5 会議経過
① 「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について、髙木委員(別紙1参照)及び山本委員(別紙2参照)からレポートがなされた。
② 「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について、「国民の期待に応える刑事司法(審議用レジュメ)」(別紙3)に従って、以下のとおり、意見交換がなされた。なお、次回審議会に予定されている法曹三者ヒアリングのヒアリング項目については、会長、会長代理と刑事ブロック担当の水原、井上、髙木、山本委員が協議の上確定することについて了解された。
(刑事司法に対する国民の期待-その使命・役割-)
○ 刑事実体法については罪刑法定主義の原則が確立されているが、例えば、コンピューター犯罪に関して次々と新たな手法による犯行が考え出されるなど、刑事実体法の改正が新たな時代に対応できているかという問題がある。○ 刑事司法の使命・役割が、実体的真実の発見による適正かつ迅速な犯罪者の処分、適正手続の保障、両者の調和による国民の安全な生活の確保、犯罪者の改善更生、被害者等の保護にあるという点については一致できるのではないか。要は、これらのバランスをどうとるかの問題である。
○ 山本委員のレポートは、刑事司法の現状を基本的に肯定し、大きな改革ではなく部分的な改革を行うべきであるというのに対し、髙木委員のレポートは、人質司法、代用監獄、調書裁判、自白偏重など現状に問題があるという前提の下に、抜本的な改革が必要であるというのであり、両者の発想には大きな隔たりがある。実体的真実発見と適正手続の関係については、手続をきちんと守ることを前提とした上での真実発見であるべきであり、単に両者の中をとって調和させればよいという問題ではない。
○ 精密司法について、我が国に独特のものであるとして否定的にとらえる見解もあるが、諸外国に比べ犯罪発生率や誤判の割合が低い我が国の現状に照らせば、基本的に支持できる。
○ 「死んでしまった」新刑訴という現状に対する否定的な表現は、新刑訴制定時に描いていたアメリカ的な姿が現実の運用の上で我が国に根付かなかったということを表している。しかし、真実発見を重視する精密司法を肯定的にとらえれば、このような表現は当たらない。刑事司法に対して何を求めるのかを議論する必要がある。
○ 国民は、何よりも犯罪の真相解明、実体的真実の発見を求めているのではないか。しかし、それに劣らず、被疑者・被告人の人権保障も重要である。
○ 実体的真実発見と適正手続を並列的に議論すること自体が問題である。適正手続の保障を前提とすべきである。現在の刑事裁判は有罪確認の場となっており、刑訴法の予定するところではない。
○ 国民は、罪を犯してはならないという一種の公的義務を負っていることを忘れている。この点について注意喚起をする必要がある。
○ 実体的真実発見と適正手続の保障のバランスについては色々な考えがあり得るが、実際に適正手続が害されているケースがあるということを確認しておく必要がある。
(刑事裁判の充実・迅速化)
○ 審理の中身を充実させることが裁判の迅速化につながるものであり、裁判の迅速化と充実化とは密接に関連する。○ 公職選挙法違反の審理期間等の制限(百日裁判)については、訓示規定に過ぎず意味がないという意見もあるが、このような規定の存在によって当事者の協力も得やすいという面などもあり、かなりの効果を上げている。同種の制限を他の事件にも及ぼしてはどうか。
○ 現在、審理期間の制限は、公職選挙法違反の一部の事件に限ってのみなされているので、これらの事件が優先的に処理されるなどしてうまく機能しているのであり、これを一般化した場合に有効かどうかは別途検討する必要がある。
○ 長期にわたる刑事裁判の具体的事例の中には、一審に限っても、証人数約200人、公判回数約200回に上るものがある。なぜこのように多数の証人、公判期日が必要になるのかについての原因を把握する必要がある。
(被疑者・被告人の公的弁護人制度の在り方)
○ 被疑者に対する公的弁護制度を導入すべきこと自体について反対は少ないと思うが、運営主体、弁護人側の体制整備など検討すべき問題がある。○ 弁護人の体制という点では弁護士数の問題に、弁護の質のコントロールという点では懲戒制度の問題とも関連するなど、弁護士の在り方のブロックでの議論と連携を取る必要がある。
○ 被疑者段階の公的弁護制度が必要であることについてはほぼ一致できると思う。国選弁護制度、法律扶助制度、公設弁護人事務所等の方式については、必ずしも一つに絞る必要はなく、複数の方式を採用することを考えてよい。公設弁護人事務所的なものを作る必要があると思うが、この方式だけでは、共同被告人間の利害が相反するような場合に対応できない。
○ 弁護士数など各地によって弁護人側の事情が異なるので、全国一律の公的弁護制度を作るのは無理である。柔軟な体制を構築する必要がある。
○ 貧困者に限らず、弁護人選任権の意味を理解できないような社会的弱者に対する弁護の在り方も視野に入れて検討する必要があるのではないか。必要的弁護人制度を捜査段階にも及ぼしているドイツの制度が参考になるのではないか。
○ 被疑者の公的弁護制度を導入するのであれば、捜査段階から公判段階まで一貫して弁護できるような仕組みを考えるべきである。
○ 被疑者の公的弁護制度は、現在捜査機関に傾斜している捜査段階でのバランスを調整しようとするものである。少年事件の公的付添人制度も同様に導入を考えるべきである。
○ 被疑者段階の公的弁護制度を導入することで、弁護人が早い段階から被疑者の言い分を聞くことができるようになり、適正な裁判につながる。
(新たな時代における捜査・公判手続の在り方)
○ 組織的犯罪において、表に出てくる者だけではなく、黒幕をも処罰することを望むのであれば、刑事免責制度等の新たな捜査手法の導入を検討すべきである。○ 取調べの可視化については、被疑者段階の公的弁護制度が導入されれば、弁護人の接見を通じて取調状況が明らかになるという点も考慮する必要がある。
○ 検察審査会の判断に拘束力を認めるか否かを検討するに当たっては、検察審査会の判断に基づき起訴した結果無罪になった場合の国家賠償請求の問題についても考慮する必要がある。
○ 犯罪捜査の大部分は警察が担当しており、刑事司法の問題を考えるに当たっては警察の問題を抜きには考えられず、法曹三者だけではなく、警察からもヒアリングする必要があるのではないか。
○ 起訴前保釈については、我が国では30%程度の事件でしか被疑者が逮捕されていないのに対し、この制度を採用する米国では99%近い事件について被疑者が逮捕されるという前提を踏まえる必要がある。また、被告人の保釈率が低くなっているという指摘もあるが、統計によると、保釈請求自体が少なくなっており、保釈許可率はそれほど変化していない。
○ 保釈請求数が少なくなっているという点については、被告人側が、保釈が認められにくくなっているという状況を踏まえ、請求すること自体を断念しているという面があるのではないか。
○ 非協力な参考人への対策やおとり捜査の導入の当否を検討するに当たっては人権侵害の可能性を考慮する必要がある。
○ 令状の却下率が低いという指摘があるが、却下以外にも却下以前に請求自体を取り下げている事例も相当ある。
○ 令状審査に当たり、捜査機関側の言い分のみを聞き、被疑者側の言い分が反映されないのはおかしい。
○ 令状を発付するためには、捜査機関の主張を裏付ける疎明資料が必要であるし、身柄拘束の関係では、逮捕後、さらに裁判官が被疑者の言い分を聞いた上勾留の当否を判断する仕組みになっている。なお、捜査の密行性という問題もあり、逮捕状、捜索差押許可状請求等の審査の段階で当事者主義を持ち込んでいる国はない。
③ 今後の審議スケジュール
夏の集中審議の日程が別紙4のとおり、夏の集中審議以降の日程が別紙5のとおり決定された。
④ 「国民が利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」について、第23回会議の審議を踏まえ、別紙6(下線部分は23回会議に提出した原案を修正した部分)のとおり審議結果をとりまとめることについて了解された。
⑤ 今後の日程等
予備日とされていた9月18日午前及び10月16日午前について、いずれも午前9時30分から審議を行うこととされ、8月29日以降の審議会(午後開催)については、いずれも午後1時30分から審議を行うこととされた(なお、7月25日、8月4日については午後1時30分開催であることについては前回までに決定済み)。
以上
(文責 司法制度改革審議会事務局)
~速報のため、事後修正の可能性あり~