司法制度改革審議会

第33回司法制度改革審議会議事録



第33回司法制度改革審議会議事次第

日 時:平成12年10月6日(金) 13:30 ~17:45
場 所:司法制度改革審議会審議室
出席者
(委 員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子
(法科大学院<仮称>構想に関する検討会議委員、敬称略)
小島武司座長、伊藤 眞、田中成明
(事務局)
樋渡利秋事務局長
1.開 会
2.「法曹養成制度の在り方」について
・法科大学院(仮称)構想に関する検討会議からの報告
3. 「弁護士の在り方」について
4.閉 会

【佐藤会長】それでは、定刻がまいりましたので、ただいまから第33回会議を開会いたします。

 本日の議題の主要なものは、「法曹養成制度の在り方」についてでございます。当審議会からの依頼を受けて、文部省に設置されておりました「法科大学院(仮称)構想に関する検討会議」において、その最終報告を取りまとめていただきまして、先日、当審議会に提出していただきました。夏の集中審議の場合と同じように、検討会議の方から審議状況及び最終報告についての御報告をいただいて、質疑応答の上、我々の間で意見交換を行いたいというように考えております。

 2番目に、弁護士の在り方に関する取りまとめペーパーにつきまして、委員の皆様の御意見をいただきまして、御了解をいただきたいというように考えております。

 3番目に、中間報告に盛り込むべき内容につきまして、その項目を整理したものを委員の皆様にお諮りしたいというように考えております。

 それでは、早速、法曹養成制度の在り方につきまして、文部省における検討会議の審議状況及び最終報告について御報告いただくことにしたいと思います。

 検討会議からは本日も夏の集中審議のときにお見えいただきました、座長の小島武司中央大学教授、メンバーの伊藤眞東京大学教授及び田中成明京都大学教授にお見えいただいております。3人の先生には、お忙しいところ、検討会議において私ども審議会から参加していただいた井上委員、鳥居委員、山本委員及び吉岡委員と一緒に精力的に御審議いただき、今回、最終報告をおまとめいただいたきまして、本当にありがとうございます。また、本日も夏の集中審議に引き続きお見えいただき、心から感謝申し上げる次第であります。

 最初に、夏の集中審議の場合と同じように、小島座長から審議状況及び最終報告につきまして御報告していただいて、その後、質疑応答を行いますけれども、その際には、質疑内容に応じまして、小島座長、伊藤教授及び田中教授にお答えいただきたいと考えております。

 なお、検討会議から御提出していただいた最終報告は、既に委員の皆様にお送りしておりますので、お目を通していただいていることと思いますが、本日お手元に同じものをお配りしておりますので、それをごらんいただければというように思います。

 それでは、最初に、小島座長から20分程度で御説明いただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

【小島氏】小島でございます。それでは、御報告させていただきます。

 まず「はじめに」でございますけれども、本検討会議は、平成12年4月27日に司法制度改革審議会から文部省が協力依頼を受けたことにより設置され、同年5月より12回にわたり法科大学院(仮称)の制度の具体的内容について、専門的技術的見地からの検討を行ってまいりました。

 検討に当たっては、公平性、開放性、多様性等の基本的諸条件、及び司法制度改革審議会において示された「現在検討中の法科大学院構想を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、計画的にできるだけ早期に、年間3,000人程度の新規法曹の確保を目指していく」との基本認識を踏まえ、かつ大学や法曹関係者等から寄せられた意見を参考にいたしました。

 以下、その結果をとりまとめましたので、その概要について報告いたします。

 「1 法曹として備えるべき資質・能力と法曹養成の基本理念」。この点については、「基本的考え方」に示された資質が一層求められており、今後の法曹養成教育は、このような資質を備えた者が法曹となるように「点」のみによる選抜ではなく、法学教育・司法試験・司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成に変革することであります。

 「2 今後の法曹養成のための法学教育の在り方」。まず、法科大学院は、①から④にありますような観点から、法曹養成に特化した実践的な教育を行う大学制度上の大学院として構想することが適切であります。

 また、法科大学院の設置後も、法学部は存続することを前提にその在り方は各大学の判断に委ねることになります。21世紀の法曹には、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には経済学や理数系、医学系など、学部段階での専攻分野を問わず受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要があります。

 「3 法科大学院の基本的枠組み」。「(1)標準修業年限」。修業年限を3年とするか2年とするかについては、広く法曹資格取得希望者に開かれた機関としての法科大学院の性質上、2年のみとすることは考えられず、結局、3年制、または3年、2年の併用制とならざるを得ません。したがって、制度上の標準修業年限は3年として、併せて法学既修者と認められる者については短縮型として2年での修了を可能とするとの意見が大方であります。

 「(2)教育内容・方法」。まず、教育内容でございますが、これには基礎科目群、法曹基本科目群、基幹科目群をコアとし、これらを中心として先端的・現代的分野科目群、国際関連科目群、学際的分野科目群、実務関連科目群などをカバーする多様なカリキュラム編成が可能となります。

 司法修習との関係では、法科大学院が実務上生起する問題の合理的解決を念頭に置いた法理論教育を中心とすることから、体系的な理論を基調としつつ実務との架橋を強く意識した科目配置を構成する必要があるというのが大方の意見であります。そのような観点から、授業内容・方法、教材の選定・作成等について、実務家教員との共同作業などの連携協力が必要とされます。

 また、修得単位数については、現行の修士課程よりも高く設定すべきものと考えられます。

 教育方法については、講義方式や少人数の演習方式、レポート作成等、更に個別的学習指導なども適宜活用していくことが重要であります。授業は一方的なものであってはならず、インテンシブで双方向的なものとし、セメスター制等の採用により授業をなるべく集中的に行うべきです。とりわけ少人数教育を基本とする必要があります。また、厳格な成績評価及び修了認定を行うことが不可欠です。そのために、例えば、初年度修了時において、一定の水準に達していない限り、その段階以降の履修を認めない制度を導入することなどの仕組みを具体的に講ずることが必要であります。

 「(3)入学者選抜」。入学者選抜の基本的考え方については、学部における学業成績や学業以外の活動実績、社会人としての活動実績などを総合的に考慮して合否を判定すべきものであると考えます。

 入学試験の基本的な考え方としては、法学既修者として入学を希望する者と法学未修者として入学を希望する者とについて同一内容の試験を行うことが考えられます。その内容は、性質上、法律学についての知識を試すのではなく、判断力、思考力、分析力、表現力などを試すことを目的とする適性試験となるでしょう。この適性試験については、例えば、米国のLSATを参考にし、これを我が国に適したものに改良することが考えられます。他方、入学前の学修状況の相違に配慮し、法学既修者として入学を希望する者については、法科大学院の基礎科目の履修を省略できる程度の学力を備えているかどうかを判定する法律科目試験を行い、法学未修者として入学を希望する者については、適性試験を行うということが考えられます。

 いずれの場合でも、入学者の選抜においては、公平性、開放性、多様性という法科大学院の基本的理念にのっとり、他学部出身者や社会人等を広く受け入れるため、これらを一定割合以上入学させるなどの措置を講ずることが必要であります。

 試験の実施の具体的方式としては、法科大学院が連合して試験内容を検討し、統一的に試験を実施する方式も考えられます。統一的な試験の実施については、多様な背景を持つ者に開かれた、公平な入学者選抜のための入学試験の在り方という視点から、その結果を評価基準の中に盛り込むことが必要であります。

 「(4)教員組織」。まず、少人数で密度の濃い教育を行うものであることから、実務家教員を含む多数の専任教員を必要とすることになります。実務家教員については、任期や勤務形態について柔軟に基準を運用することも考えられます。さらに、この関係で、弁護士法や公務員法等に見られる兼職・兼業の制限等についても所要の見直し・整備がなされる必要があります。

 教員資格の基準は、従来の研究業績重視ではなく、教育実績や教育能力、実務家としての能力と経験を大幅に加味したものとする必要があります。

 「(5)多様な設置形態と適正配置」。独立大学院や連合大学院、夜間大学院など多様な形態により、法科大学院の開放性・多様性の確保に努めるべきです。また、地域を考慮した全国的な適正配置のための政策的配慮が必要です。

 「(6)資力が十分でない入学者に対する援助の必要性」。資力が十分でない者が経済的な理由から法科大学院への入学が困難になることのないよう、奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種の支援制度が整備されるべきです。

 「(7)法科大学院の財政基盤の確立」。厳しい財政事情の中においても、司法の人的基盤の整備の一翼を担うという法科大学院の公共的使命にかんがみれば、国公私立を問わず、適切な評価を踏まえつつ、公的資金による財政支援が不可欠です。

 「(8)その他」。学位は、3年制とする場合には、国際的通用性をも勘案しつつ、例えばアメリカのロースクール修了者のJ.D.(Juris Doctor)に相当する法科大学院独自の学位(専門職学位)を新設することも検討する必要があります。

 また、留学生の受入れなど、国際的に対応する体制の整備も検討課題です。

 「4 法科大学院の設置と第三者評価」。「(1)設置及び第三者評価に関する基本的な考え方」。法科大学院は必要な一定の客観的基準を満たしたものを設置認可することとし、広く参入を認める仕組みとします。ただし、その客観的基準は、法曹養成の中核的機関としての使命にふさわしく、従来の大学院のものよりも一層厳格なものとすべきです。

 また、教育の質・水準を確保する観点から、教育効果などの継続的な事後審査を厳正に行い、客観的な第三者評価を行う体制の整備が肝要です。

 「(2)第三者評価の具体的な在り方」。法科大学院の評価基準の策定とその実施に当たる機構は、法科大学院・文部省・法曹関係者に、それ以外の学識経験者も加えて組織し、定期的に各法科大学院の評価を実施した上で、その結果を踏まえて是正勧告や場合によっては認定の取消しも行うものとすべきです。なお、情報公開がこの点において必要であります。

 「(3)法科大学院の第三者評価(認定)と設置認可及び司法試験受験資格との関連」。法科大学院の第三者評価の仕組みは、大学院としての設置認可や司法試験の受験資格認定とは独立した機能と意義を有するものであるから、基準の策定や運用に当たっては、それぞれの機能と意義を踏まえた適切な関連が確保される必要があることに留意しつつ、具体的な仕組みについて、検討することが望ましいところです。

 司法試験の受験資格との関連については、法科大学院の評価に関する機構によって認定された法科大学院を修了することを新司法試験の受験資格とすることが望ましいところです。

 「5 法科大学院と司法試験・司法(実務)修習」。「(1)法科大学院と司法試験」。一定の前提の下に、新司法試験は法科大学院の教育内容を踏まえたものとすべきです。新司法試験の内容がそのようなものであるとするならば、法科大学院修了者のうち、相当程度が新司法試験に合格し、法科大学院に期待される役割が実現されるものと思われます。

 このように法科大学院の修了を新司法試験の受験資格とすることが望ましいのですが、その場合、制度の開放性や公平性の徹底の見地から、入学者に対する経済的援助や夜間大学院、通信制大学院の開設などの方策を講じることが特に重要となります。これに加えて、社会的に納得できる理由から法科大学院への入学が困難な者に対して、別途、法曹資格取得の例外を認めることも検討に値するところです。

 「(2)法科大学院と司法(実務)修習」。司法修習を実施することを前提として、法科大学院は、実務上生起する問題の合理的解決を意識した法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分を併せて実施することとなるというのが大方の意見であったところです。実務修習の内容等については、新しい法曹養成の「プロセス」の一環として、法科大学院での教育と相携える形で、適切に構想される必要があると考えられます。

 「おわりに」。本検討会議としては、司法制度改革審議会から示された「基本的考え方」を踏まえつつ、法科大学院の制度設計に関する基本的事項について、以上のような結論を得ました。

 このような制度設計に基づいて法科大学院構想をさらに具体化し、実施に移すためには、「まとめ」本文の①から④に示すような、関係者間の意見調整が特に必要とされる事項を中心に、具体的な検討を行う必要があります。

 以上が、「まとめ」の概要についての報告でございますが、「法科大学院の構想とその意義」と題する文書を、今日お手元にお届けしてあるかと思いますが、それとの関連で、中心的なコンセプトや問題点について私の感じている事柄を若干述べさせていただきたいと存じます。

 数点にわたりますが、まず第1は、4ページにございますけれども、プロフェッショナル・エクセレンスとの関係では、2つの方向、すなわち法曹養成の高度化、専門分化への対応がこの構想の中でなされております。これは、アメリカが先行している教育的達成でございますが、ヨーロッパでも近時このことが強力に主張され、変化の動き、兆しが見られます。

 第2は、5ページのところですが、法律業務のコマーシャリズム化の危惧との関係です。商業化の統制は可能でありまして、現にそのための装置が構想の中でも取り入れられ、状況によってはさらなる有効な対策を講じることが可能と思われます。

 第3に、6ページでございますが、法理と実務の異花受精の成果として、法理の実効化と実務の透明度向上が指摘されるかと思います。

 第4に、7ページでございますが、法学未修者の教育期間3年のうち、第1年次で基礎科目群を教育することについての不安が指摘されております。根本的には、教育パラダイムの転換が伴うならば、このような困難は克服されるのではないかと思います。

 第5に、8ページになりますが、法科大学院の構想は、21世紀の法曹像と、その活動のありようからすれば、おのずと生まれ出てくる自然の帰結ではないかと思われます。そういうものとして本構想は出てきたと理解されます。

 第6に、訴訟社会化の問題も指摘されておりますが、新しい倫理科目、倫理教育やエレガントな法文化の熟成とともに、この問題は日本においては合理的におのずと解決されていくものと思われます。それは、法曹活動の構造変革の中にその可能性がはっきり見られると思われます。

 第7は、法科大学院の誕生は、法学部の存立にとって危機ではなく、各大学の創意工夫いかんでは、むしろ大きなチャンスを生み出す可能性もあることは指摘される必要があろうと思います。

 第8に、11ページにかかわりますが、この構想は、比較制度論から見て、独自性を持つものであり、特定の国の制度を模倣したものではないということができると思います。むしろこれは、日本が新しい、21世紀に適合的な独自の制度を生み育て上げていく出発になるのではなかろうかと思います。

 以上でございますけれども、最後になりますが、司法制度改革審議会が示された大局的な方向に即して、法科大学院の構想を検討してきた過程におきまして、検討会議に参加された審議会委員からは貴重な御意見をいただき、また、全国の大学法学部などから寄せられた御意見も参照することができました。更に、検討会議の委員の方々の御尽力に負うところが極めて大きかったことは申すまでもありません。すべての関係者の方々に深く感謝申し上げたいと存じます。

 以上でございます。ありがとうございました。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。

 ただいまの御説明を拝聴しまして、極めて御熱心に精力的に御検討いただき、非常に内容のある最終報告を取りまとめていただきまして、改めて厚く御礼申し上げたく存じます。

 それでは、引き続き質疑応答に入りたいと思います。多少前後してもよろしゅうございますが、この報告書の項目の順序を一応の目安として、質疑応答を進めていただければと思います。

 最初に、「1 法曹として備えるべき資質・能力と法曹養成の基本理念」、あるいは「2 今後の法曹養成のための法学教育の在り方-法曹養成のための法学教育の担い手としての法科大学院-」という辺りから質疑に入ってまいりたいと思いますが、どなたからでも結構でございますので、どうぞ御自由に御発言いただければと思います。いかがでしょうか。1、2の辺りは特に御意見がなければ、また戻ってもよろしゅうございますので、「3 法科大学院の基本的枠組み」の方に入ってもよいかと思います。そこも含めて、どうぞ。

 夏の集中審議のときに既に大分いろいろとお話を伺ったわけですけれども、さらに非常にリファインされた御報告になりましたので。

【石井委員】以前にも申し上げましたが、「法科大学院」という名前ですが、この最終報告書には「仮称」と書いてはあるものの、何となくこれで本決まりになってしまいそうな感じがしています。そういう方向で話は進んでいるのでしょうか。

【小島氏】よりベターな言葉がございましたら、それをまた審議会でお決めいただければと思いますが、今のところこれ以上の適切な用語は見つかっておりませんので、使わせていただいております。

【石井委員】大学院というと、何となくプロフェッショナルという感じが弱まるという感じを受けますし、一般に言われている大学院をどうしてもイメージしてしまいます。今度のはプロフェッショナルな法曹養成ということで、学者養成とは意味が違うと思っておりますので、もしできれば、法曹養成にふさわしい名前をつけていただけたらと思っております。といって私もこれが良いという代案は考えつかないのですが、ロースクール的な、何か良い名称ができたら良いなという気がしております。

 それから、今度、今の仮称の法科大学院ができたときに、日本でも卒業した人はJ.D.というような卒業資格というものをもらうという格好になるわけですか。その辺はどういう議論をなさったのかを伺いたいと思います。

【小島氏】この点につきましては、文書でも3年ということを念頭に置いてJ.D.ということを書いておりますけれども、学位は、国内において一つの通用性を持つだけではなくて、グローバリゼーションの時代には国際的通用性も大切でございます。この用語の受け取り方は、北米とヨーロッパでは相当違う面がございますので、LLMとか、その他の名称も、2年、3年ということとも関連しますが、考え方としてはあろうかと思います。ここでは、一段上の学位を提供することによって、修了者に幅広い活躍の場を与えるための配慮という面もございます。勿論、それだけの実質的な教育をしているわけでありますから、当然与えるべき学位ということが基本ではございますが、そのような考慮もございます。

 それから、先ほどの点でございますけれども、法科大学院の名称はある意味では、もし審議会でこの発足について考え方を固めていただいて、これが社会に一つの存在として動き出しますと、その内容によりふさわしい名前が抵抗感なく受け入れられてくるのではないか、そういうことも名称の確定については重要なファクターになるかという気もいたします。一般的な抵抗感というものが、構想の段階でありますと、それ自体が内容とは別に障害になるということもございまして、この点については大胆なことは、検討会議という限られた場では、余り真剣に検討はしなかったということでございます。

【田中氏】今、小島先生がおっしゃったことに対する補足ですけれども、審議会からこの検討会議に依頼を受けるときにペンディングになっております、専門大学院の枠で考えるかどうかという問題は、具体的な基準を策定する場合に、ほかのプロフェショナル・スクールとの関連で、いろいろ難しい問題が出てきますので、早い段階で方針を決めていただきたいと思います。

【石井委員】以前、大学院の名前について申し上げたときに、鳥居先生から、「外国の法曹関係者と話をするときに、向こうには“J.D.”といって“Doctor”と名刺に刷ってあり、格という意味で日本にもそういうものが何かないとまずい」というお話がありました。それも確かにおっしゃるとおりで、いわゆるグローバルな比較とか、折衝の際にそういうものがあった方がよいのではないかという気はしております。

 私の仲間で、アメリカ人の工学系の大学院出身の人たちの中には、ロースクールでは、2年ぐらい勉強しただけで“Doctor”という称号をもらえるが、自分たちは博士課程までいって苦労してようやく“Doctor”をもらえることを考えると、不公平であるという人もいます。そういうことから言って、法科大学院だけが博士号を割に簡単に取れるような格好になるのかどうかよく分かりませんが、アメリカでは一般的にいってそういう感じなのでしょうか。

【井上委員】その点、補足させていただきますと、医学の方では、メディカル・スクールを出れば“M.D.”でありまして、日本でも医学部卒は“M.D.”と称しているのではないかと思うのですが、それとパラレルに考えれば、“Ph.D”という意味の博士とは違うんです。アメリカでも“Ph.D”に相当する意味では“JS.D”といった違う名称を用いています。

【石井委員】違うのですか。それならわかりました。どうもありがとうございました。

【竹下会長代理】ほかに御質問がないようですので、私から教育内容の点について伺わせていただきます。教育内容についての「基本的な考え方」、それから「開設科目群」、「必置科目」、「年次配当」など大変稠密な御検討を経られたものだと思われまして、私も検討会議でお出しくださったお考えに全く賛成でございますが、一点ちょっとお伺いしたいのは、6ページの「(カ)教育内容面での司法(実務)修習との関係」というところでございます。  これは、後に出てくるところとも当然関連することでございますけれども、教育内容面では、「現行司法修習の前期修習における民事裁判講義、刑事裁判講義、検察講義、民事弁護講義、刑事弁護講義といった科目を、法科大学院において基幹科目としての民事法、刑事法として実施できるのではないかとの意見もあったが、いずれにしても」と述べておられるのですが、この意見と対立する意見が明示されていないように思われます。多数のお考えは、やはり法理論教育を中心とする以上、将来的にはともかく、当面はこういう科目を法科大学院の方に取り込むのは難しいのではないかと、そういう御意見だと受け取ってよろしいのでしょうか。これは恐らく、当面の問題と、将来ロースクール制度が軌道に乗って、例えば、ロースクールの教員はほとんどみんなロースクールを卒業し、司法修習を修了した者であるということになった場合の問題とではかなり違ってくるのではないかと思います。当面の問題としては、法科大学院の方でここまでやるのは難しいというのが多くの御意見であったと伺ってよろしいのでしょうか。

【小島氏】そういうことですね。この点については、伊藤教授から。

【伊藤氏】その点は随分議論の経緯がございました。お手元の「まとめ」の17ページ、一番最後のページでございますが、「(2)法科大学院と司法(実務)修習との関係」というところの第一段落目の最後のところに、「法科大学院は法理論教育とあわせ、実務教育のうち基礎的内容にわたる部分(現行司法修習における前期修習相当)まで実施すべきとの意見もあった。」とあります。ここはまさに「意見もあった」ということでございまして、そういう意見が言われた一方、しかし、御指摘のとおり、法科大学院創設時からそこまでできるのかという消極論と申しますか、相対立する意見もございました。

 そこで、御指摘の6ページの方に戻りまして、ここで言われている意見というのは、前期修習相当分を全部やるというのは無理かもしれない、しかし、ここで書いてあるような民事裁判講義、刑事裁判講義等は、私どもが若干情報を収集したところによると、前期修習のうちの、具体的に言うと4月とか5月の初めぐらいになるんでしょうか、言わば、導入的な部分でございます。そこまでやることは、先ほど17ページに書いたような意見を前提としない場合でも考えられるのではないかということでございます。ですから、6ページの方の意見というのは必ずしも少数意見という意味ではなくて、「いや、それは絶対だめだ」というような強力な対立意見があったということではないと私は理解をしておりますけれども、そこの受け止め方は委員の間で若干違うかもしれません。

【竹下会長代理】重ねでお伺いしてすみませんが、前にもこの審議会の方で、私から申し上げたことがあるのですが、前期においても、必ずしも講義だけではなくて、訴状あるいは検察でやるべき起訴状とか、不起訴裁定書とかいうようなものの起案をさせて、教官が一人ひとり全部添削をして返し、そして講評するというようなこともやっているわけなので、そういうところまで法科大学院でやるのはかなり難しいのではないか。実務的な経験に裏付けられていないと難しいのではないかと思われるのですが、それとの関連で、ここで言っているのは、「講義」と断っておられますから、講義の部分、これも勿論、現在の大半の講義とは違って実務的な内容になっているわけですけれども、そこぐらいまでは行けるのではないかと、そういう御意見ですか。

【伊藤氏】そういうことでございます。そういう意見があり、「それはいかん」とか、「そんなことはまだまだやるべきでない」というほどの強い反対論はこれに関してはなかったというのが私の印象でございます。

【竹下会長代理】意見もあったが、「いずれにしても」この限度は大体異論がなかったということですか。

【伊藤氏】そういうニュアンスがあるのではないかと考えております。

【竹下会長代理】わかりました。

【髙木委員】全体的な関係がよくわからないんですが、一方では実務家の教員の方々にいろいろ参加を促すと、あるいは修了に必要な単位数等も、実務のこともよく踏まえて単位設定をしなさいというようなことが書いてありながら、司法修習実務のことは法科大学院で余りやらないんだということは、今の現行司法修習は大方変わらずに続くんだということを今おっしゃっておられるんですか。

【小島氏】実務家教員の法科大学院において果たす役割ということを考えますと、それは能力としては非常に広いものがございますけれども、あくまでもそれは法科大学院という法理論教育を主軸とする教育機関の中での役割でございますので、おのずと限定されてくるのではないか、そこに実務修習といいますか司法修習と、法科大学院の教育の仕切りが一つあるのではないか。

 ただ、この実務修習の在り様というのは、別のところでもちょっと触れておりますけれども、そう固定的なものではなくして、一定の状況の中で改善すべき点などもあり、その部分的な変化はあるだろうということは前提としておりますので、そこらの関係が若干動きがあるものになってくるということではないかと思います。

 一つ例を挙げますと、竹下会長代理が先ほど御指摘になりました訴訟関係の文書というようなことについて言えば、研修所では、その訴状なら訴状、答弁書をきちっと書けるように訓練していくということになり、それが実務そのものの教育ということになろうかと思いますけれども、法科大学院の方では、訴状なりその他の事件記録などをサンプルとして使いながら実務はどう展開していくかということは理解して理論教育の実効化に寄与するというようなことになろうかと思いまして、同じ事件記録なり訴訟文書が使われるにしても、それがモデルとして使われるのか、それ自体を習得すべきものとして使われるのかによって、実務修習との間に相当違いが出てくるのではないかというふうに考えられるのではないかと、個人的には考えております。

【井上委員】ちょっと御覧になっただけではよくわからないと思いますが、要するに、「法理論教育」とおっしゃっているその「法理論」ということの中身の問題だと思うのですね。「法理論教育」とだけ言いますと、旧来の大学で行っているような抽象理論というふうにも受けとれるんですけれども、この報告の6ページに、「実務上生起する問題の合理的解決を念頭に置いた法理論教育」というふうにわざわざ断っておられる。そのことは、私は検討会議に出ていましたので、その意味するところはわかるのですが、もう少しわかりやすく説明していただければよろしいのではないでしょうか。そしてまた、実務家教員の役割が、何か付け足しみたいにも思われているようですけれども、それは非常に重要だということがわかっていただけるのではないかと思うのです。

【伊藤氏】座長の方から申し上げたことを繰り返すことになるかもしれませんし、また、今、井上委員がおっしゃったことと共通するわけですが、夏の集中審議のときに中坊委員から御指摘いただきましたように、事実や生の紛争そのものに着目して、それと理論を照らし合わせて相互に合理性を検証することが、法科大学院における教育の中心となるべきだと考え、具体的にはカリキュラムの中で基幹科目とされているものはそういうことを考えているわけでございます。

 私どもとしては、事実や生の紛争について法的基準に照らして合理的な解決の在り方を探るという教育ができていれば、それを実務技術上どういう形で表現をするかとか、そちらの方は、引き続いて適切な方法でやっていただければそれで済むと考えています。そういうふうな役割分担をすることが、法科大学院はおよそ実務に対してはノータッチであるとか、無関心であるとか、あるいは批判的な目を育てていないとかということにはならないと思います。十分これからの実務を担い、また、必要があれば実務に対して批判的かつ建設的な改革を行えるような法律家を育てられるのではないかと、このように考えている次第でございます。

【竹下会長代理】髙木委員もその点を誤解されているわけではないと思いますけれども、さっき私が申し上げたことで万一誤解があるといけないから申します。

 私も別に司法研修所の教育の在り方が現在のままでよいということを前提にして先ほどのような質問をしたわけではなく、要するに、法科大学院の方でどこまでやり司法研修所の教育でどこまでやるか、その線引きがどうなるのですかということで伺っただけで、研修所の教育はどうあるべきかは、それはそれとして議論する必要があるでしょう。私も今のままでよいと考えているわけではありません。もっともその前に、私の知っているのは30年以上も前のことで、現在どういう教育が行われているかということ自体、必ずしも十分知っているわけではございません。

【髙木委員】竹下さん、誤解されたということではなくて、法科大学院構想の検討を検討会議でお願いする以前の議論として、結局、大学の法学部と研修所の間をつなぐだけということに結果的になるのではないですかという議論がありましたが、そういう御質問をしたら、「いや、実務修習なども取り込んでいく議論に当然なるはずですよ」というお話がありました。検討会議の方にお願いするときに、言葉遣いの点で「研修」とか「修習」といった、いろいろな議論がありましたけれども、今の御説明を聞いておると、「架橋」と書いてあるけれども、やはり中抜けかという印象がちょっとしましたものですから、そういうことをお尋ねしたのです。  後で第三者評価の御議論があるんだろうと思いますが、その部分を見ますと、これは議論はあったようですが、実務家教員の数ないし率などとか書いてあるんですが、今のイメージからすると、実務家の方々の関与される部分というのは非常に少ないのかなという印象を受けました。音楽で言えばキーが非常に低いような感じがしますねという感想を申し上げざるを得ない。

【小島氏】4ページのところを御覧いただけますでしょうか。今、部分的な接点について議論をいたしましたので、全体的に実務家の果たす役割ということを科目の観点からごらんいただきますと、特に、A群は置くとしまして、B群の法曹基本科目、これには法曹倫理等がございますので、各学校によりますけれども、実務家教員が相当重要な役割を果たす可能性がございます。それから、C群の基幹科目についても、共同の授業とか、あるいは単独で実務家の方が授業をするという可能性は、各学校の選択により十分あり得ることでございます。それから、D、E群は特に、実務家が担当される科目が相当数出てくるのではないか。とりわけG群は実務経験が非常に必要な科目で、しかもこれは必置科目として位置づけられております。ただ、挙がっている例示のうち全部をやるという意味ではなくて、状況に応じて可能なものを進めていくという経過的な配慮はなされておりますけれども、クリニックとかエクスターンシップとかその他、これは大きな可能性をはらんだ場所ではないかと思います。

【井上委員】私が口をはさむことではないのですが、その割合とかといったことはむしろ逆の意味ではないかと思うのですね。現在でも、専門大学院については、さっき田中先生がお触れになりましたけれども、ビジネススクールとかそういうものは、その枠の下に実際的な、プロフェッショナル・スクール的な教育をするものとして既にできているのです。そして、それは、その性格上、やはり実務経験のある人を教員として多数受け入れて、教育をしていかないといけないということで、最低何割必要だという定めが置かれているわけですね。法科大学院はその枠でやると決まってはいないのですけれども、その性質上、実務に傾斜したというか、それに結びつくことを目的にした教育をするわけですから、やはり教員として、実務経験者がある割合以上必要だろう。そういう趣旨で書かれていると、私は検討会議で聞いていまして、そう理解しました。上限ということではなくて、最低限その程度は必要だという意味で書かれているのではないでしょうか。

 それともう一つ、いま発足に当たっては、実務経験のある人と大学で育った研究者というふうに区別があるのですけれども、法科大学院が発足し、定着していけば、そこの卒業生が一旦実務に出て、経験を踏んだ上で戻ってきて教員になる。それが主たるコースになるのではないでしょうか。アメリカのロースクールなど、そういう形で教員を養成しているわけです。そうなってきますと、実務経験者とそれ以外という区別自体が意味をなさなくなっていくのではないかと思われます。ただ、発足に当たっては、やはり何割ということを最低言っておかないと、大学人だけで構成してしまうということにもなりかねない。そういう意味だろうと、私は理解しています。

【藤田委員】大東文化大学の伊藤滋夫教授、実務家から教授になられた方ですが、この方がシンポジウムで述べられたことの中に、研修所で行っている教育の主要な内容は、裁判、検察、弁護を通して要件事実教育と事実認定教育である、その中の一般法則、一般理論の面は法科大学院でもできるし、やった方がいいんじゃないか、一方、個別的な適用と言いますか、具体的なケースについて、どういう要件事実を構成するか、事実認定をどういうようにやるかという各論的な面、一般法則や一般理論を適用する面については、やはり司法修習の方の役割になるんじゃないかというようなことがあります。研修所の前期修習の民裁、刑裁、検察、民弁、刑弁の各講義も、2つのものが段階的に含まれていると思うんですが、先ほど伊藤眞先生が4、5月ごろの導入部分のときにと言われたのは、今、伊藤滋夫教授が言われたことと大体において一致するのか、それとも中身的に違うのかというのが伺いたいことの第一点です。

 もう一つは、法科大学院の修業年限が3年あるいは2年と想定されてその間のカリキュラムをお考えになったわけですから、その期間を前提にしてどのくらいのことができるかという考慮も当然されただろうと思います。その場合に法科大学院の先の実務教育は研修所の実務修習ということになるわけですが、その実務修習の期間については、1年とか2年とか1年半とか、いろいろなやり方があり得ると思うんですが、そういう期間まで考えて役割分担をお考えになったのか。あるいは法科大学院としての役割はここまでで、それから後は実務修習に任せる。実務修習の期間は実務修習の方で決める問題だということではなかったかと思うんですが、そういう理解でよろしいかという点についてお答え願えればと思います。

【伊藤氏】余りレベルの高い例え話でなくて恐縮なんでございますけれども、私の親しい友人で研修所の民事裁判の教官をしていた方と雑談をしておったときに、料理の話に例えまして、まず、一般的にそもそも料理の仕方はこうでなければいけないという、料理法を抽象的、一般的に教えるというレベルがある。それから、もうちょっと進んで、半ば調理してあって、後は電子レンジで温めて盛り付ければ一応お客様に出せるという料理のレベルがある。最後に、自分で材料を調達して一からつくるというようなレベルがある。大学で今までやってきたのは、一番最初の、抽象的、一般的に、料理はこうやればできるんだというレベルの話であり、恐らく法科大学院が発足した時点では、先ほどの藤田委員の御発言で要件事実についての一般的な考え方と、それをある程度具体的な紛争に当てはめた場合にどうなるかという話は、半調理済みの食品から一応料理をつくってみるというレベルの話だと思うんです。自分の感想にすぎませんが、ある程度努力も要るし実務家の協力も要ると思いますが、その辺りまでなら発足時、ないし発足間もないときでもいけるんじゃないか。ただ、その先に、いい材料をどこかへ行って見つけてきて、味つけから何から全部やるというレベルは、少なくとも発足時では難しいだろうと思います。ただ、先ほど委員の御発言にもございましたけれども、法科大学院が定着をして、10年、20年経っていけば、力量次第によってはそういうところまでいけるかもしれない。そのように考えております。

 それから、後段の御質問については、まさに藤田委員おっしゃられたとおりでございます。

【佐藤会長】私は公法専攻ですので、お聞きしていいのかどうか躊躇するんですが、4ページの基幹科目のところ、それから6ページのところでも「民事系」、「刑事系」となっているわけですけれども、従来では公法系というカテゴリーもありました。そういう区分は超越しようという発想なんでしょうか。

【田中氏】法科大学院の実務教育について、今までの御質問は、主として司法研修所の教育内容との関連を問題にされているわけですけれども、法科大学院を考える場合に、確かに研修所との役割分担も大事なんですが、先端的な分野とか行政法、消費者保護法、労働法といった分野は、必ずしも研修所のカリキュラムの中に十分に含まれていないので、むしろ大学の方できちんとできるものもあり得るわけでして、どの程度できるか問題はありますが、視野を広げるということもかなり大事です。ですから、余り法科大学院の実務教育の中身を司法研修所との関連だけで考えるのはちょっと疑問であって、法科大学院の存在理由というのはもっと幅が広くて、特許とか行政とか労働とか消費者保護とか、裁判実務だけに限らず、広範な法律実務を視野に入れる必要があるので、余り研修所との関係だけで議論すると、佐藤会長がおっしゃったような疑問も出てくるので、大学側としてはもっと幅広い実務を視野に入れて、基礎的な教育をやりたいと考えているところが多いんじゃないかと思います。

 勿論、研修所との関係はどうでもいいというわけではないんですけれども、それもワン・オブ・ゼムだという位置づけをしていただかないと、公法の問題は当然出てくると思いますし、労働法の話も出てくると思いますし、独禁法、特許法とかいろいろありますので、その辺りはもうちょっと実務教育というものの幅を広く考えていただきたいと思います。

【鳥居委員】今のお話なんですけれども、私は2つの側面があると思うんです。

 一つは、ロースクール側がどのくらい新しい時代の教育方法を展開できるかということでして、これは各大学の自由な競争でこれからよくなっていってくれればいいと思います。

 今回のこの報告書では、言葉としては消えていますけれとも、最初に議論していたときには、当審議会でも、それから検討会議の方でもしきりと出てきた言葉の一つにケース・メソッド、あるいはケース・スタディーというのがあります。

 私はケース・スタディー万能主義には批判的ですけれども、ケース・スタディーというアプローチがアメリカのロースクールでは行われています。

 そのケース・スタディーのやり方が、実はここへ来て急速に情報革命と同時に変わってきています。アメリカでは昔は1冊1冊判例集を引っ張り出して見る見方そのものをロースクールでたたき込まれていた。ロー・ファームに行くと、本棚にたくさんの判例集が並んでいるというのが実体だったわけですけれども、今はもうコンピュータ化されて、いろんなキーワードで必要な検索ができる時代になったわけです。そのとき、検索で出てくる一連の判例を比較分析するということはとても研修所ではできないと思います。やはり大学院在学中でなければゆったりできませんし、それからまたそれを日本だけではなくて、他の国では関連事項はどうなっているかということを考えるのも、在学中にできることなのではないかと思うんです。

 さらには、当審議会でも再三出た言葉だったはずなんですけれとも、ダイナミックに新しい法解釈や新しい法律自体が作られていく社会が必要であるということを考えますと、既存の法学部の先生方がこれからなさるべき一つの大事な仕事はそこにあって、そこへの情報供給源として臨床サイドの学校であるロースクールから、そういうものに役に立つ情報が供給されていくという関係が常にダイナミックに動く仕組みが必要です。そういう仕組みをきちっと作ることができるロースクールが本物の一流のロースクールだというふうに思うんです。

 問題はそのときに、さはさりながら日本の制度として司法修習というものを残すということが半ば前提の議論が行われておりますので、仮にそれを前提といたしますと、司法修習のうちの前期修習の部分が、一体どの程度、今度新しく誕生するロースクールの新しい教育で置き換えられるかという問題は、少し時間を掛けざるを得ないのではないかと思うんです。言葉は適切でないかもしれないんですが、司法修習の側は公的に行われているもので、私は公的に行われているものは、庭石と同じであっちを押したりこっちを押したりして角度が変わるのにも数年掛かると思っていますから、すぐには変わりません。しかし、必ず変わると思うんです。そのことを前提とする議論が今後審議会で行われるのであればありがたいと思うのです。

 ただ、永久に変わりませんよとか、少なくともこの審議会の議論は一切そこは変えないんだという議論で押し通してくださいと言われると、それは髙木さんも言われるようにおかしいんじゃないかと思うんです。

【佐藤会長】御趣旨はよくわかりましたが、検討会議の方から何かリアクションがございますか。

【小島氏】それでは、簡単に私の方から申し上げて、また、ほかの方に答えていただきたいと思います。

 先ほどの佐藤会長の御質問ですが、民事系、刑事系というような言葉がたびたび出てまいりますけれども、これは例示でございまして、公法系とかいろいろなことを決して忘れているのではないということを申し上げたいと思います。

 それから、もう一つの点ですが、これからの法律家の世界は、専門分化ということが新しい意味で展開されていく必要がある。その専門分化は一つの伝統的な意味での専門分化ということになりますと、知的財産権とか国際関係ということになりますけれども、それだけではなくて、消費者保護だとか、その他新しい意味での日常的な法分野の専門分化も進んでいく必要があるわけでございます。そういう素地をつくる、つまり、法科大学院でそれが完成するわけではないですけれども、芽は法科大学院である程度植え付けておくということも重要なのではないか。一般的なレベルのアップということと、専門的な展開への萌芽がそこにあるということも大切であって、そういう意味で基幹科目以外の分野が至極重要であり、しかも、法科大学院のメリットの一つとして、各大学が特色を出すためにそれぞれ違った専門分野を開発しますから、そういう意味で、日本全体として見れば、今までなかったような専門分野が着実に育ってきて、そういう新しい知見なり考え方が実務に提供されていく。実務の世界にそれが結び付いていく、というところは非常に大きいのではなかろうかと思います。それに力を与えるのは、むしろ実践面で現場のいろいろな経験を持たれる方々である。この相互刺激ということは非常に大切なのではないか。

 立法というお話が出ましたけれども、今まで立法学とか立法提案という分野についても、日本では非常に欠けていたというか、存在してはいたが諸外国と比べると非常に立ち後れていたと思うんですが、こういう分野は抽象理論のレベルでやっていてはなかなか見えてこない。やはり現場の問題に目がいって初めて、そして実務家と理論家が出会って議論して初めて見えてくるものであろうと思います。そういう意味での進展というのは大いに期待すべきであるし、期待されるのではないかということでございます。

 それから、ケース・メソッドのお話が出ましたけれども、ケース・スタディーとケース・メソッドはちょっと違う話かと思いますけれども、法科大学院ではやはり抽象議論ではなくて、具体的な思考法を育てて、そこから思考力、創造力その他を育てていくということになりますので、判例を中心にした検討というのも必要でしょうし、判例がない分野ではいろいろ事例というものを探してきて、それを中心に考えていくことも必要でしょうし、その中で一般理論と実務と立法とがどう関わってくるのかというようなことがおのずと出てくるわけで、そういう意味で、ここでは判例・事例を使った教育と言っていますが、それは例示でございまして、いろいろな展開があって、それが重要なものとし意識されております。あるいはその辺りの表現が十分でなかったところもあるのではないかと反省もしているわけでございます。

 特にそういう問題を考える際に、現場に下りるということと、もう一つ重要なのは、制度比較。グローバリゼーションの中で日本が劣っているという意味ではなくて、少数の人間が考えるよりも、全世界で多数の人間が考えたところをベースに探求してくれば、いろいろ新しい展開も可能であるという意味で、比較法、あるいは制度比較というものも重要な項目になってくるのではなかろうかと思います。

 以上でございます。

【中坊委員】非常に具体的なことをお尋ねするのですが、今回この検討会議の最終報告書を審議会に出していただきまして、そして、最後の「おわりに」というところで4項目を示されまして、その4項目については関係者間の意見調整が特に必要とされる事項であるとされております。その中には、ただ今も議論になっておりましたように、科目のことから、先生のことから、あるいは修習との関係、いろんな問題がたくさんあるわけですし、第一、大学の設置基準をどうするのかというような非常に焦眉のことまでについて、この最終報告の中では、そこから先はどこかでやってくださいという答えになっているわけです。一方、私たち審議会の方といたしましても、他の審議事項がたくさんあって、確か法科大学院の構想についての審議は、中間報告まであと2回しか残されていないわけです。そういう中において、この検討会議においては「おわりに」にある4項目すべてについて、我々審議会において審議してもらって結論が出せるんだとされている。検討会議では、これらについて具体的なことを頭に描かれた上で出されたものなのか。とにかく我々は中間報告まであと2回しか審議の機会がないんです。

 ここに言う関係当事者とは一体どういうことなのか。あるいはまた、そうした問題について審議するための組織を別個にお考えになった上で、「おわりに」の最終結論としておまとめになっておられるのか。いずれにしてもロースクールを生み出すということは大変な仕事だろうと思うんです。特に、当然のように、予算措置が伴わなければできないということもあります。

 そういうようなことを全部含めて、この検討会議で、「おわりに」のところをおまとめいただいたときに、検討会議としては、今後のロースクールを現実に生み出すために具体的に一体どのようなことを頭に描いて、我々にこの最終報告を出しておられるのか。その点について、検討会議の方でお互いに話し合ったり、あるいは御了解されたところを一遍話していただいたらどうかと思います。

【田中氏】今の中坊先生のお話は、後の問題につながるところがあるんですけれども、基本的にはこの検討会議で検討したことを踏まえて、第三者評価と設置認可の具体的な基準を策定する必要があるわけでございます。①から④は、基本的にはすべて基準策定に関連していく問題でございまして、それにつきましては、とにかく我々としては審議会から依頼を受けて検討したので、一旦審議会にお戻しした上で、検討会議で基本的な事項についてまとめたことについてさらに加えるべき点があれば、審議会の方で追加や修正などをしていただいて、しかるべきところでさらにそれを詰める場を設けないと議論は進展しないというふうに考えております。ただ、どこでどういう仕方でさらに詰めるかということは、基本的に審議会でお決めいただくことでして、どこにと言うのは僣越だろうということで、我々としてはここまで詰めたけれども、さらに次に実施に移すためにはこういう問題事項が残っていて、これらについてはもっと具体的に詰めないと動き出せないということを指摘させていただいた次第です。これらの事項については、このまとめにプラスしたものを審議会で付け加えていただいて、しかるべき場を設けて是非検討していただきたいということでございまして、審議会自体で後はおやりくださいという意味ではございません。ただ、検討会議が続けてこれをやるというわけにもまいりませんで、検討会議はこれで一応終わったという趣旨でございまして、後で議論になると思いますけれども、第三者評価の基準をどこで策定するかという問題との関連で非常に微妙な問題がありますので、念のためまとめてここで指摘しておいた方がいいのではないかということでございます。

【井上委員】私が理解した限りで申し上げますと、検討会議に依頼されたことについては、最終報告として回答する。この審議会で法曹養成制度の整備ということを検討する材料としては、それで十分だろうと検討会議としては判断された。

 しかし、この審議会でもしゴーサインを出した場合、実施に移すに当たっては、なおいろんなことを具体的に決めないといけない。そのことを、ここで指摘されているんだろうと思います。

 つまり、ここで大きな方針を決めても、すぐ動き出すというわけではなくて、どこかでさらに具体的な制度設計をしないといけない。そういうレベルの問題として、この4つの事項についてはさらに詰めてくださいよ、という御趣旨だと理解しています。

【中坊委員】井上さんのおっしゃったように、4項目全部について我々がここで決めるというんではなしに、そういうことに関する我々の審議会としての、司法制度全体の中の法曹養成というものを含めて、どのような意見をさらに付け加えられるか。あるいはより進化できるかというのは、具体的に法科大学院を作るということになれば、また、別のところでやってもらわなければいけないだろうと、こういうお考えだというわけですね。  それだったらわかります。

【佐藤会長】内容自体はかなり専門技術的にわたっているところもありますし、真剣に取り組むということであれば、そう気長にというわけにはいきません。我々としては非常に決断を迫られる課題かもしれませんね。

【中坊委員】私たち審議会としては、新しく「3,000人」という具体的な数字まで出して、これは司法試験に受かった人の数を言うているわけですけれども、そういうものを生み出すということを、しかも、できるだけ早期に計画的に、というところまで出しているんですから、当然この問題は非常に急ぐことにもなるわけです。だから、当然のように、今おっしゃるように、これからまたいずれかの日というわけにはいかない問題だろうと思うんで、この最終報告で出されているこの4項目というものは、かなり早いこと実現していかないと、あるいは検討しないと、これは具体的なものにならないのではないかという気がするものですから、お尋ねしておったんです。

【井上委員】しかも、それを決めた上で公表し、準備をしてもらわないといけない。その余裕も与えないといけないのです。

【中坊委員】しかも、これに対しては、全国の大学が非常に注視しているんです。我々の司法改革は、極めて実践的というか、実現的なものとして捉まえていかないといけない。非常に抽象論を言うことも基本的に必要なんですけれども、この4項目について、我々審議会としての意見をこれからあと2回の審議でまとめていく訳ですけれども、今おっしゃったようなことにそうなるんだろうと私は考えていたんですけれども、それでよければ結構です。

【髙木委員】12ページまでの議論かなと思ったら、もう「おわりに」にまでいっているんですね。

【佐藤会長】3時くらいに休憩をはさんで、さらに続けたいと思います。どこからでも結構でございます。

【髙木委員】第三者評価のところにかなりいろんなところで書かれておりまして、今のお話にも、どこで第三者評価の基準を設定するのかとか、第三者評価に関する御説明があるんですが、第三者評価をする場、機関、その辺の問題についてはどういう御議論があったんでしょうか。

【田中氏】第三者評価については、13ページに書いてあることでございますが、第三者評価の仕組みとして、アメリカのABAとか、ロースクール協会というのが参考になるわけですけれども、現在の日本には、アメリカのABAに該当するものもロースクール協会に該当する組織もないわけでございます。ですから、評価をする母体となる機構をどうやって作るかということがまず一つの問題でして、法曹三者とか大学関係者だけで検討していると、それぞれいろんな枠に縛られて余り大きな改革ができないという御批判もあるんで、その点につきましては、大学院の設置基準、設置手続とも関連しますので、法科大学院、文部省、法曹関係者のほかに、それ以外の学識経験者も加えた組織を作って、かなり強力な第三者評価機関によって法科大学院の教育の質の維持向上を図る仕組みを作る必要があるんじゃないかと考えております。それを発足させるときに、どこがイニシアチブを取ってそういう機構をつくるかという問題がありまして、個人的な考えとしては、プロ野球のコミッショナーくらいのかなり強力な機構を作って、法科大学院にも法曹三者にも睨みがきく組織によって法科大学院の維持、向上を図る必要があると考えているわけですけれども、母体をどうして作るかは、この審議会で、こういう形のものが考えられるということを決めていただくことが、これから第三者評価の基準を詰める上でも前提になるんじゃないかと考えます。とにかく既存の組織がないわけですから。

【髙木委員】文章をそのまま読ませていただきますと、最初に第三者評価をする機構をどうするかという検討の場をつくり、その場で検討したことを基に、何かここに機構という言葉が使ってありますが、そういう機構を作る。その機構は是正勧告や、場合によっては認定の取り消しまで行うといった、結構すごいなというイメージを持たせることが書かれておりまして、もしそうならば、13ページの真ん中あたりに「関係者から構成される組織を設けて」と書いてありますね。この「関係者から構成される組織」について、「関係者」とか「組織」といったところをどう読むんですかということです。

 それから、そういう組織で検討された上で作られるであろう機構を設けてとか、機構というのは(2)の2行目に書いてあったり、それから下から6行目に「当たる機構は」とか、いろいろ「機構」という言葉が使ってありますが、その辺はどういうふうに読んだらいいんですかということをお教えいただきたいということです。

【田中氏】機構としたのは、官主導というのは反発があるし、民だけでは動かないというところがあるんで、ニュートラルな表現で機構としたわけでございまして、やはりこれから法科大学院とか法曹養成制度全体を円滑に動かしていくという観点から、必ずしも法曹三者とか大学関係者だけにこだわらずに、かなり広い視点に立つ機構を作って、第三者評価ができるような母体を作る必要があるということでございます。利害関係者だけで議論しているとどうしても現実対応的になりますので、その辺りの機構をどうして作るかというのは基本的には政策問題でして、この審議会でこういう機構だとお決めになることじゃないかと思うんです。報告書では一応こういう関係者で組織したらどうかという案は提示してありますけれども、具体的にどのような機構を作るかは、司法改革の根幹に関わる問題でもあるんで、こちら側でお決めいただいたらと思いますけれども、いかがでしょうか。

【鳥居委員】現在の日本の制度というのは非常に複雑な背景を持っていますので、どう理解したらいいか、人によって理解の仕方が違うんです。根幹は、昭和22年に進駐軍が、「日本の大学の評価制度はおかしいですよ。自分たちで組織をつくってアクレディテーションをしなさい」ということで誘導して、東大と中央大学、早稲田、慶應など18大学が「日本大学基準協会」を作ったんです。昭和24年以後、新制大学が大学基準協会に入っていったわけです。昭和23年1月にはその大学基準協会が、設置評価をする権限を、大政奉還と言いますか、文部省の大学設置審議会にお戻ししたわけです。ですから、今は大学設置審議会が、新大学あるいは新学部、新大学院の設立認可をしているわけです。

 ここで言っている第三者評価の意味が、初めて大学院を誕生させるときの認可という意味が一つ入っているんです。認可を受けて誕生して走り出した大学について、途中で評価することを、通常、第三者評価と呼んでいるんです。一方現実には第三者評価機関は既に存在しているんです。これから独立行政法人になる国立大学については、その第三者評価機関で、私も委員の1人なんですけれども、評価していくわけなんです。

 整理しますと、まず、ロースクールの設立認可はどこがやるのかということを我々は決めなきゃいけない。そのときに、例えば東京大学の法学部にしても、私のところの法学部にしても、その法学部の設置認可に、最高裁とか法務省までが、その設置認可に関わるかというと、今は関わってないわけです。

 ところが、今度は実務の世界で司法研修にも関わってくるから、日弁連とか最高裁とか法務省もある種の関わりを持った設置認可をするのか。それとも文部省の設置審議会に任せるのかというのは、どこかで決めなければなりません。

【竹下会長代理】この報告書では、設置認可のところは必ずしもはっきりしないのですけれども、それはやはり文部省がするという前提で、後の評価は第三者評価機構がやるといういうお考えなのでしょうね。それとも今、鳥居委員がおっしゃったようなお考えなのでしょうか。

【佐藤会長】どうもそういう感じですね。形式的なものと。

【田中氏】夏の集中審議のときにはその辺りは詰めていなくて、竹下先生から質問されたことがありまして、その後、大学の設置認可の基準と、第三者評価の基準と、それから司法試験の受験資格の問題というのは確かに連動していて、これらがばらばらになると具合が悪いので、それらをどういう形で関連づけるかということをいろいろ検討いたしました。14ページにありますように、現在、設置認可は文部省が行っており、司法試験の受験資格に関しては司法試験管理委員会が決めることになっているので、差し当たりそれを前提とした上で、どういうふうに関連づけるかということになりまして、基本的にはこの第三者評価機構というものを作って、それと文部省が行う設置認可と、司法試験管理委員会が行う資格認定をできるだけ連動させる仕組みが必要だということになりました。しかし、それぞれ機能が少しずつ違いますので、ある程度まで基準を詰めた上で、それぞれの役割に応じて、設置認可の場合は最低基準ですし、第三者評価の場合には法科大学院の質をできるだけいい方向に持っていこうという基準を設定いたしますし、司法試験の受験資格の問題はもう少しケース・バイ・ケースに考えなければならない問題もありますので、その辺りの連動を図りながら、希望としては第三者評価機構を主導的に運用できる仕組みができたらいいんじゃないかというイメージで考えております。

【北村委員】10ページの「(4)教員組織」のところなんですが、ここに書いてあることは、11ページになりますか、教育面というものを非常に重視した形での教員採用ということが書いてあるんじゃないかなと思うんです。私には、研究と切り離された教育というのは、余り長続きしないかなというふうに思われるんです。そこで、実務家のところでは、ある程度の期間の任期が付されてもいいというふうに書いてあるんですけれども、そうでないところでは、その部分の文章がどうも当てはめて読むことができないということで、その辺のところはどのようにお考えなのか。そういう言葉の使い方というのは余りないだろうと思うんですが、その辺のところを教えていただきたいと思います。

【伊藤氏】実務家の場合もそうですけれども、いわゆる研究者教員というものについて考えてみますと、法科大学院が現実に制度化され、運営されていくことになりますと、研究者教員が持っているイメージも従来とはかなり異なってくるんじゃないかと思うわけです。勿論、研究と教育は、御指摘のように、高等専門教育においては車の両輪ですから、研究のない教育も教育のない研究もないと思いますが、ただ従来と違って、法科大学院では、実務を素材とし実務上出てくる問題を理論的に解明し、それについての合理的解決を教育していくということですから、研究と言っても、勿論、個性はいろいろあるかと思いますけれども、共通項的な意味で言えば、実務上の問題について理論がどうアプローチしていって、今までの理論のどこがおかしいのかというようなことが、研究に共通する部分になってくると思うんです。

 そういう意味では、実務家出身であろうと、いわゆる研究者出身であろうと、それほど研究と教育の持っている内容は変わらないのではないかというのが私の考え方でございます。

【北村委員】そうしますと、若干書き方のところでちょっと変わったように読めるかなと思ってしまったんですけれども、変わっていないという形で読めばいいと。最後の11ページの真ん中からちょっと下のところで、「教員の採用は、各法科大学院が行うことになるが」という形で「教員の流動性及び多様性が高められるよう配慮することが望まれる。」とあります。多様性はわかりますけれども、教員の流動性というのは、これは任期を付したというような形での流動性ということを考えていらっしゃると解釈してよろしいんでしょうか。

【田中氏】任期を付ける形の流動性だけではなくて、法学部の場合、比較的教員の人事が固定化しているところがあるんで、その辺りもっと流動化してやっていくということも考えられますし、あるいは学部担当の教授、法科大学院担当の教授のローテーションであるとか、いろんな流動性が考えられるわけです。

【北村委員】それというのは、大学がやる場合には、今おっしゃったように、法学部と法科大学院との間で時々、5年に1回くらいで交代するとかいうこともある程度可能だと思うんですけれども、そうでないところがやるときには、非常に難しい部分がございますね。

 要するに、法学部を持っていないときに、まあ法科大学院同士で異動すればまた話は別なんですが、そういう広い意味を含めて言っているのであるという感触ですか。

【佐藤会長】その方が一般論として望ましい、と。そういう考え方も入っているわけですね。

【田中氏】学生だけ多様化とかいろいろ言って、教員の方は固定化しているのもどうかということから、教員も流動性、多様性ということが入ってきたんじゃないかと思います。

【佐藤会長】では、水原委員の御質問を最後にして休憩に入りたいと思います。

【水原委員】2点についてお教えいただきたいんです。

 1点は、7ページから8ページに掛けて、これも制度設計の問題ではございますけれども、「『点』から『プロセス』による法曹養成制度へと転換し、法科大学院を修了した者のうち相当程度が新司法試験に合格するような制度とするためには、法科大学院で厳格な成績評価及び修了認定を行うことが不可欠である」と述べておられます。

 続いて「一定の水準に達していない限り、その段階以降の履修を認めない制度を導入することなど、厳格な成績評価や修了認定の実効性を担保する仕組みを具体的に講じることが必要と考えられる」。これは全国統一にやるべきだとお考えなのか、それとも各大学院ごとにお任せになられるのか、この基準の設定でございますが、これはどういうふうなお考えで御議論が進められたのかということが一つ。

 もう一つは、16ページの2番目のパラグラフのところの「新司法試験の受験資格とすることが望ましいが、その場合、制度の開放性や公平性の徹底の見地から、法科大学院の入学者に対する経済的援助や夜間大学院、通信制大学院の開設などの方策を講じることが特に重要となる。これに加えて、社会的に納得できる理由から法科大学院への入学が困難な者に対して、別途、法曹資格取得の例外を認めることも検討に値する」。これは例えばどういうことをお考えになっていらっしゃるのか。社会的に納得できる理由から法科大学院への入学が困難な者に対して別途考えるという点について、この2点をお尋ねいたします。

【田中氏】厳格な成績評価、修了認定でございますが、これは各大学の自己評価の問題としてやることは勿論考えられますけれども、それだけでは質の維持ということは難しいと思いますので、やはり評価基準としてそういう制度を取っているかどうかということは法科大学院のパフォーマンスの評価の一つの基準にすべきではないかというふうに議論としては進んできたと思います。大学によって、やる大学とやらない大学があるというのでは不公平なので、ある程度こういう方向でということは、基準で規定することになると思います。

【水原委員】それは第三者評価機構でお作りになるということでしょうか。

【田中氏】その基準の中に入ることになると思います。

【水原委員】わかりました。

 もう一つは、16ページの上から11行目に、「これに加えて、社会的に納得できる理由から法科大学院への入学が困難な者に対して、別途、法曹資格取得の例外を認めることも検討に値する」、その「社会的に納得できる理由から法科大学院への入学が困難」という場合、どういうことが考えられますか。

【伊藤氏】これも検討会議の中でいろいろな視点から多様な意見が述べられたところでございます。これは必ずしも全員の中で確認されたというわけではございませんが、座長の意見を記載した、「法科大学院の構想とその意義」という文章がお手元にあるかと思いますけれども、その6ページのところでございますが、第2段落のところで「繰り返しになりますが、この問題を考えるについてのわれわれの基本的視点は、まず、法曹のための法曹ではなく、国民のための法曹を養成するためにもっとも適切な制度とは何かを見定め、その上で、その制度が志をもつ人々に広く開かれるよう、合理的な設計をすることである」とございます。「国民」と申しましても、消費者とか労働者とか企業人とか、いろいろな方が考えられるかと思いますが、そういったさまざまな国民の利益、権利を正当に擁護できるような法曹を育てるのに一番適切な制度は何だろうかと考えますと、この審議会からの御指示にもございましたし、我々自身も法科大学院であろうと考えております。

 では、法科大学院について、その志を持つ人々に広く開かれるように制度設計をするということになりますと、今、委員が御指摘のように、夜間大学院とか通信制大学院とか、志を持つ人に制度を広く開くようにする仕組みが必要です。

 私自身はその工夫をまずすべきだろうと思います。ただ、いろいろな意見の中で、個人的な事情ではなく、例えば年齢という要素が一つ言われたかと思いますけれども、社会的なグループとしての属性を考えて、一定以上の年齢というグループの人に対して、法科大学院に入って3年勉強せよという経済的、時間的負担を要求することが必ずしも合理的でないと見られる場合があるのではないかという意見がございました。そういう場合について、別途法曹資格の取得の例外を考えてみることは、ここで検討に値すると言って、結論的には留保しているわけでございます。

 ただ、その下のところにも書いてございますように、例外的取扱いを認めることについて合理的な限定がないと、夏の集中審議でもいろいろ御意見がございましたように、結局、一部の人に対して特急券を発行することになりまして、最初に我々の基本的な問題意識としてありました、国民のために奉仕できる法曹を、一定のプロセスを経て教育するという、制度そのものが崩れてしまうことがないように、審議会において十分御検討いただきたいと思います。

【佐藤会長】よろしゅうございますか。

 それでは、先ほど申し上げましたように、休憩に入りたいと思います。再開を3時半にしましょうか。3人の先生、恐縮でございますが、最後までというと4時ちょっと過ぎることになるんですけれども、お付き合い願えますでしょうか。

 意見交換もなんですが、質疑を中心に更に続けたいと思います。それでは、30分に再開させていただきます。

(休 憩)

【佐藤会長】それでは、3時30分になりましたので再開させていただきたいと思います。

 引き続き質疑応答ですので、他の論点につきましても、どうぞ。同じ問題について別の観点からの御質問でもよろしゅうございます。

【藤田委員】先ほど水原委員が御質問になったところなんですが、納得できる理由で法科大学院への入学が困難な者に対して、別途法曹資格取得の例外を認めることも検討に値するということの意味なんですけれども、検定試験を設けて、それに合格した者に新司法試験の受験資格を認めるという趣旨なのか、法曹資格取得の例外とありますので、あるいはフランスのように法曹資格を直接与えるようなことまでお考えになっているのか、どちらなのでしょうか。

【伊藤氏】これも必ずしも統一した理解があるとも考えられませんので、私なりの理解を申し上げますが、また別に座長や田中先生から御意見があるかと思います。

 私の理解では、必ずしも、藤田委員のおっしゃった可能性の中の一つに限定をしている趣旨ではないと思います。例えば従来から言われたものでは、法科大学院を出ない者にも一定の枠内で司法試験の受験資格を認める可能性もあり、それから、言わば大検式に法科大学院の卒業資格を認める検定試験を経て、司法試験の受験資格を与えるという考え方もあります。第3番目に、今おっしゃったフランスのような考え方で、それとは全く別に法曹資格取得の道を考えるという幾つかの選択肢があるかと思いますが、そこは必ずしも私どもとして詰め切れなかったものですから、いろいろな可能性が検討に値するのではないかと私は理解しております。

【小島氏】一言付け加えさせていただきますと、学部入試の場合と比べて、大学院の入試の場合には、資格について柔軟度が高いと伺っておりまして、そういう点で入学資格の問題は相当柔軟に考えていけるという素地があるのではないか。問題の核心は、法曹資格への直行の問題で、その辺については、伊藤委員がおっしゃるように、検討会議という場の性質もございまして、具体的な議論は深まっていないというところが偽らざるところかと思います。

【田中氏】余り付け加える点はありませんが、高齢者の話もありますけれども、それは法科大学院の入学試験の仕方をいろいろ考えれば、高齢者でも法科大学院は受け入れられるわけでして、現に私どもの大学院の専修コースでも70歳をこえた近い弁護士会の長老の方が入学された例もありますし、できるならば我々としては法科大学院に来ていただくというのが望ましいと考えております。ただ今伊藤委員がおっしゃったような形で幾つかの選択肢はこちらで御検討いただいたらと思います。

【水原委員】今の問題ですけれども、高齢者の問題もございましょうが、一番心配いたしますことは、熱い思い、高い志を持っておる方が、しかし、両親、家族を扶養しながら受験をしなければいけない。これに大学院ということは、経済的にも非常に難しゅうございましょう。奨学金制度とかいろいろなことをやってみましても、これには限度がございます。そういう者に対して開かれた何かの道を考えておかなければいけないのではないかというのが私の個人的な考え方でございます。勿論、基本は法科大学院を中核とした法制度を採用するからには、それを基本にしなければいけないことは当然ですが、やはり例外をきちっと残していただくようなことを私どもは検討しなければいけないなということでございます。

【小島氏】今の点で一つ印象的なことを申し上げさせていただきたいと思います。

 今、水原委員がおっしゃった点は、一種の三重苦と申しますか、局限的な状況の方が社会にはいらっしゃって、それに対して何らかの道を開くことが重要だという御指摘であろうかと思います。それについてどの程度の配慮が、程度の問題ですが、必要とされるかは、ある意味では、非常に開放的な制度としての法科大学院ができて、その運用の中でやはり限界があるというふうになっていくのか、あるいは結構ほとんどの必要に応えることができるという展開になるか、そこが一つあろうかと思っておりまして、私どもとしては、大学は新しい理念状況の下で、そういう点では開放性というものを結構徹底していけるのではないか、そういう努力をすべきだと固く考えております。

 もう一つは、旧司法試験がある程度まで既得権的な保護という点から残っていきますので、それが開かれている間に、状況を見ながら法科大学院の実績とにらんで考えるという一つの時間的な余裕があることかなということも考えておりまして、我々の作業範囲の限界もありまして、そこの議論がそれほど深まらなかったというのが一つの背景でございます。

【井上委員】今の御発言の趣旨を明確にするためなんですけれども、旧司法試験が残っていくというのは、経過措置として残っていくという趣旨ですか。

【小島氏】はい、経過措置としてです。

【佐藤会長】今ちょっと出ましたけれども、新しい法科大学院の入学試験は、報告書において緻密に分析されていますが、端的に言うとどういうイメージとして描いたらよろしいんでしょうか。

【伊藤氏】入学者選抜については8ページのところから記述がございます。冒頭にも座長から説明を申し上げたとおりなんですが、入学者選抜イコール入学試験ではないというのが基本でございます。入学試験は重要ではあるけれども、入学者選抜の中の一部である。入学者選抜は試験のほかに、ここに書いてございますような、それまでにどういう勉強をしているかとか、その前にどういう社会的な活動をしているかとか、そういうことと、それから試験の成績を踏まえて最終的な合否を各法科大学院が決めるべきだということです。とは言っても、やはり公平ということがございますので、試験はやらざるを得ないだろうということになります。

 試験については、ここにございますように、一般的な意味での適性試験と、それから法学既修者に対する法律科目試験、この2つが考えられますが、適性試験の方は、これは私も余りそういうことについて専門的知識がないものですから、必ずしも自信がないわけですが、詳しい方に聞きますと、適性試験は、1点刻みで点数が出てきて、この点より上の人は適性がある、この点より下の人はないと、そういう類のことではないようでございまして、したがって、適性試験を実施した場合でも、やはりその試験の点数と、それ以外の出願者の人的属性に関する諸要素をどういう比重で見るのか、これについてはかなり工夫が必要ですし、場合によっては、法科大学院が連合して合理的な評価方法を考えるとか、そういう工夫が必要になってくるのではないかと思います。会長の御質問にうまくお答えできていないと思いますけれども、とりあえずそんなことでございます。

【髙木委員】先ほどの北村先生の御発言の中で、研究と教育のバランスのお話がありまして、私は北村先生は商学部の先生なんで、法学部と大分違うのかもしれませんが、何で受験塾がこれだけたくさんの学生を集めているのかということなんです。

 私はいろんなところで失礼を申し上げて大分お叱りを受けましたんで懲りておりますが、あえてもう一度申し上げますと、やはりロースクールが法曹養成ということのために作られるのは、教えていただくことが主眼で、勿論どんな世界でも、知識なり経験といったいろんなものを含めてリカレントされていかなければいけませんから、研究なり勉強ということが当然この世界でもあると思いますが、今までは御研究の方に御熱心だったのかもしれないけれども、教えられることに、不熱心だと言うとお叱りを受けますので、もう一つ力の入れ具合が少ないという背景があると言われています。多分この検討会議の報告書でも、その辺をかなり御認識いただいて、教育に性根を入れるんだという意識があって書いていただいておるのかなという感じがしましたので、私はその辺の部分は評価したいと思います。

【田中氏】髙木委員のお話ですが、研究と教育のことにつきましてはおっしゃる通りなんですけれども、ただ、受験塾のお話と教育が絡む点は、前に日弁連のシンポジウムでも髙木委員にクレームを申し上げたのですが、教育と試験の関係について、まず、試験があってそれに合わせた教育という考え方は問題でして、受験塾というのは試験に合わせた教育をしているわけです。しかし、教育と試験の関係について、単に司法試験だけではなくて、日本の教育システム全体が余りにも試験に照準を合わせた教育をやり過ぎているというところに問題があって、それが一番集中的に表れてきているのが司法試験でございまして、受験予備校のような教育をやらないから、教育に熱心でないと言われるのは大学として非常に不本意でございまして、我々は自分の研究も大事ですけれども、自分の教える学生がどういうふうに育っていって、社会でどのような役割を果たすかという点は非常に強い関心を持っております。教育の仕方の問題でして、司法試験に照準を合わした教育には熱心ではなかったかもしれないけれども、教育に一般的に熱心でなかったと言われるのは、不本意なわけでございます。

【髙木委員】お叱りを受けましたのであれですが、現実には、予備校というか試験塾で、それを教育と称するかノウハウの修得かよく知りませんが、それを受けた方々が多く司法試験に通られ、研修を受けられて法曹界に出ていっておられることは間違いないわけで、合格者の中でもかなりの比率の方々はそういう世界を経験しておられる。

 先ほど水原さんなり藤田さんの言われることにも通じるところがあると思うんですが、今回ロースクールを法曹養成の一番キーになるチャンネルにしようということでこの議論をしている中で、従来型のチャンネルを残せというのは、それを主張し過ぎたら、何も3年、4年も余計に時間のかかる道を選ばないで、従来型の勉強をやって司法試験通してくれたら、その方が当然期間も短くて済むわけです。そういうチャンネルが太く残るような議論というのは、逆に私はいかがなものかなと思います。勿論、検討会議の議論だと、その辺のチャンネルを極めて細くしたいという御意思が出ておりますので、それでよいと思います。この細いチャンネルの具体的な姿というのは、よくわからないんですが、このチャンネルを太くしろという議論、これはその程度をどうするかがものすごく難しいと思うんですけれども、ロースクールの意味を逆に減殺するような議論になったらいかんなと思います。その点はこのペーパーのとおりだと私は思います。

【小島氏】今、御指摘になった点は、法科大学院というものを考えていく際の非常に核心的な部分だと思うんです。

 まず教育が大切であるということについて、私どもは一点の疑いもない。それから、委員御指摘のように、従来の教育について言えば、方法も熱意も、いろんな点で大学は欠けていたという御指摘を受ければ、それについて納得する部分も非常に多いわけでございます。

 それからまた、予備校がある意味で効果的な教育をしているということ、それを我々は全く否定できないというところがあろうと思います。それを全部認めた上で、やはり本来的な教育、あるいはプロフェッショナルの養成というものの土俵はどうあるべきなのか。試験の合格を目指して、そのプロセスの形や土俵は問わずに、ともかくそれに時間を全部投入していくという勉強の仕方でいいのか。やはりきちっとした土俵を設定して、その中で学習する者がお互いに接触し合い、人間的な対話をし合う、そういう場というのが現代社会では欠けているということがございまして、一層今、それが必要になってきているのではないか。そういう場を設定することから、人間的な交流の中で頭を鍛え合って、知的な格闘技というもので知的な汗を流してきて、おのずとその先に法曹資格があるというのは、本来的な社会の理想ではないか。それを中心に据えるということが必要なのではないかということでございまして、そう考えてくると、おのずと法科大学院という構想に余り迷うことなく到達するのではないか、そういうふうに考えられるわけです。

 その中で、教育と研究のお話が出てまいりましたけれども、はっきりしているのは教育が不足であったということでございまして、研究が必要でないというふうには考えておりませんけれども、その二者択一ではなく、次の時点、つまり法科大学院が軌道に乗ってくれば、おのずと研究も活性化してくる。教育に打ち込んで、真にいい教育をしよう、学生が納得するような理論を立てようと努力する中で、理論が現実の問題について切れ味鋭く、納得する結論が出せるということになってくれば、そのこと自体が法律学の本流の研究におのずと多大な貢献をすることになる。これは京都大学においでになったシュナイダー教授が講演でおっしゃっていたことですけれども、教室で議論している中から自分の研究テーマが見つかって、そのことを考えることによって、学術論文が生まれていく。自分の経験ではそうだということをおっしゃっておりましたけれども、あれかこれかではない、一段上の総合ということがおのずと生まれてくるのではないか、そんなふうに夢想しております。

【山本委員】小島先生おっしゃるとおり、学校側がそういう熱意を持っていただくのは非常に大事なんですけれども、よく考えてみますと、日本の教育というのは大学の入学試験を頂点として、幼稚園からすべて塾、試験の点数だけでずっと育っているわけです。法科大学院ができたとしても、それ以外の、あるいは法科大学院に学生を供給する各学部では、すべてそういう状態の22歳の学生がいて、その学生が2年か3年の間この法科大学院に入りますと、小さいときからの20年近くにわたる教育システムをすべて洗い落として、先生方の熱意にすぐ応えられる素材になるかどうかという大きな問題があると思います。

 ですから、法科大学院というのは確かに、すばらしい法曹をこれから輩出していくための一つの道具ではありますが、これを切り口にして、日本の大学教育、あるいは初等教育からの教育の改善をするための大きな試金石と言いますか、そういった役割を担っているというふうに考えたいというふうに思っております。

【田中氏】山本委員がおっしゃるとおりでして、ただそれに関して一つ気になる点は、司法試験のバイパス的なことばかりに関心が向いていますけれども、司法試験の中身が非常に重要でして、中身次第によっては法科大学院を作ったけれども、それが塾化するというリスクというのもあり得るわけでございます。司法試験の受験者の母数の問題とか、司法試験のやり方について、検討会議ではそれについて意見があれば述べるようにということだったんで、謙抑的に言っていますけれども、大学としては非常に強い関心を持っておりまして、司法試験の受験者の母数の問題、受験資格の問題と、司法試験の中身の問題についても、是非大学関係者の意見を聞いた上で詰めるということを検討していく場を設けていただきたい。そうでないと、いくら法科大学院が独自であれこれ工夫しても、司法試験のさじ加減一つで、全くそれが空洞化してしまうというリスクがありますので、その点、ちょっとお願いしておきたいと思います。

【吉岡委員】新しい司法試験の中身の問題は非常に重要だと私も思っているんですが、今までの司法試験は、受験した方の3%とか、ごく少数の人しか受からないという、落とすための試験のように私たちにすれば見えるわけです。ですけれども、これからの方向として3,000人という数字が出ています。そういうことから言うと、むしろ落とすための試験というよりは、あるレベルを確保した人たちは受かるという、資格試験の性格が強くなってくると思います。ですから、点数が1点多いか少ないかというより、もっと法曹としての資質が選別できるような試験内容に変わらなければいけないと思います。そういう中で考えていけば、おのずから法科大学院の在り方も、受験塾を意識したような教育ではない、もっと理想的な教育ができるのではないかと考えています。

 それから、髙木委員がおっしゃったバイパスの考え方は、私は多少違いますので、そこだけ申し上げたいと思います。どうしても男性社会の物の考え方というのは、そうなると思いますが、女性の立場で考えますと、4年制の大学を出て、さらに3年間法科大学院へ行ってということは非常に難しい場合が多くなります。子育てをしたり、勿論、就職をして子育てをしている人もいますから、そういう人が法曹を目指すときに、子育てしながら学べるような設備を整えることができるか。法科大学院に保育設備を設けることを義務づけなければできない。そんなことを本当に予算措置からいってできるかというと、非常に困難だと思います。

 それから、一度ちょっとはみ出したけれども立ち直って、法曹を目指すという方たちにも、やはり道は開いていないといけないと思います。それが、法科大学院を出なければいけないというふうに限定してしまいますと、できるだけ幅広く公平にという考え方にも逆行することになると思います。

 そうかといって、バイパスが主流になってはいけないというのもわかりますので、そういう意味で、社会的に納得ができるような理由がある、そういう場合にはという限定を付けてでも、道筋を残しておくことが私は必要だと思います。

【小島氏】おっしゃった問題点は、非常に重要なことと思います。ただ、これは法科大学院が今後の展開の中でどれだけ開放性を持って、全部の法科大学院ではなくても、個々の法科大学院にそういう開放性についての独特のスキームを持つところも出てくるということで、その問題に対処するように、我々としては努力しなければならないということです。そして、それが正しいことだと考えますので、それ以上のことにつきましては、やはりこれは審議会の委員の方々がお考えいただくことであると思います。我々は真の開放性の実現のために努力する。構想としてもそうですけれども、実践として各法科大学院がどこまでそういう目標を貫徹していけるかということではないか。そういうふうに検討会議の場から見ますと考えられるのではないかと思います。

 それから、先ほどの山本委員の御質問に関連しますが、法科大学院が立派なものとしてできたにしても、これは現在の教育体制全体の問題、幼稚園から始まる問題はあるということ、これはそのとおり痛感しているわけでございますけれども、どこかから変えるとしたら、ここがある意味では出発点になり得るのではないか。特に法科大学院において理想の教育体制を仕立てることの意味は、そこでいい教育がなされたら、すぐにプロが日本各地すみずみまで散開して、それぞれ仕事をする。その討論の中で、理によって問題の解決をしていこうという実践を日ごろ行うわけですから、そういうものがまた社会教育効果を持って波及していくという面があって、そういう意味では小さい努力が大きな成果を上げる出発点になるというふうには期待しておるわけでございます。

 それからもう一つ、これは法科大学院のスキームをつくるということも重要ですけれども、我々検討会議での雑談の場も含めて話しておりますのは、やはりそのために司法試験の問題とか、そういうレベルのこともありますけれども、やはり教材をきちっと作るとか、あるいは教材を作る際の基本的な考え方をもう少しリファインするとか、そういう細かいことを一つひとつ多方面から積み重ねていく必要があるのだということがありまして、そういうプロセス自体がまた、社会に一つの波紋を投げ掛けて、それなりに共感する方々が別のいろいろな場でそういうことを実験、試行していただけるのではないかと、そういうふうに考えております。

【中坊委員】先ほどからもう既に出ていることではありますけれども、結局、法科大学院の在り方というのは、まさに新司法試験の在り方というものによってほとんど決定的な影響を受けてくるだろうということですね。

 その意味では、この検討会議の議論においても、新司法試験の在り方というのは、それほど直接の論点ではなかったかもしれないけれども、少なくとも新司法試験というものが従来のような一種の選抜試験、いわゆる定数を決めて合格率が今みたいな状態になるようなこととは逆に、一種の資格試験だというふうなことが当然の前提となって、この検討会議の最終報告では、それが一つの望ましい形だということでお考えいただいた結論ではないかと思うんですけれども、そうではないですか。

【伊藤氏】ただ今の御指摘は、「まとめ」で申しますと、15ページから16ページ辺りのところに関係するかと思います。例えば、16ページの一番上の段落の3行目のところに、「法科大学院の教育内容を十分に修得したと認められる者には、広く司法(実務)修習を受ける機会を与えるべきであり、司法(実務)修習の受入体制が司法試験合格者数の上限を画する結果となることを避けるべきである」という、まさにこういったお考えかと思います。ここは意見もあったということで、少数意見という取り扱いをしているわけでございますが、こういう表現を取るか、あるいは資格試験であることをはっきりさせるという言い方をするか、その辺りについては意見が分かれているわけでございますが、むしろ私どもの原則的な立場というのは、その前の15ページの下から4行目辺りでございまして、「新司法試験は法科大学院の教育内容を踏まえたものとし、かつ、十分にその教育内容を修得した法科大学院の修了者又は修了予定者に司法(実務)修習を施せば、法曹としての活動を始めることが許される程度の」力を備えているかどうかの判定をする、ここは一致した考え方でございますので、この辺りの趣旨を御理解いただければよろしいのではないかと思います。

【石井委員】先ほどからのお話で、法科大学院修了者と、法科大学院を出ないでも司法試験の受験資格を認めるという2つの件につきましては、同じ資格を取るという意味では、一般の博士号と同じように、論文博士と博士課程を経て博士になるということに関しては、現時点ではどうなっているか知りませんが、かつて私が学生の頃はそのようになっておりまして、それが全く支障なく平行して行われておりましたので、特に問題はないのではないかという気がしております。

 それから、教育と研究の話も出ていましたが、私は法学部の教育を受けていないので、こんなことを申し上げるのがいいのかどうかわかりませんが、少なくとも私の知っている限り、工科系の先生は、どうしても研究を優先に考えてしまうものですから、教育にいまひとつ力が入らない。これは私がアメリカ留学中に、アメリカの先生が教育自体に大変力を入れておられて、それが日本の先生と随分違うなということを肌で感じたところであります。

 そういう意味で、教育ということをかなり重要視して考えていただくようなプロフェッショナル・スクールを新しく作るという発想で、是非新しいロースクールをお作りいただきたいというのが私の希望するところであります。

 それから、経済界といたしまして、今非常に困っていることは、国際的な意味で外国の弁護士と対等にやっていける日本の弁護士さんが少ないということなんであります。そういうことを考えて、国際関係科目を特に勉強するE群のところでそれをカバーされようとしておられるのかどうかわかりませんが、例えば、在学中に外国のロースクールにある期間行くことを義務付けるとか、それがお金の問題があって難しいということであれば、向こうのロースクールの先生を呼んできて、国際関係科目を英語の授業で実施することを検討したらどうかと思っております。いずれにいたしましても、国際的に活動できる弁護士を大急ぎで養成することがどうしても必要なので、明治初期に外国人の先生を高給を払って連れてきたのと同じような発想でやらないと間に合わないのではないかという気がします。

 それから、明治の初期と違うのは、今では外国人の先生の方がかえって給料が安いかもしれませんので、あの当時に比べてずっとそういう意味では可能性が強いのではないかという気がしております。その辺について、もう少し国際的な意味でどういうふうにお考えになっていらっしゃるのか、御教示いただけましたら、ありがたいのですが。

【小島氏】石井委員が御指摘のところは、一つの重要な要素であると重く考えておりまして、その意味で法科大学院は直接今、それほど大きな項目的展開はございませんけれども、この中で既に科目編成において国際関係科目ということも重視されておりますし、その中で専門分化が将来より容易になるであろうということは一般的に言えるかと思います。

 ただ、もう少し具体的なことを申し上げますと、外国法事務弁護士の制度が1986年に日本で初めて設けられまして、その後何度かの改正を経て、相当開放的なものになっております。しかし、世界的に見ますと、この開放度はどんどん進んでいくという傾向がございます。そういう中で、各国の弁護士がグローバルな土俵で競い合うという体制になってきておりますから、どれだけ良質の、そして国際的対応力を持った法律家を育て上げることができるかが、いろいろな意味で国民の福利と関わる重要な事項になっているのではないかと思います。

 そういうことで昨日、ちょうどベルギーの高名な法律家の講演を聞いたんですけれども、その中で、基本的にはデモクラシーの国のアメリカの法学教育はメリトクラシーであり、それに対してヨーロッパの教育というのはデモクラシーであって、そこに皮肉な交錯が見られる。これはスタンフォード大学教授の指摘ですけれども。そういう中でヨーロッパにも今、従来の、誰でも入れて平等主義的に教育するということでは、新しい複雑なグローバルな世界での法律問題に対処できないということで、基本的な方向転換をする動きがあり、ヨーロッパに幾つか一流の大学を作っていかなければならない、力のある法律家を生み出せるようなものをつくっていかなければならないというのは、各国の一つの認識となりつつある。そこに、EUの登場の中で、大きな歴史的な変革が起こり、北米と西欧と両方に大きな変化が起きている。やはり我が国がそういう状態について安閑としていられないという国際的な状況が非常にあるのではないかということを痛感し、それもこの法科大学院創設の一つの重要な意義ではないかと思います。

 御指摘の点は、法科大学院と十分に内的な関連性があるのではないかということを申し上げさせていただきました。

【井上委員】そういう点も含めて議論はされてきたのですけれども、発足に当たって骨格を決めるときに考えないといけないのは、最低こういうものは盛り込まないといけないということでして、それらの点を中心にこの報告書は成り立っていると思うのです。その上で、この報告書に書いているように、各法科大学院の創意と工夫で自由にカリキュラムを組み、特色を発揮してもらう。

 その際、国際関係なども、ある法科大学院は、うちはこれを重点にやりますとして、言葉は悪いんですけれども、売り物にしていく。そういうことで、競い合って伸びていくべきものでして、必ず外国に1年やらないとロースクールを卒業できませんよといった制度設計は、ちょっと現実的ではない。そういう仕分けになっているということです。

 この枠組みの中でも、おっしゃったようなことがこれからどんどん出てくるだろうと思うのです。それはそれで大いにやっていただきたい。そういう考え方によっているように思います。

【石井委員】そうなってほしいですね。

【佐藤会長】4時までと言いましたが、既にそれをオーバーしましたので、北村委員と、それから代理の御質問で終わりたいと思います。では、北村委員どうぞ。

【北村委員】先ほどの、教育と研究についての発言で、ちょっと誤解を生じさせてしまったのかと思うんですが、お答えの中に教育の中で研究が必要であると、そういう形で使われているんだったら、それでいいと思います。

 ただ、実務教育について、研究をしない教育というのはちょっと無理だなと思っただけですので、それを申し上げたわけです。それだけです。

【竹下会長代理】確認なのですが、先ほども法科大学院の設置認可の問題と、それから第三者評価機構の権限の問題と言いますか、どこまで第三者評価機構が日本の法曹養成制度の質を高める役割を担うかということに関連する問題なのですが、基本的にこういう第三者評価機構というものを設けて、恒常的に法科大学院の質の向上を図っていこうという方向は大変結構で、私も大賛成です。ただ、先ほどのお話で、認可についてはこれは学校教育法上の大学院ということになれば、文部省になりますね。そこで文部省が認可するに当たってどういう機構の意見を参考とするかという問題はあると思うのですが、権限の問題としては、設置認可は文部省ということになるのではないか。第三者評価機構の方は、設置された法科大学院の教育内容とか教員組織の在り方とか、そういうことについて評価をしていくと、大きく分ければそういう分担なのだろうと思うのです。ところが、15ページのところ、第三者評価と設置認可及び司法試験の受験資格に関する項の最後のパラグラフなのですが、ここでは「望ましい」ということなのですけれども、この機構によって認定された法科大学院を修了することを司法試験の受験資格とするということになっています。法科大学院がせっかく作られて、そこで勉強はしたのだけれども、その大学院全体が言わば資格のない大学院と決められてしまう。これは実質的には設置認可を取り消されたのにも等しいことになってしまうのではないか。確かに、受験勉強に焦点を絞ったような教育をする法科大学院ができたときに、それでは困るというのでこういう発想が出てきたのかと思うのですが、制度の在り方から言うと、ここまで行くのはどうも行き過ぎなのではないかという気がいたします。そこら辺りはそういうことが「望ましい」というのが検討会議の御意見であって、それほど確定したものではない。これは少し幅広く考えてよい。そういう理解でよろしいのでしょうか。

【田中氏】今の点は、検討会議でも吉岡委員から指摘されて問題になったんですけれども、設置認可を従来どおりの仕組みでやるとすると、一旦設置認可すると、後のフォローは今のところしないわけですね。そうすると、設置認可のときには、こういうスタッフでこうやりますということで基準を満たしていたけれども、実際にはそれが空洞化してしまうということもあり得るので、そのようなことがないようにするためには、継続的に評価して一定レベルを確保する必要があるということからそういう形になったわけです。ただ、入学したけれども、2年、3年のうちに自分のところは受験資格がなくなったという問題が生じるのですが、それは例えば認証取り消しをする場合でも、まず改善の指示をするとかいう形で何年か予告期間を置くとかいう実務的な措置で対応できるんじゃないかと思います。

【竹下会長代理】伝家の宝刀的なものになるのだろうとは思うのですけれども、何か個々の学生の方から言うと、自分の学力ではなくて、大学院の性格で、せっかく3年間学んだのに、そもそも受験資格がないということになってしまうのは、余り合理的でないように思うのです。

【田中氏】これは主として法科大学院の質を維持するということを目的とした仕組みで、今、竹下先生がおっしゃったようなことは、吉岡委員からも指摘されて、それはいろんな対応策を考える必要があるという前提でのものでございまして、そういう問題点は十分認識した上でのことでございます。

【佐藤会長】そういうことも考えておかないと、しり抜けになってしまう。

【田中氏】しり抜けになったら具合が悪いということは確かです。

【髙木委員】厳しくしたら、塾はなくなりますか。先ほど田中先生はお考えの上でと、それはそのとおりだと思うんです。座長もそういうふうにいろいろ説いていただいて、そのとおりだと思うんですが、厳しくして、質を言えば必ずその質を担保するためということになります。それをさっき言ったように教えることを一生懸命やっていただくという覚悟でやられるということですから。私は予備校イコール悪いことだと思わない面もあるものですからね。

【田中氏】その点について、私は髙木委員のおっしゃることにそう反対ではないんです。法科大学院の講義がメインである限り、それに余裕を持ってそれについていける人もあれば、ついていけない人もあるわけで、そういう人が実際どういう勉強の仕方をするかというのは自由でして、今の医学部でも、小規模なものですが塾があるわけですし、ドイツみたいな仕組みでも、やはり塾はあるわけです。法科大学院の教育をベースにした上での補完的な塾というものである限り、塾が原則として悪いというふうに私は考えていないんです。いろんな規模の塾があって、それが補完的な役割を果たすことは否定できないと思います。私は、個人的には、大学と塾とをそれほど対抗的なものとは考えていないんです。

【佐藤会長】アメリカでも塾が多いと言っていましたね。

【田中氏】ロースクールが終わった後で、各州の法曹試験の前に行くわけです。

【鳥居委員】一般には、私はハーバードでびっくりしましたけれども、ゴリラみたいなやつがげっそりやせるほど勉強します。ロースクールの勉強だけでへとへとになっています。

【井上委員】恐らく法科大学院のカリキュラムの組み方の問題なんですけれども、本当に力を入れてやれば、授業に出ているだけで余り時間的余裕がなくなってしまうんじゃないかと思うんです。

【鳥居委員】ハーバード流は多分実現しないだろうと。

【佐藤会長】予定より20分もオーバーしてしまいましたけれど、以上で今日の御説明及び質疑応答は終わりたいと思います。長時間にわたりまして、申し訳ありませんでした。

 どうもありがとうございました。

(小島氏、伊藤氏、田中氏退室)

【佐藤会長】それでは、次に「弁護士の在り方」に関するとりまとめペーパーについて御意見をいただいて、できれば御了解をいただきたいと思います。とりまとめペーパーの作成につきましては、担当の中坊委員、石井委員、吉岡委員及び北村委員にいろいろ御苦労いただきまして、本当にありがとうございました。

 このとりまとめペーパーにつきまして、委員の皆様には既にお送りしてお目を通していただいていると思いますけれども、本日お手元に同じものを配付しております。これを御覧になりながら、御意見をいただければと思います。どなたからでも結構でございます。最初、中坊委員の方から何かありますか。

【中坊委員】一応説明するということになっていたんです。要りませんか。

【佐藤会長】それでは、ごく簡単に。

【中坊委員】ちょっと時間が掛かるかもしれませんけれども。まず、本日のこのペーパーは中間報告に向けて、「弁護士の在り方」に関する今までの審議をとりまとめたものです。一応レポーター役として、石井委員、吉岡委員、それから北村委員が隣接業種の関係において入っていただいて、それで私も参画してできたものであります。

 念のために、過去我々がどういうふうに審議してきたかということが一番最初のところに書かれております。すなわち、今年の2月8日の第12回審議会で私がまず弁護士改革に関する総論の部分のレポートをしました。その次の第13回審議会のときのレポートで各論に触れまして、それから今年の7月7日には、隣接業種とのヒアリングの中でこの問題がまた審議されました。そして、4回目に、8月8日の夏期の集中審議の際にレポーター役として、特に利用する立場から石井委員と吉岡委員から、また、隣接業種の関係において北村委員から御報告があり、更に8月29日に弁護士改革についての日弁連会長のヒアリングを終え、そして、最後に6回目として9月1日に会長の方から、口頭ではありましたけれども、大筋の意見を言っていただきました。

 私といたしましては、一応この文案をとりまとめる責任者ということで、事務局の方と一緒になりまして、原案をつくりました。その部分に関しまして、先ほど言うレポーター役の委員に御意見を承りまして、最終的にはそれぞれ意見がありまして、石井委員と吉岡委員と私と事務局で10月3日に集まり、そして、北村委員の分も文書でいただいて審議し、更に北村委員には事務局の方から御了解を得てもらって、一応利用する立場としての石井、吉岡委員、隣接業種を担当していただいている北村委員の方からの意見もまとめたものが、今回のこのとりまとめ案であります。

 これを見ていただいておわかりいただけますよう、本日のこのとりまとめ案というのは、第1と第2の2つから成り立っております。すなわち、1ページから書かれております「弁護士制度改革の基本理念」、言わば総論の部分と、2ページ以下8ページまでにわたって書かれております「弁護士制度改革各論」という各論の部分の2つから成り立っておりまして、1ページの方に弁護士制度改革の位置づけと弁護士の役割、また、改革の基本理念について触れておるところであります。2ページ以下の各論のところでは、人的側面と制度的側面とに大きく2つに分かれておりまして、人的側面の方では、特に弁護士の質的・量的な抜本的な拡充、あるいは公益性の責務をどうやって実践的なものにしていくかということ。あるいは隣接業種との関係等についてここにうたわれております。制度改革の方では、アクセスの拡充、それについての弁護士倫理、それを守るための弁護士自治の強化といったようなことがここにレポートとしてまとめられているものであります。

 以上で説明は終わらせていただきます。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。

【水原委員】今、中坊委員から基本的な考え方をお聞かせいただきました。また、あらかじめ頂戴いたしておりましたので、読ませていただきまして、多岐にわたって何回もの審議を経た結果だけに非常によく書いていただいているなというのが率直な感想でございます。

 ただ、一点気になるところがございますが、それは先ほども中坊委員がおっしゃった弁護士制度改革の制度的側面のところの8ページでございますが、「弁護士自治と倫理の強化」のところの、殊に⑥が気になります。その理由をこれから申し上げます。

 ここでは「弁護士会は、綱紀・懲戒手続の一層の透明化・迅速化・実効化のためにこれら制度及び運用の見直しを行うこと」と書いておられます。弁護士改革につきまして、弁護士会が中心的な役割を果たしていただくことは当然のことでございまして、しかしながら、必要な措置を取るべき主体は必ずしも弁護士会だけではない場面が出てくるだろうという気がいたします。

 例えば石井委員が8月8日付のレポートで指摘されましたし、髙木委員も8月29日の審議会で発言されたところですけれども、懲戒処分の問題でございます。弁護士会が懲戒処分を行わなかった場合に、懲戒請求者が裁判所の司法審査を受けられるようにするといった方策は、これは弁護士法の改正が必要でございます。この問題は、随分何回にもわたって意見交換がなされておりました。それですので、ここで「弁護士会は」となりますと、法改正が必要になり、弁護士会だけではできないという問題がございますので、このところがちょっと引っ掛かります。弁護士自治の問題でございますので、自治を強く言われたならば、弁護士会のことは自分たちに任せておけということかもわかりませんが、やはり懲戒の問題、法律改正の問題となりますと、ここの主語がちょっと気になるなという気がいたします。

 それから、これは吉岡委員もレポートの中で指摘されておりましたけれども、懲戒手続への国民の参加について、石井委員もレポートの中で指摘されておりましたし、私も発言させていただきましたが、「綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化・実効化」という表現だけでは、懲戒請求者の不服申立ての在り方を見直したり、そして、一層公平な制度にすることや、国民の参加がどういう形でなされるのかということが、その3つの項目だけでは読み取れないんじゃなかろうか。御議論をおまとめいただいた中坊委員初め皆さん方のお考え方は、いや、決してそんな趣旨で書いているんじゃないということはよくわかりますけれども、読み方によっては読み取れないという気がいたしますので、「綱紀・懲戒手続をさらに国民に信頼されるものにするとともに、その一層の透明化・迅速化・実効化を図るため、国民の参加を拡大する方向で懲戒請求者の不服申立ての在り方を含め、これらの制度及び運用の見直しを行う」というふうにでもはっきりとしておいた方がいいのではなかろうかという気がいたします。その一点でございます。

 もう一点は表題の「2 弁護士自治と倫理の強化」の問題でございます。弁護士自治は当然尊重されなければならないと私は考えております。しかし、弁護士自治の強化が目的ではなくて、目的は弁護士倫理を確立して、国民が迷惑を受けないようにすることにあるわけでございますので、弁護士自治の強化が弁護士以外の者は口を出すなという意味に取られては困るわけでございます。そういうことをお考えになっていらっしゃらないことはよくわかりますが、取られ方としてはそういうふうな取られ方をする恐れがあるのではないかという意味で申し上げたわけでございます。

 そうしますと、見出しは「弁護士倫理の確立」というふうにまとめられたらいかがかなというふうに感じました。

 意見として申し上げさせていただきました。

【中坊委員】今の水原さんのおっしゃっていただいたことにつきましては、当初申し上げしたように中間報告の前の一応の中間的なとりまとめでありまして、今おっしゃる意見等について、どう具体化させるかということは、まさに中間報告を受けてから最終意見までの間に、煮詰まることか煮詰まらないことか、いろいろ議論を重ねていくべきことではないかというふうに思って、現在までのとりまとめとして、一致しているのはどこまでかというところで書いた文章がこれだということであります。

 その点に関しまして、まさにこの①から⑥に至る前に、おわかりいただきますように、弁護士の倫理に関するいろいろな教育であるとか苦情処理であるとか、あるいは懲戒に関する手続など、質の確保・向上に係る弁護士会の諸権能の行使の在り方については、これらの制度の自律的運営の厳正さとその実効性およびこれに対する国民の信頼を確立・強化し、手続の透明化、国民に対するアカウンタビリティの実行、それらの運営・運用への国民の参加などというものを、特に委員の間で意見がありまして、国民の参加などというものがさらに入れられまして、このようなとりまとめの案になっておりますので、水原委員のおっしゃられることは一応書かれておるわけであります。

 同時に、今おっしゃるように、そこをもっと深く書こうといたしますと、明らかに弁護士の自治というものに対する、水原委員の、特に刑事司法を中心としての検察の立場というものと、国家権力に対抗する意味における弁護士の立場というのは明らかに違うわけでありまして、そこが私個人の意見としては、特に弁護士として長年勤めてきた者としては、到底今水原さんのおっしゃるような、国民の名において、国家権力の名において、弁護士自治を侵すということになりかねないということが過去の歴史の中であるわけであります。その点は必ずしも今おっしゃるように、それは水原委員の意見としては承りますけれども、今、その分について、少なくとも私は委員として、その点について了解はいたしかねるわけであります。

 そういう意味では、今、水原さんのおっしゃる意見は、意見としては承るし、また、言われたい趣旨、あるいは全委員としてのおおむねの了解に達した点については、先ほど言いますように、この①から⑥というのはその前提を踏まえて読むことになるわけですから、その文案の中に入れられておるというふうに御理解いただきたいと、このように思うわけです。

【水原委員】私が申し上げているのはそういうことではございませんで、弁護士自治、これは当然のことでございます。それは当然のことでございますけれども、ここに言うような綱紀・懲戒手続の問題については、今までも議論が再三出ておりますように、双方向性というものが確保・担保されておりません。そこで、双方向性を担保するために、懲戒請求権者について不服の申立てを制度化すべきであるという議論がここで相当なされました。そうなりますと、それは法律改正の問題でございますので、弁護士会がこういう一層の透明化・迅速化・実効化のために諸制度を見直すというのは当然ではございますけれども、こういう懲戒制度の問題に関しては、やはり法改正が必要なので、弁護士会を主語に持ってくるのはいかがなものでございましょうかということでございます。

【中坊委員】それは水原委員ね、いささか誤解されておるんでありまして、まさに弁護士会がする懲戒処分というのは行政処分なんです。行政処分の一種でありまして、それがゆえに、弁護士会の役員もすべてその意味においては公務員として扱われておるわけです。

 そして、行政処分というものについては、その処分を受けた者が不服の申立てができるというのが行政の大原則になっているわけです。そうしたら、行政処分である懲戒処分を受けた弁護士が、そのことに対して不服申立てをできるというのが、行政処分そのものの大原則なわけです。だから、今水原委員が言うたみたいに、そこだけ弁護士法を直したからという問題ではなしに、法体系そのものの中において、行政処分を受けたときには、処分を受けた者が不服申立てができる。だから、行政処分である弁護士に対する懲戒処分が行われれば、その懲戒処分を受けた弁護士がそれについて不服申立てをできるというのが、行政訴訟というか、行政の全体の仕組みなんです。

 だから、弁護士法だけ、そこだけちょこっと直すということには到底いかないんで、しかも今おっしゃるように、行政訴訟と我々の司法制度改革をどうもっていくかということは、確かに行政訴訟そのものについて、我々は一体どのように考えるのかということは、今後の大きな一つの問題であり、あるいは水原委員のようになるのかならないか、それはほかの行政処分等を見て考えなければいけないことであって、中間報告にはそこまで入れないということです。それは今後入ることでしてね。それは今言う、弁護士会のしている懲戒処分というのも、その意味における行政処分だという性格をきちっと御理解いただかないと、今おっしゃるように、弁護士法だけを直すというわけにはいかないわけです。

【水原委員】私が申し上げるのは、そういうことについては、弁護士法の改正を考えなければいけませんよということを申し上げているんであって、その問題については、既にいろいろここで双方向性が担保されていないじゃないかという議論がなされたものですから、中間報告というのはあくまで、今までの審議の内容を表に出すわけでございますので、だから、国民に問うための誤りのないような問い方をしておかないと困りますというのが私の主張です。

【中坊委員】違いますから。

【水原委員】もうこれでやめます。

【中坊委員】だけどね、水原委員の言うように、一致した意見をとりまとめて、まさにレポーター役になった者がみんなで一致した意見を書いておるわけで、今、あんたの言うことを全く審議しないとか、これからだと言うてるわけでないし、また、今までの弁護士会の自治の権能の行使の仕方について、やはり国民の参加というのが必要なんだと言っているわけです。だからそれについては、どういう角度でどういうふうに入っていくかということについては、今後触れていくわけですからね。水原さん、あんたその点はちゃんとこの中に書いてあるんや、もうここで。だから、そんなに心配しはらんでもええ。

【藤田委員】官との関係で弁護士会の自治ということになるとかなり問題はあるんでしょうけれども、国民の司法参加の一環として、裁判所の運営とか人事とかに国民の参加を求める、あるいは透明化を求めるという議論があったわけで、弁護士会の関係でも懲戒のことを水原委員はおっしゃいましたけれども、懲戒だけではなくて、登録なども含めた弁護士会の運営については、一般国民の関与、参加、さらに透明化を求めるという議論をかなりやっているわけですから、官との関係は別として、国民が弁護士会の運営にある程度関与していく、それによって透明化をするということ自体はよろしいんじゃないかなという気がいたします。

【中坊委員】だから、今あんたの言わはるように。

【藤田委員】もう一つなんですが、4ページの「弁護士と隣接法律専門職種との関係・企業法務などとの関係」なんですけれども、隣接法律専門職種については、北村委員がレポートされまして、かなり議論がされたわけです。そこで、ここに「短期的な問題」と「中・長期的な問題」というような記載がありますが、視点の違いは別として、北村委員のお考えで、短期的に例えば隣接法律専門職種に何らかの権限を与えたときに、中・長期的に弁護士なり法律専門家の在り方ということで再検討して、一旦与えた権限を取り上げるというのは難しいのではないかというお話があって、それはそうでしょうという議論もあったと記憶しています。単にこの記載だけを読みますと、短期的と中・長期的でそれぞれ切り離して、短期的にはある措置を考える。中・長期的にはそれを白紙に戻して考え直すという受け取り方をされないかなという気がちょっとしたものですから、その2点を申し上げたいんです。

【中坊委員】まず1点の方は、先ほどの水原さんに対する答えと同じことで、先ほど言うように、弁護士会の運営の在り方については、運営への国民の参加など、国民の意思の反映等の要請に応えるための所要の改革に取り組まなければならないと書かれておるところでありまして、そういう形での方向性が打ち出されておるものというふうに理解していただければいいのではないか。そういうふうに思います。

 第2点につきましては、確かに今おっしゃるように、弁護士と隣接業種との関係につきましては、まさにここに書かれておるようでありまして、今言うような弁護士制度、あるいは法曹養成そのものがどのように変わっていくかということの関連性の中において、基本的に考えなければならない問題でありまして、その意味ではそういうものがこれから具体的に、今言うようにロースクール問題が本当にでき上がって、そして数多い法曹が生まれてきたときに、その活動領域は一体どこへ行くのかということになってまいりますと、改めて隣接業種そのものとの問題が、今おっしゃるように、当然にまた発生してくる問題ではないか。そこまでまいりますと、まさに隣接業種というものが、ここにも書かれておるように、各隣接専門職を個別的にとらえて、業務内容の実情であるとか、専門性、あるいは固有の地域的な配置状況、それから固有の職務とどのように関連してきたか。そこまでまいりますと、この間も税理士さんの問題でも出ていましたように、監督権を持つのが国税庁であって、それに対して本当にそういうもので十分できるのかどうかという非常に税理士制度そのものにも、将来は関係するかもしれない。

 そういう中でいずれはロースクールという問題は数多い、層の厚い法曹が生まれてくることによって、そこがもう一度見直されてくるということは、この間、我々が一応到達した結論としてうたわれているところであります。

 それでは、それはなくなるよとか、なくならないとか、あるいはこのような形になる、ならないということは、今まさにおっしゃるように、ここまではまだ決めかねておるということであって、最終意見においても、そこまで我々が触れ得るものかどうかは、ロースクールが今日の議論にあったように、まさにどういう形でどう出発するのか、3,000人になるという日が具体的にいつになるのか、まだわからない状況ですから、恐らくその点は、今度は逆に最終意見になっても、恐らく表現はこの程度でしかできないのではないか。こういうふうに我々は到達しているんじゃないか、こう思っているわけです。

【藤田委員】理念論として反対しているわけじゃなくて、端的に申し上げると、例えばいろいろ隣接法律専門職種に訴訟代理権を与えるとか、補佐人にとどめるべきだとかいろんな意見が出ていますけれども、それを短期的な問題と中・長期的な問題という言い方をすると、端的に言えば、短期的なものを時限立法でやるという誤解を受けはせんかということで申し上げているんです。

【中坊委員】そういう意味ではありません。

【佐藤会長】そういう意味ではないということをこの際表現されては。

【中坊委員】既にその点については、本当に議論は具体化しておって、例えば司法書士さんに関しては補佐人であるとか、そういうものが出ておるわけです。それは現在の制度の中で運用でできるのか、あるいは法改正が必要なのかわかりません。しかし、いずれにしても、そういう問題が出ているし、それはまた、こう言っては悪いけれども、我々の審議会と別にまた弁護士会が、その意味で納得されて、そういう法改正になるのかもしれないし、我々としては、いずれにしても、そういう場合は、場合によったら今、藤田さんのおっしゃるように、最終意見では触れられていく問題かもしれません。そのときには、いつまでの時限立法になるんだとかいうようなことは必ずしも想定していないんで、これはまさに最終意見までに、決まってきた内容等を煮詰めた形の中で決められるべきことではないかと思っているわけです。

【藤田委員】それでいいんですけれども、そういう時限立法みたいな誤解を生じないかということを心配しているだけなんです。

【中坊委員】余り心配しないでも大丈夫です。

【山本委員】私もその辺疑問があったんですが、今の中坊先生のそういう態度なら異論はございません。

 ただ、これは個人の考えですけれども、そういった状態が続いて、本格的な3,000人体制ができた暁に、ではどうなるのかというのは私の個人的な意見としては、競争で淘汰というのはおかしいんですけれども、落ち着くところに落ち着かせるのが一番いいんじゃないかというのが私の意見です。

 そういう意味では、レジュメの中で、これは非常によく書かれているんですけれども、「弁護士制度改革の理念」全体を通してみますと、公益性とか、そういう側面が非常に強調されておりますが、今度の弁護士へのアクセスの強化、例えば費用の透明化でございますとか、あるいは広告の解禁でございますとか、あるいはワンストップサービスのための総合事務所化とか共同事務所化という意味は、やはりユーザーの便に立ったいろんな仕事のやり方がこれから大いに求められていくということで、顧客へのサービスを競い、そういった中で質を向上させていくという、生き生きとした部分が少し弱いんじゃないかという感じがちょっとしておりまして、そういうところが一つ出ればいいなというのが1点です。

 もう1点は、水原先生が提起された問題なんですけれども、中坊先生がおっしゃるように、中身はこれからの議論だと思うんですが、少なくとも弁護士自治を今より強化するという議論はなかったような気がするんです。違いましょうか。私はそう思っているんです。自治の在り方をいろいろ改善したりする必要はあるけれども、弁護士自治そのものを強化するという議論は日弁連からも出なかったような気がするし、そういう意味ではこのタイトルについて、どこまで読むかわからないんですが、「弁護士自治と倫理の強化」となっていますね。これを読むと両方強化かもしれないと考えられるんです。そこのところは一つ配慮が要るんじゃないかという感じがいたしております。

【中坊委員】山本委員のおっしゃっていただいた、これから競争の中で淘汰されていくという点は、確かにそういう側面があるというのは事実だと思うんです。これは皆さんおおむね御異論なかったところだろうと思いますけれども、弁護士には、今、そのようなビジネス性において競争に勝つことが非常に改革の眼目になっているんだろうか、むしろ数が増えてきて、競争になって、アメリカのような訴訟社会になって、お金儲けのためにむしろ顧客をえじきにするというものが一方において危惧されているわけだし、それからまた、これは水原委員もおっしゃっているように、まさに今回も決してそういう意味では、ここの弁護士の役割の基本的なとらえ方として、頼もしい権利の守り手であるとともに、信頼を得る正義の担い手でなければいけないということをうたっているわけです。それはまさにビジネスで頼もしい権利の護り手になるけれども、目的のために、その目的もまたビジネスだ、金儲けだということになってくる危険性が、今一番弁護士には求められているし、特に水原委員がおっしゃるように、弁護士の公益的な刑事弁護におけるいろんな問題ということも確かに問題になっているわけですよ。だから、そういう意味における今言う信用し得る正義の担い手でなければならない。正義の概念というのはね。

 しかし、我々としては、その信頼し得る正義の担い手となるためには、頼もしい権利の護り手になることが前提なんだと。その上で初めて正義も実現できる。その意味においては、闘わない弁護士とか、すぐ和解を勧めるような弁護士では、実際は困るんで、どんなものに対しても、十分その意味では頼もしいものにならなければならない。

 しかし、その2つは決して対立している概念じゃなしに、むしろ2つは一緒のものとして、裏表として存在しないといけないということが、我々の今までの意見の集約ではなかったかというふうに思って、わざわざその2つ、頼もしい権利の護り手と、信頼し得る正義の担い手という言葉を使ってお話しさせていただいておると、こういうことで御理解いただきたいと思います。

 それから、2つ目の、私は別に「強化」という字にはそれほどこだわりません。これはたまたま両方とも強化という字で結んだら、倫理の強化ということになるから、自治も入れたんであって、強化という意味では余り私自身はこだわりません。

 今まで出てきた議論というし、また、今の国民の世論も、倫理の確立というか、それはどの社会でも不祥事は出ているんだけれども、特に弁護士については、さっきから言うように公益的な責務を負うものとして、やはり倫理が一層強化されないといけない。倫理が強化されるためには、自治というものがもっときっちり守られませんといけませんよという意味における「強化」なんです、これは。

 だから、別に「強化」という言葉が必ずしも適切でなければ、例えば「弁護士自治の向上」とか、何かほかの言葉でもいいかとは思いますけれども、要するに、言おうとするのは、弁護士の自治がちゃんと実効性のあるものとして、しかも透明性のあるものとして、その中においては先ほどまさに司法参加と同じように、国民の参加も得て、そこで一層強化されるという意味で、強化されないといけない。

【佐藤会長】こうしたらどうですか。「弁護士の倫理の強化と弁護士自治」。

【中坊委員】私はさほど言葉にはこだわりません。

【佐藤会長】それでいいですか。では、そうしましょう。

 先ほど来、水原委員から提起されている問題ですけれども、そういう強い意見があったことは皆さん認めておられることでして、それを排除するわけではないんですね。

【水原委員】今の問題ですけれども、刑事司法のときには、異論があるときは多くの場合、併記いたしました。こういう意見もあったという形で。まとめの中に、申し上げたことについてそういう形で併記ということは是非お願いしたいと思うんです。

【佐藤会長】そうすると、違う意見と言えるかどうか。排除していないというのが中坊委員の答えですね。水原委員が今おっしゃった御意見は、いろいろな人が主張され、非常に強い意見であったということは中坊委員も認めておられる。だから、それを排除するわけではないんですね。少数意見とかいうような類のものではないと思うんです。懲戒手続などに国民が参加することは。

【井上委員】水原先生がおっしゃりたいのは、懲戒手続の見直しは、弁護士会が中心になるのはそのとおりだけれども、弁護士だけの問題ではないよ、ということを含ませてほしいということでしょう。そういう意味では、中坊先生もこれから議論するとおっしゃっているので、そのこと、つまり、これで打ち止めじゃないよということが、どこかでわかればいいんじゃないでしょうか。

【中坊委員】まさに①から⑥に書かれておるのは、その前提の文章があって、それでここまでは決まりましたと書いてあるんだから、まさに前提の文章の中に、今言わはるように、国民の参加や国民の意思の反映など、みんな「など」が入っているけれども、要請に応えるためにこういうふうに取り組まなければならないと言っているんだから、一応今おっしゃるようなことは入っていると思いますが。

【井上委員】水原先生は恐らく、弁護士は取り組まなければならないというのはそうでしょうが、しかしそのことが弁護士会だけの問題にされているようなので気になる、という御意見なんじゃないですか。

【佐藤会長】弁護士会だけという趣旨ではないということですね。

【石井委員】中坊先生、今の一番大事なところをゴシック書きか何かになさったら、文章を変える必要がなくなってよろしいのではないでしょうか。

【佐藤会長】ここはそういう理解でどうでしょうか。中坊委員がおっしゃったように、およそ行政処分はと言われると難しい議論になってしまうので、そこはちょっと。

【中坊委員】でも、巷間はそこへ行くと思います。

【佐藤会長】そこを余り強調されるとちょっと難しくなってくるので、今日のまとめでは、それを排除するものではないという理解でどうでしょうか。そういう強い意見があったという前提ですね。

【井上委員】「弁護士会は」というのは、「少なくとも弁護士会は」という意味なのでしょうね。

【佐藤会長】そういう趣旨です。そういう理解でよろしいですか。

 では、一応文書は今のような前提で理解するとして、先ほどの競争の問題も、さっき中坊委員が説明されたような趣旨だということでいかがでしょうか。これはとりまとめのペーパーですので、中間報告に書くときは、どの辺りまで、どう書くのかという、ちょっと別の問題があるかと思います。それはそれとしてまた御相談することになると思いますので、一応とりまとめのペーパーとしてはこんなところでということでよろしゅうございますか。

(「はい」と声あり)

【佐藤会長】では、これは一応今日御了承いただいたことにします。ただ、先ほどのような理解を前提にしているということを確認しておきたいと思います。どうもありがとうございました。

 それでは、最後に中間報告に盛り込むべき事項について、お諮りしたいと思います。盛り込むべき内容につき、その項目案を今日ちょっと御審議いただきたいと思うわけであります。中間報告のとりまとめ方法等については、既に委員の皆さんから御意見をいただいた際にお話ししましたように、まず中間報告の項目案をお諮りするということになっておりましたので、私と会長代理で相談の上で項目案をつくらせていただいたということであります。

 その項目案につきましては、事務局から委員の皆様にお送りして、いろいろ御意見を伺わせていただきました。その結果は、今日お手元に配付されております「中間報告項目整理(案)に対する委員の主な意見」ということで、お示ししております。そういう御意見が寄せられたということであります。それも御覧になりながら、この項目案について少し御議論いただければと思います。

【山本委員】全部網羅されていて問題ないと思うんですが、「わかりやすい司法の実現というような項目を建てるべきではないか」という意見があり、私は賛成なんですが、これに関連して、最初のころに北村先生が言われたんだと思うんですけれども、法律が旧かなづかい、カタカナで書かれているものが多い。商法などはまだ総則が番頭とか手代とか、そういう言葉が使われている。そういった意味では民法とか商法とかいう基本法は、新かなづかいにして、もっとわかりやすいものにすべきでは。行政関係の法律などではものすごい他の法律や条文の引用があって、だれが読んでもわからないのがありますけれども、そこまで一気にやれるかどうかは別にして、少なくとも国民の経済活動、日常の権利関係に非常に大きな影響があるものについては、法律条文自体を分かりやすくするということも可及的速やかにやるべきではないかという感じがいたしております。大きな作業になるかと思いますので、そういった体制の整備とかいったことについても、確か議論があったと思いますが、必要だと考えております。

【北村委員】全く賛成です。

【竹下会長代理】今の点は、私も御指摘のとおりだと思います。法制審議会の方では、それぞれ商法についても民法についても、現代語化をするいう計画はあるのですけれども、他方では、緊急に取り組まなければならない課題もあり、とにかくあれだけ大きな法典ですから、なかなか既存の立法体制だけでは難しいと思うのです。ですから、おっしゃるように、この審議会で司法制度というものを非常に狭くとらえると別の問題ということになるのですけれども、結局、司法制度によって法の支配を実現することが終局の目的だとしますと、その法のルール自体が国民の理解しにくいものだというのでは矛盾ですから、基本法の整備ということをどこかに入れておく必要はあるだろうと思います。

【中坊委員】私もこの問題を言わせていただきたいんです。

 確かに今度の司法制度改革審議会の設置法の中に、「より利用しやすい」ということがうたわれておるのに、我々のこの中間報告の中に、この前まさに会長がおっしゃったように、プロの在り方を巡って、あるいは今日、山本委員のおっしゃるように、条文の在り方を巡って、要するにわかりやすいということが大命題としてあると思うんです。そういうことに関連する項目が一つの柱としてないと、我々が中間報告と言っても、大体のあらましがわかるのだから、その中からわかりやすいという、それはプロの在り方にも関係するし、今おっしゃるような条文に関係する。ありとあらゆる部分全部に我々の審議はそこへ一つの焦点があったということがわかるためには、一項目かその一つの視点を、少なくともこの項目の中に抜けているんで、それは私は入れるべきではないかという気がします。

 どこへ入れるかは、それはもうお任せしておきますが、どこへどう入れるかは整合性がある。とにかく入れるというところだけ入れてもらって、あとは整合性を考えないといけないと思います。

【佐藤会長】今の問題は、どこにどうするかは別として、こういう項目を立てるという趣旨ですね。その中に、民法、商法等の基本法制をわかりやすいように整備するということが入っている。

【中坊委員】まだ中間報告までちょっと時間がありますから、これからやればいいんですよ。やりもしないで項目だけ書いてもあきまへん。多少そういうのを入れて、ちょっとまとめてもらったらいい。

【佐藤会長】中間報告にはこういう項目を考える。その中には今の趣旨が入っている。これはそういうふうにしたいと思います。

【藤田委員】委員の意見の中で、「弁護士の在り方のイについて、弁護士制度の改革についてかなり議論を行っているので、小項目を付け加えるべきではないか」とあります。改革の視点と具体的方策の検討の方向性だけなんですが、次の裁判官制度の改革のところでは同じ文言が入って、ア、イ、ウと書いてあり、ちょっと見るとアンバランスという感じがありますから、どっちかに合わせる。小項目を付け加えるという御意見ですが、落とすかどっちかですけれども、ほかのところを見ると、議論したことが結構詳しく書いてあるんです。ですから、ほかとのバランスを取るすれば、この御意見のように小項目を付け加えることになるのかと思います。

 それから、先ほどの隣接法律専門職種との関係、かなり議論をしていろいろやったんですが、それが仮に入れるとすればどこへ入るのか。弁護士の在り方に入るのか。あるいは法的サービスの拡充強化というのは弁護士ですから、ここもア、イなんですけれども、もうちょっと詳しく小項目を付け加えるのか。少なくとも隣接法律専門職種はかなり重大な問題なんで、どこかで頭を出さないとおかしいかなという気がいたします。以上です。

【中坊委員】私も藤田さんの意見と大体同じようなことでして、弁護士改革というのは、先ほどの位置づけの中で言われたように、やはり法曹人口の問題あるいは法曹養成の問題の次に出てくる登山口ですから、もっと裁判官、検察官、もっと具体的なものになってこないといけないのじゃないかという気がします。

 そういう意味では、もうちょっと詳しく小項目を作っていただいて書き入れ、その中には隣接業種との関係が入っていてもいいんじゃないか。そういうものはやはりもっと上の方ではないけれど、下と言うとおかしいけれども、まさに登山口として出てくる項目ですから、弁護士改革に関することがもう少し、今日のとりまとめに書いてある必要がある。そのどれをここへ引っ張っていただけるかは、これはまた時間も掛かりますから、ひとつ会長、会長代理で決めていただいて、基本的に小項目の中に入れられるということは私もいいと思います。

【藤田委員】このところ、しばしば意見が一致しますね。

【中坊委員】また、余計なことを言うから。

【吉岡委員】おおまかな意見を議論しているところに細かく言って申し訳ないんですけれども、弁護士の在り方のところを私も担当したものですから、確かにこの2本だけというのは余りにもあっさりし過ぎているという視点で、もう一遍見直してみたんですが、イの手前に、これは裁判官の方とバランスを取るという意味もありますが、「当審議会の基本認識」、あるいは「司法制度改革における弁護士改革の位置づけ」、そういったものを入れて、アをイとして、イをウとする。柱としては3本にして、ウのところに少し細かく弁護士の在り方のところで項目を挙げた方が。睨まないで(笑)。

【中坊委員】睨んでへんがな、冴えているからびっくりしている、感心しているんだから。

【佐藤会長】ここのところはそういうように平仄を合わせるようにしましょう。よろしいですか。

【吉岡委員】細かなことは事務局の方に申し上げておきます。

【水原委員】平仄を合わせるという意味で言うならば、弁護士の在り方、それから裁判官制度の改革、これは中坊委員が、弁護士の在り方というのは、法曹の底辺で基本的なものなんだ、この弁護士改革をやらなけれぱいけないんだというのは、今年の春からずっと熱弁をふるってこられたところですので、はっきりと弁護士の在り方の改革とか、あるいは弁護士の在り方の見直しとか、そういうことをきちっと入れていただいた方が、中坊委員のおっしゃる御趣旨ははっきりと生きるのではないか。

 もう一つは、小柱の問題ですけれども、私は小柱を立てることがいいのかどうか、ちょっと迷っておりますが、仮に立てるとするならば、ここに抜けておったのは、今日は中坊委員はじめ、おまとめいただいた方からの報告がありましたので、その報告のない前にこの項目整理をするのはいかがかなということを会長、会長代理がお考えになったために、ここに出ておられなかったんだろうということではないでしょうか。それならば是非、そこはほかとの平仄を合わせる意味で挙げていただければと思います。その入れ方ですけれども、制度的基盤の充実の「ア 法的サービスの拡充・強化」、これは法的サービスということだけではなくて、「弁護士による法的サービス」と、そうはっきりしたことでどうでしょうか。

【吉岡委員】これは制度的基盤のところに。

【水原委員】いろいろなところへ「主として弁護士」ということを入れていただく。

【中坊委員】あんたな、私は真ん中辺に書いたように、それじゃ、弁護士と裁判官制度についてはちゃんと柱があって、同じに並べるというんであれば、何で検察官の在り方についてないのか。

【水原委員】そりゃそうです。

【中坊委員】よろしいでしょ。

【水原委員】だけれども、まだ議論していませんからね。議論していないのは中間報告に載せるわけにまいりません。

【中坊委員】まだ日があるでしょ。

【水原委員】それともう一点だけ。

【中坊委員】行政訴訟だって、何もこれからやることだけど書いてあります。だから、ちゃんと検察官についても書いておかないと、弁護士さんの方はより平仄を細かくしてこちらの在り方とか言うて、検察官はないんじゃ、平仄があわない。

【水原委員】今まで議論されておらないじゃないですか。

【佐藤会長】それはそうです。

【水原委員】それともう一つ。

【中坊委員】検察官を入れることはいいでしょ。

【佐藤会長】いや。

【水原委員】中間報告をどのような形なり、詳しさでとりまとめるのがいいのかということについて私の要望をちょっと申し上げさせていただきたいんです。

 中間報告が我々のこれまでの議論の経過や内容を正確に反映したものであるべきだということでございます。

 これは当たり前のこととは言え、非常に重要なことだと思います。限られた時間の中で、極めて多岐にわたる検討事項を審議して、節目、節目でとりまとめをしなければならない会長のお立場の御苦労は本当に大変なことだとお察ししますし、その御努力に敬意を表するものですけれども、ただ、これまでとりまとめられた事項については、時間の制約もございましたし、十分思いのたけを言い尽くしていない委員や、自分の意見がとりまとめの中によく反映されていないと感じられる向きも少なくないと、今までのいろんな御発言の中から感じがいたしました。

 ところで、審議をモニターで見ているマスコミや当審議会のホームページで議事録全文を見ていらっしゃる方々、これは審議の内容をよく知っていらっしゃいますけれども、国民の中ではむしろそれは少数だという感じがいたします。

 そこで、中間報告の内容が、今までの審議の内容、そして方向づけというものを表に出すという意味で言うならば、極めて内容は重要なことだという気がいたします。そうだとするならば、検討事項ごとに、大方の意見の一致を見たところは、とりまとめられた内容それ自体は動かないといたしましても、それに至るまでに闘わされた賛成、反対の意見や、有力な見解については、少なくとも適切に要約していただいたようなまとめ方をお願いいたしたいなというお願いでございます。

 一例を挙げれば、前回の司法参加のとりまとめにつきましても、時間が押し迫った中でとりまとめがなされましたのでありますけれども、それに至るまでにいろいろ述べられた意見もたくさんございました。それらの主な意見につきましては、適切に要約して審議経過の概要をも国民が理解できるようにしていただくようにお願いいたしたいなというのが私の切なるお願いでございます。

【中坊委員】今、水原さんの言われる趣旨はよくわかります。それだったら、全部の議事録重ねて読んでくださいとしか言いようがないんで、だから、要約というのは非常に難しいことだろうと思います。それだったら、さっき言いますように、せめて平等に扱って下さいくらいなことはいいとしても、とりまとめ、要約というのは非常に難しいと思いますから、これが非常に長文に渡れば、これはこれでまた一つの大きな欠陥が生まれてきます。水原さんのおっしゃっていることは、わかりはするけれども、同時に極めて難しい問題だということもわきまえた上で中間報告をしないと、今言うように、俺のやつは入っていないじゃないかと言い出したら、それはそれで非常に問題なんで、私らだって、現にとりまとめのときには今言うたように、いろいろ意見があっても、この2枚の紙にまとめているわけです。弁護士会の、いろいろあれだけ出た、私のを見ていただいたらわかるように、総論と各論で40ページくらいになります。それをわずか2枚にまとめているんだから、そういう過程の中の難しさを、まとめていただく方はされているということを、我々委員が理解して作っていくということが必要です。

【佐藤会長】とりまとめのペーパーをよく御覧になればお分かりのとおり、書き方にはいろいろあります。例えば、刑事司法などの場合はなかなか難しい書き方になっています。ですから、水原委員のおっしゃるお気持ちは本当によくわかります。では、あのスタイルで全部やるかというと、またいろいろ議論が出てくるでしょう。まとめ方の難しさということも同時に御理解いただきたいと思います。

 共通の理解としてまとめたことをはみ出して書くのはとんでもないことですけれども、できるだけ集約していく。そして、議論が煮詰まっていないところは、中間報告の段階では書けないこともあると思います。

【髙木委員】今の御議論、やはり具体的に書かなければならない点は、皆で議論していくしかないんだろうと思うんです。最初からこういう書き方はどうだというのをね。

 それから、内容について、この前御説明いただいたときに私気づかなかったんですが、裁判官制度の改革の経験の多様化という言葉は余り使っていない言葉なんで、ここは「給源の多様化、多元化」にしたらいかがでしょうか。それと判事補制度の改革というのは出ていますから、その辺の表現については、実際に議論した言葉を使った方がいいんじゃないかなと思います。

【佐藤会長】背景にはそういう考え方もあったと思いますけれども、言葉の使い方としてはちょっと考えさせてもらいます。

【井上委員】水原先生の話で、一番最後に出た司法参加の問題については、この間は記者会見用にある部分だけを要約されたんですけれども、今、関係委員の間でとりまとめペーパーを作成中で、そこを見ていただいた上でまた議論していただければ。

【水原委員】わかりました。

【井上委員】ついでで恐縮ですが、他の方が言われたのと同じようなことですけれども、検察審査会の問題は、確かに司法参加のところでも議論していただいたのですが、これはどちらか一方で重点を置いて書いていただければと思います。

【佐藤会長】そうですね。どっちがいいですかね。

【井上委員】その点はまた、具体的に検討していけばよろしいのではないかと思います。

 それと、「意見」の一番最初に出ていることで、どなたがおっしゃったのかよくわからないんですけれども、「新司法試験」及び、「新司法修習」については、「新」を取るべきじゃないかという点ですが、この点も御検討いただいておいた方がいいように思います。

【竹下会長代理】どういう方向で検討した方がよいのですか。

【井上委員】皆さんの御意見によると思います。「新」としますと、全く違うものというニュアンスが強く出過ぎるんじゃないか、という御趣旨だと思うのです。

【佐藤会長】見出しとしてこういう表現を使うのはどうかということですか。

【井上委員】実質として変容するとしても、司法試験は司法試験、司法修習は司法修習と書く。

【佐藤会長】中身で書けば。

【井上委員】そういう御趣旨かなと思うんですけれども。

【佐藤会長】では、ちょっと考えさせてください。

【中坊委員】私はどちらかと言えば「新」という字を使った方がいいと思う。現に検討会議の報告書には全部「新」と書いているからね。

【佐藤会長】中身の説明でそれが出ればよいのでは。

【中坊委員】というのは、私、井上さんの言うことに若干反論があるんです。

【井上委員】私が言っているわけじゃないですよ。

【中坊委員】私が言っていないというのじゃなく、この意見が出ていることについて意見が若干あるのは、今、我々の審議会というのは、国民から見守られておる、注目されておるわけです。そうしたら、何が出たのかということを、それこそさっきから言うように、国民にわかりやすく、我々の意見を発信していないといけない。発信するためにはどうかという意見、考え方が要ると思うんです。だから、我々の出す中間報告というのはまさに発信ですからね。しかも、わかりやすく我々の言うていることをアピールしないと国民の支持は得られないし、我々は国民からまさに選ばれているわけだから、国民に応えないといけないわけだから、今までとは違いますよ、ということをある程度鮮明に表していかないと意味がなくなるんじゃないか。

【佐藤会長】御趣旨はわかりますけれども、ここは「新たな法曹養成制度の構築」となっておって、法科大学院、これは新しいことですから。

【中坊委員】「新司法試験」と書いてありました。

【井上委員】検討会議の報告は、「新」という言葉を使ってはいないのです。それは、ここで審議すべき事項だということだろうと思われるものですから、その辺を含めて御検討いただければと存じます。

【藤田委員】今の話ですが、司法試験はまだいいとして、その次の「新司法(実務)修習」というのは、これはどう考えてもおかしいと思うんです。

【佐藤会長】では、そこは変えましょう。

【吉岡委員】最初に事務局からいただいていた「中間報告項目整理(案)」の2ページ目ですけれども、一つは「裁判所へのアクセスの拡充」の中へ入れてはどうかと思うのですが、民事法律扶助の充実、これは議論をしているので入れていただいた方がいいのではないかと思います。

 それから、イの(ア)のところで「利用者の費用負担の軽減」とあります。その「軽減」という文言に続けて、「と訴訟提起の促進」という文言を入れていただきたいと思います。

 それから、(ア)(イ)とありまして、そこで終わっているのですが、利用者の費用負担の軽減と裁判所の利便性の向上というだけではなくて、ここで懲罰賠償とかクラスアクションとか団体訴権とかいう話が出ていたはずなので、これを細かくなり過ぎてしまいますので、(ウ)として「その他」を入れる。

【山本委員】吉岡さん、「その他」はどこにもあるんじゃないですか。

【吉岡委員】ありますので、「(ウ)その他」と入れておいていただいた方が幅が出ますので、本当はこの細かい項目を入れたいんですけれども、それは遠慮いたしますので。

【竹下会長代理】今の「訴訟提起の促進」というのを付け加えられるように言われたのは、まさに懲罰的損害賠償などのことを指しておられるのかと思ったら、そうではないのですね。

【吉岡委員】敗訴者負担の費用の問題です。

【竹下会長代理】それはやはり「費用負担の軽減」の中に入っているのではないでしょうか。

【吉岡委員】ただ、敗訴者負担の場合に、要するに訴訟提起をしにくくするということはないように、ということを入れているんですよ。

【竹下会長代理】それは内容の問題ですから。

【佐藤会長】費用負担の軽減ですから。

【竹下会長代理】法律扶助もそのつもりなのですが、あるいは法律扶助については別立ての方がいいという御意見が多ければそのようにしますか。

【佐藤会長】それはそうかもしれませんね。

【井上委員】言葉の問題ですけれども、「訴訟提起の促進」というのは何か変です。「訴訟提起が困難にならない」とか、「提起が容易になる」とかいった言葉ならわかるんですけれども、しかし、訴訟をどんどん提起しろというふうに言うのも、何か変かなという気がします。

【佐藤会長】それでは、法律扶助のところは少し考えますか。

【竹下会長代理】ちょっと考えましょう。

【吉岡委員】それから、こちらの「主な意見」の中の下から4番目のところに予算の問題が入っております。司法改革を本当にやろうと思ったら、かなり思い切った予算措置がされないと、絵にかいた餅になってしまいますので、そういう意味では「司法予算の拡充」ということを是非入れていただきたいと思います。

【佐藤会長】ごもっともだと思います。どこに入れるか少し考えさせていただくことにいたします。

【吉岡委員】どこにというのはお任せしますけれども、大きな柱の一つとお考えいただければと思います。

【髙木委員】意見を聞いたとされているものについては、ここで言わんでもいいんですね。

【佐藤会長】おっしゃってください。

【髙木委員】労働事件のことを私申し上げたんで、よろしくお願いします。

【竹下会長代理】御承知のように、民事司法の中の専門訴訟の一つとして扱ったものですから、別立てになっていないのですが。

【髙木委員】法務省の人は専門訴訟じゃないと言ったものだから。

【竹下会長代理】いわゆる知的財産権とか医療訴訟とは少し性格が違いますので、別立ての方がよろしいという皆さんの御意見であれば、そうしましょうか。

【佐藤会長】そうですね。行政訴訟や司法のチェックと同じような項目としてですね。議論はしましたけれども、本格的にまだやってませんね。

【髙木委員】ちょっと入れていただくだけで結構です。これから議論していただくことだと思っていますので。

【竹下会長代理】そのつもりでいます。

【中坊委員】議論していないからここに載せたらいかんのだということにはならない。全体として、いわゆる中間報告と言いながら、大方骨組が出てくるんだから、骨組は骨組としてお考えいただかないと、行政訴訟だって、正直言って何も触れていないんだけれども、ここで触れないというわけにいかない。さっきの検察官の問題だって同じことだと思っています。ちゃんと触れなければいけないものには触れるということにしないと、さっきから言うように、中間報告で抜けているじゃないかと言われたときに問題が起きてくるということも考えなければいかんと思います。

【竹下会長代理】おっしゃるとおりだと思います。行政訴訟や労働訴訟はこれから議論しようということについて大体コンセンサスがある問題ですから、それは載せた方がよいと思います。検察官の問題はちょっとそれとは違うのではないでしょうか。

【佐藤会長】それを議論すべきだというのは、出てなかったんですよ。

【井上委員】美学の問題は別にして、一応これまでも、検察庁の人的体制の問題や、具体的に刑事司法のところの「起訴独占の在り方」、「訴追裁量権の在り方」の2つで、ある程度カバーできているのです。それとは独立に検察官の在り方というのを議論するということになっていなかったものですから、そこは皆でそうしようということでしたならば、また、新たに時間を設けないといけない、そのように思うのです。

【中坊委員】ちょっと長くなるかもしれないけれども、検察官という立場は非常にこの司法の中では難しい位置づけだろうと思うんです。これは前回も言うていたように、刑事司法の審議のときに、警察を呼ばないとまだわからないじゃないかと言ったけれども、それはもうちょっと先ということにあれしていますけれども。

 要するに、検察官というのは一種の行政の一部でもあるわけです。警察と検察と言えばね。まさに今日論じられているように、司法のところにも位置しているわけです。しかも、民事一般では「公益の代表者」というような非常に重要な立場でもあるわけです。その検察官がどうあるんだということが、全く触れないままでいいのかどうか。

 いわんや、法曹というところでは検察官は当然入っておって、しかも相互の十分な信頼の下に、厚い層を成しておれということになっておるわけでしょう。そういう問題が今何にも入らないで、裁判官問題と弁護士改革だけが出てくるというのはね。法曹と言ったら検察官も当然入っているんだからね。それについて何ら触れられないのはおかしいのではないか。しかも、議論をしようにも、例えば警察との関係についても今のところヒアリングすらしていない状況なんです。だからしていないだけであって、決してそれが国民の目から見て、検察官の在り方がこのままでいいということには決してならないんだから、そういう点について、我々この司法制度改革審議会としては、全国民に応えるんだから、そういう美学とか何とかは抜いて、全体としてどういうものを国民に我々がアピールするのかということについての必要性はありますよということを言っているんです。

 だから、個別に検察官の権能の行使の仕方が、起訴便宜主義でいいのかどうか、あるいは起訴独占がいいのかどうか、あるいは検察官の数が足りないとか、全体としての統一性も保たないといけない。というのは、私は非常に重要だと思っているのは、この審議会というのは、また来年できるということは多分ないんですよ。これから、やはり長い間の歴史の批判に耐えられなければいけないのに、検察官は全然抜いておったということになっていいかどうかの、極めて基本的な問題を含んでいると思います。

【水原委員】先ほど井上委員がおっしゃったように、検察の在り方については、起訴便宜主義のところで議論をしていただいておりますし、それから、不起訴処分の問題につきましては、検察審査会のところで、権限行使にこういう問題があるぞということを御議論いただいているわけでございますから、取り立ててもう一遍柱立てをする必要があるんだろうかなという気はいたします。

【佐藤会長】その問題については、まだいろいろ議論したいことがあるかもしれませんので、今日のところは、その問題は考えさせていただくということで引き取らせていただきたいと思います。次回、16日に、この項目については確定していただきたいと考えておりまして、事務局で調整し、事前に各委員にお送りしてください。

【事務局長】わかりました。御説明に参ります。

【佐藤会長】そうしていただけますか。

【髙木委員】お願いがあるんですが、この間今後のスケジュールの紙をいただいたら、夏の集中審議のところで、例の法曹一元というか、裁判官の問題もそこでいろいろ議論し、私は裁判官の人事評価等の問題について2度御質問を出させていただいて、それぞれに御返事をいただいたんですが、まだ疑問の点がありますので、次回、16日になるかもしれませんが、もう一度お聞きする事項をメモで整理しますので、是非またおつなぎいただきますようにお計らいいただきたいと思います。

【佐藤会長】わかりました。時間も大分オーバーしてしまいましたけれども、以上で今日予定しておった議題は終わらせていただきまして、配付資料についてお願いします。

【事務局長】机の上に「各種の法科大学院構想の比較」というのがございます。これは前にもお配りしましたが、これをアップ・ツー・デートなものにいたしまして、他の大学の案も入れたものでございます。次回以降の法科大学院構想の御審議の参考にしていただければと思います。

 それから、平野龍一東京大学名誉教授から「参審制採用の提唱」という論文が委員の皆様宛てに届いておりますので、お配りいたしました。各界要望書等の袋の中に入れてございます。  その他の資料につきましては、特に説明することはございません。以上でございます。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 それでは、次回の審議会ですけれども、さっきも申しましたように16日月曜日でございます。時間が午前9時半から12時ということで、午後ではありませんので、御注意いただきたいと思います。この審議室で行います。
 次回は既に委員の皆様にお話ししましたとおり、まず曽野委員から、法曹としての在り方等を中心とするレポートをしていただきまして、引き続き法曹養成の在り方につきまして、意見交換を行いたいと考えております。
 それから、先ほど申しましたように、中間報告の項目案についても、再度お諮りするということにしたいと思います。そこで確定していただきませんと、後の作業である文章化がしんどうございますので、よろしくお願いいたします。
 本日の記者会見、いかがいたしましょうか。
 では、代理とご一緒に行うことにいたします。
 本日はどうもありがとうございました。