えねばならないことです。そのことを抜きにして、いいですよと言って諸手を挙げるわけにはいかんと思います。ただし、そのことも、かつて日本に陪審制度が存在したという重みを考えて、克服するという、そういう心構えを我々が持てば、何とかなるのではないか。私は楽観視していますけれども、そういうことを考えるべきではないかと思います。
第六番目の大きな項目に移ります。私、今日ここへ来る前に、ここの事務局から先生方の論点整理に関する意見書というものをいただきまして、読ませていただきました。基本的には、恐らく物事の考え方のベースというものは、実は皆さんも私も、ほとんど大きな違いはないのではないかと思います。ですから、そのことをこれからどういう方向で、どういう具合に選んでいくのかということが今、問われているのではないかと。そういう具合に思いました。
ですから、私は今日は問題をできるだけ絞ってお話しした方が分かりやすいだろうと思いました。司法制度改革審議会では、「法曹一元」、それから「法曹人口増」、それから「陪審・参審」の三つの問題に絞ってまず最初に御審議願えないだろうかと思います。その上で、いろいろこれから解決する問題があると思います。
法律扶助の話は先ほども出ておりました。やはり日本の法律扶助の予算が少ないこと。それから、被疑者国選弁護の問題もあります。これは法務省と日弁連との間の話し合いも進んできたやに聞いておりますが、そういうことももちろん必要です。ただしこれは、この審議会でそのことをもう一度議論しても、恐らくそれだけの余力はないと思います。それは別な方法でもできるのではないだろうか、そういう具合に感じました。
仲裁制度についても、法制審議会で既にこれをどうしようかという議論がされているように聞いております。今、倒産法の方が優先していますから、仲裁法の改正問題は少し横に置かれているようでありますが、これもそう時間を置かずに可能ではないかと思います。それは当然に経済界などからも要望が出ていることですから、そのことは進めていっていただきたいと思います。
法曹養成については、まだそこまで正確に申し上げられませんし、ここでは何とも言えませんが、既に大学の中で法曹養成制度をどうするかということが動き出しているという具合に聞いておりますし、幾つかの案も出ているだろうと思いました。本当はこういう議論はもっともっと煮詰めて時間を掛けてやるべきではありましょうけれども、現在の状況からいきますと、2年間というある程度の期限を切って、ここまではやろうということにし、審議会の議論はすべてに渡らなくても私は仕方がないと思います。この部分とこの部分とこの部分は、この司法制度改革審議会として結論を出しましょうやという話を是非お願いしたいと思います。
「法曹一元」の議論にしてもそうでありますが、陪審制度自体も過去にあったことです。法曹一元について言えば、昭和13年、私が生まれた年ですけれども、1938年に衆議院に、当時の法曹出身の議員さんが、弁護士3年を経験した人から裁判官を選ぶという形で法曹一元を提起されたようです。衆議院ではそれが通過したけれども、貴族院ではそれが審議未了に終わったという経過があったという具合に聞いております。ですから、この審議会でも一定程度の結論を出して、私はやはり国会のような場に議論を委ねてみてはどうかと思います。そこでもっと議論を進めるということにしてはどうでしょうかという具合に思いました。
実は私ごく最近、かつての同僚、今から20~30年前に、同じように司法記者として取材した人に会いまして、こういうところで話をするんですという話をしたときに、彼は司法制度改革審議会があることも余り知りませんでした。そこで何を話すのかということを聞かれまして、私はショックを受けました。つまり、かつてそういうことを取材した人でも、現在、ここでこういう議論が行われているということを知らない。国民の恐らく99%は知らないんじゃないかということです。新聞には大きく出ていますが、ほとんど読まれていないのではないかと思います。
ですから、私はとにかくまずこういう問題があるということを、それこそ国会に出して議案にするとか何とかということでもって議論を広めるということから始めないと、関心を持っているのは一部の法曹関係者、それから私などのように多少それに気を付けている人間くらいではないかなと。それが現実ではないかということで私はショックを受けました。もちろん、新聞を読んでいる人は、何千万人といるわけですから、もうちょっと知っているよということであるかもしれませんけれども、本質は何であるかということについて、議論したりという場は恐らく世の中にないのではないかという感じがします。私の悲観的な物の見方かもしれませんが、まずそういうことをやって議論を広めるということが重要ではないかと思います。
もう一つ最後に付け加えますが、法曹一元と言うと、明日から急に裁判官が弁護士出身の方ばかりになってしまうように思われるかもしれませんが、実はそんなことはできるはずがないんです。現在の裁判官の方が全部いなくなったら司法の場が混乱するのは当然です。急にそういうことをやったところで、法曹一元制度がうまくいくわけがありません。恐らく私の想像だと、50年後くらいでなければ完全なものにならないという、それがせいぜいのところではないか。あるいはもっと後ろになるかもしれないということも考えています。今の世代の我々自身がその取っ掛かりをつくる、そういうスタートをまずしてみてはどうか、そういう具合に私自身は思っています。
そういう意味で、私は法曹一元ということをやることについて楽観的に考えています。裁判官の半分くらいが法曹一元制度の裁判官で埋まるのは、恐らく30年先であるか、そのくらいになるかもしれません。
オランダの事情に詳しいある人が言っておられましたけれども、オランダは日本と同じような形のキャリア・システムの国、OECDの中では唯一日本とよく似ていると言われているようですけれども、そのオランダですら弁護士出身の裁判官が半数を占めるそうです。この点は是非調べていただきたいと思います。
つまり、世界はそういう具合に動いているということをもっと頭の中に入れてやっていく必要があるのではないかと思います。
最後に、戦前に陪審法ができたいきさつを歴史的に振り返ってみますと、陪審法を提唱されたのは原敬さんですけれども、1918年に原敬内閣というのはできた。あの人は1921年に暗殺されます。その後継内閣ができますが、その後継内閣が陪審法を成立させるわけです。それが1923年なわけです。そして、陪審法が施行されたのは1928年、昭和3年です。これ一つ取っても、時間を掛けてやっていることが分かるわけです。それでいいと私は思います。そういう具合に我々は、タイム・スケジュールというものを作ってみて、まずスタートしてみる。あるいはスタートするきっかけをこの審議会でつくっていただくということが重要ではないかと思いました。
長い間どうも済みませんでした。
【佐藤会長】どうも貴重なお話ありがとうございました。
それでは、御質問を賜りたいと思いますけれども、いかがでしょうか。
【井上委員】三点伺いたいのですが、まず、最初の方に書かれている「キャリア裁判官制度の下では時代の変化に対応できない」という部分、例として挙げられたことだけではまだぴんと来ないものですから、もう少し説明していただけませんか。
もう一つは、法曹一元を目指すべきだが、大分掛かるとおっしゃったことについてですけれども、それが実現するまでの間も毎年毎年、質の高い人を一定数裁判官に採っていかないといけないわけですね。その点、判事補制度をやめた場合にどうするのか。あるいは、判事補制度を維持したとしても、それ以外の人を半分くらいにしていくためには、給源は主に弁護士さんですので、弁護士任官を進めていかなければいけないが、現状でもそうでありますように、一定の地盤を築いた弁護士さんの間からいい人に任官してもらうのがなかなか難しい。そういうところをどうやってやっていけばいいのか、何かアイデアがおありでしたらお伺いしたいと思います。
三つ目は、陪審制度についてですが、かつて動いていた刑事陪審制度が停止状態のままにあるので、これを復活するというのがあるいは一番手っ取り早いのかもしれませんけれど、一般の人にとって最も身近なところで司法に参加するという考え方からしますと、むしろ民事の方がふさわしいような感じもするのです。何故刑事なのか、まあ歴史的にそうなっていたということでそうなのでしょうけれども、その点何かお考えがあれば、お聞かせ下さいませんか。
【米澤氏】二番目は何でしたか。
【井上委員】二番目は、法曹一元の実現は50年後のことだとおっしゃるんだけれども、そこまでどうやってもっていけばいいのかということです。
【米澤氏】実はキャリア裁判官のところは多少刺激的な言葉だなと後でちょっと反省していたんですが、今の制度の下では時代の変化に対応できないということの例として、先ほど商工ローンということと、それから臨界事故ということを例に挙げました。言葉足らずだったと思いますので、説明させていただきます。例えば商工ローンの問題などは、第一義的には法律に欠陥があったということだと思います。要するに、成立過程の国会で既に議論されていたことですが、そういうグレー・ゾーンが存在するということで問題があるのだと思います。与野党で対立した経過のある問題ですから、問題の本質は割とはっきりしている。
今でも、「それでは利息制限法だけでいいのではないか。」、あるいは、「別に出資法というものがあるからこそ、中小企業の人たちが借りる場所がある。」、そんな二つの言い分が対立しています。そんな状態ですから、法律の問題であるということがはっきりしています。
そして、それに対して行政が救いの手をどこまで及ぼそうと努力したのかということが、もう一つの問題としてあると思うんです。
法律を厳格に解釈すれば確かに利息制限法の上限のところでしか今の裁判というものは対応できない。そういうような気持ちが裁判官の中に恐らくあると思いますし、もちろん反論というのがあると思います。ですが、それだと多重債務者とか商工ローン被害者は救われません。そこをどうするか。そこに司法の出番があるのではないか、ということです。
実はこのことをある人に言ったら、「それはあなた、情緒的過ぎますよ。」と言いましたけれども、私はそれに対して、「そういうことを言っているけれども、これからは、そういうことでは司法というものが通用しなくなる時代が来るのではないか。」ということを言ったことがあります。つまり、そういう視点というものを、裁判官という人が持っていてほしい。もっと本質を見てほしいということです。
実は正しい例かどうかちょっと分かりませんけれとも、日弁連の調査団が去年の春にドイツとオーストリアを訪れ、貸金だとかサラ金だとかクレジットとかいう問題のことで調査したことがあるそうです。その中の一人が、ドイツには利息制限法とかいう規制はないと報告しています。しかし、銀行の市場貸付金利の2倍を超える金利は公序良俗違反で無効であるというドイツ連邦最高裁の判例があるそうで、実際には18%を超える貸出金利は無効とされているという具合に言っています。
日本の現実を見ますと、この商工ローンだけとってみても大手3社の調達金利は2.33%だそうですが、貸出金利は20.87%と言われています。手数料とかも入れると30%を超えると一般には言われております。
つまり、この辺の現実の問題に対して裁判所は何か、もっと適切な対応ができないのだろうか。既に簡易裁判所では7割がクレジット、サラ金の問題で訴えたり、訴えられたりしている人が来ていて、それが問題になっているという現状を踏まえれば、やはり法律というのは最低のモラルというように考えるべきではないか。そういう具合に私は思いました。それは法律解釈として正しくないとおっしゃる言い方も、もしかしてあるかもしれませんが、これは国民感情です。私のような考えを持つのは当然だと思います。だから、そういう市民感情に敏感な、その先が見えるというような裁判官をつくる必要があるのではないかと私はそう思いました。
第二点の、50年後という話ですが、私も実はこれはそういう具体的な計画を持っているわけではありません。私は幸いというか、日弁連のそういう関係をやっている方の勉強会を傍聴したことがありまして、日弁連の人がそういう具合に今考えておられることを知っています。それで私も同じように考えるのがよろしいと思っているわけですが、それを私の考えであるかのようにここで言うのは差し控えさせてもらいたいと思います。ですから、それは私じゃなくて、そういう方にまた改めて聞いていただくと有り難いんですが、そういう意味で私の答えにはなりませんが、申し訳ありません。
【井上委員】三つ目は、陪審というものが何故刑事に特化して語られるのかという質問です。
【米澤氏】それは、弁護士さんで、ついこの間アメリカへ行って、民事陪審を勉強してきたという人がいまして、その人は非常に感心していました。民事陪審というのは非常に面白いと。日本は民事陪審を取り入れるべきだと言っておりました。ただ、私はその知識がありませんので、そういう人たちに聞いていただければいいし、あるいは専門の大学の先生をお呼びになって聞いていただければ有り難いんです。先に私が刑事陪審のことを言ったのは、とりあえず、戦前の陪審を復活させるという場合、まずこれではないかという意味で申し上げたわけです。そんな深い意味はありません。
【佐藤会長】ほかによろしゅうございますか。
【竹下会長代理】一つ伺ってよろしいですか。一番初めの御発言の御趣旨がよくわからなかったのですが、日本でも判例では利息制限法違反で払った分は、利息制限法の文言にむしろ反すると思われるのに取り戻せるということになっていますね。
調停の場でも利息制限法どおりに引き直しをさせて処理をしているというふうに伺っているのですが、そのように利息制限法を基準にしてやるのではなくて、もうちょっと弾力的にやれという御趣旨なんでしょうか。
【米澤氏】そう理解していただければ結構だと思うんですが、要するに、経済状況が、かつて一般の市中金利が高かった時代は恐らく利息制限法、もちろんこの程度ということでよろしかったんだろうと思いますが、現実に金利がものすごく下がって、ゼロという現実になったときに、法律を変えて対応するということは恐らく不可能だろうと思うんです。そういうことだけでその都度上げたり下げたり、変えたり何かするのは、それは法律を運用する上で正しいやり方ではないとは思います。けれども、むしろそのことを踏まえて、裁判官というものは、そういう弱者、こういう言葉が正しいかどうか分かりませんが、そういう人のために対応するという、多少メンタルな話かもしれませんし、それは法律解釈上間違っているかもしれませんけれども、一般の国民の気持ちというものはそういうものではないかという具合に理解しています。
【竹下会長代理】すみませんが、それはキャリアであるか、法曹一元の裁判官であるかということとちょっと結び付かないのではないでしょうか。むしろ経済的に言えば、商工ローンなどに低い金利で融資をしている金融機関がもう少し高い金利で中小企業に融資をすべきであるとおっしゃるのなら分かります。本来はそちらの方の問題なのだと思います。法曹一元制を支持されるという結論は、その問題だけではなくて、全体的な御判断に基づいて言っておられるのだと思いますけれども、その例で言われると、私どもとしては、率直に申し上げてちょっと筋違いかなという気がいたします。
【米澤氏】分かりました。余りこれに正確に反論できる根拠にならないかもしれませんけれども、法律上のそういう問題とは、ちょっと状況は違うかも分かりませんが、国民一般は司法に対してそういう感情を持っているものだということを、是非理解していただきたいと思います。
【藤田委員】今日は時間が制限されていますので、余り十分にお考えを述べられる余裕がなかったかと思うんですが、『日本の司法はどこへ行く』という本をお出しになっておられますし、それを拝見しております。それから、さっきちょっとおっしゃいましたけれども、第二東京弁護士会の仲裁の事件を御一緒に組んでやらせていただいておりまして、和解が成立しております。そういうことで米澤先生のお考えはある程度わかっているつもりですが、法曹一元の問題で、矢口元長官が法曹一元が望ましいというふうにおっしゃっているのはそのとおりなんですけれども、同時に、現実にこういう方になってほしいと思うような弁護士さんがなかなか任官してくれないという問題もあるとおっしゃっておられます。弁護士の方たちが任官しようと決意するのはなかなか大変だということの一番の大きな原因は何だと御覧になっているんでしょうか。
逆に、ある条件を満たせば弁護士任官がどんどん広がってくるというような、影響のある条件というのはどういうところと御覧になっておりますか。
【米澤氏】最高裁の事務総局と言いますか、私自身最高裁の事務総局の方々とは知り合いなものですから、話をするんですけれども、全国津々浦々裁判官のすべてを、東京の最高裁で、その方々がどういうキャリアを持っていて、どういうことをやってきたかというのをずっと調べた上で、調べた上でというか、それは各地裁とか高裁から情報を上げた形で、そして一元的に人事をやるというような、そういうシステムというのは、これは一般の企業とあまり変わりのない管理社会ではないか。つまり、そういうことに大きな問題があるんじゃないか。そう思っています。弁護士さんは、その中に入っていくには、今の時点では、あそこの中に取り込まれていくというか、そういう補充的要素という意味で使われるということが、そういう認識みたいものが弁護士さんの中にあるのではないかなということが一つ。
それと、弁護士さんが裁判官になった場合、自分が今まで抱えていたある程度の顧客、その人たちから離れて裁判所に入っていくと、それを引き継ぐ土壌と言いますか、そういうものが現実にはないと思います。それが例えば法律事務所の組織をもっと拡大して、その人が抜けた後でも、それをだれかが補完するというような法律事務所につくっていく必要もあるだろうし、その辺もないと、やはりうまくいかないのではないかと思います。ですから、一回行ってしまうと、今度はもう戻ってきたときには、そこは自分の後はふさがってしまっていて、そういう点で自由に行動ができないというような、そういうものがあるのかもしれないと感じています。
問題として、例えば能力論だとかいう話が出ますけれども、私は能力論はそう重要視することはないと思います。私は弁護士さんはその辺のことは口で言わなくてもかなり承知しているだろうと思います。大きく言えば、そんなところではないかと思います。
【佐藤会長】ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
ちょうど1時間になりましたけれども、どうもありがとうございました。(拍手)
(藤井理事長、米澤進氏退室)
【佐藤会長】それでは、配付資料についてちょっと御説明いただけますか。
【事務局長】はい。まず、配付資料一覧表の三番目の「諸外国の司法制度概要(説明付き)」と言いますのは、中坊委員の御示唆によりまして、第5回会議においてお配りした「諸外国の司法制度概要」についての事務局説明をまとめました上で、本体と合冊して御利用いただきやすくしたものでございます。
四番目の「各界要望書等」の中に「司法制度改革のために検討すべき事項」と題する書面が入ってございます。これは第1回会議の配付資料に含まれておりました関連新聞記事の中の、本年1月4日付読売新聞の司法改革に関する解説記事におきまして、法務省がまとめた検討事項として、その一部が報道されているものですが、今回その元となったものを参考資料として配付させていただきました。
六番目は第5回会議の議事録でございます。
その他の資料は、毎回お配りしているものでございまして、特に説明することはございません。以上でございます。
【佐藤会長】今日是非お諮りしておきたいのは、地方公聴会のことなんです。前にちょっと御相談したことがありますけれども、全体は追って御相談するとしまして、今年度中に1回やっておきたいということなんです。準備の関係もございまして、1か所、しかるべきところで公聴会を開かせていただきたいと思っておりますが、最初やるとしたら、大阪辺りになるのではないか、そんな感じもするんですが、いかがでしょうか。やるとなったら3月くらいですが、今年度中はとりあえず1回やってみて、先ほど、一般の国民は余り知らないんじゃないかというショッキングな話もありましたけれども、少し世の関心を喚起する必要もあるのではないかと思います。いかがでしょうか。その辺、計画させていただいてよろしゅうございますか。
(「異議なし」と声あり)
【佐藤会長】内容については、会長代理とも御相談し、また、審議会においても御相談したいと思うんですけれども、そのようにさせていただきたいと思います。
以上でございますが、次回ですけれども、法曹三者からのヒアリングを予定しております。それから、最初に御相談申し上げた論点整理について、重ねて文書をお示しして、御相談したいと思います。
では、今日はどうも長時間にわたってありがとうございました。