司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第28回議事概要



1. 日 時 平成12年8月29日(火) 13:30~17:00

2. 場 所 司法制度改革審議会審議室

3. 出席者

(委員・50音順、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子

(説明者等)

久保井一匡 日本弁護士連合会会長
房村精一 法務省司法法制調査部長
中山隆夫 最高裁判所事務総局総務局長

(事務局)

樋渡利秋事務局長

4. 議題 「弁護士の在り方」について日弁連等ヒアリング及び意見交換

5. 会議経過

① 「弁護士の在り方」について、別紙1ヒアリング項目により、ヒアリングが行われた。まず、日弁連久保井会長から説明があり、その後、法曹三者に対する質疑応答が行われた(法曹三者の資料は別紙2~4)。主な質疑応答及びこれに関する委員の意見は以下のとおり。

○ 法曹人口問題など、審議会の方向性に沿う形で日弁連内の議論をまとめていただきたいと考えるが、見通し如何。(回答<日弁連>:11月に臨時総会を開き、法曹人口、法曹養成、さらには法曹一元・陪審制に関する決議を予定。会内には一部異論もあるが、執行部提案の線で集約可能と考えている。)

○ 弁護士の情報公開への取り組み如何。(回答<日弁連>:開かれた裁判所を要求する以上、自らも開かれた弁護士・弁護士会を目指すことは当然であり、全力を尽くしたい。)

○ 弁護士資格取得後の質の向上への取り組み如何。(回答<日弁連>:資格取得後の研修という面では、欧米に比べ遅れていると認識。弁護士に求められるニーズは多様であり、今後、実務研修を充実させていきたい。)

○ 弁護士費用の敗訴者負担についての考え方如何。(回答<日弁連>:単純な貸金返還訴訟など敗訴者負担の導入が望ましい訴訟類型もあろうが、一般的に敗訴者負担を導入することについては、現状では提訴を萎縮させるおそれの方が大きく時期尚早との立場。消費者訴訟などでは片面的敗訴者負担を導入すべき。)

○ 弁護士の真実義務に関連して、弁護士が積極的に真相解明を妨害したり、虚偽の供述をさせることは許されないと考えるか。(回答<日弁連>:偽証教唆や証拠捏造はもとより許されない。)

○ 弁護士会の綱紀委員会は、刑事司法の起訴手続に匹敵する重要な機関だが、ここで弁護士以外の参与員に議決権を認めていない理由は何か。ユーザー側の参与員導入を検討するとのことだが、その場合の議決権はどうするのか。(回答<日弁連>:現在の綱紀委員会の運用に問題があるとは認識していないが、今後、参与員に一般市民を入れることは十分検討に値する。)

○ 参与員に議決権を認めても特に問題がないなら、認めるべきではないか。

○ 真実義務と依頼者への誠実義務が衝突する場面で、現実に弁護士がどう対応しているのかは、外見的には分かりにくい。建前と実際に乖離があるのではないか。(回答<日弁連>:偽証教唆や証拠捏造は絶無に近いと信じる。被疑者が嘘をついていると思っても、弁護士としては、説得することができるにとどまり、本人に無断で外部に漏らしてはならない。被疑者に黙秘権を告知し、その行使を勧めることは当然の弁護活動である。弁護士には、憲法の許す範囲内で被疑者を守る義務がある。)

○ 審議会で決めた法曹人口を具体的に実現する過程で、法曹三者間で協議が整わないというおそれはないか。(回答<日弁連>:法曹人口はもはや法曹三者協議で決めるものではなく、社会・国民が決めるべきもの。具体化の作業の中では法曹三者も参画し、意見を述べることはある。<最高裁>:審議会報告をゆるがせにしてはならないことは当然。具体策の検討も、法曹三者だけでは揺り戻しもありうるので、法曹三者のみの検討体制は適当でない。審議会としても適切な仕組みを御検討いただきたい。<法務省>:法曹三者は審議会報告を円滑に実施する責任がある。仕組みについても審議会で御検討いただき、法曹三者が取り仕切っているという批判のないようにすべき。)

○ 審議会で決めた内容について、具体的な実現段階で法曹三者が相談することはありうるかもしれないが、基本的な方針が実現しないことはあってはならず、それでは審議会の存在意義にかかわる。

○ 審議会で、フォローアップの仕組みも含めて提言することは重要。

○ 弁護士偏在解消への努力の具体策如何。(回答<日弁連>:偏在解消を強制的手段で行うことは困難。地方での仕事は大変やり甲斐があることについて、若手弁護士や修習生に情報を流し、誘導していく。)

○ 弁護士会運営に国民の声を反映させる現状の工夫として、懇話会などが挙げられているが、実際にこうした意見は会務に反映されているのか。日弁連だけでなく単位弁護士会レベルでも一層工夫すべきではないか。(回答<日弁連>:法曹人口問題でも、新聞論説委員や学者などから貴重な意見を頂いた。単位弁護士会レベルでも、政策形成過程等において外部の意見を聴き、独り善がりにならないように工夫している。)

○ 弁護士から裁判官への任官が進まない理由をどう考えるか。(回答<日弁連>:様々な要素が複合的に絡み合っているが、根本のキャリア制度にメスを入れなければ、いくら待遇改善を図っても限界がある。<最高裁>:むしろ弁護士と裁判官との職務の性質の違いからくる躊躇が比較的大きな要因ではないか。任官のハードルを極力低くするような仕組みを今後考えたい。弁護士任官者の待遇面が不十分とは思わない。<法務省>いずれにせよ、多様なルートで裁判官が供給されることは望ましい。)

○ 弁護士人口の急激な増加に危惧はないか。(回答<日弁連>:集中審議で打ち出された3,000人との方向は、国民の声を汲み上げたものとして真摯に受け止め、積極的に対応していきたい。社会の多様なニーズや法律扶助・公的弁護制度等の充実を考えると、審議会の提示する数字は決して無理なものではなく、社会が十分吸収しうる数字と考える。)

○ 裁判所は、弁護士の裁判官への就任義務は憲法違反の疑いがあるとの意見だが、どの辺りまでなら許容できると考えるのか。(回答<最高裁>:規定振りにもより、本人の自由意思が保障されるかが問題である。むしろ義務ではなく、自らの自覚と使命感により自己発生的に任官が進むことが本来的な姿ではないか。)

○ ユーザー側は、懲戒委員会の決定に不服があっても、裁判で争えないことについて、弁護士側とのバランスを失するとの意見があるがどう考えるか。(回答<日弁連>:市民代表による再審査の仕組みを設け、懲戒を勧告する制度を導入することも検討に値する。)

○ 法人化については、平成12年度中に措置することが閣議決定されているが、検討の進捗状況如何。(回答<法務省>:来年1月の通常国会への法案提出を準備中。基本的方向については、日弁連も賛成していると認識。)

○ どのような法人を想定しているか。有限責任か。(回答<法務省>:有限責任法人を導入すると、帳簿開示など、より複雑な仕組みも必要となるという問題もあり、適切な制度を検討している。)

○ 特任検事、副検事、簡裁判事について、法務省及び最高裁は、どのような退職後の能力の活用を考えているか。それらの検討に当たって必要な情報である選考方法、職務内容、採用・退官・現員数、研修などの資料を提出されたい。(回答<法務省>:特任検事、副検事は、厳しい部内試験等を経て有能な人材を得ており、実際に多くの仕事をしている。隣接法律専門職種の活用に関する検討と併せて御審議願いたい。<最高裁>選考による簡裁判事についても同様。少なくとも簡裁に限っても、司法書士へ代理権等を付与するのであれば、簡裁判事経験者は同等以上の能力がある。弁護士過疎地対策としても有効。)

○ 規制改革委員会の見解や閣議決定において、司法試験合格後、司法修習を経てはいないが、民間における一定の実務経験を経た者に対して法曹資格付与を行うための制度的検討を行うこととされているが、法務省の見解如何。(回答<法務省>:司法試験合格後、一定の官部門の実務経験により司法修習に替える制度は現在あるが、民間実務の場合に、司法修習に代替しうるだけの実質的内容を備えているかが問題となる。一律に民間なら駄目ということもなかろうが、企業法務には多様な形態があり、慎重な検討が必要。)

○ 一定の基準を満たす実務経験があれば、司法修習はなくてもよいと考えるのか。(回答<法務省>:大多数の法曹を育成する法曹養成制度としては、司法修習は必要と考える。ただし、法律家の全てがそれを経る必要があるのかということは、それとは別の議論と認識。)

○ 法律事務独占について議論すべき。法廷代理は一部の例外を除き弁護士が独占してもよいと考えるが、それ以外の法律事務は、隣接法律専門職種も含めて業務独占とする必要はないのではないか。また、企業でも、持株会社化が進み、親会社の法務部が子会社の法律事務を行うことも増える。そのような場合には、法廷代理も含めて取り扱えるようにすべきではないか。

○ 一定の法律学の教授又は助教授を5年以上経験した場合に、司法試験、司法修習を経ずとも弁護士になりうる特例制度があるが、具体例はかなりあるのか。(回答<日弁連>:かなりの数に上る。ただし、弁護士会の審査を要する。)

○ 弁護士会の行政事務に関する情報公開のための具体的体制についての検討状況如何。(回答<日弁連>:現在、登録・懲戒に関する情報を機関誌に掲載しているが、それで十分かどうか検討し、一層の情報公開・提供を図っていく。)

○ 弁護士の公益的責務に関して、公費で負担すべきものと、弁護士のボランティアで対応すべきものとの仕分けをどう考えるか。(回答<日弁連>:たとえ無償でも、弁護士としてやるべき活動はあり、実際にそうした例は多いが、だからといって無償が当然とは考えていない。)

○ プロボノ活動を義務化したり、こうした活動に補助をしていくことはできないか。(回答<日弁連>:米国では、プロボノ活動を行わない弁護士から負担金を徴収する制度もあると聞く。具体的な方策はなお検討途上。)

○ 外国法事務弁護士による日本弁護士の雇用を禁止する理由として、弁護士が雇用されると雇用主に支配されて問題が起こるということだが、あまり説得力がないのではないか。(回答<日弁連>:日本の弁護士も国際業務ではレベルアップしつつあり、国際化への対応は、法曹人口の一層の増加により解決すべきであり、外弁等への開放は慎重に対応すべき。外国の商業主義的な弁護士が日本の弁護士を使って商業主義的な活動をすることはあまり好ましくないというのが日弁連の考え方。)

○ 弁護士法72条は極めて広範な網をかけており、弁護士以外の法律事務参入を排除しているが、基本的な方向性として、72条は引き続き堅持すべきと考えるのか。訴訟代理以外の、相談、ADR、行政手続等については開放してもよいのではないか。(回答<日弁連>:日弁連の方針は、あくまで弁護士数の必要な増員により社会のニーズに応えていくべきということ。法廷外の相談や示談等にも、高度な法的能力を要し、公正さの確保が重要なものも多い。しかしながら、大幅増員には一定の時間を要するので、その間、隣接士業に一部手伝ってもらうことは必要。例えば司法書士には、簡裁の補佐人権限を認めてよいと考えるが、それ以上の権限付与は、簡裁の事物管轄の訴額見直しの動き等も考え併せると、結果的に国民に迷惑がかかることを危惧する。弁護士の縄張り意識で主張しているのではない。)

○ 綱紀委員会の参与員に議決権を与えるべきではないか。また、懲戒委員会を弾劾構造化し、被審人を追及する立場の人を設け、国民から仲間内の決着と見られないようにすべきではないか。さらに、綱紀・懲戒委員会の調査権は実際にどの程度機能しているのか。(回答<日弁連>:綱紀委員会の参与員への議決権付与については、持ち帰り検討したい。懲戒委員会の弾劾構造化については、運用上の工夫も含め研究したい。調査権については、調査対象者の同意が前提となる。強制捜査権限は弁護士会に馴染まないと考えるが、調査への協力義務を会則に記載することなどを検討したい。)

② 以上のような日弁連等ヒアリングに続いて、別紙1ヒアリング項目及び別紙5「『弁護士の在り方』に関する提言内容の整理」に基き、委員間で意見交換が行われたところ、主な内容は以下のとおり。

○ 弁護士の国際化について、ガット、WTOなどの多国間交渉や日米交渉などにおける議論の実態を示す資料を提出されたい。

○ 第二次外弁対策を検討した当時は、欧米も必ずしも自由化一色ではなかったと記憶している。

○ 臨司の報告書では、行政訴訟の指定代理人を法曹有資格者に限定することが望ましい方向であるという点では意見が一致していた。地方などでは、指定代理人の中に能力に問題のある人も見かけるし、法の支配の徹底という見地からも、検討すべき。また、司法書士の家事事件での活用についても検討すべき。

○ 法律相談活動の充実や弁護士費用の合理化・透明化については、特段の異論はないのではないか。

○ 医療機関でカルテ開示や第三者評価が進みつつあるのと同様、弁護士会についても情報公開やアカウンタビリティが一層求められる。内科・外科程度の専門表示でさえ、法律事務所では全くないことは問題ではないか。

○ 業務を独占する以上、情報公開や第三者評価などは必要であり、利用者の立場から、情報公開を一層進めるといったような大筋の方向は、中間報告で打ち出すべき。

○ 弁護士情報の提供については、東京弁護士会における情報提供制度を参考に、全国に広げていくべきではないか。さらに、マイナス情報の開示をどうするか。

○ 行政の情報公開が進み、特殊法人までもその対象とされた。国会や裁判所も同様の問題がある。弁護士会も対応が必要。情報公開には、開示すべき情報の範囲を巡る論点と、開示請求権を担保する手続整備の問題の両方がある。中間報告で情報公開の充実を提示し、最終報告までに具体的内容を詰めていくべき。

○ 弁護士の法人化・共同化・協働化といっても、経費分担だけでは意味が薄い。形式的な法人化でなく、欧米のローファームのように実質的な面を強化すべき。

○ 実質的に意味のある法人化・共同化・協働化を進めるべきであるという点では異論がないのではないか。

○ 収支共同を個々の弁護士に義務づけることは難しい。

○ 法人化の大きなメリットとして、支店設置が可能となり、弁護士過疎地対策となりうることが挙げられている。

③ 次回(9月1日(金))は、引き続き、「弁護士の在り方」について取りまとめに向けた議論を行い、ペーパーでの取りまとめは、次回審議を踏まえ、その後、別途行うこととされた。また、次回、準備が整えば「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について取りまとめペーパーに関する意見交換を行い、更に時間が許せば、中間報告をどのようなイメージで取りまとめていくか等についても意見交換することとされた。

以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-