5.会議経過
① 森内閣総理大臣からあいさつが行われ(別紙1)、続いて、臼井法務大臣からあいさつが行われた(別紙2)。
② 「国民がより利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」について、前回に引き続き、司法制度の利用者の立場からの提言として、吉岡委員からレポートがなされた(別紙3)
③ 次に、「『国民がより利用しやすい司法の実現』及び『国民の期待に応える民事司法の在り方』に関するユーザー委員の提言内容の整理」(別紙4)に従い、個別の論点について順次審議を行ったところ、概要以下のとおり。
I.裁判所へのアクセスの拡充
1 訴訟費用の負担の軽減
(1)提訴手数料
まず、手数料の額に関しては、スライド制は基本的に維持しつつ、必要に応じ低額化を図るべきことについて認識が一致し、具体的方策については引き続き検討することとされた。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ 多数が原告となる訴訟など訴訟類型によっては、手数料負担が過重となる場合があると考えられ、政策的な配慮が必要。
次に、訴訟費用確定手続を簡素化すべきことについて認識が一致した。
(2)弁護士費用の訴訟費用化
まず、弁護士費用の合理化・透明化を一層推進することで意見が一致し、具体的方策については、「弁護士の在り方」の審議の一環として、更に検討することとされた。なお、その過程で以下のような意見が出された。
○ 弁護士は、報酬について、依頼者に対する説明を徹底すべき。
○ 弁護士報酬の予測可能性を高めるためには、判例等の裁判情報の開示を推進し、訴訟自体の予測可能性を高めることも重要。
○ 弁護士会において、弁護士報酬の目安を利用者にわかりやすく示すものとして、具体的な案件に即した事例集を作成することが、第一歩として有益。
○ 弁護士の能力の差にかかわらず弁護士報酬に一律の基準が適用されることは、庶民感覚として理解しがたい。
○ 弁護士の報酬を決める要素は複雑である。報酬が高い者が能力が高いとは限らない。
弁護士費用の敗訴者負担制度に関しては、これを基本的に導入すべきことについて認識が一致し、その上で、例外扱いを認めるべき訴訟類型、負担させるべき弁護士費用の定め方などの具体的在り方について引き続き検討することとされた。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ たとえば、資金力のある経営者側に対し、労働者側が訴訟を断念することのないよう、労働事件については異なる取扱いを考える必要あり。
○ 学界などでは、弁護士費用を本来誰が負担すべきかという理論的問題、例外扱いや負担の範囲をどのように決めるかという政策的問題、実際に制度化する際の技術的問題の3つの側面を検討することが必要と指摘されている。
○ 米国では、一部の訴訟類型について、原告が勝った場合は、被告側に弁護士費用を負担させることができるが、原告が負けた場合には、被告側の弁護士費用は負担しなくて済むという片面的敗訴者負担を導入している例がある。
○ 消費者が企業を訴える場合など、公益的と考えられる訴訟は、片面的敗訴者負担とすべきである。
○ 民事訴訟は対等な私人と私人の争いというのが制度上の前提である。概念のはっきりしない「公益」や「正義」を安易に持ち込むことにはためらいがある。
○ 勝訴者が実際に弁護士に支払う報酬額と、敗訴者に負担させるべき額は同じである必要はない。負担させるべき弁護士費用の決め方について、たとえば、あらかじめ法定しておくとの考え方もありうる。
○ 法曹三者ヒアリングの内容を参考にするのは構わないが、意思決定はあくまで審議会で行うものである。法曹三者に対しては、審議会が示した方向性を前提に、留意点や具体的方策を問うべきである。
(3)訴訟費用保険
訴訟費用保険については、以下のような意見が出され、今後、引き続き検討することととされた。
○ 保険会社において、リスクが計算でき、商品化できるかどうかの問題であろう。なお、文献によれば、ドイツでは訴訟費用のみの単体の保険が商品化されているとのことであるが、実際には、総合保険の中に訴訟費用給付が含まれている場合が多いと聞く。
○ 日弁連が過去に検討したことがあるが、法律扶助との関係の整理が難しいこと、報酬額を保険会社が決めることになりかねないこと等の理由から、否定的であった。
○ 弁護士費用の透明化を進める意味でも重要な課題。かつて製造物責任保険について、保険料が高騰して保険として成立しないのではないかとの議論もあったが、ヨーロッパでは、当初は保険料は高額だったが、予防効果が出て保険料が低下した。日本でも製造物責任の事件数は心配されたほど多くない。自賠責保険の例もあり、訴訟費用保険も、導入しようとすればできるのではないか。
○ 加害者側の責任保険は珍しくないが、被害者側が訴える場合を想定した訴訟費用保険はほとんどない。被害の確率を予測・算定できるかという問題あり。
○ 利用者のニーズの見地からは、他に比べて緊急性が高いとは言えないのではないか。
2 法律扶助の充実
法律扶助を一層充実させるべきことについて認識が一致し、刑事手続との関係を含む具体的方策については、引き続き検討することとされた。なお、その過程で、以下のようなやりとりがあった。
○弁護士産業の総売上はどのくらいか。(回答:日本では年間約5千億円と言われている。米国と比べると桁違いに低い。)
3 裁判利用相談窓口(アクセス・ポイント)の設置
司法に関する総合的な情報を提供できる仕組みを工夫する見地から、弁護士会、裁判所などぞれぞれの機関において、裁判利用相談窓口を設置または充実させるべきことについて認識が一致し、具体的方策については、引き続き検討することとされた。
4 裁判所の管轄・配置等
(1)人事訴訟の家庭裁判所への移管の要否
利用者の利便の観点から、人事訴訟を家庭裁判所へ移管すべきことについて認識が一致し、具体的方策については、引き続き検討することとされた。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ 家庭関係事件について、調停なら家裁、訴訟なら地裁と分かれているのは利用者にとって不便であること、また、地裁には家裁調査官のような専門家が配置されていないこと等が現行制度の問題点として指摘されている。
○ これまで移管しなかった理由は何か。移管のデメリットはあるか。(回答:訴訟のような対決型の手続は、家裁の理念になじまないとの伝統的考え方があった。)
○ 裁判官の人事配置など、家裁における担い手の態勢整備も重要。
○ 移管するとして、どの範囲の事件を家裁へ移管すべきかを検討することが必要。
○ 法曹には、物事を法律の眼鏡だけではなく、別の眼鏡でもみる訓練が重要であり、ロースクールの検討に当たっても、そのような視点が重要。
(2)簡易裁判所の事物管轄の見直し、少額訴訟の上限額の見直しの要否
まず、簡易裁判所の事物管轄の見直しについては、以下のような意見が出され、引き続き検討すべきこととされた。
○ 簡裁の担当範囲を拡大し、地裁は複雑な事件に集中していくことが望ましい。
○ 大都会と地方では金額についての感覚が異なる。過去の事物管轄の見直しにおいて、地方では相当大きな訴訟でも簡裁に移ったといった認識もある。
○ 簡裁の事物管轄が昭和57年に90万円以下に引き上げられてから、20年弱が経過。その間の物価上昇に見合った分を引き上げることについての異論はないだろうが、それに加えて更なる引上げが必要かどうかを検討すべき。
次に、少額訴訟の上限額については、引き上げるべきことについて認識が一致した。
(3)裁判所の配置の在り方
裁判所の配置の在り方については、以下のような意見が出され、今後、実情を把握した上で、引き続き検討することとされた。
○ 実情把握のため、裁判所までの所要時間が例えば1時間以上かかる地域を抱える裁判所がどのくらいあるか等の資料を出してもらってはどうか。
○ 講演会に3時間かけて来る人もいる。裁判所まで1時間以上かかってはおかしいというのは言い過ぎではないか。
○ 官公庁全体に共通する課題だが、タクシーの構内への乗入れ、駐車場の整備など、車を利用する人への利便性への配慮が必要である。
(4)裁判所施設の在り方
訴訟手続への情報技術の積極的導入を進めるべきことについて認識が一致し、具体的方策については、引き続き検討することとされた。
5 開廷日、時間の柔軟化
夜間、休日法廷の可否については、今後、簡易裁判所等における夜間サービスの実情等を把握した上で、引き続き検討することとされた。
6 その他
このほか、裁判所へのアクセスの拡充に関し、次のような意見が出された。
○ 外国人絡みの事件が増加しており、法廷等の通訳の充実が必要。
II.民事訴訟の充実・迅速化-一般民事訴訟
まず、計画審理の考え方を一層推進し、司法の人的基盤の充実も併せ行いつつ、実務に定着させていくべきことについて認識が一致した。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ 民訴法改正以降も、実務はさほど変わっておらず、法曹関係者の意識改革が必要。
○ 民事訴訟規則により、既に大規模訴訟については、審理計画を定めるための協議をするものとされているが、この考えを一般化することが適当。どのくらい期間がかかり、いつ終わるのかが、一応の予定としてでも、あらかじめ分かっていることは、利用者にとって極めて重要。
○ 一部の裁判所で計画審理の試みがなされており、このような努力を強化すべき。
○ 実務として定着しないのは、裁判官、弁護士など担い手側の問題があるからである。例えば、裁判官の転勤の問題もある。
次に、裁判手続の多様化は、民事裁判の充実・迅速化の見地から十分検討に値することについて認識が一致し、引き続き検討することとされた。なお、その過程において、以下のような意見が出された。
○ あらゆる訴訟を同じ手続で行う必要はない。英国のファスト・トラックの例を参考に、多様な裁判手続の導入を図るべき。
○ 英国は、訴額により制度上区別しているが、果たして訴額のみで割り切っていいのかどうか。計画審理の考え方を一般化していくのも一つの考え方であり、検討が必要。
さらに、証拠収集手続に関し、米国型のディスカバリーを導入することについては積極論と慎重論があり、まずは、ディスカバリーとはいかなる制度で、我が国の制度とどこが違うのか、新民訴法で導入された我が国の現行制度が実効的に機能しているのか等につき理解を深めた上で、引き続き検討することとされた。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ 米国型のディスカバリーは、真実の発見や争点の整理の上でのプラスもあろうが、弊害もある。先般の新民訴法改正の際に、かなりの議論を経た上で、文書提出命令の拡充や当事者照会制度の導入などを導入したばかりであり、慎重に検討すべき。
○ 製造物責任の原告である被害者は、過失の証明責任は免除されたものの、なお欠陥を立証することが必要。弱い消費者の立場が証拠を集めるのは困難。裁判官の判断により救われるケースもあるが、裁判官による。企業が出したくない証拠を出さないことにより、訴訟が長引き、真実が究明されないケースあり。
○ 米国のディスカバリーの評価も立場により異なる。冷静かつ客観的に中身を吟味すべき。ディスカバリーは望ましい方向だが、我が国民事裁判の仕組みに合うかという問題もあり、日本ではどのような要件を設けるべきかなど、様々な工夫を検討すべき。現行制度については、照会に応じない場合の制裁が設けられていないなどの問題が指摘されている。なお、ディスカバリーを導入しても、日本の弁護士が果たして有効に使いうるのか、という問題もある。
○ 今の日本の法律事務所では、ディスカバリーに伴う膨大な資料分析がとてもできないと懸念される。人的基盤の充実が急務。
○ 利用しやすい司法の前提として、利用する値打ちのある司法でなければならない。事実を隠し通せる仕組みは望ましくないという意味で、ディスカバリーは基本である。力の強弱で結論が決まるのではなく、あらゆる情報が公開されるべき。なお、弁護士の態勢が不十分なのは事実であるが、こうした弁護士の在り方自体を直すべきであり、現状の人的基盤を前提に議論すべきではない。
○ 実態を把握しようとする場合に、ディスカバリーでひどい目にあった側の話を聞くだけでは不十分である。
○ ディスカバリー(「証拠開示」)などという外来語でなく、日本語で説明してもらわないと一般の人は意味が分からない。
○ 日本の制度は客観的にみると、米国の制度とそう大きく違わない。日本には全くないものを新たに入れるかどうか、という議論の仕方は誤解を招く。例えば、証拠保全については大きな違いはなく、文書提出義務については例外の決め方の違いであり、当事者照会については制裁の有無の違いが指摘されている。日本に全くないものとしては、デポジション(宣誓供述)が挙げられる。
○ 現行制度の部分的な手直しではなく、あるべき理念を念頭において議論すべきであり、まずディスクローズするという理念を踏まえた改革案であるべき。当事者照会には制裁がなく実効性がないと言われているなら、なぜそうなったのかという経緯を踏まえて議論すべき。
III.専門的知見を要する事件への対応
まず、知的財産権関係事件への対応強化を進めるべきことについて認識が一致し、その具体化に当たっては、様々な方策を引き続き多面的に検討すべきこととされた。なお、その過程において、以下のような意見が出された。
○ 近年の裁判所の努力は評価するが、さらに一歩進め、専門部を有する特定の裁判所の専属管轄とすることを検討したり、裁判官の専門性を強化することにより、裁判所の態勢を充実させ、専門的知見を蓄積させることが必要。
○ 国内の紛争だけでなく、国際的な紛争をどう解決していくかも視野に入れて検討すべき。
○ 現在、競合的専属管轄として、地元の地裁か、知的財産専門部のある東京・大阪の地裁かを選択できるようになっており、こうした当事者による選択の余地を残しておく方がよいのではないか。
○裁判官の専門性の強化についても、裁判所において人事面での配慮が行われている。
④ 時間の関係で、本日の個別論点についての審議は、「知的財産権関係事件への対応強化」までで一旦終了し、「労働関係事件への対応強化」以降の残された論点については、次回に回すこととされた。
⑤ 井上委員から、法曹養成に関して、5月24日に文部省内に「法科大学院(仮称)構想に関する検討会議」が設置され、本日(30日)、第1回検討会議が開催されたことについての報告があった(別紙5)。
⑥ 次回会議(第21回)は、6月2日(金)14時から開催し(於審議室)、「国民がより利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」の審議の一環として、まず「司法の行政に対するチェック機能の充実」について、塩野宏東京大学名誉教授からヒアリングを行い、その後、本日審議せずに残された論点について引き続き審議を行う。
なお、6月13日(火)(第22回)及び同27日(火)(第23回)は、開始時間を早めて、13:30から開催することとされた。
以上
(文責:司法制度改革審議会事務局)
-速報のため、事後修正の可能性あり-