司法制度改革審議会

司法制度改革審議会第36回議事概要



1 日時 平成12年10月31日(火) 13:30~17:20

2 場所 司法制度改革審議会審議室

3 出席者

(委員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本勝、吉岡初子

(説明者)
菅原郁夫千葉大学法経学部教授

(事務局)
樋渡利秋事務局長

4 議題

①「民事裁判の利用者に対するアンケート調査」について
②「裁判官制度の改革」について
③「法曹養成制度の在り方」について
④「国民の司法参加」について

5 会議経過

① 「民事裁判の利用者に対するアンケート調査」について

  調査会社による利用者の面接調査が終了したことをうけ、菅原教授から、調査の集計及び分析結果(アンケート回収状況、調査事件の概要、訴訟利用動機、弁護士へのアクセス、訴訟回避傾向、手続評価、裁判官評価、弁護士評価、終局状況など)について中間的な報告が行われた。今後、クロス集計を行うなどさらに多面的な分析を加えた上、年内に最終的な報告をまとめる予定。

② 「裁判官制度の改革」について

  まず、事務局長から、審議用レジュメ(別紙1「『裁判官制度の改革』について」)及び参考資料(「諸外国の裁判官制度の概要(米・英・独・仏)」と題する資料及び「裁判官任命諮問委員会について」と題する資料)について、説明がなされた。「諸外国の裁判官制度の概要(米・英・独・仏)」は、米英独仏の裁判官制度について、ぞれぞれ、裁判官の給源、裁判官の任命手続及び裁判官の人事制度の概要を整理したものである。「裁判官任命諮問委員会について」は、最高裁判所設置時に設置されていた最高裁判所裁判官に関する裁判官任命諮問委員会の設置に至る経緯、運用状況、廃止に至る経緯等を整理したものである。

  引き続き、本年8月の集中審議における取りまとめを踏まえ、審議用レジュメに従い、委員間で意見交換が行われた。その概要は以下のとおり。なお、冒頭、夏の集中審議に関する一部の報道において、当審議会が判事補制度の維持を決めたかのように取れる内容のものがあったが、夏の集中審議では、判事補制度自体を存続させるか否かなどについて、当審議会として結論を出していない旨を確認した。

(給源の多様化・多元化)

○ 現在の司法は人権を守る砦として十分機能していない。市民社会的常識を備え、市民にとって信頼できる裁判官を得ることが必要。しかし、現実は、修習生から採用される判事補が10年経過すれば判事になるというルートが判事採用のルートとして事実上一本化し、視野の狭い裁判官を養成する結果となっている。裁判官に多様な人材を確保するためには、判事補制度の廃止をも視野に入れて検討すべきであり、一方で、弁護士などの実務経験を有する者の判事への任官を促進するための条件整備が必要。少なくとも、判事補から判事への任官の在り方は是正すべきであり、特例判事補制度は廃止すべき。

○ 給源と任用の問題は一体として考えるべき。改革の基本的理念は、質の高い裁判官の確保、裁判官の独立の確保、アカウンタビリティーの確保である。判事補制度、特例判事補制度は法が予定していた事態とは異なる。判事補が判事の見習いとして裁判所の中で養成されていくという点がキャリアシステムを支えている。判事の代用として使われていることにも疑問がある。いずれ判事補制度は廃止し、判事を補佐するロークラークのような制度に移行させるべき。当面の経過的措置として判事補制度を残すとしても判事の給源から除外すべき。また、判事補、判事への任用・人事について、アカウンタビリティーを確保することが必要。

○ 判事補制度は基本的に維持すべきである。裁判官に求められるのは、的確で安定的・予測可能な判断を下すことである。裁判の正統性は、国民が裁判官を選ぶという方法によっても得られるが、伝統や歴史に裏付けられた正統性というものもある。ドイツやイギリスの裁判所を見て、伝統や歴史の重さを感じた。アンケート結果等を見ると、我が国の裁判官・裁判所は、重大な問題があるとされている訳ではなく、むしろ、高い評価を得ており、自己規律の厳格性、専門性などキャリアシステムの長所は支持されている。そのような意味で、伝統・歴史に基づく正統性を得ていると言えるのではないか。しかし、キャリアシステムの欠点は是正する必要があり、例えば、参審制度を導入することによって、国民の社会常識を裁判内容に反映させるというような方法も有効ではないか。

○ 高い質の裁判官とは、国民の目線に立ち、人間的な深みや幅を持ちかつ柔軟で洞察力と説得性のある人材であるということについては、異論がないのではないか。問題はどのようにしてこのような裁判官を任用するかである。ヨーロッパでは伝統や歴史によって正統性が裏付けられていると言うが、そこでも、裁判官の選任手続には色々工夫が施されている。公務員の選定罷免権は国民固有の権利であるとする憲法15条の趣旨からすると、任用の判断基準は国民の納得できるものである必要がある。このような見地からすると、現在の判事補制度には問題があり、直ちに廃止しないとしても、判事の給源とはしないなど、その在り方を見直さなければならない。

○ 判事補は給源として必要である。公務員の中で、なぜ裁判官の選任についてのみアカウンタビィリティーが強調されるのか。現行のキャリアシステムは、その閉鎖性を改める必要はあるが、概ね良好である。

○ 裁判官の選任過程に国民の意思を反映させることは必要であるが、そのことと判事補制度の廃止は直接結びつくものではない。判事補制度自体に問題があるわけではなく、判事の給源として一本化してしまったために問題が生じているのであり、これらの問題点を改める必要はある。また、裁判にも色々な種類があり、経験の浅い若い判事補が担当できる裁判もある。

○ そもそも憲法が想定する裁判官に判事補は含まれるのか。修習生から採用された実務経験のほとんどない判事補が、憲法上身分が保障される裁判官に当たるのか疑問。判事補は合議体の一員として十分な役割を果たしていないというような問題点も指摘されている。現行法上判事の任用資格として要求される10年の法律家としての経験は、大審院判事の補職の資格と同等であり、そのことの重みを認識する必要がある。

○ 判事の任用資格が10年とされたのは、裁判所に違憲立法審査権が与えられたことと関係していると思う。判事補が質的に問題があるとは思わないし、合議体に加わることも問題ないと考える。ただし、特例判事補制度には疑問がある。

○ 裁く立場と裁かれる立場は異なる。裁く立場になるには、裁かれる立場を経験する必要がある。現在の若い判事補は、法律知識等は十分かもしれないが、社会常識に欠ける。

○ 判事補経験のみで判事になることの根本的問題は、判事補は、当事者が提出してきた証拠を評価して事実認定するだけで、証拠を収集するなどその前段階を経験していないことにある。10年間、いわば、料理を作ることを知らず、味見をするだけで、判事になることに問題がある。裁判官と弁護士・検事の立場は異なり、裁判官として裁く地位に立つためには、当事者として証拠等の資料が裁判所に提出してくる前の段階を経験する必要がある。

○ 先進国の半数程度の諸国ではキャリアシステムを採っており、キャリアシステムそれ自体がおかしいわけではない。キャリア裁判官の裁判内容に関する批判も聞くが、いずれも実証的な根拠はない。各種アンケートなどでも裁判官は高い評価を受けている。また、キャリア裁判官は官僚的であるという批判についても、実態にそぐわない。裁かれる立場の気持ちを理解することは大切であるが、理解できるかどうかは個々人の人間性による。弁護士であれば、理解できるというものではない。特例判事補制度は改善すべきであるし、給源の多様化を図る必要がある。選任過程についても改善の余地はある。しかし、基本的に現在の制度がおかしいというわけではない。

○ 人間性が重要であるのは確かであるが、裁判官が的確な判断を下すためには、当事者から証拠等が法廷に提出してくる以前の段階を十分理解していることが不可欠である。

○ 判事補制度にも優れた判事を養成・確保するなどの意義が認められる。しかし、裁判所法は、判事の給源として、多元的な給源を想定しているにもかかわらず、実際には、判事の採用はほとんど判事補からのルートに固定化し、裁判官以外の経験をほとんど有しない者が判事の多数を占めている。これは裁判所法の想定していた事態とは異なるが、弁護士任官が進まない実情にあるなど、ほかにこれといった妙案もなく、現在の制度のままでは問題は解決できない。判事補制度自体を廃止する必要はないが、判事の給源としての在り方を見直すべきである。例えば検事にも経験の多様化は必要であるが、人の生命などに関わる重要な判断を独立して行う裁判官の場合、検事以上に、法律家として異なる立場を経験する必要が大きい。判事になる者は、その一人一人が全員、裁判所内だけではなく、裁判所外で、しかも研修という形ではなく、当事者などとして仕事をすることを通じて、多様な経験を積む必要がある。例えば、法律上、判事になるためには、裁判官の身分を離れて裁判官以外の法律専門家としての職務を一定の期間経験していることを要求するなどの方策も考えられる。

○ 中にはおかしな判決もあるが、我が国の裁判は比較的適正に行われていると思う。しかし、判事補制度に欠点があるのは確かであり、そのことには、最高裁に責任がある。また、プロに任せて司法をチェックしてこなかった国民にも問題がある。判事補制度は廃止しなくても、改善する方策があるのではないか。

○ 確かに、判事補を10年経験すると、判決書の書き方のテクニックは身に付き、判決の体裁は整えることができるが、判決内容に心が通っていない。判事補制度を残すと、判事補から判事へのルートが残ってしまうので、廃止するしかない。

○ 現在のキャリア裁判官の判決書は国民に分かりやすいとは言えない。判事補制度を廃止しても、アメリカのロークラークのような制度はあってもいいのではないか。

○ 昭和63年ころから、裁判所内部でも、民事判決書や刑事判決書を分かりやすくする取組がなされ、現在では、かなり分かりやすい判決になっているのではないか。

○ 判事補としての10年の経験内容が、判事になるために要求されている10年の法律専門家としての経験として、十分なのかどうかを検証する必要がある。現在、判事補としての経験の質を適切にチェックできているのか。

○ 判事補制度が制度自体不合理だとは言えない。ただし、特例判事補制度に問題があるのは確か。判事補が10年の間に多様な経験を得られるようにすれば、キャリアシステムのメリットを生かしながら、質の高い裁判官を安定的に供給できるのではないか。ただ、判事補の経験の多様化を法律上要求することについては、判事補の身分等検討すべき課題もある。

○ 判事補に多様な経験を得させることは有意義であるが、判事補としての資格を保持したままの研修は、いわばお客さんとしての経験であり、多様な経験を得させるという観点からは無意味である。

○ 形だけではなく実質的な意味で、他の職種を経験できるよう、研修の在り方には工夫が必要。

○ 裁判官は、検事・弁護士とは職責が異なり、国家権力を背景に判断を下す重要な立場にある。判事補とはそもそもどのような位置付けなのかを考える必要がある。結論的には判事補制度には反対であるが、残すとしても、個人差に対応した柔軟な形態が考えられないか。

 以上の意見交換を踏まえて、会長が、これまでの議論の経過を次のように整理し、了承された。

(裁判官の任命手続の見直し)

○ 任命手続については、誰が、どのような基準で、どのような方法により裁判官を任命するのか、ということに問題は集約される。

○ 最高裁への照会によると、判事としての適格性は、人物の総合判断によるというが、そのような抽象的基準でよいのか。それを誰が判断しているのか。透明性、客観性があり、アカウンタビリティーを確保できるような任用・人事制度に改革する必要がある。

○ 憲法上、下級裁判所裁判官の任命権は内閣にあるので、最高裁が指名する者をどのようにして選ぶかが問題。過去に、最高裁判所裁判官の任命諮問委員会があったが、それを参考にし、諮問委員会的なものを最高裁の指名の段階に導入することは考えられないか。任用基準の内容については慎重に検討しなければならない。

○ そのような委員会には、裁判官以外の委員を入れ、国民の視点を持たせることが必要。

○ 裁判官の選任に推薦委員会を設け、選任について国民の納得が得られるよう、委員の半分以上は法曹関係者以外の者が占めるような構成にする必要がある。裁判官選任に国民が参加しているアメリカの制度が参考になるのではないか。

○ アメリカの制度にも連邦、州で多様な制度があり、それぞれ、適格者を選任するために種々の工夫をしており、制度の実情を十分把握する必要がある。単に、国民が参加すればよいと考えられているわけではない。

○ 任命手続に国民が関与するというが、裁判官全員の人となりを的確に把握することは困難であり、実質的な判断ができるのか疑問。

○ 現状において、最高裁事務総局が任用手続において実権を握っていることには問題があるというところから出発すべき。推薦委員会を設ける方向で検討し、それが形骸化しないような方策を検討すべき。個々の裁判官に関する外形的な事実を収集するとともに、面接調査する必要があろう。国民的視点を入れて、透明性を確保することが必要。

 以上の意見交換を踏まえて、会長が、これまでの議論の経過を次のように整理し、了承された。


  などを今後検討すべきである。

(裁判官の人事制度の見直し)

○ 現行の裁判官の報酬体系は、極めて細分化されており、裁判官の独立という観点から問題。少なくとも判事の報酬は2~3段階にすべきではないか。

○ 諸外国の例を参考にし、人事評価を透明化する方策を検討すべき。

○ 人事制度には、人事評価の在り方、報酬体系等様々な問題がある。報酬の問題は裁判官の独立の観点からも重要な問題である。

③ 「法曹養成制度の在り方」に関する審議結果の取りまとめ案について審議を行い、以下のような意見が出され、案文の修正は会長、会長代理、井上委員に一任され、別紙2のとおり決定した。

○ 新司法試験では受験者の相当数が合格できるような試験にすべきことを明示すべきである。

○ 現行司法試験の丙案の取扱について移行措置の中などで指摘すべきである。

④ 「国民の司法参加」に関する審議結果の取りまとめ案について審議を行い、別紙3のとおり決定した。

⑤ 次回は、11月14日(火)13時30分から開催し、中間報告案について審議する。中間報告の案文については、近日中に各委員に送付し、事前に意見を聴取した上、それらの意見を踏まえて会長、会長代理が修正した案文を次回審議会で諮ることとされた。また、中間報告の案文自体は、審議会において最終的に確定するまで、外部に公表しないこととされた。

以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

-- 速報のため、事後修正の可能性あり --