司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第27回議事概要



1. 日時 平成12年8月4日(金) 13:30~17:30

2. 場所 司法制度改革審議会審議室

3. 出席者

(委員・50音順、敬称略)
石井宏治、井上正仁、北村敬子、佐藤幸治、髙木 剛、竹下守夫、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
(説明者)
菅原郁夫千葉大学法経学部助教授
(事務局)
樋渡利秋事務局長

4. 議題
① 民事訴訟利用者調査について
② 「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について
③ 公聴会及び実情視察の結果概要報告
④ 集中審議の進め方の確認
⑤ その他

5. 会議経過
① 民事訴訟利用者調査について、本審議会からの調査嘱託により同調査の企画・立案を進めている千葉大学菅原助教授から、調査項目等に関する説明が行われた(調査項目の概要は別紙1のとおり)。本年9月から、調査会社を通じて面接調査を行い、その後、調査結果の集計・分析を経て、年内には最終的な報告が本審議会になされる予定。
② 「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について、審議用レジュメ(別紙2)に従って、委員間の意見交換が行われた。主な意見の内容(概要)は以下のとおり(順不同)。本日の意見交換を踏まえ、本年8月下旬か9月上旬ころまでに、会長、会長代理及び担当委員(水原、高木、山本、井上)が相談の上取りまとめ案を作成し、改めて審議会において検討されることなった。

[刑事裁判の充実・迅速化-具体的方策-]

Ⅰ 公判期日の集中・連続化のための方策
○ 刑事事件に専従し得る弁護態勢の構築が必要であり、そのためには公的弁護制度の確立や法律事務所の法人化などを実現することが不可欠。
○ 弁護態勢だけではなく、裁判官、検察官の数など人的体制の充実も図ることが必要。
○ 大部分の事件が迅速に処理されているというが、弱い被告人、強い検察官、職権主義的な裁判所、99%の有罪率、刑事裁判が単に有罪を確認する場と化していること等を考えると、そうした事件の中にむしろ問題のあるものが含まれているのではないか。
○ 審理期間や開廷間隔を法定化することには疑問を感じる。一律に決めることには問題が多く、他方、訓示規定のようなものとしても余り意味がない。むしろ、裁判所、当事者が予め十分打合せをして審理の見通しをきちっと立てていくというやり方を定着させることが大切。
○ 審理期間の法定化は、実質的な当事者主義(武器対等)が保障されていない現状を考えると、被告人・弁護人側の防御権に影響するところが大きく、反対である。

Ⅱ 争点整理手続の在り方
○ 争点が不明確なまま散漫な審理が続くことは刑事裁判の充実・迅速化に反する。現行の争点整理に関する規定は当事者の打合せを促す意味しかなく実効性に乏しい。争点整理につき公判裁判所が関与し当事者の交通整理を行えるような仕組みにするべき。証拠開示もこうした争点整理に関連づけて考えるべき。争点整理手続と証拠開示をセットにしている英国の例が参考になる。
○ 民事裁判の訴訟促進策として行き着いたのが、早期の徹底的な争点整理と集中証拠調べである。刑事裁判でも同様のことが言えるのではないか。

Ⅲ 証拠開示
○ 検察側と被告人側の圧倒的な力の差を考えると、全面的な証拠開示が必要ではないか。そうでないと対等の立場で争点整理に臨むのも無理である。
○ 捜査記録には事件との関連性のないものも多数含まれており、そうしたものも含めて全面的に開示せよというのは行き過ぎ。第三者の名誉・プライバシー侵害など弊害が大きい。争点整理に必要な証拠を開示するという考え方が妥当。そこには被告人側に有利な証拠、防御権行使に必要な証拠も含まれることになる。
○ 何が争点整理に必要な証拠なのかどうかを判断するための具体的な方法が問題なのではないか。英国では検察側の提出予定の証拠を開示することは当然として、それ以外の証拠については目録を被告人側に見せ、その中から開示を希望するものを特定させて開示する、争いが生じれば裁判所が判断するという仕組みがとられている。米国では開示義務のある証拠の類型を定めるという方法をとっている。
○ 行政情報と同様に、全面開示が原則と考えるべきではないか。
○ 捜査の流動性などから全面開示は無理。行政情報の開示と同様に考えるの相当ではない。被告人側の防御権行使に必要な範囲ということで証拠開示を考えるべきで、問題はそのためにどのようなルールを作るかということ。
○ 検察側と被告人側の主張整理に必要な範囲での証拠開示を考えるのが相当。
○ 証拠開示に関し争いが生ずるのはルールが明確化していないことが大きな原因。
○ 争点整理と関連づけた上で証拠開示のルールの明確化を図る必要がある。

Ⅳ 裁判所の訴訟指揮権の実効性の確保
○ 裁判所が適切で実効性のある訴訟指揮権を行使できるためには、当事者が裁判所との基本的な信頼関係の下で互いに協力し支え合っていく姿勢を持つことが前提ではないか。また、当事者の訴訟活動、公判立会能力の向上や裁判所の訴訟運営能力の向上も当然必要となる。
○ 信頼関係は大事であるが、なあなあであってはならない。戦う立場を前提とした信頼関係である必要。
○ ルールに従った戦い方が必要。そのルールが確立していないことに問題がある。
○ 具体的方策として法廷侮辱罪を設けるという提案もあるが、当事者主義が形骸化している現状を考えると、疑問を感じる。

Ⅴ 直接主義・口頭主義の実質化
○ この問題は、争いのある事件につき、公判での証人調べ等を中心とした充実した審理をいかにして行うか、いかに公判を活性化させるかという問題に帰着するのではないか。調書に頼りすぎる裁判であるなら、公判の活性化を阻害することになる。

Ⅵ 争いのある事件とない事件の区別
○ アレインメントについては、幅広い法定刑の中できめ細かな量刑がなされている実情を踏まえると、導入したとしても実効性のあるものとなるかどうか疑問であり、本人が認めればよいという点で国民感情との関係でも問題が残る。
○ 簡易公判手続があまり利用されていないのは、簡略ではあるものの、一応証拠調べは行われるという点で、アレインメントのように徹底していないことにも原因がある。
○ アレインメントについては、本人が自由な意思に基づいて有罪を認めるということが担保されなければならない。

[被疑者・被告人の公的弁護制度]

Ⅰ 導入方式
○ 方式については、国選型(裁判所による弁護人の選任・解任)、法律扶助型(被疑者と弁護人の契約)のいずれも考え得る。また、それらと公設弁護人事務所を併用するやり方もあるだろう。国選型においては、捜査段階において、裁判所がどれだけ関与できるかという点は一つの問題。

Ⅱ 運営主体、導入の条件等
○ 被疑者段階で公的刑事弁護制度を導入するという基本的な方向では意見の一致が見られるのではないか。問題は導入の方式や導入の条件をどう考えるかであろう。
○ 公費を投入することに伴って弁護活動に関し何らかのコントロールを及ぼす必要があるといわれているが、刑事弁護は権力と対峙するものであり権力によるコントロールを受けることがあってはならない。弁護士自治の在り方についてはたしかに問題があり、直されるべき点はあるが、刑事弁護の内容については弁護士自治に委ねられるべき。
○ 弁護活動の質や適正さというものは、私選弁護においても問題となることであり、その意味で弁護士会が担うべきというのは分かるが、少なくとも公的刑事弁護の運営主体が弁護活動が怠慢ではないかどうかなどのチェックはできてしかるべきではないか。この問題は国からのコントロールというより社会に対するアカウンタビリティをいかに果たしていくかという点から捉えるべきではないか。
○ 運営主体を法務省の監督下に置くというのは問題。仮に二者択一であれば弁護士会に任せる方が相当かもしれない。ただし、その場合でも、市民の代表が弁護士の評価に加われるものとしなければならない。
○ 公費を投入することに伴って何らかの公的関与は不可欠なのではないか。公的資金が投入される以上、資金が適正に使われているか否かなどのチェックはあって当然。弁護活動の自主性・独立性を保つこととは別の問題である。
○ 例えば、民事法律扶助の運営主体となる指定法人は法務省の監督下に置かれるが、それは公費が投入されることに伴う経理面や組織面へのチェックであり、具体的な弁護活動に関わりを持つものではない。
○ 運営主体を公正中立な組織とすること、弁護活動の水準・適正を保つ必要がありそのためになんらかの規則が必要となること、また国民の声を反映させられる仕組みを作ることなどが重要ではないか。

Ⅲ 少年審判手続における公的付添人制度について
○ 被疑者段階で例えば少年、障害者等に助力の必要性があると捉えるなら、少年審判手続における公的付添人制度も同様の意味で重要である。

[新たな時代における捜査・公判手続の在り方]

Ⅰ 警察との関係
○ 捜査の大部分を警察が担っていることなどを考えると、警察からヒアリングなどにより意見を聞いておく必要がある。

Ⅱ 刑事免責制度等の新たな捜査手法
○ アメリカで採用されている刑事免責、司法取引、おとり捜査などが問題となるが、そもそも日本とアメリカでは刑事訴訟観が大きく異なっており、我が国の国民感情と合致するかなど種々検討すべき点がある。先々の課題として検討されるべきではあろうが、本審議会で具体的な結論を出すというのは困難である。

Ⅲ 被疑者・被告人の身柄拘束に関する問題
○ 強大な権力を有している捜査機関が密室での取調べなどにより暴走するのではないかとの懸念がある。国際基準(人権B規約及び人権規約委員会の勧告)にも達していないことは問題である。
○ 規約委員会による勧告については手続の一部を取り出して問題視するというところがあり、もう少し刑事手続全体の中で見ていく必要があるように思われる。
○ 代用監獄の在り方など各論的な問題にどこまで踏み込んでいくのか。本審議会としては総論的に方向性を決めて、さらに具体的な検討が進められていくべきだということでよいのではないか。
○ 我が国の刑事司法が適正手続の保障の下での事案の真相解明を目的とする以上、不適正な被疑者・被告人の身柄拘束が防止・是正されなければならないことは当然であり、今後とも刑事手続全体の中で、制度面・運用面において改革・改善のための検討が続けられていくべきということは最低限言えるのではないか。

Ⅳ 取調べの適正を確保するための措置
○ 取調べの可視化については、取調べにおいて人権が守られるようにいかにしてその適正化を図るかということが問題。取調べの持つ真相解明機能とのバランスをどのようにしてとっていくか。ヒアリングにおいても、組織や共犯者との関係などから取調官だけに話を聞いてもらいたいということで真実を話す被疑者が実際にいるという例が示されていた。バランスのとり方により、具体的な方法が異なってくる。
○ 被疑者と取調官の信頼関係により真実を語らせるという事件もあるのだろうが、新聞などで紹介されている不適切な取調べが本当にあるとすれば、それを防止するため、取調べの適正さを客観的に担保する必要がある。取調べの記録を取るだけでは十分とはいえないように思う。録音、録画を行うべきではないか。
○ 取調官が自己に不都合な記録を書くとは思えない。少なくとも録音して欲しいと申し出た被疑者については録音を認めればよいのではないか。
○ 取調べの適正を客観的に担保するにはどのような方法があるかという問題であり、具体策については意見も分かれるところであろうが、取調状況の記録を義務付けることにも十分意味があると考える。リアルタイムで記録をとり、後で改ざんできないような形で保管させるなどの方法もある。また、公的刑事弁護制度の確立や十分な接見により違法な取調べの有無をチェックすることにも意味がある。それらで十分なのかどうか、真相解明とのバランスをどうとるかが問題である。

Ⅴ 検察官の起訴独占・訴追裁量権の在り方
○ 検察官の公訴権行使に民意を反映させるため、検察審査会の議決に拘束力を認める方向で考えていくべきではないか。
○ そうした方向で考える場合、今のままで拘束力を与えられるのか、検察審査会の仕組みについて検討をすることが必要となる。
○ 検察審査会の議決への法的拘束力の付与を含め検察審査会の機能強化を行うこと、その方向での検討が必要ということは言えるのではないか。
○ 「国民の司法参加」の観点からの検討も必要であろう。

Ⅵ 少年事件への対応
○ 刑事責任年齢の引下げの要否等の問題があるが、慎重な姿勢が必要であり、本審議会としてもそうした意見を言うべきではないか。
○ この問題は、様々な観点から正に国民的議論が必要とされるものである。本審議会が検討しなければならない司法改革に直接的に関係するのかどうかも疑問がある。
③ 佐藤会長及び竹下会長代理から、公聴会(札幌、東京)及び実情視察(酒田市)の模様について簡単な紹介がなされた。

④ 集中審議の進め方について、日程表(別紙3)のとおり確認された。

⑤ 「国民の司法参加」の審議日程が一部変更となり、9月12日に法曹三者ヒアリング、9月18日に石井、高木、吉岡各委員からのレポート及び意見交換、9月26日に意見交換及び審議の取りまとめが行われることとなった。

以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-