司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第44回議事概要



1. 日  時 平成13年1月23日(火) 13:30~17:00

2. 場  所 司法制度改革審議会審議室

3. 出席者

(委員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝

(政府)

高村正彦法務大臣

(説明者)

久保井一匡日本弁護士連合会会長
太田 茂法務省司法法制部司法法制課長
小池 裕最高裁判所審議官

(事務局)

樋渡利秋事務局長

4. 議  題
・法務大臣あいさつ
・「弁護士の在り方」について

5. 会議経過

(1) 法務大臣からあいさつが行われた(別紙1)。

(2) 久保井一匡日本弁護士連合会会長(別紙2)、太田茂法務省司法法制部司法法制課長(別紙3)、小池裕最高裁判所審議官(別紙4)から、それぞれ説明がなされ、質疑応答がなされた。その主な内容は以下のとおり。なお、回答は久保井会長によるものである。

○ 日弁連の説明では弁護士法30条2項について触れられていないが、2項についても改めることは考えていないのか。また、3項についても、事前規制である許可制から事後チェックを前提とした届出制に改め、不相当な事例は懲戒制度で対応すべきではないか。
(回答:2項は、常勤の公職の場合、職務専念義務との関係も考慮する必要があり、更に検討を要する課題である。3項は、営利事業の内容は千差万別であり、弁護士の品位保持等を考慮すると、許可制のもと、運用を弾力化するにとどめるべきであるという意見もある。)

○ 日弁連の説明では、特任検事、副検事、簡易裁判所判事の法曹資格付与について消極的な意見が述べられているが、簡裁判事は簡裁の訴訟手続を主宰しており、特任検事と副検事は訴訟において弁護士と対等に活動していること、試験や研修制度もあること、弁護士過疎問題への一つの対処方法となり得ることなどを踏まえると、法曹資格を認める相当性も必要性もあるのではないか。
(回答:個別に必要性を検討する余地まで否定するものではないが、資格制度の特例を設けるべきではないというのが基本である。これまでは法曹養成数が少なかったが、これからは、養成数を多くし、弁護士数を増加させる。必要な数の弁護士を確保していくのが筋であると考えている。)

○ 綱紀・懲戒制度を透明化・適正化・迅速化していこうということは抽象的には分かるが、具体的にはどのようになるのか。例えば、平成11年では最短で266日、最長で2100日も要している審理期間について、目標を設定するようなことは考えていないのか。また、委員会の委員構成については弁護士以外の委員を過半数にすべきではないか。
(回答:標準審理期間を定めるということも一つの改革案であろうし、委員構成も検討すべき課題である。現在、改革のスケジュール等の検討を開始しており、来年度以後、できるだけ早い時期に、新しい綱紀・懲戒制度を実施に移したい。)

○ 弁理士などの隣接法律専門職種と異なり、弁護士と公認会計士との共同事務所は認めるべきではないというのはどういう趣旨か。
(回答:公認会計士との提携を認めると、いわゆるビッグファイブとの共同事業を許容せざるを得なくなるという問題がある。アメリカ、EUの弁護士会にも慎重論が多く、国際的視点も踏まえて検討しなければならない問題である。)

○ 弁護士倫理の研修受講率は90%以上というが、少数の受講しない人に対してはどのように対処しているのか。
(回答:当該年度以後に受講してもらうようにはしているが、受講しないからといって、制裁が科されるわけではない。今後一層受講率を高める努力をしたい。)

○ 知的財産権関係で、ユーザーが弁護士に対し何を求めているのかというような調査を弁護士会で行ったことがあるのか。
(回答:そのような調査をしたことはないが、知的財産関係事件の重要性は認識しており、弁護士会の中に知財委員会を作って、相応の調査研究をするなどしている。)

○ 弁理士との共同代理は許容するということだが、弁理士は弁護士と共にでなければ出廷できないとすると、弁理士と弁護士の日程が合わない限り期日が入れられないことになり、ユーザーとしては不便である。この点どのように考えているのか。
(回答:弁護士とともに在廷していなければならないとまでは考えていない。各自がそれぞれ単独で出廷できるようなものを考えている。)

○ 国際問題を取り扱える弁護士数が極めて少ないという現実を短期間に改善する方策を考えているのか。そのような弁護士の養成目標数を定めることは考えられないか。
(回答:弁護士会として目標数を設定しているわけではないが、現在、相当数の渉外事務所で、毎年、10~20人の新人弁護士を採用しており、急速に増えつつあると思う。)

○ 裁判官への任官、法科大学院の教官への就任など公益性に基づく社会的責務を強調しているが、実際に実現できるのか疑問を感じている者が外部にはかなりいる。このような見方についてどう考えるか。
(回答:弁護士任官についてはこれまで優れた弁護士を裁判官にしようという努力が十分ではなかった。今後、弁護士人口も増加し、基盤も整備されてくるので、変わっていくことができると思う。公益的活動を義務化することについては会内で異論もあろうが、時代の要請を説明すれば理解してもらえると思う。)

○ 懲戒制度については、市民代表からなる「懲戒審査会」を新たに設け、日弁連の決定に対し是正勧告を行うことができるようにするということであるが、勧告には拘束力はあるのか。
(回答:検察審査会をモデルにしたものであるが、当面、拘束力のない制度から始め、拘束力を認める必要があるか否かについては、その運用状況を見て考えたい。)

○ 最高裁の説明ペーパーの2頁の(注1)、(注2)についてどのように考えるか。また、不相当な刑事弁護活動を巡る懲戒事例は実際にあるのか。
(回答:不適切な刑事弁護活動による懲戒事例があるのは確かである。しかし、(注1)は極めて特殊な事例を想定したものと思われ、実際には弁護人の怠慢とは言えないようなケースではないか。少なくともこの事例が一般的に起こっているかのように記載することは誤解を招くであろう。(注2)は抽象的な懸念に過ぎない。)

○ 隣接法律専門職種の関係で、過渡的な措置として、一定の権限を認めるということだが、過渡的な時期を経過した後はどのようになるのか。
(回答:一旦与えた者から権限を奪うことは現実にできないが、その時期以後に資格を取得した者には権限を認めないということも考えられないわけではなく、まだ、確定的な意見を持っているわけではない。弁護士数が増加した後は弁護士が本来の姿に従ってそれらの事務を取り扱っていくべきことである。)

○ 弁護士任官の拡充は、大都市の裁判所では可能かもしれないが、地方の裁判所では難しいのではないか。
(回答:ロースクールの適正配置がなされていくなどすれば、弁護士の都市集中の問題は解決され、地方においても弁護士任官は進められると思う。)

○ 司法書士に対し訴訟代理権を認めずに、補佐人の権限のみを認める理由はどこにあるのか。高齢者や病人は一緒に出廷することができないため、利用できないという問題があるのではないか。
(回答:事実上補佐している現状から、補佐人としての権限を認め、当事者席について正式に訴訟行為ができるようにすれば必要十分であると考えている。地方では、90万円以下の事件もそれ相当の訴訟事件であり、本来的には、弁護士の増加で対応すべき。高齢者、病人への対応については各弁護士会において充実強化の方向で検討している。)

○ 懲戒制度について、懲戒申立をしていた利害関係者が、弁護士が懲戒されなかったことに不満があれば、裁判所に不服申立てできる制度は考えられないのか。
(回答:新たに設置を考えている「懲戒審査会」がどのように機能するかを見てから考えて欲しい。)

(3) 以上の質疑応答を踏まえ、さらに、「弁護士の在り方」について意見交換が行われた。主な内容は以下のとおり。

(弁護士の公益性・活動領域の拡大)
○ 弁護士の社会的責任、公益性は、プロボノに限るわけではない。むしろその根幹は、その通常の職務活動を通じて、専門家としての職業倫理を保持しつつ、高い質の法律サービスの提供に努め、依頼者の正当な権利利益の実現に奉仕することにあるのではないか。
○ 弁護士の職務の基本は、依頼者の権利を守ることにある。また、採算の合わない事件も、たのもしい権利の守り手として受任して、依頼者の権利を守らなければならない。
○ 弁護士は、私的な権利を守ることも重要で、それ自体が公共的側面がある。これに加え、プロボノ、公務への就任等も要請される。
○ 弁護士法30条3項については、届出制に改めるべきであると考えるが、許可制を維持するのであれば、許可不許可基準を明確にすべき。
○ 様々なリスクを伴う「営業」は、本来、権利の守り手としての弁護士の職務とは相容れない面があるのではないか。運用を見直す余地はあろうが、許可制は維持すべきではないか。
○ 許可制を維持するというのは、事前規制を廃止して、事後チェックに移行しようという流れに反するのではないか。
○ 届出制といっても、受理しないなど許可制と同じような運用にならないようにすべきである。
○ 30条1項の制限を見直し、届出制にすることは異論がなく、また、30条3項についても届出制にして、倫理面でのチェックについては事後的な懲戒制度などで対応すべきとの意見が大勢ではないか。

(弁護士倫理の強化と弁護士自治)
○ 弁護士に対する社会の目は厳しく、倫理確立のため思い切った方策を講じるべきである。懲戒委員会の弁護士以外の構成員を過半数にすること、綱紀懲戒手続を迅速化すること、懲戒請求者に裁判所への不服申立ての道を認めることなどを検討すべき。
○ 審理期間が長すぎるのは問題であり、綱紀・懲戒委員会に一定の調査権限を与えて、迅速化を図る必要がある。
○ 綱紀委員会の弁護士以外の委員に評決権を付与すべきである。また、綱紀・懲戒手続に、法曹三者以外のメンバーをより多く関与させるべき。しかし、懲戒委員会の委員の過半数が弁護士であるということを改めることは慎重であるべき。
○ 委員会の委員構成の細かいところまでここで決めずに弁護士会に任せてもよいのではないか。
○ 綱紀・懲戒委員会の委員に一般の有識者を入れた方がよいと思うが、現行の綱紀・懲戒手続が厳正に行われていないというわけではない。
○ 弁護士会には相当の自治が保障されているが、自治の中だけでの議論は限界があり、外の意見をできるだけ取り入れることが可能な制度とすべき。
○ 弁護士会の国民的基盤を確保するという見地から、懲戒委員会の弁護士以外の委員を過半数とすることは賛成できるが、他方で、ここで過半数としているのは、権力との関係で獲得した弁護士自治と密接に関連し、慎重な検討が必要。
○ 懲戒請求者が弁護士会の判断に不服があれば、裁判所に訴えを提起できるという制度は、裁判所に弁護士の懲戒権を持たせるような仕組みになってしまうのではないか。弁護士自治の根本に関わることにもなり得る問題である。
○ 綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化・実効化については、少なくとも、綱紀委員会・懲戒委員会の委員構成について弁護士以外の委員の割合の増加、綱紀委員会の弁護士以外の委員へ評決権の付与、懲戒請求者が綱紀・懲戒委員会の議決に対する異議申出を日弁連に棄却・却下された場合に市民代表により構成される機関に更なる不服申立ができる制度の導入、弁護士の調査・審査への協力義務の明確化などによる職権調査の実効化、標準審理期間設定等による迅速化、懲戒委員会の決定に少数意見を明示するなどによる透明性の向上、懲戒請求者の手続参加の拡充やこれに対する情報提供の強化などの一層の配慮、懲戒処分の過程・結果等に関する公表の拡充等を行うべきであるということについては、意見の一致が得られるのではないか。

(4) 次回第45回会議(1/30午後1時30分から)では、「国民の司法参加」について審議が行われる予定である。

以  上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

-速報のため、事後修正の可能性あり-