(別紙1)
平成12年6月27日
※「国民が利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法」の実現のためには、以下に述べる制度的基盤の整備と並行して、人的基盤の充実が必須であり、このような見地から、裁判の在り方の検討や人的体制の抜本的拡充、弁護士の大幅増員や執務態勢の強化などが必要であることが、改めて確認された。
○ 「論点整理」においても、「国民が司法に期待するものは端的に何かといえば、それは、国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができ、国民に開かれたプロセスにより、多様なニーズに応じた適正・迅速かつ実効的な司法救済を得られるということ・・・であろう。」とされている。そして、裁判所へのアクセスは、司法へのアクセスの中核に位置する。
○ 民事裁判については、新民事訴訟法が制定され、少額訴訟等、裁判所へのアクセスを容易にする工夫がなされてきたが、なお、訴訟費用の負担の軽減、法律扶助制度の充実、裁判利用相談窓口の設置、裁判所の管轄・配置等、裁判所へのアクセスの拡充を図るべき課題は少なくない。
【問題の所在】
○ 現行制度上、国民が裁判所に訴えを提起するに際しては、提訴手数料(申立手数料)を納付しなければならないが、その手数料の額は、訴訟の目的の価額(訴額)に応じて順次加算して算出するいわゆるスライド制によって定められている。
○ この提訴手数料の額が訴訟の目的の価額に比し高額であることが、国民の裁判所へのアクセスを阻害しているのではないか、したがって、スライド制を改め定額制とすべきか、あるいはスライド制を維持しつつその低額化を図るべきかが問題となる。
【対応の方向】
○ 提訴手数料の納付を求める理由は、一般に、訴訟手続を利用する者にその受益に応じた手数料の負担を求めるという、受益者負担ないし負担の公平の観念に基づき、副次的に濫訴を抑制することにあるといわれる。スライド制は、訴額が高額になる程受益もまた大きくなるとの趣旨によるものであり、それ自体は、不合理とはいえないが、現行のスライド制の下における提訴手数料は、かなり高額になることもあり、訴えの提起を抑制する弊を生じているケースもあると思われる。
○ そこで、スライド制を維持しつつ、必要な範囲でその低額化を行うべきことにつき、大方の意見の一致を見た。
○ またそれと合わせて、簡易裁判所の少額訴訟事件については、国民がより利用しやすくするため、定額制の導入をも考慮すべきことについても、異論がなかった。
(2) 訴訟費用額確定手続の簡素化
【問題の所在】
○ 現行法上、民事訴訟に要した費用のうち、法が「訴訟費用」と定める範囲のものは、原則として訴訟の敗訴当事者が負担すべきものとされている。したがって、勝訴当事者は、その支出した訴訟費用の償還を敗訴当事者に請求しうる筈であるが、その手続が煩雑なため、実際にその請求をする例は少なく、結局、各自負担となっている。この結果は、勝訴当事者に不当に費用の負担を課していることになるのではないか。
【対応の方向】
○ 訴訟費用額確定手続を簡素化すべきことに、異論がなかった。
(3) 弁護士報酬の敗訴者負担制度
【問題の所在】
○ 現行制度上、訴訟当事者がその依頼した弁護士に支払う弁護士報酬は、原則として訴訟費用に含まれず、訴訟の勝敗に関わりなく、各自負担とされている(ただ、判例により、不法な訴えに応ずるため弁護士に委任し、報酬を支払った場合、および不法行為に基づく損害賠償請求権の行使のため、弁護士に委任して訴えを提起することを余儀なくされた場合には、勝訴当事者が支払った弁護士報酬は、「相当と認められる額の範囲」で、損害の一部として相手方に請求できるとされている)。
○ このような制度の下では、訴訟を費用のかかるものとさせ、また法によって認められた権利の内容が訴訟を通じて減殺・希釈されることとなるので、それが訴えの提起をためらわせる結果となるとともに、また不当な訴え・上訴の提起、不当な応訴・抗争を誘発するおそれを生ずることから、かねて勝訴当事者の支払った弁護士報酬(の少なくとも一部)を、敗訴者に負担させる方策を導入すべきであるとの提言がなされている。
○ 他方、弁護士報酬の敗訴者負担制度は、敗訴した場合の費用の負担が重くなり、事件の種類によっては、かえって訴えの提起を萎縮させる結果となるおそれがあるとの指摘もある。とくに訴訟を通じて社会的に問題を提起し、立法府や行政府に政策の変更や制度の改革を迫る、いわゆる政策形成訴訟について、そのことが当てはまる、といわれている。
【対応の方向】
○ 弁護士報酬の敗訴者負担制度は、弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者が訴訟を利用しやすくなることなどから、原則的に導入する方向で考えることに大方の意見の一致をみた。
○ しかし、同時に、敗訴者に負担させる金額は、勝訴者がその弁護士に支払った報酬額と同額ではなく、その一部に相当しかつ当事者に予測可能な合理的な金額とすべきこと、および労働訴訟・少額訴訟など敗訴者負担制度が不当に訴えの提起を萎縮させるおそれのある一定種類の訴訟は、その例外とすべきことについては、異論がなかった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 負担させるべき弁護士費用額の定め方
○ 敗訴者負担の例外とすべき訴訟の範囲および例外的取扱いの在り方
【関連して検討すべき項目】
○ 訴訟提起前の証拠開示制度の拡充
○ 弁護士費用の合理化・透明化
(4) 訴訟費用保険
【問題の所在】
○ 現在、わが国では、弁護士報酬を含む訴訟の費用を保険金によって填補する、いわゆる訴訟費用保険は、主として自動車保険等の賠償責任保険の領域で、ある程度普及しているにとどまる。
○ 司法へのアクセスを容易にするための方策として、訴訟費用保険を普及させるべきではないかが問題となる。
【対応の方向】
○ 日本弁護士連合会では、かねて弁護士報酬を含む訴訟費用を担保する訴訟費用保険の創設を提唱してきたが、このほどこれに賛同する損害保険会社による商品開発が進み、今秋にも、事故被害者の損害賠償のために必要となる法律相談料・手続費用・弁護士報酬等を保険金で填補する「権利保護保険」が発売される見込みとなったとのことである。その実現を期待するとともに、国においても、このような保険の開発・普及を支援する施策をとるよう期待することで大方の意見の一致を見た。
○ 法律扶助制度をより充実させるべきことは、「論点整理」においても、「日本国憲法は、『何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない』(32条)と規定している。この権利を実質的に保障するものとして、法律扶助制度を整備する必要がある。現在、民事法律扶助の運営体制の整備等につき政府で検討されている措置に関し、法律扶助制度の整備に向けての重要な第一歩と評価し、その早急な実現が図られることを期待する旨の会長談話を発表した(11月24日)ところであるが、法律扶助制度は国民により身近で利用しやすい司法制度を実現するための重要な一方策であるとの観点から、更に総合的・体系的に検討を深める必要があると思われる。」と指摘されていた。
○ その後、政府の提出した「民事法律扶助法案」は、第147回国会において可決・成立し、平成12年4月28日、同年法律第55号として公布され、平成12年10月1日より施行されることとなった。これによって民事法律扶助事業に法律上の根拠が与えられ、また国の責務としてその適正な運営を確保し、その健全な発展を図るべきものとされたことの意義は大きい。
○ しかし、欧米諸国と比べるとき、民事法律扶助事業の対象事件の範囲、対象者の範囲等は限定的であり、予算規模も小さく、憲法32条の裁判を受ける権利の実質的保障という観点から、なお一層の充実が必要ではないかが問題となる。
○ また刑事司法分野における被告人の国選弁護制度、被疑者弁護制度の在り方と合わせて、運営主体等をふくめ総合的に検討する必要がある。
【対応の方向】
○ 民事法律扶助制度をなお一層充実させるべく、検討を重ねる必要があるとすることについては、意見の一致を見た。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 対象事件の範囲
○対象者の範囲
○運営主体の在り方等
○ 国民の裁判所へのアクセスを困難にしている原因の一つは、裁判、ADRなど紛争解決手続に関する総合的情報を取得することができる相談窓口が十分に用意されていないことにもあると考えられる。「論点整理」においても、この問題について、「司法が国民にわかりにくく遠い存在であるという一般的な受け止め方は、弁護士や裁判所の活動等に関する情報の不足によるところが少なくなかったと思われる。・・・司法に関する情報の公開・提供を推進し、ADRをも含む司法に関する情報に国民が容易にアクセスできるような仕組みについて検討する必要がある。」と述べられている。
○ 裁判利用相談窓口の現状(具体的記述は、ここでは省略する)
【対応の方向】
○ 裁判所、各弁護士会、地方公共団体など、現在すでに相談窓口を設置している機関・団体においては、各窓口のネットワーク化を図るなど、その一層の充実に努めるよう求めるべきこと、またそのような窓口のない場合には、その早急な設置を求めるべきことについては、異論を見なかった。
○ 具体策として、例えば、裁判所においては、自らの受付相談機能の拡充はもとより、国民が地方公共団体など裁判所外の相談窓口に行っても、裁判所の受付相談に関する情報、裁判手続に関する情報を入手できるように所要の措置をとり、また地方公共団体においては、消費生活センターなどの相談窓口において、弁護士会の法律相談、法律扶助の仕組みのほか、各種ADRを含む司法に関する総合的な情報を提供し、あるいは地域弁護士会と提携して弁護士の紹介を行うなどの方策を実施するよう求めることが考えられる。
【問題の所在】
○ 現行法上は、家庭関係紛争事件のうち、離婚、婚姻の取消し、子の認知などのいわゆる人事訴訟事件については、訴えの提起に先立ち、原則としてまず家庭裁判所に家事調停の申立てをし、調停によって紛争の解決を図るべきものとされているが、家事調停が不成立に終わり、改めて訴訟によって解決しようとするときは、地方裁判所に人事訴訟を提起するべきものとされている。
○ そのため一つの家庭関係紛争事件の解決が、家庭裁判所の調停手続と地方裁判所の人事訴訟手続とに分断され、その間の連携も図られていないことから、国民に不便であるとの難点が指摘されている。
○ また家庭関係紛争事件のうち、離婚の際の財産分与、子の監護者の指定・養育費の負担、婚姻費用の分担に関する争いなど、一部の事件(人事訴訟事件以外のもの)は、家事審判手続により家庭裁判所が審理・裁判するものとされている(いわゆる乙類審判事件)。しかし、財産分与など、またそのうちの一部のものは、離婚訴訟に付随している限り、地方裁判所において審理・裁判することもできるとされるなど、家庭裁判所と地方裁判所の管轄の配分は、著しく煩雑で、利用者たる国民に分かりにくい。
○ さらに家庭裁判所には、家庭裁判所調査官が配置され、その調査の結果が家庭裁判所での調停・審判を適切なものとするのに大きな貢献をしているが、地方裁判所には、その種の機関がなく、人事訴訟の審理・裁判に利用することができない。
【対応の方向】
○ 人事訴訟事件を、親子関係存在確認訴訟など解釈上人事訴訟に属するとされているものを含めて、家庭裁判所の管轄に移管することについては、意見の一致を見た。
○ 離婚の原因である事実など人事訴訟の訴えの原因である事実によって生じた損害賠償の請求についても、人事訴訟と併合される限り家庭裁判所の管轄とすることに、異論がなかった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
【関連して検討すべき項目】
○ 家庭裁判所の人的・物的体制の充実強化
(2) 簡易裁判所の事物管轄の見直し、少額訴訟の上限額の見直しの要否
【問題の所在】
○ 現行法上は、簡易裁判所の事物管轄は、訴額が90万円を超えない事件とされており、また少額訴訟手続の対象となるのは、そのうち訴額が30万円以下の金銭請求事件とされている。
○ 簡易裁判所の事物管轄を定める訴額の上限が90万円と定められたのは、昭和57年の裁判所法改正によるが、国民により身近な簡易裁判所の管轄事件の範囲を広げ、裁判所へのアクセスを容易にするとの観点から、この上限を引き上げるべきかが問題となる。
○ 新民事訴訟法によって創設された少額訴訟手続は、利用者から高い評価を受けているので、国民がこの手続をより多く利用しうるようにするため、手続対象事件の範囲を定めている訴額の上限を引き上げるべきかが問題となる。
【対応の方向】
○ 簡易裁判所の事物管轄については、昭和57年以後の経済指標の動向などを考慮して、その訴額の上限を引き上げる方向で検討するとの意見が多かった。
○ 少額訴訟手続の対象事件の範囲については、それを定める訴額の上限を引き上げるべきことで、意見の一致を見た。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 簡易裁判所の事物管轄を定める訴額の上限の引き上げの要否
【関連して検討すべき項目】
○ 簡易裁判所の人的・物的体制の充実強化
(3) 裁判所の配置の在り方
【問題の所在】
○ 現在の簡易裁判所の配置は、昭和63年の法改正により定められたところにしたがい、事件数の少ない独立簡易裁判所などの隣接庁への統合、東京23区内・大阪市内などの大都市の複数簡易裁判所の一庁への統合、新たに人口が増加した地域への簡易裁判所の新設によって実現したものである。また地方・家庭裁判所支部の配置は、平成2年の最高裁判所規則の改正により定められた、同様の方針に従い実現したものである。
○ この配置は、現在の時点において、利用者である国民の立場から見て、見直す必要があるかが問題となる。
【対応の方向】 ○ 当事者である国民が裁判所へ行くのに長時間を要するのでは、裁判所へのアクセスの障害となるのではないか、との指摘がなされた一方、昭和63年の簡易裁判所の統廃合、平成2年の地方・家庭裁判所支部の統廃合は、将来の人口動態、交通事情の変化などをも考慮に入れて実施されたものであり、その後の実際の事情の変化を考慮しても、現在直ちにその見直しをする必要はないのではないかとの意見も述べられた。 ○ 一般論として、裁判所の配置は、人口動態、交通事情の変化、事件数の動向等を考慮しながら、不断の見直しを加えていくべきことには、異論がなかった。
(4) 裁判所施設の在り方 - 訴訟手続への情報技術の導入
【問題の所在】
○ これまで、各裁判所においては、裁判官全員にパソコンを配布し、裁判所書記官についても多数のパソコンを整備して、裁判部単位でのパソコンネットワーク化、不動産執行・破産・調停・支払督促などの分野におけるパソコンによる事件処理システムの開発・導入に努めてきた。また新民事訴訟法により、民事訴訟手続におけるTV会議システムの利用などの途が開かれ、活用されている。
○ 現在の情報技術の発展は目覚ましく、手続の効率化・迅速化及び利用者に対するサービスの増大という見地から、訴訟手続等においてさらに情報技術の積極的利用を推進する必要がある。
【対応の方向】
○ 裁判所の訴訟手続、事務処理、情報提供などの各側面において、コンピュータによるデータベース、インターネット等の情報技術をさらに積極的に活用するよう求めることで、意見の一致をみた。
○ 要検討事項
○ 現在、裁判所における職務執行は、令状事務等を除いて、法の定める休日には行われず、また平日においても、一般に通常の勤務時間内において行われている。ただ、東京・大阪・名古屋・京都などの一部の家庭裁判所では、午後5時以後においても、各庁により一様ではないが、家事審判、家事調停、家事相談、事件の受付を行っており、また東京・大阪両簡易裁判所では、同様に、民事調停、受付相談を行っている。
○ 国民の裁判所へのアクセスを容易にするという観点から、他の裁判所においても、これらの夜間サービスを実施すべきか、また訴訟事件についても、夜間開廷・休日開廷を実施すべきか。
【対応の方向】
○ 現在行われている夜間サービスについては、関係各裁判所において、国民への周知を図るとともに、これを他の裁判所にまで拡大すべきか、訴訟事件についても夜間開廷・休日開廷を実施すべきかについては、現在の利用状況等をも見ながら、まず国民のニーズの程度などを把握し、その上でさらに検討すべきであることに大方の意見の一致を見た。
○ なお、裁判官および他の裁判所職員の労働条件に配慮しつつ、夜間・休日の執務を行う方策を検討すべきであるとの意見もあった。
【問題の所在】
○ わが国の不法行為に基づく損害賠償制度は、他人の違法な行為によって損害を受けた者がいる場合に、その被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものと解されている。
○ これに対して、一部の国においては、とくに悪性の強い行為をした加害者に対しては、これに制裁を加え、将来における同様の行為を抑制する趣旨で、被害者の損害の補てんに加えて、さらに懲罰的に賠償金の支払いを命ずることができるとする懲罰的損害賠償制度を認めている。
○ そこで、わが国においても、現実の損害の補てんを得るのみでは、裁判の利用が経済的に採算のとれない場合があること、現実の損害の補てんのみに限ると損害の認定が低額となり易いとの事情などを考慮して、国民の訴訟提起を促進するため、懲罰的損害賠償の制度を導入すべきかが問題とされている。
【対応の方向】
○ 懲罰的損害賠償制度を導入すべきか否かについては、意見が分かれた。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 導入に積極的と見られる意見
○ 導入に消極的と見られる意見
(2) クラスアクション制度・団体訴権制度
【問題の所在】
○ 現在、わが国には、米国のクラスアクションに相当する制度はなく、またドイツの不正競争防止法、約款法などに定められている団体訴権に相当する制度を認める法律は存在しない。ただ、新民事訴訟法は、従来からわが国にあった選定当事者の制度を拡充し、ある程度クラスアクションに類似する機能を果たしうるように改めた。
○ 消費者被害の場合のように、被害者が多数に及ぶが、各被害者の損害額は少額に止まる事件においては、各被害者が個別に訴えを提起することは、経済的に採算がとれないところから、多数の被害者の損害の賠償を一括して請求するクラスアクションの制度は、訴えの提起を容易にする機能を有する。
○ また団体訴権の制度は、ある者の違法な行為により消費者や地域住民など多数の者に少額又は拡散した被害が及ぶ場合に、被害者等の利益を保護することを目的とする団体に、その違法行為の差止請求訴訟を提起する固有の資格を与えるものであり、同じく訴えの提起を容易にする機能を有する。
○ そこで、わが国おいても、これらの被害者の実効的救済を図るため、訴えの提起を容易にするとの観点から、これらの制度を導入すべきかが問題となる。
【対応の方向】
○ クラスアクションについても、団体訴権についても、これを導入すべきか否かにつき、意見が分かれた。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ クラスアクションの導入に積極的とみられる意見
○ クラスアクションの導入に消極的と見られる意見
○ 団体訴権の制度の導入に積極的とみられる意見
○ 団体訴権の制度の導入に消極的とみられる意見
○ 「論点整理」にも述べられているように、「民事裁判については、新民事訴訟法が制定され、少額訴訟等、裁判所へのアクセスを容易にする工夫がなされ、また、審理の充実・迅速化を図るためのさまざまな工夫が施されてきた。」そのような審理の充実・迅速化を図る方策としては、例えば、争点及び証拠の整理手続の整備、集中証拠調べの規定の新設、釈明制度の改正、随時提出主義から適時提出主義への転換、証拠収集手続の拡充(文書提出命令の拡充、当事者照会制度の導入等)などを挙げることができる。また民事訴訟規則では、進行協議期日の新設のほか、大規模訴訟につき審理計画を定めるべきものとしたことが注目される。
○ この結果、民事訴訟の「審理期間は全体として短縮されてきているが、当事者が多数にわたる事件や専門性の高い事件などのなかには、依然として長期間を要するものがみられる」ことは、「論点整理」で指摘されているとおりである。
○ そこで、これらの事件を中心として、なお一層の審理の充実・迅速化を図ることが、国民の期待に応える民事司法を実現するための主要な課題となる。そのためには、訴訟手続の在り方の見直しのみならず、弁護士数の増加、その執務態勢の強化を図り、さらに裁判官数の増加をはじめとする裁判所の人的・物的体制の強化等についても検討する必要がある。
○ 新民事訴訟法による手続改革の結果、第一審民事訴訟(地裁)の平均審理期間は9.3か月に短縮されたが、争点の数が2~3、取調べ人証の数が2~3人という標準的事件では、平均審理期間は20.8か月に及んでいる(平成10年)。まして、争点、取り調べるべき人証の、より多い複雑訴訟においては、審理期間はさらに長期に及ぶと予測される。
○ 標準的事件、さらに複雑訴訟事件を、司法の利用者たる国民の期待する合理的期間内に終結させるためには、訴訟の早い段階から審理の終期を見通し、手続の進行過程を計画的に定めた計画審理を実施することが有効と考えられる。また計画審理は、訴訟に要する費用の負担と時間の予測可能性を高めるとの観点からも有益である。
○ 問題は、計画審理を実効的に実施するには、いかなる方策をとるべきかである。具体的には、新民事訴訟規則が大規模訴訟について設けている審理計画を立てるべき旨の定めを、標準的事件についても法律または規則で規定すること、また審理計画を立てても遵守されなければ計画審理は実行されないから、審理計画を実効あらしめるために、当事者が準備のため早期に証拠を収集しうる手段を導入すること、訴訟の類型ごとに標準的審理期間を定めること、審理計画を遵守させるための裁判所の訴訟指揮権を強化することなどが提案されている。
【対応の方向】
○ 新民事訴訟法が講じている諸方策の活用し、運用として、標準的事件についても、手続の早い段階で、裁判所と両当事者との協議に基づき、審理の終期を見通した審理計画を定め、それにしたがって計画審理を実施するとの実務を定着させていくべきであるとすることには、異論がなかった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 標準的事件についての法律又は規則による審理計画を定めるための協議の義務づけ
○ 準備のための早期の証拠収集を可能とする制度の導入
○ 法律又は規則により当事者の計画審理への協力義務を定め、正当な理由なく計画に従わない場合の制裁を定めることの要否
○ 計画審理における審理期間又は開廷間隔の法定(訓示規定又は強行規定)
【関連して検討すべき項目】
○ 司法の人的基盤の充実(弁護士・裁判所の体制整備等)
【問題の所在】
○ 現行法上は、簡易裁判所では、少額の金銭請求事件につき特別手続として少額訴訟手続を設けているが、地方裁判所では、通常民事訴訟事件である限り、すべて一律に定められた訴訟手続で審理・裁判されることとされている。
○ しかし、簡易な訴訟を迅速に処理するとともに、裁判所の限られた人的・物的資源を複雑・高度な事件に集中させ、全体としての効率性を高めるとの観点から、地方裁判所にも訴額に応じた複数の裁判手続を導入すべきであるとの提言があり、また外国にもそのような例がある。
【対応の方向】
○ 地方裁判所において、訴額を基準として通常の訴訟手続とは別に簡易迅速な処理を可能にする裁判手続を導入すべきか否かについては、意見が分かれた。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 簡易迅速処理手続を設けることの当否
○ 計画審理により民事裁判の充実・迅速化を推進するには、早期に審理計画を定め、争点整理をする必要があるが、それには当事者が早期に証拠を収集する実効的手段が用意されなければならない。このことは、とくに証拠が構造的に偏在している事件について妥当する。
○ 証拠収集手続の拡充は、新民事訴訟法制定作業の過程においても、中心的課題の一つであった。新民事訴訟法は、この課題に応えるため、相手方または第三者の所持する文書の証拠としての利用を可能とする文書提出命令制度を拡充し、またアメリカ合衆国の「質問書」の制度を参考として当事者照会の制度を新設した。また文書提出命令制度の拡充に伴って、検証物提出命令制度も拡充されることとなった。これによって、当事者が、旧法に比し、より実効的に証拠を収集できるようになったことは疑いないが、文書提出義務には、証拠の所持者の権利にも配慮した例外があり、当事者照会制度には、回答義務違反に対する直接的な制裁の定めがない。また早期の証拠収集手段である証拠保全手続は、改正されることなく、予め証拠調べをしておかないとその証拠の使用が困難となる事情のある場合に利用できるのみとなっている。なお、公文書の提出義務については、改正が留保され、実質的に旧法のままとなっている。
○ 米国は、ディスカバリー(証拠開示)と呼ばれる一連の証拠収集制度を有しており、わが国の新法の下での証拠収集手続に比べ、総体として見るとき、証拠収集手段としての広汎性・実効性の点では強力であると考えられる。
○ そこで、計画審理の推進のため、証拠収集手続のさらなる拡充、とくに早期の手続段階における証拠収集手段の拡充を図るべきか(その際、証拠の所持者の側の権利の確保との適切な調和をどう考えるのかについても検討が必要)が問題となる。
【対応の方向】
○ 訴えの提起前の時期を含め、当事者が早期に証拠を収集するための手段を拡充すべきことについては、大方の意見の一致をみた。
○ それ以外の事項については、なお検討することとされた。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ ディスカバリーに相当する制度の導入に積極的と見られる意見
○ ディスカバリーに相当する制度の導入に消極的と見られる意見
○ その他の証拠収集手段の拡充改善策
【関連して検討すべき項目】
○ 弁護士の執務体制の整備
○ 科学技術の革新、社会・経済関係の高度化・国際化に伴って、民事紛争のうちにも、その解決のために専門的知見を要する事件が、増加の一途を辿っている。これらの紛争に関わる民事訴訟においては、専門家の適切な協力を得られなければ、適正な裁判を下すことができないばかりか、往々にして手続の遅滞を生じ、そのことがまた、一般事件の迅速・適正な解決を妨げることにもなる。また裁判外紛争解決手続においても、専門家の適切な関与が不可欠である。さまざまの形態における専門家の紛争解決手続への関与を確保し、充実した審理と迅速な手続をもって、これらの事件に対処することは、現代の民事司法の重要かつ喫緊の課題である。
○ 「論点整理」においても、このことは、「社会の複雑・専門化、社会・経済活動の国際化が進むなかで、知的財産権に関する訴訟、医療過誤訴訟、労働関係訴訟等専門的知見を要する事件が今後ますます増えることが予想される。これらに適切に対処するため、法曹以外の専門家を活用する方途等について検討することが必要である」と述べられている。
○ とりわけ知的財産権関係事件に対する訴訟の充実・迅速化は、各国とも知的財産をめぐる国際的戦略の一部であり、訴訟手続に関する制度的整備とあわせて、裁判所の執務体制の整備・強化、専門化した裁判官・弁護士等の人材の育成・増強など、知的財産権訴訟に関わる人的基盤の強化等をもって対応すべき課題である。
【問題の所在】
○ 専門的知見を要する訴訟の充実・迅速化を図るには、まず裁判官に対する専門的知見の提供のための伝統的制度である鑑定の活用が不可欠であるが、実務上その事件に適切な鑑定人を見出し、鑑定を引き受けて貰うことが困難であると言われる。また鑑定を引き受けて貰えたとしても、鑑定に長期間を要し、それが、しばしば訴訟の遅延の原因となっている。
【対応の方向】
○ 鑑定人の名簿を組織的に整備することに加え、専門家団体との継続的な連携を図るなど、鑑定人推薦のためのシステムを強化する方策をとることに、意見の一致を見た。
○ これ以外の鑑定制度の改善策については、なお検討することとなった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 鑑定制度の改善の具体策
(2) 専門委員・専門参審制など専門家の取込み
【問題の所在】
○ 専門的知見を要する訴訟では、手続の早い段階から専門家の関与を得ることが望ましい。争点整理のためにも、専門家が裁判官とともに審理に立ち会うことができる制度を導入すべきとの提言がなされている。しかし、専門家が裁判所の構成員あるいはこれに準ずる地位に就くと、事実認定あるいは法的判断のための資料たる専門知識が、当事者の知り得ない場面で裁判官に提供されるおそれもあり、審理の透明性が確保されない危険があるという意見もある。
○ そこで、既存の鑑定、裁判所調査官などの制度のほか、専門家の審理への立合いを認める新たな制度を導入すべきか、仮に導入する場合に、裁判官の判断のために提供される資料を知り、これについて意見を述べるという当事者の権利を不当に害することがないようにするには、いかなる制度が考えられるかが問題となる。
【対応の方向】
○ 専門参審制で、参審員が評決権をもつことの合憲性・違憲制の問題は、別途、国民の司法参加を審議するときに検討することとなった。
○ 専門家の手続関与を認める制度としては、既存の鑑定、裁判所調査官のほか、専門参審制、専門委員(専門的司法委員)制度などが、一応考えられるが、そのうちいかなる専門訴訟にどの制度を導入することが適切か、既存の制度に加えて新たな制度を導入すべきかについては、それぞれ専門性の種類に応じて、個別に検討すべきであるとのいうのが、大方の了解であった。
○ 専門参審制については、裁判の公開の原則に抵触するか否か、当事者が裁判官の判断資料を知り、意見を述べる権利を不当に侵害することになるか否かをめぐって、意見が分かれ、更に検討することとなった。
○ 専門委員制度については、専門委員は、中立的な専門的助言者として、争点整理など手続の必要な局面だけに関与し、当事者もその専門的意見を知り、これに対して自己の意見を述べうる状況にあるから、少なくとも、裁判官の中立公平等に疑義の生じない場合については、その導入を図るべしとの意見が大勢であった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 専門参審制の導入の可否および可とする場合に導入すべき訴訟の種類
(3) 弁護士・裁判官の専門化等
【対応の方向】
○ 弁護士や裁判官の専門性を強化する見地からも、弁護士事務所の法人化・共同化、多様な学歴・経歴をもつ人材の受入れを可能とする法曹養成制度の改革が重要であるということで認識が一致した。
○ これらの課題については、別途検討する。
【問題の所在】
○ 知的財産権関係事件への対応の強化は、上記のとおり、わが国においても知的財産に関する国際的戦略の一部をなすと考えられるところ、東京・大阪両地方裁判所は、かねてそれぞれ専門部を設け、この種の事件の処理に精通した裁判官、技術専門家である裁判所調査官を配置して、専門的処理体制を整備してきた。これを受けて、新民事訴訟法は、知的財産権関係訴訟につき、東京・大阪両地方裁判所にいわゆる競合管轄を認め、事件の両地方裁判所への集中化を図った。
○ 知的財産権関係事件への対応の重要性に鑑み、さらに両地方裁判所を、この種の訴訟の専属管轄裁判所とすべきか、さらにこの種の事件に対する他の対応強化策が、問題となる。
【対応の方向】
○ 知的財産権関係訴訟への対応を強化するため、知的財産の専門部を一層拡充し、専門化された裁判官や技術専門家である裁判所調査官を集中的に投入したり、専門委員、専門参審制など専門家の手続関与を得る新たな制度を導入するなどして、専門的処理体制を一層強化し、実質的に「特許裁判所」の機能を果たさせるべきである。
○ 東京・大阪両地方裁判所の知的財産権訴訟についての管轄を専属管轄とすることについては、意見が分かれた。
○ 日本弁護士連合会及び弁理士会による工業所有権仲裁センターを拡充・活性化させるべきことについては、異論がなかった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 知的財産権関係訴訟につき東京・大阪両地方裁判所の管轄を専属管轄化することの当否
(2) 労働関係事件への対応強化
【問題の所在】
○ 労働関係に関する国の代表的な紛争解決制度としては、労働委員会の救済命令制度と裁判所における民事訴訟とがあるが、これらは、現実に存在する労働関係事件のごく一部を処理しているに過ぎないといわれている。それは、近年、労働関係事件のうち、個別労働関係事件が増加しているのに、労働委員会は個別労働関係事件を扱わず、また現在の裁判所は、諸外国の労働裁判所に見られるような、労働関係事件固有の組織、訴訟手続を持たないことに、その主要な原因の一つがあると指摘されている。
○ 集団的労働関係については、不当労働行為に対する労働委員会の救済命令に対し、使用者が取消しの訴えを提起するときは、その第一審管轄裁判所は地方裁判所であり、そのことは、中央労働委員会が再審査申立てにつきした命令に対して、取消しの訴えが提起された場合にも変わりがないから、この場合には、事実上5審制を認めた結果になり、労働者の救済の確定が著しく遅れるとの問題点が指摘されている。
○ そこで、個別労働関係事件については、訴訟に代わる裁判外紛争解決手続の要否、設けるとした場合のその在り方が、また集団的労働関係事件については、「事実上の5審制」の解消など、労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方が、問題となる。
○ より抜本的には、労働関係事件に固有の裁判機関、訴訟手続の創設の提言もなされている。
【対応の方向】
○ 個別労働関係事件のための裁判外紛争解決手続の必要については、これを肯定する意見が多かったが、その在り方については、なお検討することとなった。
○ 労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方については、「事実上の5審制」の解消につき意見の一致を見るに至らず、なお検討することとなった。
○ 労働関係事件に固有の裁判機関、訴訟手続の創設の要否については、審議が十分に煮詰まらず、なお検討することとなった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 個別的労働関係紛争に関する裁判外紛争解決手続の在り方
○ 労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方
○ 労働関係事件に固有の裁判機関、訴訟手続の創設の要否を含む、労働関係事件に関する裁判制度をより利用しやすくなるための具体策
(3) 医療過誤事件、建築瑕疵事件、その他の専門的知見を要する事件への対応強化
【対応の方向】
○ これらの事件についても、専門的知見を要する事件一般につき述べたように、鑑定制度の改善を図るとともに、手続の早期の段階から専門家の関与を得られるよう、それぞれの事件の性質に応じて適切な方策を講じ、また裁判所の執務体制の整備等の対応強化策を検討すべきであるとされた。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 医療過誤事件、建築瑕疵事件その他への対応強化の具体策
【関連して検討すべき項目】(総論・各論共通)
○ 裁判所・裁判官の専門性の向上、弁護士の専門性の向上、これらに配慮した法曹養成制度
○ 隣接法律専門職種の訴訟やADRへの関与の拡大
○ 弁護士事務所の共同化・法人化・総合事務所化
○ 証拠開示の在り方
○ 司法に対する国民の関心、国民の司法への参加意識の向上
○ 司法の国際化への対応
○ 判決等で認められた権利の実現のためには、しばしば強制執行による実現を必要とし、これが実効性を持たなければ、判決等は絵に描いた餅に過ぎないことになる。論点整理においても、「裁判の結果が確実に執行されなければ、国民の権利の保障は空文化」すると指摘されている。
○ 金銭債権に基づく強制執行について直接強制のみを認めている現行法のもとでは、債権額が少ない場合に、その債権額に不相応な時間と費用を要し、「費用倒れ」となる。
○ 金銭債権についての勝訴判決等を取得しても、債務者がどのような財産を有するかが分からず、債務者が故意に所有財産を隠匿する等のために強制執行を行うことができない場合がある。
○ 平成8年の民事執行法改正による引渡命令の相手方の拡大、平成10年の同法改正による執行官の調査権限の拡充、新たな保全処分の創設等により、濫用的な短期賃貸借は、競売手続上、より的確かつ迅速に排除することが可能となっている上、平成11年11月24日の最高裁大法廷判決が、抵当権の効力として、抵当不動産の不法占有者に対する妨害排除請求権の代位行使を認めるなど、抵当権者及び買受人が採り得る手段は広がっている。しかしながら、依然として短期賃貸借の濫用と認められる事例、競売の対象となった不動産を占有し、売却を困難にして手続を遅延させたり、買受人に多額の立退料を要求する占有屋による執行妨害の事例などが指摘されている。
○ このような問題点・指摘を踏まえ、権利実現の実効性を確保する見地から、民事執行制度に関し新たな方策を講じるべきではないか。
○ 家庭裁判所による履行勧告の制度には強制力はないが、扶養料や養育費等の金銭債務については家庭裁判所による履行命令の制度があり、これに従わない者は、過料に処せられる。また、家庭裁判所による履行確保の方策とともに、家事審判に基づいて一般の強制執行を行うこともできる。これらの現行法上の方策によっては、扶養料等の履行を確保するのに十分でないとの指摘もあることから、家庭裁判所の履行確保制度を実効化するための方策としては、どのようなことが考えられるか。
【対応の方向】
○ 権利実現の実効性を確保するという見地から、民事執行制度を改善するための新たな方策を導入すべきであることについて意見の一致を見た。
○ 家庭裁判所の履行確保制度を実効化するべきであることについて意見の一致を見た。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 債務者の履行促進のための間接強制の適用範囲の拡大等
○ 債務者の財産を把握するための方策
○ 占有屋等による不動産執行妨害への対策
○ 家庭裁判所の履行確保制度を実効化するための具体策
【関連して検討すべき項目】
○ 裁判所の人的・物的体制の充実強化(増員、研修の充実等)
○ 仲裁、調停、あっせん等の裁判手続外の紛争解決手段(ADR)は、厳格な裁判手続と異なり、手続や判断基準等に画一的な決まりがないことから、利用者の自主性を生かした解決、プライバシーや営業秘密を保持した非公開での解決、簡易かつ迅速な解決、法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解決を図ることなど、柔軟な対応が可能である。また、多様な分野の専門家の知見を生かしたきめ細かな紛争解決や、運営主体等の在り方によってはより廉価な紛争解決が可能となる。
○ 「論点整理」においても、「社会で生起する紛争には大小種類さまざまあるが、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な紛争処理の仕組みを用意することも、司法を国民に近いものとする上で大きな意義を有する。そのような観点から、裁判手続外の各種紛争解決手段の在り方についても検討すべきである」とされている。
○ 一方、我が国におけるADRの現状は、交通事故関係紛争や裁判所による民事・家事調停など一部の形態を除いて、必ずしも十分に機能しているとは言えない状況にある。また、経済活動の国際化等に伴い、国際商事紛争を迅速に解決する仕組みの整備について国連等において検討が進められており、我が国としても早急な取り組みが求められている。このため、まず基本的な考え方として、司法制度改革の一環として、ADRの拡充・活性化を図っていくべきかが一応問題となりうる。その上で、ADRの拡充・活性化を図るとする場合に、特に拡充・活性化が必要なADRとしてはどのようなものがあるか、拡充・活性化に当たって不可欠と考えられる適切な担い手の確保などの諸課題や国際的要請にどのように対処していくか、さらには、ADRとの裁判手続との連携をどのように考えるかなどが問題となる。
○ 国民がより利用しやすい司法を実現するため、司法の中核たる裁判機能について、これを拡充し、国民にとって一層利用しやすくしていくことに格別の努力を傾注すべきことは既述のとおりであるが、これに加えて、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な法的ニーズに対応するためのメニューの一環として、手続及び解決内容の柔軟性、専門性、廉価性等のメリットを有するADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充・活性化を図っていくことの重要性については、異論がなかった。
○ ADRには、裁判所による調停手続、また裁判所外では、行政機関、民間団体、弁護士会など多様な運営主体による仲裁、調停、あっせん・相談などが存在するが、今後、それぞれの特長を生かしつつ育成・充実を図るべきこと、そのために裁判所・関係省庁や関係機関が密接に連携して必要な基盤整備を推進すべきことについて、意見の一致をみた。
○ ADRの拡充・活性化のための具体的方策については、個々のADRの性格に応じた多面的な検討が必要であるが、各ADRに概ね共通する横断的な対策として、ADRの適切な担い手の確保のための基盤整備、仲裁法制などADRに関する法制の早期整備、ADRを含む司法に関する総合的な情報提供・相談体制の整備等を行うべきことについて、大方の意見が一致した。
○ また、経済活動のグローバル化や国境を越えた電子商取引の急速な拡大に伴い、今後、国際的な商事紛争の一層の増加が不可避と考えられることから、これを適正迅速に解決するため、我が国においても国際商事仲裁の拡充・活性化を図るべきこと、その際、国連国際商取引委員会における国際仲裁法制統一化の作業の動向、国際仲裁法制の整備や国際商取引に関する各国の法制度の調和への動き、我が国経済の国際競争力への中長期的な影響、情報技術の急速な発展等も十分考慮して対応すべきことについても、異論がなかった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 拡充・活性化すべきADR
○ 担い手の確保のための具体策
○ 法律扶助の対象化
○ 国民により利用しやすい司法の実現という見地からは、上述のような、裁判手続に加えて多様なADRが用意され、事案の性格や当事者の事情に応じ、個々の利用者が適切な情報を得て手続を選択しうることにとどまらず、さらに、ADRと裁判手続の間で、手続面、人材面、情報面などの各側面において連携を強化していくことが必要であることについて、意見が一致した。
○ 手続面での連携強化の一環として、事案によっては、ADRから裁判手続への円滑な移行、あるいはその逆の移行が相当な場合があると考えられることから、国民の裁判を受ける権利を実質的に損なわない範囲で、そのための手続整備を図っていくことについては、大方の意見が一致した。
○ ADRに時効中断(又は停止)効を付与したり、ADRの結果に基づき強制執行の申立てをなしうることとすべきことについては、そのADR手続における適正手続保障の程度、要件の定め方等を慎重に検討すべきことに異論がなかった。
○ 人材面での連携強化の一環として、裁判所とADRとの間、あるいはADR相互間での人材の相互交流や、知識やノウハウの共有化を促進すべきことについては、異論がなかった。
○ 情報面での連携強化の一環として、裁判所から、判例情報や事件進行のノウハウをADRへ積極的に提供すること、ADRを含む司法に関する総合的な情報提供・相談窓口(既述)を整備すべきことについても、異論がなかった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 手続面での連携の具体策(時効中断効・執行力の付与以外のもの)
○ 従来、裁判所において、先例的価値のある判例情報について、最高裁判所及び高等裁判所の判例集のほか、下級裁判所については、知的財産権などの特定の分野についての判例集の編集刊行を行ってきたが、国民のニーズに応え、迅速かつ容易な判例情報へのアクセスを可能にするため、平成9年にホームページをインターネット上に開設して、①最近の主要な最高裁の判決全文、②東京高地裁及び大阪高地裁を中心とした下級裁判所の知的財産権訴訟の判決全文を速報している(なお、民間の判例雑誌、各種のデータベースという媒体で下級裁判所を含めた判例情報の提供がされている。)。事件情報については、個々の事件の判決へのアクセスについては、民事訴訟法上だれでも閲覧が可能であり、利害関係人であれば謄写も可能である。
○ 法務省及び日弁連・単位弁護士会においても、それぞれホームページをインターネット上に解説するなどして、各種情報を提供している。
○ 判例情報を積極的に公開していくことは紛争防止や解決にとって重要であるのは言うまでもなく、さらに、事件情報、司法に関する一般情報を広く公開し、国民がより簡易な手段で入手できるようにすることは、国民がより利用しやすい司法を実現する見地から、重要である。「論点整理」においても、「司法が国民にわかりにくく遠い存在であるという一般的な受け止め方は、弁護士や裁判所の活動等に関する情報の不足によるところが少なくなかったと思われる。(中略)司法に関する情報の公開・提供を推進し、ADRをも含む司法に関する情報に国民が容易にアクセスできるような仕組みについて検討する必要がある」と述べられている。
【対応の方向】
○ 判例情報、事件情報、その他司法に関する情報の公開を一層推進していくべきであることについては、異論を見なかった。
○ 具体策として、例えば、裁判所が、より広範な判例情報をインターネット・ホームページ等を活用して、即時的確に公開・提供していくことについては、異論がなかった。
○ 要検討事項
【要検討事項に関する意見】
○ 情報公開の範囲及び方法
【関連して検討すべき項目】
○ 司法に関する総合的な情報提供・相談窓口の設置
○ 弁護士情報の開示・提供
以上