司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第26回会議 議事概要

平成12年8月2日修正


1 日時 平成12年7月25日(火)13:30~17:10

2 場所 内閣総理大臣官邸大食堂

3 出席者

○ 委員(敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子

○ 政府
森喜朗内閣総理大臣、保岡興治法務大臣、安倍晋三内閣官房副長官、上野公成内閣官房副長官、古川貞二郎内閣官房副長官

○ 事務局
樋渡利秋事務局長

4 議題
○ 内閣総理大臣あいさつ
○ 法務大臣あいさつ
○ 「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について
 ・法曹三者からの説明
 ・質疑応答

5 会議経過

① 森内閣総理大臣からあいさつが行われ(別紙1)、続いて、保岡法務大臣からあいさつが行われた(別紙2)。

② 「国民の期待に応える刑事司法-法曹三者ヒアリング項目-」に対する回答の概括的な説明が、法務省(別紙3:「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について)、日本弁護士連合会(別紙4:「国民の期待に応える刑事司法に関する意見」)、最高裁判所(別紙5:「国民の刑事司法の在り方」に関する裁判所の意見参照)の順に行われ、引き続き、以下のとおり、質疑応答がなされた。

(刑事司法に対する国民の期待-その使命・役割-)

○ 法務省、最高裁は、程度の違いはあるものの、基本的に現行制度の枠組みを維持しつつ改革するというスタンスであるのに対し、日弁連は、我が国の刑事手続においては近代的人権保障がなされていないなどとして抜本的にこれを改革する必要があるとしている。抜本的な改革とは具体的に何をいうのか。
(回答<日弁連>:抜本的な改革の具体的内容は、捜査段階の公正・透明性の確保、捜査段階の客観化・可視化、身柄解放要件の抜本的改革、武器対等原則の実質化などであり、国際的なスタンダードに達していない点を改めるのが重要である。)

○ 日弁連は、刑事司法の中核をなす被疑者・被告人の人権保障において、我が国は欧米と比較して遅れているとし、その理由の一つとして、過去の死刑事件に対する再審無罪事件を挙げている。欧米でも、同種の誤判事件の存在が指摘されているが、この点についてどのように考えるか。
(回答<日弁連>:我が国ではえん罪事件を生み出す構造的要因がある。即ち、捜査、公判を通じて存在する自白中心主義であり、この点を根本的に改善する必要がある。)

○ 日弁連は、被疑者・被告人から考えるのが重要であるというが、国民の期待に応える刑事司法の在り方を検討するに当たっては、被害者や一般国民など他の立場の国民のことも考える必要があるのではないか。
(回答<日弁連>:刑事事件の特質は国家刑罰権の発動という点にあり、その対象となる被疑者・被告人の立場が基本的に重要な事柄である。被害者の立場も重要であるが、事実関係が争われる被告人との関係で言えば、被告人が加害者であることが確定した段階で、検討すべきことである。また、弁護活動の中では、示談などを通じて被害者の被害回復に向けての取り組みも多くの事件で行われている。)

○ 日弁連は、自白中心主義というが、法律上、自白のみでは有罪とすることはできず、補強証拠が必要であるとされていることはどのように考えるのか。また、被疑者が真に更生改善したいという意思の下に、真摯に自白するということも否定的に考えるのか。
(回答<日弁連>:補強法則は憲法上の原則であり、自白中心主義といっても自白だけで起訴されているという趣旨ではない。被疑者が真実を話したいという意図の下に自白することは問題ない。しかし、被疑者は簡単に虚偽の自白をすることもあり、個々のケースでその信用性を吟味する必要がある。自白を裏付けるものが何かは個々の事件毎に異なり、難しい問題である。)

○ 裁判所の意見書に、「国民が刑事司法に対して望んでいるのは、何よりも個人の権利を尊重しつつ、安全で平和な市民生活が送れる社会の実現に最大限寄与すべきことであろう」という記載があるが、これは行政機関である警察の発想ではないか。司法に期待されるのは行政のチェックであり、このような行政的な発想が、令状審査において、裁判官が、請求を却下することなく、撤回させることにもつながっているのではないか。
(回答<最高裁>:御指摘の記載はいわば結果の部分で、公正な手続の下に実体的真実を明らかにし、適正迅速な裁判を実現するという司法手続を通じてこのような結果の実現に寄与するという趣旨であり、このような結果を直接的に実現することを考える警察の発想とは異なる。また、裁判官が令状請求を請求者に撤回させているのではなく、請求者が裁判官の指摘を踏まえ撤回したいという場合にこれを認めるというものである。)

○ 法曹三者とも、現行制度には種々問題があるという認識であるが、どのような方向、スタンスでこれらの問題点を解決しようと考えているのか。
(回答<最高裁>:現状は、公正な手続で実体的真実を明らかにするという点では問題ないが、刑事裁判の充実・迅速という点では問題があると考えている。その問題点に対する具体的改善策は弁護態勢の強化など意見書に記載しているとおりである。)
(回答<法務省>:我が国では諸外国に比べ捜査機関の権限が制限されているということを認識する必要がある。人権保障も犯罪摘発もいずれも重要である。これまでは捜査手段についての議論がほとんど不可能に近い状態であった。そのために、人権保障の面からの改善の主張もかえってその実現を困難にさせてきた。公判審理の形骸化という点については、争いのある事件でどのようにして争点整理をし集中審理を実現するかを検討する必要がある。自白の真実性をどのようにして担保するか、今後増加することが予想される自白の獲得が困難な事件にどのようにして対処していくかも検討すべき。)
(回答<日弁連>:国家・捜査機関と被疑者・被告人が対峙する構造の下では、捜査機関の有している証拠の開示が重要であり、当事者間の武器対等を実現して欲しい。最終的には陪審制度を実現することが理想。)

(刑事裁判の充実・迅速化)

○ 日弁連は、審理期間等の法定に反対しているが、訓示規定として個々の事件の個性に応じて柔軟な取扱いを許容するという柔軟な仕組みとしても反対するのか。集中審理に対応し得る関係者の態勢が整った段階でも反対か。
(回答<日弁連>:事件が長期化している理由は、弁護側だけではなく、検察側の起訴や証拠開示の在り方に問題があるのであって、これらの問題を解決するのが前提となる。この前提が整えば、審理期間について訓示規定を設けることを検討してよいのではないか。また、集中審理に対応し得る態勢が整うのであれば、そもそも審理期間等を法定する必要性はない。)

○ 弁護人に限らず、裁判所や検察官でも集中して公判期日を入れることに対応しきれていないのではないかとの日弁連の指摘に対する考え方如何。
(回答<最高裁>:公判期日を集中的に指定することに裁判所側の支障はない。月に4回の期日を入れることでさえ、弁護人から反対されるのが実情である。)
(回答<法務省>:公判専門部がある庁はもちろん、置かれていない庁でも複数の検事で事件を担当するなど組織的に柔軟な対応が可能なので、集中的な公判期日の指定について検察側の支障はない。)
(回答<日弁連>:証人尋問等の内容を公判調書でチェックしてから次回公判に備える必要があるので、期日を集中的に入れることについては、公判調書作成に一定の時間を要することがネックとなっている。公判調書がなければ次回公判の準備ができないというのは口頭主義に反すると言われれば、そのとおりだが、捜査段階の詳細な調書が大きなウェイトを持つ現在の刑事手続の在り方を前提にするとそのような形にならざるを得ない。)

○ いわゆる百日裁判が迅速に処理されているのは、これらの事件が少なく、優先処理が可能であるからであり、審理期間等を制限する規定があるからではないという日弁連の意見についてどう思うか。
(回答<最高裁>:百日裁判については件数が少ないので庁を上げて迅速処理できるよう支援しているのはそのとおり。平成11年末で係属年数が3年を超える地方裁判所の事件は全国で100件程度に過ぎないし、審理期間も100日というのではなく、2~3年とゆるやかに設定すれば、一般事件についても対応可能であり、審理期間を法定することは意味があると考えている。もちろん、争点整理手続の整備、弁護態勢の充実、証拠開示の整備等が必要になってくる。)

○ 最高裁の意見書の中で、事前準備について、「裁判官又は裁判所書記官」が手続を主宰するとされているが、具体的にはどのように考えているのか。日弁連としては、裁判官又は裁判所書記官が手続を主宰することについてどのように考えるか。
(回答<最高裁>:普通の事件では裁判所書記官が主宰し、特殊・大型事件では、検察官、弁護人を交えて打ち合わせすることが必要になるので、裁判官が主宰することを考えている。)
(回答<日弁連>現状でも、書記官からの事前準備の要請に大抵の弁護人は応じており、書記官が主宰することに問題はない。ただし、予断排除の関係で、裁判官の目に触れないようにしなければならない。裁判官が事前準備を主宰することについては、予断排除の問題が出てくるので、軽々に賛成できない。)

○ 予断排除の原則の趣旨は、裁判官が検察官の抱いた心証を引き継がないということにあるのだから、検察官、弁護人の双方立会の下で、裁判官が争点整理に必要な範囲で事件の中味に入って、争点整理手続を主宰して行っても、予断排除の原則に反しないと言えるのではないか。
(回答<日弁連>:第1回公判前の予断排除の原則は重要なものと考えているが、御指摘の点はさらに検討したい。)

○ 刑事弁護態勢拡充の具体的方策についてどのように考えているか。
(回答<日弁連>:弁護態勢の弱体化と言われるが、私選と国選とで分けて考える必要がある。私選では弁護態勢が十分整っている事件もある。国選では、弁護人報酬の額等種々の問題がある。)

○ 証拠開示について、法務省は基本的には現状に問題がないとし、日弁連は問題があるとしているが、実際のところはどうなのか。
(回答<最高裁>:法務省、日弁連ともやや一面的な見方ではないか。証拠開示が実務上問題になっているのは確かであり、裁判所から検察官への開示勧告にとどまらず、証拠開示命令も出されている。)
(回答<法務省>:検察官請求予定証拠は事前開示しているし、それ以外の証拠についても最高裁判例を踏まえ柔軟に対処している。以前の公安事件等で紛議が多数生じていたが、最近では、個別特殊なケースを除き、深刻な状況にない。)
(回答<日弁連>:証拠開示の問題は必ずと言っていいほど生じる。最近の著名なケースでも、証拠開示の紛議の解決に1年以上要した事例や検察官が裁判所の勧告に従わず紛糾した事例がある。証拠開示がなされなかったためにえん罪が生じた例が多数ある。)

○ 法務省としては、争点整理手続等とセットであれば、証拠開示の拡充に反対しないということのようであるが、公訴事実に関する被告人の供述調書、検察側証人の主要な供述調書、証拠物その他の客観的証拠については、第1回公判前に開示すべきであるという最高裁の提案についてはどのように考えるか。
(回答<法務省>:現状でも請求予定証拠を開示しているが、それ以外の証拠についても、争点整理手続の中で、争点整理に必要な証拠を開示するという方向でルール化するのであれば考慮に値する。

○ 証拠開示に伴う弊害を具体的に教えていただきたい。
(回答<法務省>:供述調書の内容を書いたビラをまいて供述人に心理的圧迫を加える例、供述調書がマスコミに流れて報道され、関係者が多大な迷惑を被るという例などがある。また、関連性の乏しい証拠を開示することによってかえって審理が錯綜することもある。)

○ 証拠開示の拡充の趣旨は分かるが、なぜそこから一気に全面開示へと結びつくのか。関係者のプライバシー、弊害、必要性も考慮する必要があるのではないか。
(回答<日弁連>:捜査機関が有する証拠は、公費を使って収集したものである以上、全面開示を要求しても不当ではない。全面開示を受けた上で、被告人の防御にとって必要か否かを弁護人が判断すべき。弊害については、部分的に開示しないなどの方法で対処が可能。)

○ 最近の著名なケースを見ても証拠開示が実務で問題になっているのは明らかであるにもかかわらず、問題がないと答える法務省の姿勢には問題がある。
(回答<法務省>:個別の事件で問題があるかどうかは別に、全体として見れば、法と判例に従って適切に処理されているという趣旨を申し上げた。)

○ 日弁連としては、証拠開示のルールを明確化するについて、事前全面的開示に譲歩の余地はないのか。
(回答<日弁連>:第1回公判前の全面開示は極めて重要であると考えている。もちろん、プライバシー等の関係で個別の例外的配慮はあり得る。)

○ 日弁連の意見書によると、弁護人が訴訟指揮に従わないことによって訴訟指揮権の行使が妨げられる事例はないということであるが、裁判所の認識如何。
(回答<最高裁>:弁護人が過度に詳細な反対尋問を行い、裁判所が関連性・必要性がないなどとして尋問を制限しても従わず、その結果、審理が長期化する例があるというのが現場の裁判官の認識である。)
(回答<日弁連>:弁護人としては、刑訴法321条に関する裁判所の運用の実情に照らすと、後に捜査段階の供述調書が採用されることを見越して、その信用性等に関する尋問を行う必要がある。裁判所は供述調書を見ていないから尋問の趣旨が分からないのであり、無駄な尋問ではない。)

(被疑者・被告人の公的弁護の在り方)

○ 被疑者段階の公的弁護の方式について、日弁連として、これまで種々の案を公表しており、意見書にもこれらの案が列挙されているが、現在、どの案がベストであると考えているのか。
(回答<日弁連>:被疑者・被告人を通じた統一的制度が望ましいと考えており、国選制度が最も望ましいのではないか。)

○ 意見書によると、ガイドラインの策定等弁護活動のコントロールの問題について、弁護士会が担っていく必要があるとしている。弁護士自治との関係があるのは分かるが、弁護士自治は国との関係での問題であり、国の介入を排するというのは分かるが、そこに一般国民の声を反映させることを否定する理由にはならないのではないか。
(回答<日弁連>:弁護活動のコントロールは基本的には弁護士会の責任で行っていくことである。しかし、国民の参加・関与を認めるべきであるという声があるのは認識しており、今後の検討課題であると考えている。なお、綱紀・懲戒手続は弁護士だけで行っている訳ではない。)

(新たな時代における捜査・公判手続の在り方)

○ 代用監獄を全面的に廃止するという案は、新たな施設整備の必要性、代用監獄のメリット等を考えると非現実的ではないか。
(回答<日弁連>:司法予算を拡大すればよいし、代用監獄のメリットとして指摘されていることが失われても、現に逮捕段階から拘置所に留置している例も相当数あるのだから、それなりの対応はできるはず。)

○ 日弁連は、接見交通の問題事例として、1981年の芸大バイオリン事件を挙げているが、現在ではスムーズに運用されているのではないか。福岡での実情を聞いた際にも接見交通の運用に問題はないということであった。
(回答<日弁連>:現在でも実務で一般的に問題があると認識している。)

○ 保釈の運用状況に関して言われる人質司法という批判について、どのように考えるか。
(回答<最高裁>:統計上、保釈許可率は変わっておらず、保釈件数が減っているのは保釈請求件数が減っているからである。保釈件数が減っている要因としては、国選弁護人選任率が上がっていること、審理期間が短縮していること、薬物犯罪・外国人事件が増加していることなどが考えられる。)
(回答<日弁連>:保釈請求件数が減っているのは、保釈請求しても認められないという諦めや保釈保証金額の高騰によるものではないか。)

○ 非協力な参考人等への対策が必要であるというが、必要性を具体的に説明していただきたい。
(回答<法務省>:現行の起訴前の証人尋問制度は要件が厳格であり、利用しにくい。参考人が捜査機関の出頭要請に応じない例が少なからず発生している実情に照らすと、何らかの手当が必要。)

○ 取調べの可視化の関係で、取調状況のテープ録音等が真相解明の点から問題があるということを具体的に説明していただきたい。可視化の手段として、取調経過を書面で記載するという方法が挙げられているが、これを取調担当者が作成するというのであれば意味がないのではないか。
(回答<法務省>:一番事情を知っている可能性のある者から事情を聞くのが常道であり、被疑者の取調べは最も重要である。自白がなければ真相解明できない事件はたくさんあり、自白を得ることが悪いのではない。被疑者が重大な事実を自白する瞬間、立会事務官を外してくれと頼まれたり、弁護人には内緒にしてくれと頼まれたりすることがあることからも明らかなように、他人に見られていては真実は話せない。テープ録音をされたのでは、自白は引き出せない。可視化は大切だが、接見回数の増加、被疑者弁護の充実、取調経過の記載等で対応すべき。)

③ 次回の審議予定
  次回審議会は、8月4日午後1時30分から、「国民の期待する刑事司法の在り方」について、各論点項目についてとりまとめに向けた意見交換を行う。

以上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

~速報のため、事後修正の可能性あり~