43回配付資料

国民の司法参加について

松尾浩也(2001.1.9)



1 刑事手続の性質

 捜査・公訴の提起・公判の三段階があり、有機的に関連しあっている。Cf.民事の手続
 日本の刑事手続の特色:

(1) 捜査が濃密に行われ、多量の証拠が収集される。(捜索・差押・検証令状の発付数:平成10年 178,390)。

(2) 公訴提起の基準が高く、有罪の確信に基づいて公訴が提起される。(海外からの批判:平成7年 国際セミナー提言3.7 起訴・不起訴の選択基準は緩和すべきである)。

(3) 無罪判決を受ける被告人がきわめて少ない。(平成10年 全部無罪61人、一部無罪34人)

2 国民参加の意義

(1) 「刑事司法の在り方」の「冷静かつ公正な視点からの点検」
 中間報告4(3)国民の期待に応える刑事司法 刑事裁判の充実・迅速化;公的弁護制度の在り方;新時代における捜査・公判の在り方。
 公判については直接に、捜査・起訴については間接に、複眼的な点検が可能。捜査の実状、立証の方式、公判期日の決め方など。

(2) 裁判内容への健全な社会常識の反映 中間報告5(2)参加拡充の在り方
 有罪・無罪の判断;刑の量定

3 国民参加の態様

(1) どの程度の規模を考えるべきか。国民(及び国家)の負担v.参加のインパクト

(2) 否認事件に限るか、自白事件も含めるか。

(3) 重大事件に限るか、中間的な事件も含めるか、あるいはこれに限るか。

(4) 裁判官との協議方式か、事項による分担方式か。

(5) 被告人による選択を認めるか、全面実施か。

(6) (事実問題に関する上訴をどうするか)。                 

(参考)
松尾浩也「刑事訴訟法の基礎理論」国家学会百年記念『国家と市民』第三巻(1987)
同「刑事裁判の経年変化」『平野龍一先生古稀祝賀論文集』下巻(1991)
同「刑事訴訟の日本的特色─いわゆるモデル論とも関連して」法曹時報四六巻七号(1994)
同「刑事手続における訴訟関係人の非公式協議─ドイツ刑事訴訟法に関する第二のBericht」内藤謙先生古稀祝賀『刑事法学の現代的状況』(1994)
同「アメリカ刑事訴訟法のヨーロッパ大陸法に対する影響─ドイツ法を中心に」鈴木義男先生古稀祝賀『アメリカ刑事法の諸相』(1996) 
同「刑事訴訟法五〇年 ──総括の試み」現代刑事法創刊号(1999)


(資料)

公訴提起の基準について

松尾浩也(2001.1.9)



  1. 「有罪が一〇〇%に近いことは欧州諸国に比して我が国に特殊の現象である。これは我が国において捜査に重点が置かれ且つ起訴が極めて慎重なることを物語るものである」(団藤重光『刑事訴訟法綱要』1943 六〇四頁)。
  2. 「犯罪の捜査をもう少しあっさりとやることである。……有罪か無罪かを決するのは裁判所の任務なのである。現在は、起訴をするについて証拠十二分の原則ということが検察実務家によっていわれているそうだが、裁判所で有罪を認定するには格別、起訴するには証拠八分でよいのである」(団藤重光『刑法の近代的展開』増補版・1954 一三〇頁)。
  3. 「かりに現在の起訴猶予中、二〇パーセントは情状としては起訴すべきものであり、ただ証拠が十分でないために起訴されなかったものだとしよう。そして、起訴したならば一五パーセント程度は有罪になったはずだとしよう。この一五パーセントについては検察官は、無罪の判決を受けて面目を失することをおそれるのあまり有罪とすべきものをしなかったことになる。……何はともあれ、裁判所に連れてゆき、ある程度の無罪はがまんするという方法をとること(が好ましいように思われる)」(平野龍一「刑事訴訟促進の二つの方法」ジュリスト二二七号 1961)
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  4. 「検察の実務においては、的確な証拠に基づき有罪判決が得られる高度の見込みがある場合に限って起訴するという原則に厳格に従っている」(司法研修所検察教官室編『検察講義案』1993 九九頁)。
  5. 「弾劾的捜査観に従って捜査の抑制を求める以上、公訴提起における嫌疑の基準も押さえなければならない。しかし、検察実務は、ほとんど確信に近い高度の基準を採用している。筆者は、概説書を執筆した際、この点について悩み抜いた末、結論において実務を支持した」(松尾浩也「刑事訴訟の日本的特色」法曹時報四六巻七号 1994)。
  6. 「刑事手続の全体の重心を捜査ではなく公判手続におくために、起訴に必要な嫌疑の基準を低くしたほうがよいという主張は、日本の法律学者の間にも以前から存在した。しかし、それはいまのところ法律家の間で一般的な支持を受けてはいない。その理由は、起訴されること自体が被告人には大きな負担になるので、簡単に起訴するべきではないと考える人が多いからであろう」(後藤昭「国際人権法と刑事手続」日本弁護士連合会編『代用監獄の廃止と刑事司法改革への提言』 1995 一八九頁)。
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  7. 「公訴権の行使にあたって、過度に無罪を回避するという発想にとらわれる余り、……起訴を回避し、裁判所の公的判断を求める機会を失わせたことがあったが、有罪・無罪にかかわらず社会的関心の高い事象について裁判所の判断を求めることは、民主主義社会における司法の果たす重要な機能の一つではなかろうか」(高木委員レポート「国民の期待に応える刑事司法の在り方」2000.7.11 司法制度改革審議会第25回会議)。