配付資料
別紙4
「弁護士制度の改革」に関する裁判所の意見(その2)
最高裁判所事務総局
これまでの審議において,裁判所は,「弁護士人口と弁護士活動の在り方について」として,弁護士人口の増加の必要性,弁護士偏在の改善,隣接職種の権限の問題,専門化の必要性の問題を,「弁護士会の運営」として,弁護士会の運営の透明化,弁護士倫理の確立の重要性等をそれぞれ指摘したところである。
中間報告においては,法曹人口の増加の指針が示されたのをはじめとして,「弁護士へのアクセス拡充」として,法律相談活動等の充実,弁護士費用の透明化,合理化,弁護士情報の公開が,「法的サービスの内容の充実」として,弁護士業務の質の向上,執務態勢の強化,隣接法律専門職種との関係,弁護士の国際化等が提言されたほか,弁護士倫理の強化と弁護士自治の問題が指摘されている。それぞれの提言や問題点の指摘は,いずれもこれからの我が国の司法の在り方を左右する極めて重要な事項であり,実情を十分に把握した上で実効性のある形で具体化されることが必要である。
この関係で,特に次の点を指摘しておきたい。
1 裁判手続における弁護士の活動と弁護士の懲戒手続
当事者主義の手続のもとでは,裁判の進行は当事者の活動に大きく依存している。短期間に充実した審理を行い,事件の真相を明らかにし,適正かつ迅速な裁判を実現するには,これを可能にする手続的な枠組み,裁判所の態勢とともに,充実した当事者活動が不可欠である。当事者主義,実体的真実の解明,迅速な裁判というすべての要請を満たしていくということはかなり難しいことである。これまでの資料から明らかなとおり,我が国の裁判は,全体的にはこの要請を満たすように努力がなされてきており,当事者である弁護士の活動が総体としてこの要請に沿って行われているということができるであろう。しかし,周知のとおり,我が国においては,一部に,審理が著しく遅延している事件があり,これが大きな問題となっている。その理由としては,これまでの審議から明らかなとおり,種々のものがあるが,中には当事者の準備の懈怠,戦術的な引き延ばし,あるいは意図的な逸脱行動によるものがあることも否定できない(注1)。
(注1) 弁護士の逸脱的な訴訟活動の具体的事例としては,刑事弁護人が,公判審理の進行を阻止しようとする被告人の意向に沿って,公判期日の指定に応ぜず,更に指定された公判期日への不出頭,在廷命令を無視した退廷を繰り返すなどしたため,多数回にわたり実質審理が阻止され,公判期日を開くことが不可能となったという例などがある。
このような弁護士による不適切な当事者活動に対しては,現在の制度のもとでは,弁護士会による懲戒以外には直接対応しうる手段は設けられていない。そのため,このような不適切な訴訟活動について,英米法系の諸国における法廷侮辱による制裁を検討すべきであるという指摘もあるが,先に述べたとおり,これまで法曹三者によって全体として望ましい法廷慣行が確立されてきた歴史に照らすと,弁護士会による懲戒制度の機能の強化を図るのが適当であろう。これまでの懲戒事例の中で,不適切な裁判手続の遂行,不適切な当事者活動を理由とするものはほとんど見当たらず,わずかに裁判手続の懈怠の例はあるが,法定期間の徒過といった極めて例外的な場合である。裁判手続に関する事項は,戦術的な配慮とも関連するものであり,この種の行為に対する懲戒権の行使が困難な問題を孕んでいることは理解できないではない。しかし,そもそも弁護士の自治が,職業集団としての弁護士の自由な活動を担保するため,その規律の維持を弁護士会自体に委ねたことからすると,裁判手続に関する余りに制限的な運用はかえって弁護士の権限と活動の基盤を脆弱にするものではなかろうか(注2)。
(注2) 例えば,刑事司法に関して審議された証拠開示の問題は,事前の開示の結果が弁護士以外の者に流れるのではないかという捜査側の懸念との比較考量の問題であり,仮にそのような場合には弁護士会が実効的な懲戒を行うことになれば,その定着は,証拠開示の範囲を考える上で大きな積極的要素となることと思われる。
今後,弁護士数が飛躍的に増加することに伴い,その資質,活動の在りようはこれまで以上に多様になることが予想される。単にプロフェッションとしての品位の保持といった観点ではなく,より機能的な側面からの懲戒の在り方を考慮することが必要であり,それが弁護士会,ひいては弁護士の信頼を厚くするものとなろう。
2 懲戒手続に関する裁判上の救済手続の在り方
弁護士会による懲戒手続は,弁護士の地位や資格に直接的な影響を与えるものであるから慎重な判断を要するが,国民に対して手続や判断内容を開示するという観点からは,最終的に裁判手続による救済の道が開かれていることが望ましいといえよう。
弁護士に対する懲戒請求について,弁護士会が弁護士を懲戒しない場合や,弁護士会の懲戒の処分が不当に軽いと思われる場合には,懲戒請求をした者は,日弁連に異議を申し出ることができる。この異議申出により,弁護士が日弁連により懲戒された場合には,弁護士は処分取消しの訴えを裁判所に提起することができる。これに対し,異議申出に対する棄却または却下の決定があった場合には,異議申出人は裁判所に訴えを提起することができない。
このような制度がとられているのには種々の理由があると思われる。しかし,少なくとも弁護士の利用者が,弁護士会の自治的制裁に関する判断に不服がある場合に,最終的に裁判手続で争えないものとされているのは,バランスを欠くように思われる。この点については,中間報告で指摘されている国民に対する説明責任の確保,綱紀・懲戒手続の透明化・実効化という観点から検討すべき課題ではないかと思われる。