司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第22回議事概要


1. 日時 平成12年6月13日(火) 13:30~17:25

2. 場所 司法制度改革審議会審議室

3. 出席者

(委員・50音順、敬称略)
石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治、曽野綾子、髙木 剛、竹下守夫、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝

(説明者)
千葉勝美 最高裁判所事務総局民事局長
房村精一 法務省司法法制調査部長
細川 清 法務省民事局長
平山正剛 日本弁護士連合会副会長

(事務局)
樋渡利秋事務局長
 

4. 議題
① 「国民がより利用しやすい司法の実現」、「国民の期待に応える民事司法の在り方」について
・ 法曹三者ヒアリング
・ 委員間の意見交換
② 文部省検討会議の検討状況報告
③ その他

5. 会議経過

① 「国民がより利用しやすい司法の実現」、「国民の期待に応える民事司法の在り方」について、別紙ヒアリング項目に従って、法曹三者に対するヒアリングが行われた。主な質疑応答(概要)は以下のとおり。

○ 裁判所へのアクセス障害として当事者の費用負担の問題が指摘されており、その一つが提訴手数料の在り方である。原則としてスライド制をとるとしても、手数料が訴訟提起の妨げとならないようにするため低額化の方策はあり得るのか。また、家裁の例(家事審判や家事調停の手数料は定額でかつ安価であるため非常によく利用されている)を参考に、簡裁(例えば少額訴訟など)の手数料を定額化することはできないか。
(回答<法務省>:平成4年の法改正により訴額が1,000万円を超える高額訴訟については提訴手数料の引下げを行ったところであり、その後、高額訴訟は高い増加率を示している。さらなる引下げについても、立法趣旨を踏まえ、今後十分検討に値するものと考える。簡裁の手数料を定額とするという特別の扱いをするかどうかについては、民訴費用制度等研究会においても議論されたが、結局、最高でも3,000円程度であることなどから見送られたところ。この問題に関しては、少額訴訟の上限額の引上げが審議会においても検討の対象とされていることとの関係やスライド制を原則とすることとの整合性等、さらに検討すべき点があるように思われる。)

○ 弁護士費用の敗訴者負担について、日弁連は個々の訴訟類型に応じて片面的敗訴者負担制度を導入すべきとの意見のようであるが、訴訟当事者の公平性、相互性からして片面的というのはいかがなものか。訴訟類型によるといっても個々の訴訟には事案に応じた性質があり類型によって一律に片面的な制度とするよりも、個別に、例えば裁判所の判断によらしめることとする方が現実的ではないか。
(回答<日弁連>:日弁連の基本的な考え方は、裁判を受ける権利を阻害する制度にしてはならないということである。弁護士費用の敗訴者負担制度は、勝訴の見込みがある場合には訴訟提起を促進する作用があるが、勝訴の見込みが立たない場合には訴訟提起を抑制する作用があることから、一般的なものとして導入されるべきではないと考えている。当事者間の互換性がなく勝訴の見込みも立ちにくい、環境訴訟、消費者訴訟等現代型訴訟ないし政策形成訴訟のような類型の訴訟については、片面的敗訴者負担としなければ、かえって訴訟提起に萎縮効果を与え、裁判を受ける権利を阻害することになるものと考える。敗訴者負担を導入する場合には、負担の範囲を一部にとどめ、しかも予見可能性等を確保するためあらかじめ算定基準を明確化すべきである。)

○ 民事訴訟の当事者の対等性を考えるに当たって、例えば証拠収集の面等でその実質化を図っていくということは理解できるが、弁護士費用の負担の面で解決を図るというのは、従来の民事訴訟の考え方からすると異質ではないか。
(回答<日弁連>:公益的な色彩を有する訴訟について当事者の実質的公平性を図る見地から片面的負担の問題を考えている。それでこそ利用しやすい制度といえるのではないか。)

○ 米国では訴訟類型に応じて片面的負担の制度をとっているということだが、それ以外の国ではどうなのか。また、米国でそのような制度をとっている特殊な事情があるのか。
(回答<法務省>:英仏独においても敗訴者負担の例外はあるものの、米国のような片面的負担の制度は設けられてはいない。)
(回答<日弁連>:米国では、市民の権利の実現を司法を通じて行うべきでありその妨げになるものを極力除去していくという発想があるのではないか。)

○ 原則として敗訴者から弁護士費用を回収できないとなると、かえって訴訟提起を抑制することにならないか。また、片面的負担とすると訴権濫用のおそれが生じるのではないか。むしろ、裁判所がその裁量により個別事案の具体的事情を勘案して判断していくとする方がよいのではないか。日弁連が指摘するような類型の訴訟については裁判所の判断で仮に敗訴しても当該当事者に負担させないこともできる。
(回答<日弁連>:日弁連の提案も、裁判の利用を促進するという見地からのものである。ただし、その場合に必要なのは個々の訴訟類型の性質に着目することであると考えている。また、負担の額につき、裁判所の裁量にかからせるとの御指摘であるが、やはり予め客観的に定まっていることが必要と考える。もっとも、個別の事情により負担させないとすることには問題はないのではなかろうか。)

○ 日弁連は、刑事に関する法律扶助について、刑事弁護の特質から、実施主体の自主性・独立性を強調しているが、そのことから第三者のコントロールを受けないとすることにただちに結びつくのか。公的資金の導入をする関係で、果たしてそれで国民の納得を得られるのであろうか。
(回答<日弁連>:資金の活用等について監督を受けることは当然としても、公的資金が導入されるが故に弁護活動の内容を規制されることがあってはならないという趣旨である。)

○ 人事訴訟の家裁への移管の具体的範囲についてどのように考えているか。
(回答<最高裁>:家裁調査官の有効活用や調停手続と訴訟手続の分断を防ぐという観点から、人事訴訟手続法の適用を受ける事件及びこれに付随する事件を移管するのが明確であろうと考えている。家事関係の事件を全て家裁に移管するというのも一つの考え方であるが、家事に関係する事件であっても客観的な事実認定と法の適用の問題に帰着するものが多く、それはむしろ地裁で処理するのが相当と考えられる。)

○ 少額訴訟の上限額の引上げ自体については、当審議会で大方の意見が一致しているところと考えられるが、問題はどこまで引き上げるかである。その点についての考え方如何。
(回答<法務省>:簡裁の事物管轄である90万円まで引き上げてよいのではないか。)
(回答<最高裁>:少額訴訟手続については利用しやすい制度であるとの評価を受けているようであり、30万円で切る合理性はないと考える。拡大する方向で検討していただきたい。)

○ 簡裁の事物管轄の引上げについて、日弁連は、簡裁の設立趣旨に鑑みて反対の立場をとっているのか。その真意如何。
(回答<日弁連>:物価指数との関係で引き上げていくこと自体には異論はない。しかしながら、簡裁の事物管轄を安易に拡張することは、非法曹資格者も裁判官となる、いわば軽装備で身近な裁判所という性質を持つ簡裁と、地裁の区別があいまいになり、そもそもの趣旨にそぐわなくなるように考えられる。)

○ 地裁と簡裁の区別といっても、法曹資格はなくとも多様な経験を有する人材が裁判官となる簡裁において一定の事件を取り扱うこと自体の意義も考える必要がある。

○ 米国のディスカバリー制度の導入について、消極的見方があるようだが、そもそも導入できないということか、それとも何らかの工夫の余地があるということか。
(回答<法務省>:早期に証拠を収集保全して争点を明らかにしていこうという目的自体には合理性があるが、米国の制度をそのまま導入することには多くの問題があると考えている。新民事訴訟法の改正の際にも種々検討されたが、結局、任意的な当事者照会制度が導入されたいきさつがある。米国の制度では手続の違反者に対する制裁措置として裁判所侮辱罪が定められているが、そのような制度が果たして国民に受け入れられるかといった問題もある。証拠収集手続の充実という点では異論のないところであり、問題は如何に日本の制度になじむ仕組みを作っていくかということではないか。)
(回答<最高裁>:裁判所としては、長期化している訴訟に対してどのような処方箋があり得るのかということを考えている。訴訟の長期化を防ぐために必要なのは計画審理であり、そのためには早期の証拠収集により審理の見通しが立てられることが不可欠である。そうした観点から、裁判所としては、提訴予告制度や事前鑑定手続の創設を提案しているものである。ディスカバリーという制度を検討するに当たっても、計画審理に役立つものかどうかを考えることが必要である。この点につき、米国でも様々な評価があり、制度の濫用により企業秘密の漏洩、訴訟遅延等が生じ、また、タイムチャージ制であることから弁護士費用が高騰するなど様々な弊害が指摘されているところである。訴訟の類型に応じて自ずと提出すべき証拠は決まってくることであり、自発的なディスクロージャー制度等を設け、当事者の提訴前の準備を充実させるなどソフトな方策を考えていくのがよいのではないか。)
(回答<日弁連>:21世紀のあるべき民事裁判手続、グローバル社会への対応という観点からは、ディスカバリー制度の導入を前向きに考えるべきではないか。種々の弊害が指摘されてはいるが、それはレアケースではないか。手続違反に対し裁判所侮辱罪の制裁措置を設けることは確かに我が国になじまないとは思うが、少なくとも新民訴の当事者照会制度は裁判所が関与しない制度であり実効性に乏しいものと考える。)

○ ディスカバリーの問題について、真に議論すべきは、米国の制度を導入するか否かではなく、当事者の証拠収集の手段をどう考えていくかということである。日弁連は、ディスカバリーについて、我が国の当事者照会、文書提出命令、証拠保全、鑑定、検証といった制度をおおむね兼ね備える制度という評価をしておられるようであるが、そうであれば、問題はどこが足りないかということではないか。手続違反に対しサンクションの措置を設けるか否かについては、新民訴の改正の際に日弁連も含めて消極的で、結局、任意の当事者照会が導入されるに至ったのであり、今後その成り行きを見守るべき点もあるように思われる。ただし、証拠収集の時期をより早期に行えるようにするという検討は必要なことであり、その意味で、提訴前の証拠開示の拡充や提訴前の鑑定制度の創設等の検討の必要性は異論のないところではなかろうか。
(回答<最高裁>:新民訴により導入された制度の運用という面では、文書提出命令の件数は増加傾向にある。今後の課題は御指摘のとおりより早期の段階で如何に証拠を収集できるようにするかということであろう。)
(回答<日弁連>:新民訴により文書提出義務の範囲は拡大されたが、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当するとして除外される例もある。我が国の制度と米国のディスカバリーでは、開示の対象範囲が格段に異なるという点を指摘しておきたい。)

○ 労働関係事件について、労働委員会の決定等を含めると、実態として、5審制となっていることをどう是正していくか。個別的労働関係の紛争は増加しているのに労働関係訴訟はそれほど増加していないということは、泣き寝入りを強いられているということである。
(回答<法務省>:我が国には裁判所の他に労働委員会があり、相互の関係をどのように整理していくかを検討しなければならない。5審制の問題に関しては、例えば公正取引委員会の審決取消訴訟のように審級の省略を認めるには、労働委員会の判断の専門性や組織の公平中立性等から、果たして裁判所の第一審に代替し得るものと考えることができるかどうかを検討する必要がある。仮に代替し得ると考えられれば、審級の省略も可能であろう。)

○ 専門的知見を要する事件について現在の司法委員に似た専門委員制度を設けることについては、例えば、専門家の考え方が裁判官の判断に裁判手続外で反映され、いわば密室裁判になりはしないかとの指摘があり得るが、どのように考えるか。
(回答<最高裁>:例えば、建築関係訴訟について争点整理のために調停に付して一級建築士の資格を有する調停委員が当事者とディスカッションをしながら極めてオープンな形で争点を整理していくというやり方がとられ、実際に非常にうまく機能していることからすれば、御指摘のような問題はないと考えている。)

○ 専門的知見を要する事件について、裁判所は、専門参審、専門委員、鑑定などの方策を考えておられるようであるが、その使い分けをどのように考えているか。
(回答<最高裁>:専門参審については、裁判官と同様に手続に関与していくという意味で人の確保という面から、例えば医療過誤訴訟やバイオテクノロジー等の先端技術が問題となる知財関係訴訟等、一定の類型の訴訟について用いていくのがよい。専門委員については使い勝手がよい制度であると思われ、建築、医療過誤、知財関係訴訟などに広く利用していくことが相当。鑑定についても、必要に応じて積極的に利用していくことが望ましく、適切な鑑定人を確保していくため専門家団体との連携協力を深めていく必要があると考える。)

○ 日弁連が専門参審一般には反対しながら、労働裁判には労使双方から参審員を参加させる制度を提案しているのは、矛盾するのではないか。広く一般の国民が参加していくものではないという意味で同じではないか。
(回答<日弁連>:専門的知識を補うという意味でのいわゆる専門参審を労働裁判にだけ用いるべきであるという考えではない。労働事件の特殊性から労使双方からの参加を得て審理を行うのが公平であるという意味である。)

○ 知財関係事件の専属管轄化の問題に関連して、東京・大阪の両地裁への競合管轄制度が導入されて事件の約8割が両地裁で処理されるようになったとのことであるが、依然として約2割は地元の裁判所に係属していることになる。その要因はどの辺りにあるのか。
(回答<最高裁>:制度の導入から間もないため、確たる要因は定かではないが、東京・大阪といった処理態勢の充実した裁判所で紛争を迅速に処理するというよりも、訴訟を係属させることにより他社の参入をストップさせること自体に意味があるとの動機に基づくのではないかとのうがった見方もある。また、実際に地元で訴えを提起したいという純粋な理由に基づく場合もあろう。しかしながら、前者についていえば、市場の開放、グローバル化が進行する中で、紛争の適正迅速な解決は不可欠な要請であり、そもそもあってはならない事態である。また、後者に関していえば、基本的には専門家である代理人に委ねるのが通例であり、当事者本人が出廷したいという場合にはテレビ会議システム等により対応可能なことである。社会経済的にみて紛争の適正迅速な解決が最も重要なことであり、その意味で、知財関係事件の専属管轄化を実現してもらいたいと考える。)
(回答<日弁連>:事件には複雑困難な事件とそうでないものがあるはず。裁判を受ける権利を阻害しないためにも、少なくとも各高裁管内に一つは競合管轄を認める制度とすべき。)

○ ADRの拡充に関しては、裁判所との連携が重要であると考えられるが、制度面でのことを考えているのかそれとも運用上の工夫を考えているのか
(回答<最高裁>:御指摘の双方の面での連携を考えている。前者については、ADRにおける主張や証拠の裁判手続での活用、ADRの結果への執行力の付与、ADRへの申立てに時効停止効を持たせるなど手続面での連携であり、後者については、人材の相互交流等マンパワー面での連携と情報面での連携である。)
(回答<法務省>:ADRに関しては、仲裁法制の整備をすることが課題であると考えている。)

○ ADRの結果に執行力を付与するという点については、どういうADRかが正に重要であろう。公的に正確性を担保する仕組みが必要なのではないか。
(回答<最高裁>:執行力の付与に関しては、例えば、ADRの結果が内容において公序良俗に反しないかどうかなど、裁判所の何らかのチェックは必要であろうと考える。)

○ 懲罰的損害賠償制度は、不当な雇用差別等悪質な事案については、法秩序の維持等の観点から、必要な制度と考えられるのではないか。
(回答<法務省>:御指摘の向きは、損害賠償制度に制裁的機能や一般予防の機能を持たせるという考え方であろうが、損害の補填を目的とする我が国の民事損害賠償制度としては適当ではないのではないかと考える。そのような機能は、刑事・行政手続によって果たされるべきものではないか。特に刑事訴訟に比し緩やかな手続である民事訴訟にそうした機能を持たせることには疑問がもたれるのではないか。しかしながら、損害賠償額の算定の在り方については工夫・改善の余地がある。例えば、立証が困難な場合の立証責任の緩和や損害額の推定などの措置であるが、こうした方法が我が国の制度にもなじむのではないだろうか。)
(回答<日弁連>:懲罰的損害賠償は新しい時代の公平原則として必要な制度ではないか。現在でも労働基準法上付加金の制度が設けられており、二倍、三倍程度の賠償制度は考えられるのではないか。)

 以上のような法曹三者ヒアリングに続いて、委員間で意見交換が行われたところ、主な内容は以下のとおり。

○ 弁護士費用の敗訴者負担については、訴訟類型に応じて片面的負担制度を取り入れるという方法は、個々の訴訟の事情によって不都合な事態を招くおそれもある。一定の制約の下に裁判所の裁量判断に委ねることとするのが適当ではないか。

○ 専門的知見を要する事件の対応については、知財関係事件、建築関係事件、医療過誤事件、労働関係事件以外に、金融取引に関係する事件や税務関係事件も視野に入れるべきである。

○ 裁判の迅速化については、制度として計画審理の実現ということは理解できるが、結局は、そうした制度を支える人の問題に帰着する。法曹一元を始めとする制度の担い手に関する問題に筋道を付けなければ、根本的な解決にはならない。

○ 司法制度の担い手に関する問題がどのような形のものになったとしても、計画審理の実現を図らなければならないという点では誰しも異論のないところであろう。

○ 知財関係事件の適正迅速な処理をどのようにして実現していくかということが我が国経済の国際競争力という観点から重要である。そのためにはたして特別の裁判所を設置するかどうかは別として、今の東京・大阪地裁への事件集中とそのための態勢整備をさらに押し進めていけば、そうした特別裁判所と事実上同視し得るものとなっていくのではないか。

② 井上委員等から、文部省検討会議(第2回)の検討状況について、同会議の今後のスケジュール及び検討項目等が決定されたことや、当審議会の基本的認識(4月25日付け合意文書)を検討の土台とする旨が確認されたことなどの報告がなされた。
 なお、委員の中から、特に、司法試験や司法修習との関係といった重要な問題については、積極的に当審議会のスタンスを明らかにし、文部省検討会議に適切に伝えていかなければならないとの意見が出され、今後とも当審議会と同検討会議との連絡・連携を一層図っていくこととされた。

③ その他、夏の集中審議(8/7~8/9)は三田共用会議所で行うこと、次回審議会(6/27)の開始時刻も午後1時30分からとすることなどが確認された。

以 上

(文責 司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-