司法制度改革審議会

司法制度改革審議会第19回議事概要


1.日時 平成12年5月16日(火)14:00~17:00

2.場所 司法制度改革審議会審議室

3.出席者

(委員・50音順、敬称略)
井上正仁、北村敬子、佐藤幸治、曽野綾子、髙木剛、竹下守夫、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子
(事務局)
樋渡利秋事務局長

4.議題
①海外実情調査の結果報告について
②文部省の検討組織への審議会委員の参加について
③「国民がより利用しやすい司法の実現」、「国民の期待に応える民事司法の在り方」について
 ○高木委員のレポート
 ○山本委員のレポート
④今後の審議予定

5.会議経過

①本年4月29日ないし30日から同年5月10日ないし11日にわたって、実施された海外(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ)実情視察に関し、参加した委員からそれぞれ視察内容や感想が述べられた。主なものは以下のとおり。

○アメリカの司法制度の実情を視察した結果、次のような感想を得た。まず、連邦においても州においても、司法が権力の分立・抑制均衡という統治構造の一翼を担うものとして明確に位置づけられていること、そして、裁判官の任用について広い法曹の中から如何にして適任者を得るかということに多大な努力が払われていること、選任過程では当該人物の資質等の評価に加え、政治的影響も働くが、任用後はその独立性・公平中立性の確保に十分な意が払われていることに感銘を受けた。陪審制に関しては、司法が統治構造の一翼を担うものとして位置づけられていることとの関係で、国民が司法に何らかの形で関わるべきとの考え方があると感じた。陪審制を通じて国民が裁判自体ないしその仕組みを自らの問題として学ぶとともに、公への参加意識が涵養されることになるものと思われた。また、法律事務所を訪問して、アメリカにおいては、法曹の持つ法的サービス力が世界的な規模で一層高められているとの実感を持った。併せて、グローバル化に対応するための人材を時間と費用をかけて育成することに如何に努力が払われているかということも認識できた。さらに、ロースクールについては、多様な人材を受け入れることや、複雑化、グローバル化していく社会に対応するための人材育成に非常に積極的であること、また、教育内容においては比較法や国際法に力が入れられているという印象を持った。

○フランスで、参審による裁判(重罪院)を傍聴して、被告人質問においても証人尋問においても殆ど裁判長の独壇場であり、如何に強い職権主義が働いているかということを実感した。また、同国では、参審制による裁判の事実認定に対し不服申立てを認めるべきではないかという議論があるものの、この制度自体は維持すべきと捉えられている。それは、職業裁判官と一般の参審員との協働に意義が認められていることに加え、そのことが裁判の正統性を根拠付けることにもなるからとのことであった。法曹養成に関しては、司法官を養成する国立司法学院において、弁護士、公務員、公認会計士、民間企業関係者等、一定の社会経験を有する者に別枠の入学ルートを設け、多様な人材を確保する工夫がなされていることが印象に残った。

○ドイツに関しては、まず、裁判官の人事政策として、本人への通知や不服申立て手続が整った裁判官の評価制度が設けられていることに感心をした。また、裁判官の任用・昇任につき、公募制が取り入れられていることも興味深かった。他方、裁判官のキャリアシステム自体に対する批判は余り聞かれず、むしろ、経験豊富な弁護士は裁判官になりたがらないし、逆に能力の低い弁護士が裁判官になっても困るとの意見も聞かれた。裁判官の政治的活動については、その中立性への信頼を損なわない限度で、デモ参加等自由に認められているとのことであった。参審制については、参審員の審理への関与は余り積極的ではなく、もっぱら職業裁判官が取り仕切っているとの印象を受けた。国民の司法参加という観点から参審制の意義が認められており、これを廃止するような考え方は聞かれなかったが、刑事専門の弁護士によれば、参審の事実認定能力は低く誤審の可能性が高いとの話もあった。企業関係者等の非法律専門家と職業裁判官から構成される専門参審について関係者の間で高い評価を受けているとのことであった。労働裁判所についても和解前置制度等が設けられていることなどから高い評価を受けているようであった。法曹養成に関しては、弁護士の数が増えすぎ質の低下が生じていることや各種の財政問題などから、これを抑制しようとの背景から、法曹養成制度の改革に関する議論が現在盛んに行われているとのことであった。

 イギリスに関しては、裁判官の任用につき弁護士から採用する制度がとられているが、高等法院以上の裁判官は殆どバリスターで勅選弁護士となった者から選ばれていること、内々の打診(SecretSounding)と呼ばれる方法により事実上選抜されている点から透明性に乏しいとの批判があり、現在、これに応じた改革の動きがあることや、裁判官にも昇任制がとられていることが興味深かった。ウルフ卿の提言に基づく民事司法改革については、アンケート結果によると概ね良好に機能しているとの説明を受けた。

○イギリスのバー・カウンシルを訪問して受けた印象は、ソリシターとの権限の垣根が低くなる流れの中にあっても、バリスターは法廷実務の専門家として強い自負を有していることや、バリスター自身が高度な専門職業としての基準を維持しなければならない一方で、競争性の確保とのバランスに意を用いなければならないと考えていることなどである。また、陪審制について、多民族国家のイギリスにおいて少数民族に属する者を保護するなどの見地から、適正に社会を反映し得る陪審による裁判は、社会の団結を維持・強化する上で有益であるとの説明を受けた。

○ドイツに関し印象に残ったことは、裁判官のキャリアシステムはオープンで透明性が高いということや法曹それぞれが司法に対する国民の信頼を確保していくことに努力し意を用いているということであり、我が国とは大分事情が異なるとの感じを受けた。参審制については国民の司法参加の重要な意義が認められているものと思った。

○フランスにおいて参審員となる義務は納税や兵役と並ぶ国民の義務として捉えられていること、フランスの商事裁判所の判事あるいはイギリスの治安判事はいずれも素人のボランティアであることなどから、このような制度を導入するためには、義務感やボランティアに対する意識が不可欠であると感じた。我が国の場合とは事情が異なるとの印象を受けた。

○フランスでは、司法官(裁判官・検察官)の養成と弁護士の養成は分離されており、それが司法官と弁護士との間の相互不信や警戒感を招いているような印象を受けた。他方、司法官の養成に関して多様な人材を受け入れ豊かな人的基盤を作っていこうとする姿勢には共感を覚えた。その他、フランスの商事裁判所は非法律専門家の裁判官だけで構成されているが、これに職業裁判官を加えた方がよいのではないかとの議論があること、イギリスにおいては、被告人の陪審裁判を選択する権利を一定限度制約しようという改革の動きがあること、法律扶助に関して財政的理由等から、法律扶助に関与できる法律事務所を絞るとともに、サービスの質の向上を図る動きがあることなどを紹介しておく。

○ドイツの商事裁判所やイギリスの刑事法院を視察して、それらの国の司法制度が如何に長い歴史を有しているかということを実感した。また、陪審制度や参審制度などがそれぞれの社会において確固たる存在感を有しているということも認識した。他方で、常に改革の努力を怠らず、新しいことを積極的に取り入れようとする姿勢には感心した。

○陪審制に関して、日本の国民性に合うのかどうかとの議論があるが、アメリカにおいて、時間をかけた陪審員の選定手続が設けられていることや、陪審員となることが明確な義務として確立されていることを実際に見て、日本人でも条件が整えば十分陪審制を運用していけるとの考えを持つに至った。また、大規模な法律事務所について専門分化等の発達が著しく、こうした事務所が日本に進出するとなった場合、日本の弁護士が対抗していくのは難しいのではないか。国際化の中で日本の弁護士がどう対応していくかということを考えなければならないと感じた。アメリカのロースクールについては、同国が判例法系の国でかつ法曹一元、陪審制度を採用していることと深い関係があるように感じた。大陸法中心の日本の制度の下でロースクールをどのように考えていくかは問題である。

②文部省の検討組織への審議会委員の参加について

 法科大学院構想に関する専門的・技術的事項の検討依頼を文部省に対して行うとともに、法曹三者へ必要な協力を要請したとの報告の後、本審議会との連携のために文部省の検討組織へ参加する委員を、井上委員、鳥居委員、山本委員、吉岡委員の4名にすることが決定された。

③「国民がより利用しやすい司法の実現」、「国民の期待に応える民事司法の在り方」について

司法制度に利用者の立場の観点から、高木委員及び山本委員からそれぞれ「国民がより利用しやすい司法の実現」、「国民の期待に応える民事司法の在り方」について、レポートがなされた(別紙1、2のとおり)。

④今後の審議予定は以下のとおり。

○次回第20回(5/30)吉岡委員のレポート
 高木、山本、吉岡各委員のレポートを踏まえた議論
○第21回(6/2)「司法の行政に対するチェック」に関するヒアリング(塩野宏東大名誉教授を予定)
○第22回(6/13)法曹三者からのヒアリング
○第23回(6/27)方向性に関する審議等

以上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-