法務省
今回のヒアリングが主として日本弁護士連合会を対象としたものであることにかんがみ,弁護士の在り方に関し,司法制度改革審議会事務局から書面による回答を求められている点を中心に,司法制度,特にその法制面を所管する法務省として関連が深いと思われる点について,本書面をもって回答する。
なお,これ以外の事項について,委員の御質問があれば,適宜口頭で回答することとしたい。
第1 弁護士事務所の法人化について
第2 外国法事務弁護士制度について
第3 弁護士と隣接法律専門職種等との関係
第4 その他の規制改革との関連で問題となる事項
(1) 現状
現行法制上,弁護士事務所がそれ自体として法人格を取得する制度は存在せず,現状において,複数の弁護士による共同事務所は,一般に,民法上の組合であるとされている。
一部では,弁護士事務所の事務部門のみを会社とする試みなども行われているが(いわゆる「事務局法人」),事務局法人は,法律事務の受任主体となり得ないことなどから,安定した多様な法律サービスを提供するインフラとはなり得ず,余り活発に利用されていない。
弁護士事務所の共同化の状況を見ると,現状では,弁護士1名の事務所が全体の約46%を占め,弁護士30名以上の事務所は約3%にすぎず,最大規模の事務所でも,所属弁護士数は110名程度にとどまっている。
国際的に見ると,所属弁護士数による弁護士事務所ランキングのトップの事務所は,所属弁護士数2600名余であり,40位の事務所が600名程度である(別添資料1)。
(2) 法人化のニーズ
日本弁護士連合会によるアンケート調査によれば,2人以上の弁護士を構成員とする全国の弁護士事務所のうち,法人制度ができた場合,「法人化する」旨回答した事務所が約25%,「法人化を検討する」旨回答した事務所が約56%に及んだということであり,法人化に対する弁護士の強いニーズが窺われる。
(3) 法人化問題の検討経緯
昭和39年の臨時司法制度調査会意見書で「弁護士活動の共同化」及び「弁護士の大都市偏在化の是正」が取り上げられたことなどを契機に,昭和40年代以降,弁護士,弁護士会等による検討と各種構想・試案の公表等の取り組みがなされ,日本弁護士連合会においても,法務法人法(試案)の策定など積極的な検討が続けられた。
その後,平成9年3月,規制緩和推進計画の再改定において,弁護士事務所の法人化が規制緩和等の具体的措置として閣議決定事項に盛り込まれて以降,その後の改定においても,引き続き分野別措置事項に掲げられている。
(4) 立法化に向けた動き
別添資料2のとおり,規制緩和推進3か年計画(再改定)(平成12年3月31日閣議決定)においては,弁護士事務所の法人化について,平成12年度中に所要の法的措置を講ずることとされている。
これを踏まえ,法務省としては,次期通常国会に所要の法案を提出するべく,海外の弁護士法人法制についての調査及び日本弁護士連合会との意見交換を実施するなど立案に向けた調査・検討を進めている。
日本弁護士連合会とは,既に,平成11年1月20日から平成12年8月4日までの間に合計21回の意見交換会及び合計12回の事務担当者レベルによる法案検討会が開催されており,現在もなお継続中である。
2 弁護士事務所を法人化するメリット
一般に議論されているところによれば,弁護士事務所の法人化のメリットは,次頁に掲げる図表のとおりである。
3 法人化に当たっての基本的考え方
弁護士事務所の法人化は,弁護士にしか許されていなかった法律事務の取扱いに関し,弁護士を構成員とする法人組織を創設する途を拓き,安定した多様な法的サービスの提供を可能にしようとするものである。
立法化に当たっては,依頼者等利害関係人の保護,現行法人法制・資格法制との整合性等に十分な配慮をする必要性がある。
すべての事務所を法人化するものではなく,法人化を望む弁護士に選択肢を提供しようとするものではあるが,21世紀において複雑・多様化し,増大する国民の法的ニーズに弁護士が適切に対応していくためのインフラ作りとして,国民の利便性向上の観点から,検討を進めるべきものと考える。
(全体について,平成12年2月22日「弁護士の在り方についての論点整理」〈参考資料〉(その2)資料39参照)
我が国における外国弁護士受入制度である外国法事務弁護士制度(以下「外弁制度」という。)は,外国の弁護士となる資格を有する者が,その資格を基礎として新たな資格試験等を課されることなく,我が国において外国法に関する一定の法律事務を取り扱うことができることとする制度である。
司法制度の一翼を担う制度であると同時に,サービス貿易の一環としての位置付けもなされている。
2 外弁制度創設の経緯等
外弁制度は,我が国経済の国際化に伴う渉外的法律サービスに対するニーズの高まりを受け,米国,ECとの政府間協議,法務省と日本弁護士連合会による緊密な協議・検討を経て,昭和62年に創設された。(「外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法」は,昭和61年5月23日公布,同62年4月1日から施行。)
その後,弁護士業務を取り巻く国際的環境の変化等に伴う内外のニーズに適正に応えうる制度とするため,諸外国等の要望,渉外的法律業務の実情等を踏まえ,平成6年,同8年及び同10年の三度にわたる法改正を経て,現在に至っている。
3 現行外弁制度の概要
(1) 外国法事務弁護士となるための要件
外国法事務弁護士となるためには,法務大臣による承認を受け,かつ,日本弁護士連合会に備える外国法事務弁護士名簿に登録を受けなければならない。
法務大臣による承認に当たっては,資格試験や選考は行われないが,優良な法律サービスを提供できる者であることが制度的に保証されている場合に限って承認を与えるとの観点から,外国弁護士としての一定の職務経験等を要件としている。
法務大臣による承認を受けた者は,入会しようとする弁護士会を経由して,日本弁護士連合会に登録請求書を提出しなければならない。
(2) 外国法事務弁護士の監督
外国法事務弁護士は,登録と同時に当然に入会しようとする弁護士会及び日本弁護士連合会の外国特別会員となり,弁護士会及び日本弁護士連合会の監督を受ける。
(3) 外国法事務弁護士の職務
外国法事務弁護士は,我が国において外国法に関する法律事務を行うことを職務とする。日本法に関する法律事務を行うことは,許されていない(※)。
ただし,国際仲裁手続については,準拠法にかかわらず当事者の代理を行うことができる。
※日本の弁護士は,外国法に関するものも含め,あらゆる法律事務を取り扱うことができる。
(4) 弁護士との協働の在り方
① 雇用
外国法事務弁護士が弁護士を雇用することは禁止されている。
弁護士が外国法事務弁護士を雇用することはできる。
② 弁護士との共同の事業(特定共同事業制度)
外国法事務弁護士は,職務経験が5年以上ある弁護士と,渉外的要素(※)のある法律事務を行うことを目的する共同の事業(特定共同事業)を営むことができる。特定共同事業は,事件ごとに報酬を分配するだけでなく,継続的に収支を共通にすることもできる点で,英米法のパートナーシップ制度と類似する。
なお,外国法事務弁護士は,特定共同事業を組んだとしても,従来できなかった業務を自ら行うことができるようになるわけではない。
※「渉外的要素のある」とは,外弁法第49条の2第1項各号に該当するという趣旨であり,外国法に関する知識を必要とする法律事務や当事者が外国人・外国企業である法律事件についての法律事務をいう。
5 外弁制度を取り巻く状況
(1) 外弁制度に関する要望等
我が国の外弁制度については,今なお,内外から要望がなされており,その主なものは次のとおりである。
① 諸外国
米国,EU等から,①外国法事務弁護士と日本の弁護士のパートナーシップや雇用に係る制限の廃止,②職務経験要件の廃止ないし緩和などが要望されている。
なお,近時我が国の社会・経済が急速に国際化しつつあることに加え,WTOの新ラウンド交渉が本格化していくことなどを踏まえると,我が国の法律サービス分野における諸外国の自由化要求は,今後一層強まることが予想される。
② 規制改革委員会
国内では,規制改革委員会による「規制改革についての第2次見解(平成11年12月14日)(別添資料3)」において,①外国法事務弁護士による弁護士雇用禁止規定の廃止,②特定共同事業の目的に関する規制を見直すなど所要の措置を検討すべきである旨指摘されている。
(2) 政府の対応 こうした外弁制度に対する要望等を踏まえて,政府は,規制緩和推進3か年計画(再改定)(平成12年3月31日閣議決定)(別添資料2)で,「外国法事務弁護士と弁護士との提携」を新規項目として取り上げ,「日本法及び外国法を含む包括的,総合的な法律サービスを国民・企業が受け得る環境を整備する観点から,外国法事務弁護士と弁護士による包括的・総合的な協力関係に基づく法律サービスがあらゆる事案について提供できるよう,特定共同事業の目的に関する規制を見直すなど所要の措置を検討する。」(平成12年度検討)としている。法務省では,閣議決定を踏まえて,平成10年改正法の運用状況を注視しつつ,日本弁護士連合会,外国法事務弁護士協会や外弁のユーザー企業との意見交換を行うなどして,外弁制度に関する実情・ニーズの把握に努めているところである。 (外弁制度に関するデータについては,別添資料4参照)
(1) 総合的法律・経済関係事務所の意義と問題点
近年における社会・経済の複雑化・多様化は,依頼者の抱える案件について,弁護士,公認会計士,税理士,弁理士等の異なる専門職種が協力してサービスを提供する必要性を生じさせている。いわゆるワンストップサービスを実現し,依頼者の利便の向上を図る観点から,各専門資格者がそれぞれの専門知識に基づき協力したサービスを提供できる協働関係を可能にする形態は,必要かつ重要である。
他方,無資格者による業務遂行の禁止や各職種の専門資格者としての独立性の確保など,資格法制上,慎重な検討を要すべき点も存する。
(2) 政府としての対応
総合的法律・経済関係事務所の開設については,政府の規制緩和推進3か年計画において取り上げられていたが,法務省を含む関係省庁において検討した結果,現行法上も,弁護士,公認会計士,税理士,弁理士等がそろった「総合的法律・経済関係事務所」の開設は基本的に可能であるとの結論に達し,平成11年5月,その基本的な考え方(別添資料5及び6)を日本弁護士連合会に周知するなどの所要の措置を講じた。
これを受けて,規制緩和推進3か年計画(再改定)(平成12年3月31日閣議決定)(別添資料2)では,「措置済み」とされている。
(3) 総合事務所化の促進
現状における総合的法律経済関係事務所の設立数は,必ずしも十分とは言えない状況のようであり,各界からワンストップ・サービスの促進の必要性が強く指摘されるに至っている。
したがって,弁護士を含むより多くの専門資格者に対し,総合事務所の各種利点や設置に関する基本的な考え方等を周知させることなど総合事務所化の促進策を具体的に検討していく必要があるのではないかと考える。
2 隣接法律専門職種等との役割分担について
隣接法律専門職種等による法律事務への関与の在り方の問題は,特定業種の利害による権限の拡大要求とその調整という視点からではなく,なによりも司法制度のユーザーである国民の視点に立って,弁護士とそれ以外の法律専門職種等とが,どのように適切にその専門性を活かしつつ,役割を分担し,あるいは補い合うなどして,国民に対してより高度,的確,迅速,かつ廉価な法的サービスを提供できるような制度・手続を整備するのが望ましいか,という高い見地に立って検討されなければならない。そのためには,これらの各職種等について,それらが有する資格・能力・経験等の内容,専門性の有無や程度,より高度の法律事務に関与させるのであれば,それに値する知見と能力を的確に担保するための具体的施策等について,検討が深められる必要があろう。
加えて,法曹資格を有しない者として,選考による簡易裁判所判事,いわゆる特任検事及び副検事が,現に我が国の訴訟事務の相当部分を処理しているが,これらの者が有する能力について,退職後もその活用を図ることは,国民の利便性向上の観点から,十分検討に値すると考える。この点についても,種々の観点から検討願いたい。
なお,今回のヒアリングのテーマとしては,「隣接法律専門職種等」に「企業法務など」も含めるということなので,この際付言するに,規制緩和推進3か年計画(再改定)(別添資料2)において,「司法試験合格後に民間における一定の実務経験を経た者に対して法曹資格の付与を行うための具体的条件等を含めた制度的な検討については,司法試験合格者数の1500人への増加問題についての検討の一環として,早急に結論を得て,所要の措置を講ずる。」旨閣議決定されており,当審議会においては,法曹人口論についての議論を踏まえ,この問題も検討願えれば幸いである。
1 報酬規定について
弁護士については,「弁護士の報酬に関する標準を示す規定」を会則に記載すべき旨が弁護士法で規定され,日本弁護士連合会及び各弁護士会において,いわゆる報酬規定が定められているところ,規制改革についての第2次見解(平成11年12月14日)(別添資料3)において,「公正有効な競争の確保や合理性の観点から,報酬規定の在り方を見直すべきである。」として取り上げられ,規制緩和推進3か年計画(再改定)(平成12年3月31日閣議決定)(別添資料2)において,「法令により報酬規定を会則記載事項としている各資格について,その報酬規定の在り方について検討を深める。」旨閣議決定された。
その後,規制改革に関する論点公開(平成12年7月26日)(別添資料7)において,弁護士等の報酬規定の在り方見直しが論点として摘示された。
また,通商白書(平成12年5月)(別添資料8)においても,「利用者にとって法律サービスが容易に利用できるかどうかは,費用も重要な要素である。・・・(弁護士会規則が定める報酬基準)については,料金体系の見直しを求める要望や弁護士に依頼をする場合に必要な費用が国民から見て必ずしも明らかでないとの指摘もあり,弁護士費用の合理化,透明化が課題となっている。」とされている。
2 強制入会制度等について
弁護士等の専門資格者の強制入会制度については,規制改革委員会による規制改革に関する第2次見解(別添資料3)において,「法律により強制入会制を採ることについては,以上述べたほか,様々な基本的な法制上の問題等もある。こうした事情を十分勘案した上,現在,法律による強制入会制を採っている各資格について,この問題についての検討を深めるべきである。」旨指摘された。また,この関連において,同見解において,「弁護士会の懲戒の在り方についても,より公正で透明な判断手続を担保するという観点から,抜本的に見直しすることについて検討すべきである。」旨指摘された。
これを受けて,規制緩和推進3か年計画(再改定)(別添資料2)において,「法律による強制入会制を採っている各資格について,その入会制度の在り方について検討を深める。」旨閣議決定された。
その後,「強制入会制を廃止すべきではないか」が,論点公開(別添資料7)で取り上げられた上,「資格者団体の使命と公益性にかんがみ,強制入会制に密接に関連する事項として,資格者団体におけるチェック機能の充実等についての検討が必要ではないか。」として,弁護士の懲戒制度の在り方見直しも論点として摘示されるに至っている。