「弁護士のあり方」について
2001年1月23日 日本弁護士連合会 会 長 久保井 一匡 |
1.はじめに
日本弁護士連合会会長の久保井一匡でございます。
日本弁護士連合会といたしましては、1999年12月8日に前会長小堀樹が意見表明をさせていただき、それに続いて私が、昨年8月29日に意見を述べさせていただきました。本日は、さらにこのような機会を与えていただきましたことに感謝いたします。
2.中間報告について
審議会におかれましては、1年4か月にわたり、精力的で充実した調査と審議を重ねられ、昨年11月20日、中間報告を取りまとめられましたことに、心から敬意を表します。この中間報告は、今回の司法制度改革の基本的理念と方向において、国民のための抜本的な司法改革の道筋を示されたものと高く評価いたしております。特に、私ども弁護士・弁護士会に対して、国民が求める弁護士像として、「社会生活上の医師」たる法曹の一員として、基本的人権を擁護し、社会正義を実現するという使命に基づき、国民にとって「頼もしい権利の護り手」であるとともに、「信頼し得る正義の担い手」として高い質の法的サービスを提供することを求められております。このような役割を果たすため、弁護士の活動領域を大幅に拡大する中で、個人や企業にとってよきパートナーとなり、また、国家や社会などの公的部門においても、その立派な担い手となるべきことを期待されている点を、厳粛に受けとめ、われわれは、全力を尽くして、そのような弁護士像を目指して改革をすすめていく決意であります。
3.2000年8月の日弁連プレゼンテーション以降の主な取り組み
さて、前回のプレゼンテーションから約5か月が経過しておりますが、その間に日弁連が行いました弁護士制度改革について、その概要を報告させていただきます。
(1)法曹人口と法科大学院に関する日弁連臨時総会決議
まず第1に、日弁連は昨年11月、審議会に対し、法曹一元制と陪審制の実現を強くお願いするとともに、法曹人口と法科大学院について、これまでの方針を根本的にあらためる決議を行いました。この決議は、日弁連の21世紀に向けた司法改革の基盤となる重要な意義をもっています。
まず、法曹人口については、これまでの一定数で上限を画する方針をあらため、国民の必要とする数と質の法曹人口を確保する旨の方針を決議しました。したがいまして、審議会が昨年8月の集中審議を経て、中間報告において打ち出された、年間3000人程度の新規法曹という目標値も、日弁連としましては、決して容易な数字ではありませんが、国民の声として真摯に受けとめ、前向きに努力をしていくつもりであります。
次に、法曹養成制度につきましては、21世紀にふさわしい法曹の質を確保するため、いわゆる法科大学院構想を受け入れ、日弁連としても主体的・積極的に参画していくことを決議いたしました。
審議会が中間報告で提言された法科大学院構想は、基本的には、日弁連の提唱する制度と理念を共通にするものであります。日弁連は、公平性・開放性・多様性の確保、全国的な適正配置及び実務教育・実務修習の重視を軸として、この新しい制度の設立、運営に積極的に取り組んでいくつもりであります。
(2)弁護士へのアクセス改善に関する方策の施行(2000年10月1日施行)――市民に開かれた身近な弁護士を目指して
第2は、弁護士へのアクセス改善に関する方策の施行であります。これは、これまで閉鎖的で市民にとって敷居が高いとの批判のあった弁護士を、より市民に開かれた身近な弁護士に改革していくための施策であります。
まず、昨年10月1日に、同時に3つの制度をスタートさせました。
イ.民事法律扶助法の施行
次は、民事法律扶助法の施行であります。これは、法務省をはじめ多くの関係者の長年にわたるご努力によって、ようやく実現することができたものですが、経済的理由によって法的サービスを受けられなかった人々に大きな力になるものと確信しています。すでに、この制度に基づく法律相談登録弁護士の数が全国で5000人を超えています。ただし、新しい制度といえども、先進国に比べますとまだまだ不十分で、今後一層の充実を求めていきたいと考えています。
ウ.権利保護保険スタート
続いて、日弁連・弁護士会と損害保険会社とが提携した権利保護保険のスタートです。これは、偶然の事故により、被保険者が、生命・身体・財産の損害を受けたときに、その賠償請求に関して、弁護士費用・訴訟費用の支払いを受ける保険です。これまでも、同種の保険商品がまったくなかったわけではありませんが、弁護士会と保険会社がタイアップした保険商品ははじめてであります。
日弁連は、全国の弁護士会にリーガル・アクセス・センターの設立を求め、この制度の普及と円滑な運用に取り組んでおります。
(3)弁護士・弁護士会の新しい活動形態
第3は、弁護士・弁護士会の新しい活動形態です。
昨年9月以降、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく指定住宅紛争処理機関として、各地の弁護士会がその指定を受けました。すでにこれに必要な規定を設け、弁護士や事務職員に対する全国的規模での研修も終えています。日弁連及び弁護士会は、これまで裁判外紛争処理機関の拡充に力を注いでまいりましたが、このような形で、弁護士会が自ら紛争処理機関として位置づけられたことの意義は大きく、今後も弁護士・弁護士会の新たな役割の開拓を多方面にわたり進めていく考えであります。
(4)弁護士の執務体制の強化――法律事務所の法人化
第4は、執務体制の強化であります。
21世紀社会が、複雑化、多様化、国際化する中で、弁護士の専門的能力を高めるとともに、法律事務所の基盤を整備し、弁護士の執務体制を強化することが求められています。そのため、事務所のより一層の共同化を促進するため、法人化への道を切り開くことにいたしました。そこで、来たる2月9日に臨時総会を開催し、その基本方針を採択する予定です。その後、この1月31日から始まる予定の通常国会に法務省から法案を提出していただく予定です。
ちなみに、日弁連としては、法律事務所の人的スタッフの整備に向けて、いわゆるパラリーガル(法律補助職)の制度化などについても検討を進めていくつもりであります。
(5)弁護士法72条に関する基本方針の決定
また、日弁連は、昨年9月の理事会において、弁護士法72条に関する基本方針を採択しました。その方針は、国民の権利・義務の確定や紛争の解決を扱う法律事務は、必要な弁護士人口を増員し、弁護士が自ら担うことを基本とするものです。弁護士以外の隣接法律専門職種の方々が、それぞれその持場においての重要な役割を果たしておられることは十分に承知していますが、これらの職業の本来の趣旨は、それぞれの監督官庁の、いわゆる申請業務を円滑に進めるためのエージェントとしての役割にあります。したがって、国民の人権、財産に関する法的問題を直接に扱うことを予定した制度となっていません。しかし、他方、弁護士人口の大幅な増員には、法科大学院の立ち上げなど相当の時間を要することは否定できませんので、それまでの措置として、隣接法律専門職種の方々に、一定の範囲で法律事務をお願いすることをご提案申しあげた次第であります。
その具体的内容につきましては、本日付の「弁護士のあり方」と題するペーパーをご覧いただきたいと存じますが、主なものは、司法書士の方々は簡易裁判所における補佐人の権限、弁理士の方々は弁護士が訴訟代理人についている事件について代理人になっていただくこと、税理士についても弁護士が訴訟代理人についている事件について補佐人として出廷陳述していただくことの権限の付与であります。
なお、日弁連としては、今後これらの隣接法律専門職種の方々と協力して働く、協働関係の構築に努め、ユーザーの要請に応えていきたいと考えています。
4.今後の取り組み
さて、いよいよ今後の課題ですが、日弁連は、21世紀を迎えて、弁護士制度改革につき、さまざまな取り組みを行っていくつもりです。その具体的内容は、本日付ペーパーをご覧いただきたいと思いますが、その基本的スタンスは、21世紀にふさわしい専門的能力と高い倫理性、公益性を備えた、市民に身近で信頼される弁護士像の確立であります。
以下、時間の関係上、6点に絞って申し上げたいと思います。
(1)公益性に基づく社会的責務の実践
まず、公益性に基づく社会的責務の実践であります。
21世紀において、私ども弁護士は、中間報告でも指摘されているとおり、「頼もしい権利の護り手」として、国民の権利や利益を誠実に擁護・実現すると同時に、他方では、「信頼し得る正義の担い手」として活動することが求められます。換言すれば、弁護士は、21世紀社会において、いわゆる法の支配の担い手としてその公益的責務を果たさなければなりません。具体的には、いわゆる「プロ・ボノ活動」、国民の法的アクセスの保障、公務への就任、後継者養成への関与などを積極的に実践することが求められています。現在、弁護士は、国選弁護、当番弁護士、各種法律相談、法律扶助等を通じて、相当程度の公益活動に従事しています。とくに小規模の弁護士会においては、ほとんど例外なくすべての弁護士がこれらの活動を行っています。しかしながら、大都市の弁護士会においては、必ずしもそうとは言えない状況があります。そこで、すでに資料として提出していますが、いくつかの弁護士会では、公益活動を義務づける会則等を制定しています。ただ、これとて、原則としては任意の履行を期待するものにとどまっています。私といたしましては、すべての弁護士がこの社会的使命をより深く認識してこれを実践するため、プロ・ボノ活動を会員の義務として明確に位置づけ、この履行を担保するための方策を検討してまいりたいと考えています。今のところ、プロ・ボノ活動の範囲や履行を担保する方法については、日弁連内において未だ議論のあるところですが、韓国で昨年から実施されているプロ・ボノ活動の義務化(年間30時間のプロ・ボノ活動を義務づけ、やむを得ない事情でできない場合は、1時間につき一定の金額を納付する制度)や米国法曹協会(ABA)のプロ・ボノ規定等も参考として、速やかに結論を得たいと思っております。
(2)新たな弁護士任官に向けた取り組み
次に、新たな弁護士任官に向けた取り組みであります。
日弁連は、かねてから法曹一元制の実現を求めています。それは判事補制度を廃止し、司法試験合格者はいったん弁護士または検察官となり、原則として10年以上実務を経験した上で裁判官に任用するというものです(任用にあたっては、各高裁管轄区域[ブロック]ごとに設置する、市民も加わった裁判官推薦委員会の推薦を経ることも必要です)。
今回の中間報告は、この法曹一元制度の採用を明言しておられない点は残念ですが、裁判所法が本来、判事の給源の多元化を予定しているにもかかわらず、実際は判事補が主要な給源になってしまっている点は問題であること、特例判事補制度の見直しを検討することが打ち出されています。
そこで、日弁連としては、今後、判事補に代わる裁判官の供給源として、弁護士任官に積極的に取り組んでいくつもりです。
ちなみに、判事補制度を存続させた状況の中での、しかも、現行のキャリアシステムの改革をしない状況の中での弁護士任官には、おのずから限界がありますが、しかし、その困難な状況の中でも、優れた弁護士に任官していただく新たな努力を試みていきたいと考えています。弁護士会が行ってきたこれまでの弁護士任官への取り組みは、率直に言って、弁護士・弁護士会自らが裁判制度の担い手であらねばならないという自覚が十分ではなかったと思います。そのため、弁護士任官推進のための諸活動が十分になされているとは言えませんでした。しかし、その姿勢は根本的にあらためる必要があります。つまり、弁護士会は、あらためて裁判制度を担う義務と責任を自覚し、弁護士の中から裁判官としてふさわしい者を積極的に選び出し、任官していただくこと、また、裁判官適格者を積極的に養成していくこと、さらには弁護士任官推進のための基盤と環境づくりに取り組むつもりです。
昨年11月の臨時総会の各決議も、これらの新しい決意を意味するものであります。
当面、次のことに取り組んでまいります。
イ.裁判官適格者選考委員会の設置
弁護士の中から適格者を、市民に開かれた信頼性の高い方法で選考する適格者選考委員会を各地に設置していきたいと考えます。また、推薦についても同様で、たとえば、近畿弁護士会連合会ではすでに「下級裁判所裁判官候補者調査評価に関する協議会」を市民委員とともに設けていますが、このような試みを全国各ブロックですすめてまいりたいと思います。
ウ.弁護士会としての義務、弁護士としての名誉ある責務の明確化
任官者の確保は弁護士会の「義務」であり、弁護士個人にとっては、推薦されれば主体的かつ積極的にこれを受けとめるという「名誉ある責務」であることを明確化したいと思います。
エ.支援体制の整備
弁護士から裁判官に任官する人を支援するため、弁護士会として、事務所を閉鎖する場合に事件や事務職員の引き継ぎのあっせんなどを行うようにしたいと考えます。また、これらを経済的に支えるため、東京弁護士会が策定している「弁護士任官支援基金」制度を全国的な制度に拡大していきたいと考えております。
オ.基盤整備
以上のほか、日弁連は、弁護士人口の増大、弁護士の偏在の解消、公設事務所の設置や法律事務所の共同化、法人化、総合化などの基盤整備に取り組んでまいります。また、将来の優れた任官者を計画的に養成するための「任官展望事務所」や、裁判官に任官するにあたり、事件の引き継ぎその他の支援を行う「任官支援事務所」なども検討し、具体化していこうと考えます。
(3)法科大学院創設に向けた取り組み
日弁連としては、21世紀にふさわしい法曹の質を確保するためには、この新しい構想である法科大学院を正しく制度設計し、一日も早く軌道にのせることが、当面最も重要な課題であると考えています。そこで日弁連は、早速、昨年12月に、「法科大学院設立・運営協力センター」を設置し、活動を始めました。今後、日弁連といたしましては、大学の主体性を尊重しながら、最高裁、法務省、文部省、大学関係者などと一層の連携を深めつつ、設立認可の基準の策定、カリキュラムの策定、教材の開発、弁護士(実務家)教員の養成・派遣、また要望に応じて、研究者教員の実務研修等、法科大学院の速やかな設立とその運営に全面的に協力・参画していく所存であります。
(4)弁護士の活動領域の拡大
先のプレゼンテーションでも申し上げましたが、21世紀の高度化、複雑化、国際化、情報化する日本社会において、あらゆるところに「法と正義」をゆきわたらせることを目指して、これまでの弁護士の活動領域が、裁判中心の狭い範囲にとどまっていた、いわば「裁判所城下町」的な弁護士を克服し、いつでも、どこでも、どんな問題でも国民の法的ニーズに応えられる、いわば全天候型・全方位型の弁護士像を目指していきます。
ちなみに、本年11月には、これらを踏まえて、広島市において、「21世紀に求められる弁護士業務」のテーマで一大シンポジウムを企画しています。
このようなさまざまな分野への弁護士の活動領域の拡大を実現するため、弁護士法30条による弁護士の兼職等の制限は、自由化の方向で見直していく必要があります。
弁護士法30条1項は、先の国会におきまして、「一般職の任期付職員採用給与特例法」の成立と同時に改正されました。この弁護士法改正により、これまでは国会議員等にしか認められていませんでしたが、弁護士がその身分を維持したままで、5年を超えない範囲内で期限付き職員に採用されることが可能となっています。
弁護士法30条1項については、任期付職員に限らず、一般の国家公務員や地方公務員も含め、届出制にしたうえで自由化すべきであると考えています。
他方、弁護士法30条3項(営利事業)につきましては、事前届出による自由化をすることについては慎重な意見もありますが、さらに検討を進めてまいります。
公務員や企業等、組織内で勤務する弁護士には、雇用者からの独立性の問題などについて、開業弁護士とは異なる弁護士倫理が求められる場面がありますので、それらの関係を明確にするための倫理規定を検討いたしたいと考えています。
(5)弁護士倫理の強化と弁護士自治
つぎに、私たち弁護士にとって最も重要な課題は、言うまでもなく弁護士倫理の強化と弁護士自治であります。
弁護士は、人権の擁護と社会正義の実現を使命とするものであり(弁護士法1条)、その職務の自由と独立が保障されなければなりません。そのためには、いわゆる弁護士自治は絶対に確保されなければなりません。この弁護士自治の制度は、戦前の弁護士が国家権力の監督の下におかれ、十分な活動ができなかったことに対するきびしい反省の上に達成されたものであります。しかし、当然、この弁護士自治には、それにともなう責任があることは言うまでもありません。日弁連は、この弁護士自治を実効的に果たすために、さまざまな努力を傾けてきましたが、今後も一層、弁護士倫理の向上、弁護士の質の向上、弁護士会の運営への国民参加と説明責任の履行、綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化、弁護士情報の開示等に力を注いでまいります。
イ.倫理研修の充実・強化
弁護士倫理研修については、新規登録時及びその後一定年数ごとの倫理研修の受講が義務づけられており、ほとんどの受講対象者がこれを受けており、当初の研修受講義務化の目的はほぼ達成されている状況ですが、さらに一層充実をはかってまいります。この間の事情は、本日付ペーパーで詳しく述べていますのでご覧下さい。
ウ.弁護士の職務の質に関するその他の方針
この点についても本日付ペーパーをご覧いただきたいと思いますが、①弁護士と依頼者の間の契約関係の明確化、②依頼者に対する弁護士の報告・説明義務の明確化など、の2点はとくに重要だと考えています。
エ.綱紀・懲戒制度及び関連する諸制度の改革
(イ)弁護士会の苦情処理の適正化のための方策
弁護士に対する苦情に、弁護士会として適切に対応できるようにするため、すべての弁護士会において苦情相談窓口の制度を整備し、紛議調停制度や綱紀・懲戒制度との連携を図っていきたいと考えます。そのために、苦情相談担当者や事務局の体制を整備していくことが必要です。また、苦情相談窓口制度や紛議調停制度、懲戒制度、苦情内容や懲戒処分の集計内容などを広く知らせていくようにしたいと考えております。
(ウ)綱紀・懲戒手続の改革――透明化・適正化・迅速化
わが国の弁護士は、戦前は一貫して国家権力によって監督され懲戒されてまいりました。現在の弁護士法はその構造を断ち切り、弁護士が、国民の基本的人権をまもる活動をするために、独立してその職務を行うことを制度的に保障した点で画期的な意義を有するものであります。日弁連といたしましては、弁護士に対する懲戒権限が国民から付託されたものであり、その厳正・的確・迅速な行使は、何よりも国民に対する責務であると考えております。その見地から、綱紀・懲戒制度の一層の透明化、適正化、迅速化を図ってまいる決意であります。
a 綱紀委員会の参与員の議決権及び綱紀委員会・懲戒委員会の委員構成
具体的には、第一に、綱紀委員会の参与員制度をあらためて検討し、懲戒委員会と同様に議決権を有する外部委員とすることを検討したいと考えます。また、綱紀委員会・懲戒委員会に、従来は裁判官・検察官・学識経験者に参加していただきましたが、これに加えて、消費者団体の代表など市民の代表の方に入っていただき、弁護士会の外の声が一層適切に反映されるようにしてまいりたいと考えます。
b 懲戒請求者等の綱紀・懲戒手続への参加
第二に、懲戒請求は、何人でもできる制度でありますが、綱紀委員会の調査手続や懲戒委員会の審査手続において、実質的に被害者であったり、懲戒請求事案の当事者である人が、意見陳述など手続に参加することを、制度的に保障することを検討したいと考えます。
c 懲戒請求者の不服への配慮
第三に、懲戒請求者の不服申立への配慮であります。最近は、1年間に700件から800件の懲戒請求がされていますが、懲戒の処分をされる案件は、年間50件程度となっております。他方、綱紀委員会の調査によって懲戒処分をしないとされる中で異議申出が年間300件ほどなされております。これらを外部委員にも加わっていただいて日弁連の懲戒委員会で審査し、年間0件から3件程度が懲戒相当とされていますが、大多数は、各弁護士会の綱紀委員会の調査結果と結論を同じくしております。日弁連としましては、綱紀・懲戒制度は現在でも適正に運用されていると考えており、綱紀委員会や懲戒委員会の外部委員制度を充実することにより、一層透明性をもったものにしていくことができると考えておりますが、これに加えて、検察審査会に匹敵する「懲戒審査会」といった制度を設け、弁護士会以外の方にお骨折りいただき、日弁連の結論などが納得できないという場合に、そこで審査していただく、そして「懲戒審査会」が是正勧告をした場合には、日弁連等で再度調査するような制度を検討したいと考えます。
d 弁護士の調査・審査への協力義務の明確化
第四に、綱紀・懲戒手続における調査・審査にあたって、会員である弁護士が、弁護士会による調査・審査に協力すべきことを会則に明記する、綱紀委員会が自らの判断に基づいて調査を行うことができるようにする、などの制度改正により、調査・審査の適正化と迅速化をはかることを検討いたします。
e 有給調査員制度の拡充
第五に、綱紀委員会、懲戒委員会の機能を実質的に強化するために、現在、日弁連懲戒委員会に設けられている、有給の調査員制度を、日弁連及び各弁護士会の綱紀委員会・懲戒委員会に導入するなどして、調査機能の強化を図ることを検討いたします。
f 懲戒処分の結果等の公表制度
第六に、懲戒処分については、現在、懲戒処分を受けた弁護士名、懲戒処分の内容、懲戒処分事由の概要が公表されています。その他、いわゆるクレ・サラ事件で弁護士が整理屋と提携した「非弁提携」事案において、懲戒処分の結論が出るのを待っていては被害の増大を招くおそれがある場合などについて、一部の弁護士会では、懲戒処分が行われる以前に、その事実を公表する制度を導入しています(1999年以降、東京弁護士会、大阪弁護士会、第二東京弁護士会など)。
懲戒案件に関する公表制度をさらに充実し、官報や弁護士会のホームページに掲載することなどを検討いたします。
(6)弁護士へのアクセス拡充――とくに公設事務所について
日弁連は、弁護士へのアクセス拡充のため、さまざまな努力を重ねています。全国の地方裁判所支部の管轄地域に、もれなく弁護士会の法律相談センターを設置し、さらにそれを一歩進めて、弁護士が常駐する公設事務所を設置して、本日の段階では、未設置の地域は全国253地域のうち21か所に減少しており、本年5月を目標にこれらの地域のすべてに法律相談センターや公設事務所を設置していきたいと考えております。
詳細は、本日付ペーパーをご覧いただきたいと思いますが、ここでは、その中で最も大きな力を注いで実現したいと考える、公設事務所について申し上げます。
(イ)単位弁護士会の多彩な公設事務所、専門の法律相談センター
以上のとおり、日弁連は、弁護士過疎地に当面10か所の公設事務所を設置することを決めていますが、さらに、多彩な新しい形態の公設事務所の設置が進められています。たとえば、第二東京弁護士会では、専門特化型、公益型、人材供給型公設事務所としての都市型公設事務所に財政支援する制度を構築し、2000年度内に開設する予定です。また、大阪弁護士会では、都市型公設事務所として大阪公設法律事務所を2000年度内に設置することを決定し、すでに所長弁護士を選任しております。
また、専門の法律相談センターとして、すでに、東京には、四ツ谷、神田にクレサラ相談センターが設置され、東京三弁護士会が運営していますが、年間1万2000名の相談者が訪れ、1000名の弁護士が当番制で担当し、その7割の事件を受任しています。
(ウ)法律扶助協会の法律援助センター
さらには、法律扶助協会の常設の法律援助センターとして、法律扶助協会東京都支部は、霞ヶ関のほかに、立川、八王子、新宿に援助センターを設置し、法律扶助相談、事件受任を行っています。2001年4月には上野にも開設を予定しており、東京に常時公益活動をするセンターが5つできることになります。扶助専門センターとして、当番制で弁護士が対応しており、将来的には、弁護士会の公設事務所と共催することも検討課題の一つであります。
5.むすび――21世紀の弁護士像への脱皮を目指して
いよいよ21世紀を迎え、日弁連が創立されて51年が経過しました。この間、日弁連・単位弁護士会や多くの弁護士は、国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現のため、人権、公害、環境、消費者など社会が抱える広範な課題に果敢に取り組み、日本の社会に輝かしい貢献をしてきたものと自負しております。しかし、他方、市民のための大きな司法を創造し、法曹として、司法全体を自らが担っていくという姿勢や自覚においては必ずしも十分でなかったことも否定できません。今後は、これまでの人権擁護を中心とする活動をますます発展させるとともに、他方では、司法制度を担う責任を自覚し、それに足る弁護士への脱皮を図ってまいります。
このような努力をする中で、私たち弁護士、弁護士会は、21世紀の日本の社会における法の支配の担い手として、社会の隅々にまで法的正義をゆきわたらせるべく、総力をあげて、粘り強く諸課題に取り組む決意であります。
以上を持ちまして、私の意見表明とさせていただきます。
以 上