司法制度改革審議会

第20回司法制度改革審議会議事録

第20回司法制度改革審議会議事次第



日 時:平成12年5月30日(火)14:00~17:00
 
場 所:内閣総理大臣官邸大客間
 
出席者(委員)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治委員、井上正仁、北村敬子、曽野綾子、髙木剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子
(政府)
森内閣総理大臣、臼井法務大臣、古川内閣官房副長官、竹島内閣内政審議室長
(事務局)
樋渡利秋事務局長

  1. 開会
  2. 内閣総理大臣あいさつ
  3. 法務大臣あいさつ
  4. 「国民がより利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」について
  5. 閉会

【佐藤会長】それでは、定刻になりましたので、「司法制度改革審議会」第20回会合を開催したいと思います。

 本日は大変御多忙の中、特に時間を割いていただき、森内閣総理大臣に御出席賜りました。内閣総理大臣からごあいさつをちょうだいいたしたく存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

【森総理】私は去る4月5日、病に倒れられました小渕前総理の後を受けまして、内閣総理大臣に就任いたしました。

 私は司法制度改革を最も重要な課題の1つとして位置づけており、小渕前総理と同様に熱意を持ってこれに取り組んでまいりたいと考えております。

 このため私は内閣総理大臣就任直後から、司法制度改革審議会に是非出席したいと考えておりましたが、政務等の都合から、当審議会に出席いたしますのは、本日が初めてとなりましたので、開会に当たり一言ごあいさつを申し上げます。

 現在、我が国においては、グローバル化、情報技術革命といった時代の大きな流れの中で社会が事前規制型から事後チェック型へと移行するなど、これまでのシステムや物の考え方に対する否応ない変革が迫られております。

 そうした中、国民の基本的人権を擁護し、権利の実現等を最終的に担保する司法の果たすべき役割はますます重要なものとなりつつあります。司法の機能を充実・強化し、国民に身近で利用しやすい司法制度を構築することは、目下の緊要事となっております。

 さて、当審議会におきましては、昨年12月には論点整理をとりまとめられ、本年1月からは論点ごとの審議を行われるなど、充実した調査審議を着々と進められているものと承知しております。毎回長時間に及ぶ熱のこもった御議論を重ねられ、最近では連休を返上して、欧米諸国の司法制度の実情を実地に調査研究されたとお聞きいたしておりまして、皆様のひたむきな御努力に対しまして、改めて深い感謝と心からの敬意を表します。

 当審議会の御審議の結果が来世紀の我が国社会を支える司法制度の適切な基本的施策を描き出し、輝かしい次なる時代を切り開く礎となることを念じつつ、私としても、当審議会の御審議が充実したものになるよう、政府を挙げて協力支援に努めてまいりたいと考えておりますので、引き続き委員の皆様方の御尽力をお願い申し上げまして、私のあいさつといたします。

 どうぞよろしくお願いいたします。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 今日はまた臼井法務大臣に御多忙の中御出席いただいております。法務大臣からごあいさつを頂戴いたしたく存じます。よろしくお願いいたします。

【臼井法務大臣】法務大臣の臼井日出男でございます。

 本年1月18日開催の第10回会議におきましても、ごあいさつを申し上げておりますが、森内閣の下でも引き続き国会対応等を担当いたしますのて、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 ただいま総理からお話がございましたとおり、政府の一員として、当審議会の審議が充実したものになりますよう、引き続き最大限の協力に努めてまいりたいと考えております。委員の皆様方におかれましては、引き続き十分調査審議をお尽くしいただき、充実した結論をお出しいただきますよう心から御期待申し上げまして、ごあいさつといたします。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 それでは、今日予定しております議題の審議に早速入りたいと思います。

 今日は前回に引き続きまして、「国民がより利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」について御審議賜りたいと思います。

 前回は、ユーザーの視点から、高木委員、山本委員のレポートをちょうだいしましたけれども、時間の関係で吉岡委員のレポートは今日に回すということになりました。

 吉岡委員、それではよろしくお願いいたします。吉岡委員のレポートの後、私どもの意見交換を引き続いて行いたいと考えております。

【吉岡委員】吉岡でございます。主婦連合会という消費者団体に所属しておりまして、私は消費者の立場から司法改革をどう考えるかという、そういうことで参加させていただいております。座って説明させていただきます。

 国民の期待に応える利用しやすい司法、特に今回は民事司法を中心にということで、レジュメを用意させていただきました。基本的には裁判所、弁護士を含めてのアクセスの困難性、それをどうするかというのが1点目。それから、裁判費用の援助制度、それの拡充が必要ではないかというのが2点目。それから、私、一番重要だと思っておりますのは、国民の積極的な司法参加でございます。それが3点目。大きく分けると、この3つの柱で御報告させていただきたいと思います。

 まず、基本的な考え方ですけれども、司法制度は国民の生活、幸福追求のための道具として機能しなければいけないのではないかと考えております。12月にまとめました司法制度改革審議会での論点整理においても、国民が司法に期待するのは、利用者として容易に司法にアクセスでき、国民に開かれたプロセスにより、多様なニーズに応じた適正・迅速、かつ実効的な司法救済を得られることと記しております。いつでも、だれでも、どこでも、気軽に利用できる司法制度であると同時に、国民が納得できる紛争処理のための国民参加の仕組みの構築が重要であると考えます。

 国民が利用しやすい司法の実現には、裁判所及び弁護士へのアクセスの困難性の解消が第一要件であり、更に利用者である国民の視点、特に弱者の視点に立った司法の実現が不可欠であると思っております。

 そのためには、法曹人口の拡充が必要でありますし、法曹人口の中でも圧倒的多数を占めていると同時に、国民と司法の接点を担っている弁護士人口の大幅増員を図らなければならないと考えます。

 その次には、弁護士や裁判所の情報不足の解消も必要ではないか。

 さらに、社会で生起する紛争には、大小種類さまざまありますが、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な紛争処理の仕組みを用意することも、司法を国民に近いものにするという上で大きな意味を持っているのではないかと考えます。

 裁判手続のほかに各種の紛争解決手段がありまして、裁判外紛争処理機関、ADRと表現することが多いんですけれども、そのADRの在り方についても検討すべきではないかと考えます。

 次に、各項目について簡単に申し上げたいと思います。

 まず第一に「裁判所へのアクセスの困難性の解消について」述べます。まず第一に言われることは、訴訟費用の問題です。裁判の場合に、訴訟にどのくらいのお金が掛かるかということは非常に国民にとっては重要な要件でございます。その訴訟に掛かる費用を合理化、透明化するということがまず第一に必要だと思います。

 それから、訴訟の目的の価額に応じて所定の額を順次追加していくというスライド制を日本は取っているわけですけれども、スライド制の場合に、訴訟の手数料は額に応じて大きくなっていくという問題がありますので、やはりスライド制そのものを含めた手数料体系の見直し、同時に低額化の検討が必要ではないかと考えます。

 諸外国の事情を見てみますと、ドイツの場合はスライド制、フランスは手数料なし、イギリスが手続の段階ごとに一定額の手数料の支払い、アメリカは定額制となっております。こういうことを参考にしながら日本の制度も考えていく必要があるのではないかと思います。

 次に「情報公開、判例情報などへのアクセス」でございます。

 司法が国民にわかりにくく、遠い存在であるという一般的な受け止め方は、弁護士や裁判所の活動等に関する情報の不足によるところが少なくないのではないかと思います。論点整理でも、司法に関する情報公開の提供を推進し、ADRも含む司法に関する情報に国民が容易にアクセスできるような仕組みの在り方について検討する必要があると述べておりますが、現在でも最高裁判所の判例情報については、知的財産権訴訟等も含めて、先例価値のあるものとか、法律的に重要な判断を示したものについては、公の刊行物、それから最高裁のホームページ等によって提供されています。これが利用しやすいかどうかという別の問題はありますけれども、一応提供はされています。ですけれども、下級審の判例情報については公開されておりません。

 当事者へのプライバシーの配慮というのは勿論しなければいけないんですけれども、法制面の手当等も含めて、技術面の課題も検討しながら、利用しやすいためには、情報を開示していくことが必要だと思います。

 ちなみに、判例法の国であるアメリカの場合には、コンピュータによる検索処理が非常に進んでいるという状況になっておりまして、日本の場合と事情は違うかと思いますけれども、やはりいかに開示していくかということは非常に重要な要件だと思います。

 次に「ディスカバリー」ですけれども、これは一般国民が裁判に関わる場合に、証拠の収集というのは非常に困難ですし、そのために敗訴するということも少なくありません。製造物責任法が数年前にできておりますけれども、その場合でも、法律ができたことによって、企業の過失責任の証明はなくなったんですけれども、欠陥の証明は被害者がしなければいけないということになっています。

 それから、消費者契約法においても、やはり最終的には民法の規定によるということなので、消費者が立証責任を負うということになってしまいます。やはり国民の立場から申しますと、双方が持っている情報を開示することを法的に義務づけていく必要があるのではないか。それでディスカバリーは、事業者、消費者、あるいは原告、被告が公平な土俵で対等に争うための必要な手段の1つではないかと考えます。

 ディスカバリーは濫訴につながるとか、著しく時間と費用がかさむ、あるいは戦略的に利用される、経済力の弱い当事者には不利に働くなどという批判がありますけれども、アメリカの場合には、プリトライアル・カンファレンスの一種であるディスカバリー・カンファレンスが整備されておりまして、期間については裁判所が終了期間を設定するようになっています。ですから、いたずらに長引くということはありません。

 日本の裁判とは違って、プリトライアルの間に和解や調整が進んで、トライアルに至る前に解決するという事例も少なくないようですし、トライアルとなっても、それ以前にディスカバリーがされていることから、裁判期間が非常に短縮されているということを見てまいりました。

 もとより日本の場合も民事訴訟制度において、証拠保全だとか、当事者照会、文書提出命令等、証拠開示制度はありますけれども、国民の利用しやすい民事司法の実現という立場で考えますと、トライアル以前に徹底した証拠開示が行われるディスカバリーの導入について検討することは重要なことと考えます。

 それから「相談窓口・裁判外紛争処理手段の充実」。これは国民の接点に最も近いところ、それから国民が初めて司法を利用しようとするときに、どういうふうにアクセスしたらいいかということから考えましても、やはり相談窓口や相談機関が必要だということは当然のことです。

 裁判所の場合も相談窓口があるわけですが、やはり裁判所は紛争解決機関の中心として公平性、中立性を保つ必要があるので、窓口において、紛争の中身に立ち入った法律相談的なサービスを行うということは、一方の当事者に実体面で肩入れをするということになる恐れがあります。そのことで裁判所の中立性を損なうということになっては具合いが悪いわけですので、中立性を損なわない限度において裁判所は裁判に関しての総合的な情報を提供するように努める必要があるのではないかと思います。

 一方で、国民にとっては紛争の発生から解決に至る過程において、それぞれの紛争の規模や内容に応じて多様な紛争解決のメニューが整備されるということも必要だと思います。そういうことからいうと、イギリスではコミュニティー・リーガル・サービス制度が導入されているわけですけれども、そのような視点での検討が必要ではないかと思います。

 次に、裁判外紛争処理機関について述べます。竹下レポートで紹介されていますが、裁判外紛争処理機関は、司法型、行政型、弁護士会型、それから民間団体型と、おおざっぱに分けるとそのように分類できるようです。このようなADRを利用することは、国民にとっても非常に利便性が高まるわけです。ただ、注意しなければいけないのは、ADRの活動というのが、多様な国民の紛争解決に寄与する反面で、国民の裁判を受ける権利を侵害することになってはいけないということは配慮しなければいけないと思います。

 それから、国民が利用しやすいという工夫の1つとして、ナイトコートとか休日の開廷ということを検討してはどうかと思います。サラリーマンが多い日本の社会において、今の裁判は平日の日中のみというのが普通になっておりまして、一部家庭裁判所や簡易裁判所では、5時過ぎでも利用できるという仕組みはありますけれども、一般的にはそうなっていません。そういう意味からいって、夜間や休日の利用に対するニーズ等を考えて、勿論、裁判所等の労働条件も考えなければいけませんけれども、夜間、休日の開廷ということも検討する必要があるのではないかと思います。

 次に、弁護士へのアクセスの困難性の解消について述べます。第1に言えることは弁護士費用の問題です。訴訟費用については先に述べましたけれども、やはり司法を利用する費用の中で一番ウェートが高いのは弁護士費用でございます。そういうことからいって、弁護士費用の合理化・透明化を図って、アクセス障害を解消していくことが重要だと思います。

 それと同時に利用者が弁護士さんを利用しようとするときにどのくらい掛かるかわからないという弁護士費用の予測困難性があります。

 現在、一部分ですけれども、30分5,000円というようなタイムチャージはされているわけですけれども、タイムチャージの拡大も含めて、弁護士費用の予測困難性の解消を考えていく必要があると思います。

 同時に、その弁護士の弁護士業務に見合った額をお支払いするということが必要で、単純に、時間とか訴額だけでは決まらないのではないかと考えております。

 弁護士報酬については特別のように考えている人も多いんですが、弁護士報酬といえども契約の一環であることを考えれば、予測可能性を高める判例等の裁判情報が開示されるということが前提にならなければいけませんけれども、それを前提にして見積書を作成するということを検討すべきだと思います。これは弁護士と企業の間には当然されていると思いますけれども、個人の場合にはそうなっていないところに問題があります。

 それから、「弁護士費用の敗訴者負担について」も検討する必要があります。

 さらに、弁護士事務所の法人化の問題、これは偏在、あるいは弁護士人口の大幅拡大とも関連してくるわけですけれども、日本の弁護士事務所の場合には、1人の弁護士、あるいは数人の弁護士で事務所を経営している場合が少なくございません。そのために1人の弁護士が抱える訴訟件数も多いために、なかなか期日が入らないとか、そういう問題が指摘されております。海外の法律事務所が数千人の弁護士を雇用して機動的に活動しているのに比べて、日本のそれは太刀打ちできる状態でないというのが実情でございます。

 そういう意味から、早急に弁護士事務所の法人化を進める必要がありますし、規模の拡大によって、現在、問題になっている弁護士の過疎地においても支店を置くとか、そういうことを考えながら、過疎地解消の問題を検討する必要があると思います。

 弁護士の偏在の問題は、全然弁護士がいないところ、あるいは1人しかいないところが全国203の地裁支部管轄内で72か所もあるというのが現状でございます。このような状態を解消していかないと、消費者が利用しやすいという制度にはなりにくいという問題があります。

 この解消のためには、今申しました弁護士事務所の法人化も当然ですし、その前提条件としての弁護士人口の大幅な拡大を考えなければいけないと思います。法曹人口は、勿論弁護士だけではなく、裁判官、検察官も含めて少ないというのが当審議会での一致した見解でもございますけれども、特に弁護士人口については、中坊委員がこの審議会で5万から6万人、フランス並みという数値を出しておりますけれども、その辺を目標に早急に実現していただくよう検討する必要があるのではないかと思います。

 それから、弁護士の情報開示について、どこで、どの弁護士にどう頼んだらいいのかわからないというのが国民が司法から遠くなってしまっている原因の1つです。そういう意味からいって、弁護士の専門性がわかるように広告規制の緩和をもっと進める必要があると思います。

 弁護士報酬についても、先ほど申しましたので、それ以上あれですけれども、やはりどのくらい掛かるということは、予測も含めたわかりやすい透明性の高い公正な情報が提供されるということが重要ではないかと思います。

 その後少し飛ばさせていただきまして、裁判費用の援助の問題も後回しにさせていただきまして、国民の司法参加について申し上げたいと思います。

 私のレジュメの9ページの終わりの方になります。「当事者適格」についてです。

 論点整理においては、裁判所は司法権を通じて抑制・均衡の統治体系を維持し、国民の権利・自由の保障を実現するという重要な役割を持っていて、21世紀の我が国社会で司法の比重が増大する中、行政・立法に対する司法のチェック機能を拡充する方策について検討することが必要であるとしてございます。

 行政に対するチェック機能という場合には、行政訴訟があるわけですが、行政庁の行った処分が違法であるとして、その取消しを求める訴訟が中核となります。すなわち、行政の行使に関して司法が判断を覆すということになりますので、司法が慎重になるのではないかと思いますが、行政訴訟の原告勝訴率というのは非常に低いと言われております。利用者である国民の立場からは、司法の行政庁に対するチェック機能は国民主権につながる重要な問題と考えております。

 次に「陪審・参審制度」についてです。

 陪審制を取るか参審制を取るかというのは、この審議会でもこれから非常に重要な論点になると思います。専門家を参加させる参審制度、あるいは専門参審については、専門的な知見が必要だという点からは、迅速・的確な判断ができるという利点があると言われております。その一方で、裁判の公開性の阻害要因となり得る、適切な専門家の選定がなかなか困難であるというような問題点も言われています。

 それから、陪審制度についても、裁判の長期化、冷静な判断ができないのではないか。日本人の国民性になじまないなどの多くの批判や不安要因が語られていますが、今回、アメリカの実情を視察した限りにおいては、このような意見は杞憂にすぎないのではないかという確信を持つことができました。むしろ陪審制度の復活は、今、日本は休眠状態ですが、陪審の復活は国民の司法参加意識を涵養し、よりよい法治国家の形成に役立つものと思われます。積極的に陪審制度の導入を検討する必要があるのではないかと考えます。

 それから、消費者団体への差止め請求・団体訴権、クラスアクション等につきましては、弱い消費者が少額の被害を多数受けたという場合に、なかなか個々の被害者が訴えを起こすということができません。そういうような視点から、団体訴権を認めるとか、あるいはクラスアクションについても、これもいろいろ議論のあるところですけれども、十分な検討をする必要があるのではないかと思います。

 最後に「懲罰的損害賠償制度」でございますけれども、懲罰的損害賠償制度についてもいろいろ意見がございまして、悪質な不法行為による被害の場合には、現行の賠償額が余りにも低額にすぎますので、国民の立場から言えば悪質なものに対しては、懲罰的賠償は必要不可欠だと考えているわけです。最近、この制度に反対する意見として、ステラ・リーベックという79歳の女性の方がマクドナルド社の熱いコーヒーによってやけどをしたという事故がありました。これは、コーヒーカップのふたを開けようとしたらば、コーヒーがこぼれてしまって、そのコーヒーが非常に熱かったために、3度のやけどを負ってしまったという事故でございます。

 そのために彼女は8日間入院をして、傷の面を切除して、皮膚の移植をして、その傷跡や運動障害を回復するために2年を超えるような治療を受けなければいけなかったという悲惨な事故です。これに対してニューメキシコのアルバカーキ陪審が20万ドルの補填損害賠償を決めました。ただ、過失相殺で20%相殺していますので、16万ドルという金額になっています。

 それにプラスして270万ドルの懲罰的賠償を認定したというものです。そのくらいのことで270万ドルも懲罰賠償を認定するという、そこに問題があるということを言われているのですが、その後、この事実はどうなっているかと言いますと、事実審の裁判所では、ロバート・スコット判事が懲罰賠償の額を48万ドルに減額をしています。これに対して原告、被告双方から上訴され、和解によって終了していると聞いております。

 問題は、マクドナルドが華氏で180~190度、摂氏ですと八十数度になりますけれども、そのコーヒーを、やけどをするほど熱いコーヒーはおいしいコーヒーだということを売り物にして売っていたと。これだけの温度の高いものをこぼした場合には、2秒から7秒で3度のやけどを引き起こすと、それがわかっているにもかかわらず、そのまま熱いコーヒーを販売し続けたということが実態としてあります。そのために10年間で700人もの同じような被害が発生しています。それと同時に、従業員の中でもやけどをしたというような事例も報告されている状態です。

 3度のやけどと言いますと、これは非常に重大なやけどでして、半永久的に外観的な損傷が残ってしまうという状況です。そういうことを考えると、やはりそのくらいの懲罰賠償というのは、言われても仕方がないのではないかと考えます。

 ただ、この金額が、ではマクドナルドにとって負担なのかというと、マクドナルドのコーヒーは年間10億カップ生産されています。それで1日で130万ドルを超える収入があるわけです。それから言いますと、この懲罰賠償というのは、マクドナルドの総売上げ2日分の制裁金を課したということですから、全体から見ると、そんなに企業がつぶれるとか、それほどの懲罰ではありません。ですから、金額だけをもって、だからけしからぬというのはいかがなものかと思っております。

 懲罰的賠償が法外な価格であるかどうかということを見る場合に、被害者である弱者の視点を持つか、そうではない立場を視点とするか、その辺のところに問題があるのではないかと考えます。したがって、利用しやすい裁判制度、国民の側に立った裁判制度を考えるときは、かなり異論がある問題ではありますけれども、懲罰賠償についても検討する必要があると考えております。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 総理は2時半に公務の都合で御退席になられます。どうもありがとうございました。

(森内閣総理大臣及び臼井法務大臣退室)

【佐藤会長】吉岡委員、もし補足しておきたいところがありましたらどうぞ。

【吉岡委員】飛ばしたところがありますので、その辺、少し補足させていただきたいと思います。

【佐藤会長】お願いいたします。

【吉岡委員】そうしましたら、最初の裁判所へのアクセスの解消の問題、それから弁護士へのアクセスの解消の問題につきましては、ペーパーもお届けしてありますことですので、一応、議論のところで埋めさせていただくということにさせていただこうと思います。「裁判費用の援助制度」の問題を丸ごと飛ばしましたので、そこのところを今度は少しゆっくりお話しいたします。

 「裁判費用の援助制度」については、やはり憲法で裁判を受ける権利を実質的に保障するものとして、重要な問題だと考えております。国民により身近で利用しやすい司法制度を実現するためには、弁護士費用を扶助する法律扶助制度を整備する必要があるということは、この審議会でも論議されたところでもありますし、非常に少なかった法律扶助に対する国の資金援助というのが、20億円を超える金額になったということ、それから、法律扶助法が制定されて、きちんと位置づけられるようになったということは非常に評価される問題だと思っています。ただ、20億円と言っても、諸外国と比べると比較にならないほど些少な額であるというのは、まだまだ現実の問題としてございます。

 そうは言っても、公的資金を投入する以上、運営主体が中立公平であるとともに、的確な質の弁護士サービスが提供されるような制度面での工夫が求められるのではないかと思います。いつでも、どこでも、だれでも、公平に利用できるサービスの提供が保障される体制を整えるという視点から、さらなる援助制度の充実が必要だと考えます。そういう意味でサービスの主体である弁護士体制が現状では、先ほども触れましたけれども、地域偏在が解消されていないという問題も視野に入れる必要がありますし、民事だけではなく刑事についても法律扶助制度の拡充を検討する必要があります。

 同時に地方自治体の条例による訴訟援助制度、これもかなり広く自治体で制定されているのですが、実態はと言うと、余り活用されていないという状況があります。この辺がもっと実質的に活用されるような制度の見直しを含めて拡充していく必要があると考えます。

 同時に、この法律扶助制度だけを利用してというのでは、なかなか難しい面もありますので、訴訟保険についても検討する必要があると思います。日本の場合には、PL保険だとか、いわゆる責任保険の範疇においては、加害者が損害賠償義務を負うことになった場合に、弁護士費用、あるいは相手方と交渉する費用を保険で支払うという仕組みが存在しますけれども、諸外国の場合には、訴訟費用それ自体を保険給付の対象として保険が商品化されているというふうに聞いております。これはドイツ、スイスなどにあるわけですけれども、私数年前にドイツにPL法の調査に参りましたときに、訴訟保険があるので、一般の消費者の方ですけれども、万一のときにはそれが役に立つというふうにおっしゃっていたのを非常に印象強く伺っておりまして、やはり日本にもそういう制度が必要だというふうに考えております。保険制度の導入というのが今後の課題ではないかと考えます。それから、紛争解決費用を保証する保険、あるいは共済制度が開発されて、その保険が裁判や各種のADRと連携することになると、紛争発生段階でその解決までのトータルコストを視野に入れた解決の方策を考えるということも容易になると思いますが、ただ、保険市場を形成していくためには、算出根拠として欠かせない弁護士費用の実情を透明化して広くマーケットに明らかにしていくということが求められるのではないかと考えます。ここの点だけ追加させていただきました。

【佐藤会長】ありがとうございました。急がせて大変申し訳ないことでした。以上でユーザーの立場から高木委員、山本委員、そして吉岡委員のお話を承ったわけであります。

 いよいよ意見交換に移りたいと思います。事前に各委員にお送り申し上げました「『国民がより利用しやすい司法の実現』及び『国民の期待に応える民事司法の在り方』に関するユーザー委員からの提言内容の整理」というものがございますけれども、この整理は竹下代理のレポートを踏まえまして、2月8日の第12回会合においてとりまとめられた「今後重点的に検討すべき論点」に従いまして、ユーザー委員の御提言を整理したものであります。

 民事司法改革等に関するユーザー委員の「基本的考え方」は、この「提言内容の整理」の1ページ目に記してございます。この基本的な視点、考え方につきましては、他の委員の皆様もいろいろお考えがあろうかと思います。

 このような基本的な考え方は、各論点に関する議論に反映されてくるのではないかというようにも考えますので、進行としては、提言内容の整理に従いまして、個別の論点を順次審議していき、審議の中で基本的な考え方も適宜伺っていくということにさせていただければと思いますけれども、そういう形で進めさせていただいてよろしゅうございますか。

(「異議なし」と声あり)

【佐藤会長】ありがとうございました。それでは、そういう順序・方法に従いまして、これから意見交換に入りたいと思います。

 まず最初にAとBに分かれておりますが、Aは制度的基盤に関わる項目であります。Bは人的基盤に関わるものでありまして、これは法曹養成とか弁護士の在り方とかいろいろなことに関わっております。今回の御審議では主としてこのA、制度的基盤に関わる項目を中心に御審議いただければと考えております。

 Aの一番目「裁判所へのアクセスの拡充」ですが、まず最初にその中の「1訴訟費用の負担の軽減」ということから入ってまいりたいと思います。

 ここは3つありまして、(1)の「提訴手数料」、(2)の「弁護士費用の訴訟費用化」、それから(3)の「訴訟費用保険」の3つですが、まず最初に「提訴手数料」でございます。

 ここでは黒点で「スライド制の見直しの要否」、それから「訴訟費用額確定手続の簡素化」という2つが挙げてございますけれども、まず「スライド制の見直しの要否」について、御議論いただければと思います。

 そこには高木委員、山本委員、吉岡委員のそれぞれのお考えが記してありますけれども、それらを拝見しますと--スライド制を廃止して、定額にするという考えもありうるのですが--スライド制を維持しながら低くするという考え方ではないかと受け取れるんですけれども、まずこの辺の問題について、いかがでしょうか。御意見をちょうだいしたいと思います。

【竹下会長代理】手数料をどうするかは、全く政策問題で、理論的にどうでなければならないという問題ではないだろうと思います。

 前のときにも申し上げましたように、手数料を取るということにしている趣旨は、乱訴の弊を避けるということと、一種の受益者負担と言いますか、それだけ経済的な価値の高い権利を主張して、救済をしてもらうという人には、多く負担してもらうということでして、スライド制それ自体は決して根拠がないわけではないと思われます。

 ただ、山本委員、あるいは吉岡委員も御指摘のように、どういうタイプの訴訟でも皆同じでよいのかどうか。政策的に訴えの提起をエンカレッジすることが必要な訴訟については、別の考え方を取るということも十分ありうるのではないかと私としては考えております。

【佐藤会長】高木委員は、何か御意見は。

【高木委員】ある程度スライド制が入る意味はあるんだろうと思いますが、例えば一人ひとりでは少額だけれども、原告が多人数に及ぶ訴訟の場合の手数料が、結構大きなお金になったりするケースもあるようです。スライド制等について、ジャンルというか、訴訟分野というかよくわかりませんけれども、そのあたりも吟味されながら、テーブルを見ながら議論したらいいんではないかと思います。いずれにしても、余り高いものはね。

【佐藤会長】現行法はその点では...。

【高木委員】高くなるものが結構あるんじゃないかと、そんな意味でございます。

【佐藤会長】ほかの委員、御意見ございますか。よろしゅうございますか。

 そうしましたら、ここでは、スライド制を基本的に維持するけれども、訴訟の種類など必要に応じて低額化を考える余地があるというとりまとめ方でよろしゅうございますか。

 次に「訴訟費用額確定手続の簡素化」ですけれども、ここでは山本委員の御意見が記されておりますが。

【山本委員】提訴手数料は、弁護士費用と比べれば余り大きな問題とは思わないんですが、敗訴者から回収する手続が有名無実になっているということをちょっと指摘したかっただけでございます。

【竹下会長代理】確かに弁護士費用と比べればそれほど大きな問題ではないと言えばそうなのですね。現在は訴訟費用それ自体がそれほど大きくありませんから。ただし、弁護士費用の訴訟費用化という問題が出てくると、かなり大きな意味を持ちますし、金額が少なくても、本来、敗訴者が負担すべきなのに、手続が繁雑なために利用できないというのは不合理ですから、やはり山本委員のおっしゃるとおりではないでしょうか。

【佐藤会長】ほかの委員はいかがでしょうか。

 それでは、この(1)の「提訴手数料」はそういうことで、今日の御意見をまとめさせていただきます。

 次に(2)の「弁護士費用の訴訟費用化」でございます。

 ここでは黒ポツで2つに整理してあります。「弁護士費用の合理化・透明化」、それから、「弁護士費用の敗訴者負担制度の導入の可否」という論点でございます。

 この「弁護士費用の合理化・透明化」につきましては、細かなところに入るといろいろあるんでしょうけれども、このこと自体は、やはりしなければいけないということになりましょうね。この点について御意見をちょうだいしたいと思います。

【山本委員】弁護士さんへの非常に大きなアクセス障害になっている理由の1つだと思います。とにかく金額がわからないわけですから。これは客観性というとおかしいんですけれども、一般に大体このくらいだという金額、テレビコマーシャルでやるかどうかは別にしまして、少なくとも相談をする人に対しては、これくらいお金が掛かるんですよということをきちっと伝えるような仕組みがないとまずいんじゃないか。

 特に企業などの場合は、企業の側でどうしたらいいのかな、こんな按配かなということで報酬を提示する場合もあるんですけれども、そういう部分がかなり多過ぎると思うんです。極めて前時代的と言いますか、アメリカみたいに時間制にするかどうかは別にいたしまして、少なくともこの点についてはかなりの改善が必要ではないかと感じているところでございます。

【竹下会長代理】御指摘は全くそのとおりだと思います。ただ、恐らくそういった弁護士報酬の在り方は、弁護士制度の問題と密接に関わっておりますから、合理化・透明化すべきであるという限度だけなら、これは問題がないのですけれども、では、具体的にどうするかという話になると、やはり弁護士制度の問題を議論するときに、また改めて議論する必要があるのではないかと思いますが、どうでしょうか。

【吉岡委員】そうだと思いますけれども、私も合理化・透明化する必要があると考えております。一般の個人が弁護士さんにお願いしようかなというときに、この事件で、総額としてどのくらいのお金が掛かるのかという予測がつかないというのが一番困るんです。

 ところが、弁護士さんに言わせると、その事件でどのくらい裁判の期間が掛かるかというのは、実は弁護士さんの方も予測がつかないという面があるんです。私がここに、予測可能性を高める判例等の裁判情報が開示されるということを前提にと書きましたのは、そういうことで、やはり判例がファイルされて、検索できるという仕組みが充実していますと、その検索をすることによって、およその見当が専門家だったらつくということにもなるんじゃないかと考えます。これは地裁の場合特に思います。勿論個人名を出す必要はありませんが、そういうリストが欲しい。

【佐藤会長】前に中坊委員が事例集というようなことを弁護士費用に関連しておっしゃったことがありますね。

【中坊委員】私の言ったのは、たまたまある週刊誌が弁護士会のつくっておる報酬規定というものを、具体的な20くらいの例に限りまして、こういう交通事故であればこのくらいの事件であって、これであればこれだけですというようなものを20例ほど出したんです。それが非常に見やすい。

 だから、私も弁護士の報酬というものについては、弁護士会がもっと国民にわかりやすいように出さないといけない。それについては規程を幾ら説明するよりも、こういう事案についてはこのくらいだという目安がつくように、典型的なものを出して、弁護士がそれをもっと国民の間に流布して、国民の間で大体目安がつくと。正確に幾らということはわからないんだけれども、大体これくらいということが、交通事故だったらどうだ、離婚だったらどうだというのを、特殊なものは別にして、国民一般に御関係があるというのは、よく言って30か50くらいまでだろうと思うんです。そういうものを弁護士会が、もっと自分たちの自治なんだから、それでは報酬についても、もっと国民にわかりやすいつくり方をして出さなきゃいけない。そういう点を私個人として弁護士会に提案していたことがあるということを言ったわけです。

【佐藤会長】ほかに特に今の点について御意見がありますか。

 さっき会長代理も言われたように、合理化・透明化という理念だけ掲げたらだれも異論を唱えようがないと思うんですけれども、具体的にどのようにするかとなるといろいろ問題が出てくるかもしれません。そういう問題は弁護士、あるいは弁護士会の在り方のところで議論する必要が出てくると思いますので、ここでは、一応、合理化・透明化を推進する必要があるということでは御異論がないということでよろしゅうございますか。

【曽野委員】この中の唯一の素人としてお確かめしておきたいんですけれども、お医者様の方の保険が導入されましたときに、言葉は悪いんですけれども、名医もやぶ医者も同じということになりました。いろいろ調整機関はおありだと思うんですけれども、私どもはやはりあの先生は、あのいやな夫と離婚するときに、裁判に勝ってくれるんだろうかと。能なしの弁護士さんに掛かったら損するのではないか、これは庶民の感情だと思います。そういうことについては、一切これは計算なしという、一律という考え方でございますか。

【佐藤会長】そこは必ずしもそうではないんではないかと思いますが。すべて機械的に考えることは難しいところがあるんじゃないかと思いますけれども、今の点を含めた議論は、弁護士の在り方とかいろんなところでまとめて御議論いただきたいと思いますけれども、よろしいでしょうか。

【中坊委員】今の曽野さんのおっしゃっていただいているのも、確かに1つの重要な視点だろうと思うんですけれども、しかし、名医、必ずしも高いとは限らないんです。それが前提になっていますと、今おっしゃるように、お金を高く積めば名弁護士が付くとかというと、恐らく今の弁護士はそうではないだろうと思う人が多い。また、今、曽野さんのおっしゃるように、そういう側面もある。

 ただし、もう一つ前提として、目安がつかないと。今のところは弁護士としては大変申し訳ないという気がしているし、弁護士会がもっと努力しなきゃいかぬと思うんですけれども、確かに今、吉岡委員や皆さんのおっしゃるように、目安がつかないという状態なんです。もう一つ以前と言うと悪いけれども、そういう状態なんです。これは弁護士としては、着手金と報酬と2つに分かれていまして、それがまた大変ややこしくさせている問題もありまして、そういういろんな問題がありますので、私としてはとりあえず、大体国民の方に、この程度だよというおおまかな目安がつくということが第一歩としては必要であろうと思います。

 確かに曽野さんのおっしゃるように、これからタイムチャージが出てきたというのは、いろいろあるし、弁護士は予想された以上に、自分で言うのもおかしいけれども、弁護士を見ていると格差がすごくあるんですよ。これは実際私も住専機構の社長で何百人という弁護士さんを依頼してみて、本当に痛感しました。同僚の弁護士の間ではわからない。頼む立場になって、しかも何百人という弁護士さんを見ていると、ええっと思うくらい出来に格差があるんで、今、曽野さんのおっしゃることは確かにあるんです。随分違うんです。でも、それをどうするかというのは、私も出てこないんですが、ただ、おっしゃるように大変な格差があるということは事実です。

 だから、今言うように、目安がつくということだけでは解決はつかないという問題も事実です。

【佐藤会長】「弁護士の在り方」のところで今の議論をやりたいと思います。

【藤田委員】目安をつけるという意味では、タイムチャージが合理的だと言われているんですが、今度ヨーロッパへ行って、大きな弁護士事務所でもいろいろ話を聞きましたけれども、タイムチャージと言っても、例えばパートナーの人たちですと1時間当たり日本円で言って7万円とか8万円にもなるし、一方、アソシエート、日本で言うイソ弁になると、1時間1万円とか随分幅があるんですね。

 曽野先生のおっしゃっているような言い方から言うと、タイムチャージの単位時間当たりの高い人は有能で勝ってくれそうだということになるかもしれませんけれども、それも必ずしもそうとも言えないです。そういう意味でいろんな複雑な要素が絡み合っていますから、弁護士費用の訴訟費用化との関係が一番大きいと思いますので、そこのところで議論したらいかがでしょうか。

【佐藤会長】アメリカに行きましたとき、駆け出しの弁護士の場合は1時間くらい聞いても要領を得ないが、有能な弁護士に掛かると2、3分でぱっと答えが出てくることがあり、だから、結果的にどちらが高いのかよくわからないといった話を聞きましたが。

【竹下会長代理】今の点は前々から指摘されておりますし、中坊委員がおっしゃったように、前に中坊委員が御提言もなさっているということで、もし弁護士会側でこの点について何か御検討しておられるようなことがあれば、資料を出していただけるとありがたいと思うのです。

【中坊委員】私も先ほど言うような案も、私がたまたま自分が会長を辞めた後に、一弁護士として弁護士会に提案したことがあるということをここで言っただけでして、その後それがどのように弁護士会内部でやっているか、私も辞めてかなり経ちますので、何とも言えないので、現在のものは、この審議会としてヒアリングをしていただければそれなりに進んでいるかと思います。

【佐藤会長】では、弁護士等の在り方についての審議は別にまとめてやることを予定しておりますので、この点についても弁護士会から聞いてみたいと思います。

 その点はそのくらいにしまして、次に「弁護士費用の敗訴者負担制度の導入の可否」について、御議論いただきたいと思います。

 高木委員、山本委員、吉岡委員の御意見を拝見しますと、お3人とも、基本的には敗訴者負担を制度化するという方向で考える、しかし、中には原則どおりにはいかず、それだといろいろ弊害もあるので、例外的な類型を考える必要があるのではないか、というように読んだんですけれども、そういう理解でよろしゅうございますか。

【高木委員】国によって違うようですが、労働事件等は違う扱いにしているとか、訴訟分野で扱い方を変えているケースが国によってあるようだと聞いておりますので、その辺を。

 先ほどの曽野さんのお話とちょっとスタンスが違うかもしれませんが、よくお医者さんの世界で、地獄の沙汰も金次第みたいなお話が、自由診療を入れるとかいう議論と関わってあるんですけれども、労働事件などを見ている立場で言いますと、経営者側というのは訴訟費用が幾らでも耐えられるんです。メンツとかプライドみたいなもの、あるいはこんな裁判ざたにしやがったという意味でのお腹立ちを金に飽かせてやられる、それに普通の労働者はなかなか対応していけない。特に個人ではね。今のは非常に特異なケースかもしれませんけれども、そういうことも含めて弁護士費用なりを考えなければ。要するに、お金がないのはあきらめなさいということにならないようにすべきではないかということです。これは法律扶助やらいろんなことに関わる議論ですけれども。

【佐藤会長】今の点は、山本委員の御提言でも、労働事件など、原告のケースなどにより別の配慮をする必要があるという書き方になっていますね。

【竹下会長代理】これは専門の私どもの学会でも、弁護士費用の全額か一部かという問題もありますけれども、全額というよりは、一部は敗訴者が負担をすべきではないかという意見が多いのですが、結構議論はありまして、弁護士費用の敗訴者負担の問題は、理論的な問題と、政策的な問題と、技術的な問題とに分けられると言われています。

 理論的な問題というのは、確かに100万円支払いの請求をする権利があって、勝ったのだけれども、弁護士に20万円払って、それは自己の負担だというと、結局、100万円の権利だったものが80万円に減ってしまうではないか。だから、その分は負けた方から取れてよいのだという考え方が一方にある。他方、訴訟に係る費用というのは、紛争解決のコストなのであって、紛争解決という点からすれば、両方の当事者がともに利益を得ているのだから、負けた方が弁護士費用まで当然に負担すべきだということにはならないというような考え方もあります。その辺りについても結構議論はございます。しかし、一般的には、弁護士の報酬が、訴訟に係る費用の中の非常に大きな部分ですから、権利があって認められたのに、その部分は自己負担だ、各自負担だというのはどうも正義に反するし、理屈にも合わないのではないかというのが多数の考え方です。

 それから、政策的な問題というのは、仮にそうだとしても、一体どのくらいの範囲で認めるか。先ほど中坊委員が言われた着手金と言われる限度だけにするかとか、また敗訴者負担が訴え提起行動に与える影響を考慮してどう規制するかというような、そういう問題です。今のどういう場合に例外を認めるかという辺りも政策的な問題です。

 技術的な問題というのは、実際にそれを制度として組み立てる場合に、どうしたらよいかという問題で、大体3つくらいに分けて議論されているところです。

 恐らくその場合に、例外をどう認めるかということ。それから、一部負担とした場合の、一部をどのように決めるかという辺りが実際には問題になってくるのではないかと思いますので、場合によればこの辺りは次のときに法曹三者の方に御意見を伺ってもよいかと思います。もし皆さんから御賛同いただければです。

【佐藤会長】今、会長代理の方からいろいろ御説明いただきましたけれども、これに関して御質問、御意見をどうぞ。

【鳥居委員】質問があるんですけれども、今、竹下先生が御説明してくださった考え方は、理屈の上での分け方なんですけれども、訴訟の性質と言いますか、そういう区別から言うと、また、違う面があるんじゃないかと思います。

 例えば、公立病院で起こった医療過誤で、患者さんが大変な損害を受けたと、本人はそう思っている。何とかしてくれと訴えますね。例えば東京都立病院のような場合であれば、背後に都が雇っている弁護士さんが大勢いるわけです。そうすると、普通は患者さんが負けますね。負けないまでも、20年くらい掛かって、最高裁まで行ってしまう可能性だってあるわけです。挙げ句の果てに負けたら、これは負けた人が払うんですかね。そういうようなことを考えると、私はやはり裁判の種類、性質、それから原告と訴えられた方との立場の違いみたいなものが重要なファクターになるケースがあるんじゃないかと思うんです。

【竹下会長代理】アメリカなどでは片面的負担、つまり原告が勝てば自分の弁護士費用を被告から取れるけれども、負けた場合に被告の弁護士費用までは負担しなくてよいというような考え方もございます。

 ただ、一般的に片面的負担と言いますと、訴訟では両方の当事者を公平に扱うべきだという考え方に反するところがありますので、鳥居先生がおっしゃるように、事件のタイプ、種類によって考えないといけないだろうと思います。おっしゃるように弁護士費用の敗訴者負担という制度は、逆に訴えを起こすことをためらわせるという効果もあるということが指摘されておりますので、その辺りは慎重に考えるべきだろうと思います。

【佐藤会長】それはさっきおっしゃった費用の中身、例外の設定の仕方の問題ですね。

【中坊委員】私、今の敗訴者の費用負担の問題ですが、これが法曹三者に尋ねてみて、参考意見になるかもしれないけれども、決して決定的な意見ではない。我々はそのためにこそ利用する立場から物を言うているわけだから、かえって法曹三者、特に弁護士に聞けばいろいろな説は出てくるでしょうけれども、私は仮に苦しくても、この審議会でそれについても1つの方向を我々の手で出すということでなければならないと思います。こういうことで弁護士会とか法曹三者がイニシアチブを取るべきことではないと思います。だから、参考意見をお聞きいただくのはいいけれども、苦しくとも我々の審議会で1つの方向づけを出す。そのためにこそ利用する立場の意味があるわけだから、実務は法曹三者でやっているんだから、特に弁護士が決定的と言っていいくらいあるんで、私は弁護士の立場から見る目というのと、もらう方というか負担する方とは、非常に利害関係は深いけれども、この審議会の在り方というのは、まさに利用する立場からの意見ですから、参考意見で聞くのはいいけれども、余りそれに振り回されてはいけない。

 審議会としてこの問題についても、1つの方向づけはしないといけないんだという下に御審議いただくのが正しいんじゃないかなという気はするんです。

【佐藤会長】わかりました。精緻な議論をすれば、先ほど会長代理がおっしゃったように、いろいろな次元の問題があるかも知れない。ただ、敗訴者負担というのは、大ざっぱに言うと大きな正義にかなっているのかなという感じがある。しかし、それを貫くといろいろ不都合なところが出てくるわけで、その点について手当てをする必要があるという思いも強い。

【中坊委員】私としては、例えば審議会でその点に関してこういう方向で大体我々は考えていると示すべきです。あんたの方として具体的に困ることがあるのかという諮問ならわかります。それでは、まず我々が、今おっしゃるように、敗訴者負担ということを原則として、鳥居委員もおっしゃり、高木委員もおっしゃったように、特定の分野については違うとしましょう。その上で特定の分野とはそもそも何なのかという点もある程度やって、そういう法曹三者の意見を聞いていただくべきです。単にあなたの方から意見を聞くということではなくて、苦しくとも我々の内部で1つの意見をこしらえて方向づけも決めて、この範囲はどうだという案を聞くということでないといけないんじゃないかという気がするんです。

【吉岡委員】私もこういう問題があるというくらいしかここでは書かなかったんですけれども、私は基本的には、敗訴者負担の導入というのは考えた方がいいと思っております。特に公益に関わってくるような訴訟内容の場合に、これは訴額は非常に小さいということもありますので、当然のこととして敗訴者負担、しかも片面的敗訴者負担を考えるべきではないかと思います。それを考えない場合に、例えば消費者が企業の悪に対して訴えを起こしたとしますと、企業の顧問弁護士は恐らく高いと思うんです。ですから、その負担をさせられるということになると、ほとんど訴えができなくなるということになります。

 では、一方的でどうなるのかということを言った場合には、相手方の弁護士費用の上限を決めるというような方法も当然考えなければいけないと思います。少なくとも公益の正義に関わるような訴訟の場合は、片面的敗訴者負担ということを導入することによって、国民が正義の主張ができるということになってくると思うので、当然それを導入の方向で視野に入れて検討していただきたいと思います。

【山本委員】今、吉岡さんが言われることはよくわかるんですけれども、この辺はまた議論が出てくると思いますが、例えばクラスアクションだとか懲罰賠償だとか、そういう話と関連する話じゃないかということはお伺いしましたけれども、民事訴訟というのは、私人と私人のある意味でイコールでの立場での争い事をどういうふうに決着するかというのが本質だと思うんです。

 そういう意味からすると、私人が起こした訴訟について、安易に公の正義とか何とかという言葉を使うのはちょっとためらいがあります。そういったやや概念がはっきりしないものについて、これはこうであるという理由の付け方をするのはいかがかなと。

【吉岡委員】本当はここでディベートをやりたいんですけれども、やめます。

【佐藤会長】それはまたいろんなところに関連している問題だろうと思いますので、ここでは、基本的に敗訴者負担制度の導入を考えようじゃないか、しかし、導入するについては、訴訟の種類などに応じていろいろ考えるべきことがある、この段階ではそういうとりまとめ方でよろしいですか。

【竹下会長代理】結構です。ただ、そこから先はどこで詰めますか。

【佐藤会長】これは山本委員がおっしゃるようにクラスアクションも関係してくるかもしれません。

【竹下会長代理】普通よく言われているのは、実際に自分が頼んで弁護士に報酬を幾らにするかは、これは自由に決めてよいのであって、ただ、勝った場合に相手方から取れる弁護士費用としては、一番わかりよいのは、法律で一定の額を決めておいて、実際の弁護士報酬よりは低く、その半分くらいのレベルに決めておいてその分は取れるという形のものではないかと思います。ですから、決して弁護士の報酬の実際の額を縛ってしまうというものではなく、ただ、勝った場合に相手から取れる限度を決めておくということです。

 そういう方向で考えてよいのかどうか。先ほどの中坊委員の御提案によれば、そのくらいの方向を出しておいて、では、例外として除かなければいけない種類のものとしてはどういうものかとか、一部負担の方法、限度について法曹三者の意見を聞くということは考えられると思うのです。

【中坊委員】この審議会の結論が一体どの程度具体化するかという問題じゃないかという気がするんです。それは、すべてのことをここで議論すると、それだけでもものすごく時間が掛かるので、私のは基本原則とか、基本的な方向づけまでは、この審議会で決めておくことに留めるべきだと思います。そして、参考的に彼らの意見も聞くということにしないといけない。これを非常に詰め出しますと、いろんなことが考えられて、確かにその意味では実際やっている人の意見からとなると、この話が迷路に入ってしまって、いつごろできるかわからないようになってしまう。私はこの審議会の在り方として、項目についての一応の結論と方向づけをして、子細はそれまでとか、何か我々の議論の具体的な1つの項目についての深さというか、それはある程度決めておくべきだと思います。そして、非常識なことを言っておったら困るし、また、向こうの方が問題があるかもしれないから、一応参考までに意見を聞くということにしないといけない。苦しくとも我々の審議会はその1つの結論と方向づけの結論みたいなものはある程度出さないと、この審議会そのものの価値が問題になってくるのではないか。

 だから、それについては、今言うように、極端だと。片面的か片面的でないか、今も現に山本委員と吉岡委員と違うわけだから、確かに我々として、それをどう考えるのかということは出して、多数決で決めろという意味ではないですが、一応皆さんが納得しているような方向を出して、参考までに聞くというような方向で審議を進めていただくのが必要じゃないかと思います。

【佐藤会長】そうしたいと思います。ある意味では民事訴訟とは何かという本質論に関わっているわけで、そういう議論をしだしたらまた大変ですので、ここでは敗訴者負担制度の導入ということを考えようじゃないか、しかし、それについてはいろいろ注意すべきところがある、ということにして、今の御議論もその1つと位置づけて先へ進ませていただきましょうか。

 では、ヒアリングのときにまた御質問をしていただければと思います。

 それから、(3)の「訴訟費用保険」の話ですが、これは吉岡委員から提示されています。先ほども御報告になりましたけれども、これはどのように考えるべきなのか。訴訟費用といったものが本当に保険業に乗ってくる事柄なのかどうなのか、その辺はよくわからないんですけれども、アイディアとしては興味深く思いますがいかがでしょうか。

【藤田委員】これはドイツで行われているんですね。

【竹下会長代理】前に私が報告したときも申し上げたと思うのですけれども、確かに文献等では、単体の訴訟費用保険というものがドイツやスイスで開発されていると書いてあるのですけれども、私が前に法律扶助の関係で調査に行って聞いたところでは、ほとんどドイツでもほかの火災保険とか、自動車保険とか、そういう保険とセットになっているものであって、単体でという話は余りなかったのです。

 これは実際にできるかどうかはむしろ保険会社の方が、保険事故率とか何かの計算ができるかどうかという話だと思うのです。だから、この審議会としてどういう取り上げ方をしたらよいのかというのは難しいと思うのです。弁護士会の方では少し研究しておられるということを伺ってはいるのですが。

【中坊委員】報告みたいになるんですけれども、確かに訴訟保険の問題は、私が会長をしておる当時にこの問題が出てきたのは事実なんです。日弁連の意見は否定的という結論になったんです。

 それは幾つか理由があるんだけれども、法律扶助との関係がおかしくなってくるんですね。貧しい人のために扶助するという制度と保険とかどう両立するのかという問題になってくる。今度は保険になってまいりますと、弁護士報酬というのは、事実上保険会社が決めることになるんですね。そういう問題などがあって、それはその当時のものは敗訴者負担というところまて行っていませんから、今の御議論とはまた違うかもしれないけれども、平成3年度に理事会で訴訟保険が問題になって、日弁連としては否定的な意見ということなんです。

【佐藤会長】吉岡委員の書き方ですと、逆に弁護士費用の透明化にこの制度が資するんじゃないかという趣旨にも読めますね。

【吉岡委員】結果としてはそうなってくると思うんです。第三者が間に入ることになりますから。ただ、ドイツの場合には、個人が保険に加入しているということを聞いておりましたので、企業の場合には、PL保険でもそうですけれども、いろいろな保険制度があって、活用されていると思います。

 PL導入のときにも、これは損害保険ですけれども、PL保険の導入をすると、保険料が非常に高くなる。リスクが大きいからということが随分言われたんです。それで、そのことも実はヨーロッパの保険会社へ行って調べたことがあるんですけれども、確かに最初はかなり高額になるのではないかということで保険料は高かったそうなんですけれども、ふたを開けてみたらそれほど訴訟は起きない。むしろ予防効果の方が出てきたものですから、それで保険料はほとんど元に戻ったといういきさつがあります。

 今の日本のPL保険がどの程度になっているかわかりませんけれども、日本でもPL訴訟はそんなに多くないんです。それと、勝っている例も余り多くない。そういうことになってくると、恐らく当初設定された保険料よりは安くなっているはずだと思っております。そういうことで導入しようとすればできる。それを個人のところまで広げるという、例えば自動車の自賠責等はあるわけですから、そんな考え方で言うと、割合安い保険料で可能だろうと。ただ、その場合に保険の対象となるのが、訴えられた場合を対象とするのか、訴えた場合も含むのか、その辺は検討しなければいけないと思います。

【竹下会長代理】前に私が報告したときに事務局で用意してくださった参考資料の5ページに現在の日本の訴訟費用保険の実情がまとめられておりますけれども、これで見ると、加害者側の責任保険で訴訟費用までカバーするというのはかなりございますね。ただ、被害者側の訴訟費用を担保する保険というのは、ここでは知的財産関係のものだけということになっています。これは保険の技術的問題なので、私としては何とも言いようがないのです。できるだろうとも言えないし、被害に遭う確率というものを計算できるのかというのはよくわかりません。

【曽野委員】これをやるくらいならペット保険を先にやってというのが普通の考えだと思います。ペットの医療保険ですね。それを望んでいるだろうと思いますけれども、吉岡さんのおっしゃる気持ちは、私本当によくわかるつもりなんですけれども、ふつうのユーザー側からは、非常に遠い感じがいたします。

【吉岡委員】文献等も集められるものもあるかと思いますので、もうちょっと検討させてください。

【佐藤会長】これは1つの項目として挙げておいて、引き続き検討するという扱いでよろしいですか。

(「はい」と声あり)

【佐藤会長】それでは、次に2の「法律扶助の充実」でありますけれども、ここに行く前に10分休憩いたしましょうか。
 では、40分に再開いたします。

(休憩)

【佐藤会長】それでは、時間も来ましたので、再開させていただきたいと思います。

 次に、2の「法律扶助の充実」でありますけれども、刑事についてどうするかという点は、刑事裁判のところで問題になってくるところですけれども、一層充実させる必要があるという点は基本的には余り御異論のないところかと思いますが、これに関連して何か御意見をちょうだいしたいと思います。

【竹下会長代理】この点につきまして、今日席上配付していただいた追加参考資料2の29ページ、一番後ろのページですが、そこの「資料10」に論点を事務局で整理してくれていますので、これをごらんいただいて、この点については検討を要するという御意見があれば出していただくということでどうでしょう。

【佐藤会長】今のようなことで、ここのところはよろしゅうございますか。

 一番後ろの「民事関係、対象事件、対象者の範囲、利用者の負担の在り方、運営主体の面」。

【藤田委員】よろしいんじゃないでしょうか。

【佐藤会長】特に何かございますか。
 では、この点はこれでよろしゅうございますか。

【高木委員】全く視点が違うんですが、中坊さんにお聞きしますが、弁護士産業というのはどのくらいの規模の産業、例えば総売上高はどれくらいなのでしょうか。

【竹下会長代理】アメリカなどではそういうふうに言いますね。

【中坊委員】5,000億円ぐらいですか、それくらいだと言われている。大体、アバウトそれぐらいではなかろうかと言われているみたいですね。

【山本委員】確かクリフォード・チャンスは年間1,000億円と言っていましたね。

【藤田委員】10億ドルと言っていましたね。

【山本委員】クリフォード・チャンス、ロンドンだけででしたか。

【藤田委員】全世界です。

【佐藤会長】では、この問題についての御議論はここでとどめさせていただいて、次に3の「裁判利用相談窓口(アクセス・ポイント)の設置」に移りたいと思います。これも山本委員、吉岡委員の御提言が記載されておりますけれども、いかがでしょうか。

 これも基本的には余り御異論のないところかと思います。具体的に例えば、消費生活センターをどういうように位置付けるかといったやや各論的な問題があるかもしれません。いろんな絵の描き方があると思うんですが、基本的な構造として、弁護士会や裁判所等がそれぞれの立場でいろいろおやりいただく必要がある。ともあれ、全体のシステムとしてこんな方向が望ましいということについては、余り御異論がないようですけれども、よろしゅうございますか。

 そうしましたら、4の「裁判所の管轄・配置等」の方に移らせていただきます。

 これは、会長代理が2月8日に全体をまとめられたときにも、1つの課題として出ておったんですけれども、特に(1)の「人事訴訟の家庭裁判所への移管の可否」でありますが、会長代理、この点について何かございますか。

【竹下会長代理】それでは、ユーザー側のレポートに出てこなかった問題でございますので、私からちょっと意見を言わせていただきたいのですが、この問題は、ある意味では非常に技術的なように思われるかもしれないのですが、実質的な問題点は、要するに、家庭関係事件を家庭裁判所で、言わばワンストップ・ショッピングと言いますか、何でも家庭裁判所でやれるというようにした方がよいのではないかということです。その理由としてよく言われておりますのは、一つは、同じ家庭関連事件なのに、調停だと、例えば離婚は家庭裁判所、しかし、調停が成立しないと地方裁判所の方へ訴えを起こさなければいけないということになる。そういうふうに、同じ事件なのに別々の裁判所で処理をするということになるのは、国民にとって不便ではないかというのが1つ。

 それから、もう一つは、家庭裁判所では、家庭裁判所調査官という特別の付属機関があって、家庭関係事件をいろいろ調査をして、裁判の重要な資料にすることができる。ところが、地方裁判所の方に行ってしまうと、そういう機関がありませんので、利用が困難になるという問題。

 もう一つは、家庭関係事件として現在家庭裁判所で家事審判でやっている問題の前提となるような法律問題、例えば、よく引き合いに出されるのは、遺産分割の調停なり審判なりをする場合に、遺産の範囲について争いがあるという場合に、遺産の範囲についての争いは地方裁判所の方でやる、家庭裁判所でも一応審理はできるということに判例上なっていますけれども、家庭裁判所が審判の前提として判断しても、それは拘束的な効力は持たないから、後から引っくり返る可能性があるというような問題がございますので、やはり家庭関係事件は家庭裁判所に一括して管轄を認めた方が、国民が利用するのに非常に便利といいますか、国民の利益を増進するのに役に立つのではないかということでございます。

 ただ、家庭関係事件と一口に言いましても、いろいろなものがありますので、どの範囲までを移すかという問題はなお検討を要するかと思いますが、基本的な考え方としては、こういうことを考えてもよいのではないかと思います。

 ちなみに、先般行われました本年度の民事訴訟法学会でも、この問題をテーマにシンポジウムが行われました。それからまた、そのときに配付された資料で、大阪弁護士会でも、この問題について御検討しておられるようで、協議会の中間報告書というものが出ておりますけれども、やはり基本的な方向は、家庭裁判所に集中させるのが妥当であるということのように思われます。

【吉岡委員】質問なんですけれども、今の御説明を伺うとなるほどなというふうに思うんですけれども、今まで分かれていたという、その根拠になっている問題として、1つにしてしまった場合のデメリットというのはどういうふうに言われていたのか、あるいは考えられてなかったのか。

【竹下会長代理】それは、あるいは藤田委員から説明していただいた方がよいかもしれませんが、後から補足をしていただくといたしまして、まず私から申します。従来言われておりますのは、家庭裁判所というものを、訴訟を扱う裁判所ではなくて、調停とか審判とかという手続で、医師とか、それから先ほど言いました家庭裁判所調査官というような特別の機関を配置して、いわゆる人間関係諸科学的なアプローチを取り入れた裁判所として設立したものである。そこに訴訟というものを持ってきて、両方の当事者が対立して、過去の事実として、どういうことがあったかなかったかということを証拠でがちがちに決めて、権利があるかないかを確定するというのは、家庭裁判所の基本的な性格に合わないという考え方だったようです。

【藤田委員】おっしゃるとおりですけれども、「家庭に光を、少年に愛を」でしたか、そういうイメージですから、対立構造で争うという形が、家庭裁判所の理念とマッチしないということで、例外的にしか訴訟を扱わないということになっているんですね。民事訴訟では請求異議の訴えとか、刑事訴訟では児童福祉法違反ぐらいしかやらないんです。そういうことで、家庭裁判所にも法廷はありますが、あまり使っていないという状況ですので、対立構造で争うというのは、そちらの方の専門の地方裁判所でやってもらおうというような考え方があったんじゃないでしょうか。

【中坊委員】しかし、私は別に結論についてとやかく言うんじゃなくて、それはそれでいいんですけれども、ただ、問題点の指摘として1つしておきたいなと思いますのは、そのような制度的な問題が即、人的な担い手の問題でもあるわけです。だから、どちらかと言えば、そういう裁判官の中でも、悪く言ったら失礼かもしれないけれども、裁判に訴訟のところまで行くのにはちょっと足らないなというような人を家庭裁判所へ送っているのではないかと思われる例もありますから、現実に家庭裁判所にそういう事件を持ち込みますと、なかなか解決に至らないこともあるんです。

 だから、そういう意味における担い手問題とともに、こういう制度的な問題も現実にあり、結果的にそういうふうにして、人が配置されてしまっているでしょう、審判官にせよ、裁判官にせよ、いろいろな問題がある。竹下さんのおっしゃるのが筋だと思いますよ。しかし、同時に、それがなぜかということになってくると、すべての問題が、そのように根底において、担い手問題もみんな有機的に結合しておるのです。私は実態というか現場ではそのような感覚で受け止めておるということですね。私たち自身、本当にそういう例に何回か会っていますから。だから、何か紛争があれば家庭裁判所ではなくやっぱり地方裁判所だというふうに、事実上今なってしまっているんです。それは現場の感覚としては。そういうことも関係しているということを一言申し上げておきます。

【藤田委員】家庭裁判所の裁判官の名誉のために一言しますと、判決が書けない人を家庭裁判所にやるということは全くありません。最近は少年事件に情熱を燃やす人が、家庭裁判所を志望しますし、家事事件でも、例えば、遺産分割とか扶養というような事件は非常に難しい。ある意味では、地裁の通常の民事事件よりも難しいわけでありまして、遺産分割の事件をどういうふうに適正迅速にやるかということは、年来ずっと検討しているところです。そういう意味では、家庭裁判所で訴訟をやるのは適当ではないということはない。

【中坊委員】しかし、私の言いたいのは、だから、制度的インフラの問題が即担い手問題とも関連していますよということで、別に、今、藤田さんの言われたようにそうだというわけではない。でも、私に言わせたら、私やはり何件か例を知っていますから、私自身が経験しておるから。5年経っても6年経っても結論が全然出ないですよ。家庭裁判所に行けば、現実の姿としてあるのです。私は何件かそういう例に遭ってみて、問題になっている件が幾らでもあるんですよ。

 今、藤田さんがおっしゃるように、建前としては決してそうなるべきものではない、ちゃんとならないといけないんだけれども、私は自分の体験に基づいて物を言っているだけですが、制度インフラのことが、即人的インフラとみんな有機的に結合していますよということだけは、心得て我々が審議をしていかないとまずいということです。

【佐藤会長】公聴会で大阪に参りましたとき、人事訴訟も家庭裁判所でと言われながらなぜ実現できないできたのか質問したことがあるんですけれども、それはそれとして、ここはやはりユーザーの立場から、いかに国民に利用しやすいものをつくるかという観点から考えるべきだということでしょうね--背景についてはいろいろ御説明があろうと思いますけれども。

【藤田委員】私も家庭裁判所専従だった時期があるんですよ。

【鳥居委員】中坊委員のに関連して一言言わせてほしいんですが、やはり、だからロースクールを抜本的に考え直すべきだと思うんですよ。要するに、ロースクールで、従来の法曹三者のコースだけがあったんではだめなんですよ。例えば、こういう家庭裁判所で働く人には、グラス・オブ・ジャスティスで、要するに、法の眼鏡でまず裁くことは必要だけれども、1回眼鏡を掛け替えて、グラス・オブ・ヒューマニティーとか、グラス・オブ・エデュケーションとか、いろいろな眼鏡で、この人はどうなっているんだ、この人の人間的な生活の背景はどうなっているのかというのを違う眼鏡で見る訓練、そういう訓練をする学校はないんですよ。そういう訓練をする部分も中に含まれているロースクールを考えるべきだと思います。

【佐藤会長】後で御報告いただきますけれども、今朝、ロースクールについての検討依頼先の方で最初の会合を開いていただいたそうでございます。そこでこの種の問題もどのように論じられることになるのか、その辺も含めて後で御紹介いただきたいと思っておりますが、今、鳥居委員のおっしゃったことはよく理解できるところであります。

 この問題については--背景についてはいろいろな説明があり得るかもしれませんけれども--国民の視点、ユーザーの視点で考えたときに、人事訴訟も家庭裁判所でやったらどうかという線で大体御意見がまとまっているというように考えてよろしゅうございますか。

 どうもありがとうございました。

 それでは、(2)の「簡裁の事物管轄の見直し、少額訴訟の上限額の見直しの要否」の問題に移らせていただきます。山本委員の意見がここに挙げてあります。簡裁の事物管轄を引き上げる、それから少額訴訟の対象を拡大してはどうかということでございますけれども、この点についてはいかがでございましょうか。

【山本委員】中坊先生がおっしゃるように人的資源に問題があるかどうかわかりませんけれども、簡裁の場合ですね。できれば、地方裁判所は複雑な訴訟に集中させるという改革の方向というのはあるような気がいたしまして、そういう意味でこういうことも1つの手法としてあるのではないかと。この90万円というのも決めてから結構経っているみたいで、20年とはいきませんけれども、確かそのくらいの期間...

【竹下会長代理】たしか昭和57年だと思います。

【山本委員】そんなこともありますので、いかがでございましょうかということです

【藤田委員】時代の変化に適応するようにやっていかなければいけないということはおっしゃるとおりなんですけれども、私の経験は、東京・大阪のような大都会と地方とでかなり貨幣感覚も違いますし、事件の訴額の分布も非常に違うんですね。大都会では、90万円というと低額のような感じがあるんですけれども、地方ではそうではない。今までに簡易裁判所の訴額を引き上げたときに、地方では相当多数の訴訟が地裁から簡裁に移動したというようなこともありますので、全体的なバランスを見ながら、適時、適切にやっていかなければいけないと思います。

 また、少額訴訟の対象を拡大するというのは大変結構な方向だろうと思います。

【竹下会長代理】少額訴訟については余り御異論ないのではないですかね。非常に効果を上げていて、30万円では低額すぎる、もっと高額でもよいという意見が多いのではないでしょうか。

【佐藤会長】そうすると、簡裁の事物管轄についてはもう少し議論が必要だということですか。

【竹下会長代理】どうでしょうかね。私は、物価指数に応じた引上げはよいのではないかと思いますが。

【藤田委員】それはやはり実態をよく調べて検討するべきことだと思います。

【佐藤会長】この辺、もし何でしたら、ヒアリングのときまで一応ペンディングにしておいて。

 少額訴訟の方は拡大するということで合意いただいたと理解してよろしいですか。事物管轄については、先ほど会長代理の方から物価指数の関係で考えてはという御意見がありましたけれども、ヒアリングを踏まえてまた考えようということにしましょうか。
 では、この件はそうさせていだきます。

 次に、(3)の「裁判所の配置の在り方」であります。高木委員から交通の便のよいところに設置されるべきだという御意見が提示されていますけれども、非常にごもっともだと思いますと同時に、過疎の問題との関係はどう考えたらよいのかというようなこともあるように思います。いかがでしょうか。

【竹下会長代理】これは具体的にどういうふうなことでしょうか。

【高木委員】平たく言うと、過疎化したところで、バスが何時間に1本しか来ないとか、そういうところは具体的に何か所あるのか知りませんが、一部そんな話を聞いたので書いただけです。大体いいところにはおありになるんだろうと思いますけれども、過疎地の交通の利便性の問題です。ただ、裁判所に必ずバスを1時間に1本止めてくれということが通用するのかどうかというのはまた別の話だと思いますが。

【鳥居委員】裁判所だけではなくて、官公庁全体について言えることですけれども、車で行った場合の乗り入れ可能性も改善しないといけない。ほとんどの役所はタクシーでは入れません。裁判所はどうなっているかわかりませんけれども、多分入れないんじゃないですか。車を置く場所もないですし。

【佐藤会長】この扱い方はどうしましょうか。これは難しく議論すると難しくなっちゃうので。

【竹下会長代理】例えば、裁判所まで1時間以上掛かるというような地域を抱えている裁判所はどのぐらいあるかというようなことについての資料でも出していただきましょうか。

【佐藤会長】ちょっと実態を調べるということですね。

【藤田委員】交通の便が悪いので廃止できないということもあるんですけれども。

【曽野委員】このごろつまらない講演会だって、3時間、4時間掛けて平気でいらっしゃるんですよ。お友達のマイカーで。裁判所だけ1時間掛かったら行かれないのか私は不思議です。くだらない講演会というのは私の講演会です。

【竹下会長代理】だからこそ3時間も掛けていらっしゃる。

【佐藤会長】わかりました。では、実情の資料を用意してもらうということにしましょう。

 それから、(4)の「裁判所施設の在り方」でございますけれども、情報技術の導入についての御提言が山本委員の方から出ておりますが、いかがでしょうか。

 これは御異論のないところかと思いますけれども。

【竹下会長代理】これは恐らく裁判所の方でもいろいろ検討しておられるのではないかと思いますが。

【藤田委員】FAXなどは検討した上で実際に利用されている面もございますけれども、申立書のような書類は、FAXではちょっと困るというような面もあります。可能なものはできるだけ取り込むということです。

【佐藤会長】では、これはよろしゅうございますか。
 それでは次に大きな5の「開廷日・開廷時間の柔軟化」です。これは先ほど吉岡委員もお触れになりましたけれども、高木委員の方からも御意見が出ております。会長代理が御説明されたときに、東京、大阪の簡裁の例でしたか。

【竹下会長代理】家庭裁判所もです。ただ、あれは非常に時間が迫っていたので、裁判所の方としても正確な資料ではないということで、私の手持ち資料ということにしたのです。少し実態をお知らせいただくということでどうでしょうか。実際に簡易裁判所、家庭裁判所でどの程度夜間開廷が行われているのか、また利用されているのかという資料をまずいただく。

【曽野委員】それから、外国人でいる人たちのための語学の問題というのはどの程度ご配慮がございますか、大変関心を持っています。

【竹下会長代理】通訳の問題ですか。

【曽野委員】日本人の夫にだまされて離婚するかどうかというのは、やはり深刻な問題だろうと思うんです。

【佐藤会長】検察庁に視察で行ったとき、30か国語ぐらい、あるいはもっとでしたか、用意してあるということでしたね。

【事務局長】50は超えています。

【佐藤会長】50は超えていましたか。裁判所はどういう実情なんですか。どなたか御存じの方は。

【藤田委員】刑事の法廷通訳については、東京地裁だと通訳を必要とする事件が非常に多いですから、通訳の研修をやったり、名簿をつくったりで、いろいろ努力しておりますし、民事の方は刑事ほどは多くはないと思いますけれども、必要な場合については、通訳を使いますから、リストアップなどという点でいろいろ努力しているようでございます。

【佐藤会長】これもヒアリングのときに、実情を裁判所に聞いてみるということにいたしましょう。大事な1つの問題だということですね。

 以上で、大きなIの方を終わらせていただいて、次に、IIの「民事訴訟の充実・迅速化」の方に入らせていただきます。

 「1証拠収集手続・証拠方法等に関する手続法等の見直しの要否/2審理期間の制限の当否」ということであります。

 まず最初に「計画審理など」とありまして、これは山本委員の御提言ですが、計画審理、それから「裁判官の訴訟指揮権を積極的に活用する工夫が必要」ということですが。

【山本委員】ここのところは、民事訴訟法の改正で、かなりこういった仕組みが取り入れられて、企業の法務の方も、実は、これは随分今までと違うと、スピーディーな訴訟になってくるというので、かなり身構えていたところがあるんですが、現実は思ったほど変わっておらぬという声が多いんです。ですから、その辺のところは、これは裁判官の方々とか、弁護士の方々とか、意識をそれこそ新しく定着するように変えていただくことが必要ではないかということが、実務者の意見が多かったものですから、あえて挙げさせていただきました。

【竹下会長代理】現在、大規模訴訟について、民事訴訟規則に審理計画に関する定めがあるだけなのですね。ですから、やはり訴訟の迅速化を図るという場合には、それぞれの訴訟で、ちゃんと終わりまで見通して、どのぐらい期日をやって、いつが最終だというような計画をあらかじめ立てることが必要だと思うのです。複雑な事件なら長く掛かるのは仕方がないけれども、いつになったら終わるのか全然見通しがつかないというのは、やはり当事者にとっては非常に迷惑だろうと思いますから。そういう意味では、審理計画をたてるのをむしろ原則にしてもらう、そして規則ではなくて、法律上の制度として定めるということが必要になるかもしれないですね。

【中坊委員】だから、この問題も、先ほどから言っているように、やはり担い手問題というのともみんな有機的に結合しているのです。計画審理してもその間に転勤があったらどうなります。転勤は予測できないとすると、それだったら審理計画をつくってもそれがすぐ崩れるわけでしょう。だから、私は計画審理という構想とか発想とか、それ自体は大変望ましいけれども、同時に、担い手問題ともちゃんと関連させて、このようなことを論じないと、すべてが今、山本さんのおっしゃったように、幾ら新民事訴訟をつくろうが、何も結局は変わっていないじゃないかということになりかねない。私は、そういう担い手という問題も常に頭に入れた我々の審理にしないといけないと思います。みんなが有機的に結合しているということを、そして、総合的に我々審議会としては意見を出していく必要があるということをお考えいただきたい。

【佐藤会長】かねて弁護士、裁判官、検察官の増員を、質・量ともに大幅な充実を図るということは審議会として既に確認してきておりますので、その前提で、あるべき裁判の在り方を描いていく、計画審理等の問題もそういう人的な基盤の整備という前提で考えていくということだと思います。そういうことで、よろしゅうございますか。

【藤田委員】5月の20日、21日に京都の同志社大学で民事訴訟法学会があったんですが、大阪地裁の坂本倫城という裁判長が、民事訴訟についての大阪地裁での試みというテーマで報告されました。かなり徹底した計画審理をやられているわけですが、現場での意識改革は勿論必要だとは思いますけれども、そういう方向で努力している裁判官もいる。それを全体に広げていかなければいけないわけですけれども、やろうという意思があればやれるということで、民訴法の学者の方たちも感銘を受けられたようでございました。裁判所の方もなお一層努力しなければいけないとは思いますが。

【竹下会長代理】山本委員がおっしゃられた計画審理のところに関してですけれども、民事訴訟法が施行されまして、かなりの実績を上げているということもいろいろ雑誌等にも出ておりますので、ちょっとそのことを念のため、申し上げておきたいと思います。法律は変わっても余り変わらないというところだけが印象に残ったのでは困ります。

【佐藤会長】そういう意見があるということをおっしゃったわけで、両方の意見があるということですね。
 では、この問題は、中坊委員も御指摘のように、人的問題、担い手問題がその根底にあるということを前提にしてでありますけれども、あるべき姿として計画審理を追求すべきことである、というまとめ方でよろしゅうございますか。

 そうしたら、次に、「裁判手続の多様化」であります。これも山本委員の御意見が記載してありますけれども、簡裁の事物管轄の引き上げと少額訴訟については先ほどのとおりですが、ここでの問題は、特に地裁段階において、イギリスのように訴額に応じた複数の裁判手続を導入してはということですね。何か補足すべきことがありますか。

【山本委員】詳しいことは別といたしまして、ファスト・トラックというのがイギリスの訴訟制度にありまして、1期日ぐらいで解決しちゃうというやり方があるようなんでございますけれども、日本でも、あらゆる地裁の訴訟はすべて同じ手続でやらなければいけないということもないのではないかという感じがいたしまして、そういったことも選択肢として取り入れられればいいんじゃないかということです。

【佐藤会長】会長代理、民事訴訟ではこういう議論といいますか、日本でも複数の手続を用意すべきであるというような議論があるんでしょうか。

【竹下会長代理】学界の方では必ずしも活発ではないですが、イギリスの民事訴訟制度改革については、前々からいろいろ紹介がございまして、それなりの評価は得ていると思います。

 それから、たしか先ごろの通産省の研究会の報告書でも触れておりましたね。

 ただ、イギリスの場合には、訴額で、日本で言えば100万円以上、300万円未満ぐらいの事件を迅速な手続で十分準備した上1回の期日で終わる。今、おっしゃられたとおりだと思いますけれども、訴訟の審理に必要な時間を、そのように訴額だけで割り切れるのかどうか、という問題があるように思います。むしろ先ほどの審理計画の考え方を一般化して、そちらの方で迅速化を図るというのも1つの行き方ではないかと思いますが、しかし、検討することは恐らく必要でしょうね。

【佐藤会長】何かこれについてほかに御意見がございますか。
 それでは、この点は、十分検討に値するものとして、今後引き続き検討するということで、今日のところはとりまとめとさせていただきます。

 次に、「証拠収集手続」であります。ここのところは、特にディスカバリー制度の導入を巡って山本委員と高木委員、吉岡委員の考え方が少し違っているというように理解しましたけれども、それぞれ御説明なさいますか。

【吉岡委員】私は先ほどここは説明したところですので。多分、対立した議論になると思いますけれども。

【山本委員】確かに、吉岡さんがおっしゃったように、トライアルをやる前の真実の発見だとか、争点の整理だとか、そういう面でプラスになったという面もあろうけれども、しかし、相当の弊害も出ているというふうに我々は伺っておりまして、私どもの会社はそういった具体的な経験はないわけでございますが、国際的な取引を幅広くやっている企業の法務担当者の多くは、このディスカバリーというのは慎重に検討する必要があるとおっしゃる。

 特に、先ほどの民事訴訟法の改正で、例の当事者照会でございますとか、文書提出命令とか、新しい制度をかなり議論した上で導入されたばかりでございますので、こうした新制度の定着に向けて実のある運用をしながら、この問題はなお勉強すべき事項ではないかというのが率直なところでございますので、吉岡さんも検討というふうにおっしゃっていただいたので、というのが率直なところでございます。

【吉岡委員】恐らく、ディスカバリーの問題は産業界からはすごい勢いで反対されるだろうと思っております。ですから、私が弱い消費者の立場で主張してもなかなか通らないだろうとは思うんですけれども、製造物責任法を検討するときにも、やはり被害を受けて消費者が立証しようとしても証拠が出てこない、それがすごく多いわけです。法律ができたことによって、過失の立証は要らなくなったんですけれども、やはり欠陥の立証はしなければいけない、今の裁判では実態としてはある程度の証拠というか状況があれば、それが欠陥があったという推定をするというのが、裁判所での裁量といいますか、そういう判断はされているんですけれども、これはやはり裁判官にかなり理解がないと保証ではないんですね。 そういうことで、製造物責任法の場合には、燃えた冷蔵庫が残っているとか、そういうことはあるからまだしもなんですけれども、それ以外のことになってきたときには、これはなかなか、出したくない証拠は出さないんですね。それで、裁判期間が長引いてしまうとか真実に至らないという、そういうことがありますから、制度としては、導入していくという、そういう方向性が私は必要だとは思っているんです。ただ、多分、反対が多いから通らないだろうと。

 

【佐藤会長】その辺がちょっと微妙な表現になっていましたね。

【曽野委員】すみません、語学に弱いので。どうぞディスカバリーなどという言葉を使わないでいただきたい。ディスカバリーとはBBCの、自然の映画だと思っているんです、我々ユーザーは。ですから、どうぞひとつ日本語でおっしゃっていただきたいと思います。

【佐藤会長】会長代理、民事訴訟では日本語訳はどうなっているのでしょうか。

【竹下会長代理】普通、「証拠開示」と訳しています。先ほど言いました今日の追加参考資料2の5ページのところに、「我が国の民事訴訟法における証拠開示制度の概要」があり、それから、続いて7ページ以下に諸外国の制度が紹介されております。

【佐藤会長】なかなか日本語で言われなくて、「ディスカバリー」というのがむしろ一般的のようですね。何か理由があるんでしょうか。

【竹下会長代理】どうでしょうかね。

【井上委員】民訴の場合、「ディスカバリー」ということの範囲が広いのではないですか。刑事の場合は証拠そのものの開示を専ら意味しますけれど、民事の場合は、情報を開示するということも含んでいるのではないでしょうか。

【竹下会長代理】「質問書」とかそうものがありますが。

【井上委員】ですから、「証拠開示」と訳してしまうとちょっと狭いので、「ディスカバリー」という言葉を使っておられるように思うのですが。

【曽野委員】そういうふうに日本語を使っていただきたいと思います。これだけですくむ人はいっぱいいますから。

【佐藤会長】お待たせしました。高木委員どうぞ。

【高木委員】山本さん、お立場上というのがあるんだろうと思うんですが、アメリカでも、例えば、ディスカバリーについて、企業と市民というか普通の庶民とは、その受け止め方について大分感覚は違うと聞いております。企業の立場だから、こういうことをおっしゃらざるを得ないのかなと思うんですが、日本にはどうしても私どもも会社と団体交渉などをやっているときに、雑談でこういう議論になったりするときに、アメリカのディスカバリーでひどい目に遭ったんだよねとか言われる経営者がいたりして、余り具体的な中身がどうなのかという客観的な吟味もないまま、ディスカバリーというのは何か厄介な仕組みだみたいな雰囲気が作られているような感じがします。

 だから、ディスカバリー以外にも同じようなことがあるんだろうと思います。例えば、懲罰的賠償についても、いろいろの国でやっている仕組みを冷静にテーブルの上に置いて、議論したら良いと思います。日本も当事者主義的な民事訴訟運営の国ですから、制度論としては、ディスカバリーなどは日本の仕組みに十分合うのではないかと思ったりもします。だから、いろいろな工夫が要るんでしょうけれども、私は例えばディスカバリーは導入可能ではないかなと思っています。

 そういう意味で、民事裁判の基本みたいなものと、こういう制度が合う合わない、そういうスタンスできちんと議論をして、日本ではどういう要件を課せば良いのか、一方では証拠開示をよろしくというようにみんなが言っている現実があり、6ページですか、これにも紹介していただいたけれども、照会に応じない場合の制裁は設けられていないとか、この辺でみんないらいらしている部分があるわけですから、そんなことも含めて、どうなのか議論をしていけば良いと思います。

 ただ、日本の弁護士さんが本当にアメリカ的なディスカバリーを有効にお使いいただけるんですかという懸念の声もあると聞いています。これは大変失礼かもしれませんが、そんなことも含めていろいろな観点から見て、議論をしていって、より迅速な裁判に役に立つなら、あるいはより実質的な事実の解明の役に立つなら、入れたらいいと私は思うんですが。

【吉岡委員】確かに、高木委員おっしゃるように、いわゆる日本の弁護士事務所で対応できるのかと言ったときに、膨大な資料を分析していくという努力が必要になってきますから、今の日本の多くの弁護士事務所の場合には、人的にかなり大変かなと思います。ただ、規模の拡大も図っていかなければいけない、そういう中で考えれば、能力的には可能だと思います。

【中坊委員】私も、たしかにこれを利用する立場からのより利用しやすいというのが今度の司法制度改革審議会に課せられたことですから、より利用しやすいためには、利用して値打ちがあるということが前提なんですね。値打ちのあるものならみんな利用するわけですから、問題は値打ちがある裁判かどうかというところに1つの大きな問題がある、それで、今の問題というのは隠そうとすれば隠しきれるというところがあるとやはりだめだと思う。現に、憲法82条にしても、何で裁判の絶対的公開の規定が定められているのかというと、やはり少数者のことであっても、道理に基づいているものは、聞かないといけない場合があるから、憲法で絶対的公開の自由まで決められておるわけでしょう。だから、そういうことから言えば、ディスカバリーというのは、まさに基本的なことだと思いますよ。

 この点を今おっしゃるように、吉岡さんが多分通らないだろうとか、そういうことをおっしゃるからいかぬので、絶対、私、これはワーク・デザインで石井さんのおっしゃったように、かくあるべしということを我々は言ってこそ初めて意味のある審議会になるのであって、企業といえども、決して強いということはないですよ。なるほど、労働者との関係だと高木さんがおっしゃるようにそういうように見えるかもしれないけれども、やはり行政権を持っているところに対しては弱いわけですから、強い弱いの論理によって決まってくるわけではない。やはりすべてのものが基本的にディスクローズに耐え得る、公開に耐え得るということがやはり非常に今の社会で求められていることだろうと思うんですよ。

 だから、我々としては、これを基本として利用する立場からというならば、私は、それが今の弁護士が足らないとすれば、これは弁護士の在り方がおかしいので、これを今言うように、人口にせよ、制度にせよ、今の弁護士さんが直してもらわなければいかぬのであって、今の弁護士さんのある姿を前提にして、こうだああだと言い出したら、これは私は本末転倒で、それは私がこう言ったらまた弁護士さん怒るかもしれないけれども、今の弁護士さん、私の目から見ても不十分なのですから、だから、それはやられても仕方がないですよ。

 だから私は、今言う道理に沿うたことで我々の審議会の意見が通っていかなければ、これは現状はそうだからということで、折れ始めたら、これは限りがないと思いますよ。だから、私は、やはり今おっしゃるように、吉岡さんのおっしゃるような線で、この審議会は決まっていくべき筋合のものだと、そうでなければ、本当に利用する立場からの抜本的改革などというのは、21世紀を目指した改革なんというのはできません。私は是非、今の吉岡さんが言われるように、多分あかんでしょうなどということは言われない方がいいんじゃないかという気がしますけれども。

【佐藤会長】わかりました。これは議論をしたら、永遠に続くんじゃないかと思いますけれども、ここでのまとめ方として、こういうことでよろしゅうございますか。

 この制度の導入については、慎重論と積極論がある。ただ、さっきの曽野委員のお話とも関連しますが、ディスカバリーとは本当にどういうものなのかについて、我々この審議会の委員として、必ずしも十分に理解しえていないのではないか。もちろん専門家として御存じの方もいらっしゃるわけですが、審議会全体としては必ずしも十分に仕組みなり実態なりについてつまびらかにしてないところもあるのではないか。ヒアリングのときに聞くと同時に、一遍このディスカバリーとはどのようなものかについて、どなたかに--竹下会長代理にお願いできればいいのですけれども--お話していただく必要があるんじゃないかと思います。その実態も含めてですね。さっきの高木委員のお話ですけれども、アメリカで企業がひどい目に遭ったというようなことを、私もいろんなところで聞くのです。それが何なのか、どこがひどいのか、そういう辺りを私どもとして理解を深める必要があるんではないか。今日は、積極論、消極論両方があるということにして、まず実態を正確に見つめ、理解できる方策を考えた上で結論を出すということで、いかがでございましょうか。

【高木委員】実態を正しく教えていただき、あるいは勉強して、客観的にきちんと評価して議論すべきだと思います。今は何となく印象論だけで議論をしているみたいな感じがありますから。

【吉岡委員】実態をというのは私も大変いいことだと思うんですけれども、ヒアリングする場合に、ひどい目に遭ったという方だけを呼んで聞いても、それはちょっとバランスが悪いので。

【山本委員】中立的にね。

【吉岡委員】やはりその辺のところを御配慮いただきたいと思います。

【竹下会長代理】ちょっと申し上げたいと思うのですが、ディスカバリーを入れるか入れないかという議論ですけれども、現在の日本の民事訴訟法上の制度とアメリカのディスカバリーとどこまで同じで、どこから違うのかというのをやはり確認しないといけないと思うのですね。例えば、日本でも文書提出義務というものは、今度の新法では一般的義務ということになっています。ただ例外が幾つか定められているというところが少し違うのですけれども、アメリカでも勿論例外があるわけですから、その例外の決め方というところが違う。

 それから、検証物についていえば、日本でも検証物提出義務は一般的義務であり、検証物提出命令が出せるということになっていますから、アメリカのディスカバリーとそんなに大きく違うわけではない。先ほど、当事者照会というのを高木さんがおっしゃられたように、日本の場合には、これは当事者間ですることということになっていて、何も制裁がないというところは確かにアメリカの質問書の制度とは違っているといえます。

 それから、宣誓供述書という制度がアメリカにはあるけれども、日本の場合には証書の記載内容が真実であることを公証人の前で宣誓すると、公証人がそのことを公証するという制度を新しく設けました。ただ、アメリカの宣誓供述書とは違いがある。ですから、何かディスカバリーを入れるか入れないか、という議論の仕方ですと、今、日本にあるものと全く違う制度を持ってくるか持ってこないかという問題のように聞こえるのですけれども、検討すべき問題は、そうではなくて、日本にも証拠開示制度はあるのですから、日本の現在の制度ではどこが足りないのかということであり、そのように問題を捉えるのが正確なのではないかと思うのです。

【佐藤会長】実効性の問題ですかね。吉岡委員のおっしゃるように、実効性の段階のところでやはり相当差があるのかないのか、アメリカのこの制度と日本の今おっしゃった制度との間にですね。その辺も含めてちょっと御検討いただけますか。そして、ヒアリングのときにも、その辺のことをまた少し御議論いただいたらいいと思いますけれども。

 そして、中坊委員のおっしゃったことですけれども、これもさっきからの共通している問題として担い手問題がやはり根底にあるということでして、現実からではなくて、我々がやろうとしている全体の制度改革の中でこの具体的な制度をどうするかという視点で考えていく、ということでよろしいですね。

【中坊委員】これは先ほどから言っているように、あるべき姿をまずメインに置いて、それに現状どう変えていくかということでの議論でないと、今の現状はここをこう直せばいいというようなものでもないと思うんです。まず理念がはっきりしておって、その理念から見て現状をどう直していくかという議論にならないと、現状の制度でどこを改良していくかという発想になってしまうと、これは非常に歪曲された議論になっていくんじゃないかと思うから、その点を注意してほしいのです。

 例えば、当事者照会制度、確かに導入された。しかし、おっしゃるように全くと言っていいほど効果がないんです。それをそれだけ直せばよいというのではなくて、なぜそうしなかったという、制裁を課さなかったかという問題もあるし、あるべき姿というのを基本として、全部がディスクローズされるのが一番の原則なんだから、その原則に沿った改革でなければならないという理念だけははっきり踏まえた上での改革案ということになるべきだと思うんです。

【佐藤会長】先ほど申しましたように、この制度の仕組み、内容、実態について更に少し検討を加えた上で、この問題について我々としての結論を出したいと思います。今日の段階では一応両論があり、更に内容を知ろうということになったということにとどめさせていただきます。

 次に、7ページの「III.専門的知見を要する事件(知的財産権・医療過誤・建築瑕疵紛争・労働関係各事件)への対応」について御審議いただきたいと思います。

 そこに、「1専門家を裁判体に取り込むこと(専門参審制、特別裁判所など)の要否・専門家を補助機関に取り込むことの要否/2専門家の意見を早期の段階で取り入れる特別の手続(鑑定レフェレ、独立証拠調べなど)の要否」とあります。

 まず最初に「知的財産権関係事件への対応強化」でございます。

 強化それ自体は御異論のないところと思いますが、ここでは山本委員の御意見が記されています。山本委員、何か付け加えて御説明いただくことがありますか。

【山本委員】専門部が設置されるなど、非常に改善されているというふうに我々も考えておりますが、更にもう一歩進めて、専属管轄化というのはどうか。あるいは裁判官自身の専門性の向上とこの2つの提言でございます。

【佐藤会長】特定の裁判所の専属管轄で、例えば東京とか大阪とか、そういうところへ固めたらどうかということですか。

【山本委員】そうです。

【竹下会長代理】現在は、どの裁判所でもやれるのですが、荒っぽく言ってしまうと、東日本と西日本に分けまして、東日本については地元の裁判所のほか、東京でもやれる。西日本については大阪でもやれるという仕組みになっているのです。実際には東京、大阪に来る例が多いのですけれども、山本委員の言っておられるような専属管轄ではありませんから、それ以外の裁判所でもできるということになっているわけです。それを東京、大阪に制度的にも集中するような形にしたらどうかという御意見ですね。

【鳥居委員】さっきからお話を伺っていますと、プリーディングからディスカバリーまで何か日本人と日本人の争いだけを想定しているように思うんですけれども、ここまで来ると、これからの係争の相手はアメリカであったり、韓国であったり、いろんな国である可能性がどんどん高まるわけです。そのことを皆さんはどう考えておられるのかが私にはよくわからないんです。

【中坊委員】まさに国際的にも通用するルールが日本国で行われないのが当たり前であって、それがないというのがおかしい。私の言うあるべき姿というのは、国際的にも通用する。日本国でこうやっているから、ここを直したらよいという問題ではないと。そうしないと、我々の審議会の意味が私はなくなると思うんです。その意味では、ある意味において大胆に我々が提案しないと、司法の改革というのは非常に難しいのです。

【佐藤会長】具体的にここでは特定の裁判所の専属管轄と、裁判官が専門部などで長期専念できるような人事ローテーションと、2つのことを山本委員は指摘しておられるわけですけれども、これに関連して何か。

【中坊委員】私は今、山本さんのおっしゃいましたように、東京、大阪に専門にするということは少し問題があるんじゃないか。今のように、選択肢が多いというふうにしておかないと、そこで専属だとなると大変なことになるんじゃないかという気がする。私はどちらかと言えば、個人的には会長のおっしゃるように、どう思いますかと言われたら、個人的には現状のままでよいのではないかという気がしています。

【水原委員】同感でございます。やはり訴え提起はどこにするかというのは、当事者に任されていることでございまして、近くの裁判所を選ぶのか、それとも東京、大阪を選ぶのかというのは、当事者の自由に任せるべきではないか。その方が実務に合っているんじゃないかという気がいたします。

【藤田委員】裁判所の専門性については、以前に比べるとかなり向上してきていると言えると思います。高裁と地裁の知財部にいる裁判官を見ますと、大体がみんな何年かの経験を持っている、あるいは知財事件の調査官を経験しているというような人がかなり増えてきております。以前は、3年間知財部にいて、法律の本は1冊も読まなかったというような人もいますんで、知財部配属というと、びっくりするというようなこともありましたけれども、最近は是非知財事件を経験したいという人も増えてきましたから、そういう意味での専門性はかなり向上していると思います。

【佐藤会長】裁判官の通常の人事のローテーションがありますね。何年かで転勤していくわけですね。そういう仕組みの中では、これはどういう扱いになるんですか。

【藤田委員】その点は、特別扱いをして転勤させないというわけにはいきませんけれども、具体的な事件の関係で、転勤を延期するとか、あるいはいったん外へ出てまた帰ってきたときに、また知財部に配属されるというような配慮をしています。勿論、経験者ばかりでやっていると、後継者が育ちませんから、初めての人も配置して養成していくわけですけれども、私が裁判所におりましたころに比べると、かなり専門性は向上しているんじゃないかと思います。

【山本委員】専門管轄化にこだわるわけじゃないんですけれども、現実問題として地方の余り蓄積がないところに提訴されても、現実的な訴訟の遂行ができるかどうかという問題もあるし、今の専門部というのはおっしゃるように、人事ローテーションというのがあるわけですから、やはり蓄積というのはそれなりに散逸、散逸と言ったらおかしいですけれども、そうならないように、もう少し強化することを考える必要があるんじゃないかという意味で申し上げているわけです。別にこだわるわけじゃないんですけれども。裁判所の方でそういう体制がとれるのか、ということです。

【佐藤会長】この問題については、山本委員のような具体的な御意見もあったわけですけれども、今日の段階では、もうちょっと多面的に考えたらいいじゃないかという、その辺りのところで取りまとめさせていただきましょうか。ほかのところで、関連する問題も出てくるかもしれませんし、この点については、そういうことにさせていただます。

 もう40分になりました。実は「労働関係事件への対応強化」についても少し議論しておきたいと思っておったんですけれども、どうしましょうかね。議論すれば、ちょっと4~5分で済まないと思います。

 それでは、今日のところはここまで、つまりIIIの1の知財のところまでいったということにさせていただきたいと思います。

 では、この件はこれで終わらせていただきます。

 次に、今後の審議予定でございますけれども、審議のスケジュール案を事前に各委員にお届けさせていただきました。御意見も何人かの委員から承っておりますけれども、それも考慮させていただいて、調整案は私と会長代理で御相談した上で、折を見てと言いますか、できれば次回、2日にお示しして御了解を得られればというように考えております。そんなところでよろしゅうございましょうか。

 長期的なスケジュールもそうですが、特に集中審議までのスケジュールをはっきりさせておく必要があるかと思いますので、その辺は6月2日の審議会でお諮りできればというように考えております。

 それから、6月13日、27日があるわけですが、審議の今後のことを考えますと、大変申し訳ないんですけれども、14時となっておりますけれども、13時30分からということにさせていただければと思うんですが、いかがでございましょうか。2日は予定通り14時~17時とさせていただきますが、13日、27日、もしお許しいただければ13時30分から開始ということにさせていただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。

(「はい」と声あり)

【佐藤会長】どうも御無理ばかり申して済みません。
 今後の審議予定については、そういうことでございます。

 次に、配布資料の確認なんですが、その前に、先ほどちょっと触れましたけれども、いわゆるロースクール、法科大学院構想に関する検討会議の初会合が今日の8時半からもたれたようでございまして、この審議会の関係の委員の皆様にも御出席いただいたわけでありますが、特に井上委員の方から状況を御報告いただけますか。

【井上委員】簡単に御報告いたします。4月25日の当審議会での取りまとめに基づきまして、4月27日付けで文部省に対して依頼をしたということは、前回会長から御報告があったとおりです。それを受けまして、文部省の方では、お手元の資料で「法科大学院(仮称)構想に関する検討について」という5月24日付けの文部省「高等教育局長裁定」に基づきまして、「法科大学院(仮称)構想に関する検討会議」というものを設置いたしました。

 メンバーは、次のページ「別紙1」、「別紙2」というところに書かれておりますように、文部省1名、法曹三者各1名、大学関係者5名ということで、合計9名の構成になっております。そして、これも前回了承されましたように、本審議会から国民的な視点を反映させるという趣旨をも込めて、私のほか鳥居、山本、吉岡の各委員が加わり、議決には参加しないけれども、意見は自由に言うという形で参加をするということで、本日8時半から最初の会議が開かれまして、今、触れました4名の委員を含め、全員が出席して会合が持たれました。

 会議の中身としましては、まず座長を互選するということで、小島武司中央大学教授が座長に選出されました。

 次に、議事の公開をどうするかという問題につきまして、座長の方から、当会議の性格上、会議自体は公開しないけれども、事柄の重大性にかんがみて、毎回の議事要旨を公開するということにしてはどうかという提案がなされました。

 これに対しては、一部の委員から、この司法制度改革審議会で本来検討すべきことが委ねられたのであるから、この審議会と同程度に公開して、各方面の反応も受けながら検討を進めるべきではないかという意見も出されましたけれども、大勢としては、法曹養成制度をどうするかという問題、あるいは法科大学院というものを採用するかどうかということについての審議・決定は、あくまで審議会の方で行うべきものであり、この検討会議は、その素材とするべく、専門的・技術的な事項の検討を行って、考えられる案を資料として提出することを求められているにすぎず、そこでの議論の内容・結果については、本来審議会にまず報告すべきものであるので、その報告の前に検討会議の方から直接外に出ていくというのは適切ではない。また、実質的にも、議論の断片的な部分だけが外に出ると、さまざまな憶測とか影響をもたらすおそれがあり、その結果、当審議会の審議にもいろんな好ましくない影響が及ぶこともあり得るということから、結論としては、この会議での検討状況については、随時その概要をこの司法制度改革審議会に報告をし、また出席している私ども委員が適宜その状況をこちらにお伝えし、この司法制度改革審議会を介する形で公開をするということにする。ただ、事柄が次代を担う法曹の養成という国民にとって重大なテーマを扱うものであることを考え、検討状況を可能な限り公開するということを旨として議事要旨のつくり方を工夫していく。そのようなことで了解が得られました。

 なお、各方面の意見を聞くという点につきましては、今日はそこまで意見が一致したわけではないのですけれども、適切な時期に適当な形で広く各方面の意見を聞いて、検討に活かすようにしようではないかという意見が出されたということを申し添えます。

 続いて、検討の依頼に至る経緯として、この審議会でどういう審議がなされたのかということにつきまして、4月25日に我々がまとめたペーパーに基づきまして、私の方から20分ほど説明を申し上げました。特に、我々が確認しました「基本的な考え方」につきましては、それに十分留意して検討していただきたいということで、一つ一つ項目を読み上げて承知をしていただいた次第です。

 それに続きまして、本日は初回ですので、各委員から、この検討に当たって考えていることについて、自由に御意見を出していただくということで、意見の開陳がなされまして、フリーディスカッションの形で議論をしました。

 最後に、今後の検討のスケジュールですけれども、かなり多岐にわたって、しかも短期間でやらないといけないため、月に3回程度のペースで開催する。ただ、まだスケジュールのすり合わせができていないものですから、座長の方で、できるだけ多くの方が出席できるような形で期日を入れるということになりました。

 しかし、次回だけは指定しておかないといけないので、6月7日の午前8時半からということになりましたが、その次回の検討会議では、このメンバーの中の伊藤眞委員の方から、法科大学院構想に関する議論の現状を基に、そこに含まれた問題点を整理し、それに基づいて検討作業の全体計画、どういう割り振りをし、どういうスケジュールで議論をしていくのかを決める。その上で更に一番基本的な部分から議論に入りたいということで、了解が得られた次第です。以上です。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。前回お願いするときに申し上げましたように、4人の委員の方々には申し訳ない限りです。こちらの審議もほとんど毎週やって、更にそちらもほぼ毎週になるわけですね。心苦しい限りですけれども、よろしくお願い申し上げます。

 検討会議の議事の公開についての取り扱い方について、今、詳細なお話がございましたけれども、私もそういう形なら十分ではなかろうかと判断しますが、それでよろしゅうございましょうか。

【井上委員】私どもも、できる限りあちらでの議論の状況をこちらにお伝えし、ここを通じて公開をしていくということに努めたいと思います。

【佐藤会長】本当に心苦しい限りですけれども、よろしくお願いいたします。
 では、この件ついては以上で。事務局の方から。

【事務局長】配付資料の一覧表に記載されているものにつきましては、改めて説明するものはございませんが、本日お配りしているものの中に、東京大学の塩野宏名誉教授がお書きになられました、「行政事件訴訟法改正論議管見」という論文がございます。これは、次回の審議会で塩野教授から司法の行政に対するチェック機能の充実について、お話をいただくことを予定しておりますが、その際の御参考としてお配りいたしました。

 なお、塩野教授は、この論稿も適宜参照しながら説明したいとおっしゃっておられます。改めて次回の審議会の席上にも配付させていただきますので、これをお持ちになっていただく必要はございませんが、今日お配りいたしましたのは、事前にさらっとでも読んでいただければ、という趣旨でございます。

 なお、自由民主党司法制度調査会が5月18日に「21世紀の司法の確かな一歩-国民と世界から信頼される司法を目指して-」という報告書を発表いたしまして、同調査会から委員の皆様にこの報告書を配付していただきたいという要請がありましたが、発表直後にマスコミで報道されていたこともありまして、早い方がよろしかろうという考えで、既に皆様のお手元に郵送しておりますので、どうか御参照ください。

 以上でございます。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。今のお話にもありましたけれども、次回は6月2日金曜日14時~17時、審議室において行います。そして、塩野教授の行政訴訟についてのお話と質疑を含めて2時間ぐらい予定して、その後は今日の審議に引き続いての御審議をいただきたいというふうに考えております。

 御質問はございますでしょうか。よろしゅうございますか。

 そうしたら最後に、今日の記者会見は向こうに戻ってやるわけですけれども、どなたかいらっしゃいませんか。

【竹下会長代理】井上委員にお願いしたらいかがでしょうか。

【井上委員】文部省の方の検討会議についての御報告もありますので、参ります。

【佐藤会長】そうしたら、井上委員、お願いいたします。

 本日はどうもありがとうございました。