司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第32回議事概要



1 日時 平成12年9月26日(火) 13:30~17:40

2 場所 司法制度改革審議会審議室

3 出席者

(委員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、曽野綾子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子

(事務局)
樋渡利秋事務局長

4 議題
①「国民の司法参加」について
②「国民の期待に応える刑事司法の在り方」について

5 会議経過

① 前回に引き続き、「国民の司法参加」について、以下のような意見交換が行われた。

○ 憲法解釈として、直接国民が参加しなければ司法に民主的正統性がないとまでは言えない。国民主権から司法参加が直ちに導かれる訳ではない。むしろ国民の司法参加は、裁判をより国民に開かれ、より健全な常識を反映し、より強固な国民的基盤を確保するためという相対的見地から検討されるべきものではないか。陪審制の導入は裁判所改革の視点からも主張されており、裁判官改革、法曹養成制度改革などとの関連を考えて、多面的に考えるべきである。

○ 価値観、科学技術、国際関係が現在大きく変動しているが、制度は最も変わりにくい。本審議会に法律専門家以外が加わっている意義は、社会的変化を制度改革に反映させるためである。我が国でも過去に国民の司法参加が行われていたこと、戦後長く放置されてきたことを重く見るべきである。国民が司法参加を通じて民主主義のプロセスを学ぶことは重要である。

○ 国民のトレーニングという視点を強調しすぎると、裁かれる立場の利益を損なうことにもなりかねない。

○ 我が国は、長くお上依存、その反面としての私益追求・権力糾弾型でやってきたため、パブリック意識が強い英米とは実態がかけ離れている。民主主義の定着には、教育や地方行政などの改革が先決であり、この時期にいきなり陪審制を我が国に導入することが最善か疑問である。

○ お上が全てを決めるような制度は限界に来ている。主権者たる国民の参加は理念的に望ましいのであり、他をやることが先だからこちらはやらないということにはならないのではないか。

○ 陪審が職業裁判官より誤判が多いという議論は成り立たないのではないか。統治主体意識を涵養するため、国民が責任をもって参加していくことが重要であり、その方向での道筋をつけるべきである。

○ 陪審と職業裁判官とでどちらが誤判が多いかについて結論を出すことは困難である。陪審制の下でも誤判があるという事実は、陪審が誤判を回避する妙案だということにはならないということを示している。国民が参加する場合にも何らかの問題は残るので、それをいかに手当てするかが重要ではないか。

○ 米国では陪審制の消極的評価も聞く。実際に陪審裁判を経験した人の意見を聴くべきではないか。

○ 米国で陪審員を体験した人によれば、陪審員として呼ばれることを喜びはしなかったが、選挙権がある以上陪審員となる義務があると認識しており、実際に体験した中身についても積極的評価をしていた。 

○ 人から与えられた証拠だけをみて判断しろと言われても、自分には到底無理である。あらゆるものには専門職があり、自分なら、専門家に判断してもらいたいと考える。

○ 陪審制や参審制は諸外国で実際に機能している。陪審裁判を選択制とすれば、専門家に判断してもらいたい人は、職業裁判官の裁判を選べばよいのではないか。

○ 陪審・参審は、国民に義務を課する点が現行の司法委員制度等と決定的に異なる。仮に導入するなら、義務を免れる人を多く出さないことが不可欠だが、今この時期に国民にそのような義務を課することが適当か疑問である。国民は、自らの考えを論理的に言葉で表明する訓練を受けていないし、自分の子供のしつけや地域の子供を叱ることさえまともにできないのが実情ではないか。果たしてそのような義務を受け入れる素地があるのか。国民の選択に属する重要な問題なので、国民投票で問うとの結論もあり得るのではないか。

○ 本審議会は、審議会設置法、国会同意人事による委員任命等により、13人の委員に国民的見地からの審議が託されている。設置法や国会付帯決議には、審議会が司法参加について意見を示すべきことが明示されている。

○ 統治主体意識へ転換すべきこと、国民と司法との距離を縮めること、旧憲法下でも司法参加の実績があることを重視して判断すべきである。

○ 検察審査会の実績をみると、審査員に選ばれた者は皆真剣に対応している。日本人も、機会を与えられれば公的責務を果たすべく努力するのではないか。

○ 知的財産などでは専門参審制の導入が必要と考えるが、これは一般的な国民参加とは性質が異なるので、別途議論するということについては、異論はないのではないか。

○ 知的財産紛争は国際化しており、諸外国と国益をかけて戦わねばならず、専門参審制は是非とも必要である。

○ 国民が司法に参加する形は、訴訟手続への参加以外にも、裁判官の選任過程への参加、裁判所・検察庁・弁護士会の運営への参加など様々なものがありうるので、幅広く議論すべきである。

○ 本審議会には、国民の司法参加について発信することが求められている。公共意識を醸成するには、様々な方法論があるが、やれるところから手をつけていくべきである。公聴会等でも強い関心が寄せられている。司法参加には様々な局面があるが、訴訟手続への参加はその重要な一つであることは確かである。諸外国の陪審制・参審制には様々な形態があり、それぞれ長短があるが、大事なのは我が国にとって望ましい制度をどうするかである。陪審か、参審か決め打ちをするのでなく、裁判の内容に一般国民が関与する視点から制度的に掘り下げていくべきことについては、異論はないのではないか。


 このような議論を踏まえて、訴訟手続への参加の制度的内容、すなわち参加の対象となる訴訟手続、参加する国民の選び方、参加する国民と裁判官との関係等を中心に議論を行うこととなり、以下のような意見交換が行われた。 (参加の対象となる訴訟手続)

○ 参加の対象となる訴訟手続については、当面、一部の刑事事件とし、被告人が選択しうるような形で導入すべきである。

○ 具体的な制度内容が曖昧なままで、対象とすべき範囲を論じることは困難ではないか。

○ 国民と専門家のコミュニケーションを促進するためであれば、一部の刑事事件などと範囲を限定せずに、参審で職業裁判官と対話しながら意見を言える参審制を導入することが望ましいのではないか。

○ 国民の常識を反映させる見地からは、刑事事件の中でも、難しい重大事件でなく、常識で裁けるような業務上過失や道交法違反などの日常的事件から始めることも考えられる。

○ 歴史的・現実的に考えると、当面は一部の刑事事件に限定した方がよい。刑事でも複雑な詐欺事件や証取法違反などの専門的な事件は除外すべきである。民事訴訟での司法参加は、時間や経済的な負担が重くなりすぎるので、英国ではやらなくなった。

○ 民事司法の分野での法創造機能を考慮すると、国民参加に一定の意義も認められるが、実際問題として民事訴訟への導入は難しい。

○ 将来的には対象を広げることが理想だが、先ずはできるところから段階的に導入すべきである。

○ 裁かれる被告人の選ぶ権利を重視し、請求陪審制とすべきである。

○ 被告人側の選択にのみ委ねるような仕組みは不適切である。刑事司法では、被害者の存在も考慮すべきであり、被疑者・被告人の利益のみを重視するのは問題ではないか。

○ どのような形態の裁判が適切かという視点から議論すべきであり、選択を認めるとしても、その選択肢が望ましいものである必要がある。諸外国でも参審制の場合は、選択を認めず、対象が法定されているのが通例である。

○ 主として刑事事件としておき、更なる限定の仕方については、具体的制度設計の段階で検討すべきことについては、異論はないのではないか。 (参加する国民の選び方)

○ 参加する国民の選び方については、例外を設けず、広く一般国民から無作為抽出で選ぶべきである。

○ ドイツの参審制のように、本人の応募や政党等の推薦により選ぶ例もある。

○ 全国民から単純に無作為抽出するのではなく、家計調査の統計調査手法に倣い、適切な参加者構成を得たり、明らかな不適格者を排除するため、何らかの階層区分ごとに無作為抽出するなど、一定の基準・手法が必要ではないか。

○ 諸外国では不適格者を法定している例がある。それ以上は、資格要件を限るべきでない。

○ 司法参加の対象候補者の母集団を毎年度あらかじめ設定し、対象者に年度当初に通知しておき、その中から必要に応じて無作為抽出することも考えられる。

○ 対象を広く一般国民とすることについては、異論はないと考えられるが、一般国民の具体的な選び方については、いろいろな考え方がありうる。 (参加する国民と裁判官との関係等)

○ 参加する国民の役割については、事実認定に限定せず、法的問題にも広げるとの考え方もあるのではないか。

○ 職業裁判官と参加する国民の役割分担を明確にし、一般国民には事実認定のみを委ねるべきである。

○ 法律問題も一般国民が理解できるものとなるよう、専門家と一般国民とのコミュニケーションを促進することは意味のあることなので、参加する範囲を事実認定に限定する必要はないのではないか。

○ 審理のどの範囲・場面まで国民が参加するのかについては、具体的制度設計の中で別途検討すべきである。

○ 参加する国民に評決権を与えることについて違憲論も存在するが、合憲と解釈する余地がある以上、入口論で無理とするのでなく、実質論として、制度の具体的中身の議論をすべきである。

○ 国民が主体性をもって関与することが重要である。国民は独立した権限を持って決定に参画すべきであり、その場合に職業裁判官の側には評決権を持たせるべきでない。裁判官が説示などでどの程度関与すべきかについては議論の余地があろう。

○ 事実認定について、職業裁判官にも評決権を認め、一緒に判断する方がよいのではないか。

○ 諸外国には職業裁判官と参加する国民との関係では様々な制度がある。合議体方式にすると裁判官にリードされ過ぎると決めつけるのでなく、制度上の工夫もありうるのではないか。

○ 国民の価値観を反映させたりすることが目的であれば、評決権のない参審制でも意味がある。違憲の疑いがあるならばそれに配慮すべきではないか。

○ ドイツの参審制を視察した際、職権主義的運用の下で国民参加が形式的なものとなっている印象を受けた。少なくとも、評決権のない参加は参加とは言えない。国民参加の名に値する制度とする必要がある。

○ 国民が裁判過程に加わるとする以上、中途半端な制度とすべきでない。実質的に主体性を確保するため、単なる意見表明だけでなく責任も負わせることが適当である。

○ 陪審と呼ぼうが参審と呼ぼうが、英訳すればJury(陪審)となろう。あえて新語をつくる必要はなく、問題は中身である。戦前の旧陪審制では、裁判官の役割を具体的に規定しており、参考となるのではないか。  国民の訴訟手続以外への参加については、以下のような意見交換が行われた。

○ 裁判官選任過程への参加、裁判所運営への参加については、裁判官制度・法曹一元の議論とも関係するので、改めて審議することについて異論はないのではないか。

○ 裁判官評価や裁判所運営について国民の意見を聴取して反映させる仕組みや、最高裁及び下級審の裁判官の選任過程、最高裁裁判官の国民審査のあり方等については、国民の司法参加の観点からも極めて重要である。

○ 多くの国民がロースクールを経て法曹になること、多くの弁護士が裁判官になることも、広い意味での司法参加の一つと考えるべきではないか。  現行司法参加制度の改革については、以下のような意見交換が行われた。

○ 調停・司法委員・参与員制度や保護司制度などを充実させるということについては、異論はないのではないか。

○ 検察審査会の議決に法的拘束力を付与すべきであるということについては、異論はないのではないか。

○ 検察審査会の議決に法的拘束力を付与する場合には、組織・権限、運用のあり方、とりわけ決定の種類や要件、審査のやり方、訴訟追行主体等について詰める必要がある。その際、適正手続の確保の観点も欠落してはならない。

○ 検察に起訴権限を完全に独占させ、検察審査会の議決に法的拘束力を認めない現行制度にはやはり問題がある。拘束力付与の方向性は決めておき、具体的制度設計については別途議論すればよいのではないか。

 以上の意見交換を踏まえて、会長が次のような取りまとめを行い、了承された。

 「21世紀の我が国社会において、国民は、これまでの統治客体意識に伴う国家への過度の依存体質から脱却し、自らのうちに公共意識を醸成し、公共的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められている。そのような中で、司法の分野においても、主権者としての国民の参加を拡充する必要があり、法曹は、こうした国民とともに、司法を真に実のあるものとして発展させるべき責務がある。   我々は、国民の司法参加に関する我が国のこれまでの経緯・経験をも踏まえつつ、上記のような国民と法曹の関係の在り方を基礎として、司法制度全体の中で、国民の参加を拡充すべきものと考える。   訴訟手続への参加については、陪審・参審制度にも見られるように、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、訴訟手続において裁判内容の決定に主体的・実質的に関与していくことは、司法をより身近で開かれたものとし、裁判内容に社会常識を反映させて、司法に対する信頼を確保するなどの見地からも、必要であると考える。   今後、欧米諸国の陪審・参審制度をも参考にし、それぞれの制度に対して指摘されている種々の点を十分吟味した上、特定の国の制度にとらわれることなく、主として刑事訴訟事件の一定の事件を念頭に置き、我が国にふさわしいあるべき参加形態を検討する。」

② 「国民の期待に応える刑事司法の在り方」に関する審議結果の取りまとめ案について審議を行い、別紙のとおり決定した。

③ 次回は、10月6日(金)13時30分から開催し、「法曹養成」に関して、文部省「法科大学院(仮称)構想に関する検討会議」の報告を受けて審議を行うとともに、「弁護士の在り方」についての取りまとめ案を審議することとされた。

以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

- 速報のため、事後修正の可能性あり -

(別紙)「国民の期待に応える刑事司法の在り方」に関する審議結果の取りまとめ