司法制度改革審議会

第26回司法制度改革審議会議事録

第26回司法制度改革審議会議事次第



日 時:平成12年7月25日(火)13:30 ~17:10

場所:内閣総理大臣官邸大食堂

出席者(委員、敬称略)

佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子

(内閣)
森喜朗内閣総理大臣、保岡興治法務大臣、安倍晋三内閣官房副長官、上野公成内閣官房副長官、古川貞二郎内閣官房副長官

(説明者)
古田佑紀法務省刑事局長、宗像紀夫最高検察庁総務部長、城口順二日本弁護士連合会副会長、浦功日弁連刑事弁護センター委員長、白木勇最高裁判所事務総局刑事局長、大谷直人東京高等裁判所判事

(事務局)
樋渡利秋事務局長

  1. 開会

  2. 内閣総理大臣あいさつ

  3. 法務大臣あいさつ

  4. 「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について
    (1)法務省・日本弁護士連合会・最高裁判所からの説明
    (2)質疑応答

  5. 閉会

【佐藤会長】それでは、ただいまより第26回の会議を開会いたします。本日の議題は前回に引き続きまして、「国民の期待に応える刑事司法の在り方」を取り上げることとしております。

 内容としましては、法務省、日本弁護士連合会、及び最高裁判所からのヒアリング及び意見交換を予定しております。

 本日は森内閣総理大臣、それから保岡法務大臣に御臨席賜っております。大変お忙しい中ありがとうございます。

 なお、中川官房長官も御出席の御予定でございましたけれども、直前に急用が入りまして、やむを得ず御欠席ということでございます。お知らせ申し上げておきます。

 それでは、まず総理大臣よりごあいさつをちょうだいしたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

【森総理】21世紀の我が国の在り方を決定づける大きな要素の一つであります司法制度について、その改革の基本的な方向を描き出すという重要な責務を担われているこの審議会も、発足以来1年を迎えられました。内閣が最終的な御意見をいただくまでに余すところちょうど1年ということになります。私は内閣総理大臣就任後初めて出席いたしました去る5月31日の第20回会議においても、ごあいさつを申し上げましたが、先の総選挙を終えまして、新たな内閣が発足したところでもありますので、折り返し地点に差し掛かったともいえる本日のこの会議の開会に当たりまして、一言ごあいさつを申し上げたいと存じます。

 私は去る7月4日、再び内閣総理大臣の重責を担うことになりました際、国民の皆様に対して、安心して夢を持って暮らせる、心豊かで美しい、世界から信頼される国家の実現を目指して、「日本新生プラン」を政策の基本に据えるとともに、司法制度改革についても政策の柱の一つとする旨を申し上げました。我が国は現在グローバル化、情報技術革命、少子高齢化といった世界的な時代の大きなうねりの中にあり、社会が「事前規制型」から「事後チェック型」へと移行するなど、我々は今、「次なる時代」に向けて、これまでのシステムや「ものの考え方」を変革せねばならないという課題の前に立たされております。そうした中、国民の基本的人権を擁護し、権利の実現等を最終的に担保する司法の機能を充実強化し、国民に身近で利用しやすい司法制度を構築することにより、司法に高い信頼を置く社会の基礎を整えることは、次代を担う人々に対して、今我々がなしうる本当の貢献と言うことができるのではないでしょうか。

 今後とも、委員の皆様の冷静な洞察と熱意あふれる御議論をもちまして、新たな時代の我が国の確固たる基盤となる司法制度の将来像を描いていただき、「新生日本」の実現に向けた大きな歩みとしていただきますよう、私といたしましても、当審議会の御審議に対して、政府を挙げて協力、支援に努めてまいりたいと考えておりますので、引き続き、皆様方の御尽力を心からお願い申し上げまして、私のごあいさつといたします。

 どうぞよろしく願いいたします。

【佐藤会長】ありがとうございました。
 続きまして、保岡法務大臣よりごあいさつをいただきたいと思います。

【保岡法務大臣】この度、法務大臣に就任をいたしました保岡興治でございます。どうぞよろしくお願いいたします。会長、会長代理を始め、委員の皆様方には、大変御多用の中を、昨年7月の本審議会設置以来、本当に御熱心に御審議を賜りまして、いろいろと実りある御議論を進めておられますことを心から深く敬意を表するものでございます。

 司法改革の重要性については、申し上げるまでもないところでございますが、私もその重要性について痛感して、これまでも一生懸命頑張ってまいりました。ただいま総理のごあいさつの中にもありましたとおり、総理から、今般司法制度の改革を森新内閣の重要な政策の柱として位置付けるということを御説示いただいたところでございます。本審議会の審議につきましては、国会対応が必要なことも出てまいりますれば、私がその責任を全うしていかなければならない。そして、皆様方の御審議が円滑に進んでいくように、最大限御協力を申し上げるつもりでございます。

 なお、これまでの審議、あるいは今までこの審議会が設置された経緯などから、21世紀には行政がむしろ規制緩和や過剰な介入を控えて、国民に知恵と工夫、創意工夫を自由にしていただく中で、健全な活力ある国を、そしてより成熟した社会をつくりあげていこうということにあると思うのですが、それを支えるためには、やはり土台として行政とともに、あるいは行政に代わって、それを支えるルール、そしてそれを本当に実現していくシステムというものが非常に重要になってくると、日本が21世紀に素晴らしい国家として進んでいく上においては、司法がどれだけいいものをつくりあげているか、そしてそれがどう運営されているかということが本当に大切なことだろうと思っております。そういった意味で、やはり皆様方の審議会の結論というのは、将来の日本にとって非常に重要なテーマであって、私は、21世紀の日本が世界で本当に立派な国となっていけるかどうかは司法の整備いかんにかかっていると思っております。

 総理のIT戦略会議や産業新生会議でも、こういう社会の国際化や複雑化や多様化などの中で法整備がどんなに必要かということが次々に意見として出されておりますし、そういったものの需要に応えるためにも、司法の拡充・強化というものはとても大切だと思います。

 そしてまた、行政の改革という中で、行政はスリム化、減量化をすべきだけれども、司法は充実強化だということをどうやって予算や定員に反映させていくかということが、政治として非常に重要だと思っております。総理におかれまして、司法改革を重要な施策の柱にしていただいているのでございますが、行政改革の基準で司法を査定していく、人員を査定していくということになりますと、どうしても限界があるということで、やはり刑事局、民事局の立法の必要性、そのボリューム、あるいは入管局のボリュームが拡大していくこと、あるいは人権擁護の問題が拡大していくこと、あるいはまた行政訴訟がどんどん増えていくことなどを考えると、法務省、あるいは司法、裁判所の予算や定員というものは、よほど新しい政治的なメリハリを付けないと、みんなそれぞれ重要な中で査定していく大蔵省の査定の中で、なかなか芽を出していくことが難しいという問題があろうかと思っております。そういった意味で、是非総理や官房長官や内閣の皆様と一緒になって、司法の拡充強化の予算面、人的な面においても、今後努力をしていかなければならないと、それが我々政治家の責任ではないかと強く思っているところでございます。

 どうぞこれからも御指導、御鞭撻を心からお願い申し上げまして、ごあいさつに代えさせていただきたいと思います。

 よろしくお願いいたします。

【佐藤会長】ありがとうございました。
 政府側では政務の内閣官房副長官、お2人が交代されていますので、御紹介申し上げます。
 安倍官房副長官でございます。よろしくお願いいたします。
 それから、上野官房副長官でございます。よろしくお願いいたします。
 ここで、森内閣総理大臣と保岡大臣、それから官房副長官は、公務のため御退席になられます。
 本日はどうもありがとうございました。

(森総理、保岡法務大臣、官房副長官退室)

【佐藤会長】それでは、主な議題であります「国民の期待に応える刑事司法の在り方」に関しまして、御審議賜りたいと存じます。
 審議に入る前にお諮りしたいのですけれども、本日は報道関係者に室内での傍聴を認めたいと考えております。実は既に入っていただいております。
 普段の審議室ではモニターによる別室での傍聴としておりますが、官邸にはそのような設備がないということ、特に今回は刑事司法に関する法曹三者ヒアリングということで、終了後の記者会見ですべての事項を説明し直すよりは、直接聞いていただいた方が正確に取材してもらえるのではないかということも、その理由でございます。それから、席の余裕も若干ございましたので、既に入っていただいたわけでございますけれども、こういう措置を取らせていただいたことにつきまして、御了承いただけますでしょうか。

(「異議なし」と声あり)

【佐藤会長】ありがとうございます。
 それでは、本日は「刑事司法」の2回目ということで、法曹三者からのヒアリング及び意見交換を行いたいと思います。

 なお、次回8月4日の審議会では、一応のとりまとめを目指すということになっておりますので、その点、お含み置きいただければと存じます。

 法曹三者におかれましては、本日のヒアリングに向けて、詳細な資料を御準備いただきまして、厚く御礼申し上げます。

 本日、説明のためにお越しいただきました方々を御紹介させていただきます。
 法務省からは、古田佑紀刑事局長でございます。それから、宗像紀夫最高検察庁総務部長にもおいでいただいております。
 次に日本弁護士連合会からは、城口順二副会長でございます。それから、浦功刑事弁護センター委員長にもおいでいただいております。
 最高裁判所からは、白木勇刑事局長でございます。それから、大谷直人東京高等裁判所判事にもおいでいただいております。

 以上の方々でございます。本日は本当にお忙しいところ恐縮でございます。よろしくお願いいたします。

 それでは、法務省、日弁連、最高裁の順番でそれぞれ10分程度ずつ御説明をいただきたいと思います。その後で三者一括して質疑応答を行いたいと考えております。
 それでは、まず最初に法務省からよろしくお願いいたします。

【法務省(古田刑事局長)】本日はヒアリングの機会を与えていただきまして誠にありがとうございます。既に水原委員、髙木委員、山本委員の詳細なレポートも拝見しておりまして、そういうことも踏まえまして、私たちの考えているところあるいは感じているところを、この機会に率直に申し上げまして、御審議の御参考にしていただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。

 さて、21世紀を目前にいたしまして、我が国のあるべき刑事司法の使命、役割を考えるに当たりまして、まず現状で刑事司法がどのような役割を担っているか、国民がどのような期待をされているかということをみる必要があると思います。そういう点から申し上げますと、日本の刑事司法というのは、その守備範囲が極めて広いということに気づくのでございます。

 日本の刑事司法は、殺人、強盗など、どのような社会でも共通に犯罪とされるものは勿論のこと、事故・災害などの過失犯、あるいは環境犯罪、金融経済犯罪、組織化された犯罪、最近では家庭内犯罪などのいわゆる社会的弱者の保護に関する犯罪に至るまで、非常に多岐にわたる犯罪への対応が求められております。

 ちなみに、英米法系の国におきましては、過失犯は原則として犯罪とはされておりません。また、大陸法系の国におきましては、独占禁止法違反のようなものは必ずしも犯罪化されているわけではございません。日本はこれらのものをすべて刑事司法で対応するという仕組みになっているのでございます。

 また、最近の状況を申し上げますと、その顕著な傾向といたしまして、その対応がある一つの国だけでは困難で、国際的な連携が迫られる犯罪や、異なった文化や刑事司法の制度運用を背景とする外国人による犯罪が増加してきております。

 これに加えまして、家庭・地域などにおきます紛争防止機能あるいは紛争処理機能が弱体化していることは否めず、これに伴いまして、これまで家庭や地域が担っていた日常の市民生活レベルにおける各種の紛争への対応も、刑事司法の対応範囲として拡大してきております。

 このような刑事司法の守備範囲の拡大、あるいは対応の視点とか方法の多様化と申しますのは、今後の社会の高度化、大規模化、国際化などに伴いまして、21世紀に向かって更に加速することが予測されるという状況でございます。

 このように守備範囲が拡大した刑事司法に期待を寄せる国民と申しますのは、必ずしも一様ではございません。刑事司法に登場する国民を大きく分けますと、1番目は、被疑者・被告人としての国民、それから2番目としては犯罪被害者としての国民、3番目には目撃者・証人などとしての国民、それから4番目として、そういうこととは一応無関係な、一般の他の国民の方々という4つの立場があるわけでございます。

 この4つの立場でそれぞれ、主として求めている点というのは異なっていると思われます。すなわち、被疑者・被告人は人権の保障を主として求め、被害者は犯人の処罰を求める。目撃者・証人の方などは、刑事司法には協力するにしても、できる限り負担が軽いことを願うと思います。更に、一般の方々は、犯罪が的確に検挙されて、社会の安全秩序が維持されることを期待していると思われます。

 こういうふうにいろんな視点がございますことから、どういう視点からとらえるかということは大変難しいわけでございまして、21世紀のあるべき刑事司法の使命・役割を考える場合には、このような多様な要請にどのようにしてバランスよく応えていくかということが必要であろうと考える次第でございます。

 ところで、法務省刑事局は、刑事基本法を所管する立場でございまして、捜査・弁護・裁判から刑の執行に至るまで、法務省全体として刑事司法全般について、そのあるべき姿を考えるべき立場でございます。そして、これまでも国民の多様な要請の調整に配意しながら、刑事司法のいろいろな課題に対処するための検討を行ってまいりました。

 しかしながら、現行刑事訴訟法施行後50年間、その間に生じました刑事司法の課題に対処するための現実的な立法的解決は極めて困難でございまして、特に捜査手段については、その議論もほとんど不可能に近い状態が続いていたわけでございます。刑事司法はしばしば被疑者、被告人の立場からのみ議論され、捜査権限などの強化に対しては、一種の拒否反応というものがあったような感じを受けております。

 しかしながら、一国の刑事司法は全体が言わば一個の有機体として、真相解明や人権保障の要請のバランスを保ちながら存在しているわけでございまして、そういう面から言いますと、外国の制度の一面、特に人権保障のそれが、我が国の刑事司法システムと全体的な比較をすることなく、かつ、それぞれの国においてそういう制度が可能となるような関連諸制度も含めた法制度全体やその運用の実情と切り離された形で、我が国の刑事訴訟システムに対する批判として紹介されることが少なくなかったように思われるわけです。こういうようなことが、先ほど申し上げました種々の立法的解決の議論等を言わば閉塞させるような方向へ拍車を掛けたという感じを持っております。

 その結果といたしまして、刑事司法が直面する隘路への対処は、現行法の解釈や運用にその多くを委ねざるを得ない結果となった一方で、人権保障の面からの改善の主張もかえってその実現を困難にさせてきたというふうに思われるところがございます。

 21世紀におきましては、我が国の刑事司法の守備範囲の広さ、国民の刑事司法に対する期待の多様さを踏まえながら、複雑化、大規模化、国際化する社会の中で、刑事司法システムがその基本的役割を果たしていきます上には、今後更に多くの困難が生じることが予想されます。

 具体的には、犯罪自体の認知の困難さ、犯人を特定するための資料の入手の困難さがますます増加をいたしますとともに、外国にある証拠の入手などに関する制約の負担も一層大きくなる一方で、人権保障面からの改善の要求も強まると思われるわけでございます。このような状況に対応するためには、新たな捜査手法等の導入も含んだ刑事司法の機能強化と、人権保障の改善の両面について、バランスの取れた現実的な検討が行われる必要があることを痛感しております。

 我が国の刑事訴訟法は、戦後アメリカ法の影響を強く受けて制定されたと言われております。戦前認められていた大陸法的ないろいろな警察権限が廃止される一方で、当時既にアメリカにおいて採用されていた、免責その他の供述確保の仕組みを含むさまざまな捜査手段については導入されず、かえって英米法的な警察の権限行使、例えば無令状逮捕などでございますが、こういうことも著しく制限されました。

 加えて、裁判所は専ら捜査権限行使のチェック機関として位置づけられ、公判においても、裁判所の訴訟指揮権を担保する制度も導入されませんでした。

 こうして我が国の刑事司法制度は、その実質を見ますと、他の国の制度と比較いたしますならば、全体として捜査権限、司法機関の権限のいずれも大幅に制限した、かなり独特のシステムになっていると言わざるを得ないと思っております。このような観察はこれまで理解されてきたことと違うという印象をお受けになる方も多いかと存じます。

 そこで、もう少し詳しく我が国の捜査機関の権限について各国との比較を試みてみますと、英米独仏などの主要各国は、いずれも広範囲にわたる無令状逮捕を許容しているのに対し、我が国は現行犯の場合を除き、令状主義が徹底しております。

 捜査段階における身柄拘束期間は最長23日間と極めて短く、最長60日のアメリカの連邦の制度や、事実上無制限となるドイツ、フランスとは比べるべくもない状態でございます。一方で刑事免責などの捜査手法が認められていない点も先ほど申し上げたとおりです。更に申し上げたいことは、捜査機関の権限を比較する場合は、直接にその捜査機関の権限とされているものだけではなく、捜査機関が利用できるほかの権限、特に裁判官等の権限をも対象として考えなければならないと思います。

 若干の例を挙げますと、フランスでは予審という制度がございますが、これは実質的な捜査機関でございまして、これが捜索差押え、鑑定、証人尋問、そのための出頭強制、通信傍受など、極めて強大な強制捜査権を持っております。警察を仮に捜査機関といたしますと、警察は予審判事から共助の嘱託、フランスではそう呼んでいるわけですが、それを受けるという形で予審判事の権限を利用することができます。この共助嘱託は日常的に大変多くなされております。

 アメリカにおきましても、検察官は、大陪審という非常に強力な捜査機関が捜査権限、これは具体的には、証人の出頭、あるいは証拠書類、証拠物の提出を命ずることを重い刑事罰で担保する命令状の発布などでございますが、そういうものを利用できることになっております。

 今申し上げましたように、我が国の捜査機関の権限は、その利用できる裁判官等の権限も含めて観察した場合、やはり相当に制限されていると言わざるを得ないということを改めて申し上げたいと思います。

 それにもかかわらず、捜査機関は国民から刑事事件における真相の解明を強く期待されております。また、検察官は当事者主義の訴訟構造の下におきまして、当事者として自ら有罪を主張・立証する責務を有しているわけでございまして、その関係からいたしまして、十分な捜査を尽くし、有罪を得られる確実な嫌疑が認められるものに限って起訴することが、職業倫理上も当然とされているわけでございます。

 このような真相解明を義務付けられた捜査機関がこれまで捜査手段の中心としてまいりましたのが、取調べ特に被疑者の取調べであったわけでございます。

 むしろ現行の刑事訴訟法上、捜査手段が限定されていること、捜査のための身柄拘束期間が短く、その間に事件を解明しようとすれば、被疑者の真実の供述を得ることが最も効果的で、被害者などほかの関係者に対して負担を掛ける程度も少なくなること、例えば殺意でありますとか、よく言われます賄賂罪におきますどういう趣旨であったかの認識、こういうふうな内心の主観的要素と呼ばれるもの、こういう問題についての認定方法など、言わば日本には事実認定法則というべきものがないこともありまして、裁判所に、自白がない場合の状況証拠による事実認定が必ずしも定着していない。こういうふうなことなどの理由によりまして、真相解明の責務を果たすためには、結局は、取調べによらざるを得なかったというのが実態ということであろうと存じます。

 ところで、こうした取調べを中心とした捜査手法に対しては、自白の偏重、自白の強要を招き、冤罪の温床となるというような批判もなされ、いわゆる取調べの可視化を図るべきとの主張もなされております。

 過去に取調べにおいて問題のある事例が幾つか見られたことからすれば、確かに取調べの適正の確保というのは重要でございます。取調べの可視化の目的も、この取調べの適正を確保することにあるわけですが、その範囲、程度を考える上で留意しておかなければならないことは、刑事司法の目的である事案の真相解明の要請と、被疑者の人権保障の要請とをいかにして両立させるかという点でございます。

 我が国の刑事司法におきます取調べの意義、役割を考慮することなく、外国において採用されている等の理由から、取調べの機能を実質的に失わせてしまうような可視化の措置を導入するとすれば、我が国の刑事司法システムを抜本的に変革して、ほかに真相解明の仕組み等を求めない限り、真相解明と人権保障の要請のバランスが崩れ、刑事司法は国民の期待を裏切る結果となるものと思われます。

 他方、取調べの適正は、いわゆる取調べの可視化の措置だけで担保されるものではなくて、例えば公的刑事弁護制度を含む刑事手続全体の中で、取調べの機能を損なうことなく、人権保障の要請に応える捜査の在り方を考えるということが必要であろうと思います。

 ところで、我が国の弁護体制は弱体であると言われることがございます。弁護活動につきましては、組織に属する検察官と異なり、弁護士による個人差が大きくなりがちであったり、弁護士による事実調査には限界があることなどの問題があることは事実でございます。そこで、弁護士側における弁護の水準を確保するための体制の整備や、弁護人の主張を分析、整理した上で、その当否を明らかにするための捜査及び裁判所における事実調べの在り方などについても検討が必要だろうと考えております。

 一方で、弁護人は関係者の中で唯一真実を知っている被疑者・被告人を擁しているという強みがあるわけでございます。その上に、被告人、弁護人は捜査機関との力の差にかんがみまして、裁判所に合理的な疑いを生じさせるだけで無罪の裁判を得るという目的が達成できる仕組みが取られているわけでございます。

 これに対して立証責任を負っている検察官は、しばしば集められた断片的な証拠を通じて公訴事実を立証せざるを得ず、途中で被告人側の弁解、主張が変われば、その都度その真偽を明らかにするための立証を余儀なくされることとなってまいります。

 本来、被告人は真実を知っているわけでございますから、訴訟の当初において公訴事実に対する認否を行い、争点を明らかにすることが一般的にはできるはずでございます。しかしながら、弁護活動に関する考え方は大変様々であって、中には「弁護人は刑事訴訟における真実の発見に協力する義務はない」という考えを更に拡大して、「被告人が知っている真相、あるいは本来述べていたこととは異なる主張を組み立ててでも無罪判決を得ることも許される」とする考えもあるように感じられるところがございます。

 このような考え方に立った弁護活動が行われる場合には、争点の整理がなされていない段階で大幅な証拠開示をすることは、信用性、関連性の乏しいものも含む証拠に沿って、さまざまな主張をすることを容易にし、審理が錯綜、遅延し、真実の発見という刑事司法の重要な使命の実現を妨げる恐れも否定できません。そのような問題もあって、かつてベスト・エビデンスによる立証というのが強く求められた時期もあるわけでございます。

 したがいまして、証拠開示の拡大を行うためには、まず検察官が証拠調べ請求予定の証拠を開示した段階で、被告人は認否と争点の明示を行い、その上で更に争点に関連する証拠を被告人の有利・不利にかかわらず開示するといった、例えばそういうふうなルールをつくることが是非とも必要であろうと考えております。

 以上、我が国の刑事司法につき、これから議論される上で踏まえていただきたい幾つかの点を申し上げますとともに、具体的な論点の中の捜査の可視化、及び証拠開示について若干触れた次第でございます。

 なお、刑事司法におきます陪審、参審制の問題につきましては、別途国民の司法参加の観点から議論されるということでございますので、その機会に譲ることといたしたいと存じます。

 どうもありがとうございました。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 次に日弁連からお願いいたします。

【日弁連(城口副会長)】それでは、城口の方からいたします。

 (「国民の期待に応える刑事司法に関する意見」1ページから3ページ「5刑事被害者問題に関して」まで朗読)

 今回は陪審制度については意見を述べませんが、意見書にその要旨を述べてございます。ここでは省略をさせていただきますが、今までの問題のほとんどは、この陪審制度の導入によって解決できるのではないかというのが弁護士会の意見でございます。

 終わりに当たりまして、すべての改革は制度改革と相まって、その担い手である「人」の問題にかかっています。日弁連は、法曹一元制の実現を期して、市民から期待される質の向上を図りつつ、必要とされる数を確保して、21世紀の司法を担っていく決意であります。

 この司法制度改革審議会が、21世紀の司法の基盤を築くため、後世の批判に耐えることができる歴史的内容の答申をなされることを期待し、ここに日弁連の意見とさせていただきます。

 ありがとうございました。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 最後に最高裁判所からお願いいたします。

【最高裁(白木刑事局長)】それでは「国民の期待に応える刑事司法の在り方」に関する裁判所の意見を申し上げます。

 事前にお手元に配付させていただきました裁判所の意見を御覧いただければと存じます。

 私ども刑事司法に携る者が心すべきことは、何よりも個人の権利を尊重しつつ、安全で平和な市民生活が送れる社会の実現に最大限寄与すべきことであると考えます。刑事司法の分野では、往々にして国家と市民の対立、緊張関係が避けられないものでありますだけに、公正な手続を構築することが極めて重要と考えます。裁判所といたしましては、司法手続の最終的な担い手として、公正な手続の下に実体的真実を明らかにして、適正で迅速な裁判の実現に最大限の努力を続けていかなければならないと考えております。

 (「『国民の期待に応える刑事司法の在り方』に関する裁判所の意見」1ページ「第1刑事司法に対する国民の期待」から3ページ11行目まで朗読」 )

 そういった観点から、私どもの考えております「刑事裁判の充実・迅速化のための改善策」を申し上げますが、刑事手続の順序に従って御説明するのが分かりやすいかと存じます。

 まず起訴の在り方の問題でありますが、起訴の絞り込みが厳しいという実務の運用は、むやみに被告人の立場に立たせないという意味で、裁判に伴う国民の負担を軽減するとともに、効率的な刑事司法を実現しているということができますので、基本的に評価されるべきであります。

 ただ、やや厳し過ぎるいう感もないではありませんので、起訴基準を運用上、若干見直してはどうか。また、検察審査会の議決の効力を強化してはどうかと考えます。

 次に「事前準備と争点整理の義務化」が必要であると考えます。

 長期化する事件では、十分な準備をしないまま、あるいはあえて争点を明らかにしないまま公判に臨む弁護人が少なくありませんので、事前準備、争点整理を法律で義務付け、同時に、これまで予断の問題がネックとなってその問題に裁判所が立ち入ろうとしても、弁護人に抵抗がありましたので、そういった手続を裁判所、または裁判所書記官が主宰することができるようにすることが必要であると考えます。

 次に「期日の確保と審理期間ないし開廷ペースの設定」の問題でありますが、審理長期化の最大の原因が、審理ペースが緩やかにすぎるところにありますので、法律レベルで審理の終結時期を定めるとともに、多数回の公判を要する事件については、開廷ペースの定めを置くことが必要であり、その趣旨に著しく違反した訴訟活動を行う者に対しては、適切な懲戒等の措置が必要であると考えます。

 そして、集中審理を実現するためには、それに対応できるように弁護の態勢を整備する必要がありますので、アメリカの公設弁護人と同様、あるいは類似の制度の創設、それから、私選弁護人の場合には、弁護士事務所の法人化、弁護士活動の共同等を図る必要があると考えます。

 また、刑事司法の重点が捜査に移っている現状からして、弁護士会の当番弁護士制度を一歩進めて、公的費用による被疑者段階の弁護制度を創設することが望ましいと考えます。

 次に、公判において捜査段階での供述の任意性、信用性が問題になった場合に、その判断に困難を来している現状にかんがみ、誤判防止の観点からも、取調べ段階で捜査官がリアルタイムで「取調経過表」を作成するなど、客観的な手段で供述の状況が把握できるような方策が必要であると考えます。

 更に事前準備と争点整理を実効的に行うためには、適正な範囲で一定のルールの下に、第1回公判前の証拠開示について法定し、その手続を公判裁判所が主宰できるようにすること、 同時に、開示された証拠について、弁護側の濫用があった場合には、厳しい懲戒措置が必要であると考えます。

 最後に、裁判所の態勢の問題であります。

 裁判所としても、過去の誤判に学び、捜査の透明化を進めるだけでなく、研修、研究等を更に充実させる必要があると考えております。

 また、裁判所の適切な訴訟指揮に従うというルールについて、実効性のある方策を考える必要がありますし、そういった方策により集中審理を実現するためには、裁判所の人的、物的態勢も強化する必要があると考えております。

 また、刑事裁判の在り方をより大きな視点からとらえれば、国民に裁判への直接的な参加を求め、法律家以外の視点を導入することも十分検討するに値するところでありますが、これらの点につきましては、機会を改めて御説明したいと存じます。

 以上でございます。ありがとうございました。

【佐藤会長】ありがとうございました。
 それでは、ただいまの法曹三者からの御説明についての質問に移りたいと思いますが、質問は法曹三者ヒアリング項目の順序に従ってまいりたいと思います。
 委員の皆様には、「国民の期待に応える刑事司法(審議用レジュメ改訂版)」もございますので、それも参照しながら御質問いただければと考えております。
 この順番でいってよろしいでしょうか。
 それでは、御承知のように、ヒアリング項目は4つの大きな項目から成り立っており、最初に「1.刑事司法に対する国民の期待」とありますが、まずここから入ってまいりましょうか。この1は理念の話でもありますので、もし御希望であれば先に2の方に入って、あとで1の方に戻ってもいいのでありますが、その辺いかがしましょう。

【山本委員】私も責任がありますので。

 この言及について、私も確固とした意見があるわけじゃないんでございますが、法務省、日弁連、最高裁、それぞれのお立場からのお話を承り、あるいは間違った解釈かもしれませんが、法務省の場合には、日本の捜査等については、諸外国に比べてもいろんな制約があって、そういう中で真実を発見する手段として、取調べの重要性というのは徹底的に大事なんだということ。したがって、いろいろ改善すべきことはあるけれども、基本的には今の取調べ中心の刑事司法というのは存続しなきゃいけないというふうに聞こえました。

 最高裁の場合には、今までの日本の刑事司法の変遷を説明していただいたと同時に、少し行き過ぎている点があるので、基本的には今のシステムを継続すべきだけれども、行き過ぎているところを幾つか修正する必要があるんじゃないかというふうに聞こえました。

 最高裁のこの考え方は私の考え方にフィットするところがあるんでございますが、日弁連にお伺いしたいんですけれども、日弁連の資料、全部は読んでいないんですが、我が国の現在の刑事司法には、近代的な人権保障というのはまだ備えられていないんだという御認識があるということ。そういう中で、最初に大部の資料の1ページ目のところをさっと読ませていただくと、刑事司法が犯罪の多様化とか多発化に対して対処すべきというのは、まだそこまでの段階に至っていないというような記述が一番最初にございまして、基本的に我が国の現在の刑事司法のシステムというのは、根本的に変える必要があるという御認識だというふうに、この書き出しのところでは理解しました。しかし、詳細にレジュメを読ませていただきますと、必ずしもそうではなくて、現在の適正手続を強化するとか、そういった意味では、大きな認識と実際の改善点について、少し表現にずれがあるような気がするんですけれども、そういう考え方でよろしいかどうか。

 今、日弁連にお伺いしているんですけれども、もう一回繰り返しますと、日本の刑事司法のシステムを根本的に変えるというのは、どういうふうな認識をされているんだろうかということなんです。

 例えば、精密司法というものの起訴の在り方、取調べの在り方、公判の維持の仕方とかいったことについて、こういうところは抜本的に変えるべきだという具体的な御提案があるのかどうかということを、ちょっとくどい御質問で恐縮ですが、お聞かせいただければと思います。

【日弁連(城口副会長)】今の点に関してでございますが、まず現在の犯罪が多様化し、あるいは多発化しているという問題について、対処すべき状況じゃないという問題ではなくて、それは当然そのときどきに応じた適切な対応をするというのが当然のことでございます。

 今、最も大切だというふうに述べたのは、現在の刑事システム、司法システムの中に欠けているものは何だろうかと眺めたときに、根本的にまだ国際水準に到達していないいろいろな諸原則、あるいは諸手続があるのではないか。これが御指摘をさせていただいた部分でございます。

 一言で簡潔に述べてしまったものですから、分かりにくかったと思うんですが、その点をまず最初にお答えをさせていただきたいと思います。

 抜本的にこの点を変えていくのが正しいのではないかとか、そういうふうに一つひとつについては、非常に詳しく書いてございます。どうしましょうか。ここで改めて述べた方がよろしいのだとすると、一項目一項目いくということになってしまうので。今日はさわりのところですので、さっき私が最初の部分で、本当に短い文章の中に述べさせていただいたのがポイントなんです。

 抜本的に改革をしてもらいたいという点は、2ページの中ほどから下になりますけれども「捜査段階の公正、透明性の確保」です。抽象化して言っておりますが、ここらの段落の数行にわたるところと御理解をいただければと思います。

 一項一項述べるのは、時間の関係で失礼ですので、この程度申し上げるにとどめますけれども、非常に重視している論点の幾つかを述べております。あと、個々の問題について、新たな制度の創設とか、改善という点については別項で述べるところを御理解いただければと思っております。

【井上委員】続けて日弁連の方にばかりお聞きするのは恐縮なんですけれども、大変力作で、時間をかけて読み通させていただいたものですから。

 まず総論的なところで、全体的な印象としては、一般国民の期待という点の比重が弱いかなという印象を受けたのですけれども、弁護士会の立場として中核にあるのは被疑者・被告人の人権の保障であるととらえられるのはよく理解できるところです。その人権の保障が一番重要であり、それを突き詰めれば無実の人を処罰しないことに主眼があるとされておりまして、これはまことにそのとおりだと私も思います。

 その人権保障の関係で、欧米諸国では近代的人権保障が実現しているが、我が国の場合、それが欠けていると言いますか、十分でないということで、その現れとして、死刑再審事件等の誤判事件が起こっているということを挙げられているのですが、私の承知するところでは、アメリカやイギリスでは、公に誤判であったということが認められた事件だけでも、我が国よりはるかに数が多いのです。死刑が執行済みのものもかなりの数含まれています。ドイツについても、最近の数字は承知しないのですが、少し前のデータによりますと、再審無罪がかなりある。近代的人権保障が実現しているというのに、なぜなんだろうかというふうに疑問に思うのですけれども。ちょっとお答えしにくいかとは思うのですが、どうもその辺のところが率直に言って齟齬があるのじゃないかと思いますので、何かその点について御見解があればお教えいただきたいと思います。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】我が国の刑事手続に関しましては、一番根本的に問題がありますのは、捜査・公判を通じまして、自白中心の捜査手続、公判手続になっていることじゃないかと。それが冤罪を生む構造になっている。日弁連としては、そういった自白中心主義を改善すべきだというのが根本でございます。逮捕されますと23日間取調べを受けまして、それで自白を求められます。捜査も自白を中心に行われておるわけでございます。公判に至りましても、捜査段階の自白調書の任意性、信用性に関する審理に相当の時間が充てられるということもございまして、この捜査、公判を通じて、捜査段階での自白が証拠の中心に据えられておる。こういう構造が問題である。それが誤判を生む構造であって、その構造が変えられなければ日本の誤判を生む構造は変えられない。諸外国の例につきまして、誤判はあるかもしれません。しかし、日本の刑事手続の、今持っておるような構造は諸外国にはないように思われます。

 そういうことからしましても、日弁連が今、主張しております改正点と言いますのは、その点についてこの際、この審議会の方で改善する方向性を出していただきたい、そういうことでございます。

【水原委員】ただいまのお答えについて、お尋ねいたしたいと思います。

 自白中心主義の裁判が行わている、捜査も行われているとおっしゃるけれども、刑事訴訟法上は自白が唯一の証拠になる場合には有罪の判決はできないとなっております。被告人を処罰することはできないとなっている。したがって、幾ら自白中心主義と申しましても、必ずそれを補強する証拠があるはずではないだろうか。それも自白中心主義とおっしゃるのかということ。

 もう一つは、自白中心であっても、弁護士会の御意見の中でも、被疑者の取調べについて、実際に罪を犯した者が自らの罪を悔いて自白し、真摯に反省することが更生改善に役立つ面があるということはお認めになっていらっしゃる。

 そういう意味で、真に更生改善する意欲の下、真摯な気持ちで自白した案件についても、自白はだめだとおっしゃるのか、その点についての答えをいただきたい。

 それに関連してもう一つ。最初の御説明の中の、「刑事司法に対する国民の期待の内容」のところでございますが、21世紀の刑事司法を考えるときには、被疑者・被告人の視点から考えることがまず重要だと、こういうふうにおっしゃいました。

 我々は国民の期待に応える刑事司法に関する審議をさせていただいておりますが、その国民というのは、日弁連のお立場から言うならば、被告人・被疑者だけを言うのか、それとも先ほど法務省が説明された、被疑者・被告人、それから被害者、その他の参考人、この4種類の国民を前提とするお考えはないのかどうなのか、その点についてお答えをいただきたいと思います。

【日弁連(城口副会長)】私、城口の方から、後半について先にお答えをしたいと思います。

 視点の問題ですけれども、また、それが国民というものとの関係ということになろうかと思います。

 先ほど4点の国民というものを整理された法務省の御発言はそのとおりだと思いますが、弁護士会の方はこれを3点の面から見ております。これは今日の資料、分厚いもので大変恐縮なんですが、1ページ目に書いておりまして、防御の主体である被告人、被疑者を含みます。これが1つの立場。それから、被疑者をはじめとする事件関係者、これは参考人、もしくは被害者を想定をしております。報道関係者や傍聴人、もしくは一般国民というふうなのを3番目と見ておるわけです。

 先ほど刑事事件の特質を申し上げましたけれども、この刑事事件で最も大切なのは、国家刑罰権の発現としての起訴、またはその前提となる捜査、その対象にさらされている国民の人権の問題だというところが、最も強く意識されるべきだということです。

 一般国民もいつの日か、被疑者、被告人に、あるいは参考人や被害者になるかもしれません。しかし、最も大切なのは、今、ここの司法改革において検討すべき視点は、被疑者、被告人として捜査の対象にさらされた者の人権を検討すべきものであるということであります。

 被害者については、全然無関係とは申し上げておりませんので、大変大切なものであります。しかし、刑事司法の直接の対象というふうに考えるのはどうだろうかと感じています。全然無関係とはだれも考えておりませんし、それに対しての十全な策を検討していくべきだと思います。加害者が確定した場合においては、この関係で弁護士は常に示談等を行って、早期の示談による救済等を検討します。これは一つには被害者に対するものです。

 そのようなことで、国民という抽象的、一般的国民というものをここの審議会で問うているのではないだろうと。刑事事件については特にそのように考えさせていただいているのが弁護士会の意見というふうに御理解いただいてよろしいかと思います。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】それでは、前段の自白の補強証拠の問題ですけれども、これは憲法の要請でもございますので、当然のことながら、自白だけで起訴されている例というのはございません。そういう意味で、それに関連する補強証拠というのは、当然要求されておるわけですので、その補強証拠の範囲が、どの範囲で足りるかというのも、これは長い間議論されているところでございますが、必ずしも罪体に関係しなくてもいいようなことも言われているわけでございまして、そういう意味では、自白だけで起訴されておるというケースは勿論ございません。それはそのとおりだと思います。

 日弁連のペーパーにも、自白して、自らの罪を悔い、反省する。これが更生改善に資することは当然のことと記載しております。ただ、問題は、それは真犯人であればなんです。捜査の段階では、犯人であるかどうかをその調べによって明らかにしようというわけですね。犯人であるかどうかは未定の段階なんです。犯人であるかどうかが調べの中で試されるわけですが、その調べの段階におきましては、被疑者というのは常に真実だけを語るわけではないですね。虚偽の自白をすることもあるわけなんです。これはつい最近の宇和島の例を見ましても、逮捕されて6時間後に虚偽の自白をしております。そういうことで、自白には虚偽というのが伴い得る。それはいろんな要素で、比較的簡単に虚偽の自白というのはあるということを我々は申しているわけで、そういう自白を取る手続、これをもっとここで考える必要があるのではないか。そういう提案をしている次第です。

【水原委員】そうしますと、自白をした際に、その自白が真実であるかどうかの吟味をきちっとやるような捜査をすればよろしいということになるわけですか。

【日弁連(城口副会長)】それは捜査の内容、実質に関するものです。

【水原委員】捜査の在り方、それが真実の自白であることの裏付けが取れるような証拠があるならばそれでよろしいのかと。

【日弁連(城口副会長)】質問の趣旨が正確にこちらが理解できているかどうか、大変失礼なことがあるかもしれませんが、捜査がどのようになされるか、あるいはその流れがどうなるか、そういう点がはっきりしていればいいのかということであれば、それは非常に好ましいことだと思いますが、逆に言いますと、証拠物があって、それと符合する供述があればよろしいのかということを述べているんですか、それとも違いますか。

【水原委員】自白の吟味をきちっとやって、そして、その自白が真実であるという証拠があるならば、問題はないんじゃないですかと申し上げているんです。

【日弁連(城口副会長)】事件というのは常に具体的に物を見ていかないと、刑事事件の場合、大変厳しい問題がございます。吟味ということが、非常に難しく私は感じたわけです。吟味というのは、本人にきちんきちんと一つひとつ尋ねて、客観的証拠と間違っていないかどうかということを点検しながらやっていけば、というようにも聞こえます。すると、それだけでいいのかというと、必ずしもそうではないというところが、冤罪の背景を成すものだと言っているわけです。

 そして、それを裏付ける証拠、その証拠が何であるかということがもう一つ重要なんです。

 逆な方向から申し上げてもよろしいでしょうか。

【水原委員】よろしいです。分かりました。

【佐藤会長】髙木委員、どうぞ。

【髙木委員】最高裁からお出しいただいたペーパーの冒頭を拝見しておりまして、「刑事司法に対する国民の期待」という冒頭の項で「個人の権利を尊重しつつ、安全で平和な市民生活が送れる社会の実現に最大限寄与すべきこと」と書いておられます。

 私は最初さらさらと読んじゃったんですが、今もう一度見ていまして、この個人の権利を尊重しつつ、最大限寄与すべきことというこの2行は、警察の行政目的と全く一緒じゃないか、そういう意味では、裁判所が、こういった御認識で、こういった御認識というのは、行政目的たるべきものと同じような目的の下で刑事司法をお考えになる、その感覚のことですが、それが裁判の現状につながっているのではないかということです。別の言い方をすれば、こういった御認識が日本の刑事司法におけるボタンの掛け違いと言いますか、最高裁の方の御認識でも、形骸化だとか、そういう意味で司法は三権の一つして、刑事裁判の手続を通じて巨大な警察組織の力の適否をきちっとチェックするというのが最大のお役目だろうと思うわけですが、その辺の御認識の仕方について、今、私が感じましたような疑問はいかがお考えになるんでございましようか。

 それから、検察庁につきましては、検察の役目は行政という一面と司法の一翼を担われるというお役目と両方お持ちだろうと思うんですが、特に私人起訴のない日本では、起訴便宜主義の下に起訴が独占されている。そういう中で行政としての役割の部分と、司法の一員としての役割の部分と、その辺がきちんと整理されているんだろうか。例えば特捜部はまさに捜査をおやりになるわけですし、検察庁の中の仕組みとして、一方で公判部という部門をお持ちで、内部的には整理がされているのかどうか分かりませんが、国民から見ましたときに、行政の一部としての検察と刑事司法の一翼を担われる検察のお役目、その辺がチャンポンになっているんじゃないかなという感じがしないでもないんですが、こういった感じ方についてどんなふうにお考えでございましょうか。

 もう一つ、これは三者の方々に、それぞれ御認識があれば、三者共通して、現在の日本の刑事司法にもいろいろ問題があるという御認識なんですが、どんな方向で解決していこうとされるのか。当事者主義の形骸化で、非刑訴的な運用になっているのもやむを得ないとかいう御認識がありましたり、やむを得ない論が多いように思うんです。特に法務省のペーパーでは、不活発な刑事立法という表現もあったり、そういう意味ではこれからいろいろお直しになろうとするとしたら、どういう基本的なスタンスでお直しになっていくべきとお考えなのか。勿論、日本には陪・参審が現在はありませんので、陪・参審というのを前提にいろいろ考えるとしたら中身は全然違いますし、これは法務省ペーパーでも、あるいは最高裁のペーパーでも、外国の例を引かれて陪審の国のルールと、陪審をやっていない日本のルールを、背景が全然違うのに同じようなものだというふうに分析される。例えば法廷侮辱罪というのは陪審制のある国で現にあるわけでございます。その辺の各論はともかくといたしまして、刑事司法をどんな方向で直していくべきだとお考えなのか、原則論で結構ですから、お教えいただきたいと思います。

【佐藤会長】それでは、最初に最高裁の方からお願いいたします。

【最高裁(白木刑事局長)】基本的な認識がおかしいではないかという御指摘でございますが、もし間違っているとしたら申し訳ないということになるわけでございますが、私どもがここで申し上げたいのは、ペーパーに書いてございますように、裁判所は刑事手続の最終的担い手として、公正な手続の下に実体的真実を明らかにして、そして適正迅速な裁判の実現に最大限努めなければならないということです。それを通じて、先ほど御指摘がありましたように、個人の権利を尊重しつつ、安全で平和な市民生活が送れる社会の実現に最大限寄与する、こういう形になると思うのです。そこは間接的なものだと思います。御指摘のように、警察の方は直接的にそういった責務を担っているということで、行政と司法の役割の違いはそういったところにあると認識している次第でございます。

 もう一つのお尋ねは、どんな方向で、ということでございますので、方向だけ結論的なことを申し上げますと、現在の司法のシステム、刑事司法システムは、公正な手続で実体的真実を発見するという機能については高いものがあると考えておりますが、その充実とか迅速といった面では、国民の期待に十分に応えているとは必ずしも言えないという認識でございまして、そういったところを手直していったらどうかという認識でございます。

 どういったところをどう手直しするかというのは、先ほどもかいつまんで申し上げましたが、私どもが提出いたしました意見書に個別に改善策を記載したところでございます。

 以上でございます。

【髙木委員】そういう各論に及ぶということではなくて、プラットホームとして、例えば当事者主義化が形骸化しておるとおっしゃっておられるわけだから、当事者主義化を一層追求していくということなのか、今までのような改良型を今後も続けるということなのか、そういうベースのような話をお聞きしたいんです。

【最高裁(白木刑事局長)】当事者主義には限界があるということ、それから、弁護態勢が弱体であるという基本的な認識でございまして、そこを改善していこうというのが私どもの基本的な意見でございます。

【髙木委員】時間を取ってしまっていますが、行政と司法の権能の果たすべき役割の違いについて、もっとあからさまに言わせていただくと、例えば、裁判所のペーパーの16ページの「令状審査の実態」に書いてありますが、そもそもいろんな令状の請求却下の事実が極めて低い。逮捕の必要性に疑問がある場合には、多くは直ちに却下せずに撤回させているというふうに書いておられるわけです。

 例えばこの例を取ってみましても、裁判官が警察に対し、官僚世界の者同士の、平たく言えば、シンパシーと言えばきれいですが、慣れ合い、そういう意味では三権の間のけじめみたいなものがきちんと付けられているんですか、と思っている国民は多いと思うんです。ですから、行政と司法の関係については、多くの国民から、そんなふうに見られているというところもあるんだということは是非御認識いただきたいと思います。

【最高裁(白木刑事局長)】誤解があるといけないので一言だけ申し上げますと、撤回をさせているというお言葉がございましたが、撤回をさせているわけではございません。警察の方が実質的にこれは却下されると判断してウィズドローしているというのが実情でございまして、それを待て待てと言って追い掛けて行って、却下の判子を押すということまではしていないということでございまして、あなたこれもうやめなさいということは絶対にやっておりません。

【髙木委員】結構です。

【佐藤会長】それでは、法務省、お願いいたします。。

【法務省(古田刑事局長)】検察というのは一体行政か司法かという、ある意味では制度をどういうふうに理解するのか、実質で理解するのか、形式で理解するのかといういろいろな問題がございまして、なかなかお答えしにくいところではあるんですが、少なくとも形式的にはこれは行政に属しているということは間違いないわけです。

 それでは、検察と申します存在が、ほかの行政官庁と同じように、ある特定の積極的な政策目的、そういうものを実現するところなのかと申しますと、これは違うわけです。あくまで刑事法の守備範囲の中で、端的に言えば、犯罪があると思われる場合にそれについて捜査をして、適正な裁判を求めるということになるわけです。

 そうなりますと、その実質は、実はこれはまさに司法の一部ということになるわけです。ですから、形式的に行政権に属しているからと言って、ほかの行政官庁と同様の場所ではないと御理解いただくのが一番正しいと思うんです。

 そういう意味では、検察というところは、あくまで法律及びある事実を認定するための証拠があるのかということがすべてなものですから、そういう意味では司法の分野と実質的には、同じといってしまうと語弊があるかもしれませんけれども、そういう性格のものだということになるわけです。

 次に、今後、どういう方向に日本の刑事司法制度を考えていくべきかというお尋ねでございますけれども、これはかなりいろんな難しい問題があると思っております。現状認識につきましても、既にお聞き及びのように、それぞれ、私どもと弁護士会、あるいは裁判所との間で認識が必ずしも一致していないところもあるわけでございます。

 私たちが考えておりますことというのは、先ほど申し上げましたとおり、日本の刑事司法制度というのは、捜査権限、司法権限を非常に弱めた形になっているというのが私たちの基本的な認識になるわけです。その中でどういうふうにやっていくかというと、今後とも勿論、人権保障面からの改善、これは当然必要なわけです。

 先ほど人権保障面からの改善の実現もかえって困難になったということを申し上げましたのは、例えばの話でございますけれども、捜査段階の国選弁護、こういうものを導入するに当たりましても、いろんな捜査権限が、先ほどお話しもありましたような真実発見のためのいろいろなものを代替手段として持たないままでそういうものを導入すると一体どういうことになるか、ということを考えざるを得ないという問題があったわけです。そういうことを申し上げているわけです。

 捜査段階の公費負担による弁護制度については、既にペーパーで申し上げているとおりで、我々としても、現実的な検討が必要であると考えているわけですが、いずれにいたしましても、やはり人権の保障面、これも重要である。しかし、それと同時に、社会の中で犯罪がきちっと解決していくということも、どうしても社会の機能として必要である。その両面をきちっと議論していくということがまず前提条件として必要だと考えているわけです。

 かつて、なぜ検察官希望者が少なかったんだろうかというお尋ねがこの審議会の中であったような記憶がございますが、率直に申し上げまして、私が検察官になりましたころは、検事になると言うと、あいつはどうかしているんじゃないかと言われたり、中には、希望を取り下げろと周りの者から言われたりするという時代があったわけです。そういうことで、ある意味ではバイアスが掛かって見られていたと申し上げざるを得ない状況があり、それがここ数年の間に大分変わってきたということなんです。そういう状態がまず私たちとしては、非常に問題があるのではないか、そのために公平な議論がなかなかしにくいのではないかと思っているわけです。これは言わば基盤のような話でございまして、今後どうするのかということになりますと、今の構造については形骸化というお話もあるわけですが、どこの国でありましても、かなり多くの事件が言わば自白事件で処理されているのが実態で、そういう点だけとらえて形骸化とかいうことを言うのはおかしいのではないかと私たちは思っております。

 問題は、本当に争いのある事件について、どうやって集中した審議ができるかというのが裁判の問題として第一点ありまして、これを確保する方向というのがどうしても必要になる。

 それから、捜査につきましては、現在の捜査の在り方でいろいろ御指摘を受けることがありまして、中には確かに問題だという捜査も決してなかったわけじゃないということも事実で、そこをどういうふうに担保していくのか。そのためにいろんな形で知恵を絞らなければいけない。ただ、その場合に、例えば当事者主義を徹底いたしますならば、アメリカで典型的に見られるような、言わばバーゲニングを前提とした司法制度を考えていくしか恐らくないと思うんです。これは多分、実体的真実とかなり懸け離れたものになっていく。そういう意味での当事者主義を入れるのは、私は大変問題だと考えております。

 結局、捜査の手段というのを、ある意味では自白ということが大変重視されるというお話もあるわけですが、一つの現実として、ほかの国でもある程度あることでありますし、必ずしも日本だけが特殊というわけでもない。でも、その自白というのをどういうふうにきちっとした形で信用性のあるものにしていくのか。そういう工夫というのをいろんな角度で考えなければいけない。

 もう一つは、これから先はそういうふうな意味での自白が期待できない事件というのもどんどん増えていくことは間違いない。そういう場合に、それに対する対応手段としてどういうものを考えていくべきかということを併せて考えていかなければならない。基本的な視点といたしましては、そういう考えを持っております。

【佐藤会長】裁判、あるいは捜査についてはまた後で御議論いただきます。今はやや総論的なお話ですので、先を急がせていただければと思います。
 弁護士会の方はかなりはっきりお立場を示していらっしゃると思いますので、できれば手短にお願いいたします。

【日弁連(城口副会長)】では、手短に述べさせていただきます。

 幾つかの問題点、それぞれに立場があると思いますが、もっとも刑事事件というのは、捜査関係者と対峙するところであります。それは刑事事件の持っている本質というふうにもある面では考えています。かといって、法律専門家である弁護士は、ただ、やみくもに対処しているわけではありません。もっともこれからの制度の変更の方向といった点について期待をしているところは、やはり捜査官が有している関係証拠、あるいは手段、そういったものをできるだけ、あるいは相当完全にと言いますか、対等にと言いますか、武器を対等に取得させてもらいたいという気持ちが非常に強くあるわけです。武器対等の原則という言葉で言えばそういうことかと思います。

 なお、こういったようなものの行き着く先に何があるかというのは、既にいろいろなところで述べております。これが陪審の方向に行けたら、行くのが最も理想であると思っておりますし、その具体化については、弁護士会もこれが比較的早期にできるということを指し示しております。こんな点を御留意をいただきたいと思います。

【法務省(古田刑事局長)】申し訳ございません。一点追加させていただきます。

 先ほど髙木委員のお話の中に、法廷侮辱罪のようなものは、陪審と結び付いているんじゃないかというお話がございましたけれども、私の理解ではこれは多分当事者主義と結び付いていると思います。

 職権主義であれば、そういうことには余り関係なく裁判所がやってくれるわけですが、当事者主義ですと、当事者の主張・立証が前提になるので、それがきちっと行われるようにするためには、どうしてもやはりこういう制度が必要だったということだろうと私自身は理解しています。

【髙木委員】全然当事者主義的でないのに、実質的には日本の刑事裁判というのは、これも言い過ぎだったらお許しいただきたいのですが、検察の捜査をベースにした職権主義で、裁判所はただ、99.9%の有罪率を担保するだけだということを公聴会でも17歳の高校生が言っておりましたが、そういう中で法廷侮辱罪というのをここでお持ち出しになられるのは、論理的にはおっしゃられるとおりですが、実態はまさに当事者主義というのは形骸化しているわけです。

【佐藤会長】理念に関わるこの1のところは、全体にわたるものですから、議論すれば全般にわたってしまうわけなんですが、時間の関係もあります。今日のヒアリングは、審議時間の最後まででなくてもと思っていましたけれども、場合によっては今日の審議時間を全部掛けてもやむを得ないかなとの思いもしておりますが、それはともかくとして、少し時間の関係で先に急がせていただきまして、「2.刑事裁判の充実・迅速化」の方に移らせていただきたいと思います。

 既にただいまのやりとりの中で、2あるいは3の方にも入っているところがありますけれども、まず「2.刑事裁判の充実・迅速化」でございます。この2の「現状認識」のところは、ここで直接議論する必要はないのではないかという感じがいたします。むしろ「具体的方策」の方に入りたいと思いますが、最初に水原委員から。

【水原委員】せっかく法曹三者の方においでいただいたわけで、ヒアリング項目も提示させていただき、それに対するお答えもしっかりいただきましたので、それについて項目ごとに簡単に進めた方がいいと思います。

 はじめに、審理期間の法定化の是非の問題について御意見をいただきたいと思うんですが、まず日弁連の方にお願いしたいんですが。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】これはレポートさせていただきましたように考えています。

【水原委員】それでは具体的な御質問を申し上げます。審理期間や公判期日間隔の法定化に反対なさっていらっしゃいます。それはよく私、読ませていただきました。その理由は、事件には個性があって、それを顧ることなく、多数の事件だとか構造がいろいろあって、それについて慎重に審議しなければいけない。そのためには法定化は反対だと、こういう理由であるともよく知っています。

 それはそれといたしまして、例えば訓示規定として、個々の事件の特殊性などから異なる取り扱いも認められますよという柔軟な仕組みをつくったときでも、やはり反対でございましょうか。

 もう一点、先ほど来、公設弁護の問題がいろいろ出てまいりましたが、集中審理に対応し得る弁護態勢等の条件が整ったとき、これでもやはり集中審理、期日の法定化、それから開廷間隔の法定化、これには反対でございましょうか。御意見をいただきたい。

【日弁連(城口副会長)】では、私、城口の方から、ごく簡潔になるかもしれませんが、お答えいたします。

 この問題は、正直なところを申し上げまして、弁護士の世界でしっかりと話は統一されておりません。したがって、城口個人の意見になろうかと思います。

 訓示規定として認められるだろうかということのようです。もっとも前提としては、事件がそれほど長期化していないというふうに多くの事件はそう思っていますし、弁護士は事件を早期に迅速に、充実してやりたいという気持ちは常に持っております。

 しかし、現在の幾つかの長期化した事件を見ますと、それが残念ながら、弁護士の方の問題だけではなく、起訴の方に何か問題なかったか。あるいは証拠の開示が必ずしも十分でない現状においては、弁護士の証拠収集能力が強制的にできませんので、これは大変難しい状況にある。そういうようなものがきちんと整うような前提を条件とするならば、あるいは訓示の規定として設けることは大いに御研究いただくのはよろしいのではないかと思っています。

 第二として、弁護態勢が集中審理が可能な状況になったときにはどうかということですが、弁護態勢が、例えば公設事務所にたくさんの弁護士が所属するようになったり、法人化されたりして刑事弁護士の数が整ってくるということを前提とするわけです。

 このようなときには、法定化をする必要もなく審理が促進されるということを前提に私は感じています。現在でも、刑事弁護を一生懸命やっている方々のお話を聞きますと、現在でも相当短い時間で進めることができる。逆に現在は裁判所の態勢に何かまだ、法廷等の問題がないだろうかということも言われているくらいで、弁護士の方としては、今のような前提をいただきますれば、法定化するまでもなく、法定というのは、法律で期間を特定するまでもなく、十分迅速に処理が進むというふうに感じています。

【水原委員】そうですと、訓示規定としてならば、その場合でも守るべきルールとして決めることには異論がございませんか。

【日弁連(城口副会長)】この部分についても、訓示規定の関係がございますというのであれば、それは十分御審議をいただきたいと思っています。

【水原委員】ありがとうございました。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】逆に訓示規定であれば、置く意味がどの程度あるかということもありますので、その点も御検討いただきたいと思っています。

【井上委員】裁判所と法務省にお聞きしたいのですけれども、弁護士会のペーパーの中で、弁護士さんが多数の事件を同時に抱えているので公判期日がなかなか入れにくいという一般的な指摘に対して、裁判官も検察官も多数の事件を抱えているので、そちらの方にも公判期日を集中的、連続的に入れにくい原因があるということが言われているのですが、その点、実情はどうなのでしょうか。

 もう一つ、裁判所に対して、同じような関連なんですけれども、公選法の百日裁判規定、これが置かれていることにより迅速化の効果があるので、ほかでもこういうことが考えられないかと述べられていることに対して、弁護士会のペーパーでは、百日裁判の場合は、運用上やり繰りをし、そういう事件だけを特に優先的に処理しているために実効は上がっているのであって、規定があるから当然効果があるということではないのではないかという指摘があるのですが、裁判所の方では、この点はどう思われますか。

【法務省(古田刑事局長)】検察庁の方で、言ってみれば、事件をたくさん抱えているために審理に応ずることにも困難があるのではないかということなんですけれども、私が理解しております限り、検察庁の場合は、いろんな意味での柔軟な作業が可能で、相当詰めて入れられても十分対応できる状況です。具体的に申し上げますと、例えば検察官を複数配置するとかいうことで、一方が仮に何かの状況で出られなくても、ということは今までもやっておりますし、特に公判部が置かれているところは、あるいは公判の専門になっているところは、特定の裁判部との対応でやっておりますので、そこの事件にはすべて対応できるということになります。

【最高裁(白木刑事局長)】裁判所の現在の態勢が不十分だから期日がなかなか入らない面もあるのではないかという御指摘でございますが、現在、3年以上係属している長期未済事件の約7割が1年に12回未満の公判しか開かれておりません。つまり、月に1回も開かれていないというのが約7割ございます。

 通常事件はそんなにしゃかりきにならなくても、しかるべき範囲の時間で終わっているということは委員の皆様方、御認識されていると思いますが、私どもが問題にしておりますのは、3年を超えるような長期未済事件の問題でございます。それについて、月に1回も期日が開かれていないというのは裁判官が少ないからであるとか、法廷の数が少ないからであるということは絶対にありません。裁判所の方はどの事件ももう少し期日を入れてくださいと、それも公職選挙法の百日裁判みたいにぐっと詰めてやるんじゃなくて、せめて月に4回お願いしますという程度の話をしておるんですが、なかなかこれが弁護人に受け入れられないという問題があります。

 したがいまして、裁判所の態勢が現状では弱いから、集中審理ができないということは私はないと思っております。

 それから、百日裁判、これは確かに件数はさほど多くございません。そのために、そういった事件が係属した場合には、庁を挙げての応援態勢、支援態勢を取ることが可能でございます。一般の事件についてどうかということですが、それは百日裁判よりは件数は多いわけでございますが、平成11年末現在で、3年を超えて係属している事件というのは、96件でございます。膨大な数ではございません。

 それから、百日裁判のように、100日で全部やりましょうという過激なことを申しているわけではございませんで、例えばですけれども、2年とか3年ということでどうですかということを私どもは申し上げたわけで、ある程度緩やかなものであるのと同時に、先ほど申し上げた、そのためには事前準備とか争点整理ということも法定していただきましょう、弁護の態勢のためには、公設弁護人ということも必要でしょう、証拠開示なども、準備のためには必要でしょうということとセットにして、その上で、そういったある程度緩やかですけれども、このくらいの期限を切ってやりましょうということを申し上げているわけで、勿論、そのためには裁判所の態勢も整備しなければいけませんけれども、それは私どもはできるのではないかと考えている次第でございます。

【日弁連(城口副会長)】今の点について、短期で終わっている事件についてはそのとおりだと思います。長期未済事件というのを3年以上とするかどうかは別として、長期未済の件で、仮に1週間に1回ずつ、月4回ということを提案をされた。私らは10年や15年掛かった事件をやってきた経験がありますが、そういうふうな無理なやり方をすることを求められたことは一度もないんです。

 逆に言いますと、これを実施するには、調書が毎回できて1週間で調書が手に入ると。弁護士のところに調書が手に入らないままに次々と進んでいくというのは、他に膨大な捜査調書がある場合には、これはとても問題が大きいわけであります。

 ですから、いつ調書ができますかというのが、必ず私たちの言う前提の言葉です。そうすると、速記官がこのごろ少なくなったり、いなくなったり、採用しなくなったりしておりますから、なおさら遅くなります。外部で反訳したものを私たちが見なければならない。そういうふうなことをしますと、1か月に2回を入れるのも大変難しい状況が現にあります。したがって、何か違った制度をそこに導入していく方向が考えられないだろうかとは思います。

【井上委員】今おっしゃった「調書」というのは公判調書のことですか。

【日弁連(城口副会長)】公判調書です。

【井上委員】お話の途中で「捜査調書」ということが出てきたのですけれども、それとの関係はどうなっているのですか。

【日弁連(城口副会長)】常に公判調書の一いちの言葉は、捜査調書を念頭に置いていろいろと議論していきます。そういったようなことが難しい事件であればあるほどそうなりますから、多くの供述調書ができておれば、当然のことながら、法廷における調書がきちんとできて、その対比を見ながらもう一回進めていくというのが普通の弁護士、真面目にやる弁護士の姿じゃないかなと私は思っています。

【井上委員】まぜっ返すようで申し訳ないのですけれども、口頭主義という点からは、それはおかしいのじゃないですか。反対尋問はその場でやらないといけないはずですね。今言われた普通の弁護士さんの感覚というのは、今の日本の実務を前提にして、それに慣れていらっしゃるから、そういうことになっているんじゃないかなという感じがするのですけれども。

【日弁連(城口副会長)】先生のおっしゃる点は、その側面で言うとそのとおりです。私の答えというのは、従前の問題を前提に答えました。したがって、今後あるべき制度をつくっていただきたいというのはそこなんです。そういう中においては、当然に口頭主義、直接主義が原則になりますから、どんどんと進むこともできますし、多くの弁護士は相当程度の期間に対応できるように努力をしようと思っております。

【佐藤会長】途中なのですが、ここで10分間休憩したいと思います。恐縮でございますが、その後引き続きヒアリングを行いたいと思いますので、法曹三者の方々にはよろしくお願いいたします。

(休憩)

【佐藤会長】それでは、時間が来ましたので再開させていただきます。
 最後の方で藤田委員がお手をお挙げになりましたので、藤田委員からどうぞ。

【藤田委員】具体的方策の中で争点整理手続の在り方という点が取り上げられておりますので、この点について裁判所と弁護士会の方に伺います。事前準備、争点整理を効率的に行うということが刑事裁判の充実・迅速化のために是非とも必要であるということはそのとおりだろうと思います。札幌にうかがいまして、札幌で刑事事件が他の地域と比べても非常に順調に処理されているというお話でありましたので、その理由を聞きましたところ、一つは法曹三者の協力体制が非常にうまくいっているということであり、もう一つは、裁判所の書記官が若くて意欲的であり有能であって、事前の争点整理について積極的に取り組んでくれているということが非常に大きいというようなお話でありました。

 そこで、裁判所がお書きになっているものを見ますと、事前準備と争点整理の義務化というところで、事前準備を法律レベルで義務付け、かつ争点を明確にする必要があることを明らかにした上で、裁判官または裁判所書記官がその手続を主宰することができるものとする必要があるというふうになっています。事前の争点整理について考慮すべき一つの要素として、予断排除の原則、起訴状一本主義がありますので、裁判官が関与していく場合には、その関係を配慮しなければならぬということは分かるんですが、裁判所のお考えには、「裁判官又は裁判所書記官」とあるんですけれども、裁判所書記官が主宰するということを念頭に置いておられるのか。あるいは、予断排除の原則ということを考慮しながら裁判官もそれにコミットしていくというようなお考えなのか、そこら辺を一つ伺いたいと思います。

 弁護士会は、いろいろな事前の争点整理についての実例等を挙げておられますし、争点整理については、証拠開示の問題等の前提条件があるということをお書きになっていますけれども、今、言ったような裁判所書記官あるいは裁判官が争点整理にコミットしていくということについて、賛否をはっきりお書きになっていないように思いますので、そこら辺をどうお考えかということを伺いたいんです。

 もう一つは、当事者主義が形骸化している、弁護態勢が弱体化しているという指摘がされているんですが、その理由の一つに、刑事弁護に専従していては事務所の財政的基盤を維持していくのが難しいという状況があるとされています。民事事件を処理しながら、その間に刑事弁護をやっているという意味で、全力を投入できるような態勢にないということです。これは某大事件の弁護人も記者会見でおっしゃっていたことがあると思います。それに対する対策として、公設弁護人制度とか、あるいは事務所の共同化、法人化という対策が言われているのですけれども、果たしてそれだけで足りるのか、弁護士会だけでできることではないかもしれませんが、刑事弁護について全力を投入できるような態勢をとるということについて特段にお考えがあるのか。弁護士会にはこの2点を伺います。

【佐藤会長】それでは、裁判所の方から。

【最高裁(白木刑事局長)】私どもの意見書に記載しましたとおり、事前準備手続、それから争点を明確にする手続、これは裁判官または裁判所書記官、両方というふうにお考えいただいていいのではないかと思います。

 と言いますのは、普通の事件というと語弊がありますけれども、通常の事件ということでありますと、書記官も非常に能力もございますし、経験もございますので、そういった準備、争点整理は書記官に任せられると考えます。

 ただ、特殊大型事件では、これはやはり検察官、弁護人にも、裁判所に来ていただいて、そこで一緒に打ち合わせていくという必要がある事件もございます。そういう事件は検察官、弁護人が出頭されるわけですから、裁判官がその手続を主宰するというのが適当であり必要であろうと考えております。

 したがいまして、そこは運用で事件によって振り分けていくと。形の上では裁判官または裁判所書記官ができるというふうにしておいていただけるとありがたいと考える次第でございます。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】弁護士会としましては、争点整理の現状につきまして、今、藤田先生の方からのお話がございましたけれども、書記官レベルから書面がまいりまして、事件についての争いの有無だとか、開示された証拠についての意見だとかを求める書面が参っている部もございます。それぞれ部によって取り扱いが違いますけれども。

 書記官レベルで処理なさっていますので、大抵の弁護士はそれに応じておるんじゃないかと思います。それは裁判官の目にそれが触れますと、予断排除の原則との問題がございますので、書記官限りという取り扱いが現在行われております。

 それに裁判所が関与されるということになると、やはり予断排除の問題というのはどうしても出てくるんじゃないか。期日をどういうふうに指定するかといった外形的な問題であれば、裁判所が関与されることはあり得るかと思うんですけれども、事件の中身についての争点を整理することになりますと、やはり予断排除の原則というのは当事者主義訴訟の根幹であると思われますので、それを軽々にすることはできないと考えています。

【日弁連(城口副会長)】もう一つについては城口の方から。

 弁護態勢の弱体化の反映として、大きな事件もしくは特異な事件に際して全力投球できないのではないか、それは弁護士事務所の財政基盤の問題があるのではないかという御指摘だと思いますが、現状においては全然ゼロとは言えないんですけれども、しかしその点は、現在の特殊な事案に対する弁護人がどういう資格でやっているのかということと大きく関わりを持っていると思います。これが私選で十分にやれるものであるときと、国選でやる場合とでは随分と違います。従前の大きな、政治家の関与した事件は、こういうところで言っていいのかどうか分かりませんけれども、相当大きな論点を抱えていて長期間掛かりました。しかし、弁護態勢は大変な人数を持って、多額の収入を得ながらやったということも聞いているわけです。

 今回御指摘になっているある弁護士というのは、予想がつくわけですけれども、こういう方はほとんどが国選の形でやっておりますから、収入はそれに限られる。しかし、担当する事件の重さ、大きさから見て、そこに投入する時間はほとんど90%以上であろうと思われます。そういう中で事務所を維持し、事務局を維持し、そして十全な証拠検討を行って、裁判に臨むとなれば、それはそれなりの非常に困難が伴うであろうと思われます。

 したがって、前から問題になっている、弁護態勢をバックアップするような制度が期待されるのではないだろうかと思っていますし、事は費用だけの問題ではない、そういう側面もあろうかと思いますので、そういったところを御分析をいただきたいと思っております。

【井上委員】浦さんの御説明では、裁判官が争点整理に乗り出していくと予断排除の原則に反するんだということなのですけれども、予断排除の原則というのを絶対視しているか、一人歩きさせ過ぎているのではないかという感じがするのです。これは学者の責任かもしれませんけれども、元々は起訴状一本主義から来ていると思うのですが、それは要するに、裁判所が検察側の資料だけを引き継いで、そっちの心証だけを取って公判に臨むということであるなら非常に不公平だというところに本来の趣旨があると思うのですね。しかし、争点整理の場合は、両当事者がいる所で、争点整理に必要な限りで双方の主張の中身を知る。両当事者が加わっているわけですから、当事者主義や予断排除の原則の趣旨には別に反しないのではないでしょうか。現に当事者主義が最も徹底しているはずの民訴ではやっておられるわけです。そこが私には理解できなかったのですけれども。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】第1回公判以降になりますと、その辺は自由に裁判所も入って争点整理をやっておりますから。

【井上委員】第1回公判前はなぜいけないのかというのが、質問の趣旨なのですが。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】公判前につきましては、私どもは起訴状一本主義の原則というのは重要ではないかなと思っているんですけれども、先生の今の御指摘に対しては、今後検討させていただければと思います。

【水原委員】証拠開示の問題について、最高裁判所に教えていただきたいんですけれども、証拠開示の現状については、ペーパーによると、法務省は実務上ほとんど問題は生じておらないという御認識のようであります。ところが、日弁連の御意見は、検察官が被告人に有利な証拠を持っている場合には、大きな問題があるというふうに指摘しておりますけれども、そのような意識のずれはどこから生じておるのか、最高裁判所のお立場から、お教えいただければと思います。

【最高裁(白木刑事局長)】どこから生じているのか、私、分析するだけの能力がございませんが、私どもから申し上げさせていただきますと、御両所ともやや一面的じゃないかなという感じがいたします。証拠開示は問題にならないということでは決してありませんで、実務上大変に問題になっておりますし、裁判所は証拠開示を滅多に命じない、消極的ではないかという御指摘に対しては、結構命じております。私どもは証拠開示に関する事例集というのを実は持っておりまして、これは裁判官の執務の参考に供しておりますので、分かっているわけでございますが、結構命じている例はございますし、そのために紛議が生じているという例があるという認識でございます。

【佐藤会長】今の点は重要なので、法務省、日弁連から何かありますか。

【法務省(宗像最高検総務部長)】最高検察庁の宗像でございます。

 証拠開示の問題について、現在どういう状況にあると私どもが認識しているかということについてちょっと申し上げます。

 私どもは基本的には、証拠開示につきましては、刑訴法299条1項に規定がございますように、取調請求予定の書証については、勿論、事前に全面的に開示するということをやっております。

 では、取調請求予定にない証拠はどうか。これにつきましても、弁護側がどうしてもこの証拠は必要だということで事前に見せてくれという要求があれば、私どもは、例えば証拠隠滅、その他いろんなことを考えながら、また、昭和44年4月の最高裁の決定などを踏まえながら、これに柔軟に対応するということをやっております。

 私どもの認識としては、以前の公安事件華やかなりしころは、証拠開示ということが非常に紛議の中心になっていたわけですけれども、最近の全国的な地裁レベルでの動きを見てますと、そう深刻な問題はほとんど起きていないという認識なんです。これはなぜそういうことが言えるかといいますと、各地方裁判所で第一審強化方策協議会というのを設けていまして、各地裁、そこの検察庁、弁護士会が集まって、第一審で一体どういう問題があるか、どうしたら裁判がうまくいくか、これは刑事も民事もございますけれども、話し合う機会がございます。その議題に一体どういうものが取り上げられているかというのを、延べで百何十回のものをずっと見てきましたけれども、ほとんど証拠開示の拡大に関する意見が議題に上っていないというのが私の見た感じであったということもございます。それから、私、地方の検事正というポストを何か所かやってきていますけれども、そういうところで見ていましても、個別的なある特殊な事件について、紛議を生じているというのはございますけれども、それは弁護側が今申し上げたような基準以上のものを事前に全面開示しろということを迫ってくるという流れの中で紛議を生じていることはございますけれども、そうではない一般の通常の事件の中では、私どもの認識としてはほとんどうまくいっていると思っております。

 ちなみに『ジュリスト』の99年1月号の刑事訴訟法50年の特集の中でも、現職の刑事裁判官は、証拠開示の問題に関して、命令数、勧告数が少ないのはスムーズに開示されているということではないかという発言もされておるということもございまして、私としては、検察の立場としては、それほどの問題にはなっていないという認識でございます。

 もう一つ申し上げておきたいのは、要するに検察官手持ちの証拠を事前に全面開示しろという見解もあるわけですけれども、これはいろんな意味で弊害が多過ぎてとても応じられる話ではないということを結論的にだけ申し上げておきます。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】証拠開示につきましては、今の法務省の御見解と全く異なります。私が個人的にも関与した事件が幾つかありますけれども、必ずといっていいほど証拠開示が問題になっております。例えば、先の甲山事件、山田さんが公聴会で報告されましたけれども、その事件でも、証拠開示のために公判開始から1年の間は証拠開示を巡って議論をいたしました。

 最近では、今年の3月に判決が出た件でありますけれども、信楽高原鉄道の列車事故の業務上過失致死傷の件ですけれども、これにつきましては、裁判所の方から開示の勧告が出たにもかかわらず、検察官はそれに応じられない。そうすると、裁判所としては、当然開示命令を出されるであろうと思っておったところが、開示命令をお出しにならなかった。そのために、相当の期間紛糾したという経過もございます。そういうことで、証拠開示の実情につきましては、法務省がおっしゃっておられるような事態では全くなくて、問題は何も解決していないのではないか。

 やはり証拠開示についての法制が欠けておる。現行法で、これは法の欠缺だと、あるいは法の不備だと言われているわけですけれども、その点についての整備なしには、この証拠開示の問題は、これからの刑事手続でずっと問題になっていくだろうと思います。

 それから、事前全面開示の点についてでありますけれども、弊害が多いと言われました。しかし、具体的な弊害の問題につきまして、法務省がおっしゃっておられる、あるいは最高裁もおっしゃっておられる点につきましては、これは個別の問題として処理が可能ではないか。当該証拠について弊害があれば開示しないということも可能であり、そのために証拠開示の制度化自体について反対すべき理由は全くないと思います。

 そういう意味では、証拠開示については、是非この審議会の方で法制化の方向に進めていただきたいと思っております。

【日弁連(城口副会長)】城口の方から一言だけ補充させていただきます。

 証拠開示がなされなかったことが、冤罪の基本的な背景になっていたということは非常に有名なわけであります。幾つもそういう事例があります。弁護士会の意見書の14ページにその点を表記しております。冤罪や誤判の防止の観点からは、是非必要なんだということ。最も検察官にとって不利なと言いますか、被告人にとって有利な証拠がずっと出されないことが冤罪を生む大きな理由の一つになっているということを私たちは重視しておりまして、そのことが全面開示の問題の理由の背景になっているわけです。多くは書面によっていただきたいと思いますが、そういうことを是非御銘記いただきたいと思っています。

【水原委員】これに関して、法務省にお尋ねいたしますけれども、法務省のお考えは、争点整理と期日指定等に関する裁判所の訴訟指揮権の強化、それから被告人・弁護人の公訴事実に対する認否、争点整理を義務付けるというセットならば、証拠開示の範囲、時期に関する明確なルールを策定すれば、開示に応じてもよろしいというような御趣旨だったと思いますけれども、最高裁判所から御提案がございます。例えば公訴事実に関する被告人の供述調書、検察官側の証人の主要な供述調書や証拠物その他の客観証拠については、第1回公判期日前に開示を義務付けてはどうかという最高裁判所の御意見がありますけれども、これについての御意見を承ればと思います。

【法務省(古田刑事局長)】基本的にはどういうタイミングで、どの範囲の証拠を開示するかというルールがないことが、ある意味では私どもは大変困ることであるわけです。そういう意味でルール化が可能ならば、それは十分考慮に値する。

 ただ、今お話があったように、争点整理とかそういうものができる前から、非常に広範囲なものを開示するということについては、これはちょっとためらいがある。やはり先ほど冒頭に申し上げましたとおり、まず検察官として立証に必要だと考えるものはすべて開示するわけでございまして、その段階で弁護人の方から争点を明確化していただいて、その後、それに関連する証拠、これは有利・不利問わずということですけれども、お見せするということが例えば一つ考えられるのではないか。

 それが第1回公判前であっても、それはかまわないだろうと考えているわけです。

【井上委員】法務省にお尋ねしますが、弁護士会のペーパーにもありますし、先ほどの御説明にもあったのですけれども、弊害ということをたびたび言われる。本当に弊害がある場合もあるかもしれないけれども、ほとんど抽象的な主張ではないかという指摘があるわけですが、その点についてもう少し御説明いただけませんか。

 もう一つは、弁護士会の方なんですけれども、おっしゃっていることはこれまでも学界などでも言われていますし、それなりによく分かるのですが、そこからいきなり全面開示というところに本当に行くのかということなんです。

 ペーパーの中で、公共の財産、公費で集めたんだから公共の財産であり、それはみんなで共有すべきだといわれるが、それはちょっと乱暴な議論かなという感じがするのです。事柄の本質というのは、当事者主義というのを前提にしながら、検察側と弁護側とでは、実際の権限とか能力に大きな差があるので、そこをどう補っていくかという発想ではないかと思うのですが、他方の弊害とかプライバシーの保護ということを全く考えなくていいのかどうか。全く考えなくていいとはおっしゃっていないと思うんですけれども。また、細かいことですけれども、イギリスは事前全面開示と書かれているのですが、これは明らかに言い過ぎでして、今日配付していただいた追加資料の2に示されているように、おっしゃっているような意味での事前全面開示ではないということも申し添えておきます。

 一番問題になるのは、被告人側に有利な証拠がどうも検察官のところに埋もれてしまうのではないか、出さないんじゃないかということでしょうが、例に挙げられている事件などを見ますと、その実体は押収物とか押収書類、鑑定関係のものか、あるいは証人の以前の供述ということであると思うわけで、そういう必要性の高い類型を選び出していって、開示の対象として設定していくということで賄えないのかどうか。とにかく全部見せなさいということにしないといけないのかどうか、その点をお聞きしたいのです。

【法務省(古田刑事局長)】弊害といっても、いろんな弊害があるわけで、過去、これは裁判所から提出されたものにもありますけれども、これは立証のために必要な証拠を事前開示した場合のケースですけれども、調書の中身がいろんなビラだとか、そういうものに印刷されて配られて、証人が非常に圧迫を受けるといった、そういう問題が特に昔はしばしば、散見されたことは事実です。

 最近の例で言いますと、弁護士会の方からは、非常に特殊なケースだとおっしゃってはいるんですけれども、開示した調書がマスコミに流れてしまうという問題が起こったりする。

 先ほど個別に対応すればよろしいというふうに弁護士会はおっしゃるわけですが、私どもの方から見れば、どの弁護人がそういうことをするのか分からないわけです。そこで個別に判断しろと言われても、不可能だと申し上げるしかない。

 これがもうちょっと広くということになると、そういうことが起こったときに大変迷惑する人も出てきますし、あるいは証拠資料のある一部のみが拡大されて、いろんな形で取り上げられる。ただし、その証拠の信用性というのは極めて稀薄だという場面もあるわけで、そういうことになると、審理などが非常に混乱する。先ほど冒頭に申し上げましたけれども、かつてベスト・エビデンスというようなことが言われたときは、要するに関連性とか信用性がどうも稀薄なものを提出すると審理が紛糾するんで、やはり検察官として、言ってみれば、これだけあれば十分ではないかというものを出せと、そういう配慮がかなり働いていたわけです。

 そういういろいろな問題を考えたときの弊害ということを申し上げているわけです。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】井上先生のお話ですが、公費で集めた証拠を全面開示、公費で集めたという言い方が乱暴だと言われましたが、果たして乱暴なんでしょうかね。例えばカナダの証拠開示の例で。

【井上委員】そこから全面開示ということに持っていくのはちょっと飛んでいるだろうということです。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】だから、それは公共の財産だと。だれでもそれにアクセスできなきゃいけないんだと。被告人もアクセスできなきゃいけないんだと。そういうのは、カナダ最高裁の判例の中にあるように私は勉強しました。

 ですから、井上先生がおっしゃるように、そういう論旨が乱暴だというのはちょっと当たらないと私は思っております。

【井上委員】全部にアクセスできるというところにまで結びつけるのは乱暴だろうということなんです。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】しかし、公費を持って国が集めた証拠です。その中に被告人に有利な証拠が埋もれたまま審理が終わるというのは、極めて不公正なことではないでしょうか。

【井上委員】後の方の問題についてもお答えいただければと思うのですが。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】全面開示というのは、その中に弁護側に開示されることによって、先ほど法務省の古田局長が、関連性が稀薄だという証拠もあるし信用性に乏しい証拠もある、と言われましたけれども、被告人に有利か不利かというのは、あるいは事件との関連性が稀薄かどうかというのは弁護人の目を通して、検察官の目とは違った弁護人の目を通して初めて分かるものであるわけです。

 そういう意味では、検察官がお持ちの証拠に、弁護人がアクセスできないことには、事案の真相の解明はできませんし、また、当事者主義の実質化の要請にも合わないのではないかと私は思っているのです。

 それから、イギリスの制度の問題を言われました。確かに事前全面開示が前提になっているという解説はちょっと走り過ぎたきらいがないわけじゃございませんが、これはイギリスの方は二段階になっておりまして、第一次開示の段階では、検察側が請求する証拠と、それと同時に捜査機関が集めた全証拠の証拠目録を開示するという制度になっておるようで、弁護人はそれを見て自らの主張を組み立て、更に第二次の証拠開示の請求ができる。その段階で検察側が開示しない場合には、裁判所が開示命令を出すという構造になっていると私は認識しておるんです。そういう意味では、最終段階では全面的な証拠に到達できると。すべての証拠に到達することが可能になるということ。

【井上委員】裁判所が判断するわけですから、開示されるものもあれば開示されないものもあるはずですね。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】勿論そうです。開示は裁判所が入ってなされますから、すべてが直ちにではないんですけれども、捜査側が持っている証拠に全面的にアクセスできるという可能性はあるわけです。そういう意味で、事前全面開示と書いたわけで、表現としては少し誤解を招く形だったかもしれません。

 それから、弊害についてですけれども、この弊害の問題については、ビラでその内容を配付したというのはまさに昔のことで、昭和20年代のことじゃないでしょうか。最近、我々の時代になりますと、この開示された証拠についての取り扱いは極めて慎重にしております。確かにマスコミに流れた例はございますけれども、我々弁護人は全体として、開示された証拠は大変慎重に取り扱っておるというのが実情であって、これはお分かりいただけることだと思っています。

 証拠をマスコミに流すような弁護人がおるから証拠開示できないと言われたら、それは本末転倒であって、そのような事例については別の方法で何らかの対処をしないといけないということでして、制度自体を否定することにならないように私は思っております。

【中坊委員】私は自分の体験から申し上げるわけですけれども、証拠開示について先ほど法務省の宗像さんがおっしゃったような御主張ですが、これは宗像さんにも関係しておれば、浦さんにも関係しておれば、私にも関係しておった、今年の3月に判決の出た信楽高原鉄道の事件は一体何であったかということになりますよ。

 あれはJR西日本と信楽高原鉄道の両方とも過失によって発生した事件であると、弁護人側は民事でもそう主張しておったし、刑事でも同じようなことを言った。そうすると、信楽高原鉄道のみに過失があるとする検察は、JR西日本の過失を認めた警察の資料を一切全部隠して出さない。どうして出さないんだ。警察はちゃんとJR西日本も悪いと言って送っておるのに、それは一切出さない。警察の調書は全部書き替えた。そういう主張であれば、我々としては当然警察の資料を出していただきたいと主張しました。これは徹底的に、1年以上にわたって証拠開示について裁判がかかりましたが、結局判決が決まってこれは確定しているわけです。民事でもJR西日本にも過失があったということになっているんですよ。

 そういうような事件において、JR西日本の責任だけを隠すということによって、一体どういうことが起きたか。多くの被害者がいて、交通事故そのものについての鉄道の事件が、大変な問題になっているんですよ。

 だから、その事件がどうだこうだというよりも、証拠開示がきちんとされない、そういう事件が現にある。私は少なくともそのうちの当事者の一人でした。にもかかわらず一方の宗像さんが、この司法制度改革審議会において、こういうことは大した問題になってませんよと言う。このように法務省を代表されて、公然とこのように証言されること自体が、我々の審議会というものの在り方をどのように法務省自身はお考えになっているのかということが大変な問題だろうと私は思います。

 やはりおっしゃる限りは、本当のことを言わなければ、審議会の場で、法務省がおっしゃることが、私だったら信用できません。こういう審議会において、そのような法務省の御回答では、私は非常に困ったことになると思います。だから、刑事事件というのは確かに弁護人側と検察側とが対立していて当たり前のことなんです。だけれども、こうして法務省を代表されて審議会においでになって、「いやいや証拠開示のことはほとんど問題ありません。」というような御返事をなさるようでは、この審議会としては誠に困るんで、法務省は、もっとしかるべく公正な御回答を、この審議会においてはなさるべきだと、このようなことを法務省に申し上げたいと思います。

【法務省(宗像最高検総務部長)】私、先ほど御説明申し上げましたのは、検察が扱う事件というのは全国的に物すごい量の事件があるわけです。道交法違反から何から含めれば、年間で二百数十万事件があるわけですけれども、そういった事件が全国であるといった中で、証拠開示の問題というのは全国的なレベルで一体どの程度のものとして取り上げられているのかということを私は申し上げた。個別の事件について、いろんな事件で取り上げられているケースがあることは、勿論承知しておりますけれども、それでは一体どれだけ、各地裁レベルの段階でそういったことが真剣な論議に上がって、実際の問題として取り上げられているのかということをずっと調べてみたところが、そういったものはここ1、2年の資料を見ても出てこないということがございます。

 先生おっしゃるように、個別の事件について、今でも証拠開示が問題になっている事件があることを私は知っていますけれども、そういう一部の事件があるかもしれないけれども、全体として見れば、検察は法の規定と判例に従ってきちっと対処しておるということを申し上げたわけで、そういう事件が全然ないとか、問題はないということを申し上げたわけではありません。

【中坊委員】私が言うのは、信楽高原鉄道の事件と言えば、列車の事故であれほど多くの死傷者を出して社会的に問題になっている事件ですよ。しかも、JR西日本に責任があるのかないのかというので、列車事故では大変有名になっている事件なんですよ。そして、つい今年の3月判決が出た事件ですよ。まさに問題になっていた事件です。1年か2年にわたって、非常に長期にわたって証拠開示の点が、しかも警察が調べた証拠ですよ、警察が調べた証拠について、浦さんたち弁護人側は証拠開示の請求を出した。関係者がみんなここにおるんですよ。

 私はそういうことに関しては、極めて著名な事件なんですから、そういうことがあったのにかかわらず、なおかつ、いやいや大して問題はありませんと言われるのが問題です。そりゃおっしゃるように、小さい事件、小さいと言ったら失礼かもしれないけれども、いろんな事件がある。しかし、今一番問題になっている事件であり、私自身もあなたもそれを体験しているじゃないですか。そういう事件があるにかかわらず、法務省を代表されてこのようなことをおっしゃるというのは、私は非常に問題だと思う。

 ことほどさように、証拠の開示については問題があるということなんです。この審議会においても、まさにおっしゃるように極めて重要な事項であるということをお互いに認識していく必要があるんじゃないかという私は意見を持っているということです。

【髙木委員】宗像さんにお尋ねしますが、先ほど『ジュリスト』の言葉を引用になりましたが、井上委員とのやりとりで、山室さんという東京地裁の裁判官が、いろいろ前に口上を述べられた後、命令数、勧告数が少ないのはスムーズに開示されていることを示しているということもできますという、そこの部分を引用されたんだろうと思いますが、ただ今の御発言は、雑誌の引用ではありますが、法務省のきちんとした御見解というふうに聞いていいんですか。

【法務省(宗像最高検総務部長)】私は現場と言いますか、法務省というよりは検察の現場の立場から、一体、全国的にどういう状況にあるだろうかということを申し上げたということです。

【髙木委員】だから、命令数、勧告数が少ないのはスムーズに開示されているという御判断だということなんですね。

【法務省(宗像最高検総務部長)】そういうふうに述べられている現職の裁判官もおられるということです。

【髙木委員】最高裁の方は、今のようなお話についてどうなんですか。

【最高裁(白木刑事局長)】証拠開示については難しい問題があるなということを再認識させられましたが、最初に申し上げたとおりでございまして、双方とも若干一面的にすぎないかということを申し上げたわけでございます。

【髙木委員】 命令数、勧告数が少ないのは、スムーズに開示されていることを示していると。

【最高裁(白木刑事局長)】先ほど申し上げましたが、結構命じている例もございますし、勧告だけ、あるいは命じなかった事例もございます。そういう事例がたくさんあるということは、そういう問題があるということだろうと思うわけでございます。

【髙木委員】スムーズに開示されているということを示していることではないということですか。

【最高裁(白木刑事局長)】『ジュリスト』で山室判事がどういうふうに述べられたか、私空で覚えておりませんので、何ともお答えできません。

【水原委員】開示の問題で最後にお願いしたいんですけれども、先ほど刑事局長から、開示の範囲、時期に関する明確なルールが策定できたらならば、その内容によって段階的に開示を考慮してもいいだろうという御意見を述べられた。そういうルールが明確になった段階でも、あくまで全面開示を日弁連としては御主張なさるのか、それとももう少し柔軟にお考えになられる余地はないのか、この点についてお教えいただきたい。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】時期につきましては、これは第1回公判前である必要があるだろうと思うんです。そうでないと弁護側の主張の組み立て・争点というのは、検察の立証の範囲はこういう範囲だということが分からないと明確にはできないのではないかと私は思っております。ですから、第1回公判前の全面開示というのはどうしても必要だと、そのように考えています。

 ただ、その中で個別にどうしてもこれはプライバシーだとかに関わる証拠があれば、個別の考慮をすることは不可能ではないと思います。あるいは、当該調書のその部分だけを開示しないということも、これは実際の例としてありますので、そういうこともあるんじゃないかなと思いますが、第1回公判前の全面開示ということは必須だろうと思っています。

【水原委員】先ほど城口先生が、でき得る限りというふうなお言葉を使ったような気がしましたけれども、でき得る限り開示をというふうにおっしゃったように聞こえたんだけれども、私の聞き間違えでしょうか。

【日弁連(城口副会長)】私どもの主張の根幹は、この意見のとおりなんです。 ついでに一言法務省との関係で補充させていただいてよろしいですか。さっき一審強化方策協議会というのが各地裁で行われているということを前提にして、そこで問題が取り上げられていないことを一つの証左とするようなお話がありましたが、一審強化方策の実態をもう少し御覧いただくと、その時々の問題を非常に多く取り上げている例が多いんです。確かに今しんどい事件の問題点というのは、多くは保釈とか自白の関係で取り上げられることが多かったり、勾留の理由開示をしっかりやってくれとか、こういう身近なものから始まっているわけです。法制度がきちんとなっていない証拠開示については、たまたま出しても反応が悪いということで控えている可能性があるので、実態を見た上でないと、取り上げられたかどうかのことだけをとらえて問題になっていないというような証左にはしていただきたくないと思っています。私たち、難しい事件をやるときには必ずこれは問題になっています。

【井上委員】ここの部分でまだたくさんお聞きしたいことはあるのですけれども、先のところでも、今日まだ質問されていない委員もお聞きになりたいことがたくさんあると思いますので、ちょっと先に進んでいただければと思います。

【佐藤会長】何かあればおっしゃってください。

【井上委員】弁護のところまで行っていいですか。

【佐藤会長】時間も少なくなってきていますので、前後してもいいですから、質問があったらおっしゃってください。

【井上委員】弁護士会ばかりにお聞きして申し訳ないのですが、公的被疑者弁護制度については、日弁連の方でこれまで何度にもわたって提案をなされてきた。ペーパーを読ませていただいても、それぞれの提案についてそれぞれもっともなことをおっしゃっているなと思うのですけれども、ここに書かれている3種類の案が、時系列に沿って並べられているだけですので、今はどうお考えなのか。最初に国選が来て、2番目が法律扶助の拡大。3番目が、公設的なものを入れていくということなのですが、これは今はどう整理されているのか。あるいは併用説なのかなとも思うのですが。

 もう一つは、コントロールの点について、「自主・独立」ということを強調された上で、しかしながら自分たちで自己規制していかないといけないとされている。これは恐らくガイドラインのことをおっしゃっているんだろうと思うのですが、それはそれで御主張としてよく分かるのですが、自治というだけで済むのか。弁護士会のほかに自治の牙城のもう一つが大学であるわけですけれども、その大学もこれまで自治ということを強調して頑張ってきたのですが、やはり国民や社会に対してアカウンタビリティーがないといけないということで、社会の声を取り入れるべきだという考え方が強くなってきています。大学もそういう意識を持つようになってきているわけですが、弁護士会としても、国の機関が入ってくるのは干渉になり、そこから独立していないといけないというのはよく分かるのですけれど、一般の国民の声を、例えばガイドラインを実施する機構とか、懲戒だとかいうところに取り入れていく仕組みということをお考えになる余地はないのかどうか。自治の反面としてアカウンタビリティーを担保する方策をお考えになる余地はないのか。その2点だけお聞きしたいと思います。

【日弁連(城口副会長)】国費、もしくは公費による被疑者弁護制度の在り方について、なかなか悩ましい問題ですので、経過も書いておりますが、今、日弁連の方向としては、被疑者・被告人を対象とした統一的な制度を得られればいいのではないかというのが一つ大きな課題になっているのではないかと思っています。それが絶対的なものかどうかについてはまだ確定をいたしておりません。

 次に、従前から自主的な事業もやってきて、しかも被疑者段階での援助制度等も扶助協会等が努力をしてまいりましたし、それを国選、すなわち被告人の制度に結び付けていくための努力も相当やってきておりますので、そういう制度の在り方についても検討することは全然無視できないのではないかと思っています。

 しかし、先ほど申し上げましたように、日弁連の方としては、統一的なきちんとした制度としては、国選制度みたいなものが一番望ましい姿ではないかと感じているところでございます。

 次に、自治の問題がちょっと取り上げられたわけですが、私たちの自主性、独立性については、弁護の在り方というものを前提にして考えますと、基本的には弁護士会が私たちの責任でもって、国民にしっかりと理解していただく内容のものを形成していきたいと思っています。

 それでは、自治と言ったって国民の支持がないよりはあった方がいいのではないかとか、参加をした方がいいのではないかという点については、そういう声があることは認識しておりますので、今後の検討課題ということで私たちの方は見ていきたいと思っています。

 なお、懲戒や綱紀手続と言って、弁護士が非行した場合等についての処分の問題がございます。こういったところは、今は弁護士だけでやっているわけではなくて、御存じのとおり、法曹三者の方が入って、また一般の有識者の方もお入りいただいて、懲戒の場合であればきちんとした討議をいただいております。これになお一般の方を参加させるのが適当かどうか。今の実情が懲戒手続として不相当だとか、あるいは機能していないという問題が御指摘いただければそこで検討するということになるのかもしれませんが、現在は機能しているものと理解をしています。

 弁護士会も従前からいろいろな問題点をいろいろな点から反省しつつ、国民に納得いただけるような内部の研修その他を実施しておりまして、少しずつではあるかもしれませんが、倫理の向上等も図っておるというところでございます。

 併せて言いますと、懲戒等については、内容について手厳しい議論がなされておりますので、弁護士の中での独立の機能を持った委員会となっています。それはほかの弁護士が、今どんなことを話されているのですか、どんなことを討議されているのですかということを、弁護士でさえも、あるいは執行部でさえも、その委員会の中に介入したり意見を聴取することができない仕組みになっているほどに秘密性を重視して、秘密性を重視する反面に、徹底した議論をしていただいているというふうに理解をしています。私も参加していたことがあるわけですが、そのようにやっておりました。

【井上委員】私も以前、ある単位弁護士会の綱紀委員会の参与員をさせていただいたことがあるのですけれども、綱紀委員会のところで実質的には懲戒にかけるかどうかが決まってしまうんですね。そのときに、参与員は、実質的な事情聴取だとか、実質的な判断を形成するところには関与できない仕組みなのです。それ以前に比べれば外の声を取り入れているということは分かるんですけれども、本当にそれで十分なのかと、私は自分の体験からしてそう思うのです。ただ、今問題にしているのは、その問題とはちょっと違って、被疑者弁護を公費負担とした場合、それが適正に運営されるということの担保として、外の声あるいは外の目をそこに入れていくという可能性に限って御質問したのです。

【日弁連(城口副会長)】綱紀の問題についではないですね。

【井上委員】その点は私の個人的な印象を述べただけですので、それについてお答えいただかなくても結構です。

【日弁連(城口副会長)】綱紀の点だけお答えさせてください。

 今、弁護士会の非行等を調査するには2つの段階がありまして、一つは綱紀の委員会でもって懲戒に掛けることが相当であるか否かというおおまかなものを決めるというもの。これは綱紀委員会ですが、ここでは個別的調査権限がそこまで及んでいないんです。おおまかと言ったら語弊がありますけれども、そういうところなんです。それが嫌疑があるといったような場合には懲戒委員会に付することなりますので、手続はまるっきり違っております。そういう意味で綱紀委員会と懲戒委員会とは質が違うと思っていただいたらよろしいかなと思っております。

【水原委員】時間もだんだん迫りましたのであれですが、次に代用監獄の問題について日弁連に教えていただきたいんです。

 法務省の意見によりますと、捜査の円滑な実施、例えば23日間で真相解明のための取り調べをしなければいけない。それは警察も検察も挙げて。それから、現場の引き当たりのための必要もあるんだと。それから、被疑者と弁護人、家族との接見の便宜など、事実上のメリットが代用監獄に留置することのメリットとして挙げられているわけですけれども、そのようなメリットをなくしても、代用監獄の全面廃止に固執されるのかどうか。それとも、ほかに何か具体的な提案、アイデアがあったならば教えていただきたいと思うんです。

 というのは、例えば東京だけで言いますと、八王子の拘置所支所と小菅の東京拘置所、ここにしか拘置所はないわけです。

 ところが、都内には相当の警察があって、そこに留置して調べておるわけです。そういう現状を前提にしてお教えをいただければと思います。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】例えば特捜事件などは、逮捕段階から拘置所ですね。特捜事件などは、拘置所に収監しても取調べは十分円滑に行われているんじゃないですかね。あれは何か問題があるんですか。

 あるいは引き当たり捜査などについて、これは拘置所の職員が担当するのか、その辺の問題はありますが、警察の方で担当するようにすれば、引き当たり捜査も拘置所から出掛けることも可能ではないでしょうか。

 接見の便宜という点は、確かに弁護士の間でも、近くの警察署の方が接見に便利だということはありますけれども、これはむしろ我々としては、代用監獄というのは、取調官の下に24時間置かれるということになるわけですから、それは仮に少々の不便がありましても、耐えていかなければいけないし、拘置所の方に収容されるということの必要性の方が重要だと思っております。

 したがって、代用監獄は廃止されなければいけない。そういう方向で検討されなければいけないことだと。これは長年言われながら実現しないというか、逆に代用監獄の方は強化されてきている実情もあるやに伺っておりますけれども、これは問題だと思っております。

【水原委員】法務省の主張はお分かりのとおりで、捜査と留置担当の者は警察で歴然と分けておるんだということを言っております。

 それよりも、都内に警察は何か所あるか分かりませんけれども、約100ヶ所近いんでございましょうか。そこに収容している被疑者、これを拘置所に入れるとなったならば、膨大な収容施設をつくらなければいけないんですけれども、そういう国家財政の点はいかがでございましょうか。国の政策というのは予算が先に立つこともあるわけです。

【日弁連(城口副会長)】この司法がどのような位置づけで予算化されているかということが最も私たちが悲しむべきことと考えています。予算が余りにも足らないという不備がありまして、国選問題でもそうなんです。

 簡単に言います。現在の被疑者が収容されている数をカバーできるだけの数の新しい拘置所支所をつくることは、私はそんな困難なことと思っていないんですが、どうでしょうか。

【水原委員】私、営繕課長を4年間やりまして、現在あります拘置所、刑務所の建て替えでさえ、地域住民の猛烈な反対でできないんです。いわんや新しくつくるということは、至難の技と言っていいくらいだと私は思います。これは経験を申し上げただけですが。

【日弁連(城口副会長)】刑務所の場合と拘置所の場合は、大きな本質的な違いがあると考えて、一般の市民も受け止めているんじゃないでしょうか。

【水原委員】それは違います。

 もう一点、接見交通のことについてお教えいただきたいんですけれども、日弁連からお出しいただきましたペーパーによりますと、31ページ~32ページに掲載されておりますが、いわゆる芸大バイオリン事件の例をお引きになられて、これは1981年に起きた事件と資料に書いております。被疑者と弁護人との接見は16日間で7回、合計で3時間15分だと書いておられます。それは刑訴の39条3項の接見禁止の指定を理由に制限されたんだと、非常に広範囲に制限が行われているんだと書いておられましたけれども、今でもこのような状態なのか。これは11年前の例をお引きになっていらっしゃるんですが。

 というのは、先般福岡の公聴会に行きまして、その際に福岡弁護士会の幹部の方々から御意見をいただきましたときに、その中のお一人が、23日間の勾留期間内に21回話された。接見禁止をされている被疑者との面会に21回、私はやりました、こういうふうに説明されて、福岡では接見に関しては問題がないんだとお教えいただいたんですが、ここに書かれておるのは、現状をお話しになっていらっしゃるんでしょうか、お教えいただければと思います。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】今、接見禁止と言われましたのは、裁判所の接見禁止の決定があるケースですか。

【水原委員】そのとおりです。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】それが検察官の指定の問題とは、今はリンクはしていないんですね。だから、当該事件の接見について検察官が指定することがあるぞという、通知事件になっておる事件ということですか。

【水原委員】そのとおりです。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】接見禁止と通知事件は水準が違うんですが。

 福岡の例は存じ上げないんですけれども、法務省の今回のペーパーでも、今でも接見時間を制約しているケースは何回かあるとおっしゃっておられるところですので、実情については、個々の事件によって異なっているのかもしれませんけれども、基本的なところは検察官が弁護人の接見について、日時・場所を指定される、時間についても制限しておられることはあるんじゃないかと。私どもはそういうふうに理解しております。

【水原委員】分かりました。だけれども、この31ページ~32ページに出されておる芸大バイオリン事件というのは、今の状況からしたら余りにも極端な事例じゃなかろうかなと思うものですから、お尋ねしてお教えいただいたわけです。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】これは元最高裁判事の大野正男先生が御担当になって、本に書かれているところから引用されているんです。

【水原委員】11年前です。結構です。

【佐藤会長】時間の関係もありますので、ほかの論点を少し。

【井上委員】次回に委員の間で議論をするために、三者あるいは二者かもしれませんけれども、少し認識がずれている、あるいは見方が違うかと思われる点をあといくつか確認させていただきたいと思います。

 まず裁判所に対してですけれども、弁護士会のペーパーですと、当事者が裁判所の訴訟指揮に従わないことによって問題が生じているという例は余りない。だから、懲戒だとか、あるいは裁判所侮辱罪というものを設ける前提となる立法事実はないと主張なさっているのですが、その点は裁判所としてはどう御認識なさっているのでしょうか。

 もう一つ、いわゆる「人質司法」として批判されていることなんですけれども、要するに被告人が否認や黙秘をしていると保釈がほぼ不許可になる。そのレッテルと言いますか、標語からいきますと、ほぼ自動的にそうなるということを言っているように読めるわけですが、その辺についての実情を伺いたいと思います。

 法務省に対しては、例えば参考人が強制的に呼べないので困るというので、何か強制的な処分が必要じゃないか、また、保護措置も必要じゃないかと言われているのですが、弁護士会の方では、そんな制度は必要ではない、現行法の枠組みで十分対処できるんじゃないかとされていますので、どういう必要があるのかということを御説明いただければと存じます。

 もう一つ、法務省のペーパーでは、可視化の問題ですが、例えば録音を取るのは真相の解明に障害が生ずるとされていますね。私は自分の専門分野ですから、何を意味しているかというのがある程度分かるのですが、その辺をもう少し分かりやすく御説明いただきたいということです。これは現場に即した話になるのかなと思うのですが。

 弁護士会には随分説明いただきましたので、一点指摘だけさせていただきたいんです。これは学者的なこだわりで申すのですけれども、検察官上訴が違憲なのは学界の通説だと書かれているのですが、私は、ちょっと寡聞にして、それが通説だということを聞いたことがないものですから、有力説かどうかとか、人によってそういう評価の問題はあるかと思うのですが、通説というのは言い過ぎかなというふうに思います。そこだけ指摘させていただきたいと思います。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】弁護士会からその点を先にお答えさせていただいてよろしいですか。

【佐藤会長】はい。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】今の点ですけれども、井上先生が検察官上訴の問題についてどういう御見解かというのは、まだ寡聞にして私ども知らないんですが、井上先生がどちらかの立場を取られれば、それが通説なのかもしれませんけれども。私の見ましたペーパー、これは司法試験委員でもある渡辺修教授の「甲山事件と控訴権消滅論」というペーパーなんですけれども、その中に「現在、学説上は、事実誤認を理由とする無罪判決への検察官上訴は違憲とする説が、通説となったとみるべきではないか。」という記載がございましたので、その趣旨を引かせていただきました。

【井上委員】その記載が当たっているかどうかは、学問的な争いですので置くとして、私の見るところ、学界でも通説とは思われていない。多数説ですらないと思います。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】いや、むしろ多数説では。

【井上委員】その点についてはもう結構です。

【佐藤会長】訴訟指揮について、まず、最高裁からお願いしましょうか。

【最高裁(大谷東京高裁判事)】特に統計をもって御説明するわけではありませんけれども、審理が不要に長期化している、一般の目から見て、どうしてこんなに長いのかと思われる事件の中には、例えば検察官の主尋問は比較的短時間に終わって、その争点から見て、どうして必要なのかと思われるような反対尋問が続くことがあります。勿論当事者主義がとられておりますので、どういう観点から尋問がされるかということについて最初はよく分からず、そこは裁判所としてもじっと耳を傾けているわけですが、どうしても必要なのかどうかということから、介入と言いますか、その点について確認をすると、突っぱねられて、尋問を制限してもなかなかそれに従ってくれない、こういうことから訴訟が長期化するという事件があるというのは、現場の裁判官の声だろうと思います。

【最高裁(白木刑事局長)】「人質司法」ということについては私の方から申し上げます。

 なかなか保釈を認めない、保釈を認めなくて、身柄を確保しておいて、抵抗できないようにしておいて裁判するというのが「人質司法」のイメージだろうと思うのですけれども、これにつきましては、「ヒアリング項目について」として私どもが提出させていただきましたペーパーの資料に付けておきましたが、資料2-1というグラフをごらんいただけたらと思います。

 これを御覧いただきますと、一番上に実線で書いておりますのが「保釈請求率」で、一番下に点線で書いておりますのが「保釈率」でございます。中ほどにほぼ横に一線になっておりますが、ちょっと大きめの点線で書いておりますのが「保釈許可率」でございます。このグラフでお分かりいただけますように、保釈請求と保釈率というのは、同じような山を描いておりまして、その保釈請求があったうちで保釈を許可したのはというと、ほとんど横一線になっております。結局のところ、保釈率が低いとおっしゃるのは、保釈請求率が低下していることを反映しているわけで、保釈許可率というのは、昭和30年から平成11年まで、ほぼ5割前後で一貫しているということがお分かりいただけようかと思います。

 問題は、ではなぜ保釈請求が減ってきたのかということでございますが、いろいろ私どもも分析してみました結果、国選弁護人の選任率の変動とほぼ一致している。国選弁護人の選任率につきましては、以前この審議会の方に提出させていただきましたグラフがございますので、後ほどそれを御覧いただきたいと思いますが、そのグラフと、完全にというかほぼ一致しておりまして、国選弁護人の選任比率が高いときには、保釈請求率が低い。国選弁護人の選任比率が低くなって、逆に言いますと、私選が増えてくると請求率が高まるという逆のグラフを描いていることがお分かりいただけようかと思います。

 そのほか、審理期間が随分短くなってきております。そんなことで、短い期間であれば早く審理を終えた方がということで請求されないという面もありましょう。

 同じく今回の資料の2-3と2-4でグラフをつくっておきましたが、資料の2-3の方は第一審における薬物関係事件の終局人員に占める割合でございます。これを御覧いただきますと、昭和36年から平成11年まで、この薬物関係事件が全事件に占める割合が非常に高まってきております。どうしても薬物関係事件というのは常習性がございますので、保釈がなかなか認められないという関係にございます。

 それから、資料2-4のグラフを御覧いただきますと、これは第一審で外国人事件が全体の事件に占める割合を見たものでございます。御覧いただきますように、昔は余りなかったわけですが、昭和63年ごろから急激に増えております。外国人事件の場合には、保釈しますと所在不明になりやすいという問題がございます。そういったことが実質的な理由で保釈請求が少ないのではないかと思います。

 したがって、請求されたもののうちで許可した率というのは、ほぼ一貫しておりますので、私どもは、「人質司法」というレッテルを貼られるのはいかがなものかと考えているところでございます。

【日弁連(城口副会長)】弁護士の城口ですけれども、非常に重要な問題の御指摘がこの点あります。私たちの方もここは非常に関心の高いところでございまして、一方の検事側が尋問時間が少ないのに、弁護側が非常に長い時間を要しているということ、また、そういう例が多いということ、そして、訴訟指揮に従わないことがあるという話が今ありました。ここの点について、弁護側はいつも考えることがあります。これはどういうことかというと、弁護側が開示を受けている検察官調書等の膨大な量が背景にある場合は、この調書の内容に異議がある場合、これが多くこのような問題を起こすわけですが、それが法廷に提出されていないというような場合には、その検事調書等の信用性や任意性を争わなければいけないというふうに弁護側が決意していることが多いわけです。

 そうしますと、検事の方はそのことについてできるだけ触れないで、簡単にやっておこうとします。なぜかというと、調書というのは、後ろに膨大にございますから、これを後で出すことが可能であろうというのが実態ですからです。

 しかし、弁護側はそこに対決する必要がある場合は、この調書というものに対して、それをにらんだ尋問を丁寧に行っていく必要があるわけです。これは当然裁判所の目から見れば見えないところが多いかもしれません。しかし、このことが問題になっているわけです。

 その調書の持っている性質というのは、精密司法をいろいろと言っておりますけれども、単なる犯罪自体の成否に関わらないで、情状やその他の点についても書いてあるわけです。したがって、それに対しての問題も指摘していかなければならないわけなんです。

 そういうようなことからすると、裁判所の目には触れていない調書の信用性なり、任意性等の基本となる背景事実をきちんと述べていかなければならないとなります。

 それから、今問題になっているのかもしれない事案などは、弁護人と被告の方が接見ができない異常事態が発生していることも予測しなければいけません。そうしますと、本人はどういうことを考え、どういうことを将来主張するのであろうかという問題もないわけではないのです。

 こういう場合に、弁護人が不用意に尋問を放棄すれば、とんでもない人権の侵害を起こす可能性を秘めているわけです。ここをいつもよく問題にしているのは、調書の裁判とよく言われ、調書中心主義というのはそこなんですが、あとで必ず調書の特信性や相反性というものを調書の作成者に対してこまごまやって、裁判所は今までの例を見ますと、ほとんど全部と言っていいほどそれを採用してしまいます。採用したその調書は、事件から身近なところで、密室で、あるいは捜査官と心を通じてと言いますか、信用してと言うか、いろんなことを言いますが、そういう中でつくられた近接した内容であり、具体性があり、そして迫真性があるという難しい言葉を使って、結局採用してしまう。それが有罪の基本的な証拠になってしまう、こういったようなことがいつも行われているわけです。

 ですから、私たちはここを非常に問題にして、調書の問題については、神経質というくらいに徹底した議論をしていく必要があると感じているわけです。ここが調書裁判、または調書中心主義というところでの私の感想で、弁護人を少しでもやった人は、ほとんどこれを感じています。

【日弁連(浦刑弁センター委員長)】最高裁の方から「人質司法」というのは、保釈請求率が減少したからではないかという指摘がありました。確かに保釈請求率の減少ということはグラフ上出てきます。かつて1991年だったと思うんですけれども、これは栃木の人権大会で弁護人は保釈請求をもっとしていこうよという話もしたことがございます。しかし、その後、実際にはこれが増えていない。

 なぜかというと、実際に保釈をしても、通らない保釈は弁護人はしません。なぜかというと、被告人がその保釈は通らないということが分かっておっても、被告人は保釈請求をすればそれに期待するわけです。その期待があるために、やはり却下されたよと言っても被告人の納得が充分に得られず、そのことによって弁護人と被告人との間の信頼関係というものに、場合によって傷がつくようなこともあります。

 そういうようなことから、我々弁護人は保釈がまず認められないケースについて、保釈請求はこれをさし控えているという実情があります。

 もう一つは、やはり保釈金の高騰ということが一つの問題としてあるだろうと思います。

 また、先ほど国選率との関係を言われました。しかしこの国選率は非常に緩やかに上昇しておりますので、保釈請求率の減少のグラフとは必ずしも一致しないような気がいたしております。したがって、最高裁の方が御指摘になっておられます国選率の上昇が保釈請求率を低下させているんじゃないかというのは、必ずしも当たらないというふうに我々は理解しているところです。この点については、なお、我々も検討する必要があろうかと思っておりますけれども。

 少なくとも保釈が現状では極めて厳しい。かつて40数%あった保釈率が、現在では10数%しかないということについては、これは是非とも審議会の先生方には御理解をいただきたいと思っております。

【法務省(古田刑事局長)】それでは、時間の関係もありますので、ごく手短に申し上げます。

 参考人につきましては、現在強制的にもし出頭を求めようとすると、刑訴226条ということで、裁判官の証人尋問を求められることになっておりますが、これは実は要件が大変厳しく、かつ、実際問題として、事案の中身は十分御承知ない裁判官によって尋問していただくということになりまして、いろんな事情からなかなか実行性が期し難いという問題がございます。

 勿論、参考人の方は、ほとんどが出てこられるんですけれども、中には法律上行く義務はないから行く必要はないということを聞いて出てこない人とか、そういうのも徐々に見られるようになっておりまして、そういうことからやはり何らかの手当というのが必要ではないかと考えているということでございます。

【法務省(宗像最高検総務部長)】それから、御質問のありました可視化の問題ですけれども、先ほど来、自白偏重、自白中心主義ということをいろいろ言われますけれども、私ども検察の立場から考えますと、刑事事件の捜査の中で、真実解明のためには、被疑者の取調べというのは一番重要だと考えているところであります。犯罪事実について一番物を知っている可能性のある者からこれを聞くということは、捜査の常道であると考えておるところであります。

 勿論、検察官は被疑者の取調べのほかにも目撃者、被害者、参考人の取調べを並行して行いますし、押収した証拠物の分析も行う。これを全部突き合わせて、実際に犯罪を犯したかどうかということを見極める作業を日々行っているわけであります。

 問題は、被疑者の取調べなんですけれども、現実に一般の人がテレビなどの影響で思っているように、我々が被疑者に対して取調べをする場合には、自白せよ、自白せよといって迫るということじゃないわけです。真に犯罪を犯した者であれば、事実を述べて改心すると言いますか、そういう方向で進める。それから、事実犯していないというのであれば、それについて合理的な説明を求めて、その裏付けをこちらが取るという作業をするわけで、一方的に自白しろ、自白しろと言って調べをしているわけではないということを御理解いただきたいと思います。

 取調べなんですけれども、黙秘権を持っている被疑者に対して、取調べの最初に黙秘権を告知しなければいけないわけです。あなたは黙秘権がありますと。何も意思に反して述べる必要はありませんということを被疑者に言います。しかし、そうは言っても、疑われて、逮捕されている状況にある被疑者に対して、黙秘権はあるけれども、もし自分がやっているなら真相をしゃべってくれないかと、黙秘権を超えて真実を引き出すという努力を我々はするわけです。

 そういうふうにしないと、国民から我々に付託されている捜査権限を全うしたということは言えないんじゃないか。刑事事件の捜査の場合に、例えば被疑者がしゃべらなければ、実際に犯罪が明らかにならないというのはたくさんあるわけです。

 例えば単独犯による強盗殺人事件で目撃者がいないという場合に、一体どういう方法で金を取ったのか、物を取ったのか、全然分からんわけです。例えば殺人事件などでも遺体をどこに埋めたかというのは全然分からんわけです。これは自白によって、初めてそこを掘り起こして、実態が分かる。例えば贈収賄事件などでも、ある人からある人に公務員に金が流れたという外形的な事実はある。しかし、一体それがどういう理由の金なのかということは、被疑者の口を借りなければ出てこないわけです。そういう状況があって、難しい事件になればなるほど被疑者の取調べは重要になる。被疑者の取調べが悪だという考えは私は取りません。しかも、その自白を求めることは真相に迫るという、そういう感覚で私達はやっております。

 今、問題になっているのは、では、こういう場に弁護人が立ち会うとか、あるいは録音・録画の機械をセッティングして、調べを監視するというのは一体どうなんだということ、捜査手続が適正に行われているかどうかということを危惧する向きがあるということは私たちも十分理解しています。そういった、取調べに問題があった事例が過去にもありますので、それは謙虚に私たちもそういう必要性を否定するわけではないんですけれども、ただ、取調べが正しいかどうかを見るために、人が立ち会う、あるいは機械をセッティングするという直接的な方法を取る必要はないんではないか。そういう直接的な方法を取ることによって、真実が引き出せないという状況が私は必ず起こるだろうと思います。

 私も三十何年検事をやっていますけれども、例えば被疑者が重大な事実を自白するかしないかというときは、検察事務官と検事は一緒に仕事をしているわけですけれども、「検事、検察事務官をちょっとはずさせてくださいませんか。」と、こういうことを言う被疑者はたくさんいます。これはいろんな多くの検事が経験しているところであります。それから、自白しても、「悪いけれども、このことは付いている弁護士の先生には言わないでほしい。」と言う被疑者もいます。それから、自白しても、「私は共犯者よりも早く自白したという形になりたくない。だから、もっと遅めの形にしていただけませんか。」とか「今日は調書を取らないでほしい。」とか、こういう被疑者もいるわけです。

 いろんなそういう状況下で、言ってみれば、取調べというのは真剣勝負で一対一でやっているわけです。そこに第三者が後ろで聞いて、機械であれ何であれ、後ろで聞いたり、見たり、人が立ち会っているところで、自分が人を殺したとか、賄賂を受け取ったとかいう自白がなかなか引き出せるはずがないだろうと思います。人に見られているところでは、取り調べる側もしゃべる側も本音が出てくるということはないのではないか。私の体験から言いましても、手続を可視化するということは非常に大事なことだけれども、それはそういうような直接的な方法でなくて、弁護人の接見をしょっちゅうできる形に柔軟な運用をするとか、それから重要な事件については、被疑者の段階から弁護人が必ず付くとか、裁判所がお書きになっているような取調経過表といったものをつくって、それを義務付けるという形でもってできるんだろうと。日本の刑事司法の中で、検察官であれ誰であれ、真実を引き出す努力をする機関というのがなきゃいけないと私は思います。人が介入することなしにですね。こういうことなしに、弁護人が立ち会い、機械がセッティングされて、表面的なことで事件の捜査が進んでいくということでは、我々に付託された真実の発見ということはできないんじゃないかと思います。

 ということで、可視化の問題については、法務省のペーパーでも出ておりますような、別な形の方法でやっていただきたいなというふうに、これは私が検察の現場で長年やってきた一つの感想みたいなものとして申し上げました。

 ありがとうございました。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。

【髙木委員】今の可視化の問題で、現に調べに問題があるという例はあると今おっしゃった。問題があることが先なんで、問題を、例えば現に宇和島事件のあの教訓だって十分吟味されていると思うんで、ペーパーを拝見すると、これは最高裁のペーパーにも書いてございましたが、捜査の経過を書く人も、調べた人が書く。その辺にみんなが不信を持っているわけです。

 昨日の公聴会で松本サリン事件の河野さんの証言を聞いていても、さっきの宇和島事件のやりとりを判決文にみんな書いたものを読んでみてもね。

 だから、一歩下がって、調べられる被疑者が可視化の手段を取ってくれというときには取られたらいいんじゃないですか。

 今のお話を聞いていると、基本的には何も変えようとしていないとしか受け止められない。

【法務省(宗像最高検総務部長)】そんなことはないだろうと思います。

【髙木委員】実効がどういうふうに上がるのかというのは、何で担保できるのかという、その辺の説明が、今の説明では納得できない。

 時間もないんで、いろいろお聞きしたいこともあるんですが、会長、時間がなかったので、お聞きしたいところが多々あるんですが、聞けなかった。その辺はどうしますか。

【佐藤会長】基本的には今日、主なところは大体出ておると思いますけれども、もし残っていて、どうしても聞きたいということがありましたら、後で文書か何かでお出しください。

【髙木委員】それぞれ10項目ずつくらいあるけれども、お聞きしたいことは別途お尋ねします。

【佐藤会長】そうしてください。今おっしゃったことは、法曹三者それぞれの御見解は御見解として、私ども自身が議論すべきことですので、そこはちょっと御理解いただきたいと思います。

 今日はもう少し早く終わるんじゃないかと思っていましたが、今日一日ヒアリングということになりまして、長い時間にわたって御協力いただいて、本当にありがとうございました。またこれからもどうぞよろしくお願いいたします。今日は本当にありがとうございました。

 さっき申し上げたことですけれども、私どもとして刑事裁判については8月4日に一応のとりまとめというか、問題の整理をしなければいけないということでございます。今日は意見交換ということも考えておったんですけれども、結果的には今のような状況になりました。しかし、ある意味では事態はかなりはっきりしてきたところがあるのではないかと思います。その辺を踏まえて、水原委員、井上委員、山本委員、髙木委員の4人で、一応の整理を次回までにお願いしたいのですが。次回に、こういう方向で、この辺はこうだという整理のペーパーで結構ですけれども。

【井上委員】今日お配りしたレジュメというのがそれに相当します。かなり整理していますので、基本的にはそれに基づいてやっていただければ。

【佐藤会長】もし手直しする必要があれば。

【井上委員】もし今日のヒアリングの結果を踏まえて、手直しする必要があれば、むろんそうさせていただきます。

【佐藤会長】そういうことです。意見交換を踏まえての取りまとめは別途考えています。
 どうも御苦労様でございました。

(説明者退室)

【髙木委員】ペーパーの整理のことですが、議論がまだ熟していないわけで、この前民事のときに審議結果のとりまとめというペーパーがあって、その前文みたいなところに、現段階としてこの程度のもので、まだ結論はどうのこうのというただし書きをつけていただきましたね。そのような趣旨を必ず入れていただかなければいけないと思います。

【佐藤会長】そうだと思います。この刑事裁判については、もっとデリケートなところがあるかもしれませんので、その辺は心しておきます。
 どうもありがとうございました。それでは、本件はこのくらいにしまして、配付資料の説明をお願いします。

【事務局長】お配りした資料につきましては、特に御説明するこはございません。ただ、民主党が司法制度改革案としてとりまとめて7月12日に発表しました「市民が主役の司法へ- 新民主主義確立の時代の司法改革」というものにつきましては、発表直後に新聞で報道されていることもありまして、なるべく早くと考えまして、既に委員の皆様へ郵送しておりますので、御参照ください。
 それから、お手元にもう一つ、7月18日付の閣議決定をお配りしております。これは先ほど大臣のごあいさつの中にも人的基盤の関係でのお話がありましたが、この間閣議決定されました「新たな府省の編成以降の定員管理について」を参考までに配付したものであります。これをお読みになって、またこちらでの議論を続けていただきたいと思います。
 以上でございます。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。

 最後の日程の関係ですけれども、今月は札幌での公聴会、それから酒田での実情視察、昨日の東京日比谷公会堂での公聴会と、スケジュールが非常に立て込んでおりまして、大変恐縮でございました。参加された委員の皆様、非常に御苦労様でございました。司法に対する国民の皆様の御意見を直接伺い、また、地方の実情をつぶさに見るということで、いずれも大変有益なことではなかったかと思います。

 それぞれの概要は、御都合でやむを得ず参加されなかった委員の皆様にも御参考としていただけるように、整理の上で改めて配付することにしたいと思います。

 それから、次回の審議会ですが、8月4日、金曜日13時半から17時まで、いつもの審議室で行うことを考えております。開始時間を30分繰り上げておりますので、御注意いただければと思います。

 なお、8月4日の冒頭に、前回でしたか、アンケート調査についてちょっと申し上げましたけれども、千葉大学の菅原助教授においでいただいて、アンケート調査に関する説明を15分ほど伺えればというように考えておりますけれども、よろしゅうございましょうか。
 では、そういう形で進めさせていただきたいと思います。
 今日は以上でございますが、記者会見の方はどういたしますか。

【事務局長】是非やってほしいということです。

【佐藤会長】大体聞いていらっしゃるんじゃないですか。
 では、水原委員と井上委員には御出席いただいてやることにしますか。
 では、今日はどうもありがとうございました。