司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第21回議事概要


1 日時 平成12年6月2日(金)14:00~17:40
 
2 場所 司法制度改革審議会審議室
 
3 出席者
委員(敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
事務局
樋渡利秋事務局長
 
4 議題
○ 「司法の行政に対するチェック機能の在り方」について-塩野 宏 東亜大学通信制大学院教授からのヒアリング
○ 「国民が利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」について

5 会議経過

A 塩野 宏 東亜大学通信大学院教授から、「司法の行政に対するチェック機能の在り方」について説明が行われ(別紙1)、これに関して以下のような質疑応答があった。

○ 市民が裁判に、より積極的に参加していく観点からは、消費者団体などに団体訴権を認める必要があると考えるが、法律学者などの意見によるとなかなか認められない。このことについてどのように考えるか。
(回答;団体訴権には、a個人にとっては少額の損害であるために訴訟として成り立たないが、これを団体として合算した損害額を訴訟により争うものと、b個人の利益とは関係はないが、環境保全や文化財保護など団体としての活動等に関係のある問題について、いわば公益を追求するために訴訟により争うものとの二通りの意味がある。aについてはアメリカのクラスアクションに代表されるが、主として民事訴訟の問題であり、民事訴訟において認められれば、行政訴訟においても認められることとなると考えられる。bが、行政訴訟のみにかかわる問題であり、理論的には個別法に必要な規定を設けることにより解決すべき問題であると考える。しかし、法体系全体の横並びの問題があり、例えば消費者行政においてのみこれを認めるというような法規定の整備がしづらいことが、団体訴権がなかなか認められない原因の一つではないか。)

○ 違法建築物の除却命令の不作為に関する訴訟などにおいては、行政訴訟によっては危険の除去等が遅々として進まないのが現実である。こうした問題が発生した場合には、行政庁に権限の行使を義務付ける規定を設ける必要があると考えるがどうか。
(回答;違法建築物の除却命令の不作為の問題に限らず、行政の執行不全の問題について、一般的に議論されている。そのような場合に、行政訴訟により公権力の行使を求めたとしても、行政による裁量権の範囲内の問題として却下される。この問題への対応として、必要な条項を一般法に規定し得るかどうかについては、慎重な検討を要する。例えばスモン訴訟において判例は、一定の違法な状況が整えば、薬事承認を取り消さなければならないとして、行政による裁量権の範囲を厳格に認定する解釈をとるに至っており、こうした取組によって対応することも考えられるのではないか。)

○ 行政訴訟については様々な問題点があり、当審議会としても、改革を進めるためのきっかけとなる提案をなすべきと考える。裁判所に行政訴訟の専門部を設けることや、出訴期間の延長など、有効な提案となり得る事項として、どのようなものが考えられるか。
(回答;裁判官、弁護士などが、行政法規についてさらに十分な知識を持つようにすることなど、基盤整備を早期に進めることが必要ではないか。一方、各地裁に行政訴訟の専門部を設けることについても議論されているが、訴訟件数が僅少である地裁に専門部を設けることができるかといった問題があり得る。しかし、例えば一定の地域を巡回する専門部を設けるなど、色々なアイディアを出し合うことが必要ではないか。)

○ 市民による行政訴訟の使い勝手をよくする観点から、原告適格を拡張する必要があると考えるが、ある程度の制限も必要であり、法律上どのように規定し得ると考えるか。
(回答;日弁連の研究会による行政事件訴訟法の改正試案では、「現実の利益を有する者」と規定されている。しかし、一般法でこのように規定すると、例えば税務訴訟において、国税に関する処分を受けた者の配偶者であっても「現実の利益を有する者」として原告適格を認められることとなり得るなど、原告適格の際限が無くなるおそれがある。判例における取組にみられるように、現行法の原告適格を緩やかに解釈することで対応することも可能ではないか。)

B 前回に引き続き、「『国民がより利用しやすい司法の実現』及び『国民の期待に応える民事司法の在り方』に関するユーザー委員の提言内容の整理」(別紙2。以下「提言整理」という。)に従い、個別の論点について順次審議が行われ、各論点について以下のような議論がなされた。((注)各項目の番号は、提言整理に準拠している。)

III.専門的知見を要する事件への対応

2 専門家の意見を早期の段階で取り入れる特別の手続の要否

  (労働関係事件への対応強化)
 立場によって様々な意見があり得るが、迅速な解決を図るための仕組みを検討する必要があるとの点で意見の一致が見られ、今後、その具体的方策について、法曹三者、労働省等に検討状況に関する資料の提出、説明等を求めた上で、更に検討することとされた。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ 不当労働行為に関する労働委員会の命令についての取消訴訟において、偏見を持った裁判官によって命令が取り消される例が見られるとの問題点を指摘する意見もあり、労働関係事件への対応強化については、担い手問題とも関連付けた総合的な検討が必要である。

  (鑑定制度の改善)
例えば、鑑定人の人材を広く全国に求め、名簿を整備し、ネットワークを確立するなど、組織的に鑑定人の数を十分確保する必要があるとの点で意見の一致が見られた。また、この問題については、証拠開示や法曹養成制度の在り方などの問題ともかかわりを有することから、今後、法曹三者に必要な資料の提出、説明等を求めた上で、更に総合的に検討することとされた。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ 組織的に鑑定人の数を十分確保することが必要であることについて異論はないが、尋問による負担等の問題から、公正・中立で客観的な判断のできる鑑定人の確保は非常に困難であるのが現実である。また、全てを鑑定人に委ねるのではなく、専門部の設置などを通じて裁判官自身もある程度の知見を持つことが必要である。さらに、証拠開示の問題も関連する。鑑定制度の改善については、これらの問題をも有機的に結合して検討する必要がある。
○鑑定人は、正当な理由がない限り、裁判所による鑑定人の依頼を拒むことができないこととしてはどうか。
○ この問題に関しては、現実を前提とすると議論することが困難である。我々がどのように鑑定制度を改善すべきかを考えると、司法に対する国民の関心、国民の司法への参加意識を高める必要があるとの問題に帰着するのではないか。

  (専門参審制など専門家の取り込み)
  訴訟の迅速化、的確な判断の確保などの観点から、医療過誤や知的財産権など専門的知見を要する訴訟において専門家を活用すべきとの意見と、訴訟における専門家の活用については、当事者から見えない場所で裁判官の心証が形成されてしまうおそれがあり裁判の公開性の阻害要因となり得ることや、公正・中立な専門家の選定が困難であることなどの問題点があり、慎重に検討する必要があるとの意見との両論があり、今後、法曹三者に必要な資料の提出、説明等を求めた上で、更に検討することとされた。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ 現在の裁判官、弁護士などには専門性が欠けており、法曹養成の過程において、専門性を養うようにするべきである。また、専門参審制により訴訟において専門家を活用しないと、国際的な経済活動における競争の面で非常に問題である。

3 弁護士の専門化等

弁護士事務所の法人化や共同化などにより、弁護士の専門性を強化する必要があるとの点で意見の一致が見られた。なお、この問題については、今後、「弁護士の在り方」について審議する中で、更に検討することとされた。

IV.民事執行制度の在り方

 財産状況申告命令や財産照会手続の創設、間接強制の適用範囲の拡大、短期賃貸借権の廃止の可否については、更に慎重な検討が必要とされた点を除き、民事執行制度の改善を図る必要があるとの点で意見の一致が見られた。また、家庭裁判所の履行勧告制度を実効化するための方策を検討すべきことについても意見の一致が見られた。なお、この問題については、今後、法曹三者に具体的方策に関する資料の提出、説明等を求めた上で、更に検討することとされた。

V.司法の行政に対するチェック機能の在り方について

 行政訴訟には様々な問題点があり、その改革は不可避であるとの点で意見の一致が見られた。なお、この問題については、行政訴訟に係る改革を進めるためのきっかけとなる提案について、当審議会としてどのような事項が考えられるかを含めて、夏の集中審議以降、更に検討することとされた。

VI.裁判手続外の紛争解決手段の在り方

  ADRの拡充・改善を進める必要があるとの点で意見の一致が見られた。また、この問題については、今後、法曹三者に必要な資料の提出、説明等を求めた上で、更に検討することとされた。なお、その過程で、以下のような意見が出された。
○ どのようなADRを拡充・改善していくかについても議論する必要がある。例えば、行政型のADRとして労働委員会や建設工事紛争審査会などが考えられる。また、国際商事仲裁については、今後とも重要であり、当審議会としても、その拡充・改善を支援していく必要がある。
○ 現行のADRの中で、処理件数、実効性ともに最も高いのは、交通事故紛争処理センターである。損害保険会社と連携する同センターの処理件数が非常に多いために、賠償額の相場を決めるまでになっている。そのようなことの是非についても、検討する必要があるのではないか。

VII.司法に関する情報公開の在り方

  司法に関する情報公開を充実する必要があるとの点で意見の一致が見られた。また、この問題については、今後、法曹三者に必要な資料の提出、説明等を求めた上で、更に検討することとされた。

VIII.その他

懲罰的損害賠償制度、クラスアクション、団体訴権などについては、様々な意見があり得ることから、今後、法曹三者に必要な資料の提出、説明等を求めた上で、更に検討することとされた。

C 「国民がより利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」に関する法曹三者に対するヒアリング項目等について、前回及び今回の会議において提言整理に従い個別の論点について審議された結果を踏まえ、会長及び会長代理並びにユーザーの立場の委員において検討を加え、確定することについて了承が得られた。

D 夏の集中審議までの審議スケジュールについて、別紙3のとおり審議を進めていくこととされた。

E 6月17日に開催が予定されている福岡での地方公聴会(第2回)における公述人の選定に関し、会長及び会長代理による審査の結果、応募者38名の中から別紙4のとおり6名を選定した旨、佐藤会長から報告があり、了承された。また、傍聴者に関し、たまたま隣接するホールとの間仕切りを取り払うことが可能であったため、会場の規模を当初の予定よりも大きなものとし、応募者546名全員に傍聴券を発送した旨、事務局から報告があった。

以上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-