司法制度改革審議会

第22回司法制度改革審議会議事録

第22回司法制度改革審議会議事次第

日時:平成12年6月13日(火)13:30 ~ 17:25

場所:司法制度改革審議会審議室

出席者(委員)

佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治委員、井上正仁、北村敬子、曽野綾子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝
(事務局)
樋渡利秋事務局長

1.開会

2.「国民が利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」について

(1)法務省、最高裁判所、日本弁護士連合会からの説明
(2)意見交換

3.閉会

【佐藤会長】それでは、定刻がまいりましたので、「司法制度改革審議会」第22回会合を開催いたします。

 本日の議題は、一つは「国民がより利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」に関する法曹三者からのヒアリングでございます。2番目に、前回に引き続きまして、この問題についての意見交換を行いたいと考えております。

 それでは、第1の議題であります法曹三者から、ヒアリング項目に関しまして御回答いただいたわけでありますが、それについての質疑応答に早速入りたいと思います。順序でございますけれども、ヒアリング項目等に記載されている論点項目の順番で行いたいと思っております。このヒアリングは15時20分まで行いたいと考えておりますので、御協力のほどお願いいたします。

 では、最初に提訴手数料、弁護士費用の敗訴者負担、法律扶助、裁判利用相談窓口、人事訴訟の家庭裁判所への移管、簡易裁判所の事物管轄、少額訴訟の上限額、これを一つの固まりとして、まず質疑応答を行いたいと思います。大体20分見ておりますけれども、全体として若干弾力的に考えていきたいと思います。まず提訴手数料スライド制の見直しの問題につきまして、いかがでございましょうか。

【竹下会長代理】国民の裁判へのアクセスの障害の大きな一つは、費用の負担の問題だと思うわけでございまして、提訴手数料というものがその中で一つの問題点になると思います。これまでこの審議会では提訴手数料を現在のようにスライド制で考えるということ自体については大体コンセンサスが得られているかと思いますけれども、低額化を図る必要がある、つまり現状のままではかなり国民の訴えの提起を妨げる要素になっているのではないかという意見が出されております。たしか平成4年に訴額の高い方については見直しがなされていると思いますけれども、なお、もう少し低額化が図れないかということが1点。

 もう一つは、家庭裁判所が非常に国民によく利用されているということの一つは、やはり家庭裁判所の家事審判、家事調停につきましては、申立手数料が非常に安く抑えられている。家事調停、それから乙類審判は900円、甲類審判は600円だったと思います。

 そういう観点から見ますと、簡易裁判所についても、何かそういう申立手数料の定額化が考えられないだろうかと思うわけです。ただ、簡易裁判所全体の事件について、もしそのような考え方をとるのが難しいとすれば、少額訴訟につきましては、一般の国民がより利用しやすいように、例えば一律1,000円というような考え方はとれないだろうかと思うのですけれども、これは法務省の所管になるのでしょうが、いかがでしょうか。

【法務省房村部長】まず手数料を低い額にするという低額化でございますが、これはただいま代理からお話がありましたように、平成4年に1,000万円を超える部分について引き下げるという改正を行いました。その後の推移を見ますと、平成4年の事件、地裁の民事一審の事件を100とした場合、現在118と18%事件が増えておりますが、1,000万円を超えるものについては、127ということで27%、1億円を超えるものについては137、37%増加しております。そういう意味では高額の訴訟がかなり増えてきているという状況にあります。

 当時、法改正をするときに、高額なものになると印紙代が相当な負担になるということで抑制されているのではないか。そこを引き下げてもう少し訴訟を提起しやすくするということが立法のねらいであったわけです。この手数料の引下げが事件増につながっているのかどうかというのは必ずしもはっきりいたしておりませんが、ある意味ではこちらの予想したような結果にはなっている。今後どうするか。これだけ増えているから下げる必要はないと考えるのか、やはりそれだけの効果があったのであれば、特に高額の部分について非常に負担が重くなりますので、そこをもう少し考慮すべきではないかということは、十分に検討に値するのではないかと思っております。

 もう一つ、簡裁の少額訴訟の額を特別扱いするかどうか、実はこれは平成9年に法務省で民事訴訟費用制度等研究会というものを行って、その報告をまとめたんですが、その議論の中でも、簡易裁判所の少額訴訟を特別扱いする必要があるのではないかということが論点になりました。

 そのときの結論は、少額訴訟、当時30万円ですので、最高でも手数料は3,000円にとどまると。そのくらいの額ならば無理に特別扱いしなくてもいいのではないかという結論になったわけであります。

 また、後ほど御議論されると思いますが、今回少額訴訟の上限額の引上げということも検討されるようでございますので、改めてそういう点を踏まえてどうするかというのは、十分検討に値することではないかと思っております。

 ただ、全体のスライド制とのバランスをどう取るかというのはなかなか難しい面もあるので、簡裁においても全体の事件が全部スライド制になっている中で、少額訴訟をどういう形で特別扱いするか、これは相当な工夫は要るのではないかと思いますが、いずれにしても御議論いただければと思っております。

【竹下会長代理】少額訴訟の場合は、イメージの問題というか、あるいは姿勢の問題と言ってもよいのですけれども、少額訴訟は一般の人が使いやすいように、いちいち申立手数料は幾ら掛かるのだろうかということを考えなくても、少額訴訟でいくのなら1,000円で済むのだという方が国民に近づける効果を持つのではないかという趣旨でございます。

【中坊委員】二つほどお尋ねしたいと思うんです。

 一つは、平成4年の1,000万以上のものの改正をされたというのは、具体的な立法理由というのはあったんでしょうか。

 二つ目には、提訴手数料というのは、勿論、国の収入として計上されるんですが、現実に裁判所の収入と言ったらおかしいけれども、そういうものとして、事実上計上されているものなんでしょうか。その2点をお尋ねしたいと思います。

【法務省房村部長】最初の方ですが、これは相当高額な訴訟も増えてきたということもあって、億を超えるような訴訟について、貼用印紙の額がばかにならないという指摘が、特に国際的にもそういう指摘があったということも踏まえて検討いたしまして、その負担が特に高額になる訴額が上のものについて、率を下げるということで、高額訴訟を提起するのを抑制する効果が生じないようにしようということで考えたわけでございます。

【最高裁千葉民事局長】申立手数料は、裁判所の収入ということではございませんで、すべて国庫に入るということでございます。

【中坊委員】国庫に入って、裁判所のいかなるあれとも関係ないんですか。

【最高裁千葉民事局長】ほかの収入と全部一緒に国庫の中に入るということでございます。

【中坊委員】再度お尋ねするようですが、私が聞いた範囲では、平成4年のときには、具体的には国際的とおっしゃったけれども、何かアメリカの方からどういう要求があったんですか。

【法務省房村部長】アメリカの方からは、日本において訴訟を提起するのにスライド制が採用されて、それが原因で訴訟が起きにくくなっているので検討してほしいということが基本的にあったわけです。

 アメリカの場合には、手数料が一定の額でスライド制をとっておりませんので、そういうこともあってアメリカから見ると日本の貼用印紙、手数料額が非常に高いという印象を強く持つ原因がそこにあると思いますが、そういうこともあって、日本側にその点の検討を求めてきたということは背景にございます。

【中坊委員】提訴手数料が国庫であって、裁判所と全く関係ないというふうに先ほどおっしゃいましたけれども、私はそういうふうには聞いてなかったんですけれども、そこは間違いありませんか。

【最高裁千葉民事局長】間違いないと思いますが。印紙を買って貼るわけでございまして、印紙はどこでも買えますので、ほかの税収と同じように国庫に帰属すると思います。

【佐藤会長】今の点はよろしゅうございますか。

 次に、弁護士費用の敗訴者負担の方に移りたいと思いますけれども、この点についてはいかがでしょうか。

【山本委員】弁護士費用の敗訴者負担制度に関しまして、訴訟の類型によって片面的な負担制度にすべきだという論議を読ましていただいたわけでございますが、私などの個人的な考えでは、敗訴者負担が不当に訴訟提起を抑制してはいけないという趣旨からしますと、一足飛びに片面的な負担制度に行くというのではなくて、ここはやはり相互負担に戻るというのが原則ではないかと考えるわけでございます。

 それから、ここにいろいろ出ているような訴訟の類型によって例外的扱いをするというような考え方でよろしいのかどうかというのがちょっと疑問があるわけでございますが、いずれにしても、単なる類型だけではとらえきれない訴訟のそれぞれの個性というものもあって、最終的にこれは個別案件に即した裁判所の判断も必要なのかという漠然とした考えを持っているのでございます。

 いろいろ申し上げましたけれども、例外扱いをするとしても片面的な敗訴者負担制度ではなくて、双方負担の原則に戻ると考えるべきではないかと。

 それから、訴訟類型によってそういったことを決めることについてはいかがかと。そういう疑問があるものですから、教えていただければと思います。

【日弁連平山副会長】委員の御質問にお答えします前に、この弁護士費用の敗訴者負担制度につきましては、基本的に裁判を受ける国民の権利、これを阻害するものではあってはならないと考えております。そういたしますと、敗訴者負担にしますと、普通は、例えば、勝訴の見込みが高い場合には、弁護士費用は勝訴すれば回収されるので、訴訟提起は促進されますが、逆に、見込みがなかなかつきにくいという場合については、逆の作用で訴訟を起こすことの萎縮作用と言いますか、抑制作用に働いてしまうということがありますので、そのことを十分考えて、敗訴者負担制度につきましては、御議論いただかないといけないと考えております。

 そういう意味からいきまして、例えば、日本の場合ですと、双方が非常に平等な、事件にも偏りがなくて、例えば、お金の貸し借りという問題でありますとよろしいんですが、御案内のように、環境訴訟、消費者訴訟その他、行政訴訟等、一方互換性がお互いにない訴訟というのがありまして、それで最初から勝訴見込みというのがなかなか日本の今の制度では立ちにくい。例えば、後ほど議論になります証拠収集方法などとも関連いたしまして、立ちにくいわけです。

 そういたしますと、例えば、環境訴訟を起こして負けたら相手方の弁護士の費用を負担しなきゃいけないということでは、みんな萎縮してしまうわけです。そういうことになりますと、憲法上の裁判を受ける権利を阻害することになってくるだろうと我々は考えております。特に現代型紛争、消費者訴訟とか公害・薬害訴訟とか、その他、互換性のない訴訟、あるいは政策形成型訴訟と言いますけれども、新しい権利を目指して裁判を起こさなければいけないというようなものにつきましては、そういう一般的な敗訴者負担制度をとったら大変なことになるというふうに考えております。そういう場合は、例えば、消費者が勝った場合にのみ、相手方から消費者側の弁護士費用をいただくという片面的なものでないと、これは訴訟自体を萎縮させてしまいます。今回の改革の目玉であります、市民があるいは国民が司法を通じて新しい権利を主張していく、あるいは救済を求めるという方向と全く反するということがあります。そのようなことにつきまして、日弁連の意見書は申し上げているということであります。

【佐藤会長】山本委員、今のお答えについて更にありますか。

【山本委員】要するに、敗訴者の弁護士費用負担制度には反対だというお考えですか。

【日弁連平山副会長】一般的に認めるのは反対だということです。個別具体的に訴訟類型等をお考えいただいて、認める場合でも、片面的な敗訴者負担制度とか、あるいは類型ごとに負担させるかどうかというのは、大きな方向をお出しいただいた後でも、立法過程できちっと御審議いただかないと大変な問題になると思います。そういうことで、長年これは主張はされながらも、なかなか実現できない問題を含んでいると考えております。

 もう一つは、新聞等では負けた方が全部負担するような報道になりましたけれども、これは仮に通常の互換性のある訴訟でも、全額を負けた方が負担するということでは、大変不公平ではないかと思います。ですから、一部負担ということにしていただいて、定額にそれをしていただくということが必要です。そうすれば、負けた場合はこの程度を負担をするという見込みがつきますし、公平感もあると思いますけれども、そうではないと、これも訴訟提起を萎縮させて阻害するんじゃないかと思っております。

【竹下会長代理】今のこと、山本委員の御発言と重なるようなことになりますけれども、確かにおっしゃるように敗訴者負担という考え方をとると、一部負担であっても訴えの提起を萎縮させるという効果があるだろうということは理論的には考えられるし、理解できるのですけれども、現在、敗訴者負担制度をとっているドイツとかイギリスとか、そういうところでそれが訴え提起の阻害要因になっているというような話は余り聞かないのです。何かその点について御存じならば、外国の話ですが、お教えいただけるでしょうか。

【日弁連平山副会長】アメリカなどはむしろさせてないわけです。個別具体的な立法でいっているわけですから、世界の傾向はどちらとも言えないと思いますけれども、ただ、ドイツでそれが訴訟の阻害要因になっているかどうかということについては、私の方でこれという実績的なものは持っておりませんので、申し上げられないんですが、阻害要因になっている場合もあるでしょうというふうにしか申し上げるしかないと思います。

【竹下会長代理】もう一つ、片面的敗訴者負担ということなのですが、これはおっしゃるように確かにアメリカではそういう考え方がとられているわけですけれども、これも訴訟の場では原則的に原告と被告とは対等である。その対等性を守るために証拠収集手段を充実させなければいけない。場合によったら、時間的にもっと早い段階で証拠収集ができるような制度を考えるべきだという議論の方向であればよく分かるのですが、勝ったときと負けたときとで弁護士費用の負担の在り方が違うというのは、従来の日本の訴訟についての考え方とは少し異質なものがあるのではないかという感じがするのですが、その点はいかがでしょうか。

【日弁連平山副会長】それは取り方だと思いますけれども、単に救済ということで考えていきますと、あるいは互換性のある当事者間の場合には平等の方がいいような面があると思いますけれども、司法の役割の重点が今日では法の形成その他に移ってきております。そういう場合には、つまりその訴訟自体が個人のことだけではなくて、公益的なことが非常に含まれているわけです。法が形成される、新しい判例がつくられるとか、そういうことについて危険を冒しながらもやっていかないと、なかなか大きな司法にはならないというのが我々の考えでございます。ですから、そこのところは考え方が違うかもしれませんけれども、その方が非常に公平だし、司法の利用しやすさという意味から行きますと、大きな利用しやすいものになると考えます。

【水原委員】不勉強をさらすようですけれども、片面的敗訴者負担制度というのは、アメリカで採用されていることは伺いましたけれども、そのほかの国ではどういう国が採用しているんでございましょうか。

【日弁連平山副会長】私自身はアメリカのものを研究しているだけで、そのほかにどういう国でとられているか、私自身の手元にはありません。

【水原委員】どなたか資料を持っていらっしゃいませんか。

【法務省房村部長】私も必ずしも十分には承知しておりませんが、少なくとも私どもで調べた限りでは、ドイツ、フランス、イギリスでは敗訴者負担が原則というのがとられておりますが、例外として、その3か国で片面的な負担がとられているという具合には聞いておりません。

【水原委員】そこで伺いたいんですけれども、アメリカだけがそういうものを採用する何か特殊な事情があるのか。ほかの国はそういうものは採用していない。それにはそれぞれの理由があると思うんですが、それについて御説明いただければと思いますけれども、今、何かアメリカのことだけですが。

【日弁連平山副会長】アメリカの司法というのは、この審議会でも論点整理されておりますように、大きな司法で、フェアネス司法ということで、権利の実現等も司法を通じてやっていくんだと、単なる救済じゃないんだという考え方が一つとあると思います。

 それから、証拠収集のところで非常に大きな証拠収集制度をとっておりますけれども、これなどもそういうことで、つまり、権利を市民が実現していくことの妨げになるようなことは是非やめにしようと、平たく言えばそういうことではないでしょうか。

 例えば、独禁法違反行為についての損害賠償請求訴訟とか、公害訴訟とか、それから行政を相手にする訴訟等が敗訴者負担では、ほとんど見込みが立たないということになりますと、訴えは起きない。そうすると、法形成もできないということになります。こういう発想です。

【佐藤会長】ここはものの考え方の違いだろうという気がいたします。まだ、この点についていろいろお尋ねになりたいところがあろうかと思いますけれども、もう予定の時間を過ぎてしまいました。よろしゅうございますか。では、藤田委員、手短にお願いします。

【藤田委員】訴訟費用を負担しなければならないということで訴え提起を躊躇するという面もありますけれども、逆に弁護士費用が取れないということでは完全な救済を受けられないということで、訴えの提起を躊躇するという面もあるというふうに言われているんですが、その点をどう考えるかということが一つあります。

 それから、片面的敗訴者負担、これは日弁連の御意見を拝見すると、特定の訴訟についてということのようでありますけれども、私はかつて商事事件を専門にやる部に所属していたことがございましたが、原告の方にかなり問題がある訴訟が多かったのです。「商法の判例は総会屋によってつくられる」と、大隅元最高裁判事がおっしゃったそうですけれども、倒産した会社が不渡りを出しますと、その不渡手形を二束三文で買い集めて、登記簿謄本に取締役、監査役として載っている者全員に対して、商法266条の3の取締役の第三者に対する責任を追及する訴えを起こすのです。全員を相手として起こしてきまして、被告が幾らかでも和解金を払えば和解に応ずるという訴訟が結構たくさん出てきたということがございます。

 そういう意味で訴権の濫用のような訴訟もある。そういう訴訟について片面的敗訴者負担を全面的に適用しますと、訴訟の濫用であるにもかかわらず、網から抜けてしまうということがあると思うんです。一律に片面的な敗訴者負担ということにはしないで、具体的な事情に応じて裁判所が裁量で負担を命じ得る、あるいは公益的な目的による訴えの提起である場合には原告に負担をさせないという裁量を裁判所に与えるという方法はお考えにならないのか。

 それから、弁護士費用の範囲についても、一律に裁判官の裁量に委ねる制度は望ましくないとおっしゃる。あるいはそうかもしれませんが、上限を定めるということにして、その範囲内で裁判所の裁量を認めるというお考えはあるのかどうかを伺いたいのです。

【日弁連平山副会長】先生の御質問、大変有意義でございまして、私たちも一面としては敗訴者負担制度をとることが訴訟を促進できるだろう。つまり、勝つ見込みのある事件につきましては、非常に促進する作用があるわけでございます。それは御指摘のとおりであります。ですから、全部について反対しているわけではないんです。そういう方向は、互換性のある事件ではいいんじゃないかと考えておりますが、そのほかの、つまり今私が申し上げましたようなことについては、それも一般的に敗訴者負担ということになりますと、大変な問題ですので、十分御慎重にお願いしたいと言っているのが1点でございます。

 それから、訴えの濫用という問題があります。これも非常に過ぎたるものを考えてみますと、それで調整ということもあり得るわけです。ですが、濫訴抑制の名を借りて、訴訟を少なくしようという考えが出てきたら、これはやはり大変なことだと。矛盾するんじゃないかということ。ですから、あくまでもその限度にしていただく必要があるんじゃないか。

 もう一つは、一部負担について、額をどうするかという問題がありますね。先生の御指摘のとおりでございまして、我々はそれは客観的にあらかじめ予測できる方がいいというふうに考えております。ですから、例は余りよくないと思いますが、裁判で1億円の請求をして、1,000万の判決が出ましたら、1,000万を基準にして、どのくらいの額を負担させるか。そういう客観的な基準と、それから裁判所の裁量に余り付託しない方がいい。それは公平感からいきましても、こういうものはこれだけ負担するんだという客観的な何か基準を、例えば、弁護士会の報酬規定等を基準にしていただきまして、やった方がいいのではないかということを、この意見書は申し上げているわけです。

【藤田委員】具体的事情によって負担させないという裁量も避けた方がいいということなんでしょうか。

【日弁連平山副会長】負担させないということであれば、問題はないのかもしません。

【佐藤会長】それでは、法律扶助の方に移りたいと思いますが、この点についてはいかがでしょうか。

 これまで少し議論したこともありますけれども、よろしゅうございますか。

【竹下会長代理】続けてで平山副会長ばかりで申し訳ございませんが、日弁連の方の御意見で、利用者の負担の在り方というのが御提出いただいた資料の13ページにございますが、結局のところ、ここで言っておいでになる御意見は、償還制ではなくて、全面的に給付制にするべきだということですね。

【日弁連平山副会長】そうですね。具体的にはそのようにお考えいただきたいという方向でございます。

【竹下会長代理】全面的給付制で、資力に余力のある人は分担金を支払いなさいということですね。

【日弁連平山副会長】そうですね。その方がいいのではないかと思います。

【井上委員】日弁連のペーパーでは、この法律扶助を刑事事件とか少年事件に拡張していった場合に、弁護人としては捜査側と対立したような活動をしないといけないということがあるので、自主性、独立性が特に強く要請されるとされていますが、これは、恐らく、そういう弁護活動の仕方を理由に干渉されて、給付とかが抑制されるということがあってはいけないという御趣旨だと思うのですけれど、そのことから直ちに、何らの第三者的なコントロールも一切受けないということになるのかどうか。そこはちょっと論理に飛躍があるように、読んでいて思ったのですけれども。

【日弁連平山副会長】どの部分でございましょうか。

【井上委員】法律扶助のところの後ろの方ですが、刑事事件などにも国庫負担等を拡張していった場合に、捜査機関と対立するような活動をするということがあるので、弁護士会、あるいは法律扶助協会の自主性、独立性が特に要求されるとされている部分です。

【日弁連平山副会長】御趣旨は分かりました。これはこういうことを言っているわけでございます。法律扶助というのは、あくまでも民事でも刑事でも我々は、例えば弁護士から見れば、弁護活動をきちっとやって、民事でしたら依頼者のために全力を挙げてやると、刑事でしたら、被疑者・被告人のために全力投球でやるということで、それに、例えば、国からそういう扶助が行われた、あるいはどこかの機関から行われたために、それが力を抜く、あるいは力を抜かざるを得ないということがあってはいけないという非常に平たいことを言っているわけであります。

【井上委員】その限りではよく分かりますが、公的な資金を投入した場合には、何らかの第三者的なチェックがついてくるという考え方の方がむしろ自然かなと思うのですが。

【日弁連平山副会長】お金の管理などについてはそうだと思います。

【井上委員】そういうことをおっしゃっているのではないと思いますが。

【日弁連平山副会長】そうではございませんで、例えば、刑事事件の被告人の弁護活動が、お金が出ていることのゆえに規制されたりしては元も子もないですよということを言っているわけです。

【佐藤会長】よろしゅうございますか。そうしましたら、次に裁判利用相談窓口についてはいかがでしょうか。この点はよろしゅうございますか。

 次に、人事訴訟の家庭裁判所への移管についてはいかがでしょうか。

【竹下会長代理】最高裁の千葉局長に確認でございますが、最高裁の方のお考えとしては、家庭裁判所に移管する事件の範囲ですね。これは現在、いわゆる人事訴訟手続法で定められている本来の人事訴訟と、それから親子関係確認の訴えのように、解釈上人事訴訟と言われているもの、それから人事訴訟に併合した場合の損害賠償の請求というものがございますが、そういう意味での人事訴訟関係の事件を移管すると、そういう御趣旨と承ってよろしいですか。

【最高裁千葉民事局長】人事訴訟手続で審理をする事件というところが一番範囲がはっきりしていいんじゃないかと思っております。実質的に申し上げましても、そういう事件は、例えば、離婚訴訟を例に挙げましても、離婚自体が争いになるというのもございますけれども、多くの場合には、子供の監護、親権者の指定とか養育費の問題、それが争いになっている事件というのがほとんどでございますので、そういうようなものをどこで一番良くできるのかとなると、やはり家裁の調査官みたいなマンパワーが非常に有効でございます。そういうものが活躍できるような体制づくりがされているか。

 もう一つは、調停前置というのがございますので、そこで家裁と地裁が分断されてしまうということになりますので、それを防ごうというこの2点から、この人事訴訟の移管ということを申し上げておりますので、人事訴訟という手続法で審理できる範囲というのが一番そういう意味では移管に適しているのではないかと考えております。

【水原委員】その点に関連して、離婚による慰謝料の損害賠償請求と言いますか、それは移管することになるんでしょうか。

【最高裁千葉民事局長】具体的に慰謝料までどうするかというところまでは十分考えてはおりません。今申し上げました夫婦間のいろんな不法行為により慰謝料だけが問題になっている事件ということになりますと、事実認定と損害額の算定ということだけになりますので、そうなると、これは地裁の方がふさわしいという感じがいたします。

【水原委員】離婚訴訟に付帯して慰謝料の問題も起きる場合があるわけで、その部分を区別する理由はどこにあるんですか。

【最高裁千葉民事局長】そういう事件であれば今申し上げましたように。

【水原委員】それは含まれるということですか。

【最高裁千葉民事局長】それは含むという考え方があり得ると思います。

【水原委員】なるほど。独立の慰謝料請求事件だけは。

【最高裁千葉民事局長】あるいは個々の損害賠償だけを請求するような事件であれば、これは話は別だと思います。

【藤田委員】人事訴訟手続法の適用範囲ということで画するのが一番明快だとは思うんですけれども、実際に一番問題になるのは遺産分割の場合の、財産が相続財産に属するかどうかという前提問題が地裁で争われていて、それが確定しないと、いつまで経っても遺産分割ができないという事例が多いんですが、そういう訴訟も家裁に取り込もうとまでは考えておられないのでしょうか。また、もう一つは、遺言の無効確認ですね。これもまた非常に遺産分割の問題と密接で、有効か無効かで遺産分割が違ってくるわけです。これは人事訴訟手続法の適用は受けないことになりますけれども、そこら辺は除外するのはやむを得ないということになるんでしょうか。

【最高裁千葉民事局長】家事関係の紛争を全部家裁へという考え方はあり得ると思いますけれども、今の前提となる遺産の範囲はどうかという問題になりますと、これはまさに事実認定と法の適用の問題になりまして、これは家裁が特に得意だというわけではありません。しかも、その範囲は非常に広がってまいりまして、藤田委員が御経験しておられる、例えば、会社訴訟でも日本は同族会社でございますので、遺産の範囲で争いになる事件も非常に多いわけでございまして、範囲が限りなく広がってきて、どの範囲が家裁に行くのかというのが分からなくなってしまうということもございます。遺言の無効確認も同じ問題でございまして、あくまでも客観的な事実認定と法の適用ということになりますと、これは地裁で処理をするのがふさわしいのではないかという考え方がございますので、基本的には人事訴訟を中心にということでよろしいかと考えております。

【藤田委員】分かりました。

【佐藤会長】よろしゅうございますか。

 それでは、簡裁の事物管轄、少額訴訟の上限額についてはいかがでしょうか。

【竹下会長代理】次回までに議論のまとめをしなければならないという関係でちょっと聞かせていただきたいと思います。

 ここでも少額訴訟の上限額を見直して、もっと高額の事件まで、金銭請求である限り、少額訴訟手続で審理・判断ができるようにしようということでは大方の意見が一致しているわけですが、具体的にどのくらいまでという話はまだ出ておりません。日弁連の方の御意見では現在の簡易裁判所の事物管轄の限度である90万円いっぱいまででよいのではないかということですが、法務省や裁判所はその点はどうお考えなのでしょうか。

【法務省房村部長】法務省の方としても、額的に見て、現在の90万円という額は少額訴訟で扱ってもおかしくない額ではないかと思っております。

【最高裁千葉民事局長】裁判所としましては、少額訴訟は非常に評判がいいんでございます。要するに、本人でできる、それから金銭ですから、余り難しくないものが結構あるということで、非常に評判がよくて、これを是非利用を拡大してほしいという声もありますので、30万円で切る合理性は余りないのではないかという感じがいたします。

 中身を見ましても、敷金返還とか、パート代金の請求とか、非常に簡単な事件なのに、それがたまたま30万円を超えてしまうと少額訴訟ではできないというのもどうかなということで、上がどこまでかという問題はありますけれども、少なくとも30万円というのは余り合理性がない。これは60万円でもいいし、中には90万円のところまで少額訴訟を拡大していくという意見もある。むしろ拡大する方向でお考えいただければと考えております。

【水原委員】最高裁判所に教えていただきたいんですけれども、確かに今おっしゃったことは説明資料の中にあります。事件の性質、例えば、金銭債権だとか売買代金、貸金等、比較的これは類型化された事件ならば金額によらなくてもいいんだとおっしゃっています。

 そこで金額で抑えないとするならば、どういう事件の性質、どういう条件を加味して事物管轄をお考えになるというふうにお考えになっているんですか。

【最高裁千葉民事局長】少額訴訟でやります場合には、金銭請求というのが大前提でございます。それ以外の事件、簡裁はそれ以外の事件はそんなに多くはないんですけれども、なかなか難しいものがございますので、あくまでも少額訴訟でやる場合には金銭請求、ただ、それは30万円である必要はないだろうと。60万円でもいいし、70万円でもいいし、場合によったら90万円でも、当事者がその少額訴訟でやりたいというのであれば、その範囲を広げていくということは考えていいんじゃないかと思っております。

【井上委員】弁護士会の方に伺いたいのですが、法務省とか裁判所の方は、簡裁の事物管轄の見直しということに積極の方向であるのに対し、弁護士会の方は慎重にという御意見ですけれど、社会状況が随分変わり、物価等もかなり上がっているわけで、その点から事物管轄の上限を引き上げても、おっしゃっているような簡裁の設立趣旨といいますか、一般の人の身近なところで比較的手軽に利用できるということとは矛盾しないのではないかと思うのですけれども。

【日弁連平山副会長】でございますから、資料に出しておりますように、昭和58年に改正をされておりますが、その後の物価指数等のスライド、そういうものは、例えば、20%上がっていればいいと思います。基本的に簡易裁判所の設けられた趣旨が、裁判官も非常に優れた裁判官もおられますけれども、いわゆる法曹でない裁判官もおられる等、いろんなことがありまして、身近な裁判所ということでできました最初の趣旨からすると、地裁と同じ裁判所ではないと考えるべきじゃないかと思います。どちらかというと、軽装備の簡易裁判所、地裁は重装備の裁判所、これは司法の基盤ですから、そういう違いがあるので、余り便宜でそちらにスライドしていくというのは、賛成できないと、申し上げているわけであります。

 そういうことで経年いたしておりますので、物価スライド等について見合うことは理解できるのではないかということです。

【井上委員】基本的な仕組み自体を大きく変えるようなことはおかしいということでしょうか。

【日弁連平山副会長】そういうふうに考えております。

【竹下会長代理】平山副会長、申し訳ありませんが、今度少額訴訟の方を上限90万円とすることになりますと、簡易裁判所の扱うのはすべて少額事件ということになって、それだけを見ますと、簡易裁判所発足当時の姿に合うように見えるかもしれませんが、しかし、そのようにしても金銭請求以外の事件も、依然として簡易裁判所の管轄になるわけでございます。ですから、そういう点から言うと、90万円を超えて、仮に150 万円なら150 万円というふうに事物管轄の上限を上げましても、それで簡易裁判所の性格が変わってくることにはならないのではないでしょうか。

【日弁連平山副会長】例えば、不動産訴訟などですと、訴訟物の価額というのは時価ではないんです。ですから、例えば田舎などに行きますと、大きな物件の訴訟ということになりまして、本来の訴訟、重装備の訴訟をきちっとやらないと権利関係は確定できないというものがあるように思うんです。そういう意味です。

【竹下会長代理】しかし、不動産に関する訴えは現在でも競合管轄で、資料によると大体地裁の方に行っていますね。

【日弁連平山副会長】そうですね。ですから、それはそれでよろしいんですが、最初の趣旨からすると、やはり我々としては地裁でやっていただきたいという気持ちがありますということを率直に申し上げているわけです。

【水原委員】日弁連に伺いたいんですが、簡裁はなるほど正規の試験を通った者でない方が裁判官になっていらっしゃる。だけれども、今言われるように、いろいろな経験を持った者、経験豊かな者から選ばれた裁判官という趣旨でもあるわけです。そういう方々が良識豊かにして、物事を判断できる限度というのがやはり、今のように低い額で決めるようになって、もう少し上げてもいいのではないかという気がするんですが、その点についてはいかがでございますか。

【日弁連平山副会長】これは立法に当たっていろんなことを御検討いただいて、おやりいただくということではないかと思います。我々は今のところ物価スライドくらいにお願いしたいと、こういうことを申し上げているわけです。

【佐藤会長】よろしいですか。では、今の点は以上で終わりまして、次に、2番目のカテゴリーというか固まりとして、「民事裁判の充実・迅速化」の方に移りたいと思います。

 この点につきまして、どうぞ。

【髙木委員】法務省と最高裁の方にお尋ねしますが、昨日私の自宅に着いたものでゆっくり事前に読んでいないものですから、とんちんかんなことになるかもしれませんが、ディスカバリーについてのお考えが、例えば、法務省のペーパーだと10ページに、合理性があるけれどもいろいろ問題があると書いてある。最高裁のペーパーも大体同趣旨のようなんです。

 要は合理性があるという評価をする側面でこの問題を考えていかれようとしているのか、やりたくないという御意思でお考えなのか。そこまで申し上げたらちょっと乱暴だというならば、やるような方向でいろいろ工夫をするというアプローチでよろしいと考えておられるのか。その3つはどうなんですか。

【法務省細川民事局長】ディスカバリーの目的は、事前に事実関係を明らかにして争点を確定する。あるいは証拠を保全するというような機能があるわけなのですが、そういう点の目的自体は民事訴訟一般に有用なことですから、その目的とするところは合理性はあるだろうというのが私どもの考え方でございます。

 具体的な方策として、アメリカで行われているようなディスカバリーが適当かどうかということにつきましては、非常に問題があって、これをこのまま導入するのは適当でないというのが現在の考え方です。さらに、平成10年1月1日から施行された新民事訴訟法の検討の過程でも、ディスカバリーのことが検討されまして、いわゆる早期に証拠を収集するという方策はどうしたらいいかということがいろいろ考えられて、例えば、当事者照会という新たな制度をつくったこともありました。

 繰り返して申し上げますが、目的として早期に争点を明らかにし、証拠を保全するという目的は結構でございますが、アメリカの制度をそのまま導入することは、様々な問題がある。例えば、ディスカバリーに非常に時間が掛かる、費用が多額に掛かるという問題がございまして、そのまま導入することは適当ではない。したがって、他の方策を考えるべきである。

 もう一つ、ディスカバリーの場合には、裁判所の命令に違反した場合には、裁判所侮辱等で制裁を課すのですが、それは従来の日本の考え方では全くない、民事の裁判で裁判所の命令に違反した場合には刑罰等を課するという考え方が、一体国民の中に理解してもらえるのかどうかという問題があるということを申し上げているわけでございます。

【最高裁千葉民事局長】最高裁はディスカバリーだけを取り上げて、それがいいかどうか、導入すべきかどうかという観点で考えているわけではありません。我々が今一番問題にしておりますのは、長期未済事件、例えば、当事者が多数あるような大型の事件とか、知的財産とか医療過誤とか専門的な事件、これらは複雑な事件、複雑訴訟と我々は言っていますけれども、複雑訴訟が長期化しがちである。現に長期化している。これをどうしたらいいか。その処方箋を考える。その過程の中でディスカバリーをどういうふうに考えるかという問題なわけです。

 また、御質問があれば御説明申し上げますけれども、その処方箋の第1は、やはり計画審理だということを我々は考えているんです。つまり、終期までを見通した計画を立てた審理をしていかなければならない。これは詳しく申し上げませんが、そのためにはどうしたらいいのか。そのためには、早めに証拠が当事者の手元に入ってこないといけない。証拠がなければ見通しが立ちません。ですから、当事者が早い段階で証拠が手に入ってくるような方策はどうしたらいいんだろう。それで裁判所の意見書というのがお手元にあると思いますが、裁判所の意見という長い表題のものでございます。この12ページに「証拠収集方法の拡充」と書いてあるのはそういう趣旨でございまして、ここでは提訴予告通知制度というのと、事前の鑑定というのを提案してございますが、これは訴え提起よりもっと前から早めに証拠を収集する。例えば、訴え提起30日くらい前に提訴の予告をして相手方が争う。そういうことであれば訴え提起を待たないで当事者照会をし合うとか、ある程度の証拠収集方法が使えるようにするとか、あるいは、例えば、医療過誤の事件ですと、証拠保全よりもっと緩い要件で証拠保全的な鑑定をするとかいうような証拠収集手続を拡充していくと。それによって早めに証拠がたくさん入る。それで計画が立てられるという構造で考えているわけです。

 そう考えてきたときに、ではディスカバリーというのは役に立つんだろうかどうかという位置づけでこの問題を考えているんですが、役に立たないということは勿論申し上げません。ただ、ディスカバリーにつきましては、アメリカではいろんな評価がございまして、特に最近ではその弊害というのは非常に強く指摘されているわけでございます。いろいろ濫用があると。企業秘密がどんどん出ていくとか、あるいはいやがらせで使われるとか、ディスカバリーは非常に時間が掛かります。ですから、訴訟の遅延の最大の原因だということは一致して言われている。それから、タイムチャージですから、ディスカバリーをやると非常に弁護士費用が掛かる。向こうは敗訴者負担ではありませんので、非常に訴訟にコストが掛かる。

 そういういろんな弊害が指摘されてきて、アメリカのいろんな州でも、今はもうディスカバリーではなくて、もっと違う方法で考えようかという動きがずっと出てきているわけです。それが向こうではディスクロージャーという言い方をしているんですが、任意に証拠を出し合う。裁判所の方で出している意見書の12ページで、証拠開示義務とか積極否認義務というのを明文で規定して、ディスクロージャー的なものをやったらどうかと書いてありますけれども、訴訟類型によって、当然出すべきようなものは一々言われてなくても任意で出しましょうと。そういう制度をつくっていくのはどうなのか。

 例えば、医療過誤で言えば、カルテ、レントゲン写真は黙っていても出すべきです。それから、建築瑕疵であれば、設計図や仕様書などは当然出すべきなんで、そういうようなものを規則で訴訟の類型を決めて、こういうものは早めに出してくださいというふうに訓示規定でもいいですけれども、そういうものを仕組んでいく。そういうような任意のソフトな形での証拠提出手続、この方が弊害もないし、計画審理に結び付けやすいし、いいのではないか。そういう評価をしているわけです。

 ですから、ディスカバリーそれ自体に賛成、反対という観点では考えていないということでございます。

【髙木委員】どんな制度でもいい点、悪い点があって、悪い点だと言って指摘されているところをどうするのか、今、最高裁の話では、そういう関係も少しおっしゃっていただいたんですが、今、日本の現状は証拠収集とか開示という意味でいろいろ問題があり、不十分だとよく言われています。例えば、証拠の偏在の問題等いろいろ抱えており、それを何とかしようというところが出発点なはずです。

 例えば、法務省のペーパーを拝見して、この制度は十分に機能しておらず云々だとかいろいろ書いてあるんですが、私はアメリカで何十年にわたっていろいろ工夫してきている制度が、そんなに悪い話ばかりかと思うのです。裁判の一番の目的は公正さとか、最近のこういう民事の裁判、特に企業関係のものは事業活動の適正化とか、経営の透明性だとか、コーポレート・ガバナンスだとか、いろんな議論もされているわけで、そういう意味ではアメリカの企業でよく言われるコンプライアンスの問題とか、そんなことも踏まえて、こういった問題というのは議論されていくべきだろうと思うし、八つ当たりついでに言わしていただくと、「ようである」とか「という指摘もある」とか書かれています。「ようである」というなら、アメリカで、例えば、こういうものについてどういう認識がされ、どういう認証をされているかというような資料等もきちんと評価していただいて、問題点としてこういう指摘がいっぱいある、だれがどういうことで、どういう指摘をしているんだというようなことも含めて爼上に載せていただいて、ディスカバリーというアメリカの仕組みを全部そのまま丸のみでいいかどうかというのは、まさにおっしゃられるいろいろ御議論があるところだと思うんですが、ともかく証拠開示等をもっと充実強化すべきだという要請は物すごい強いわけですし、証拠保全だとかいろんな議論もございます。確かに新民事訴訟法の中でそういう発想の御議論を、制定過程でいろいろされたという御説明もありますけれども、お話を聞いていたら、いろいろな要改善点について真面目に一生懸命直していただけるなという雰囲気で説明が聞けないものだから若干イライラしています。

【日弁連平山副会長】私どももこの点は申し上げる機会を得たいんですが、よろしゅうございますか。

【佐藤会長】法務省の後にお願いしします。

【法務省細川民事局長】法務省といたしましても、証拠の収集手続が充実するということは非常に大事なことだと思いますし、これからもそれに向けて努力していかなければならないということで申し上げたのです。それで日本の民事訴訟の現在の制度にうまく結び付くような制度というものを考えていくべきということを先ほどから申し上げております。

 ですから、ディスカバリーの制度については御指摘がございましたので、資料等は準備させていただきたいと思っております。

【佐藤会長】その点は後日よろしくお願いします。

【日弁連平山副会長】日弁連の方の意見につきましては、意見書に詳細に書いておきましたが、この制度をこれからの21世紀の民事裁判の世界的な在り方というものを考えていきますと、是非これはトータルとして実現していただかないと、とてもグローバル化社会では対応できないんじゃないかという心配をしております。そういうことを最初に申し上げます。

 ディスカバリーについて非常に欠陥があるというお話が幾つか出てまいっておりますけれども、我々の調査ではそれは極めてレアケースで、ですから、そのことを余り大きく考えないで、是非検討をきちっとしていただく。私も、例えば、これに違反した場合に、法廷侮辱罪とか、そういう形のものは日本になじまないんではないかという気がいたしておりますけれども、そういうところはきちんと日本になじむような形でいいと思いますけれども、この制度を取り入れていかないと、さっきの弁護士費用の負担の問題、あるいは裁判の審理、真実に近づくということは、2割司法と日本が言われますのは、真実に近づかないというところが一番大きいと思うんです。そういう意味で、真実に近づく制度としては、この方向で御検討いただくのがいいと思っております。

 竹下先生などに御尽力いただきまして、新民事訴訟法の改正がありましたが、是非これを司法制度全体の改革の中ではもう一度御検討いただきたい。例えば、今度取り入れました当事者照会というもの、裁判所は関与しない制度なんです。そうすると、これは活きてこないわけでありまして、具体的にもきちっとしてほしいのです。日本の今の証拠収集制度をもっと早い時期から実施するという今の裁判所の意見は私は賛成です。早い機会にどんどん証拠が収集されれば和解もできますし、敗訴者負担のことにつきましても、証拠がそろえば、なければ訴えを起こさないで済むわけですから、そういうことも全体として考えますと、司法に対する市民の信頼が上がると思います。

 そんなことで、ディスカバリーに本当にどういう弊害があるかということをきちんと押さえて、御審議をいただきたいとお願いいたします。

【竹下会長代理】前回も申し上げたのですが、私はどうもこの議論の問題の立て方が正確ではないのではないかと思うのです。アメリカにあるディスカバリーという制度を入れるか入れないかという議論の仕方になっているのですが、しかし、問題は証拠をどうやって当事者が集められるか。当事者の証拠収集手段をどういうふうに保障するかという問題なので、この問題は新民事訴訟法をつくるときに、いわゆる目玉の一つ、重要な柱の一つとして学界をも巻き込んで、その拡充を図る議論をしたわけです。それで、できる限りのことをやろうということで、前回も言いましたけれども、文書提出命令という制度はうんと拡張した。証拠として必要な文書を持っている人は原則的に裁判所から命令が出されれば提出しなければいけないということにしました。それから、今の当事者に質問書をぶつけて答えをもらうという制度も取り入れましょうということで取り入れたのです。

 日弁連の出してくださったペーパーの24ページに、結論として、1行目では「わが国に米国のディスカバリーに相当する制度を導入する必要性はあると考える」と言っておられますが、その後で「概していえば、ディスカバリーは、わが国の民事訴訟法の当事者照会、文書提出命令、証拠保全、鑑定、検証をおおむね兼ねる制度といえる」と言っておられるので、かなりの部分が現在わが国にも入っていると認めておられるのですね。ですから、議論は、どこが足りないのかということなのであって、ディスカバリーという制度を入れるか入れないか。例えば、後に問題になるような懲罰的損害賠償のようなものですと、これは日本に全然なくて、アメリカにだけある制度ですから、これなら入れるか入れないかという議論になると思うのですけれども、ディスカバリーの問題はそうではないのです。

 当事者照会という問題も、確かにサンクションがないというのですけれども、アメリカではどうやってサンクションしているかというと、当事者照会をして、従わなければ裁判所侮辱罪というのがかぶってくる。あるいは、場合によっては相手の主張を真実なものとみなすという強い効果を認める。しかし、この議論をしていた過程で、日本弁護士連合会だけではなかったと思いますけれども、裁判所侮辱というような制度を入れてくるのは好ましくない。それから、初めて日本でやってみるのに、余り強い制裁を課すのは好ましくない。そこでまず、制裁なしでやってみようじゃないかということで始めた制度なのです。

 ですから、そういうように、せっかく新しい民事訴訟法をつくるときに、みんながいろいろな多方面から検討してできた制度がスタートしたばかりなのですから、もう少し成り行きを見ていただくということも必要なのではないか。

 しかし、完全なものではございませんから、いろいろな点では手直しが必要だろうということは分かります。その一つは、時期ですね。我々が考えていたのは、訴訟が始まって争点整理ができた、あるいは争点整理をする過程くらいのことを考えていたのですけれども、やはりもっと早い時期に証拠を集められないと困るということですね。これは日弁連のペーパーで17のところに、冒頭の①から⑤というところに書いてある中の、例えば、②起訴前の証拠開示の拡充とか、③起訴前の鑑定制度の創設ということを言っておられるわけです。これについては、余り異論がないと思うのです。現在ある制度を訴え提起前から使えるようにしようではないかというのは、先ほどの千葉局長のお話にもありましたように、最高裁でもそういうお考えですし、これは我々立法過程では余り考えなかった問題ですから、こういうことを入れる必要があるだろう。それから、⑤の公文書に関する文書提出命令制度の拡充というのは、これは法制審議会で、法律で定められた2年の期間内に改正案を作って、国会に提出していたのですけれども、長いことたなざらしになっており、今度の解散で廃案になったという経緯がありまして、法務省としてはもう一度お出しになるつもりだということが書いてございます。このように見てくると、わが国の現行法でもそれほど違っているわけではない。

 何かアメリカのディスカバリーという制度を入れるか入れないか、それを入れたら爆発的によくなるけれども、入れないと2割司法だというような議論の仕方は、どうも問題それ自体にふさわしい議論の仕方ではないのではないかというのが私の意見です。

【最高裁千葉民事局長】一言だけ付け加えさせていただきます。

 今、竹下代理のおっしゃるとおりだと思いまして、新しい民事訴訟法が平成10年からスタートいたしましたが、かなりいろいろ証拠収集方法について拡充されまして、我々非常に助かっておるわけです。例えば、文書提出命令の申立件数を見ましても、平成9年ですと、2,580件という件数でしたけれども、平成10年、11年になりますと、それが5割増しで3,870件、平成11年が3,969件というふうに、文書提出命令も非常に広く利用されるようになってきておりまして、そういうことでかなりいろんな収集方法がつくられ、その利用が多くなっております。ですから、非常にありがたいと思っております。

 問題は、今、竹下代理がおっしゃられたように、それをできるだけ早い段階で収集するにはどうしたらいいか。証拠を集めるために時間が掛かるというのでは何もなりませんので、そのために訴え提起前から何か当事者の活動ができるような方法、さっき言った提訴通知をするとか、事前の鑑定をするとか、そういうような方向を少しお願いをしたいということでございます。

【日弁連平山副会長】今の御説明はそのとおり理解できますが、例えば、文書提出義務の範囲の拡大を改正でやりましたけれども、その中に、例えば、我々の意見書に書きましたように、220条の4号のハというのが、いわゆる「専ら文書」、専ら所持者の利用に供するための文書が除外事由として入って、これがこの前最高裁判所の判決で出ましたように、提出義務から除外されていくものが非常に大きいわけです。そういう意味では、ディスカバリーですと、範囲も間接事実、間接証拠まで全部、つまり山を全部出すという感じがありまして、範囲がものすごく違うんです。そういう意味で、これから今の民訴で運用で改善していける部分は是非運用で改善いただきたいと思いますけれども、民事訴訟法の改正のときに大変御尽力いただきましたけれども、そういう折衷的なものがまだ残っておりまして、その使い方で、やはり出方が非常に悪いということがあります。それだけ申し上げておきます。

【竹下会長代理】今の平山副会長の御指摘はごもっともで、除外を見直す必要があるのではないかという御指摘だと思います。アメリカでも決して今のような制度が一気にできたわけではなくて、やはり段階を追ってきたわけです。もともとは裁判所の許可を得たら、相手方から証拠を収集できるという仕組みであったのが、その下での実務が確立した後に、当事者間でまずやって、トラブルが起こったときだけ裁判所の判断を仰ぐという形になってきたのであって、やはり一挙にはどこの国でもやれないのです。段階を踏んで拡充させていくほかないのではないかと思いますので、それだけちょっと付け加えさせてください。

【佐藤会長】今の点について。

【藤田委員】証拠の開示収集を強化して実効的にしようという点は皆さん同じ御意見だと思うんです。その方策として、どれが適当かということが問題なんで、アメリカのディスカバリーに学ぶべき点もあるとは思いますけれども、ディスカバリーはいろいろ毀誉褒貶の多い制度で、前回山本委員から、アメリカの大会社が日本の大会社をいじめるのに悪用しているという話もありましたが、アメリカ自体濫用をどうして防止するかということを考えて、いろんな手直しをやっているということがあります。

 もう十数年前になるんですが、第二東京弁護士会で「民事訴訟の審理の促進と弁護士の職務領域の拡大」というテーマでシンポジウムをやったことがありました。その席上で、民事訴訟法の新堂幸司教授が、ディスカバリー導入論に対して、それは確かに実効性はあるかもしれないけれども、膨大な費用が掛かる。それが結局は当事者負担になるんだけれども、それを当事者が納得してくれるかどうかというのが問題であるという問題提起をされたんです。アメリカの州裁判所では90数%がトライアルの前に和解で終結するというようなこともあるようですけれども、やはりディスカバリーによる膨大な費用の支出を回避するためにという誘因もかなりあるというふうに言われています。

 そういう意味での濫用の実態があるんだから、それについてどういうような防止策をアメリカは考えたのか、それが実効を上げたのか。それから、さっきタイムチャージで膨大な費用になるというお話がありましたけれども、膨大な費用を要するという内容が、タイムチャージだけなのか、ほかにもあるのかということをちょっと調べて教えていただければ、その効率化に実務的に役立つ知恵が出てくるんじゃないかという気がいたしましたので、お願いしておきます。

【佐藤会長】今の点を含めて、先ほど資料を少し押さえてという話がありましたけれども、していただけますか。

【最高裁千葉民事局長】はい。

【佐藤会長】濫用の実態は何かという問題がある。また、日本の企業がアメリカのそういうやり方に対応していかなければいけない、やっつけられることに対応していかなければいけないという問題もあるでしょう。その辺も含めてどう考えるか、私どもとして議論しないといけない事柄ですので、資料の方をお願いしたいと思います。

【竹下会長代理】資料の点でもう一つお願いしたいのです。

 裁判所の方で10ページのところに計画審理の関係ですけれども、アメリカのミシガン州裁判所の第3サーキット・コートでは、何か特別のことをやっておられるということが書いてありますので、何かこれについての資料がありましたら提出していただけないでしょうか。

【最高裁千葉民事局長】分かりました。これは難しい事件だけではなくて、すべての事件について、訴え提起から90日くらい経過した段階の金曜日というのを選ぶらしいんですが、ステイタス・カンファレンスという進行協議期日を開いて、そこで当事者から意見を聞いて計画を立てると。それは3つくらいコースが分かれていまして、10か月と1年ちょっとと15か月、そのどれかに裁判官が当てはめると。それを前提にして具体的なスケジューリングをして、当事者が審理をすると。全部このスケジュールどおり処理できるということでございますが、紹介した文献がございますので、それは提供させていただきます。

【水原委員】御調査をいただくのに関連したことでございますが、アメリカにおいてディスカバリーがいつごろから制度化されたのか。あるいはその制度化される背景事情はどうだったのか。それが現在までにどういうふうな変遷があったのか。その背景事情はどうだったのかということまで含めてお調べいただくと大変ありがたいんです。

【髙木委員】アメリカでもいろんな学会もあれでしょうし、そういうところが客観的にどのように評価しておられるのか。どこがメリットでどこが欠点だと言っておられるのか。欠点について直そうとしたらどう直そうとしておられるのか。そういったこともお教えいただきたいと思うんです。

【佐藤会長】何か大きな宿題になってしまいそうですが。

【日弁連平山副会長】弁護士会の方は一応18ページ以下に詳細に書いておりますので、法務省と裁判所でお出しいただければ大変ありがたいです。

【佐藤会長】更に付け加えたいことがありましたら。

【最高裁千葉民事局長】日本の著名な訴訟法学者が紹介したものなども既にございますので、そういうのを集めて、法務省と相談して、制度ですから、法務省がお出しになるということになると思います。

【佐藤会長】では、よろしくお願いします。この件はこのくらいにしまして、次に「専門的知見を要する事件への対応」の方に入りたいと思います。これもいろいろな面にわたっておりますけれども、知財、労働関係事件。

【髙木委員】まず法務省の方にお尋ねしたいんですが、11ページに「労働事件について、その審理に専門的知見を要することを理由に、特別の裁判所・・・」と書かれていますが、何も専門的知見を要するからなどという主張を私はしていないので、勘違いしてほしくないと思います。何故こういうところに、論点整理の中で専門的知見のところに一緒に書いていただいたのか、入れる場所がないから、ここにむりやり入れていただいたという経過をよく読んでいただきますと御理解いただけると思います。私ども労働事件につきましては、労働の現場感覚やら労使関係やら、そんなこともあって、今の労働事件の裁判所での処理のしていただき方にいろいろ意見を持っておりますということでございまして、医療過誤だとか、そういう次元で専門的でなければ、逆に言えば労働関係はそんな専門的に勉強しなくてもできるんだという御判断はそれはそれで受け入れますけれども、要は11ページのような御認識でこの問題をお書きになられるのはちょっと心外でございます。

 それから、併せまして、5審制の問題ですが、審級省略の問題とか実質的な証拠法則の問題だとか、いろいろ御批判をここに書いておられますが、要は、今実質的に5審制になっている実態があります。そのことで十何年も解決を得られないままという事件が現実にございます。そのことを何とかしてくださいというのがまず第一にお願いをしていることでありまして、例えば、労働委員会の審理の仕方が非常にラフだから、裁判所でいろいろやったらひっくり返るんだとかいうことがいろいろ言われたりしておりますが、もしそうならば、労働委員会の側にどういう問題があって、ですから、例えば、労働委員会の公益委員の先生方でも、では、どうすればいいんだといった、そういう議論をしていただくということだと思うんです。今の実質5審制になっているものをどうやって解決していただけるのか、このペーパーを拝見したら、こういう問題があるから駄目だ、こういう問題があるから駄目だと書いてあって、では、実態的な5審制を何とかしてくださるにはどうしたらいいかというお考えというのは余りございません。

 それから、13ページに個別紛争の問題について云々で、例えば、個別紛争事件というのも非常に増えてきています。これだけ増えているにもかかわらず裁判にいくのは年間2,000 件強です。その中で実態的に何が起こっているんですかといえば、多くの泣き寝入りがありますということが現実の現象でして、それをどうやって解決するんですかということについて、いろんな議論が今行われているわけです。個別労使紛争についても、実態は今の仕組みの中で処理のできない部分がいろいろあります。それをどうしたらいいでしょうかということをみんなが期待しているわけで、いろいろ申し上げましたが、何か感想なりがあればお聞かせ下さい。

【法務省細川民事局長】これは外国の例を見ますと、労働委員会型の組織のあるところとないところがあります。ドイツのように、そのような制度のないところは労働裁判所という特別裁判所があるということになっているのです。日本の場合は、裁判所のほかに、労働委員会の手続とか、先ほど言いました様々な手続があるということで、その間の権限の分担を整理しないといけないわけです。労働省の研究会では個別紛争も労働委員会で取り組むかという点も検討項目として上がっているのです。ですから、今のままで労働裁判所をつくったりしますと、屋上屋を架すことにならないか。労働委員会も含めて全体を整理する必要があるのではないかというのが私どもの考え方です。

 ですから、労働委員会で個別紛争を扱わないということであれば、裁判所における手続をもう少し何とか改善する余地があるかという検討になるのだろうと思います。

 それから、5審制の問題は、これも労働省のことですので、法務省としてはなかなか言いにくいところがあるのですが、要するに、現在、審級の省略とか、実質的証拠法則を取っているのは、公正取引委員会と公害等調整委員会、電波管理審議会と3つあるのですが、いずれも独立の行政委員会がやっていて、委員の独立性と公平性が担保されていると。そこで裁判所の第1審に見合うような慎重な手続が取られているということが前提なんです。だから、労働委員会の手続がそれに本当に当たるようにものに充実強化されるならば、そういうことはほかの行政組織機関と同じような形で審級省略とか実質的な証拠法則を採ることも可能であろうと思います。

 ですから、そっちの方は私どもの所管ではないですから、言い難いところがあるということをお分かりいただきたいと思います。

【竹下会長代理】今のことと関係してなのですが、最高裁の千葉局長にお伺いしたいのですけれども、最高裁のペーパーの17ページのところに、これは本来ADRの方の問題なのかもしれませんけれども、専門調停制度を拡充するという中の例として、「労使関係の実情に通じた者を調停委員とし、労使関係の実情を反映させた解決を図ることも検討に値しよう」と書いてあります。これは民事調停法の中の特別調停として、現在、商事調停とか、公害等調停とかいろいろございますが、そういうものの一つとして、労働調停というものを設けて、普通の調停とは少し違うような形で労働事件の紛争解決に当たるという構想でいらっしゃいますか。

【最高裁千葉民事局長】考えておりますのは、そういう民事調停法の中の一般調停の中で仕組むのか、特別なもので仕組むのか、両方あり得ると思います。まだそこまで十分考え方を詰めておりませんが、どちらでもあり得ると思います。

 最近の民事調停の中で労働事件というのは余り多くありませんので、あるいは特別な、専門家をきちっと入れて、専門的な手続を考えていく方が使いやすいのかもしれません。ただ、労働事件というのは、訴訟に来てからもそうですが、その前からも和解の解決が非常に多いということで、日本の場合には、行政機関がかなりあっせん・相談をやっているという実態があるものですから。勿論、労働委員会もございます。

 例えば、東京だけの例を取ってみても、都にある労働局や労働基準監督署では、年間20万件を超えるような相談・あっせんがあるし、東京都の労政事務所でも5万件くらいで、それが件数的にはかなり機能しているところがありまして、その辺との関係を見ながら、民事調停をどういうふうに伸ばしていくか。まだ十分詰めた議論はしておりませんが、おっしゃるような専門的な手続をした方があるいは使いやすいのかもしれません。

【竹下会長代理】もう一点なのですが、これは全然違う話でございますけれども、専門委員制度の創設というのを提案しておられまして、私も、専門家が、裁判所の補助者としてと申し上げた方がいいのでしょうか、とにかく裁判体の側に加わって審理の段階から争点整理等に関与するという制度は非常によいのではないかと考えるわけでございます。ただ一部から指摘されておりますように、そうすると、その専門委員になった専門家の意見というものが裁判官に強く反映をして、しかもそれが法廷外のところで反映をしますと、結局、当事者に専門家がどういうことを言ったかということが分からず、それについて意見を陳述する機会のないまま判決を下されることになるという問題があるのではないかと思います。その辺りについてはどうお考えでしょうか。

【最高裁千葉民事局長】前回の御審議でもそういうお話が出たと承知しておりますけれども、現実に専門家の関与の仕方でございますが、今、専門委員という、裁判所の意見書では16ページに書いてございますが、簡裁の司法委員と同じような立場で地裁にも専門家が専門的なアドバイザーとして入っていくということなんですが、それで何をどういうふうにしてもらうかということです。

 今、現実に専門家の活用ということをやっておりますのは、建築関係の訴訟、これは非常に専門訴訟で難しいんですが、事件が来ましたら、これを調停に回しまして、調停委員の中には1級建築士の人が多数ございますので、1級建築士の人や、建築訴訟に詳しい弁護士の方に調停委員になってもらって、専門調停委員会というのをつくりまして、その1級建築士の人が現場を見に行きます。当事者と一緒に現場を見に行って、そこで意見交換をする。それから、裁判所に帰ってからもディスカッションをして、争点整理をする。

 この争点整理というのは非常に大事でございまして、建築訴訟を御経験された方はお分かりかと思いますけれども、物すごく争点が増えます。ビルがちょっと傾いたというだけで争点が100くらい出てくる。これはいろんな考えられる主張を、勿論、代理人側の方が専門家のサポートを受けてきちっと争点を出してくる例も勿論ないわけではないんですけれど、多くの場合には、考えられる主張を全部出してくる。設計が、力学計算が問題でおかしいじゃないかと、建築士を被告にする。あるいは、基礎工事が不十分じゃないかと工事者を被告にする。あるいは工事監理が問題だと。あらゆるところに考えられる主張をしてくると100くらいの争点になるんですが、ただ、専門家が行って見れば、これは基礎工事の問題だとか、これは設計の問題ではないということがすぐ分かるんです。

 そこで、専門家と当事者がディスカッションをしながら争点を絞っていくと、一気に100の争点が10になるということはざらでございます。

 普通の訴訟ですと、法律的な主張をたくさんしてきても、我々、裁判官は法律の専門家ですから、法律的な観点から意見を申し述べて争点を絞っていくんですけれども、専門訴訟では、我々なかなか専門知識がありませんからそれができません。それを調停委員である1級建築士、専門家にやってもらうということを今やっておりまして、東京、大阪ではそういう調停委員がたくさんいるものですから、建築関係の事件、大阪では全件調停に回して、東京では半分くらいですけれども、そこで争点をうんと絞って、自ずと争点が絞られれば見通しがつきますので、かなり調停ができる。調停できないものは絞られた争点を訴訟に回して、そこで審理をする、非常に迅速な処理が図られるんです。

 今、これは調停委員を使ってやっていますので、その過程は非常にオープンな形で意見を言う。まさにお互いに意見を言い合って争点を絞っていくということが大事なんで、密室で勝手に争点を決めるわけにはいきません。

 そういう形で、一つは争点整理の段階で非常にオープンになるし、最終的な判断過程で勿論、裁判官が最終的な判断をするわけですけれども、専門委員がどういう形で関与するかですが、それは、まず専門的な基礎知識ですね。用語の説明とかをやっていく。それから、専門家としての意見を述べますけれども、その述べた意見を裁判官は丸のみする必要は勿論ないわけで、もし、その意見をそのまま受け入れて判決に書いて、その専門家の意見がおかしければ、当然判決もおかしくなりますから、それは公の批判にさらされるだろうと思います。

 それから、証拠調べの過程で専門委員がいると、専門委員の考え方というのが出てきますが、結論についても、今申し上げたように、判決がおかしいというのは専門委員の専門的な判断がおかしいということになりますし、そういう専門的な判断についての意見の交換というのは、オープンな形でできるわけでございます。ですから、密室裁判ということはならないだろうと考えております。

 この制度の導入というのは、現場の裁判官の大多数が非常に強く希望しておりますので、是非実現をしていただきたいと考えております。

【中坊委員】専門委員が現場に調査に行かれて、その結果、裁判官の方に意見が提出になる。その状況の下において、今度私の方として尋ねたいのは、裁判官が、それでは現場を見られていますかということなんです。その点はどうですか。

【最高裁千葉民事局長】今の調停の手続では、裁判官は現場に行きません。東京・大阪の場合は行きません。写真を撮って、図面を見て、専門家の1級建築士の調停委員の説明を聞くというやり方でございます。

【中坊委員】だから、専門委員は現場に行って見られているかもしれないけれども、裁判官の方は現場に行っていられない状態で専門委員の意見を聞くということになりますね。

【最高裁千葉民事局長】今のは調停の手続での過程の話でございます。

【中坊委員】調停の結果が裁判所に出てくる段階においては、専門委員の方は現場に行かれて見られて意見が出てくる。しかし、それを見て争点を整理するという裁判官は、その時点において現場は見られていないわけでしょう。そこに今言う当事者側からすると、裁判官と専門委員との密室性というのも生まれてくるし、片方は現場を見ていないんだから立場が弱い。そこに一つの問題があるんじゃないかという指摘だと思います。

【最高裁千葉民事局長】おっしゃる御指摘よく分かりますが、一つは、争点を絞るのは当事者が納得しないといけませんので、当事者が実は100の主張を立てたけれども、本当の主張は基礎工事の10の主張だと納得をして争点を絞っていって、それで調停ができるものは調停ができるわけです。それで調停ができないものについては、10の主張を当事者がむしろ書面化して訴訟記録として出していくというやり方をしております。

 ですから、争点を絞るのは裁判所だけではなくて、当事者が100の主張を10にしてしまういうことでございます。

 それから調停の過程で、現場を見てきた1級建築士である調停委員と裁判官とが事前にディスカッションをして、こういう方向で争点整理をいたしますからという形で議論をしておりますので、裁判官が全然関与しない形で争点整理がされているというわけではございません。

 訴訟になれば、当然裁判官が現場を見る必要があれば現場を見るし、写真みたいなものが証拠で提出される。そういう形で裁判官も争点整理の過程をちゃんとチェックできるわけでございます。

【中坊委員】この審議会の委員で出た意見の中で、専門委員と裁判官の間が非公開になっていて、そこでおかしくなりはしないかという危惧があったのは、それが専門委員と裁判官とで、片一方は現場を見ている、片一方は現場を見ていないことです。そうすれば、専門委員の言うことだけが積極的に裁判官の頭に入るじゃないかという指摘があったんです。それを言うているわけです。

 だから、その点が今おっしゃるように、現に私が尋ねたように、今のところ、裁判官というものが非常に最近は現場検証にほとんど行かれない。我々の感覚、当事者の感覚で言えばね。そういうことになってきていますから、そういう問題があるから、そこで密室性という問題が出てきておるんで、それをお尋ねしたいということです。

【最高裁千葉民事局長】争点整理をするというのは、まさに当事者との共同作業でありまして、基本的に当事者がするんです。前に中坊委員がおっしゃられた当事者がきちっとした争点を出してくればそれは何も問題がないわけで、裁判所は争点を絞り込む必要は全然ないわけです。それができていないために、当事者もとにかく一応言えるものはみんな言っていこう式の主張をしているときの争点整理が問題になりまして、専門家がそこで意見を言い、ディスカッションをしながら当事者が納得づくで争点を整理した上で、この訴訟の争点はこれですという形で原告側、被告側双方が裁判所にその争点を提示するという手続ですので、それが裁判官が現場を見ていないから争点整理が、裁判官が見ていないままされるので問題だというのはどうでしょうか。

【中坊委員】そうじゃなしに、現場を見て、専門知識を持った専門委員の意見が、決定的に裁判官に影響することになりはしませんかということが、この間問題になっていたということを言っているだけなんです。

 今おっしゃるように、片一方は専門知識を持って、その上に現場を見てきた者が、裁判官に対して、いやこうですよと言えば、裁判官に決定的な影響を与えるのではありませんかということを言っているわけです。

【最高裁千葉民事局長】現場を見なければ本当のことが分からないという事件であれば、それは裁判官自らが現場を見るんじゃないでしょうか。今言うのは、争点整理に必要な場合に現場を見ているだけですから、専門家は現場を見ればどこに原因があるか簡単に分かるような例で申し上げているわけですので、現場を見なければ判断ができないものは、当然裁判官は見ると思います。

【井上委員】三者の方にそれぞれ簡単にお伺いしたいのですけれども、まず裁判所の方には、このペーパーでは、専門参審制度、専門委員制度、鑑定人制度の充実と、それぞれ積極の御意見なのですが、その使い分けをどのようにお考えですか。どのような種類、あるいはどのような場合に、そういうものをそれぞれ振り分けて使っていくのがいいのか、裁判所の目から見てどうお考えなのかというのが1点です。

 法務省の方には、確認なのですけれども、専門参審制の導入には憲法問題があるという御指摘なのですが、これは専門参審制に限った話なのか、あるいは参審とか陪審とか一般についての問題なのかという御質問です。

 3番目は弁護士会なのですけれども、労働事件の関係で、陪審に適する事件は陪審がいいだろうと言われているのですが、どういうものが適して、どういうものが適しないのか、具体的なイメージが浮かばず、よく分からないということと、もう一つ、それ以外は参審制がいいだろうとおっしゃっているのですけれども、この参審制は、専門参審制について日弁連の方で言われている、普通の国民を入れて、その常識を生かして裁判をするというのとは違った意味の、広い意味での専門的というか、事件の背景事情に通じた人を入れて裁判するという意味によるものだと思うのですが、専門参審制には警戒的な姿勢なのに、ここのところは積極的であることの整合性はどうなっているのでしょうか。

【最高裁千葉民事局長】簡単に申し上げますが、事件の専門性の程度とか、専門家の確保のしやすさということから、事件ごとに考えたいと思っております。

 まず専門参審制の場合には、専門家をずっと取り込むということですので、専門家を長時間拘束するということになりますので、その確保が難しいところはあるんですが、やはり裁判官と一緒に判断をしてもらうというところまでいきますので、かなり法的判断と専門的な判断とが密接な事件と言いますか、具体的に言いますと、医療過誤事件などはこれが使えるのではないかなというふうに感じております。

 それから、知的財産権関係では、今、調査官がおりまして、かなりの分野は調査官でカバーできるんですが、バイオテクノロジーとか先端技術とかになりますと、専門家自体が日本で数人しかいないようなことになりますので、これは専門委員でもいいんですけれども、専門参審をつくっていくということもあり得るかなと。

 専門委員制度の方はかなり広く使えますので、これは非常に使い勝手のいい制度でございます。具体的には今の建築関係の事件、これは今、調停委員をやや便宜的に使っておりますけれども、建築瑕疵の事件とか、医療とか今の知財もかなり広く使えるんではないか。

 もう一つは鑑定というのがございますが、今は鑑定人のなり手が医療過誤の場合はないということで非常に苦労しておりますけれども、勿論、鑑定というのも、専門家団体とパイプづくりをして、鑑定を引き受けていただけるような体制づくりをしたいと、一応こんなふうに考えています。

【法務省細川民事局長】参審制の場合には、最終的に判決する場合に、参審員も評決権があります。ドイツの場合、裁判官が1人の場合には参審員が2人いて、3人の合議で、参審員2人が有罪、裁判官は無罪というのでも有罪になるということです。結局、裁判官と同じ権限が参審員にあるわけですので、憲法上は裁判官には独立性、公平性を担保するために、任期とか報酬とか身分保障を定めているものですから、その問題をどうするかというものは、やはりクリアーしていかなければならない問題だというふうに指摘したわけでございまして、実はこれは憲法学者の中にもいろいろ意見が分かれていると思うのですが、法務省としてどっちがいいか悪いかという結論を申し上げているつもりはないのですが。

【井上委員】私の質問の趣旨は、そのような問題があるとして、それは専門参審に限った話なのか、参審や陪審一般について妥当する話なのか、その点を確認したいということです。

【法務省細川民事局長】同じ問題ではないですか。ですから、専門委員のような構想ですと評決権がないものですから、その問題は生じないなと思っています。

【日弁連平山副会長】専門参審制につきまして、つまり裁判所の裁判体に取り込まれるものについては、すべて反対ということを申し上げているわけです。陪・参審と一般的に言っておりますのは、そういう専門家を入れるという趣旨ではございませんので。

【井上委員】質問の趣旨は、労働事件のところだけ参審をとるというのは一貫しないのではないかということです。

【日弁連平山副会長】そこの意味は専門参審という意味ではありませんで、要するに公平ということで、労使間の対立というのは特別な対立がございますので、裁判官がおられて、労働委員会みたいに、労働者側と使用者側で立ち合ってやられるというのは、一つの解決方法かなということを申し上げているわけであります。ですから、そこは専門としての参審という意味は我々はないんです。

【井上委員】反論するわけではないのですけれども、一般国民を入れるというのとは意味が違いますよね。

【日弁連平山副会長】違いますね。

【井上委員】その意味では専門参審と同じではないかということなのですけれども。

【日弁連平山副会長】専門家としての知識でおやりになるということではないんで、例えば、医療過誤などですと、医者と患者の争いに医者が入ってきたら、これはもう全然公平さを欠くと思います。

【井上委員】労使双方が入っているから、そこはいいのだということですか。

【日弁連平山副会長】ええ。労使の場合は、そういう専門の知識でどちらかに寄与するという話ではございませんので。

 ところが、患者と医者の争いに医者が裁判所の参審という形で専門家として評決権が入れば、これはもう全然公正な勝負にならないだろうということを言っているわけです。

【井上委員】もう一点は、労働事件で陪審に適する場合は陪審にすべきだと書かれているのですけれども、その場合と適さない場合との区別がよく分からないのですけれども。

【日弁連平山副会長】市民が判断するのに、労使関係などについては、別に専門的知識は要りませんので、そういうこともあり得るかなという意味です。

【井上委員】場合を分けておられるので、何か具体的なイメージがおありになるのかなと思ったのですが。こういう類型のものは陪審に適して、こういう類型の場合は適さないというですね。

【日弁連平山副会長】陪審は事実認定の問題ですね。ですから、そういう意味で特に区別しているわけじゃない。今、補助者の方から、大量迅速の場合は参審、個別の場合は陪審はどうだという意味を込めているということでございますので、そういうふうに御理解いただけたらと思います。

【井上委員】まだちょっとよく分かりませんね。

【石井委員】先ほどのお話が、大変興味深かったものですから、裁判所の方に伺いたいと思います。裁判官は原則として、現場を見ないというような感じでお話を伺ったのですが、その原則論というのはどういう根拠から出ているのでしょうか。一度見てしまうと好ましくない先入観を持ってしまうといけないということからでしょうか。

【最高裁千葉民事局長】中坊委員が今おっしゃられたのは、裁判官が非常に忙しくて、現場を見ると時間を取られますから、現場を見ない裁判官が多いということをおっしゃられていて、そういう現状は恐らくあるんだろうと私も思っておりますが、それは本当に必要があるのに見ないということはないと思います。どうしても当事者はできるだけ現場を見てくださいと。まさに中坊委員のおっしゃる現場主義が非常に強いので、我々もできるだけ現場を見る必要がある事件、現場を見なければいろいろなことが分からない。交通事故の現場を見るとかいう場合ですと、勿論、現場を見ないといけないわけで、実際そういう検証などもやっておるわけなんですが、それだけ時間を取られるとなると、全体の審理に勿論影響してきますから、本当に必要のあるものに絞って見ると。その辺で裁判官によっていろいろ差が出て、写真や実況見分の図面を見れば分かるじゃないかということで見ないということはあり得るかと思います。

 ですから、原則として見ないということではなくて、むしろ必要があるものは必ず見ていると思います。

【石井委員】そうすると、個々の裁判官の判断に任せるということでしょうか。

【最高裁千葉民事局長】つまり、どういう証拠調べの仕方をするか、それは各裁判体の判断だと思いますが、必要があれば勿論見るということになると思います。

【北村委員】弁護士会の方にお伺いしたいと思います。

 専門参審は余り賛成なさっていないということで伺ったんですけれども、医療過誤は分かるんですけれども、例えば金融関係の事件などの場合ですと、必ずしも出てきた専門家がどちらかにということではないと思うんですけれども、そういう場合ですとよろしいんでしょうか。

【日弁連平山副会長】専門家の利用、例えば、金融システムなどについて、詳しい方がおられて、その方の知識を裁判所でもお使いいただくことが必要だと思います。関与の仕方は注意が必要ですが、それは我々は別に反対していないんです。裁判官の評決に加わるような形でやるのは、法律家と専門家は厳然と区別した方がいいということを申し上げているわけです。

【北村委員】評決に加わらなければよろしいわけですか。

【日弁連平山副会長】例えば、先ほどの司法委員的な関与とか、例えば、調停ですと、まさに相手方も十分知っているわけです。その専門家が何を言っているかということが、手続上明らかな利用の仕方で評決権に加わらない関与の仕方を御検討いただくことについては、それはいい点があるんじゃないかと思っておりますが、評決権に加わる専門家というのはやめた方がいいということです。

【北村委員】そうすると、専門参審でも最高裁の場合には評決権を持たない場合というのが出ているんですけれども、そういう形だったらよろしいということですか。

【日弁連平山副会長】それがどういう形で、透明性と言いますか、手続が相手方にも見えるような、みんなに見えて、ああ、そういうことをその専門家は裁判所に言っているということが分かるような、きちっとしたシステムができれば便利ではないかと思っております。

【水原委員】知的財産権訴訟の東京・大阪地裁への専属管轄の問題については、法務省と裁判所は、専属管轄にすべき方向で検討すべきだというお考え。日弁連は反対だというふうに伺いました。

 ところで、知的財産権が侵害されたとして、これは最高裁判所にお尋ねしたいんですが、その迅速な保護を求めるために訴える者は、できる限り早く自分の権利を保全してもらいたいということを願うんではなかろうかと思うんです。

 しかしながら、いただきました資料によりますと、特許事件で言いますと、全国で8割以上のものは東京・大阪に訴えを提起しているけれども、2割弱のものはそうではないんだと。早く権利保全をしてもらいたい、権利を守ってもらいたいと願うものならば、専門知識のある大阪・東京地裁に訴えを提起するのではなかろうかと思うんですが、なぜそういうふうに地方の裁判所に訴えると思われるのか。理由がお分かりだったらば教えていただきたい。

【最高裁千葉民事局長】実は東京・大阪は今ものすごく専門的な処理体制が充実して、別紙5に書いてあるとおりなんですが、これは一気にやったわけではございませんで、つい最近と言いますか、平成10年、11年、12年、この2、3年でかなり充実してきております。特に新しい民事訴訟法の施行が平成10年からでございまして、平成10年に地方でも東京でも起こせるという民訴の改正ができましたので、東京・大阪への集中化というのは平成10年から始まりましたので、まだ集中の過渡期にあると言っていいのかもしれませんが、それでも特許で8割くらいの事件が東京・大阪の専門部に来ているという状況でございます。残りの2割弱の人がなぜこれを選ばないのかというのは、実はある程度の分析がいろいろあるんですけれども、率直なところよく分かりません。

 一つは、地方で起こしますと、事件はなかなか迅速に解決がつかない。訴訟が長く係属するということになります。これは裁判所の見方と言われると困るんですが、一つのうがった見方で、ある弁理士の方が言われましたのが、訴訟が係属していること自体に意味がある場合もあると。これはある意味では非常にアブノーマルなことでして、訴訟が係属していると、その市場にほかのベンチャー企業とかほかの中小企業が参入できない。訴訟の帰趨を一応見守らざるを得ない。そうすると、市場が腐ってしまって、言わば訴訟を起こした原告の寡占状態になると。それをねらっているといううがった見方もございます。

 もう一つは、地場の特許を持っている人間は、単純に地元で起こしたいというものがあるのではないかというふうに考えております。

 ただ、いずれの場合も問題でございまして、最初の場合には、日本のもっと大きな視点からの国際的な経済力というものが絡んでまいります。知財の事件は、経済活動自体がボーダレス化しグローバルな形でやっておりますので、そういうようなものを一つの企業のエゴのために利用するというのでは困りますから、市場をオープンにしないといけません。ですから、紛争が起きたら迅速に処理をする。これがグローバルな考え方であり、グローバルな解決方法だと思います。それができるのが東京・大阪であろうと思います。

 個人が単純に面倒くさいからというのがあるのかもしれませんが、これは実はこの種の事件は、個人の事件というのはそんなに多くないんです。しかも、多くの場合には、専門の代理人が付いていますから代理人に任せればいいという感じがするんです。

 ですから、東京・大阪で専門の代理人がたくさんいますから、それに任せればいい。ただ、本人が出たいというときには、テレビ会議システムとか、遠隔地にいながらそういうことができるシステムが今ございますので、そういうものを利用すると不便もそんなに大したことはないだろう。むしろ、迅速な処理、これが日本全体の非常に大きなテーマではないかという感じがします。この管轄の専属化は山本委員からの御提案でございますが、我々も大賛成でございまして、是非専属管轄を実現させていただきたい。

【水原委員】争われているうちにどんどん諸外国の企業が権利侵害と言いますか、そういうものを申請していって、我が国の利益を侵害することになっては困るという考え方もあるんです。

【最高裁千葉民事局長】外国の企業なり、日本の企業なりがそこで訴訟を起こしたままの状態が続きますと、外国企業の寡占状態になったり、日本の一つの企業だけの寡占状態になったり、そういうアブノーマルな形が入ってくるわけです。

【水原委員】その点について日弁連はどういうお考えを持っていらっしゃいますか。

【日弁連平山副会長】意見書で書いておりますように、今のような大阪と東京が管轄として選択できる方法でいいという発想であります。というのは、こういう事件の中にも、確かに東京・大阪でやっていただいた方がいいような、物すごく難しい事件と、そうでない事件もあるわけでありまして、やはり裁判を受ける権利ということを考えますと、少なくとも高裁管内に一つはないと、やはりバランスからいきましてもおかしいのではないか。そういうことを考えて、今のような選択性で、そうすれば選択をすればいいわけですから、専属で東京と大阪しかないということになりますと、例えば四国の方にはそれだけ裁判を受ける権利が事実上侵害される恐れが、費用その他でですね。そういうことがありはしないかということを考えているわけです。ですから、バランスを取った方がいいと。

【水原委員】そうしますと、各高裁管内に一つずつくらいは設けなければいけないということでございますか。

【日弁連平山副会長】最低そうでないと、日本全国のバランスが、裁判という制度としてはおかしいのではないかということを考えております。

【佐藤会長】では、よろしゅうございますか。時間が経ってきて、少し先の方を急がないと。それでは、今の点はこのぐらいにさせていただきます。

 次に、民事執行制度、それから裁判手続外の紛争解決手段、司法に関する情報公開。これを併せて質疑応答をお願いしたいと思います。これはどこからでもよろしゅうございますので、どうぞ、御質問ください。

【竹下会長代理】平山副会長にちょっとお伺いしたいのですが、今日いただきました日弁連の参考資料というのがございますね。これを拝見しましたら、養育料の履行確保のことについて資料がございまして、養育料支払命令というような制度を入れたらよいのではないかということが書かれています。資料の9です。よくこれを読んでみればよいのかもしれませんが、今十分拝見をしている時間がないので、お伺いしようと思ったのです。これは普通の支払督促と比べて、例えば、裁判所書記官がやるのではなくて、家庭裁判所の審判官が発令するとかいうようなところが違うということで、あとは同じなのでしょうか。突然のことで、もし、お答えいただくのが無理でしたら、資料をよく読んでみます。

【日弁連平山副会長】ここでレジュメで書きましたように、給与天引制度とか、あるいは養育費立替制度など、アメリカなどの例に従って創設していただいたらどうであろうということを御提案申し上げているわけですが、立法そのものはきちっと何かそれに適したものをおつくりいただく必要があるだろうということであります。

【竹下会長代理】では、なおよく資料を読ませていただきます。

【藤田委員】ADRは、今度の司法改革で非常に大事な眼目の一つだと思うんですが、21世紀政策研究所でもそれを強調していらっしゃいますけれども、研究所の意見によると、裁判制度との連携ということを非常に重視しておられる。アメリカの連邦地方裁判所の民事訴訟手続で、訴訟として出てきた事件をADRに廻すことができるという法令上の手当がされたと聞いております。裁判所の方としても積極的にADRとの連携を重視したいとおっしゃっていますが、そういう法令上の手当てまで考えておられるのか、あるいはそれは運用で賄う、事実上の運用において連携を重視していくということなのかどちらなんでしょうか。

【最高裁千葉民事局長】ADRが、今、日本では余りうまく機能していないという現状がございまして、特に民間のADRではうまく行っているのは交通事故紛争処理センターぐらいで、他は非常にうまくいかない。その原因がどこにあるのかという、そこから話が実は来るんですが、その大きな原因の一つは、やはり裁判所との連携が十分されていないのではないか。やはり信頼性、中立性という点を考えますと、裁判所とうまく連携していかなければいけない。ですから、むしろ、ADRがうまくいくために、裁判所も積極的に協力を申し上げたい。そして、ADRで解決できるものはADRで解決をしていただくし、解決できないものは裁判所に来るという形の役割分担というのは考えていっていいんだろうというように考えております。

 裁判所としましては、一つは連携といいましても、手続の面での連携ですね。例えば、ADRもいろいろなADRがありますから、ある程度しっかりしたADRでないと困るんですけれども、ADRで話がまとまった場合には、それに債務名義の効力を与える、強制執行ができるようにするとか、あるいはADRに申立てをしたときにはそれは時効の進行がそこで止まるとか、そういうような手続面で、裁判手続とADRの手続と連携する、そういった制度的な改正を考えるということが一つ大事なのではないか。

 あと運用面の問題としては、ADRの場合には、今、地方公共団体にあります消費生活センターなど非常にうまく機能しておりますけれども、更にこれがパワーアップするためにやはり法律的なアドバイスができるようなスタッフが入ってくればよりいいわけでございまして、裁判所のOBがそこに入っていくとか、勿論、弁護士の方が入っていけば一番いいんですけれども、なかなかそれは全国広い範囲でございますから難しい。そうすると、そういうような準法律家的なものがそこに入っていくとか、あるいは調停委員は研修をたくさんやって非常にスキルが向上してきておりますので、調停委員と人材の交流をするとか、あるいは一緒に研修をやるとか、そういうマンパワーの面での連携をするとか、それからあとは情報の交換という面での連携、これも運用です。今の最後の二つは運用ですが、手続面での制度的な連携と運用面での連携、二つ考えておりまして、それがまさに民間レベルのADRを活性化するキーポイントであるというように考えております。

【藤田委員】アメリカでレンタルジャッジという制度があって、裁判所の法廷を使わせてレンタルしてきた弁護士やリタイアしたジャッジが判決する。そうしてそれに執行力を与えるというのがカリフォルニア辺りで盛んに行われているという記事を前に読んだことがあるんですけれども、債務名義としての執行力を与えるとか、ADRの申立てには、時効の中断の効力を認めるというようなことですが、そういう立法は法務省はお考えになっているんでしょうか。

【法務省細川民事局長】ADRの関係では、やらなければいけないのは、現在の仲裁手続の法律が、昔のままになっておりまして、条文が非常に少ないので意味が分からないところとか、あるいは仲裁人が2人なのですが、2人で意見が分かれると仲裁ができなくなることになっているとか、仲裁人の選任の忌避を判決手続でするとか、いろいろ問題があります。

 それからまた、国際的な仲裁を見ても、国際取引に関する仲裁のフォーラムが東京にはない、シンガポールとかそっちでされているという問題もあります。ですから、これは今、国連の国際商取引法委員会で、この問題を取り上げているのですが、それと併せて、仲裁法制を整備しなければならないというふうに考えているところでございます。

 実はこれ、平成8年に着手したので、外国法制を調べたのですが、それより優先として、倒産法の5法の全体の改正というのがありましたので、法制審で一端中断している状態です。ですから、倒産法改正が終われば、仲裁法制について近代化するべく作業を始めたいと考えております。

【竹下会長代理】千葉局長に伺いたいのですが、先ほどのお話で、ADRで合意が成立したときは、それに執行力を認めるということも考えてもよいのではないかとおっしゃいましたが、まさにどういうADRかによることだと思うのですけれども、どうも私はやはり執行力まで認めるというとそれでいきなり差押えにくるわけでございますから、やはり公的に内容の正確性、手続の適正さの保障といいますか、そういう担保があるADRでないと難しいのではないかと思っているのですが、いかがでしょう。

【最高裁千葉民事局長】今、非常に粗い話を申し上げましたので、具体的に強制執行をする100%の債務名義を与えるかどうか。執行力を具体的に与えるときに、それが、例えば、公序良俗に反しないような内容になるのかどうか、その辺のチェックをするとか、勿論裁判所の方のチェックをそこに絡ませていくというのが現実的な方法かなと思いますので、竹下代理のお考えのとおりかと思っております。

【佐藤会長】よろしゅうございますか。最後にします。

【髙木委員】最後だと言われたのでもう一言言わせていただきます。

 昨日、送っていただいて、私自身不勉強で、よく分からないことがいっぱいあるものですから、御説明もないままに順番に議論せいという議論のさせられ方は、私は率直に言って、よう付いていけません、この議論の仕方では。だから、時間が全体的に制約されていることは判りますが、この場に来てここに何書いてあるか一生懸命読みながらの議論ですから、とてもじゃないけれどもフォローできないということを御理解いただきたいと思います。

 そういう中で、ここで読ませていただいただけの話なんですが、法務省のペーパーの懲罰的損害賠償制度についてですが・・・。

【佐藤会長】そちらに入りますか。実は、先ほど、民事執行制度とADRと司法に関する情報公開、この三つを一つの固まりとして御議論してくださいと申し上げたので、この固まりについての質疑に関して「最後にします」と申し上げたつもりなのです。

 もしよろしければ、最後の懲罰的損害賠償の方に入りたいと思いますが、よろしゅうございますか。

 では、そこに入りたいと思います。髙木委員、どうぞ。

【髙木委員】21ページの表現ぶりの話なんですが、一番下の注のところに「加害行為の悪性が高い場合に」という御説明が書いてあるんですが、そして上の方には「損害の公平な分担を目的とする我が国における不法行為制度の基本理念と相容れない」という表現があるんですが、これは、哲学というか立法政策の問題かもしれませんが、私が、例えば、雇用問題などで、何でこういう安易なことがあるんだと、安易であるないはいろいろな主観的な判断も入ったり感情論も入ったりするわけですけれども、そういうある種の雇用差別みたいな問題等を言っていましたが、ここで言う悪性が高いような雇用差別があったときに、そうでない場合と全く同じような法律上の対応になると、これは何回でも悪性の高い雇用差別が繰り返されます。そういう意味で、法秩序の維持だとか、そういうようなことも含めて、余り感情論的になってもいかぬと思いますが、私はある程度こういう発想のものが入っていいジャンルというのはあるのではないかという気がいたしております。「これを導入することは相当ではないといわざるを得ない」、ないないづくしのこういう表現の仕方はいかがなものでしょうか。

【法務省細川民事局長】懲罰的損害賠償というのは、要するに、被害者に生じた損害を填補するものではなくて、これに制裁を加えて、かつ一般予防に資そうというものです。ですから、我が国の民法は被害者に現実的に生じた損害を担保するということが大原則でして、一般的な予防とか制裁については、例えば、刑事罰を課するとか、あるいは行政的な様々な取締りをするということで担保しているわけです。ですから、加害者の方から懲罰的損害賠償を取って、それを損害の額を超えて、被害者の方に渡すというのが、民事の制度としては適当ではないのではないかと考えております。

 今言われたようなことは、行政的な取締りとか、刑事罰ということで、されるべきものではないかということであります。

 この点につきましては、ドイツなどでも、結局は導入されておりませんし、我が国の裁判所でも、外国の判決で懲罰的損害賠償を認めているものについては、我が国の基本的制度に反していて、公序良俗に反するから、その場合は執行を認めないという考え方であります。

 これをまた認めますと、例えば、懲罰的損害賠償を受けた上で、更に刑事の罰則は課せられる場合があるということがあります。あるいは、刑事の手続では、人権を保障するために、厳格な訴訟手続があるのですが、民事はそれに比べて柔軟な手続になっています。その刑事のような厳格な手続を踏まないで、民事の手続で懲罰を課すということが適当であろうかというようなことが言われておりまして、我が国の現在の体制の中にこれを取り込むのはなかなか難しい話があるのではないかなというのが、私どもの意見です。

 ただ、損害賠償の額につきましては、新民事訴訟法で、248条を入れまして、損害賠償額の算定が困難な場合には、裁判所は相当と認められる額を認めていいんだという新しい規定を設けましたし、それから、実体法の規定で、特許法とか、例えば、今度できた金融商品の販売法等では、特別の場合は一定の損害賠償の額を推定する、そういう方式を使っているので、そういう方が我が国の法体系に導入するには無理がない話かなということを申し上げたかったわけでございます。

【髙木委員】これについても、アメリカ等でどういった議論があるのか、そういったものを、いろいろ客観的に私ども勉強できるような素材を提供してほしいんです。

【法務省細川民事局長】たくさん宿題をいただいたので、時間的にある程度余裕いただければ出せますが、日本にある文献でしたら、調べてお出しできます。

【佐藤会長】では、お願いできますか。

 ほかに、クラスアクションもありますし。

【日弁連平山副会長】ちょっとお時間をいただければ。今の懲罰的損害賠償制度ですが、これは日本で取り入れるとすれば、全く新しい制度ではありますけれども、例えば、ここに書きましたように、労働基準法の附加金の制度がありますけれども、それから、特に不法行為に基づく慰謝料問題について、セクシャルハラスメントなどの賠償なんていうのは、その人が失った利益という考え方ではとても説明がつかない事態に入ってきておりますので、ある意味では新しいこの時代にこういう制度も考えていただいてほしいのです。ただし、賠償額が膨大なものになりまして、非常におかしいということであれば、それはやはり考えなければいけないと思いますが、一定程度の、例えば、2、3倍程度のものを考えるというのは、そういう意味の公平、新しい時代の公平原則にはなるのではないかというふうに思いますので、十分御検討いただきたいというふうに思っております。

【井上委員】その点は、さっきふれられたような賠償額を推定するという制度もあるわけですが、そういう形で、低いと言われている慰謝料を実質化していくという方向の対応では賄いきれないということですか。

【日弁連平山副会長】そういう点も御検討いただいて、今の例えば、セクシャルハラスメントの場合に慰謝料は100万だよというので、もうすべて終わりという感じでは困るわけでありまして、やはり次にまたほかの方にも手を出すというようなことがありますね。そういうことのないようにきちっと、やはりしていくということがいいのではないかと。

【井上委員】予防とか抑止という問題と、実際に被害を受けた方が被害実態に対応しただけの賠償をもらえていない、だから、実質的な公平をはかっていくべきだという問題とは、ちょっと違う事柄であって、両方を一挙に解決するという形でなくても対応できるのではないかという感じもするのですけれども。

【日弁連平山副会長】一緒に対応した方が早いかなという。

【井上委員】手っ取り早いことは確かですけれども、ちょっと乱暴な議論のような感じもするのですね。

【日弁連平山副会長】ですから、全く新しい制度になりますので、これは十分御検討いただいて、これからの時代にふさわしいものを考えていただくということですね。

【曽野委員】皆様はどんどん専門家的におなりになるので、国民の素人の一人として幾つかの疑問点をお伺い申し上げたいんです。

 例えば、今日の論点は「国民がより利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」ということですね。そうしますと、先ほどから、裁判を受ける権利とおっしゃっていたんですけれども、大体私は裁判を増やしたら国は滅びると思っているんです。こんなことにエネルギーを使っていたら生産できません。

 ですけれども、受ける権利があるんだとしたら、まず、みんなが裁判を起こすと、回数が自然に増えますでしょう。回数が増えれば、今、法曹関係者を増やすとおっしゃっていらっしゃいますけれども、当然裁判は遅くなります。それから、増えれば質は下がります、はっきり言って。そんなにいい人がいるわけがありませんから。ですから、どんどん裁判は遅くなり、それから、いよいよ信じられない裁判が増えるということになるだろうと私は思うんですね。

 そして、こういうときにいつもきれいごとが出てまいりまして、あなた方は医療を受ける権利があるとも言われた。その結果、ばあさんたちがみんなせっせっせと鼻水垂らすだけでも病院に行くようになります。それがいけないとは申しません。それは権利だと思いますけれども、やはり医療を受ける権利をやたらに浪費すべきではないということもあると思うんです。

 そういうことを今度のことではお諭しいただけるんでしょうか。私はそういうこと何も答えがないので、どんどん専門家になるので、また国民は何だかよく分からない、皆様方が難しいことをおっしゃっているというふうになると思いますね。

【佐藤会長】ごもっともなところはありますけれども。

【日弁連平山副会長】ちょっと我々が回答するあれではないけれども。

【佐藤会長】その他で何か。

【日弁連平山副会長】それでは私からひとつ。大変、いつも新鮮な御意見をいただいてありがたいと思いますけれども、やはり憲法で裁判を受ける権利というのを32条で決めておりますので、それをどう確保していくかというのは、やはり法律家としては当然申し上げざるを得ないということでありまして、お気持ちはいつもなるほどというふうに思っておりますけれども、やはり法律家とすれば、憲法の下でそれが保障されるという方向にすべての改革は行くべきだというのが私の意見であります。

【最高裁千葉民事局長】大変大きな問題提起で十分には答えられないと思いますが、まず前提に、裁判所の意見ということで書面にまとめてございますが、これは、今日のヒアリングに対する回答をまとめたというだけではなくて、やはり紛争が始まってから決着がつくまで、一つのストーリーとしてつくっております。軽くて楽しい読み物に仕上げてございますので、ページも20ページぐらいで収めておりますので、是非一読していただきたいと思います。

 ここに書いてあるものはどういうことかといいますと、社会ができて、人間がそこで生活をすればおのずと紛争が生じる。それをどういう形で紛争を解決していくか。それがやはり人間の社会の幸せにつながっていくんだろうと思います。

 確かに、たくさん紛争を起こしてたくさん事件を解決をするのがいいのか。例えば、私は最高裁の代表的な立場で来ているんですが、少し個人的な意見を言わせていただきますと、ドイツは非常に訴訟社会と言われている。生活のすみずみまでいろいろ法律がめぐらされてきておりまして、行政事件などは非常に多いわけなんですが、そうするとちょっと何かやるとすぐ行政処分というのが来て、それは争わなければいけなくなる。こういう社会はある意味では法治主義が徹底している社会ですが、それが本当に住みよい社会かという問題はあります。

 ある新聞の記事を援用させていただきますが、例えば、日本では、建築確認申請を出せば、図面が足りなければ図面を追加してください、あるいはこの点が不備だからこの点を書き直してくださいと窓口指導しますけれども、ドイツはすぐ不処分となり、そこで訴訟を起こします。だから、訴訟が非常に多い。そういう社会でも、それがいいかどうかは勿論評価の問題ですけれども、裁判所も非常に事件がたくさん来て、どんどん判決をし、控訴率が6割、高裁で1審の判決が取り消されるのが5割近くという非常な訴訟社会です。これがいいかどうかは皆様がお決めになることですが、要するに、そういう形での紛争の解決方法もあるでしょうし、やはり、よく中坊委員がおっしゃるように、法律は道徳の最低限度のものを決めておりますので、できるだけそういうものを少なくして、しかも効率よく紛争を解決していく仕組みをつくっていくというやり方もあろうかと思います。

 この最高裁のペーパーはどこを目指しているかと言われると、それはよく言えないんですが、現在の日本の法文化、歴史を持った法文化、日本の社会、日本人の国民性、そういったものが前提となって今の司法制度というのはできておりますが、それをただ引き継ぐだけでなく新しい流れも来ております。今までの法文化を大事にしながら、新しいグローバリゼーションの波も来ておりますし、社会も変わってきていますので、そういうものをいろいろ見ながら、より良い紛争解決方法がどこにあるんだろうかということで、20ページの物語にまとめてございますので、これを読んでいただくのが私の答えということにさせていただきたいと思います。

【法務省細川民事局長】民事の訴訟というのは、ある意味では、社会の生理的現象だと思うのですね。いろいろ取引があり、つまり市民社会は取引の社会ですから、そこでその約束を守れないとか、あるいは約束についてのお互いの解釈が違うというのは常にあり得ることです。ですから、それを正常に解決していくことが、他の通常の取引についても、円滑化をもたらすというのが、民事の裁判の在り方だと思います。

 ですから、生じた紛争は迅速に適切に解決するようにしなければならない。そこで適切な解決をなされれば、それが先例となって、訴訟にならなくても当事者間で解決できるということになります。

 一番顕著な例が交通事故でございまして、交通事故の訴訟事件の数は昔はすごく多かったんですが、判例で、ほとんどどういう場合にはどの程度の賠償になるかが決まりましたので、保険できちんと対応できるようになって、紛争もADRで解決できるようなったと思います。

 ですから、そういうことが理想なんで、逆に言えば、生理的な問題を解決する訴訟制度であるべきなんですが、それが権利を実現すること、余りそっちに目が向きますと、かえって濫訴訟を誘発するということがあるんです。

 それで、アメリカなどでは例えば、お医者さんでは医療過誤についての賠償金が、懲罰的損害賠償もあるんですが、非常に高額になっているので、保険でも賄えない、あるいは外科医などは非常に保険金が高くなって、保険金が払えなくてお医者さんを辞めるという例もあるんですね。ですから、それはやはり我が国のこれからの司法制度が目指すものではないんじゃないかと。やはり何といっても濫訴訟というのはあり得るわけですから、それの対策というものは、きれい事ではなく考えていかなければならないと私は思っています。

【佐藤会長】最後に非常に基本的な問題提起がございましたけれども、この問題は、既に従来、ロースクールとかいろいろなところで関連して存在していたわけですが、これからも法曹人口の問題とか、法曹一元の問題とかに関連して議論しなければならない基本的な問題だろうと思いますので、そこでまた御議論いただくことにしたいと思います。今日は、法律専門家の質疑が中心になってしまいましたけれども、事柄の性質上やむを得ないところがあったかもしれません。しかし、私どもは、曽野委員がおっしゃったような基本的なテーマにふさわしい議論もする必要があるのではないかと思っています。

 今日のヒアリングは今申しましたような趣旨でございます。今日は吉岡委員が御欠席でしたが、吉岡委員がいらっしゃったら、まさに消費者の立場からいろいろ御意見が出たのかもしれませんが、時間も参りましたので、ここで一応ヒアリングは打ち切らせていただきたいと思います。よろしゅうございましょうか。

 本当に長時間にわたりましてどうもありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。いろいろ宿題が出ましたけれども。

(最高裁千葉民事局長、法務省房村部長、法務省細川民事局長、日弁連平山副会長退室)

【事務局長】休憩に入りますところで、事務局長としてお願いがあるんですが、先ほど来、ヒアリングに来ていただいた方に直接資料要求をされまして、多分作ってくれるとは思うんですが、その前に事務局を通じて渡しました今までの参考資料、いろいろな資料の中に大分入っておりまして、その中で足りないものを事前に、この分、もう少し詳しくしろとおっしゃっていただければ、事務局の方できちんとのその前にまとめて差しあげるように努力いたしますので、できましたら事務局の方に直接こういう資料を集めてくれとおっしゃっていただければ、もっとスムーズに行くんじゃないかと思いますので、よろしくお願いいたします。

【佐藤会長】それでは、10分休憩します。

(休憩)

【佐藤会長】それでは時間がまいりましたので、再開させていただきたいと思います。

 先ほどの三者に対する質疑応答を踏まえまして。

【髙木委員】その前に一つだけいいですか。

 私、前回最後の方を中座しましたのですが、「裁判官の人事評価の基準、評価の本人開示、不服申立制度等について」という最高裁の事務総局人事局という文書が配付されまして、拝見させていただいたんですが、まだ幾つかの疑問点がありますので、お聞きしたい点のペーパー等をつくらせていただこうと思います。それを会長の方にお送りしますので、また、最高裁の方にそれに対してお答えをいただくようなお願いを申し上げたいと思っておりますので、できたらそのようにお取り計りいただけたらと思いますが。

【佐藤会長】では、髙木さんの方で文書をつくっていただいて、お出し下さい。その段階で考えさせていただきます。

 それでは、質疑応答を踏まえまして各論点につき御議論いただきたいと思います。3枚物の「議事概要抜粋」を配りますので、今までの御議論を踏まえて、議事概要抜粋としてまとめたものでございまして、それを基にして御議論いただければと思います。

 先ほどの中坊委員のお話ですけれども、すごいスピードで走っているわけで、お疲れだろうと思いますけれども、議事日程などを考えますと、やむを得ないところもありますので、御理解いただきたいと思います。

(資料配付)

【佐藤会長】それを参照していただきながら、今日はできるだけ5時には終わりたいと思いますので、30分少々しかありませんけれども、意見交換をしたいと思います。

 この順番でまいりたいと思いますけれども、まず大きな1の「裁判所へのアクセスの拡充」についてでありますが、一応これまでの御議論では、こういうことではなかったかということで事務局でまとめていただいたわけであります。どうしましょうか。

【竹下会長代理】大きなブロックでどうでしょうか。今かなり個別にやりましたので、なお御発言されたいということを言っていただくということで、「裁判所へのアクセスの拡充」を、一くくりでどうでしょう。少し大き過ぎますか。

【佐藤会長】では、まず「裁判所へのアクセスの拡充」のところを御覧いただきたいと思います。

【中坊委員】今日も非常に難しい問題だとは思うんですけれども、最後に「その他」として懲罰的損害賠償制度、クラスアクション、団体訴権などがありますね。これも本来を言えば、その「その他」という位置づけがはっきりしていないところでして、本来言えば、「その他」というのも、基本的に言えば「裁判所のアクセスの拡充」というところに、本来ならつながる議論だと思うんです。

 要するに、より有効な効果のある司法制度、裁判制度というものを求めているわけですから、そういうことによって実効のある訴えができるという意味で、ここに書いてある懲罰的賠償等が全部入っているんで、私としては「その他」として、アクセスの拡充と、訴訟費用、法律扶助というふうに、この程度でいくのではなしに、「その他」というのは本来非常に位置づけがはっきりしていないということになるわけですから、むしろ一番しまいのところに書いてある「その他」というのは、結論はどうなるか別問題として、アクセスの拡充というところへ入れていただいた方が、位置づけとしては一応いいんじゃないかなという気がするんです。

【竹下会長代理】そのように整理させていただきます。

【藤田委員】懲罰的損害賠償はⅠの「民事訴訟の充実・迅速化」に入りませんか。

【中坊委員】そうかもしれない。要するに、「その他」というのは、余り芳しくないから、どこかに入れた方が、そこは適当に考えてもらったらよろしいけれども、とにかく「その他」に置いておくというのはいかがなものかという気がします。

【佐藤会長】日本にとっては新しい問題だったから、こういう形になったんだろうと思います。

【中坊委員】ちょっと権威がなさ過ぎるからね。

【竹下会長代理】付け足しみたいになる。

【中坊委員】そうそう。だから、どこかに本籍地をつくってあげる。

【佐藤会長】竹下代理、まとめのときにお考えいただきたいと思います。

 では、もう全体をやってしまいましょう。必ずしもこだわりません。もう30分くらいしかありませんし、どこからでもどうぞ。

【藤田委員】弁護士費用の訴訟費用化の点ですが、やはり裁判所の裁量で負担させるかどうかを決める、負担させるとして、どの範囲で負担させるかということを裁量的に判断するというふうに少し柔軟に対応できるようにしておかないと、困ることがありはしないか。裁判所の裁量に任せるのは反対だという考え方もありますが、実際に片面的訴訟費用負担にするとか、こういう訴訟類型はこうすると言っておくと、個々の訴訟では、これではまずいということがどうしても出てくると思うんです。ですから、何らかの形で、ある程度裁量の幅を置いておかないと、実際の事件の処理で困ることになりはしないかと思うんですが。

【竹下会長代理】一応基準は決めて、個々のケースによって、それでは著しく不相当な場合には裁判所は負担させないこともできると。そういうやり方の方がよろしいのではないですか。

【藤田委員】安全弁的なものですね。

【鳥居委員】アメリカへ行って裁判したり、イギリスへ行って裁判したら、訴訟費用というのはどういうふうに負担させられるんですか。さっきの話ではよく分からなかった。

【竹下会長代理】弁護士費用ですか。

【鳥居委員】提訴手数料と弁護士費用と両方です。

【竹下会長代理】アメリカの場合には、提訴手数料は原則的には定額です。150 ドル。

【鳥居委員】それはもし民事訴訟であれば、原告が先に払うわけですか。

【竹下会長代理】はい。提訴手数料については、私もよく知らないのですが。弁護士費用は自己負担です。

【事務局長】今日お配りしておりますものの5ページで、アメリカが定額制で一律150ドルです。

【竹下会長代理】資料3です。これはそのとおりなのですが、これは訴訟費用の一部だから、勝っても負けても原告負担ということですか。

【事務局長】訴訟費用のアメリカにつきましては10ページに。

【竹下会長代理】普通弁護士費用だけが議論されているものですから、申立手数料がどっちになるかというのはちょっと調べたことがありません。

【事務局長】アメリカにつきましては5ページと10ページに一応のまとめをしております。

【竹下会長代理】この150ドルを最終的にどっちが負担するかということなのです。大した金額ではないのですけれども、理屈としては問題になりますね。訴訟費用だから、原告の負担と。

【水原委員】それは提訴手数料で、鑑定料だとか何とかは訴訟費用とは違うでしょう。

【竹下会長代理】主要な弁護士費用については。

【水原委員】それは分かりました。

【中坊委員】原告負担でしょう。訴訟費用は、判決でどう言っているのか、私も知らぬけれども、少なくとも最初はね。

【竹下会長代理】最初は原告が納めることは間違いない。

【中坊委員】原告の負担じゃないかな。その代わり150ドルに決めてあるんですね。

【藤田委員】ディスカバリーに膨大な費用が掛かるというのは、さっきの千葉局長の説明だと、タイムチャージが大部分のように受け取れましたが、そうすると、それも弁護士費用になるんですね。

【山本委員】日本と同じように、訴訟費用の支払いという請求をするんじゃないですかね。

【藤田委員】損害としてですか。

【山本委員】ええ。原告が。違いますかね。

【水原委員】訴訟費用の中には、証人の旅費・日当とか、鑑定人の旅費・日当、鑑定料、こういうものが含まれるわけですね。それはどうなるかということは、ここの資料に出ておりませんね。

【鳥居委員】日本を舞台にして、訴訟をやるのは日本人対日本人じゃない可能性がどんどん増えているわけだから、そのときに今、藤田さんがおっしゃったように、裁判所がある程度の裁量でもって決めて、あなたこれ幾ら払いなさいと。こっちで持ちなさいと言ったときに外国の、特にアジアの人たちなどが相手だった場合に、冗談言うなという話になったら困ったことになる。

【中坊委員】大体向こうの方は敗訴者負担ですね。

【竹下会長代理】東南アジアですか。

【中坊委員】アメリカの方。

【竹下会長代理】アメリカは各自負担です。

【中坊委員】実際はですよ。

【竹下会長代理】それは弁護士費用ですね。

【中坊委員】私は実際にやられたですよ。破産管財人で、裁判は勝ったんですけれども、最初はあれで損害賠償を請求したら何十億という金、150ドルで起こせるから、グァム島で破産会社の豊田商事がやられたんです。しかも私はその破産管財人です。250億か何かの裁判をやられたんです。それで私らは勝ったでしょう。そうしたら、それに要った費用が全部もらえるんです。だから、実際に行った人から、弁護士さんに払った費用を全部返してもらったんです。だから、アメリカは少なくとも、今あんたが言う弁護士の費用から全部いただきました。

【藤田委員】それはグァムだけじゃないですか。

【中坊委員】アメリカだから。

【藤田委員】グァム州とか。

【竹下会長代理】それは特別の場合だからですよ。アメリカは原則は各自負担です。とくに法で決まっている場合だけが敗訴者負担だと言われています。

【中坊委員】そういうのがありました。

【佐藤会長】10ページに「連邦・州いずれのレベルでも弁護士費用の敗訴者負担を定める制定法が数多く存在する」と書いてある。

【竹下会長代理】それは個別に書いてあるのです。100 くらいあるという話ですが、個別に書いてある筈です。そのうちの一つだったのでしょうね。

【北村委員】私、今何をやっているかがよく分からないんですが、議事概要抜粋というのは、今までの議事概要の抜粋ですね。これについて今日ヒアリングをして、ヒアリングの結果、これが変わるかどうかということを述べればいいんですか。何を言うんですか。

【佐藤会長】何事かを付け加え得るかと。

【北村委員】それなら付け加えることがあります。

【佐藤会長】変わるということはあり得ます。一応認識が一致というのは、これも従来の議論ですが。

【北村委員】それはいいんですけれども、付け加えることがあります。

 2ページ目のⅢの「専門的知見を要する事件への対応」なんですが、確かに今までのヒアリング項目の中には、知的財産権とか労働関係ということで、私、これはただ単に例として挙がっているんだというふうに理解していたんですけれども、そういう理解でよろしいんでしょうか。

 それとも、専門的知見を要する事件というのは、この二つだけだという意味なんでしょうか。

【佐藤会長】そうじゃないです。

【竹下会長代理】専門的知見を必要とする事件というのは、理論的に言えばいろいろあり得るのですけれども、ここでは論点整理以来、知財関係と医療訴訟と建築紛争、それから労働紛争を主として念頭に置いて議論をしてきたわけです。ですから、これまでも専門的知見を要する事件として、議論の対象になってきたのはその4つの種類のものだということです。

【北村委員】私はその4つに限定されないのではないかと思っているんです。そこのところを、これだと何か限定されてしまうのかなというような感覚を持っています。

 あと、ここに「専門参審制など専門家の取り込み」ということで、「など」の中に何が入っているかというのが、ここではよく分かりませんけれども、ここのところを、今日のお話を聞いていまして、もうちょっと広がりを持たせてもいいのかという感覚を持っています。例えば、最高裁がおっしゃった専門委員というような、あれなどはちょっと参考になるのかなと思われます。

 もう一つ、ここで「弁護士の専門化等」という、この「等」の中には弁護士以外の法曹人の専門家が入っているのかどうなのかなんですけれども、やはり弁護士だけが専門化しても、私は裁判官も専門化しなければならないでしょうし、検事の方も、これは民事だから検事が入っていないという解釈ですね。それだったら裁判官の専門化というようなこともきちっと対応すべき事柄なのかというふうに思っています。

【井上委員】一番最後のところの専門化等というのは、専門化ということだけでないという、そっちの方の「等」なんでしょう。

【北村委員】最後のは、弁護士の専門性を強化する必要があるということでしょう。ここに書いてあるのは。

【井上委員】専門化ということ以外のことも書いてあるという趣旨なのか、弁護士の専門化ということ以外に裁判所の専門化も入っているのかということです。

【竹下会長代理】裁判所の専門化は、前のところの議論で出ていたわけです。それぞれの知財関係事件とか。

【井上委員】そうしますと、ここの「専門化等」というのは、専門化だけではなくて、例えば共同化とか法人化とか、そういうことも入っているということですね。

【北村委員】だけれども、裁判官自身も専門化していかないと。

【竹下会長代理】それはおっしゃるとおりです。

【北村委員】そういうのはどこに入っているんですか。

【竹下会長代理】項目としては出ていないのですが。

【水原委員】読み方によれば、Ⅲの「知的財産権関係事件への対応強化」の中に、裁判官のを含めるのかと。

【佐藤会長】それだったら検察官だってそうです。

【中坊委員】裁判所の管轄の中で、知的財産権だけは大阪と東京でやったらどうだということが言われていましたね。そこには専門の裁判官がいると書いてあるんだから、これだったら4.の「裁判所の管轄・配置等」に入るのかもしれないし、今、確かに北村さんのおっしゃるように、これはちょっと抜けていますな。議論では出ていましたところですからね。そうかどうかは別問題にして、とにかく、日弁連と意見は違っていましたけれども、高裁管内に一つとか、とにかく全国の裁判所に平等でどこでもできるということではなしにしようというのが、どちらかと言えば、管轄のところでその問題が出ておったんですね。

【北村委員】ですから、これは今日の議事概要が入っていない議事概要の抜粋なんですね。今までに入っていたかどうか記憶がちょっと定かではないんですけれども、今日の議論は入っていないわけですね。

【井上委員】今の御発言も後で入るのですよ。

【北村委員】これで入るんですか。では、今日のを全部思い出してここに入れていかないと駄目なんですか。

【佐藤会長】今日はそれぞれお気づきになったところをおっしゃっていただいて、それを元にして竹下代理に全体をまとめて、27日に全体をもう一度お掛けします。

【竹下会長代理】ユーザー側3人の方と御相談して、まとめを出しますので。

【事務局長】この「議事概要抜粋」と言いますのは、今までの議事概要にはここまでしか出ていませんということでございますので、今度まとめの段階でいろいろなところを次回入れたものを会長代理がおつくりになるだろうと思っております。

【竹下会長代理】伺いたいのですが、先ほど専門訴訟、あるいは専門的知見を要する訴訟とは、その4つに限られないだろうとおっしゃいましたけれども、例えばどういう訴訟を考えておられるのですか。

【北村委員】私は先ほどから言っていますように、金融関係とか。それは非常に今は大きいと思っています。

【竹下会長代理】そうすると、場合によると、専門委員ですね。先ほど最高裁が言っていた、そういうものを、その種の訴訟にも配置するということは考えられるということですね。

【北村委員】はい。

【鳥居委員】できるだけ広い表現にしていただく。税とかいろんなものが、デリバティブは実は税に関係しますから。

【竹下会長代理】そうですね。現に租税関係訴訟については今も調査官がおりますから。

【佐藤会長】ほかにお気付きの点、いかがでしょうか。

【竹下会長代理】この民事訴訟の充実、迅速化、これが国民の立場からすると非常に重要な項目だと思うのですけれども、前から申しておりましたように、計画審理というものが一つの決め手になるかと思うのですが、それについて先ほどは必ずしも十分に議論が出なかったのですが、もう少し御意見を何か聞かせていただければと思います。

 それから計画審理だけではなくて、その次の裁判手続の多様化についても、前回山本委員がおっしゃっておりましたですね。先ほどは何か証拠収集の話にだけ議論がいってしまったように思います。

【中坊委員】ただ、竹下さんのおっしゃっていただいているその話は、非常にデリケートだと思います。私の言葉で言えば現在の官僚裁判官が裁判をされる場合の状態というのと、まさに法曹一元が実現して裁判官に良識ありきの状態になったのでは異なる。法曹一元になってくると裁判制度が、裁判官に調査官みたいなのがみんな付いているんですね、一人ひとりに。そういうふうにして、何人か付いてきて、その裁判官を支えておって成り立っておるように聞いているんですね。地裁でも。

 そういうふうな、担い手問題というのと、制度問題っていうのとは、本当に密接に関係していますから、今おっしゃるように計画審理というのも確かに一つの方法だなとは思うけれども、それが即迅速にさせたり、いろいろ適正にやったりやることのすべてではないわけですね。だから、むしろどちらかと言えば、人的なインフラがどうなるのかによって、その上で制度が問題になってくるんで、制度だけ先に計画審理ですよって言ったって、その前提がどうなっているのかということが、私たちとしては分かんないから、それは計画した方が、無計画よりも計画の方がいいなという意味で、私たちはこれで結構ですと言っているだけで、本当に計画審理をやるんだったら、どういうところに計画審理が入ってくるかっていうことが問題になる。

 だから、我々としては、これは正直言って今日示されたこの議事概要が、私たちのすべてを非常に拘束するとなると、北村さんの心配されるように、どう書いてあった、ああ書いてあったかっていうのを、ものすごい見なきゃならないことになってくる。だから、我々としては本当に心覚えとして、こういうふうに書かれているんだと心得ておけば、それほど今ここだけをこう切り離して、ここでこう決まったという問題じゃなしに、むしろどちらかと言えば、今までのこの審議というのは、大変失礼な言い方かもしれないけれども、みんなが一種の勉強会みたいにして、しかし、ただ単に漫然と聞いてたんじゃなしに、こういうようなことだなということで聞いてましたという心覚えとして理解していただいて、前へ進めていただくのがいいんで、迅速な裁判は、すべてここに書かれているだけというじゃないと思うんですね。

【竹下会長代理】それはおっしゃるとおりですが、それから中坊委員のおっしゃる御趣旨は分かりますけれども、しかし法曹一元の問題は、日弁連の案でも10年先というお話ですね。一方で我々が責任を持って提言しなければならない問題は、今すぐに実行に取り掛かるべき問題と、かなりのタイムスパンを置いてやるべき問題とあると思うのです。法曹一元の方は、10年先と言っていますけれども、訴訟を迅速化してほしいというのは、今、すぐやってほしいという要求ですから。

【中坊委員】いや違うんですよ。

【竹下会長代理】ちょっとお待ちください。ですから、それは法曹一元が実現してからでなければ考えられないというのでは、議論にならないと思うのです。

【中坊委員】そうじゃないんです。法曹一元と言えば、そもそもロースクールのところから法曹人口からみんな関係してくるわけです。だから、10年先、ある日突然今まで違ったものがぱっと、10年目にぴたっと変わるっていうんじゃなしに、ロースクールができて、法曹人口が大幅に増えてきて、当事者主義の審理になってきて、変わっていくわけですから。だから、それと並行して計画審理がいくというわけだから、今おっしゃるように計画審理ということだけを切り離して、10年先になるんだから、それまでの間は全然違う裁判が行われて、10年目に何かがちゃんと変わるというんじゃなしに、まさにロースクールのところから、研修から、修習から、弁護士の在り方から、みんなが変わってくる中において、これから変わっていくわけですから、だから10年先に突然変わるわけじゃないんですよ。

【佐藤会長】要するに、中坊委員がおっしゃりたいのは、個別的なところを余り具体化しちゃうと、そこだけ固めてしまうようなことになると、少し問題なんじゃないかということでしょう。個別の論点に余り深く入り過ぎると問題ではないかと。だから、今の計画審理についても、代理がおっしゃりたいのは、中身について何か少し意見があればおっしゃってくださいっていう程度でしょう。

【竹下会長代理】そうです。

【山本委員】審理期間がとか、そうじゃなしに。

【竹下会長代理】そうです。

【藤田委員】今、中坊さんが言ったように、担い手がだれになろうと、計画的な審理をした方がいいことは間違いないんで、バージニア州とか、イギリスのファスト・トラックとか、法曹一元を取っている国でも、そういうような形での審理の工夫をしているんだから、どうあるべきかという形での論議はいいんじゃないですか。

【中坊委員】そうそう、だから一つとして、こういうふうに書いてあるんだから、それでよいのであって、今、竹下さんがおっしゃるように、それしかないかと言われると、何かひっかかるわけです。

【山本委員】イメージがわくようにということですね。

【竹下会長代理】そうです。

【中坊委員】だから、計画審理と言えば、大体イメージが分かるんじゃないですか、と私は思っているんだけれども。

【竹下会長代理】そうでもないのではないですか。

【中坊委員】そうですか。

【竹下会長代理】水原委員は、前回のときにやはり期限を区切った審理のやり方というものも考えるべきだという御意見を言っておられましたし、山本委員もそういう御意見を言っておられますからね。

【中坊委員】だけど、それが全部ひっくるめて計画審理というものと違うんですか、私はそう理解しているんだけれども。

【竹下会長代理】計画審理という場合に、現在やっているのは、別にそういう期間を決めずに、法律でですね。両当事者の意向を尊重しながら、裁判所と両方の当事者とで、どういう審理の計画を立てましょうということでやっているわけですね。ですから、それが原則として1年以内であるとか、2年以内であるとかということを決めているわけではないのですね。

【藤田委員】私のイメージとしては、計画審理の対極にあるのが、今までさんざん批判の対象になっていた漂流型審理というもので、主張が十分固まらないまま、まあとりあえず原告の言うことを聞いてみましょうかとか、それじゃこれかなと主張を整理して、証人に聞いたら、また違ってきたという、そういう漂流型審理ではいけないんです。これはだれがやってもいけないんです。だから、そういう意味での計画的な審理、この間お話した民事訴訟法学会で大阪の坂本判事が紹介したような計画的な審理というやり方は、まさに審理のあるべき姿です。計画審理の具体的な内容として、審理期間について100 日裁判のような規定を設けるかという方策もあると思います。だから、そういう意味では、漂流型審理がいけないというのは、誰がやるにしてもいけないということなんだと思うんです。

【中坊委員】だから、その程度で今日、ここのところはいいかじゃないかという気がするんですね。

 だから、これは私に言わせたら、弁護士の在り方も今の日本の裁判というのは、要するに、後は裁判官がちゃんと上手に釈明してやってくれるというようなもんで、とにかく訴状だけ出すというやり方ですから、もう弁護士の在り方自身が変わってこないと、今回の司法改革はうまくいかないわけですよ。

 だから、私の今、思っているイメージと言えば、その中としては、訴訟の進め方としては、今の藤田さんの言う漂流型審理から計画審理に変わっていきますと、それは当事者が主導性を持ってこうします、ああしますと言える。そのためには、またディスカバリーみたいなことが問題になってくると。そういうふうにみんなが有機的に決まっているんだから、ここでは少なくとも訴訟の進め方については、今おっしゃるように計画審理というふうにおっしゃっていただければ、もうとにかくこれが到達すべき課題として、現状からここに変わらなきゃいけないということは、これで分かっているんじゃないでしょうかっていうことを、私はくどく言っているんです。

【竹下会長代理】それは、法律家、専門家ですから、今お分かりかもしれないのですが。

【佐藤会長】中間報告段階で、全体にわたって少し具体的なものはやはり書き込まなきゃいけないと思う。それから、最終報告の段階で更に書き込むことになるかもしれません。それは、全体を議論した上で、そうなっていくからで、ここだけ少し個別的に入り過ぎますと、中坊委員の御懸念のようなこともあるかもしらぬので、この段階のまとめ方ではその辺でよろしいんじゃないですか。

【竹下会長代理】勿論そうです。ただ、今、扱っているこのテーマにつきましては、我々の審議予定では、さらに審議する機会が中間報告までの間にないのです。次回しかありません。ですから、27日に私が3人のユーザー側の委員と御相談しながら、これまでの議論をまとめたようなものをお出しするということになっていますが、その場合に皆さん方の御意見を伺っておかないとまとめようがないわけです。ただ、計画審理をすることというだけではですね。それで、何か御意見があれば伺いたいと思いまして、申し上げているのです。決してここでがちがちに固めてしまって、家を建てるときに、まず窓からつくるというようなことを言っているわけではありません。

【佐藤会長】それでは、この程度でよろしいんじゃないですか。計画審理について、こういう方向で議論すべきだというようなことがあれば、おっしゃっていただいておくのもいいと思いますけれども、これまでの議論と今日のヒアリングの過程で、イメージとしてどんなものかがかなり描けているんじゃないかという感じもしますんで。

【竹下会長代理】次回に出しましたときにまた、御意見を言っていただくことは一向に構いません。

【鳥居委員】今の蒸し返しになってはまずいのですが、私はよく具体的イメージがまだ沸かないんですが、計画審理と言ったときに、従来の日本の裁判所の構造で考え続けるのか、それともそこにアメリカの場合のように、パラリーガルとかロークラークとか、いろんな人が参加していく形で考えるのかで随分違うはずですね。そこのところは、場合によっては、二つのイメージの並記とか、いろんな書き方がある得るように思うんですね。

【竹下会長代理】問題によってはそういうことがあり得ると思いますね。

【鳥居委員】いや、この計画審理について。

【竹下会長代理】計画審理についてですか。

【佐藤会長】具体的な進め方になればね。

【鳥居委員】そうです。それを、従来の日本の裁判所のイメージだけを固定して、我々の答申を書いてしまうのは、どんどん自分で手足を縛っていくような気がしますけれどもね。

【竹下会長代理】例えば、専門的知見を要する事件については、今日も話題になった専門委員というようなものを入れて計画を立てるのか、それともそうではなくてというのは、おっしゃるように違いが出てくるだろうと思いますので、そこらはそれぞれに応じて柔軟に考えたいと思います。

【佐藤会長】さっきの繰り返しになりますが、全体の担い手の問題、Bのところはやらず、Aしかやってないんですけれども、全体を議論し、全体の報告を書くときに、どの程度それぞれ肉付けをするのかということは、最後の段階で出てくるということだろうと思います。

 ただ、しかし、計画審理は大事だ、必要だということは、これは皆さん全く御異論のないところでありまして、その具体的な中身がどういうものかについては、これまでのヒアリングでも議論の中でもいろいろ出ているわけですから、中間報告の段階で具体的に書けるところは書く、ということだろうと思うんですけど。

【竹下会長代理】そうですね。

【鳥居委員】もう一ついいですか。どこに該当するのか分かりませんが、訴訟の迅速化、具体的にこういうふうに出ているんですが。2ページの下から3分の1、専門参審制のところにまたまたそういう言葉が出るわけですが、これはよく考えてみると、医療過誤を例に取りますと、この議論というのはほとんどが民対民の医療過誤事案を想定しているわけですね。同じ麻酔で植物人間になった事件が起きたとしますね。国立病院だったら、突然これは、民事の世界ではなくなっちゃう。全く扱い方が違っちゃうのが現実ですね。

【竹下会長代理】国家賠償というような話になりますね。

【鳥居委員】そういう世界に入りますね。あるいは、公立病院であれば都道府県が相手になりますね。突然ここに書いて想定しているような、専門家を導入する、参審制を導入するどうこうすると言ったって、結局は行政訴訟になっちゃうんですね。

【竹下会長代理】そうではなくて、それは国家賠償の問題です。

【佐藤会長】構造的には同じことじゃないんでしょうか。

【鳥居委員】いや、実際は違います。

【佐藤会長】そうですか。

【鳥居委員】つまり、同じ医療過誤で災いを受けた人の問題解決における扱いはまるっきり違いますね。それは、どういうふうに考えたらいいんでしょうか。それが私の質問なんです。

【竹下会長代理】訴訟のレベルで考えるときには、そう基本的な違いはないのではないでしょうか。国家賠償の形を取るか、不法行為に基づく損害賠償の形を取るかという違いですね。

【鳥居委員】そうですか。

【竹下会長代理】実際には病院側がどういう対応をとるかというようなことについては、これはプライベートな医療法人と国の国立病院とでは、先生がおっしゃるように違いがあるかもしれませんが、訴訟で扱うという限りにおいては、やはり行政裁判ではなく、国に対する損害賠償請求です。いわゆる行政訴訟ではないのです。

【佐藤会長】それは、基本的には普通の損害賠償ですね。

【中坊委員】実際、私がやっているから分かるんですけれども、県とかああいうところになりますと、保険に入ってないんです。また、入れないんですかね。だから、今、鳥居さんのおっしゃるように、現実には議会がチェックするんですね、だから議会のチェックを受けるということになって、保険金では賄えないから、それは確かに実際の裁判進行としては、鳥居さんのおっしゃるように民間の保険で賄っているとこと、国とか、地方公共団体の附属病院とは、確かに裁判の仕方は違うけれども、学問的に言えば確かに普通の民事訴訟、不法行為による損害賠償であることは間違いない。国家賠償であれ何であれね。だから、行政訴訟に変わるということではないと思います。

 しかし、確かに鳥居さんのおっしゃるように、実際の扱いはいろいろ、そこの差が違ってくるからね、これはかなり違いますけれども。訴訟法的に言えば、やはり一般の民事訴訟法、国家賠償であっても、一応そういう形になると思いますけれども。

【鳥居委員】パテント・トライアルも同じで、国の特許というのが相手だったときは、我々民間人から考えると、感じが違いますね。

【中坊委員】それと、先ほど建築基準法の話が出たでしょう、裁判所ね。しかしね、建築研究所というのが、国立のものがあるんです。御存じかどうか知りませけれども、現実にああいう建物の問題などは、建設省建築研究所いうのがある。建設省建築研究所というところが、一旦鑑定してみなさい、もうどなたといえども、日本国中のどんなとこといえども、一切それに逆らう鑑定は出ないんです。どこの国立大学でも私立大学でも、建築に関係しているもんならね、一つも出ないんです。出せないんだから。どんな付属会に行こうが。建設省建築研究所というところの鑑定が出れば、これはどなたもやらないです。これはもう事実です。だから、今おっしゃるように、私は鑑定だとか何とかおっしゃっても、実務的に言えば、そんなもん現実に、全然出ないんです。建設省建築研究所を出て、その所員がぱっと変わったら、それ東大の助教授です。その程度の権威があるんです。そうすると、それが計算間違いしていらっしゃって、ところがそんな原始的なミスを指摘する他の鑑定が全然出ないんです。だから、本当に今、鑑定とか専門家とかおっしゃっても、私は本当にいろいろな問題はあると思いますよ。

【竹下会長代理】分かりますけれども、個別のケースをいろいろ言われても、それはちょっと対応できないですね。

【中坊委員】個別のケースと言われるけれども、我々は制度として考えていくときに、鑑定といったらみんな専門家でいい人が出てきて、こうだって言われるけれども、現実の世界は、それだったら先ほど建築研究所について、建設、建築のことはどうだとか、先ほど裁判官も言ってましたでしょう、その人は恐らくその具体的事実は知らないですよ。だから、そんな実態というものがいろいろあるということを、我々は踏まえとかないといけないということを言っているだけです。

 しかし、現実にそうですよ。建築のことに関しても。

【藤田委員】私は、かつて総理府にいたとき事件処理について建築研究所と接触ありましたけれども、そこの研究員だってやはり東大の助教授になると教授には頭上がらんわけですからね。やはり、建設省の各種審議会には、各界の一流の学者が来ていますから、やはりそれぞれの実力次第です。

【中坊委員】だから、ここで議論しても、雑談のようなものですけれども。

 しかし、さっきから言うように、いろんな見方があるということを言っているんです。

【佐藤会長】その種の議論は、また。

【藤田委員】専門委員のことについて議論がありましたが、公害紛争処理法に専門委員という制度があるんです。私が公害等調整委員会にいたときに、早稲田大学の理工学研究所の古藤田教授という、世界的な土壌力学の権威に専門委員になっていただいて、富山市のビルの建築工事で隣のビルが地盤沈下で傾いたという事件でしたが、担当していただいたんです。現地へ一緒に行っていただいて、現場を見て、そして土壌力学のイロハから教えていただいた。裁判所の知財事件でもそうですけれども、特許庁から調査官が来ていますが、専門的な問題を双方の代理人、補佐人の弁理士も入れたところで、検討会をやって、主張整理なり争点整理なりを詰める。さっきの地盤沈下の事件では、専門委員に、いろいろ調査もした上で意見書を出していただきましたけれども、それは証拠資料として当事者双方にさらしますから、反証を挙げる十分な機会を与えている。ですから、参審員として評決に加わらせるかどうかというのは、憲法上の問題もあるし、検討しなきゃならんかもしれませんけれども、専門的な知見を必要とする事件に、専門家に入ってもらうということは、適正、迅速に判断するのにプラスになるということを現実に体験しましたので、そのやり方を問題が起きないようにすれば、非常にいいことなんじゃないかというふうに思います。

【佐藤会長】もう5時まで10分しか残っていませんので、今のように御議論は、またそれぞれの箇所で是非提起していただいて、それを踏まえて最終的な文章とするということにしたいと思います。

 代理には27日までおまとめいただかなければならないのですが、今日のこの段階で特に、この点確かめておきたいというようなことがございますか。

【竹下会長代理】特にはございませんが、これはもう今更申し上げるまでもないことですけれども、知財事件については、先ほど千葉局長も言っておられましたし、前から鳥居委員も言っておられますように、これは経済的な面での国際競争力の問題でもあるし、今や司法の国際競争力の問題にもなっていると思います。そこで、最高裁のペーパーにちょっと出ておりますように、特許裁判所あるいは知財裁判所という特別裁判所をつくるわけではないけれども、実質的には東京、大阪の専門部というものが、そういう知財関係の特別裁判所に代わるものだという認識で、この問題をとらえていく必要があるだろうと思います。

 我々が、最終的な提言を書くときも、やはりそういう視点からとらえる必要があるのではないかというふうに思いますので、それだけちょっと付け加えさせていただきます。

【中坊委員】私が別に弁護士会だから言うわけじゃないけれども、うちのところは高裁の管轄も言っていたんだから、東京、大阪だけでよいのかどうか、今おっしゃるように何もかもここでこう決まったと言われると、さっきから言われるようにいろんなことが出てくるから、それはそういう物の考え方だというのでしてください。

【佐藤会長】水原委員も、前回おっしゃいましたね、専属にしちゃうのはどうかって。そういう議論もあるし、今日の弁護士会も言っているわけです。ただ、他方、専門性を強化する、専門部のようなことを考える必要があるということは、御異論のないところかと思います。

【髙木委員】今の議論聞いてて気になるんだけれども、例えば、今日の法務省の労働裁判所に関する表現なんか見てて、あれは今日御意見を承ったということなんで、あれについての議論を別にきちんとしたとは思ってないんです。そういう意味で、例えば労働裁判所みたいなのを構想したらどうかという意見を私は持ってきているんですが、その御議論にここで結論ついちゃったなんていうことではないでしょうね。

【竹下会長代理】いいえ、そういう形のまとめをするつもりはありません。それに、まとめには、髙木委員にも入っていただくことになります。

【髙木委員】私、次回どうしても出れないもんですから、帰ってきたらびっくりするものになっちゃってたら。

【竹下会長代理】労働関係事件には、私も関心を持っていますから、そのようなことはありません。

【髙木委員】どうぞよろしくお願いします。

【佐藤会長】それは、不意討ちにならないように留意しますから。

 では、今のような形で。どこまで詰まったのかは、何ですけれども。これを御覧になって、認識が一致したっていう辺りは、深く入ったらいろいろ議論が出てくるんですけれども、理論的な枠組みとしては大体御異論ございませんか。

【中坊委員】これからまとめて、さっき北村さんがおっしゃったように、今日の話がまた入るんだから、これがこの次に出てくるわけでしょう。

【佐藤会長】はい。

【中坊委員】そう理解して、そういう意味なら結構です。

【佐藤会長】では、これを基にして、今日のヒアリングを踏まえ、更にただいまの御議論を踏まえて、先ほど代理もおっしゃったんですけれども、髙木、山本、吉岡、各委員とも御協議いただいて、ペーパーをとりまとめていただき、27日に、一応のこの問題についての我々の考え方の骨格をとりまとめたいというように考えておりますけれども、そういうことで進めさせていただいてよろしゅうございますか。

(「はい」と声あり)

【佐藤会長】どうもありがとうございました。それでは、この件は以上で。代理、御苦労様ですが、よろしくお願いします。

【竹下会長代理】はい、分かりました。

【佐藤会長】次の議題に移りたいと思います。文部省の検討会議の検討状況などについて、井上委員の方からよろしくお願いします。

【井上委員】時間がありませんので、ごく簡単に御報告します。まず、先日御報告しました5月30日の第1回会議の議事要旨ができ上がり、こちらに届けられてまいりましたので、お手元にお配りしてあります。御覧置きくださればと存じます。

 それに引き続き、第2回の会議が6月7日に開かれまして、今後のスケジュールを確定しました。これもお手元にいっていると思いますが、相当きびしいスケジュールになっておりまして、個人的には閉口しておりますが、重要な事柄ですので、夏休みを投げ打って出席しようと考えております。ほかの3人の委員の方々も、できるだけ出ていただけるということです。

 この2回目の会議での議論の内容につきましても、また議事要旨がもうすぐ出てくると思いますので、それを御覧いただければと思いますが、当審議会から申し送りました検討に当たっての基本的な考え方というものを念頭に置きながら、各方面での議論も参考にしまして、この検討会議において取り上げるべき項目というのを、伊藤眞委員の方で整理をされまして、大くくりに11項目ですが、その案が示されました。それを基に全員で議論をし、その項目を確定すると同時に、それをどういうスケジュールで、どういう形で議論していこうかということを話し合って、一応の意見の一致を見ました。

 その各項目の内容は、こちらから申し送った事項にほぼ対応しているのですけれども、最初にこちらから申し送りました基本的な理念ですとか、核になる事項ですね、それを一応確認するところから始めまして、次に、そういう法曹養成のための法学教育あるいは法曹養成教育を担うのはどこなのかという主体の問題。

 そして、それと連動する事柄ですけれども、法科大学院における教育の修業年限をどの程度にするのかという問題。

 また、どういう人をそこに受け入れて、どういうふうに教育していくのかということで、入試の在り方。これには法学部との連動の問題もからむのですけれども、入試の在り方というものを考えないといけない。そういうことから始まりまして、最後は司法試験との連動の問題ですとか、実務修習との関係というところまで、11項目くらになるということです。

 各項目の内容は、整理したものを追って届けてもらうことになっておりますので、次回にでもお配りするつもりです。

 検討の進め方としては、先ほどのスケジュールで7月の初めの第5回くらいまで、4回ぐらいかけて、それぞれの項目を、主として大学関係の委員が分担をして、より細かな論点整理をした上で報告をし、それを基に全員で幅広く議論をする。それを踏まえまして、7月の末ぐらいまでに大枠といいますか、骨格についての考え方をまとめられればまとめて、それをこちらの方に一応報告していただき、8月の当審議会の集中審議で議論をしていただく。それをまた向こうの方に持っていきまして、それを踏まえて更に細部にわたった具体案をつめていって、期限である9月の末までに案をまとめる。そういうスケジュールで進めることになりました。

 それに引き続きまして、早速、まず基本となる理念ですとか、骨格となる事項を確認するということ、これは、我々の方から申し送った事項を確認しただけなのですけれども、それを踏まえまして、どこが主体になるのか、法学部との関係はどうなるのかというところについて、伊藤委員の方から更に突っ込んだ論点整理を示していただいて、それを基に議論をしました。

 議論の中身をごくごく簡単に申しますと、法科大学院というものを新たに設けるわけですから、一応法学部とは独立の完結的なものとし、受け入れもオープンなものにしていく。そういうことを基本にしながら、ただ、法学部出身者もいるわけですので、法学部で教育を受けた人をその中でどういうふうに扱っていくのか。そういうアプローチの仕方をするという考え方が一方にある。

 他方、法学部が存置されますので、現実的にはそこの出身者がかなり多くを占めるだろう。そのことを考えると、そことの連動といいますか、法学教育の役割分担というのをきっちり決めてやった方が、効率的で効果的である。それを一つの柱にしながら、しかしオープンなものとし、ほかのコースから入ってくる人に、いかに公平に教育を与えられるのかを考えていく。そういうアプローチをすべきだという意見がある。

 このように重点の置き方の違いといいますか、どちらを基本にしてアプローチしていくのか、そういうところで意見が2通りに分かれたのですけれども、実質においては、どちらかだけを取るということは適当でないという点では一致している。その意味で、実質においては2本立てなのですけれども、制度の組立て方として、どちらを基本にしてアプローチしていくのか。そういうところでかなり突っ込んだ議論がなされまして、別に結論が出たわけではなく、次回、入試の問題を議論する予定ですけれども、これとも密接に結び付いてくるものですから、更に引き続いて議論をすることになりました。

 最後に、前回宿題になっておりました各方面から幅広く意見を聞くということにつきまして、法学部や法学系学部を持つ大学には調査票を送付して意見を求めるとともに、それ以外の人や団体についても、文部省のホームページ上で告知といいますか、こういうことについて御意見をお聞かせくださいということをお知らせし、また、この後の記者会見でも、マスコミの方にお知らせをして、幅広く意見を求める。そして、それをも踏まえて、検討を進めていくということになりました。

 今、お配りしたのがマスコミの方にもお配りする予定のものですけれども、そこにホームページのアドレスが書いてありますが、こちらにアクセスをしていただければ、こういう項目について、こういう書式のようなもので意見募集しているということが分かるような形にするということになった次第です。

 以上です。

【佐藤会長】どうも御苦労様です。鳥居委員、何か。

【鳥居委員】もう一つ付け加えさせていただければ、先生方のお手元に第1回の議事要旨というのがありますが、井上先生が説明をまずされたんです。2ページの上から6番目(6)に書いてありますね。事務局から配付資料があって、それから井上委員から司法制度改革審議会における検討状況及び文部省への検討依頼に至った経緯について、本年4月25日付の司法制度改革審議会の合意文書に沿って説明をしたと。

 要するに、4月25日の文書に書いてあるものがこの委員会の審議の基本であるという、そこははっきりしていると思います。それが一番大切なことではないかなと思うんです。

【井上委員】ちょっと言い忘れましたが、当審議会での議論につきましては、前回御報告しましたように、議事録及び議事概要を検討会議にもお配りしてありますうえに、各委員の主な御意見を整理したもの、これは前にお配りしたものをアップ・ツー・デートにし、18回までの審議での御意見を盛り込んだもので、お手元の6月13日付のものがそれですが、これも向こうでの議論の参考にしていたただこうということで配付しております。

 また、もう一つの横長の表、これも当審議会における私の報告に付けてお配りした資料集の中に入っていたものを1回リバイズしたのですが、その後またいろいろな提案が出ているものですから、それを事務局の方で分かる限り収集しまして、それを組み入れて更にリバイズしていただいたものでして、これもお配りしてあります。特にこの表の方は非常に力作でありまして、今後のこちらでの審議にも活用していただけるだろうと思います。

【佐藤会長】どうも御苦労様でございます。特に出席される方は大変かと思いますが、引き続きよろしくお願いします。

 特に何か御質問ございませんか。

【中坊委員】質問というわけではないけれども、この審議会でこれから担い手問題が当然審議の議題になってくるわけですね。その中には当然のように隣接業種と弁護士との関係があるだろうと思うんです。

 それで、こちらの審議というものと、今の出ていただいている検討会議のものとがある程度やはりきちっと整合性を持たないと、いろいろな人の意見を聞いてくれるのはホームページ開いてやるのがいいけれども、肝心要の我が家の者との連携がきっちりいくということが私は一番重要な視点だと思いますから、そちらの方のそういうことに関する基本的な物の考え方というのが、できるだけ向こうに反映する、我々の方もできるだけ早いこと、だんだんもう少し決めていただいて、私も4月25日、議事録見ていると法曹人口の大幅増加について一部の委員がいろいろ、これは全体の意見ではありませんなんていろいろ言われているところもあるようだけれども、とにかく、私は、やっぱりもう少しそういう基本的な課題について、4月25日、私がなぜあれほど大幅増加の内容を明らかにすべきだと言ったかという趣旨もよく踏まえていただかないと、これはそこがあいまいなまま、しかも未決定だということのまま問題が行ったりしていくと、向こうの検討委員会の議論も的がまとまらないと思いますよ。

 だから、基本的な問題について、できるだけ我々としても、そちらの方に出ていただいておる吉岡さんや鳥居さんや井上さん山本さん辺りにちゃんとしてもらわないと、私はここの間がちぐはぐになってくると、いずれにしても法曹人口について法曹養成というのは、一番前提のところですから、だから、そこがよほどしっかりしてこないといけないと思うので、その点、是非御配慮していただいて、検討委員会では十二分に御討議いただきたい。

【井上委員】4月25日の議論には私も加わっていましたので、御趣旨は重々承知しておりまして、向こうでも必要なところでは意見を言っていますし、夏に1回こちらで議論をしていただたくというのも、両方の整合性を図り、かつ更に御注意をいただくべきところを出していただいて、向こうに反映させたいという趣旨でございます。

【佐藤会長】さっきのお話だと、こちらの集中審議に合わせて向こうも中間的とりまとめをしていただけると。

【井上委員】かなり厳しい日程なんですけれども、それを目途に努力しようということになっています。

【鳥居委員】この審議会の皆さんはどう考えられるか、文部省の検討会議では、順番としては司法試験とか司法研修は一番最後に審議する順番になっています。ただ、本来、司法試験制度と司法研修、現在のものをどう維持するか、あるいはそれをどうモディファイするかというのは、本当は我々の審議会で腹をくくっておかないと、検討会議でどどどっと何か決まっちゃって持ってかえってきて、いや駄目だとこの審議会で言い出したときに収拾つかないのではないかと思うので、ここは会長先生と是非調整を取っていただきたいと思います。

【山本委員】同じ意見なんですよね。これを見ていますと、ほとんどが今の司法試験はなしと、要するに、法科大学院だけで法曹資格を決めるという意見ですね。

【井上委員】いえ、試験はやる。今のような司法試験制度は改めなければならないだろう、けれど、資格認定試験は行うというのが大方の意見です。

【山本委員】試験はやるけれども、今度は法科大学院卒業資格に限ると。

【井上委員】大学側の案はそういうのが多いといえます。

【山本委員】これはあるんですが、見るとほとんどそうですよ。数が少ないんですよ。今の司法試験みたいな、法科大学院卒業生資格がなくても、司法試験にチャレンジできるというふうに言っている案は数少ないんですね。

【井上委員】これまで公表されている案ではそうです。

【山本委員】ここのところは大きな違いになるんじゃないかと思いますね。

【鳥居委員】相当全国的に意見が散らばっていて、みんな同床異夢でやっているような気がするんですね、私は。多分、山本さんと私も同床異夢で。

【山本委員】ここのところは。

【井上委員】それはどっちが先という問題でもないと思うのですけれども、私の理解では、そういうことを決めるといいますか、検討するためにも、法科大学院ないしロースクールでどういうことをやるのだ、どういうことができるのだという点について具体的なイメージを持ったうえで、司法試験あるいは新司法試験との結び付きといったことも、検討していこう。そういう意味で、一応案をつくってくださいという依頼になったと思うのです。むろん、そうは言いながら、そういう案をつくったとすれば、それに見合うような試験制度というのも当然考えられるだろう。決めるのはあくまでこちらですけれども、そういう点でのアイデアがあったら是非出してほしい。そういう依頼になっているのだと思うのですね。

 それで、向こうでもそういうことを念頭に議論し始めていると私は理解していますけれども。

【佐藤会長】さっきおっしゃったこの間の2回目で、法科大学院を完結的なものにするのか、そうでなくて学部との連動とするのか、といった論点があげられているということですが、その辺は、全体にずっとつながってくる話ですよね、何をやるか。

【井上委員】議論のベースとしてはそうですね。

【佐藤会長】だから、司法試験はある意味では出口の話になるのはやむを得ないところもありますけれども、入口の問題として非常に重要だという認識もあるということは、それはそのとおりなんでね。

【井上委員】こちらから申し送っていることの中で、多様性とか公平性、公開性、オープンにするということを強調していますので、法科大学院の制度がどれだけの内容になるかによって、その1本の途でいいのか、別の途も設けないといけないのか、そういう議論に恐らくなっていくのではないかというふうに思います。

【中坊委員】だから、その試験問題が即司法試験だけではなしに、司法修習につながり、それから弁護士につながっているわけですよ。だから、その接続が上手にいかないと、今、鳥居さんもおっしゃるように、山本さんもおっしゃっているように、こっち側だけ行ってしまうと、何かこっち側に決められちゃってこっちが決まったからとなってきて、本当に本末転倒みたいな議論になりかねないので、その意味における、そちら側の委員というよりも、我々のこの審議会の在り方もよほどそれと合わさないと、ただ、向こうだけ調子合わせ合わせと言うのではなしに、我々の方もある程度そこの議論に踏み込んでやっていかないと、こちらの方、検討委員会の方がお困りになると思うこともあると思うんですね。現に数ですらが、私があれだけ言ったけれども、なおかつまだ何かはっきりしないようなまま行っちゃっているから、2割、3割はないという議論だけでしょう。そんなんだったらどういうふうになるのかということが全然ないままでこれは出ているような格好になっているから、だから、そういういろいろな点について私は相当、我々の方の審議会の在り方もちゃんとそれに合わせてやっておかないと、私は不一致になってしまう恐れがあるんじゃないかということを気がするんですね。

【井上委員】その点は、夏に集中して議論するのでしょう。

【佐藤会長】そして、その過程でも今日のようにいろいろ御報告いただくわけですから。我々の議事日程は非常に厳しいのですけれども、場合によってはその日30分ぐらい取ってもいいですから、この問題について御議論いただくことも考えたいと思います。鳥居委員も、山本委員もおっしゃるようなところに注意しながら、進めていきたいと思います。

【山本委員】この前まとめたときに、法科大学院が設置されない地域の人、あるいは経済的にやれぬ人も法曹に別の資格を取れるような配慮する。そういう一文があるんですね。それはどういうことだと、要するに経済的な奨学金みたいなものを上げて、遠いところにも入れるようにするという意味なのか、それとも、複線なのかというのは、ちょっと私もはっきりしなくて。

【井上委員】両方あり得ると思うのですね。ロースクールの方にできるだけ入っていただけるような形にするということもあれば、両方とも整備するという考え方もあると思うのですけれども、そこはこれから議論をするということでしょう。

【佐藤会長】まさに性格ですね。法科大学院の性格付けの問題ですね。

【井上委員】いずれにしろ、地域配分の問題については、あまねくすべての地域を網羅する形で法科大学院を設置するというわけにはいかないと思いますので、かなり不便なところに住んでいる人はどうするのだという問題は不可避的に出てくるわけです。それをどうやって解決していくかということと、経済的な問題はちょっと角度が違うのですけれども、考えなければならない重要な問題であることは確かです。

【佐藤会長】今の問題にも今後注意しながら、進めて参りたいと思います。検討会議に出席いただいている委員には大変御苦労をお掛けしますけれども、引き続きよろしくお願いします。

 それでは、この件はこのぐらいにして、配付資料の確認をお願いします。

【事務局長】本日の配付資料につきましては特に説明することはございません。
 この機会に1点御報告させていただきますが、夏の集中審議の会場につきましては、三田共用会議所とさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
 以上でございます。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 それでは、最後に日程の確認ですけれども、16日金曜日、17日土曜日は福岡で第2回地方公聴会を行います。御参加いただく委員としては、北村委員、髙木委員、藤田委員、水原委員、そして私というようになっております。委員の方々恐縮ですけれども、よろしくお願いいたします。
 それから20日火曜日、21日水曜日は浜田での実情視察を考えております。参加委員は井上委員、中坊委員、そして私ということになっております。

【中坊委員】それは前の日から行くんですか。

【佐藤会長】時間とかはまた後で、よろしくお願いします。
 それから、夏の集中審議は先ほど事務局長からのお話しにありましたとおり、8月7日から9日にかけての3日間、三田共用会議所で行うことになりました。そこでどういうことを取り上げてどういう進め方をするのかについては前回既に御確認いただいておりますけれども、代理と御相談した上、もう少し具体的に考えたところを、今月27日に改めてお諮りしたいというように思っておりますので、そちらの方もよろしくお願いいたします。
 今、申しましたように、次回の審議会は6月27日火曜日1時半から5時までこの審議室で開催することを考えております。
 以上でございます。記者会見のことですが、御参加いただける方は。では、井上委員よろしくお願いします。
 では、今日はどうもありがとうございました。