司法制度改革審議会

司法制度改革審議会第14回議事概要

1 日時:平成12年3月2日(木)9:30~12:15
 
2 場所:司法制度改革審議会審議室
 
3 出席者
(委員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、曽野綾子、髙木剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子
(事務局)
樋渡利秋事務局長
 
4 議題
①「法曹養成制度の在り方」について(レポート及び意見交換)
②次回会議の予定

5 会議経過

①井上委員から、法曹養成制度の在り方に関し、「法曹養成制度改革の課題」と題して、我が国の法曹養成制度の現状と改革の課題について説明が行われ(別添参照)、これを踏まえ、以下のような意見交換が行われた。

○ 法科大学院構想を実現するとするならば、大学人の相当な意識改革が不可欠である。研究中心の考え方から、本当に教育に力を注ぐ方向に変えるため、大変な努力が必要である。

○ 法学部以外の学部からも法科大学院へ進むことができる道を確保すべきである。また、法科大学院の入試の競争が激化するのを防ぐための方策としてどのような形が考えられるか。
 (応答:他大学の法学部から来る人との公平性と、法律を学ばずに来る人との公平性の2つの面に留意する必要がある。第1の面では、共通テストを実施して出身法学部での成績と組み合わせる方法が議論されているが、競争の激化を招くのではないかと懸念する向きもある。第2の面では、面接、論文、分析力等のテストを課すことが考えられるが、いずれにしても、募集に一定の枠を作るのか、バランスをよく考える必要がある。)

○ 現状の大きな問題点が二つあると思う。第1は、司法試験の競争率が非常に高いことで、その対応の意味で法曹人口増をとらえることも可能ではないか。また、若年人口減や価値観の多様化も考え併せる必要がある。第2は、予備校が一定のウェイトを占め、記憶中心の受験システムになっていることだが、どこにその原因があるかを考えることが必要だ。司法試験の硬直的傾向と大学法学教育の画一的傾向の中で予備校が成立する余地ができている。今回の法科大学院構想でも画一的なものを新しく作ることにならないように留意すべきである。大学ごとに個性豊かで多様なものであることが望ましい。
 (応答:司法試験の中身もかなり工夫されてきているが、限界がある。試験の基本的性格を変えることは難しく、例えば受験者全員を面接するのは限られた時間と人員ではできない。法科大学院を作る場合には、コアの部分は共通的にする必要があるが、それ以上の部分では多様なものとするべきだというのは、各大学の意見も一致している。米国のロースクールでも、トップ20校はかなり競争していて、知的財産法や税法などの得意分野を作って特色を出している。)

○ 良い教員をいかにして作るかが最も大切だと思う。
 宮沢賢治が農学校の理科の教員をしていたとき、窒素肥料のことを生徒に考えさせるために、しめ縄を教室に持ち込み、しめ縄が雲、雨、雷を象徴していることを生徒との会話の中で理解させ、しめ縄のある神社へ実際に行く途中で、稲の生育の状況が土地により変化することに気付かせ、雷(稲妻)の空中放電で窒素が固定されて雨水とともに肥料となって大地に注ぐ様子を生徒たちに教えるといったことがあったそうだが、このような発想の教育が大切である。
 (応答:今の大学教員にそのような教育ができるかというと、答えはYESandNO、できる人もできない人もいるということだろう。本当に教育力のある教員が育つには長い目で見ていく必要があるが、現在の議論でも、少人数教育が強調されるなど、討論と問題発見の繰り返しの中で教育を行っていく姿勢が出てきている。)

○ 相手をよく観察し理解すること、どう考えたかを的確に伝達することの二つが大切だ。弁護士、裁判官、検察官とも全人的な能力が必要で、若い学生にどうやって人間のことを教えるのかが重要な課題だ。

○ 法科大学院という新しいシステムの導入は簡単にできるものではないことを正確に理解した上で議論する必要がある。四つのポイントがある。
 第1は、12世紀以来の大学の伝統的分野として神学、リベラル・アーツ、法学、医学がコアとなっているが、これらの育成する人材、即ち宗教者、教員、法曹、医師はごく少数の人々が専門的に担うものであって、社会はそのために莫大な投資をすべきなのに、そこをないがしろにしてきたという点がある。特に、法学部は現状でも医学部よりも数が多く、これ以上増やすと経費倒れの懸念が生じるのではないか。例えば、仮に法科大学院の学費を現在の大学院の学費である1人47万9千円として、法科大学院の定員を100人とすると2学年で計9580万円の収入となる。一方、教員20人を平均1500万円で雇うとして3億円の人件費がかかる。2倍基準なら6億円となる。この収支差をどうするかを考えただけでも決して簡単な話ではない。
 第2は、教員の意識をどう変えられるかだ。学問は尊く実務は卑しいといった感覚がまだ根強いのではないか。
 第3は、学生の質の変化である。人生の複線化を社会が受け入れなくなり、単一の価値観で推し量る場面が増えてきているのではないか。歴史観・国家観の変化もあると思う。
 第4は、「この国のかたち」を作り直す、法化社会を支える制度を作るという視点も欠かせない。
 第3の点までは大学側の問題だが、これらを修正しつつ第4の視点から法科大学院の構図を描くというのは大変な作業であることを深く認識しなければならない。

○ 臨時司法制度調査会での議論の中で、既に、大学の専門教育が短くなり過ぎているが、まず司法試験をどう改革するかということで議論が進められていた。この問題を議論するに当たっては、その後に法曹教育をどう考えてきたのか、文部省や大学の考え方にも問題があったことを考え併せる必要があるのではないか。法科大学院構想を議論すること自体に後ろ向きであってはならないが。
 また、法曹は、一つ一つの事件を通じて先輩の話を聞きながら成長していくものであって、その前までの教育の段階で人間について完全に理解し、一人前の法曹としてすぐに活躍できることを期待するのがそもそも無理があるのではないか。法科大学院を検討する場合には、一人前になるための資質をいかに持たせておくかという考え方で臨むべきだ。
 (応答:基本的に同感。法科大学院構想も決して万能ではなく、前段階の地盤沈下をどうするか、という視点が大事だ。臨時司法制度調査会以降は法学部5年構想も出たりしたが、様々な事情で実現しなかった。)

○ 大学紛争の影響もあって、大学側が社会の需要を的確にとらえて来れなかったのは、大学側の責任として率直に考えなければならない。であればこそ、今回の改革では大学と実務界の建設的な対話が大事で、是非やり遂げなければならない。

②次回会議(第15回、3月14日(火))では、今回に引き続いて「法曹養成制度の在り方」について審議を行うこととし、以下の3名からヒアリングを行った上で意見交換を行うこととされた。
 ・小津博司法務大臣官房人事課長
 ・加藤新太郎東京地方裁判所判事(前司法研修所事務局長)
 ・小島武司中央大学法学部教授

以上
(文責司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-


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