司法制度改革審議会

第48回司法制度改革審議会議事録



日 時:平成13年2月19日(月) 9:30~12:45

場 所:司法制度改革審議会審議室

出席者:

(委 員、敬称略)
佐藤幸治会長、竹下守夫会長代理、石井宏治、井上正仁、北村敬子、髙木 剛、鳥居泰彦、中坊公平、藤田耕三、水原敏博、山本 勝、吉岡初子

(説明者)

法務省:但木敬一法務大臣官房長
日本弁護士連合会:児玉憲夫副会長
最高裁判所:金築誠志事務総局人事局長

(事務局)

樋渡利秋事務局長
  1. 開 会
  2. 裁判官制度の改革について
    • 法務省、日本弁護士連合会、最高裁判所からのヒアリング
    • 意見交換等
  3. 閉 会

【佐藤会長】それでは、ただいまから第48回会議を開会いたします。
 本日は前回に引き続きまして裁判官制度の改革について法曹三者からのヒアリング及び質疑応答を行いまして、その後、意見交換を行いたいというように考えております。
 それでは早速、法曹三者からのヒアリングを行うことにいたします。
 最初に、本日お見えいただいている方を御紹介させていただきます。
 最高裁判所からは金築誠志事務総局人事局長です。
 法務省からは但木敬一法務大臣官房長です。
 日本弁護士連合会からは児玉憲夫副会長です。
 本当にお忙しい中恐縮でございます。本日のヒアリングのために色々御用意いただきまして、その点について厚く御礼を申し上げます。
 法務省、日本弁護士連合会、それから最高裁判所という順番でお話をお願いしたいと思います。それぞれ20分程度ずつということでございますけれども、お話しいただく内容に応じまして、その辺は適宜御判断をいただいて結構でございます。法曹三者からのヒアリングは合計で大体1時間ぐらいというように考えておりまして、その後30分程度、まとめて質疑応答を行いたいというように考えている次第です。よろしくお願いいたします。
 それでは最初に、法務省の但木官房長からお願いいたします。

【法務省(但木官房長)】法務省官房長の但木でございます。
 本日は裁判官制度改革に関する意見を申し上げるべき立場でございますが、まずもって検察官の問題について若干、この際に申し上げておきたいと思います。
 先般来、福岡地検におきまして捜査情報を漏洩したと報道されている件につきましては、検察のみならず司法全体の公平性に疑念を呈される事態に至ったことを、極めて深刻に受け止めております。今回の件につきましては、脅迫事件とともに国家公務員法違反事件としても現在捜査中でありまして、その詳細をこの段階で報告することはできませんが、これらの案件の深層、底には特定個人の検察官の問題にとどまらず、検察全体の在り方にも関わる問題をはらんでいる可能性は否定できないと考えております。捜査・調査を終えました段階で、この審議会の場で事の顛末を御報告申し上げ御指導を賜る機会を設けていただきたいというふうに考えておりますので、よろしくお願い申し上げます。
 それでは、裁判官制度改革に関する問題につきまして、意見を申し上げたいと思います。
 裁判官任用制度の在り方につきましては、従来、法曹一元の問題でありますとか、色々な観点から取り上げられてきたと思っております。要は次の時代、もう既に21世紀に入りましたけれども、21世紀におきましては、当審議会で十分御論議いただいておりますように、司法に対する社会の依存度が非常に深まってくるであろうと思われます。したがいまして、国民の権利義務、ときには国民の生命や自由まで左右する裁判官の役割は、現在にも増して極めて重要であると思っております。
 現在までの我が国の裁判官制度がうまく機能しているからといって、次の時代に必ずしもそれで耐えられるというわけではなくて、来るべき時代に向けて裁判官、特に判事の力量を飛躍的に付けていかなければならないというふうに考えております。
 そうした裁判官や判事を得るための方策といたしましては、ドイツ型のようにキャリアシステムで裁判官としての素養を育んでいくというやり方も一つのやり方であり、日本においても、基本的にはこうしたやり方で今までやってきたわけでありますが、他方、英米型のように多数の法曹経験者の中から最も実務能力に優れ、また人格高潔で公正な判断が期待できる人を判事として選任し、この人に判断を委ねるという制度も非常に優れた一つの在り方であろうと思っております。
 いずれにせよ、次の時代の判事は判事個人としても多様性を持ち、また裁判所総体としても総合的な多様性と強靭さを持ったものにしなければならないであろうというふうに考えております。多数の法律実務家の中から判事にふさわしい人を選んでいくというシステムを考えた場合には、法曹人口の中で多数を占める弁護士からどれだけ有為の人材を判事に系統的に送り出せるかということが非常に大きな課題になってくるかと思います。
 我が国でも当初から弁護士からの判事任官という制度を法律上認めておりましたが、残念ながら弁護士から判事になる人の数というのは極めて少数でございました。その原因としては、法曹人口が極めて少なかったということ。弁護士事務所の法人化が認められず、大きな法律事務所を形成できない、したがって、事件の処理が依頼者と弁護士との個人と個人の間の信頼関係で行われていて、弁護士さんが容易に、そうした信頼関係から離脱することができないというような問題点が幾つかあったように思います。
 しかし、この度の司法制度全般の改革が進む中で、法曹人口の大幅な増加、それから弁護士事務所の法人化などが図られ、弁護士会におかれましてもこのような改革に賛成し、積極的な協力がなされるに至っております。このような状況にかんがみますと、将来的には弁護士から人格・識見・能力に優れた判事にふさわしい者が数多く輩出されるということが大いに期待できるところであると思っております。弁護士会が、判事にふさわしい人材を系統的に確保、育成していかれるという重責を担ってもらえるものと期待しております。法務省においても検察官から判事にふさわしい人が判事に任官できるように、今後取り組んでいきたいというふうに思っております。
 このようなことを考えますと、弁護士から判事にできるだけ多くの人がなってもらいたいと思うのでありますが、現状はなかなか、そうたやすくはございません。弁護士として能力の非常に高い人は活躍の場も広く、また収入も非常に多いというようなことから、なかなか判事になるという気持ちになれないという面もございます。たとえ収入が少なくても判事という職務の魅力、あるいはその職務に対する人々の尊敬などから、判事になろうという素直な気持ち、熱意が湧いてくるような環境というのは、まだまだ整っていないのではないかというふうに思っております。やはり、裁かれる身からいたしますと、裁判官になろうという意識、情熱を持っている人が裁判官になるべきであると思っております。
 このように、我が国の歴史的な現実から出発いたしますと、判事補の制度というものの意義は否定できないと思われます。つまり法曹一元なのか、キャリアシステムなのかという選択ではなくて、むしろ我が国に一番ふさわしい形態はどういう形態なのかということを、与えられた所要の現実的要素から考える必要があるのではないかと考えております。
 ただし、先ほども申しましたように、次の時代を担う判事の重要性から考えれば、多様な領域から判事になることが最も望まれるところであります。この点は今後きちっとシステムとして考えていかなければいけないというふうに思っております。
 しかし、他方で判事補からの判事という道も決して無意味ではない。すなわち、何千件、何万件というものを手掛けて裁判の実務に精通し、あるいは実務的なバランス感覚を有するということは、決してそれ自体無意味だというわけではなくて、やはり意味はある。しかし、問題は最初からそうした判事補で、その後判事になっていく人たちというのは、どうしても、その人の中の多様性において線が細過ぎる嫌いがあるのではないかというふうに思うわけであります。
 もう少し別の観点から申しますと、裁判官というのは法と良心だけに基づいて判断をし、その判断がだれにも拘束されることなく国家の意思として表明されるわけであります。したがいまして、当たり前のことでありますが、だれからも制肘されることのない立場であります。国民の権利義務を左右し、ときには生命・身体の自由をも奪う権限を行使する裁判官が初めから一貫して、他から制肘を全く受けることのない立場だけにいるということは、やはり通常の人たち、つまり他から制肘・批判を受けながら暮している人たちに対する理解において、やはり問題があるのではないか。判事としては、やはり多くの判事補が若い時代に他からの批判や制肘を受ける経験を積んで、その人の中の多様性いうものを身に付ける必要があるのではないか。
 それと同時に裁判所総体として、裁判実務だけでなく、弁護士、あるいは民間企業、あるいは行政官庁、海外などさまざまな経験を有する判事補が判事になっていけば、非常に多様で強靭な集団を形成できるのではないかというふうに思っております。
 それから、これは若干、手続面のことでありますが、裁判官の任命の在り方につきまして国民の意思を反映し、人事の透明性を確保するという意味から、例えば、裁判官の指名について意見を述べる機関を設置することも検討されてよいのではないかというふうに思っております。
 勿論、司法権の独立の保持の観点から、判事の任命に関する最高裁判所の指名権を保障している憲法上の規定、これに抵触するわけにはまいりません。したがって、最高裁判所が判事を指名するのに際して、参考に意見を述べるという位置づけではあろうかと思いますけれども、国民の意見を一定程度反映する機関が必要ではないかというふうに思っております。そういう機関は中央に置けばよろしいかと思いますけれども、ただ、全国から情報を広く集められるような工夫が必要ではないかというふうに考えている次第でございます。
 やや、取りとめのない話ではございますが、私どもが申し上げたいのは、戦後、裁判官の任用制度というのは、色々論議はされましたけれども、一度も実質的には変革がございませんでした。是非、今回の改革におきましては、我が国の現状に立脚しつつ、しかし、必ず次の時代の強靭な判事を形成していくために重要な改革の一歩を是非踏み出していただきたいというふうに思う次第であります。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。
 それでは引き続きまして、児玉日本弁護士連合会副会長からお話をお聞きしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【日弁連(児玉副会長)】御紹介をいただきました児玉でございます。
 当審議会では審議開始以来、論点整理に掲げられました各課題につき、精力的な審議を続けられておりますことに、まず敬意を表したいと思います。
 裁判官制度の改革は、当審議会が改革の眼目として掲げます三つの柱のうちの「人的基盤の拡充」の頂点に立ち、かつ司法の中核に位置する改革であります。今般の裁判官制度の改革は、司法全般にわたる、当審議会のこれまでの審議を前提に行われる点で、戦後の司法改革とも、臨時司法制度調査会による改革論議とも異なるものであります。
 そこで初めに、私は今般審議されるこの改革がどのような基礎の上に進められねばならないかを改めて整理してお伝えしてまいります。
 中間報告はまず、法曹の質と量の拡充が必要であるとして、次の各項を確認しております。
 その第一は、「新たな法曹養成制度の構築」が審議され、「法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設ける」ということであります。
 第二は、「法曹人口の増大」が審議され、「計画的にできるだけ早期に、年間3,000人程度の新規法曹の確保を目指す」ことがとりまとめられていることです。
 第三は、「裁判所、検察庁の人的体制の充実」が確認され、続いて「弁護士制度の改革」が審議されたことです。
 以上を前提とし、これらの審議の頂点に位置するのが、裁判官制度の改革であると考えます。特に強調したいのは、中間報告が、「司法部門は静脈」であるととらえ、「従前の静脈が過小」であったことを前提に、いわゆる小さな司法から脱却し、「その規模及び機能の拡大強化を図ろう」としている点であります。「弁護士はもとより裁判官及び検察官の大幅な増員を実現することが不可欠」であり、これが裁判官改革の重要な視点であります。
 これから述べます判事補制度改革を必要とする基礎には、裁判官不足の問題があります。増員され、余裕を持った体制で大きな改革がなされなければなりません。その目途として日弁連は当面、早急に裁判官3,000名体制、簡易裁判所判事を除きますが、これを実現し、近い将来更に実情を調査した上で増員することを求めます。
 次に国民はどのような裁判官を希望しているか。これはまさに中間報告が「国民が求める裁判官像」として述べたとおりであります。「法廷で上から人を見下ろすのではなく、訴訟の当事者の話に熱心に耳を傾け、その心情を一生懸命理解しようと努力するような裁判官」、「かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感し得る豊かな人間性」を持った裁判官その他数項目を挙げられておりますが、これは私どもの日常感覚にぴったりと一致しておりますし、先日の「民事訴訟利用者調査」における裁判官評価にも表われているところです。
 更に、この表現の中にも含まれていますが、これらの要素は「一定以上の年齢」の裁判官ということを必然的に導くでありましょう。私たちが接触する依頼者、企業、個人を問いませんが、法廷でとりわけ単独審の裁判官を見て、「こんなに若い人が裁判官なのですか」と、よく言われております。
 これらの要素を整理すれば、中間報告にあるとおり、「21世紀の日本社会における司法を担う高い質の裁判官を獲得し、これに独立性を持って司法権を行使させる」ということであろうと考えます。このような裁判官を安定的に確保するため、裁判官制度に関わる多くのヒアリング事項をいただいておりますけれども、これは別紙に詳しく述べておりますので繰り返しません。ここでは、任用に関する推薦委員会、人事の透明性・客観性に関わる事項及び判事補改革と弁護士任官の四点について申し上げます。
 裁判官にふさわしい人材を社会の全体に広く求めるためには、これまでの任用の在り方を根本的に見直し、任官申込をしてきた候補者の適格性を確実に見分ける手続が必要です。しかも、この手続は裁判官の独立性の要請を満たし、かつ説明責任を果たすものでなければなりません。日弁連はそのために新たに国民代表委員が過半数を占める「下級裁判所裁判官推薦委員会」を設置することを提唱します。この制度は国民の参加を得るなど、国民的基盤を持つ合議機関が、裁判官の募集活動を担うとともに、国民の視点からあるべき裁判官像と、これに基づく選考基準を設定し、徹底した資料の調査、収集を前提とした信頼性の高い審査方法によって厳正、適切に候補者の資質、能力を審査するものであります。
 新聞に伝えられました最高裁御主張の「裁判官指名諮問委員会」は、法曹三者と有識者が、最高裁の決めた名簿登載者に意見を述べるという内容のようですけれども、これでは委員会自体が候補者の情報を実質的に調査し、自ら候補者を選定することとはほど遠いものであり日弁連提案の推薦委員会とは全く異なるものであります。
 選考の基準は、先に述べた中間報告の「国民が求める裁判官像」を具体化し、諸外国の実例も真摯に学びながら策定し、公表することが必要です。こうしてこそ、最高裁が行う、高い質をもって独立して司法権を行使し得る判事の指名について、透明性、客観性を確保し、説明責任を果たし得る選考をなすことができるからです。判事補についても、これに準ずるべきでしょう。
 なお、先に述べました一定の年齢以上には達しない判事補については、他職経験などを豊富に行うことにより、判事となるにふさわしい法律家に必要な自信、経験等を得させることが前提となります。
 選考のための手続として、推薦委員会は、最高裁判所の下にある機関でありますが、その設置先は各高等裁判所所在地としつつ、司法行政上の最高裁判所の指揮命令系統からは独立した機関にしたいと思います。最高裁判所は判事及び判事補となるべき者の指名において、推薦委員会の推薦を尊重するものとします。判事または判事補になろうとする者は、赴任を希望する地域をその管轄とする高等裁判所所在地に設置された推薦委員会に申込を行い、その審査を受ける公募制・応募制といたします。判事の給源に現在のような判事補が含まれる場合も、他の給源からの場合も同様であります。
 人事制度の改革は、裁判官の独立に大きな影響を与えます。そのために、透明で客観的な人事制度を構築していくことが不可欠であります。任地の決定も本人の応募によるシステムに変更すべきです。このことは、これまで最高裁が行ってきた方法とは正反対のものと考えられます。裁判官が自らの勤務地を自ら決定することは、裁判官の独立の観点から非常に重要な要素になるものです。過渡的には、高裁単位のブロックごとに公募、応募することにします。応募の前提として広報を徹底し、特定のポストについて複数の応募があった場合には、選定機関が客観的資料をもとに決定することにします。
 次に報酬制度ですけれども、我が国の裁判官の報酬制度は諸外国に類を見ない多段階なものとなっています。裁量の余地をなくすという意味でこれを整理すべきであり、判事を10年で1段階、再任後上昇して1段階とするのが妥当でありましょう。国民的基盤を持つ公的職務であり、公選制首長、議員と同じく基本的に一律にすることが原則だと考えます。
 次に裁判官の人事評価について申し上げますが、人事評価がその独立性を損わなず行われるためには、最低限、評価の客観性の確保、評価の本人開示、反論権の付与、不服な場合に申し立てができる公正な不服申立機関の設置を準備するべきだと考えます。人事評価は任地の決定、再任、能力開発のために活用されます。また、人事評価は内部・外部両側面から行われる必要があります。内部評価のみならず、利用者による外部評価につき、裁判官の独立を侵害する危険性を少なくする配慮を行う必要があります。内部評価は裁判官会議が行い、そこで弁護士会や裁判所利用者の評価を適切に取り込まれることが必要でしょう。
 最高裁判所事務総局のことについて申し上げますが、人事を以上のように行っていきましたならば、最高裁事務総局の権限はおのずからかなり縮小されていきます。これに各裁判所の裁判官会議を組み合わせて、透明性、客観性を担保していくべきだと考えます。
 次に、特例判事補制度及び判事補制度について申し上げます。
 裁判所法第5条第2項は判事補を裁判官として認め、同法第27条第1項は、「判事補は、他の法律に特別の定めのある場合を除いて、1人で裁判をすることができない」、第2項は、「判事補は、同時に2人以上合議体に加わり、又は裁判長となることができない」と定めています。このように定められる判事補の法的性格については、三つを挙げることができます。第一は「判事の補佐」としての役割であり、第二は「判事の代行」としての役割であり、第三は「判事の見習い」としての役割です。裁判所法の規定は、判事補を判事の見習いととらえていると思いますが、そのことは判事補を独立した裁判官ととらえるには無理があることを示しています。日弁連は、判事補は判事の補佐とし、これにふさわしい制度へ転換させるべきであると考えます。判事の補佐とは、判事の職権行使を補佐し、これを支える存在として位置づけるものです。中間報告が述べております「高い質の裁判官を獲得し、これに独立性をもって司法権を行使させる」状態に裁判所全体を近づけるために、判事の補佐として判事補を活用することが司法権を強化するゆえんと考えるからです。
 具体的には調査官、アメリカのロークラークのような職務に就き、判事の仕事と質と能率を高めるために働くことになります。判事補を現行のように判事の見習い、教育訓練の対象とするのは、判事補制度の独自の存在理由とはならず、判事の補佐としての職務が判事としての訓練の場にもなり得るという限りで、これを位置付け得るにすぎません。子飼いによる判事の養成は、憲法と裁判所法の趣旨に反すると考えます。現在の判事補は特例判事補を含め判事の代行ということになりますけれども、これは憲法の裁判官独立の側面と矛盾しますし、特に代行性が極端に肥大化した特例判事補は廃止されなければならないと考えます。
 以上は判事補を裁判官としてどう見るかという点から述べたものですが、別の観点として、給源として判事補をどう見るかという問題があります。判事補は判事の給源、つまり判事の任命資格としての10年以上の在職期間の「職」に当たらないものと扱うべきです。つまり10年間判事補の職にあっただけでは判事の任命資格は得られないものとすべきであります。日弁連は、別紙にも書きましたが、判事補につき、任官当初5年程度の他職経験を必要だということを提唱していますが、これが実現して、判事補の身分を離れて、弁護士、検察官の職務に5年従事し、先に述べたあと5年は調査官的な職務に従事するとすれば、これを通算して10年の在職期間として扱い、本人の希望があれば推薦委員会に判事になる応募をするということになります。これらへの改革途上でも、判事補であった期間は5年を超えない程度で判事任命資格である10年以上の在職期間に算入することにすればよいと考えます。この改革途上では、判事補は現行に準じて裁判官機能も果たすことになります。
 次に、特例判事補について申し上げます。この制度は判事補の、先ほども言いました「判事の代行」的側面を肥大化したものであります。給源の多様化、多元化を拒む最大の隘路は特例判事補制度の存在であります。「当分の間」として始まった制度が53年間継続され、更に強化されました。しかも実態は、特例判事補になる旨の申請も応募もないまま、自動的に特例判事補指名が最高裁によってなされるのですから、高い質の裁判官をつくるべき人事行政としては余りにも御都合主義であると言わなければなりません。このような運用実態から脱却し、今般の改革でこの制度が年限を決めて廃止されなければならないと考えます。
 更に判事補の裁判所法上の地位は、憲法の要求する独立した裁判官との間には埋め難い溝、矛盾があると考えております。そのために先に述べました、判事補制度の改革を提案するわけですが、法の支配を確立するためにも、この矛盾を抜本的に解決することが必要と考えます。この矛盾の解決の抜本的方策は、判事補の採用を停止することが一番簡明であります。判事補制度の廃止を要求するゆえんであります。
 次に、弁護士任官のことについて申し上げます。
 給源の多様化、多元化を実現できるのは、法曹の中で最大の人口を要し、今後とも豊富な人材を提供できる弁護士においてほかにはないことは言うまでもありません。日弁連は1月23日の「弁護士改革」のプレゼンテーションで、「公益性に基づく社会的責務の実践等」として、その具体化を提起いたしました。これまで、弁護士の任官が個々の弁護士の意向、判断任せになりがちであったのを改め、今後は弁護士任官を弁護士会が主導性と責任を持って運営する、言わば裁判官になってもらいたい人を送り出す制度へと発展させます。我が国の弁護士は、判事補制度廃止の方向が示され、官僚裁判官制度が改革される可能性が示されるならば、この新しい弁護士任官の意義を理解し、必ず真摯にこれを受け止めることでありましょう。市民に開かれた信頼性の高い方法で適格者として選考された者に、その事実と誠意と情熱を持ってプロフェッショナリズムに働き掛けをすれば、少なくない者がさまざまな障害を乗り超えて任官の決意をすると考えられます。
 日弁連は、特例判事補の指定を2005年から停止し、2009年に特例判事補を廃止し、その5年後から判事補の採用を停止して、10年かけて判事補の存在をなくすことを目途に、これを実現したいと考えています。そのために、弁護士任官を新しい地平で再構築したいと考え、現在その具体化を開始しております。
 最後になりますが、日弁連は、「21世紀日本社会における司法を担う高い質の裁判官を獲得し、これに独立性をもって司法権を行使させる」ために、大きな決意をもって従来の方針を転換いたしました。現在のように、多様性も多元性もなく、したがって独立性に欠け、透明性、客観性、説明責任などが担保されていない裁判官制度をつくり上げてきた第一責任者ではありませんが、日弁連は、「高い質の裁判官を獲得し、これに独立性をもって司法権を行使させる」課題を自らのものとして取り組んでこなかったことを率直に反省しております。
 同時に日弁連は、裁判官改革が現場の混乱なしに進まなければならないと考えています。そのために、まず第一に弁護士会としての任官義務、弁護士としての任官の責務を規定した会則等の準備に着手いたします。2001年から年度ごとに明確な目標を掲げた弁護士任官推進基本計画の策定を公表し実施いたします。弁護士会に市民参加の「適格者選考委員会」(仮称)を設立し、評価、推薦を行います。なりたい人の任官制度からなってもらいたい人を選ぶ制度へ転換いたします。更に、必要な弁護士会としての任官支援体制、基盤の整備を行います。
 最高裁判所におかれては、弁護士任官者をつかさどる部署を各高裁ごとにつくられ、事務総局の人事行政から独立した取り扱いをしていただくことを特に要請したいと思います。日弁連はこれらの課題を不退転の決意をもって実施してまいりたいと考えております。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。それでは最後になりましたが、金築最高裁判所事務総局人事局長からお話をお聞きしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【最高裁(金築人事局長)】本日は意見を述べる機会を与えていただいて、どうもありがとうございます。
 本題に入ります前に、福岡の件につきまして一言だけ申し上げますと、この件につきましては最高裁判所といたしましても、捜査の状況を考慮しながら調査の結果に基づきまして適当な機会に審議会に御説明したいと考えております。
 それでは本題に入りまして、裁判官制度の改革についての御説明をさせていただきます。
 我が国の裁判官は公正廉直の伝統を堅持しつつ、適正で迅速な裁判の実現に日夜努力を重ねてまいりましたが、中間報告にも指摘されておりますように、これからの時代に向けて裁判の質を更に高め、裁判に対する国民の信頼を一層確かなものとするために、裁判官制度とその運用の改革に向けて総合的な検討が必要であると考えております。
 裁判所が提出いたしましたものは裁判官制度の改革という本体と、我が国の裁判官制度の現状と問題点という別紙に分かれておりますが、この別紙の方にも言及しつつ、改革の具体的方策等について意見を述べさせていただきます。
 まず、給源の多様化、多元化という問題でございます。我が国の下級裁判所の裁判官、差し当たり簡易裁判所判事を除きますが、これは司法修習を終了した者の中から直ちに採用された判事補と判事補の中から判事に任命された者が大部分を占めておりまして、弁護士等から任命された裁判官は極めて少数であります。裁判官の任用の実情が、このようになっているということについては、歴史的沿革のほかに、職種間での人的流動性が乏しい上に、弁護士の総数も少なかった我が国におきましては、一定の資質、能力を備えた人材を全国の裁判所に確保するためには、そうならざるを得なかったという事情があると思われます。
 しかし、このように裁判官の給源が事実上単一化しているということは、裁判官となった者がお互いに切磋琢磨して成長していく上でも、また裁判所全体としての組織の硬直化を防ぐ意味でも、決して好ましいことではありません。裁判所としては裁判官の給源の多様化、多元化を図る方策を進めていきたいと考えております。
 1ページの「(1)弁護士任官の推進」ですが、裁判官の給源の多様化、多元化を図るための方策として、最も現実的で意義のある方策は弁護士任官の推進であります。ただ、これまで種々の工夫を講じたにもかかわらず、現実には弁護士からの任官は極めて少数にとどまっております。その理由は別紙の方の6ページにも記載したとおりでございますが、収入の問題とか、弁護士こそ自分の天職であるという弁護士の方々の思いといったもののほか、受任事件の引き継ぎ、顧問先、依頼者等との関係の整理といった、事務所の閉鎖に伴う問題があると思います。また、裁判官と弁護士の仕事の内容に相当の違い、隔りがあるということも要因の一つだと思われます。いずれにいたしましても、弁護士任官の推進のためには、弁護士事務所の共同化、大規模化等の整備が重要であると存じますが、裁判所としても弁護士任官を推進するための方策を更に検討したいと思っております。
 具体的には、第一点として、任官することの魅力や任官しやすさが増すように、経験や希望に応じて、例えば倒産事件、知的財産権事件等の特定の専門領域の裁判事務を担当する形態での任官を推進したいと考えております。
 二番目に、裁判官の仕事に円滑に移行できるように、弁護士から任官した後に相当年数の経験を経た裁判官を部総括とする部を設けまして、弁護士任官者をまずその部に配置するといった方策の採用を検討したいと考えております。
 三番目に、これは従来から行ってきたことでございますが、弁護士任官者に対する研修を更に一層充実させていきたいと考えております。
 ただ、弁護士任官に伴う任地、報酬等の条件につきましては、現在以上の優遇は難しいところでございます。
 次に意見書本体の2ページですが、大学教授等からの任官の問題でございます。法科大学院の充実、発展とも関係する問題ですが、大学教授からの裁判官任官にも努めたいと思っております。将来的には、民間企業や行政庁で働く法曹からの裁判官任官にも期待しております。
 次に、意見書本体の3ページ以下ですが、「判事補制度の改革」でございます。意見書では(2)となっておりますが、まず「経験の多様化」の関係でございます。判事補につきましては、判事の重要な給源の一つとして更に必要な改革を行っていく必要があると考えております。特に判事補の間に裁判所外で種々の体験をする機会を得ることは、経験の多様化という観点から極めて有意義であり、今後そのための制度の拡充を図る必要があると考えております。
 そこで現在行われております留学、民間企業での長期研修、行政庁への出向に加えまして、弁護士事務所への長期間(少なくとも1年間)の派遣制度を導入し、原則としてすべての判事補が、その任期中に留学を含むこれらの外部派遣制度のいずれかに参加する機会を持てるように検討したいと考えております。また、裁判官の希望に従って専門研修を受講できるようにして、専門領域を持った裁判官の養成を図ることを考えたいと思っております。
 次に意見書の3ページの(1)ですが、「特例判事補制度の見直し」であります。特例判事補制度は、意欲ある若手裁判官の活用、離島や僻地を含む全国の裁判所への裁判官の配置といった点で大きな役割を果たし、また裁判所の大きな戦力となってまいりました。しかし、若い特例判事補が地方裁判所の訴訟事件を単独で担当することについては、当事者等から感覚的な違和感を抱かれることもあり得るところであります。経験の不足から生じる問題もないわけではないと思われます。そこで、特例判事補につきましては、裁判官の増強を図る中で、単独訴訟事件を担当する時期を7年目ないし8年目と順次後倒しとすることを検討したいと考えます。あわせて、簡易裁判所の事物管轄の改正とも関係いたしますが、簡易裁判所判事として執務することも考えたいと存じます。
 ここでキャリア制度に対する批判について若干触れさせていただきたいと存じます。これは別紙の方の4ページ以下に記載がございます。
 司法修習終了後、直ちに判事補として採用された裁判官について、限られた社会の中で純粋培養されるため、閉鎖的で世間知らずになりやすく、しばしば社会常識を欠いた判断をしがちであるという批判があります。このような批判が出てくる背景には、裁判官の実態が十分理解されていないことがあるように思われます。
 裁判官は、その仕事の性質上、行動に制約を受ける場面がないわけではございませんが、裁判官も仕事を離れれば、基本的に一般の市民と変わりのない生活を送っているものでありまして、日常生活上の制約は誇張されて述べられることが多いというふうに思います。弁護士と職業生活上の経験を比較しました場合に、弁護士は一方当事者の立場に立って、その利益を最大限主張することに努め、法廷に現れる以外の事件の背景事情に接するということになるのに対しまして、裁判官は多種多様な事件を数多く担当し、常に当事者双方の主張を聞き、公正、公平な立場から一定の判断をするという職務を果たす中で、物事を両面から考えていく経験ないし訓練を積んでまいります。いずれの経験も、法曹として、あるいは裁判官として貴重なものであります。どちらか一方が他方より重いと言うことはできないと思われます。
 また、常識や価値観は、体験を通じて身に付くところが少なくないにいたしましても、その他のさまざまな情報を通じて得られることも多いわけであります。特に、現代のように社会が複雑、多様化し、情報量が多い時代にありましては、個人的な体験は極めて限られたものとなっておりますから、体験を越えた各種情報の意味が格段に大きくなっていると言えるのではないかと思います。
 常識に反するとして批判を受けるケースには、当事者の立場や心情に対する配慮を欠いた不用意な言動等、批判を受けてもやむを得ないものも勿論ありましょうし、このようなケースについては深く反省しなければならないと思っております。しかし、他方の当事者から見ると別の見方があり得るというものや、裁判官の言動などがなされた状況を抜きにした批判も見られるように思われるのであります。
 もとより、このように申しましたからといって、多様な経験を積んだ法曹を裁判官に任用することの意義、裁判官に裁判だけでなく広い体験をする機会を設けることの重要性が、これまでにも増して高まっていることを否定するものではありません。裁判所としても、裁判官の給源の多様化を図り、外部への派遣の充実を図ることの必要性を認識しておりますので、先に申し上げた方策を講じてまいりたいと考えております。
 次に、意見書本体の4ページ以下ですが、「人事の透明性、客観性の確保の関係」でございます。まずその中で(1)の「裁判官指名諮問委員会の設置」でございますが、裁判官の任用に、裁判所外の者の意見を反映させ、人事の透明化・客観化を図るため、最高裁判所に判事及び判事補への任命、これは判事の再任を含みますが、そのための指名の適否につきまして、諮問を受けて意見を述べる裁判官指名諮問委員会を置くことを考えたいと存じております。
 憲法は、下級裁判所裁判官の任命について、最高裁判所が指名した者の名簿によって内閣が行う旨定めておりますが、これまで名簿登載の決定過程は最高裁判所の内部手続として運用され、第三者の関与する場面がなかったために、国民の目から見て、採用が適正に行われているかどうか、わかりにくいものになっていたということは否めないと考えます。そこで、この点を改善し、国民の裁判官に対する信頼感を高めるために、最高裁判所に、今申し上げましたような諮問委員会を設置することが適当であると考えます。
 次に、これは別紙の9ページに主として記載してございますが、裁判官の採用基準の関係であります。裁判官の任命に関連して、裁判官の採用基準についての議論がございますが、裁判官の採用基準というものは、とりもなおさず、どのような資質、能力を備えた者が裁判官にふさわしいかという問題であります。下級裁判所裁判官について言いますと、必要な資質・能力としては、まず法律家としての能力・識見が高いことが挙げられると思います。裁判官にとりまして、事実を認定し、法を解釈適用するための法技術、事件処理に必要な理論上及び実務上の専門的な知識・能力を備えることが、まずもって必要な条件であります。
 もっとも、その能力のレベルがどの程度なければならないかということは、一概に決定できない問題でございましょうし、識見ということになりますと、幅広い教養に支えられた視野の広さ、人間性に対する洞察力、社会事象に対する理解力を始めとする、極めて多くの要素を総合して判断されることになると思われます。また、人物、性格面では、廉直さ、公平さ、寛容さ、忍耐力、決断力、慎重さ、注意深さ、独立の気概、精神的勇気、協調性、積極性等、数多くの要素が求められてくると思われます。
 ただ、これらの人格面の要素を多く含む資質・能力について、できる限り客観的に把握し総合的に判断していくということは、決して容易なことではございません。最高裁判所が従来、「裁判官の採用基準は能力、人物等を総合して裁判官にふさわしいと認められるかどうかである」としてきたのには、こうした事情が与っております。
 仮に、裁判官指名諮問委員会が設置される場合には、裁判官の採用基準ないしは採否の決定に当たり考慮すべき事項についても、委員会の判断によって、委員会がそうしたものを定めるということも考えられると思います。
 また、裁判官の採用、再任に関する事項は、指名諮問委員会において検討されますけれども、最高裁判所の裁判官会議による不採用・不再任の結論については、説明責任を果たすという趣旨から、申出があれば可能な限度でその理由を本人に開示する方向で検討したいと考えております。
 次に、別紙の方の10ページ以下に記載がございます人事評価の関係について触れさせていただきます。
 裁判官の評価に関係する事項は、既に述べました裁判官の採用基準と密接な関連性がございまして、採用に当たって問題となるような事項は、そのほとんどが人事評価のための事項にも該当し、これに職務上の実績に関する事項が加わるということになると思います。その意味で、総合的評価の難しさという、採用基準と同一の問題があるわけでございます。
 裁判官の人事評価は、若手の場合にはその教育・育成のための資料、それ以降は部総括の選考を中心とした適正配置の資料とするところに主眼がありますので、その点からも厳密なランク付けよりも、裁判官の資質・適性の把握に力点が置かれてまいりました。現在の評価の方式は、このような考え方に沿って、対象者の特性に応じて適性等をより具体的に把握できるよう、自由な形で記載してもらうことにしております。
 裁判官の評価については、裁判官の能力が専ら処理した事件数といった、量的な基準で図られているのではないか、また判決の結論、例えば刑事事件で無罪判決を出したような場合には、マイナスの評価を受けるのではないかとか、そういった誤解をされている面があるように思います。しかし、裁判官の職務は、十分な準備に基づいて審理の適切な進行を図り、事案に対する正確な認識の上に立って、法と健全な良識に従い、公平に事件を解決するということにあります。また、事件の結論は当事者の主張によって左右されるものでありまして、何があるべき結論であるかということが、アプリオリに決まっているというものではございません。したがいまして、裁判官の評価は単なる処理件数とか、判決の結論によって行われるものではないということが言えるわけでございます。
 最後に、これは意見書の本体の6ページでございますが、人事評価の透明化について申し上げます。
 裁判官の人事評価の透明化につきましては、評価制度を設計するに当たって、評価結果の使用目的との関係で、評価の基準、これは評価項目といった方が適当かもわかりませんが、これをどのような形で定めるのか、自己評価を取り入れるのかどうか、評価結果を本人に開示するのかどうか等、多くの難しい問題点がありますものの、人事の透明化の要請が、社会一般における最近の流れであるという認識の上に立ちまして、諸外国の制度等も参考にしながら、現場の裁判官の意見も十分に聞いて検討を進めたいと考えております。
 なお、異動計画につきましては、各裁判官の希望・家庭事情・評価、各裁判所における配置の都合等を総合的に考慮し、全体のバランスを図りながら決定されるものでありますから、委員会等を設けてこれに諮るということは適当でないと考えられます。
 また、一般的に申しますと、異動者各人にその理由を開示することも、今申しました理由から難しいところでございますが、現在でも個別に必要がある場合には、可能な限度で異動の理由を本人に説明することはございますので、今後はこうした運用の励行に一層努めたいと考えております。
 以上でございます。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。それでは、今お聞きましたお話につきまして、質疑応答を行いたいと思います。色々と御質問があろうかと思いますけれども、最初に申し上げたように、一応目途としては30分ぐらいを考えております。どなたからでも。
 では、髙木委員どうぞ。

【髙木委員】最高裁の方に二、三点お尋ねしたいと思います。一つは、別紙の10ページの人事評価の現状と問題点というところに、「誤解」という言葉が5回も出てくるわけです。その辺、最高裁の方もお気になさって「これまで詳しい説明がなされてこなかったこともあって」ということは書いておられますが、まさに説明もしないで「誤解」という言葉を5回も使うという神経はどういうことなんでしょうか。実際には、誤解という二文字は4か所で、もう一か所同意義で「理解しないもの」という表現を含めて5回ということですが、こういう感覚が大変問題なんじゃないかなと、私はこれを読ませていただいて感じましたんで冒頭それを申し上げました。これは感想でございますから、お答えは要りません。
 二点お尋ねしたいんですが、一つは特例判事補の問題で、裁判所法は判事の任命資格について、10年の法律家経験を要求しているんですが、特例法は5年の経験で判事とほぼ同等の権限を認めている。こうした判事補制度が、裁判所法本来の趣旨に合致しないのは明らかじゃないかと私は思っているんです。そしてまたこの制度は、判事数の不足に対応するために、まさに当分の間特別に設けられた例外的措置、という位置づけになっているとも聞いておりますが、それにもかかわらず、これまで必要な判事数を確保するために必要な方策を講じるといったような、この例外措置を何とか早くやめようという努力が、これは法曹三者皆さんの責任だと思いますが、なされないままに、また最高裁は判事補として5年経った時点で、それぞれの方をどういう審査をされて、特例判事補にされているのかよくわかりませんが、ほぼ自動的に特例判事補に指名していると聞いております。こういう特例判事補制度をキャリアシステム維持のための装置として位置づけてきたんじゃないか、これは私の受け止め方ですが。
 今回の最高裁の金築局長のいろんなお話、今お聞きしますと、特例判事補制度が例外的な制度であり問題があるということについては御認識がどうもあるようです。しかし、特例判事補が実際上裁判所の大きな戦力となり、機能を果たしてきたということを大変強調され、単独事件を担当する時期を若干後倒しにするというような、運用面で対応するということは書いておられます。裁判所の立場から言われたら、特例判事補の皆さんも一生懸命やっているんだし、裁判内容にも問題はないというふうな御認識なのかもしれません。勿論、実際には極めて優秀な特例判事補としての仕事をなさっている方もおられるんだろうと思いますが、今、我々審議会が議論しているのは、個別の人がどうのこうのということではないはずだと思いますし、あるべき制度はどうなのかということを我々は議論しろと求められているんだろうと認識しております。
 裁判所法で、一人前の裁判官である判事の任命資格、先ほど申し上げましたように10年の法律家経験を要求しておられる趣旨、あるいは、裁判所に違憲立法審査権まで認めていること、あるいは裁判官独立の観点、そんなことを色々踏まえて10年というのが決まっているんだろうと思います。この点を、やはり重く受け止めていただく必要が当然あるんだろうと思います。我々一般の国民、市民からすれば、やはり10年の法律家経験で担保された人に裁かれたいと思うのは当然のことではないでしょうか。
 ちょっと長くなって申し訳ありませんが、ここで今すぐ特例判事補をやめろと言ったってそうはいかぬ面もあることは承知をいたしておりますが、日弁連の児玉副会長もおっしゃいましたが、法曹三者で協力いただいて、定員増、人員増という面でアプローチしていけば、この廃止に向かって色々努力していくことは十分可能なはずだという認識を持っておりまして、運用面でこの制度を維持していこうという発想からはもう離れるべきじゃないかと思います。例外措置を更に複雑にするようなアプローチはもうなしにしていただきたい。そういう意味で筋を通すべきじゃないかなと思っております。つまり、判事を増やして特例判事補を廃止すればいいんじゃないですかということです。私は、何も乱暴なことを言っているという認識では全くありませんので、その辺について御見解をいただきたいというのが一点です。
 もう時間もありませんので、もう一点だけ、研修で経験の多様化を図るということですが、「少なくとも1年間」ということなんですが、自主的にみんな行きなさいという仕組みでおやりになると言われる。現在の判事補としての身分をどうするかという辺りが余り明確には書かれておりませんが、私ども民間で色々仕事をしてきた者の経験から言いましたら、この程度の内容で経験の多様化が実質的に図られるというふうにはとても思えません。ですから、少なくとも身分の問題もはっきりさせて、年金だとか退職金の影響もあると言っておられますが、また現在整理回収機構なんかにも行っておられる方々をどういうふうに扱っておられるのかよく知りませんが、その辺は幾らでも知恵があるはずだと思います。そういう意味では、経験の多様化について、色々言われるからとりあえずこんなことで、というレベルを越えていない発想でお考えになるとこういうことになるのかという、そんな感じがしてならないんです。
 例えば、裁判所法42条を変えてしまって、そもそもこういう経験がなければ任命しないというふうに直せば簡単に済む話なのではないか。この程度で経験の多様化、他職経験と言えるのでしょうか。こういうアプローチではもうほとんど実質的なことにならないと私は思いますが、その辺について御見解を聞きたいと思います。
 以上でございます。

【最高裁(金築人事局長)】まず、第一点目の特例法の問題でございます。これは、裁判所法に対する特例という形になっておりますので、おっしゃった御趣旨はわかりますが、実質を申しますと、いわゆるキャリア国のドイツ、フランスなどでは、最初から権限の制限のない形でやっておるわけでございますし、意見書にも書きましたけれども、特例が付くころというのは年代的にももう30代になっておりますし、経験も5年を超しますと相当なものだと思います。
 もう一つは、これは使い方といいますか、仕事のしてもらい方が非常に影響してくると思います。単独事件を1人でやるということについては、先ほど弁護士会からも、「こういう若い人が裁判官ですか」というお話がありましたが、そういう抵抗感といいますか、そういうものが出てくるということはよくわかります。ただ、合議体の構成員として裁判に当たるということならば、やはり少し違うのではないかと。そういう面もございまして、特例判事補の問題点は、その仕事のやり方等を離れて一律に考えることは、どうだろうかなと思います。
 それから、もっと現実的な問題を申しますと、例えば先ほども申しましたが、全国に裁判所がございまして、離島とかだいぶ田舎もございます。そういうところに行っていただく方は、現実問題として家庭事情の制約等も少ない人でないとなかなか行っていただけないという問題がございます。特例が付きたての人ではございませんけれども、特例クラスで割合判事に近いような人にお願いして行っていただいています。ですから、いわば特例判事補がそういうところの裁判所を担っているわけでございます。これをずっと上の方のクラスにしますと、なかなか人が得られないという現実問題もございます。第一点につきましては、そういう実情等を御理解いただきたいと思います。
 第二点の研修の関係でございますが、これはしっかりした制度をつくりたいと思っております。ただ、その方法として裁判所法42条を改正するということは、判事補も憲法上の裁判官で10年の任期を保障されておりますし、そういう点からも色々問題があろうと思います。
 身分の問題は、いわば一つの技術的な問題でございまして、行く人に不利益を負わせない形で派遣するのにどういう形があり得るかという、法制的な、技術的な問題が色々ございますので、今後十分色々検討してやっていかなければいけないと思っております。
 とりあえず以上でございます。

【髙木委員】身分を保証されたままで他職経験、なんていうのは、いわゆるお客様であり、お勉強に行かれるのは結構なんだけれども、経験、それも他職を経験するということにはならないというのが、民間の常識だと私は思います。
 それから、失礼な言い方かもしれませんけれども、例えば3年、5年と弁護士事務所等に行かれたら、判事補で行かれたそのときの扱い方等によっては、判事補あるいは将来の判事という世界に戻ってこないんじゃないかという心配をされておるのかなと思われますが。もしそうだとしたら、判事補の人たちに大変失礼な発想じゃないでしょうか。この辺は、私のうがった見方かもしれませんが、その辺はどうなんですか。

【最高裁(金築人事局長)】戻ってこられるかどうかということを特に心配しておるわけではございませんが、これはより多様な経験をした裁判官を育てるという問題でございますから、帰っていただくということは当然前提の話だと思います。その際に、身分があるから気持ちが入らないというようなことは、私はないのではないだろうかと思います。現に、外部に行っております者に時々来てもらって話を聞いたりする機会もございますが、本当にその会社の人間になり切っているようなところがございまして、私もある電気メーカーに行った人に、危うくクーラーを売り付けられそうになったことがありますけれども、その会社に気持ちの上でも一体化しようと、その企業の、民間の効率性でありますとか、顧客本位の考え方でありますとか、色々なそういうよいものをできるだけ吸収しようと、その中に溶け込まなければそういうものは吸収できないわけですから、そういう気持ちでやっているように見ております。

【井上委員】時間もないということですが、あと10分なので。

【佐藤会長】場合によってはもうちょっと配慮しますから、どうぞ。

【井上委員】それぞれの方にお聞きした方が、公平かと思いますので、まず弁護士会には、推薦委員会の関係なのですけれども、その意見を最高裁としては尊重すべきだとされているのですが、これは拘束されるということなのかどうなのかということと、尊重ないし拘束だとして、憲法で最高裁に与えられている指名権との関係は、どういうことになるのかということをお聞きしたいと思います。
 また、各高裁単位に設けるということなのですが、高裁をまたがった、別の高裁の管内に異動を認めるということはお考えになっていないのかどうかということです。
 もう一つ、弁護士任官なのですけれども、弁護士会が責任を持ってもっと弁護士任官を推進したいということですが、これは非常に心強いお言葉なんですけれども、その担保をどうするのかということなのです。なってもらいたい人というのは、なりたい人とは必ずしも限らないので、あなたがなってくださいと言った場合に、嫌だと言う人は出てくるだろうと思うのですが、その辺の制度的担保というのをどういうふうにお考えなのか。特に、判事補制度の廃止ということがうたわれるならば、どんどん応募してくるだろうというふうに言われるのですが、私はむしろ、業務に伴う問題とか事務所をどうするのかとか、そういったことの方がむしろ大きいんじゃないかなという感じがするものですから、そうだとすると、やはり何らかの制度的担保ということをきっちりしないと、責任を持つと言われただけでは、ちょっと大丈夫かなという感じがするわけです。
 法務省には、諮問委員会は中央に置くのだけれども、資料とか情報は地方から集めると、これは裁判所のペーパーにもちょっと触れられておりますけれども、その趣旨をもう少し御説明いただきたいと思います。
 裁判所には、弁護士会の方では「推薦委員会」ということになっているんですが、推薦委員会じゃなくて「諮問委員会」とする理由は何かということをお聞きしたい。
 もう一つは、それに関連して、諮問をする場合の候補者のリストというのは、どういうふうにして用意するとお考えなのかということです。
 短くと言いながら、色々聞いてしまったのですけれども。

【佐藤会長】それでは弁護士会からお願いします。

【日弁連(児玉副会長)】はじめに弁護士会からお答えいたします。まず、第一点の、指名委員会について憲法上にある指名権との関係はどう考えるのかという点でございますけれども、指名権を最高裁が持っていることは、その通りでありますし、それは尊重しないといけないと思います。したがって、この指名委員会が自ら積極的に掘り起こしまして、ないしは応募によりまして掲げました名簿については、拘束力を持つというところまでは日弁連は考えておりません。
 しかし、尊重はされなければならないということです。尊重される根拠は、最高裁自らが指名委員会を設置するわけですから、そこで出された結論について自ら拒否されるということは、やはり大きな問題があるんじゃないかということになります。そういう意味で、是非尊重していただきたいということを言っておるわけでありまして、拘束力までは考えておりません。
 二番目に、各高裁単位で指名委員会をつくりますけれども、異動等は認めるのかという点でありますが、まず任官と再任については、その地の高裁単位の推薦委員会がこれを審査いたします。そして、いわゆる異動というのは、途中であちらに替わりたいというときは、応募という形になるんだと思うんです。応募するときには、ポストを決めて応募をするという方法を取ることを前提にしておりますので、そのときには例えば東京高裁管内から大阪管内に移るときには、大阪管内の方に応募していただいて、そして大阪高裁管内の推薦委員会で適当かどうかを判断するということになるんではないかと思っております。
 三番目に、弁護士任官について担保制度をどう考えているかということですけれども、まずいわゆる資質・能力を持った資格上の担保としては、弁護士会の「適格者選考委員会」で十分な調査をして、それに応えるようにしていきたいと思っております。
 それから、現実的には業務に伴う問題の方が大きいのではないかという御指摘がありましたけれども、日弁連としては、確かに業務に伴う問題があることは事実と認識しております。事務所を閉鎖し、また帰ってきたときにどうなるのかという点は、大きな問題ではありますけれども、これまで弁護士任官がはかばかしくなかった原因については、そういう面もありますけれども、やはり裁判所が魅力ある存在になっていないということにあるのではないか。何か窮屈で、いわゆる官僚的な色彩が残っているということに対する反発があったということも否めないと思いますし、私はその方が比重としては大きかったのではないかと思います。
 そういう意味で、判事補制度についての検討と、これから特例判事補制度の、例えば一定時期から廃止というようなものがはっきりされますと、大きく裁判所は変わるんじゃないかという期待がインセンティブになりまして、任官する人は増えるんじゃないかというふうに考えております。また、そういう形での説得をしていきたいというふうに考えております。
 ただ、言われました業務に伴う問題につきましては、改善しないといけない点もたくさんあると思います。前から言っておりますけれども、そのために弁護士会では、まず、しかるべき人材の発掘を、弁護士会の責務として組織的に行う。それとともに、その人が任官しやすいような支援事務所をつくりまして、一定の段階からは一緒に仕事をしておって、それでもし仮に任命、採用されたとしたのならば、あとは後顧の憂いなく事件をやっていけるという体制をつくるとか、更には申し出て指名が決まります間にちょっと時間が掛かりますので、その間に事件を受けるのはどうするのかという問題等については、これは東京弁護士会なんかも考えていますが、一定の基金をつくりまして、そこから貸与ないし援助するというようなシステムも考えたいというふうに思っております。
 以上です。

【佐藤会長】どうもありがとうございました。それでは、最高裁お願いします。

【最高裁(金築人事局長)】井上委員の方から諮問と推薦の違いという御質問がありましたが、名前の違いで実態がどこまで違ってくるかということは一概に言えないのかもしれませんが、一つは、この下級裁判所の裁判官の指名は最高裁判所の権限でございますけれども、同時にそれは最高裁が責任を持って裁判官の指名をしなければいけないという責務でもあるわけでございまして、主体としてはやはり最高裁判所の方にあるわけでございます。
 諮問委員会という名でも、この人は適当であるという場合は、推薦という内容の答申になることがあるかもしれせんが、他方、この人は適当でないという形で御意見を述べられるということもある。事柄の実質は、結局、最高裁判所が指名の適否を決めるために意見を聞くということですから、実質から見れば諮問ということではないかと思います。
 それから、候補者のリストの用意の仕方、これは、今後色々検討しなければいけない面があると思います。裁判所内部の人、ずっと裁判官できた人については最高裁の方から名前をリストアップするということに当然なりますし、それ以外の弁護士任官等の方で、希望している方については、これをルートを通じて諮問するという形になるのではないかと思っております。

【法務省(但木官房長)】私への御質問についてですが、次の時代、法曹人口が飛躍的に多くなりますと、法曹資格を持っていろんな分野で御活躍の方が出てくるだろうと思います。それで、いずれにしてもそういう人たちが10年間いろんな分野で活躍されて、その中で優れて裁判官に向いているという人達、この人に国民の権利義務について判断させていいのではないかという人達を選び出そうというのが、今度の判事採用の方法であるというふうに思っております。
 したがいまして、ある地域で採用するとかしないとかいうことではなくて、全国的な規模でこの人は判事にふさわしいかどうかという判断をする、そういう機関だろうというふうに思っておりまして、そういう意味では中央においてその人に判事としての資格があるかどうかということを判断する唯一の諮問機関ということでいいのではないかと思っております。
 ただ、そうは言いましても、中央の機関に何にも情報がなく名前と住所だけで決めろと言われても、これはたまったもんではないので、その人がどういうふうに活躍してきたのか、それは自己申告も必要ですけれども、しかし同時にそれに対するいろんな評価があるでしょうから、それについてもその人が活躍していたところから情報を吸い上げて、中央の諮問委員会が的確な判断が下せるように工夫しなければならないというふうに思っております。そういう情報を汲み上げる工夫というのは、いろんな形で考えなければならないし、かなり細かい考慮を働かせないと、諮問委員会をつくっても、単なる事後的なオーソライズ機関になってしまうと、それをやはり避けなければならないんで、何か考えなければいけないなというふうに思っています。
 判事補の問題についても、やはり観念的には、10年間で法曹資格を有するすべての人たちが一旦、判事になれるかなれないかというところでは平等な資格があるのではないかというふうに思っておりまして、やはり中央における諮問委員会に判断してもらわなければならないんじゃないかなというふうに思っております。
 以上でございます。

【佐藤会長】ありがとうございました。藤田委員どうぞ。

【藤田委員】児玉先生に質問させていただきますけれども、判事補制度に対する厳しい批判がございました。全国の判事補のために代弁をいたしますと、判事補の仕事は判事の補佐、代行、見習いというふうにおっしゃいましたが、確かに仕事を通じて成長していくということではトレーニング的な要素もあると思いますけれども、必ずしも判事の補佐、代行にとどまるわけではなくて、独立して裁判官としての仕事をしているわけでございます。私もかつて未特例判事補の左陪席当時、合議事件で最後まで裁判長と右陪席と意見を異にしたことがございます。意見を異にしたといっても、結局は2対1で少数意見になったんですけれども、そういうこともございますし、裁判長になりましてから、両陪席と意見が違いまして、結局自分個人の意見とは違う判決をしたこともございます。高裁で取り消されたんで、それ見ろと言ったんですけれども。
 そういう意味で、独立した裁判官としての仕事をしているという実態を是非御理解願いたい。先ほどからお話がありましたが、判事補は昔、特例を付くのを待ちかねるようにして右陪席あるいは単独を担当させられて、最近はかなり判事の増えてきたということもありまして、そういうことにはならない。東京地裁での右陪席はほとんど判事でございます。
 それと、前回私は、任官早々に少年事件と民事保全を単独でやったと申し上げましたが、現在では任官早々そういう仕事を単独では担当しない方向で運用しているようであります。しかし裁判制度というのは、現在、特例判事補によって維持されているという面がございます。島谷六郎先生、弁護士から最高裁判事になられて、定年退官後現在、弁護士をやっていらっしゃいますが、この方が日本法律家協会の機関誌「法の支配」、あるいは学士会報にお書きになった判事補制度についての見解として、先生は、基本的には法曹一元的な考え方に賛成していらっしゃるんですが、性急に判事補制度を廃止すると司法制度の維持が困難になるのではないかとおっしゃっているんですが、その点についてどういうふうにお考えかということが第一の質問です。
 二番目は、裁判官の選任、あるいは人事管理、配置等について、国民の意思を反映し透明化する。それは、大変結構なことではあるんですけれども、場合によっては世の中の一般的な考え方に反するような判決をせざるを得ないようなこともあるわけでありまして、最近世の中から批判された判決の例を挙げれば、銀行の経営者に対して何百億円という損害賠償を命じた判決があります。非常識という批評もありましたが、現行の法律制度の下では、あのような結論しかあり得ないというふうに考えます。また業務上過失致死の事件で、子どもさん2人が亡くなったという、大変気の毒な事故についての量刑について、軽過ぎるという批判がありました。新聞の特集記事によると、高裁の裁判長も大変悩んだ末に控訴棄却をしたそうですが、そういうような意味で必ずしも世の中の一般的な意見に合致しないような判決もせざるを得ないようなことがあり得るわけですから、そういう意味で裁判の独立との関係をどういうふうに考えたらいいかということが二番目の質問であります。
 三番目は、裁判官の増員についてです。これはもう確かに増員しなければいけないと私も思いますけれども、飛躍的な増員ということになると、これはやはり今のようなキャリアシステムを前提にしての話でありまして、矢口元最高裁長官が大阪弁護士会で講演されたときに、法曹一元と同時に裁判官の飛躍的増員ということをおっしゃっている方は、本気で法曹一元の実現を目指しているんではないんじゃないか、つまり、法曹一元というのは、非常に優れた先輩の裁判官に裁判してもらうことによって納得するという制度であるから、そういう意味では法曹一元という制度を取れば裁判官の数は減るはずなんだというようなことをおっしゃっているんですが、その点についてどうお考えになりますか。およそお考えはもうわかっておりますので、結論だけ伺えば結構でございます。

【日弁連(児玉副会長)】まず第一点の判事補制度についてでございますけれども、先ほど申し上げました三つの判事補の機能のうち、現在は特例判事補がありますので、いわゆる単独審の裁判官をなさっているという意味で、まさに判事の代行をされておられるわけです。と同時に、判事補はいわゆる教育訓練の対象、見習いとしての面もお持ちだと思うんです。その辺が、現在の憲法上の裁判官制度の中で矛盾する形になるのではないかというふうに私たちは考えております。
 したがって、現実的に判事補の方々が過疎地、僻地等を含めて頑張っておられることは否定いたしませんけれども、制度的に問題がある以上は、やはり変えていかなければならないんじゃないか、変えていくとしたらどういうふうに変えたらいいのか、ということで、やはりその判事補の機能のうち、いわゆる補佐的な面、独立した裁判官を側面から援助するという、これも大きな尊い仕事だと思うんですが、そういういわゆるロークラークとしての面を主としてお考えになっていただきたいというのが弁護士会の意向であります。
 現に未特例判事補も、委員がおっしゃいましたように保全とか少年事件は独立してされております。しかし、私たちよく保全処分で感じるんですけれども、保全処分こそ、非常に紛争の発端における尖鋭な争いがあるときになされるものであるだけに、やはりこれは是非とも判事の方に担当していただきたいという声が強いわけであります。そういう意味でやはり未特例判事補に1人でできる事件として軽易なものということで、保全処分が入っているということには大きな疑問を持っておりまして、その辺も含めての意見だということを御理解いただきたいと思います。
 選任の透明化と裁判の独立の関係はどうなのかということですが、この推薦委員会が裁判の独立を侵すようなことがあってはならないと私も思います。したがって、推薦委員会の資料として評価の問題があるわけでございますけれども、そこには裁判の中身についてのものは出すべきではないというふうに、また考慮すべきではないと考えています。先ほど、委員がおっしゃいました代表訴訟などの判決等につきまして、それをしたからといってマイナスに評価するというようなことはあってはならないというふうに考えていますし、また選考そのものが公正、中立であるような委員の構成にしていかなければならないと考えています。
 その次に、3番目の質問についてですが、ちょっと今聞き逃してしまいましたので、申し訳ありませんがもう一度おっしゃっていただけませんか。

【藤田委員】元最高裁長官の矢口先生が大阪弁護士会で講演された折に、これは失礼な言い方かもしれませんけれども、矢口先生一流の表現でありますが、法曹一元と同時に裁判官の飛躍的増員ということを主張されている方は、本気で法曹一元を実現しようと思っておられるわけじゃない、なぜならば、法曹一元というのは非常に優れた先輩を選んで、その人による裁判だから納得しようというものなのだから、そういう制度を取る以上は裁判官の数は減るのが当たり前であり、法曹一元を取れば裁判官数は、現実にも減るだろう、というようなことをおっしゃっています。私は裁判官の増員はしなければいかんと思うんですが、それは今のキャリアシステム、色々改革を加えるにしても、そういう制度を前提としてでなければ実現不可能ではなかろうかと思うんですが、その点についていかがお考えでしょうかということです。

【日弁連(児玉副会長)】矢口元長官がおっしゃるとおり、法曹一元になると、これが理念的に機能するとすれば、条件にもよりますが、今よりも裁判官は少なくてもいいということもあると思います。例えば、いわゆるアメリカ的なロークラークのようなのが付いて、補助者が付きましたならば、裁判官そのものは今よりも数が少なくて済むということになるのではないかと思います。
 しかし、弁護士会が今言っております裁判官の大幅増員は、一面的には弁護士任官を含めました、良質の裁判官をいかに増やすかという面もありますけれども、現在の裁判所に裁判官が少ないということも前提にしてペーパーに書いております。当面早急に3,000名ということを申し上げているわけであります。これは、現在の民事裁判、現在の刑事裁判でも、やはり裁判官が足らないために、大変時間が掛かり、そのことに対する批判が起こっているわけでありまして、そういうものも含めて言っておるわけでして、弁護士任官との関係だけで増員を言っているんではないということを、是非御理解いただきたいと思います。

【藤田委員】ありがとうございました。

【佐藤会長】それでは、石井委員どうぞ。

【石井委員】以前、弁護士制度について私がレポーター役をさせていただいたときに、悪徳弁護士という言葉を常々耳にしていたものですから、ついつい弁護士さんの倫理教育ということについてかなり強調させていただきましたが、今度みたいな事件を見ておりますと、残念ながら裁判官についてもやはり同じことを考えなければいけないのではないかと思った次第であります。法務省の方でも最高裁の方でもどちらでも結構でございますので、その点についてどうお考えになっていらっしゃるかお話しいただけたらと思います。

【法務省(但木官房長)】誠に申し訳ないんですけれども、現在捜査が開始されておりまして、脅迫罪の捜査及び国家公務員法違反で告発が出ましたのでこれについての捜査、そして調査もやっておりますけれども、これらの捜査の途中でございますので、現在の段階であれこれ申し上げるのは、ちょっと御勘弁いただきたいと思います。
 ただ、冒頭に申しましたように、捜査、調査が終了いたしました段階で、皆様方に報告を申し上げ、そして我々の改善すべき点があるとすれば、つまりこれが単に個人の検察官の問題にとどまらず、検察全体の問題として受け止めるべき事項というのがあるやに思われますので、その点につきましては皆様方に御報告申し上げ、御指導をいただく機会を設けていただければと思っております。現段階におきましては、その途上で色々中途半端なことを申し上げるのは、かえって信頼感を損ねるようにも思いますので、御勘弁いただきたいというふうに思います。

【石井委員】今私が御質問申し上げた内容とちょっと違うお答えになったように感じましたが、確かにおっしゃることもわからないわけではないのですが、それでは質問のやり方を少し変えさせていただきます。すなわち現在はどういう倫理教育をなさってらっしゃるのか、これは今度の事件と全く関係なくお考えいただいてお答えくださればと思っております。
 それから、これからどのような教育方針を取っていくおつもりなのか、その点も今回の捜査、調査の結果等をある程度踏まえてからというのもわからないでもありませんが、やはり基本方針というものを、法務省としてお考えいただく必要があるのではないかと思っておりますので、そういう見地からお答えいただけたらと思います。

【法務省(但木官房長)】勿論、検事の基本的な倫理、職業倫理につきましては、一番大きなものは、自分の職務遂行を通じての倫理観の研磨でありますけれども、それだけでなく勿論、多種多様な研修をこれまでにも行ってきております。検察官としてあるべき姿というのは色々な角度から、つまり一つは、権限を行使する者として最低限守らなければならない倫理、例えば贈収賄のような事件を検事が起こしたら、これはもう世の中が本当にもたなくなる。それはもう最低限の倫理であります。それから、権限行使ということは、ある意味で人権を侵害するわけですから、そうした人権を侵害するような権限を行使すべき人間として心得ておくべき考え方というものも教育しますし、あるいは勿論一番底に流れている正義感、そういうものも育むようにしてまいります。ただ、今回の案件というのは、単にそれだけでは済まされない問題をはらんでいるようにも思えるのであります。したがいまして、今後どういうような形で検察官を育てていくべきかということについて、やはり今回の事件を通じて、どういう問題点がその中にあるのかということを、きちっと把握した上で考えていきたいというふうに思っております。

【最高裁(金築人事局長)】今回の件につきましては、裁判官自身にどういう問題行動や責任があったのかということについて確定されているわけでございませんので、今日の件は別といたしまして、裁判官の倫理、正しい姿勢を保つということにつきましては、これは紙の上だけで学べる、身に付いていくという問題ではない。先輩の背中を見て、その謦咳に接して自分のものにしていくということが、従来それが基本であったと思いますし、今後もそうだとは思います。ただ、それだけではなくて、色々な面で、研修等を含めまして、そういう自覚を促すきっかけを与えるということは、やはり必要ではないかと思っております。

【佐藤会長】では、吉岡委員どうぞ。

【吉岡委員】できるだけ手短かにいたします。
 今の石井委員の発言とも関係するかもしれませんけれども、今回の福岡の事件については個々の判事、検事の問題だけではなくて、私はもう少し構造的な問題があるのではないかと思っています。これは後に機会をというお話がございましたので、もう少し明らかになったところで言及したいと思います。
 それで、特に最高裁判所のペーパーについて意見を申し上げたいのですが、土曜日にこの書類が自宅に送られてきまして、拝見した第一印象としては、最高裁判所も随分変わったのかなという印象を持ちました。やはり、世論が変わってきたので、世論を考えて変えなければいけない、そういう御認識があるのかなというふうに思ったんですけれども、二度目に読んでみますと、実はそれほど変わってはいらっしゃらない。むしろ、手直し的なことをおやりになっているという印象を持ちました。その中の一つ、二つ申し上げます。まず、3ページの特例判事補制度の見直しについて、これは今、5年経ったらほとんど自動的に特例になると言われておりますけれども、ここでは7年目ないし8年目と後倒しにするということが書かれておりまして、これも7年とか8年という年限を切って決めるのではなくて、判事補の特質を見ながら決めていこうという意思の表れだと思われますので、そこのところは大変評価したいと思うのですけれども、ただ、注書きのところを見ますと「こうした施策をとるためには、相当大幅な判事の増員が必要であり」云々と書いてありますので、条件が整わなければできないというように読むこともできます。これは、もしかすると私の読み方が間違っているのかもしれませんけれども、そんなふうにも読めます。
 もう一つは、素直に読んで、大幅に判事を増員していくと、これは弁護士任官も含めてですけれども、大幅に増員していくという中で後倒しに考えていく、それで8年になり9年になり、やがては特例判事補は廃止していこうという、そういう基本的な考えがあっての記述であれば、大変結構なことだと思います。
 経験の多様化について、同じページですけれども、経験をさせなければやはり一般からは信頼が得られない。そういうことで、色々な経験をさせようというところは非常に評価できるところです。ただ、この文書を見ますと「留学を含むこれら外部派遣制度のいずれかに参加する機会を持つことができるように検討したい」ということで、今は特別な方だけが行っている外部経験を全体に広めるという意味かもしれませんが、1年程度外に出たという、その経験だけで多様な経験を積んだと言えるでしょうか。私は言えないと思います。判事補だけではなくて、一般の市民の場合もそうですけれど、学校を卒業して企業に就職した場合、1年で企業が期待できるほどに育つかどうか、恐らく一般的な企業の場合ですと、2年は教育期間ということで見ていると思います。そういうことからしますと、判事補という資格を持った人が1年ぐらい民間企業に行ったからといって、先ほどは随分企業の人になり切っているというお話がありましたけれども、幾ら判事補が優秀であったとしても、それはおのずから限界があることであって、それをもって経験の多様化というのには、少しお粗末ではないかと思います。
 4ページ目の、人事の透明性、客観性の確保、これについて裁判官指名委員会を設置するということが書いてございまして、私は推薦委員会ということを何回か申し上げているのですけれども、そういう委員会を設けるということは非常に前向きだとは思います。ただ、最高裁判所に委員会を設けるということと、それから「諮問」という言葉が入っています。「諮問委員会」という場合は、最高裁判所の諮問があった場合に会議が開かれて、それで結論を出すという、それが一般の審議会の考え方と一致するところだと思います。そうしますと、諮問をしなければ開かなくてもいいという見方もできます。やはり、裁判官指名委員会、諮問をちょっと取りますけれども指名委員会として、それで諮問だけではなくてもう少し主体的に委員会が動けるという、そういう姿勢が必要ではないかと思います。
 まだ、このペーパーの中では言いたいことはありますけれども、時間もあまりございませんので、とりあえずそこまでにします。

【最高裁(金築人事局長)】時間の関係もございますので、少し簡略に述べさせていただきますが、まず第一点の、特例判事補についての方策の関係で増員が条件になるかどうかということですが、これは増員していただかないと、現に戦力として働いているわけで、それだけ減るわけですから、ほかの要因での増員ということも勿論ありますが、それ以外に、特例判事補に単独訴訟事件を持たせないということにすると、その分はやはりここに書きましたような増員がどうしても必要になってくると思います。そういう意味では、条件でございます。
 経験の多様化については、十分にやればやることに越したことはないと思います。「弁護士事務所へも少なくとも1年間」ということにしてございます。この点については、一つには受け入れ先の色々な問題もあると思いますが、できるだけのことはしたいと考えております。
 三番目に、「諮問」ということでは、諮問しないこともあるのではないかというお話ですが、任命、再任するときには、必ず諮問いたします。その点は御安心をいただきたいと存じます。

【佐藤会長】次は、山本委員と中坊委員ですね。一応そこで打ち止めにさせていただきたいと思います。まだ色々と御質問があろうかと思いますが、すみません。

【山本委員】日弁連に二点ほどお伺いしたいんですが、まず一点目は、弁護士からの裁判官への任官というのは、ある一定年齢に達してからの方がよろしいというふうにさっきお伺いしたんですけれども、どのぐらいの年を考えていらっしゃるのか、もし具体的なイメージがあればの話ですが。それから、任官されてすぐに裁判官の実務ができるのかどうなのか、多少の研修みたいなシステムをお考えになっておられるのかどうなのか、これが一点でございます。
 二点目は、日弁連のお考えによると、これから大多数の裁判官が弁護士から任用されて、かつその選任等に日弁連が絡んでいくというふうに聞こえたわけでございますが、私どもユーザーの方から見ますと、多少不安感があるわけでございます。と言いますのは、裁判官の一番大事な属性の一つに、中立性というのがあると思うんです。さっきの吉岡さんの話じゃありませんが、どこかに研修に行って企業の人になってしまったんじゃ困るわけで、そういう意味ではやはり中立という属性は非常に大事だと思うんです。そういう意味で考えますと、お考えになっている大多数の裁判官が弁護士から任用されていくということになりますと、その弁護士は長いこと多数の訴訟を手掛けているわけでございますから、どこかで原告、被告双方の代理人という形で活躍されているわけでございます。勝ち負けはトータルとして見れば50:50になるわけですけれども、ユーザーから見ますと、相当数の裁判官が実はかつて利害関係人であったというふうなことになるわけで、そういったことについて、果たしていいのかどうかというのが疑問として一つあるわけでございます。その辺はどういうふうにお考えになっているのでしょうか。
 それから、これから弁護士がだんだん増えていくわけでございますが、今でも1万7,000人いますが、将来はフランス並みとか、6万とか10万とかたくさんの数になっていくわけですが、そういう中で弁護士会がきちんとした候補者の選定を果たしてできるのかどうか。また、弁護士の活動領域もかなり広がっていきますから、これも適切な候補者選びを難しくすることになるのではないか。そういったことが、私どもの疑問としてあるわけでございます。今でも弁護士会はいろんな社会的な運動をされており、これはある意味で任意の活動だというふうに理解しておりますけれども、これからそういう意味で裁判官の選任にも大きな力を持っていくということになると、現在認められている弁護士会の自治ということと、かなり性格的に違うことをおやりになることになってくるわけで、そこら辺についてどんなふうにお考えになっているか、お考えをお聞かせいただければと思います。

【日弁連(児玉副会長)】何点かお聞きいただきましたけれども、端的にお答えいたします。まず、任官の年齢についてですけれども、判事に任官するということになると、10年以上の経験ですから、やはり35歳以上ということになると思います。ただ、現在の任官制度は判事だけじゃなくて判事補の任官もありますから若い人も行っておられますけれども、判事の任官ということになると年齢的にはそういうことになると思います。
 それから、任官した後すぐ実務ができるのかという点ですが、これはよく言われますように、判決が書けるのかということに、究極にはなると思いますけれども、それはやはり、研修等をやるということと、判決そのものの在り方をまた考えるということが必要だと思います。
 現に、大阪等で議論されていますのは、民事事件であれば弁護士が最終準備書面をきっちり書く、刑事事件であれば最後の弁論要旨をきっちり書くという訓練を弁護士がしていけば、判決は割合書きやすいんじゃないか。現に、現在の弁護士がそこまでやっていないという段階で即判決となりますから難しいんで、そういうトレーニングを弁護士会の方できっちりやるということも必要じゃないかというふうに考えております。
 三番目に、中立性の問題をおっしゃいました。確かに小さいところで、一つの企業についての事件が出てくると、必ず小さい町にも顧問の弁護士がおられますから、そこから任官されたときに利害関係ということになるんじゃないかと思います。それは、やはり忌避とか回避とかいう形で、処理していかざるを得ないんじゃないか。そういう事件が出てくるとそういう制度が、今以上にきっちりと機能していかなければいけないんじゃないかというふうに考えております。
 更には、弁護士が選任に関与することによって、何か裁判官制度を牛耳るんじゃないかという趣旨のお話をされましたけれども、決してそういうことにはならないと思います。推薦委員会にも法曹三者が入りますから、弁護士のみが多数で入るわけじゃありませんから、しかも弁護士会にはその前に、選考委員会というのがありまして、そこでもって適格者を推薦するという制度を取っておりますので、特定の方がそこに入っていって牛耳るというようなことを起こり得ないと思っております。
 その次に、弁護士がたくさんに人数が増えたときに、果たして適切な選考ができるのかという点でありますけれども、そのためにも各単位会、各ブロックの適格者選考委員会がきっちり機能するということが必要ではないかと思います。現在大阪は2,400人ぐらいですが、このレベルであれば、各期との交流ないしはそれぞれの日常の付き合いの中で、「この方は裁判官に適する」という選別はできると思います。ただ、これがもっと増えて、5,000 人とか1万人になったときにどうかと言われると、そこまではちょっとはっきり申し上げられませんけれども、今のところは、各単位会が大阪ほどになるのには大変な人数だと思いますから、そのぐらいの人数までは可能であるというふうに思っています。

【佐藤会長】お越しいただくにつき、11時ちょっと過ぎまでとお願いしたにも関わらず、時間も大分オーバーしております。あと中坊委員と水原委員ですか、簡潔にお願いします。 まず、中坊委員どうぞ。

【中坊委員】私は、法務省と最高裁の方にそれぞれお尋ねしたい思いますが、私は今回お出しいただいたこのペーパーについて、根本的な点についてお尋ねをしたいと思います。
 まず、今回法務省は、この裁判官の改革問題に関して、今日のペーパーにも出ていますように、「現在の裁判官制度では国民からも大きな信頼を得ていると考えられる」ということがすべての前提になって、それなりの意見が出されておるわけであります。
 それでは、「国民から大きな信頼を得ておる」ということは、何をもって判断されたのでしょうか。少なくとも、そのことに関しては、つい最近我々が行った民事訴訟利用者調査でも、「裁判官について満足しておるのか」という問いに対して、半数以上の方が満足していないと回答している。あるいは、公正性、信頼性についても半々ぐらいというふうに、既に客観的なデータが出ておる。それが既に明らかになっているのにもかかわらず、なおかつこのように、「国民から大きな信頼を得ておる」ということを前提にしてすべての論拠をお始めになっているというのは一体なぜなのか、それが、今言うような福岡の事件を起こしたような判検の交流や、あるいは刑事事件の有罪率の異常な高さとか、いろんな問題を起こしているんじゃないかと私は言いたくなるんです。そういう点に関して、法務省側の今回の裁判官問題に関する認識は、私は基本的に非常に誤っておるというふうに考えるんですが、その点に関していかがお考えでしょうか。法務省にお尋ねします。

【法務省(但木官房長)】現在の裁判官が公平である、あるいは裁判が公平に行われているということについては、国民の間でそれなりの評価をもらっているのではないか。それは例えば、法曹三者に対する信頼感についての国民の意識調査等においても、やはり裁判官については国民からそれなりの信頼を受けているように思います。
 ただ、おっしゃるように、それでは現在の裁判制度に国民が不満を持っていないのかということになると、それはまた別の話でありますし、まして裁判の中に現実に身を置いた人たちにとって、勝ち負けがまず半分ずつあるわけですし、その中で色々な経験をされた人たちが、その立場から見て今の裁判の実情に満足できないという回答をされるのは、これも現実のことだろうと思っております。
 言ってみますれば、戦後できた新しい裁判制度が、今日まで曲がりなりにも機能してきて、大きな意味で言えば、日本の裁判制度については、それなりに公平に行われているという国民の信頼感は得てきただろうということです。しかし、その一方で制度的疲労の面もありますし、21世紀に向かっての在り方としては、極めて色々なところに不十分な点があって、大きく変革しなければならないというふうな状況下に、現在あるのではないかというふうに認識しております。
 ですから、それをすべての前提で書かれているところに非常に問題があるという中坊委員の御指摘につきましては、決して全般にわたって現在のままでいいんだと私たちが考えているわけではなく、中坊委員が言われるように、国民各層、あるいは現に訴訟に参画した人々の中には、大きな意味での裁判制度について、これには勿論、裁判官だけではなくて検察官や弁護士の問題も含んでいるかと思いますけれども、かなりの不満を持っている方々がおられる。それから、国民は、現行の裁判制度はやはり21世紀に向けて抜本的に改革が必要だと思っておられるということについては、私どももその立脚点に立っているものでございます。

【中坊委員】それでは、続いて裁判所の方に三点ほど尋ねたいと思うんですけれども、まず、非常に基本的なことをお尋ねするようですが、裁判の本質というものを、そもそも裁判官は、金築さん個人でも結構ですが、何とお考えでしょうか。裁判官あるいは裁判の本質というものは一体何だとお考えでしょうか。これを私はまず聞きたい思うんです。時間が長いこと掛かりますから、私の方が一方的にしゃべりますけれども、私はかねてから、裁判の本質は「納得」であると考えています。当事者、関係者、全国民をどうやって納得させるかという作業こそが裁判の本質であるということを、私は言い続けてきて今日に至っております。
 納得のためには「説得」ということが必要なんです。ところが、私たち裁かれる立場として40数年代理人をいたしてまいりましたけれども、裁判官は主としてそうではなしに、納得させるという作用よりも、むしろ権力により、それは裁判所の職権である、裁判官が決めるんだ、という姿勢でこられたところに一番の問題点があったんではないかと思います。そうすると、納得させる前提として説得をしようと思えば、現場の経験もない方がどうして説得できるんですかということになります。今日ちょっと出た研修みたいなものでは、そんな、1年間弁護士を見習いに行って、そんなものができるということじゃないんです。やはり基本は、自分の生活もかけ、そして依頼者をどう獲得していくのか、依頼者の言うことは必ずしも本当のこととは限りませんよ。それをどのようにしてやっていくのかということによって、初めてその現場の体験を踏んで、そして初めてそれに基づいた自分の得られたものによって、人が説得できるものなんです。そして、その説得によって納得ができると思うんです。
 ところが、今の言われるような判事補制度にしても、いわんや特例判事補制度にしても、全くそういう経験がない。私が前回言った例で言えば、山本委員は、裁く立場は食べる場合であって、調理する立場と一緒になってはいけない、と言われたけれども、調理というのは生の物を見て、それでなければ本当のことはわからないということを私は意味しているのでありまして、まさに裁判官というのは司法の中枢だと言っているわけでしょう。法曹の中の法曹でなければいけないんです。その方が、現場の体験というものをせずに、ただ「私も一市民でありますから、市民の経験はあります」とおっしゃる。それで、どうしてそういうことがおありになるのか、私は疑問でございますので、その点についてはそもそもどうお考えですかということを一点お尋ねしたいと思います。
 第二点目といたしましては、今度はこの4ページの「人事評価」のところにお書きいただいておることであります。要するに人事の評価の前提として、憲法が裁判所の指名した名簿によるということは、下級裁判官の任命等の判断は裁判所が最もよくなし得るという見地に立たれている。これがまたすべての前提になって、今回のペーパーもお書きいただいておられる。しかし、何をもってそうおっしゃるのか。裁判所がこのような任命権あるいは評価権限を持っておるというのは、その前にも書いてあるように、「独立」ということと実は関係があると思うんです。まさに「司法の独立」のために裁判所に指名権を与えているというのは、これは我々もよく聞いております。しかし、独立ということは、まさに立法、行政からの独立ということを言っておる。政治権力からとか、あるいは行政権力からとか、そういうものが三権分立の中において独立しないといけないということを言っているにすぎないのであって、それからもって裁判所が最もよくわかっているということを導くことはできない。それにもかかわらず、最高裁の裁判官会議ですべてのことを決めているとされている。年間200人も300人にもなるような人の人事評価ですら、全部最高裁裁判官会議で決めているとされる。このようなことを言ったって、誰もが、それではそういう資料は誰が出したんですか、何時間そういうことを審議したんですか、と言うでしょう。そんなものは全部形だけですよ。それで、裁判官のみがよくわかっているという前提、今回の人事制度あるいはその任命制度そのものについて、私はかねて言っているように、司法の独立を履き違えて、独善に終わっていっている、自分たちがひとりよがりになっている、ということを言っておるんですけれども、そういう点に関しても、それでは裁判所は今、本当にこのような司法制度改革審議会があって、21世紀の司法を考えなければいけないときに、そこまで本当にお考えになっているのかどうか、その二点についてお尋ねしたいと思います。

【最高裁(金築人事局長)】裁判の本質という、大変難しい基本的なお尋ねで、私に答える力があるかどうか疑問に思いますけれども、私はやはり裁判というのは、公正・中立の立場から法的紛争に解決を与えていくということが重要な使命だと思っております。「納得」ということが一番大事じゃないかというお話がございました。私も非常に大事な要素だと思います。日々の裁判で裁判官は、当事者の納得を求めて努力していると思います。判決の中の理由の説示でも、和解の過程での当事者に対する説得でも、やはり納得を求めて努力していると思います。
 権力的姿勢というお話があったわけでございますが、この関係で一つだけ申し上げさせていただきますと、この間この審議会に出されましたアンケート調査を拝見いたしまして、私は思ったんですが、裁判所職員もそうでしたが、弁護士が付かないときの評価の方が高いんです。これは、御本人が来たときには親切にしているんだなと、これは私の感想ですから、当たっているかどうかわかりませんが、そういうことを思ったということを一つだけ言わせていただきます。
 二番目の点ですが、「裁判所が最もよくなし得る」というのは、一般に書かれているところでございまして、任命権は内閣つまり行政が持っているわけでございます。しかし、行政よりもやはり司法の方が情報が多いという趣旨で恐らく書かれているのだというように私は理解しております。

【中坊委員】司法の独立からじゃないんですか。

【最高裁(金築人事局長)】司法の独立という意味は勿論ございます。意見書に書いてあるとおりでございます。

【佐藤会長】では水原委員で最後にいたします。水原委員どうぞ。

【水原委員】それでは簡単に。最高裁判所に、お教えいただきたいというよりもお願いがございます。それは、この意見書を拝見いたしますと、先ほど吉岡委員もおっしゃいましたけれども、私は非常に裁判所が柔軟に対応されるようになられたなと思います。実は、ちょっとびっくりしたぐらいの改革意見をお出しになられたなと思っておるのが、率直な意見でございます。
 ただ、そこでお尋ねしたいことは、先ほど来、髙木委員、吉岡委員それから中坊委員からも御意見が出ましたけれども、色々な経験を踏ませると言うけれども、実効ある方策をお考えなのかということ、これは私にとってもやはり多少、というよりは大変気に掛かるところでございます。
 色々なところに出向させる。出向といいましょうか派遣させる制度を考えると。これは研修制度というお言葉じゃなくて、派遣制度という言葉に変わってまいりました。しかも原則としてすべての判事補がということになってまいりました。非常な大きな進歩だと思いますけれども、しかしながら問題は、なぜそういうことをやるのかと、なぜそういう派遣制度というものやるのかという趣旨をよくお考えいただいて、そして我々が求めておるような、やはり色々なこと、裁判所の中だけじゃなくて、外に出向いていって、その中に入り込んで、そして色々な経験、知識、体験、こういうものを経てこられるような制度設計を是非お考えいただきたいというふうに思っております。
 これは、非常に長い目で見なければいけないと思います。憲法上の身分保障されている問題もございましょう。それから、法律の改正に絡むこともございましょう。しかしながら、それが必要であるということはまず最高裁判所でもお考えだと思いますので、是非そういうふうな制度設計をおやりになる際には、このように最高裁判所は考えたぞ、もう少しやはり前向きに考えているぞ、ということを、長いスタンスでお示しいただけるようにお願いできればと思っております。

【最高裁(金築人事局長)】おっしゃるとおりだと思っております。

【佐藤会長】各委員におかれては、まだ色々お聞きになりたいところがおありかと思いますけれども、時間をかなりオーバーしてしまい、金築人事局長、但木官房長、児玉副会長には、御迷惑をお掛けしまして本当に恐縮でございます。本日はどうもありがとうございました。以上でヒアリング及び質疑応答は終わりたいと思います。
 本日はどうもありがとうございました。

(金築最高裁人事局長、但木法務省官房長、児玉日弁連副会長退室)

【佐藤会長】予定では10分ぐらい休憩をはさんで意見交換をと思っておったんですけれども、かなりずれ込んでしまいました。いかがしましょうか。12時も近いですね。

【井上委員】今日は何時までですか。

【佐藤会長】そうですね、やはり少し意見交換をしておきたいので、12時半ぐらいまでお願いできないかなと思うんですけれども。いかがでしょう。それぞれ御予定ありましょうけれども。

【山本委員】私はちょっと。12時から用事があります。

【佐藤会長】御予定のある方には誠に申し訳ないんですけれども、継続するということにいたします。引き続き意見交換の方に移らせていただきたいと思います。

【竹下会長代理】もう時間がない方は、早目に御意見を述べていただくことにして。

【山本委員】意見はもうずっと一貫して同じことを言っておりますので。

【竹下会長代理】北村委員はお時間大丈夫ですか。

【北村委員】はい。

【佐藤会長】12時半にはぴしっと終わりたいと思いますので。それでは、ご意見をどうぞ。レジュメに従いますと、「給源の多様化・多元化」、「任命手続の見直し」それから「人事制度の見直し」という順番になるんですけれども。今の質疑応答でも既にかなり色々な御見解あるいは問題についての御指摘がありました。それを踏まえながらどの点からでもよろしゅうございます。鳥居委員どうぞ。

【鳥居委員】全く違う観点からなんですが、日本の役所について、どんな役所にも設置法というのがありますね。司法の仕事に関してなんですけれども、法務大臣権限法というのがありますが、法務省設置法を六法で引いてもないんです。

【佐藤会長】全部あります。

【鳥居委員】検察庁法というのは六法に載っていますけれども、法務省設置法というのは載ってないと思うんです。

【佐藤会長】各省設置法は六法に余り載っていません。

【事務局長】設置法は、基本的に行政組織を決めているだけですので、六法にはどの省についても載っていないんです。

【鳥居委員】私何を質問したかったかというと、そういう論理でいくと最高裁判所設置法というのはあるんでしょうか。

【竹下会長代理】それにあたるのは、憲法と裁判所法です。

【鳥居委員】裁判所法が最高裁判所設置法をかねているわけですか。

【井上委員】内閣などもそうですね。内閣設置法というのはないわけです。

【鳥居委員】中途半端な読み方かもしれないんですけれども、裁判所法をずっと読んでみますと、例えば簡易裁判所判事選考規則なんていう後ろにぶら下がっている部分が、下級審に関してはたくさん出てくるんだけれども、最高裁の判事の分限とか任命の仕方とか選び方とか、そういうところになるとほとんど書いていない。それで、下の方にいくと非常に詳しく書いてあって、選考規則までぶら下がっている格好になっていますね。これはなぜなんですか。

【竹下会長代理】最高裁判所裁判官につきましては、憲法に基本的なことは書いてあるわけでございます。長官は内閣の指名に基づいて天皇が任命する、それ以外の最高裁裁判官については内閣が任命する、というように書いてあるわけでございます。その最高裁判所に任命される資格については裁判所法に書いてある。そういう仕組みになっているわけです。
 それで、鳥居委員が考えておられたことに対するお答えになっているのかどうかわかりませんが。

【鳥居委員】つまり、内閣総理大臣の選び方とよく似ていて、国民が一番よくわからないところですね。

【竹下会長代理】実際にどうしてこの人が選任されたのか、ということですか。それはおっしゃるとおり、公表されていませんので一般には分かりませんね。

【中坊委員】裁判官の任命手続にしても、それから評価の手続にしても、髙木さんが文書で紹介されて、裁判所の方から御返事があったところによっても、それはすべて最高裁の裁判官会議で決めているということなんですね。ところが、実際上今日私も時間がなかったから聞けなかったけれども、一体どれぐらいの時間を掛けて、どういう審査がなされておるのか。これは、しかし想像が付くところ、ほとんど原案どおりということで、結局は事務総局がやっている。そこから先が今、鳥居さんのおっしゃるように目に見えない形でやっていることになっている、というところがやはり非常に大きな問題点ではないかと思います。

【佐藤会長】今の鳥居委員のお話ですけれども、最高裁判所の裁判官の選び方の問題と下級裁判所の裁判官の指名・任命の問題とを分けてお考えいただいた方がいいと思います。

【鳥居委員】私が言いたかったのは、その次の段階で、高等裁判所以下の判事の任命というのが、今どのように行われているかということ自体が余りはっきりわからない。少なくともこの制度を見る限り、法律化されている制度を見る限り、わからない。
 しかし、今、提案されている色々な形の任命委員会制度とか、諮問委員会制度とか、2種類ぐらい提案されていると思うんですが、それですと具体的に見えてくると思うんです。何かの形で実行していくとすると、それはやはりこの法律の上での書き換えになるんでしょうか。先ほど最高裁の御説明の中では、最高裁判所が持っている現在の与えられた権限の中で行うという趣旨を強調されたように思うんです。

【佐藤会長】今のお話ですけれども、下級審の裁判官については、憲法80条で、「下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。」となっているわけです。資料的な説明によると、この指名のときには、1名プラスして内閣に提出して、そして内閣がその名簿に基づいて任命するということなんですが、先ほど来問題にされていますのは、その指名の過程に何か国民の意思を反映させるような工夫の余地がないのかということで、色々な御議論があるということではないかと思うんです。今までの指名の過程は、最高裁自身が司法行政としてやっているわけで、外からはなかなか見えにくいんじゃないかという批判もあり、それをもっと可視的にできないか、何らかの形で国民の意思を反映するようにできないか、というような趣旨で色々なアイデアが出されているんじゃないかと思うんです。

【中坊委員】可視的にというだけではなしに、だから今回の裁判所の出されたペーパーの任命権なり評価権の基は、最高裁判所がやはり一番よく知っているという、その見解ですね。私はそこがやはり一番大きな問題であると思っており、実際よくわかるのは、裁判を受けている者がわかるわけですからね。国民だろうし、その国民の代理でよく法廷へ出ている弁護士が、ある意味で一番よくわかる。ところが、そういう人の意見は全然聞かずに、裁判所が一番よくわかっているということで、裁判所だけが判断してきているというところの任命手続、再任手続、それから評価手続というものには、やはり根本的に問題があったということではないか。
 だから、その意味で言えば、そもそもなぜ最高裁判所に指名権を与えたかと言えば、まさに司法の独立、独立は何ぞやと言えば、まさに立法、行政からの独立であったはずだと思うんです。
 それから、まさに我々が言っている国民的基盤の確立という意味における、その中でも一番国民と接しているのは弁護士であると思うんですけれども、よくわかるというか、その場面に遭遇していますからね。だから、そういう人を含めた審査でなければならない。
 また、加えてどういうふうな基準を設けて審査をするのが必要かということになってくると思うんです。

【佐藤会長】おっしゃるとおりでして、今日の法曹三者のヒアリングでは、最高裁もその指名の過程に諮問委員会というものをつくってはどうかと提案されている。法務省も弁護士会も、それぞれ中身に違いはありますけれども、何らかのそういう仕組みをつくるべきじゃないかと提案されており、その点では今日、三者とも一致しているわけです。
 ただ、問題は、その仕組みを諮問委員会と呼ぶのかどうかはちょっと別にしまして、その委員会が実質的に機能するように考える必要があるのではないか。法務省の但木官房長は、情報というような面に言及されましたが、委員会が名目化せず実質的に機能するように考える必要があるのであって、その辺を具体的にどう考えるかというところが一つのポイントであるように思うのですが。
 髙木委員、どうぞ。

【髙木委員】例えば任用にしても、評価にしても、あそこまで総合判断だとおっしゃる。それも内部によると言われる。外部の者はわかりっこないんだから、裁判長が最もよくなし得るという論理、評価基準さえもつくるのは難しいというような論理で。今日の日弁連の資料、詳しくは私も見ていませんが、例えばアメリカの各州のいろんな制度、勿論公募制であるかないかの違いはあるんでしょうが、その辺の、今最高裁の方がおっしゃったような、ああいう御主張が一方であるのを踏まえて、ではこのアメリカなんかはそういうことがちゃんとできていないのかどうなのか、その辺のことがどういうことなんだということについて、ちょっと詳しい方にクラリファイしてほしいなと思うんですが。

【竹下会長代理】今、中坊委員から御発言があって、それを受けて会長が言われたのは、任命諮問委員会か推薦委員会かは別として、その委員会で判断をするときに、それが実効性のあるようなものにするためにどうしたらいいかということで、最高裁もその任命基準については、場合によったら諮問委員会で決めることも考えられるということを言っていたのではないでしょうか。

【髙木委員】そんなところまで言っておられたというように、私は受け止められないんで。

【竹下会長代理】そうですか。

【髙木委員】だから、例えば転勤は従来どおりだ、あるいは公募制なんていう発想は全然ないんだ、それで評価なるものも言われたってできっこないたんだ、というわけですか。

【佐藤会長】そこまでは、どうでしょうか。

【髙木委員】何のために議論しているのかなと、ちょっとげんなりしてしまって。

【佐藤会長】その受け止め方については、委員それぞれのお立場もあるかもしれませんけれども、我々としてどう考えるかという角度で議論したらよろしいんじゃないでしょうか。

【髙木委員】それはそれで、そういうふうに取って構わないんだということなら仕方ないんですが。そうでないと、こういう審議会をつくった意味がないということになります。

【中坊委員】少なくとも最高裁の今日のペーパーによっても、その諮問委員会というのは最高裁に一つつくるということですね。そうすると、今までの最高裁裁判官会議と同じような形であって、実質上の判断はそこがしなくて、下部機関がするということになる。そうすると、例えば日弁連の意見のように、少なくともブロック別につくらないと、審査にしても調査にしても、すべてそれを実効ならしめるには限界があるのではないか。全国のものを、簡裁の判事までやれば大体3,000人をちょっと超すわけですね、そういうものすべてを中央集権でどこかで一括してやるということになれば、それはどんなやり方をしても限界があるのではないか。しかも最高裁裁判官会議が決めるんだという。それが、今、言うように裁判所が一番よく知っているという誤った前提から来るとなると。
 この前提が崩されない限り、私は形だけの諮問委員会をつくって、一応そこで意見を聞きましたというような格好だけになってしまって、これはもう実効性がないままに終わるんじゃないかという気がしますね。

【井上委員】3,000人とおっしゃるのはちょっと誤解だと思うんです。3,000人全員について、毎年任命とか指名をするわけじゃありませんので、もう少し数は少ないと思うのです。

【中坊委員】いや、そうじゃないですよ。ただ裁判官の人事評価というのはやはり1年に1回ぐらいはやっていることになっているから。

【井上委員】異動とか、そっちの方の話ですか。

【中坊委員】異動に関してとかじゃなしに、今まで出たデータを徴する限り、大体3,000人を、一応は対象としているんですよ。

【井上委員】髙木委員の御質問にも、その2つが一緒になっているのかなという感じがしたのですけれども、10年ごとに任命したり再任したりするという際の話と、平常の、例えば部総括にするとか、あるいはどうやって動かしていこうかという場合の評価とは違うのじゃないかと思うのです。
 後者の方は、例えばアメリカなんかは転勤ということはありませんので、そこの評価じゃないと思うんです。この資料で盛られているのは。そこに盛られているのは、任命のとき、あるいは選挙をする場合の候補になるときについてのことだと思うのです。ですから、そこはちょっと違ってくる。

【髙木委員】私も少しは勉強したから、今、先生のおっしゃる違いはわかっているつもりです。だからそれぞれ吟味して区分けして議論しても、それはそれで結構なんだけれども、根本的なコンセプトとして、評価を透明化して客観化するということをこれだけみんなでお願いしたにもかかわらず、こういうことか、ということなんです。その辺のとらえ方は、色々だとおっしゃるんで、私にはそう聞こえたという話かもしれませんが。

【井上委員】だから、ここの基準の問題も…。

【髙木委員】そもそも、アメリカでは、任用以外のところに評価の結果を使う余地がない。何のために評価するのかという目的という面で、任用後に欠格者を排除するという、そんなニーズがあるかどうかです。
 だから、そのようなこともあるので、アメリカではどういうことなのかということを聞かせてくださいと、先ほどお願いしたわけです。

【井上委員】そっちの方のことですか。

【髙木委員】日本ではこういうふうに最高裁は色々言っておられるが、ではアメリカのものを拝見すると、例えば“Integrity”以下、色々な評価の要素があると書いてある。最高裁はこんなものをやるのは難しいと言うから、なぜアメリカではできて日本はできないのかということなんです。

【佐藤会長】ちょっとよろしいですか。7月の審議会で最高裁が提出した人事評価についてのペーパーの中にもありました人事評価項目、これは本日皆さんのお手元に「裁判官の人事評価項目の概要」と題して改めて配付されていると思いますけれども、平成10年度まではこういうものでやっておったという話なんです。こういうものを基にして、あるいはアメリカの例も参考にして、我々としてこの任用・任命の基準というようなものを具体的に何か考えられないかという議論をやってみたらいかがでしょうか。

【井上委員】その前に、きちんと分けないといけないですね。中坊委員がおっしゃるような平常的な評価の問題と任命の際の評価の問題とは。

【中坊委員】今井上さんがおっしゃった任命という問題までくると、今日、日弁連もちょっと言っていた応募制ということも関係してきます。応募制で決めていこうというものの発想を我々が取るのか、取らないかということを考慮しないと、そこもまた非常に変わってくるんです。
 だから、司法の独立というのは、立法、行政からの独立と同時に、今大きな問題になっているのは、裁判所内部における独立、個々の裁判官の独立を裁判所の事務総局が侵しているのではないかということを、何人かの裁判官が色々おっしゃっているわけです。だから、その辺の司法の独立というものが、立法、行政からの独立と、それから司法の、いわゆる官僚制度の中における独立が侵されていませんかという問題が出てきているんだから、その三つをちゃんとここで解決しないと、そういう意味における透明性とか客観性とかは出てこないと思います。

【竹下会長代理】ただ、具体的に任命制度の在り方ですが、先ほど会長が言われたことと同じですけれども、法曹三者とも何らかのそういう仕組み、従来のように最高裁判所の裁判官会議だけで誰を指名するかを決めるのではなくて、そこへいく過程に法曹三者並びに国民の代表も入った委員会的なものをつくろうということは一致しているわけですから、そうしたら、それを実効をあらしめるために、そのときの審査の材料なり、最高裁判所に対する答申の材料なりをどう集めましょうかという議論ができるのではないでしょうか。

【佐藤会長】人事評価は、確かに井上委員もおっしゃるように、二面があり、通常の日常的な評定者、誰がどうやって評価するのかという話とも議論がつながってますけれども、一応、任用という問題に絞って意見を交換していただけないでしょうか。そして、今代理も言われたように、任命のところで、要するに今まで最高裁だけで指名名簿をつくっておったのに対して、その指名の過程にある機関・委員会をかませることにより、一種の国民的な基盤をつくろうではないかという点では三者とも一致しているわけです。問題は、その実効性を持たせる中身というか方策です。日弁連は、各ブロックごとに推薦委員会のようなものをつくってやったらいいんじゃないかという御意見、法務省は、今日のお話だと、中央に諮問委員会をつくる、ただし、有意的な情報を吸い上げる何らかの仕組みや工夫を考えないとだめなんじゃないかという御意見だったように思います。

【中坊委員】それともう一つ前提として、どこへ行くのか、どこで仕事をするのかという点で、応募制を取るのか、また今と同じように転勤はさせるのかどうかというのが一つは絡んできているわけではないですか。だから、今おっしゃるように、諮問委員会か推薦委員会か名称はともかく、そこでやればいい。そこが複数あるというだけじゃなしに、そもそもその人の任命のときに、あなたは宇都宮地方裁判所へ行くという希望を判断するというのと、任地はどこに行くかはわかりませんよ、とにかく今やっているのと同じように、あとは裁判所が人事権を持ってやるというのとでは、やはり根本が違うわけで、だから、やはり司法の独立、裁判所内部の、事務総局か何かそういう上からの独立という意味の裁判官の独立を守るという意味から言えば、やはり応募制というのは一つの大きなものの考え方じゃないかとは思います。だからそれを採用するかしないかということを、ここでもう少し考えないと、単に委員会をつくるというだけにはいかない。

【佐藤会長】確かにそういう問題がありますね。高裁ブロック単位で公募するという話、今、中坊委員が言われたような、個別的にどの裁判所に、という話です。

【中坊委員】それはどうやるか、だから。

【井上委員】日弁連の御意見は高裁単位での応募制なんですか。

【中坊委員】それはちょっと日弁連から出ている人に聞いてもらわないと。

【日弁連(斎藤氏)】ブロック単位で決めまして、応募する人はどこどこ地方裁判所に行きたいということをブロック単位の裁判所に設けられる推薦委員会に応募する。推薦委員会は、色々な複数の応募者もおられるでしょうし、そこがいいかどうか、いろんな情報を集めて、この人はこうした方がいいかどうかを決める。当面、とりあえずは、ブロック制にしようと提案しております。もっと発展した段階では、中坊先生がおっしゃったのかもしれませんが、地方裁判所ごとだとか、裁判所ごとにしたらいいんじゃないかということですけれども、今回の日弁連の案はブロック制ということになります。

【井上委員】そうすると、応募制というのは、「こことここは空きがありますから、手を挙げてください。」と、そういうことを考えておられるのですか。

【日弁連(斎藤氏)】徹底した情報公開ということを今回意見書で申し上げて、裁判所時報だとか、いろんなところで、弁護士だとか国民にもわかるようにして、それに応募していくというイメージをしたつもりでございます。

【佐藤会長】藤田委員が前から手を挙げておられます。藤田委員どうぞ。

【藤田委員】関連がありますから、判事補制度についても言及させていただきますが、先ほどの質問で申し上げたとおりでありまして、判事補制度に対して批判が厳しいんですけれども、まず、理念としてどうかということと、それから現実の実効的な制度としてどうかという両面から考えますと、理念として、もし判事補制度がおかしいというんだったら、それは判事補にとどまらないので、それを経由して出てきた判事もおかしいということになる。お前みたいなひょっとこ判事が出てくるから困るんだと言われれば一言もないのでありますけれども、しかし新聞だの、それから日弁連の調査でも、相対的にプラス評価とマイナス評価を比較すればプラス評価が結構高い。この間の説明を見ましても、裁判官に対する批判がないわけではないんですが、よくわかりませんけれども、標準偏回帰係数による分析によりますと、勝敗の結果が評価に対する影響というのはかなり大きいという分析結果が出ていて、そしてこの要旨の方の76ページを見ますと、この本件の調査対象になった人は有利グループが153 、不利グループが187 、中間が145 と不利グループが一番多いんです。にもかかわらず、19ページの裁判官評価については中立性、信頼性、非権威的、丁寧さということで、かなり高い評価をいただいています。法律外知識と準備のよさは悪いんですけれども、そういうようなことを考えれば、今の判事補制度から判事になってくるという制度に基本的な欠陥があるとは思えないということが一つ。
 それから、実際にそのような制度の実現が、それは実行可能かどうかということです。今、ブロック単位とか地裁単位の人事という説がありましたけれども、地方の実情を知る私といたしましては、大都会ではともかく地方ではそのようなことはもう実行不可能であろうと思います。
 かって私は、広島高裁管内の人事に関わりましたけれども、広島は関西との人事交流が非常に多いんです。判事クラスになりますと、妻子を関西においての単身赴任が多い。そうすると4年も経てばそれは妻子のいるところに帰してやらなければならないという、人事上の配慮をしなければならんのでありますけれども、その人たちが言いますのに、大阪では高裁、地裁、家裁の各本庁には弁護士から任官した方がある程度おられるので、自分たちが入る余地がせばまれている。だから、本庁は無理にしても、支部でもいいから向こうの方へ帰りたいと申します。非難するという意味ではなくて、できるだけ弁護士任官制度を盛り立てなければいけないという前提でありますけれども、そういうようなことを言っているわけであります。
 弁護士任官が拡張されれば、先ほど最高裁の金築人事局長は現在以上の優遇措置は不可能だと言いましたけれども、弁護士任官が多くなれば、私は現在の優遇措置を維持することはまず不可能だろうと思います。そういう前提で考えると、ブロック単位といいましても、九州では離島裁判官というと対馬の厳原、五島の福江、奄美の名瀬とありますし、沖縄では石垣、宮古もあるわけでありますし、私のおりました東北管内では、陸の孤島と言われる宮古、釜石、大船渡もあるわけでありますから、そういう意味で、判事補制度を廃止してそういうところを果たして埋められるのか、そこの地方での司法のレベルを維持することができるかと言えば、裁判所の設置状況を見ましても、支部が203 庁、家裁が出張所が77庁でありますから、現実的にいっても私は不可能なのではないかというふうに考えるわけであります。
 先ほどの裁判官に対する評価の関係でありますが、具体的に自分が関係した訴訟の結果が、大きな影響要素としてあるという分析からいいますと、裁判官の選任、あるいは人事、配転というようなことについて委員会を設けるにしましても、やはり直接の利害関係のある方が入るということは望ましいことではないと思います。
 先ほど、裁判の独立との関係ということを申し上げました。そういう意味では、ある程度客観的に、距離を置いて、その適否を判断できるような機関を設けるべきである。そういう意味では、中央に設けてその情報は地方から吸収するにしましても、そういう客観的な判断をできるような構成、手続にする必要があるのではないか。
 福岡におりますと、鹿児島の裁判官あるいは沖縄の裁判官がどんな裁判官かということを判断するのは、やはり情報がなければ不可能であります。そういう意味で、ある程度情報の収集ということに留意して、その上で客観的な評価ができるような構成にするべきではなかろうかというふうに考えます。
 以上です。

【佐藤会長】鳥居委員と吉岡委員が手を挙げておられます。中坊委員、今の御意見への直接のリアクションですね。では、中坊委員どうぞ。

【中坊委員】藤田さんのおっしゃっているのも、それはそれなりにわかるんですけれども、今我々が必要なことは、弁護士に関しても、この前から言うように弁護士の改革というのを根本的に考えて、その公益的責務について考え、人口増についても考える。それらは御承知のように、それはものすごい、私自身に対しても、弁護士会の内部において反対はあるわけです。しかし、まさに21世紀のあるべき姿というのを求めて我々はやっている。しかも、日弁連という組織そのものは、例えば公設事務所、確かに今言うように奄美だとか石垣島だとか、そういうまさに僻地だと言われているところへ弁護士を応募して、何とかしてやろうとしているときですよ、それを頭から任意にはそういうところへは行かないということを前提にして話をするというところに、やはり一つの大きな問題点があるんではないか。
 二つ目には、例えば、予想以上に東京と地方とでは物価の感覚なども全然違うんです。九州の八代の辺に行ったら、私は旅館の商売しかしていないからわからないけれども、東京の1割程度ではないかというひどい表現をする人があるぐらい、物価そのものに関する一つひとつのものに対する感覚が違うわけです。だから本当に、先ほど言ったように、納得のいく、みんなが公正だと思うことが重要です。今日も話が出たように、結局満足度が半分だというのは、やはりそういうところについて、東京から来られた人が自分の月給だけを根拠において判断されるということに対する地方の人たちの問題意識もあるわけでしょう。
 だから、そういういろんな問題点を考え合わせるときには、やはり地方に密着したということは非常に必要な一つの要素なんです。だからこそ、今、国家全体として地方分権と言っている最中に、中央1箇所でやって、あとはその事情をきくための制度でよいということには、基本的に問題がありはしないか。だからやはり問題は、今おっしゃるように、良き裁判官を得るため、任命手続に特に限定したとしても、その人を得るためにはどういう人たちがよいのか。それは確かにそういう意味では応募制を取れば、「いや私はそこでよい」、「そこに行きたい」、「そこに住んでいきたい」ということになる。私だったら、今おっしゃるように、みんなから笑われても、どうして京都に、今晩も帰りますけれども、とにかく帰るでしょう。やはりそういう人間も数多いです。京都と言うか、関西は関西でないと生きにくいという人間も多いわけです。だから、裁判官が地方に行くとなると途端に希望者がなくなるとか、そういう中央指向があるのは事実です。しかし、21世紀を考えたとき、日本国全体を考えたときに、地方分権なくしてはやっていけない。本当の意味の統治主体意識を持たせると言うんだったら、そのような議論を乗り越えないといけない。私は今の藤田さんのおっしゃっているのには、あえて反論するわけではないけれども、やはりそれは今までの現実を前提とした議論であって、今我々が考えなければいけないのは、理念先行型のあるべき姿ということです。これを我々は想定して今やっている。少なくとも、弁護士改革については、そのような大変大きなショックを受けつつも、一挙に3倍に増えるんだから、そういうことですら、今、我々はやっているんだから、やはり裁判所の方も、そういう意味では但木さんでさえ、やはり抜本的に直さないといけないと言っている意味の抜本的な意味をお考えいただく必要があるんではないかと思います。

【佐藤会長】お待たせしました、鳥居委員どうぞ。

【鳥居委員】私は、やはり日本という国の地理的な構造、それから発展段階が地域によって違うということ、それを踏まえて、色々な職種の公務員、広い意味で公の仕事をする人たちがどういうふうに散らばっていくか。職務命令で転勤をしていく、その構造ですが、その全体を個々の体系として考えてみる必要があると思うんです。僻地にでも何でも行ってもらわなければならない職種の典型的なのは自衛隊ですけれども、これで見ると自衛隊法の第55条で、自衛隊員は内閣の指定したところに住まなければいけないことが定められていますよね。それから、検察庁法17条で支部勤務命令が出せるようになっています。しかし、判事については判事補も含めて、勤務命令を出すという話はどこにもない。なぜないかと言うと、それは性格が違うものだからだと考えるべきだと思うんです。
 一方、だからといって、ここへ行ってください、ここの勤務をお願いしますということが何かの仕掛けでできなければ、やはりこれは話が成り立たないわけで、そのときに今までの私たちが行ってきた議論は、従来の転勤命令あるいは配属の決定ということだけを前提にして考えていて、行き詰まりになっているんではないかと思うんです。
 例えば、これからの時代は、高裁管内をいろんな人が異動分担するというやり方も考えられるわけです。なぜならば判事というのは、刑事で言えば検事が挙げてくる調書に基づいて判断をするわけですから、いつもそこに住んでいる必要は必ずしもないかもしれない。必要に応じて、そのときだけで、裁判所が開設されるということだっていいんじゃないかということです。
 そういうことも含めて柔軟に制度を設計し直せばいいんであって、ここのことだけで何か我々の議論がデッドロックに乗り上げてしまうのはよくないんじゃないかと思います。まして、今後は色々、ITの情報の技術も変わっていきますし、いろんなことがあるんで、まさに21世紀のそういう新しい方法を考えるべきなんじゃないでしょうか。

【中坊委員】ちょっと具体的なことで申し上げて失礼ですけれども、私、昨年警察刷新会議の委員をやりまして、そこで具体的に提案されたことは、正直に言って、これは今の裁判所でも大変やはり抵抗があると思います。というのは、私たちは警察の不祥事がどうしてこれほど多く発生するのか、やはりリーダー、キャリアの在り方に一つ問題があるんじゃないか。それで、本部長と局長、それがどの程度の単身赴任なのか調べたか、実に4分の3以上が単身赴任なんです。そこにやはり大きな問題があった。それだったら私らのときに単身赴任をやるように言ったら、私ら警察の長官の前で、次長以下全部おりますから、何人かが当たって、そんなことをしたら我々家族の生活が困るんだとか、色々出ましたよ。そうしたらどうするのかということで、やはり署長は地域として官舎に入れと、本部長も妻帯をして官舎に入れということを決めたんです。だから、今おっしゃるように、その僻地とか何だかという問題になりましたら、それぞれに大きな痛みというのは大なり小なり伴うというのは事実だろうと思うんです。しかし、まさに利用する国民の立場に立ってどうするかということを考えなければいかんことですから、そこはやはり私は基本的にそういう視点に立たないと、今おっしゃるように個人のことを言い出していたらやれません。本当にひどい抵抗はあることは事実ですが。

【佐藤会長】吉岡委員どうぞ。

【吉岡委員】何か予定の時間を超えてしまっているんで。

【佐藤会長】もうちょっと議論をしていただきたいところがありますので、よろしければ。

【吉岡委員】私が言いたいことはペーパーで出しておりますが、一つだけに絞って申し上げます。
 裁判官の任命の問題ですけれども、やはり任命方法というのは、国民主権にふさわしい、そういう形にしなければいけないと思います。そういう意味では、やはり国民の中から選ばれたということが客観的に納得できるような制度として設計する必要があるのではないかと思います。
 最高裁のペーパーの中で、転勤があるからというようなことが書かれていたと思いますが、転勤を前提として裁判官を選ぶという、それは国民の側から見てどうなのかという、そういう視点も必要だと思います。というのは、実際の裁判の利用者の立場で、せっかく色々立証したり、証明したりしてきているにもかかわらず、裁判官が代わってしまうということが余りにも頻繁に起きる。そういうことが裁判に対しての信頼性を薄めてしまうという、そこにもつながってきています。絶対転勤してはいけないというところまでは申しませんが、海外の裁判官の様子を見たり、読んだりしておりますと、やはり地域に根差しているという、そういう裁判官が外国の場合には非常に多いということが言えると思います。アメリカの場合であれば欠員があったことが公開されて、それに対して応募して審査を受けて、それでそこの裁判官になっていく。その裁判官は、ある一定年齢、10年目ぐらいですか、そこでもう一遍再審査される。その場合にも審査の方法としては、国民の声、これは他の法曹の方の声も勿論入っておりますが、そういうことで審査され、再任されていくということで、最初のころに中坊委員が“Our Court”というような表現でおっしゃっていましたけれど、やはり法廷自体が非常に地域に根差している。そういうことが非常に国民の信頼にもつながっていたように思います。
 そういうことから言うと、あくまでも利用者である国民の立場から考えるという、そういう視点で、裁判官の任命方法はどうするのかということを考えていく必要があると思いますし、そういう意味では「諮問」という名前を入れるかどうかは別としまして、その裁判官指名諮問委員会か、あるいは推薦委員会、そういうような仕組みをつくっていくことがまず第一だと思います。
 その仕組みをつくった場合に、判断が不公平になってはいけないと思います。そういう意味では公平性を確保するような人事評価の項目、これは昨年7月に最高裁から出していただいておりますけれども、客観的に出せるような人事評価の項目というのを検討する必要があると思います。そして、その場合は誰が評価をするのか、そこのところを検討しないといけないと思います。最高裁が評価をするというよりは、もう少し違った形での評価、これは推薦委員会とも関わってきますけれど、そういうことを考えなければいけないと思います。
 それから、評価の項目自体が、裁量でどうにでもなるような、そういう項目は本来はなくすべきだと思いますが、少なくとも、裁量で評価されるという項目は、制限的に考えるべきではないかと思います。できるだけ客観的に評価をしていく。評価された裁判官自身にとっても納得ができるような、そういう項目を考えていく必要があるのではないかと思います。そういう意味では、7月にも出ていたこの項目ではとても不十分だと思います。
 以上です。

【佐藤会長】ありがとうございます。それでは水原委員どうぞ。

【水原委員】地域密着型の裁判官選任か、それとも全国異動を対象とした裁判官が望ましいのかという問題ですけれども、これはやはり国民の立場から見たならば、どこで裁判を受けても均質・平等な裁判が受けられるということが、一番基本でなければいけないと思います。民事のことは私はよくわかりませんけれども、刑事事件でかつて調べたことがございます。ある高裁管内で、業務上過失致死傷事件、道路交通法違反事件について、各高裁単位で処罰をした統計を取ってみますと、某高裁管内だけは、全国平均よりも1割から2割低かった。他のところは大体全国平均と同じであった。どうしてそうなっているのかということなんですけれども、私もよくわかりません。これは検察官の立証が悪かったのか、それとも裁判官の判断が間違ったのか、弁護人の立証がうまかったのか、それはわかりませんけれども、その低いところで裁判を受けた者は得をします。だけれども、高いところで裁判を受けた者は損をします。それから、被害者の立場から立ってみるならば、どれが公平なのか、やはり均質な裁判を受けるということが一番国民にとっては求められることではなかろうか。そういう意味で、全国的に配置、異動というものが、これがより望ましいものではなかろうかという気がいたします。
 それから、審理途中での転勤、これはまさに吉岡委員の御指摘のとおりだと思います。そういうことがないようにしなければいけない。そういう意味で、審理の促進、短期で結審をするような、刑事裁判でも民事裁判でも、訴訟の促進ということが、今言われておるわけでございますから、そういうことを併せてやるならば、やはり国民が求めておる均質、平等な裁判という点から、全国的な異動が望ましいと私は考えます。

【石井委員】今日、色々な御意見が出ましたが、最近慶應の医学部出身の弁護士とか、東大の原子力学科出身の弁護士とか、そういう色々な専門分野を学ばれた弁護士が出てこられているいうことで、大変力づけられているところです。やはりそういう方々がその部門の専門の裁判官に登用されるという道を今後考えていったらよいのではないかと思っております。
 それからもう一つ、裁判官に弁護士から任官された場合、また弁護士に戻るという話がありましたが、先ほどからのお話を伺っておりますと、弁護士の中でもより抜きの弁護士が裁判官になるというコンセンサスになっているようですので、そういう方々が弁護士に復帰されたときに、裁判官をやるということが非常に良いインセンティブになるような、そういう制度をお考えになられたらいかがかと思っております。例えば、こういうのは良いのかどうかわかりませんが、広告の中へ裁判官を何年やりましたとか、主に担当した事件は何々ですとか、そういう広告ができるように考えたらどうかなと思っております。これは、単に一つの思いつきの案ではございますが。
 もう一つだけ申し上げますと、最高裁の方で学者を裁判官に登用する案が出ておりましたが、ここにいらっしゃる先生方は別として、世の中の平均的な教授の像というのは、どちらかと言えば、視野の狭い方がかなりおられるという世間の評価が多いことから考えて、学者さんから裁判官に任官される場合には、裁判官の質を維持するため、裁判官任官研修特別コースを設定して、それを必ず受講しなければ任官されないシステムを考える必要があると思っております。そこいら辺のことも十分御配慮賜りたいと、念のため申し上げさせていただきます。

【佐藤会長】どうもありがとうございます。北村委員どうぞ。

【北村委員】今の、給源の多様化に関連して、今日の法曹三者の方のお話の中で給源の多様化と言うときには、司法試験を通っている方とそれから大学の先生といっても、恐らく法律関係の大学の先生というようなことだと思うんです。ところが、社会的常識があるとか、公平性とか何とかというようなことになりますと、私は逆の考え方もあっていいのかなと思うんです。法律も何も知らないけれども、そういう人格的にすごく優れている人、法律を勉強する以外のところで公平でいらっしゃるといったような人を裁判官にして、後から法律の勉強を、要するに裁判官となるために必要なものを勉強していただく。そうすると裁判官の中でお互いに非常に刺激し合っていい関係になるんじゃないか。じゃないと、何か給源の多様化・多元化といいましても、余り多元じゃないなという感じがします。法曹人以外から見ますと、裁判官であっても検事であっても弁護士であっても同じような、要するに同じ船に乗っている人というふうに見えてしまうんです。そうすると、それ以外の方から入れていくということが本当に給源の多様化・多元化になるんじゃないかなと、ひとつそこのところを考えていただくと、ありがたいなというふうに思います。

【佐藤会長】ありがとうございます。もう少し御議論いただきたかったんですけれども、この辺で終わりとしたいと思います。今日の御意見で、繰り返しになるかもしれませんが、指名の過程に何らかの委員会を介在させるということ、そして、それに実効性を持たさせるためにはどうすべきか、実効性を持ったものにしなければいけない、という点については、大体コンセンサスがあるんではないかというように思います。
 具体的にどういう方法があるのかという点については、地域のことをどう考えるかで、今日色々な御意見を開陳していただきましたけれども、その辺は次回にもうちょっと整理した御審議を賜りたいと思っております。
 それから、人事評価の点、判事補に関してのいわゆる研修の問題も残りました。最高裁からは研修の充実によってというお話が出されましたけれども、髙木委員や吉岡委員が言及なさいましたが、研修とはどういう意味なのか、研修ということで果たして十分なのか、何かいい方法はないのかという辺りの問題も、重要な課題として残りました。
 今日の議論がもうちょっと先に進むことを前提に、議論の材料としてレジュメとしてまとめて次回にお諮りできるんじゃないかと思っていたんですけれども、今日は少し残りが多くて、それができるかどうかちょっと今の段階では自信がございません。代理とも相談して、その辺もしうまく整理できれば、議論の材料として次回お示しして、御議論いただきたいというように思っておりますが、そんなことで今日の段階ではよろしゅうございますか。
 ではこの問題については、以上で終わらせていただきます。
 配付資料について、事務局から説明することがありますか。

【事務局長】特にございません。

【佐藤会長】そうですか。そうしましたら、次回の審議会についてですが、27日火曜日1時半から5時まで、この審議室で行います。さっき申し上げたように、次回には何らかの形で方向性をまとめないといけませんので、そういうおつもりでお臨みいただければと思っております。
 なお、次の次の回、3月2日でございますけれども、前回の審議会でお決めいただいたように、「法曹養成及び法曹人口」について御審議いただくことになっております。この審議に関しましても、資料等を用意する必要もあるように思われます。これらの資料の準備等につきましては、私と代理で相談させていただきたいと考えております。
 また、お忙しいところ大変恐縮ですけれども、レポーター役をしていただいた井上委員にも御協力いただければというように考えております。その辺も御了解いただければと思いますが、よろしゅうございましょうか。

(「はい」と声あり)

【佐藤会長】今日はもう大幅に時間をオーバーしてしまいましたが、どうもありがとうございました。