司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第31回議事概要



1 日時 平成12年9月18日(月) 9:30~12:17

2 場所 司法制度改革審議会審議室

3 出席者

(委員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木剛、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子

(事務局)
樋渡利秋事務局長

4 議題
「国民の司法参加」について--石井委員、髙木委員及び吉岡委員によるレポート及び意見交換--

5 会議経過

① 石井委員、髙木委員及び吉岡委員から、各々別添の資料に従い、「国民の司法参加」についてのレポートが行われた。

  上記委員からのレポートを踏まえて、国民の司法参加の意義・趣旨を中心として、以下のような意見交換が行われた。

○ 「国民の司法参加」の問題は、21世紀における法曹のプロフェッションとしての在り方や国民との関係をどのようなものとするかにもかかわっている。「法律の専門家だからすべて任せておけ。」という態度ではなく、法曹が国民一般との間でコミュニケーションをもつことが求められており、そのための具体的な制度設計として、どのようなものが相応しいかとの視点に立った検討も必要である。

○ 例えば、法廷での証人尋問の際の証人の非常な緊張ぶりを見ればよく分かることであるが、プロである法律専門家の意識と国民の意識との間には大きな乖離がある。法律専門家の意識に反省が求められており、その上で「国民の裁判」として相応しい制度の在り方を検討する必要がある。

○ すべての訴訟について陪審制を導入することについては、わずか戦後50数年に過ぎない我が国の民主主義の歴史の中で培われてきた日本人の意識がこの制度を支えるに足りるだけの成熟をみたといえるのかどうか、無視し得ない諸外国との歴史・文化の違いなどの問題もあり、慎重に検討する必要がある。

○ 普通選挙の導入や女性への参政権付与などの改革の歴史をみれば明らかなとおり、改革を実行するためには何らかの「きっかけ」が必要である。陪審制についても「きっかけ」が必要なのであり、条件が整わなければならないとの議論をしていたのでは、到底導入できない。また、陪審制を導入したとしても、すべての訴訟をその対象とする訳ではなく、どのような裁判を望むかにより、職業裁判官によるか陪審制によるかを選び得るという当事者の選択の権利を保障することに大きな意味がある。

○ 普通選挙を導入する際の明治憲法下の帝国議会においても、日本人の国民性、我が国の歴史・伝統、国民の政治的能力などを持ち出して消極的な議論が行われた。改革を行う際には、必ずそのように改革のエネルギーを削ぐ議論が行われがちである。しかし、現在の司法の現状を放置していては、早晩国民の間から強い反発が吹き出してくるであろう。プロの法律専門家と国民一般の間では、それほどまでに摩擦熱が高まっている。

○ 陪審制の問題は、職業裁判官によるか陪審制によるかを当事者が選び得るようにすればよいというだけでは済まされない。訴訟の当事者だけの問題ではなく、国家の有する刑罰権の発動たる刑事司法においては、真実を国民の前に明らかにするとの要請などを踏まえれば、国民一般も広い意味で当事者であり、国民一般がどのような裁判を望むのかも考慮されねばならない。

○ 国民一般が求めているのは、結論としての判決をどうすべきかではなく、裁判の過程をよく分かるようにすることではないか。陪審制の導入により、裁判の過程が国民の前により容易に理解され得る形で明らかにされることとなる。

○ 「陪審制(又は参審制)を導入せねばならない。」ということを前提にして審議することは適当でない。より柔軟に、我が国の社会になじむ制度の在り方を検討することとしなければ、せっかく制度を導入しても結局根付かないこととなってしまう。また、陪審制の導入の検討に当たっては、冤罪・誤判の問題についても考慮することが不可欠であるとの指摘もある。

○ 戦後我が国の冤罪事件の中には、無実の者に死刑判決が確定してしまった事例さえある。このようなことに対する法律専門家の反省の上に立って、「国民の司法参加」についての議論に臨まねばならない。

② 次回は、9月26日(火)午後1時30分から開催し、「国民の司法参加」について更に審議を行うとともに、何らかの考え方ないし方向性をとりまとめるよう努めることとされた。

以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

- 速報のため、事後修正の可能性あり -