司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第16回議事概要

1.日時平成12年4月11日(火)14:00~17:25
 
2.場所司法制度改革審議会審議室
 
3.出席者
(委員・50音順、敬称略)
石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治(会長)、曽野綾子、竹下守夫(会長代理)、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
 
(事務局)
樋渡利秋事務局長
 
4.議題
「法曹養成制度の在り方」について

5.会議経過

① 冒頭、石井委員から、21世紀の我が国社会にとって理想的な司法制度を考えた上で、それに向けて現在の司法制度をどのように改革していくかというアプローチをする際に参考になる手法として、「ワーク・デザイン・メソッド」(機能を満たす理想システムをデザインし、それから実際に実施可能なシステムを開発しようとする、新しいIE(産業工学)アプローチ)について説明があった。

② 「法曹養成制度の在り方」に関し、前回、前々回の議論を整理したものとして、井上委員から「法曹養成制度の在り方に関する審議の整理」(別紙1)及び「法曹養成制度の在り方に関する検討事項(案)」(別紙2)について説明がなされた。これを踏まえ、以下のような意見交換が行われた。

○ 現状の問題点を洗い出してその改善を図るというアプローチではなく、21世紀の司法が果たすべき役割、望ましい弁護士像や法曹人口などについてのこれまでの審議の積み重ねを十分踏まえつつ、望ましい法曹養成制度を論じるべき。

○ 理想像を念頭に抜本的改革を論じるべきことについては異論はないが、その前提として、現行の制度の問題点について認識を一致させておくことは重要である。

○ 21世紀の司法の理想像は、国ごとの事情の違いもあり、軽々に決められるべきものではない。

○ 理想形を描くことも大切であるが、現に制度が動き、関わっている人がいるのであるから、現状を把握してよりよいものにしていく視点も重要である。

○ 理想とすべき司法の姿は、国民が利用しやすい、信頼される司法であり、専門知識があるだけでは、信頼される法曹たりうるか疑問である。

○ 人間に対する洞察力を涵養すべきであり、そのためには、文学、哲学など広い意味での教養が不可欠である。また、様々な経験を積ませ、偏頗な考え方や犯罪を犯す者の心理を十分理解できることも大切だ。

○ 法曹が人の痛みを分かるということは重要であり、司法修習を含む法曹養成制度において、裁かれる側の気持ちが分かる人材を育てるべきである。

○ 裁判官、検察官においても、人の痛みを分かる感性は必要であり、そう努力している者も多いのではないか。

○ 教育や研修に全てを期待して、完成した法曹を社会に送り出すべきとの発想は非現実的。社会に出る段階は、あくまで出発点に過ぎない。責任をもって仕事をすることにより鍛えられるものである。

○ 国際法務の重要性の高まりへの対応、立法に参画する議員スタッフ、行政官、シンクタンク等の人材充実等も視野に入れ、広い意味でのローヤーの養成を考えるべきである。

○ 隣接法律専門職種等との関係も検討しなければ、あるべき法曹人口も決められない。このような関連する事項を一切捨象して、望ましい法曹養成制度を決めることは困難である。

○ 隣接法律専門職種等との関係を視野に入れることは当然であるが、それらの業務範囲等については今ここで結論を出せないので、当面は、狭義の法曹を中心に法曹養成の在り方を検討するのが適切。法曹人口それ自体も別途議論すべきであるが、数にかかわらず、質を確保するにはどのような教育が望ましいかについては議論できるはずである。現行の体制では、法の体系的理解に関する教育が十分とは言えない。

○ 税務、会計、特許等で国際的に活躍する人材が求められており、その場合に修士や博士の学位が重要となる点も、ロースクールの検討に当たり考慮すべきである。

○ 公認会計士についても、国際的に通用する人材養成のため専門大学院や資格付与の在り方につき検討が別途なされており、この審議会で会計士や税理士そのものの養成を検討することは不適切。公認会計士や税理士試験もかなり予備校化しているが、司法試験ほど合格率は極端に低くないので弊害は少ない。税理士は、働きながら取得することもできるとされる。

○ 入学者選抜の「入口」や学位付与の「出口」を含む大学・大学院教育の在り方、司法試験の在り方、司法修習の在り方、さらには、望ましい法曹人口やどのような法曹を養成の目標として念頭に置くのかという点まで、一貫した整合的なものとして制度を構築すべきである。その際、法曹養成の目標は、裁判官でなく、弁護士を念頭に置くことが適当である。

○ 司法試験の一本勝負でなく、その前段階で、ケースメソッド等を用い、比較的小人数の教育を実務経験者を教員に入れて行うべきである。現在の司法試験の合格率は低すぎるのであり、司法試験に7、8割合格するようなロースクールをつくり、腰を落ち着けて勉強させる。その代わり、怠けたら落第させる。ロースクールでは、理論と実務、先端と基礎、人格と職業技術といった3つの綜合が必要である。

○ 一般的な法学教育それ自体は意味があり、その中の一部に法曹養成に特化した教育があるということではないか。

○ ロースクールの入学者選抜をどのようにするかが重要である。選抜方法によっては、予備校依存の繰り返しとなる。自大学法学部の学生だけでなく、広く門戸を開放すべき。

○ 入口については、自大学法学部学生に限る方法と、これを一定の比率に抑えて多様性を確保する方法が考えられる。出口については、試験や修習をロースクールの後にもってくるか、途中にもってくるかなどが考えられる。

○ 選抜方法については、客観テストのみでなく、学部の成績や社会活動・経験、面接などを組み合わせる手法が考えられる。米国では、そのような方法で各ロースクールがいい人を選ぼうとする。そうしないと、ロースクール間の競争で負けてしまうとの事情がある。

○ ロースクールが最適の方策であるとの結論は、本日の段階では無理ではないか。司法試験や司法修習の抜本的改革など、ロースクール以外に有力な方策がないのか、という点についても検討すべきである。

○ ドイツなど、ロースクール方式をとっていない国の状況も参考にすべき。

○ 現行の修習制度の良い点として、出身大学意識がほとんどなくなる点が指摘されており、ロースクールの導入によって大学色が出てしまうことを懸念する向きもある。

○ ロースクールを導入する場合でも、ロースクール卒業生以外にも法曹資格を与える道は残しておくべきである。

○ 学校教育法上の大学・大学院のみを前提とするのでなく、専門学校的なものも視野に入れて検討してはどうか。大学や大学院卒の学生が入学する国際レベルの専門学校も存在する。

○ 現行の学校教育法の枠組みの中では、大学を6年間とすることも考えられるが、法学部生全員に法曹教育を施す必要はないので、大学院という形態がもっともロースクールに整合的であろう。

○ ロースクールにはプロフェッショナルの語感があるが、これを法科大学院と呼ぶことが、その内容を適切に表しているのか疑問がある。

○ ロースクールの具体的中身については、専門家に専門的立場で検討してもらう必要があり、それを踏まえて審議会として判断してはどうか。

○ 専門家に検討をお願いするとしても、基本的な骨格を先に審議会として決めた上で依頼することが必要である。

○ 検討依頼先がどのようなものになるのかも重要であり、委員の誰かが入るなど、何らかの審議会とのリンクが必要であろう。

以上の意見交換を踏まえ、法曹養成制度の在り方については、

○ 法曹養成制度の現状の問題点については、井上委員の整理が概ね委員間の共通理解であること、21世紀の司法を支えるにふさわしい法曹を養成するという点で、現在の制度の抜本的改革が必要であること、

○ 法科大学院(ロースクール)構想については、なお検討すべき点が多々あるものの、新しい法曹養成制度として有力な方策の一つであることについては認識が一致した。

 そこで、審議会としては、法科大学院構想の具体的内容について専門的技術的検討が必要であることから、しかるべきところ、例えば文部省・大学関係者・法曹三者に対して法科大学院構想に関する検討を依頼し、その検討結果を受けて、審議会において更に審議を行うこととし、検討依頼に当たっては、検討に際して留意すべき事項を、これまでの審議会の審議を基にペーパーとしてまとめ、検討依頼先に提示すること、また、検討依頼先には、随時報告を求めるなど、審議会での審議の方向と軌を一にしつつ検討を進めるよう依頼するとの方向で、具体的な検討依頼先及び留意すべき事項について、会長と会長代理で原案を作成した上、4月25日(火)の審議会に諮って審議することとされた。

③ 事務局から、先般の日弁連の会則及び会規の改正により、弁護士の業務広告の原則自由化が決定した旨の報告があった。

④ 事務局から、民事訴訟の利用者を対象とするアンケート調査について、その準備状況等の報告があった。

⑤ 会長から、地方公聴会・実情調査への参加者の調整の必要性及び夏の集中審議の必要性が提起され、改めて事務局が各委員の日程を確認した上で、次回審議会に報告することとされた。

⑥ 次回会議(第17回)は、4月17日(月)9:30から開催し、裁判所・法務省の人的体制について、最高裁判所及び法務省からヒアリングを聴取した上で審議を行うこと、さらに、海外実情視察前の勉強会として、「国民の司法参加」について、藤田委員からのレポートを聴取することが確認された。なお、次々回の4月25日(木)は、法曹養成制度に関する更なる審議の必要性等から、時間を早めて13:30から開催することとされた。

以上
(文責:司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-


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