司法制度改革審議会

司法制度改革審議会 第48回議事概要



1 日 時 平成13年2月19日(月) 9:30~12:45

2 場 所 司法制度改革審議会審議室

3 出席者

(委員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子

(説明者)
但木敬一法務省大臣官房長
児玉憲夫日本弁護士連合会副会長
金築誠志最高裁判所事務総局人事局長

(事務局)
樋渡利秋事務局長

4 議 題
「裁判官制度の改革」について

5 会議経過

(1) 「裁判官制度の改革」について、但木敬一法務省大臣官房長(別紙1)、児玉憲夫日本弁護士連合会副会長(別紙2)及び金築誠志最高裁判所事務総局人事局長(別紙3)から、それぞれ説明がなされ、質疑応答が行われた。その主な内容は以下のとおり。

○ 特例判事補制度が、裁判所法本来の趣旨に合致しないのは明らか。判事数の不足に対応するために「当分の間」特別に設けられた例外的措置であるにもかかわらず、最高裁は、5年以上判事補を務めた者に対し、特段の審査をすることなく特例判事補に指名し、この制度を、キャリア・システムの過程のステップとして位置付けてきたのは問題。最高裁は、今後、運用面で工夫するということであるが、筋を通して判事を増員して廃止すべき。運用でどうこう言うのは、裁判所法が、裁判所に違憲立法審査権を認めた憲法を踏まえ、判事の任命資格として10年の法律家経験を要求した趣旨を没却するものではないか。
 (最高裁回答:独仏では最初から制限の無い判事となる制度になっているが、我が国では、実際に特例がつくのは概ね30歳以上である。離島をはじめ地方には、家庭事情に制約の無い人でないとなかなか行ってもらえず、そこを意欲ある特例判事補が担っているのが実情だ。)

○ 現行の研修等に弁護士事務所への派遣を加えるとのことだが、身分を保障されながらでは「お客様」に過ぎず、真の意味での経験にならないのは民間では常識だ。判事が多様な知識・経験を有しているべきであるということを前提にするのであれば、研修というような運用任せにするのではなく、裁判所法42条の任用資格を改正すればよいのではないか。
 (最高裁回答:身分が裁判官のままなので研修に気持ちが入らないということは無い。民間のメーカーへ行ってクーラーの販売を熱心にやった裁判官もいる。裁判所法42条の改正については、身分の関係をどうするか、法制的・技術的に十分詰めないといけない。)

○ 日弁連の提案で「尊重」とは拘束性を持たせる趣旨か。裁判官候補者の名簿作成権限に関する憲法の規定との関係についてどう考えるのか。「高裁単位」とあるが、高裁を超える異動は想定していないのか。弁護士任官を拡充するために、裁判官として適格な人材を確保するための制度的担保をどう考えるか。
 最高裁の提案で「諮問」としている理由如何。「諮問」の候補者リストの作成はどのように行うのか。
 (日弁連回答:名簿に拘束力を持たせることは考えていない。ただし「尊重」は必要。裁判所が自ら設置した委員会の意見を尊重すらしないのはおかしい。任官・昇任はその地の高裁が行うが、高裁を超える異動については応募方式をとり、現地の推薦委員会で判断することとなる。弁護士任官の担保措置に関しては、まず適格性を適格者選考委員会で十分調査する。これまで任官が進まなかった事情として業務に伴う問題もあるが、大きいのは裁判所に魅力が無かったからではないか。裁判所が変われば希望者も増えるはずだ。支援事務所や基金を設けることも考えられる。)
 (最高裁回答:名簿作成の主体はあくまでも最高裁判所であり、「この人は適当でない」との意見の場合もあるので「諮問」が適当と考える。候補者リストの準備の仕方は今後検討する必要がある。)
 (法務省回答:全国的な見地で資格を審査する必要があるので、中央に設置すべきである。ただ、情報が無いと適性な審査ができないので、審査される人が活動していた地から情報を吸い上げて来る必要がある。)

○ 判事補は必ずしも判事の補佐・代行ではなく、独立に職権を行っている。性急な廃止は混乱を招くのではないか。また、裁判官は、現行法制の枠内では、世の中の常識に一見反するような判決をしなければならないこともある。法曹一元を採るとすれば裁判官の数は減るはずだとの見解があるが、そのことと裁判官数の増加の主張は調和し得るのか。
 (日弁連回答:判事の補佐・代行だけでなく見習としての面もある。ただ、判事補制度は憲法上の裁判官の趣旨と矛盾する面があるので、補佐機能は調査官(クラーク)等として発揮していくべきだ。裁判の独立を侵してはならないので、裁判の中味については委員会の評価のための提出資料としては適切でない。委員構成も中立的なものとすべきだろう。理念的には法曹一元を採れば裁判官の数そのものは(クラーク等を別として)少なくて済み得る。)

○ 最近の事件も踏まえて、検事や判事の倫理教育についてどのように考えるか。
 (法務省回答:福岡での事件に関しては、現在、脅迫罪のほか国家公務員法違反事件としても捜査・調査中であり、具体的に申し上げることは差し控えたい。ただ、改善すべき点がありとすれば、つまり、検察官個人に止まらず検察全体の問題として受け止めるべき事項もあるやに思われるので、一連の捜査・調査が終了した段階で当審議会にもその結果を報告し、御指導をいただく機会を作っていただきたい。検察官の職業倫理に関して、一番重要なのは職務遂行を通じての倫理感の研磨であり、それ以外に多様な研修も行ってきている。しかし、今回の事件についてはそれだけでは済まされない問題も孕んでいるようにも思えるので、今後、どういう形で検察官を育てていくべきかについては、やはり今回の事件を通じてどういう問題点があるか、きちんと把握した上で考えていきたい。)
 (最高裁回答:今回の件はまだ確定されたものではないので別にしても、倫理は紙の上でだけ学べるものではなく、実際に先輩の背中を見ながら成長していくことが大切だ。また、研修を通じても自覚を促すきっかけを与えたい。)

○ 最高裁資料(別紙3)3頁の特例指定の後倒しについて、機械的でなく個々の資質を考慮するという着想は良いが、判事の大幅増員という前提条件が付いている。特例は廃止するという基本的発想が大事だ。経験の多様化について、1年程度外に出るだけでは多様な経験とは言えない。4頁の指名諮問委員会について、設置するという前向きな姿勢は評価できるが、最高裁に置くことと「諮問」であることの2点が問題だ。委員会がもう少し主体的に動けるようにすべきではないか。
 (最高裁回答:特例判事補について、単独事件を持たせられない者が出て来ると、その分についての判事の増員は現に必要で、その意味で条件とした。1年という期間については受入先のこともあるが、できるだけ考慮したい。「諮問」とは言っても、任命・再任の時には必ず諮問するのは当然だ。)

○ 日弁連の言う弁護士任官の「一定年齢」のイメージはどのくらいか。直ちに実務につけるのか、研修をどう考えるか。また、日弁連が人事に絡むというのはユーザーから見ると不安だ。中立性が損なわれる恐れがある。かつての利害関係人が裁判官に就任する場合も多々考えられる。さらに、人数が増えた場合に日弁連で適切な候補者選びが果たして可能なのか。
 (日弁連回答:10年の経験が必要とされる判事なので35歳以上を想定している。直ちに判決が書けるかどうかは、研修とともに判決そのものの在り方の見直しにもよる。利害関係人の点については、忌避や回避の制度が機能していく必要がある。選考委員会には法曹三者が入るので、弁護士会が牛耳るということはあり得ない。候補者選びのためにも、各地域の委員会がしっかりと機能していくことが必要だ。現在の大阪の規模程度までなら候補者選びは可能なのではないか。)

○ 法務省は、現在の裁判官制度が国民の大きな信頼を得ている、との認識が前提になっているが、どのような根拠があるのか。当審議会の民事訴訟利用者調査でも、裁判官については半数以上が満足していないという結果が出ている。
 (法務省回答:現在の裁判が少なくとも公平に行われていることについては国民の間でそれなりの評価を得ているのではないか。このことは、国民の意識調査でも表れていると思う。ただ、現在の裁判制度に国民が不満を持っていないかと言うと、それはまた別の話だ。まして、裁判の中に現実に身を置いた人たちにとって、勝ち負けも半々ずつあるわけで、それぞれの立場から見て裁判の実情に満足できないと回答するのは現実のことだと思われる。戦後の裁判制度は今日まで曲がりなりにも機能し信頼を得てきたが、今日、様々な制度的疲労の面も見られ、21世紀に向かっての在り方としては色々なところに極めて不十分な点があって、大きく変革しなければならないという状況にあると認識している。決して全般にわたって現在のままで良いということではない。)

○ 最高裁は、裁判の本質をそもそも何と考えているか。当事者・関係者の納得が根本だと思うが、納得を得るためには説得が必要で、裁判官はこれまでややもすれば権力に依拠して職権を行使してきたのではないか。現場の経験が無い裁判官に果たして説得ができると考えるか。また、下級裁判所の裁判官の人事は裁判所こそが最も適任であるとの考え方が前提となっているようだが、それは司法の独立ということからは出て来ない。司法の独立とは、あくまでも立法や行政からの独立という意味が基本なのではないか。
 (最高裁回答:裁判は公正中立な立場からの紛争解決であって、納得も大事な要素である。裁判官たちも日々努力している。当審議会の民事訴訟利用者調査結果でも、弁護士がついていない当事者の方が裁判所への評価が高くなっていた。裁判官の任命は行政が行うが、行政よりは司法の方が人事に関する情報を持っているという趣旨だ。)

○ 最高裁は、様々な経験を得させる実効ある計画をどのように考えているか。「研修」が「派遣」に言葉が変わってきたことは大きいと思うが、なぜ様々な経験が必要なのかという趣旨を踏まえ、具体的にどうするのか、長い目で制度設計のスタンスを考えていく必要があるのではないか。
 (最高裁回答:そのように考えている。)

(2) 以上の質疑応答を踏まえ、「裁判官制度の改革」について、さらに意見交換が行われた。その主な内容は以下のとおり。

(3) 次回会議(第49回)は、2月27日(火)13:30から開催し、「裁判官制度の改革」について、引き続き意見交換を行うこととされた。

以 上
(文責 司法制度改革審議会事務局)

- 速報のため、事後修正の可能性あり -