第1は,現在の弁護士数の不足から生じていると思われる問題が解決される必要があるという点である。
既に指摘したとおり,我が国の民事事件の弁護士選任率は諸外国に比してかなり低い状況にあり,簡単な事件は別として,複雑な事件となると,当事者本人も裁判所も極めて負担が大きく迅速な審理も実現しがたいことになる。少なくとも地裁事件では当事者に大きな経済的負担をかけることなく,弁護士を代理人に選任できるだけの弁護士数が必要である。
この点で特に重要なのは,弁護士の偏在の問題である。弁護士偏在の状況は,既にこの審議会でも指摘されているところであるが,弁護士数の少ない地域では,各地の視察の際にも述べられているとおり,弁護士選任率が都市部に比して低いのみならず,弁護士が選任されている場合であっても,遠隔地の弁護士の比率も高く,弁護士の期日の確保が難しいとか,国選弁護人の確保にも苦労するといった実情がある。また,最近では,地方都市における企業倒産が相次いでおり,相当規模の庁でも弁護士である破産管財人を選任するのに苦労しているといった状況も生じている。弁護士偏在問題については,日弁連でも積極的に取り組んでいるところであるが,このような弁護士の偏在状況を解消し,弁護士へのアクセスを抜本的に改善するために,弁護士総数を増加させることは不可欠であろう。
なお,上記のような弁護士選任の状況から,現在では,特に地方において,比較的少額の事件については司法書士が当事者の依頼を受け,単に書面を作成するだけでなく,事実上法的なアドバイスを行っているという実情にある。隣接職種に一定の法律活動の資格を付与するかどうかという問題は,このほかに税務,特許等の特化した領域における法律事務処理の合理性,国民の利便という観点から幅広く検討されるべき問題であるが,上記の点も検討に当たり考慮されるべきことがらである。
また,刑事弁護の態勢の問題も,すでに指摘したとおりである。将来的には公設弁護人制度の確立が望ましいところであるが,そのためにも弁護士数が一定規模であることが必要であろう。
(注1) 弁護士の偏在状況を見ると,全弁護士の約6割強が東京及び大阪に集中し,弁護士1人当たりの人口は,ほとんどの県で1万人を超え,島根県では約3万6500人となっている。また,弁護士が1人もいない市町村の数は2870か所(全市町村の85.1パーセント),地家裁本庁及び支部の253の管轄区域のうちで弁護士の数が1人以下の区域(いわゆるゼロワン地区)が約70か所ある。
このような状況を受け,管轄区域の弁護士数が少ない庁では,破産事件の管財人の担当事件数も多くなっており,中には,1人当たり10件を超える庁もある。管財人確保に苦慮する地裁も少なくはなく,弁護士以外の者から管財人を選任する庁もある。(注2) 東京及び大阪の弁護士数の全国に占める割合は,昭和38年当時は58.9パーセントであったのに対し,平成11年では60.6パーセントに上昇し,平成12年における新規登録弁護士数578人中,東京及び大阪で395人(約68パーセント)を占めている。他方,平成12年には,25の弁護士会で新規登録弁護士数が0又は1人という状況にあり,例えば,島根県では,昭和38年当時よりも弁護士数が減少している。 (注3) 簡裁における平成10年の弁護士選任率は,東京高裁管内で1.2パーセント,大阪高裁管内で1.5パーセント(いずれも民事通常第一審訴訟における,当事者双方に弁護士が選任された事件の割合)である。なお,昭和38年の弁護士選任率は,それぞれ,22.2パーセント,17.4パーセントである。
第2に,裁判所も弁護士も,今後増大する多様な法的ニーズ,特に専門的な事件を取り扱うため,人員を増加し,専門分化を進める必要があると思われる。裁判所でも,今後いわゆる専門部の増強を図るとともに,研修を含む裁判官養成において,この点に特に配慮していく必要があると考えているが,弁護士についても,法律事務所の共同化を含め,専門分化の方向を強化していく必要があるであろう。(注4) 我が国において,弁護士数1人の法律事務所に所属する弁護士数は全弁護士数の47.7パーセントであるのに対し,21人以上の法律事務所に所属する弁護士数は全弁護士の2.2パーセントである。ちなみに,アメリカにおいては,弁護士数1人の法律事務所に所属する弁護士数は全弁護士数の45パーセントであるが,21人以上の法律事務所に所属する弁護士数は26.5パーセントとなっている。 (注5) 例えば,知的財産権の分野では,弁理士登録をしている弁護士は約270名であり,専門性の高い知的財産権事件を取り扱う専門的弁護士の数は30名程度であろうと指摘されている。アメリカのパテント・アトーニーの数が約1万6000人であることと比較しても,弁護士の専門化に格段の違いがあると言わざるを得ない状況にある。
第3は,裁判活動を行う弁護士として,一定の資質,能力が必要とされることはいうまでもなく,前述の司法修習制度がこれまでそれらを確保する機能を担ってきたが,今後養成される弁護士についても,同様あるいはそれ以上の十分な養成方法が保障される必要がある。現在,法科大学院についての検討が行われているが,その後の実務についての研修も含めた養成レベルの確保は,極めて重要である。
(注6) 当番弁護士制度は,当番になった弁護士が,要請を受けて被疑者の留置場所に出向き,無料で,面会の上相談に応ずる制度であり,各地の弁護士会がその運営主体となっている。平成2年に大分県弁護士会と福岡県弁護士会が全国に先駆けて実施し,以後2年の間に全国52の弁護士会の全てにおいて実施されるなど,全国的な展開を見せている。全会員の43パーセントに当たる約7500人の弁護士が当番弁護士名簿に登録しており,年間の受付件数は3万件に上り,面会に引き続いて受任する件数も6000件弱に至るなど,この制度は被疑者段階における弁護活動を確保する重要な役割を果たしてきていると評価できる。
特に,その中でも重要と思われるのは,逸脱した弁護活動への対応と綱紀・懲戒の在り方の点である。既に,問題として指摘したところであるが,裁判における不適切な,あるいは,逸脱した弁護士の活動等に対して,適切かつ実効性ある制裁制度が機能する必要がある。そのような機能を持つ制度としては,弁護士会による懲戒制度がほとんど唯一のものである。近年の懲戒事例を見ると,犯罪行為,依頼者からの預り金等を巡る金銭トラブル,裁判手続の懈怠等によるものが大半のように思われる。
懲戒手続は,懲戒請求があった場合,まず,各弁護士会に設置された綱紀委員会で調査され,懲戒相当の報告があった場合に,各弁護士会に設置された懲戒委員会で審査されることとなっているが,これらの委員会は弁護士を中心とした構成になっている。
弁護士の職業倫理の確立という観点からすれば,単に犯罪的行為や著しい職務懈怠に止まらず,迅速で適正な裁判の実現に向けた健全な訴訟活動という観点からも,適切な自治機能が発揮されることが望ましい。その意味で,懲戒制度の在り方や運用方法について,弁護士個々人のプライヴァシーに配慮しつつ,更に検討する必要があると思われる。