別紙4
平成12年7月25日
日本弁護士連合会
本日、貴重な時間を割いていただき、ここに意見表明の機会を与えられましたことに感謝を申し上げます。
本日の日本弁護士連合会の各ヒアリング項目に対応する意見は、本日付の「『国民の期待に応える刑事司法の在り方』について」と題する書面において、詳しく述べております。大部なものになりましたが、これをご覧いただきまして、意のあるところをご理解いただきますよう、まずお願いをいたします。
ここでは、その一部に関して、いくつか意見を申し上げることといたします。
刑事司法は民事司法の在り方と多くの場面で異なります。民事司法の場面では、経済的資産や身分的関係の移動、得喪があって、総じて立場に互換性があり、司法的な効果として主として国民の財産、身分に影響を与え、国民の生命、身体に影響を及ぼすこともありますが、刑事司法の当事者にあっては、直接に、人間にとって最も根本的な生命の喪失、身体の拘束という峻厳な判断を受ける立場にあって、他に置き換えることのできないものだからです。
歴史的に見ても、長い間、国家権力が刑罰権を乱用して多くの国民の生命を奪い、自由を奪い、身体を棄損してきました。こうした、刑罰権の行使に名を借りた国家の専横に対し、国民の犠牲の上に確立した国家刑罰権のチェックシステムこそが、現在国際人権法や日本国憲法に受け継がれる刑事司法の理念であり、刑事手続における人権保障の原理・原則なのです。
なかでも、罪刑法定主義や刑事裁判の適正手続の保障、被告人の無罪推定の原則、疑わしきは被告人の利益にとの原則などは、まさに時と場所を超えて妥当するのです。
その意味で、根本的に20世紀と異なる21世紀に特有の刑事司法の原理・原則があるのではなく、未だ確立したと言えない刑事司法に関する世界的な原則をわが国において確立していくこと、そのために必要な人的な基盤と制度的な基盤を整備するための抜本的な手だてを講じることこそが必要と考えます。
今、国民が刑事司法に期待する内容は、わが国の刑事司法について国連などから人権保障の点で不十分と指摘されている点を改め、世界的に承認されている刑事司法に関する諸原則を全面的かつ早期に実現することにあるのではないでしょうか。
日本弁護士連合会の意見の「4 新たな時代における捜査・公判手続の在り方」に具体策を示しています。
その改革に関して言えば、捜査段階の公正、透明性の確保、捜査段階の客観化・可視化、勾留・保釈などの身柄解放要件の抜本的な改革、証拠採用法則の厳格化はもちろん証拠開示に関する弁護人側と検事訴追側の武器対等の原則の実質化などなど、国民の視点にたっての制度改革課題は多くあります。いずれも国際人権(自由権)規約委員会のわが国の刑事司法についての最終見解に指摘されているところであります。 多く長期間を要した重大事件については、その抱える困難な事情の分析をふまえて、こうした事件をどのように扱っていくのかを検討・整理し、その教訓を生かして制度の改革や運用の改善に結びつけていく必要があると考えております。
こうした現状をふまえて、被疑者段階の弁護人の援助が一層拡充強化されるように、国費による被疑者弁護制度(少年事件手続における公的弁護人・付添人制度を含む)の導入が積極的に検討されていることは、誠に時宜を得た制度改革の方向と考えます。
なお、これから決定される運営主体の如何を問わず、刑事弁護は国家刑罰権の行使をチェックする本質を有することに鑑み、弁護人の職務の独立性・自主性がいささかでも損なわれることがあってはならないことは言うまでもないことでありますが、その点を特に強調して申し上げておきたいと思います。
刑事司法手続における被疑者・被告人に対する権利保障には慎重に配慮しつつ、国家、国民の英知を集めて被害者の視点に立って適正に対応されなければなりません。
弁護士会も、報道と人権、被害者の人権保障の面から努力していくことをお約束する次第です。
日弁連は、法曹一元制の実現を期して、市民から期待される質の向上を図りつつ、必要とされる数を確保して、21世紀の司法を担っていく決意であります。
本司法制度改革審議会が、21世紀の司法の基盤を築くため、後世の批判に耐えることができる歴史的内容の答申をなされることを期待し、ここに日弁連の意見とさせていただきます。