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参考人発言要旨(衆議院法務委員会)

○池田辰夫 参考人(大阪大学法学部教授)意見陳述要旨

  1. 法曹人口等

  2. 法学教育、継続教育の充実

  3. アジア諸国に対する法制度整備等の支援の拡充の必要性
  4. 三権の一つとしての司法にふさわしい予算上の配慮の必要性
○大出良知 参考人(九州大学法学部教授)意見陳述要旨
  1. 主要な改革課題
    (1) 市民にとっての司法の利用可能性の拡大
    (2) いわゆる司法官僚制を根本的に改めること
    (3) 法曹一元の実現、弁護士過疎解消のための弁護士人口の増加
    (4) 財政的基盤の確保

  2. 我が国の司法が機能不全に陥っている原因
    (1) 裁判官不足と財政基盤の脆弱さ。  
    (2) 弁護士の絶対数の不足。
    (3) 司法が、擁護、救済されるべき弱者の立場ではなく、その官僚的組織を維持することを優先してきたこと。
    (4) 財政問題につき、司法軽視、抑制政策を続けてきた政治的脈絡の中で、最低限の体制維持に甘んぜざるを得なかったこと。

○伊藤 眞 参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授)意見陳述要旨

  1. 民事紛争の予防にかかわる司法の課題
     紛争の発生自体、時間的、経済的、精神的に大きな負担であることから、紛争の予防を第一に考えなければならない。そのためには、個人や企業にとっての行動の指針が、透明度の高い法的準則として明らかになっていることと、その法的準則の解釈及び運用について法律専門家が適切な助言を与えることが、前提条件として必要である。
     こうしたことから、法曹の質的及び量的強化が実現され、企業組織や行政組織の一員として活動する法律専門家が増加し、個人や企業などが透明な法的準則に則って適切な行動をとることが紛争の予防につながるものと信ずる。また、現行法制との対比でいえば、弁護士法第30条の兼業規制などが、これからの課題として検討されなければならない。

  2. 民事紛争の解決にかかわる司法の課題
     すべての紛争が裁判所によって解決されることを期待するのは合理的ではなく、当事者の自己責任の原則を考えても、裁判所以外の第三者機関によって解決可能な紛争については、仲裁や各種の準司法機関による解決などに期待すべきである。こうしたことから、仲裁制度の強化、準司法機関の拡充が喫緊の課題である。
     一方、民事訴訟が適正かつ迅速に行われるための方策としては、手続面では、大規模事件や知的財産権関係事件を始めとする専門性の高い事件については、なお裁判官の増員や専門部の処理能力の向上など検討課題が多い。制度面については、経済的弱者がその権利を実現し、相手方の主張に対して適切な防御を行うことを可能にするための前提条件として、民事法律扶助制度の拡充を図ることは極めて重要である。また、訴訟を適正かつ迅速に進めるために大きな比重を持っている弁護士の執務体制について、弁護士事務所の規模拡大、その前提条件としての弁護士事務所の法人化、総合的法律経済関係事務所の開設などが検討課題である。さらに、紛争解決にとって最終段階である確定された権利や義務を実現するための手続として、民事執行手続、倒産処理手続の拡充・整備が不可欠である。

  3. 法曹の質的強化
     法律専門家には、その職務の性質上、単なる法律知識や実務的処理能力だけではなく、高い識見と人格的洞察力が要求される。しかし、法学教育や法曹養成制度の現状は、こうした要求に応え得る体制になっていない。大学における法学教育をいかに充実させるか、その成果をどのように司法試験制度に反映させるか、それを前提として司法修習制度をいかにしてより充実したものとするかなどが検討されるべき課題である。

○戒能通厚 参考人(名古屋大学法学部教授)意見陳述要旨

  1. 裁判官の市民的自由
     日本の裁判官には市民的自由(市民運動への参加や政治的な発言)が保障されてない。また、裁判官の抱える事件数は膨大で、転勤も多く、市民の権利の実現、人権の保護、社会正義の実現という職責を果たし得るだけの精神的余裕を充分与えられていない。その根源にある司法行政を改める必要がある。

  2. 複線型民主主義
     アメリカの司法の本質には、国家意思は必ずしも国会の意思のみによって形成され るものではなく、裁判所によっても形成されるとする考え方(複線型民主主義、デュ アリストデモクラシー)があり、違憲立法審査制の一つの根拠ともなっているが、我 が国の司法改革においても、そうしたことを踏まえて議論がなされる必要がある。

  3. 司法改革の専門性
     司法のような専門性の高い事柄については、司法の実質的な担い手を排除して司法改革の正しい道を検討することは困難。 

  4. 大学における法学教育の重要性
     法曹一元を可能とする法曹人口の増加、そのための司法試験改革に当たっては大学 の意見を十分聞いて慎重に検討されるべき。
     また、法学教育の改革においては、大学の法学部が必ずしも法曹資格を持たないが 法学素養のある者を社会に送り出す重要な役割を果たしているということを踏まえる べきで、法学部を廃止してロースクールを作るという発想には賛同できない。

  5. 法曹一元
     法曹一元は、イギリスのバリスターをモデルにした、イギリス型司法を目指した改革理念であり、陪審制、実力主義により弁護士から裁判官に選ばれること、バリスターの業務の中心となる口頭弁論中心主義、当事者主義といったものがすべて一体となったものを表現する概念であって、単に弁護士が裁判官の供給源になることのみを意味するわけではない。

○逢見直人 参考人(日本労働組合総連合会政策委員)意見陳述要旨

  1. 司法制度改革についての基本的な考え方
     21世紀の日本を公正で活力のある社会とするためには、司法制度の拡充強化が必要である。現在の司法制度は、残念ながら、国民の期待に十分にこたえているとは言えない。裁判が余りに長くかかり過ぎたり、費用が幾らかかるかわからないなどの問題を抱えており、制度改革は急務である。国民各層の参加を得て抜本改革を推進すべきである。

  2. セーフティネットとしての司法の役割
     経済のグローバル化、規制緩和の進展に伴い、企業や個人は、自己責任を原則として、透明なルールに従って行動することが求められるようになってきているが、セーフティネットがなければ、不安が募るだけの社会になりかねない。企業倒産件数等は増加の一途をたどっており、法曹人口の増大を図る必要があるとともに、弁護士偏在を解消する必要もある。また、裁判官の任用についても、経済社会問題を理解できる人を幅広く検討すべきであり、総合的法律経済事務所を早期に認めるべきである。さらに、労働債権の先取特権行使のための裁判所への差押手続申立代理人として、例えば、社会保険労務士、労働組合の専従役員を10年以上経験した者などにも認めるべきである。

  3. 個別的労使紛争の増加
     個別的な雇用関係から生じる賃金、解雇等をめぐる事件や労働相談は増加傾向にある。しかるに、司法試験の法律選択科目から労働法が外され、今後、労働法を全く知らない弁護士や裁判官が生まれることになる。労働法については、司法試験の法律選択科目とすべきであり、当面は司法研修の中で労働法のウェートを高めることを求めたい。今後増加して複雑化していくと予想される個別的労使紛争処理システムが我が国において整備されているとは言えず、とりわけ司法分野での整備が遅れており、欧州の労働裁判所などの例を参考にして整備すべきである。

  4. 司法の在り方
     司法の役割として、法秩序の維持は重要であるが、市民が法で保障されている権利を擁護し、何か問題があったときにその権利がいつでも行使できる、それを保障するのが司法の役割である。裁判所は、市民が安心して暮らせるための法の番人であり、市民が法によって保障されている権利を不当に侵している場合には、裁判所がきちんと判断を示すことが期待されている。

○幸田全弘 参考人(弁理士会会長)意見陳述要旨

  1. 司法制度改革について
     弁理士会としては、司法制度について抜本的見直しがされることを強く要望する。我が国においては、規制緩和政策が積極的に推進され、従来の事前規制を緩和もしくは撤廃するものであることから、事後のチェックシステムが大きな役割を負うこととなり、適切な権利の保護や救済を求める際に、司法が果たすべき役割はますます大きくなるものと考える。

  2. 知的財産の保護の強化
     知的財産は、多くの資本と時間と労力を投資して得ることのできる精神的な労作の成果物であるが、極めて模倣しやすい性質を有していることから、知的財産に関する紛争は国境を越えて生じている。知的財産の保護強化を図るには、行政による迅速な権利の設定のみでは十分ではなく、紛争が生じた場合の司法による速やかな解決が非常に重要である。しかし、我が国の知的財産分野に関する訴訟は、諸外国に比して、訴訟期間が長く、訴訟費用の負担が大きく、損害賠償額が十分とは言えないのが現状であり、紛争解決の場を、我が国ではなくアメリカの法廷に求めるという、裁判の空洞化現象が生じてきている。我が国においても、これら知的財産の国際紛争について、迅速に対応できる紛争解決システムの再構築について真剣に取り組む必要がある。

  3. 知的財産紛争解決に関する裁判における技術上、法律上の専門知識の必要性
     知的紛争を解決する際には、知的財産の侵害に当たるのか否かなどの判断に、技術上、法律上高度な専門的知識が必要かつ不可欠である。今後、知的紛争解決に関する訴訟が増加していくことが予想されることから、裁判における技術上、法律上の専門性の確保は極めて重要な課題であり、裁判官、訴訟代理人として関与される人には、高度な技術上、法律上の専門知識が要求される。裁判所では、東京地方裁判所に工業所有権専門部を新たに2部増設されるなど、組織の拡充に努めてはいるものの、諸外国のように、特許裁判所のような専門裁判所の設置も視野に入れた検討が必要である。また、国家的レベルでの知的財産の紛争処理専門家としての人材の育成と積極的な登用も極めて重要である。

○高橋 融 参考人(弁護士・自由法曹団)意見陳述要旨

  1. 政府・自民党の目指す司法制度改革に対する批判
     司法制度は改革すべきものであると考えるが、政府・自民党の考えている司法制度改革は、現在の人権擁護面での立ち後れをそのままにして、経済に奉仕する仕組みにつくり上げようとしているとしか見られず、この点は厳しく批判したい。自民党の司法制度調査会報告は、司法について、特に、民事、行政、刑事の各分野の裁判についての現状分析が不十分であり、また、裁判所を支える部門の改革に関しては、弁護士以外の問題についてあまり論じていない。民事司法については、時間がかかり過ぎるなどの問題について、その原因の分析がされておらず、刑事司法については、警察、検察の問題が取り上げられていない点は、大きな欠陥であると考える。

  2. 司法の分野における国民主権の発揮、司法に対する国民のコントロールの実現
     現在の司法の問題点は、憲法上の原則である国民主権の軽視があることから発生しており、裁判官、検察官の任命に関しては、憲法上任免権がある国民によるコントロールをできるだけ受けないようにつくられている。司法の分野に国民主権を発揮させ、国民によるコントロールを回復させることが求められており、その手段として、法曹一元と陪審制がある。裁判官の任命については、最高裁判所の任命候補者名簿の作成の過程に、地域の住民代表と法律家代表が参加する裁判官選考委員会をつくり、主権者の意思を反映させ、このようにして法曹一元を行うことによって、当初から住民の選考を経て評価の定まった高い水準の法律家を選び出すことができると考えられる。陪審は、国民の司法への直接参加であり、法曹一元の裁判官とあいまって、裁判はわかりやすくなり、書面中心から口頭での弁論が闘わされる本当に裁判らしい裁判になっていくと考えられる。また、陪審参加を通じて、市民は多くのものを学ぶし、裁判の長期化も避けられる。これら二つを実現すれば、司法の基本構造が変わり、国民の裁判や司法を見る目も変わってくる。

  3. 法曹人口の大幅増員等
     法曹一元と陪審制を実現するためにも、法曹人口の増大は必要であり、法律扶助の底上げ、被疑者国選を実現するためにも、大幅増員は欠かせない。これらの改革を実現するためには、弁護士増員のみを先行するのではなく、司法予算の大幅な増大をきちっとする必要がある。

○松永憲生 参考人(ノンフィクション作家)意見陳述要旨

  1. 司法制度の改革の必要性
     司法分野の取材、特に裁判官取材、冤罪事件の取材等を通じて、司法改革は是非必要であると十数年前から痛感してきていた。裁判官の取材を通じて、裁判官というのは公務員の中で最も勤勉でまじめに働いている人々であるという印象を持ったが、その反面、大変だなと感じた実態もあった。例えば、裁判所の運営を行っている裁判官会議が形骸化したことから、裁判官は、所長代理の選挙のみが楽しみになってきているし、また、裁判官の勤務評定が行われたり、長期未済事件報告制度があることから、官僚的な締め付けがかなり強いものだと感じた。

  2. 裁判官の独立、職権の独立保障
     司法権の独立のための裁判官の独立、職権の独立保障が、司法権にとって一番大事なことである。単に裁判官の数を増やせばいいのではなく、裁判官の独立をいかに実体を伴ったものにするかが重要である。また、そのような形で裁判官会議を活発化することも重要である。

  3. 弁護士自治の重要性
     裁判官の独立を支える役割を果たしているのが、弁護士自治である。弁護士が自治に支えられてこそ、人権擁護の活動ができる。

○菊池信男 参考人(元東京地方裁判所所長)意見陳述要旨

  1. 司法制度改革の基本的視点
     司法制度全般にわたって大局的、総合的に検討が行われることは、まことに結構なことであるが、その前提として、現在の運用の実状について十分な事実認識を前提にされることが不可欠である。

  2. 民事紛争の解決システムの在り方について
     社会の中ではいろいろな民事上の法的な紛争が起きているが、そのすべてが裁判所の関与によって解決されることが望ましいものではないと思う。多様な紛争解決システムが整備され、国民がその法的ニーズに合った適当な方法を選択することができるようになっていることが望ましい。また、紛争に巻き込まれるより前に、事前に的確な予防的な法的なアドバイスを受けるという、民事紛争の予防のためのシステムが整備されていることも望ましい。同時に、紛争解決に裁判所が関与することが望ましい、必要であるという場合に、国民の誰でも安んじて利用できるような訴訟手続きを整えておくことも、非常に重要である。これまでの民事訴訟手続きについては、身近な紛争解決に利用するには、わかりにくい、煩わし過ぎる、費用のことが心配だ、時間がかかるという印象が強かったと思う。昨年施行された新しい民事訴訟法で少額訴訟制度が新たに設けられ、この1年間の運用を見ると、利用者に大変好評であり、一般の国民が安心して利用できるような少額紛争のための特別な訴訟手続として、非常にいい制度を作っていただいたと思っており、司法制度の在り方を考えていく上で、大きな示唆を与えるものと思う。

  3. 民事裁判の迅速化について
     通常の民事訴訟事件は増加傾向にあるが、審理期間は短縮の傾向を示している。しかし、特に医療過誤訴訟、公害訴訟のような当事者多数の事件では、相当な期間を要しているものが少なくない。訴訟制度に対する国民の希望と期待は、特に迅速さの点と利用しやすさという点に向けられていると思うが、民事訴訟事件全体について、さらに迅速化を図ることが急務であると思う。新民事訴訟法の趣旨に沿って訴訟運営を一層改善し、定着させていくことが必要であるが、当事者の側の訴訟活動の一層の強化も必要だと思う。現状では、期日における当事者の訴訟活動の準備が必ずしも十分ではないとか、被告側が訴訟の引き延ばしを図るという場合もある。当事者側の意識の改革、弁護士事務所の体制の強化もあわせて必要であるし、ほかに、知的財産権事件その他の専門的な事件に対する対応の強化、裁判官、書記官等の人的体制の強化、物的設備の整備充実も図る必要がある。また、裁判を国民に利用しやすくするために、法律扶助制度の飛躍的拡大を図ることも必要であるし、その他の当事者の訴訟利用を支援するシステムも整備することが必要である。

○高橋武生 参考人(元福岡高等検察庁検事長)意見陳述要旨

  1. 司法の役割
     紛争の予防とその適正迅速な解決のために司法が果たすべき役割はまことに重要であり、国民一人一人が安心して暮らせる安全で公正な社会の実現のために、司法の果たすべき役割は極めて大きい。21世紀を目前に控え、司法の機能を充実強化することが求められている。

  2. 刑事司法における実体的真実発見の必要性
     最近の刑事司法を取り巻く状況は、凶悪重大事件、財政経済事犯、組織的犯罪など、社会の安定感を阻害し、また、国民の不公平感等を助長する犯罪が続発しており、しかも犯行態様は悪質巧妙化、複雑多様化、国際化、広域化の様相を呈している。また、国民の捜査、公判への協力が次第に得にくくなる傾向もあり、裁判の長期化も指摘され、刑事司法を取り巻く状況は極めて厳しいものがある。今後、このような犯罪は増加し、捜査、公判を困難ならしめている種々の要因もまた一層強まると予想される上、規制緩和の進展等により透明で公正なルールに基づく事後監視による秩序維持が求められることから、刑事司法の果たす役割は、さらに深く、かつ広いものになる。このような状況の下でも、実体的真実を究明し、無辜を罰することなく、しかも悪を逃さないという検察の信条を放棄して、欧米諸国で行われているような、比較的簡単な捜査で起訴し、高い無罪率も問題としない、ラフジャスティスシステムに移行すべきではない。また、アメリカでは、刑事司法の場での実体的な真実の発見を放棄し、法的真実をめぐってゲームが繰り広げられていると言われているが、これは、日本人の正義感に反している。我が国の刑事司法は、被害者の気持ちに思いをいたしながら、あくまでも真実を発見し、罪を犯した者に適正な責任を課し、その反省、悔悟を求めることによって、その社会復帰に資する場であり、かつ法秩序を維持する場でありたいと願っている。

  3. 検察の人的・物的基盤の整備
     検察官の大幅な増員が求められるだけでなく、検察事務官の増員も欠くことができない。また、捜査、公判事務のコンピューター化のための施策や取調室の確保等、予算、施設面での充実が必要である。

  4. 刑事手続きの見直し
     犯罪の複雑多様化、それに伴う捜査の困難化に対応するために、通信傍受制度の早期実現や、刑事免責制度、証人保護制度の創設等の新たな刑事手続きの検討が求められる。

  5. 刑事裁判の迅速化
     通常の事件処理は、おおむね迅速に行われているが、複雑重大な事件にあっては、一審判決が出るまでに10年以上を費やすケースもまれではない。現段階では、弁護人や検察官を中心とした訴訟関係人が迅速な裁判の実現に向け、裁判所の訴訟指揮に可能な限り従い、常識を持ってこれにこたえることが求められるし、裁判の迅速化を担保するための何らかの立法措置も検討すべきである。

  6. 被疑者弁護に対する公的資金導入について
     公的弁護制度は、それだけを取り出して論議するのではなく、刑事司法手続全体の構造の見直しの中で検討されるべきである。また、被疑者弁護活動が適正に行われることが前提であり、捜査を妨げ、真実発見を困難ならしめるような活動が国のお金によって支えられるということは、国民の納得を得ることができるとは思われない。弁護活動の適正を担保するための制度の整備が必要である。さらに、弁護士の偏在等の問題を解決する必要もある。

○久保井一匡 参考人(日本弁護士連合会理事)意見陳述要旨

  1. 司法改革の必要性
     正しい意味での法の支配を確立することが憲法の要請する司法の重要な役割である。しかし、現実の司法は、十分にその役割を果たし切れていないため、本来法的に解決すべきものが、泣き寝入りや事件屋あるいはやみの勢力によって処理されることが多く、いわゆる二割司法と言われる状況にある。これは、我が国の司法が諸外国に比べて容量が小さく、市民的基盤が脆弱であること、市民の司法へのアクセスが十分に開かれているとは言えないことなどに原因があり、このような事態は一日も早く改める必要がある。規制緩和策の推進により、社会的弱者の人権が置き去りにされようとしているとき、なおさらその必要性は大である。

  2. 司法の容量の大幅な拡大
     我が国の司法の容量を大幅に拡大することが必要である。裁判所予算、法務省予算を大幅に増額し、裁判官、検察官を増員し、司法関係施設を充実させること、市民に身近で利用しやすい司法の一環として、法律扶助法を制定し、扶助制度を大幅に拡大すること、国費による被疑者弁護制度を実現することなどが必要である。

  3. 法曹一元制度の実現
     裁判官の任用方法について、欧米諸国に倣って、市民に身近な法律家である弁護士経験者を中心とする幅広い層から裁判官を任用する法曹一元制度を採用し、判決や裁判の運営に市民感覚を取り入れることが必要である。その前段階として、任官者にも一定期間弁護士実務を経験させる研修弁護士制度を早期に採用すべきである。

  4. 陪審制、参審制の採用
     司法に対する市民的基盤を確立するために、法曹一元制度とあわせて、陪審制、参審制を採用すべきである。

  5. 法曹養成制度
     司法試験が、いわゆる受験予備校に依存している現状を改め、質の高い法曹を養成するために、大学教育を充実させるなどの諸方策を検討する必要がある。

  6. 市民の権利の保障実現
     刑事、少年などの手続につき人権擁護の見地から国際水準に合致した大幅な見直しが求められる。

  7. 司法による行政のチェックの強化
     行政事件訴訟法の改正などを行い、行政事件の活性化を図ることが必要である。

  8. 日弁連が取り組んでいる活動
     弁護士が市民に身近で信頼される存在になるために、日弁連は、法律相談センターの全国展開、当番弁護士制度の充実に努めてきたが、今後ますますこれを推進し、特に過疎地での弁護士事務所設置の支援、公設事務所設置の検討を進めている。さらに、司法基盤の整備とこれからの弁護士の活動分野の拡大とともに、これに必要な弁護士の確保に取り組んでいきたい。
     弁護士の公益性、専門性、倫理性を高めるために、これまで、日弁連は、公害、環境、薬害、消費者問題などについて多数の委員会を設けて、研究、検討し、立法提言を行ってきたが、今後社会で生ずる諸問題につきさらにこれを拡充することが必要であると考えている。また、弁護士の専門的能力を高めるための研修制度を強化するとともに、弁護士倫理の徹底と綱紀事案の適切な運用と市民の相談窓口の設置、拡充に努める。
     市民に開かれた弁護士、弁護士会となるために、広告規制を見直し、広報活動を充実させ、また、弁護士会の活動や政策提言に対し市民の意見を聞く機会を設ける。
     弁護士の活動領域を企業、行政を問わず、社会のあらゆる分野に広げることが必要であり、弁護士を市民に身近な存在にしたいと考えている。
     社会の高度化、複雑化、専門家に伴う市民のニーズにこたえるため、隣接業種である司法書士などとの協同化などを進め、法律事務所の組織力アップ、基盤整備のため法人化などを進める。