司法制度改革審議会

司法制度改革審議会第13回議事概要


1.日時:平成12年2月22日(火)14:00~17:20
 
2.場所:司法制度改革審議会審議室
 
3.出席者
(委員・50音順、敬称略)
石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治(会長)、髙木剛、竹下守夫(会長代理)、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子
(事務局)
樋渡利秋事務局長
 
4.議題
①「弁護士の在り方」について(レポート及び意見交換)
②「裁判所・法務省の人的体制の充実」について

5.会議経過

① 「弁護士の在り方」に関し、前回に引き続き、中坊委員から「弁護士制度改革の課題-その2-」(別紙1)と題した説明が行われ、これを踏まえた以下のような意見交換の後、法曹(弁護士)人口の大幅増員が必要であり、また、法曹(弁護士)の量・質をともに充実させる見地から、法曹養成制度の抜本的な検討が必要であることにつき意見が一致し、その旨確認がなされた。

○ 弁護士人口算出の方法として示された数字は、あくまで一つの目安と考えるべきである。弁護士人口は、死亡等による自然減の分を差し引いたネットの数字をベースに検討すべきと考えるが、そうした自然減については数字で示せるか。(応答:会員名簿で確認する等により、ある程度の数字は示せると思う。なお、平均的な実働年数は、35~40年程度と考えられる。)

○ 弁護士は高齢になると資格を返上するのか。(応答:弁護士登録を抹消する者としない者があり、これは会員の自由である。なお、単位弁護士会毎の規定により、高齢会員には会費の減免が適用される場合がある。)

○ 5~6万人程度の弁護士人口を目指すとのことだが、どのくらいの期間でこれを達成すべきと考えるか。(応答:様々な要因を考慮する必要があり、一概に言うことは難しい。)

○ 弁護士人口の適切な水準は決めがたい。弁護士が相対的に多いとされる東京や大阪でも、弁護士の都合で裁判の期日がなかなか入れられないのが実態である。(応答:東京や大阪でも、弁護士人口が十分とは必ずしも言えない。弁護士人口の増加と並行して、執務態勢の充実が重要であり、法律事務所の共同化、法人化、複数事務所等について、利用者の視点で検討すべきである。)

○ 弁護士の大幅増員の問題は、法曹養成制度と密接に関連する。ロースクールの在り方について検討すべきである。

○ 「官」は「民」と敵対するという構図を前提に、弁護士は「民」の側に立つとの説明には疑問がある。公益の追求は、政府や自治体の本来的な責務であり、これらに求めるのが筋ではないか。この点との関係で、弁護士自治について、我が国の制度が諸外国と比較してどうなっているか教えてほしい。(応答:諸外国においても、弁護士は、権力の濫用を防止するという公益的使命を帯びた職業として位置づけられている。弁護士自治については、我が国では歴史的経緯を踏まえ戦後ようやく「官」からの自立を獲得したものである。なお、日本ほど徹底した弁護士自治は、他に例をみないとされる。)

○ 公権力の行使が誤ってなされる場合に、(弁護士が)これに対抗できなければならないということに過ぎないのではないか。(応答:「権力は腐敗する」との言葉があり、国民の側がこれを予防するため、チェック機能が必要である。現実には、弁護士がこうした機能を担っている。)

○ 弁護士業務に公益的側面があることは否定しないが、公務への就任を弁護士の責務として法律上義務づけることは、弁護士を辞めることが弁護士の義務であるということになり、自己矛盾的である。また、職業選択の自由に反するのではないか。(応答:弁護士は公益性を帯びた職業であり、裁判官に推薦されれば、正当な理由のない限り引き受けるべきことを法律上明確化すべきと考える。弁護士は公益的な職業であることは、独立した職業であるにもかかわらず国費で修習が認められている点からも明らかである。「一国の法がこの国の血肉と化」すために弁護士が「”国民の社会生活上の医師”の役割」を果たす必要があることは、論点整理の段階で既に合意済みであり、そこから、かかる弁護士の責務が導き出されると考える。)

○ 現状では、弁護士法24条に定められている公的な委嘱事項等の引受義務についてさえ、弁護士側は十分に対応していないように思われる。個々の弁護士は多様な事情を抱えている。仮に弁護士の公的義務を法律上強めたとしても、果たして実効性が担保されるのか疑問である。(応答:私案では、正当な理由があれば公務就任を断ることもできるが、正当事由に該当するか否かは、自治団体である日弁連が最終的に判断する。弁護士を志す者は、それが完全に自由な職業でないことをあらかじめ了解して職業選択を行ったと解すべきであり、裁判官になりたくない者は、そもそも弁護士になるべきでないと考える。)

○ 弁護士が裁判官になる場合、転勤の必要性、顧問先との関係など様々な障害がありうる。「正当な理由」の判断は実際には困難であり、公務就任の義務化は現実的ではないのではないか。(応答:法曹一元を採用すれば、裁判官は地域に根差したものとなり、転勤は例外的なものとなる。顧問先との関係は、法律事務所の共同化、法人化等を進めることにより対応可能と考える。)

○ 現在既に弁護士となっている者は、公務就任の義務化に納得するのか。(応答:現在の弁護士は、一方で特権を享受しつつ、義務の感覚が薄い。医師や大学と比べても高度な自治を有する弁護士は、国民が求める社会的責務を果たしていくべきと考える。)

○ 現状では国立大学教員が民間企業の役員になれないことについて、最近問題提起がなされている。このことと同様、既存の法律の枠組みにとらわれず、弁護士の兼業規制は見直していくべき。

○ 弁護士の業務に公益的側面があることについては認識が一致しているが、公益性の具体的中身や、その法制度的な発露はどのようなものであるべきか等については、さらに議論していく必要がある。その際、個人が多様化する中で、「公」とは一体何かについて議論を深めるべきである。

○ 弁護士報酬が不透明で分かりにくいとの批判に対し、事例集の発行を検討するとのことだが、具体的にはどのようなものか。(応答:地域毎に目安となるような典型事例を集めて冊子をつくり、一般利用者へ配布することが考えられる。弁護士会は積極的に取り組むべきである。)

○ 利用者の立場からは、弁護士の業務の顧客満足度への配慮が不十分と言える。依頼者と同じ目線に立っておらず、難しい法律用語を用いた説明などで、信頼関係が構築されていない場合も多い。(応答:弁護士人口が少ないことで弁護士側に甘えが生じ、客を自由に選べて当然と思ってきた。顧客の満足という点で、弁護士側に謙虚な姿勢がなかったことを反省すべきである。弁護士報酬は、顧客が弁護士の仕事に満足して初めて貰いうるものと心得るべきである。なお、法律紛争においては、主観的な要素が多いことから、依頼者との信頼関係を構築することが簡単にはいかないことも事実である。)

○ 隣接法律専門職種等との関係に関し、それらの歴史的経緯、行政庁との密接な関係、能力的限界等の問題点を指摘されたが、否定論を述べるだけではなく、今後ここをこう変えれば可能というような議論をすべきではないか。(応答:ワン・ストップ・サービスを実現するため、関連資格者との協働は進めていくべきと考える。ただし、外国法事務弁護士の業務に一定の制限が課されているように、例えば司法書士が単独で法律事務を取り扱うことには問題が多いと考える。いずれにせよ、14万人の関連資格者が既にいる現実を踏まえながら、多角的に検討することが必要である。)

② 「裁判所・法務省の人的体制の充実」について意見交換が行われ、司法を支える人的基盤を充実させる際に、弁護士、裁判官及び検察官だけでなく、これらを支える職員の充実も視野に入れて検討することが必要であることについて意見が一致した。その具体的な在り方については、改めて関係機関からヒアリングを行った上で、さらに審議を継続することとされた。
 なお、その過程で、以下のような意見が出された。

○ 裁判所・法務省の予算は、一見してあまりに少ないのではないかとの印象を受ける。

○ 裁判所は、行政官庁と比べれば、増員の面でこれまで優遇されてきたといえるのではないか。ただし、これで十分かどうかは検討の余地がある。

○ 定員だけでなく、実員の数や、裁判所予算の具体的内訳も明らかにして、検討の対象とすべきである。

○ 裁判官数の中に、実際には裁判実務に携っていない人がいれば、その数も示してほしい。

○ 裁判所予算の決定の仕組みについて、行政官庁と異なる特別な手順はあるのか。(応答:裁判所の予算については、財政法19条の、いわゆる「二重予算制度」の仕組みが用意されている。)

○ 政府は、「ミレニアム・プロジェクト」の一環として公共分野の情報化を推進しているが、裁判所としても、例えば判例情報の検索が容易にできるような仕組みを整備すべきである。

③ 地方公聴会の開催地(当面、大阪、福岡、札幌、東京の4箇所を予定)以外の、地方における実情視察の視察先等に関して審議が行われ、地裁の小規模支部における実情や弁護士過疎地における日弁連の取組みの現状等を把握する見地から、6月中下旬ないし7月中下旬に、山形県酒田市及び島根県石見地方の2箇所を視察することとなった。

④ 大阪における地方公聴会(3月18日)に関し、佐藤会長から、公述人について、応募者99名の中から、会長及び会長代理による審査により6名(別紙2)を選定した旨の報告があり、了承された。また、傍聴については、事務局から、応募者612名の中から、抽選により230名を選び、当選者に対しては、今後入場整理券を発送する予定である旨の報告があった。

⑤ 海外実情調査(本年4~5月の連休期間頃に実施予定)に関し、各国別の質問事項については、委員から出された意見を踏まえ、会長及び会長代理において全体の調整を行い、確定させることとされた。

⑥ 今後の審議の進め方に関し意見交換がなされ、これまで未定となっていた4月17日(第17回)及び同月25日(第18回)の2回の会合では、①「国民の期待に応える刑事司法の在り方」、②「国民の司法参加」、③「法曹一元」について問題点把握を目的とした審議を行うこととされた。レポーター役は、①については水原委員、②については藤田委員とされ、③については、佐藤会長、竹下会長代理及び中坊委員の3人で協議の上、レポートの方法を決定することとされた。なお、これら審議は、海外実情調査の前に、論点整理に挙げた重要項目についてあらかじめ一通り勉強しておくという観点から、何が問題点となっているのかという実情について把握することを目的とするものであり、実質的な審議は改めて行うこと、また、レポーター役は、制度の現状や問題となる論点等について客観的な報告を行うべきことが確認された。
 海外実情調査後は、これまでに大括りのテーマ毎にレポーター役をお願いしている、いわゆる法律専門家の各委員に、主としてユーザーの立場の各委員も加わる形で、例えばユーザーの視点に立ったレポート等を行うこと、また、会長、会長代理及びこれらレポーター役となる委員との間で、中間報告を念頭においた各テーマ毎の議論の進め方等について適宜協議をしながら審議を進めていくことで合意した。なお、どの委員がどのテーマのレポーター役となるかについては、改めて協議した上で決定することとされた。

⑦ 次回会議(第14回)は、3月2日(木)9:30から開催し、法曹養成制度について、井上委員からのレポートに基づき審議を行う。なお、法曹養成については、次回に続き、さらに第15回(3月14日)及び第16回(4月11日)の合計3回かけて、制度の現状や問題点に関するヒアリングの実施を含め、審議を行う予定である。

以上
(文責:司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-


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