配付資料

「弁護士のあり方」について

司法制度改革審議会 日弁連プレゼンテーション

2000年8月29日
日本弁護士連合会
会 長  久 保 井 一 匡


はじめに

 日本弁護士連合会会長の久保井一匡でございます。

 当審議会におきましては、昨年の12月8日に前会長の小堀樹が意見表明させていただきましたが、本日、改めて私に日本弁護士連合会の意見を表明する機会を与えられましたことを感謝いたします。また、当審議会におかれましては、昨年7月以来今日まで、すでに30回近くにわたり21世紀におけるわが国の司法のあり方につき、熱心に、かつ積極的に審議をされ、数々の分野で、その方向についてのとりまとめをされてきたことに深く敬意を表します。とくに、昨年12月21日に当審議会が公表された「論点整理」において、このたびの司法改革は3つの観点から、すなわち1つは日本社会において法を血肉化させること、2つは国民一人ひとりが統治客体意識から脱却し、統治主体意識をもって社会に参画していくこと、3つは法曹が社会生活上の医師としての役割を果たしていくことの3点を実現するために行うべきことを明確に指摘されたことに、私は深い感銘を覚えました。

 さて、日弁連は昨年、創立50周年を迎えました。日弁連は、この間、国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として多くの活動を行ってまいりました。しかしながら、弁護士が今なお一般市民にとって敷居が高いとか、近づきにくい、顔が見えないなどのご批判を受けております。

 そこで、日弁連は、司法制度を担う法律家の中で弁護士が市民に最も近い立場にあることを自覚し、市民により身近で信頼される弁護士像の確立をめざして、様々な努力を重ねています。また、当審議会では、去る8月7日から行われた3日間の集中審議におきまして、いわゆる法曹一元制度につき熱心なご審議をいただきましたが、日弁連は、21世紀においてこの制度を是非実現し、これを支える弁護士側の体制を築くためにも弁護士のあり方につき積極的に改革の努力をつづけてきております。

 そこで、以下、日弁連が現在取り組んでいる弁護士改革の概要について、述べさせていただきます。

 なお、昨年12月、前会長が弁護士改革の意義と方向性につき基本的な考え方を申し述べていますので、私は、これとなるべく重複しない範囲で、次の6つの点について述べさせていただきます。

第1 弁護士の人的基盤の強化―法曹人口の増加について

 第1に、弁護士の人的基盤の強化、すなわち、弁護士人口の増大に取り組んでいきます。

 21世紀社会が高度化・複雑化・国際化・情報化することが明らかに予想される中で、個人・企業・行政を問わず、日本社会のあらゆるところに「法と正義」をいきわたらせることが求められます。これまで、弁護士の活動はややもすれば裁判所中心の業務、いわば裁判所城下町、裁判所門前町のような形で活動が狭い範囲にとどまっていましたが、これを一日も早く克服し、いつでも、どこでも、どんな問題でも国民の法的ニーズに応えられる、いわば全天候型・全方位型の弁護士像をめざしていきます。そのために、今後、これに必要な弁護士の数を確保するため、弁護士人口を増大させていく必要があると考えます。

 これによって、あわせて日弁連がかねてから主張してきた法曹一元制度を一日も早く実現したいと考えています。

 そこで、私たち日弁連執行部は、日弁連が今後国民の必要とする数と質の法曹人口を確保する旨の方針を明確なものとするために、来る11月1日に臨時総会を開催し、会員の了解を得るべく準備を進めています。

第2 新しい法曹養成システムへの積極的取り組み

 第2に、新しい法曹養成システムの構築に尽力していきたいと思います。

 法曹の人的基盤を強化していくにあたって、単に人口を増大させるだけでは十分でありません。その法曹が、国民の人権と財産を守り、紛争を適正・迅速に解決し、社会をしっかりと支えていくに足りる高い質をもっていることが求められます。そのためには、これにふさわしい新しい法曹養成システムを構築していかなければなりません。

 日弁連は、21世紀の司法システムを担う、次代の法曹養成のために、その制度の構築とその実施に向けて積極的に取り組むことにいたしました。現在、当審議会でご検討いただいている日本型法科大学院(ロースクール)の構想が正しく制度設計されることが、新しい法曹養成システムを構築していく上で鍵となるものと考えています。11月1日に予定しております日弁連臨時総会では、この点でも執行部の方針を提案し、日弁連全体の方針とするべく、準備を進めています。

 日弁連は、あるべきロースクール構想を実現し、ロースクールにおいて力量と品格を備えた質の高い法曹を養成するために必要な実務教育が十分に行われますよう実務教員の養成などにも積極的に取り組んでいきます。

第3 弁護士へのアクセス障害の除去に関する改革について

 第3に、弁護士へのアクセスを妨げている様々な障害を除去するための取り組みを進めていきます。

 (1) 弁護士過疎の解消、法律相談センター、公設事務所など

 まず、弁護士の地域的な偏在を解消するため、日弁連は、1996年以来、全国的に法律相談センターの設置を進めてきました。全国の弁護士会が設置した法律相談センターは、現在約250か所(そのうち、弁護士が地裁支部の地域にゼロまたは一人という、いわゆるゼロワン地域は71か所)に及んでいます。この法律相談センターは、法律相談が中心でありますが、市民の法的ニーズに応えるために事件処理のための弁護士紹介なども行っており、半ば公設事務所としての役割を果たしています。さらに、昨年の日弁連50周年を機にこのセンターの活動を一歩進め、本格的な公設事務所を全国的に開設する方針を採用しました。そのため、昨年9月に「日弁連ひまわり基金」を設置し、さらに12月には臨時総会を開催して、全会員から公設事務所の開設などの資金にあてるための特別会費を徴収することにいたしました。これによって、本年3月に長崎県対馬に第1号の公設事務所を、6月には島根県浜田市に第2号の本格的公設事務所を開設しました。北海道稚内、岩手県内の4か所、沖縄県石垣島などにも近く開設する予定であり、これを今後全国に広げていくつもりです。

 さらに、新規登録弁護士の受け入れにあたって、東京、大阪などの大都市に過度に集中しないよう様々な努力をして弁護士の全国的な適正配置を図っていくつもりであります。

 (2) 広告の自由化、弁護士会による広報の充実

 次に、日弁連は市民に対する弁護士情報の提供を促進し、市民に開かれた弁護士像に近づけるため、本年3月24日に臨時総会を開催し、個々の弁護士あるいは法律事務所の広告を原則として自由化することを決め、本年10月1日から実施することにいたしました。これと同時に、弁護士会が弁護士に関する情報を広く国民に提供するため、弁護士会の広報活動を強化することを決定いたしました。現在、各弁護士会において、弁護士情報の提供に関する方策が検討され、弁護士会のホームページを通じて提供するなどの方策を実施に移しつつあります。

 (3) 権利保護保険の導入

 さらに、経済的理由から弁護士を依頼できない人々のため、法律扶助制度の大幅拡大、国費による被疑者弁護制度の実現などの運動をつづけ、その実現が目前に迫っていますが、これに加え権利保護保険制度を新たに導入いたしました

 法律的な紛争などをかかえた場合に、弁護士に相談したり裁判をするための費用を確保することは、容易なことではありません。このような場合に弁護士を紹介し保険によってその費用をまかなうことができる制度を日弁連は従来から提唱してまいりましたが、損害保険会社との間での検討がすすみ、本年7月には弁護士会と保険会社との契約も結ばれて、いよいよこの秋からこの保険商品が売り出されることになっております。日弁連としては、各弁護士会にリーガル・アクセス・センターを設置するなどして、この保険制度を支えていくとともに、今後、保険契約の対象や内容をさらに充実化させていきたいと考えております。

第4 執務体制の強化・法律事務所の基盤整備

 第4に、弁護士の執務体制の強化と法律事務所の基盤整備に取り組んでいきます。

 (1) 法律事務所の共同化、法人化

 法律事務所の規模別に所属している弁護士の数をみますと、平成11年の調査で全国約17,000人の弁護士のうち(現在は17,696人)、1人で事務所をかまえている弁護士は約8,000人で45%を占め、2人ないし3人で事務所をかまえている弁護士が約4,500人、4人から9人で事務所をかまえている弁護士が約3,000人、10人以上の規模の法律事務所に所属している弁護士が約1,700人となっています。

 身近な場所に法律事務所が存在していることとともに、様々なニーズに応えられる弁護士が存在すること、継続性をもって弁護士が法的なサービスを提供できる体制にあることが必要であり、その点で法律事務所の共同化・法人化は積極的な意義をもつものであります。日弁連は、本年3月と6月の理事会で法律事務所法人化の基本方針を確定し、次期通常国会に法案を提出していただけるよう、法務省と検討しております。

  また、法律事務所の共同化・法人化とともに、弁護士を支える人的スタッフを充実していくことも重要であり、法律事務補助職(パラリーガル)の整備等も検討していきたいと考えます。

 (2) 法律事務所の総合化(隣接職種との協働)

 つづいて、弁護士の業務形態を利用者サイドからのニーズに応えて総合化していくための方策も必要であると考えます。日弁連は司法書士、弁理士、税理士などの隣接職種との協働を進めるため、検討を重ねてきておりますが、これまでの業務上の連携をすすめるとともに、一歩進んで各隣接職種の特殊性とその独立性に配慮しながら、ワンストップサービスをめざして総合的法律経済関係事務所を開設することにも積極的な意義が認められると考えます。

第5 弁護士の専門性・力量の向上

 第5に、弁護士の専門性・力量の向上に取り組んでいきます。

 21世紀社会の高度化、多様化に伴い、各分野において高度の専門的な識見・能力をもった弁護士に対する要請が強まっています。国際的業務についても同様であります。日弁連は、これらの要請に応えていくつもりであります。また市民に対する弁護士会の法律相談センターが行う法律相談も、医療過誤、労働、相続・離婚、クレサラ、消費者・高齢者問題・民暴などの分野別相談体制をとるようになってきています。弁護士の専門性を高めていくために、各弁護士会において、様々な専門的業務研修が行われ、専門的な業務マニュアルなども編纂されてきておりますが、今後一層これを充実させていき21世紀にふさわしい弁護士の力量のアップを図っていくことが重要な課題と考えております。

 日弁連は、これら弁護士会の努力をバックアップするとともに、専門認定制度などについても検討し実行に移せるものから移していきたいと考えます。

第6 弁護士の社会的役割、公益性、倫理性の向上

 第6に、弁護士の社会的役割にかんがみ、その公益性、倫理性の向上にさらに努めていきます。

 弁護士は、依頼者のために法的なサービスを提供することを通じて、国民の基本的人権を擁護し、法の支配を社会の隅々にまでいきわたらせるという役割をもっております。このような弁護士の役割は、個別的な性格をもちながら優れて社会的なものであり、公益的な性格をもっていると考えます。弁護士が、多くは個別事件を通じて、その社会的な役割と公益性をさらに発揮することが必要であり、そのために、弁護士全体が高い倫理性をもった集団であることが要求されていると考えます。

 弁護士の公益性、倫理性を一層高めていくために、弁護士の公益的責務の明確化やそれに伴う弁護士会の機構の整備、倫理研修の充実強化と、綱紀・懲戒制度の整備と運用の強化などを図っていくことが必要であり、それに向けた取り組みを強めていく決意であります。

 その他の論点については、別途ペーパーにまとめておりますので、何卒お汲み取りいただきたいと考えます。

むすび

 これまでわが国は、「小さな司法」政策の下で、法的紛争が顕在化することが少なく、少数の法曹が裁判を中心に紛争の解決にあたってきました。しかし、来るべき21世紀においては、産業構造も市民生活も多様化・複雑化し、規制緩和が進み、市民の権利意識もさらに高まっていく中で、司法のあり方が大きく変化することを求められてきております。市民に最も身近な法曹としての弁護士が、その状況をリアルに認識し、自らの意識を変えていく中で、業務体制を整備し法的紛争を解決していく能力を高めていくことが求められます。弁護士がその職責を自覚し、市民への奉仕を喜んで行うことが、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命を全うする上で必須の条件であると考えます。

 この激しい社会的変化とそれに伴い自身の変革を求められる状況のもとで、私は、すべての法曹がその崇高な使命を自覚し、真に市民に根付いた市民のための司法を実現していくというフロンティア精神にもとづいてその使命を遂行していくことを呼びかけさせていただき、日弁連は、総力をあげてその一翼を担う決意であることを申し上げ、私の意見表明とさせていただきます。